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共創 Vol.14 IGPI レポート 2014 春号 アジア戦略を考えるにあたって 経済・産業のグローバル化が加速する昨今、アジア攻略(進出、 再構築)に関するご質問も多くいただきますが、そのアジア の状況も刻一刻と変化しています。 アジア戦略において重要なポイントは常に大きな環境変化の 潮流を見据えながら、現地の実態を正確に捉える意識を持つ ことです。今号では、中国、東南アジアを今、または近い将来、 「一見」する際にも役立つリアルな視点や情報をお伝えします。 Contents 03 現場での意思決定力を高め、東南アジアの荒波に挑む 坂田 幸樹 IGPI シンガポール取締役 COO 07 求められる「中国事業」再構築 ∼新興国戦略の一環としての中国戦略の重要性∼ 村岡 隆史 鈴木 明典 10 IGPI(上海)董事長 IGPI(上海)総経理 アジア・ フォーカス 誰も教えてくれないミャンマー進出戦略の要諦 尾又 康介 経営共創基盤(IGPI) マネジャー 発行:株式会社 経営共創基盤(IGPI) Industrial Growth Platform, Inc. http://www.igpi.co.jp Cover Design & Illustration : 中嶋ハルコ Layout Design : 安久津みどり 表紙イラスト : 虎頭鞋(フートウシイエ) 現場での意思決定力を高め、 東南アジアの荒波に挑む 坂田 幸樹 IGPI シンガポール取締役 COO 先進国の経済が伸び悩んでいることや地政学的なリスク回避の観点から、 巨大マーケットである東 南アジアの重要性は非常に高まっています。しかし、 一か国においても宗教、 民族、 年収などが多様 性に富む東南アジア市場の攻略には、 多くの日本企業が苦戦しています。 本レポートでは、そうした企 業が直面している現状について考察します。 東南アジアには多くの日本企業が進出してお ● 内部報告用の資料作成を本社の経営企画から求 り、統括会社が置かれることの多いシンガポール められ、膨大な時間を費やして作成している。 では 778 社、日本メーカーが多く集まるタイでは 皆様の会社でも、少なからずこのような状況が見 1,458 社に達しています。また、民主化されたこ 受けられるのではないでしょうか? とで一気に注目度が上がったミャンマーには 111 社の日本企業が進出しています(2013年調査) 。 日本企業は生産地としての東南アジア開拓に その一方で、東南アジア諸国に駐在している日 は成功しました。東南アジアの多くの国において 本企業の方々からは、ビジネス展開において以下 日本の自動車や家電メーカーの工場が稼働して のとおり非常に苦労しているという話を聞くこ います。また、インフラ面でも日本企業の技術力 とが多いのも事実です。 は高く評価されています。しかし、都市部を中心 ● 日本企業は東南アジアであまり注目されておら ず、投資案件やビジネス提携の話が全く回って こない。 ● 長い時間をかけて顧客開拓や提携交渉をした結 果、やっと売上が立つようにはなったが、鳴か ず飛ばずで困っている。そもそも採算が取れる 市場規模ではなかったのに、当初はそれが分か らなかった。 ● 現場感のない本社の事業部から無理難題を突き 付けられる。 I G P I R E P O RT 03 に中間所得層が増え、東南アジアは単なる生産 ています。しかし、タイ発のある企業では、コン 地から消費地に変わりつつあります。また、様々 ビニの前に集金用の端末を設置し、低所得層から な領域において IT 化が進んだことにより、後発 の集金を複数国において実現しています。 優位の産業が増えています。さらには、経営資源 がボーダレス化されたことで、従来の戦い方で勝 2)情報加工 つことは難しくなってきています。この環境下で 生き残るためには、適切な意思決定を迅速に行う 情報加工をする上で前提となる東南アジアの ことが不可欠となっています。 知識が不足していると、間違った加工をすること 意思決定のプロセスは 1)情報収集、2)情報 になります。加工を間違うと、せっかく入手した 加工、3)判断、に分解することができます。正 1 次情報を生かすことができません。 確な情報を集めることができなければ、正確な判 一番多く見受けられるのが、国全体の平均値 断を下すことはできませんし、加工の精度が低 での議論です。都市部と農村部での経済格差が かったり遅かったりしては、迅速な判断を下すこ 拡大した東南アジアでは、平均値で議論するこ ともできません。経営者の判断力そのものが低け とは全く意味がありません(図参照) 。1 人当た れば、どんなに優秀な参謀がいても間違った方向 り GDP が数千ドルの国においても、都市部だけ に舵を切ることになります。 でみると 1 万ドル前後の国が多く、人口も集中し ています。都市ごとのバラつきを考慮せずに平均 1)情報収集 値で意思決定をしていては、大きなビジネスチャ ンスを逃しかねません。 多くの企業で 1 次情報ではなく 2 次情報を基に また、消費者向けのサービスを展開する際に 意思決定をしている状況が見受けられます。1 次 は、宗教や民族の違いにも目を配らなくてはなり 情報とは、他者による加工が入っておらず、自ら ません。例えば、インドネシアの人口の 90%を占 の手で現場から入手した情報のことを指します。 めるイスラム教徒は豚肉を食べることができま 既に海外展開に従事されている、もしくはこれか せん。その他の理由も含めると、豚骨ラーメン らの展開に向けて情報収集をされている方々は、 を食べることができるのは人口の 5%しかいない 現在見聞きしている情報が部下やレポートから と言われています。では、インドネシアでは豚 得た情報ではなく、自分が直接現場で見聞きした 骨ラーメンはビジネスにならないのかと言われ 情報かどうかを考えてみてください。 れば、そういうこともなく、ジャカルタには既 例えば、数年前の統計情報を見ると、ジャカル に 30 店以上の豚骨ラーメン店舗があると言われ タではインターネットがあまり普及していない ように読み取れます。しかし、実際には昨今のス マートフォンやタブレット PC の普及によってイ ンターネットへの接続率は劇的に向上していま す。上位の公立高校ではほとんど Wi-Fi が完備さ れていますし、タブレット PC を使った授業を行 う幼稚園もあるほどです。また、東南アジアはク レジットカードの普及率が低く、ビジネスを展開 する上で低所得層からの集金が難しいと言われ 04 IGP I REP ORT 都市化の状況 人口成長率 1) % 国全体 人口密度 一人当たりGDP 人 /km2 万円 100 首都 0.9 インドネシア 5,247 2.5 7,164 7,164 26 18,324 264 0.8 3.3 3) 520 520 313 1.8 2.2 ベトナム 103 168 6,271 1.0 1.0 フィリピン 137 86 1.2 1.9 シンガポール 36 82 54 136 2.3 マレーシア 中国 14,503 0.4 タイ 日本 123 1.9 2) 102 18 49 2,954 340 2,721 -0.3 1.5 0.4 3.3 374 449 139 914 61 149 出所:United Nations, Department of Economics and Social Affairs World Urbanization Prospects, the 2011 Revision 、 Euromonitor International、IMF、各国政府統計資料他 1) 2010年 ∼ 2020年の年平均成長率 2) 2012 年時点(1ドル =100 円) 3) 日本の首都は、関東全域の数値を使用 ています(2013 年調査) 。これも、宗教と年収の 意思決定プロセスの改善策としては、以下の 2 軸でインドネシア市場をセグメンテーションし 3 点を挙げたいと思います。 てはじめてターゲットとなる中華系富裕層が一 定数いることが分かります。 a. 沖に出る b. 気骨のあるリーダーを選んで任せる 3)判断 c. エース級のローカル人材によるチームを 組成する IGPI シンガポールでは、市場調査や支援先企 業のパートナーを探すために、東南アジアの現 地企業を訪問することがあります。そのほとん どの場合において、先方の社長が自ら出席しま す。また、人数が多い場合でも先方の出席者は 4 ∼ 5 人程度で、上場企業の場合でも社長自らが 我々の提案に耳を傾け、疑問点を質問し、提携 のための条件を提示してきます。その経営者の多 くが米国の MBA を保有していたり、海外でのビ ジネス経験を持っていたりするなど、世界中の 業界情報やネットワークを基に判断しています。 a. 沖に出る 沖に出なければ、大波が来ていることに気付 かず、波に乗り遅れることになります。1 次情報 の重要性については既に述べましたが、変化の 激しい東南アジアにおいては、情報の陳腐化も 早いです。また、現地にいることによって形成 される他国の優秀なビジネスマンや政府関係者 とのネットワークも、ビジネス展開上は非常に 重要なものになります。IGPI シンガポールでも、 I G P I R E P O RT 05 各国の企業経営者や政府関係者との情報交換を です。特に、消費地として東南アジアを捉える場 定期的に実施することで、最新の情報を入手する 合には、これを徹底すべきです。 ことに努めています。 最後になりますが、私は日本企業が東南アジア b. 気骨のあるリーダーを選んで任せる で活躍できる可能性は非常に高いと思っていま す。日本企業の質の高いサービスや製品は高く評 東南アジアでビジネスを展開することは、もち 価されていますし、従業員を大切にする日本企 ろん容易なことではありません。我々日本人の常 業で働きたいという声も多く聞きます。現地での 識では理解し難い事象が日々発生し、国内にい 意思決定力を高めることで、日本企業の強みであ たら経験することのないストレスにさらされる るオペレーション力を生かし、難易度の高い東南 ことになります。現場感のない本社からの無理難 アジアでの勝機を見出せるものと信じています。 題にも対処する必要があります。その環境下で頑 今後も IGPI シンガポールでは、アジアの荒波に 張ったとしても、減点主義の人事制度では評価さ 挑み、勝負し続ける企業と共に闘い、道を切り開 れないかもしれません。そのような状況に耐え、 いていきたいと思っています。 自らを奮い立たせて結果を出すことができる人 材を選び育てる仕組みを作り、権限を与えて任せ ることが重要です。 「うちにはそんな人材がいな い」という声を聞くことが多いですが、責任を与 えて任せない限り、そのような人材が育つことは ありません。 c. エース級のローカル人材による チームを組成する ジャカルタの 公立高校を訪 問する筆者 東南アジアの企業や消費者を相手にビジネス を展開して成功するには、日本からの駐在員は最 小限にすべきです。既にマーケット事情を深く理 解していて、現地の言語を話すことができるエー ス級のローカル人材によるチーム組成をすべき IGPI シンガポール 住所 Industrial Growth Platform Pte. Ltd. 30 Cecil Street, Prudential Tower Level 27, Singapore 049712 電話 +65-6637-8834 坂田 幸樹 経営共創基盤(IGPI)シンガポール取締役 COO 外資系コンサルティング会社、外資系消費財メーカーを経て、リヴァンプに入社。ディレクターとしてアパレル企業、 ファーストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。 リヴァンプ支援先のシステム会社においては代表取締役に就任し、経営改革を推進。 IGPI 参画後は、物流企業、大手テレコム企業子会社、大手広告企業などの幅広い業界においてグローバル戦略立案・ 実行支援、クロスボーダー M&A の支援に従事。 早稲田大学政治経済学部卒 [email protected] 06 IGP I REP ORT 求められる「中国事業」再構築 ∼新興国戦略の一環としての中国戦略の重要性∼ 村岡 隆史 IGPI(上海)董事長 鈴木 明典 IGPI(上海)総経理 「世界の工場」から「世界の市場」への移行期に差し掛かった昨今の中国では、企業を取り巻く事業環 境が大きく変化を続けており、日本企業においても事業戦略のレビュー及び再構築の必要性がかつてな いほどに高まっています。 私達は日本企業の中国事業戦略の再構築を進めていく際のクリティカルファク ターは①自社の強みを生かせる勝負領域を見極める為のインテリジェンスと、 ②戦略を実行可能とする 為のプラットフォーム作り、の 2 点と考えています。 本稿では中国におけるIGPI のこれまでのプロジェク ト経験を踏まえ、中国における事業戦略再構築の進め方について考察していきます。 はじめに 進していくような局面、あるいは事業やビジネ スモデルの取捨選択を迫られるような局面にお 中国では過去 20 年の高度成長の過程で、都 いて、日本企業は、意思決定に時間がかかるうえ、 市部を中心とした中産階級層の形成が進み、国 明確な方向性を出し切れないことで成長の機会 内の消費市場が規模・多様性の両面から大き を逃してしまうような事例が少なからず存在し く発展する一方、人件費等の事業運営コストの ていると感じます。 上昇を招き、 「世界の工場」から「世界の市場」 への移行期に差し掛かっています。中国経済の 国・業界を問わず、変化の激しい事業環境の 飛躍の原動力となった輸出事業では伸び代が縮 中で勝ち残っていく為には、自社が勝負できる 小する一方、今後の成長エンジンと期待される 領域を見極め、不断の事業構造改革を通じて得 国内消費市場においては市場の拡大に伴い地場 意領域に素早く経営資源を集中させていくこと の新興プレイヤーが多くのセクターにおいて台 が必須です。中国市場の現場で日々事業運営に 頭し、激しい競争が展開されています。 関わっている日本企業の方々と接すると、殆ど の方々がこうした問題意識を持ち、事業戦略の こうした事業環境の変化は日本企業の中国事 再構築の必要性を考えている、と感じます。 業にとってチャンスでもあり危機でもある、両 面の意味合いがありますが、これまではどちら 事業戦略再構築のステップとポイント かというと変化に対する対応が遅れたことによ るマイナスの影響が大きかったように思いま では実際に事業戦略のレビューをどう進めて す。輸出型事業から内販事業へのシフトといっ いくべきか。 た従来型事業の縮小と新事業の拡大を同時に推 一般論をいうと、事業戦略のレビューの進め I G P I RE P O RT 07 事業戦略レビューの進め方(イメージ) 外部要因 (市場・競合) 内部要因 経営資源 自社の強み = ポイント① インテリジェンス 現状 (の戦略) あるべき姿 あるべき姿 実行展開 ポイント② プラットホーム 方は、市場・競合等の外部要因及び自社の強み チェーン・顧客のクラスター等、複数の軸で競 弱みや経営資源といった内部要因の分析を踏ま 合と自社との相対的な競合関係を考察し、更に えてあるべき姿を導出し、これと現状のギャッ そこに時間軸を加えて将来の競争環境を予測し プを埋める為の戦略を整理し、アクションプラ ていくという作業を自らの手で進めていくこと ンに落とし込んで実行展開していく・・・とい が求められます。又、市場や競争環境は日々変 う流れになります。中国事業においても確立さ 化しており、将来の予測は大きな不確実性を伴 れた様々な既存の分析フレームワークを活用す うものであることから、こうした予測作業は頻 ればよく、分析手法自体に「中国固有の」特別 繁に更新していくことも必要です。予測の精度 なツールが存在する訳ではないと考えます。し とスピード、分析メッシュの細かさと投入する かし戦略のリアリティを高め、実行可能性と有 コストのバランスを取りながら、事業環境に対 効性を高める為に、中国において特に押さえる する洞察をリアルタイムに把握していくこと。 べき「ツボ」は存在します。私達がこれまで手 「自社が今どのフィールドで何のゲームをして 掛けたプロジェクトの経験からすると、「中国の いるのか、対戦相手は誰なのか」を正確に把握 ツボ」は①自社の強みを生かせる勝負領域を見 することが極めて重要です。 極める為のインテリジェンスと、②戦略を実行 可能とする為のプラットフォーム作り、の 2 点 である、と考えています。 プラットフォーム作り= 「仕組みの現地化」 インテリジェンスの重要性 あるべき姿と現状との対比から絞り込まれた 市場と競合に関する情報を収集・分析し、セ んで実行展開していく為には「仕組みの現地化」 グメント毎に競争要因及びそのトレンドを洞察 が必要になると考えています。 事業戦略。これをアクションプランに落とし込 することは、自社の勝負領域を絞り込むうえで 08 決定的に重要ですが、統計インフラの信頼性が 「仕組みの現地化」とは、ローカル人材を引き 低いこと、地域格差が大きいこと等から、中国 付け、動機づけ、アクションプランを実行し成 ではインテリジェンスにどれだけ力を入れて取 果を出させる為に、組織の在り様と事業運営の り組むか、ということが戦略策定の成否を分け 枠組みを現地仕様に再構築することを意味して る重要な要因になっています。無論、中国市場 います。アウェーの地で地場企業と互角以上の に関する様々なレポートや情報は既に巷に溢れ 戦いをする為には、現地の事情に精通したロー るほど存在していますが、分析の細かさやカバ カル人材をマネジメント職を含めた主要ポスト レッジといった点で、こうした情報は必ずしも に積極的に登用すべき、という当たり前の話で 自社の戦略策定にあたり必要十分な情報を提供 すが、日本人駐在員を中国人社員に置き換える している訳ではありません。やはり市場の 1 次 だけの「人の現地化」ではありません。 「仕組 情報を集め、地域・チャネル・製品・バリュー みが現地化」された企業では、責任と権限、待遇、 IGP I REP ORT 発展空間の広さといった、ビジネスパーソンが 働く場を選択する場合に検討するであろう様々 な項目について、競合他社と同等以上の条件が 提示でき、かつ、そのうえで日本企業としての 理念や事業戦略に沿った行動を中国人人材が実 践できる組織がイメージされています。 「仕組みの現地化」を進めるためには、社内組 も言えます。中国の課題に今取り組むことが、 織・職務権限・業務プロセス・評価報酬等、事 アジア新興国の明日の課題を先取りするという 業運営に関わる諸制度で日本本社から持ち込ん 意味では、中国の事業戦略再構築を進めるに際 だものを、競合他社やマーケットの実態との比 しての検討体制も、アジアリージョナルの視点 較で最適な形に再設計していくことが必要です。 を持ちながら進めていくべきということになる 具体的には、責任と権限をマッチさせた組織設 と思います。 計、プロセス管理から結果管理への移行、管理 指標の数値化徹底、業績連動評価の適用範囲拡 IGPI ではこれまで日本・中国・アジア個別の 大等々、どちらかというとよりデジタルな業務 プロジェクトに加え、複数国をカバーしたアジ 運営を行う方向で社内の諸制度を再構築してい アリージョナルレベルでの戦略再構築プロジェ く方向になることが多いと思います。 クトも手掛けています。これからも日本企業が アジア地域の様々な市場において勝ち残ってい 新興国戦略への展開 くためにサポートを提供させて頂くことができ れば、と考えています。 以上、事業戦略再構築を進めるに際しての「中 国のツボ」について考察してみましたが、これ らのポイントは、その背景として存在する市場 の発展パターン、当局による経済運営政策、地 場企業との競争環境等を考慮すると、中国固有 の問題というよりは、変化の激しいアウェー市 IGPI 上海 住所 電話 場(特にアジア新興国市場)に共通する課題と 村岡 隆史 経営共創基盤(IGPI)パートナー 取締役マネージングディレクター 三和銀行にて、プロジェクトファイナンス業務、M&A 業務に従事。モルガンスタンレー証券で投資銀行業務に従事し た後、産業再生機構に参画。三井鉱山、ミサワホーム、ミヤノ、ダイエー等の案件を統括。金融庁専門調査官等を経て IGPI を設立し現在に至る。IGPI では、事業再生の他、中国・アジア諸国での M&A や成長戦略立案プロジェクトを 多数統括。IGPI 上海董事長、金融庁参与、クールジャパン機構取締役 東京大学農学部卒、UCLA 経営学修士(MBA) 鈴木 明典 経営共創基盤(IGPI)上海総経理 東京海上日動火災保険にて、アジア・欧州事業の内部監査、税務戦略策定、組織再編、バリュエーション、新規事業立上げ、 戦略出資等の業務を担当。中国の生命保険会社に出向し CFO として事業を立上げる。中国で複数の新規事業立上げプ ロジェクトに参画後、Covidien に入社し、医薬品事業部門のアジアパシフィック・日本地区のコントローラーとして 収益性改善、ポートフォリオ管理、成長戦略の策定等に従事。IGPI 参画後は、中国現地法人の立ち上げを担当。財務 戦略・事業開発・中国関連のテーマで複数のプロジェクトに従事。IGPI(Shanghai)総経理 東京大学経済学部卒 I G P I RE P O RT 09 Asia Focus アジア・ フォーカス 誰も教えてくれない ミャンマー進出戦略の要諦 尾又 康介 経営共創基盤(IGPI) マネジャー 日本企業の多くが、経営戦略上、アジアを重 で自分の会社が一番手になれるかもしれないと 視しています。私自身、当事者として、また、 いう期待に胸も膨らみます。今回は、対ミャンマ 外部のアドバイザーとして、M&A を切り口に、 ー戦略のポイントを整理してみたいと思います。 様々な企業のアジア戦略の立案と実施に従事・ 関与してきましたが、以下のようなケースをし 一般に、以下の点でミャンマーは注目されて ばしば見かけます。 います。 1.同業他社に先駆けて現地に進出することに 1.中国の 5 分の 1、ベトナムの半分とも言われ 終始し、目の前にある選択肢の中でベスト なものを選び、とにかく実績をつくる 2.買収した現地企業に、日本の営業部門や生 産部門からエース級の人材を送り込み、つ いでに現地企業の経営を任せる る賃金水準と高識字率 2.タイに匹敵するとも言われる人口約 6,000 万人の消費市場 3.経済制裁により抑えつけられてきた潜在成 長力 今、目の前にある選択肢が最良でないのであ れば、中長期のスタンスで考え、望むものを手 ミャンマービジネスの難しさ に入れるためのチャレンジが必要です。また、 その国への進出自体を断念という意思決定もあ ミャンマーは農業大国ですから、牧歌的な るべきでしょう。海外の企業を買収する場合、 風景を思い浮かべる人も多いかもしれません 現場をよく理解する営業部門や生産部門のエー が、都市部は賑やかで、未成熟とはいえ様々な スだけでなく、日本の本社の中枢にいるエース 産業が既に存在しています。現地には、多数の 級の経営幹部(候補)も送り込んで、現地経営 有力財閥グループが育っていて、複数の事業を を任せるか、現地人経営者と密に連携させるこ 展開しています。ただし、そのほとんどが軍事 とも重要です。 政権との関係を指摘され、OFAC(アメリカ財 一昨年前頃から、それまでほとんど誰も注目 務省外国資産管理局)が指定する経済制裁リス していなかったアジアの国にスポットライトが トに挙げられています。つまり、日本企業は、 あたり始めました。ミャンマーです。今の時代、 OFAC 規制を前に、現地で力のある企業グルー 世界中の何処を見渡しても、まだ誰も進出してい プとは組みにくい。対ミャンマービジネスの難 ない未開の地などそうそうないわけですが、も しさの一つは、ここにあります。 し、そんなフロンティアがあったとしたら、そこ 10 IGP I REP ORT ミャンマーの国民的実業家 ミャンマーには、様々な事業分野において出 資・買収のターゲット候補となりうる現地企業 日本の大手商社が相次いで SPA というミャン はそれなりに存在します。そういった現地企業 マーの大手財閥と提携した報道がなされていま との提携を急ぐ日本企業は多いですが、他社に す。SPA は、サージ・パンという華人がトップ 先駆けて現地企業との提携にこぎつけ、日本か の企業グループで、ミャンマーの大手財閥の中 らヒトを送り込めば安心でしょうか。 では唯一、OFAC リスト入りを免れています。 アメリカはミャンマーに対する経済制裁を完 大手商社は目が早い。そう思われるかもしれま 全に解除していませんが、ヒラリー・クリントン せん。では、ヤンゴンの街を歩いている現地の の訪緬以降、同国の主要企業が次々とミャンマー 人たちに、「ミャンマーで最も力のある財閥、企 に足を運んでいます。欧州企業の動きも活発。 業家とは誰か?」と聞いてみてください。ミャ 経済制裁下でも、ミャンマーと交流し続けてきた ンマーには、誰もが知る二大財閥があり、その 周辺・近隣諸国の現地におけるアドバンテージ トップの実業家 2 人は国民的有名人です。 も侮れません。中国企業との勝負にもなります。 以前にある金融機関が、5 年以上も前の、ミャ ミャンマービジネスの本質 ンマー企業の銀行口座向け海外送金を OFAC 規 制違反とされ、米財務省に和解金を支払いまし 一部の特殊業種を除き、この 2 つの財閥にミャ た。先述の 2 大財閥は、いずれも OFAC 制裁対 ンマーで手掛けることができないビジネスはな 象ですが、実は、ミャンマーの産業政策における いと言われています。裏を返せば、ミャンマー アウン・サン・スーチーのブレーンという顔も持っ でビジネスを展開するにあたって、これらの財 ています。 軍事政権 というマジックワードが 閥こそが、ボタンの掛け方や押すタイミングを 日本企業には不気味に響く中、対ミャンマー戦 熟知しているプレーヤーだということです。両 略にはグローバルスケールの経営判断にスピー グループとも、経営幹部は 40 代前後と若く、英 ド感と国際政治のバランス感覚が求められます。 語堪能、意思決定のスピードも速く、クレバー です。彼らは日本企業が比較的アクセスしにく い国とのネットワークを持っていて、ミャンマー 国内にとどまらないスケールでビジネスを考え ています。ミャンマー国内でゲームのルールを 作るのも彼らかもしれません。ミャンマービジ ネスの面白さの一つは、こうしたアグレッシブ なプレーヤーの存在にあります。 尾又 康介 経営共創基盤(IGPI) マネジャー 大和証券にて、持株会社における経営企画実務(経営計画策定、海外事業経営管理、海外子会 社売却・清算、 新規事業立ち上げ等)、投資銀行部門における事業戦略企画実務(アジア事業拡大、 海外事業買収、管理会計整備等) 、M&A アドバイザリー実務(クロスボーダー案件(In-Out) バイサイドのオリジネーション及びエグゼキューション多数、買収防衛、In-In 案件セルサイド 入札等)に従事。2013年9月IGPI 参画。 早稲田大学政治経済学部卒、UC バークレー経営学修士(MBA) I G P I RE P O RT 11 Information ご案内 経営アカデミー 事業構造変革コース 事業構造改革に必要な取り組みを統合的にコーディネートし、 経営トップをサポートできるリーダーを養成する ∼事業の『稼ぐ力』を取り戻し、再成長に向けた道筋をつくる∼ プログラム・コーディネーター 冨山和彦 経営共創基盤(IGPI)代表取締役 CEO 木村尚敬 経営共創基盤(IGPI)パートナー マネージングディレクター 福島交通 代表取締役社長に就任 武藤 泰典 主 催:公益財団法人 日本生産性本部 開催期間:2014 年 6 月∼ 2015 年 1 月 事業構造の変革の要諦を指導する多彩な 講師陣を迎え、修羅場を乗り越え、事業 を再成長に導いた企業経営者との直接討 議を含む 8 か月間のプログラムです。 資料請求・お問い合わせ・お申込 [email protected] 新パートナー マネージングディレクター 就任のお知らせ 児玉 尚剛 公認会計士として大手監 査 法 人 勤 務。2003 年 産 業再生機構にて九州産業 交通グループの再生支援 業 務 を 担 当。物 流 会 社 専 務執行役員を経て 2009 年 6月取締役副社長として福島交通の経営に参 画。2013 年12 月より現職。現在、福島交通 観光株式会社取締役、福交整備株式会社取締 役、株式会社フクコー・アド取締役等も兼任。 監査法人トーマツにて法定監査に従事後、 PwC(東京・ ロンドン)にて国内外の事業再生、M&A アドバイザリー 業務等に従事。IGPI に設立メンバーとして参画し、戦略 策定、事業再生、M&A アドバイザリー業務等に従事。 福島第一原子力発電所事故直後より東京電力問題に従事し、原子力損害賠 償支援機構設立とともに同機構へ転籍、特別事業計画の策定及びモニタリ ング業務等を担当。原子力損害賠償支援機構 参与 慶應義塾大学商学部卒、公認会計士、ロンドンビジネススクール CFP 修了 IGPI は 100%出資するみちのりホールディン グスを通じて、東日本の地域バス会社 5 社を 傘下に有し経営支援を行っています。 新ディレクター就任のお知らせ 福島の人々の生活を支える交通インフラ の基幹を担う福島交通。震災後、早期に運 行を再開したほか、原発周辺住民の退避 にも尽力するなど不眠不休で多くのミッ ションを遂行した。武藤社長曰く、 「使命 感に燃えた従業員たちがいたからこそ、 困難に立ち向かえた」。震災後も、地元に密 着した企業として、子供向けに「そとあそ びプロジェクト」 (ユニセフとの共同実施) や、県内外の方々向けに「復興スタディ・ ツアー」を企画するなどさまざまな取り 組みを行っている。地元の人々から「福交 (ふっこう)」として親しまれた福島交通 は、今まさに「復興の足」となっている。 参考記事: 『経済同友』2014 年 3 月号 「特集 震災復興の現場から 福島編」 武藤 清吾 東京電力にて、事業再生計画の策定・実行から、調達や グループ経営改革、取引先における経営・原価改善まで 推進。3月よりIGPIに参画。 一橋大学経済学部卒、ロンドンビジネススクール経営学 修士 ネクステックカンパニー 新マネージングディレクター就任のお知らせ 沼田 俊介 外資系コンサルティングファーム等にて、製造業の業 務改革構想立案と実行を国内外でサポート。IGPI 参画 後は日系製造業の海外展開における戦略策定、経営管 理改善、SCM 最適化等に従事。 ケースウェスタンリザーブ大学経営学修士(MBA) 発行:株式会社 経営共創基盤(IGPI) お問合せ:広報/英(はなぶさ) ・富澤 〒100 - 6617 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 2 号 グラントウキョウサウスタワー 17 階 TEL:03 - 4562-1111 E-mail:[email protected]