...

最終研究報告書

by user

on
Category: Documents
6

views

Report

Comments

Transcript

最終研究報告書
平成 23 年度
環境経済の政策研究
国内排出量取引の国際リンクによる経済的影響に関する研究
~応用一般均衡分析によるアプローチ~
最終研究報告書
平成 24 年 3 月
上智大学
早稲田大学
産業技術総合研究所
関東学園大学
高崎経済大学
獨協大学
摂南大学
目次
Ⅰ 研究の成果及び進捗結果
1.
2.
研究の成果
1
1.1
研究の背景と目的
1
1.2
3 カ年(または 2 カ年)における研究計画及び実施方法
2
1.3
7
1.4
本研究の成果
行政ニーズとの関連・位置づけ
1.5
政策インプリケーション
8
3 カ年(または2カ年)における進捗結果
2.1
8
10
3 カ年における実施体制(研究参画者と分担項目、前年度からの改善事
項 等)
10
2.2
3 カ年における進捗状況
12
2.3
ミーティング開催や対外的発表等の実施状況
15
Ⅱ 研究の内容
1.
2.
3.
(要約)
20
序論 排出量取引の国際リンク:現状と経済学的考察
28
1.1
はじめに
28
1.2
国際リンクの種類と京都メカニズム
28
1.3
国内・域内の排出量取引制度
31
1.4
国際リンクの現状と課題
34
1.5
排出量取引の国際リンク
40
1.6
おわりに
42
排出量取引の国際リンク及び CDM の経済分析
45
2.1
はじめに
45
2.2
削減シナリオの設定
46
2.3
国際リンクについてのシナリオ
47
2.4
リンクがないケースにおける排出枠価格
49
2.5
直接リンクの効果
51
2.6
間接リンクの効果
56
2.7
データとシナリオの変更
59
2.8
おわりに
63
日本企業の温暖化対策の現状
3.1
はじめに
66
66
4.
5.
6.
7.
3.2
調査概要
66
3.3
企業の温暖化対策の状況
69
3.4
環境に関わる ISO 規格への対応状況
76
3.5
おわりに
80
日本企業と排出量取引の実態:クリーン開発メカニズムを中心に
82
4.1
はじめに
82
4.2
CDM とは
82
4.3
日本企業の CDM 利用の実態
85
4.4
企業による国内におけるクレジット制度の認識
94
4.5
企業の国内排出量取引制度に関する認識
96
4.6
おわりに
99
温室効果ガス排出算定の国際規格の動向:ISO 14064・ISO 14065 を中心に
100
5.1
はじめに
100
5.2
ISO 14064 規格と ISO 14065 規格の特徴
100
5.3
ISO 14064 規格の内容
103
5.4
ISO 14064 規格採用の決定要因に関する実証分析
110
5.5
おわりに
123
家計の省エネ行動の実態:草加市でのアンケート調査より
126
6.1
はじめに
126
6.2
アンケート調査の概要
130
6.3
アンケート調査の結果
131
6.4
省エネ行動を促すには
139
6.5
温暖化政策による省エネ行動への影響分析
141
6.6
おわりに
143
家計における省エネルギー投資と割引率
145
7.1
はじめに
145
7.2
エネルギー効率性改善における過小投資の諸要因
145
7.3
家計の省エネ投資行動の経済分析
149
7.4
政策措置がもたらす省エネ投資促進効果
154
7.5
おわりに
160
8.
エネルギー集約度と省エネルギー・イノベーション-特許データを用いた定量
分析-
161
8.1
はじめに
161
8.2
省エネ技術知識とエネルギー集約度
162
8.3
省エネ特許ストックの蓄積とその諸要因
166
8.4
考察
170
8.5
おわりに
172
9.
結論(全体のとりまとめ)
Ⅲ
添付資料(参考文献、略語表、調査票、付録)
173
参考文献
A-1
略語表
A-10
調査票1(家計サーベイ)
A-12
調査票 2(企業サーベイ)
A-35
付録1 応用一般均衡モデルの構築
A-46
付録2 業種細分化モデルによるCO2排出規制の産業影響評価
A-59
付録3 22産業の省エネ特許出願件数の推移
A-72
Ⅰ
研究の成果及び進捗結果
1. 研究の成果
1.1 研究の背景と目的
日本では地球温暖化対策法案が閣議決定(平成 22 年 3 月 12 日)され、国内排出量取引
制度が検討されていた。しかし、排出量取引制度を本格導入する場合には、制度設計上の
課題などを明らかにすることが必要である。低費用で温暖化対策を行うには、様々な政策
オプションの効果を数量的に比較検討しておくのが望ましい。特に、各国間で非常に大き
い限界削減費用の差が存在することから、一地域だけの取組みではなく、国際的に連携し
た取組みとすることがより効果的とする考え方もある。実際、国際的にも先進各国の排出
量取引制度をリンクしようという考え方が、欧州を中心に提唱されていた。また、直接的
な各国制度のリンクをしなくとも、京都メカニズムのクレジットを使った間接的なリンク
ということも考えられる。しかし、クリーン開発メカニズムから発生する排出枠の購入は
資本流出だとして、海外排出枠の利用には否定的な意見もある。
これらの考え方を受け、排出量取引の際、海外でのクレジットを利用することの便益を
検討することが必要である。これまでに国際間でリンクした排出量取引制度の分析を行っ
た研究はあるが、改善すべき部分も多い。特に問題であるのは、既存の研究は欧米という
視点からおこなわれたものが多く、日本という地域の特徴を十分考慮しているものが少な
いという点である。このような問題点を鑑みて、本研究では、日本、あるいは日本と他の
地域の関係を特に重視する形で国内排出量取引の国際リンクの経済的意義と可能性につい
て分析を行う。
本研究の目的は以下の通りである。第 1 に、各国の排出量取引制度のリンクによる国内
外への経済的影響を明らかにする。特に、産業、家計への影響を明らかにする。同時に、
リンクによる温室効果ガス排出削減効果を明らかにする。その際、リンクの有無により、
各国が排出削減目標を達成した場合の、国内削減分と海外からの排出枠の調達分がどのよ
うに変化するかを示す。
第 2 に、クリーン開発メカニズムに代表される京都メカニズムのクレジット等、国際的
なオフセット・クレジットの利用が、日本と世界経済の温室効果ガス削減量に与える影響
を明らかにし、これらのクレジットを通じた間接的な国際リンクが果たす役割を検討する。
第 3 に、排出量取引制度の国際リンクがもたらす中期的な影響を明らかにするため、モ
デルの動学化を行う。
第 4 に、国際市場とのリンクを実施することに対する企業の受容度や制度上の課題を、
間接リンクの手段になるクリーン開発メカニズムも含めて、明らかにする。
第 5 に、経済的効果、温室効果ガス削減効果の分析結果をふまえた国際的リンクの意義
を明らかにする。そして、国際市場のリンクの手法に関する提言を行い、国内外の議論の
場へのインプットを行うことを目指していた。
1
1.2
3 カ年(または 2 カ年)における研究計画及び実施方法
本研究は、排出量取引の国際リンクの経済分析を中心に研究を行った。分析は、応用一
般均衡分析を用いた定量的な経済分析(CGE 分析)と、国際リンクのための企業の実態、
制度の分析(企業・制度分析)の大きな二つの部分からなる。以下には、3 年間の全体像を
示し、詳細計画を述べる。
3 カ年スケジュール
CGE 分析の 3 年間のスケジュールを図1に示した。1 年目は、CGE のベースモデルの構
築及び、基礎となる家計行動のサーベイを行う。2 年目はベースモデルによる政策シミュレ
ーション及びモデル拡張、準備を行う。具体的には、エネルギー集約部門の細分化、家計
サーベイの分析、動学モデルの準備、CGE への CDM のモデル化を行った。3 年目は、モデ
ルの動学化、技術進歩の内生化の検討を行い、拡張モデルを完成し、それに基づき、政策
シミュレーションを行う。
図1:CGE 分析の計画チャート
1年目
2年目
3年目
• ベースモデル
構築
• 家計サーベイ
実施
• エネルギー集約
部門細分化
• 動学化の準備
• 家計行動の精緻
化の検討
• CDMの取り入れ
• モデル動学化
• 内生的技術変化
の取り入れ検討
• 完成モデルでの
シミュレーション
企業・制度分析の 3 年間のスケジュールを図 2 に示した。1 年目は、国際的な動向調査を
行うとともに、企業にヒアリングを行い、排出量取引の国際リンクに関する聞き取り調査
を行う。2 年目は、聞き取り調査を続け、それに基づき、サーベイの調査票を完成させる。
そして、調査票によるサーベイを行い、回収した結果の概要をまとめた。3 年目は、サーベ
イ調査の結果から、国際的リンクの政策的課題を解明し、その課題への対処策について検
討・分析する。
2
図 2:企業・制度分析の計画チャート
1年目
2年目
3年目
• 企業ヒアリング
• 企業ヒアリング
• 企業サーベイ実施
• サーベイデータ分
析
• 政策的課題の検
討
• 政策的課題への
対処提案
実施した個別の研究項目は、以下のようになっている。各項目と研究計画の関係は、図 3
に示した。実施したのは、下記の項目である。
研究項目
(1) 各国国内排出量取引制度の事前整理、各国市場の国際リンク、及び、京都メカニ
ズム・クレジットに関する制度研究
(2) 応用一般均衡分析ベースモデルの構築とシミュレーション分析
(3) 応用一般均衡分析・業種細分化拡張モデルの構築
(4) 応用一般均衡分析・動学拡張モデル構築
(5) 応用一般均衡・拡張モデルによる国際リンクのシミュレーション分析
(6) 国内排出量取引制度の国際リンクに関する企業調査
(7) CGE 家計部門の検証:省エネ・新エネ家計サーベイの計量分析
(8) 技術進歩内生化のための計量分析
3
図 3:各研究項目とプロジェクトの関係
応用一般
均衡
(CGE)
分析
企業・
制度分析
• ベースモデル構築・シミュレーショ
ン(2)
• モデル拡張:業種細分化(3)
• モデル拡張:動学化(4)
• リンクのシミュレーション分析
(5)
• モデル精緻化:家計省エネ行動
(7)
• 技術進歩内生化の検討(8)
• 排出量取引リンクの情報収集(1)
• 国内排出量取引に関する企業調査
(6)
研究項目ごとの実施方法
(1) 各国国内排出量取引制度の事前整理、各国市場の国際リンク及び、京都メカニズム・
クレジットに関する制度研究
欧米並びに豪州、韓国における国内排出量取引制度導入の進展について情報収集を行う。
次に各国における国際リンクや外部クレジット利用に関する情報収集も引き続き行う。欧
州委員会環境局、米国議会関係者、ホワイトハウス関係者、シンクタンク等で聞き取り調
査を行う。その他、温暖化関連のニュースレター、各国政府・官公庁も含めて、各種情報
源を利用して情報取得する。
(2) 応用一般均衡分析ベースモデルの構築とシミュレーション分析
GTAP(Global Trade Analysis Project)データを利用した多地域の応用一般均衡分析モデル
(ベースモデル)を GAMS(General Algebraic Modeling System)上で構築する。構築した静
学的ベースモデルを用いて、排出量取引の国際リンクがある場合と無い場合の経済影響を
比較する。
このベースモデルについて、内外の学会、ワークショップで研究報告し、コメントをも
らう。また、内外の研究機関、学会でも研究報告を行い、モデルの妥当性について検証す
る。
4
(3) 応用一般均衡分析・業種細分化拡張モデルの構築
ベースモデル構築に用いた GTAP データは、世界各国・各地域における生産、投入、消
費、貿易等のデータを組み合わせたものであり、名前が示す通り元々は貿易自由化等の貿
易政策を応用一般均衡モデルで分析するためのデータである。様々な優れた点を持ち、貿
易政策を対象とする応用一般均衡分析では標準的なデータとして広く利用されている。さ
らに、近年では温暖化対策分析用の応用一般均衡モデルのデータとしても標準的な地位を
得るようになっている。しかし、温暖化対策分析用のデータとしてはまだ不十分な点も多
い。その一つは部門・財の分類である。温暖化対策を分析するには、エネルギー部門、エ
ネルギー多消費部門を詳細に扱うのが望ましいが、GTAP データではそれらの部門があまり
細かく分割されていない。この問題点を改善するため、各種の貿易データや各国の産業連
関表等のデータを利用し、GTAP データをより細かい分類に分割する作業をおこなう。そし
て、このデータをベースとして、エネルギー部門、エネルギー多消費部門を細かく分割し
たモデルを作成し、温暖化対策が各国の産業、貿易構造に与える影響を詳細に分析する。
この拡張モデル A について、内外の学会、ワークショップで研究報告し、コメントをも
らう。また、内外の研究機関、学会でも研究報告を行い、モデルの妥当性について検証す
る。
(4) 応用一般均衡分析・動学拡張モデル構築
かつて応用一般均衡分析では時間の推移を考慮しない静学モデルが利用されることが多
かったが、近年温暖化対策の分析でも動学的な応用一般均衡モデルの利用が増えている。
それに伴い、投資や技術進歩といった動学的な要素も考慮されるようになってきている。
そのため本研究でも、具体的には設備投資による資本の蓄積を取りいれた逐次動学型のモ
デルを構築する。
しかし、依然既存の分析では考慮されていない要素も多い。まず、国内にある多くの世
界経済モデルでは、省エネ、温暖化対策がもたらす技術進歩はほとんど考慮されていない。
また、技術進歩といっても、投資や政策からは独立して外生的に決まると仮定されている
ことが多い。このため、排出量取引等の温暖化対策の導入が、技術進歩に与える影響につ
いては分析できていない。これらの問題点を改善するには、内生的な技術進歩を導入した
応用一般均衡モデル(拡張モデル B)を構築していくことを検討する。
具体的には外生的な技術進歩を組み込んだ動学的な多地域 CGE モデルの理論的枠組みを
構築するとともに、内生的な技術進歩のモデル化を検討する。そのため、排出規制が技術
革新に与える影響を組み込んだ CGE モデルを作成するための準備として、技術進歩に関す
る実証分析も行う(8)
。
この拡張モデル B の妥当性について、内外の研究者を招聘し、ワークショップ・研究会
5
を行い、コメントをもらう。また、内外の研究機関、大学、学会でも研究報告を行い、モ
デルの妥当性について検証する。国際学会で報告し、研究結果の普及に努める。これらの
検証を踏まえて、必要に応じて、モデルを修正する。
(5) 応用一般均衡モデルによる国際リンクのシミュレーション分析
シナリオ 1:まず、リンクにより、共通の炭素価格が設定され、限界削減費用が平準化さ
れたと仮定し、その際の、①対象地域の排出削減量、②各地域の国内削減費用、③経済(生
産、投資など)への影響、④各国制度間で排出枠が移動することによる資金の流入・流出、
⑤家計への影響、について定量的に評価する。
この結果と、各国の国内排出量取引制度がリンクされず、各国の限界削減費用が平準化
しない場合、すなわち、各国の限界削減費用が異なるままの場合における①~⑤について
も定量的に評価し、リンクした場合の効果と比較する。
シナリオ 2: 外部クレジット入り応用一般均衡モデルの構築とシミュレーション分析
以上のシナリオを、拡張をほどこしたモデルによって分析する。外部クレジットについ
ては、京都メカニズム・クレジットによる間接リンクの制度について、様々なシナリオを
設定し比較を行う。
(6) 国内排出量取引制度の国際リンクに関する企業調査
国内排出量取引制度の国際リンクに対して、企業がどのような態度であるか、実施にお
ける必要な制度の詳細を明らかにする必要がある。そのために、企業にヒアリングを行い、
それに基づき調査票を作成する。そして、サーベイ調査を行い、国内排出量取引制度導入
に際しての課題、国内のオフセット制度の評価、現状使われているクリーン開発メカニズ
ム及び CER の課題を明らかにする。
(7) 省エネ・新エネ家計サーベイの計量分析
CGE モデル産業部門が詳細なのに対して、家計部門は代表的な家計が一つあるのみであ
る。そのため、家計部門の電力を中心としたエネルギー価格に対する弾力性の改善を目指
して、家計のエネルギー消費行動に関するサーベイを行う。そして、このサーベイデータ
を解析し、省エネ政策と家計行動の関係を明らかにする。学会報告を通じて、分析の頑健
性を高める。
(8) 技術進歩内生化のための計量分析
6
CGE において技術進歩を内生化して動学するためには、エネルギー状況の変化が技術進
歩に与える効果についての情報が必要になる。特許データなどを用いて、炭素価格導入が
技術進歩に与える影響を分析する。
1.3 本研究の成果
本研究によって、以下の成果が得られた。
第 1 に、多地域・逐次動学型応用一般均衡分析のモデルを構築し、2020 年の日本経済に
焦点をあてて排出量取引の国際リンクの分析を行うことにより、排出量取引制度を含む温
暖化政策の日本経済への効果が、より詳細に明らかになった。具体的には、応用一般均衡
分析により、各国の排出量取引制度のクレジットを利用することによって、日本経済の生
産活動にどのような影響が発生するか、定量的に明らかになった。
第 2 に、
各国市場のリンク先の国の違いによる日本経済へ異なる影響が明らかになった。
つまり、リンクに参加する国によって、日本経済のリンクの便益が異なることが確認され
た。
第 3 に、国際リンクが、主要国の経済に与える影響も明らかにできた。特に、排出枠の
輸出国と輸入国とで、産業影響が大きく異なることが示された。
第 4 に、京都メカニズム・クレジット(クリーン開発メカニズム)の利用が、日本経済
に与える影響が定量的に明らかになった。具体的には、応用一般均衡分析により、各国の
排出量取引制度のクレジットを利用することによって、日本経済の生産活動の負担緩和に
どのような貢献をするかが、定量的に明らかになった。
第 5 に、京都メカニズム・クレジットの利用制限の有無が、日本経済や他国経済に与え
る影響も明らかになった。特に、利用制限の設定は、クレジット供給量に留意する必要が
あることが示唆された。
第 6 に、応用一般均衡分析における業種の細分化の便益が明らかになった。
第 7 に、企業に対するアンケート調査を通じて、企業の視点からみた場合の国内排出量
取引制度の整備の課題が示唆された。
第 8 に、企業調査により、国内のオフセットメカニズムの評価が示唆された。
第 9 に、京都メカニズム(クリーン開発メカニズム)の制度的課題が、クレジットの利
用者である企業の視点から示された。
第 10 に、家計調査を行ったことにより、家計部門での省エネ行動、省エネ製品技術の状
況がより明らかになった。その結果、省エネ製品普及策の示唆を得るとともに、応用一般
均衡分析における家計影響の結果については今後改善すべきことが示唆された。
7
1.4 行政ニーズとの関連・位置づけ
日本で国内排出量取引制度を導入する場合に、各国クレジットの利用がもたらす便益と
費用を明らかにできる。そのため、環境と経済の観点から、諸外国の排出枠の利用が望ま
しいかどうかを明らかにできる。また、各国クレジットを利用するとした場合についてど
の程度の数量の利用が望ましいかを明らかにできると期待される。また、各国市場とのリ
ンクを行う場合に必要な制度的支援について、示唆を得ることができると期待される。さ
らに、研究代表者の 2 年間のワシントン滞在やOECDプロジェクト参加によって構築された
ネットワークを利用し、米国の環境保護庁やシンクタンク、OECD、欧州のシンクタンク等
で、研究成果を国際的に普及させることができる。最後に、国内排出量取引制度が導入さ
れる場合、本研究の成果を国内の議論の場ヘインプットすることにより、国際リンクのあ
り方、その具体的な手法や課題解決に向けた議論が喚起される。
なお、本研究は、排出量取引が導入されない場合でも行政ニーズにいくつかの関連を持
つ。第 1 に、京都議定書の第I約束期間のように日本に国内排出量取引制度が導入されない
場合でも、日本全体の排出削減目標を国内、国外でどう達成すべきかについて、どう考え
るべきかが示されている。第 2 に、家計サーベイデータの解析から得られた省エネ行動、
省エネ製品購入促進策に関する分析結果は、省エネ促進という観点から、行政ニーズに応
えるものとなっている。
1.5 政策インプリケーション
現在、本格的な地球温暖化対策の必要性が幅広く認識されるようになったにもかかわら
ず、先進国においてさえその導入は遅々として進んでいない。その主な理由は、排出規制
により経済に新たな負担が生じることへの懸念にあると考えられる。確かに、CGE 分析の
シミュレーションでも、排出規制の導入により、EITE 部門の生産は大きく減少し、さらに
国全体としても所得、GDP にマイナスの影響が出ることが示されている。しかし、本研究
の分析は、排出規制の強化とともに、国際リンクを構築することでその負担を大きく軽減
できる可能性が高いということを同時に示している。この結果は、効率的な形で排出規制
を行っていくには、各国が独自に排出量取引制度を導入するだけではなく、同時にその排
出量取引制度を国際間でリンクさせることを検討していくべきであることを示唆している。
これは、その行政コストを考えても便益の大きさから、検討に値するものである。
さらに本分析は、どのような国がリンクに参加するかによって、排出量取引制度の国際
リンクが日本経済へ与える影響が変わってくることを示した。例えば、直接リンクのケー
スでは、EU27 の参加は日本にとって不利益となり、米国、カナダ、ロシアの参加は日本に
とって利益になるという結果が出た。これは、日本の立場から考えた場合、必ずしも多く
の国がリンクに参加することが望ましいわけではないということを意味している。よって、
8
日本の利益を高めるには、リンクへの参加を促すべき国と促すべきではない国を適切に判
断していく必要がある。
また、間接リンクのケースでは、CDM の利用に制限を設けないケースの方が、制限を設
けるケースよりも、負担がより軽減されることが示された。CDM の利用に制限を設けると
いう考え方には様々な理由があり、その善し悪しを単純には論じることはできないが、本
分析は、少なくとも負担の大きさという観点からは、制限の設定は望ましくないというこ
とを示している。
本分析の間接リンクにおける海外排出削減クレジットの利用の経済影響は、日本に国内
排出量取引制度が導入されない場合にも同様の示唆を持ちうる。京都議定書の第I約束期間
のように、国内排出量取引制度が存在せずとも、削減目標を達成しようとする場合に、海
外クレジットを利用することの重要性を改めて示す内容となっている。CERの供給量が増え、
価格が低下したにも関わらず日本経済での利用を制限すると、他国がより安価なCERを入手
することになり、間接的に日本経済の競争力が低下する可能性がある。
また、企業調査では、国内排出量取引制度を補完する措置として、海外クレジットより国
内のクレジット制度を好ましいと考えている企業が多いことも示された。これは、国内オ
フセットの充実を望む声と考えることが出来るだろう。
一方、国内クレジット制度やJ-VER制度についても、参加企業はその費用対効果性より社
会貢献に魅力を感じている傾向があることが示された。排出量取引制度の本質が、費用対
効果性の高い点にあることが理解されていない可能性が伺える。この点は、現状では、日
本企業が法的規制のある排出目標を課されていないため、必ずしも削減の費用対効果性を
検討する必要がないことに起因していると考えられる。しかし、それと同時に、この結果
は排出量取引制度の理解が十分に進んでいないことも示唆している。この点も普及・広報
活動が必要になってくるだろう。
また、企業調査より、CDM に参加した経験のある企業、もしくは、そこから発行される
排出枠である CER を購入した経験をもつ企業は、上場企業の中でも一部であることが示さ
れた。これらの調査結果より、一部の熱心な企業を除いた国内の多くの企業にとって、排
出量取引がまだ新しい、
未知の制度であることが明らかになった。
リンクの基盤である CDM
の広報が必要な可能性が示された。
上述の国内排出量取引制度の補完措置に対するアンケート調査は、現在のCDMに対する
不満の表れでもある。CDMに関しては、審査・登録・発行に関わる時間や、追加性の証明等
に問題があると、企業から認識されていることが客観的に確認できた。また、CDMの地域
間不均衡が、企業のCDMプロジェクトへの参加を抑制している可能性も示された。海外で
排出削減事業を行いたいとしても、特定の国にプロジェクトが集中している場合、事業と
して取組にくい状況が考えられるのである。現在、二国間クレジットの提案や、CDMの改
革に向けた提案がなされているが、プロセスの簡素化による時間短縮、追加性の緩和に加
えて、こういったプロジェクト実施地域の多様化の要素を取り入れるべきであろう。
9
これら CDM と国内制度の調査より、排出量取引という新しい政策手段が、全体として、
企業にその中身を十分に理解されていない可能性が明らかになった。政策当局は、排出量
取引という制度の広報活動をさらに進めていくべきであるだろう。
また、キャップ・アンド・トレードが型の国内排出量取引制度導入にあたって、排出枠
の配分方法や、削減目標とならんで、排出枠の品質に関わる「排出量のモニタリング・算
定・報告・公表・第三者検証」が重要な課題として、企業に認識されていることが示され
た。温室効果ガスのMRV制度の充実が必要である。
これに関連して、排出量取引の国際リンクを行うためには、温室効果ガスのMRVの国際
標準化が必要である。その候補の一つはISO 14064 規格であるが、認知度も非常に低く、こ
れらの広報活動が普及には必要であることが示唆された。
応用一般均衡分析の家計部門の精査のために行った家計調査、及び、その分析からいく
つかの政策インプリケーションが得られた。応用一般均衡分析が想定している消費者の合
理的な行動は、消費者が省エネ行動を合理的に行うことが想定されている。しかし、サー
ベイでは家計がそれぞれの省エネ行動によって得られる節約金額を正しく認識していない
ことが示された。つまり、炭素税が有効に機能するためにも、節電金額が明確に分かるよ
うに情報提供・環境教育が必要なことが示された。
また、家計サーベイで明らかになったことは、省エネ製品購入の購買行動から、消費者
の採用する割引率が大きい省エネ型エアコン・冷蔵庫については炭素価格設定の効果が小
さく、補助金の方が相対的にみて購入促進には有効かもしれないということである。ただ
し、省エネ機器購入に対する助成措置については、補助金がなかったとしても省エネ投資
を行っていた主体と、補助金がなければ省エネ投資を行わなかった主体を区別することが
困難であるため、本来補助する必要がない消費者に対しても財源を費やしてしまうことに
なるといった問題点を抱えていることを指摘しておく必要がある。
2. 3 カ年における進捗結果
2.1 3 カ年における実施体制(研究参画者と分担項目、前年度からの改善事項 等)
(1) 各国国内排出量取引制度の事前整理、各国市場国際リンク、及び、京都メカニズム・
クレジットに関する制度研究 (第 1 章)
有村俊秀(上智大学・経済学部・教授)
杉野誠(上智大学・経済学部・特別研究員)
(2) 応用一般均衡分析ベースモデルの構築とシミュレーション分析 (第 2 章及び付
録1)
武田史郎(関東学園大学・経済学部・准教授)
10
蓬田守弘(上智大学・経済学部・准教授)
(3) 応用一般均衡分析・業種細分化拡張モデルの構築 (第 2 章及び付録 2)
山崎雅人(産業技術総合研究所・特別研究員)
(4) 応用一般均衡分析・動学拡張モデル構築 (第 2 章及び付録 1)
武田史郎(関東学園大学・経済学部・准教授)
(5) 応用一般均衡・拡張モデルによる国際リンクのシミュレーション分析 (第 2 章)
武田史郎(関東学園大学・経済学部・准教授)
有村俊秀(上智大学・経済学部・教授)
杉野誠(上智大学・経済学部・特別研究員)
(6) 国内排出量取引制度の国際リンクに関する企業調査 (第 3 章、第 4 章)
有村俊秀(上智大学・経済学部・教授)
片山東(早稲田大学・商学部・准教授)
山本芳華(摂南大学・経営学部・准教授)
(7) 省エネ・新エネ家計サーベイの計量分析(第 5 章、第 6 章)
浜本光紹(獨協大学・経済学部・教授)
岩田和之(高崎経済大学・地域政策学部・講師)
作道真理(日本政策投資銀行・研究員)
(8) 技術進歩内生化のための計量分析 (第 7 章)
浜本光紹(獨協大学・経済学部・准教授)
前年度からの改善事項
前年度の指摘を受け、いくつかの取り組みを行った。第1に、各国市場の制度設計の情
報をアップデートし、かつ、国際リンクの制度的課題をより明確にした(第 1 章)
。第 2 に、
より現実的な排出量取引制度を分析するため、製造業部門のみの排出量取引のリンクもシ
ミュレーションを行った(第 2 章)
。第 3 に、本研究で構築したモデルと、内閣府等で使用
されているモデルとの比較を追加した(付録1)
。最後に、家計調査の計量分析を行い、家
計部門の弾力性について検証を行い、応用一般均衡分析の家計部門の検証を行った(第 6
章)
。
11
2.2
3 カ年における進捗状況
(1)各国国内排出量取引制度の事前整理、各国市場国際リンク、及び、京都メカニズム・
クレジットに関する制度研究
初めに、諸外国の排出量取引に関して、IGES、Pew Center 等の環境関連情報 WEB サイト
や、米国議会 WEB サイト、さらに Greenwire 等の環境ニュースレター等を通じて、情報を
収集した。
次に、各国制度の外国市場の排出枠利用に関する制度の情報収集を行うために、
:ブリュ
ッセル(欧州委員会)
、パリ(OECD、IEA)、ワシントンの未来資源研究所(Resources for the
Future、以下 RFF)での聞き取り調査を行った。その結果、先進国間の排出量取引市場のリ
ンクの他、欧米両地域で、セクター別のメカニズムが今後重要になる可能性が示された。
欧州では、セクター別クレジット・メカニズムの対象として、特定の産業を考慮しており、
分析を試みていることが分かった。
さらに、中央環境審議会国内排出量取引制度小委員会に、代表者が委員として参加する
他、シンポジウム、ワークショップ等を通じて情報収集を行ってきた。また、Greenwire、
気候変動に関する意思決定 ブリーフノート等を通じた情報収集を行ってきた。
また、米国では Ray Kopp 博士(Resources for the Future)
、David Evans 博士(環境保護庁)
等の専門家に対して聞き取り調査を実施した。EU での聞き取り調査も実施し、Vicky Pollard
(DG Climate Action,)及び Jos Delbeke の両氏のインタビューを行った。ドイツの Sven
Rudolph 博士(Kassel University)に対しても聞き取りを行った。
また、韓国に関しても、
「炭素市場に関する日韓政策対話」や「日韓排出量取引制度ワー
クショップ」に参加し、研究交流などを通じて、情報収集を行った。
その結果、各国での国内排出量取引制度の進展が進まず、日米欧の間の国際リンクの議
論に関しては、大きな進展は見られなかった。これは、米国と日本で国内排出量取引制度
の導入が進まなかったことが大きい。一方、韓国では、排出量取引導の議論が進み、日本
とのリンクに関心がみられるようであった。
(2)応用一般均衡分析ベースモデルの構築とシミュレーション分析
はじめに、GTAP 国際貿易データを利用して、日本を含む多国間静学応用一般均衡分析の
ベースモデルを構築した。そして、先進国間の排出量取引の国際リンクの影響を試算した。
この際、先進国間の排出量取引が直接リンクするケースと、クリーン開発メカニズムから
発生する CER を用いた間接リンクが行われるケースの二つにタイプを分析した。間接リン
12
クについては、海外クレジット(CER)の利用料制限についてもいくつかのケースを想定し
て分析した。
次に、モデル精緻化のために、大きく三つの取り組みをした。第一に、応用一般均衡分
析のための消費者の炭素価格への感応度を示すパラメータ推定のために、家計サーベイを
実施した。さらに、このサーベイデータを解析した。第二に、エネルギー集約的である業
績の細分化を実施した。第三に、動学モデル構築のために、研究開発・特許関連のデータ
を収集した。
第2の拡張は、ベースモデルにクリーン開発メカニズムなどから発行されるクレジット
の市場を追加した点である。ベースモデルは、直接リンクのみが分析可能であったが、本
年度のモデルは、間接リンクを分析することが可能となっている。
(3)応用一般均衡分析・業種細分化拡張モデルの構築
GTAP 国際貿易データを用いて構築したベースモデルを拡張し、国際リンクの影響を分析
した。ここでの拡張は、データベースに含まれる部門を細分化した点である。GTAP データ
は、貿易(特に農産物)に関する分析に用いることが多く、温暖化政策の分析用データで
はない。そのため、製造業の分類が粗く、温暖化政策の影響を業種レベルで細かく分析す
ることが困難である。そこで、温暖化政策で影響を受けるセメント業とアルミニウム業を
新たな部門として作成した。
細分化された GTAP7 データを用いて、直接的な国際リンクと間接的な国際リンクのシミ
ュレーション分析を行った。直接リンクでは、5 種類のシナリオを設定して、日本への影響
を分析した。具体的には、6 つの削減地域をリンクしたケース、排出権の供給国(米国とロ
シア)が直接リンクに参加しないケース、および排出権の需要国(EU27 と日本)が直接リ
ンクに参加しないケースを分析した。
(4) 応用一般均衡分析・動学拡張モデル構築
ベースモデルから、逐次動学型の動学的一般均衡モデルの構築を行い、2020 年までの世
界経済を再現するモデルを構築した。一方、実証研究の結果を踏まえ、技術進歩の内生化
は、応用一般均衡分析に取り入れないこととした。また、動学モデルの細分化も行われた。
(5) 応用一般均衡・拡張モデルによる国際リンクのシミュレーション分析
上記の開発された細分化・動学モデルを用いて、国際リンクのシミュレーションを行っ
た。リンクの形式は、各国排出量取引制度がリンクする直接リンクの形式と、クリーン開
発メカニズムの CER による間接リンクの形式の 2 種類の分析を行った。さらに、海外クレ
13
ジット(CER)の利用料制限についてもいくつかのケースを想定して分析した。また、より
現実的な排出量取引制度について検討するため、製造業だけに焦点をあてた排出量取引制
度も分析した。
(6) 国内排出量取引制度の国際リンクに関する企業調査
企業サーベイについては、初年度は、企業担当者などに対するヒアリングを行い、国内
排出量取引制度に関する課題について聞き取り調査を行うとともに、サーベイ票の案を作
成した。
2 年目にも調査票案のプレテストを行い、市場メカニズム室の協力も得て調査票を完成し
た。そして、「温暖化対策を中心とした企業の環境取り組みに関する調査」と題して、上場
企業を対象にサーベイ調査を行った。具体的には、作成された調査票を、2010 年 11 月 8 日
に発送し、およそ 1 ヶ月の回答期限で回収を行った。調査対象は、2010 年 8 月時点で東証
1 部・2 部、東証マザーズ、大証 1 部・2 部、名証 1 部・2 部、札証、福証に上場している
国内企業 2676 社であった。これらの企業のうち 579 社から回答を得た。
調査では、JVETS を初め、国内の各種排出量取引制度の参加状況の他、クリーン開発メ
カニズムへの参加状況、CER の購入状況、そして利用者からの問題点を調査した。また、
国内排出量取引制度を導入する場合に、何が重要なテーマになるかも調査を行った。また、
新たな温暖化対策として注目が集まっていたサプライチェーンやスコープ3に関する項目
も質問した。
(7)省エネ・新エネ家計サーベイの計量分析
応用一般均衡分析の家計部門のモデルの検証・改善のために、初年度には、
「一般家庭の
省エネ関する意識調査」と題して、家計の省エネ行動実態の把握を目指して調査を行った。
調査地域は、埼玉県草加市でで、714 世帯から回答を得た(有効回答率:59.5%)
。
2 年目には、家計サーベイで回収された情報を、記述統計を使った分析を中心に行った。
3年目には同サーベイのデータを計量分析などを行い、炭素価格がもたらす省エネ行動を
通じた温室効果ガス削減効果を分析した。分析したモデルを用いて、価格弾力性について
検討した。また、省エネ製品購入行動を主観的割引率の観点から分析した。両結果から、
応用一般均衡分析の家計モデルについて考察を行った。
なお、これらの分析から、消費者行動を詳細に分析し下結果、炭素価格導入による省エ
ネ行動の変化は応用一般均衡分析の想定より小さい可能性が示唆された。そのため、応用
一般均衡分析モデルの家計部門は今後精査が必要である可能性が示された。
14
(8)技術進歩内生化のための計量分析
応用一般均衡分析モデルにおける技術進歩の内生化のため、原油価格の上昇が、特許で
計測されたイノベーションを通じて技術進歩に与える影響の計量分析を行った。その結果、
原油価格は省エネ技術の特許出願を押し上げる効果を持つことが示された。しかし、炭疽
価格導入によって年率 1%ほどのエネルギー価格上昇率が実現できたとしても、エネルギー
集約度低減率を大幅に高めるのは困難であることを示した。このため、内省的な技術進歩
の動学型 CGE モデルの反映を行わないこととした。
2.3 ミーティング開催や対外的発表等の実施状況
3 ヶ年に渡り、下記のとおりミーティング及び対外的発表を行った。
研究ミーティング開催
2009 年度
12 回
2010 年度
45 回
2011 年度
54 回
合計 114
回
研究会開催
2010 年度
10 回
2011 年度
11 回
合計
21 回
対外的発表
2010 年 2 月 1 日
京都大学ポリシーミックス研究会
有村俊秀「国際競争力及びリーケージ問題に配慮した排出量取引制度の設計:
応用一般均衡分析による生産量に基づく排出枠配分の研究」
於:京都大学法経東館 8F リフレッシュルーム
2010 年 2 月 22 日~23 日
Workshop “Carbon Policies, Competitiveness, and Emissions Leakage: An International
Perspective” at Resource for the Future
武田史郎「Output Based Allocation of Emissions Permits for Mitigating the Leakage
Issue for the Japanese Economy」
於:RFF First Floor Conference Center
15
2010 年 5 月 29 日
環境経営学会
杉野誠 「各国排出権市場の国際リンクの経済分析」
有村俊秀・井口衡「排出量取引の国際リンクに関する日本企業の意識・対策調査」
於・東京大学
2010 年 5 月 30 日
環境経営学会
岩田和之「家計の省エネ行動の実態:草加市でのアンケート調査より」
於・東京大学
2010 年 7 月 23 日
関東経済学ワークショップ
武田史郎「A CGE analysis of international integration of the domestic carbon
emissions markets」
於・青山学院大学
2010 年 11 月 19 日
ハワイ大学経済学セミナー
武田史郎「Economic Analysis of Linking Domestic Emission Trading Schemes」
於・ハワイ大学
2011 年 5 月 19 日~20 日
2011 EEPSEA-EAAERE Joint Conference
有村俊秀「A CGE analysis of linking domestic emission trading schemes: Impacts of
Direct link and CDM" -Simulation using a CGE model-」
於・Melia Hotel in Hanoi, Vietnam
2011 年 5 月 21 日~22 日
日本経済学会 2011 年度春季大会
武田史郎「Labor Market Distortions and Welfare-Decreasing International Emissions
Trading.」
於・熊本学園大学
2011 年 5 月 28 日~29 日
16
環境経営学会
有村俊秀「ISO を中心とした日本企業の環境取り組みの現状について」
井口衡 「日本企業における Green Supply Chain Management の現状について」
岩田和之「省エネ行動促進における省エネ・環境情報の重要性」
武田史郎「CDM を利用した各国の排出量取引リンクの経済分析」
有村俊秀「国内企業の国際・国内クレジット制度の利用動向」
於・跡見学園女子大学
2011 年 6 月 29 日
ハワイ大学経済学ワークショップ
杉野誠「国内排出量取引制度の国際リンクに関する研究
~応用一般均衡分析によるシミュレーション~」
於・ハワイ大学
2011 年 9 月 9 日
環境科学会 2011 年会
武田史郎「応用一般均衡分析による温暖化対策の評価」
杉野誠 「国内排出量取引制度の国際リンクに関する経済分析
~応用一般均衡分析による直接・間接リンクの評価~」
於・関西学院大学
2011 年 9 月 23 日~24 日
環境経済・政策学会 2011 年大会
武田史郎「応用一般均衡分析による温暖化対策の政策評価」
浜田光紹「家計の省エネ行動と CO2 限界削減費用」
山崎雅人「CO2 排出規制がセメント部門とアルミニウム部門に与える影響の評価
~業種細分化された GTAP データベースによる応用一般均衡分析~」
杉野誠 「国内排出量取引制度の国際リンクに関する経済分析
~応用一般均衡分析による直接・間接リンクの分析~」
井口衡 「日本企業の Green Supply Chain Management の現状について」
森田稔 「地球温暖化対策税による産業・家計への影響分析
~産業連関分析を用いた分析~」
於:長崎大学
2011 年 11 月 11 日~12 日
日本経済研究センター マクロモデル研究会
武田史郎「動学的 CGE モデルによる国際間の排出量取引・CDM の分析」
17
於・日経ビル
2011 年 12 月 12 日~16 日
Sophia ZEW Workshop on Energy and Climate Policy
武田史郎「An Economic Analysis of Linking Domestic Emission Trading Schemes with a
Dynamic CGE Model」
山崎雅人「A CGE Assessment of Nuclear Phase-Out in Japan」
井口衡 「Green Supply Chain Management & Environmental R&D Activities by
Japanese Corporations」
2012 年 1 月 27 日
Workshop of Climate Change Economics and Policy
武田史郎・有村俊秀「A CGE Analysis of Linking Domestic Emission Trading Schemes」
2012 年 2 月 10 日
環境経済学ワークショップ(於・京都大学)
有村俊秀・森田稔「情報的手段がもたらす家計の省エネ行動への影響分析」
2012 年 2 月 21 日
EPA Climate Economics Seminar
Toshi Arimura & Shiro Takeda “A CGE Analysis of Linking Domestic Emission Trading
Schemes: Impacts on Japanese Economy"
専門雑誌等の公刊
Toshi H. Arimura, Takuro Miyamoto, Hajime Katayama And Hakaru IguchI "Japanese Firms’
Practices for Climate Change: Emission Trading Schemes and Other Initiatives" Sophia Economic
Review Vol.57 (2012) pp.31-54.
有村俊秀・杉野誠・武田史郎「国内排出量取引の国際リンクによる経済的影響に関する研
究:応用一般均衡分析によるアプローチ」季刊 環境研究 2011 年 No.161
pp.95-102
井口衡・有村俊秀・片山東「サプライチェーンを通じた環境取り組みの進展:上場企業サ
ーベイによる GSCM の分析」環境経営学会サスティナブルマネジメント 2011 年 第 11
巻 第 1 号 pp.159-173
18
有村俊秀・武田史郎編著「排出量取引と省エネルギーの経済分析-日本企業と家計の現状」
日本評論社 2012 年 3 月 刊行予定
第Ⅰ部 応用一般均衡分析による排出量取引の分析
第1章 排出量取引の国際リンク:現状と経済学的考察(杉野誠・有村俊秀)
第2章 応用一般均衡分析モデルの構築(武田史郎)
第3章 排出量取引の国際リンク及びCDMの経済分析(武田史郎・杉野誠・有村俊
秀・山崎雅人)
第4章 業種細分化モデルによるCO2排出規制の産業影響評価(山崎雅人)
第Ⅱ部 日本企業の温暖化対策取り組みの実態
第5章 日本企業の温暖化対策の現状(有村俊秀・片山東・山本芳華・井口衡)
第6章 日本企業と排出量取引の実態:クリーン開発メカニズムを中心に(有村俊
秀・森田稔・井口衡・功刀祐之)
第7章 温室効果ガス排出算定の国際規格の動向:ISO14064・ISO14065を中心に(山
本芳華)
第8章 ISO14064規格採用の決定要因に関する実証分析(片山東)
第Ⅲ部 家計における省エネ行動の経済分析
第9章 家計の省エネ行動の実態:草加市でのアンケート調査より(岩田和之・有村
俊秀・片山東・作道真理・浜本光紹)
第10章 家計における省エネルギー投資と割引率(浜本光紹)
Discussion Papers
Shiro Takeda, Toshi H. Arimura & Makoto Sugino “Labor Market Distortions and
Welfare-Decreasing International Emissions Trading” SSRN Working Paper Series July 15, 2011
有村俊秀・片山東・山本芳華・井口衡・宮本拓郎・森田稔「温暖化対策を中心とした企業
の環境取り組みに関する調査」上智大学環境と貿易研究センター・ディスカッションペー
パー 2011 年 8 月
19
Ⅱ
研究の内容
(要約)
本プロジェクトは、先進国の排出量取引制度が直接、あるいは間接的な方法で、国際的
にリンクされることの日本経済の影響を分析するとともに、リンクのための制度整備の要
件を制度対象者である企業の視点をふまえて行っている。研究方法としては、応用一般均
衡(Computable General Equilibrium、以下CGE)分析を用いた定量的な経済分析と、企業サ
ーベイによる実態調査から成り立っている。CGE分析ではその拡張も試みた。
CGE分析では、初めに、GTAPデータを利用しながら静学の多地域CGE分析モデルを構築
した。その静学モデルを用いてリンクのシミュレーションを行った。次にそれを拡張し、
2020年時点の評価を行うために、逐次動学型モデルを構築した。そして構築された逐次動
学型多地域CGE分析モデルを用いて、排出量取引の国際的なリンクが日本経済に与える影
響を分析した。具体的には、2011年以降にAnnex B地域が削減策を導入するという想定の下、
各地域が独力で削減を行うケース、Annex B地域間で排出量取引が行われるケース(直接リ
ンク)、Annex B地域が非Annex B地域からCERを購入するケース(間接リンク)の3パター
ンを分析した(図I)。
図I 2種類のリンク
直接リンク
国内取引制度1
直接リンク
国内取引制度2
間接リンク
国内取引制度2
間接リンク
国内取引制度1
CDM
出所:筆者作成.
主な分析の結果は次のようにまとめられる。まず、直接リンクに参加することで、日本
は排出規制による所得、GDPへのマイナス効果を大きく軽減できることが示された(所得
20
については3割から6割軽減され、GDPについては5割から8割軽減された)(図II)。また、
全体としての負担が軽減されるだけでなく、EITE部門(特に、鉄鋼部門)へのマイナス効
果も大きく縮小することとなった。さらに、リンク参加国が変わることの影響としては、
EU27が参加しないことは日本に利益をもたらし、米国、ロシアが参加しないことは逆に損
失をもたらすという結果となった。
図II 厚生水準とGDPへの影響(%)
リンク無し
完全リンク
米加抜き
EU抜き
厚生水準
GDP
ロシア抜き
日本抜き
0.00
-0.10
-0.20
-0.30
-0.40
-0.50
-0.60
-0.70
-0.80
出所:筆者作成.
一方、間接リンクについては以下のような結果が得られた(図Ⅲ)。まず、CER利用に制
限がないケースでは、CER供給量の増加に伴い、所得、GDPの両面で日本はプラスの効果を
受けることとなった。また、EITE部門へのマイナス効果も、直接リンクのケースと同様、
大幅に縮小する結果が観察された。一方、CER利用に制限があるケースでは、日本はCER
供給量が400MtCO 2 の段階でほぼ利用制限に達してしまい、それ以上CER供給量が増加して
も国内削減率を低下させることができない。ただし、CER利用が制限に達した後も、CER
供給が増加するにつれ、所得面では日本はプラスの効果を得る。これはCER価格が低下し海
外への支払いが減少するためである。一方、GDPについては、CER利用が上限に達すると、
CER供給量の増加からマイナスの影響を受ける結果となった。これは他のAnnex B地域が日
本に代わりCERを購入することで生産を増加させ、日本の輸出を押し下げる効果を持つため
である。なお、これらの含意は、国内排出量取引制度がない場合にもあてはまることに留
意されたい。
21
図 III CER供給量とGDPへの影響(%)
リンク無し
200Mt
400Mt
600Mt
800Mt
0.00
-0.10
-0.20
-0.17
-0.23
-0.30
-0.33 -0.32
-0.40
-0.50
-0.33
-0.33
-0.47 -0.47
-0.60
-0.70
-0.80
-0.72 -0.72
制限無し
制限有り
出所:筆者作成.
以上の結果がモデルの設定にどの程度依存するかを見るために、代替の弾力性値、削減
率について感応度分析を行ったところ、設定の変更によって効果の絶対的な大きさが変化
するケースが観察されたが、リンクにより所得、GDPへのマイナス効果が大きく軽減され
るという定性的な結果は変わらないことが確認できた。
現在、地球温暖化対策の必要性が幅広く認識されつつも、先進国においてさえその導入
が遅々として進んでいない。その主な理由は、排出規制により経済に新たな負担が生じる
ことへの懸念にあると考えられる。確かに、シミュレーションでも、排出規制の導入によ
り、EITE部門の生産は大きく減少し、さらに国全体としても所得、GDPにマイナスの影響
が出ることが示されている。しかし同時に、排出規制の強化とともに、国際リンクを構築
することでそのマイナス効果を大きく軽減できる可能性が示された。この結果は、効率的
な形で排出規制を行っていくには、各国が独自に排出量取引制度を導入するだけではなく、
同時にその排出量取引制度を国際間でリンクさせることを検討していくべきであることを
示唆している。
このように有益な示唆を持つ多地域・多部門のCGEモデルであるが、その分析は、範囲・
対象が、既存の国際産業連関表(主にGTAPデータ)に含まれる国・地域と産業分類によっ
て大きく制限される。そのためセメント部門を例に出してみると、CO 2 排出規制のセメント
産業への影響を見るためには、より一般的な分類である非金属鉱物部門への影響を見て、
そこから類推するしかなかった。
22
そこで、各国・地域の産業連関表や貿易統計等の統計データを用いてGTAPデータの細分
化を行い、CGEモデルの分析対象を広げることを試みた。その結果、セメント、アルミニ
ウム、基礎化学製品、プラスチック・ゴム製品、化学最終製品を対象とし、各国・地域に
おける各部門の特徴を考慮したCO 2 排出規制のCGE分析が可能となった。細分化の結果、産
業影響がより詳細に分析できるようになり、CGEモデルの分析の利点がより明確になった。
一方で、構築した逐次動学型モデルでは、技術進歩が外生的な内容になっている。近年、
炭素価格導入や様々な政策導入の仕方によっては、技術進歩の仕方が変わっていくのでは
ないかという内生的な技術進歩に注目が集まっている。そのため、内生的な技術進歩を動
学モデルに取り込むことも検討した。具体的には、エネルギー価格上昇が省エネ技術知識
を増進させ、それがエネルギー集約度を下げるかどうかを検証した。そのため、省エネ技
術知識の蓄積を促進する諸要因と、省エネ技術知識の蓄積がエネルギー集約度に対して与
える影響に関して、特許データを利用した実証分析を行った。前者については、産業別デ
ータを用いて考察し、後者についてはマクロ・データを使用して検討した。新たな省エネ
技術は、それを開発した企業が属する産業のエネルギー効率性を高めるために利用される
とは限らず、むしろその他の産業における省エネの進展に貢献することが大いにありうる。
ただし、このような産業間をまたいで発揮される省エネ技術知識の効果を把握することは
極めて困難である。そのため、ここでは省エネ技術知識の蓄積にかかわる要因について分
析する際には産業別のデータを用い、省エネ技術知識がエネルギー集約度におよぼす影響
についてはマクロの視点から定量的に把握することを試みた。
実証分析の結果、炭素価格上昇が、エネルギー集約度低減を促進されることが示された。
しかし、炭素価格導入によって年率1%ほどのエネルギー価格上昇率が実現できたとしても、
エネルギー集約度低減率を大幅に高めるのは困難であることが分かった。このため、内生
的な技術進歩の動学型CGEモデルの反映を行わないこととした。
国際リンクの制度調査は、国際的な動向の調査・情報収集と、国内企業に関する調査の2
つのアプローチを行った。特に国内調査に力を入れて行い、国内排出量取引制度導入に際
しての課題や、間接リンクにおいて重要な役割を果たすクリーン開発メカニズム(Clean
Development Mechanism: CDM)、及び、そこから発生するCER(Certified Emission Reductions)
をその利用者の視点から分析した。一方、国際動向調査では、米国、欧州委員会、OECDで
の聞き取りを行った。欧州のセクター・クレジット・メカニズムや、日本の提案する二国
間メカニズムなどいくつかの提案がなされている。しかし、現状では米国・日本での国内
排出量取引制度の導入が進んでいないことが大きく、ポスト京都の国際的なメカニズムは
具体的な方向性は見えていない。そのため以降は、企業調査に焦点をあてた分析を行った。
企業調査は、2010年8月時点で上場している国内企業2,676社を対象に「温暖化対策を中心
とした企業の環境取り組みに関する調査」という名前でサーベイ調査を行った。調査期間
は2010年11月に実施し、579社から回答を得た。調査票を設計するに当たって、上場6社に
対してインタビュー調査及びサーベイのプレテストを行った。調査票設計にあたっては、
23
市場メカニズム室に協力を頂いた。調査票では、CO 2 などのGHG排出削減に関連する諸制
度との関わりや、排出量の把握状況について質問を行った他、CDMなどのクレジット制度
がどの程度利用されているのかについても質問を行った。
調査より、CDMに参加した経験のある企業、もしくは、そこから発行される排出枠であ
るCERを購入した経験をもつ企業は、上場企業の中でも一部であることが示された。これら
の調査結果より、一部の熱心な企業を除いた国内の多くの企業にとって、排出量取引がま
だ新しい、未知の制度であることが示唆された。同時に、CDMに関しては、審査・登録・
発行に関わる時間や、追加性の証明等に問題があると、企業から認識されていることが客
観的に確認できた(図Ⅳ)。また、CDMの地域間不均衡が、企業のCDMプロジェクトへの
参加を抑制している可能性も示された。つまり、CDMの手続きを簡素化するだけではなく、
プロジェクトを多様な地域で実施することで、より国際的なオフセットが広がる可能性が
示唆された。また、国内排出量取引制度を補完する措置として、海外クレジットより国内
のクレジット制度を好ましいと考えている企業が多いことも示された。
図IV CDM制度に関する問題点(CDM参加企業)
24
1
10
審査・登録・発行に時間がかかる
17
5
13
厳格に追加性を実証する必要がある
15
13
6
予想量に比べて実際のCERが少ない
9
17
9
CDM実施の地域間不均衡
0
10
非常に重要
重要
20
30
40
重要でない
出所: 調査データより, 筆者作成.
国内クレジット制度やJ-VER制度についても、参加企業はその費用対効果性より社会貢献
に魅力を感じている傾向があることが示された。このことから排出量取引制度の本質が、
費用対効果性の高い点にあることが理解されていない可能性が伺える。この点は、現状で
は、日本企業が法的規制のある排出目標を課されていないため、必ずしも削減の費用対効
果性を検討する必要がないことに起因しているとも考えられる。しかし、それと同時に、
この結果は排出量取引制度の理解が十分に進んでいないことも示唆している。政策当局は、
24
排出量取引という制度の説明をさらに進めていくべきであるだろう。
また調査では、キャップ・アンド・トレード型の国内排出量取引制度導入にあたって、
何が重要項目であるか質問した。その結果、排出枠の配分方法や、削減目標とならんで、
排出枠の品質に関わる「排出量のモニタリング・算定・報告・公表・第三者検証」が重要
な課題として、企業に認識されていることが示された(図 V)。
図V 国内排出量取引制度の課題
55.5
3.9
40.6
排出枠の設定方法(n=508)
46.0
排出枠の総量(n=502)
45.8
45.7
国内外での排出削減に貢献する業種・製品への配慮措置(n=495)
49.7
52.7
11.3
34.3
55.2
10.5
32.9
54.8
30.6
59.2
10.2
62.0
11.9
26.2
各種費用緩和措置(n=497)
22.5
対象期間(n=494)
22.5
国と地方の関係(n=494)
14.2
対象となるガスの選定(n=500)
0.0
非常に重要
14.0
53.1
32.1
電力の扱い(n=496)
適切な市場基盤(n=500)
6.0
36.0
ポリシーミックスの在り方(n=493)
国際競争力・炭素リーケージへの配慮措置(n=493)
5.5
48.8
44.3
排出枠の設定対象(n=499)
4.0
50.2
遵守期間・ルール(n=502)
排出量のモニタリング・算定・報告・公表・第三者検証(n=512)
5.2
48.8
10.0
重要
13.1
59.7
17.8
52.6
24.9
27.0
58.8
20.0
30.0
40.0
50.0
60.0
70.0
80.0
90.0
100.0
重要でない
出所:筆者作成.
このCO 2 算定や検証に関わる国際的基準の一つとしてISO14064がある。ISO 14064は国際
標準化機構(International Organization for Standardization: ISO)が2006年3月に発行した規格
で、GHGの排出量•削減量を共通の基準に基づき測定•管理することを可能にするためのもの
である。調査では、この認知度や導入割合が非常に低いことが示唆された。企業調査デー
タの計量分析の結果、省エネ法の特定事業者または特定連鎖化事業者になっている企業は、
ISO 14064規格の採用を予定する傾向にあることが分かった。これはISO 14064導入のための
条件の1つ「企業全体でのエネルギー使用量の把握」を省エネ法の対象事業者であるために
すでに満たしているからであると考えられる。このことから、もしISO 14064規格の採用を
促進のためには、省エネ法の対象を拡大することも考えられるだろう。
また、調査の結果、多くの上場企業が省エネ法の対象となっており、経団連の自主行動
計画より省エネ法や温対法の方が、GHG排出削減の取組みの動機として機能していること
も示唆された。このことは単なる自主的な取り組みだけではなく、規制的手段の重要性を
確認するものである。一方、温対法に関しては、GHG排出量の報告・公開を行っている企
25
業は、温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度が導入される以前から積極的に取り組み
を行っていたことが明らかになった。温対法の改正をうけ、今後国内企業におけるGHG排
出量の目標設定や、排出量の報告・公表の取組みが今後広がっていくことが予想される。
CGEモデルの家計部門の精緻化を念頭におき、家計に対して省エネ行動、省エネ・新エ
ネ製品購入のサーベイを行い、データを分析した。これは、CGEは様々な業種をモデル化
し産業部門の分析には優れているものの、家計は代表的な家計の分析であり、必ずしも排
出規制の影響を詳細、かつ、精緻に分析できないと考えられるからである。実際、家計の
行動については必ずしも炭素価格に合理的に反応しないのではないかという指摘もある。
そのため、2010年1月に埼玉県草加市の1,200世帯を対象とした家計調査を行った。この調
査データを用いた分析を行い、CGEの家計モデルの精緻化・補完を目指した。具体的には、
静学的な省エネ行動の分析と、動学的な省エネ・新エネ製品購入行動の分析を行った。
静学分析では、家計における省エネ行動を取り上げて分析を行った。調査では、14項目
の省エネ行動の実態を把握し、それらを促進するための政策について考察した。調査によ
ると、家計の支出項目の中で節約する項目として、光熱費の優先順位が高いことも示され
た。しかし、個々の省エネ行動の実施状況を尋ねると、省エネ行動によって実施率のばら
つきがあることが示された。特に、「お湯を流しっぱなしにしない」などの、節約が実感
しやすい省エネ行動の実施率が高く、「エアコンのフィルター掃除」のような節約が実感
し難い省エネ行動の実施率が低いことが明らかになった。
もし家計が省エネ行動のもたらす節約全額を正しく理解しているのであれば、実施率と
節約金額との正の相関がみられるはずである。しかし、相関を求めると、相互の関連性が
低いことも示された。つまり、節約額の大きい省エネ行動を優先的に実施していないので
ある。家計によって省エネ行動ごとの機会費用が異なる可能性はあるものの、節約金額と
実施率との間の低い相関関係は、家計がそれぞれの省エネ行動によって得られる節約金額
を正しく認識していないことを示していると考えられる。この分析結果は、家計に対して、
個々の省エネ行動によってどれだけ光熱費が節約できるのかを正しく伝えるための情報提
供・環境教育が必要であるということを示している。
また家計の省エネ行動モデルを構築し、計量分析を行った。そして、そのモデルを用い
て、正確な節約額の情報提供がどの程度省エネ行動を促進するかについてシミュレーショ
ンを行った。同時に、排出量取引制度導入によって炭素価格が電力料金に上乗せされた場
合の省エネ行動促進効果についてもシミュレーションを行った。しかし、どちらの場合も
省エネ行動促進効果は限定的であることが示唆された。
次に、家計の省エネ行動の動学的側面に注目し、同調査を用いて省エネ投資が合理的な
水準より過小な状況(エネルギー効率性ギャップ)に陥る諸要因を分析した。分析では、
家計による省エネ投資の意思決定において重要な要素となる割引率に着目した。具体的に
は、家計が省エネ型家電や太陽光発電システムを購入する際に用いる割引率を計測し、こ
れに基づき省エネ型家電・太陽光発電システムの購入に伴う追加的費用を推計し、地球温
26
暖化対策として議論されている政策措置がもたらす効果について考察を試みた。
主観的割引率の分析の結果、炭素価格設定によって家計の省エネ型エアコン・冷蔵庫の
購入を促進するためには、かなりの高水準の炭素価格設定が必要であることが分かった。
一方、住宅用太陽光発電の導入促進に必要な炭素価格は91円/kg-CO₂であり、省エネ型エア
コン・冷蔵庫よりも価格水準が低くなっている。これらの分析結果から示唆されるのは、
消費者の採用する割引率が大きい省エネ型エアコン・冷蔵庫については炭素価格設定の効
果が小さく、むしろ、購入時の補助金の方が相対的にみて購入促進には有効かもしれない
ということである。ただし、省エネ機器購入に対する助成措置については、補助金がなか
ったとしても省エネ投資を行っていた主体と、補助金がなければ省エネ投資を行わなかっ
た主体を区別することが困難であるため、本来補助する必要がない消費者に対しても財源
を費やしてしまうことになるといった問題点を抱えていることを指摘しておく必要がある。
これらの分析結果は、家計が炭素価格に合理的に反応するというCGE分析の仮定に一定
の留保が必要なことを示唆する。家計調査から得られた家計行動は、価格に対して反応が
低い可能性が示唆された。しかし、その仕組みは複雑であり、現行のCGEへの反応は困難
である。CGE分析の家計影響の結果については、今後より精査が必要であると考えられる。
27
1. 序論
排出量取引の国際リンク:現状と経済学的考察
1.1 はじめに
近年、地球温暖化対策の政策手段として、各国でキャップ・アンド・トレード型の排出
量取引制度が注目を集めてきた。多くの排出量取引制度では、政府が一定の排出枠を発行
し、それを対象となる国や地域の企業に有償あるいは無償で配分する。排出を行う企業は、
自らの排出に見合うだけの排出枠を保有する必要がある。排出削減の費用の低い企業は、
保有の排出枠より多く削減し、そうでない企業に余った排出枠を売ることができる。削減
費用の高い企業は、削減する代わりに他企業から排出枠を購入すればよい。このように市
場メカニズムを利用することにより、他の方法に比べて低費用で排出削減できるというの
が、排出量取引制度の魅力である。
このキャップ・アンド・トレード型の排出量取引制度を大規模に実施し、成功した最初
の例が、アメリカの二酸化硫黄排出承認証取引制度である。同制度は、北米大陸の酸性雨
の問題に対処するための酸性雨プログラムの一環として導入された。電力会社から排出さ
れる二酸化硫黄(SO 2 )を効率的に抑制するために創設されたものである。
この米国での成功を受け、欧州連合が欧州排出量取引制度(EU ETS)という温室効果ガ
スの排出量削減のための域内排出量取引を導入した。さらに、他の先進各国では、国レベ
ルまたは地域レベルでの排出量取引制度の導入・検討が進んでいった。
これらの動きと並んで、長期的かつ安定的な地球温暖化対策として国際排出量取引制度
の構築が提唱されてきた(European Commission 2009)。これは各国が国内のキャップ・ア
ンド・トレード型の排出量取引制度を導入した前提のもとで、各国の制度を国際リンクす
ることを意味している。京都議定書における国家間の取引ではなく、規制を受ける企業な
どが直接、排出枠を国際的に取引できる制度である。具体的には、2015年までに先進国の
国内排出量取引制度をリンクし、2020年までに中国やインド等に範囲を広げ、2030年まで
に全世界を対象とした国際排出量取引制度を創設するとしている。
本章では、本報告書の基礎となる排出量取引制度の国際リンクの仕組み、経済学的な考
え方、課題等を示す。1.2では、排出削減のクレジットを定義した上で、国際リンクの種類
及び京都メカニズムを紹介する。1.3では、各国の域内排出量取引制度をまとめる。1.4では、
国際リンクの現状の課題の議論と欧州などによる新しい提案を紹介する。1.5では、国際リ
ンクの効率性を部分均衡モデルによって明らかにし、最後に、本章のまとめを行っている。
1.2 国際リンクの種類と京都メカニズム
1.2.1
クレジットとは
ここでは排出量取引の国際リンクに重要な役割を果たす排出削減の炭素クレジット(以
28
下、クレジット)について説明しよう。クレジットは、認証された排出削減から発行され
た排出枠を指す。中でも、京都クレジットは、国連によって認証された京都メカニズムの
排出枠を指す。すなわち、京都クレジットはクレジットの1種であり、狭義のクレジットで
ある。
また、クレジットは、国内クレジットと国際クレジットの2種類に分けることができる。
国内クレジット 1は、特定の国・地域内で承認されたクレジットである。例えば、日本国内
の削減プロジェクトによって発行されたクレジットは国内クレジットとなる。しかし、他
国では、承認されていないため、国際的に流通することが困難である。
一方、国際クレジットは、多国間・多地域間で承認されたクレジットである。例えば、
日本と中国の間で承認された排出削減から発行されたクレジットを、他国が承認しなくて
も、国際クレジットとなる(2国間クレジット)。加えて、京都クレジットは、国連の認証
を受けているため、国際クレジットとして分類される。
本章では、クレジットは、国内・国際クレジットを指す。また、京都クレジット、国内
クレジット、国際クレジットを上記の定義として扱う。
1.2.2
国際リンクの種類
各国の国内排出量取引制度の国際リンクは、その方向によって一方的リンクと相互リン
クの2つに分けることができる(図1.1)。図1.1の‘制度’は、それぞれキャップ・アンド・ト
レード方式の排出量取引制度を表している。図1.1は、3つの制度がある場合を表している。
図中の矢印は、国際リンクの方向を表している。一方向に向いている矢印は、一方的リン
クを表し、二方向に向いている矢印は、相互リンクを表している。一方的リンクは、制度1
において制度2の排出枠を用いることが可能であるが、制度2では制度1の排出枠の使用を認
めない場合である。そして、相互リンクは、制度2で制度3の排出枠を使用することも、制
度3で制度2の排出枠を使用することも可能な場合のリンクを意味する。
図1.1 一方的リンクと相互リンク
出所:筆者作成.
さらに、国際リンクはその形態によって、直接リンクと間接リンクの2つに分けることが
できる。直接リンクは、国内排出量取引市場(ETS)を結び付けることで、各国・各地域の
炭素価格を同調させる方法である。一方、間接リンクは、第三国を介して、リンクを行う
1
本章での国内クレジットは、第4章で紹介する日本の「国内クレジット制度」ではなく、一般的名称とし
て用いている。
29
方法である。間接リンクには、クレジットのような国際クレジットを通じた間接リンクと、
第三国との一方的リンクを通じた間接リンクの2種類がある。図1.2はこの2種類の間接リン
クを示している。制度1と制度3は、制度4から発行されるクレジットを共に用いることで、
間接的にリンクしている(国際クレジットによる間接リンク)。また、制度1と制度3は、
双方が制度2と一方的にリンクを行うことで、間接的にリンクしている(一方的リンクによ
る間接リンク)。
また、国際リンクは、使用できる排出枠・クレジットの範囲によって、完全リンクと部
分リンク(不完全リンク)の2つに分けることができる。完全リンクとは、リンクされた国・
地域の排出枠やクレジットを制限なく利用することが可能なリンクであり、部分リンクと
は、使用できる排出枠・クレジットの量に制限を設けるなど、一定の条件が設定されるリ
ンクである。
図1.2 間接リンクの種類
出所:筆者作成.
1.2.3
京都メカニズム
後述するように、各国、各地域の排出量取引制度は直接的にはリンクされていない。し
かし、京都議定書では、先進国の一部(付属書I国)に排出削減義務が課されており、それ
を補完する補完的メカニズム(京都メカニズム)がある。現状では、この京都メカニズム
を通じたリンクが間接的に行われている状況である。ここでは、京都メカニズムの3種類の
制度について紹介しよう 2。
第1に、国同士の排出量取引(Emission Trading: ET)制度がある。京都議定書では、各国
2
京都メカニズムの取引量および取引金額は、World Bank(2010)を参照。また、京都議定書の成果、課
題については、新澤(2010)を参照。
30
の排出削減義務量に応じて、割当量単位(AAU)という排出枠が割り当てられている。ま
た、各国には国内の森林吸収などによる吸収単位(Removal Unit: RMU)が割り当てられる。
各国は、自由にAAUやRMUを取引することが可能である。よって、初期のAAU、RMU
の排出枠を取引することで、国際リンクは可能となっている。
第2に、クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism: CDM)がある。排出削
減が京都議定書の削減義務が課されている国(主に先進国)のみで行われた場合、世界全
体の排出量を抑えることが費用の面などから困難である。そこで、世界全体で排出量の増
加を効率的に抑制する方法として、CDMが認められている。CDMは、先進国から発展途上
国のプロジェクトに対して技術・資金を援助し、排出削減を行う仕組みである。詳細はそ
の問題点もあわせて、第4章で述べる。
また、CDM理事会が排出削減を認めた場合、排出削減量を認証された排出削減量(Certified
Emission Reduction: CER)として取引することが認められている。このCERは、間接リンク
を媒介することが可能である。
第3に、共同実施(Joint Implementation: JI)がある。共同実施は、先進国が技術支援を行
い、支援を受けた先進国(主に旧ソ連諸国)が排出削減を行う仕組みである。CDMと異な
る点は、先進国間の技術支援であることである。このメカニズムを用いて発行される排出
枠は排出削減単位(Emission Reduction Unit: ERU)として取引が行われている。
1.3 国内・域内の排出量取引制度
現在、欧州、米国、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、日本、韓国など、先
進各国で、国内排出量取引制度が導入あるいは検討されつつある。以下では、国内排出量
取引制度の国際リンクの可能性について、EU、米国、ニュージーランド、日本の制度をま
とめる 3。
1.3.1
欧州排出量取引制度(EU ETS)
EUは温暖化対策として、EU ETSを2005年に導入した。同制度は、2005年から2007年をフ
ェーズI、2008年から2012年をフェーズII、2013年以降をフェーズIIIに期間を分割して運営
されている。
フェーズIの目的は、企業の排出活動を把握し、排出量取引の経験を積むことであった。
また、フェーズIIから本格的な排出削減が開始され、CERなどの京都クレジットを用いた目
標達成が可能となっている。具体的には、排出枠の13.5%を上限に京都クレジットの使用を
認めている。さらに、2008年12月、欧州理事会と欧州議会で合意された「気候変動・再生
3
各国制度の詳細は以下を参照。EU ETSに関する制度を紹介しているものとして、諸富・鮎川(2007)、
清水(2010)、朴(2011)を参照。日本の制度は、杉野・有村(近刊予定)、諸富(2010)を参照。米国
の制度は、有村(近刊予定)、清水(2010)を参照。
31
エネルギー政策パッケージ」では、EU域内における温室効果ガス排出量を2020年までに1990
年比で20%削減するという目標が掲げられ、この目標を達成する手段の1つとして、国際ク
レジットの活用が盛り込まれている。その中で、2008年から2020年までEU ETS全体で用い
ることができる国際クレジットは、総排出枠の6.5%までとされている 4。また、この政策パ
ッケージには、EU ETS対象業種以外の業種が用いることができる国際クレジットの量につ
いても明記されており、そこでは2008年から2020年まで11億トンから13億トンの国際クレ
ジットを使用することが認められている 5。
1.3.2
米国の排出量取引制度
米国では、連邦と州の2つのレベルで排出量取引制度が導入・検討されている。連邦レベ
ルでは、2009年6月に、ワックスマン・マーキー法案が、下院議会で可決された。同法は、
米国連邦会議でもっとも合意に近づいた法案である。その内容は、2020年までに、2005年
比20%削減、2050年までに、同85%削減しようというものであった。
ワックスマン・マーキー法案は、目標を達成する手段として、毎年の上限を20億トンの
クレジットを認めている。クレジットの内訳は、国内・国際で50%ずつと規定 6されている
ため、10億トンの国際クレジットを購入することが可能となる。しかし、2019年以降は、
国際クレジットの1トンは、0.8トンとしてみなされる。すなわち、国際クレジットは80%に
減免される。また、国際クレジットには一定の条件を満たした場合のみ、使用可能となっ
ている。例えば、米国が締結した国際条約に参加する途上国における国際クレジットのみ
が認められる。さらに、京都議定書で使用が認められているCERとERUはEPA長官が使用を
認めた場合のみ利用可能となる。
同様に、上院で議論されたケリー・ボクサー法案では、オフセットの量は20億トンとな
っており、国内・国際クレジットの利用可能量は、国内75%(15億トン)、国際25%(5億
トン)となっていた。
連邦議会ではこれら排出量取引を含む法案は可決に至っていない。しかし、地方レベル
では既に導入されている。第1に、アメリカ北東部の地域温室効果ガス・イニシアティブ
(Regional Greenhouse Gas Initiative: RGGI)が挙げられる。この制度は、環境NGOや環境政
策の専門家が、連邦レベルの温暖化対策の具体的な方策の導入が停滞するなか、州レベル
の温暖化政策の促進を進めた結果である。
RGGIは、アメリカ初の本格的な温室効果ガス排出量取引市場である。北東部の10州が参
加し、2009年に開始された。石炭、石油、天然ガスを燃料とする25メガワット以上の発電
4
EU ETSの対象となっている部門は、2008年から2020年もで、16億トンから19億トンまでの国際クレジッ
ト使用を認められている。
5
EU ETSの国際クレジット使用量は、目標達成のために、最大50%をCER・ERUによって達成できるよう
に設定している。
6
このオフセットの量は、制度の初期では削減目標の30%となっている。その後、2050年に削減目標の65%
まで引き上げられることとなっている。
32
所が対象となる。
排出枠の価格が高騰することを防ぐ目的で、クレジットの利用と安全弁を織り込んでい
る。クレジット量は、制度開始時には排出削減量の3.3%であるが、排出枠の価格が7ドルに
達すると、クレジット量の上限が5%に上昇し、排出枠が10ドルに達すると、クレジット量
の上限が10%まで引き上げられる。ただし、排出枠価格が低い場合、国内クレジットのみが
利用可能であるが、排出枠の価格が上昇すればCERの利用が認められており、間接リンクが
可能となっている。
カリフォルニア州でもキャップ・アンド・トレードの導入が決定された。カリフォルニ
ア州で成立したAB32(カリフォルニア地球温暖化対策法)では、同州の温室効果ガス排出
量を2020年までに、1990年レベルまでに削減することを目標としている。2011年には、AB32
と整合的な目標を持ったキャップ・アンド・トレード型の排出量取引制度が2012年から開
始されることが決定された。同制度の対象となる事業所は、600事業所となる見込みである。
これらが排出するCO 2 は、カリフォルニア州の約8割となる。また、国内クレジットのみが
同制度内で用いることが可能である。しかし、EU ETSと直接リンクする可能性が検討され
ている。
この他に、西部気候イニシアチブ(Western Climate Initiative: WCI)という提案もある。
これは、西部6州(アリゾナ、カリフォルニア、ニューメキシコ、オレゴン、ユタ、ワシン
トン)による排出量取引制度の提案である。西部6州はカナダの2州(ブリティッシュ・コ
ロンビア、マニトバ)と、2020年までに2005年レベルから15%削減を目指し、排出量取引を
導入することに合意した。目標達成の手段として、クレジットの利用を認めている。しか
し、具体的なクレジットの内容や利用上限は設定されておらず、今後決定される。
1.3.3
ニュージーランドの国内排出量取引制度
ニュージーランドは、国内排出量取引制度を2010年1月から導入した。同制度では、2012
年12月までを試験期間とし制度を運用している。初期の対象部門は、林業部門としている
が、段階的に発電部門、産業プロセス、貿易集約的産業、農業部門に対象範囲を広げ、2015
年に経済全体を対象範囲とすることを決定している。
同制度の特徴の1つが、明確なキャップを設定していないことである。すなわち、キャッ
プ・アンド・トレード型の排出量取引制度となっていない点である。
京都クレジットの利用以外に、国内クレジットの利用が認められている。しかし、国内
クレジットの質の問題が浮上しているため、今後、用いることができる国内クレジットに
制限がかけられる可能性がある。
1.3.4
日本の国内排出量取引制度(J-ETS)
ポスト京都の日本の排出削減目標の議論と同時に、日本国内においても、国レベルの排
出量取引制度の議論も行われた。詳細な排出量取引制度の案は提示されていないが、制度
33
設計の方向性は示されている(環境省・中央環境審議会環境部会国内排出量取引制度小委
員会 2010)。しかし、クレジットの利用や利用制限についての具体的な結論には至ってい
ない。
日本でも米国同様に、国に先行し地方レベルで排出量取引制度の導入が進んでいる。東
京都排出量取引制度は、2010年4月から開始された、日本ではじめての本格的なキャップ・
アンド・トレード型の排出量取引制度である。同制度は、都内の大規模事業所(原油換算
1,500キロリットル/年)に対して排出量の削減を義務化している。同制度では、中小企業ク
レジット、都外クレジットおよび再生可能エネルギークレジットの3種類の国内クレジット
の利用を認めている。したがって、現時点では国際リンクは可能ではない。一方で、東京
都は、温室効果ガスの国際的な排出量取引市場創設を目指す国際炭素行動パートナーシッ
プ(ICAP)のメンバーである。したがって、将来的に東京都の制度が国際市場とどのよう
な関わりを持つかが注目される。
1.4 国際リンクの現状と課題
1.4.1
国際リンクの現状:CDMの問題点
このように現時点では、国際リンクは、京都クレジット(CER、ERU)を用いた間接リン
クにとどまっている 7。しかし、欧州委員会は、現行のCDMを用いたリンクには次のような
問題点があると指摘している。それは、プロジェクト・ベースのクレジットでは、発行さ
れるクレジット量が少なく、米国などが排出量取引を導入した場合、今後のクレジット需
要を満たすことができないという点である(規模の問題)。
Baron et al. (2009) は2012年以降の年間クレジット需要量、およびセクトラル・アプロー
チによって発生するクレジットの供給量をまとめている。図1.3は予想される2012年以降の
クレジット需要量を示している。 EUでは2008年から2020年までの期間に、28億トンから
31億トン(2.8~3.1GtCO2)のクレジット使用が認められており、そのうち2012年までに半
分の14億トンあまりが使用される見込みである。そのため、2013年から2020年まで、年間
1.85億トン(185MtCO2)のクレジット需要が予想されている。また、米国で排出量取引が
導入されていれば、予想されるクレジット需要は年間8億トン(800MtCO2)である。この
場合、2020年時点で、欧米のクレジット需要は年間10億トン(1GtCO2)と見込まれる。
2008年以前、海外クレジットの供給量は増加傾向にあった。しかし、発行審査の厳格化
に伴い、発行されるクレジット量は2008年に大幅に減少した(表1.1)。そのため、現状の
CDMクレジット市場では、新規発行クレジット(primary CDM)よりも既に発行されたクレ
ジット(secondary CDM)が多く取引されている。その原因として双方が抱えるリスクの違
いが挙げられる。新規発行クレジットは、投資のリスク、発行のリスクなど、多くのリス
7
豪州ETSでは、EU ETSの排出枠の使用を認める可能性がある。しかし、豪州ETSは現在議論の段階にあ
り、最終的にどの程度認めるかは不確実である。
34
クを抱えている一方で、既に発行されているクレジットにはリスクがなく、コストを低く
抑えることが可能である。さらに、2012年以降の国際合意が不透明なため、CDMのプロジ
ェクト数は今後減少すると予測されている(World Bank, 2009)。
図 1.3 CDM クレジットの需要予測と供給ポテンシャル(2020 年)
出所:Baron et al. (2009)より引用.
表 1.1 CDM の取引量の推移(2006 年~2008 年)
Primary CDM
Secondary CDM
量(MtCO2-e)
金額(MUS$)
量(MtCO2-e)
金額(MUS$)
2004年*
97
485
-
-
2005年
2006年
2007年
2008年
341
537
552
389
2,417
5,804
7,433
6,519
10
25
240
1,072
221
445
5,451
26,277
出所:World Bank (2006), World Bank (2007), World Bank (2008), World Bank (2009).
*2004年のデータは, Primaryとsecondaryの区別が行われていない.
また、2009年時点において、中国がCDMプロジェクトの約6割を占めている。言い換えれ
ば、現行のCDMが中国に対して資金・技術を提供していることを意味している。そのため、
米国は国際競争の観点から、中国の産業に対して脅威を感じており、資金提供等を行うこ
とによって、米国産業の競争力が更に失われることを懸念していた。従って、米国は中国
に対して、CDMを実施することに対して消極的であると考えられている。
以上の点を考慮すると、現行のCDM制度では、米国の排出量取引制度導入などがあれば、
35
今後の需要を満たすことが困難になる恐れがあると考えられる。このクレジットに対する
需要が満たされなければ、排出権価格は上昇し、社会全体のCO2削減費用は増え、経済効率
が失われる。そこで、一国のセクター単位で排出削減が行われるセクター・アプローチに
注目が集まった。
1.4.2
セクター・クレジット・メカニズムの提案
セクター・アプローチとは、国家間で、特定の部門に対して排出削減 を行う制度である。
例えば、主要排出国の鉄鋼業部門に対して排出削減目標についての国際合意を形成し、各
国で削減努力を行う。これにより、国家間での「不公平な負担」を回避することが可能と
なる。したがって、セクター・アプローチはCDMの問題点を克服し、温暖化ガス排出削減
を発展途上国に広める手段として期待されている。また、セクター・アプローチの導入は、
国際競争力問題に対する解決策となることも期待されている(Baron, 2006, Baron et al., 2008,
Baron et al., 2009)。
セクター・アプローチの特徴は、CDMとは異なり、目標を達成した際に発行されるクレ
ジット収入を政府に帰属させることを念頭に設計されている点にある。そのため、セクタ
ー・アプローチにおいては政府の役割が重要となり、政府には、セクター内の企業に対し
て適切なインセンティブを与え、削減努力を監視・管理することが求められる。
セクター・アプローチを導入する際の設定目標としては、原単位目標と総量目標の2つ
の選択肢がある。原単位は、同業種の総排出量を出荷額や付加価値額などの生産活動の量
で割った値である。原単位目標を設定した場合、経済活動(生産量)によって総排出量が
決定され、経済活動の増加は原単位の改善を打ち消す可能性がある。一方、経済活動の減
少は原単位改善と共により多くの総排出量を減少させる。 総量目標は、同業種内の総排
出量を規制する方法であり、環境改善が担保されるため、原単位目標よりも厳しい目標と
なる。
図1.3はセクター・アプローチによって供給されるクレジットの量を、電力・セメント・
林業の3部門について示している(Baron et al., 2009)。電力部門では、中国などの新興国か
らクレジットが供給されることが予想されており、年間のクレジット量は、1.10億トンから
7.67億トンとされている。セメント部門からのクレジットを供給する国は、中国、メキシコ、
ブラジルとなっている。セメント部門のCO2削減ポテンシャルは4.6億トンと予想されてい
る。ベースラインの設定によって、クレジットの供給量は変動する。林業からの削減ポテ
ンシャルは、発展途上国で、年間14億トンと予想されている。ベースラインの設定基準が
緩すぎると、欧米でのクレジット需要量を上回る可能性が考えられる。したがって、ベー
スラインを適切に決定することが必要となる。
欧州委員会が提案しているセクター・アプローチの方法は、セクター・クレジット・メ
カニズム(Sectoral Crediting Mechanism: SCM)とセクター・トレーディング・メカニズム
(Sectoral Trading Mechanism: STM)であった。セクター・クレジットでは、クレジットは
36
ベースラインと比較して実際の排出量(パフォーマンス)が改善した場合のみ発行される
(ex post)。一方、セクター・トレーディングでは、排出権は事前に配分される(ex ante)。
以下、簡単にSCMの特徴を簡単に紹介する。
SCMは、セクター・アプローチを具体的に運営する制度として考案されている(Ellis and
Baron, 2005, Baron et al., 2006, Aasrud et al., 2009, Baron et al., 2009)。SCMとCDMの違いは、
CDMはプロジェクト・ベースでクレジットが発行されるのに対して、SCMは一国のセクタ
ー(部門)の取組によってクレジットが発行される。よって、発行されるクレジットの量
は大幅に増え、政府の監視下によって認定期間の短縮化が行われるため、CDMより優れて
いると考えられる。
SCMは、CDM同様にあらかじめ合意された目標よりも実際の排出が下回った場合にクレ
ジットが発行されるが、一国内のセクター平均が目標を達成していない場合には、クレジ
ットは発行されない。そのため、目標を達成した企業(施設)が存在しても、クレジット
を得ることができない可能性もある。
原単位目標を設定したSCMは、原単位が改善した場合、生産量に改善した原単位を掛け
合わせた量がクレジットとして発行される。例えば、生産活動が5千万MWh、平均原単位の
改善が0.05tCO2/MWhの場合、発行されるクレジット量は250万トンCO2となる。ここで2つ
のケースが考えられる。第1に、すべての企業で目標を達成し、平均で0.05の原単位が改善
したケースである。この場合、各企業が目標の達成率に応じてクレジット収入を得ること
ができるため」、努力した分だけの収入が見込まれる。第2に、目標を達成した企業とでき
なかった企業が混在し、平均で原単位が0.05改善したケースが考えられる。この場合には、
達成できなかった企業の存在によってクレジット収入は減少してしまうため、配分される
収入は削減量に応じたものと一致しないことになる。
そこで、投資のリターンを確保する方法として以下の4つのシナリオが考えられる。
(1) 政府にクレジット収入がすべて与えられる
このシナリオでは、政府は国内政策 を用いて目標を達成することが可能である。目標
が達成されればクレジット収入を政府の歳入として扱うことが可能となり、この資金を
さらなる原単位の改善のために補助金として用いることができる。
(2) 目標を達成した企業に対して配分する
このシナリオでは、目標を達成した企業に収入を全て配分する。これにより、投資を促
進することが可能となる。しかし、削減した量に対するクレジット収入が得られないた
め、目標を達成できなかった企業はペナルティーを支払うことになる。
(3) 国際合意された目標よりも厳しい国内目標を設定してリザーブを設ける
このシナリオでは、国内目標を達成した分を収入として得ることが可能となる。しか
37
し、国内目標を達成できなかった一方で、国際合意された目標については達成された場
合、クレジット収入は政府の歳入として扱われる。
(4) 目標を達成した企業は達成した分のクレジットを販売して、過剰供給したクレジットを
国がクレジット市場から買い取る
SCMには、民間事業者に参加のインセンティブを持たせる困難さなど問題点が残ってい
るものの、世界全体での効率的な排出削減には重要な一歩であると考えられる。実際、日
本が提唱する二国間クレジットと並んで、COP17では、その方向性が認められた形になって
いる。しかし、今後、具体化して行く段階で、詳細なデザインはどのような方向に進んで
いくかは明らかではない。今後、欧州を中心とした提案を注視しいてくことが必要であろ
う。
1.4.3
国際リンクの課題
以下では、Tuerk et al. (2009)の指摘にしたがって、問題点をまとめよう。各国の国内排出
量取引制度を直接リンクさせるには、6つの障害(目標設定、制度運営の厳格さ、オフセッ
ト、原単位目標、費用抑制措置、排出枠の品質)が存在すると考えられている。
第1に、目標設定のレベル、内容が直接リンクの障害となる可能性がある。各国の目標が
京都議定書などの国際合意に基づいて設定された場合には、各国の間に不公平感が生じる
余地は少ない。しかし、国ごとで、国内排出量取引制度のカバー率、すなわち、国内排出
量取引制度の対象となる業種や企業の規模などが異なっているため、国際合意された排出
削減量と国内排出量取引制度の削減量が必ずしも整合的ではなくなる。よって、カバー率
の異なる国内排出量取引制度を直接リンクさせる際には、各国間の「公平な負担」が問題
となる可能性が高い。例えば、米国のワックスマン・マーキー法案では、経済全体(エコ
ノミーワイド)を国内排出量取引制度の対象とし、カバー率はGHG排出量の84.5%となる見
込みである。一方、EUでは、一部の産業が除外されているため、現在のカバー率は約40% 8
に留まっている。2013年以降のフェーズIIIでは、対象範囲の拡大を予定しているが、アル
ミ産業などはフェーズIIと同様に対象外となる可能性がある。この場合、米国のアルミ産業
は炭素価格を負担することになるが、EUのアルミ産業は炭素価格の支払いから逃れること
となる。これは、国際競争条件が異なることを意味し、米国側の国際リンクに対する態度
を消極的にさせることが予想される。そのため、各国の国内排出量取引制度を直接リンク
させる際には、対象業種やカバー率の違いが障害になると考えられる。
第2に、厳格な制度運営が直接リンクの障害となる可能性がある。厳格な制度運営とは、
対象主体の排出量が正しく測定・報告・検証(Measurement Reporting and Verification: MRV)
され、虚偽の報告などに対する罰則や不正行為に対する監視メカニズムを実施しているこ
8
フェーズI(2005年から2007年)までの値となっている。
38
とである。厳格な制度運営が行われない場合、制度全体の信用がなくなり、排出枠価格が
大幅に下落する可能性がある。すなわち、各国のガバナンスや法的拘束力が、排出枠価格
に大きな影響をもたらすと考えられる。しかし、OECD加盟国間でのリンクにおいては、こ
の問題の重要性は低いと考えられる。また、第5章で紹介するMRVの導入により厳格な制度
運営が可能となる。
第3に、各国制度が用意するオフセットの違いが挙げられる。オフセットは、排出量取引
制度外の主体に対して技術や資金を提供し、削減された排出量をクレジットとして利用す
る制度である。ただし、オフセットとして認められる事業は各国の制度によって異なるた
め、制度間のクレジットの質(農業部門、森林吸収源、REDD 9の利用など)の違いが生じ
る。このようなクレジットの質の差は、直接リンクを行った場合、排出枠価格に大きな影
響を与える可能性がある。さらに、ワックスマン・マーキー法案では、国際クレジットが
将来減免される予定となっており、国ごとで国際クレジットへの対応が異なる状況が起こ
りうる。そのような状況下においては、国際クレジットへの対応が異なる制度間で直接リ
ンクした場合、排出枠の価格差を利用した裁定取引が生じる可能性がある。
第4に、削減目標の種類によってリンクが困難となることが考えられる。一般的には、排
出削減目標を達成する手段として総量目標が設定される場合が多い。しかし、カナダでは、
制度開始時には原単位目標を設定することを検討していた。カナダのように原単位目標を
設定した場合、取引される1単位は実質的な排出削減によるものとは限らないため、総量目
標を設定している他国の国内排出量取引制度との直接リンクが困難となる可能性がある。
第5に、国内排出量取引制度において費用抑制措置(cost containment)が設定されている
場合、リンクは困難になる。具体的には、費用抑制措置として、プライスキャップ、排出
枠のボローイングなどが挙げられる。プライスキャップは、排出枠価格の上限をあらかじ
め設定するものであり、排出枠価格が上限に達すると排出枠が無限に供給されることにな
る。したがって、プライスキャップを設けない制度の排出枠価格がプライスキャップ以上
に上昇した場合、裁定取引が行われ、排出枠の価格はプライスキャップまで下落すること
が予想される。これは、プライスキャップを両制度に設けるのと同様の効果となる。元々
プライスキャップを設けていない制度では、政府の市場への介入を避け、適切な排出枠価
格の実現を政策目的の1つとして考えられている。一方、プライスキャップを設定している
制度では、排出枠価格の高騰を防ぐことを目的として制度が設計されている。すなわち、
低費用で排出削減を実現することが目的となっている。制度が目指す目的によって、国際
リンクが困難となる可能性がある。同様に、排出枠のボローイングによって、将来の排出
削減費用が増加したり、将来の排出削減目標が軽減されたりする可能性がある。よって、
安易なボローイングの導入は、国際リンクを不安定化させる要素となる恐れがある。
9
REDDとは、Reduced Emissions from Deforestation and forest Degradation(森林減少・劣化からの温室効果ガ
ス排出削減)の略であり、途上国の森林破壊・劣化を防ぐことにより、CO2排出を防止する方法である。
39
第6に、各国市場で取引される排出枠の品質に関する問題がある 10。国別の排出枠の品質
は国内排出量取引制度の制度設計に大きく依存する。排出枠の品質は、取引されるクレジ
ットの量や利用可能なクレジットの種類によって決定される。例えば、米国では農業部門
や森林吸収源(REDDなどを含む)のクレジット利用を認めている。一方、EUでは、京都
クレジット以外の国際クレジットの利用は認められていない。この場合、米国で取引され
ている排出枠とEUで取引されている排出枠の品質は異なることになり、両制度をリンクさ
せた場合、品質の異なる排出枠がEUに流入する恐れがある。したがって、国際リンクを行
う際には、両制度で取引されている排出枠が同質となるように制度を設計する必要がある。
1.5 排出量取引の国際リンク
1.5.1
直接リンクによる効率性
ここでは、排出量取引の国際リンクの経済学的な意味を、部分均衡の枠組みを使って紹
介する 11。初めに、直接リンクの経済学的な意味を確認しよう。図1.4は、横軸に削減量、縦
軸に限界削減費用(クレジット価格または排出枠価格)をとり、限界削減費用曲線(MAC)
を描いている。今、A国の削減義務量を0RNLとする。削減義務量を達成するために国内排出
量取引制度を活用し、排出削減を行うとする。A国が国内努力のみ(国際リンクを行わない)
で削減目標を達成するためには、削減費用はa+b+c+d+e+fとなる。また、限界削減費用(=
排出枠価格)は、PNLとなる。
次に、国内排出量取引制度を他国の国内排出量取引制度と直接リンク(国際排出量取引
市場の構築)した場合を考える。国際排出量取引市場での排出枠価格がPCと仮定する。A国
は国際リンクを行うことにより、国内排出削減とともに排出枠の輸入を選択することが可
能である。よって、国内削減量は、0RC に減少する。これに伴い、国内での削減費用は
b+c+d+e+fの分だけ節約することが可能である。しかし、削減目標を達成するためには、排
出枠の購入(輸入)が必要となる。購入量は、RCRNLであり、購入費用はb+cである。その
ため、A国の削減費用の総額は、a+b+cであり、リンクを行わない場合と比べてd+e+fの面積
だけ節約することができる。
以上のように、国内排出量取引制度を直接リンクすることによる便益があることが示さ
れた。これは、直接リンクすることにより、効率的に排出削減が行われたことと他ならな
い。
10
排出枠の品質を保証する制度を第5章で議論する。
排出量取引制度の理論は、日引・有村(2002)、高尾(2008)、前田(2009)、杉野・有村(近刊予定)
を参照。
11
40
図1.4 直接リンクと間接リンクの効率性
出所:筆者作成.
1.5.2
間接リンクによる効率性
国際クレジットを用いても、目標達成のための費用を緩和することが可能である(間接
リンク)。この場合、直接リンクと同様に、効率が改善されることが期待される。以下で
は、ある国が排出削減を行う2種類のケースについて効率性を比較する。第1に、国際クレ
ジットを無制限に用いるケースを分析し、第2に、国際クレジットの利用量に制限を設ける
ケースを分析する。
国際クレジットの利用は削減費用を緩和することが期待されている。国際的に決定され
た国際クレジット価格(PC)であるとする(図1.4)。
国際クレジット利用が可能であり、国際クレジットの利用に対する制限がない場合(無
制限利用)、国内の削減量および国際クレジットによる削減量は、限界削減費用と国際ク
レジット価格が交わる点で決定される(排出枠と国際クレジット価格の均等化)。すなわ
ち、国内の削減量は(0RC)であり、国際クレジットによる削減量は(RCRNL)である。この
時の国内削減費用はa、国際クレジット購入費用はb+cであり、削減総費用はa+b+cである。
よって、国際クレジットを利用することにより、費用はd+e+fの分だけ節約される。
加えて、国際クレジット価格が上昇すると、間接リンク(国際クレジット利用)による
便益は小さくなる。これは、国際クレジット購入量が少なくなり、国内削減量が増加する
ためである。逆に、国際クレジット価格が下落すると、間接リンクによる便益は、国際ク
41
レジット購入量が増え、国内削減が減少することから、大きくなる。
マラカシュ合意は、国際クレジットを削減のための「補助的」手段と規定している。各
国で、「補助的」の解釈には差異があるものの、削減目標の50%未満とされている。また、
EU ETSでは、CERなどによる国際クレジットの利用上限を30%と設定している。図1.4の
RLRNLは、利用上限を設定した場合の上限購入量を表している。国内での削減量は無制限ケ
ースと比較して、RCRL分増加し、国内での削減費用はb+d増加する。一方、国際クレジット
購入量はRCRL分減少し、国際クレジット購入費用はbだけ節約することができる。したがっ
て、国際クレジットの上限を設定した場合、削減費用は、dの面積分増加する 。また、排
出枠価格と国際クレジット価格は一致せず、排出枠価格はPLとなり、排出枠にプレミアム(PL
-PC)が生じる。この結果は、国内での削減量を増やす代わりに、効率性を犠牲にしてい
ることを示している。
1.6 おわりに
現在の排出量取引の国際リンクは、CDMから発生するCERが中心的な担い手である。ポ
スト京都の目標として先進国が野心的な排出削減目標を導入した場合、削減費用が膨れ上
がることが懸念されている。費用上昇の対策として、CERのような国際クレジットの利用が
不可欠であり、今後、需要が増加する可能性もある。しかし、CERの最大の問題点は、承認
に時間を要することである。ポスト京都の国際交渉が行われる中、この他にも各国により
様々なメカニズムの提案が行われた。EUは、セクター・クレジット・メカニズムを推奨し
ている(Aasrund et al. 2009; Baron 2006; Baron and Ellis 2006; Baron et al. 2009)。一方、日本
は、2国間クレジットの推進を行っている。その他の国際クレジットとしてREDDやREDD+
など森林吸収のクレジットも提案されている。ポスト京都の枠組みが固まらないと、これ
らのメカニズムがどうなるかは明らかではないのが現状である。将来に向けたポスト京都
の国際枠組みを注視していく必要があるだろう。
上記の分析から、国際リンク(直接リンクと間接リンク)は、経済効率性の観点から望
ましいことが確認された。いわゆる排出量取引(CDM)の資本流出論が示唆することとは
異なり、排出量取引が経済的負担を緩和することが明らかになっている。しかし、上記の
分析は、部分均衡分析による結果であるため、排出枠以外の財・サービス市場を無視して
いる。また、定性的な分析であるため、経済的な影響がどの程度であるか明らかでない。
そこで本プロジェクトでは、応用一般均衡モデルを用いて国際リンクの効果を定量的に分
析するとともに、リンクを促進するための制度について、企業のサイドから検証する。
本研究の目的は以下のとおりである。第1に、各国の排出量取引制度のリンクによる国内
外への経済的影響を明らかにする。特に、産業、家計への影響を明らかにする。
第2に、クリーン開発メカニズムに代表される京都メカニズムのクレジット等、国際的な
オフセット・クレジットの利用が、日本と世界経済の温室効果ガス削減量に与える影響を
42
明らかにし、これらのクレジットを通じた間接的な国際リンクが果たす役割を検討する。
第3に、排出量取引制度の国際リンクがもたらす中期的な影響を明らかにするため、モデ
ルの動学化を行う。そして既存のCGEモデルの拡張も試みる。
第4に、国際市場とのリンクを実施することに対する企業の受容度や、制度上の課題を明
らかにする。
第5に、経済的効果、温室効果ガス削減効果の分析結果をふまえた国際的リンクの意義を
明らかにする。そして、国際市場のリンクの手法に関する提言を行い、国内外の議論の場
へのインプットを行う際の学術的な根拠を提供する。
分析手法としては、研究方法としては、応用一般均衡分析を用いた定量的な経済分析と、
企業サーベイによる実態調査から成り立っている。応用一般均衡分析を用いた分析では、
GTAPデータを用いた動学モデルを構築しつつ、その拡張を検討した。制度・実態調査は、
企業サーベイによる実態調査を行い、その分析を試みた。
本報告書の構成は以下の通りである。第1章は、各国の国内排出量取引制度の導入状況と
ともに、排出量取引の国際リンクの経済学的な意味づけを簡単な経済モデル(部分均衡)
のモデルを用いて説明した。同時に、国際リンクの制度的な留意点も含めて記した。
第2章では、排出量取引制度の定量的な経済分析をするための動学型・多地域応用一般均衡
モデルを構築し、同モデルを用いて、排出量取引の国際リンクがもたらす日本経済への影
響についてシミュレーション分析を行った。同時に、日本企業も活用しているクリーン開
発メカニズムがもたらす経済的な意義も分析した。さらに、応用一般均衡分析において、
業種分類を細分化することの意義及びその方法を、実例を用いて紹介した。
これらの分析を通じて、いわゆる「資本流出論」という批判が排出量取引の一側面を捉
えているにすぎず、各国制度の国際リンクやクリーン開発メカニズムが、日本経済全体、
及び産業にとって大きなメリットをもたらすことが示された。
第3章~5章では、日本企業にとって排出量取引がどういう現状にあるのかという視点か
ら調査・分析を行った。第3章では、上場企業に対して行ったアンケート調査に基づき、日
本企業が行っている温暖化対策の現状を報告した。第4章では、クリーン開発メカニズムや、
そこから生まれる排出枠を、日本企業がどのように利用しているかを、前章と同様の調査
から分析した。各国排出量取引制度のリンクが実現するためには、各国の排出枠が同質の
財として交換可能なことが前提となる。そのためのインフラとして重要となると考えられ
るのは、国際規格であるISO14064/65シリーズである。第5章ではその内容と現状を紹介した。
しかし、ISO14064/65シリーズは日本企業に於いてほとんど普及していないのが現状である。
そこで、これらISOシリーズ普及のための施策について計量経済学の手法を用いて分析を行
った。これらの分析からは、企業調査から、クリーン開発メカニズムの利用が一部の企業
にとどまっていることが明らかになった。同時に、排出量取引が、まだ十分に制度して認
識されていない可能性も浮かび上がった。さらに、CDMについていくつかの重要な点が明
らかになった。
43
第6章~8章では、応用一般均衡分析の拡張・補完のための分析が行われた。初めに、家
計における省エネルギー行動について分析を行った。第6章では、家計における省エネルギ
ー行動の調査から、省エネ情報と行動の分析がなされた。第7章では、家計の主観的割引率
の検討を通じて、省エネ家電購入の意思決定が分析された。第8章では、応用一般均衡分析
の技術進歩の内生化を検討するため、エネルギー価格が技術進歩に与える影響を実証分析
した。
これらの分析から、家計が省エネ行動のメリットを十分に理解しておらず、省エネ情報
の提供が重要であることが示された。また、省エネ家電購入促進策としては、単に電気に
炭素価格を付加するだけではなく、家電の購入補助金が有効であることが示唆された。応
用一般均衡分析の家計影響の解釈について留意が必要なことが示唆された。また、現状で
はエネルギー価格に対する技術進歩の程度が非常に小さく、動学モデルの技術進歩の内生
化は、現時点では必ずしも必要ないということが示唆された。
44
2. 排出量取引の国際リンク及びCDMの経済分析
2.1
はじめに
第1章での議論で示されたように、各国の排出量取引市場を国際的にリンクさせることで、
より低い負担で排出量の削減を実現できる可能性が高い。本章では、ポスト京都以降の中
期的な排出量削減策が行われている状況において、国際間のリンクを導入することで、ど
のような経済的影響が生じるかを応用一般均衡モデル(CGEモデル)によって定量的に分
析する。
分析には付録1で説明した12地域、22部門の動学的CGEモデルによるシミュレーションを
利用する。国際リンクの実施方法については、直接リンクと間接リンクの2つのケースを取
り上げる。直接リンクとは、Annex B地域(排出規制を導入する地域)間において共通の排
出枠市場を形成し、地域間で排出枠を取引できるようにする政策である。一方、間接リン
クは、Annex B地域が非Annex B地域からクリーン開発メカニズム(CDM)を通じて、CER
(Certified Emission Reduction)という形の排出枠を購入するという政策である 12。直接リン
ク、間接リンクとも、導入が検討されているといっても、どのような形で実現するかにつ
いてはまだ不明確な部分が多い。そこで、直接リンクについては参加国のパターン、間接
リンクについてはCER供給量について、複数のパターンを想定し分析している。また、間接
リンクについては、CDMが補助的な手段と位置づけられていることから、CER利用に制限
が課されるケースも分析している。
シミュレーションでは、ポスト京都から2020年に排出規制が導入される状況を想定し、
直接・間接リンクが導入された場合、どのような排出枠の価格、排出枠の取引量が実現す
るかを明らかにするとともに、日本の所得、GDP、個々の産業が受ける影響を分析する。
また、国際リンクの形成には、日本以外の地域がリンクから受ける影響も重要な要素とな
ることから、日本以外の地域に対する影響も分析している。
排出量取引の国際間リンクをCGEモデルによって分析した研究は既に数多く存在する。
例えば、Bernstein et al. (1999)、Böhringer (2002)、Böhringer and Rutherford (2010) は京都議定
書で決定された削減が行われる下で、国際間の排出量取引、CDMの導入が所得(あるいは、
GDP)、産業に与える効果を分析している。Russ et al. (2007)、OECD (2009)、Dellink et al. (2010)
は、ポスト京都以後の排出規制における同様の分析を行っている。また、爲近・伴 (2009) は
国際間の排出量取引、及びCDMの日本への影響を分析している。他にも多数の研究が行わ
れてきているが、その多くは欧米を主な分析対象としたものであるか、先進国全体を対象
としたものであり、国際リンクが日本にもたらす影響を、詳細に分析した研究は少ない。
爲近・伴 (2009) は日本への影響を分析しているが、1)静学モデルを利用している、2)分析
対象が京都議定書の削減策、3)ロシアのホットエアーと日本・中国間のCDMに分析の焦点
12
CDMの制度、現状については第4章を参照。
45
をおいているということから、我々の分析とは内容が大きく異なっている。
本章は以下のように構成される。まず、2.2、2.3においてシミュレーションにおけるシナリ
オを説明し、2.4から2.6で、シミュレーションの結果を提示する。さらに、2.7において細分
化したデータを利用したシミュレーション、及びシナリオを変更したシミュレーションを
おこなう。なお、モデルについては本書の付録1、実際の国際リンクの制度については第1
章、第4章等で詳細に扱われているので、そちらを参照して欲しい。
削減シナリオの設定
2.2
削減を行う地域
2.2.1
現在、世界の各国がそれぞれ独自の温室効果ガス削減の中期目標を設定している。シ
ミュレーションにおいてどの地域が削減を導入するかという設定には選択の余地があるが、
本章では、日本(JPN)、EU27(EUR)、米国(USA)、カナダ(CAN)、オーストラリ
ア・ニュージーランド(ANZ)、ロシア(RUS)の6地域が削減を行うと仮定する。中期削
減目標を設定している地域は、上記の 6 地域以外にもあるが、その他の削減地域の排出量
は少ないため、世界の排出枠市場の動向には影響を与えにくい。また、中国やインドなど
の急成長を遂げ排出量が急増している国々については、2020年までに大規模な排出削減策
が導入される可能性は低いと考えられる。以上の理由から、排出量の規模が大きく、かつ
中期的な削減にある程度積極的な姿勢を見せている6地域に限定することにした。厳密には、
以上の6地域以外にもAnnex Bに含まれる地域があるが(東欧諸国など)、以下では便宜上6
地域をAnnex B地域と呼ぶことにする。
削減率
2.2.2
上記のAnnex B地域はそれぞれ削減目標を設定しているが 13、条件付きで設定されてい
る場合が多く、目標削減率にはかなりの幅が存在している。その条件には、他の地域にお
いて相当の削減が行われるなら削減率を高めるというものが多い。以下では、Annex B地域
が同時に削減を行うというシナリオを分析するので、他の地域において相当の削減が行わ
れるという条件が満たされているものとし、各国が掲げている削減率のうちの最大値を選
択することにした。
13
各地域の削減目標については、UNFCCC(http://unfccc.int/meetings/copenhagen_dec_2009/items/5264.php)
を参照。
46
表2.1 シミュレーションにおける各地域の削減目標
地域
基準年
JPN
EUR
USA
CAN
ANZ
RUS
1990
1990
2005
2005
2000
1990
削減率
(基準年比,%)
25
30
17
17
25
25
削減率
(2020年比, %)
28
30
18
17
46
5
削減量
(2020年時点, MtCO2)
-304
-1,106
-1,037
-82
-208
-78
出所: 筆者作成.
表2.1の「削減率(基準年比)」が各国の削減率の最大値を選択したものである14。モデル
では、オーストラリアとニュージーランドを1地域(ANZ)に統合しているため、ANZの目
標削減率はオーストラリアの値を採用することにした。「削減率(2020年比)」は、IEOデ
ータのCO 2 排出量予測値を基に、基準年比の削減率を2020年比の削減率に変換したものであ
る 15。シミュレーションではこれを2020年におけるBAU(Business as Usual)均衡からの削
減率と設定している。また、「削減量(2020年時点)」は各地域が2020年時点のBAU均衡
のCO 2 排出量から削減しなければならないCO 2 の量を表している。
なお、RUSについては、1990年比25%削減+IEOの排出量予測の下では、2020年の排出量
が排出目標値よりも小さくなってしまう。つまり、2020年比の目標削減率がマイナスとな
ってしまう。目標削減率がマイナスになる場合には、ホットエアーという問題が生じてく
るが、ここではその問題は排除しておきたいため 16、(実際の削減目標よりは高くなるが)
RUSは2020年比で5%の削減を行うものと仮定している。基準年比の削減率の段階で既に地
域による差が大きいが、2020年比で比較するとさらに大きい差が生じる。このように大き
な差が生じる理由は、基準年比削減率に差があるのに加え、基準年から2020年までのCO 2
排出量増加率が地域によってかなり異なるためである。
表2.1の「削減 率(2020年比)」は2020年時点での削減率である。シミュレーションでは、
動学モデルを用いて2020年までの経済を描写することになる。よって、2020年の目標値に
向けての削減パスを設定する必要があるが、ここでは単純に、2020年時点の目標削減率を
達成するように、毎年一定率で削減率が上昇していくと仮定している。
2.3
国際リンクについてのシナリオ
リンクについてのシナリオは大きく分けて次の3つである。まず、排出量取引市場をリン
14
JPN、EUR等の地域の記号については付録1の付表1.1を参照。
IEOデータについては、付録1の1.2を参照。
16
ホットエアーが存在するとき、ホットエアー保有国、及び他の削減国がとる行動については様々なケー
スがありうる。この問題については、例えば、Böhringer (2002)、爲近・伴 (2009) で扱われている。
15
47
クせず、各国が自力で削減するシナリオである。これをシナリオNLKと呼ぶ。このシナリ
オでは、Annex B地域は削減義務を自国内での削減によって達成することになる。国際間で
の排出枠の取引がないため、各国における国内排出枠価格(限界削減費用)は均等化せず
に、差が生じることになる。
第2に、排出量取引市場を直接リンクさせるシナリオである。これは、Annex B地域間に
おいて共通の排出枠市場を創設し、排出枠の売買を可能とするシナリオである。共通の市
場が創出される結果、リンクに参加する国の間で排出枠価格が均等化し、限界削減費用も
等しくなる。最後に、CDMを通じた間接リンクのシナリオである。このシナリオは、Annex
B地域が非Annex B地域(非削減義務地域)からCERを購入することで、削減義務を達成す
るというケースである。以下、直接リンク、間接リンクのケースについて詳細に説明する。
2.3.1
直接リンクのシナリオ
直接リンクのケースでは、Annex B地域(JPN, EUR, USA, CAN, ANZ, RUS)間での排出量
取引を想定するが、国際間のリンクについては現段階ではどのような形で実現するのか明
確ではなく、さらにリンクの構築に積極的な国と消極的な国もあり、どの地域が参加する
かもはっきりしない。そこで、以下では、全てのAnnex B地域がリンクに参加するケースに
加えて、参加国のパターンについて複数のケースを想定する。分析するのは表2.2のDL1か
らDL5の5つのパターンである。まず、DL1では全てのAnnex B地域が参加する。他のパター
ンは不参加国があるケースで、DL2はUSAとCANが参加しないケース、DL3は EURが参加
しないケース、DL4はRUSが参加しないケース、最後のDL5はJPNが参加しないケースであ
る。以上のように、参加国の様々なパターンを考慮することで、参加国が変わることでリ
ンクの効果がどのように変わるかを分析することができる。
表2.2 リンクのシナリオ
シナリオ
直接リンク
CDMを通じた
間接リンク
説明
リンクなし
全てのAnnex Bが参加
USAとCANは不参加
EURが不参加
RUSが不参加
JPNが不参加
CER供給量が200MtCO2
CER供給量が400MtCO2
CER供給量が600MtCO2
CER供給量が800MtCO2
NLK
DL1
DL2
DL3
DL4
DL5
IL2
IL4
IL6
IL8
出所: 筆者作成.
48
2.3.2
間接リンクのシナリオ
直接リンクのケースでは、削減義務国であるAnnex B地域間でのリンクを想定している。
これに対し、間接リンクでは、CDMを通じてAnnex B地域が非Annex B地域からCERを購入
するという形でのリンクを分析する。CDMは次のようにモデルに導入される。まず、非Annex
B地域のCER供給量が外生的に設定される。その供給量に対し、Annex B地域のCERへの需
要が等しくなるように、
CERの取引価格が決定される。
Annex B地域がCERを購入した場合、
国内での削減を縮小できるが、購入量に応じてCER供給国に代金(CER価格×供給量)を支
払う必要がある。一方、CERの供給元地域は、CERを提供する代わりにその代金を受け取る
ことになる。
シミュレーションでは、CER供給量を外生的に設定しているが、今後CERがどの程度供給
されるかについては不確実な状況にある。そこで、間接リンクのシナリオでは、CER供給量
の設定によって複数のケースを想定する。想定するケースは表2.2のIL2からIL8の4つのケー
スである。また、CDMについては、第1章で説明したように、あくまで補助的な削減手段と
いう位置づけにあり、CERの利用に何らかの制限が課される可能性が高い。そこで、間接リ
ンクのシナリオでは、CER取得への制限を加えるケースも分析する。制限があるケースでは、
Annex B地域はその削減義務量の3割までしかCERを購入できないと仮定している。
CERの総供給量については複数のパターンを想定するが、シミュレーションでは非Annex
B地域における供給の内訳(供給シェア)も決定する必要がある。これは、UNFCCCの地域
別のCER供給のデータを用いて設定している 17。なお、リンクのパターンとしては、直接リ
ンクに加えて、間接リンクも行われるという状況も当然考えられるが、本章では、直接リ
ンクと間接リンクの特徴、違いを明確にしたいため、間接リンクのケースではAnnex B地域
間の直接リンクは行われないと仮定している。
IL2からIL8の200MtCO 2 から800MtCO 2 という供給量は2020年時点での値である。シミュレ
ーションでは、2020年におけるCER供給量の水準に向けて、2011年から定率でCER供給量が
増加していくという設定にしている。
2.4
リンクがないケースにおける排出枠価格
以下では、シミュレーションの結果を説明する。リンクの効果は、リンクがないケース
(各地域が独力で削減を行うケース)の状況によって大きく変わりうる。特に、リンクを
行う主な利点は、リンクしない状況において地域間で排出枠の価格(限界削減費用)に大
きな差が存在することであるので、まずリンクがない状況において、各国の排出枠価格に
どの程度の差が存在するかを確認しておこう。
17
http://cdm.unfccc.int/Statistics/Issuance/CERsIssuedByHostPartyPieChart.html(Date: 2011/08/10)。非Annex B
地域のCER供給シェアは、CHN=58%、KOR=11%、IND=15%、BRA=8%、ASI=2%、MEX=1%、OPC=0%、
ROW=5%となる。
49
図2.1 リンクなしのときの地域別排出枠価格(ドル/tCO 2 , 2020年時点)
出所: 筆者作成.
図2.1はリンクなしのときの、2020年時点における地域別の排出枠価格(ドル/トン)であ
る。ANZ、JPN、EURが高く、RUS、USA, CANが低いことが確認できる。最も高いANZと
最も低いRUSで約180ドルもの差があり、またJPNとUSAでも約67ドルの差がある。リンク
がなく独力で削減を行う状況では各国の排出枠価格(限界削減費用)に非常に大きな差が
生じることが分かる。これは、リンクをすることの潜在的な利益が大きいことを示唆して
いる。
このような大きな排出枠価格の差の一因は、地域間の削減率の差にある。実際、最も排
出枠価格の高いANZの削減率は46%で最も高く、排出枠価格が最も低いRUSの削減率も5%
で最も低い。ただし、削減率で見るとEURはJPNよりも高いが、排出枠価格は逆に日本の方
が20ドル近く高い。よって、削減率以外の地域間の特性の差も排出枠価格に差をもたらす
要因となっていることが分かる。
50
直接リンクの効果
2.5
排出枠取引量
2.5.1
表2.3は、直接リンクのケースにおける各国の排出枠輸入量を表している(2020年時点、
マイナスなら輸出量を表す)。リンクがある場合には、限界削減費用が高いANZ、JPN、EUR
が主な排出枠の輸入国となり、限界削減費用の低いRUS、USA 、CANが主な輸出国となる
ことが分かる。ただし、参加国が変わることで、若干そのパターンは変わってくる。例え
ば、DL3では最大の輸入国であるEURが不参加となるため、他のシナリオでは輸出国である
USAが輸入国に逆転している。また、輸出入のパターンは逆転しないとしても、参加国の
変化に伴い輸入量、輸出量は大きく変化する。例えば、DL2では輸出国であるUSA、CAN
が不参加であるため、別の輸出国であるRUSの輸出が増加するとともに、JPN、EURの輸入
量は減少する。以上のように、参加国が変わると、それが排出枠の需要と供給に影響を与
え、その結果、国際的な排出枠価格が変化するため、それ以外の国の排出枠取引量にも影
響が出てくる。
表2.3 排出枠の輸入量(MtCO 2 , 2020年時点)
地域
JPN
EUR
USA
CAN
ANZ
RUS
DL1
117
376
-148
-26
96
-416
DL2
96
285
0
0
84
-465
DL3
150
0
69
-5
114
-328
DL4
85
235
-353
-46
79
0
DL5
0
411
-96
-21
100
-395
出所: 筆者作成.
2.5.2
国内削減率と排出枠価格
表2.4は直接リンクによる日本への影響をまとめている。以下、表の数値は基本的に2020
年時点での数値を表している。まず、「CO 2 削減率(%)」は国内で実際に削減する率、「排
出枠価格」は国内の排出枠価格(ドル/トン)を表している。日本がリンクに参加するDL1
からDL4では国内排出枠価格=国際間での排出枠価格であるが、DL5では国内排出枠価格は
国際間の排出枠価格とずれが生じる。「排出枠輸入量(MtCO 2 )」は、リンクに参加する
状況での日本の排出枠の輸入量を表している。日本は基本的に輸入国となるので、全てプ
ラスの値となる。リンクに参加しないNLK、及び DL5では輸入量はゼロとなる。この輸入量
に排出枠価格を掛け合わせた額が排出枠購入に伴い海外に支払う代金に等しくなる。
「所得」、「GDP」はそれぞれ所得とGDPの2020年時点でのBAUからの変化率を表して
いる 18。また、参考のため、消費、投資、輸出、輸入、雇用への効果も掲載している19。こ
18
厳密には、所得の変化率は「100×等価変分/BAUにおける所得」と定義されている。この所得の変化率は
51
れらも全て2020年でのBAU値からの変化率(%)である。
表2.4より、リンクに参加することで国内での削減率が大幅に縮小するとともに、国内排
出枠価格が大幅に低下することが分かる。本来の削減義務率はリンクなしのケース(NLK)
の28%という値であるが、例えば、全てのAnnex B地域がリンクに参加するDL1では、削減
率は17%に11ポイント程度低下する。これは削減義務の11%分は排出枠の購入によって達
成するということであり、割合で示すと削減義務量の4割近くを排出枠の購入でまかなうと
いうことになる。DL3では排出枠輸入国であるEURが参加しないため、その分日本の排出枠
購入量が増加し、DL1よりも国内削減率は低下し、14%とリンクしないケースのほぼ半分と
なる。DL2、DL4では本来排出枠の輸出国であるUSA、RUSが参加しないため逆に日本の排
出枠購入は減少し、国内削減率は上昇する。
リンクに参加することで、国内削減が縮小するのに伴い国内排出枠価格は大幅に低下す
る。リンクなしのときの95ドルに対し、最も低いDL3では25ドルになり、リンクなしの1/4
程度にまで低下する。DL1でも35ドルと、1/3程度に低下する。排出枠価格(限界削減費用)
が大きく低下することから、リンクへの参加によって日本に多大な利益が生じる可能性を
示唆している。なお、日本のみがリンクに参加しないケース(DL5)では日本の排出枠価格
はほとんどNLKと変わらない。これは、日本以外の国がリンクを行うことの日本へのスピ
ルオーバーの効果は小さいことを示唆している。
表2.4 直接リンクの日本に対する影響
NLK
CO2削減率
28
排出枠価格(ドル/トン) 95
排出枠輸入量(MtCO2)
0
-0.29
所得
GDP
-0.72
-0.84
消費
-0.49
投資
-2.98
輸出
-2.40
輸入
-0.57
雇用
DL1
17
35
117
-0.15
-0.24
-0.37
-0.25
-0.92
-1.25
-0.19
DL2
19
43
96
-0.18
-0.30
-0.45
-0.29
-1.18
-1.44
-0.23
DL3
14
25
150
-0.12
-0.16
-0.28
-0.19
-0.67
-1.05
-0.13
DL4
20
47
85
-0.20
-0.33
-0.49
-0.32
-1.31
-1.59
-0.26
DL5
28
94
0
-0.30
-0.72
-0.84
-0.51
-2.92
-2.33
-0.57
注) 特に単位を明記していない数値はベンチマークからの変化率(%).
出所: 筆者作成.
2.5.3
所得と GDP への効果
次に、日本全体への効果を表す変数として、所得とGDPへの効果を見てみよう。NLKで
モデル上では代表的家計の効用水準の変化率に等しいため、厚生の変化率と解釈できる。
19
雇用は均衡における労働供給量=需要量を指している。
52
は所得とGDPはそれぞれ0.29%、0.72%減少する。このマイナスの効果がリンクへの参加で
どれだけ軽減されるかが問題である。まず、所得への効果であるが、リンクなしと比較し、
全てのAnnex B地域がリンクに参加するDL1ではマイナス効果は半分程度に縮小する。さら
に、DL1より国内削減率が小さいDL3ではマイナス効果は一層縮小し、4割程度になる。一
方、DL1より国内削減率が大きくなるDL2とDL4ではDL1よりもマイナス効果は若干拡大す
る。ただし、それでもNLKよりは4割程度縮小する。
GDPへの効果については、シナリオ間の差が所得への効果と比較し大きいという違いを
除けば、ほぼ同じような動きを示している。リンクがないケース(NLK)の0.72%のマイナ
スに対し、DL1では0.24%のマイナスと1/3程度に縮小し、DL3ではさらにマイナス効果が縮
小しほぼ1/5となる。以上の結果が示すように、リンクへの参加は日本が排出規制から受け
るマイナスの効果を大幅に軽減してくれる。どの国がリンクに参加するかどうかで負担軽
減の幅は変わってくるが、最も軽減の幅が小さいケースでも、所得については4割程度、GDP
については5割程度の負担が軽減される。なお、DL5はNLKとほぼ同じである。これは、日
本がリンクに参加していないときに他の地域がリンクを形成する状況と全くリンクがない
状況とが、日本にとっては同じであることを意味している。
2.5.4
EITE 部門への効果
以上、日本全体への影響を見てきたが、次に部門別の影響を確認しておこう。排出規制
を導入した場合、エネルギー集約的、かつ海外との競争にさらされている部門(エネルギ
ー集約貿易財部門、EITE部門 9)が強いマイナスの影響を受けるといわれている。そこで、
日本のEITE部門の生産量への効果を確認しみよう。表2.5は、EITE部門の生産量の2020年時
点でのBAU値からの変化率を表している 10。まず、リンクなしのときにはEITE全体で4.5%
の生産の減少がある。特に鉄鋼部門(I_S)へのマイナスは極めて大きい。それが、リンク
への参加によって大幅に緩和される傾向が観察できる。鉄鋼部門の生産はNLKで14.3%の減
少であるのが、DL1で5.6%の減少、DL3では4%の減少とほぼ10%ポイントも小さくなる。
他の部門については絶対値としては鉄鋼部門ほど大きくはないが、やはりリンクへの参加
でマイナスを半減できていることが多い。以上より、リンクへの参加は、全体としてマイ
ナスの効果を小さくするだけではなく、各部門へのマイナスの効果を大幅に軽減してくれ
ることが分かる。日本では、CO 2 の排出規制に対して、産業界、その中でもエネルギー集約
的で、かつ海外との競争にさらされている鉄鋼部門からの反対の声が根強い。実際、シナ
リオNLKが示すように、鉄鋼部門にはかなりのマイナスの影響が予測されるが、本章の分
析は、そのマイナスの効果は排出規制の導入とともに排出量取引のリンクを構築すること
で大幅に縮小されることを示唆している 20。
9
Energy-intensive trade-exposed sector(エネルギー集約貿易財部門)の略。
10
部門の記号については付録1のモデルの説明を参照。
20
排出規制によりEITE部門が強いマイナスの影響を受けるという問題は、地球温暖化対策の議論において
53
表2.5 直接リンクのEITE部門の生産量への効果(BAU値からの変化率, %)
FSH
OMN
PPP
CRP
NMM
NFM
I_S
EITE
NLK
-2.3
-1.1
-0.7
-2.5
-1.9
-0.1
-14.3
-4.5
DL1
-0.9
-0.4
-0.2
-0.7
-0.7
0.6
-5.6
-1.6
DL2
-1.1
-0.5
-0.3
-0.9
-0.8
0.3
-6.7
-2.0
DL3
-0.7
-0.3
-0.2
-0.4
-0.3
0.6
-4.0
-1.1
DL4
-1.2
-0.5
-0.3
-1.0
-0.9
0.9
-8.0
-2.3
DL5
-2.3
-1.0
-0.7
-2.4
-2.0
-0.8
-14.1
-4.6
出所: 筆者作成.
2.5.5
他の Annex B 地域への効果
日本にとってはリンクへの参加が望ましいことが分かったが、国際間のリンクが実際に
構築されるには、日本だけではなく他の地域も同様に利益を得る状況が実現しなければな
らない。そこで、以下では日本以外の参加国がリンクによって利益を得るかどうかを確認
する。ここまで、リンクにより利益が生じるかどうかを主に所得、GDPという観点から見
てきたので、ここでもその2つの数値で確認しよう。
表2.6は、リンクがあるケースにおける所得(GDP)の変化率とリンクがないケース(NLK)
における日本を除いたAnnex B地域の所得(GDP)の変化率の差をとったものであり、数値
が正であると、リンクに参加している方が排出規制の所得(GDP)へのマイナス効果が小
さいということを示している。リンクへの参加国が利益を得るかどうかを確認したいので、
リンクへの不参加国の部分は除去してある(DL2のUSA、CAN等)。
重要な論点となっており、様々な対策が研究されている。例えば、武田他 (2010)、Takeda et al. (2011) は、
産出量に基づく排出枠の無償配分(OBA)による対策を分析し、武田他 (2011) は、国境調整措置による
対策を分析している。
54
表2.6 直接リンクの他国への効果
所得
GDP
地域
EUR
USA
CAN
ANZ
RUS
EUR
USA
CAN
ANZ
RUS
DL1
0.11
0.00
0.04
0.78
1.29
0.31
-0.08
-0.13
1.38
-2.03
DL2
0.08
∗
∗
0.68
1.86
0.25
∗
∗
1.30
-2.50
DL3
∗
0.00
0.02
0.87
0.64
∗
0.03
-0.03
1.49
-1.42
DL4
0.07
0.02
0.04
0.62
∗
0.22
-0.22
-0.25
1.25
∗
注) 「*」のセルはリンクへの不参加国を表している.
出所: 筆者作成.
所得については全ての数値が正になっている、つまりリンクへの参加国はリンクがない
ケースよりも常に得をしていることが確認できる。日本以外の地域に関しても、所得への
影響という意味では、やはりリンクの構築によって利益を得ることが分かる。一方、GDP
への効果については所得とは話が変わってくる。表が示すように、リンクに参加している
ケースの方がGDPへのマイナス効果が大きくなる状況が多々ある。特に、USA、CAN、RUS
についてはほとんどのケースにおいてリンクに参加した方がGDPのマイナス効果は拡大し
ている。これは直接的な排出量取引という政策の性質からして当然の結果である。
直接的な排出量取引という仕組みは、限界削減費用が高い国は自分で削減するのではな
く排出枠を輸入し、限界削減費用が低い国は削減量を増やし排出枠を輸出することで、双
方にとって得になるという仕組みである。この「得になる」というのは、「所得(厚生)」
という意味であり、生産が増加するという意味ではない。排出枠輸入国は、排出枠を輸入
することで削減量を減らせるので、所得も生産も増加させることができるが、排出枠輸出
国は、生産を減少させ削減量を増加させることにより排出枠を輸出するため、所得は増加
するとしても生産は逆に減少することになる。このため、上のような結果となるのである。
排出規制一般では、所得が増加すればGDPも増加するというように所得とGDPが同方向
の影響を受けることが多いが、以上のように、国際間の排出量取引の場合には、所得とGDP
が逆方向に動くことが出てくる。所得の上昇を政策目的の優先事項とするなら、直接リン
クは全ての参加国にとってプラスになる可能性が高いが、GDPという側面では必ずしもリ
ンクでプラスの効果を得るわけではない(排出枠輸出国ではむしろGDPは減少する可能性
が高い)ということには注意する必要がある 21。
21
ここでは排出枠の輸出入はGDPの計算には輸出入に含んでいない。仮に、排出枠の輸出入を通常の財・
サービスの輸出入と同等に扱うとするなら、以上の議論には修正が必要になる。
55
2.6
間接リンクの効果
次に、CDMを通じた間接リンクの効果を検討する。間接リンクでは、CER利用への制限
がないケースとあるケースを比較しながら説明することにする。
2.6.1
CER 取引量
まず、間接リンクの下での、CERの取引量を見てみよう。図2.2はAnnex B地域におけるCER
購入量を表している。CER利用に対する制限がないケースでは、CER供給量が200MtCO 2 か
ら800MtCO 2 に増加していくに応じて、Annex B地域の購入量も増加していく。ただし、購
入する地域は主にEUR、JPN、ANZである。この3地域が主な購入国であるのは、その限界
削減費用の非常に高いためである。特に、EURは規模が大きいこともあり購入量が際だっ
て多い。USAは規模に関してはEURよりも大きいが、限界削減費用が低いこともありほと
んど購入しない。
図2.2 間接リンクにおけるクレジット購入量(2020年時点, MtCO 2 )
500
制限なし
制限あり
400
JPN
EUR
300
USA
CAN
200
ANZ
RUS
100
0
IL2
IL4
IL6
IL2
IL8
IL4
IL6
IL8
出所: 筆者作成.
CER購入に制限があるケースでも、EUR、JPN、ANZが主な購入国であるのは同じである。
しかし、CER供給量が増加するにつれ、これら3つの地域においてCER取得制限がbindingに
なる(ANZはIL4、JPNとEURはIL6でCER取得制限に達する)。このため、他の地域もCER
をそれなりに購入するようになる。USAのCER購入量は、制限なしの場合、IL8でたった
44MtCO 2 にすぎないが、制限があるケースでは300MtCO 2 に大幅に増加する。以上の結果は、
CERの取得制限があるかどうかによって、各国の購入量が大きく変わりうることを示してい
る。
2.6.2
国内削減率と排出枠価格
表2.7は間接リンクが日本に対してもたらす効果を表している。表2.4と同じ項目は表2.4
と同じ意味である。「CER利用の上限(MtCO 2 )」は日本のCER購入の上限値(削減義務量
56
の3割)であり、「CER価格」は世界におけるCERの価格である。また、CERプレミアムは
国内排出枠価格とCER価格の乖離を表している。CER取得制限がbindingではなければCER
価格=国内排出枠価格となるためCERプレミアムはゼロであるが、CER利用の制限がbinding
になるとCERプレミアムは正の値をとる 。「CER購入量(MtCO 2 )」は日本のCER購入量で
ある。表より、CER価格はCER供給が増加するにつれ低下していくことが分かる。制限なし
のケースでは、IL2で64ドル、IL8で26ドルまで低下する。制限ありのケースではCERへの需
要が抑制されるため、制限なしのケースよりCER価格は全般的に低下することになる。
次に、日本の国内削減率であるが、制限なしのケースでは、CER供給量が増加するほど、
CER購入量が増加し、国内削減率が小さくなる。IL8のケースでは、NLKと比較し国内削減
率はほぼ半減となる。国内削減率が低下するのに伴い国内排出枠価格も低下していく。IL2
でも約30ドル低下し、IL8では約70ドルも低下する。CER購入に制限がないため、CERプレ
ミアム(=国内排出枠価格-CER価格)は常にゼロである。
一方、制限ありのケースでは、IL4で制限がほぼbindingになるので、IL4からIL8で国内削
減率は20 %で変わらなくなる。国内排出枠価格もIL6までは低下するが、それ以降は変わら
ない。IL6からIL8で排出枠価格が変わらないのに対し、CER価格は低下しているので、その
分CERプレミアムが上昇していることになる。
表2.7 間接リンクの日本への影響
NLK
CO2削減率(%)
排出枠価格(ドル/トン)
排出枠輸入量(MtCO2)
CER利用の上限(MtCO2)
CER価格(ドル/トン)
CERプレミアム(ドル/トン)
CER購入量(MtCO2)
所得
GDP
消費
投資
輸出
輸入
雇用
28
95
-0.29
-0.72
-0.84
-0.49
-2.98
-2.40
-0.57
IL2
23
64
64
0
50
-0.24
-0.47
-0.63
-0.39
-1.89
-1.94
-0.36
制限なし
IL4
IL6
20
17
47
34
47
0
85
-0.20
-0.33
-0.49
-0.31
-1.33
-1.59
-0.26
34
0
119
-0.15
-0.23
-0.37
-0.25
-0.92
-1.27
-0.18
IL8
15
26
IL2
23
64
26
0
146
-0.12
-0.17
-0.29
-0.20
-0.67
-1.04
-0.13
91
64
0
50
-0.24
-0.47
-0.63
-0.39
-1.89
-1.94
-0.36
制限あり
IL4
IL6
20
20
46
44
91
46
0
88
-0.19
-0.32
-0.48
-0.31
-1.29
-1.56
-0.25
91
23
21
91
-0.16
-0.33
-0.43
-0.26
-1.45
-1.44
-0.27
IL8
20
44
91
16
28
91
-0.15
-0.33
-0.42
-0.25
-1.51
-1.42
-0.28
注1) 特に単位を明記していない数値はベンチマークからの変化率(%).
注2) 間接リンクでは直接の排出枠購入はないので空欄にしてある.
出所: 筆者作成.
2.6.3
所得と GDP への効果
制限なしのケースでは、国内削減率の低下に伴い所得の低下率は縮小する。NLKの0.29%
57
の減少に対し、IL8では0.12%の減少と低下率は半分以下に縮小する。GDPについても、同
様の結果が成り立つ。NLKでの0.72%の減少に対し、IL8では0.17%の減少とほぼ1/4の大きさ
になる。直接リンクと間接リンクで、想定がかなり違うため直接の比較は難しいが、IL6の
ケースが直接リンクにおけるDL1のケースとだいたい同じような効果をもたらしているこ
とが分かる。
制限ありのケースでも、IL2からIL4ではCER購入制限がbindingにならないので、制限なし
のケースとほぼ同じとなる。ただし、IL4では制限なしのケースと若干違う数値を示してい
る。これは他の国(ANZ)において制約がbindingになり、それが日本に対する効果に若干
の影響を与えることになるためである。IL4からIL8でCER購入量、国内削減率、国内排出枠
価格はほとんど変わらないが、IL4からIL8で所得のマイナス効果は縮小する。これは、IL4
からIL8でCER価格が低下し、海外への支払いが少なくなるためである。特に、IL4からIL6
ではCER価格が大きく低下するため所得への効果もそれに応じて小さくなる。
GDPへの効果についても、IL4まではCER供給量の増加に伴いマイナス効果は縮小してい
る。GDPへの効果はNLKの0.72%に対しIL4では0.32%と半分以下に縮小する。これは所得へ
の効果と同様であるが、IL6、IL8では逆にGDPへのマイナス効果はほんのわずかではあるが
拡大する。これは以下の理由による。日本はIL4で制約がほぼbindingとなり、それ以上国内
削減率を下げることができないが、他のAnnex B地域は日本が購入しない代わりに購入する
ようになる(図2.2を参照)。他の国がCERを購入するようになれば、その国では国内削減
率が低下し、生産が増加することになる。これは日本の輸出を減少させ、日本のGDPに低
下圧力をもたらすことになる。これが、IL6、IL8で日本のGDPが若干悪化する理由である。
2.6.4
EITE 部門への効果
間接リンクについても、直接リンクのケースと同様に、EITE部門の生産への効果を見て
おこう。表2.8は、間接リンクのケースにおけるEITE部門の生産量への効果を表している。
CER供給(購入)の増加に伴いEITE部門へのマイナス効果は大きく縮小することが分かる。
NLKの4.5%の生産減少に対し、制限がないケースではIL8で1.3%の減少とマイナス効果は1/3
以下に縮小する。特に、鉄鋼業へのマイナス効果の縮小は非常に大きい。制限ありのケー
スでは、IL4からIL6でマイナス効果はほとんど変わらず、IL6からIL8で若干拡大する。マイ
ナス効果が拡大するのは、GDPのマイナス効果が拡大するのと同様の理由である。CERの供
給量、CER購入への制限によって結果は大きく変わるが、いずれにせよ間接リンクへの参加
により、EITE部門へのマイナス効果も大きく軽減できる可能性が高いことを示唆している。
58
表2.8 間接リンクのEITE部門の生産量への効果(BAU値からの変化率, %)
NLK
FSH
OMN
PPP
CRP
NMM
NFM
I_S
EITE
-2.3
-1.1
-0.7
-2.5
-1.9
-0.1
-14.3
-4.5
IL2
-1.6
-0.7
-0.4
-1.5
-1.3
0.1
-10.3
-3.2
制限なし
IL4
IL6
-1.2
-0.9
-0.5
-0.4
-0.3
-0.2
-1.1
-0.7
-0.9
-0.6
0.4
0.5
-7.9
-5.9
-2.4
-1.7
IL8
-0.7
-0.3
-0.2
-0.5
-0.5
0.5
-4.6
-1.3
IL2
-1.6
-0.7
-0.4
-1.5
-1.3
0.1
-10.3
-3.2
制限有り
IL4
IL6
-1.2
-1.1
-0.5
-0.5
-0.3
-0.3
-1.1
-1.1
-0.9
-0.9
0.5
0.3
-7.7
-7.6
-2.3
-2.3
IL8
-1.1
-0.5
-0.3
-1.2
-1.0
0.0
-7.6
-2.4
出所: 筆者作成.
2.7
データとシナリオの変更
この節では、ここまでの分析を2つの点において拡張したシミュレーションを行う。第1
に、元のデータにおける部門を細分化したデータを用いてシミュレーションを行う。第2に、
これまでは全ての部門が排出量取引の規制対象であったが、一部の部門のみ排出量取引の
対象となるケースを分析する。
2.7.1
部門を細分化したデータによるシミュレーション
前節までのシミュレーションではGTAP7.1データをベンチマークデータとして利用して
いる。GTAPデータは、多地域のCGEモデルにおける標準的なデータとなっており、温暖化
対策を分析する多地域CGEモデルはほぼ全てがGTAPデータを利用しているといってよい。
しかし、GTAPデータには問題もある。その1つが、部門、財の分類が粗いという点である。
GTAPデータは元々貿易政策の分析を目的に作成されたこともあり、農産物については非常
に分類が細かいが、温暖化対策の分析において重要な意味を持つ、エネルギー集約産業の
分類が非常に粗い。
そこで以下では、エネルギー集約部門のうち、非鉄金属(NFM)と非金属鉱物(NMM)
の2つの部門を細分化したデータを用いて、シミュレーションを行う。非鉄金属は「アルミ
ニウム」と「その他の非鉄金属」、非金属鉱物は「セメント」と「その他の非金属鉱物」
に分割する。ここで利用するデータの作成方法については、付録2において詳細に説明され
ているのでそちらを参照して欲しい。
モデルの骨格については前節までと基本的に同じであるが、部門を細分化したデータに
合わせるため、部門の分類、地域の分類などを若干変更している。また、それに伴い労働
人口成長率や技術進歩率なども調整している。以下では、シナリオとしては直接リンクの
みをとりあげる。
59
シミュレーション結果
表2.9 直接リンクの日本に対する影響(細分化したデータによる分析)
CO2削減率(%)
排出権価格(ドル/トン)
排出権輸入量(MtCO2)
所得
GDP
消費
投資
輸出
輸入
労働供給
NKL
28
129
0
-0.27
-0.68
-0.68
-0.82
-2.40
-2.00
-0.60
DL1
12
26
120
-0.09
-0.11
-0.19
-0.22
-0.33
-0.72
-0.11
DL2
13
32
108
-0.11
-0.14
-0.23
-0.26
-0.42
-0.83
-0.13
DL3
10
21
132
-0.08
-0.09
-0.17
-0.19
-0.27
-0.65
-0.09
DL4
14
35
102
-0.12
-0.16
-0.25
-0.29
-0.49
-0.93
-0.15
DL5
28
129
0
-0.27
-0.68
-0.68
-0.83
-2.38
-1.96
-0.60
注) 特に単位を明記していない数値はベンチマークからの変化率(%).
出所: 筆者作成.
表2.9は直接リンクをおこなったときの結果である。データやパラメータの設定が変わっ
ていることもあり、2.5の結果とは全体的に変わっている。特に、リンクした際の影響につ
いては全体的にプラスの効果が大きくなっている。これもあり、リンクすることの利益は
2.5のケースよりもさらに大きくなっている。
表2.10 直接リンクの細分化した部門に対する影響
NLK
DL1
DL2
DL3
DL4
DL5
CLP
-1.56
-0.34
-0.42
-0.26
-0.45
-1.57
OMP
-4.83
-0.68
-0.95
-0.34
-0.98
-5.01
NMM
-2.69
-0.46
-0.60
-0.29
-0.63
-2.77
ALM
0.65
1.41
1.39
1.81
1.81
-1.18
ONF
-1.38
0.10
0.05
0.16
-0.01
-1.71
NFM
-0.93
0.39
0.35
0.52
0.39
-1.60
注) ベンチマークからの変化率(%).
出所: 筆者作成.
部門の細分化をすることの最も大きなメリットは、個々の部門への影響をより詳細に分
析できるという点である。そこで以下では細分化された部門に対する影響を確認する。表
2.10は、2020年時点における、日本の細分化した部門の生産に対する影響を表している。CLP
は「セメント」、OMPは「その他の非金属鉱物」、ALMは「アルミニウム」、ONFは「そ
の他の非鉄金属」であり、MNNはCLP、OMP全体としての影響、NFMはALM、ONF全体と
60
しての影響である。
まず、細分化していないデータに基づく表2.5の結果とはNMM、NFMに対する効果がかな
り違うことが分かる。細分化したデータと細分化しないデータで個々の部門に対する影響
がかなり変わってくることになる。さらに、細分化によって分離された部門を見ると、同
じタイプの部門であっても影響が大きく違うことが分かる。例えば、NMMに統合されてい
たCLPとOMPでは、OMPの方がマイナス効果がかなり大きい。同様に、NFMに統合されて
いたALMとONFでは、ONFの方へのマイナス効果が大きい(あるいは、ALMへのプラスの
効果が大きい)。このように、同じ非鉄金属部門、非金属鉱物部門であっても、その中の
個々の部門に対する影響は大きく違うことが分かる。GTAPデータは標準的なデータとなっ
ているが、その部門分類に基づく分析によって個々の部門への影響を見る際には注意を払
う必要がある。
2.7.2
一部の部門のみ排出量取引の対象となるケース
前節までは全ての部門が排出規制の対象となると仮定していた。しかし、実際には全て
の部門を規制対象とするのではなく、一部の部門のみを対象にする可能性が高い。これま
で導入されている排出量取引制度(例えば、EU-ETS)でも一部の部門のみが対象になって
いる。以下では、一部の部門のみが排出規制の対象となっている状況での国際リンクの分
析を行う。
シナリオ
一部の部門のみを排出量取引の対象とする場合には、CO 2 排出量の多いエネルギー集約的
な部門を対象とするというケースが多い。よって以下では、規制対象として次の2つのパタ
ーンを考える。1つはエネルギー集約部門(EITE部門、電力部門、石油石炭部門)のみを対
象とするケース(シナリオEI)、もう 1つはEITE部門のみを対象とするケース(シナリオEITE)
である。
排出量取引の対象とならない部門、及び家計はなんら排出量に対する制約を負わないと
仮定する。また、各国の規制対象の部門は2.2.2の削減率だけBAUから排出量を削減すると
仮定する。例えば、EITE部門のみが対象のケースでは、日本のEITE部門は28%、EU27のEITE
部門は30%だけBAUの排出量から削減を行う。非規制対象の部門はなんら削減をおこなわ
ないため、全体としての削減量は前節のシミュレーションよりは少なくなることになる。
前節までは直接リンクだけでなく、間接リンクも分析したが、ここでは直接リンクのケー
スだけ取り上げる。また、直接リンクにおいては、規制対象部門のみがリンクを行うと仮
定している。その他の部分については、全て前節までの想定と同じである。
61
シミュレーション結果
表2.11 直接リンクの日本に対する影響、シナリオEI
CO2削減率(%)
排出権価格(ドル/トン)
排出権輸入量(MtCO2)
所得
GDP
消費
投資
輸出
輸入
労働供給
NKL
16
48
0
-0.07
-0.20
-0.20
-0.24
-1.21
-1.06
-0.20
DL1
9
18
543
-0.04
-0.07
-0.09
-0.11
-0.40
-0.49
-0.07
DL2
11
22
530
-0.05
-0.09
-0.11
-0.14
-0.51
-0.59
-0.09
DL3
8
14
557
-0.03
-0.05
-0.07
-0.09
-0.30
-0.40
-0.06
DL4
11
23
527
-0.05
-0.09
-0.11
-0.14
-0.52
-0.62
-0.09
DL5
16
48
0
-0.08
-0.20
-0.20
-0.25
-1.21
-1.08
-0.20
注) 特に単位を明記していない数値はベンチマークからの変化率(%).
出所: 筆者作成.
まず表2.11は、EITE部門、電力部門、石油石炭部門のみを規制対象としたケース(シナリ
オEI)の結果を表している。全ての部門が規制対象のケースでは、日本のCO 2 削減率はNLK
のとき28%であったが、ここではエネルギー集約部門のみが28%を削減するので、全体と
しての削減量は16%にしかならない。
全部門が対象のケースと比較し、全体として、排出規制の負担はリンクがない場合でも
ある場合でも小さくなっている。リンクがあるときには、所得のマイナスの効果は3~6割
軽減され、GDPのマイナス効果は5~7割軽減されている。エネルギー集約部門のみが規制
対象であるケースでも、全部門が対象のときと同様に、リンクは規制の負担を大きく縮小
する効果を持つことが確認できる。
62
表2.12 直接リンクの日本に対する影響、シナリオEITE
CO2削減率(%)
排出権価格(ドル/トン)
排出権輸入量(MtCO2)
所得
GDP
消費
投資
輸出
輸入
労働供給
NKL
8
63
0
-0.04
-0.14
-0.05
-0.25
-1.01
-0.72
-0.12
DL1
6
36
812
-0.03
-0.08
-0.04
-0.16
-0.57
-0.45
-0.07
DL2
6
35
814
-0.03
-0.08
-0.03
-0.16
-0.55
-0.44
-0.07
DL3
6
34
815
-0.03
-0.08
-0.03
-0.15
-0.53
-0.42
-0.06
DL4
7
47
803
-0.03
-0.11
-0.05
-0.21
-0.76
-0.60
-0.09
DL5
8
63
0
-0.04
-0.14
-0.06
-0.26
-1.01
-0.76
-0.12
注) 特に単位を明記していない数値はベンチマークからの変化率(%).
出所: 筆者作成.
表2.12はEITE部門のみを規制対象としたケースの結果である。さらに、規制対象部門が減
ったことにより全体としてのCO 2 削減率はNLKのケースで8%まで低下する。このため、排
出規制の負担はさらに小さくなっているが、リンクが持つ効果については、全部門対象、
エネルギー集約部門のみが対象のケースと同じである。
以上より、規制対象部門を一部に限定するような状況であっても、国際リンク(直接リ
ンク)が規制の負担を大幅に軽減する効果を持つということが確認できる。
2.8
おわりに
本章では、ポスト京都の削減が行われる状況において、排出量取引の国際リンクが導入
されることの影響を、CGEモデルを利用して分析してきた。2011年以降にAnnex B地域が削
減策を導入するという想定の下、各地域が独力で削減を行うケース、Annex B地域間で排出
量取引が行われるケース(直接リンク)、Annex B地域が非Annex B地域からCERを購入す
るケース(間接リンク)の3パターンを分析した。
主な分析の結果は次のようにまとめられる。まず、直接リンクに参加することで、日本
は排出規制による所得、GDPへのマイナス効果を大きく軽減できることが示された(所得
については3割から6割軽減され、GDPについては5割から8割軽減された)。また、全体と
しての負担が軽減されるだけでなく、EITE部門(特に、鉄鋼部門)へのマイナス効果も大
きく縮小することとなった。さらに、リンク参加国が変わることの影響としては、EU27が
参加しないことは日本に利益をもたらし、米国、ロシアが参加しないことは逆に損失をも
たらすという結果となった。日本以外のAnnex B地域に対する影響としては、所得という観
点では、他のAnnex B地域も日本と同様リンクへの参加で利益を得るが、排出枠輸出国(米
63
国、カナダ、ロシア)ではGDPに対するマイナス効果が拡大するということが示された。
一方、間接リンクについては以下のような結果が得られた。まず、CER利用に制限がない
ケースでは、CER供給量の増加に伴い、所得、GDPの両面で日本はプラスの効果を受けるこ
ととなった。また、EITE部門へのマイナス効果も、直接リンクのケースと同様、大幅に縮
小する結果が観察された。一方、CER利用に制限があるケースでは、日本はCER供給量が
400MtCO 2 の段階でほぼ利用制限に達してしまい、それ以上CER供給量が増加しても国内削
減率を低下させることができない。ただし、CER利用が制限に達した後も、CER供給が増加
するにつれ、所得面では日本はプラスの効果を得る。これは CER価格が低下し海外への支払
いが減少するためである。一方、GDPについては、CER利用がbindingになった以降は、CER
供給量の増加からマイナスの影響を受けることになった。これは他のAnnex B地域が日本に
代わりCERを購入することで生産を増加させ、日本の輸出を押し下げる効果を持つためであ
る。
最後に本章の分析が示唆する政策インプリケーションについて述べておく。現在、本格
的な地球温暖化対策の必要性が幅広く認識されるようになったにもかかわらず、先進国に
おいてさえその導入は遅々として進んでいない。その主な理由は、排出規制により経済に
新たな負担が生じることへの懸念にあると考えられる。確かに、本章のシミュレーション
でも、排出規制の導入により、EITE部門の生産は大きく減少し、さらに国全体としても所
得、GDPにマイナスの影響が出ることが示されている。しかし、本章の分析は排出規制の
強化とともに、国際リンクを構築することでその負担を大きく軽減できる可能性が高いと
いうことを同時に示している。この結果は、効率的な形で排出規制を行っていくには、各
国が独自に排出量取引制度を導入するだけではなく、同時にその排出量取引制度を国際間
でリンクさせることを検討していくべきであることを示唆している。
さらに本章の分析は、どのような国がリンクに参加するかで、日本への影響が変わって
くることを示した。例えば、直接リンクのケースでは、EU27の参加は日本にとって不利益
となり、米国、カナダ、ロシアの参加は日本にとって利益になるという結果が出た。これ
は、日本の立場から考えた場合、必ずしも多くの国がリンクに参加することが望ましいわ
けではないということを意味している。よって、日本の利益を高めるには、リンクへの参
加を促すべき国と促すべきではない国を適切に判断していく必要がある。
また、2.6の分析では、CDMの利用に制限を設けないケースの方が、制限を設けるケース
よりも、負担がより軽減されることが示された。CDMの利用に制限を設けるという考え方
には様々な理由があり、その善し悪しを単純には論じることはできないが、本章の分析は、
少なくとも負担の大きさという観点からは、制限の設定は望ましくないということを示し
ている。
リンクを形成するにはリンクが参加国全てに利益をもたらす必要がある。日本に関して
はリンクが所得、GDP、個々の産業への影響等の様々な面において利益をもたらすことが
示されたが、2.5.5の結果が示すように、排出枠の輸出国ではリンクによりGDPが低下する
64
可能性が高い。GDPはあくまで生産の指標であり、GDPが低下しても、所得は増加すると
いう意味では問題はないが、GDPという指標を重視する国に対してもリンクへの参加を促
すには、生産の低下を補うための何らかの措置を別途講ずる必要があるであろう。
65
3.
日本企業の温暖化対策の現状
3.1 はじめに
2010 年 12 月、気候変動枠組条約・第 16 回締約国会議(COP16)で、「カンクン合意」が採
択された。この合意については、温室効果ガス(Greenhouse Gas: GHG)排出削減量の測定・
報告・検証の強化がまとまるなど、一定の評価が下されている。しかし、2013 年以降のポ
スト京都に関する進展がみられず、COP17 に先送りされるなど、地球温暖化問題の解決に
向け、国際的な課題は依然として残されたままである。また、日本国内をみると、国レベ
ルでの対策を初めて網羅的に想定することになる温暖化対策基本法案が、第 176 回臨時国
会で継続審議となった。そのため、2011 年末の段階で、同法案に組み込まれた、国内排出
削減の要である国内排出量取引制度や地球温暖化対策税の 2 つの炭素価格政策の実現の目
処はついていない1。このように国内外での制度的な先行きが不透明な状況において、地球
温暖化問題の解決に向けて前進するためには、企業の積極的な環境取組みが重要な役割を
担うと考えられる。
上智大学・環境と貿易研究センターは、このような問題意識に基づき、2010 年に上場企
業を対象として「温暖化対策を中心とした企業の環境取り組みに関する調査」を行った。
同調査は、国内上場企業が、地球温暖化問題に対応するためにどのような環境取組みを行
っているのか、そしてそれらはどのような動機のもとで行われているか、という点を明ら
かにすることを目的としている。その他にも、地球温暖化問題を中心とした環境関連の諸
制度との関わりについて詳細に質問を行うことで、各制度の普及状況や、今後どのような
制度的枠組みが必要となるかという点について明らかにすることを意図している。
本章では、国内上場企業の温暖化対策に関連する法制度について解説したのちに、調査か
ら得られたデータを用いて企業の GHG 排出削減の取組みやその動機・背景について分析す
る。そして、近年関心の高まりを見せている環境に関連する国際標準規格の動向と、それ
らに対する日本企業の対応について取り上げる。
3.2 調査概要
3.2.1 調査手法
本章で使用するデータは、2010 年 8 月時点で東証1部・2 部、東証マザーズ、大証1部・
2 部、名証 1 部・2 部、札証、福証に上場している国内企業 2,676 社を対象に実施したサー
ベイ調査から得られたものである。調査票を設計するに当たって、上場 6 社に対してイン
タビュー調査及び、サーベイのプレテストを行った。調査票は、以下の 4 つのセクション
1
再生可能エネルギー固定価格買い取り制度については、2011 年 8 月に再生可能エネルギー特別措置法案、
再生可能エネルギー買い取り法案が成立したことを受け、2012 年 4 月からの実施が予定されている。
66
から構成されている。まず、セクションⅠでは、CO2 などの GHG 排出削減に関連する諸制
度との関わりや、排出量の把握状況について質問を行っている。セクションⅡにおいては、
企業が排出削減を行う際に、クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism: CDM)
などのクレジット制度がどの程度利用されているのかという観点から質問を行っている。
セクションⅢの設問は、日本企業の自主的な環境取組みの現状や、環境負荷を意識した取
引の実態を明らかにすることを目的としている。そして、セクションⅣにおいては、主要
な製品・サービスの種類や、環境関連の研究開発予算の有無、該当業種などといった回答
企業の概要を質問している。本章では、特にセクションⅠの回答結果を中心にまとめてい
る。
調査票は、2010 年 11 月 8 日に発送され、回答期限を 2 週間後の 11 月 24 日に設定した。
期限までに返信がなかった企業に対しては、回答を促す葉書を送付し、回答期限をさらに 2
週間延長している。回答は、対象となった 2,676 社のうち、579 社から得ることができた(回
収率 21.6%)
。質問項目の多さや、近年の環境関連のサーベイの多さを考慮すると、この回
収率は比較的高いといえるだろう。
表 3-1 は、調査票の回収率を業種別・従業員数別で表したものである。業種別でみると、
電気・ガス業(56.0%)が最も高く、建設業(32.9%)、製造業(25.9%)、鉱業(25.0%)が
それに続いている。また、会社四季報に記載されている各企業の期末従業員数を用いて規
模別に分類し、調査票の回収率をみると、規模に応じて回収率が高くなる傾向がみられる。
具体的には、従業員数が 50 人未満の規模の企業からは 11.4%(24 社)、50 人以上 300 人未
満で 11.6%(78 社)
、300 人以上 1,000 人未満で 21.7%(198 社)
、1,000 人以上 5,000 人未満
で 30.0%(214 社)
、5,000 人以上で 45.5%(65 社)であった。この傾向の 1 つの理由として、
今回のようなサーベイに回答するための人員を、規模の大きい企業ほど用意しやすい可能
性が考えられる。
表 3.1 業種別・規模別回収率(%)
従業員規模別
業種別
電気・ガス業
建設業
製造業
鉱業
商業
金融保険業
運輸情報通信業
サービス業
不動産業
水産・農林業
アンケート送
付先企業
回答企業
回収率
25
143
1257
8
473
158
312
205
89
6
14
47
325
2
90
30
45
19
7
0
56.0
32.9
25.9
25.0
19.0
19.0
14.4
9.3
7.9
0.0
~49
~299
~999
~4999
5000~
アンケート送
付先企業
回答企業
回収率
210
674
911
714
143
24
78
198
214
65
11.4
11.6
21.7
30.0
45.5
出所: 会社四季報データと調査データより, 筆者作成
67
3.2.2 回答企業
調査に回答した企業の記述統計は以下のようになる。回答企業における従業員数の平均
は 2,556 人であり、従業員数が 1,000 人から 4,999 人までの企業が、回答企業全体の 37.0%
を占めている。また最小従業員数は 5 人、最大従業員数は 70,355 人、標準偏差は 5,606 人
であり、回答企業における従業員数の分布は幅広いものであるといえる。
回答企業の各業種における分布の妥当性を確認しておこう。図 3-1 は、会社四季報に登録
されている上場企業の業種割合を用いて、今回のサーベイの回答企業の業種割合と比較し
たものである。回答企業における各業種の割合は、製造業が 56.1%(325 社)、商業が 15.5%
(90 社)
、建設業が 8.1%(47 社)となっている。上場企業の業種割合と比較すると、回答
企業における製造業、建設業、電気・ガス業の占める割合が高くなっているが、全体とし
ては概ね似た傾向になっている。製造業について業種分類をさらに細かくみると、回答企
業で電気機器・食料品の割合が高くなっているものの、その他業種においては概ね似た割
合を示している(図 3-2)。これらの結果は業種分布の大体において今回のサンプルが代表
性をもつことを示している。
図 3.1 業種別構成比(%)
水産・農林業
0.0
0.2
鉱業
0.3
0.3
回答企業
2.4
電気・ガス業
0.9
アンケート送付先企業
1.2
不動産業
3.3
8.1
建設業
5.2
5.2
5.9
金融保険業
3.3
サービス業
7.7
7.8
運輸情報通信業
11.6
15.5
商業
17.7
56.1
製造業
47.1
0
10
20
30
40
注)アンケート送付先企業: 2,654 社, 回答企業: 579 社
出所: 会社四季報データと調査データより, 筆者作成.
68
50
60
図 3.2 製造業における業種別構成比(%)
0.6
1.0
石油・石炭製品
1.5
1.4
ゴム製品
1.8
1.4
パルプ・紙
回答企業
2.8
2.7
3.1
2.7
繊維製品
医薬品
アンケート送付先企業
3.1
3.6
ガラス・土石製品
3.4
4.0
4.0
4.1
4.0
非鉄金属
精密機器
金属製品
4.9
5.2
鉄鋼
6.0
5.5
6.3
その他製品
7.4
7.2
食料品
9.8
輸送用機器
8.5
12.6
機械
13.7
14.5
15.0
化学
20.6
電気機器
17.5
0
5
10
15
20
25
注)アンケート送付先企業: 1,257 社, 回答企業: 579 社
出所: 会社四季報データと調査データより, 筆者作成.
3.3 企業の温暖化対策の状況
3.3.1 企業をとりまく法制度との関わり
国内企業の温暖化対策に関連する法制度として、
「エネルギーの使用の合理化に関する法
律(以下、省エネ法)
」と「温暖化対策推進法(以下、温対法)」がある。
省エネ法は、1978 年の第二次石油危機を受け、翌 79 年に制定された。省エネ法の目標設定
の対象はエネルギー(熱・電気)であり、厳密にいえば、直接的に GHG の排出削減を意図
した政策ではない。しかし、熱・電気の使用削減は、化石燃料の消費量削減につながるこ
とを考えると、同法による規制は、GHG 排出削減に寄与するものとして捉えることができ
る。
省エネ法は、1979 年の制定以降 1998 年、2002 年、2005 年、2008 年に改正が行われてい
る。2008 年に行われた改正では、業務部門でのエネルギー使用量の合理化を図るために、
法的義務を負う主体が、それまでの工場や事業所単位から、企業単位へと変更された。本
社、工場、支店、店舗などを含めて、直近 1 年間のエネルギー使用量の合計が原油換算で
1500 キロリットル以上の場合には、特定事業者(特定連鎖化事業者)に指定され、エネル
ギー使用状況届出書の提出と、年平均 1%ずつエネルギー原単位を改善するという努力義務
が課される。さらに、定期報告書と中長期計画書の提出、エネルギー管理統括者とエネル
69
ギー管理企画推進者の選任・届け出も義務付けられる。
調査で、特定事業者もしくは特定連鎖化事業者に該当しているかどうか尋ねたところ、
577 社からの回答が得られた。そのうち、72.3%の企業が特定事業者もしくは特定連鎖化事
業者に該当していると回答しており、多くの上場企業が自社のエネルギー使用状況を把握
していることが分かる。
温対法は、1997 年に開かれた COP3 における京都議定書の採択を受け、98 年 12 月に制定さ
れた。制定以降、4 回の改正を経て、企業行動に影響を与える規定が加えられてきた。その
中でも、2006 年 4 月に導入された「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」は、国
内企業に直接的な影響をもたらす制度である。この制度は、GHG を CO2 換算で年間 3,000
トン以上排出している事業所を対象として、前年度排出量の算定・報告を求めるものであ
る。報告を行わなかった場合や、虚偽の報告を行った場合には、罰則として 20 万円以下の
過料が適用される。2008 年 6 月の法改正では、省エネ法と同様に算定・報告義務を負う主
体が、事業所単位から、各事業の排出量を合計した企業単位、もしくはフランチャイズチ
ェーン単位へと変更された。
この「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」に関連して、調査では、1) GHG 排
出量の目標設定を行っているか、2) 設定を行っている場合、いつから目標設定を始めたの
か、そして 3) それらは、日本経済団体連合会の環境自主行動計画(以下、自主行動計画)
に基づく業界団体の目標と比較して厳しいものか、という 3 つの質問を行った。まず、GHG
排出量に関する目標設定の有無については、568 社から回答が得られ、72.7%の企業が目標
を設定していると回答した。目標設定年をみると、京都議定書が発行された 2005 年、京都
議定書の第 1 約束期間が始まった 2008 年において、目標設定を始めた企業が多くなってい
る。また、GHG 排出量に関して目標を設定していると回答した企業のうち、目標の第三者
検証を受けたことがある企業は、有効回答 404 社のうち 2 割程度であった。
次に、目標を設定していると回答した企業に対して、自社の目標が業界団体の目標よりも
厳しいものであると考えているか質問した。391 社から回答が得られ、業界団体の目標より
も厳しいと回答した企業は 37.1%、業界団体と比べて厳しい目標ではないと回答した企業は
35.8%、回答できないと答えた企業は 27.1%であった。さらに回答できないと答えた企業に、
その理由を自由記述で尋ねたところ、105 社から回答が得られた。そのうち、30 社程度の
企業が「業界の目標がない」という内容を記述し、
「目標の対象期間・範囲や基準・単位な
どが異なるため比較が難しい」と答えた企業は 15 社あった。
また、GHG 排出量の報告・公開を CSR 報告書や、環境報告書で行っているか尋ねたとこ
ろ、564 社から回答が得られた。報告・公開を行っていると回答した企業は 56.4%、行って
いないと回答した企業は 29.1%、報告書を発行していないと回答した企業は 14.5%であっ
た。報告・公開を行っていると回答した企業に対して、報告を開始した年を尋ねたところ、
図 3-3 のような回答が得られた。この図からも分かるように報告・公開を行っていると回答
した企業は、2006 年の算定・報告・公表制度の導入以前から積極的な取組みを行っていた
ことが分かる。さらにこれらの報告・公開を行っている企業のうち2割程度の企業が、報
70
告した GHG 排出量の第三者検証を行っていた。
図 3.3 GHG 排出量報告の開始年(企業数)
出所: 調査データより, 筆者作成.
3.3.2 日本企業の温暖化対策の現状
ここからは、日本企業の温暖化対策の現状についてみていく。調査では、具体的な GHG
排出削減の取組みとして、省エネ・エネルギー効率の改善、新規事業所への投資、既存事
業所への投資、新製品の開発、環境関連の製品の設計、クリーンな技術・製造方法・工法
の導入、燃料転換、再生可能エネルギーの供給・利用などの 13 項目を提示し、それぞれに
ついて取組みの有無を尋ねた。
回答結果から、
サーベイ対象企業 579 社のうち 304 社
(52.5%)
が 13 項目のうち 7 つ以上の GHG 排出削減の取組みを行っていることが明らかになった。
これは、日本の上場企業において、GHG 排出削減の取組みが進んでいることを示している。
回答結果を示した表 3-2 をもとに、各項目についてみると、9 割近くの企業が「省エネ・エ
ネルギー効率の改善」を行っている。また、半数近くの企業が、
「温暖化対策を担当する部
門・部署・チームなどの設置」
(55.2%)、「新製品の開発」(53.3%)、「環境関連の製品の設
計」
(48.8%)
、
「クリーンな技術・製造方法・工法の導入」
(47.2%)を行っている。
「炭素排
出の多い既存ビジネスからの撤退」
(7.0%)や、
「新規ビジネスの中止」
(5.5%)に取組んで
いると回答した企業が少ないことは、日本企業の GHG 排出削減の取組みの焦点が、製造過
程やオフィス部門での改善にあることを示していると考えられる。
71
図 3-4 は、この質問の回答結果をさらに製造業・非製造業に分けて表したものである。や
はり、新製品の開発や既存事業所への投資、燃料転換、環境関連の製品の設計などといっ
た、製造過程に強く関連する項目では、製造業の方が非製造業と比べ取組みを進めている。
しかし、省エネ・エネルギー効率の改善や温暖化対策部門の設置、再生可能エネルギーの
使用などといった項目においては、非製造業においても製造業と同程度に取組みが広がっ
ていることが分かる。
表 3.2
GHG 排出削減の取組みについて(%)
省エネ・エネルギー効率の改善(空調管理など)
既存事業所への投資
温暖化対策担当部門・部署・チームなどの設置
新製品の開発
環境関連の製品の設計
燃料転換
クリーンな技術・製造方法・工法の導入
再生可能エネルギーの供給・利用
新規事業所への投資
HFC・PFC・SF6の代替化・回収・破壊
森林による炭素固定(森林再生への投資)
炭素排出が非常に多い既存のビジネスからの撤退
炭素排出が非常に多い新規のビジネスの中止
はい
いいえ
有効回答数
90
63
55
53
49
48
47
39
38
34
23
7
6
10
37
45
47
51
52
53
62
62
66
77
93
95
564
536
542
538
529
545
530
538
526
522
535
516
510
出所: 調査データより, 筆者作成.
72
図 3.4 GHG 削減行動:製造業・非製造業(%)
省エネ・エネルギー効率の改善(空調管理など)
既存事業所への投資
新製品の開発
燃料転換
環境関連の製品の設計
温暖化対策担当部門・部署・チームの設置
クリーンな技術・製造方法・工法の導入
HFCPFCSF6の代替化・回収・破壊
再生可能エネルギーの供給・利用
新規事業所への投資
森林による炭素固定(森林再生への投資)
炭素排出が非常に多い既存のビジ ネスからの撤退
炭素排出が非常に多い新規ビジネスの中止
0
20
製造業
40
60
80
100
非製造業
出所: 調査データより, 筆者作成.
図 3-5 は、GHG 排出削減の取組みの動機として、制度的枠組みがどの程度影響をもつの
か尋ねた質問の結果である。図からは、前項で取り上げた省エネ法や温対法といった法制
度について、
「非常に影響がある」もしくは「影響がある」と回答した企業が 9 割近く存在
することが分かる。また、自主行動計画などの業界団体の取組みについても、8 割近くの企
業が、影響があると回答している。東京都排出量取引制度に代表される地方の取組みにつ
いては、
「影響がない」と答えた企業が 37.9%存在したが、東京都排出量取引制度の対象施
設を持っている企業についてみると、影響がないと回答している企業は全体の 3.2%に留ま
り、ほとんどの企業が「影響がある」と答えている。
73
図 3.5
GHG 排出削減の取組みの動機・背景について(%)
49.6
7.5
42.9
省エネ法(改定省エネ法も含む)
36.0
11.4
52.6
地球温暖化対策推進法(温対法)
22.9
21.7
55.4
経団連の自主行動計画などの
業界団体の取組み
19.8
53.3
26.9
国内排出量取引制度の
導入の可能性
43.3
18.8
東京都排出量取引制度などの
地方の取り組み
0
10
20
30
40
非常に影響がある
37.9
50
60
影響がある
70
80
90
100
影響がない
出所: 調査データより, 筆者作成.
3.3.3 ステークホルダーからの影響
次に、日本企業の GHG 排出削減の取組みに対して、ステークホルダーがどのような影響
を及ぼしているのかという点について見てみよう。
調査では、GHG 排出削減の取組みについて、ステークホルダーから要求を受けた経験に
ついて尋ねた。質問に対する回答をまとめた図 3-6 からは、行政当局・業界団体・経営者の
3者からの要求が多いことが分かる。経営者から取組みを「よく求められる」あるいは「求
められる」と答えた企業は 60%を超えており、多くの企業が経営者主導の環境取組みの存
在を認めている。行政当局と業界団体については、それぞれ 20%以上の企業が「よく求め
られる」と答えており、経営者と並んで企業の GHG 排出削減の取組みに影響を及ぼしてい
ることが分かる。この 3 者以外の団体・機関からの要求については、7 割以上の企業が要求
を受けたことはほとんどないと回答している。一般従業員から取組みをよく求められる、
もしくは時々求められると答えている企業が、26.0%存在することは、企業内部のステーク
ホルダーからの影響が、少なからず企業の GHG 排出削減取組みを促進する役割を果たして
いることを示している。また、これまで環境問題に関連する事業所を対象とした調査では、
ステークホルダーとしての近隣住民の役割が指摘されてきた。しかし、調査では、近隣住
民から GHG 排出削減取組みの要求を受けたと回答している企業の割合は低い値を示してい
る。その理由としては、環境取組みの内容を GHG 排出削減の取組みと限定している点や、
今回の調査の回答が主に、本社の環境関連部門の担当者によってなされている点などが考
74
えられる。
図 3-7 は、この質問に対する回答を、さらに製造業と非製造業とに分け、
「よく求められ
る」という回答についてまとめたものである。製造業と非製造業との間で顕著に差が出て
いるのは、経営者・業界団体である。経営者から温暖化取組みをよく求められると回答し
た企業は製造業で 36.0%、非製造業で 21.4%、業界団体から温暖化取組みの要求を受けたと
回答した企業は製造業で 27.0%、非製造業で 18.3%であった。
図 3.6 GHG 排出削減の取組み要求について(%)
29.4
31.5
39.1
経営者
26.5
29.7
43.8
33.7
43.4
行政当局
22.9
業界団体
4.5
13.2
82.2
環境保護団体
4.4
21.6
74.0
一般従業員
4.2
15.0
4.0
17.2
3.1
10.1
80.8
消費者
株主・投資ファンド
78.7
86.8
銀行・その他金融機関
1.8 6.3
91.9
近隣住民
0
10
20
30
よく求められる
40
50
時々求められる
60
70
80
ほとんど求められない
出所: 調査データより, 筆者作成.
75
90
100
図 3.7 GHG 排出削減の取組み要求について:製造業・非製造業別 (%)
経営者
36.0
21.4
28.8
行政当局
24.1
27.0
業界団体
消費者
4.8
3.4
一般従業員
4.6
4.2
株主・投資ファンド
4.0
4.2
18.3
3.6
5.9
環境保護団体
3.3
3.0
銀行・その他金融機関
1.6
2.1
近隣住民
0
5
10
15
製造業
20
25
30
35
40
非製造業
出所: 調査データより, 筆者作成.
3.4 環境に関わる ISO 規格への対応状況
3.4.1 ISO 14001
企業が自主的に行う環境取組みの代表的なものとして、環境マネジメント・システム
(Environmental Management System: EMS)の導入がある。ISO 14001 は、国際標準化機構が発
行した EMS に関する国際規格であり、1996 年の発行以降、日本国内で急速に普及した(岩
田他 2010)
。
ISO 14001 の認証を取得するためには、環境パフォーマンスの改善(汚染物質排出削減)に
つながる計画を立て(Plan)、それを実行(Do)した後に、環境パフォーマンスが改善したかど
うかを確認(Check)し、計画の見直し(Action)を行う、という PDCA のマネジメントサイクル
を確立しなければならない。一旦認証を取得すると、3 年間は登録が有効となるが、定期的
(毎年または 6 ヶ月毎)に第三者による審査が求められる。また、3 年後に認証を更新する場
合には、更新の審査が必要となる。第三者による審査や更新時の審査において、PDCA の実
行に問題があると判断された場合には、ISO の登録が抹消あるいは更新取得が不可能となる
可能性がある。
調査では、EMS に関して 2 つの質問を行った。まず、ISO 14001 の認証取得を行っている
か、そして、その他の EMS を導入しているかという点について質問をした。ISO 14001 に
関しては 568 社から回答が得られ、78.9%の企業が取得していると回答した。認証取得年を
表した図 3-8 から分かるように、2000 年前後に ISO 14001 の認証を初めて取得した企業が多
76
い。その他 EMS に関しては、194 社から回答が得られ、15.5%の企業(30 社)が導入して
いると答えた。具体的には、エコアクション 21 を取得しているのが6社、KES、グリーン
経営認証、エコステージの認証取得をしている企業がそれぞれ 2 社ずつあった。また、そ
の他の EMS を導入していると回答した 30 社のうち 25 社が ISO 14001 を導入している。
EMS
の認証取得を会社単位で行っているか、事業所単位で行っているのかという質問に対して
は、458 社から回答が得られ、会社単位・事業所単位の回答がほぼ半数ずつであった。
図 3.8 ISO 14001 の初回認証年(企業数)
出所: 調査データから, 筆者作成.
3.4.2 新しい環境関連の国際標準規格
近年、ISO 14001 に続く、新たな環境関連の国際標準規格が発行されている。まず、2011
年 6 月に発行されたエネルギーマネジメントに関する国際標準規格である ISO 50001 がある。
ISO 50001 は、既に国内での登録が 2 万件以上に上っている ISO 14001 と重複する部分があ
るものの、エネルギーマネジメントに関する詳細な要求を実現するものとして期待されて
いる。
一方、
2010 年 10 月に発行された企業の社会的責任に関わる国際標準規格である ISO 26000
は、第三者検証を目的とせず、「組織統治」「人権」「環境」などといったテーマを提示し、
組織が社会的責任を果たすための取組み事例を示している点に特徴がある。認証規格では
ないものの、この規格をもとに CSR 報告書の構成や内容を見直す動きが、今後広がる可能
77
性が考えられる。
2006 年 3 月に発行された、ISO 14064 は、GHG 排出量の算定・報告・検証の規格である。
この規格は、国際標準になり得るものとして期待されている。これに関連する規格として、
検証機関に対する要求事項をまとめた ISO14065 も存在する。
調査では、上記の 3 つの新規格に焦点を当て、国内の上場企業がそれらに対してどのよ
うな態度をとっているか把握するための質問を行った(図 3-9)
。
図 3.9 国際標準規格に対する態度(%)
2.3
62.0
ISO26001
n=560
14.6
21.1
0.4
ISO14064/65
n=560
67.0
17.7
66.5
15.3
15.0
0.0
ISO50001
n=561
18.2
0
10
20
30
40
採用確実
50
60
検討中
70
予定なし
80
90
100
知らない
出所: 調査データより, 筆者作成.
まず、ISO 26000 についてみてみると、回答数は 560 社であり、そのうち 2.3%(13 社)
が採用確実であると回答している。また、採用を検討していると回答した企業は 21.1%(118
社)であり、3つの新規格のうちもっとも採用確実・検討中と回答している企業が多かっ
た。次に、ISO 50001 についてみてみると、回答数は 561 社であり、そのうち採用確実であ
ると回答した企業は 0 社で、採用を検討していると回答した企業は 18.2%(102 社)であっ
た。ISO14064/65 についてみてみると、回答数は 560 社であり、そのうち採用確実であると
回答した企業は 0.4%(2 社)で、採用を検討していると回答した企業は 15.0%(84 社)で
あった。また、それぞれの規格について「知らない」と回答している企業が 15%近く存在
している。このように、現時点では、3 つの新規格それぞれについて、全般的に採用に対す
る意欲は高くないといえるだろう。特に ISO 14064/65 については、他の 2 つの規格とは異
なり、発行されてからすでに 5 年が経過しているにもかかわらず、日本企業における採用
78
に対する意欲は低いといえる。
3.4.3 スコープ 3
調査では、これらの新規格に対する態度と合わせて、近年関心の高まりをみせているサ
プライチェーンにおける GHG 排出の管理という問題について取り上げている。2000 年代半
ばに RoHS 指令や REACH 規制に代表される製品環境規制がヨーロッパで施行されたことで、
サプライチェーンにおける化学物質の管理が重要な問題となったことは記憶に新しい。こ
のようなサプライチェーンにおける環境負荷を把握・管理するという考え方は、近年、GHG
にまで及んでいる(上妻 2011, 岩尾 2011)
。
GHG 排出量の算定・報告・検証の国際標準規格である ISO 14064 のベースとなっている
GHG プロトコルでは、企業活動に伴う GHG 排出量を算定する上で、3 つの範囲(スコープ)
が規定されている。スコープ 1 は、企業内活動における化石燃料の燃焼から排出される GHG
として、スコープ 2 は、電力の利用によって間接的に排出される GHG として定義されてい
る。そして、スコープ 3 は、購入電力からの排出を除く、企業が直接コントロールできな
い GHG として定義されている。
調査では、スコープ 3 に該当する「原材料の採取・輸送」、
「流通」
、
「廃棄・リサイクル」、
「出張・通勤」における GHG 排出量を把握しているかどうか質問した。図 3-10 は、その
回答結果を表したものである。ここからも分かるように、流通における排出量の把握が最
も進んでおり、続いて廃棄・リサイクル、原材料の採取・輸送、出張・通勤という順にな
っている。最も進んでいる流通においても、
「部分的に」を含めて 3 割強の企業しか GHG
排出量を把握できていない。ここから、スコープ 3 における GHG 排出量の把握は、上場企
業においてもまだ一般的ではないことが分かる。しかし、機関投資家の視点から、企業の
温暖化対策を評価する取組みである Carbon Disclosure Project(CDP)の動きが世界的に広がり
を見せていることや、スコープ 3 算定基準の作成が進行していることを考えると、今後サ
プライチェーンにおける GHG 排出量の把握の必要性が高まっていく可能性は十分に考えら
れるだろう。
79
図 3.10 スコープ 3 の各部分の排出量把握状況(%)
11.5
22.7
60.7
5.0
流通 (N=563)
19.4
9.9
7.4
63.3
廃棄・リサイクル
(N=566)
2.1
17.8
5.3
74.8
原材料の採取・輸送
(N=563)
0.5
7.9
83.6
7.9
出張・通勤 (N=568)
0
10
20
30
はい
40
部分的に
50
60
検討中
70
80
90
100
いいえ
出所: 調査データより, 筆者作成.
3.5 おわりに
本章では、上智大学・環境と貿易研究センターが行った上場企業を対象としたサーベイ
調査の概要を紹介した上で、そこから得られた回答結果を用いて、日本企業における温暖
化対策の現状について明らかにした。
現状では、日本企業の温暖化対策に関わる法的制度として、省エネ法と温対法の2つが
ある。この 2 つの法律では、一定の GHG 排出事業者に対して改善義務や報告義務が課せら
れており、その義務を果たさない企業には、罰則が適用される場合もある。省エネ法につ
いては、多くの上場企業がその対象となっており、GHG 排出削減の取組みの動機として機
能していることが明らかになった。また、温対法に関しては、GHG 排出量の報告・公開を
行っている企業は、温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度が導入される以前から積極
的に取り組みを行っていたことが明らかになった。温対法の改正をうけ、今後国内企業に
おける GHG 排出量の目標設定や、排出量の報告・公表の取組みが今後広がっていくことが
予想される。
これらの法制度に加え、国内では東京都の排出量取引制度や、試行排出量取引制度など
といった排出枠の取引によって、GHG 排出量の削減を達成しようという試みが行われてい
る。また、京都議定書で CDM からのクレジットを利用した削減目標の達成が認められてい
るように、温暖化対策として、国外における排出削減をおこなうという方法も存在する。
80
次章では、調査のセクションⅡにおける回答結果を用いて、日本企業の国内外でのクレジ
ット制度の利用状況を明らかにし、今後それらの制度の利用を促進するためになにが必要
かという点について検討する。
また、本章では、日本企業の温暖化対策において、具体的にどのような取組みが、どの
ような動機・背景のもとで行われているのかという点について取り上げた。調査からは、
上場企業の間で、GHG 排出削減行動の取組みが広がりをみせている現状が明らかになった。
しかし、近年発行された ISO 50001 や ISO 26000 などといった環境関連の国際標準規格、そ
してスコープ 3 に代表されるサプライチェーン全体での GHG 排出量把握の取組みに対する
日本企業の対応は慎重なものになっている。第 5 章においては、近年発行された ISO 50001、
ISO14064 について、クレジット制度との関連から議論する。そして、特に、ISO 14064 を取
り上げ、企業の国際標準規格の採用検討にどのような要因が影響をもたらしているのかと
いう点について、本章で紹介した企業調査から得られたデータを用いて分析を行う。
81
4.
日本企業と排出量取引の実態:クリーン開発メカニズムを中心に
4.1 はじめに
本章では、日本企業が排出量取引制度をどのように利用、または認識しているのかを明
らかにする。日本企業が実際に行っている排出量取引は、クリーン開発メカニズム(Clean
Development Mechanism: CDM)の利用が中心である 1)。CDM については、様々な研究が行
われているが、企業サイドから見た CDM 制度の実態は明確ではない。また、オフセット・
クレジット(Japan Verified Emission Reduction: J-VER)や日本国内で検討されている国内排
出量取引制度についても、企業から見た実態は必ずしも明らかではない。
本章では、CDM の制度と現状を概観した上で、日本企業による CDM の利用状況を明ら
かにする。分析では、前章で紹介した「温暖化対策を中心とした企業の環境取り組みに関
する調査」の調査結果 2)を用いる。また、国内のオフセット制度として主要な 2 つの制度、
国内クレジット制度と J-VER 制度についても、その概要と企業からみた同制度の認識につ
いて示す。そして最後に、導入が検討されている国内排出量取引制度に関して、企業がど
のような認識を持っているかを調査結果から明らかにする。
4.2 CDM とは
CDM は、京都議定書に批准している国の温室効果ガス(Greenhouse Gas: GHG)削減目標を
達成するために設けられた補完的な制度の1つである 3)。通常、先進国は途上国に比べ、環
境技術や省エネ技術がすでに発達している。そのため、先進国内で GHG 削減を行うと削減
費用が高くなる。CDM は、先進国(投資国)が削減義務のない途上国(ホスト国)に対し
て、持続可能な開発につながるプロジェクト
4)
へ資金援助あるいは技術移転を行い、GHG
削減を行うメカニズムである。さらに、投資国は、そのプロジェクトから発行された排出
枠クレジット(CER)を、自国の削減量として利用することができる。よって、日本のよう
な省エネ水準が高い国は、CDM を利用することで、自国で排出削減を行うよりも費用を低
く抑えることが可能となる。
実際、先進国の企業が CDM プロジェクトから CER を得るまでには、国連の付属機関で
1)
調査時点に於いて、東京都の排出量取引制度は開始されたばかりであり、取引そのものは行われていな
い。
2)
調査結果の詳細は、有村他(2011a)参照。
3)
京都議定書では、市場メカニズムを用いた補完的制度として CDM の他に、共同実施(Joint Implementation:
JI)が認められている。これら制度から発行されるクレジットは、京都クレジットと呼ばれる。これら 3
つの制度は「京都メカニズム」と呼ばれ、その詳細は、本報告書の第1章で紹介されている。
4)
IGES(2003)では、CDM プロジェクトとして「最終消費分野のエネルギー効率改善」
、
「エネルギー供給
分野でのエネルギー効率改善」
、「再生可能エネルギー」、
「燃料転換」
、
「農業(メタンと一酸化二窒素の排
出削減)
」、
「工業プロセス(セメント製造業からの二酸化炭素、代替フロン)
」、
「吸収源プロジェクト(新
規植林と再植林のみ)
」の 7 つの分野が含まれている。
82
ある CDM 理事会や指定運営組織(Designated Operational Entity: DOE)の審査を受ける必要
がある 5) (図 4-1)
。特に、CDM プロジェクトを実施する上で重要となるのが、排出量に関
する合理的な基準設定と「追加性(Additionality)」に関する厳格な検証方法についての審査
である。CER の発行量は、プロジェクトを実施しなかった場合の排出量(ベースライン)
から、実施した後の排出量を差し引いた量で決まる。そのため、企業は、プロジェクトを
実施しなかった場合のベースラインを、客観的かつ合理的に設定する必要がある。さらに、
企業が CER を得るためには、ベースラインに比べ、GHG 排出量が追加的に削減されること
を立証しなければならない(追加性の確保)
。そのため、企業は、追加的な削減量がどの程
度生じたのかを検証するためのモニタリング方法を明確にする必要がある。以上のことか
ら、CDM を利用しようとする企業は、まず、ベースラインの設定やモニタリング計画とい
った「方法論」をプロジェクトごとに開発し、CDM 理事会の審査を受けなければならない。
そこで承認を得て初めて、CDM プロジェクトへの登録と CER 発行への手続きへと進むこと
ができるのである。
図 4.1 CDM プロジェクトの登録・承認プロセス
出所:「環境・持続社会」研究センター(2009)より, 筆者作成.
5)
CDM に関する手続き上の詳細な説明は、IGES(2003)、有村他(2011b)を参照。
83
CDM プロジェクトは、すでに世界中で多数実施されている。2011 年 9 月時点における、
CDM 理事会への登録件数は 3,387 件であり、CER 発行総量は約 7.08 億トンとなっている。
プロジェクト種別に登録件数の割合を見た場合、再生可能エネルギー関連のプロジェクト
が高い割合を占めていることがわかる(図 4-2)。特に、風力発電や水力発電といった排出
削減の規模が比較的小さいものが過半数を占めている。一方、新規植林・再植林といった
吸収源プロジェクトについては、非常に少ない割合となっている。次に、国別で登録件数
の割合を見た場合では、中国やインド、ブラジル、メキシコといった限られた国にプロジ
ェクトが集中していることがわかる(図 4-3)。最近では、マレーシアやインドネシアとい
ったアジア地域の国々でも登録件数が増加してきている。一方、アフリカ諸国や後発途上
国といった国々では、プロジェクトの登録件数が極めて少ない。この点については、最近
の CDM 理事会や国際会議等でも「地域間不均衡」として問題視されている点である。
図 4.2 CDM プロジェクトの種類別の割合(%)
その他
1
HFC削減及び回避
1
N2O削減
2
セメント
1
その他再生可能エネ
ルギー
2
バイオガス
11
風力発電
22
バイオマス利用
10
廃ガス・廃熱利用
6
メタン回収・利用
7
燃料転換
2
メタン回避
2
省エネ
3
水力発電
30
新規植林・再植林
1
出所:2011 年 9 月の IGES CDM プロジェクトデータベース
(http://www.iges.or.jp/jp/cdm/report_cdm.html)より,筆者作成.
84
図 4.3 CDM プロジェクトの国別の割合(%)
ベトナ
ム
2
フィリピン
2
韓国
2
チリ
2
タイ
2
インドネシア
2
マレーシア
3
メキシコ
4
その他の
国
10
中国
46
ブラジル
6
インド
21
出所:2011 年 9 月の IGES CDM プロジェクトデータベース
(http://www.iges.or.jp/jp/cdm/report_cdm.html)より, 筆者作成.
CDM は、先進国企業に追加的な排出削減費用を抑える機会を提供する。一方、方法論の
承認から CER 発行までの過程において、いくつかの問題点があることも指摘されている
(IGES 2010)
。特に、問題として挙げられるのが、申請・登録の手続きに要する期間が長期
化している点である。この手続きの長期化という問題は、CDM 理事会によって再審査にか
けられるケースが増加し、その結果、審査全体にかかる日数が増えたことに起因している
(IGES 2010)
。さらに、再審査を受けたからといって、必ず登録されるとは限らない。した
がって、企業は、CDM プロジェクトを利用する上でかかる機会費用と、CDM 理事会によ
って却下されるリスクを考慮せざるを得なくなる。こうした面が、多くの企業の投資意欲
を抑制する方向に働いていると考えられる。
4.3 日本企業の CDM 利用の実態
4.3.1 CDM プロジェクトの利用状況
ここでは、上智大学・環境と貿易研究センターが、2010 年に上場企業を対象に行った「温
暖化対策を中心とした企業の環境取り組みに関する調査」を基に、日本企業の CDM 利用に
関する現状について見ていくことにする。調査では、国内企業 2,676 社を対象とし、579 社
から回答を得た(回収率 22%)
。より詳しい概要とデータの詳細については、第 3 章を参照
して頂きたい。
日本企業が実際、CDM プロジェクトにどの程度参加し、CER をどの程度取得しているの
かを把握することは、今後の CDM に関する政策を考える上で重要である。そこで、調査で
85
は、CDM プロジェクトへの参加の有無について質問を行った。回答結果から、CDM プロ
ジェクトに参加したことのある企業はわずか 36 社(6.2%)であり、残りの 542 社(93.8%)
は参加したことがないことが分った。
なお、CDM の参加に影響を与える要因について、企業の属性データや調査から得られた
データを用いて計量分析を行ったところ、省エネ法の対象となっている企業や、東京都の
排出量取引制度の対象となっている企業ほど、CDM プロジェクトへ参加する傾向が見られ
た。しかし、省エネ法が実際のエネルギー使用量を規制するものであるという点や、東京
都の排出量取引制度では、CDM から得られるクレジットの利用が認められていないという
点、そして規制対象となる企業は大企業である点などを考慮すると、この分析結果を解釈
する際には注意が必要となる。
以上の点から、
CDM の参加を促す要因を特定するためには、
追加的なデータを入手したうえで、分析を行う必要があるだろう。
調査では、CDM へ参加したことのある企業に対して、「プロジェクトへの参加件数」と
「取得した CER 量」について質問を行った。CDM プロジェクトへの参加件数をみると、1
件と回答した企業が 14 社と最も多く、その他件数を大きく上回る結果となった。また、10
件以上と回答した企業は 4 社あり、その内訳は 15 件が 1 社、43 件が 1 社、50 件が 1 社、
そして 64 件が 1 社であった(図 4-4)。このことから、CDM プロジェクトへの参加件数は、
1 件から 64 件と企業によって大きな差があることが分った。
CER 取得量をみると、
「1,000 トン~1 万トン」の範囲で回答した企業が 7 社と最も多い結
果となった。
「1,000 万トン以上」と回答した企業も 3 社あり、その内訳は 1,000 万トンが 1
社、1,700 万トンが 1 社、2,500 万トンが 1 社であった(図 4-5)。また、2 社が 0 トンと回答
しているが、これらはまだ、CER 取得の申請を行うに到っていないケースと考えられる。
このことから、各企業の CDM プロジェクト参加による CER 取得量についても、0 トンから
2,500 万トンと企業によって大きな差があることが分った。
86
図 4.4 CDM プロジェクト参加件数別企業数
16
14
14
12
10
8
6
4
4
4
3
2
2
2
1
1
0
0
0
1件
2件
3件
4件
5件
6件
7件
注: 回答企業:31 社
出所: 調査データより, 筆者作成.
87
8件
9件
10件以上
図 4.5 CDM プロジェクト参加による CER 取得量別企業数
8
7
7
6
5
4
3
3
3
2
2
2
1
1
1
1
0
0
注: 回答企業:20 社
出所: 調査データより, 筆者作成.
次に、
CDM プロジェクトに参加したことのない企業に対して、次のような質問を行った。
まず、CDM プロジェクトに参加したことがないと回答した企業 542 社(うち 29 社が無回
答)に対して、
「CDM プロジェクトへの参加を検討した経験の有無」について質問を行っ
た。CDM プロジェクトへの参加を検討したことのある企業は 32 社(6.2%)であり、多く
の回答企業が、CDM プロジェクトへの参加検討をしたことがないという結果となった。
さらに、参加を検討したことのある企業に対して、
「採算性が悪かった(リスクが大きい
という要素も含む)
」
、
「承認機関からプロジェクトの承認が得られなかった」
、「現在プロジ
ェクトを開発中」
、
「その他(自由回答)
」の 4 項目を提示し、断念した理由について質問し
た。最も回答企業数が多かった項目は、
「採算性が悪かった」の 15 社であり、「現在プロジ
ェクトを開発中」
(4 社)
、
「承認機関からのプロジェクトの承認が得られなかった」(3 社)
がそれに続く結果となった。また、
「その他」と回答した 10 社の内 4 社が、自社での削減
活動のみで十分であり CDM 利用の必要性がないと回答した。
以上のことから、次のことが明らかとなった。第 1 に、CDM プロジェクトへの参加状況
を見た場合、参加している企業は全回答企業の一部であり、多くの回答企業は参加してい
ないことが分った。さらに、参加している企業の中でも、プロジェクトへの参加件数と CER
取得量に大きな差があることが分かった。第 2 に、プロジェクトに参加したことが無い企
業に対し、CDM プロジェクトへの参加検討の有無を尋ねたところ、これも一部の企業のみ
88
であった。さらに、こうした参加検討がある企業の多くが、参加を断念した理由として「投
資に関するリスクも含めた採算性の悪さ」を挙げていることが分った。しかし、大多数の
回答企業が、CDM プロジェクトへの参加自体を検討していないという点には、留意する必
要がある。
4.3.2 CER の購入状況
3.1 では、企業の CDM プロジェクトへの参加状況を中心に見てきた。ここでは、企業の
CER に関する購入状況について見ていくことにする。国内での排出削減に利用可能な CER
は、CDM プロジェクトに参加しなくとも、セカンダリー・マーケットといった国際的なク
レジット市場を通じて、購入することが可能である。そこで、調査では「CDM 実施以外の
方法で CER を購入した経験の有無」と「CER 購入量」について質問を行った。
表 4-1 は、セカンダリー・マーケットを通じた CER 購入経験の有無についての質問に対
する回答結果を、すべての回答企業、CDM プロジェクトへの参加経験がある企業、CDM プ
ロジェクトへの参加を検討した経験がある企業の 3 つのグループに分けて、まとめたもの
である。まず、すべての回答企業 579 社(うち 2 社が無回答)について見た場合、購入経
験は無いと回答した企業が 93.1%であり、購入経験があると回答した企業(6.9%)を大きく
上回る結果となった。
また、CDM プロジェクトへの参加した経験のある企業と、CDM プロジェクトへの参加
を検討した経験のある企業を比較すると、プロジェクトに参加した経験がある企業の方が、
参加を検討した経験のある企業よりも、CER を購入した割合が高いことが分かる。
表 4.1 CER 購入経験の有無(%)
全体
CDMプロジェクトへの
参加企業
CDMプロジェクトへの
参加検討企業
はい
6.9
(40)
34.3
(12)
21.9
(7)
いいえ
93.1
(537)
65.7
(28)
78.1
(25)
注: カッコ内の数字は企業数.
出所: 調査データより, 筆者作成.
図 4-6 は、CER を購入した経験があると回答した企業 40 社(うち 14 社が無回答)を、
CER 購入量別にみたものである。
「1,000 トン~1 万トン」の範囲で回答した企業が 15 社と
最も多く、
「1 万トン〜10 万トン」と回答した企業は 3 社のみであった。さらに、
「10 万ト
ン以上」と回答した企業は 1 社あり、その購入量は 20 万トンであった。このことから、各
企業の CER 購入量は 1 トンから 20 万トンと、大きく差があることが分かった。
89
図 4.6 CER 購入量と回答企業数
16
15
14
12
10
8
6
4
4
3
2
2
1
1
0
1~10
10~100
100~1,000
1,000 ~1万
1万~10万
10万以上
出所: 調査データより, 筆者作成.
以上のことから、次のことが明らかとなった。第 1 に、CER を購入したことのある企業
は、ここでも全回答企業の一部であり、多くの回答企業が購入したことがないことが分っ
た。第 2 に、CDM プロジェクトに参加したことがある企業と、参加を検討したことがある
企業にそれぞれ絞って見た場合では、参加経験のある企業の方が CER を購入する割合が高
いことが分った。また、CER を購入している企業の中でも、その購入量に大きな差がある
ことも分かった。
4.3.3 CDM 制度の問題点と今後
3.1 と 3.2 の回答結果から、回答企業の多くが CDM の利用に対して消極的であることが
見て取れる。その要因としては、3.2 で指摘した「手続きの長期化」等が考えられる。さら
に、IGES(2010)は、CDM プロジェクトが中国やインドなどといった限られた国に集中し
ていることを指摘している。こうした手続きの長期化や CDM 投資の地域偏在が、企業の意
思決定にどういった影響を与えているであろうか。そこで、調査では、CDM の制度上の問
題点として、
「審査・登録・発行に時間がかかる」
、
「厳格に追加性を実証する必要がある」、
「予想量に比べて実際の CER が少ない」、
「CDM 実施の地域間不均衡」という 4 項目を提示
し、企業がどの問題点を重視しているのか質問をした。
まず、全回答企業(579 社)における回答結果をみると、非常に重要・重要と回答した企
業の割合が最も多かったものは、
「審査・登録・発行に時間がかかる」の 89.7%(非常に重
要:25.9%、重要:63.8%)であった。その他は、
「厳格に追加性を実証する必要がある」が 88.4%
(非常に重要:26%、重要:62.4%)
、
「予想量に比べて実際の CER が少ない」が 85.4%(非常
に重要:18.6%、重要:66.8%)
、
「CDM 実施の地域間不均衡」が 81.7%(非常に重要:21.5%、重
90
要:60.2%)であった。
この回答結果を CDM プロジェクトへ参加した企業(36 社)についてみると、非常に重
要と回答した企業数が最も多かったものは「審査・登録・発行に時間がかかる」であり、
「厳
格に追加性を実証する必要がある」
、
「予想量に比べて実際の CER が少ない」、
「CDM 実施の
地域間不均衡」がそれに続いている(図 4-7)。この傾向は、CDM プロジェクトへの参加を
検討した経験のある企業(32 社)でみた場合でも同様であった。以上のことから、登録等
の手続きの長期化や追加性といった点が、CDM 制度上の問題点として国内企業に認識され
ていることが分かる。
図 4.7 CDM 制度についての問題点
24
1
10
審査・登録・発行に時間がかかる
17
5
13
厳格に追加性を実証する必要がある
15
13
6
予想量に比べて実際のCERが少ない
9
17
9
CDM実施の地域間不均衡
0
非常に重要
10
重要
20
30
40
重要でない
注: CDM プロジェクトへの参加企業
出所: 調査データより, 筆者作成.
一方、CDM プロジェクトへの参加を検討したことはないが、CER は購入した経験をもつ
企業(20 社)についてみた場合では、異なった傾向がでている(図 4-8)。非常に重要と回
答した企業数が最も多かった項目は「CDM 実施の地域間不均衡」であり、最も少ないもの
は「審査・登録・発行に時間がかかる」であった。このことから、CER のみを購入してい
る企業ほど、
手続きに要する時間の長期化よりも、
中国やインドといった限られた国に CDM
プロジェクトが偏在することを問題視していることが明らかとなった。実際、企業は海外
投資を行う際に、その国の政治面や社会情勢といったカントリー・リスクを考慮して投資
先を決定する。特に、CDM が集中する国は、最近急成長を遂げた新興国であり、政治面や
制度面において、様々な問題を抱えている。回答結果をみると、このようなカントリー・
リスクへの警戒感は、CDM 投資ではなくセカンダリー・マーケットでの CER の購入へと企
業を向かわせる要因として働いていると考えられる。
91
図 4.8
CDM 制度についての問題点(企業数)
7
1
12
CDM実施の地域間不均衡
5
2
12
予想量に比べて実際のCERが少ない
15
4
厳格に追加性を実証する必要がある
1
16
2
審査・登録・発行に時間がかかる
0
非常に重要
5
重要
10
15
20
重要でない
注: CDM プロジェクトへ不参加・参加検討なし、かつ CER のみ購入した企業
出所: 調査データより, 筆者作成.
日本は、京都議定書において、2008 年から 2012 年の間に GHG 排出量を 1990 年比 6%削
減することが義務付けられている。そのため、調査が行われた 2011 年以降も、企業は排出
削減の手段の 1 つとして、国際的なクレジット制度を利用することが考えらえる。そこで、
調査では、
「2012 年までの CER を購入予定」と「2012 年以降の CER 購入予定」について質
問を行った。
今後の CER 購入予定について、すべての回答企業と CDM プロジェクトに参加した経験
のある企業、CDM プロジェクトへの参加を検討した経験のある企業、そして CDM プロジ
ェクトについて検討したことのない企業、という 4 つのグループに分けてまとめたものが
表 4-2 である。まず、すべての回答企業で見た場合、両期間(2012 年まで・2012 年以降)
とも、予定は無いと回答した企業の割合が、予定があると回答した企業の割合を大きく上
回る結果となった。また、CDM プロジェクトに参加・参加検討をしたことがある企業ほど、
今後 CER を購入する予定があると回答する割合が高くなることが明らかとなった。
92
表 4.2 今後の CER 購入予定に関する調査結果(%)
2012年まで
はい
いいえ
5.5
94.5
(31)
(534)
2012年以降
はい
いいえ
3.9
96.1
(21)
(523)
CDMプロジェクトへの
参加企業
38.7
61.3
22.2
77.8
(12)
(19)
(6)
(21)
CDMプロジェクトへの
参加検討企業
21.9
78.1
23.3
76.7
(7)
(25)
(7)
(23)
CDMプロジェクトへの
参加未検討企業
2.3
97.7
1.7
98.3
(11)
(464)
(8)
(453)
全体
注: カッコ内の数字は企業数.
出所:調査結果より, 筆者が作成.
さらに、今後 CER を購入する予定があると回答した企業に対して、それぞれの期間でど
の程度の CER 購入量を予定しているのか質問したところ、以下のような結果が得られた(図
4-9、図 4-10)
。
図 4.9 CER 購入予定量と回答企業
(2012 年まで)
8
7
7
6
6
5
全体
CDM実施
4
4
CDM検討
3
CDM未検討
3
3
2
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
0
0
0
0
0
0
0
10~100
100~1,000
1,000~1万
1万~10万
出所: 調査データより, 筆者作成.
93
10万~100万
図 4.10 CER 購入予定量と回答企業
(2012 年以降)
4
3
3
3
全体
2
2
CDM実施
2
CDM検討
CDM未検討
1
1
1
1
1
1
1
1
1
0
0
0
0
0
100~1,000
1,000~1万
1万~10万
10万~100万
出所 :調査データより, 筆者作成.
回答企業全体を、2012 年までの CER 購入予定総量と 2012 年以降での CER 購入予定総量
で比較すると、前者の方が約 120 万トンと後者(約 22 万トン)の約 5 倍の大きさとなった。
これは、2012 年以降における国際的な枠組み(ポスト京都)が明確となっていないため、
企業が京都議定書の第 1 約束期間に比べ CER の購入に消極的になっていることを意味して
いると考えられる。しかしながら、この結果は、CDM 制度が存続するか不確実な中でも、
企業によっては CER 購入の計画があることも示している。
4.4 企業による国内におけるクレジット制度の認識
4.3 では、日本企業による CDM といった国際的クレジット制度の利用状況について見て
きた。国際的な制度とは別に、日本国内でも、排出削減からクレジットが得られる国内ク
レジット制度と J-VER 制度が実施されている。そこで本節では、国内クレジット制度と
J-VER 制度について説明を行い、企業がこうした国内におけるクレジット制度に対してど
のような考えを持っているのかを、調査から得られた回答結果を用いて明らかにする。
4.4.1 J-VER 制度と国内クレジット制度
J-VER 制度とは、国内での排出削減・吸収プロジェクトによって実現された GHG 削減量
に応じて、認証運営委員会がクレジットを認証する制度である。この制度は、環境省によ
って 2010 年より導入された。同制度では、企業や自治体に対して、バイオマスによる化石
燃料の代替、森林吸収源、植林、森林管理、再生可能エネルギーといったプロジェクトを
94
実施することが認められている。さらに、J-VER は、市場での流動性が高く、自由に取引で
きる仕組みとなっている。しかし、この制度によって発行されたクレジットは、今のとこ
ろ排出量取引制度や京都議定書の目標達成には利用できず、あくまでも企業の社会的貢献
などに利用されている(諸富・山岸 2010)
。
国内クレジット制度は、産業界全体での GHG の削減を目的として、経済産業省が中心と
なって 2008 年より開始した制度である。その概要は、CDM と同様に、大企業が中小企業
に対して GHG 削減につながるプロジェクトに資金や技術を提供し、それによって削減され
た排出量をクレジットとして発行する仕組みである。そして、プロジェクトから得たクレ
ジットは、大企業の日本経団連による環境自主行動計画(以下、自主行動計画)といった
京都議定書の削減目標を達成するための補完的なものとして利用することができる。国内
クレジット制度では、中小企業での GHG 削減プロジェクトの他にも、バイオ燃料や再生可
能エネルギーに関するプロジェクトなどが認められている。
4.4.2 国内におけるクレジット制度に対する認識
調査では、日本企業が排出削減を行う上で、国内におけるクレジット制度(J-VER 制度、
国内クレジット制度)の利用について、どのような観点から魅力を感じているかを把握す
るため、3 つの質問を行った。
まず、J-VER について見てみる。ここでは、削減プロジェクトとして「森林吸収」、
「農業・
肥料改善」、
「バイオ燃料」
、「再生可能エネルギー」、「中小企業における削減」を挙げ、そ
れぞれ「社会的評価」、
「削減効果」、
「費用対効果」という点について、魅力を感じるのか
について質問を行った。
表 4.3
J-VER の各プロジェクトに対する魅力(%)
(複数回答可)
森林吸収
農業・肥料改善
バイオ燃料
再生可能エネルギー
中小企業における
削減
社会的評価
削減効果
費用対効果
33.6
10.5
15.9
23.8
14.0
5.2
13.7
18.1
4.30
3.80
8.70
11.80
未検討のため
わからない
60.5
83.6
70.2
59.0
13.2
11.0
11.00
70.1
注:それぞれの削減プロジェクトに対する回答企業数は, 森林吸収:559 社, 農業・肥料改善:554 社, バイオ燃
料:553 社, 再生可能エネルギー:559 社, 中小企業による削減:555 社である.
出所:調査結果より, 筆者作成.
表 4-3 は、J-VER に関する各企業の回答結果を示したものである。すべてのプロジェクト
において、社会的評価の観点から魅力を感じると回答した企業の割合が最も高い結果とな
95
った。特に、森林吸収と再生可能エネルギーについて、社会的評価の観点から魅力を感じ
ると回答する企業の割合が高い結果となった。一方、費用対効果について魅力を感じると
回答した企業の割合は、すべてのプロジェクトで最も低いことが分かった。
次に、国内クレジット制度について見てみる。ここでは、削減プロジェクトとして「バ
イオ燃料」
、
「再生可能エネルギー」
、そして「中小企業における削減」という 3 つの項目を
提示し、
J-VER と同様に 3 つの観点項目から、企業が魅力を感じるかについて質問を行った。
表 4.4 国内クレジット制度の各プロジェクトに対する魅力(%)
(複数回答可)
バイオ燃料
再生可能エネルギー
中小企業における
削減
社会的評価
削減効果
費用対効果
16.6
25.0
13.0
18.1
9.5
11.9
未検討のため
わからない
68.8
60.7
15.2
11.1
12.9
67.8
注:それぞれの削減プロジェクトに対する回答企業数は, バイオ燃料:555 社, 再生可能エネルギー:559 社,
中小企業における削減:559 社である.
出所:調査結果より, 筆者作成.
表 4-4 は、国内クレジット制度に関する各企業の回答結果を示したものである。ここでも、
すべてプロジェクトにおいて、社会的評価の観点から魅力を感じると回答した企業の割合
が最も高い結果となった。特に再生可能エネルギーについては、その傾向が強い。一方、
費用対効果の観点から魅力を感じると回答した企業の割合は、ここでも最も低い結果とな
った。したがって、J-VER 制度と国内クレジット制度は、諸富・山岸(2010)で指摘されて
いるように企業の社会貢献に利用されており、効率的な削減オプションとして認識されて
いない可能性が示された。
ただし、注意しなければならない点として次の点が挙げられる。それは、6 割以上の回答
企業が両制度の削減プロジェクトに対する評価について、「未検討のためわからない」と回
答している点である。これは、多くの企業において、両制度についての認識が低いことを
意味している。したがって、企業が国内で GHG 削減を実施する上で、国内のクレジット制
度をより積極的に利用してもらうためには、同制度を広報し、利用し易い制度へと修正し
ていく必要があるのではないだろうか。
4.5
企業の国内排出量取引制度に関する認識
日本国内では、4.4 で見たクレジット制度の他に、自主的ではあるが「自主参加型国内排
出量取引制度(Japan’s Voluntary Emission Trading Scheme: JVETS)
」と「試行排出量取引制度」
といった制度が実施されている。そこで本節では、まず、これらの制度について説明を行
96
う。そして、次に導入が検討されていたキャップ・アンド・トレード型の排出量取引制度
に対して、どのような問題を抱えているのかという点について調査結果を用いて考察を行
う。
4.5.1 自主的な排出量取引制度
環境省が 2005 年から開始した JVETS は、国内でのキャップ・アンド・トレード型の排出
量取引制度の導入に向けた知見・経験の蓄積を目的としている。その概要は、CO₂排出削減
のための設備補助を行いつつも、参加事業者に対しては一定量の削減目標の設定とその達
成に向けた削減努力を求め、その上で排出枠の市場取引を認めるというものである。また、
目標が達成できなかった事業者に対しては、補助金の返還や企業名の公表といった罰則が
課される。
事業者が JVETS に参加する意義として、次の 3 つが挙げられる。第 1 に、経済的利点で
ある。JVETS では、一定条件を満たす参加事業者に対して、CO₂排出削減設備への補助金
が交付される。また、排出枠の取引が可能であるため、余剰排出枠の売却益が期待できる。
第 2 に、企業が排出量取引を実施する上で必要な知識の蓄積が挙げられる。健全な排出量
取引市場を創設するには、排出枠に対する信頼性の確保が必要不可欠である。そのため、
JVETS ではこうした信頼性確保のため、基準年度および削減対策実施年度の排出量につい
て第三者検証を実施してきた。参加事業者は、環境省の費用負担で、取引を行う上で必要
な排出量のモニタリング・算定・報告・検証を行うことで、一連の実務面に必要なノウハ
ウを蓄積することが可能となる。第 3 に、企業イメージの向上が挙げられる。積極的に環
境問題に取り組んでいる点をアピールすることで、ステークホルダーからの評価を高める
ことが期待できる。
一方、
「試行排出量取引制度」は、JVETS と同様に、国内排出量取引制度の導入に向けた
自主参加型の試験的な制度であり、2008 年度から開始された。さらに、この制度は、国内
統合市場を目指し、様々な排出枠・クレジット(国内クレジット、京都クレジット)の取
引も認めている。
企業が試行排出量取引制度に参加する意義として、次のような経済的利点が挙げられる。
まず、この制度も、JVETS と同様に市場での排出枠の取引を認めているため、余剰排出枠
の売却益が期待できる。さらに、そこから得られた排出枠やクレジットを、自主行動計画
の中で掲げられた削減目標の遵守のために利用することが認められている点も、参加の意
義として大きいと考えられる。
しかし、試行排出量取引制度は、基本的には自主行動計画をベースとしている。そのた
め、排出枠に上限がないことや、原単位目標の選択による厳格な意味での排出量管理が不
十分であるといった、自主行動計画そのものが抱える問題点をそのまま共有していること
が問題である。
97
4.5.2 国内排出量取引制度の課題
本調査が実施された 2010 年度時点において、国内排出量取引制度についての議論が盛ん
に行われていた。さらに、地方自治体レベルでは、すでに東京都が 2010 年 4 月に排出量取
引制度をスタートさせていた。こうした国内での排出量取引に関する情勢の中で、環境省
や経済産業省の検討会においては、排出枠の設定や割当量、モニタリング・算定・報告・
検証の方法、そして国と地方とでの関係などといった国内排出量取引制度における問題点
が指摘されてきた。そこで調査では、図 4-11 で示されている 14 の問題点を挙げ、対象企業
がどのように考えているのかについて、
「重要でない」、
「重要」、
「非常に重要」の 3 段階に
分けて回答してもらった。
図 4.11 国内排出量取引制度の課題
(複数回答可)
55.5
排出枠の設定方法(n=508)
46.0
排出枠の総量(n=502)
50.2
45.7
排出量のモニタリング・算定・報告・公表・第三者検証(n=512)
国内外での排出削減に貢献する業種・製品への配慮措置(n=495)
49.7
36.0
52.7
34.3
55.2
10.5
32.9
電力の扱い(n=496)
適切な市場基盤(n=500)
32.1
54.8
30.6
59.2
10.2
62.0
11.9
22.5
対象期間(n=494)
22.5
国と地方の関係(n=494)
14.2
対象となるガスの選定(n=500)
0.0
非常に重要
14.0
53.1
26.2
各種費用緩和措置(n=497)
6.0
11.3
ポリシーミックスの在り方(n=493)
国際競争力・炭素リーケージへの配慮措置(n=493)
4.0
5.5
48.8
44.3
排出枠の設定対象(n=499)
5.2
48.8
45.8
遵守期間・ルール(n=502)
3.9
40.6
10.0
重要
13.1
59.7
17.8
52.6
24.9
27.0
58.8
20.0
30.0
40.0
50.0
60.0
70.0
80.0
90.0
100.0
重要でない
注: n は回答企業数.
出所: 調査データより, 筆者作成.
14 項目すべての問題点について、
「非常に重要」
、
「重要」と回答した企業の割合が 7 割を
上回った。特に、
「排出枠の設定方法」、
「排出量のモニタリング・算定・報告・公表・第三
者検証」といった上位 5 項目について、9 割以上の企業が非常に重要・重要と回答している。
一方、「重要でない」と回答した企業の割合が高かった項目は、「対象となるガスの選定」
(27.0%)
、そして「国と地方の関係」(24.9%)であった。以上のことから、企業は排出量
取引制度の課題として、
「排出枠の設定の仕方」等の排出枠に関するものに加え、「モニタ
リング・算定・報告・公表・第三者検証」を重要視していることが明らかになった。この
点については、今後、国内制度はもとより、国際標準になり得る ISO 14064/14065 の普及等
について、調査分析を行う必要性があることを示している。
98
最後に調査では、国内排出量取引制度を補完する措置として、望ましい制度について、
「国
内クレジット制度」
、
「国際クレジット制度」
、そして「J-VER 制度」の 3 つの制度を提示し、
選択をしてもらった。回答結果より、国内クレジット制度を選択した企業が 54.6%と最も多
く、J-VER 制度を選択した企業(39%)と国際クレジット制度を選択した企業(31.6%)を
大きく上回る結果となった。このことから、多くの企業が、国内での削減措置に対する選
好が強いことが明らかになった。
ただし、
企業にとって国際クレジット制度は現状では CDM
しか存在していない。そのため、国際クレジットの支持率の低さは、CDM 制度に対する不
満の表れとも考えられる。
4.6 おわりに
本章では、現在行われている排出量取引について、上場企業を対象としたサーベイ調査
の結果を用いて日本企業の実態を示した。調査より、CDM に参加した経験のある企業、も
しくは、そこから発行される排出枠である CER を購入した経験をもつ企業は、上場企業の
中でも一部であることが示された。これらの調査結果より、一部の熱心な企業を除いた国
内の多くの企業にとって、排出量取引がまだ新しい、未知の制度であることが明らかにな
った。同時に、CDM に関しては、審査・登録・発行に関わる時間や、追加性の証明等に問
題があると、企業から認識されていることが客観的に確認できた。また、CDM の地域間不
均衡が、企業の CDM プロジェクトへの参加を抑制している可能性も示された。これらの背
景のもとで、二国間クレジットの提案や、CDM の改革に向けた提案 6)がなされているが、
今後、ポスト京都の決定に合わせて、早急に新しい制度を確定していくことが必要である
だろう。
また、国内クレジット制度や J-VER 制度についても、参加企業はその費用対効果性より
社会貢献に魅力を感じている傾向があることが示された。排出量取引制度の本質が、費用
対効果性の高い点にあることが理解されていない可能性が伺える。この点は、現状では、
日本企業が法的規制のある排出目標を課されていないため、必ずしも削減の費用対効果性
を検討する必要がないことに起因していると考えられる。しかし、それと同時に、この結
果は排出量取引制度の理解が十分に進んでいないことも示唆している。
これら CDM と国内制度の調査より、排出量取引という新しい政策手段が、企業にその中
身を十分に理解されていない可能性が明らかになった。政策当局は、排出量取引という制
度の説明をさらに進めていくべきであるだろう。
また、キャップ・アンド・トレードが型の国内排出量取引制度導入にあたって、排出枠
の配分方法や、削減目標とならんで、排出枠の品質に関わる「排出量のモニタリング・算
定・報告・公表・第三者検証」が重要な課題として、企業に認識されていることが示され
た。
6)
IGES(2010)や、有村(2011b)等がその例である。
99
5.
温室効果ガス排出算定の国際規格の動向:ISO 14064・ISO 14065 を中心に
5.1 はじめに
事業活動と環境の調和を図ることを求められるのが一般的になった企業にとって、地球
温暖化の主要因として考えられている温室効果ガス(Greenhouse Gas: GHG)の排出量を削
減することは経営上の重要課題の 1 つであり、企業はそのために様々な取組みを行ってい
る。同時に取組みの成果を外部に示すことも求められ始めている。機関投資家が連携し、
企業に対して地球温暖化問題への戦略や GHG 排出量の公表を求める「カーボン・ディスク
ロージャー・プロジェクト」はその一例である。
こうした流れの中で、GHG 排出量データの信頼性の向上が求められるようになってきた。
前章で説明した ISO 14064 は国際標準化機構(International Organization for Standardization:
ISO)が 2006 年 3 月に発行した規格で、GHG の排出量•削減量を共通の基準に基づき測定•
管理することを可能にし、
「1 トンの CO2 は常に 1 トンの CO2(a tonne of carbon is always a
tonne of carbon)
」であることを保証するためのものである(Weng and Boehmer 2006)
。この
規格を企業が採用した場合、GHG 排出量データの信頼性は向上することが予想されるが、
規格を採用するかどうかは企業の自主的な判断に委ねられている。そのため ISO 14064 規格
の採用はあまり普及しないこともあり得るが、環境マネジメントシステム(Environmental
Management System: EMS)の国際規格である ISO 14001 認証のように、多くの企業がこの規
格を採用する可能性もある。
本章においては、特に企業経営に関わる ISO 14064 規格の内容をふまえ、規格のもつ特徴
を説明する。また、本章では国内の上場企業を対象とした調査から得られたデータを使用
し、どのような要因が企業に ISO 14064 規格の採用について前向きにさせるのかについても
分析している。ISO 14064 規格の普及のためには、どのような政策が有効であるかについて
示唆を与えることも本章の目的である。決定要因を分析するにあたり、研究面そして政策
面において重要と考えられる要因である ISO 14001 の認証取得の有無に、特に焦点を当てる。
本章の構成は以下の通りである。5.2 では、ISO 14064 規格と ISO 14065 規格の特徴を述べ
た上で、5.3 では、ISO 14064 規格の制定過程をふまえた概要説明を行う。5.4 では ISO 14064
規格採用の決定要因に関する分析を行い、最後に本章の結論を述べる。
5.2 ISO 14064 規格と ISO 14065 規格の特徴
ISO 14064 規格は 3 部編成で構成されている規格である。
第 1 部である ISO 14064-1 では、
企業・公的機関などの様々な組織が、自らの GHG 排出量をどのように定量化するかという
算定・報告の手順が示されている。第 2 部である ISO 14064-2 では、GHG プロジェクトに
おける排出量の削減又は吸収量の増加をもたらすことを意図した活動の定量化、モニタリ
ング、報告のための原則並びに要求事項について規定し、その手引きが示されている。そ
100
して、第 3 部である ISO 14064-3 においては、組織が定量化した排出量の検証を行う際の手
順・要件と、プロジェクトを実施する際の妥当性確認ならびに検証を行う手順・要件が規
定されている。
これらの規格をすべてパッケージとして活用する場合には、ISO 14064-2 に該当するプロ
ジェクトによる GHG 排出量削減は、ISO 14064-1 で示される組織の GHG 排出動向の一部と
して組み込まれ、その削減実績を含めた報告を行うことができる。また、報告の際に、ISO
14064-3 に規定されている検証の手順及び要件を満たすことで、その情報の信頼性を確保す
るとともに、他の組織との比較可能性を担保することができる仕組みとなっている。ISO
14064 そのものは、上記の 3 部すべてを導入することで、社会に向けてより信頼性のある
GHG 排出量に関する情報発信を行うことが可能となるような要件や手順を記載している。
しかしながら、ユーザーは自らが必要とする一部分だけを選択して実施することも可能と
されている。ISO 14064 規格の特徴として、このようなユーザーにとっての高い柔軟性が挙
げられる。
また、同規格の中に、第三者による検証を求める要求事項が存在しないことも特徴的で
ある。しかし、多くの国や地域で実施されている排出量取引制度や、国連における CDM な
どの法的拘束力を有する制度では、第三者による実績の検証が要件の一部とされている制
度も少なくない。そこで ISO 14065 では、組織が算定した GHG 排出量の検証や、プロジェ
クトを実施する際の妥当性確認及び検証を行う機関に対する要求事項を定め、ISO 14064-3
で規定した妥当性確認や検証を実施する外部検証機関の実務的要件を規定している。この
ように、ISO 14065 は一定の要件を満たした検証機関の行動によって制度全体の信頼性を高
めるという意味で、ISO 14064 制度を補完する役割を有している。つまり、ISO 14064-1、ISO
14064-2 の要求事項に基づいた GHG に関する主張に対する妥当性確認と検証について規定
しているのが ISO 14064-3 であり、さらに制度全体の信頼性を高める形で外部検証機関の実
務要件を規定したのが ISO 14065 である。
また、引き続く ISO14066 においては、こうした検証機関における審査員や検証員の力量
に関する要件が規定され、検証機関における検証能力を担保することによって GHG 排出量
や吸収量の検証に際しての検証機関ごとのばらつきをなくし、
ISO 14064 を中心とした GHG
規格そのものの信頼性を維持することが検討されている。これらの関連性をまとめたもの
が、図 5-1 である。
101
図 5.1 ISO14064 規格類と ISO14065 との関連性
組織
プロジェクト(組織境界外)
ISO14064-1
組織のGHGインベン
トリの開発及び設計
ISO14064-2
GHGプロジェクト
の設計及び実施
GHGに関する主張
GHGに関する主張
妥当性確認及び/
又は検証
ISO14064-3
妥当性確認及び検証プロセス
検証
ISO14065
妥当性確認又は検証を行う機関に対する要求事項
制
度
自
身
の
信
頼
性
の
向
上
ISO14066
審査員・検証員の力量要件
出所: JIS Q(ISO) 14064-1 序文「図 1 JISQ 14064 規格群の関係」の内容を参考に筆者作成.
ISO 14064 規格によってもたらされる効果として、JIS Q14064-1 の序文では、1)GHG の
定量化における環境面からの安全性の向上、2)GHG プロジェクトによる排出量の削減及び
吸収量の増加を含む、GHG の定量化、監視及び報告の信頼性、一貫性及び透明性の向上、
3)組織の GHG の管理戦略及び計画の策定及び実施の促進、4)GHG プロジェクトの開発及び
実施の促進、5)GHG の排出量の削減及び/又は吸収量の増加によるパフォーマンス及び進
捗状況を把握する能力の向上、6)GHG の排出量の削減又は吸収量の増加によるクレジット
の付与及び取引の促進、という 6 つが挙げられている。また、これらに合わせて、ISO 14064
規格を企業のリスク管理や自主的な取組み、規制当局や政府への報告に活用することで、
便益が得られる可能性も示唆されている(JIS
Q14064-1
序文)。
ISO 14064 規格の大きな特徴として、中立的な性格が挙げられる。この点について、JIS
Q14064-1 では、
「JIS Q(ISO)14064 規格群は、いかなる GHG プログラムに対しても中立
的である。何らかの GHG プログラムが適用される場合、該当する GHG プログラムの要求
事項は、JIS Q(ISO)14064 規格群の要求事項に追加して適用する。」(JIS Q14064-1、2、3
適用範囲、
(ISO)は説明のため筆者が追加)と記載されている。これは、欧米において排
出量取引制度の検討や実施がすでになされつつある状況下で、ISO 14064 規格の開発が進め
られたことに起因する。また、京都議定書に対し不参加の表明をしたアメリカと、参加す
る日本・欧州といった立場の違いを考慮し、どの国における制度においても活用が可能で
ある内容を目指して規格開発が行われたことも、ISO 14064 規格が特定プログラムに準拠せ
102
ず、中立的な立場を確保している理由の一つである。
このような中立的な性格をもつ ISO 14064 規格の内容は、手順を中心として述べられてお
り、指針の内容も一般的な表記が多い。さらに、具体的な事例についても規格内で詳細を
述べることは控えられ、限定的な記述となっている。しかしながら、各国における GHG プ
ログラムに関する手順類で適用可能となったことで、各国や各地域で様々に制定し実施さ
れてきたプログラムを横断した、GHG 排出量の算定・報告・検証の共通基盤ができ、排出
量取引市場の国際リンクに向けた第一歩を踏み出すことができたということが、この規格
制定の意義だといえる。
5.3 ISO 14064 規格の内容
5.3.1 ISO 14064-1 の内容
ISO 14064-1 規格は、組織のための GHG の排出量及び吸収量の定量化・報告に関する、
原則及び要求事項について規定している。
ISO 14064-1 では、要求事項の基本となる 5 つの原則が挙げられている。まず、組織は国・
自治体・消費者などといった利用者の必要に適した、GHG の排出源、吸収源、貯蔵庫、デ
ータ及び方法を選択することが求められる(適切性)。そして、対象となる範囲・期間にお
ける、すべての適切な GHG の排出量及び吸収量を含めること(完全性)、GHG 関連の情報
について有意義な比較を可能とすること(一貫性)
、バイアス及び不確かさを減少させるこ
と(正確性)
、ステークホルダーが合理的な確信をもって判断を下せるように、十分かつ適
切な GHG 関連の情報開示を行うこと(透明性)が求められる(JIS Q14064-1
3 原則 以
下要求事項番号のみ記載)
。
ISO 14064-1 規格にもとづき、GHG 排出量を算定する際には、どの範囲に焦点を当て、ど
のように算定するのかという点が問題となる。排出量を算定する範囲に関しては、組織境
界と活動境界という考え方が用いられている。組織は組織境界を設定し、その範囲内にお
ける GHG の排出源や吸収源、ならびに GHG の排出量・吸収量を確定する必要がある。組
織境界を設定する際には、単数の組織から構成しても、複数の組織から構成してもよい。
組織境界内における施設レベルで GHG の排出量及び吸収量を連結方法には、財務支配力や
経営支配力が及んでいるかどうかで決定するという支配アプローチと、出資比率に応じた
割合で決定するという出資比率アプローチの 2 つがある。支配アプローチを選択した場合
には、持分所有があったとしても支配力がない事業からの GHG の排出量又は吸収量を連結
することはできない。この支配については、さらに財務支配又は経営支配といった基準が
含まれており、いずれの判断基準を選択するかは組織の判断に任される。出資比率に基づ
くアプローチを選択した場合には、経済的な持分、または施設から派生する便益に占める
割合で決定される。そのため、複数の国や地域で活動を行う多国籍企業にとっては有用と
される。もちろん、これらのアプローチ以外の方法を選択することも可能であるが、いず
れの方法においても文書での規定が必要となる(4.1 組織の境界)
。
103
また、この規格は、組織境界内での活動を対象としているため、活動の境界を設定する
ことが重要となる。そのため、組織の活動に関連してどのような GHG の排出量及び吸収量
が存在するのかを特定することが求められる。算定対象となる排出は、直接的な排出と間
接的な排出とに分けられている。直接的な排出とは、自らが所有または支配する範囲での
化石燃料の使用に伴う排出や、製造工程における排出が該当する。そして間接的な排出に
は、自らが受け入れて消費した電力、熱などの生成段階で放出されるエネルギー起源の排
出などが該当する。この規格では、これらの活動の境界についても文書化を要求している
(4.2 活動の境界)
。
どのように算定するのかという点に関わる、GHG の排出量及び吸収量の定量化の項目で
は、GHG の排出源及び吸収源の特定、定量化の方法の選択、GHG 活動データの選択及び収
集、GHG の排出係数又は吸収係数の選択又は開発、GHG の排出量及び吸収量の計算という
段階をとる必要があると述べられている。
定量化の方法としては、1)計算に基づく方法、2)測定に基づく方法、3)計算に基づく方法
と測定に基づく方法との組み合わせ、という 3 つの方法がある。計算に基づく方法には、
GHG 活動データに GHG 排出係数・吸収係数を乗じる方法や、モデルの利用、施設特有の
相関関係、質量バランスアプローチなどがある。また、測定に基づく方法には、濃度計に
よる直接的な測定などが該当する。これらの定量化の方法のうち、どの方法を用いるかは、
組織によって決定されるが、その選択については説明が必要となる(4.3.3
定量化の方法
の選択)
。
GHG 排出量及び吸収量の定量化の際に必要となる、GHG の排出係数又は吸収係数の選択
や開発については、1)一般的に認められた出所をもっていること、2)該当する GHG の排出
源や吸収源に対して適切であること、3)定量化の時点で有効であること、4)定量化の不確か
さを考慮すること、5)適切で再現性のある結果を出す意図をもって計算すること、そして、
6)GHG インベントリの意図する用途との一貫性をもつこと、という 6 つの点が要求されて
いる。排出係数や吸収係数は、GHG 排出量・吸収量の定量化に対して決定的な影響を及ぼ
すことから、それらの選択・開発に関しては正当な根拠の特定が求められている(4.3.5
GHG の排出係数又は吸収係数の選択又は開発)。
実際に作成する GHG インベントリは、1)GHG の排出量及び吸収量、2)GHG の排出量の
削減又は吸収量の増加を図る組織の活動、3)基準年のインベントリ、4)不確かさの評価及び
削減という 4 つの要素によって構成されることが求められている。
構成要素の 1 つである、GHG の排出量及び吸収量の定量化にあたっては、測定の単位と
してトンを使用するとともに、適切な GWP(global warming potential)2を用いて、各種の GHG
の量を換算せねばならないとされ、IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)が作成し
た GWP が参考として附属書 C に記載されている(5.1 GHG の排出量及び吸収量)。また、
基準年の選択については、基本的には過去の基準年を設定するべきであるとしながらも、
2
GWP は、所定の期間において、それぞれの GHG の単位質量あたりの放射強制量の影響を、二酸化炭素
の相当量で記載する係数を表す(日本工業標準調査会審議 2011a)。
104
十分な情報がない場合には、最初に GHG インベントリを作成した年を基準年として用いる
ことができ、一定の柔軟性をもたせている(5.3 基準年の選択及び設定)。こうした GHG
の排出量や吸収量の算出については、排出係数や吸収係数を使用した計算による方式がと
られることが多いこともあり、これらの係数に関連する不確かさについても評価を行い、
文書化することが求められている(5.4 不確かさの評価及び削減)。
GHG インベントリについては、その情報が事実と異なる場合には、信頼性を大きく損ね
る結果にもなる。そのため、規格では、GHG インベントリの品質管理として、GHG の情報
管理と、文書保持及び記録保管について規定している。GHG インベントリの内容の品質を
保持するためには、組織内部におけるマネジメント体制の強化と構築が重要となる。その
ため、詳しくは後述するが、品質管理の要求事項のなかには、組織そのもののマネジメン
トに関わるシステム要求事項が多く組み込まれている(6 GHG インベントリの品質管理)
。
ISO 14064-1 では、組織は上記の内容に関する情報を、GHG 報告書によって提供することが
望ましいとされている。これらの報告書は前述した 5 つの原則に照らして作成される。ま
た、組織が規格に適合している旨を記した GHG に関する主張を公表する場合には、その主
張についての独立した第三者による検証の声明書を一般に公表しなくてはならない。そし
て、これらの報告書の計画や報告書の内容についても詳細が記載されている(7 GHG 報告)
。
この規格は、検証の全体的なねらいについて、「報告された GHG の排出量及び吸収量、又
は、GHG に関する主張を ISO 14064-3 の要求事項に照らして公平かつ客観的にレビューす
る」
(8 検証活動における組織の役割)とし、ISO 14064-3 規格に言及している。そして、
検証のための準備をし、計画を立てた上で、該当するプログラムに適切な要求事項を考慮
しながら、GHG インベントリの意図した利用者の要求事項に基づいて、適切な保証水準を
決定する。そして意図した利用者のニーズ、ならびに ISO 14064-3 の原則及び要求事項によ
って検証を行うとされている。
同規格では、検証を行う者の力量についても定めており、GHG 管理の意義の認識、検証
対象となる事業やプロセスへの理解、検証のための必要な専門知識、この規格内容の内容
や目的への精通などが求められている。あわせて検証を行う者の力量については、ISO 14065
に規定される力量も確実にしなくてはならないとし、組織における検証人選定に対する要
求が規定されている(8.3.3 検証を行う者の力量)
。また、検証を行う者は被検証事業の運
営から独立した要員であることが望ましいとし、独立性が要求されている。
そして、検証を行う者に対して、検証活動の目的、範囲及び基準についての記述、保証
水準についての記述、検証を行うものの何らかの条件又は限定のついた結論などの事項を
含む声明書の提出を要請することができるとしている(8.3.4 検証の声明書)。この規格そ
のものは単独でも適用することができるのであるが、ISO 14064-3 や ISO 14065 の要求事項
を満たすことによって、より信頼性の高い GHG 排出量及び吸収量の定量化や報告が可能と
なっている。
105
5.3.2 ISO 14064-2 の内容
ISO 14064-2 規格は、GHG プロジェクトやこれに起因する何らかの GHG 排出量の削減や
吸収量の増加について、ユーザー間や GHG プログラムの間での比較を可能とするために、
定量化、モニタリング及び報告に関する標準化された手順類が規定されている。
この規格の要求事項の基本となる原則として、ISO 14064-1 で紹介した適切性、完全性、
一貫性、正確性、透明性に保守性を加えた 6 つの原則が取り上げられている。保守性では、
GHG の排出量の削減又は吸収量の増加が過大に評価されないことを確実にするために、保
守的な仮定や、数値及び手順を使用することが求められている。
ISO 14064-2 規格では、大きく計画段階と実施段階の 2 段階が念頭におかれており、それ
ぞれの段階において要求事項の内容が異なっている。計画段階では、プロジェクトの概念
を特定したうえで、プロジェクトを設計し、その実行可能性を評価することが想定されて
いる。そして、ステークホルダーと相談し、GHG プログラムの的確性に関する要求事項の
評価などをおこない、それが適切である場合には、該当する GHG プログラムや政府の所管
官庁に対してプロジェクトの受け入れの承認書を申請するというプロセスが記載されてい
る。ISO 14064-2 規格にでは、こうした計画段階の一連のプロセスにおける、GHG プロジェ
クトの確立及び文書化に関する要求事項が規定されている。
実施段階では、プロジェクト活動の開始から、プロジェクトの終了となるまでのプロセ
スが念頭におかれている。このプロセスには、GHG プログラムによる GHG ユニット3の定
期的な検証や認証及び承認、さらには、GHG 報告書の提出、最終的な GHG 排出量の削減
及び吸収量の増加の検証、GHG プログラムによる GHG ユニットの承認をうけるために、
最終的な GHG 排出量の削減及び吸収量の増加の認証をうけることが含まれている。ISO
14064-2 規格では、こうした実施段階での GHG の排出量・吸収量の算定、排出量の削減及
び吸収量の増加の定期的なデータ品質の管理、モニタリング、定量化及び報告などについ
ての基準及び手順の選択・適用に関する要求事項についても規定されている。
同規格においても、前述のように、異なる種類及び規模における GHG プロジェクトに幅
広く柔軟に適用できるように、特定の基準や手順を定めるのではなく、原則を確立し、プ
ロセスの要求事項を規定している。その結果、この規格は、すべての GHG プロジェクトと
整合できるようになっており、中立的な立場がとられている。日本工業調査会審議(2011a)
では、プロジェクトを対象とした ISO 14064-2 規格は、京都メカニズムがすでに存在してい
る中で規格制定の議論がなされたこともあり、京都メカニズムを重視する日本及び途上国、
京都メカニズムを重視しつつも自国の制度との整合性を求める EU 諸国、そして京都メカニ
ズムには反対の立場をとるアメリカとの間で、規格の内容について議論が大きく分かれた
と指摘されている。その結果、この規格は京都メカニズムとはまったく異なるものである
とすると同時に、実際には京都メカニズムにも使用ができるように配慮されたものとして
制定されることになった。このような中立的な性格を有しているため、この規格をより信
3
GHG ユニットは、認証された排出削減単位(CER)、排出削減単位(ERU)、クレジット及びオフセットを意
味する。GHG ユニットは通常 CO2 e トンで示される(日本工業調査会審議 2011a)
。
106
頼できる形で適用するためには、この規格そのものだけで十分とされるのではなく、GHG
プログラムや、グッドプラクティス、適切な法律、ならびに他の規格による追加的な要求
事項を用いることが必要となる。こうした法律や GHG プログラム、グッドプラクティスは
多くの出所から得られるものであり、継続的に進展しているがゆえに、時勢にあった運用
を可能にすることが重要となる。ISO 14064-2 規格では、グッドプラクティスの一例として、
WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)及び WRI(世界資源研究所)において、
提供される GHG プロトコルが挙げられており、その内容を引用することが望ましいとされ
ている。そこでは、WBCSD と WRI が、ISO のリエゾンメンバーであり、ISO 14064-2 規格
の制定過程での国際的な整合性について発言力を有していたことも影響していると指摘さ
れている。これらの歴史的な背景もあり、この規格は多種多様な制度の中でこの規格を原
則的な手順とするべきことが示されている(JIS Q14064-2
5.1 一般要求事項
以下要求事
項番号のみ記載)
。
表 5-1 は、この規格内容の概略を示したものである。同じ要求事項の中に、計画段階に行
われるべき内容と、実施段階に計画段階で行われるべき内容が記載されている。計画段階
では、緻密な手順の選択や確立を要求し、実施段階では運用を規定している項目が多く見
受けられる。
特に ISO 14064-2 では、前述の ISO 14064-1 とは異なり、GHG プロジェクトが対象となる
ことによって、プロジェクトについての記載内容やその対象の特定が重要となる。そのた
め、プロジェクトに適切な GHG の排出源や吸収源及び貯蔵庫等といった事項を考慮したう
えで、提案された GHG プロジェクトがなかった場合におきていたであろう状況を最もよく
表す仮説的な基準となるベースラインシナリオの特定及び評価のための基準や手順が規定
されている(JIS Q14064-2
5.4 ベースラインシナリオの決定)
。また、GHG の排出量及び
吸収量の定量化においても、過大評価にならないことを確実にする仮定及び数値を選択し
なければならないとしている。これらの定量化においては、ISO 14064-1 と同じく、GHG の
排出又は吸収係数の選択や開発についての正当性を求めている(5.7 GHG の排出量及び/
又は吸収量の定量化)
。GHG の排出量の削減及び吸収量の増加の定量化においても、適した
GWP を使用してトン換算しなければならないとしている(5.8 GHG の排出量の削減及び
吸収量の増加の定量化)
。また、そのように計算されたデータの品質管理においては、情報
管理を行う品質管理手順を確立して、適用しなければならないとし、GHG の排出量の削減
量及び吸収量の増加に関係する不確かさを低下させることを目的としている(5.9 データ
品質の管理)
。
GHG プロジェクトのモニタリングについても、プロジェクト及びベースラインシナリオ
に適切な GHG の排出量や吸収量の定量化・報告に重要なデータや情報の入手、記録、収集
及び分析のための基準及び手順を確立し、維持しなければならないとしている。また、測
定やモニタリングを行う際に用いる機器の校正は、現行のグッドプラクティスによるとさ
れている(5.10 GHG プロジェクトのモニタリング)。さらに、これらのプロジェクトがこ
の規格要求事項に適合していることを実証する文書を作成した上で、妥当性確認や検証の
107
基礎としている(5.11 GHG プロジェクトの文書化)。GHG プロジェクトの妥当性確認や
検証を受けることが望ましいとした上で、プロジェクト推進者は妥当性確認を行う者
(Validator)や検証を行う者(Verifier)に対して、GHG に関する主張を提出しなければな
らないと規定している。また、これらの妥当性確認や検証の、ISO 14064-3 の原則及び要求
事項への適合を確実にすることが望ましいとされている(5.12 プロジェクトの妥当性確認
及び/又は検証)
。そして、この規格への適合を表明する GHG に関する主張を公表する場
合には、ISO 14064-3 にしたがって作成された、独立した第三者による妥当性確認又は検証
の声明書、もしくは規格が要求する 11 の項目を満たした GHG 報告書が必要とされている
(5.13 GHG プロジェクトの報告)
。
表 5.1
ISO14064-2 規格要求事項内容
5.1 一般要求事項
5.2 プロジェクトの記載
プロジェクトに適切なGHGの排出
5.3
源、吸収源及び貯蔵庫の特定
5.4 ベースラインシナリオの決定
ベースラインシナリオのためのGHG
5.5 の排出源、吸収源及び貯蔵庫の特
定
GHGの排出量及び吸収量のモニタリ
5.6 ング又は推計のための適切なGHGの
排出源、吸収源及び貯蔵庫の選択
GHGの排出量及び/又は吸収量の定
5.7
量化
GHGの排出量の削減及び吸収量の増
5.8
加の定量化
5.9 データ品質の管理
5.10 GHGプロジェクトのモニタリング
5.11 GHGプロジェクトの文書化
5.12
ISO14064-2 の規格内容と関連規格類
計画段階
実施段階
該当
策定
更新
基準及び手順の 選択又は確立並びに適用
-
基準及び手順の 選択又は確立並びに適用
更新
基準及び手順の 選択又は確立並びに適用
-
基準及び手順の 選択又は確立並びに適用
-
基準及び手順の 選択又は確立
基準及び手順の 適用
基準及び手順の 選択又は確立
基準及び手順の 適用
基準及び手順の 選択又は確立
基準及び手順の 選択又は確立
基準及び手順の 確立
基準及び手順の 適用
基準及び手順の 適用
基準及び手順の 適用
排出量の削減又は吸収量の増
加の
検証
基準及び手順の 適用
GHGプロジェクトの妥当性確認及び
妥当性確認
/又は検証
5.13 GHGプロジェクトの報告
出所: JIS
Q(ISO
14064-2
基準及び手順の 確立
4
関連規格類
該当
GHG プロジェクト序文「図 4
IPPC作成GWP
(付属書B)
ISO14064-3
ISO14064-3
計画と実施との要求事項の関係」記載事項
に筆者加筆
5.3.3 ISO 14064-3 の内容
ISO 14064-3 規格は、GHG に関する主張の妥当性確認や検証を実施・運営管理する際の、
原則及び要求事項について規定し、手引きの指針を示したものである。ここでは、1)GHG
の妥当性確認を行う者や検証を行う者への要求事項、2)妥当性確認又は検証のプロセス、3)
妥当性確認又は検証の保証水準、目的、基準及び範囲の設定、4)妥当性確認や検証のアプロ
ーチ、5)GHG の情報システム及び統制の評価、6)GHG のデータ及び情報の評価、7)妥当性
の確認又は検証の基準に照らした評価、8)GHG に関する主張の評価、9)妥当性確認又は検
証の声明書、10)妥当性確認又は検証の記録、11)妥当性確認又は検証の後に発見された事実、
に関する要求事項を規定している。この規格においても、他の ISO 14064 規格類と同様に多
様なプログラムについて中立的な枠組みが規定されている。
この規格の要求事項の基本となる原則として、独立性、倫理的行動、公正な報告、職業
専門家としての正当な注意の 4 つが取り上げられている。独立性の原則では、偏りや利害
108
接触がないような独立した立場であることや、妥当性確認や検証が客観的な証拠に基づき、
終始一貫して客観性を維持することが求められている。また、倫理的行動の原則の中では、
妥当性確認や検証の進行中、終始一貫して信用があり、誠実であり、機密を保持し、分別
をもつことによって倫理的行動を実施することが求められている。公正な報告の原則では、
妥当性確認や検証の行動、所見、結論及び報告をありのままに、かつ正確に反映するとし、
活動中に遭遇した顕著な障害や、意見の食い違いなどについても報告をするとされている。
職業専門家としての正当な注意の原則では、自らが実施する業務の重要性、並びに依頼者
及び意図した利用者が抱いている信頼に見合う、職業家としての正当な注意を払って判断
を下すこと、そして、妥当性確認又は検証を実施するために必要な技能及び力量を備える
ことが求められる。
この規格は、前述の ISO 14064-1 や ISO 14064-2 とは異なり、妥当性確認を行う者又は検
証を行う者を対象にした規格である。そのため、力量に関わる内容に加えて、妥当性確認
や検証のプロセスについての手順が述べられている。そこでは、最初に妥当性確認を行う
者又は検証を行う者の役割、責任、力量、独立性、利害接触の回避、倫理的行動、公正な
行動、適用規格や GHG プログラムの要求事項を満たすこと、などが述べられている(JIS Q
14064-3
4.1
妥当性確認を行う者又は検証を行う者
以下要求事項番号のみ記載)。そし
て妥当性確認や検証を開始する前に、依頼者とその保証水準、目的、基準、範囲、重要性
などについて合意を形成することを要請し、依頼者のニーズと一致した妥当性確認や検証
を確実にすることが規定されている(4.3 妥当性確認又は検証の保証水準、目標、基準及
び範囲)
。さらに、これらの妥当性確認又は検証の計画については、依頼者との合意内容を
含めた、妥当性確認又は検証の活動及びスケジュールを策定しなくてはならない。また、
サンプリング計画書の作成においても、保証水準の達成に不可欠な定性的及び定量的証拠
の量や種類、サンプル決定のための方法論やその潜在的な誤り、脱漏または不実表示のリ
スクなどを考慮する必要がある(4.4 妥当性確認又は検証アプローチ)。
GHG 情報システム及びその統制の評価を行うに当たっては、潜在的な誤り、脱漏及び不
実表示の発生源に対する GHG 情報システム及びその統制の評価を求められている(4.5
GHG 情報システム及びその統制の評価)。組織又はプロジェクトの GHG に関する主張の評
価の証拠をそろえるための GHG のデータ及び情報の評価については、サンプリング計画書
に基づかなければならず(4.6 GHG のデータ及び情報の評価)、その上で、組織又は GHG
プロジェクトが、妥当性確認又は検証の基準に適合しているかという点について評価を行
う(4.7 妥当性確認又は検証の基準に照らした評価)
。さらに、収集された証拠が十分であ
るかという評価、証拠が GHG に関する主張を裏付けるものであるかという評価、を行う必
要がある。また、収集した証拠を評価する場合には、その重要性についても考慮する必要
があるとされている(4.8 GHG に関する主張の評価)。
これらのプロセスを経た上で、妥当性確認を行う者又は検証を行う者は、完了時に責任
当事者に妥当性確認又は検証の声明書を発行することになる(4.9 妥当性確認及び検証の
声明書)
。検証に関する記録についても、プロセス全体を通じた適切な管理が要請されてい
109
る(4.10 妥当性確認又は検証の記録)。そして、最後に妥当性確認又は検証の声明書の日
付までに十分な証拠の入手と情報特定を求めた上で、その後の事実については、適切な処
置を検討することも要求されている(4.11 妥当性確認又は検証の後に検出された事実)
。
以上に見るように、規格そのものの内容は基本的な手順となっており、この規格利用に関
する手引き(ISO 14064-3
付属書 A)により詳しい内容が記載されている。しかしながら、
これらの付属書も要求事項として強制されるものではなく、参考とされるべき手引きとし
て位置づけられている。
5.4 ISO 14064 規格採用の決定要因に関する実証分析
以下では、国内の上場企業を対象とした調査から得られたデータを使用し、どのような
要因が企業に ISO 14064 規格4の採用について前向きにさせるのかを分析する。決定要因を
分析するにあたり、研究面そして政策面において重要と考えられる要因である ISO 14001 の
認証取得の有無に、特に焦点を当てる。ISO 14001 認証取得企業の増加に伴い、「ISO 14001
認証取得企業は、未取得の企業に比べて環境パフォーマンスをより改善しているかどうか」
という問題に関しては数多くの先行研究がある。本章は、環境パフォーマンスそれ自体で
はなく、新しいマネジメント‧プラクティスの採用に対しての影響を分析することで、これ
まで先行研究で考えられてこなかった ISO 14001 認証取得の効果に光を当てる。
5.4.1 先行研究とリサーチ‧クエスチョン
ISO 14064はつい最近発行されたものであるため、学術的な研究、特にデータを分析した
ものはほとんど存在しない。様々な角度からISO 14064を分析することが可能であると考え
られるが、本章はISO 14001との関連を特に重要視する。その理由として、1)ISO 14001と
ISO 14064は双方ともISO規格であること、2)ISO 14001の認証取得またISO 14064の採用は
双方とも環境に対する企業の取組みであり、取得‧採用は自主的な判断にもとづくものであ
ること、が挙げられる。これらの共通点より、ISO 14001認証の取得の決定要因に関してこ
れまで先行研究で得られてきた結果は、ISO 14064の採用に影響を与える要因についても一
定の示唆を与えると考えられる。
ISO 14001認証の取得企業•事業所数の増加に伴い、認証取得の決定要因を分析する研究が
これまでに多数なされてきた(例えば、Arimura et al. 2008; Darnall 2003; Frondel et al. 2008;
Nakamura et al. 2001; Nishitani, 2009; 岩田他 2010)
。先行研究は、企業の規模、輸出先、主
な取引先のタイプ、ステークホルダーからのプレッシャーの有無、環境規制などを決定要
4
先述したように、ISO 14064-3 は主に第三者の検証実施機関を対象としたものといえるので、本章での実
証分析の対象は ISO 14064-1 および ISO 14064-2 となる。また、クリーン開発メカニズム(Clean Development
Mechanism: CDM)プロジェクトに参加している企業があまり多くないことから言えるように、GHG の除
去または吸収を強化するようなプロジェクトはそれほど一般的なものにはなっていない。従って、現時点
では、多くの企業が ISO 14064-2 にはあまり関心を持っていないことが想定される。このため、以下では特
に断りが無い限り、ISO 14064 と言った場合には ISO 14064-1 のことを意味することとする。
110
因として挙げている。先述の共通点より、これらの要因はISO 14064の採用にも影響を与え
ている可能性がある。
ISO 14001認証の取得が当該企業の環境パフォーマンスに与える影響を分析した研究も数
多くある。Russo(2002)と Potoski and Prakash(2005)は、米国の企業のデータを用いて、
ISO 14001認証を取得した企業は、そうでない企業に比べて環境負荷をより減らす傾向にあ
ることを示した。同様の結果は、日本の事業所のデータを用いたArimura et al.(2008)や岩
田他(2010)によっても得られている。一方、Barla(2007)は、カナダのパルプ•製紙産業
の事業所データを使い、ISO 14001認証取得にはそのような効果はないという結果を与えて
いる。King et al.(2005)や Darnall and Sides(2008)の結果も、ISO 14001認証取得が環境
パフォーマンスを有意に改善させることはないというものであった。このように、ISO 14001
認証取得が環境パフォーマンスに与える影響については研究間で異なる結果が得られてお
り、いまだ明確な結論には至っていない。
これらの先行研究に共通することは、ISO 14001認証取得の影響を考える際に、環境パフ
ォーマンスを改善させるか否かに焦点を置いている点である。しかし、ISO 14001認証取得
が与える影響は環境パフォーマンスの改善だけとは限らない。ISO 14001認証取得企業は
PDCAサイクルを通じて、環境パフォーマンスの改善だけでなく、サプライチェーンへの働
きかけ、企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility: CSR)分野への取組みなどを含
む新しいマネジメント‧プラクティスの導入に積極的になる可能性がある。例えば、Arimura
et al.(2011)によれば、ISO 14001認証を取得している事業所は、していない事業所よりも、
取引先の選定の際に環境パフォーマンスを評価するというプラクティスをする確率が40%、
取引先に環境への取組みを要請するというプラクティスをする確率が50%程度高くなると
いう結果を得ている。本章では、新しいマネジメント‧プラクティスとしてISO 14064規格の
採用を考え、ISO 14001認証取得企業が新しいマネジメント‧プラクティスにより積極的な姿
勢をもつかどうかを検証する。
ISO 14001認証取得とISO 14064規格採用の関係を分析する際に、ISO 14001認証を取得し
てからの経過年数がその関係にどのような影響を与えるかについても分析する。これまで
の先行研究では、ISO 14001認証を取得してからの経過年数にかかわらず、ISO 14001が環境
パフォーマンスに与える影響は一定であるという仮定が暗黙のうちになされてきた(例え
ば、Arimura et al. 2008; Barla 2007; King et al. 2005)
。しかしISO 14001の影響は経過年数に依
存している可能性がある。例えば、ISO 14001 の取組み当初は省エネルギーや省資源の効果
が現われるが、認証取得から2~3年経過すると成果が頭打ちになる可能性がある(米倉
2010)
。この場合、ISO 14001認証取得の効果は経過年数に伴い減少していくことになる。一
方、本章が分析する新しいマネジメント‧プラクティスの採用に関しては、ISO 14001認証取
得の効果は経過年数に伴い増加していく可能性がある。その理由として、ISO 14001認証を
取得している企業は、認証取得後何年か経過し、環境負荷の削減に関して成果が出づらく
なってきたときに、環境に対する取組みを広げて新しい領域で成果をあげるようにEMSを
運用する可能性が考えられる。
111
以上をまとめると、本章のリサーチ•クエスチョンは、
1)ISO 14001認証を取得している事業所は、未取得の事業所よりも、ISO 14064規格をより
採用する傾向にあるか?
2)ISO 14001認証の取得とISO 14064規格の採用の関係は、ISO 14001認証を取得してからの
経過年数にどのように依存するか?
の 2 つとなる。次項では、これらのリサーチ•クエスチョンに答えるための分析のフレーム
ワークを説明する。
5.4.2 推定モデル
本章のような分析では、企業が実際に行った選択(本章の場合は ISO 14064 の採用/不採
用)のデータを使って決定要因を明らかにするのが一般的である。しかし、本章が用いる
企業調査が実施された 2010 年末の時点では、回答企業の中で ISO 14064 を実際に採用して
いる企業は存在しなかった。よって一般的なアプローチを用いて分析することはできない。
この問題に対処するため、本章は、企業の ISO 14064 に対する考え方についての情報を用い
て分析を行う。後に説明するように、企業は「ISO 14064 規格採用に関しての現在の状況」
について調査で尋ねられており、ISO 14064 規格を認識している場合、「採用を検討中」で
あるか「採用の予定はない」のいずれかの回答をしている。この情報を使うことにより、
どのような要因が ISO 14064 規格採用に影響を与えるのかを明らかする。
この分析で困難な点は、
「採用を検討中」と調査で回答した企業は、検討後には「採用を
予定する」または「採用の予定はない」といういずれかの結論に達することにある。これ
をどのようにモデル化するかを以下で説明する。まず ISO14064i* を企業 i が ISO 14064 を採
用することから得られると考えている(期待)便益とする。 ISO14064i* は、ISO 14001 認証
を取得しているかどうか、ISO 14001 認証を取得してからの経過年数、そして他の様々な要
因と次のように関係していると仮定する。
ISO14064i*   ISO14001i   ISO14001i  TIMEi  xi γ   i
ここで ISO14001i は、企業 i が ISO 14001 認証を取得しているきに 1、そうでないときに 0 を
とるダミー変数、TIMEi は ISO 14001 認証を取得してからの経過年数、xi は企業属性などを
含むコントロール変数と 1 からなる行ベクトル、  i は誤差項、
(  ,  , γ )はパラメータであ
る。交差項 ISO14001i  TIMEi は、ISO 14001 認証の取得と ISO 14064 規格の採用の関係が、
ISO 14001 認証を取得してからの経過年数に依存している可能性を考慮したものである。
ISO 14001 認証を取得している場合の ISO 14064 を採用することから得られる期待便益と、
未取得の場合の期待便益の差は、平均すると、
112
E[ ISO14064* | ISO14001  1, TIME, x]  E[ ISO14064* | ISO14001  0, TIME, x]     TIME
で与えられる。  が正で、  が正(負)であれば、ISO 14001 認証を取得してから年数が経
てば経つほど ISO 14001 の影響が大きくなる(小さくなる5))ことを意味する。また  がゼ
ロであれば、ISO 14001 の影響が認証を取得してからの経過年数に依存せずに一定であるこ
とを意味する。
次に ISO14064i を企業 i が ISO 14064 の採用を予定する場合に 1 をとるダミー変数とする。
実際には観測できない ISO14064i* と ISO14064i の間に次の関係があると仮定する。
ISO14064i*  0 のとき ISO14064i  1
ISO14064i*  0 のとき ISO14064i  0
この仮定は、
「企業 i は ISO 14064 を採用することから得られると考える(期待)便益が 0
以上であった場合に、ISO 14064 の採用を予定する」というものである。このとき  i が標準
正規分布に従うと仮定すると、 ISO14064i  1 になる確率は、
Pr(ISO14064i = 1 | ISO14001i , TIMEi , x i ) = Φ(ISO14001i + ISO14001i × TIMEi + x i γ )
と表すことができる。ここで Φ() は標準正規確率変数の分布関数である。
企業の回答が「採用を予定する」と「採用の予定はない」の 2 つのいずれかであれば、
上で与えられた式を用いて最尤法により(  ,  , γ )を推定することが出来る6)。しかし調査
の実際の回答には「採用を予定する」はなく、「採用を検討中」と「採用の予定はない」の
いずれかである。本章は次のアイデアに基づきこの問題に対処する。まず調査に回答した
時点をピリオド 1 とする。
すべての企業が採用の検討を終わった時点をピリオド 2 とする。
従って、ピリオド 2 では、すべての企業が、
「採用を予定する」か「採用の予定はない」か
のいずれかの結論に達している。ピリオド 2 で「採用を予定する」ことになる企業は、ピ
リオド 1 では採用を検討しているはずなので、調査で「採用を検討中」と回答する。ピリ
オド 2 で「採用の予定はない」企業には 2 つのタイプがある。第 1 のタイプは、ピリオド 1
で採用を検討中(従って調査で「採用を検討中」と回答)で、検討した結果、「採用の予定
はない」企業である。第 2 のタイプは、ピリオド 1 で「採用の予定はない」と回答してい
る企業である(
「採用の予定はない」と回答した企業は、調査の時点ではすでに検討を終え
ていると仮定している)
。
ここで、ピリオド 2 で「採用の予定はない」企業について、確率 p でピリオド 1 に「採用
を検討中」と回答し、確率 1  p で「採用の予定はない」と回答する、という単純な仮定を
5
) より正確には、影響は小さくなっていき、一定の時間の経過後に負になる。
) この場合は、二項選択をモデル化する際に一般的に用いられるプロビット•モデルになる。
6
113
おく。この確率 p は、最終的には採用の予定はないことになるが、検討の開始が遅かったの
で、調査の時点では結論に至らなかった確率、と解釈することができる。
この仮定の下で「採用を検討中」と調査で回答する確率は、
Pr(RESi = 0 | ISO14001i , TIMEi , x i ) = Φ(IS14001i + ISO14001i × TIMEi + x i γ )
+ p(1 - Φ(ISO14001i + ISO14001i × TIMEi + x i γ ))
で与えられる( RESi は、企業 i が「採用を検討中」と回答したときに 1 をとるダミー変数)。
また「採用の予定はない」と回答する確率は、
Pr(RESi = 0 | ISO14001i , TIMEi , x i ) = (1 - p)(1 - Φ(ISO14001i + ISO14001i × TIMEi + x i γ ))
で与えられる。これらの確率を使い、最尤法によりモデルのパラメータ(  ,  , γ, p )を推定
する。
それぞれの説明変数が ISO 14064 の採用を予定する確率にどの程度の影響を与えるかを
知るためには、推定されたパラメータを使って各説明変数の限界効果を計算すればよい。
限界効果とは、他の説明変数を一定にして、当該説明変数が 1 単位だけ変化したとき、ISO
14064 の採用を予定する確率がどれだけ変化するかを表したものである。例えば、ISO 14001
の限界効果7)が 0.2 と推定された場合、ISO 14001 認証が取得されると ISO 14064 の採用を予
定する確率が 20%上がることを意味する。
また、推定されたパラメータを使って、「採用を検討中」(RES = 1)と調査で回答した企
業のうち、どの程度の企業が採用を予定する( ISO14064  1 )ことになるかを次の式を使い
推定することが出来る。
Pr( RES  1| ISO14064  1) Pr( ISO14064  1)
Pr( RES  1)
Pr( ISO14064  1)
G ( ,  , γ )

=
Pr( RES  1)
G ( ,  , γ )  p(1  G ( ,  , γ ))
Pr( ISO14064  1| RES  1) 
この式で G( ,  , γ) は Φ( ISO14001   ISO14001  TIME  xγ) を表している。この確率は、
7
) 経過年数が TIME0 のとき、ISO 14001 の認証取得が ISO 14064 の採用予定確率に与える限界効果は、
Ex  Pr( ISO14064  1| ISO14001  1,TIME0 , x)  Pr( ISO14064  1| ISO14001  0,TIME0 , x)
で与えられ、
1 N
[Φ(ˆ  ˆTIME0  xi γˆ )  Φ(xi γˆ )] ,
N i 1
により推定することが出来る(N は企業数、
( ˆ , ˆ , γˆ )はパラメータの推定値)
。
114

1 N 
Gi (ˆ , ˆ , γˆ )



ˆ
ˆ
N i 1  Gi (ˆ ,  , γˆ )  pˆ (1  Gi (ˆ ,  , γˆ )) 
によって推定することが出来る( Gi ( ,  , γ) は Φ( ISO14001i   ISO14001i  TIMEi  xi γ) 、
ˆ
N は企業数、
( ˆ ,  , γˆ , pˆ )はパラメータの推定値)
。
5.4.3 ISO14064 の採用に影響するその他の要因
ISO 14001 認証の取得、ISO 14001 認証を取得してからの経過年数にくわえて、様々な要
因が ISO 14064 の採用に影響する可能性がある。そのような要因の中で、本章が考慮する要
因、すなわち先述のモデルの x に含まれる変数について以下で簡単に説明する。前述したよ
うに、ISO 14001 と ISO 14064 の共通点より、ISO 14001 の決定要因のいくつかは ISO 14064
の決定要因にもなっていると考えられる。従って、本章は、先行研究により明らかになっ
ている ISO 14001 の決定要因を参考にして x に含む変数を特定した。
まず企業の規模は ISO 14064 の採用に影響するかもしれない。ISO 14064 の採用には一定
量の労働力そして人的資本が必要であると考えられるが、企業規模が小さい場合にはその
ような余裕が無いかもしれない。一方、企業規模が小さい場合、GHG 排出量算定のコスト
が相対的に小さくなるので、規格を採用しやすくなる可能性もある。企業の規模にはこの
ような 2 つの相反した効果があるので、正の影響を与えるか負の影響を与えるかは実証的
な問題になる。本論文では、企業の規模を捉えるために、従業員数(の対数)を用いる。
ISO 14064 の採用を消極的にさせるかもしれない要因として、確固たるワーク‧ルーティ
ンが出来上がっていることが挙げられる。確固たるワーク‧ルーティンが出来上がっている
場合、新しいマネジメント•プラクティスの導入に伴い起こるワーク‧ルーティンの変化に対
してより保守的になるかもしれない。本章は、創業年数の長い企業ほど、確固たるワーク‧
ルーティンが出来上がっていると考え、創業年数(の対数)をこの代理変数として用いる。
企業が持つ事業所の数や場所も ISO 14064 の採用と関係しているかもしれない。ISO 14064
規格に基づく GHG 排出量の算定作業は、事業所が多いほど煩雑になる。よって、事業所を
多く抱える企業ほど、ISO 14064 の採用に後ろ向きになるかもしれない。従って、本章は事
業所数(の対数)を x の 1 つの要素とする。一方、企業が海外に事業所を持っている場合、
特に排出量取引制度を導入している地域(例えば EU やニュージーランドなど)に事業所を
持っている場合、ISO 14064 の採用に前向きになる可能性がある。これは ISO 14064 の特徴
の 1 つである「プログラム•ニュートラリティ(現存するすべての GHG プログラムに対し
て適用可能であること)
」に起因する。海外の排出量取引制度の対象になっている事業所の
排出量データを、プログラム•ニュートラルである ISO 14064 を用いて作成し、国内におけ
る排出量を同じ規格を用いて算定すれば、排出量データの集計が容易になると考えられる。
本章はこの可能性を考慮し、排出量取引制度を導入している地域に事業所がある場合に 1、
115
そうでない場合に 0 をとるダミー変数を作成し x に含むことにする。
排出量取引制度を導入している地域の顧客が、より正確な排出量データを要求する傾向
にあるとすれば、そのような地域に輸出している企業は ISO 14064 の採用に積極的になるか
もしれない。この可能性を捉えるために、排出量取引制度を導入している地域に輸出して
いるときに 1 をとるダミー変数を調査より作成し x の要素とした。
市場における企業のパフォーマンスも ISO 14064 の採用に影響を与える可能性がある。マ
ーケット‧リーダーは環境に対して高い意識を持つ傾向があるとすれば、ISO 14064 の採用
をより前向きに考えるかもしれない。このような可能性を捉えるために、当該企業と同業
種の企業群における年間売上高がトップのときに 1 をとるダミー変数を作成し x に含める。
また、環境経営のフィールドで、
「財務パフォーマンスのよい企業ほど、環境に対する取組
みにより積極的になる」8)という可能性が指摘されているが、この変数はそのような影響を
部分的に捉えるものともいえる。
ISO 14064 の採用を促進させるチャンネルとして、顧客企業からの GHG 排出量削減の取
組み要求も挙げられるかもしれない。これは、GSCM(Green Supply Chain Management)と
呼ばれる考え方に関係している。GSCM とは、製品•サービスに関わる環境への影響を、自
社やグループ企業だけでなく、サプライヤーや輸送事業者をも含むサプライチェーン全体
で把握し管理するというプロセスである。例えば、前述したカーボン・ディスクロージャ
ー・プロジェクトでは、当該企業の事業活動に伴う GHG 排出量の開示のみならず、川上の
企業にまでさかのぼった排出量の開示が求められおり、これに応えるためには GSCM が必
要になる。また、原材料の採取•輸送、流通、廃棄•リサイクル、出張•通勤などといった、
当該企業が直接コントロールすることのできないスコープ 3 と呼ばれる領域における GHG
排出量について算定基準の作成が進行していることも、GSCM への関心を高める一因とな
っている。
顧客企業が当該企業に GHG 排出量削減のための取組みを要求することは、顧客企業の
GSCM のプラクティスの 1 つであるが、当該企業はこのような要求を受けたときに、GHG
排出量の報告を信頼に足りうる形でするために ISO14064 の採用に前向きになるかもしれな
い9)。また取組み要求の中に ISO14064 の採用が入っている場合、要求に応えるために採用
を前向きに考えるようになっている可能性もある。これらの可能性を捉えるために、顧客
企業から GHG 排出量削減の取組み要求を過去 5 年間に受けていたときに 1 をとるダミー変
数を調査の回答より作成し x の要素とする。
GHG 排出量削減への取組みの背景も ISO 14064 の採用に影響しているかもしれない。例
8
) また、この逆の、
「環境に対する取組みに積極的な(または環境パフォーマンスが良い)企業ほど、財務
パフォーマンスが良い。
」という可能性も指摘されている(例えば、Darnall et al. 2007 を参照) 。
9
) GSCM に関する最近盛んなトピックに、サプライチェーン内での環境取組み要求と、EMS の導入や ISO
14001 の認証取得の関連性を分析するものがある。例えば、Nishitani(2010)は ISO 14001 の認証取得の決
定要因として顧客の環境意識を取り上げ、環境意識の高い市場における顧客が、自国のみならず海外の取
引先に対しても ISO 14001 の認証取得を要求している可能性を指摘している。Halkos and Evangelinos(2002)
は、EMS 導入の決定要因として環境パフォーマンスの改善を求める圧力をあげ、その源泉の一つとして顧
客企業を挙げている。
116
えば、取組みによって消費者の購入行動に変化が起こる場合、新しいマネジメント•プラク
ティスの導入に積極的になるかもしれない。また、国内排出量取引制度の導入の可能性が
高いと考え GHG 排出量削減の取組みを行なっている企業も、プログラム•ニュートラルで
ある ISO 14064 を今から用いることで、将来に備えようとするかもしれない。本章では、様々
な取組みの背景、1)日本経団連の環境自主行動計画などの業界団体の取組み、2)排出量
取引の可能性、3)利潤、4)技術変化、5)消費者の購入行動の変化、6)エネルギー価格、
のそれぞれが ISO 14064 の採用に影響を与えるのかどうかを分析する。具体的には、それぞ
れの項目について、GHG 排出量削減への取組みにおいて「非常に影響がある」または「影
響がある」と回答したときに 1 をとり、
「影響がない」と回答したときに 0 をとるダミー変
数を調査より作成し、 x の要素とした。
環境規制や制度も ISO 14064 の採用に影響を与える可能性がある。本章では、特に、エネ
ルギーの使用の合理化に関する法律(以下、省エネ法)と東京都の排出量取引制度につい
て考える。まず省エネ法であるが、その対象は企業全体のエネルギー使用量が原油換算で
年間 1,500 キロリットル以上の企業であり、対象となる企業は、国への届出を行い「特定事
業者」の指定を受ける(フランチャイズ•チェーンの場合は、本部が「特定連鎖化事業者」
の指定を受ける)
。これらの企業は、企業単位でエネルギー管理統括者とエネルギー管理企
画推進者を 1 名ずつ選任し、定期報告書•中長期計画書を提出することが義務づけられる。
これに加えて、企業全体での 1 年間のエネルギー使用量を把握しなければならない10)。
ISO 14064 は企業の組織総体としての排出量算定のための規格であり、規格に基づいた算
定のためには、事業所といったサイト毎ではなく企業全体でのエネルギー使用量の把握が
必要不可欠になる。省エネ法において特定事業者また特定連鎖化事業者になっている場合、
企業全体でのエネルギー使用量を把握することになるので、ISO 14064 を導入するための要
件をすでに 1 つクリアしていることになる。このため、特定事業者または特定連鎖化事業
者は、そうでない事業者と比べたとき、ISO 14064 の導入により前向きになる傾向があるか
もしれない。本章はこの可能性を考慮し、企業が省エネ法において特定事業者または特定
連鎖化事業者になっている場合に 1 をとるダミー変数を x の 1 つの要素とする。
また東京都の排出量取引制度対象施設が存在するような企業も、ISO 14064 の採用に積極
的になるかもしれない。この制度は都内での CO2 総量削減の実現を最大の目的としたもの
で(東京都環境局 2011)
、大規模な事業所(エネルギー使用量が原油換算で年間 1,500 キロ
リットル以上の事業所)に、過去の基準となる CO2 排出量に対して、計画期間中の排出量
を一定以上削減する義務を課すものである。達成できない場合には、排出枠を事業所間で
取引することができ、それでも達成できない場合には罰則が課されることになる。また毎
年度、前年度の GHG 排出量を報告する必要がある11)。このため、ISO 14064 の採用に関し
て、東京都排出量取引制度は省エネ法と同じような影響を持つかもしれない。ただし、省
10
) また使用量が 1,500 キロリットル以上であった場合、経済産業局への届け出が必要となる。届出をしな
かった場合や虚偽の届出をした場合は、50 万円以下の罰金が科せられる。
11
) その際、登録を受けた検証機関の検証を受ける必要がある。
117
エネ法は企業全体に関してのものであるに対して、東京都排出量取引制度は都内にある事
業所のみを対象にしたものなので、ISO 14064 の採用に与える影響は小さくなることが予想
される。このような影響が存在するかどうかを調べるために、本章では、企業が東京都の
排出量取引制度対象施設を持つ場合に 1 をとるダミー変数を作成してモデルの中に入れる。
最後に、企業の製品•サービスのタイプも ISO 14064 の採用に関係している可能性がある
ので、この影響をコントロールするために、主要な製品•サービスが最終製品•サービスであ
るときに 1 をとるダミー変数、製造業であるときに 1 をとるダミー変数も x の要素とする。
以上をまとめると x の中に入る変数は次の通りである。
 従業員数(の対数)
 創業年数(の対数)
 事業所数(の対数)
 排出量取引制度導入地域事業所ダミー
 排出量取引制度導入地域輸出ダミー
 売上高トップダミー
 顧客企業による GHG 排出量削減取組み要求ダミー
 業界団体の取組み影響ダミー
 排出量取引の可能性の影響ダミー
 利潤の影響ダミー
 技術変化の影響ダミー
 消費者の購入行動の変化の影響ダミー
 エネルギー価格の影響ダミー
 省エネ法ダミー
 東京都排出量取引制度ダミー
 最終製品•サービスダミー
 製造業ダミー
5.4.4 データ
本章で用いるデータは、環境省の「環境経済の政策研究」の採択課題である「国内排出
量取引の国際リンクによる経済的影響に関する研究:応用一般均衡分析によるアプローチ」
の一環として行われた企業調査に基づいている。調査のデザイン及びサンプルの特徴につ
いては第 3 章で説明されているので参照して欲しい。先述した変数は、従業員数、創業年
数、事業所数、売上高トップダミーを除いて、すべて調査の回答から作成した。従業員数、
創業年数、事業所数、売上高トップダミーの 4 変数については、民間調査会社から購入し
たデータをもとにしている。
ISO 14064については、調査で、
「CO2 等のGHG 排出量の報告及び検証に対して信頼性と
保証を与えることを目的としたISO 14064の採用に関する貴社の現在の状況についてお答え
118
ください」と質問した。回答は選択式で、「採用は確実である」、
「採用を検討中」、
「採用す
る予定はない」
、
「知らない」の4つが選択肢として与えられている。この調査に回答した全
579社中、
「採用は確実である」と答えた企業は2社(0.35%)、
「採用を検討中」は84社(14.51%)
、
「採用する予定はない」は375社(64.77%)、
「知らない」は99社(17.1%)、未回答が19社(3.28%)
であった。半数以上の企業が「採用する予定はない」と回答している理由の1つとして、ISO
14064が新しい規格であることが考えられる。また「知らない」企業が20%近くあるのも、
同様の理由だと思われる。
本章のモデル推定に使うサンプルは、
「知らない」と回答した企業、そして本章で使う変
数に関する質問に未回答である企業を除いた 415 社で構成される。「知らない」と回答した
企業を分析から除くことにより、サンプル・セレクション・バイアスが生じる可能性があ
る。考えられるバイアスの方向については 5.5 で触れることにする。
この415社中、
「採用は確実である」と回答した企業は2社(0.48%)、「採用を検討中」は
78社(18.8%)、そして「採用する予定はない」は335社(80.72%)であった。「採用は確実
である」と回答した企業は、推定に使うサンプルの中で非常に小さい割合であるので、分
析にあたって「採用は確実である」と回答した企業を「採用を検討中」と回答した企業の
中に含めた。これが、4.1で説明したRES変数になる。
企業のISO 14064に関する現在の状況とISO 14001認証取得の有無(すなわちRES変数と
ISO14001変数)の関係は表5-2で与えられる。採用を検討する確率が未取得である場合に
は9.7%、一方、取得している場合は21.3%であることから、表5-2はISO 14001認証を取得
している企業ほど採用を検討している傾向にあることを示している。ISO 14001認証の取得
( ISO14001  1 )を条件として、企業のISO 14064に関する現在の状況と認証を取得してか
らの経過年数(すなわちRES変数と ISO14001 TIME 変数)の関係を表したものが表5-3で
ある。
表5.2
ISO 14001認証取得とISO 14064に関する現在の状況
採用の予定なし
(RES = 1)
65
未取得(ISO14001 = 0)
(15.66)
270
取得(ISO14001 = 1)
(65.06)
採用を検討中
(RES = 0)
7
(1.69)
73
(17.59)
Pr(RES = 1|ISO14001 )
0.097
0.213
注:本表は推定に使う全415社についてのもの. 上段:企業数, 下段:%.
119
表5.3
ISO 14001認証を取得してからの経過年数とISO 14064に関する現在の状況
TIME
0年
1~5年
6~10年
11年~
採用の予定なし
(RES = 0)
3
34
143
90
採用を検討中
(RES = 1)
0
4
21
48
Pr(RES = 1|ISO14001 = 1, TIME )
0
0.105
0.128
0.348
注:本表は推定に使う全415社中, ISO 14001認証を取得している343企業についてのもの.
採用を検討する確率は、とってすぐの場合(TIME = 0)はゼロであるが、1 年から 5 年の
場合に 0.11、6 年から 10 年の場合に 0.13、11 年以上の場合は、0.35 となっており、経過年
数とともに増加していく傾向があることが分かる。これらの記述統計は、ISO 14001 認証取
得の有無と企業の ISO 14064 に関する現在の状況には関係があり、その関係は経過年数に依
存していることを示唆しているといえる。以下では、様々な要因をコントロールした上で
も、ISO 14001 と ISO 14064 の間にこのような関係があるのかどうかを見ていく。
120
5.4.5 推定結果
表 5-4 は、先述したモデルの係数の推定値とそれぞれの変数の限界効果を示したもので
ある。まず ISO 14001 の認証取得の効果について説明する。
表 5.4 推定結果
(1)
係数
-1.431 (0.554) ***
ISO 14001認証取得
0.126 (0.049) ***
ISO 14001認証取得×経過年数
0.106 (0.103)
従業員数(対数)
-0.112 (0.063) *
創業年数(対数)
-0.061 (0.083)
事業所数(対数)
0.643 (0.230) ***
排出量取引制度導入地域に事業所あり
-0.584 (0.271) **
排出量取引制度導入地域に輸出
0.381 (0.236)
売上高トップ
顧客企業による排出量削減取り組み要求 0.523 (0.217) **
0.261 (0.356)
業界団体の取り組みの影響
0.088 (0.260)
排出量取引の可能性の影響
0.031 (0.364)
利潤の影響
0.151 (0.564)
技術変化の影響
消費者の購入行動の影響
1.440 (0.519) ***
エネルギー価格の影響
0.353 (0.568)
0.877 (0.380) **
省エネ法
0.101 (0.228)
東京都排出量取引制度
0.066 (0.221)
最終製品•サービス
製造業
0.193 (0.247)
p
対数尤度
注:N = 415. 括弧内の数字はロバスト標準誤差. ***, **,
(2)
限界効果
図6-1参照
図6-1参照
0.019 (0.018)
-0.020 (0.011) *
-0.011 (0.015)
0.128 (0.050) ***
-0.097 (0.040) **
0.072 (0.048)
0.096 (0.040) **
0.043 (0.055)
0.015 (0.044)
0.005 (0.063)
0.025 (0.091)
0.167 (0.033) ***
0.056 (0.081)
0.132 (0.045) ***
0.018 (0.042)
0.012 (0.038)
0.034 (0.043)
0.022 (0.013) *
-152.704
* はそれぞれ 1%, 5%, 10%水準で有意であ
ることを示す. 定数項(標準誤差)は-4.044(1.078). 限界効果の標準誤差はデルタ法により計
算.
ISO 14001 認証取得ダミー( ISO14001 )の係数は負で 1%水準で有意、ISO 14001 認証取得
ダミーと経過年数の交差項( ISO14001  TIME )の係数は正で 5%水準で有意であった。この
結果は、様々な要因をコントロールした上でも、ISO 14001 と ISO 14064 の間に関係がある
こと、そしてその関係は取得してからの経過年数に依存していること、を示している。
121
図5.2
ISO 14001の限界効果
0.6
ISO 14001の限界効果
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
-0.1
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
-0.2
-0.3
取得してからの経過年数
注:点線は90%信頼区間
図 5-2 は、ISO 14001 の限界効果と経過年数の関係を表したものである。ISO 14001 認証を
取得した年(すなわち TIME = 0)では、未取得の場合にくらべ、ISO 14064 採用を予定する
確率が 17%低くなると推定された。この結果は「取得疲れ」を反映しているものと考えら
れる。ISO 14001 認証を取得するには、EMS の構築、必要書類の作成、社員の意識改革など
を含む様々なことをしなくてはならず、準備に 1 年またはそれ以上かかることも珍しくな
い。このため、新しいマネジメント•プラクティスを準備するモチベーションが、認証取得
直後は低くなる傾向にあるかもしれない。本章で得られた結果はこの可能性と整合的であ
るといえる。
ISO14001  TIME の係数の符号が正であることから明らかであるように、採用してから時
間が経つにつれ、ISO 14001 の限界効果は大きくなっていく。具体的には、図 5-1 が示す
ように、ISO 14001 認証取得が ISO 14064 の採用に与える影響は、取得後 10 年目までは負で
あるが、11 年目以降は正に転じる。また取得して 15 年経過している場合、ISO 14064 の採
用を予定する確率が 11%、20 年経過している場合には 27%高くなるという結果が得られた。
これらの結果は、ISO 14001 には新しいマネジメント‧プラクティスの採用について積極的
にさせる効果があるが、効果が出るまでには長い時間が掛かることを示している。
次に、ISO 14001 認証取得と経過年数以外の要因で、統計的に有意(10%水準)であった
要因について説明する。推定の結果、創業年数が短い企業ほど、排出量取引制度が導入さ
れている地域に事業所がある企業ほど、また排出量削減の動機として消費者の購入行動を
重要と考えている企業ほど、ISO 14064 の採用に積極的になることが分かった。具体的には、
創業年数が 1%短いと ISO 14064 の採用を予定する確率が 2%上がり、排出量取引制度が導
入されている地域に事業所がある場合は 13%、また排出量削減の動機として消費者の購入
行動を重要と考えている場合は 17%上がると推定された(表 5-3 の列(2)を参照)。また、
122
顧客企業から GHG 排出量削減取組み要求を受けていると、ISO 14064 の採用を予定する確
率が 10%上がることが分かった。この結果は、顧客企業(川下企業)による GSCM のプラ
クティスが、当該企業(川上企業)の環境に対する取組みに影響を与えていることを示唆
するものといえる。
省エネ法において特定事業者もしくは特定連鎖化事業者になっていることも、ISO 14064
の採用を積極的にさせる要因のひとつであることが分かった(限界効果のサイズは 13%)
。
この結果は ISO 14064 の採用を促進させる政策を考える上で鍵となると思われる。この点に
ついては、5.5 で説明する。
排出量取引制度導入地域に輸出している場合には、していない場合に比べて、ISO 14064
の採用に消極的になるという結果が得られた(限界効果のサイズはマイナス 10%)
。5.4.3 で
述べたように、排出量取引制度を導入している地域の顧客が、より正確な排出量データを
要求するならば、それに応えるために ISO 14064 の採用に前向きになると考えられるので、
ここで得られた結果は直感的なものとは言い難いかもしれない。この結果の可能な解釈の 1
つとして、排出量取引制度導入地域に現在輸出していない企業がそれらの地域に輸出する
ことを考えている場合に、すでに輸出している企業との差別化を図るために ISO 14064 の採
用により前向きになることが挙げられるかもしれない。
モデルのパラメータの 1 つである p は 0.02 と推定された。これは、
「最終的には採用の
予定はないという結論に至るが、検討の開始が遅かったために調査の時点では結論に至ら
なかった確率」が 2%程度であるということを意味する。また 4.1 で説明した方法で、
「採用
を検討中」と回答した企業のうち、どの程度の割合の企業が採用を予定するという結論に
達するか、を推定したところ、63.7%という結果を得た。これは、サンプルの中の 12.3%の
企業が、将来的には ISO 14064 規格の採用を予定する、ということを意味する。従って本章
の結果は、ISO 14064 規格が、ISO 14001 ほどの普及は見せないものの、一定のレベルでは
普及することを示唆しているといえる12)。
5.5 おわりに
本章は、国内の上場企業を対象とした調査から得られたデータを使って、ISO 14064 規格
採用予定の決定要因について分析した。本章の結果は、ISO 14001 認証取得の影響について
新しいエビデンスを与えるものといえる。これまで先行研究は、ISO 14001 認証取得には環
境パフォーマンスを改善する効果があるかをどうか中心に分析してきたが、本章は ISO
14064 規格に焦点を当て、ISO 14001 認証取得には新しいマネジメント‧プラクティスを促進
させる効果があるかを分析した。これより、ISO 14001 認証取得と ISO 14064 規格採用の関
係は ISO 14001 認証を取得してからの経過年数に依存し、認証取得の効果は、取得してから
10 年以内は負、それ以降は正になることが分かった。
12
) この予測はあくまで短期的なものである。長期的には、ここで与えた予測よりも多くの企業が規格を採
用する可能性がある。
123
また、排出量取引制度が導入されている地域に事業所があること、排出量削減の動機と
して消費者の購入行動を重要と考えていること、顧客企業から排出量削減取組み要求を受
けていること、そして省エネ法において特定事業者または特定連鎖化事業者になっている
ことが、ISO 14064 規格採用に対して前向きにさせる要因であることが明らかになった。一
方、ISO 14064 規格採用に対して負の影響を持つ要因として、創業年数そして排出量取引制
度導入地域への輸出があることが分かった。
本章の分析結果は 2 つの政策的インプリケーションを持つ。1 つは省エネ法に関して、も
う 1 つは ISO 14001 に関してのものである。まず省エネ法について説明する。
分析結果より、
省エネ法の特定事業者または特定連鎖化事業者になっている企業は、ISO 14064 規格の採用
を予定する傾向にあることが分かったが、これは ISO 14064 導入のための条件の 1 つ「企業
全体でのエネルギー使用量の把握」を省エネ法の対象事業者であるためにすでに満たして
いるからであると考えられる。このことから、もし ISO 14064 規格の採用を促進させたいと
考えるなら、省エネ法の対象を変更することが政策の 1 つとして考えられる。具体的には、
現在の対象は「企業全体のエネルギー使用量が原油換算で年間 1,500 キロリットル以上の企
業」であるが、1,500 キロリットルより少ないエネルギー使用量を閾値として設定し、現在
より多くの企業を省エネ法の対象にすることが考えられる。
次に ISO 14001 に関する政策的インプリケーションであるが、上場企業のデータで確認さ
れた傾向が、非上場の企業、特に中小規模企業にもあるとすれば、多くの地方自治体で行
っている中小企業向けの ISO 14001 認証取得支援プログラムには、短期的には、中小企業間
での ISO 14064 規格の普及を遅らせる可能性があるといえる。この問題の対処法としては、
地方自治体が ISO 14001 認証取得支援プログラムを行っている場合には、ISO 14064 規格採
用を促進するプログラム(例えば補助金など)を同時に導入することが考えられる。
本章が用いたデータから直接的に得られる政策的インプリケーションとして、ISO 14064
規格の認知度に関するものがある。調査に回答した上場企業のうち 20%程度が ISO 14064
規格を「知らない」ことから、中小企業間ではこれより大きな比率の企業が「知らない」
ことが予想される。従って、規格の採用を促進するためには、まず情報提供などにより認
知度を上げることが必要であるといえる。
最後に本章の結果についての注意点を述べる。本章の分析結果は、ISO 14064 規格を「知
っている」企業のデータのみを使って得られたものなので、サンプル•セレクション•バイア
スが生じている可能性がある13)。ここでは、「知らない」企業をサンプルから除くことによ
り生じる推定値のバイアスについて、政策上重要な要因である ISO 14001 認証取得と省エネ
法の 2 つに絞って議論する。まず、ISO 14001 認証取得ダミーの係数の推定値についてであ
るが、もし「知っている」企業の方が ISO 14001 認証を取得している傾向にあるなら、上の
方向にバイアスすると考えられる。また、「知っている」企業の方が ISO 14001 認証を早期
13
)サンプル•セレクション•バイアスに対処する方法として、ISO 14064 規格を知っている•知らないをモデ
ル化することが考えられる。本章でもモデル化を試みたが、知っている•知らないを説明する要因がほとん
ど存在しなかったので、フォーマルな形でセレクション•バイアスに対処できなかった。
124
に取得している傾向があるなら、14001 認証取得ダミーと経過年数の交差項の係数の推定値
も上の方向にバイアスする。これらのことは、ISO 14001 認証取得の ISO 14064 採用に与え
る影響が実際に正に転じるためには、本章で推定された 11 年よりも長い時間がかかる可能
性があることを示唆している。次に、省エネ法ダミーの係数の推定値についてであるが、
省エネ法において特定事業者または特定連鎖化事業者になっている企業の方が「知ってい
る」傾向にあるとすれば、省エネ法ダミーの係数の推定値は上の方向にバイアスすると考
えられる。従って、省エネ法が ISO 14064 の採用に実際に与える影響は、本章で得られたも
のよりも小さい可能性があることを留意しなければならない。
125
6.
家計の省エネ行動の実態:草加市でのアンケート調査より
6.1
はじめに
本章と次章では、CGE モデルの家計部門の精緻化を念頭におき、家計に対して省エネ行
動、省エネ・新エネ製品購入のサーベイを行い、そのデータを用いた分析を行った。これ
は、CGE は様々な業種をモデル化し産業部門の分析には優れているものの、家計は代表的
な家計の分析であり、必ずしも排出規制の影響を詳細、かつ、精緻に分析できないと考え
られるからである。実際、家計の行動については必ずしも炭素価格に合理的に反応しない
のではないかという指摘もある。
はじめに、家計部門からの温室効果ガス(Greenhouse gas: GHG)について概観しよう。2009
年 11 月、日本は 2020 年までに GHG 排出量を 1990 年比で 25%削減し、2050 年までに 80%
削減するという中長期目標を発表した。これらの目標は以前に比べて大幅に引き上げられ
ており、
達成するためには多くの対策を導入することが必要不可欠である。
それに加えて、
周知のように東日本大震災により、二酸化炭素(以下、CO2)排出量が比較的少ない原子
力発電所の稼働が停止し、それを補うために火力発電への依存度が増加している。そのた
め、現状の GHG 抑制政策だけでは、確実に中長期目標の達成ができない状況にある。
国立環境研究所の温室効果ガスインベントリオフィス(以下、GIO)によると、1990 年
の日本の GHG は約 11.4 億 CO2 トンである。一方、2010 年 12 月末に公表された 2009 年の
GHG 排出量は約 11.4 億 CO2 トンとなっている。したがって、しばしば引き合いに出され
る 1990 年比で見ると、GHG はほとんど抑制されておらず、京都議定書で約束されている
90 年比 6%削減の公約達成も危うい状況にある(図 6.1)。
目標達成を困難にしている主要因がどの部門であるのかを見るために、1990 年を 100 に
基準化して、部門ごとの排出量の変化率を示したものが図 6.2 である。この図を見ると、
産業部門や運輸部門は徐々に減少傾向にあるものの、民生(家計と業務)部門において GHG
排出量が大きく増加していることがわかる。
126
図 6.1
日本の部門別 GHG 排出量推移(千 CO₂トン)
1,400
エネルギー転換部門
1,200
産業部門
1,000
800
運輸部門
600
家計部門
400
業務部門
200
その他
0
1990
1993
1999
1996
2002
2005
2008
注: ここでの部門別の排出量は, 間接排出量である.
出所: GIO データベース(http://www-gio.nies.go.jp/index-j.html)より, 筆者作成.
図 6.2
部門別 GHG 変化率(1990 年基準)
160
150
エネルギー転換部門
140
130
産業部門
120
運輸部門
110
家計部門
100
業務部門
90
その他
80
70
1990
1993
1996
1999
2002
2005
注: ここでの 部門別の排出量変化率は, 間接排出量に基づいている.
出所: GIO データベースより, 筆者作成.
127
2008
工場や大規模事業所、運送業者を対象とした「エネルギーの利用の合理化に関する法律」
(以下、省エネ法) 1や、日本経団連の環境自主行動計画が功を奏したせいか 2、産業部門
や運輸部門では徐々にGHG排出量が減少している。一方で、家計部門や業務部門において
は、1990 年比でのGHG排出量は増加傾向にある。しかし、2008 年の省エネ法の改正に伴
う建築物の省エネ措置の義務化や、2006 年の「地球温暖化対策の推進に関する法律」
(以
下、温対法)の制定に伴う個別事業所のGHG排出に関する情報公開の義務化など、近年、
業務部門に対する取組みの強化が進められてきている。この点を考慮すると、業務部門に
おけるGHG排出削減は、今後進んでいくことが考えられる。
このように、産業部門・業務部門においては、これまで様々な GHG 排出削減を促す取
組みが行われてきたものの、家計部門に対しては、有効的な対策が取られてこなかった。
そのため、家計部門に対して有効的な GHG 抑制政策の導入が求められている。
GHG排出原単位 3で部門間を比較した場合は、どのようなことがいえるだろうか。排出
の各部門での原単位(1990 年を 100 に基準化)の推移を表したものが図 6.3 である。製造
業(産業部門)と業務部門に関する原単位は資源エネルギー庁(2010)より、家計部門に
ついては家計からの排出量を国内総世帯数で割ったものを原単位として採用している。
図 6.3
部門別 GHG 消費原単位の変化(1990 年基準)
120
115
110
製造業
105
家計部門
業務部門
100
95
90
1990
1993
1996
1999
2002
2005
2008
注: ここでの 部門別の排出量変化率は, 間接排出量に基づいている.
出所: 家計部門については, GIO データベースと厚生労働省「国民生活基礎調査」
より筆者作成.また, 製造業と業務部門については, 資源エネルギー庁(2010)より引用.
1
省エネ法の CO₂削減効果について定量評価しているものとしては、有村・岩田(2008)がある。
同計画の CO₂削減効果については経団連が毎年フォローアップをしており、最新版としては日本経済
団体連合会(2010)がある。
3 製造業の原単位はエネルギー消費量を製造業生産指数で割ったものであり、業務部門の原単位はエネル
ギー消費量を床面積で割ったものである。
2
128
2009 年の製造業(産業部門)の排出量は 1990 年比で 20%も減少しているが(図 6.2)
、
原単位ベースで見ると 1990 年と 2008 年とではほぼ同一の原単位となっている(図 6.3)
。
特に、近年は原単位の改善が続いており、省エネが進んできていることがわかる。
一方で、家計部門と業務部門では 1990 年比で原単位が悪化していることがわかる。猛暑
や寒冬といった気象の影響のためか、ばらつきは大きいものの、家計部門での原単位の悪
化は業務部門よりも大きい。
そのため、
原単位ベースで国内の温暖化対策を考えてみても、
家計部門に対して有効な対策を導入することは必要なのである。
これまで国内で行われた家計におけるGHG抑制政策としては、省エネ機器の普及施策と
省エネ行動政策がある。省エネ型自家用車を取得・保有する際にかかる費用の一部を補助・
減税するエコカー補助金・減税(藤原, 2011)や、2011 年 5 月に終了した省エネ型家電製
品の購入費用を一部補助するグリーン家電普及促進事業(エコポイント制度)4などの制度
がこれに該当する。これらの制度は家計の可処分所得に直結するものが多いこともあり、
家計で広く知られているといえる。
こうした電気機器の購買行動を分析しているものとしては、O’Doherty et al. (2008)や
Leahy and Lyon (2010)などがある。これらの研究によると、家計のロケーションや、収入、
職業、家族人数などが省エネ機器の購入行動に影響を与えていることが明らかになってい
る。
一方で、省エネ行動政策は、省エネ機器の普及施策で多用されている金銭的な補助では
なく、
「冷房設定温度を高めにしましょう」というクールビズや「暖房設定温度を低めにし
ましょう」というウォームビズのように人々の倫理観に訴えかけるようなものが多く、そ
れらがどの程度、温暖化対策として機能しているのかには疑問が残る。また、省エネ機器
の購買行動と異なり、省エネ行動を経済学的に分析している研究は少なく 5、Larsen and
Nesbakken (2004) やDruckman and Jackson (2008)などが電気使用量を用いて分析を行なっ
ているのみである。
このように、現状では省エネ機器普及政策が家計への GHG 排出抑制政策において中心
的な役割を果たしている。しかし、省エネ効率が高い機器が普及したとしても、それまで
以上にその機器を使う人が増えたり、使用頻度が増えたりした場合には、逆に排出量が増
加するという可能性があると考えられる(リバウンド効果)
。このことは、家計部門の GHG
を抑制するためには、省エネ機器の普及と同時に、省エネ行動の促進も必要となることを
示唆している。
そこで、本章では、家計の省エネ行動に注目し、アンケート調査を通じてそれらの実態
について明らかにする。つまり、家計の省エネ行動の実態を把握することによって、どの
ような政策を導入すれば家計の省エネ行動を促進することができるのかという政策含意を
提示することが本章の目的である。その上で、本章では、家計での省エネ行動を促すため
4
制度の詳細については、グリーン家電エコポイント事務局のホームページ(http://eco-points.jp/)を参
照。
5 心理学的な分析としては Carrico and Riemer (2011)などがある。
129
の政策として省エネ行動を実施することで得られる節約金額を提示した場合と炭素価格政
策を実施した場合の省エネ行動の実施確率への影響についてシミュレーション分析を行う。
本章の構成は以下のようになっている。まず、6.2 節ではアンケートの概要について説
明し、6.3 節でアンケート結果を紹介する。そして、6.4 節ではその結果から得られる政策
含意について考察する。さらに、6.5 節で計量分析に基づき、価格に対する省エネ行動の
分析を行い、6.6 節で結論を述べる。
6.2
アンケート調査の概要
家計の省エネ行動実態を把握するために、2010 年 1 月 7 日から 2 月 7 日にかけて、埼玉
県草加市でアンケート調査を行った。同市は県南東部に位置しており、東京都足立区に接
している(図 6.4)
。2007 年時点での草加市の人口は約 24 万人であり、人口密度は約 86 人
/ヘクタール(可住地面積当たり)となっている。人口で見れば日本国内の全自治体中 112
位、人口密度は 51 位となっており、首都圏のベッドタウンとして比較的都市化が進んでい
る街であるといえる。
図 6.4
埼玉県草加市の位置
出所: 筆者作成.
アンケート調査の対象は、草加市に住居を構える単身世帯を含む一般世帯の世帯主、あ
るいは家事担当者である。同市の全世帯から無作為二段階抽出法を用いて 1,200 世帯を抽
130
出し、調査票を配布した。そのうち、714 世帯から回答を得た(有効回答率 59.5%)
。
無作為二段階抽出法の詳細については以下の通りである。まず、草加市内の国勢調査区
から世帯数を元にして等間隔で 60 地点を定めた。そして、各地点で住宅地図より 20 世帯
(予備の対象としてプラス 10 世帯)を選定している。したがって、調査対象は 60 地区×
20 世帯/地区の 1,200 世帯となっている。
調査票の配布は以下のような方法で行っている。まず、調査員が調査対象世帯に訪問し、
協力依頼状をポスティングした。後日、再度調査員が調査世帯を訪問し、調査票の内容を
口頭で説明した上で調査票を預けた。再々度、改めて調査員が調査世帯を訪問し、謝礼品
と引き換えに調査票を受け取った。このように、各調査世帯に対して、調査員が 3 度訪問
をしたうえで謝礼品を渡しているため、有効回答率は 59.5%と非常に高い水準となってい
る。
調査は埼玉県草加市において実施されたものであるため、全国規模で実施されている全
国消費実態調査や国勢調査とは性格が異なる。そのため、本章で明らかになったことやそ
こから導き出される提案は、必ずしも全国レベルのものと一致するとは限らない点に留意
が必要である。しかし、埼玉県草加市は、日本人の 4 人に 1 人が居住している首都圏に存
在しているため、草加市のみの調査とはなっているものの、省エネ行動をどのように促進
していくかという政策を考える上では、
有益な知見をもたらすことができると考えられる。
6.3
6.3.1
アンケート調査の結果
本調査の標本について
本調査では、調査票を配布した 1,200 世帯のうち、59.5%に当たる 714 世帯から回答を得
ている。そこで、まず回答のあった 714 世帯が日本全体の分布と属性が異なっているかど
うかを見てみよう。図 6.5 は本調査と 2004 年全国消費実態調査 6を用いて作成した所得の
ヒストグラムである。図 6.5 では、本調査のサンプルサイズが 613 となっているが、これ
は 101 世帯が所得について無回答であったためである。
2 つの所得分布を比較してみると、本調査の所得分布は全国消費実態調査のそれよりも
分布の山がやや左寄りになっていることが分かる。両分布に差があるかどうかの独立性検
定を行うと、1%水準で差があることが示された。ただし、両調査ともに、正確な所得水準
ではなく、範囲データであることには注意が必要である。
6
同調査は 5 年に 1 回実施されている。この調査では日本国内の全国的な家計の収入、支出、資産および
世帯の消費の実態を把握することを目的としている。
131
図 6.5
所得分布(%)
25
本調査
22
21
20
20
15
15
10
全国消費実態調査
18
13
14
15
14
11
9
8
7
6
5
3
4
0
注: 本調査のサンプル数: 613, 全国消費実態調査: 58048.
出所: 本調査と 2004 年全国消費実態調査より筆者作成.
次に、所得と同様に、回答者の年齢階層について、本調査と 2005 年国勢調査とを比較
したものが図 6.6 である。図 6.6 では 20 歳以上の回答者のみを扱っており、本調査での 20
歳未満のサンプルは 1 件のみ(19 歳)であった。
図 6.6 からは、本調査において 50~59 歳層の回答が少なくなっていることがわかる。こ
のことは、本調査において働き盛りの高所得な年齢層からの回答が少ないということを示
しており、図 6.5 で示した本調査の結果が低所得層寄りになっている点は、このことに由
来するものである考えられる。年齢階層の分布に関して独立性検定を行うと、ここでも 1%
水準で両者の分布に差があることが示された。
132
図 6.6
年齢階層別人口分布(%)
16
14.2
14
12.2
12
10.6
10
8.2 8.0
7.3
8
8.7
8.9 8.7
12.1
11.2
10.2
本調査
11.8
9.6
7.6
8.1
5.7
6
3.5
3.4
4
2
国勢調査
13.0
6.2
2.9
2.0
2.4
1.6
0.8 0.7
0.6
0
注: 本調査のサンプル数: 713, 2005 年国勢調査のサンプル数: 567,991.
出所: 本調査と 2005 年国勢調査より, 筆者作成.
住宅の形態に注目し、本調査と 2005 年国勢調査との世帯人口の割合を示したものが図
6.7 である。本調査では、8 割近い回答者が自己所有の一戸建てに居住していた。その一方
で、国勢調査では自己所有の一戸建てに住む世帯は全体の半数強となっている。また国勢
調査では、賃貸のマンションといった共同住宅に住む世帯の比率が高くなっている。独立
性検定を行うと、住宅形態についても、1%水準で全国調査と本調査とでは分布が異なるこ
とが示された。
133
図 6.7
住宅の形態別の世帯分布(%)
90
80
77.9
本調査
国勢調査
70
60
52.8
50
40
33.4
30
20
10
3.7
6.5
4.4
9.4
11.9
0
一戸建て・持ち家
一戸建て・賃貸
共同住宅・持ち家
共同住宅・賃貸
注: 本調査のサンプル数: 712, 2005 年国勢調査のサンプル数: 48,086,949.
出所: 本調査と 2005 年国勢調査より, 筆者作成.
本調査では、全体の 95%が既婚(離別・死別含む)世帯となっており、未婚の世帯は 5%
に過ぎない。一方、国勢調査によると、20 歳以上の成人のうち、約 77%が既婚者(離別・
死別含む)であり、未婚者は 23%となっている。したがって、本調査では単身世帯からの
回答が少なくなっているといえる。単身世帯者の多くが賃貸マンションといった共同住宅
に住んでいることを考えると、本調査において賃貸の共同住宅に住むサンプルの割合が少
なくなっているという点は、本調査における単身世帯からの回答の少なさに由来するもの
と推察される。
本調査と全国規模での調査との比較からは、
本調査において世帯主が 50~59 歳の世帯、
世帯主が未婚である単身世帯からの回答が少なくなっていることが明らかになった。本調
査が調査員による訪問を経た後に調査票を配布しているため、こういった単身世帯での回
答が少なくなっていると推察される。このように、本調査は全国調査と比べると、分布に
差が見られるため、本調査の結果を全国レベルで解釈することは難しい。そのため、本調
査の結果については、
「草加市では」という限定が付くことに留意が必要である。
6.3.2
環境に対する意識
ここからは、調査への回答をもとに家計における省エネ意識・省エネ行動の実態につい
て紹介する。まず、家計がどの程度地球温暖化問題に対して関心を持っているかについて
見てみよう。調査では関心度合いを把握するために、
「あなたは、地球温暖化問題に対して
どのくらい関心を持っていますか」という質問を行った。
「おおいに関心がある」から「ま
134
ったく関心がない」までの 4 段階での回答となっている。図 6.8 にその結果を示している。
「おおいに関心がある」と「ある程度関心がある」という地球温暖化問題に関心を抱い
ていることを示す 2 つの選択肢の回答割合をまとめると、全体のうち 9 割の家計が地球温
暖化問題に関心を持っていることがわかった。
「まったく関心がない」という世帯は 1%に
過ぎず、大半の家計は今後の地球温暖化問題の解決に向けた動向に関心を持っていると考
えられる。
図 6.8
70
地球温暖化問題への関心度合(%)
62.7
60
50
40
30
27.7
20
10
7.7
1.3
0
0.6
注: サンプル数:714.
出所: 本調査より, 筆者作成.
次に、
「あなたは、地球温暖化防止に対して、一般家庭と産業界では、どちらが率先して
取組むべきだと思いますか」という質問を行った。その結果を図 6.9 に示している。この
図を見ると、地球温暖化防止に向けて取組む経済主体は、一般家庭あるいは産業界のいず
れか一方であるという回答は少なく、大半の家計で両者が取組むべきであると考えている
ことがわかる。また、取り組む必要がないと回答している世帯は 1%程度である。
135
図 6.9
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
地球温暖化防止に率先して取組む経済主体(%)
80.3
15.1
2.8
1.1
0.7
注: サンプル数: 714.
出所: 本調査より, 筆者作成.
家計が普段の節約を考える中で、どの程度光熱費に対する節約に関心を持っているのか
どうかを把握するために、
「家計において、節約する際に取組む項目がいくつかあります。
以下にあげる項目をみて、仮に、あなたが節約するとしたら『電気料金、ガス料金および
灯油代(光熱費)』の優先順位は何番目だと思いますか」という質問を行った。項目は、
「食
費」
、「水道料金」
、
「交通・通信費」
、「住居費」
、
「医療・衛生費」
、「交際費」、
「電気料金、
ガス料金および灯油代」
、「教養・娯楽費」、「教育費」の 9 つである。
9 つの項目の中から、714 世帯の電気・ガス・灯油などといった光熱費の優先順位の分布
を示したものが図 6.10 である。9 つの項目の中で、光熱費の節約優先順位が 1~3 番目と
回答している世帯は全体の 4 分の 3 に上っている。したがって、多くの世帯が節約を考え
る場合、光熱費の節約を優先的に考えていることになる。
136
図 6.10
30
光熱費(電気・ガス・灯油)の節約に対する優先順位(%)
26.6
23.7
25
23.9
20
15
10.1
10
7.7
5
2.4
1.5
1.1
0.8
0
1番目 2番目 3番目 4番目 5番目 6番目 7番目 8番目 9番目
出所: 本調査より, 筆者作成.
上記の家計の環境に対する意識を尋ねる質問への回答結果から、家計は地球温暖化対策
に関心があり、
自らも対策に取組む必要があると感じていることが明らかになった。
また、
多くの家計は家計の支出項目の中で節約を行うとすれば、光熱費の節約を考えると回答し
ている。そのため、家計に対する GHG 抑制政策を考えた場合、こうした光熱費の節約に
関する政策、つまりは省エネ行動を促進するような政策が有効であるといえる。
6.3.3
省エネ行動の実態
次に、家計の省エネ行動の実態に関する集計結果を見てみよう。調査では、家計で簡単
に行える省エネ行動として 14 項目を提示し、
それぞれについて各家計の実施状況を尋ねて
いる。これらの省エネ行動の選定については省エネルギーセンター(以下 ECCJ, 2010)を
参考にした。表 6.1 には ECCJ(2010)で紹介されているモデルケースにおける各省エネ行
動と、それらを 1 年間継続して行った場合の節約金額、そしてそれに伴う CO2 削減量を併
記している。
この 14 項目の省エネ行動のうち、最も節約金額が高いものが「家族で間隔をあけずにお
風呂に入る」という省エネ行動である。つまり、
「連続でお風呂に入ることによって、足し
湯のためにお風呂を沸かすためのガス(電気)を利用しなくて済む」ということが最も光
熱費を節約できるのである。一方、エアコンの「夏の温度設定 28℃」やテレビの「見ない
ときは消す」という普段から聞き慣れている省エネ行動は、給湯器や電気ポットに関する
省エネ行動と比較しても、全般的に節約できる金額は低めとなっていることがわかる。そ
137
して、節約される電気代は、CO2 削減量とも比例するため、エアコンやテレビの省エネ行
動によって削減できる CO2 も少なくなっている。
ただし、表 6.1 に示されている節約金額と CO2 削減量は世帯状況や外気温などといった
自然環境について仮定をおいた上で計算されたものである点には留意が必要である。例え
ば、よく目にする省エネ行動である「夏の冷房温度 28℃設定」の場合、節約できる電気代
は、
「外気温度 31℃で、エアコン(2.2kW)の冷房設定温度を 27~28℃に設定し、1 日に 9
時間エアコンを使用する」という想定の下で試算されたものである。したがって、全ての
世帯が表 6.1 にある節約金額を享受できる訳ではない点に注意が必要である。
表 6.1
家電製品
エアコン
ヒーター
電気カーペット
テレビ
冷蔵庫
電気ポット
給湯器
省エネ行動別の年間節約金額と CO₂削減量
省エネ項目
夏の温度設定28℃
冬の温度設定20℃
不必要につけっぱなしにしない
フィルターの掃除
冬の温度設定20℃
不必要につけっぱなしにしない
温度調節
見ないときは消す
温度調節や整理整頓
壁から間隔をあけて設置
使わないときはプラグを抜く
洗い物をする時は設定温度を低くする
家族で間隔をあけずにお風呂に入る
シャワーは流しっぱなしにしない
節約代(円) 削減CO2量(kg)
670
13.7
1,170
24.0
655
13.5
700
14.5
870
22.0
1,675
36.0
4,090
40.7
985
20.3
1,160
24.0
990
20.4
2,360
48.7
1,360
20.0
5,920
87.0
2,980
29.1
注: 14 項目全ての省エネ行動を実施すると, 年間で 25,585 円の光熱費の節約につながる.
この値は, 2010 年の全国消費実態調査における平均的家計の月間光熱費を年間金額に
単純換算(12 倍)した 196,092 円の約 13%を占めている.
出所: ECCJ(2010)より, 筆者作成.
これらの省エネ行動について、どの程度取組んでいるのかという質問に対する回答結果
を示したものが図 6.11 である。実施状況については、
「いつも取り組んでいる」
、「あまり
取り組んでいない」
、「まったく取り組んでいない」という 3 段階で質問をしている。
ただし、
「電気ポットを使わないときはプラグを抜く」という省エネ行動を実施すること
のできる世帯は、電気ポットを持っている世帯だけである。そのため、電気ポットを持っ
ていない世帯については、その省エネ行動の実施状況を尋ねていない。電気カーペットに
ついての省エネ行動も同様である。こうした家計の電気機器保有状況に差異が存在するた
め、図 6.11 における各省エネ行動の回答数(N:該当する機器を保有している家計のみが
回答)
は項目によって異なっている。
また、
「冷蔵庫を壁から適切な間隔をあけて設置する」
138
という省エネ行動については、
「設置する」か「設置しない」かの二項選択であると考え、
「あまり取り組んでいない」という選択肢は除外している。
図 6.11
省エネ行動の実施状況
シャワー:お湯を流しっぱなしにしない(N=681)
ファンヒーター:必要なときだけ付ける(N=409)
エアコン:不必要に付けっぱなしにしない(N=693)
冷蔵庫:適切な間隔をあけて設置(N=713)
テレビ:見ていないときは消す(N=711)
電気カーペット:設定温度調整(N=332)
ファンヒーター:冬の温度設定20℃(N=409)
給湯器:温度設定を低く(N=611)
エアコン:夏の温度設定28℃(N=693)
電気ポット:コンセントからプラグを抜く(N=329)
風呂:追いだきをしない(N=707)
エアコン:冬の温度設定20℃(N=693)
冷蔵庫:温度調整と整理整頓(N=713)
エアコン:フィルター掃除(N=693)
0
いつも取り組んでいる
10
20
あまり取り組んでいない
30
40
50
60
まったく取り組んでいない
70
80
90
100
無回答
出所: 調査データより, 筆者作成.
調査で提示した省エネ行動のうち、過半数の家計が実施している行動は、
「シャワーを流
しっぱなしにしない」
、「ファンヒーターは必要な時だけつける」
、「エアコンは不必要につ
けっぱなしにしない」
、「冷蔵庫は壁から適切な間隔をあけて設置する」
、
「テレビは見ない
ときは消す」という 5 項目であった。一方、実施率の低い行動は、
「エアコンのフィルター
掃除」
、
「冷蔵庫の温度調整・整理整頓」
、
「エアコンの冬季温度設定 20℃」、
「お風呂の追い
だきをしない(間隔をあけずに入る)
」
、
「電気ポットのコンセントを抜く」であった。
実施率の高い行動と低い行動を比較してみると、スイッチのオンオフのように省エネに
繋がることが実感しやすい行動ほど、実施率が高くなっていることがわかる。一方、エア
コンフィルターの掃除や冷蔵庫の整理整頓などは、その行動がどれだけ省エネに繋がるの
かが実感しにくい行動であるといえる。
6.4
省エネ行動を促すには
表 6.2 は、実際の省エネ行動の実施率と ECCJ(2010)で紹介されている節約金額とを対
比させたものである。表 6.2 は表 6.1 の年間節約金額の昇順に省エネ行動を並び変えたも
のである。表の実施率の順位は図 6.11 での実施率の順位である。
139
表 6.2
各省エネ行動の年間節約金額と実際の実施率
エアコン:不必要につけっぱなしにしない
エアコン:夏の温度設定28℃
エアコン:フィルター掃除
ファンヒーター:冬の温度設定20℃
テレビ:見ていないときは消す
冷蔵庫:適切な間隔をあけて設置
冷蔵庫:温度調整と整理整頓
エアコン:冬の温度設定20℃
給湯器:温度設定を低く
ファンヒーター:必要なときだけ付ける
電気ポット:コンセントからプラグを抜く
シャワー:お湯を流しっぱなしにしない
電気カーペット:設定温度調整
風呂:追いだきをしない
節約金額(円) 実施率の順位
655
3
670
9
700
14
870
7
985
5
990
4
1,160
13
1,170
12
1,360
8
1,675
2
2,360
10
2,980
1
4,090
6
5,920
11
出所: ECCJ(2010)と本調査より, 筆者作成.
表 6.2 からは、年間節約金額と実施率の順位の相関が高くないことがわかる。実際に相
関係数を計算するとわずか 0.006 である。例えば、
「エアコンを不必要につけっぱなしにし
ない」という省エネ行動の年間節約金額は 655 円に過ぎないのにもかかわらず、実際の実
施率の順位は 3 位となっており、多くの家計が実施している。一方、
「お風呂の追いだきを
しない」は最も年間節約金額が高いが、実施率は 11 位となっている。
さて、ここで上記の省エネ行動に伴う手間暇(機会費用)が等しいと仮定してみよう。
つまり、どの省エネ行動を行うにしても同じだけの時間的な負担が伴うと考えた場合、も
し家計が省エネ行動によってもたらされる節約金額を完全に把握しているのであれば、省
エネ行動の実施率と実際の節約金額とは高い相関関係があるはずである。なぜなら、家計
は「お風呂の追いだきをしない」と「エアコンを不必要につけっぱなしにしない」ことに
よって節約できるそれぞれの金額を知っており、その手間が同じであるならば、より節約
できる省エネ行動である「お風呂の追いだきをしない」を実施すると考えられるからであ
る。
このように考えると、表 6.2 で示されている年間節約金額と実施率の順位とのミスマッ
チは、家計がそれぞれの省エネ行動がもたらす節約金額を正しく認識していない可能性を
示していると捉えることができる。このような家計の態度と行動との間にズレが存在する
という指摘は Jensen(2008)でもなされている。つまり、家計は自分がどれだけ節約でき
ているのかがわかっていない、あるいは節約金額を間違って認識しているのである。した
がって、こうした家計の認識不足は炭素価格政策の有効性を阻害する可能性があり、誤っ
た認識を是正するような政策も同時に実施することが必要であると言える。
140
6.5
温暖化政策による省エネ行動への影響分析
本節では、家計部門の二酸化炭素排出量が炭素価格にどのように反応するかを家計調査
の結果を使って分析する。特に、家計が節約金額を間違って認識している状況の下で、正
確な節約金額を各家計に提示するような情報提供政策と実施した場合と炭素価格政策を実
施した場合とで、家計の省エネ行動の実施確率がどの程度変化するか分析を行った。ここ
では、すべての家計にとって最も身近な省エネ行動の一つである「夏のエアコン温度を
28℃に設定する」を取り上げ、埼玉県草加市で行ったアンケート調査データを用いて分析
を行っている。
各家計は省エネ行動を実施するにあたって、自らが考える節約金額(Perceived Benefit)
とその費用(例えば、不快感や手間暇など)を比べ、実施するか否かを決定しているもの
と考えられる。このとき、「夏のエアコン温度を 28℃に設定する」ことで得られると考え
る節約金額が費用を上回る家計は、この省エネ行動を実施することになる。
こうした各家計の選択問題(実施するか実施しないか)を考える場合、経済学ではラン
ダム効用モデル(Random Utility Model)が用いられる。ランダム効用モデルを用いて各
家計の省エネ行動をモデル化すると、次のように表すことができる。
U ij* =
β 0 j + βij PBij + β 2 j Cij + ε ij
=
Cij
∑θ
x + µij
ijk ijk
(1)
(2)
k
*
(1)式の左辺 U ij は、家計 i が省エネ行動 j を行うことで得る効用あるいは純便益である。
また、
(1)式の右辺の PBij と Cij は、それぞれ家計 i が省エネ行動 j を行うことで得られる
と考える節約金額とそれに伴う費用である。ここで、
(2)式で示されるように、省エネ行
動 j の実施に伴う費用( Cij )は各家計の属性( xij )によって決まると仮定する。
(1)式より、効用がプラスとなる家計は省エネ行動 j を実施し、効用がマイナスとなる
*
家計は実施しない。しかし、家計 i が省エネ行動 j を行うことで得る効用( U ij )は、実際
*
に観測することが不可能である。そのため、ランダム効用モデルでは U ij を確率変数と見な
し、それが観測可能な説明変数( PBij と xij )と誤差項( ε ij と µij )及びパラメータの関数
(1)式
からなるものと仮定するで、省エネ行動 j が実施される確率を推定する。ここで、
141
と(2)式の誤差項の和( ε=
ε ij + µij )が標準正規分布に従うものとすると、(1)式はプ
ij
ロビットモデル(Probit Model)となる。
表 6.3 は、
(1)式の推定結果が示されている。今回の分析から、各家計が考える「夏の
エアコン温度を 28℃に設定する」ことの節金額(節約の評価額)は実施確率に対して有意
にプラスに影響を与えることが確認された。また、一戸建てかつ持ち家の家計ほど、夏の
エアコン温度設定を 28℃にする傾向が示された。一方、世帯主の年齢、同居人数、職業ダ
ミー(企業・団体の一般社員、職員)
、部屋の数は、実施確率に対して有意にマイナスに影
響を与えることが示された。さらに、28℃と各家計の快適に感じる設定温度との差が大き
くなるほど、省エネ行動の実施確率は小さくなる傾向が確認された。
表 6.3
推定結果
夏のエアコン28℃
節約の評価額
既婚ダミー
教育ダミー
世帯主の年齢
同居人数
職業ダミー
所得(対数値)
所得の2乗値
持ち家ダミー
築年数
部屋数
エアコンの使用台数
快適温度との差
(エアコン;28℃)
エアコンの使用年数
定数衡
rho
Log likelihood
LR chi2
Number of obs
Coef.
0.000023
-0.001361
0.212425
-0.013911
-0.113250
-0.343467
-0.449376
0.037755
0.476767
-0.008634
-0.109404
-0.048726
P_value
0.08
1.00
0.18
0.06
0.08
0.05
0.73
0.73
0.03
0.26
0.08
0.47
-0.135447
0.00
-0.012932
2.693074
0.34
0.49
-224.24
38.17
0.00
402
この結果を用いて、すべての家計に対して「夏のエアコン温度を 28℃に設定」することで
得られる正確な節約金額 670 円を提示した場合と炭素価格政策を実施した場合とについて
シミュレーション分析を行った。まず、すべての家計に対して正確な節約金額を提示した
場合について見てみる。節約金額については、すべての家計が表 6.1 で示されている 670
142
円を認識していると仮定した場合の実施確率について計算を行った。シミュレーション結
果より、正確な節約金額を提示することで家計における「夏のエアコン温度を 28℃に設定
する」という省エネ行動の実施率は 29.3%から 27.0%に低下することが示された。
次に、炭素価格政策を実施したケースについて見ていくことにする。今回の分析では、
第 2 章での排出量取引の国際リンクを実施しなかった場合の排出枠価格(95$/t-CO₂)が
そのまま炭素税としてエネルギー価格に上乗せされた場合について分析を行った。分析で
は、1$=100 円と想定し、9,500 円/t-CO₂の税率が課されたと想定しシミュレーションを
行っている。シミュレーションの結果では、炭素税を課すことで、家計の省エネ行動実施
確率は 29.3%から 30.0%に上昇することが確認された。
以上の分析結果より、すべての家計に対して節約金額を提示するだけでは省エネ行動の
実施確率は低下してしまうことが示された。また、9,500 円/t-CO₂という非常に高い税率
を課したとしても、家計の省エネ行動促進効果は非常に小さいことが確認された。したが
って、
家計での省エネ行動を促進させるためには、価格シグナルを通じた政策だけでなく、
CO₂削減効果など社会全体での効果をより明確にするような政策も同時に実施していくこ
とが重要であると考えられる。
6.6
おわりに
家計部門からの温室効果ガスは産業部門や運輸部門と異なり、
増加傾向にある。
そこで、
本章では GHG 排出抑制が進んでいない家計部門に注目し、その対策について検討した。
具体的には、家計における省エネ行動を取り上げ、埼玉県草加市の 1,200 世帯を対象とし
た家計調査を行うことで、全 14 項目の省エネ行動の実態を把握し、それらを促進するため
の政策について考察した。
回収した調査票を分析したところ、多くの家計が地球温暖化問題に関心をもっているこ
とが分った。また、温暖化防止に向けて、家計は産業界のみならず、自らも取組む必要が
あると感じていることも明らかとなった。そして、家計の支出項目の中で節約する項目と
して、光熱費の優先順位が高いことも示された。これらの点は、家計部門での GHG 削減、
つまり家計での省エネ行動を促進できる余地が大いにあることを示している。
また、個々の省エネ行動の実施状況を尋ねると、省エネ行動によって実施率のばらつき
があることが示された。特に、
「お湯を流しっぱなしにしない」などの、節約が実感しやす
い省エネ行動の実施率が高く、
「エアコンのフィルター掃除」のような節約が実感し難い省
エネ行動の実施率が低いことが明らかになった。
各省エネ行動によって得られる節約金額とその実施率とを比較してみると、相互の関連
性が低いことも示された。つまり、家計は光熱費の節約に関心が高いものの、節約額の大
きい省エネ行動を優先的に実施していないのである。家計によって省エネ行動ごとの機会
費用が異なる可能性はあるものの、節約金額と実施率との間の低い相関関係は、家計がそ
れぞれの省エネ行動によって得られる節約金額を正しく認識していないことを示している
143
と考えられる。もし家計が省エネ行動の結果を正しく理解しているのであれば、実施率と
節約金額との相関が高くなるはずである。言い換えるならば、家計は光熱費の節約に高い
関心を持っているのであるのだから、節約金額の大きい省エネ行動は多くの家計で実施さ
れるはずである。
この分析結果は、家計に対して、個々の省エネ行動によってどれだけ光熱費が節約でき
るのかを正しく伝えることが必要であるということを示している。そこで、本章では家計
の省エネ行動モデルを構築し、計量分析を行った。そして、そのモデルを用いて、正確な
節約金額を各家計に提示した場合と炭素価格政策を実施した場合に、どの程度の省エネ行
動(夏のエアコンの温度設定 28 度)を促進させるかシミュレーション分析を行った。分
析結果より、どちらの政策を実施したとしても家計の省エネ行動はあまり促進されないこ
とが示唆された。このことから、家計での省エネ行動を分析する際には、CGE の家計部門
の分析結果の解釈には注意が必要であり、今後、CGE モデルの家計部門の改善が必要であ
ることが示唆された。
また家計の省エネを促進するためには、価格を通じた政策だけでなく、CO₂削減効果な
ど社会全体での効果をより明確にするような政策も同時に実施していくことが重要である
と考えられる。ただし、経済学の立場から家計の省エネ行動に関する研究は少ないため、
今後の研究蓄積とそれを活かした制度設計が必要であると言える。
本章では家計の省エネ行動に注目し、どのように促進していくべきかを検討した。しか
し、家計への GHG 抑制施策を検討する際には、省エネ効果の高い家電の普及も重要なポ
イントである。そこで、第 10 章では、家計へのこの省エネ型機器の普及を促すためにはど
のような政策が望ましいかということを検討する。
144
7.
家計における省エネルギー投資と割引率
7.1
はじめに
一般に、エネルギー効率性改善、あるいは省エネルギー(以下、省エネ)につながる様々
な取組みは、企業の生産性向上や家計支出の節約をもたらす。しかし、生産性向上や家計
支出の節約につながるような省エネの潜在的機会が存在していても、企業や消費者がそう
した機会を活用するとは限らない。例えば、ある時点において最もエネルギー効率性の高
い技術が実際に採用されないままの状態にあることや、新しい省エネ技術の普及がなかな
か進まないといったことがしばしば指摘される。これは、「エネルギー効率性ギャップ
(energy efficiency gap)」と呼ばれる論点である。
エネルギー効率性改善の潜在的機会が現実には利用されないことに関して、伝統的な経
済学では企業や消費者の合理的選択の結果であると説明される。すなわち、エネルギー効
率性の改善につながる機会が存在していても、何らかの要因により企業や消費者はその機
会を利用することが自己の利益につながらないと判断しているということである。ここで
重要なのは、省エネ機会を利用するインセンティブがいかなる要因によって損なわれてい
るのかを明らかにすることである。そこで本章では、省エネ投資が過小な状況に陥る諸要
因について、既存研究を概観しながら検討する。そして、これを踏まえつつ、家計の省エ
ネ投資行動に関し、埼玉県草加市を対象に行われたアンケート調査により得られたデータ
を基に実証分析を行う
1)
。この分析では、家計による省エネ投資の意思決定において重要
な要素となる割引率に着目する。具体的には、家計が省エネ型家電や太陽光発電システム
を購入する際に用いる割引率を計測し、これに基づき省エネ型家電・太陽光発電システム
の購入に伴う追加的費用を推計する。また、その推計結果を用いて、地球温暖化対策とし
て議論されている政策措置がもたらす効果について考察を試みる。
エネルギー効率性改善における過小投資の諸要因
7.2
石油危機の際、原油価格の高騰が省エネ投資を誘発したという事実にも表れているよう
に、市場メカニズムはエネルギー効率性改善のインセンティブを与える機能をある程度有
している。しかし、民間部門における省エネ投資については、その水準が過小な状態に陥
ってしまう傾向にあるといわれる。これに関して、既存研究ではいくつかの要因が指摘さ
れている。
7.2.1
外部性
外部性は「市場の失敗」をもたらす要因である。エネルギー効率性の改善がもたらす外
1)
このアンケート調査の概要については、6 章を参照。
145
部性の 1 つに、環境汚染の緩和がある。化石燃料から得られるエネルギーを使用すること
に伴い、硫黄酸化物や窒素酸化物などの大気汚染物質や温室効果ガス(Greenhouse Gas:
GHG)
の 1 つである CO2 が排出される。
省エネによってエネルギー利用量が削減されると、
これらの物質の排出量が抑制され、大気汚染による健康被害や酸性雨、地球温暖化が緩和
されることにつながる。
しかし、適切な政策的介入がなされない限り、エネルギー利用に伴う環境汚染という外
部不経済が経済主体によって内部化されることは期待できない。したがって、外部不経済
の内部化のための政策措置が存在しない場合、化石燃料起源のエネルギーは社会的にみて
過剰に利用される、あるいは省エネ投資は社会的にみて過小な水準に陥る傾向がある。
エネルギー資源の多くを海外の特定の国からの輸入に依存している場合、国内のエネル
ギー供給は資源の供給元となる国の政治情勢の影響を受けて不安定になりかねない。こう
したエネルギー安全保障上のリスクの低減も、エネルギー効率性の改善がもたらす外部性
に含まれる。しかし、化石燃料の供給を中東地域などの政情が不安定な国に大きく依存し
ていることの国家的なリスクに関して、企業や消費者がエネルギー利用に際して意識する
ことはほとんどないであろう。そのため、エネルギー効率性の改善は、化石燃料起源のエ
ネルギーの利用抑制に伴う安全保障上のリスク低減効果を持ちうるにもかかわらず、省エ
ネ投資は過小な水準になってしまうのである 2)。
7.2.2
流動性制約
省エネ投資を行うためには資金が必要であるが、すべての企業や消費者が十分な資金を
保有しているわけではない。エネルギー効率性の高い技術や、省エネ効果の高い家電製品・
自動車などが存在していたとしても、これらは一般的に高価であるために、初期投資の費
用が大きくなってしまう。この点が、省エネ効果の高い技術や製品への投資を阻害する要
因となるのである。
初期投資に必要な資金は、借入によって調達することも可能ではある。しかし、現実に
は資本市場は不完全であるために、すべての企業や消費者が借入を行うことができるわけ
ではない。こうした「資本市場の失敗」に伴う流動性制約は、エネルギー効率性改善にお
ける過小投資をもたらす要因となる(Tietenberg 2009; Gillingham et al. 2009)。
7.2.3
情報にかかわる問題
エネルギー効率性の改善に向けた取組みを阻害する要因として、多くの文献で指摘され
ているのが、情報にかかわる問題である。具体的には、1)情報の欠如、2)情報の非対称
性、3)プリンシパル=エージェント関係、4)ラーニング・バイ・ユージング
(learning-by-using)、といった点がこれに含まれる(Gillingham et al. 2009)。
エネルギーを消費する財の選択の意思決定に際して、企業や消費者は、どの財が省エネ
2)
エネルギー効率性改善がもたらす外部性については、Tietenberg(2009)を参照。
146
性能に最も優れているのか、あるいはそれぞれの財がどの程度の省エネ性能を有している
のかといったことに関して、十分な情報を持っていない可能性がある。こうした情報の欠
如は、エネルギー効率性の改善をもたらしうる財の導入に関する費用便益計算を行う際の
障害となるため、結果として省エネ投資が阻害されることにつながるのである。
財の買い手はエネルギー効率性に関する情報を欠いているという状況が存在する一方で、
売り手側は自身が生産する財のエネルギー効率性について十分な情報を有している。売り
手側は財の省エネ性能の優秀さに関する情報を買い手に提供するかもしれないが、買い手
にとっては実際に導入してみなければ省エネ性能について観察することができない。
Howarth and Andersson(1993)は、こうした情報の非対称性がエネルギー効率性改善にお
ける過小投資を招くことをモデル分析によって明らかにしている。
経済主体間のプリンシパル=エージェント関係も、省エネにおける過小投資をもたらす
要因である。例えば、賃貸の住宅やオフィス・ビルの家主(エージェント)は、自己の所
有する建築物に対する省エネ投資の意思決定を行う立場にあり、
その借主
(プリンシパル)
は電気料金などのエネルギー費用を負担する立場にある。借主が借りようとする物件の省
エネ性能について完全な情報を有しているならば、省エネ性能を向上させる投資が行われ
ているために賃貸料が高く設定されていたとしても、省エネ性能の高い物件を借りること
に伴う追加的費用がエネルギー費用の節約によって回収可能であれば、借主は当該物件を
借りるだろう。この場合、家主は所有する物件の省エネ性能を高めるのに要する費用を賃
貸収入によって回収することが可能であるので、省エネ投資を行うインセンティブを有す
ることになる。しかし実際には、借主は物件の省エネ性能について不完全な情報しか持た
ないため、高い賃貸料がエネルギー費用の節約によって回収可能であるかどうかについて
の判断を行うことができない。このような状況では、家主が省エネ投資に伴う費用増加分
を賃貸料によって回収することは困難である。こうしたことから、家主の省エネ投資イン
センティブが損なわれるのである。
高いエネルギー効率性を有する新しい財についての情報は、それが実際に導入され使用
されることを通じて伝播する。新たに登場した財を早期に導入・使用した主体がもたらす
当該財に関する情報は、他の主体が対価を支払うことなく利用することができる。このよ
うに、ラーニング・バイ・ユージング(使用を通じた学習)は正の外部性をもたらす。し
かし、早期に導入・使用する主体には、その行動が情報の提供という形で他の主体に便益
をもたらしているにもかかわらず対価を支払われることがない。このようなことから、た
とえエネルギー効率性に優れた新しい財であっても、それを早期に導入しようとするイン
センティブが社会的にみて過小になってしまうのである。
7.2.4
割引率をめぐって
消費者は、省エネ性能の高い耐久財の購入に要する追加的費用(省エネ性能が高い財と
そうでない財の価格差)が、それを使用することで将来節約されるエネルギー費用の現在
価値を下回るならば、
当該財を購入するという意思決定を行うと考えられる。このことは、
147
具体的には次のように表現される(Meier and Whittier 1983)
。
P0E∫0n e(f − r)tdt > I
ここで、P0 はエネルギー価格の初期値、E は年間のエネルギー節約分、r は割引率、f は年
率でみたエネルギー価格上昇率、n は耐用年数、I は省エネ性能の高い財の購入に要する追
加的費用である。エネルギー価格上昇率がゼロで、耐用年数が十分に長いと仮定すると、
上の式は次のように書き換えることができる。
r < P0E/I
この式が意味するのは、エネルギー効率性改善投資の収益率が割引率を上回らない限り、
消費者は省エネ性能の高い耐久財を購入しないということである。
省エネ性能の高い家電製品の購入といった消費者によるエネルギー効率性改善投資に関
する実証研究においては、消費者が暗黙裡に採用している割引率(implicit discount rate)
が非常に高いということが明らかにされている。ルームエアコンの購入における消費者行
動に関して離散選択モデルによる分析を行った Hausman(1979)は、消費者が意思決定の
際に約 20%の割引率を用いているという結果を得ている。Gately(1980)が冷蔵庫の購入
に関して行った分析では、45%から最大で 300%という値の割引率が導き出されている。
冷蔵庫については Meier and Whittier(1983)によっても分析されており、そこでは冷蔵庫
の買い手の 5 分の 3 が 35%を上回る値の割引率を有していたという結果が得られている。
Ruderman et al.(1987)は、ルームエアコンや冷蔵庫を含めた広範な財を対象として消費者
の割引率に関する推計を行っている。この分析の結果では、ルームエアコンやセントラル
エアコンにかかわる割引率が約 20%であるのに対して、冷蔵庫については 78~105%、冷
凍庫については 270~379%、電気給湯器については 587~825%という高い値が得られてい
る。
Ruderman et al.(1987)は、消費者が高い割引率を採用する要因を挙げているが、その中
には先に述べた情報の欠如や流動性制約が含まれている。このことから、消費者が暗黙裡
に採用する割引率には、これらの要因が消費者の意思決定に及ぼす影響の度合いが反映さ
れていることが窺われる。
割引率に関する実証研究は報告書としてまとめられているものが多く、それらは入手困
難である場合が少なくない。そうしたものも含めた割引率の実証研究のサーベイを行った
Train(1985)は、低所得者の割引率は高く、所得が高くなるにしたがい割引率は低下する
という傾向を見出している
3)
。その理由については、低所得の家計は流動性制約に直面し
ている度合いがより強いという点や、低所得者は教育水準が低いために省エネ投資による
3)
ただし、Houston(1983)による実証研究ではこうした所得と割引率との関係は支持されていない。
148
エネルギー関連支出の節約効果を十分に認識できないという点が指摘されている。
省エネ投資は不可逆性を有するとともに、節約効果の程度を決定づける将来のエネルギ
ー価格に関する不確実性を伴う。こうした省エネ投資の特徴に着目して消費者の割引率に
関するモデル分析を行った Hassett and Metcalf(1992)は、エネルギー価格が幾何学的ブラ
ウン運動の確率過程(geometric Brownian motion process)にしたがって変動すると想定し
た場合、このような確率過程を考慮しない場合と比較して割引率が大きくなるということ
を明らかにしている。これは、将来のエネルギー価格の不確実性が割引率の大きさに反映
されるということを意味する。
以上みてきたように、
省エネ投資の意思決定の際に消費者が用いる割引率の大きさには、
情報の問題や流動性制約、エネルギー価格の不確実性、および消費者自身の属性といった
要因の及ぼす影響の度合いが集約されている。家計の省エネ投資行動を実証的に検討する
際には、この割引率を計測するという作業が不可欠なのである。
7.3
7.3.1
家計の省エネ投資行動の経済分析
調査の概要
アンケート調査で用いる質問票においては、Houston(1983)が採用した方法に倣
い、割引率の計測を目的として次のような質問を用意した。なお、調査対象と
なる家電製品としてエアコンと冷蔵庫を取り上げたが、ともに同様の質問を行っている
ので、以下にはエアコンにかかわる質問内容のみを示す。
省エネ型のエアコンは、省エネ型ではないエアコンよりも費用が高くなりますが、その
一方で電気料金の節約につながるという利点があります。仮に、省エネ型でないエアコン
よりも2万5000円値段が高い省エネ型のエアコンがあるとします。また、この省エネ
型のエアコンは十分に長い期間使用可能である(耐用年数が十分に長い)とします。あな
たは、年間で少なくともどれだけの電気料金の節約になれば、この省エネ型のエアコンを
購入しようと思いますか。
回答者に提示する省エネ型エアコン・冷蔵庫購入の追加的負担(エアコンについては
25,000 円、冷蔵庫については 30,000 円)は、省エネ基準の達成率が 100%以上の製品群と
100%未満の製品群の平均小売価格の差額とした。その算出の際には、2009 年 11 月時点の
価格ドットコムが提供するエアコン(鉄筋建築で 9 畳用の冷房能力)と冷蔵庫(定格内容
積 350~450L)に関する価格データを使用した。
上記の質問に対して回答された数値(S)と、提示した購入費用の追加的負担(R)の比
率(S/R)を計算し、これを主観的割引率とする。また、以下の式を用いて、割引率から投
資回収期間を算出することができる(Ruderman et al. 1987)
。
149
投資回収期間 = (1/r) (1-(1/(1+r)N))
ここで、r は主観的割引率、N は製品の耐用年数である。
次に、省エネ型のエアコン・冷蔵庫を購入・使用することによって実際に節約される年
間電気料金の流列について、上で算出した主観的割引率を用いて現在価値化する。この値
は、世帯が認識する「後悔しない(no-regret)」投資額(I)と考えることができる。電気
料金の節約額のデータについては、省エネ型エアコン・冷蔵庫購入の追加的負担の算出と
同様に価格ドットコムによっている。R から I を差し引いた値(R-I)を、世帯にとって
の省エネ型エアコン・冷蔵庫購入の追加的費用とみなす。なお追加的費用については、(R
-I)×[i/(1-(1+i)-N)](i は市場利子率、N は製品の耐用年数)という算定式を用いて、年
価(年間の追加的費用)で表現する。
太陽光発電システムの購入については、アンケートにおいて一戸建て・持ち家の世帯を
対象に次のような質問を設定した。
太陽光発電システムの導入に必要な費用は、
出力が 4kWの場合、
約 270 万円になります。
これを設置すると、電気料金が節約されるという利益があり、また太陽光発電による電力
が余った場合には売電による利益もあります。あなたは、こうした利益が年間で少なくと
もどれだけあれば太陽光発電システムを設置しようと思いますか。なお、すでに設置して
いるご家庭の方は、現在望んでいる利益をお答えください。
省エネ型エアコン・冷蔵庫の場合と同様の手続きにより、太陽光発電システム購入の追
加的費用を計算する。まず、上記の質問から得られる金額と設置費用(270 万円)を用い
て、家計の主観的割引率を算出する。次に、太陽光発電を導入・使用することによって得
られる年間利益の流列について、主観的割引率を用いて現在価値化する。この値は世帯が
認識する後悔しない投資額である。設置費用からこの投資額を差し引いた値を、世帯にと
っての太陽光発電導入の追加的費用とする
(これも先の算定式により年価として表現する)
。
なお、以上の計算で用いられる設置費用や年間発電量などのデータは、NEDO(2008)に
よっている。
7.3.2
主観的割引率および投資回収期間の計測
表 7.1 には、上で述べた方法により算出された、省エネ型エアコン・冷蔵庫および太陽
光発電システムの購入にかかわる家計の主観的割引率を示している。平均値でみると、省
エネ型のエアコンおよび冷蔵庫についてはそれぞれ 50.8%、41.6%となっている。また、
表 7.2 にあるように、省エネ型のエアコン・冷蔵庫に関しては、平均的な家計は 3 年から
3 年半で投資回収を行いたいと考えていることがわかる。なお表 7.2 では、エアコンと冷
蔵庫の耐用年数を 10 年、太陽光発電の耐用年数を 20 年として計算している。以上のよう
150
に省エネ型家電購入に関して高い値の割引率が見出された点は、Hausman(1979)
、Gately
(1980)
、Meier and Whittier(1983)
、Ruderman et al.(1987)といった既存研究と整合的で
ある。
表 7.1
省エネ型エアコン・冷蔵庫、および太陽光発電に関する割引率(%)
エアコン
冷蔵庫
太陽光発電
平均値
50.8
41.6
3.8
中央値
40.0
33.3
2.0
最大値
360.0
300.0
55.6
最小値
1.0
1.0
0.1
出所: 調査データより, 筆者作成.
表 7.2
省エネ型エアコン・冷蔵庫、および太陽光発電に関する投資回収期間(年)
エアコン
冷蔵庫
太陽光発電
平均値
3.11
3.57
15.07
中央値
4.87
4.9
10.78
最大値
9.47
9.47
19.77
最小値
0.28
0.33
1.8
出所: 調査データより, 筆者作成.
太陽光発電システムの購入にかかわる家計の主観的割引率については、省エネ型エアコ
ン・冷蔵庫と比較してかなり低い値になっている。その理由として、太陽光発電にかかわ
る質問を行った対象が一戸建て・持ち家に居住する世帯に限定されていることが挙げられ
る。図 7.1 には、太陽光発電に関する質問に答えた一戸建て・持ち家の世帯の所得分布を
示している。これと図 7.2 の回答者全体の所得分布とを比較すると、太陽光発電の質問に
答えた世帯では年収 500 万円以上の割合が多いことがみてとれる。Train(1985)が指摘す
るように、高所得の家計ほど割引率が低いという傾向が一般的にみられるとすると、比較
的所得が高い一戸建て・持ち家に居住する世帯の割引率は低くなると考えられる。
ただし、
太陽光発電導入にかかわる割引率の低さを所得との関係のみで説明するには、省エネ型エ
アコン・冷蔵庫との差があまりにも大きいように思われる。これについては、太陽光発電
システムという耐久財に対して、そもそも長期的な投資回収期間を見込むものであるとい
う認識を家計が有していることが背景にあるのかもしれない。
151
図 7.1
太陽光発電に関する質問の回答者の所得分布
25
21.3
21.3
20
14.6
15
13.1
10.1
10
10.1
5.5
4.0
5
0
注: サンプル数は無回答を除いた 328 世帯.
出所: 調査データより, 筆者作成.
図 7.2
回答者全体の所得分布
25
20.4
20
17.6
15.2
15
10
14.8
12.9
8.5
7.3
5
3.3
0
注: サンプル数は無回答を除いた 613 世帯.
出所: 調査データより, 筆者作成.
152
7.3.3
追加的費用の計測
ここで、主観的割引率の世帯平均値を用いて省エネ型エアコン・冷蔵庫購入、および太
陽光発電導入の追加的費用を計算する。この計算に際しての前提は次の通りである。エア
コンに関しては、省エネ型と非省エネ型の製品価格の差を 25,000 円、省エネ型と非省エネ
型の年間電気料金の差を 3,400 円としている。また、割引率については平均値である 50.8%
を用い、電気料金は 23 円/kWh、市場利子率は 5%、耐用年数は 10 年、CO2 排出係数は 0.418
として計算を行っている。冷蔵庫に関しては、省エネ型と非省エネ型の製品価格の差を
30,000 円、省エネ型と非省エネ型の年間電気料金の差を 2,300 円としている。割引率につ
いては平均値の 41.6%を用い、電気料金、市場利子率、耐用年数、CO2 排出係数はエアコ
ンと同様とする。太陽光発電に関しては、設置費用を 270 万円、年間発電量を 3,200kWh
と想定し、節約される電気料金を 73,600 円としている(電気料金は 23 円/kWhとして計算)
4)
。割引率については平均値の 3.8%を用い、耐用年数を 20 年とし、市場利子率、CO2 排
出係数はエアコン・冷蔵庫と同じ値を用いている。
以上の前提の下で追加的費用を計算すると、エアコンについては 38.6 円/kg-CO₂、冷蔵
庫については 76.3 円/kg-CO₂、太陽光発電については 100.7 円/kg-CO₂という数値が得られ
た。これらの数値は、省エネ投資により CO2 排出量を削減することに伴う費用を意味して
いるので、省エネ投資にかかわる CO21 キログラム当り削減費用とみなすことができる。
また、省エネ投資に伴う世帯当りの年間 CO2 削減量に関しては、エアコンは 6.2kg、冷蔵
庫は 4.2kg、太陽光発電は 492.2kg となった。なお、エアコン・冷蔵庫については、年間で
1 台購入する世帯が全体の 10%であるとし、太陽光発電については、一戸建て・持ち家に
居住し、太陽光発電を導入していない世帯の比率が全体の 36.8%であるとして、それぞれ
の CO2 削減量の世帯平均値を算出している。この 36.8%という数値は、潜在的に太陽光発
電を導入する可能性のある世帯の割合を意味するが、これは次のように算出している。ア
ンケート調査では、一戸建て・持ち家に居住する世帯の割合が 77.8%であったが、総務省
統計局(2005)によれば、草加市の一戸建て・持ち家の(専用住宅の総数に対する)割合
は、38.3%となっている。このことから、サンプル世帯は実際よりも一戸建て・持ち家に
かなり偏っていることがわかる。この点を考慮し、一戸建て・持ち家の世帯のうち太陽光
発電をまだ導入していない世帯の割合(アンケート調査から得られたデータを使用)と一
戸建て・持ち家の割合 38.3%をかけあわせることにより、36.8%という数値が得られる。
4)
アンケート調査の質問票では季節ごとの 1 ヵ月当りの電気料金を尋ねる項目を用意しており、その回
答から一戸建て・持ち家の世帯について年間電気料金の平均値を算出したところ、太陽光発電導入によっ
て節約される電気料金を超える数値が得られた。そのため、ここでの計測は太陽光発電を導入しても余剰
電力は発生しないという前提で行われている。
153
7.4
7.4.1
政策措置がもたらす省エネ投資促進効果
炭素価格の設定
前節の分析で得られた結果を基にして、省エネ投資が炭素税あるいは排出量取引制度と
いった炭素価格政策によりどの程度誘発されうるのかを考察してみたい。炭素価格の設定
は電気料金を上昇させるので、省エネ型家電を購入・使用することによって得られる電気
料金の節約効果を高めることにつながる。
ただし、省エネ家電購入の意思決定においては、
消費者が用いる割引率によって現在価値化された年間電気料金の節約分と、省エネ型家電
購入の追加的負担が比較されることになる。消費者は、年間電気料金の節約分の現在価値
が追加的負担を上回る場合に省エネ型家電を選択すると考えられる。
このことを踏まえながら、炭素価格が 100 円/kg-CO₂に設定された場合を考えてみよう。
追加的費用を計算すると、省エネ型エアコンについては 13.5 円/kg-CO₂、省エネ型冷蔵庫
については 46.2 円/kg-CO₂となり、追加的費用は依然として正値のままである。炭素価格
を 100 円から引き上げていき、CO21 キログラム当りの追加的費用が負値になる水準を調べ
た結果が、表 7.3 と表 7.4 に示されている。これらの表より、省エネ型エアコンの場合は
154 円/kg-CO₂、省エネ型冷蔵庫の場合は 254 円/kg-CO₂という炭素価格に至ってはじめて
追加的費用が負値になることがわかる。
表 7.3
炭素価格の設定と省エネ型エアコン購入の追加的費用(円)
炭素価格(CO21kg当り)
100
150
153
154
節約額の現在価値
18,546
24,528
24,887
25,007
CO21kg当り追加的費用
13.526
0.989
0.236
-0.014
出所: 筆者作成.
表 7.4
炭素価格の設定と省エネ型冷蔵庫購入の追加的費用(円)
炭素価格(CO21kg当り)
100
200
253
254
節約額の現在価値
15,096
24,834
29,995
30,093
CO21kg当り追加的費用
46.175
16.004
0.014
-0.287
出所: 筆者作成.
CO21 キログラム当りの追加的費用が負値である場合、エアコンや冷蔵庫を購入しようと
する世帯(年間で全世帯の 1 割)は非省エネ型ではなく省エネ型の製品を選択するだろう。
そのとき、家庭からのCO2 排出量は世帯平均で年間 10.4kg-CO2 が削減されることになる。
154
2010 年 6 月 1 日の時点で草加市には 105,273 世帯が居住するので、全世帯でみた削減量は
約 1,091t-CO2 となる。これは、2007 年の草加市の家庭部門からのCO2 排出量である
317,364t-CO2 と比較すると、0.34%の削減効果が期待されるということを意味する 5)。
次に、炭素価格設定による太陽光発電の導入促進効果について考察する。炭素価格が設
定された場合、太陽光発電導入によって得られる電気料金節約効果が増大する。太陽光発
電の導入が合理的であると消費者が判断するのは、年間電気料金の節約分の現在価値が太
陽光発電の設置費用を上回る場合であると考えられる。そこで、炭素価格の水準によって
太陽光発電にかかわる CO21 キログラム当りの追加的費用がどのように変化するかを調べ
た。その結果、表 7.5 に示すように、消費者にとって太陽光発電導入が合理的であると認
識されるためには、炭素価格を 91 円/kg-CO₂に設定する必要があることが明らかとなった。
CO21 キログラム当りの追加的費用が負値になった場合、太陽光発電の設置が大きく促進
されると考えられる。仮に潜在的に太陽光発電を導入する可能性のある世帯がすべて設置
したとすると、草加市の全世帯でみると 51,820t-CO2 が削減されることになり、これは 2007
年における草加市の家庭部門からの CO2 排出量の 16.3%に相当する。
表 7.5
炭素価格の設定と太陽光発電導入の追加的費用(円)
炭素価格(CO21kg当り)
90
91
節約額の現在価値
2,693,230
2,711,801
CO21kg当り追加的費用
0.406
-0.708
出所: 筆者作成.
以上の考察より、省エネ型エアコン・冷蔵庫の購入を促すためには、炭素価格は相当程
度高く設定される必要があることがわかった。炭素価格 154 円/kg-CO₂あるいは 254 円
/kg-CO₂は、CO21 トン当りで 154,000 円あるいは 254,000 円という水準に相当する。一方、
太陽光発電の導入促進に必要な炭素価格の水準は 91,000 円/t-CO₂である。この炭素価格も
かなり高い水準ではあるが、省エネ型エアコン・冷蔵庫の購入促進に必要な炭素価格に比
べると低い値になっている。直観的には、大きな初期費用を要する太陽光発電の導入を促
進するためには省エネ型家電の場合よりも炭素価格を高く設定する必要があるように思わ
れる。しかし、ここで得られた結果は、こうした直観とは異なるものになっている。この
ような結果をもたらした主な要因は、消費者が用いる割引率の値にあると考えられる。炭
素価格の設定により将来にわたって発生する電気料金節約効果の増加分は、消費者によっ
て割り引かれることになる。省エネ型エアコン・冷蔵庫に用いられる割引率は平均でそれ
ぞれ 50.8%と 41.6%であるが、太陽光発電導入の際に用いられる割引率は平均で 3.8%で
ある。炭素価格の設定によって年間電気料金の節約分が増加しても、消費者によって認識
される節約効果は、割引率が大きい場合には大幅に減殺されてしまう。省エネ型エアコン・
5)
2007 年の草加市における家庭部門からの CO2 排出量のデータについては、環境自治体会議編(2010)
を参照。
155
冷蔵庫購入の際の割引率は、太陽光発電導入の際のそれと比較して非常に大きいために、
炭素価格設定の効果が大きく損なわれることになるのである。
7.4.2
太陽光発電による電力の固定価格買取制度
近年、再生可能エネルギー起源の電力の固定価格買取制度への関心が高まっている。ド
イツなどの欧州のいくつかの国においてすでに導入されており、日本でも 2011 年 8 月 26
日に「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」
(2012 年 7
月 1 日より施行)が成立した。これに先立って、我が国では太陽光発電の余剰電力買取制
度が 2009 年 11 月より開始され、10kW未満の住宅用については 48 円/kWh(10 年間適用)
という買取価格が設定されている 6)。
ここでは、太陽光発電による電力を固定価格で全量買取るという政策措置(買取期間は
耐用年数と同じ 20 年とする)を想定し、その効果を考察する。この全量買取制度が導入さ
れた場合、太陽光発電を設置して電力を売却することで収入が得られる。売電による年間
収入の現在価値が太陽光発電の設置費用を上回るならば、消費者は太陽光発電の導入が合
理的であると判断するだろう。買取価格を 48 円/kWh と想定した場合、追加的費用は 34
円/kg-CO₂になる。買取価格の水準によって太陽光発電にかかわる CO21 キログラム当りの
追加的費用がどのように変化するかを調べると、買取価格が 61 円/kWh まで上昇したとき
に追加的費用が負値になることが見出された。このような買取価格と追加的費用の関係を
表 7.6 にまとめている。
表 7.6
太陽光発電による電力の全量買取制度の効果(円)
買取価格(1kWh当り)
売電収入の現在価値
48
60
61
2,132,548
2,665,685
2,710,113
CO21kg当り追加的費用
34.041
2.059
-0.607
出所: 筆者作成.
7.4.3
省エネ投資補助金と炭素価格設定・全量買取制度のポリシー・ミックス
先にみたように、炭素価格のみによって省エネ投資を促進しようとするならば、その価
格は高額にならざるを得ない。しかし、省エネ投資に伴う初期費用の負担を軽減する政策
措置を併用するならば、必要とされる炭素価格の水準を引き下げることが可能であろう。
同様に、全量買取制度と太陽光発電導入に対する助成措置を併用すれば、買取価格の水準
の引き下げが可能となるであろう。ここでは、省エネ投資に対する補助金に炭素価格設定
や全量買取制度を組み合わせたポリシー・ミックスを想定し、必要とされる補助金の最低
金額が炭素価格や買取価格の設定水準によってどのように変化するかを考察しよう。
6)
2011 年には太陽光発電の余剰電力買取制度における買取価格が改定され、同年 4 月から適用される
買取価格は、10kW 未満の住宅用については 42 円/kWh となった。
156
炭素価格の上昇に伴い、世帯にとっての後悔しない投資額(I)が増加する。それにより、
省エネ投資の追加的負担(R)と投資額(I)との差額(R-I)が縮小していく。この R-I
は、省エネ投資促進に必要な補助金の最低金額とみなすことができる。省エネ型エアコン・
冷蔵庫、太陽光発電について炭素価格と最低補助金額との関係を描いたものが図 7.3、7.4、
7.5 である。これらの図に描かれている直線は、炭素価格をある水準から一定金額引き下
げたとき、省エネ型エアコン・冷蔵庫の購入や太陽光発電の導入を促進させる効果を維持
するためには、最低補助金額をどれだけ引き上げなければならないかを示している。例え
ば、炭素価格の水準を 10 円/kg-CO₂とした場合、省エネ型のエアコンと冷蔵庫の購入を促
すために必要な最低補助金額は、それぞれ 1 台当り 17,221 円と 23,668 円になる。また、
太陽光発電の導入促進に必要な最低補助金額は、出力 1 キロワット当り 373,111 円となる。
炭素価格を 5 円/kg-CO₂に引き下げた場合には、省エネ型エアコン・冷蔵庫の購入および太
陽光発電の導入を促すのに必要な最低補助金額は、それぞれ 17,819 円、24,155 円、396,325
円となる。これを炭素価格 10 円/kg-CO₂の場合と比べると、補助金額はそれぞれ 3.5%、
2.1%、6.2%上昇している。このように、太陽光発電の場合の炭素価格の引き下げに伴う
最低補助金額の上昇幅が、省エネ型エアコン・冷蔵庫の場合と比較して大きいのは、次の
ような理由による。太陽光発電の場合、消費者が採用する割引率が低いことから、炭素価
格設定の効果が省エネ型エアコン・冷蔵庫よりも相対的に高い。そのため、炭素価格が引
き下げられたときにその効果を代替するために必要となる補助金の増分も大きくなるので
ある。
図 7.3
炭素価格設定と補助金(省エネ型エアコン)
20000
最低補助金額(円/台)
18000
16000
14000
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
5
10
15
20
25
30
炭素価格(円/kg-CO2)
出所: 筆者作成.
157
35
40
45
50
図 7.4
炭素価格設定と補助金(省エネ型冷蔵庫)
30000
最低補助金額(円/台)
25000
20000
15000
10000
5000
0
0
5
10
20
15
25
30
35
40
45
50
炭素価格(円/kg-CO2)
出所: 筆者作成.
図 7.5
炭素価格設定と補助金(太陽光発電)
450000
最低補助金額(円/kW)
400000
350000
300000
250000
200000
150000
100000
50000
0
0
5
10
15
20
25
30
炭素価格(円/kg-CO2)
出所: 筆者作成.
158
35
40
45
50
続いて、全量買取制度と太陽光発電導入に対する補助金を組み合わせたポリシー・ミッ
クスについても上と同様の考察を試みた。この場合、必要とされる補助金の最低金額が買
取価格の設定水準によってどのように変化するかを調べることになる。その結果が、図 7/6
に示されている
7)
。この図によると、買取価格が 48 円/kWhの場合には、最低補助金額は
出力 1 キロワット当り 141,863 円である。しかし、買取価格が 30 円/kWhまで引き下げられ
ると、最低補助金額は出力 1 キロワット当り 341,790 円になる。つまり、買取価格が 48 円
/kWhから 30 円/kWhに引き下げられることで最低補助金額は 140.9%上昇する。このように
買取価格の低下に伴って太陽光発電の導入促進に必要な最低補助金額が大幅に増加する理
由は次のとおりである。全量買取制度は、太陽光発電に対して採用される割引率が低いこ
ともあって導入促進効果が高い。そのため、買取価格が引き下げられたときに、その効果
を代替するために必要となる補助金の増分も大きくなるのである。
図 7.6
全量買取制度と補助金(太陽光発電)
400000
最低補助金額(円/kW)
350000
300000
250000
200000
150000
100000
50000
0
30
35
40
45
50
55
60
買取価格(円/kWh)
出所: 筆者作成.
7)
ここでは、電気料金が 30 円/kWh を超えないことを前提として、買取価格が 30 円/kWh 以上の場合に
ついて考察している。
159
7.5
おわりに
本章の分析が示すように、炭素価格設定によって家計の省エネ型エアコン・冷蔵庫の購
入を促進するためには、154~254 円/kg-CO₂という水準の価格設定が必要である。これは
CO21 トン当り 154,000~254,000 円という金額に相当する。一方、住宅用太陽光発電の導入
促進に必要な炭素価格は 91 円/kg-CO₂であり、省エネ型エアコン・冷蔵庫よりも価格水準
が低くなっている。こうした結果には、消費者が採用する主観的割引率の大きさが深くか
かわっている。
全量買取制度を通じて住宅用太陽光発電の導入を促進しようとするならば、買取価格を
61 円/kWh 以上に設定する必要がある。ただし、買取費用が電気料金の上昇によって賄わ
れるという仕組みが採用される場合には、買取価格はそれがもたらす導入促進効果と消費
者の負担とのバランスを考慮したうえで設定されなければならない。買取価格 61 円/kWh
は、住宅用太陽光発電の大幅な普及につながる買取価格の上限値としてみるべきだろう。
炭素価格設定と補助金との組み合わせによるポリシー・ミックスに関する考察から示唆
されるのは、消費者の採用する割引率が大きい省エネ型エアコン・冷蔵庫については炭素
価格設定の効果が小さく、補助金の方が相対的にみて購入促進には有効かもしれないとい
うことである。ただし、省エネ機器購入に対する助成措置については、補助金がなかった
としても省エネ投資を行っていた主体と、補助金がなければ省エネ投資を行わなかった主
体を区別することが困難であるため、本来補助する必要がない消費者に対しても財源を費
やしてしまうことになるといった問題点を抱えていることを指摘しておく必要がある。
以上を踏まえると、政策措置により消費者の主観的割引率を引き下げることが可能であ
るか否かも検討に値する論点といえよう。省エネ投資の意思決定の際に消費者が用いる割
引率の大きさには、情報の問題や流動性制約、エネルギー価格の不確実性、および消費者
自身の属性といった要因がもたらす影響の度合いが反映されている。重要なのは、こうし
た要因が割引率の大きさにどの程度の影響を与えているのかを検証することである。なぜ
なら、割引率に大きな影響を及ぼしている要因が何らかの政策措置によって対処すること
が可能なものであるならば、そのような政策措置の採用を通じて消費者の省エネ投資を効
果的に促進させることができると考えられるからである。この点についての考察は今後の
課題である。
160
8. エネルギー集約度と省エネルギー・イノベーション
定量分析―
―特許データを用いた
はじめに
8.1
エネルギーのほとんどを輸入に依存する日本は、エネルギー効率性の改善に努め、経済
全体のエネルギー集約度の低減を実現してきた。GDP当り 1 次エネルギー総供給で測った
日本のエネルギー集約度の推移が図 8.1 に示されている。1971 年から 1979 年における日
本のエネルギー集約度の平均年間変化率は-1.753%、1980 年から 1989 年は-2.848%であ
った。その後の 1990 年から 1999 年にはエネルギー集約度の平均年間変化率は 0.317%とな
り、エネルギー効率性はむしろ悪化したが、2000 年から 2007 年には-1.32%となり、近年
になって再びエネルギー集約度の低減が進んでいることが窺われる 7。今日では、気候変
動問題への対応としてさらなる省エネルギー(以下、省エネと略す)の進展が要請される
ようになっている。地球温暖化防止を目的として長期にわたりエネルギー集約度を低減さ
せるためには、省エネ技術におけるイノベーションを促進させることが不可欠である。
図 8.1
日本の GDP 当り 1 次エネルギー総供給の推移
200
180
石油換算トン/億円
160
140
120
100
80
60
40
20
06
04
20
02
20
00
20
20
98
96
19
94
19
19
92
90
19
88
19
86
19
19
84
82
19
80
19
19
78
76
19
74
19
19
72
19
19
70
0
年度
出所:日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編(2010)に基づき筆者作成.
本稿では、省エネ技術知識の蓄積を促進する諸要因と、省エネ技術知識の蓄積がエネル
7
日本の GDP 当り 1 次エネルギー総供給の平均年間変化率は、日本エネルギー経済研究所計量分析ユニ
ット編(2010)のデータを用いて算出している。
161
ギー集約度に対して与える影響に関して、特許データを利用した実証分析を行う。前者に
ついては、産業別データを用いて考察し、後者についてはマクロ・データを使用して検討
する。このようなアプローチを採用するのは、次のような理由による。例えば、機械産業
において創出された省エネ技術は、それが体化された資本財を導入する別の産業部門のエ
ネルギー効率性を改善させるだろう。このように、新たな省エネ技術は、それを開発した
企業が属する産業のエネルギー効率性を高めるために利用されるとは限らず、むしろその
他の産業における省エネの進展に貢献することが大いにありうる。ただし、このような産
業間を跨いで発揮される省エネ技術知識の効果を把握することは極めて困難である。その
ため、ここでは省エネ技術知識の蓄積にかかわる要因について分析する際には産業別のデ
ータを用い、省エネ技術知識がエネルギー集約度におよぼす影響についてはマクロの視点
から定量的に把握することを試みる。
8.2
8.2.1
省エネ技術知識とエネルギー集約度
分析方法
本節では、省エネ技術知識の蓄積がエネルギー集約度にどのような影響を及ぼしてきた
かを検討することを目的として、日本のマクロ・データを用いた定量分析を行う。蓄積さ
れた省エネ技術知識の指標として、この分析では省エネ技術関連の特許データに基づいて
作成された省エネ特許ストックを用いる。特許データを使用するのは、省エネにかかわる
研究開発活動や技術知識の水準を表す指標となりうる他の長期データが存在しないためで
あるが、ここで特許データを利用することの意義と課題について確認しておきたい。
環境政策がイノベーションにもたらす影響を実証的に検討する際の課題の 1 つとして、
どのような指標を用いて研究開発活動や技術知識の水準を測るかという点が挙げられる。
通常用いられる指標は、研究開発支出、あるいは研究開発支出を売上高で除した研究開発
集約度、および特許数である。近年、環境政策とイノベーションの関係にかかわる実証研
究では環境・エネルギー関連技術の特許データを用いた分析が多くみられるようになって
いる(Popp 2002, 2003 ; Brunnermeier and Cohen 2003)
。そうした研究において特許データを
用いることの利点として、Popp(2005)は、①特許データには研究開発支出のデータでは
明らかにされない技術知識の詳細情報が含まれるため、例えば大気汚染物質対策の技術と
いう分類だけでなく、SOx 削減技術か、NOx 削減技術かといった細かな分類を行えること、
②各国の特許データから、技術知識の国際的な普及の実態を解明できること、③特許の引
用情報から知識フローを把握できること、を挙げている。ただし、特許データの欠点とし
て Popp(2005)は、それぞれの特許の持つ価値が異なること、および研究開発の成果のす
べてが特許となるわけではないことを指摘している。
エネルギー集約度に影響を及ぼすその他の要因としては、エネルギー価格の動向が挙げ
られる。日本の場合、国内エネルギー供給の多くを海外からの化石燃料の輸入に依存して
いる。したがって、輸入エネルギー費用は、日本経済にとってのエネルギー関連の費用負
162
担の大きさを表すものと考えられる。そこで、エネルギー価格が及ぼす影響については、
原油、C 重油、ナフサ、原料炭、一般炭、LPG、LNG に関して各々の輸入 CIF 価格と輸入
量を掛け合わせて合計した数値を輸入エネルギー費用とし、これを説明変数に用いて分析
を行う。また、企業の投資活動を通じて、エネルギー効率性などの面で新しい技術が体化
された生産設備の導入が進展するならば、民間企業の新規投資は経済全体としてエネルギ
ー集約度を引き下げる効果を持ちうるかもしれない。加えて、経済構造の変化に伴い国内
産業の中心が第 2 次産業から第 3 次産業に移行していく場合、そうした変化はエネルギー
集約度を低下させることにつながるだろう。そこで、エネルギー集約度に影響を及ぼす要
因として、民間企業設備投資および GDP に占める第 3 次産業の比率についても、以下の定
量分析に盛り込む。
本節の分析では、1970 年から 2007 年までの時系列データを用いる。省エネ技術関連の
特許出願件数のデータ(1970~2007 年)は、株式会社パトリスより提供を受けたものであ
る。これは、特許出願の明細書に記載されている「省エネ」関連の用語を基に検索し、日
本の企業や組織・団体、個人が出願人となっているもの、あるいはそれらの主体を出願人
に含むものを抽出して得られたデータである。図 8.2 は、1970 年から 2007 年までの省エ
ネ特許の出願件数の推移を示している。省エネ特許の出願件数は、1970 年代後半より大き
く増加しはじめ、その後の 1980 年代においては増減を繰り返しつつ、1990 年代に入って
再び増加の傾向が強くなった。そして近年では、2002 年以降に出願件数の大幅な伸びがみ
られる。
また、特許出願件数全体に対する省エネ特許の出願件数の比率の推移が図 8.3 に示されて
いる。この図によれば、1970 年代後半に省エネ特許出願件数の比率は大きく上昇したが、
1980 年代においては全般的に低下傾向にあったことがわかる。しかし、1990 年代から 2000
年代には省エネ特許出願件数の比率が再び上昇している様子がみてとれる。
163
図 8.2
省エネ特許出願件数の推移
7000
6000
出願件数
5000
4000
3000
2000
1000
20
06
20
04
20
02
20
00
19
98
19
96
19
94
19
92
19
90
19
88
19
86
19
84
19
82
19
80
19
78
19
76
19
74
19
72
19
70
0
出願年
出所:株式会社パトリスから提供された省エネ特許のデータを基に筆者作成.
図 8.3
特許出願総数に対する省エネ特許出願件数の比率
1.6
省エネ特許出願件数が占める比率(%)
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
06
20
04
20
02
20
00
20
98
19
96
19
94
19
92
90
19
88
19
84
86
19
19
82
80
78
19
19
19
19
76
19
74
19
72
19
19
70
0
出願年
出所:株式会社パトリスから提供された省エネ特許データと,『特許庁年報』および『特許行政年次報告書』
各年版の特許出願総数のデータを用いて筆者作成.
164
ある年(t 期)の省エネ特許ストックのデータは、陳腐化率を 10%として 0 期(1970 年)
から t 期までの省エネ特許の出願件数を積算して作成した。GDP 当り 1 次エネルギー総供
給と民間企業設備投資(実質)のデータ、および原油、C 重油、ナフサ、原料炭、一般炭、
LPG、LNG の輸入 CIF 価格と輸入量のデータについては、日本エネルギー経済研究所計量
分析ユニット編(2010)に基づいている。なお、輸入エネルギー費用は消費者物価指数に
より実質化して分析に用いる。第 3 次産業(卸売・小売業、金融・保険業、不動産業、運
輸・通信業、サービス業)の GDP シェアのデータについては『国民経済計算年報』によっ
ている。
計量分析において時系列データを用いる場合、単位根検定によりデータの定常性につい
て検証する必要がある。ここで用いる各変数(エネルギー集約度、輸入エネルギー費用、
省エネ特許ストック、民間企業設備投資、第 3 次産業の GDP シェア)の対数値について
Dickey-Fuller 検定を行った。その結果、すべての変数に関して、単位根が存在するという
帰無仮説を 10%の有意水準で棄却できなかった。そこで、各変数の対数値に関して 1 回の
階差をとったデータについて Dickey-Fuller 検定を行ったところ、5%の有意水準で単位根
が存在するという帰無仮説が棄却された。
以上の単位根検定の結果を踏まえて、次のようなモデルを採用する。
ln(EIt/EIt − 1) = a + b0 ln(EPt/EPt − 1) + b1 ln(EPt − 1/EPt − 2) + b2 ln(KSt − 1/KSt − 2)
+ b3 ln(PIt − 1/PIt − 2) + b4 ln(GTt/GTt − 1) + ut
(1)
ここで、EIt はエネルギー集約度、a は定数項、EPt はエネルギー価格(輸入エネルギー費
用)、KSt は省エネ技術知識ストック、PIt は民間企業設備投資、GTt は第 3 次産業の GDP
シェア、ut は誤差項を表す(t = 1972, … , 2007)。上に示されるように、EIt、EPt、KSt、PIt、
GTt は、いずれも年間変化率に 1 を足した値(対前年比)の対数値としてモデルに組み込
まれている。
8.2.2
分析結果
(1)式のモデルを最小二乗法で推定した結果を表 8.1 に示している。回帰係数をみると、1
期ラグのエネルギー価格上昇率、1 期ラグの省エネ技術知識ストック増加率、1 期ラグの民
間企業設備投資増加率、
および第 3 次産業の GDP シェアの増加率については符号が負とな
っている。しかし、1 期ラグの民間企業設備投資増加率および第 3 次産業の GDP シェアの
増加率の係数については統計的に有意ではない。一方、1 期ラグの省エネ技術知識ストッ
ク増加率の係数については、10%水準で有意となっている。その係数は、省エネ技術知識
ストック増加率に対するエネルギー集約度低減率の弾性値が 0.02 であることを示してい
る。また、1 期ラグのエネルギー価格上昇率の係数は 5%の水準で有意である。ラグのない
エネルギー価格上昇率の係数も 5%水準で有意となっているが、係数の符号は正となって
165
いる。
表 8.1
省エネ特許ストックがエネルギー集約度に与える影響
変数
回帰係数
p値
定数項
−0.006498
0.347
0.042037
0.017
ln(EPt − 1/EPt − 2)
−0.036200
0.048
ln(KSt − 1/KSt − 2)
−0.020490
0.053
ln(PIt − 1/PIt − 2)
−0.062921
0.374
ln(GTt/GTt − 1)
−0.082171
0.832
ln(EPt/EPt − 1)
Durbin-Watson
2.02844
R-squared
0.367062
以上の結果は、エネルギー価格と省エネ技術知識がエネルギー集約度に与える影響に関
して次のようなことを示唆していると思われる。エネルギー価格上昇という外生的ショッ
クは、経済主体の行動が調整されるまでの短期間は、一時的にエネルギー集約度の低減率
を鈍化させることにつながる。しかし、エネルギー価格の上昇を受けて経済主体の行動調
整がなされることにより、エネルギー効率性の改善が進んでいくことになる。そして、省
エネ関連の技術知識が蓄積していく速度が高まると、エネルギー集約度低減率も高まって
いく。
上の定量分析の結果が示すように、エネルギー集約度を低減させていくためには、省エ
ネ関連の技術知識の蓄積を促すことが重要となる。省エネ技術知識の蓄積を長期的に促し
ていくためには、何らかの政策措置により経済主体に対して省エネ技術開発のインセンテ
ィブを継続的に与えていくことが不可欠であると考えられる。そこで次節では、省エネ特
許ストックの蓄積に影響を及ぼす諸要因に関して実証的に検討する。
8.3
8.3.1
省エネ特許ストックの蓄積とその諸要因
省エネ特許データの産業分類について
ここでの分析は、産業別データを用いて省エネ特許ストックの蓄積に影響を及ぼす諸要
因に関して定量的に把握することを目的としている。しかし、特許データはそもそも産業
別の分類がなされていない。そこで、出願人の情報を基に、主として『会社四季報』など
を参照しながら、省エネ特許出願件数の産業別データの作成を試みた。
基本となる省エネ特許出願に関するデータは、前節で用いたものと同じである。このデ
ータによれば、1970 年から 2007 年までの省エネ特許出願総数は 80,422 件にのぼる。各年
の出願件数の内訳を出願人の属性によって区別して示したものが図 8.4 である。この図よ
166
り、省エネ技術の開発の主たる担い手は民間企業であることがうかがわれる。出願人に民
間企業を含む省エネ特許の出願件数は 1970 年から 2007 年までの累積で 74,567 件にのぼる。
産業分類はこの 74,567 件について行った。複数の企業名が出願人として記載されている場
合は、筆頭にある企業名を基に分類した。また、産業の区分については、印刷、運輸、化
学、ガス、紙パルプ、機械、金属製品、建設、鉱業、ゴム、情報通信、食品、精密機器、
石油・石炭製品、繊維、鉄鋼、電気機器、電力、非鉄金属、輸送機器(自動車)、輸送機
器(その他)、窯業の 22 業種を用意し、これらに含まれないものをその他の産業とした。
ただし、
『会社四季報』などの資料に情報が記載されていないためにどの産業に分類すべき
かが判明しない企業も少なくなく、4,938 件が未分類として残された。
図 8.4
出願人の属性別でみた省エネ特許出願件数の推移
出所:株式会社パトリスから提供された省エネ特許のデータを基に筆者作成.
167
図 8.5
産業別の省エネ特許出願件数の推移
出所:株式会社パトリスから提供された省エネ特許のデータを基に筆者作成.
図 8.5 には、各産業の省エネ特許出願件数の推移を示している。この図をみると、電気
機器の出願が際立って多いことがわかる。これに続いて省エネ特許の出願が多い産業は機
械であるが、電気機器に比べると件数には大きな差がみられる。付録 3 には、個別の産業
について省エネ特許出願件数の推移を示した図を掲載している。これらの図からは、多く
の産業において省エネ特許の出願件数が増加傾向にあることがみてとれる。ただし、輸送
機器(自動車)については出願件数のピークが 1970 年代後半から 1980 年代初期にかけて
みられることや、
鉄鋼の場合には 1980 年代をピークに出願件数が減少傾向にあることなど、
省エネ特許出願に関しては産業ごとの特徴があることもうかがわれる。
8.3.2
省エネ特許ストックの蓄積にかかわる要因分析
ここでの分析では、
「対前年比省エネ特許ストック(対数値)」を従属変数とし、説明変
数に「1 期から 3 期ラグの輸入エネルギー費用(対数値)
」、
「1 期ラグの省エネ研究開発補
助金(対数値)
」「制度的・政策的要因を表すダミー変数」を用いる。制度的・政策的要因
を表すダミー変数に関しては、次のようなものを含んでいる。1 つは、特許法の改正によ
り 1988 年に「改善多項制」が導入されたという制度的変化である。この改正がなされる以
前は 1 つの特許出願に 1 つの発明(クレーム:特許請求項)しか記載できなかったが、改
168
善多項制の導入により 1 つの特許出願に複数の発明を記載することが認められるようにな
った(山田 2009)。この改善多項制は、1990 年以降の特許出願件数の伸びの鈍化をもたら
す要因になっているという指摘もある(Nagaoka et al. 2010)。こうした制度変更による影
響を考慮するため、1988 年以降を 1、それ以前を 0 とする「改善多項制導入ダミー」を用
いる。また、日本の省エネ政策の根幹である「エネルギーの使用の合理化に関する法律(通
称、省エネ法)
」の成立(1979 年 10 月)と 1998 年 6 月の改正がもたらした影響を捉える
ダミー変数を用意した。具体的には、1980 年以降を 1、それ以前を 0 とする「省エネ法導
入ダミー」と、1998 年以降を 1、それ以前を 0 とする「省エネ法 98 年改正ダミー」である。
以上の内容は次のようなモデルとして表現できる。
ln(KSi, t/KSi, t − 1) = α + β1 ln(EPt − 1) + β2 ln(EPt − 2) + β3 ln(EPt − 3) + β4 ln(SBt − 1)
+ β5 Dinst + β6 Dact1 + β7 Dact2 + β8 TR + ui、 t
(2)
ここで、KSi, t/KSi, t − 1 は産業 i の対前年比省エネ特許ストック、EP はエネルギー価格(輸
入エネルギー費用)、SB は省エネ研究開発補助金、Dinst は改善多項制導入ダミー、Dact1 は
省エネ法導入ダミー、Dact2 は省エネ法 98 年改正ダミー、TR はタイムトレンドである。
上のモデルを推定する際に使用するデータは次のとおりである。輸入エネルギー費用の
データは 8.2 節と同じものを用いる。省エネ研究開発補助金については、国際エネルギー
機関が提供する、エネルギー関連の研究開発補助金の政府予算に関する国別データに基づ
いている 8。各産業のある年(t期)の省エネ特許ストックについては、産業ごとに分類さ
れた省エネ特許出願件数のデータを用い、8.2 節と同様に、陳腐化率を 10%として 0 期
(1970
年)からt期までの省エネ特許の出願件数を積算することによりデータを作成した。ただし、
省エネ特許出願の件数は、年によってはゼロとなっている産業もみられる。特に 1970 年代
は省エネ特許の出願件数がゼロである場合が多い。中でも、運輸、鉱業、ゴム、情報通信、
電力については、1970 年代において省エネ特許ストックの対前年比のデータが計算できな
い年が多くなる。そこで、1970 年代のサンプルを確保するために、ここではこれら 5 つの
業種を除いた 17 業種を分析の対象とした。したがって、(2)式のモデル推定で使用するサ
ンプルは 17 業種の 31 年間(t = 1977, … , 2007)にわたるデータということになる。
8.3.3
分析結果
(2)式のモデルを最小二乗法で推定した結果が表 8.2 に示されている 9。回帰係数が 1%の
水準で有意となっている変数は 1 期ラグのエネルギー価格と省エネ法導入ダミー、5%の水
準で有意となっている変数はタイムトレンドである。1 期ラグのエネルギー価格の係数の
8
エネルギー技術関連の研究開発補助金の政府予算に関する国別データについては、国際エネルギー機関
のウェブサイト(http://www.iea.org/stats/rd.asp)を参照。
9 産業特性を捉えるための産業別ダミーを(2)式に含めた場合についても推計を行ったが、分析結果は表 2
に示されるものとほとんど差異がなかった。
169
符号は正となっていることから、1 期ラグのエネルギー価格の上昇は省エネ特許ストック
の増加率を高める効果を持つといえる。その係数の値から、1 期ラグのエネルギー価格に
対する省エネ特許ストック増加率の弾力性が 0.09 であるとわかる。
一方、省エネ法導入ダミーの係数は負となっており、これは省エネ法の導入が省エネ特
許ストック増加率の鈍化をもたらしたことを示している。このように、省エネ法導入が省
エネ特許ストックの蓄積に対してネガティブな効果を持った理由については明らかではな
い。ただし、この結果は、省エネ法の影響ではなく 1980 年以降に発生した別の要因のイン
パクトを捉えている可能性もあるだろう。また、タイムトレンドの係数が負であることか
ら、
省エネ特許ストックの増加率は時間の経過とともに鈍化していることがうかがわれる。
表 8.2
8.4
省エネ特許ストックの蓄積にかかわる要因分析
変数
回帰係数
p値
定数
-0.157568
0.710
ln(EPt − 1)
0.092695
0.005
ln(EPt − 2)
0.636636E-02
0.908
ln(EPt − 3)
-0.026769
0.464
ln(SBt − 1)
0.926451E-02
0.358
Dinst
0.030319
0.649
Dact1
-0.314110
0.000
Dact2
0.047571
0.242
TR
-0.901146E-02
0.015
R-squared
0.367673
Adjusted R-squared
0.357907
考察
これまでに得られた分析結果から、エネルギー価格の上昇が産業部門における省エネ技
術知識ストックの蓄積をどの程度促進し、それを通じて経済全体でみたエネルギー集約度
の低減率がどの程度変化するかを定量的に捉えることができる。まず、ある期においてエ
ネルギー価格が 1%上昇すると、次期における各産業の省エネ技術知識ストック(省エネ
特許ストック)増加率(KSi、 t/KSi、
t − 1)は
0.09%高まる。このような産業部門における
エネルギー価格のインパクトが経済全体で同様にみられると想定し、省エネ技術知識スト
ック全体の増加率も(前期の)エネルギー価格の 1%上昇により 0.09%高まると考える。
このとき、1 年のラグを経て経済全体のエネルギー集約度の逓減率は 0.0018%押し上げら
170
れることになる。
これらの数値を用いて、年率 1%のエネルギー価格上昇を受けて省エネ技術知識ストッ
クの蓄積が促されることにより、
エネルギー集約度がどのように変化するかを考察しよう。
エネルギー価格の 1%上昇は、2 年のラグを伴ってエネルギー集約度逓減率(EIt/EIt − 1)を
0.0018%高める。エネルギー集約度逓減率の初期(0 期)の値を R とすると、第 1 期のエ
ネルギー集約度逓減率は R×(99.9982/100)、第 2 期は R×(99.9982/100)2、第 3 期は R×
(99.9982/100)3、といった形で各期のエネルギー集約度逓減率を計算することができる。こ
こで、R を 2000 年から 2007 年の平均値(0.9868)として各期の EIt/EIt
− 1 を算定し、年率
1%のエネルギー価格上昇によってエネルギー集約度が 40 年間にわたりどのように推移す
るかを計算した。以上と同様の手続きによって、エネルギー価格が年率 10%で上昇する場
合のエネルギー集約度の推移についても計算を行った。その結果が図 8.6 に示されている。
なお、この図はエネルギー集約度の初期値を 100 とする指数で表現されている。また、比
較のためにエネルギー価格が一定の場合のエネルギー集約度の推移も示している。
加えて、
図 8.7 には、年率 1%および 10%のエネルギー価格上昇を受けてエネルギー集約度の変化
率がどのように推移するかが示されている。
図 8.6
エネルギー価格上昇に伴うエネルギー集約度の推移
120
エネルギー集約度(指数)
100
80
60
40
20
0
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
22
24
26
28
30
32
34
36
38
経過年数
エネルギー価格一定
エネルギー価格が年率1%で上昇
エネルギー価格が年率10%で上昇
171
40
図 8.7
エネルギー価格上昇に伴うエネルギー集約度変化率の推移
エネルギー集約度の変化率(%)
経過年数
0
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
20
22
24
26
28
30
32
34
36
38
40
-0.5
-1
-1.5
-2
-2.5
エネルギー価格が年率1%で上昇
8.5
エネルギー価格が年率10%で上昇
おわりに
省エネにおけるイノベーションを促進する方策の 1 つとして、炭素税や排出権取引制度
といった炭素価格政策が挙げられる。しかし、本章の分析は、仮にそのような政策によっ
て年率 1%ほどのエネルギー価格上昇率が実現できたとしても、エネルギー集約度低減率
を大幅に高めるのは困難であることを示している。これを踏まえると、省エネ政策として
重要なのは、近年のエネルギー集約度低減率をいかに維持していくかという点になるであ
ろう。
本章の冒頭でも述べたように、2000 年から 2007 年における日本のエネルギー集約度の
平均年間変化率は-1.32%である。このような 1%を超えるエネルギー効率性の改善を経済
全体で達成するために必要な政策措置が検討されなければならない。その際、炭素価格の
設定によって継続的に研究開発インセンティブを与えることの重要性や、省エネ分野にお
いて新たな技術知識を創出するための研究開発投資を刺激することを目的とした技術政策
の効果について議論する必要があるだろう。
172
9. 結論(全体のとりまとめ)
本研究では、2020 年時点における日本経済を中心的な対象として、排出量取引制度を国
際リンクに関する経済評価の分析を行った。分析の結果、各国の排出量取引を直接リンク
する場合も、クリーン開発メカニズムのような国際クレジットを利用して間接リンクする
場合も、どちらにおいても、リンクにおける経済メリットが大きいことが示された。リン
クの行政コストを考慮しても、リンクすることを正当化する非常に大きな経済便益が確認
されたのである。ただし、直接リンクの場合は、リンク参加国によって参加の便益が異な
ってくることが明らかになった。また、間接リンクの場合は、海外クレジットの利用制限
が日本経済に大きな損失になる可能性が示された。特に、海外クレジットの供給量が大き
い場合には、利用制限は他国の安価な海外クレジット利用を促進することにつながる。従
って、海外クレジットの利用制限は慎重に検討すべきであると考えられる。
なお、この海外クレジット利用制限に関する研究結果は、国内排出量取引制度が導入さ
れない場合にもあてはまることを指摘しておきたい。京都議定書の第 1 約束期間でも、国
内にキャップ・アンド・トレード型の排出量取引制度が導入されずに、クリーン開発メカ
ニズムからの海外クレジットを利用している。いわゆる「資本流出論」のような意見もあ
るが、海外クレジットの利用は、それを上回る大きなメリットがあることをあらためて示
す結果となっているのである。
また、企業調査では、規制対象となる企業は、国内排出量取引制度を補完する措置とし
て、海外クレジットより国内クレジットを好ましいと考えている企業が多いことも示され
た。これは、国内オフセットの充実を望む声と考えることが出来るだろう。同時に、現在
のクリーン開発メカニズムに対する不満の表れでもある。効率的に温室効果ガス削減を行
う縦目には、海外削減が重要であり、そのためには海外クレジット獲得の方法に対して改
善が必要である。従来、言われているようにクリーン開発メカニズムを改革し、追加性や
審査時間の短縮の問題を改善することが重要であろう。同時に、削減プロジェクト実施地
域の多様化が、より多くの民間資金活用のために必要である。そのため、2 国間メカニズ
ムなどは、日本企業が進出している地域、さらには、進出しようとしている地域を包含す
るような形で、今後も地域の多様化を重視していくべきであろう。
173
Ⅲ
添付資料
(参考文献、略語表、調査票 1・2、付録 1・2・3)
参考文献
Aasrud, A., Baron, R., Buchner, B. and McCall, K. (2009) “Sectoral Market Mechanisms: Issues for
Negotiation and Domestic Implementation,” OECD/IEA.
Allcott, H. (2011) “Social Norms and Energy Conservation,” Journal of Public Economics,
95(9/10): 1082-1095.
Arimura, T.H., Darnall, N. and Katayama, H. (2011) “Is ISO 14001 a gateway to more advanced
voluntary action? The case of green supply chain management,” Journal of Environmental
Economics and Management, 61(2): 170-182.
Arimura, T.H., Hibiki, A. and Katayama, H. (2008) “Is a voluntary approach an effective
environmental policy instrument? A case for environmental management systems,” Journal of
Environmental Economics and Management, 55(3): 281-295.
Armington, P. S. (1969) “A Theory of Demand for Products Distinguished by Place of Production,”
IMF Staff Papers, 16.
Australian Bureau of Statistics (2010) Australian National Accounts: Input-Output Tables Electronic Publication, Preliminary release 2006-07 tables,
(http://www.abs.gov.au/AUSSTATS/[email protected]/DetailsPage/5209.0.55.0012007-08%20Prelimi
nary?OpenDocument 最終閲覧日:2011年10月24日).
Babiker, M. H., Gurgel, A., Paltsev, S. and Reilly, J. (2008) “A Forward Looking Version of the MIT
Emissions Prediction and Policy Analysis (EPPA) Model,” The MIT Joint Program on the
Science and Policy of Global Change.
Badri, N. G., and Walmsley, T. L. (eds) (2008) Global Trade, Assistance, and Production: The
GTAP 7 Data Base, Center for Global Trade Analysis, Purdue University,
(https://www.gtap.agecon.purdue.edu/databases/v7/v7_doco.asp).
Barla, P. (2007) “ISO 14001 certification and environmental performance in Quebec’s pulp and
paper industry,” Journal of Environmental Economics and Management, 53(3): 291–306.
Baron, R., (2006), “Sectoral Approaches to GHG Mitigation: Scenarios for Integration,”
OECD/IEA.
Baron, R. and Ellis, J. (2006) “Sectoral Crediting Mechanisms for Greenhouse Gas Mitigation:
Institutional and Operational Issues,” OECD/IEA.
Baron, R., Buchner, B. and Ellis, J. (2009) “Sectoral Approaches and the Carbon Market,”
OECD/IEA.
Baron, R., Barnsley, I., and Ellis, J. (2008) “Options for integrating sectoral approaches into the
UNFCCC,” OECD/IEA.
Bernstein, P. M., Montogemery, W. D. and Rutherford, T. F. (1999) “Global Impacts of the Kyoto
Agreement: Results from the MS-MRT Model,” Resource and Energy Economics, 21(3-4):
A-1
375-413.
Böhringer, C. (2002) “Climate Politics from Kyoto to Bonn: From Little to Nothing?,” The Energy
Journal, 23 (2): 51-72.
Böhringer, C. and Rutherford, T. F. (2010) “The Costs of Compliance: A CGE Assessment of
Canada’s Policy Options under the Kyoto Protocol,” World Economy, 33(2):177-211.
Burniaux, J. M. and Château, J. (2008) “An Overview of the OECD ENV-Linkages Model,” OECD
Economics Department Working Papers, No. 653.
Brunnermeier, S. B., and M. A. Cohen (2003) “Determinants of Environmental Innovation in US
Manufacturing Industries.” Journal of Environmental Economics and Management, 45:
278–293.
Carrico A. R., and Riemer, M. (2011) “Motivating energy conservation in the workplace: An
evaluation of the use of group-level feedback and peer education,” Journal of Environmental
Psychology, 31(1): 1-13.
Clean Energy Ministerial HP (2011) “Global Superior Energy Performance
Partnership,”(http://www.cleanenergyministerial.org/GSEP/index.html 最終閲覧日:2011年10
月20日).
Commission of the European Communities (2004) “2004/156/EC: Commission Decision of 29
January 2004 establishing guidelines for the monitoring and reporting of greenhouse gas
emissions pursuant to Directive 2003/87/EC of the European Parliament and of the Council,”
(http://eur-lex.europa.eu/smartapi/cgi/sga_doc?smartapi!celexplus!prod!DocNumber&lg=en&t
ype_doc=Decision&an_doc=2004&nu_doc=156 最終閲覧日:2011年10月20日).
Conrad, K. (2003) “Computable General Equilibrium Models in Environmental and Resource
Economics,” In T. H. Tietenberg and H. Folmer, eds. The International Yearbook of
Environmental and Resource Economics 2002/2003: A Survey of Current Issues (New Horizons
in Environmental Economics). Edward Elgar, 66-114.
Darnall, N. (2003) “Why U.S. firms certify to ISO 14001: An institutional and resource-based view,”
Academy of Management Best Papers Proceedings.
Darnall, N. and Sides, S. (2008) “Assessing the performance of voluntary environmental programs:
does certification matter?” Policy Studies Journal, 36(1): 95-117.
Darnall, N., Jolley G. and Ytterhus, B. (2007) “The relationship between environment and financial
performance,” in N. Johnstone(ed.)Environmental Policy and Corporate Behaviour, Edward
Elgar, Cheltenham, UK.
Dellink, R., Jamet, S., Chateau, J. and Duval, R. (2010) “Towards Global Carbon Pricing: Direct and
Indirect Linking of Carbon Markets,” OECD Environmental Working Paper No.20.
Druckman, A. and Jackson, T. (2008) “Household energy consumption in the UK: highly
geographically and socio-economically disaggregate model,” Energy Policy, 36: 3177-3192.
A-2
Ellis, J. and Tirpak, D., (2006), “Linking GHG Emission Trading Systems and Market,” OECD/IEA.
European Commission (2009) “Towards a Comprehensive Climate Change Agreement in
Copenhagen,” Provisionary Version, Communication to the European Parliament, the council,
the European Committee of the Regions, Brussels, COM 39/3.
Fischer, C. and A. K. Fox (2007) “Output-Based Allocation of Emissions Permits for Mitigating Tax
and Trade Interactions,” Land Economics, 83(4): 575-599.
Frondel, M., Horbach, J. and Rennings, K. (2008) “What triggers environmental management and
innovation? Empirical evidence for Germany,” Ecological Economics, 66(1): 153-160.
Gately, D. (1980) “Individual Discount Rates and the Purchase and Utilization of Energy-Using
Durables: Comment,” Bell Journal of Economics, 11(1): 373-374.
Gillingham, K., Newell, R. G., and Palmer, K. (2009), “Energy Efficiency Economics and Policy,”
Resources for the Future Discussion Paper, 09-13.
Gleerup, M., Larsen, A., Leth-Petersen, S., and Togeby M. (2010) “The Effect of Feedback by Text
Message (SMS) and Email on Household Electricity Consumption: Experimental Evidence,”
Energy Journal, 31(3), 113-132.
Halkos, G. and Evangelinos, I. (2002) “Determinants of environmental management systems
standards implementation: evidence from Greek industry,” Business Strategy and the
Environment, 11(6): 360-375.
Hassett, K. A., and Metcalf, G. E. (1992) ‘‘Energy Tax Credits and Residential Conservation
Investment,’’ NBER Working Paper No. 4020.
Hausman, J. A. (1979) “Individual Discount Rates and the Purchase and Utilization of Energy-Using
Durables,” Bell Journal of Economics, 10(1): 33-54.
Horridge M. (2008) “SplitCom - Programs to Disaggregate a GTAP Sector,” Centre of Policy
Studies, Monash University, Melbourne, Australia,1-21,
(http://www.monash.edu.au/policy/SplitCom.htmからダウンロードできるSplitComプログ
ラム内に収められている.)
Houston, D. A. (1983) “Implicit Discount Rates and the Purchase of Untried, Energy-Saving
Durable Goods,” Journal of Consumer Research, 10: 236-246.
Howarth, R. B., and Andersson, B. (1993) “Market Barriers to Energy Efficiency,” Energy
Economics, 15: 262-272,
International Carbon Action Partnership HP (2011) (http://www.icapcarbonaction.com/ 最終閲覧
日:2011年10月10日).
Jaffe, A. B., R. G. Newell, and R. N. Stavins (2005) “A Tale of Two Market Failures: Technology
and Environmental Policy.” Ecological Economics, 54: 164-174.
International Organization for Standardization (2010) The ISO survey of certifications 2009, Geneve,
ISO Central Secretariat.
A-3
Jensen, J. O. (2008) “Measuring consumption in households: Interpretations and strategies,”
Ecological Economics, 68(1-2), 353-361.
King, A., Lenox, M. and Terlaak, A. (2005) “The strategic use of decentralized institutions:
Exploring certification with the ISO 14001 management standard,” Academy of Management
Journal, 48(6): 1091-1106.
Larsen, B. M. and Nesbakken, R. (2004) “Household electricity end-use consumption: results from
econometric and engineering models,” Energy Economics, 26: 179-200.
Leahy, E. and Lyons, S. (2010) “Energy use and appliance ownership in Ireland,” Energy Policy, 38:
4265-4279.
Lee, H. (2008) “The Combustion-based CO 2 Emissions Data for GTAP Version 7 Data Base,”
(https://www.gtap.agecon.purdue.edu/resources/res_display.asp?RecordID=1143).
Mattoo, A., A. Subramanian, D. van der Mensbrugghe, and J. He (2009) “Reconciling Climate
Change and Trade Policy,” Center for Global Development, Working Paper, 189.
Meier, A. K., and Whittier, J. (1983) “Consumer Discount Rates Implied by Purchases of
Energy-Efficient Refrigerators,” Energy 8(12): 957-962.
Nagaoka, S., K. Motohashi, and A. Goto (2010) Patent statistics as an innovation indicator. In: B. H.
Hall and N. Rosenberg (Eds.) Handbook of the Economics of Innovation Vol. II, Amsterdam:
North-Holland, 1083-1127.
Nakamura, M., Takahashi, T. and Vertinsky, I. (2001) “Why Japanese firms choose to certify: A
study of managerial responses to environmental Issues, Journal of Environmental Economics
and Management, 42(1): 23-52.
Nishitani, K. (2009) “An empirical study of the initial adoption of ISO 14001 in Japanese
manufacturing firms,” Ecological Economics, 68(3): 669-679.
Nishitani, K. (2010) “Demand for ISO 14001 adoption in the global supply chain: An empirical
analysis focusing on environmentally conscious markets,” Resource and Energy Economics,
32(3): 395-407.
O’Doherty, J., Lyons, S. and Tol, R. S. J. (2008) “Energy-using appliances and energy-saving
features: Determinants of ownership in Ireland,” Applied Energy, 85: 650-662.
OECD (2009) The Economics of Climate Change Mitigation: Policies and Options for Global
Action Beyond 2012, OECD Publishing.
Paltsev, S. (2001) “The Kyoto Agreement: Regional and Sectoral Contributions to the Carbon
Leakage,” Energy Journal, 22(4): 53-79.
Paltsev, S., J. M. Reilly, H. D. Jacoby, R. S. Eckaus, J. McFarland, M. Sarofim, M. Asadoorian, and
M. H. Babiker (2005) “The MIT Emissions Prediction and Policy Analysis (EPPA) Model:
Version 4,” MIT Joint Program on the Science and Policy of Global Change, Report No. 125.
Popp, D. (2002) “Induced Innovation and Energy Prices.” American Economic Review, 92 (1):
A-4
160-180.
Popp, D. (2003) “Pollution Control Innovations and the Clean Air Act of 1990.” Journal of Policy
Analysis and Management, 22: 641-660.
Popp, D. (2005) “Lessons from Patents: Using Patents to Measure Technological Change in
Environmental Models.” Ecological Economics, 54: 209-226.
Potoski, M. and Prakash, A. (2005) “Covenants with weak swords: ISO 14001 and facilities’
environmental performance,” Journal of Policy Analysis and Management, 24(4): 745-769.
Ruderman, H., Levine, M. D., and McMahon, J. E. (1987) “The Behavior of the Market for Energy
Efficiency in Residential Appliances Including Heating and Cooling Equipment,” The Energy
Journal, 8(1): 101-124.
Russ, P., Wiesenthal, T., Regemorter, D. V. and Císcar, J. C. (2007) “Global Climate Policy
Scenarios for 2030 and beyond: Analysis of Greenhouse Gas Emission Reduction Pathway
Scenarios with the POLES and GEM-E3 models,” Joint Research Centre.
Russo, M.V. (2002) “Institutional change and theories of organizational strategy: ISO 14001 and
Toxic Emissions in the Electronics Industry,” Academy of Management Best Papers
Proceedings.
Rutherford, T. F. (2010) “GTAP7inGAMS,” (http://www.mpsge.org/).
Statistics Canada (2010) National Input-Output Tables (2007). Ottawa: Statistics Canada.
Sterk, W., Mehling, M. and Tuerk, A. (2009) “Prospects of Linking EU and US Emission Trading
Schemes: Comparing the Western Climate Initiative, the Waxman-Markey and the
Lieberman-Warner,” Climate Strategies.
Sue Wing, I. (2010) “Computable General Equilibrium Models for the Analysis of Energy and
Climate Policies,” In J. Evans and L. C. Hunt, eds. International Handbook on The Economics
of Energy. Cheltenham: Edward Elgar, 332-366.
Takeda, S. (2007) “A Supplement to `Economic Growth and Carbon Emissions with
Endogenous
Carbon Taxes,” Research Bulletin of Economics, Kanto Gakuen University, Vol.31, No.1.
Takeda, S., Arimura, T. H., Tamechika, H., Fischer, C. and Fox, A. K. (2011a) “Output Based
Allocation of Emissions Permits for Mitigating the Leakage and Competitiveness Issues for the
Japanese Economy,” Resources for the Future, Discussion Paper Series, RFF DP 11-40.
Tietenberg, T. (2009) “Reflections-Energy Efficiency Policy: Pipe Dream or Pipeline to the Future?”
Review of Environmental Economics and Policy, 3(2): 304-320.
Torriti, J., Hassan, M. G., and Leach, M. (2010) “Demand response experience in Europe: Policies,
programmes and implementation,” Energy, 35(4): 1575-1583.
Train, K. (1985) “Discount Rates in Consumers’ Energy-Related Decisions: A Review of the
Literature,” Energy, 10(12): 1243-1253.
Tuerk, A., Mehling, M., Flachsland, C. and Sterk, W. (2009) “Linking Carbon Markets: Concepts,
A-5
Case Studies and Pathways,” Climate Policy, 9: 341-357.
U.S. Bureau of Economic Analysis (2007) Benchmark Input-Output Accounts of the U.S. Economy,
2002, ( http://www.bea.gov/newsreleases/industry/io/ionewsrelease.htmq 最終閲覧日:2011
年10月24日).
U.S. Geological Survey. (2004a) Minerals Yearbook (Cement),
(http://minerals.usgs.gov/minerals/pubs/commodity/cement/cemenmyb04.pdf).
U.S. Geological Survey. (2004b) Minerals Yearbook (Aluminum),
(http://minerals.usgs.gov/minerals/pubs/commodity/aluminum/alumimyb04.pdf).
Weng, C.K. and Boehmer, K. (2006) Launching of ISO 14064 for greenhouse gas accounting and
verification, ISO Management Systems,
(http://www.iso.org/iso/greenhouse.pdf 最終閲覧日:2011年10月2日).
World Bank (2010) State and Trends of the Carbon Market.
World Bureau of Metal Statistics (2007) World metal Statistics Yearbook.
World Resources Institute (WRI) and World Business Council for Sustainable Development
(WBCSD) (2005) The GHG Protocol for Project Accounting, Washington, DC:WRI/WBCSD,
(http://www.wbcsd.org/plugins/DocSearch/details.asp?type=DocDet&ObjectId=MTc1MTA
最終閲覧日:2011年10月10日).
有村俊秀・岩田和之 (2008)「温暖化対策としての「省エネルギー法によるエネルギー管理
の徹底」の評価:旅館・ホテル業を対象として」, 『環境経済・政策研究』, 1(1): 79-89.
有村俊秀・片山東・山本芳香・井口衡・宮本拓郎・森田稔(2011a)「温暖化対策を中心と
した企業の環境取り組みに関する調査」, 上智大学・環境と貿易研究センター, DP No.8.
有村俊秀 (近刊予定)「アメリカの環境政策:温暖化対策を中心として」, 地主敏樹・村山裕
三、加藤一誠編著『アメリカ経済論』, ミネルヴァ書房.
有村俊秀・前田征児・和田潤・浦島邦子(2011b)「排出量取引を利用した二酸化炭素回収・
貯蔵技術の促進について」, 『科学技術動向』, 20-32.
稲垣弘 (2010)「排出量算定•報告•検証に関する国際標準化」, 『別冊会計情報(トーマツ リ
サーチ センター)地球温暖化への取組み』, 9: 61-62.
岩尾康司 (2008) GHG検証ガイドラインとしてのISO 14064, Deloitte Touche Tohmatsu LLC,
Tohmatsu Tax Co.,
(http://www.tohmatsu.com/view/ja_JP/jp/knowledge/ec/b8ac211911d90210VgnVCM100000ba
42f00aRCRD.htm 最終閲覧日:2011年10月2日).
岩尾康史 ( 2011) 『企業戦略に活かす!サプライチェーンのCO2管理―「スコープ3」のカー
ボンマネジメント』, 日刊工業新聞社.
岩田和之・有村俊秀・日引聡 (2010) 「ISO 14001 認証取得の決定要因とトルエン排出量削
減効果に関する実証研究」, 『日本経済研究』, 62(1): 16-38.
「環境・持続社会」研究センター(2009)『カーボン・マーケットとCDM』, 築地書館.
A-6
環境省・中央環境審議会地球環境部会国内排出量取引制度小委員会 (2010)『我が国におけ
る国内排出量取引制度の在り方について(中間整理)』,
(http://www.env.go.jp/council/06earth/r0610-01.pdf 最終閲覧日:2011年11月9日).
環境自治体会議編,(2010),『環境自治体白書2010年版』, 生活社.
会社四季報2011年新春版 (2010) 東洋経済新聞社.
韓国銀行 (2008) 『2005年産業連関表』(韓国語), 韓国銀行.
工藤拓毅 (2010) 「温室効果ガスマネジメントの国際規格動向」, 『LCA 日本フォーラムニ
ュース』, 54: 11-15.
上妻義直編著 (2011) 『CO2を見える化するカーボンラベル ―フットプリントの算定から
新動向まで―」, 中央経済社.
国家統計局 (2009) 『中国投入産出表2007』(中国語), 中国統計出版会.
財団法人 地球環境戦略研究機関 (IGES) (2003) 『CDM入門 クリーン開発メカニズム』,
(http://cd4cdm.org/Publications/brochure%20japanese/CDM-J.pdf).
財団法人 地球環境戦略研究機関 (IGES) (2010) 『CDM改革に向けて』,
(http://www.iges.or.jp/jp/cdm/report_reform.html).
清水雅貴 (2010) 「排出量取引制度の世界動向」, 諸富徹・山岸尚之編著『脱炭素社会とポ
リシーミックス-排出量取引制度とそれを補完する政策手段の提案-』, 日本評論社,
187-206.
資源エネルギー庁 (2010) 『エネルギー白書2010』.
省エネルギーセンター (2010) 『家計の省エネ大辞典2010年版』.
杉野誠・有村俊秀 (近刊予定) 「排出量取引制度」,細田衛士編著『環境経済学』, ミネルヴ
ァ書房.
総務省 (2009) 『平成17年(2005年)産業連関表(確報)』,
(http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001019588&cycode=0 最終閲覧日:2011
年10月24日).
総務省統計局
(2005) 『平成15年住宅・土地統計調査報告 第5巻 都道府県編 その11
埼玉県』, 日本統計協会.
高尾克樹 (2008) 『キャップ・アンド・トレード-排出権取引を中心とした環境保護の政策
科学-』, 有斐閣.
武田史郎・爲近英恵・有村俊秀・Fischer, C.・Fox, A. K. (2010) 「国際競争力及びリーケー
ジ問題に基づく排出枠配分の研究:応用一般均衡分析による生産量に基づく排出枠配
分の研究」, 上智大学環境と貿易研究センター ディスカッションペーパー CETR DP,
J-10-2.
武田史郎・堀江哲也・有村俊秀 (2011) 「応用一般均衡モデルによる排出規制に伴う国境調
整の分析」, 上智大学環境と貿易研究センター ディスカッションペーパー CETR DP,
J-11-2.
A-7
武田史郎 (2007) 「貿易政策を対象とした応用一般均衡分析」, RIETI Discussion Paper Series,
07-J-010.
武田史郎 (2011) 「応用一般均衡モデルによる温暖化対策の経済的影響評価」, 『環境情報
科学』, 40(2): 27-31.
武田史郎・川崎泰史・落合勝昭・伴金美 (2010) 「日本経済研究センターCGE モデルによ
るCO2削減中期目標の分析」, 『環境経済・政策研究』, 3(1): 31-42.
爲近英恵・伴金美 (2009) 「排出権取引とCDM事業:供給独占への日本の対応」, 『日本経
済研究』, 60: 1-18.
東京都環境局 (2011) 大規模事業所への温室効果ガス排出総量削減義務と排出量取引制度
(http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/climate/large-scale/cap_and_trade/overview.html 最終閲
覧日:2011年10月4日).
独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) (2008) 『新エネルギーガイド
ブック2008』,
(http://www.nedo.go.jp/library/pamphlets/ZZ_pamphlets_08_3dounyu_shinene
gaido_index.html).
南斉規介・森口祐一 (2009) 『産業連関表による環境負荷原単位データブック(3EID): 2005
年表(β 版)』, 独立行政法人国立環境研究所 地球環境研究センター.
新澤秀則 (2010) 「京都議定書の現状と課題―2013 年以降に向けて―」, 新澤秀則編著『温
暖化防止のガバナンス』, ミネルヴァ書房, 47-69.
日本エネルギー経済研究所計量分析ユニット編(2010)『EDMC/エネルギー・経済統計要
覧(2010 年版)』, 財団法人省エネルギーセンター.
日本規格協会 (2011) 「ISO/TC207 オスロ総会報告」,
(http://www.jsa.or.jp/stdz/iso/iso14000.asp 最終閲覧日:2011年11月5日).
日本工業標準調査会 (2011) 「ISO/TC 207 組織構造」,
(http://www.jisc.go.jp/mss/ems-str.html 最終閲覧日:2011年10月10日).
日本工業標準調査会審議 (2010) 『温室効果ガス-第1部:組織における温室効果ガスの
排出量及び吸収量の定量化及び報告のための仕様並びに手引 JIS Q14064-1:2010
(ISO 14064-1:2006)』, 日本規格協会.
日本規格協会日本工業標準調査会審議 (2011a) 『温室効果ガス-第2部:プロジェクトにお
ける温室効果ガスの排出量及び吸収量の定量化, モニタリング及び報告のための仕様
並びに手引 JIS Q14064-2:2011(ISO 14064-2:2006)』, 日本規格協会.
日本規格協会日本工業標準調査会審議 (2011b) 『温室効果ガス-第3 部:温室効果ガスに
関する主張の妥当性確認及び検証のための仕様並びに手引 JIS Q14064-3:2011(ISO
14064-3:2006)』, 日本規格協会.
日本経済団体連合会 (2010) 『環境自主行動計画<温暖化対策編>2010年度フォローアップ結
果 概要版<2009年度実績>』.
A-8
日本工業標準調査会審議 (2011c) 『温室効果ガス認定又は他の承認方法で使用するための
温室効果ガスに関する妥当性確認及び検証を行う機関に対する要求事項 JIS
Q14065:2011(ISO 14065:2007)』, 日本規格協会.
日本適合性認定協会 (2011) 「ISO 14065申請受理状況」,
(http://www.jab.or.jp/bodies/ghg.html
最終閲覧日:2011年10月10日) .
朴勝俊 (2011) 「EUの環境政策」久保広正・田中友義『現代ヨーロッパ経済論』, ミネルヴ
ァ書房.
畑農鋭矢・山田昌弘 (2007) 「家計行動と公共政策の効果-構造パラメータの検証と推定」,
橘木俊詔編『政府の大きさと社会保障制度-国民の受益・負担からみた分析と効果』, 東
京大学出版会, 203-222.
日引聡、有村俊秀 (2002) 『入門 環境経済学-環境問題解決へのアプローチ-』, 中公新
書.
藤原徹 (2011) 「低公害車・低燃費車に対する減税措置が自動車購入行動に与える影響につ
いて」, 『RIETI ディスカッション・ペーパー』, 11-J-008.
細江宣裕・我澤賢之・橋本日出男 (2004) 『テキストブック 応用一般均衡モデリング:プ
ログラムからシミュレー ションまで』, 東京大学出版.
前田彰 (2009) 『排出権制度の経済理論』, 岩波書店.
諸住哲 (2010) 『解 ビジネス情報源 スマートグリッド 業界動向と主要企業がひと目でわ
かる』, アスキー・メディアワークス.
諸富徹 (2010) 「排出量取引制度」, 諸富徹・山岸尚之編著『脱炭素社会とポリシーミック
ス-排出量取引制度とそれを補完する政策手段の提案-』, 日本評論社.
諸富徹・鮎川ゆりか (2007) 『脱炭素社会と排出量取引-国内排出量取引を中心としたポリ
シー・ミックス提案-』, 日本評論社.
諸富徹・山岸尚之(2010)『脱炭素社会とポリシーミックス 排出量取引制度とそれを補
完する政策手段の提案』, 日本評論社.
山田節夫 (2009) 『特許の実証経済分析』東洋経済新報社.
米倉寛人 (2010) 「環境マネジメントシステムが抱える課題と対応策」, 『SJRM リスクレ
ビュー』, 9: 1-11.
A-9
略語表
AAU
Assigned Amount Unit: 割当量単位
AEEI
Autonomous Energy Efficiency Improvement
AGE
Applied General Equilibrium
BAU
Business as Usual
CDM
Clean Development Mechanism: クリーン開発メカニズム
CDP
Carbon Disclosure Project
CER
Certified Emission Reduction: 排出枠クレジット
CES
Constant Elasticity of Substitution
CGE
Computable General Equilibrium: 応用一般均衡
CSR
Corporate Social Responsibility: 企業の社会的責任
DOE/EIA
Department of Energy/Energy Information Administration
DOE
Designated Operational Entity: 指定運営組織
ECCJ
The Energy Conservation Center: 省エネルギーセンター
EMS
Environmental Management System: 環境マネジメント・システム
ERU
Emission Reduction Unit: 排出削減単位
EU-ETS
EU Emission Trading Scheme: 欧州排出量取引制度
GAMS
General Algebraic Modeling System
GHG
Greenhouse Gas: 温室効果ガス
GTAP
Global Trade Analysis Project
GWP
Global Warming Potential
IPCC
Intergovernmental Panel on Climate Change
ICAP
International Carbon Action Partnership: 国際炭素行動パートナー
シップ
IEO
International Energy Outlook
ISO
International Organization for Standardization: 国際標準化機構
JI
Joint Implementation: 共同実施
J-VER
Japan Verified Emission Reduction: オフセット・クレジット
JVETS
Japan’s Voluntary Emission Trading Scheme:
自主参加型国内排
出量取引制度
J- ETS
Japanese Emission Trading Scheme: 国内排出量取引市場
MRV
Measurement Reporting and Verification: 測定・報告・検証
REDD
Reduced Emissions from Deforestation and forest Degradation: 森林
減少・劣化からの温室効果ガス排出削減
A-10
RGGI
Regional Greenhouse Gas Initiative:
地域温室効果ガス・イニシ
アティブ
RM U
Removal Unit: 吸収単位
SCM
Sectoral Crediting Mechanism: セクター・クレジット・メカニズ
ム
STM
Sectoral Trading Mechanism: セクター・トレーディング・メカニ
ズム
WCI
Western Climate Initiative: 西部気候イニシアチブ
A-11
調査票 1
家計調査票
A-12
一般家庭の省エネに関する意識調査
平成 22 年 1 月
(調査企画)獨協大学 環境共生研究所
上智大学・環境と貿易研究センター
(調査実施)社団法人 中央調査社
【ご記入に際してのお願い】
・本アンケートは、ご家族のうち、家事担当者または世帯主の方(平均的な月の電気料金を把握して
いて、家電製品購入の意思決定に関わっておられる方)に記入をお願いします。
・回答は、あてはまる回答項目の番号(1、2、3、…)を○で囲んでいただく形式と、
の中
に、主に金額などの数字を記入していただくものとがあります。
・問1から順にお答えください。質問によっては、一部の方にだけおたずねするものがあります。この
場合は【 】内の指示や矢印(→)に従ってお進みください。
・ご記入いただく回答に正解といったものはございませんので、思ったとおりにご記入いただければ
結構です。
・不明な点などがございましたら、別紙「ご協力のお願い」にある問い合わせ先までご連絡ください。
ご記入が終わりましたら、もう一度、記入まちがいや記入もれがないかどうかお確かめください。
ご回答いただきました調査票は、
月
日
時頃に、調査員の、
が
いただきにうかがいます。なにとぞ、それまでにご記入くださいますようお願いいたします。
整理番号
③
④
A-13
⑤
点検者名
⑥
⑦
はじめに、次の文章をお読みになってから、問1の質問にお答えください。
【家庭での省エネについて】
家庭では、電気やガスといったエネルギーを消費する製品が使用されています。そうした製品の使用
には電気料金やガス料金などがかかりますが、省エネを心がけて使い方に気をつけると、電気代やガス
代が節約されて家計の負担を軽くすることができます。例えば、デスクトップ型パソコンの場合、使用
しないときには電源を切るようにして 1 日の利用時間を 1 時間短縮すると、年間で約 690 円の節約にな
ります。
また、家電製品を購入するときに、省エネ型の製品を選ぶことで、電気料金を節約することができま
す。例えば、電子レンジの場合、省エネ型ではない製品(省エネ基準達成率※80%)を使ったときの年
間電気料金は 2,020 円ですが、省エネ型の製品(省エネ基準達成率※105%)を使うと年間電気料金が
1,540 円となり、その差は約 500 円になります。
※省エネ基準達成率:家電製品の省エネ性能を表す数値で、基準が制定された年に販売された家電製品の中で最もエネル
ギー消費効率の良い製品から定められた省エネ基準(目標値)をどれくらいクリアしているか、と
いうことを表します。%(パーセンテージ)で表示され、数値が高いほど省エネ性能は高く、100%
を超えている場合は基準を上回る省エネ性能をもつことを意味します。
⑧~⑩=101
問1 家計において、節約する際に取り組む項目がいくつかあります。以下にあげる項目をみて、仮に、
あなたが節約するとしたら「電気料金、ガス料金および灯油代」の優先順位は何番目だと思いますか。
・ 食費
・ 水道料金
・ 交通・通信費
・ 住居費
・ 医療・衛生費
・ 交際費
・ 電気料金、ガス料金
および灯油代
・ 教養・娯楽費
・ 教育費
「電気料金、ガス料金、および灯油代」の優先順位は
[1]
A-14
番目
⑪
問2 以下は、家庭でできる、省エネにつながるさまざまな行動に関する質問です。[A]から[N]の
省エネ行動の項目に関して、あなたのご家庭について、それぞれの項目ごとに質問にお答えくださ
い。
[A] エアコンの夏の設定温度は 28℃にする。
(1) あなたのご家庭には、ふだん使用しているエアコンがありますか。あてはまる番号1つに○をつけ
てください。
1
2
⑫
エアコンを持っている
エアコンを持っていない
【次のページの(8)へお進みください】
(2) ふだん使用しているエアコンは何台ありますか。
⑬⑭
ふだん使用しているエアコンは
台
【エアコンを持っているご家庭の方にうかがいます】
(3) あなたが快適に感じる夏のエアコンの設定温度は何度ですか。
⑮⑯
快適に感じる設定温度は
℃
(4) 快適に感じる温度にいつも設定する場合とくらべて、[A]の省エネ行動をいつもとることによって、
1台につき年間の電気料金が実際にいくら節約できると思いますか(快適に感じる温度が 28℃以上
1台につき年間
万
⑰~
の方は、0円と回答してください)
。
円節約できると思う
(5) [A]の省エネ行動について、あなたは日頃から取り組んでいますか。あてはまる番号1つに○をつ
けてください。
1
2
いつも取り組んでいる
あまり取り組んでいない
3

【(7)へお進みください】
まったく取り組んでいない
【(5)の質問で「1 いつも取り組んでいる」を選んだ方にうかがいます】
(6) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。[A]の省エネ行
動について、1台につき節約される年間の電気料金がいくらだったら、この省エネ行動をやめます
1台につき年間
万
~
か。
円の節約なら、この省エネ行動をやめる
【(5)の質問で「2 あまり取り組んでいない」「3 まったく取り組んでいない」を選んだ方にうかがいます】
(7) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。あなたは、1台
につき年間で少なくともいくらの電気料金が節約できるなら、[A]の省エネ行動につねに取り組むよ
1台につき年間
万
円節約できるなら取り組む
A-15
~
うになりますか。
[1]
【全員の方にうかがいます】
(8) あなたの最も親しい知人や友人を5人思い浮かべてください。その5人の中で、[A]の省エネ行動
(エアコンの夏の設定温度は 28℃にする。)に実際に取り組んでいる方は、何人いますか。
0
0人(いない)
2 2人
4 4人
1
1人
3 3人
5 5人

[B] エアコンの冬の設定温度は 20℃にする。
【エアコンを持っているご家庭の方にうかがいます。その他の方は次のページの(6)へお進みください。】
(1) [B]の省エネ行動について、あなたは日頃から取り組んでいますか。あてはまる番号1つに○をつ
けてください。
1
いつも取り組んでいる
2
あまり取り組んでいない
3
まったく取り組んでいない
4
冬の暖房にエアコンを使っていない

【次のページの(6)へお進みください】
【冬の暖房にエアコンを使っている方にうかがいます】
快適に感じる設定温度は
℃

(2) あなたが快適に感じる冬のエアコンの設定温度は何度ですか。
(3) 快適に感じる温度にいつも設定する場合とくらべて、[B]の省エネ行動をいつもとることによって、
1台につき年間の電気料金が実際にいくら節約できると思いますか(快適に感じる温度が 20℃以下
の方は、0円と回答してください)
。
万
円節約できると思う
~
1台につき年間
【(1)の質問で「1 いつも取り組んでいる」を選んだ方にうかがいます】
(4) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。[B]の省エネ行
動について、1台につき節約される年間の電気料金がいくらだったら、この省エネ行動をやめますか。
万
円の節約なら、この省エネ行動をやめる
~
1台につき年間
【(1)の質問で「2 あまり取り組んでいない」「3 まったく取り組んでいない」を選んだ方にうかがいます】
(5) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。あなたは、1台
につき年間で少なくともいくらの電気料金が節約できるなら、[B]の省エネ行動につねに取り組むよ
1台につき年間
万
円節約できるなら取り組む
[1]
A-16
~
うになりますか。
【全員の方にうかがいます】
(6) あなたの最も親しい知人や友人を5人思い浮かべてください。その5人の中で、[B]の省エネ行動
に実際に取り組んでいる方は、何人いますか。
0
0人(いない)
2 2人
4 4人
1
1人
3 3人
5 5人

[C] エアコンの冷房や暖房は不必要につけっぱなしにしない。
【エアコンを持っているご家庭の方にうかがいます。その他の方は(5)へお進みください。
】
(1) [C] の省エネ行動をいつもとることによって、まったくとらない場合と比べて、1台につき年間
の電気料金が実際にいくら節約できると思いますか。
万
~
1台につき年間
円節約できると思う
(2) [C]の省エネ行動について、あなたは日頃から取り組んでいますか。あてはまる番号1つに○をつ
けてください。
1
いつも取り組んでいる
2
あまり取り組んでいない
3
まったく取り組んでいない

【(4)へお進みください】
【(2)の質問で「1 いつも取り組んでいる」を選んだ方にうかがいます】
(3) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。[C]の省エネ行
動について、1台につき節約される年間の電気料金がいくらだったら、この省エネ行動をやめますか。
万
円の節約なら、この省エネ行動をやめる
~
1台につき年間
【(2)の質問で「2 あまり取り組んでいない」「3 まったく取り組んでいない」を選んだ方にうかがいます】
(4) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。あなたは、1台
につき年間で少なくともいくらの電気料金が節約できるなら、[C]の省エネ行動につねに取り組むよ
1台につき年間
万
円節約できるなら取り組む
~
うになりますか。
【全員の方にうかがいます】
(5) あなたの最も親しい知人や友人を5人思い浮かべてください。その5人の中で、[C]の省エネ行動
に実際に取り組んでいる方は、何人いますか。
0
0人(いない)
2 2人
4 4人
1
1人
3 3人
5 5人

[1]
A-17
[D] エアコンのフィルターを月に1回か2回掃除をする。
【エアコンを持っているご家庭の方にうかがいます。その他の方は(5)へお進みください。
】
(1) [D]の省エネ行動をいつもとることによって、まったくとらない場合と比べて、1台につき年間の
1台につき年間
万
~
電気料金が実際にいくら節約できると思いますか。
円節約できると思う
(2) [D]の省エネ行動について、あなたは日頃から取り組んでいますか。あてはまる番号1つに○をつ
けてください。
1
いつも取り組んでいる
2 あまり取り組んでいない
3

【(4)へお進みください】
まったく取り組んでいない
【(2)の質問で「1 いつも取り組んでいる」を選んだ方にうかがいます】
(3) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。[D]の省エネ行
動について、1台につき節約される年間の電気料金がいくらだったら、この省エネ行動をやめますか。
万
円の節約なら、この省エネ行動をやめる
~
1台につき年間
【(2)の質問で「2 あまり取り組んでいない」「3 まったく取り組んでいない」を選んだ方にうかがいます】
(4) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。あなたは、1台
につき年間で少なくともいくらの電気料金が節約できるなら、[D]の省エネ行動につねに取り組むよ
うになりますか。
万
円節約できるなら取り組む
~
1台につき年間
【全員の方にうかがいます】
(5) あなたの最も親しい知人や友人を5人思い浮かべてください。その5人の中で、[D]の省エネ行動
に実際に取り組んでいる方は、何人いますか。
0
0人(いない)
2 2人
4 4人
1
1人
3 3人
5 5人
[1]
A-18

[E] ガスファンヒーターや石油ファンヒーターの設定温度は 20℃にする。
⑧~⑩=102
(1) あなたのご家庭には、ふだん使用しているガスファンヒーターや石油ファンヒーターがありますか。
1
2
⑪
ガスファンヒーターや
石油ファンヒーターがある
どちらも持っていない
【次のページの(8)へお進みください】
a ガスファンヒーターは
台
b
石油ファンヒーターは
⑫~⑯
(2) ふだん使用しているものの記号に○をつけ、台数をご記入ください。
台
【ガスファンヒーターまたは石油ファンヒーターを持っているご家庭の方にうかがいます】
快適に感じる設定温度は
⑰⑱
(3) あなたが快適に感じる冬のガス・石油ファンヒーターの設定温度は何度ですか。
℃
(4) 快適に感じる温度にいつも設定する場合とくらべて、[E]の省エネ行動をいつもとることによって、
1台につき年間のガス料金や灯油代が実際にいくら節約できると思いますか。(快適に感じる温度が
20℃以下の方は、0円と回答してください。ガスファンヒーターをお持ちの方はガス料金を、石油フ
ァンヒーターをお持ちの方は灯油代をご回答ください。(6)(7)も同様)
万
円、灯油代
万
⑲~
1台につき年間:ガス料金
円
(5) [E]の省エネ行動について、あなたは日頃から取り組んでいますか。あてはまる番号1つに○をつ
けてください。
1
いつも取り組んでいる
2
あまり取り組んでいない
3

【(7)へお進みください】
まったく取り組んでいない
【(5)の質問で「1 いつも取り組んでいる」を選んだ方にうかがいます】
(6) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。[E]の省エネ行
動について、1台につき節約される年間のガス料金や灯油代がいくらだったら、この省エネ行動をや
めますか。
万
円、灯油代
万
~
1台につき年間:ガス料金
円
【(5)の質問で「2 あまり取り組んでいない」「3 まったく取り組んでいない」を選んだ方にうかがいます】
(7) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。あなたは、ガス
料金や灯油代が1台につき年間で少なくともいくら節約できるなら、[E]の省エネ行動につねに取り
1台につき年間:ガス料金
万
円、灯油代
万
円
~
組むようになりますか。
[2]
A-19
【全員の方にうかがいます】
(8) あなたの最も親しい知人や友人を5人思い浮かべてください。その5人の中で、[E]の省エネ行動
(ガスファンヒーターや石油ファンヒーターの設定温度は 20℃にする)に実際に取り組んでいる方は、何人いますか。
0
0人(いない)
2 2人
4 4人
1
1人
3 3人
5 5人

[F] ガスファンヒーターや石油ファンヒーターは必要なときだけつけるようにする。
【ガスファンヒーターや石油ファンヒーターを持っているご家庭の方にうかがいます。
その他の方は(5)へお進みください。
】
(1) [F]の省エネ行動をいつもとることによって、まったくとらない場合と比べて、1台につき年間の
1台につき年間:ガス料金
万
円、灯油代
万
円
~
ガス料金や灯油代が実際にいくら節約できると思いますか。
(2) [F]の省エネ行動について、あなたは日頃から取り組んでいますか。あてはまる番号1つに○をつ
けてください。
1
2
いつも取り組んでいる
あまり取り組んでいない
3

【(4)へお進みください】
まったく取り組んでいない
【(2)の質問で「1 いつも取り組んでいる」を選んだ方にうかがいます】
(3) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。[F]の省エネ行
動について、1台につき節約される年間のガス料金や灯油代がいくらだったら、この省エネ行動をや
めますか。
万
円、灯油代
万
円
~
1台につき年間:ガス料金
【(2)の質問で「2 あまり取り組んでいない」「3 まったく取り組んでいない」を選んだ方にうかがいます】
(4) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。あなたは、ガス
料金や灯油代が、1台につき年間で少なくともいくらの電気料金が節約できるなら、[F]の省エネ行
動につねに取り組むようになりますか。
万
円、灯油代
万
円
~
1台につき年間:ガス料金
【全員の方にうかがいます】
(5) あなたの最も親しい知人や友人を5人思い浮かべてください。その5人の中で、[F]の省エネ行動
に実際に取り組んでいる方は、何人いますか。
0
0人(いない)
2 2人
4 4人
1
1人
3 3人
5 5人
[2]
A-20

[G] 電気カーペットは設定温度をこまめに調節する。
(1) あなたのご家庭には、ふだん使用している電気カーペットがありますか。あてはまる番号1つに○
をつけてください。
⑧~⑩=103
1
2
⑪
電気カーペットを持っている
電気カーペットを持っていない
【(7)へお進みください】
(2) ふだん使用している電気カーペットは何台ありますか。
⑫⑬
ふだん使用している電気カーペットは
台
【電気カーペットを持っているご家庭の方にうかがいます】
(3) [G]の省エネ行動をいつもとることによって、まったくとらない場合と比べて、1台につき年間の
1台につき年間
万
⑭~⑱
電気料金が実際にいくら節約できると思いますか。
円節約できると思う
(4) [G]の省エネ行動について、あなたは日頃から取り組んでいますか。あてはまる番号1つに○をつ
けてください。
1
いつも取り組んでいる
2
あまり取り組んでいない
3
⑲
【(6)へお進みください】
まったく取り組んでいない
【(4)の質問で「1 いつも取り組んでいる」を選んだ方にうかがいます】
(5) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。[G]の省エネ行
動について、1台につき節約される年間の電気料金がいくらだったら、この省エネ行動をやめますか。
万
円の節約なら、この省エネ行動をやめる
【(4)の質問で「2 あまり取り組んでいない」「3 まったく取り組んでいない」を選んだ方にうかがいます】
⑳~
1台につき年間
(6) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。あなたは、1台
につき年間で少なくともいくらの電気料金が節約できるなら、[G]の省エネ行動につねに取り組むよ
1台につき年間
万
円節約できるなら取り組む
~
うになりますか。
【全員の方にうかがいます】
(7) あなたの最も親しい知人や友人を5人思い浮かべてください。その5人の中で、[G]の省エネ行動
に実際に取り組んでいる方は、何人いますか。
0
0人(いない)
2 2人
4 4人
1
1人
3 3人
5 5人

[3]
A-21
[H] テレビは、みていないときには消すようにする。
(1) あなたのご家庭にはふだん使用しているテレビがありますか。あてはまる番号1つに○をつけてく
ださい。
1
2

テレビがある
テレビはない
【次のページの(7)へお進みください】
a
ブラウン管テレビは
b
液晶テレビは
台
c
プラズマテレビは
~
(2) ふだん使用しているものの記号に○をつけ、台数をご記入ください。
台
台
【テレビを持っているご家庭の方にうかがいます】
(3) [H]の省エネ行動をいつもとることによって、まったくとらない場合と比べて、1台につき年間の
ブラウン管
1台につき
万
円 プラズマ
液 晶
年間:
万
円
万
~
電気料金が実際にいくら節約できると思いますか。(お持ちの種類のテレビについてご記入ください。)
円
(4) [H]の省エネ行動について、あなたは日頃から取り組んでいますか。あてはまる番号1つに○をつ
けてください。
1 いつも取り組んでいる
2
あまり取り組んでいない
3

【(6)へお進みください】
まったく取り組んでいない
【(4)の質問で「1 いつも取り組んでいる」を選んだ方にうかがいます】
(5) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。[H]の省エネ行
動について、1台につき節約される年間の電気料金がいくらだったら、この省エネ行動をやめますか。
ブラウン管
1台につき
万
円 プラズマ
液 晶
年間:
万
円
万
円
~
(お持ちの種類のテレビについてご記入ください。
)
【(4)の質問で「2 あまり取り組んでいない」「3 まったく取り組んでいない」を選んだ方にうかがいます】
(6) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。あなたは、1台
につき年間で少なくともいくらの電気料金が節約できるなら、[H]の省エネ行動につねに取り組むよ
ブラウン管
1台につき
万
円 プラズマ
液 晶
年間:
万
円
[3]
A-22
万
円
~
うになりますか。(お持ちの種類のテレビについてご記入ください。
)
【全員の方にうかがいます】
(7) あなたの最も親しい知人や友人を5人思い浮かべてください。その5人の中で、[H]の省エネ行動
に実際に取り組んでいる方は、何人いますか。
0
0人(いない)
2 2人
4 4人
1
1人
3 3人
5 5人

⑧~⑩=104
[I] 冷蔵庫の庫内は季節にあわせて温度調節をしたり、ものを詰め込みすぎないように整理整頓をする。
(1) あなたのご家庭には、ふだん使用している冷蔵庫がありますか。あてはまる番号1つに○をつけて
ください。
1
2
冷蔵庫がある
冷蔵庫はない
⑪
【次のページの(7)へお進みください】
ふだん使用している冷蔵庫は
⑫⑬
(2) ふだん使用している冷蔵庫は何台ありますか。
台
【冷蔵庫を持っているご家庭の方にうかがいます】
(3) [I]の省エネ行動をいつもとることによって、まったくとらない場合と比べて、1台につき年間の
1台につき年間
万
⑭~⑱
電気料金が実際にいくら節約できると思いますか。
円節約できると思う
(4) [I]の省エネ行動について、あなたは日頃から取り組んでいますか。あてはまる番号1つに○をつ
けてください。
1
いつも取り組んでいる
2
あまり取り組んでいない
3
⑲
【(6)へお進みください】
まったく取り組んでいない
【(4)の質問で「1 いつも取り組んでいる」を選んだ方にうかがいます】
(5) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。[I]の省エネ行
動について、1台につき節約される年間の電気料金がいくらだったら、この省エネ行動をやめます
1台につき年間
万
⑳~
か。
円の節約なら、この省エネ行動をやめる
【(4)の質問で「2 あまり取り組んでいない」「3 まったく取り組んでいない」を選んだ方にうかがいます】
(6) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。あなたは、1台
につき年間で少なくともいくらの電気料金が節約できるなら、[I]の省エネ行動につねに取り組むよ
1台につき年間
万
円節約できるなら取り組む
~
うになりますか。
[3、4]
A-23
【全員の方にうかがいます】
(7) あなたの最も親しい知人や友人を5人思い浮かべてください。その5人の中で、[I]の省エネ行動
(冷蔵庫の庫内は季節にあわせて温度調節をしたり、ものを詰め込みすぎないように整理整頓をする)
に実際に取り組んでいる方は、何人いますか。
0
0人(いない)
2 2人
4 4人
1
1人
3 3人
5 5人

[J] 冷蔵庫は壁から適切な間隔をあけて設置する。
【冷蔵庫を持っているご家庭の方にうかがいます。その他の方は(5)へお進みください。
】
(1) [J]の省エネ行動をいつもとることによって、まったくとらない場合と比べて、1台につき年間の
電気料金が実際にいくら節約できると思いますか。
万
円できると思う
~
1台につき年間
(2) [J]の省エネ行動について、日頃から取り組んでいますか。あてはまる番号1つに○をつけてくだ
さい。
1
取り組んでいる
2

取り組んでいない
【(4)へお進みください】
【(2)の質問で「1 取り組んでいる」を選んだ方にうかがいます】
(3) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。[J]の省エネ行
動について、1台につき節約される年間の電気料金がいくらだったら、この省エネ行動をやめますか。
万
円の節約なら、この省エネ行動をやめる
~
1台につき年間
【(2)の質問で「2 取り組んでいない」を選んだ方にうかがいます】
(4) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。あなたは、1台
につき年間で少なくともいくらの電気料金が節約できるなら、[J]の省エネ行動につねに取り組むよ
1台につき年間
万
円節約できるなら取り組む
~
うになりますか。
【全員の方にうかがいます】
(5) あなたの最も親しい知人や友人を5人思い浮かべてください。その5人の中で、[J]の省エネ行動
に実際に取り組んでいる方は、何人いますか。
0
0人(いない)
2 2人
4 4人
1
1人
3 3人
5 5人
[4]
A-24

[K] 電気ポットは、長時間使わないきにはコンセントからプラグを抜くようにする。
(1) あなたのご家庭には、ふだん使用している電気ポットがありますか。あてはまる番号1つに○をつ
けてください。
1
2

電気ポットを持っている
電気ポットを持っていない
【(7)へお進みください】
ふだん使用している電気ポットは

(2) ふだん使用している電気ポットは何台ありますか。
台
【電気ポットを持っているご家庭の方にうかがいます】
(3) [K]の省エネ行動をいつもとることによって、まったくとらない場合と比べて、1台につき年間の
電気料金が実際にいくら節約できると思いますか。
万
~
1台につき年間
円節約できると思う
(4) [K]の省エネ行動について、日頃から取り組んでいますか。あてはまる番号1つに○をつけてくだ
さい。
1
いつも取り組んでいる
2
あまり取り組んでいない
3

【(6)へお進みください】
まったく取り組んでいない
【(4)の質問で「1 いつも取り組んでいる」を選んだ方にうかがいます】
(5) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。[K]の省エネ行
動について、1台につき節約される年間の電気料金がいくらだったら、この省エネ行動をやめますか。
万
円の節約なら、この省エネ行動をやめる
~
1台につき年間
【(2)の質問で「2 あまり取り組んでいない」「3 まったく取り組んでいない」を選んだ方にうかがいます】
(6) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。あなたは、1台
につき年間で少なくともいくらの電気料金が節約できるなら、[K]の省エネ行動につねに取り組むよ
うになりますか。
万
円節約できるなら取り組む
~
1台につき年間
【全員の方にうかがいます】
(7) あなたの最も親しい知人や友人を5人思い浮かべてください。その5人の中で、[K]の省エネ行動
に実際に取り組んでいる方は、何人いますか。
0
0人(いない)
2 2人
4 4人
1
1人
3 3人
5 5人

[4]
A-25
[L] 食器などの洗い物をするときは、給湯器の設定温度をできるだけ低くする。
(1) あなたのご家庭の台所には、給湯器が設置されていますか。あてはまる番号1つに○をつけてくだ
さい。
1
2

給湯器が設置されている
給湯器が設置されていない
【次のページの(8)へお進みください】
(2) ふだん使用している給湯器は何台ありますか。ふだん使用している給湯器がない方は0台とお答え
ふだん使用している給湯器は

ください。
台
【給湯器を持っているご家庭の方にうかがいます】
(3) あなたのご家庭の台所の給湯器は、どのエネルギーを使用していますか。
1
ガス
2
電気
3
灯油・石油

(4) [L]の省エネ行動をいつもとることによって、まったくとらない場合と比べて、1台につき年間の
ガス料金(電気料金、灯油代)が実際にいくら節約できると思いますか。
万
円節約できると思う
~
1台につき年間
(5) [L]の省エネ行動について、あなたは日頃から取り組んでいますか。あてはまる番号1つに○をつ
けてください。
1
いつも取り組んでいる
2
あまり取り組んでいない
3
【(7)へお進みください】
まったく取り組んでいない

【(5)の質問で「1 いつも取り組んでいる」を選んだ方にうかがいます】
(6) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。[L]の省エネ行
動について、1台につき節約される年間のガス料金(電気料金、灯油代)がいくらだったら、この
省エネ行動をやめますか。
万
円の節約なら、この省エネ行動をやめる
~
1台につき年間
【(5)の質問で「2 あまり取り組んでいない」「3 まったく取り組んでいない」を選んだ方にうかがいます】
(7) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。あなたは、1台
につき年間で少なくともいくらのガス料金(電気料金、灯油代)が節約できるなら、[L]の省エネ行
動につねに取り組むようになりますか。
万
円節約できるなら取り組む
[4]
A-26
~
1台につき年間
【全員の方にうかがいます】
(8) あなたの最も親しい知人や友人を5人思い浮かべてください。その5人の中で、[L]の省エネ行動
に実際に取り組んでいる方は、何人いますか。
0
0人(いない)
2 2人
4 4人
1
1人
3 3人
5 5人

[M] お風呂は、お湯が冷めないうちに家族で間隔をおかずに入るようにして、追いだきをしないようにする。
(1) [M]の省エネ行動について、あなたは日頃から取り組んでいますか。あてはまる番号1つに○をつ
けてください。
⑧~⑩=105
1
いつも取り組んでいる
2
あまり取り組んでいない
⑪
3
まったく取り組んでいない
4
家にお風呂はない、お風呂は使わない
【次のページの(6)へお進みください】
【お風呂があるご家庭の方にうかがいます】
(2) あなたのご家庭のお風呂の給湯器は、どのエネルギーを使用していますか。
1
ガス
2
電気
3
灯油・石油
⑫
(3) [M]の省エネ行動をいつもとることによって、まったくとらない場合と比べて、1台につき年間の
ガス料金(電気料金、灯油代)が実際にいくら節約できると思いますか。
万
⑬~⑰
1台につき年間
円節約できると思う
【(1)の質問で「1 いつも取り組んでいる」を選んだ方にうかがいます】
(4) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。[M]の省エネ行
動について、1台につき節約される年間のガス料金(電気料金、灯油代)がいくらだったら、この省
エネ行動をやめますか。
万
⑱~
1台につき年間
円の節約なら、この省エネ行動をやめる
【(1)の質問で「2 あまり取り組んでいない」「3 まったく取り組んでいない」を選んだ方にうかがいます】
(5) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。あなたは、年間
で少なくともいくらのガス料金(電気料金、灯油代)が節約できるなら、[M]の省エネ行動につねに
取り組むようになりますか。
万
~
1台につき年間
円節約できるなら取り組む
[4、5]
A-27
【全員の方にうかがいます】
(6) あなたの最も親しい知人や友人を5人思い浮かべてください。その5人の中で、[M]の省エネ行動
(お風呂は、お湯が冷めないうちに家族で間隔をおかずに入るようにして、追いだきをしないように
する)に実際に取り組んでいる方は、何人いますか。
0
0人(いない)
2 2人
4 4人
1
1人
3 3人
5 5人

[N] シャワーはお湯を流しっぱなしにしないようにする。
(1) [N]の省エネ行動について、あなたは日頃から取り組んでいますか。あてはまる番号1つに○をつ
けてください。
1
2
いつも取り組んでいる
あまり取り組んでいない

3
まったく取り組んでいない
4
家にシャワーはない、シャワーは使わない
【(5)へお進みください】
【シャワーがあるご家庭の方にうかがいます】
(2) [N]の省エネ行動をいつもとることによって、まったくとらない場合と比べて、年間のガス料金(電
1台につき年間
万
円節約できると思う
~
気料金、灯油代)が実際にいくら節約できると思いますか。
【(1)の質問で「1 いつも取り組んでいる」を選んだ方にうかがいます】
(3) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。[N]の省エネ行
動について、節約される年間のガス料金(電気料金、灯油代)がいくらだったら、この省エネ行動を
1台につき年間
万
円の節約なら、この省エネ行動をやめる
~
やめますか。
【(1)の質問で「2 あまり取り組んでいない」「3 まったく取り組んでいない」を選んだ方にうかがいます】
(4) エネルギーの利用が環境問題を引き起こすことがないものとしてお考えください。あなたは、年間
で少なくともいくらのガス料金(電気料金、灯油代)が節約できるなら、[N]の省エネ行動に取り組
むようになりますか。
万
円節約できるなら取り組む
~
1台につき年間
【全員の方にうかがいます】
(5) あなたの最も親しい知人や友人を5人思い浮かべてください。その5人の中で、[N]の省エネ行動
に実際に取り組んでいる方は、何人いますか。
0
0人(いない)
1 1人
2 2人
3
4 4人
3人
5 5人
[5]
A-28

問3 以下は、省エネ型の家電製品や太陽光発電システムに関する質問です。次の文章をお読みになっ
てから、<I> および <II>の質問にお答えください。
<I> 省エネ型のエアコンや冷蔵庫、テレビの購入に関する以下の質問にお答えください。なお、ここ
でいう省エネ型の家電とは、省エネ基準達成率が 100%以上の製品をさしています。
(1) いま、あなたはエアコンあるいは冷蔵庫を購入するかどうかを考えていると想定して、次の質問に
お答えください。省エネ型のエアコンや冷蔵庫の購入に、ためらいを感じますか。
1 はい
2 いいえ

【(3)へお進みください】
(2) それはどんな理由からですか。次の(a)~(d)のそれぞれについてお答えください。
(a) どの製品を買ったら電気料金がどの程度節約されるかがよく
わからないから··················································· 1 はい
2
いいえ

(b) 電気料金が今後どのように変動するのかが不確実だから ··········· 1 はい
2
いいえ

(c) 省エネ型の製品は割高なので、購入資金が家計の負担になるから ··· 1 はい
2
いいえ

)

(d) その他(具体的にご記入ください
【全員の方にうかがいます】
(3) 引き続き、あなたはエアコンあるいは冷蔵庫を購入するかどうかを考えていると想定して、以下の
質問にお答えください。
[A] エアコン
省エネ型のエアコンは、省エネ型ではないエアコンよりも費用が高くなりますが、その一方で
電気料金の節約につながるという利点があります。仮に、省エネ型でないエアコンよりも
2万5000円値段が高い省エネ型のエアコンがあるとします。また、この省エネ型のエアコンは十
分に長い期間使用可能である(耐用年数が十分に長い)とします。あなたは、年間で少なくともどれ
年間に節約できる料金が
万
円ならば購入しようと思う
~
だけの電気料金の節約になれば、この省エネ型のエアコンを購入しようと思いますか。
[B] 冷蔵庫
省エネ型の冷蔵庫は、省エネ型ではない冷蔵庫よりも費用が高くなりますが、その一方で電気料金
の節約につながるという利点があります。仮に、省エネ型でない冷蔵庫よりも3万円値段が高い省エ
ネ型の冷蔵庫があるとします。また、この省エネ型の冷蔵庫は十分に長い期間使用可能である(耐用
年数が十分に長い)とします。あなたは、年間で少なくともどれだけの電気料金の節約になれば、こ
の省エネ型の冷蔵庫を購入しようと思いますか。
万
円ならば購入しようと思う
~
年間に節約できる料金が
[5]
A-29
(4) 2008 年1月1日時点にお持ちだったエアコン、冷蔵庫、テレビについてお尋ねします。これらの
家電製品は 2008 年1月1日までに何年間使用されていましたか。なお、これらの家電製品を複数お
持ちの方は、最も使用頻度の高い製品についてお答えください。
年
冷蔵庫
年
テレビ
年
時点での使用年数
~
2008 年1月1日
:エアコン
(5) あなたは、2008 年1月1日以降にエアコンを購入しましたか。あてはまるもの1つに○をつけて
ください。なお、複数のエアコンを購入された方は、最も使用頻度の高いエアコンについてお答えく
ださい。
1
エコポイント対象のエアコンを購入した
2
エコポイント対象ではないエアコンを購入した
3
購入していない

(6) あなたは、2008 年1月1日以降に冷蔵庫を購入しましたか。あてはまるもの1つに○をつけてくだ
さい。なお、複数の冷蔵庫を購入された方は、最も使用頻度の高い冷蔵庫についてお答えください。
1
エコポイント対象の冷蔵庫を購入した
2
エコポイント対象ではない冷蔵庫を購入した
3
購入していない

(7) あなたは、2008 年1月1日以降にテレビを購入しましたか。あてはまるもの1つに○をつけてくだ
さい。なお、複数のテレビを購入された方は、最も使用頻度の高いテレビについてお答えください。
[5]
1
エコポイント対象のテレビを購入した
2
エコポイント対象ではないテレビを購入した
3
購入していない
A-30

<II> 太陽光発電システムに関する以下の質問にお答えください。
(1) あなたのお住まいの、所有および住宅形態は次のどれですか。あてはまるもの1つに○をつけてく
ださい。
(共同住宅は、マンションやアパートなどを意味します。
)
1
一戸建て・持ち家
3 共同住宅・持ち家
2
一戸建て・賃貸
4 共同住宅・賃貸
5 その他

(
)
築年数:
年
部屋数:
~
(2) あなたのお住まいの築年数および部屋数をお答えください。
部屋
【(1)の質問で「1 一戸建て・持ち家」と答えた方にうかがいます。その他の方は次のページの問4へ
進んでください。】
(3) いま、あなたは太陽光発電システム※を購入するかどうかを考えていると想定して、次の質問にお
答えください。太陽光発電システムの購入にためらいを感じますか。すでに設置しているご家庭の方
は、購入時の状況を選んでください。
※
太陽光発電システムとは、太陽の光エネルギーを直接電気に変換するシステムのことです。
1 はい
2 いいえ

【(5)へお進みください】
(4) それはどんな理由からですか。次の(a)~(d)のそれぞれについてお答えください。
(a) 電気代節約や売電など、家計にとってどの程度メリットがあるかが
わからないから··················································· 1 はい
2
いいえ

(b) 電気料金が今後どのように変動するのかが不確実だから ··········· 1 はい
2
いいえ

(c) 太陽光発電システムの購入・設置に要する費用が家計の負担になるから · 1 はい
2
いいえ

)

(d) その他(具体的にご記入ください
(5)
あなたのご家庭では太陽光発電システムを設置していますか。あてはまるもの1つに○をつけてください。
1
すでに設置している(業者とすでに契約を交わしたり、設置の途中にある場合も含む)
2
設置していない

(6) 太陽光発電システムの導入に必要な費用は、出力が4kWの場合、約 270 万円になります。これを設
置すると、電気料金が節約されるという利益があり、また太陽光発電による電力が余った場合には売
電による利益もあります。あなたは、こうした利益が年間で少なくともどれだけあれば太陽光発電シ
ステムを設置しようと思いますか。なお、すでに設置しているご家庭の方は、現在望んでいる利益を
設置による利益が少なくとも
万
円あれば、設置しようと思う
A-31
~
お答えください。
[5]
問4 以下の質問では、個人的な内容についておうかがいしますが、正確な調査のために必要なもの
ですので、ご協力くださいますよう何とぞよろしくお願いいたします。
(1) あなたは結婚していらっしゃいますか。あてはまる番号1つに○をつけてください。
1
2
既婚(有配偶)
⑧~⑩=106
3
既婚(離・死別)
未
⑪
婚
(2) あなたのご家庭の世帯主の年齢をお書きください。なお、世帯主が結婚されている場合には配偶者
世帯主の年齢は
歳
配偶者の年齢
⑫~⑮
の方の年齢もお書きください。
歳
(3) 本アンケートにご回答頂いた方は世帯主ですか。また、ご回答頂いた方の性別は男性・女性どちら
ですか。該当するものに○をつけてください。
世帯主かどうか:
1
世帯主である
2
世帯主ではない
⑯
性別について :
1
男性
2
女性
⑰
(4) あなたのご家庭の世帯主の方の職業を以下の項目から選んで番号をお答えください。なお、世帯主
が結婚されている場合には配偶者の方の職業についてもお答えください。
世帯主
配偶者
自営業(農家、小規模事業所経営など)
1
自営業(農家、小規模事業所経営など)
2
3
4
自由業(開業医、弁護士、著述業など)
勤め人(会社・団体の管理職・役員)
勤め人(会社・団体の一般社員・職員)
5
公務員
2
3
4
5
自由業(開業医、弁護士、著述業など)
勤め人(会社・団体の管理職・役員)
勤め人(会社・団体の一般社員・職員)
公務員
6
7
8
学生
専業主婦(夫)
無職(学生・専業主婦(夫)を除く)
6
7
8
学生
専業主婦(夫)
無職(学生・専業主婦(夫)を除く)
9
その他(具体的に
9
その他(具体的に
)
⑱ ⑲
1
)
(5) あなたのご家庭の世帯主の方の学歴を以下の項目から選んでください。なお、世帯主が結婚されて
いる場合には配偶者の方の学歴についてもお答えください。
世帯主
A-32
1
2
高等学校卒業
大学卒業
3
4
大学院卒業
その他

[6]
高等学校卒業
大学卒業
大学院卒業
その他
⑳
1
2
3
4
配偶者
(6) 同居されているご家族の人数はあなたを含めて何人ですか。

あなたを含めて
人
(7) あなたのご家庭は 2008 年1月1日以降に引っ越しをされましたか。
1 引っ越しをした
2 引っ越しをしていない

(8) あなたのご家庭の年収(働いておられる配偶者の年収も含む)はおおよそどのくらいですか
(税・公的扶助を含みます)
。あてはまるもの1つに○をつけてください。
1
200 万円未満
5
500 万円 ~ 700 万円未満
2
200 万円 ~ 300 万円未満
6
700 万円 ~ 1000 万円未満
3
300 万円 ~ 400 万円未満
7
1000 万円 ~ 1500 万円未満
4
400 万円 ~ 500 万円未満
8
1500 万円以上

(9) あなたのご家庭の季節ごとの1ヵ月当たりの電気料金、ガス料金、および灯油代はだいたいいくら
ですか。なお、夏季は6月~8月、冬季は 12 月~2月、春・秋は3月~5月および9月~11 月を意
味します。
電気料金:夏 季
:
円くらい
~
冬 季
:
円くらい
~
春・秋
:
円くらい
~
ガス料金:冬 季
:
円くらい
~
その他の季節 :
灯 油 代:冬 季
円くらい
:
円くらい
~
~
(10) あなたのご家庭の 2009 年 11 月の電気料金、ガス料金、および灯油代はいくらですか。
(請求書などをご参考に、出来るだけ正確な金額のご記入をお願いします。
)
電気料金:2009 年 11 月 :
円
~
ガス料金:2009 年 11 月 :
円
~
灯油代 :2009 年 11 月 :
円
~
[6]
A-33
(11) あなたは、地球温暖化問題に対してどのくらい関心を持っていますか。あてはまるもの1つに
○をつけてください。
1
おおいに関心がある
3 あまり関心がない
2
ある程度関心がある
4 まったく関心がない

(12) あなたは、地球温暖化防止に対して、一般家庭と産業界では、どちらが率先して取り組むべきだ
と思いますか。あてはまるもの1つに○をつけてください。
1
産業界ではなく、一般家庭が率先して取り組むべきだ
2
一般家庭ではなく、産業界が率先して取り組むべきだ
3
一般家庭も産業界も、地球温暖化防止のために率先して取り組むべきだ
4
一般家庭も産業界も、地球温暖化防止のために率先して取り組む必要はない
以上で質問は終わりです。ご協力まことにありがとうございました。
[6]
A-34

調査票 2
企業調査サーベイ
A-35
環境省・環境経済の政策研究
委託研究
『温暖化対策を中心とした企業の環境取り組みに関する調査』
2010 年 11 月
上智大学・環境と貿易研究センター
I
CO2 等の温室効果ガス(GHG)排出削減に関する制度との関わり・排出量の把握の状況
貴社における CO2 等の温室効果ガス(GHG)排出削減に関する制度との関わりや、その排出量の把握の状況
についてお尋ねします。
設問1 省エネ法において特定事業者または特定連鎖化事業者になっていますか。
□
□
はい
いいえ
1
2
設問2 東京都の排出量取引制度の対象施設が存在しますか。
□
□
はい
いいえ
1
2
設問3 以下の 4 つの制度について参加されているものを選択してください。
はい
自主参加型排出量取引制度(JVETS)
試行排出量取引制度
国内クレジット制度
オフセット・クレジット制度(J-VER 制度)
□
□
□
□
いいえ 検討中
□
□
□
□
□
□
□
□
設問4 既に国内排出量取引制度を導入している地域(EU、ニュージーランド、米国北東部州(RGGI)な
ど)に、生産拠点・事業所を持っていますか。
□
□
はい
いいえ
設問4-1
1
2
⇒設問 5 へお進みください
設問 4 で「はい」と回答された場合、その生産拠点・事業所は、排出量取引制度の対象となっ
ていますか。
はい
いいえ
□
□
1
2
設問5 既に国内排出量取引制度を導入している地域(EU、ニュージーランド、米国北東部州(RGGI)な
ど)に、輸出していますか。
はい
いいえ
□
□
1
2
A-36
設問6 GHG 排出量(CO2排出量やエネルギー消費量など)に関する目標は設定していますか。
□
□
はい
いいえ
設問6-1
2
現在の目標は業界としての目標よりも高いものですか。
はい
いいえ
回答できない
設問6-2
( 年から)
⇒設問7へお進みください
1
□
□
□
1
2
理由 (
3
)
排出量に関する目標達成状況について、これまでに第三者の検証が行われたことがありま
すか。
□
□
はい
いいえ
1
2
設問7 CSR 報告書・環境報告書などの冊子や WEB において CO2 等の GHG 排出量を報告していますか。
はい
いいえ
報告書を発行していない
設問7-1
□
□
□
1
2
(
年から)
⇒設問 8 へお進みください
3
設問 7 で「はい」と回答された場合、それは第三者による検証が行われたことがありますか。
□
□
はい
いいえ
1
2
設問8 ISO14001 もしくは他の環境マネジメント・システムを導入していますか。
ISO 14001
はい
いいえ
□
□
年
□
□
年
最初の認証年
他の環境マネジメント・システム
(具体的に)
設問9 環境マネジメント・システムの認証取得を会社単位でおこなっていますか、それとも事業所単位で
行っていますか。該当する方をお選びください。
□
□
会社単位
事業所単位
1
2
設問10 CO2 等のGHG排出量の報告及び検証に対して信頼性と保証を与えることを目的としたISO 14064・
65、企業の社会的責任(CSR)に関するISO規格であるISO26001、またISO 規格化が進められてい
るエネルギーマネジメントシステム確立を目的としたISO50001の採用に関する貴社の現在の状況
についてお答えください。
ISO14064・65
採用は確実である
採用を検討中
採用する予定はない
知らない
□
□
□
□
1
2
3
4
ISO26001
採用は確実である
採用を検討中
採用する予定はない
知らない
A-37
□
□
□
□
1
2
3
4
ISO50001
採用は確実である
採用を検討中
採用する予定はない
知らない
□
□
□
□
1
2
3
4
設問11 CO2 等の温室効果ガス排出量測定について「Scope 3」という概念が注目されています。「Scope 3」
とは、企業が排出する温室効果ガスのうち、直接コントロールすることのできない部分を意味しま
す。製造業を例にとると、排出される温室効果ガスのなかで、原材料の採取・輸送、流通、廃棄・
リサイクル、出張・通勤に関連して排出される部分を意味します。
この「Scope 3」の各項目について、排出量の把握をされていますか。
はい
原材料の採取・輸送
流通
廃棄・リサイクル
出張・通勤
部分的に 検討中
□
□
□
□
□
□
□
□
いいえ
□
□
□
□
□
□
□
□
設問12 CO2 等のGHG排出削減と関連して、以下のどのようなことを実施していますか。各項目について、
「いいえ」か「はい」でお答えください。
いいえ
はい
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
省エネ・エネルギー効率の改善(空調管理など)
新規事業所への投資
既存事業所への投資
新製品の開発
環境関連の製品の設計
クリーンな技術・製造方法・工法の導入
燃料転換
再生可能エネルギーの供給・利用
森林による炭素固定(森林再生への投資)
炭素排出が非常に多い既存のビジネスからの撤退
炭素排出が非常に多い新規のビジネスの中止
温暖化対策担当部門・部署・チームなどの設置
HFC・PFC・SF6 の代替化・回収・破壊
(具体的に:
(具体的に:
(具体的に:
(具体的に:
(具体的に:
(具体的に:
(具体的に:
(具体的に:
(具体的に:
(具体的に:
(具体的に:
(具体的に:
(具体的に:
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
)
設問13 CO2 等の GHG 排出削減への取組みの背景として、以下の項目を評価して下さい。
非常に影響
影響がある 影響がない
がある
東京都排出量取引制度などの地方の取り組み
省エネ法(改定省エネ法も含む)
地球温暖化対策推進法(温対法)
経団連の自主行動計画などの業界団体の取組み
国内排出量取引制度の導入の可能性
利潤
技術変化
消費者の購入行動の変化
エネルギー価格
CSR(社会的責任)
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
設問14 以下の団体から、CO2 を含む環境負荷について排出削減行動を要求されたことはありますか。
温室効果ガス
ほとんど
よく求め 時々求め
求められ
られる
られる
ない
行政当局(国・都道府県・市区町村)
消費者
株主・投資ファンド
銀行・その他金融機関
業界団体
環境保護団体
一般従業員
経営者
近隣住民
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
廃棄物
化学物質
□
□
□
□
□
□
□
□
□
A-38
ほとんど
よく求め 時々求め
求められ
られる
られる
ない
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
ほとんど
よく求め 時々求め
求められ
られる
られる
ない
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
II
排出削減における CDM(クリーン開発メカニズム)などのクレジット制度について
排出削減目標を補完するクレジット制度についておたずねします。クレジット制度とは、排出削減目標の対象
とならない排出において排出削減を行った場合に、その削減分を対象となっている企業などが排出枠として使
用することを認める制度です。国際的には京都議定書に基づくクリーン開発メカニズム(CDM)と呼ばれる制
度がある他、国内においても、国内クレジット制度や J-VER と呼ばれる制度が存在します。
以下の設問 5・6・7 については、社としての見解でなく、ご担当者のご意見でも結構です。
設問1 これまで CDM プロジェクトに参加したことがありますか。
□
□
はい
いいえ
設問1-1
⇒設問1-1へお進みください
⇒設問1-2へお進みください
1
2
これまで参加した CDM プロジェクト件数は何件ですか。また、それらの CDM プロジェク
トから得られたクレジットの量はどれだけですか
件数
( )件
クレジット量 ( )トン
設問1-2
これまでにプロジェクト参加を検討したことはありますか。
はい
いいえ
設問1-3
⇒設問2へお進みください
□
□
1
2
( 年から)
⇒設問2へお進みください
設問 1-2 で「はい」と回答された場合、もっとも最近のプロジェクト参加にいたらなかっ
た理由は何ですか。
現在プロジェクト開発中
承認機関からプロジェクトの承認が得られなかった
採算性が悪かった(リスクが大きいという要素も含む)
その他( )
□
□
□
□
1
2
3
4
設問2 これまで、CDM 実施以外の方法で CER(CDM から得られるクレジット)を購入したことがありま
すか。
はい
いいえ
□
□
1
( )トン
2
設問3 CDM 制度が抱える問題点として、以下の項目がどの程度重要だと考えますか。
審査・登録・発行に時間がかかる
予想量に比べて実際のCERが少ない
厳格に追加性を実証する必要がある
CDM実施の地域間不均衡
その他 (
)
重要ではない
□
□
□
□
□
重要 非常に重要
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
設問4 今後、2012 年までに CER を購入する予定がありますか。また、2012 年以降に CER を購入する予定
はありますか。
2012年まで
はい □
いいえ □
1
2
2012年以降
トン はい □
いいえ □
A-39
1
2
トン 設問5 クレジットを購入する際に、以下の二つの制度における排出削減プロジェクトから生じるクレジッ
トについて、「社会的評価」、「削減効果」、「費用対効果」のどの観点から魅力があると感じま
すか。当てはまるものすべてにチェックをして下さい。
(1)オフセット・クレジット(J-VER)制度
森林吸収
農業・肥料改善
バイオ燃料
再生可能エネルギー
中小企業における削減
社会的評価
削減効果
費用対効果
未検討のため
わからない
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
社会的評価
削減効果
費用対効果
□
□
□
□
□
□
□
□
□
(2)国内クレジット制度
バイオ燃料
再生可能エネルギー
中小企業における削減
未検討のため
わからない
□
□
□
設問6 現在、国内排出量取引制度が議論されていますが、そこでの重要な課題は何であると考えますか。
対象期間
対象となるガスの選定(CO2以外も含めるか)
排出枠の設定対象
各種費用緩和措置(バンキング、ボローイング等)
遵守期間・ルール
排出量のモニタリング・算定・報告・公表・第三者検証
登録簿
適切な市場基盤
排出枠の総量
国際競争力・炭素リーケージへの配慮措置
国内外での排出削減に貢献する業種・製品への配慮措置
国と地方の関係
ボリシーミックスの在り方(地球温暖化対策税・全量買取り制度)
電力の取り扱い(直接排出か間接排出か)
排出枠の設定方法(有償割当・無償割当・総量方式・原単位方式)
重要ではない
重要
非常に重要
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
設問7 国内排出量取引制度を補完する措置として、望ましい制度を全て選んでください。
国内クレジット制度:
□
1
□
2
□
3
□
4
国内で排出量取引制度外の排出を削減した場 合に 、ク レジ ット
として認める制度(現在の国内クレジットやその発展形)
国際クレジット制度:
海外で排出量取引制度外の排出を削減した場 合に 、ク レジ ット
として認める制度(現在の京都メカニズムやその発展形)
オフセット・クレジット制度(J-VER 制度):
国内排出削減・吸収プロジェクトにより実現された温室効果ガ
ス排出削減・吸収量をオフセット・クレジット(J-VER)
として認証する制度
その他(
)
A-40
III
環境負荷を意識した取引・自主的な取り組みについて(グリーン調達・カーボンフット・プリ
ント等)
貴社が調達を行う際に、取引先の環境への取り組みについてどのように考慮されているか、また、顧客に製品
やサービスを提供する際に、製品やサービスに関わる環境負荷への貴社の取り組みについてどのようなことを
顧客から求められているかについておたずねします。
設問1 過去 5 年間で、法的に規制されていないような環境に関する取り組み(ISO14001 取得やカーボンフ
ット・プリントなど)を、(1)国内・国外の顧客から要求されたこと、また、(2)調達時に国内・国
外の取引先に対して、要求したことはありますか。化学物質、温室効果ガス、廃棄物、その他に関
する以下の項目で、あてはまるものをすべて選択してください。また、どれも要求されたこと・要
求したことがない場合には右下のボックスにチェックを入れてください
<国内>
(1)顧客から貴社への要求
<対象範囲: 過去5年間>
貴社の事業活動における環境への取組み
<国外>
化
学
物
質
温
ガ室
ス効
果
廃
棄
物
そ
の
他
化
学
物
質
温
ガ室
ス効
果
廃
棄
物
そ
の
他
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
:製造工程における排出削減など 製品・サービスに関わる環境負荷の開示
:法的規制対象外の情報開示など 製品・サービスに関わる環境負荷が低いこと
:法的に規制されていない排出削減など
要求されたことはない
<国内>
(2)貴社から取引先への要求
<対象範囲: 過去5年間>
取引先の事業活動における環境への取組み
□
<国外>
化
学
物
質
温
ガ室
ス効
果
廃
棄
物
そ
の
他
化
学
物
質
温
ガ室
ス効
果
廃
棄
物
そ
の
他
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
:製造工程における排出削減など 製品・サービスに関わる環境負荷の開示
:法的規制対象外の情報開示など 製品・サービスに関わる環境負荷が低いこと
:法的に規制されていない排出削減など
要求したことはない
□
設問2 上記のような取り組みが、取引先企業によって行われなかったために、改善を要求した経験はあり
ますか。
はい
いいえ
回答できない
<国内>
<国外>
□ 1
□ 2
□ 3
□ 1
□ 2
□ 3
設問3 環境負荷の低い企業を優先的に取引先に選定した経験はありますか。
はい
いいえ
回答できない
<国内>
<国外>
□ 1
□ 2
□ 3
□ 1
□ 2
□ 3
A-41
IV 貴社の概要について
ここでは、貴社の全体像についてお尋ねします(連結決算を実施している場合は連結ベースでお願いしま
す)。
設問1 貴社の主要な製品・サービスは以下の項目のどれにあてはまりますか。もっともよくあてはまるも
のを1つだけお選びください。
一般消費者向け最終製品・サービス
企業・官公庁向け最終製品・サービス
中間製品・サービス
□
□
□
1
2
3
設問2 貴社の製品・サービスの主要な販売先として適切なものは、どれですか。あてはまるものをすべて
お選びいただき、ご存じの範囲で各販売先の総販売額に占める割合をお答えください。
国内
東アジア・東南アジア
ヨーロッパ
アメリカ・カナダ
その他
□
□
□
□
□
1
2
3
4
5
( )%
( )%
( )%
( )%
( )%
設問3 貴社では、今年度、環境関連の研究開発予算をお持ちですか。
はい
いいえ
設問3-1
□
□
1
2
⇒設問 4 へお進みください
その研究開発予算は、以下の項目のうちどこに割り当てられましたか。当てはまるものを
すべてお選びください。
化学物質
製造過程に関わる研究開発
製品に関わる研究開発
サービスに関わる研究開発
その他 □
□
□
□
廃棄物 温室効果ガス その他
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
設問4 貴社は、製造事業所をいくつお持ちですか。事業所数をお書きください。
製造事業所数
(うち国内事業所数
)
設問5 貴社の主要な生産活動は次のどの産業分類に属しますか。該当するものを 1 つだけお選びくださ
A-42
い。
農業・林業
漁業
鉱業・採石業・砂利採取業
建設業
食料品製造業
飲料・たばこ・飼料製造業
繊維工業
木材・木製品製造業(家具を除く)
家具・装備品製造業
パルプ・紙・紙加工品製造業
印刷・同関連業
化学工業
石油製品・石炭製品製造業
プラスチック製品製造業
ゴム製品製造業
なめし革・同製品・毛皮製造業
窯業・土石製品製造業
鉄鋼業
非鉄金属製造業
金属製品製造業
はん用機械器具製造業
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
生産用機械器具製造業
業務用機械器具製造業
電子部品・デバイス・電子回路製造業
電気機械器具製造業
情報通信機械器具製造業
輸送用機械器具製造業
その他の製造業
電気・ガス・熱供給・水道業
情報通信業
運輸業・郵便業
卸売・小売業
金融業・保険業
不動産業・物品賃貸業
学術研究、専門・技術サービス業
宿泊業、飲食サービス業
生活関連サービス業、娯楽業
教育、学習支援業
医療、福祉
複合サービス事業
サービス業(他に分類されないもの)
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
□
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
本調査のために貴重なお時間を頂戴し、ありがとうございました。
本調査はこれで終了です。
温暖化対策を中心とした日本企業の環境取り組みに関する調査にご協力いただき深く感謝致します。今回の調
査についての詳細な情報は、http://www.erp.sophia.ac.jp/Projects/cetr/ にてご覧いただけます。本調査か
ら得られました主要な結論や報告は、2011 年の夏にこのウェブアドレスに掲載されます。ご協力に厚く御礼申し
上げます。
ご回答頂きました内容が不明な場合には、後日、調査主体である「上智大学環境と貿易研究センター」より、
お問い合わせをさせて頂くこともございます。お手数ですが、以下にご連絡先をご記入ください。
ご芳名
貴社名
所属部署名
郵便番号
ご住所
E-mail
この調査で扱われている問題に関して、何かご意見がございましたら、以下にご自由にご記入いただければ幸い
です。
A-43
付録
A-45
応用一般均衡モデルの構築
1.
1.1
はじめに
応用一般均衡分析(Computable General Equilibrium Analysis: CGE分析)は 1、経済モデルとデータを
組み合せたシミュレーションである。政策の効果を事前的に分析する手法として、主に貿易政策、税
制改革などの分析に利用されてきたが、近年、地球温暖化対策の分析においても幅広く利用されるよ
うになった。CGE分析を利用することで、直感的な議論では捉えることが難しい経済活動間の複雑な
相互依存関係を考慮した上で、地球温暖化対策の効果を定量的に評価することができる。そのためCGE
分析は、地球温暖化対策立案の議論において有用な分析ツールの 1 つとなっている。しかし、CGE分
析によるシミュレーションは、前提とするモデル、データ、パラメータ、シナリオなど様々な要素に
依存しており、その分析結果を適切に利用するには、どういった前提の下で分析が行われているかを
深く理解しておくのが望ましい。
本書の第 2 章において、ポスト京都以後のCO2 削減政策における排出量取引をCGEモデルによって
分析する。本章では、その第 2 章で利用するモデル、データの詳細な説明を行う。上述の通り、CGE
分析では、その結果が分析の様々な構成要素に依存するものであるので、第 2 章の分析を適切に評価
するには、本章の内容を深く理解しておく必要がある。本章は次のように構成される。まず、1.2 と 1.3
でシミュレーションのデータ、モデルについて説明する。次に、1.4 においてモデルの動学的な構造を
解説し、1.5 でBAU均衡の設定方法について説明する 2。
1.2
ベンチマークデータ
まず利用するデータについて説明しておこう。CGE分析では、ある基準年のデータの下で経済が均
衡しているという前提から分析が始まる。多地域の世界モデルでは、このベンチマークデータにGTAP
が提供するデータを利用するのが標準的であり、本章でもGTAPデータ(現時点での最新版である
GTAP7.1)を利用する。このGTAP7.1データは基準年を2004年とするデータであり、2004年がシミュ
レーションの基準年となる。
分析ではCO2排出規制を扱うため、通常のベンチマークデータに加え、CO2排出量のデータも必要に
なる。
これについては、
GTAPのエネルギーデータから導出されたLee (2008) のCO2データを利用する。
基本的にはオリジナルのデータをそのまま利用しているが、Lee (2008) のCO2データには実際のCO2排
出量とは乖離した部分が多々観察される。特に、日本の鉄鋼部門からの排出量は大幅に過小な値とな
っている3。鉄鋼部門は日本におけるCO2排出量のかなりのシェアを占めており、排出規制の分析にお
1
本来、「応用一般均衡分析」という用語に対応するのは「AGE (applied general equilibrium)分析」という用語であるが、
以下では「応用一般均衡分析」=「CGE(computable general equilibrium)分析」という意味で使う。
2
温暖化対策分析のCGEモデル全般については、例えば、Conrad (2003)、Sue Wing (2010)、武田 (2011) 等が詳しいので、
そちらを参照して欲しい。また、実際にCGE分析をおこなうための手順については、細江他 (2004) が詳細な解説を提供
している。
3
Lee (2008) のCO2データ(GTAP_CO2_V7.HARに含まれるデータ)では日本の鉄鋼産業(I_S)からのCO2排出量は
A-46
いて極めて重要な意味を持ちうるため、3EID 2005 beta (南斎・森口 2009)の値を利用して修正して
いる。オリジナルのGTAP7.1データでは、世界は112地域、57部門に分割されているが、シミュレーシ
ョンでは、これを付表1.1の12地域、22部門に統合した上で利用する。
付表 1.1 地域と部門の分類
JPN
EUR
USA
CAN
ANZ
RUS
CHN
IND
BRA
ASI
OPC
ROW
地域
日本
EU27
米国
カナダ
オーストラリア・ニュージーランド
ロシア
中国
インド
ブラジル
その他アジア
OPEC
その他の地域
FSH
OMN
PPP
CRP
NMM
NFM
I_S
CRU
COL
GAS
OIL
ELE
漁業
その他鉱物
紙・パルプ
化学
非金属鉱物
非鉄金属
鉄鋼
原油
石炭
ガス
石油石炭製品
電力
部門
AGR
FPR
LUM
TWL
TRN
OMF
TRS
CNS
TRD
SER
農業・林業
食料品
木材・木製品
繊維製品
輸送機器
その他製造業
輸送
建設
商業
その他サービス
出所: 筆者作成.
第2章のシミュレーションでは数値計算ソフトとしてGAMS(General Algebraic Modeling System)を
利用している。GTAPデータはそのままではGAMSで利用できる形式になっていないため、変換を行う
必要がある。しかし、Thomas Rutherford氏がGTAP7.1データをGAMSで利用するためのGTAP7inGAMS
というプログラム群を公開している(Rutherford 2010)4。第2章のシミュレーションでは、この
GTAP7inGAMSを利用している。さらに、GTAP7inGAMSには、米国DOE/EIA(Department of
Energy/Energy Information Administration)が公表しているInternational Energy Outlook(IEO)のデータ、
国連の人口統計のデータ等も含まれている。動学モデルの構築の部分でこれらのデータも利用してい
る。以下、IEOデータ、国連の人口統計といった場合には、GTAP7inGAMSに含まれているデータのこ
とを指すものとする5。
1.3
モデル
モデルは多地域・多部門の逐次動学CGEモデルを利用する。詳しくは1.4で説明するが、逐次動学と
は、静学的なモデルを繰り返し解いていくことで、経済の推移を描写するモデルである。動学的最適
化行動は考慮されないので、一時点内でのモデルの構造と動学的な部分を分離することができる。以
下では、まず一時点内でのモデルの構造を説明する。一時点内でのモデルの構造については、Paltsev
(2001)、Fischer and Fox (2007)、Böhringer et al. (2010)、Takeda et al. (2011) 等とほぼ同じような想定を行
43.9MtCO2となっている。しかし、3EID beta 2005では同じ部門のCO2排出量は161.5MtCO2である。前者が2004年のデータ、
後者が2005年のデータという違いを差し引いたとしても非常に大きな差である。
4
Thomas F. Rutherford氏のウェブサイト(http://www.mpsge.org/)で公開されている。
5
GTAP7inGAMSのIEOデータ、国連人口統計は、GTAPデータとの地域・財の分類上の差を処理するため、様々な調整が
加えられている。従って、オリジナルのデータとは若干の違いが生じてくることに注意して欲しい。
A-47
っている6。
1.3.1
生産サイドの行動
投入物間の代替可能性の違いを反映するため、生産関数は全ての部門について多段階の入れ子型
CES生産関数を仮定する。ただし、化石燃料部門(CRU、COL、GAS)と非化石燃料部門(その他の
全ての部門)に対して異なった関数型を仮定する。生産要素は労働、資本、土地、天然資源の4つに分
割している7。土地は農業部門(AGR)でのみ利用される特殊要素として扱う8。また、天然資源につ
いても各部門の特殊要素として扱う。労働については自由に部門間が移動できると仮定しており、全
ての部門の賃金が均等化するように労働の部門間の配分が決まることになる。一方、資本については、
資本ストックを「既存資本」と「新規資本」に分けて扱い、このうち「新規資本」の部分だけが部門
間で移動可能とする。これについては、1.4で詳しく扱う。全ての生産要素について、国際間での移動
はないものと仮定している。
付図1.1 化石燃料部門の生産関数
生産
E_ES
非天然資源投入物
天然資源
レオンチェフ
労働、資本、中間投入物
出所: 筆者作成.
化石燃料部門には付図1.1の2段階の入れ子型CES生産関数を仮定する。図はCES生産関数の入れ子構
造を表現している。まず天然資源以外の全ての投入物がレオンチェフ関数で統合され非天然資源投入
物となり、さらにそれが天然資源と代替の弾力性(E_ES)のCES関数で投入されるという形式である。
E_ESは天然資源と非天然資源投入物の間の代替の弾力性であり、これは化石燃料の供給の弾力性の値
からカリブレートしている9。
6
モデルの詳細を説明した文書が筆者から入手可能である。
元々のGTAPデータでは、労働は熟練労働と非熟練労働の2つに分割されているが、ここでは両者を統合して扱っている。
8
特殊要素(specific factor)とは、その部門でのみ利用され、他の部門に移動しない要素のことである。
9
このカリブレーションについて詳しくは、Takeda (2007) を参照。また、カリブレーションでは化石燃料の供給の弾力性
として2を仮定している。
7
A-48
付図1.2 非化石燃料部門の生産関数
生産
レオンチェフ
非エネルギー中間投入物
+フィードストック
0.5
E_VA
0.1
生産要素
ELE
0.5
COL
2.0
OIL
GAS
出所 筆者作成.
一方、非化石燃料部門は、付図1.2のCES生産関数を仮定する。まず、各エネルギー中間財が多段階
のCES関数によって統合され、合成エネルギー財となる(ツリー内の数値は代替の弾力性を表してい
る)
。一方、資本、労働、土地、天然資源の生産要素は代替の弾力性(E_VA)のCES関数によって統
合され合成生産要素となる。合成エネルギー財と合成生産要素は代替の弾力性(E_VAE)のCES関数
によって統合される。最後に、それが他の非エネルギー中間財とレオンチェフ関数で投入される。エ
ネルギー中間財間の代替の弾力性、
エネルギーと生産要素の代替の弾力性にはPaltsev (2001)、
Fischer and
Fox (2007) の値を仮定している。また、E_VAにはGTAPデータの値を利用している。
また、生産関数においては、エネルギー中間財であっても、OIL部門に投入されるCRU、CRP部門
に投入されるOIL、GASは、フィードストック(原料)として利用されている部分が多いので、非エ
ネルギー中間財と同様の扱いにし、トップレベルのレオンチェフ関数の段階で投入している。OIL部門
に投入されるCRUは100%をフィードストックとし、CRP部門に投入されるOIL、GASは、Lee (2008) の
データに従いフィードストック部分を分離している。以上の生産関数の下、各部門は利潤最大化(費
用最小化)を目指し、生産量、投入量を決定する。
A-49
1.3.2
家計の行動
付図1.3 効用関数
効用
1.0
貯蓄
E_CL
余暇
0.5
1.0
エネルギー財
1.0
非エネルギー財
出所: 筆者作成.
各地域には、1つの代表的家計を仮定する。この代表的家計の効用は、消費、余暇、貯蓄に依存する
ものとし、付図1.3の多段階CES生産関数を仮定する。まず、エネルギー財、非エネルギー財がそれぞ
れコブ=ダグラス関数(代替の弾力性が1のCES関数)によって合成され、さらにその合成エネルギー
財、合成非エネルギー財が代替の弾力性0.5のCES関数によって統合される。次に、合成された消費が
余暇と代替の弾力性(E_CL)のCES関数によって合成され、最後に貯蓄(財)とコブ=ダグラス関数
で合成される。効用関数に貯蓄を入れることについては1.4において議論する。
効用関数に余暇が入っているため、余暇のデータ、及び余暇と消費の間の代替の弾力性の値を用意
する必要がある。これについては、日本と日本以外の地域で異なった扱いをする。まず、日本の余暇
と消費の代替弾力性は畑農・山田 (2007) により推定された値 0.73 を採用する10。また、日本の余暇
の時間は畑農・山田 (2007) と同様に 1 日の選択可能時間を 12 時間と仮定し、厚生労働省『毎月勤
労統計調査』 を用いて余暇と労働の時間のシェアを求め、それと GTAP7.1の労働データを用いて余
暇のベンチマークデータを作成している11。さらに、『国民経済計算年報平成19年度版』、『財政金融
統計月報大672号』より、労働に対する課税率を導出している12。日本以外の余暇・消費の代替の弾力
性値と余暇データは、Fischer and Fox (2007) が用いたアプローチによって決定している。すなわち、補
償労働供給弾力性と非補償労働供給弾力性から余暇・消費の代替の弾力性と余暇データをカリブレー
10
畑農・山田 (2007) では、消費、賃金、余暇の代理変数をそれぞれ世帯消費、年収、個人の余暇とし、さらに選択可能
時間を 12 時間と仮定したうえで、余暇と消費の代替弾力性を推定している。
11
選択可能時間とは24時間のうち労働と余暇に割り当てる時間の総計である。こうして導出された選択可能時間に占める
総労働時間のシェアは41.5%となった。
12
ベンチマークにおける労働課税率はネットの税率で50%となった(グロスの税率では33%に相当)。なお、この導出の
際、社会保障負担も労働に対する税の一種とみなして労働課税に含めている。
A-50
トするという方法をとっている。また、日本以外の地域の労働課税率は、Fischer and Fox (2007)の値を
そのまま利用している。
家計の貯蓄は、貯蓄財(=投資財)の購入という形で導入されている。投資財は、各財が固定比率
で投入されて構成されている。例えば、投資財の購入が10%増加した場合、投資に利用されている財
がそれぞれ10%ずつ上昇するということになる。
1.3.3
貿易
モデルでは各地域は貿易を通じて結びついている。貿易の部分は、基本的に既存の多地域CGEモ
デルと同様の扱いをする13。まず、貿易に関してはArmington仮定を置いている。Armington仮定とは、
同じ財でも異なる地域で生産された財については違う財(不完全代替)と見なされるという仮定であ
る(Armington, 1969)
。財の統合は、1)異なる地域からの輸入財を統合し、 2)輸入財と国内財を統合す
るという2段階で行っている。この統合を表現したのが付図1.4である。例えば、日本における鉄鋼とい
う財を例にとると、まず日本以外の全ての地域からの輸入が代替の弾力性(E_M)のCES関数によっ
て統合され、その合成輸入財がE_DMのCES関数を通じて国内の鉄鋼と合成されるということである。
輸入財と国内財との代替の弾力性(E_DM、Armington弾力性)と輸入財間の代替の弾力性(E_M)に
はGTAPデータの値を利用している。
付図1.4 Armington統合
Armington財
E_DM
E_M
国内財
輸入財
輸入財
出所: 筆者作成.
輸入財と国内財が合成された財(Armington財)は、生産部門における中間投入、最終消費、投資、
政府支出に利用されることになる。この国内財と輸入財の統合は用途別に行われる。つまり、同じ財𝑖で
あっても、部門𝑗で中間投入物として利用されるもの、最終消費に利用されるもの、投資に利用される
もの、政府支出に利用されるものは、全て別々に統合が行われる。輸入財間の統合は、データの都合
上、用途別ではなく一括で行われる。
13
例えば、GTAPの標準的なモデル、Paltsev (2001)、Fischer and Fox (2007) 等と同じである。
A-51
1.3.4
政府
各地域には1つの政府が存在する。政府は税を徴収する一方、その収入により政府支出を行う。税
は、労働に対する税を除き、基本的にGTAP7.1データにある生産、中間投入、生産要素、貿易等に対
する税のデータをそのまま利用している。政府支出は、ベンチマークデータにおけるシェアに従い、
個々の財が固定比率で投入されることで行われると仮定している。例えば、政府支出が10%増加すれ
ば、各財に対する政府の需要は全て10%ずつ増加するということである。
政府支出の水準は、一時点内では外生的に一定と仮定する。政府支出が外生的に設定されるという
ことは、排出規制の導入によって政府支出の水準が変わらないということを意味する。政府支出の水
準がモデル内で内生的に変化するという想定もありうるが、ここでは政府の活動を中立的にするため
に、外生的に設定するというアプローチをとった。
1.3.5
排出規制
第2章のシミュレーションでは、キャップ・アンド・トレード型の排出量取引の形の排出規制を考
える。排出枠は、最初に政府によりオークションを通じて配分され、排出枠市場において取引される。
政府のオークション収入は、家計に一括(lump-sum)の形式で還元されると仮定する。削減を行う地
域、削減率などについては第2章で説明する。
モデルでは、CRU、COL、GAS、OILの4つの財の利用からCO2が排出されると仮定されており、排
出規制の下では、この4つの排出源財の利用の際に、そのCO2排出量に等しい排出枠を購入しなければ
𝐴
ならない。従って、地域𝑟の部門𝑗で中間投入に利用される排出源財𝑖の価格を𝑝𝑖𝑗𝑟
、部門𝑗で中間投入に
CO2
利用される排出源財𝑖の炭素係数を𝑎𝑖𝑗𝑟
、排出枠価格を𝑝𝑟CO2とすると、部門𝑗の生産者が直面する排出
源財𝑖の価格は次式で与えられる。
CO2
𝐴
𝑝𝑖𝑗𝑟
+ 𝑝𝑟CO2 𝑎𝑖𝑗𝑟
つまり、排出規制の下では排出枠購入額分だけ企業が直面する投入価格は上昇することになる。地域𝑟
𝐴
𝐴 CO2
における部門𝑗の排出源財𝑖への中間投入需要を𝐷𝑖𝑗𝑟
とすると、それに伴う排出枠への需要は𝐷𝑖𝑗𝑟
𝑎𝑖𝑗𝑟
で与えられる。同じようなことは、最終消費に利用される排出源財についても成り立つ。
排出枠の価格は、排出枠の需要が供給に等しくなるように市場で決定される。各地域が独力で削減
を行うケースでは、地域𝑟の排出枠の供給(これは総排出量の上限に等しい)を𝑆𝑟CO2 、排出枠への需
要を𝐷𝑟CO2とすると、排出枠の市場均衡条件、すなわち
𝑆𝑟CO2 = 𝐷𝑟CO2
が満たされるように排出枠価格𝑝𝑟CO2が決まる。この場合、排出枠価格は地域ごとに異なってくる。
第2章では、各地域が独力で削減を行うケースに加え、排出量取引が国際的にリンクされるケースも
分析する。具体的には、Annex B地域間における直接リンクとAnnex Bと非Annex B地域間でのクリー
ン開発メカニズム(CDM)を通じた間接リンクである。直接リンクのケースでは、リンク参加地域に
おいて共通の排出枠市場が形成される。従って、TRをリンクに参加する地域の集合とした場合、
� 𝑆𝑟CO2 = � 𝐷𝑟CO2
𝑟∈𝑇𝑅
𝑟∈𝑇𝑅
という条件で、リンク参加地域における共通の排出枠価格𝑝CO2が決まることになる。また、各地域の
A-52
排出枠輸入量は𝐷𝑟CO2 − 𝑆𝑟CO2で与えられ(マイナスなら輸出量)
、𝑝CO2(𝐷𝑟CO2 − 𝑆𝑟CO2)が海外への排出
枠支払額となる(マイナスなら受取額)
。
間接リンクについてはBöhringer and Rutherford (2010) のアプローチに従ってモデルに導入している。
まず、間接リンクのケースでは、規制地域自身の排出枠の供給に加えて、CER(Certified Emission
Reductions)の供給が生じる。CER需要地域(規制地域)のCER需要量をCER𝐷𝑟 とすると
𝑆𝑟CO2 + CER𝐷𝑟 = 𝐷𝑟CO2
で、規制地域における排出枠価格𝑝𝑟CO2が決まる。また、CER需要地域の集合をCRD、CER供給地域の
集合をCRS、CER供給量をCER𝑆𝑟 とすると、CERの国際的な取引価格𝑝CERは
� CER𝑆𝑟 = � CER𝐷𝑟
𝑟∈CRS
𝑟∈CRD
という関係により決まる。さらに、規制地域はCERを自由に購入できることから、裁定行動により
𝑝𝑟CO2 = 𝑝CER
が成立する。
間接リンクのケースでは、規制地域によるCER利用に制限があるケースも分析する。制限がbinding
にならない状況では、上と全く同じであるが、bindingになる地域においては国内と海外で裁定が働か
�����𝐷𝑟
ないため、
国内の排出枠価格はCERの価格よりも高くなる。
規制地域𝑟のCER利用に対する上限をCER
とし、仮に全ての規制地域において制限がbindingになるとすると、国内排出枠価格はCER価格+CER
プレミアム(𝜀𝑟CER)となり、次式が成立する。
𝑝𝑟CO2 = 𝑝CER + 𝜀𝑟CER
また、CERの需要と供給の均衡条件は次式のように修正される。
� CER𝑆𝑟 = � �����
CER𝐷𝑟
𝑟∈CRS
1.4
𝑟∈CRD
動学的な構造
1990 年代までは、CGE分析は静学モデルを前提とするものがほとんどであったが、現在では動学モ
デルの利用が増えている。例えば、MITのEPPAモデル 14、OECDのENV-Linkagesモデル 15、世銀の
ENVISAGEモデル 16、GEM-E3 モデル 3は全て動学モデルである。また、麻生政権下の中期目標検討委
員会、鳩山政権下の地球温暖化タスクフォースにおいて分析に用いられた、日本経済研究センターの
JCER-CGEモデル 4、国立環境研究所のAIM/CGEモデル、野村浩二氏(慶応大学)のKEOモデルはど
れも動学モデルである。このように動学モデルの利用が増加している理由は、動学モデルが静学モデ
ルにない様々な分析上の利点を有しているからである。
14
Paltsev et al. (2005) http://globalchange.mit.edu/igsm/eppa.html
Burniaux and Chateau (2008).
16
Mattoo et al. (2009).
3
http://www.gem-e3.net/
4
JCER-CGEモデルについては、武田他( 2010)を参照。
15
A-53
1.4.1
動学モデルのタイプ
一般に、経済学で動学モデルといった場合には、経済主体の動学的最適化行動を仮定したモデル
(以下、forward-lookingモデル)を指すことが多い。実際、理論分析、マクロ経済学における動学モデ
ルは、ほぼ全てがこのタイプのものである。しかし、CGE分析では、
「逐次動学(recursive dynamic)
モデル」というタイプの動学モデルが利用されることが多い。逐次動学モデルとは、一時点のみを考
慮したモデルを繰り返し解いていくことで、経済の時間的な推移を導出するようなモデルである。
2つのタイプのモデルのどちらもそれぞれ利点、欠点を持っており、一概にどちらが優れているとは
いえない5。しかし、逐次動学モデルの方が1)全般的に扱いやすい、2)地域数・部門数を増やしやすい、
3)計算が容易というようなことから、地球温暖化対策の動学分析を行っている多地域CGEモデルでは
逐次動学モデルを利用していることが多い。例えば、EPPAモデル、ENV-Linkagesモデル、ENVISAGE
モデル、GEM-E3等は逐次動学モデルである6。
1.4.2
モデルの動学的設定
第2章で用いる動学モデルの特徴は、1)2004年から2020年までの逐次動学モデル、2)貯蓄は貯蓄率
一定により決定、3)資本を新規資本(new capital)と既存資本(extant capital)の2つのタイプに分割、
4)既存資本にはPutty-clayアプローチを適用、5)資本・労働生産性の向上とAEEIという形の技術進歩を
考慮、という5つの点にまとめられる。
まず、第2章の分析では、forward-lookingモデルである必要性があまりないことから、逐次動学タイ
プのモデルを採用することにした。また、2020年までの中期的な削減を分析対象とするので、モデル
のタイムスパンはデータの基準年である2004年から2020年までの17期間としている。その他の部分に
ついては、以下で説明しよう。
貯蓄・投資の決定方法
そもそも投資、貯蓄という行動は異時点間で資源を振り分ける行動であり、両者を捉えるには時間
軸(将来の経済)を考慮する必要が生じる。Forward-lookingモデルでは多数の期間を考慮し、さらに家
計、企業の異時点間での最適化行動を仮定するので、投資、貯蓄の水準は経済主体の異時点間の最適
化行動からごく自然に導かれることになる。一方、逐次動学モデルは、そもそも多数の期間を考慮は
せず、一時点のみを描写するモデルを前提としているので、時間軸を前提とする投資、貯蓄という行
動を考慮するには特殊な想定が必要となる。様々なアプローチがありうるが、本章では貯蓄率一定と
いう仮定により貯蓄を決定し、投資水準は貯蓄に応じて決定するという方法をとる。これはEPPA モ
デル、ENV-Linkages モデル、JCER-CGEモデルと同じアプローチである。上記の貯蓄率一定という仮
定は、モデルでは通常家計の効用関数に貯蓄(財)をコブ=ダグラス型の形で入れることによって表現
される。これが1.3において家計の効用関数に貯蓄を導入し、コブ=ダグラス型を仮定した理由である。
投資は以上の設定を通じて決まる貯蓄に等しくなるように決定する。つまり、貯蓄に対し投資は受
動的に決まることになる。また逐次動学モデルであるので、排出規制の導入を見込んであらかじめ投
5
6
両者の利点・欠点については、例えば、武田(2007)を参照。
ただし、EPPAモデルはforward-lookingモデルのバージョンも存在する(Babiker et al. 2008)。
A-54
資を行うというような行動はモデルからは排除されていることに注意されたい。
資本ストックの扱い
資本ストックについては、EPPAモデル、JCER-CGEモデルにならい、既存資本と新規資本の2つのタ
イプに分割して扱う7。既存資本とは既に一度利用された資本ストックであり、新規資本とは前期の投
資によって新たに蓄積された資本ストックのことを指す。静学モデルにおいては、各部門のレンタル
プライスが均等化するように部門間で資本ストックの配分が決まると仮定されることが多い。時間軸
を考慮しない、あるいは長期を表すとみなされている静学モデルでは、そのような仮定が適切かもし
れないが、動学モデルでは各部門の利用する資本ストックが1期毎に急激に変化するという状況が生じ
うる。そのような状況を排除するための仮定にPutty-clayアプローチがある。Putty-clayアプローチとは、
既存資本ストックは部門間で移動が不可能(immobile)と仮定することである。この仮定の下では、
各部門の資本ストック水準の調整は、新規の投資によってのみ行われるということになるため、現実
の調整と同じようにゆるやかなスピードとなる。Putty-clayアプローチはEPPAモデル、JCER-CGEモデ
ルでも利用されている。本章のモデルでもPutty-clayアプローチを採用することにする。
技術進歩
地球温暖化対策の分析においては、技術進歩、特にエネルギーについての技術進歩が重要な意味を
持つ。技術進歩としては、R&Dを通じた技術進歩、learning by doingを通じた技術進歩のようにモデル
内で内生的に技術変化が生じるモデルもあるが、モデルのタイムスパンが2020年までとそれほど長期
ではないことから、本章では外生的な技術進歩のみを考慮する。具体的には、1)資本・労働の効率性
の改善、2) AEEI(autonomous energy efficiency improvement)を想定する。前者は生産関数における資本・
労働投入の効率性の改善、後者は生産関数におけるエネルギー投入の効率性の改善を意味している。
本来、技術進歩率は部門によって異なっていると考えられる。しかし、多地域のモデルにおいて部
門別の技術進歩率の適切なデータを入手するのは非常に難しいため、シミュレーションでは全ての部
門について技術進歩率が一様と仮定している。技術進歩率の決定方法については、次節で説明する。
1.5
BAU(Business as Usual)均衡の導出
シミュレーションでは、まず政策の変更がない(排出規制が導入されない)状況における動学均衡
を求め、政策の変更により均衡がどう変化するかを分析する。以下では、政策変更前の動学均衡をBAU
(Business as Usual)均衡と呼ぶ。BAU均衡の状態によって政策の効果は変わってくるため、BAU均衡
の設定は分析上重要なポイントとなる。本節では、第2章のシミュレーションにおけるBAU均衡の設定
について説明する。
モデルにおいて時間とともに変化する要素としては、資本ストック、技術水準、生産要素の賦存量、
政府支出の水準等があるが、このうち資本ストックの推移はモデル内で決まってくるため、BAU均衡
7
厳密には、EPPAモデルでは新規資本と既存資本の2つではなく、どの期で導入されたかによって資本を全て区別してい
る。
A-55
をどう設定するかという問題は結局のところ、1) 技術進歩率、2) 生産要素賦存量のパス、3) 政府支
出のパス、をどう決めるかという問題に等しい。以下、3つの要素についての設定を説明する。
1.5.1
技術進歩率の決定方法
技術進歩率は外部のデータを基に決定することもできる。しかし、外部のデータに基づいて技術進
歩率を設定してモデルを解いた場合、モデルから導出されるCO2排出量、GDP等の数値が現実的とは
いえない値を示すことがある。また、多地域のモデルのため、全ての地域について技術進歩率の予測
値を用意するのが難しいという問題もある。以上の事情から、本章では、モデルから導出されるGDP
変化率とCO2排出量変化率が外生的に与えられるターゲットの値に近い値をとるように技術進歩率を
決定するという、一種のカリブレーション的な方法を採用している。
ターゲットの値には、IEOのデータによるGDP変化率とCO2排出量変化率を利用している。具体的に
は次のような手順をとっている。まず、モデルの期間を2004年から2010年までと2011年から2020年ま
でに分割する。モデルから導出される2004年から2010年までのGDP変化率とCO2排出量変化率が、IEO
データにおける2004から2010年の変化率に近い値をとるように、2004年から2010年までの資本・労働
投入の生産性向上とAEEIの率を設定する。次に、2011年から2020年までの資本・労働投入の生産性向
上とAEEIの率を同様の手順で設定する。
付表1.2 モデルから導出されるGDP, CO2排出量変化率とIEOの予測値との差
JPN
EUR
USA
CAN
ANZ
RUS
CHN
IND
BRA
ASI
OPC
ROW
GDP(%)
モデル
差
15.5
-1.4
33.4
-1.4
43.6
-0.6
42.7
1.2
53.1
-1.0
73.6
-0.4
255.5
-2.6
185.7
0.6
91.3
-3.7
122.3
-0.7
98.8
-2.2
71.0
1.9
CO2排出量(%)
モデル
差
-9.7
0.9
-5.8
0.1
-4.6
-1.6
-13.0
1.3
16.2
0.4
0.1
-1.7
66.5
-2.0
62.2
1.6
54.4
-2.3
44.2
-1.3
65.2
1.7
21.9
0.3
注) 2004年から2020年の変化率.
出所: 筆者作成.
付表1.2は以上の方法で設定した、BAU均衡におけるGDP、CO2排出量変化率(2004年から2020年ま
での変化率)である。「モデル」がモデルから導出される変化率であり、「差」はモデルから導出さ
れる値とIEOの予測値との差(モデル-IEO)である。若干の差はあるが、モデルのBAU均衡における
GDP、CO2変化率はIEOの予測値とほぼ同じになっている。このような方法で技術進歩率を決定してい
A-56
るため、モデルにおけるBAU均衡はIEOの予測値に添った形で設定されているといえる。IEO以外にも
GDP、CO2排出量の予測値を提供しているものはあり、IEOの予測値が必ずしも適切であるとはいえな
いが、本章が利用しているGTAP7inGAMSがIEOデータを利用しており、GTAPデータに基づくモデル
で扱いやすいことから、IEOデータを前提とすることにした。
1.5.2
生産要素賦存量と政府支出
資本以外の生産要素、すなわち労働、土地、天然資源の賦存量のパスについては以下のように扱
う。まず、労働については、労働と余暇に利用できる総時間の変化率を国連の人口予測値によって決
定する。モデル上は利用可能時間という変数であり、厳密には人口と一致しないが、多地域のモデル
において利用可能時間の推移についての予測値を入手するのは難しいため、ここでは代理変数として
人口の推移(の予測値)を用いることにした。
土地、および非化石燃料部門で利用される天然資源については、全ての地域において年率1%で増加
すると仮定した。残りの化石燃料部門における天然資源については、モデル上、特殊要素として扱っ
ていることから、その賦存量が化石燃料の生産量を大きく左右することになり、重要な意味を持って
くる。ここでは、IEOデータにおけるCO2排出シェアを参考にして、化石燃料部門の天然資源の変化率
を設定することにした。すなわち、IEOデータには、2020年時点における石油、石炭、ガスからのCO2
の排出シェア(全世界)の予測値があるが、この予測値にモデルから導出されるCO2排出シェアが等
しくなるように化石燃料部門の天然資源の変化率を設定している。変化率は全ての地域において同じ
と仮定している。こうして求めた変化率は、CRU部門については年率-4%、GAS部門は年率3%、COL
部門は5%である。IEOの予測値では、石油からのCO2排出シェアが低下し、石炭、ガスからの排出シ
ェアが上昇するため、CRU部門は低下、COL、GAS部門は上昇するということになる。
政府支出については、IEOデータにおけるGDP予測成長率の半分の率で成長すると仮定している。
つまり、IEOデータにおける2004年から2020年のGDPの成長率が年平均10%なら、年率5%で成長して
いく。この政府支出のパスはBAU均衡と排出規制のある均衡で変わらないと仮定する。
1.6
他のモデルとの比較
ここまでモデルの説明をしてきたが、温暖化対策の分析のために作成されたモデルは多数存在する。
本節では、それらの他のモデルとの比較をおこなう。まず、日本の温暖化対策の分析というと、麻生
政権の「中期目標検討委員会」
、鳩山政権の「地球温暖化問題に関する閣僚委員会 タスクフォース会
合」で利用されたJCER-CGEモデル(日本経済研究センター)
、AIM/CGEモデル(国立環境研究所)
、
KEOモデル(慶応大学商学部野村浩二教授)の3つのモデルがあるが、これらのモデルは全て日本を対
象とした一国モデルである。従って、我々の多地域の世界モデルとは地域数の面で全く異なっており、
本研究が対象とする国際間のリンクの分析をすることは難しい。
一方、多地域の世界モデルについては非常に多くの研究者、研究機関によって作成されている。例
えば、代表的なものだけでも、MITによるEPPAモデル、OECDによるENV-Linkagesモデル、GEM-E3
モデル、ZEWによるPACEモデル等がある。それぞれのモデルは、部門・財の分類、地域の分類、生
A-57
産関数・効用関数の特定化、動学的行動の特定化、再生可能エネルギーの扱い、技術の扱い、労働市
場の扱い等、多様な側面において異なっており、単純に比較することは難しいし、優劣をつけること
はできない。我々のモデルはこれらのモデルを参考にして作成しており、多くの共通点もある。最も
類似点が多いモデルを挙げるなら、ZEWのPACEモデルである。PACEモデルは上のモデルの中では、
比較的構造が単純であり、そのため分析において、政策の効果のメカニズムを把握しやすいという利
点がある。同時に違う部分もある。1つの大きな違いは我々のモデルでは、労働供給の特定化、CO2排
出量など日本のデータを元にモデルを特定化している部分が多いという点である。
1.7
おわりに
本章では、第2章のシミュレーションで利用するCGEモデルを説明してきた。CGE分析の有用性が
高まるにつれ、地球温暖化対策の分析においてCGE分析が幅広く利用されるようになってきている。
しかし、CGE分析は、モデル、データ、パラメータ、シナリオの設定など様々な要素から構成されて
おり、その分析結果も前提によって大きく変わりうる。よって、CGE分析を適切に利用していくには、
その分析の前提について詳細に把握しておく必要がある。後の第2章において、本章のモデルを利用し、
排出量取引の国際リンクの分析を行う。第2章の分析から、排出規制策についての多くの有用な考察を
得ることが可能であるが、その分析結果は、あくまで本章で説明したモデル、データ、パラメータの
設定に依存するものであることに留意する必要がある。
A-58
業種細分化モデルによるCO2排出規制の産業影響評価
2.
2.1
はじめに
GTAP(Global Trade Analysis Project)データは、米国Purdue大学の国際貿易分析プロジェクトによっ
て開発された、国際産業連関表である。2011 年 10 月現在において、最新のGTAP7.1 データは 112 ヵ
国・地域 57 業種から構成されている 1。GTAPデータは、各国が公表している産業連関表、貿易統計
データ、その他マクロ経済データを基に作成されている (Badri and Walmsley 2008)。GTAPデータは、
多くの多地域・多部門の応用一般均衡モデル(Computable General Equilibrium model: CGEモデル)の構
築にとって世界的に欠かせないデータとなっている。
GTAPデータを利用したCGEモデルは、その名前が示すように、貿易政策が経済へ与える影響を評
価するために多く用いられてきた。そして地球温暖化問題が重要な国際的課題である近年においては、
CO2 排出規制の影響を評価するためにも活用されている。第 2 章・付録 1 において、CO2 排出規制の
CGEモデルを多数紹介しているが、それらの研究も全てGTAPデータを利用している。
しかし、既存のGTAPデータによって、CO2 排出規制の経済影響を評価する際には、不都合なことも
ある。それは、既存のGTAPデータが、主要な炭素集約部門を独立した部門として扱っていないことで
ある。既存のGTAPデータでは、貿易政策で問題となりやすい農業部門に関しては、詳細な部門分けが
行われている。しかし、CO2 排出規制で問題となってくる製造業では、詳細な部門分けが十分に行わ
れていない。例えば、セメント部門は、ガラス製品、セラミック製品等と共に「非金属鉱物(Non-Metallic
Minerals)」部門にまとめられている。セメント部門は、生産工程、製品の使途、貿易の状況、原料と
なる石灰の生産 2 等の様々な点で、その他の「非金属鉱物」に比べて異なる特徴を持つ。そのため、
CO2 排出規制がセメント部門に与える影響を正確に評価するためには、セメント部門を独立した部門
として扱うことが望ましい。
同様のことが、アルミニウム部門や化学部門についてもあてはまる。通常、アルミニウム新地金の
製錬では多くの電力が消費され、それに伴い大量のCO2 も排出される。しかし、日本のアルミニウム
部門は、新地金のほぼ全量を輸入に依存しており、国内での製錬はほとんど行われない。そのため、
他国のアルミニウム部門に比べて電力消費量が少なく、CO2 排出規制の影響も小さいことが予想され
る。しかし、既存のGTAPデータは、アルミニウム部門をCO2 排出量に関して異なる特徴を持つ、銅、
鉛等と共に「非鉄金属部門(Non-Ferrous Metals)」に集約している。日本のアルミニウム部門を考慮した
場合、その他の非鉄金属部門とは分けて考える必要があるだろう。また、既存のGTAPデータは、「化
学・ゴム・プラスチック製品(Chemical, Rubber, Plastic products)」を化学部門として 1 部門に集約し
ている。 しかし、製造時のエネルギー消費量や付加価値率といった点を考慮すると、化学部門は基
礎化学製品 3、プラスチック・ゴム製品、化学最終製品という部門に分けることが望ましい。
1
Global Trade Analysis Project の詳細については以下を参照。
https://www.gtap.agecon.purdue.edu/(最終閲覧日:2011年10月23日)
2
石灰を生産するために石灰石を分解した際、CO2が排出される。
3
基礎化学製品は、ソーダ工業製品等の無機化学工業製品、プラスチック、合成ゴムを除く有機化学工業製品から構成さ
A-59
GTAPデータに炭素集約部門の特徴を適切に反映させるため、
炭素集約部門をより詳細に扱ことが重
要である。そうすることで、より詳細な分析が可能となる。本章では、GTAPデータ以外の各種統計デ
ータと、GTAPデータに対応したデータ調整ソフト(SplitCom)を用いて、既存のGTAPデータに新し
い炭素集約部門を付け加える(GTAPデータの業種細分化)。さらに業種細分化(以下、細分化)され
たGTAPデータに基づくCGEモデルを利用し、より詳細なCO2 排出規制の産業影響評価を行う。
2.2
2.2.1
GTAP データの業種細分化の方法
SplitCom の利用
本項では、既存のGTAPデータを細分化する方法について説明する。GTAPデータ上への新しい部門
(以下、新部門)の追加とは、既存のGTAPデータに存在する部門(以下、既存部門)から、新部門を
分割することを意味する。分割の際には、GTAPデータの分割用プログラムであるSplitComを利用する。
後述するようにSplitComは、新部門の既存部門に対する各種の比率データを利用し、分割を実行する
プログラムである(Horridge 2008)。SplitComを利用すると、データの分割と同時に数値調整も行われる
ので、GTAPデータの国際産業連関表としての整合性を保つこともできる。
以下ではSplitComを用いたデータ分割に必要な各種の比率データについて説明する。必要な比率デ
ータは、1)コストシェア、2)用途シェア、3)貿易シェア、の 3 種類である。
コストシェアは、既存部門に投入されている各種中間投入物・生産要素投入物の量 4 に占める、新部
門へ投入されている各種中間投入物・生産要素投入物の量の割合である。付図 2.1 に非金属鉱物部門か
らセメント部門を分割する場合のイメージを示している。この図を見ると、例えばコストシェアは、
非金属鉱物部門(既存部門)に投入されているサービスの投入量に占める、セメント部門(新部門)
へ投入されているサービスの投入量の割合である。このコストシェアを、既存部門の全ての中間投入
物及び生産要素投入物について用意する。
用途シェアは、ある部門に投入(中間投入)、または消費(最終消費)される、既存部門の財・サ
ービスのうち、新部門の財・サービスが占める割合である。再び付図 2.1 のイメージを見てみよう。用
途シェアは、例えば、建築部門に投入される非金属鉱物(既存部門)のうち、セメント(新部門)が
占める割合である。用途シェアに関しても、全ての部門の投入・消費について用意する。
また、GTAPデータは国際産業連関表であるため、各製品の国・地域間貿易のデータも含む。付図
2.1 には示されていないが、貿易データも既存部門から新部門を分割する必要がある。SplitComを用い
る場合、既存部門の製品の国・地域間貿易に占める新部門の割合(貿易シェア)が必要となる。セメ
ントを例にすると、貿易シェアは、日米間で取引される非金属鉱物のうち、セメントが占める割合で
ある。この貿易シェアは、国・地域間貿易の全ての組み合わせについて必要である。
れている。
4
産業連関表は、金額ベースで作成されているため、シェアの計算を行う際に金額を量の替わりに用いる。
A-60
付図 2.1 GTAPデータの業種細分化のイメージ
出所: 筆者作成.
2.2.2
GTAP データの分割作業フロー
本章のシミュレーション分析では、CO2 排出規制の産業への影響をより詳細に評価するため、既存
のGTAPデータを以下の通りに細分化する。
1. 「非金属鉱物(Non-Metallic Minerals)」を「セメント」と「その他非金属鉱物」へ分割する。ただし、
セメントは石灰や石膏も含む。
2. 「非鉄金属(Non-Ferrous Metals)」を「アルミニウム」と「その他非鉄金属」へ分割する。ただし、
アルミニウムは地金だけでなく圧延製品も含む。
3. 「化学(Chemical - Rubber - Plastic products)」を「基礎化学製品」と「プラスチック・ゴム製品」と「化
学最終製品」へ分割する。
本章のシミュレーションで用いるGTAPデータの国・地域と部門の分類を付表2.1に示す。部門に関
しては、左側に細分化前の部門分類を、右側に細分化後の部門分類を示している。本章3節でのシミュ
レーション分析は、細分化後の部門分類を使用している。
A-61
付表 2.1 国・地域と部門の分類
国・地域
JPN
KOR
CHN
IND
IDN
MYS
THA
EUR
CAN
USA
BRA
AUS
RUS
MOP
ROW
日本
韓国
中国
インド
インドネシア
マレーシア
タイ
EU_27
カナダ
米国
ブラジル
オーストラリア
ロシア
主要産油国
その他の国・地域
部門
AFF
COL
CRU
GAS
OIL
ELE
細分化前
農林水産業
石炭
原油
ガス
石油石炭製品
電力
NMM 非金属鉱物
I_S
鉄鋼
NFM 非鉄金属
MTP 金属製品
OMN 鉱物
TWL 繊維製品
CRP 化学製品
MCE
OMF
PPP
CNS
TRS
SER
機械
その他製造業
製紙
建築
運輸
サービス
AFF
COL
CRU
GAS
OIL
ELE
CEM
ONM
I_S
ALM
ONF
MTP
OMN
TWL
BCM
PRP
CFP
MCE
OMF
PPP
CNS
TRS
SER
細分化後
農林水産業
石炭
原油
ガス
石油・石炭製品
電力
セメント
その他非金属鉱物
鉄鋼
アルミニウム
その他非鉄金属
金属製品
鉱物
繊維製品
基礎化学製品
プラスチック・ゴム製品
化学最終製品
機械
その他製造業
製紙
建築
運輸
サービス
出所: 筆者作成.
細分化の手順は以下の通りである。まず先述したコストシェア・用途シェアのデータを、各国の産
業連関表を利用して入手することができる。それは既存のGTAPデータに存在しない部門でも、各国の
産業連関表では独立した部門として扱われている場合が多いからである。ただし産業連関表が手に入
らない国、もしくは必要な新部門が産業連関表で独立した部門として扱われていない国に関しては、
産業連関表以外の統計データ(新部門の生産額等)を利用し、SplitCom用の比率データを作成する。
コストシェアと用途シェアに加えて、貿易シェアのデータも作成する必要がある。貿易シェアのデ
ータを作成するには、国連貿易統計データベースUN Comtrade5 を利用する。具体的には、UN Comtrade
を利用して、2004 年における既存部門・新部門の製品の、国・地域間貿易額を入手し、各国・地域間
の貿易における新部門の貿易シェアのデータを得た。
これらの方法で収集したコストシェア・用途シェア・貿易シェアの比率データを、細分化前のGTAP
データと共にSplitComのプログラムによって読み込み、細分化されたGTAPデータを作成する。一連の
作業フローは付図 2.2 のように示すことができる。
5
UN Comtrade http://comtrade.un.org/ (最終閲覧日:2011年10月23日)
A-62
付図 2.2 業種細分化の作業フロー
出所: 筆者作成.
2.2.3
コストシェアと用途シェア、貿易シェアの情報
先述の通り、コストシェア・用途シェアのデータは、産業連関表が利用できる国はそれを利用し、
産業連関表が手に入らない国、もしくは必要な新部門が産業連関表で独立した部門として扱われてい
ない国に関しては、産業連関表以外の統計データ等を利用し、分割用の比率データを作成した。
本章で利用している産業連関表は、日本・中国・韓国・米国・カナダ・オーストラリアの六カ国の
ものである。具体的には、日本の2005年産業連関表(総務省 2009)、中国の2007年投入産出表(国家
統計局 2009)、韓国の2005年産業連関表(韓国銀行 2008)、米国の2002年産業連関表(U.S. Bureau of
Economic Analysis 2007)、カナダの2007年産業連関表(Statistics Canada 2010)、オーストラリアの2006年
産業連関表(Australian Bureau of Statistics 2010)である。
産業連関表が利用できない国・地域のセメント部門の分割については、以下の通りに対処した。U.S.
Geological Survey (2004a)から各国・地域のセメント生産量を求め、生産量にセメント単価をかけること
で、2004年における生産額を計算した。セメント単価は各国・地域別で入手することが困難であるた
め、各国・地域の平均輸出単価で代用した。その際、セメントの貿易統計コードとして、SITC Rev.3
の661を利用した。そのうえで、非金属鉱物の生産額に対するセメント生産額の比率を求め、コストシ
A-63
ェア・用途シェアの比率データとした。
産業連関表が利用できない国のアルミニウム部門の分割については、以下の通りに対処した。まず
アルミニウム地金の生産量(新地金及びリサイクル地金の合計)をU.S. Geological Survey (2004b)及び
World Bureau of Metal Statistics (2007)から入手し、アルミニウム地金単価をかけて生産額を求めた。ア
ルミニウム地金単価は、World Bureau of Metal Statistics (2007)に掲載されている2004年の平均価格の値
を用いた。次に、非鉄金属部門の生産額に対するアルミニウム生産額の比率を算出し、コストシェア・
用途シェアのデータとした。
産業連関表が利用できない国の化学部門の分割については、産業連関表を利用できた国のコストシ
ェア及び用途シェアの平均値を代用した。付表2.2は、貿易シェアのデータを作成するにあたり利用し
た、貿易統計の新部門の商品分類と番号をまとめたものである。
付表 2.2 貿易統計における新部門の分類
新部門
アルミニウム
セメント
基礎化学製品
プラスチック・ゴム製品
化学最終製品
番号および内容
684 ALUMINIUM
661 LIME,CEMENT,CONSTR.MATRL
51 ORGANIC CHEMICALS
52 INORGANIC CHEMICALS
57 PLASTICS IN PRIMARY FORM)
58 PLASTIC,NON-PRIMARY FORM
53 DYES,COLOURING MATERIALS
54 MEDICINAL,PHARM.PRODUCTS
55 ESSENTL.OILS,PERFUME,ETC
56 FERTILIZER,EXCEPT GRP272
59 CHEMICAL MATERIALS NES
注) 商品番号はすべてSITC Rev.3.
出所: UN Comtradeの分類表から筆者作成.
2.2.4
GTAP データ上における新部門の再現性
本項では、上述した手順とデータに基づいて細分化されたGTAPデータにおいて、新部門がその部門
の特徴を適切に反映しているのか否かを確認する。確認の方法として、産業連関表におけるコスト構
成(各行項目のシェア)と用途構成(各列項目のシェア)を、細分化されたGTAPデータの新部門と比
較する。
以下では、日本の産業連関表と細分化されたGTAPデータを、コスト構成・用途構成について比較す
る。付図2.3の左側の円グラフは、産業連関表におけるセメント部門のコスト構成を示している。一方、
右側は細分化されたGTAPデータにおける日本のセメント部門のコスト構成を示している。
いずれのグ
ラフでも、構成比2%以上の項目にのみ、ラベルをつけている。左右グラフを比較すると、GTAPデー
タ上において、産業連関表のセメント部門のコスト構成は概ね再現されていることが分かる。付図2.4
の左側の円グラフは、産業連関表のセメント製品の用途構成を示している。右側は細分化されたGTAP
A-64
データにおける日本のセメント製品の用途構成を示している。産業連関表でセメントの大半が建築部
門に投入されている状況が、GTAPデータでも概ね再現されていることが分かる。
付図 2.3 日本のセメント部門のコスト構成の比較(%, 2%以上のみ項目記載)
細分化GTAPデータ
電力
6
産業連関表
電力
セメント
3
10
間接税-補助金
4
資本
15
間接税-補助金
3
資本
15
セメント
10
鉱物
8
建築
2
労働
24
鉱物
9
労働
23
建築
2
運輸
9
サービス
17
サービス
18
運輸
10
出所:筆者作成.
付図 2.4 日本のセメント製品の用途構成の比較(%, 2%以上のみ項目記載)
産業連関表
家計
セメント
サービス
3
10
2
その他非金属
鉱物
2
細分化GTAPデータ
家計
セメント
サービス
4
10
その他非金属
2
鉱物
2
建築
77
建築
76
出所: 筆者作成.
アルミニウム部門のコスト構成・用途構成に関しても、細分化されたGTAPデータ上に、産業連関表
の特徴を概ね再現させることができた6。ただし、セメント部門に比べて、産業連関表からのずれが大
きい。ずれが生じる理由は主に2点ある。第1の理由は、GTAPデータに新部門を作り出す際、国際産業
連関表としてのデータの整合性を保つため、数値調整を行っているからである。第2の理由は、各国の
産業連関表のデータと既存のGTAPデータの違いからくるずれが存在するからである。
なお、アルミニウム部門では、コスト構成・用途構成、どちらに関してもアルミニウムの比率が他
6
スペースの都合上、結果の詳細に関する図表は省略してある。詳しい結果は筆者から入手可能である。
A-65
に比べて高い7。この原因は、アルミニウム部門が製錬から圧延製品の生産までを含むからである。つ
まり、アルミニウムの圧延製品を生産するためには、アルミニウムの地金を投入するといったことが
表現されているためである。
基礎化学製品、プラスチック・ゴム製品、最終化学製品のコスト構成・用途構成についても、部分
的にずれが生じているものの、各部門の特徴はGTAPデータ上において概ね再現させることができた8。
2.2.5
代替の弾力性と CO2 排出原単位
新部門に関する代替の弾力性について説明する。GTAPデータには、国産品・輸入品間の弾性値、輸
入品間の弾性値、本源的生産要素間の弾性値が収められている。モデル構築にあたり、これらの数値
を利用することができる。
しかし新部門に関する上記の弾性値は、
既存のGTAPデータには存在しない。
そこで本章では、新部門の弾性値を既存部門と等しいと仮定し、モデル構築を行った。例えば、セメ
ント及びその他非金属鉱物の国産品・輸入品間の弾性値は、既存のGTAPデータにおける非金属鉱物の
弾性値に等しいと仮定する。
付図2.5は、細分化されたGTAPデータにおける日本の各生産部門のCO2排出原単位(tCO2/ドル)を
示すグラフである。ただし、ここでは、各部門の生産過程で利用される化石燃料の燃焼と、セメント
部門の生産プロセスとに由来するCO2排出量のみを考慮しており、各部門の電力利用に由来する間接
的なCO2排出量は考慮していない。その理由は、発電に伴うCO2排出量は電力部門の排出量として計算
されているからである。
各部門の生産過程では多くの化石燃料が利用されるが、この化石燃料を燃焼する際に大量のCO2が
排出される。ここで扱っている化石燃料の燃焼に由来するCO2排出量は、Lee (2008) のデータを基にし
ている。新部門のCO2排出量は、化石燃料投入のコストシェアで案分している。ただし、基礎化学製
品部門に投入される石油・石炭製品及びガスの一部は原料として利用されるものとし、投入に伴うCO2
排出は無いものとしている。この原料利用の割合も、Lee (2008)を参考に設定している。なお、付録1
で指摘されているようにLee (2008) のデータでは、日本の鉄鋼部門のCO2排出量は過小であるため、日
本の鉄鋼部門のCO2排出量に関しては修正を行っている。
セメント部門の生産プロセスにおいても、大量のCO2が排出される。このプロセス由来の排出量は、
2つのデータソースから求めている。Annex I国のデータは、UNFCCCが運営するFlexible GHG Data
Queries9から求め、Non-Annex I国のデータは、UNEPが運営するGEO Data Portal10から求めている。
付図2.5は、プロセス由来の排出を考慮したセメント部門が、電力に次ぐ炭素集約部門であることも
示している。続いて、鉄鋼、基礎化学製品、運輸の順で排出原単位が高い。つまり図からは、これら
炭素集約部門が、排出規制の影響を相対的に強く受けるであろうことが予想できる。化石燃料の燃焼
起源排出のみで見た場合、アルミニウム部門の排出原単位は相対的に小さい。アルミニウム部門は、
排出規制からの影響を直接受けるというよりも、電力部門から間接的に受けるであろうことが予想さ
7
産業連関表と細分化GTAPデータとを比較すると、コスト構成ではそれぞれ38.5%・29.5%、用途構成ではそれぞれ29.5%・
27.4%となっている。
8
スペースの都合上、結果の詳細に関する図表は省略してある。詳しい結果は筆者から入手可能である。
9
UNFCCC Flexible GHG Data Queries http://unfccc.int/di/FlexibleQueries.do (最終閲覧日:2011年10月24日)
10
UNEP GEO Data Portal http://geodata.grid.unep.ch/ (最終閲覧日:2011年10月24日)
A-66
れる。また化学産業を見ると、プラスチック・ゴム製品部門と化学最終製品部門の排出原単位は、同
じ化学産業である基礎化学製品と比べて小さいことが分かる。
付図 2.5 日本の各部門のCO2 排出原単位(tCO2/ドル)
注) 略語は付表 2.1 参照.
出所: 筆者作成.
2.3
2.3.1
シミュレーション分析
CGE モデルの概要
本項では、細分化を行ったGTAPデータを基に、多地域・多部門の静学的CGEモデルを構築し、CO2
排出規制のシミュレーション分析を行う。本章のシミュレーション分析で用いるCGEモデルは、付録1
の逐次動学CGEモデル11の「一時点内でのモデルの構造」とほぼ等しい。
以下ではモデルの概要を簡単に説明する。モデルにおける各国・地域の各生産部門の生産構造は、
入れ子型CES(Constant Elasticity of Substitution)関数によって表現されており、生産構造のタイプを化石
燃料部門・非化石燃料部門の2種類に分けている。化石燃料部門は、石炭部門・原油部門・ガス部門の
3つの生産部門から成っている。
化石燃料部門の特徴は、生産において各国・地域に賦存する天然資源を投入していることである。
それに対して、非化石燃料部門の特徴は、エネルギー財(石油・石炭製品、石炭、ガス、電力)の間
における代替や、エネルギー財と資本や労働との代替を認めていることである。ただし、石油・石炭
製品部門では、原油・石炭を原料として投入するため、他の中間投入財・エネルギー財・労働・資本
とは互いに代替不可能であると仮定している。基礎化学製品部門に原料として投入される石油・石炭
11
詳しいモデルの構造は、付録1の説明を参照。
A-67
製品、ガスも、他の財や生産要素と代替不可能であると仮定している。
各国・地域には1つの代表的家計が存在し、代表的家計の効用水準は、消費、余暇の水準によって決
まる。本章の静学モデルにおける貯蓄額は、排出規制が実施されてもBAU (Business as Usual)の水準で
一定であると仮定している12。貯蓄額は投資額に等しいため、総投資額の水準もBAUの水準で一定と
なる。また、各国・地域には政府が1つ存在する。政府は、生産部門や家計から徴収した税を基に政府
支出を行う。政府支出の総額も、排出規制に関わらずBAUの水準で一定であると仮定している。
2.3.2
シミュレーション・シナリオ
前項で説明したモデルを用いて、各国・地域のCO2排出規制が、各生産部門に与える影響をシミュ
レーション分析する。モデルでは、生産部門の石炭・石油製品を含む化石燃料投入及び家計の石炭・
石油製品を含む化石燃料消費に伴いCO2が排出される。シミュレーションでは、それぞれの国・地域
が別々に排出量取引を導入して各国・地域のCO2排出削減目標を達成するものとする。すなわち第2章
で扱った国際リンクはないものとする。CO2排出を削減する国・地域とそれぞれの削減目標は以下の
通りである。日本(1990年比25%減)、EU27(1990年比30%減)、米国(2005年比17%減)、カナダ
(2005年比17%減)、オーストラリア(1990年比25%減)。これらの排出削減率は2010年1月に各国・
地域がUNFCCCへ提出した削減目標を参考に設定している。ただし、中国等の新興国は排出削減を実
施しないとする。また実際のシミュレーションでは、2004年比の削減目標となるよう、各国・地域の
排出削減率を調整している。
2.3.3
シミュレーション結果
前項で設定したシナリオの結果を、日本が受ける影響のみ詳しく見ていく。日本を含めた各国の
CO2排出規制は日本の経済に影響を与える。日本の各マクロ経済指標の変化率がその度合いを示して
いる(付表2.3)。日本は1990年比25%削減の排出削減目標を達成することで、BAUに対して厚生は0.74%
減少し、GDPは1.12%減少する。また日本全体の輸出は4.63%減少し、輸入は4.41%減少する。目標達
成時の排出枠価格は、122ドル/tCO2である。なお、シミュレーションでは排出枠価格と排出税率は同
値であり、いずれも限界排出削減費用に等しい。
12
動学モデルを利用していた第2章・付録1では、
効用関数に貯蓄を導入し、
貯蓄が内生的に変化する仕組みとしていたが、
本章では静学モデルを利用するため、効用関数から貯蓄を除外し、貯蓄は外生的に一定と仮定している。
A-68
付表 2.3 日本のマクロ経済指標への影響
厚生
GDP
消費
輸出
輸入
排出権価格(ドル/トン)
BAU比
-0.74
-1.12
-1.77
-4.63
-4.41
122
注) 特に単位を明記していない数値はBAUからの変化率(%).
出所: シミュレーション結果より筆者作成.
付図 2.6 日本の各生産部門の生産水準減少率(%, BAU比)
注) 略語は付表 2.1 参照.
出所: シミュレーション結果より筆者作成.
CO2排出規制が日本の各部門に与える影響は、付図2.6の通りである。ガソリン、重油、コークス等
を生産する石油・石炭製品部門と、CO2を大量に排出する電力部門・鉄鋼部門・基礎化学製品部門は、
CO2排出規制により大きく生産水準を低下させる。しかし、炭素集約部門であるセメント部門の生産
水準の落ち込みは相対的に小さい。その理由は主に2点考えられる。
第1の理由として、セメント製品は、日本では輸入割合が小さいことが考えられる。細分化された
GTAPデータでは、日本のセメント部門の輸入割合・輸出割合は、それぞれ2.62%・3.78%と小さく、
A-69
CO2排出規制が国内生産へ与える影響も小さい。それと対照的なのが鉄鋼部門である。日本の鉄鋼部
門の輸出割合は11.64%と相対的に大きく、排出規制による影響も大きい。日本のセメント部門は、鉄
鋼部門と比べて国際競争にさらされておらず、そのためにCO2排出規制の影響が小さく抑えられてい
ると考えることができる。
第2の理由として、セメントを多く投入している建築部門の生産減少率が小さいことが考えられる。
ただし、建築部門の生産水準は、モデルにおける投資活動の仮定に依存することに注意する必要があ
る。本章のモデルは、総投資額の水準は排出規制によって変化しないと仮定している。本来、家計や
企業の投資活動は将来を見据えたものであり、投資活動をどう仮定するかによって、建築部門の生産
水準は大きく変化する。よって建設部門の生産水準が変化した場合、それを通じて間接的に、セメン
ト部門の生産水準も大きく左右される可能性がある。
次に日本のアルミニウム部門の生産水準について見てみよう。一般にアルミニウム部門は、新地金
の製錬に大量の電力を消費するため、CO2排出規制の影響を受けやすいとされる。しかし、規制によ
る生産水準の落ち込みは相対的に小さい。その主な要因として、日本はアルミニウムの新地金の供給
をほとんど輸入に依存しており、国内では新地金の製錬をほとんど行っていないことが挙げられる。
つまり、日本のアルミニウム部門では電力利用が少なく、CO2排出規制が生産コストを大きく引き上
げることはないと考えられる。
最後に日本の各化学部門の生産水準について考察する。基礎化学製品の日本市場における輸入割
合・輸出割合はそれぞれ18.44%・31.97%と大きい。これは基礎化学製品部門が炭素集約部門であると
同時に、国際競争にさらされていることを意味している。このことが生産水準を大きく低下させる要
因となっている。他方、プラスチック・ゴム製品部門や、化学最終製品部門の生産の落ち込みは相対
的に低く抑えられている。それはプラスチック・ゴム製品部門の場合は、基礎化学製品部門から原料
供給を受けているためで、化学最終製品部門の場合は付加価値比率が高いためである。このように実
際の化学部門は原料から最終製品まで広範な種類の製品を製造しており、炭素集約度や付加価値比率
等において大きく特徴が異なる。既存のGTAPデータのように1つの部門に集約すればそうした情報は
利用できなくなり、適切な産業影響評価が困難となるであろう。
2.4
おわりに
多地域・多部門のCGEモデルによる分析は、範囲・対象が、既存の国際産業連関表(主にGTAPデ
ータ)に含まれる国・地域と産業分類によって大きく制限される。そのためセメント部門を例に出し
てみると、CO2 排出規制のセメント産業への影響を見るためには、より一般的な分類である非金属鉱
物部門への影響を見て、そこから類推するしかなかった。他にも各国・地域の産業連関表から詳細な
1 国・地域モデルを構築するといった方法もあるが、1 国・地域モデルは、当然ながら他国・地域の産
業構造を無視しており、外国との貿易についても強い仮定を置かなければならないといった問題点が
ある。つまりより詳細な分析には、より詳細な業種分類の国際産業連関表を利用して、CGEモデルを
構築することが望ましい。
本章では、
各国・地域の産業連関表や貿易統計等の統計データを用いてGTAPデータの細分化を行い、
A-70
CGEモデルの分析対象を広げることを試みた。その結果、セメント、アルミニウム、基礎化学製品、
プラスチック・ゴム製品、化学最終製品を対象とし、各国・地域における各部門の特徴を考慮したCO2
排出規制のCGE分析が可能となった。
GTAPデータの細分化によって新たに追加された炭素集約部門には、
日本についての分析結果を見る限
り、現実の状況がよく反映されているように考えられる。ただし、GTAPデータの細分化には多くの統
計データが必要であり、分析精度はこれらの統計データの量と質に依存する。分析精度を上げるため、
より多くの信頼できる統計データの利用が今後の課題である。また、第2章で扱った排出量取引の国際
リンクのように、温暖化対策については多様な政策オプションが提案されており、その定量的な分析
が求められている。そのような分析において、本章で作成した細分化されたデータを利用していくこ
とも今後の課題としたい。
A-71
A-72
出願年
2002
2004
2006
2004
2006
1990
1988
1986
1984
1982
1980
1978
1976
1974
1972
1970
2002
0
2000
1
2000
2
1998
3
1998
4
1996
5
1996
6
1994
7
1994
付図3.2 運輸
1992
出願年
1992
1990
1988
1986
1984
1982
1980
1978
1976
1974
1972
1970
出願件数
出願件数
3.
22産業の省エネ特許出願件数の推移
付図3.1 印刷
25
20
15
10
5
0
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
付図3.3 化学
300
250
200
150
100
50
0
出願年
付図3.4 ガス
70
60
50
40
30
20
10
0
出願年
A-73
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
付図3.5 紙パルプ
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
出願年
付図3.6 機械
600
500
400
300
200
100
0
出願年
A-74
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
付図3.7 金属製品
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
出願年
付図3.8 建設
160
140
120
100
80
60
40
20
0
出願年
A-75
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
付図3.9 鉱業
2
1
0
出願年
付図3.10 ゴム
30
25
20
15
10
5
0
出願年
A-76
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
付図3.11 情報通信
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
出願年
付図3.12 食品
14
12
10
8
6
4
2
0
出願年
A-77
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
付図3.13 精密機器
300
250
200
150
100
50
0
出願年
付図3.14 石油・石炭製品
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
出願年
A-78
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
付図3.15 繊維
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
出願年
付図3.16 鉄鋼
300
250
200
150
100
50
0
出願年
A-79
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
付図3.17 電気機器
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
出願年
付図3.18 電力
60
50
40
30
20
10
0
出願年
A-80
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
付図3.19
非鉄金属
160
140
120
100
80
60
40
20
0
出願年
付図3.20 輸送機器(自動車)
300
250
200
150
100
50
0
出願年
A-81
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
19
70
19
72
19
74
19
76
19
78
19
80
19
82
19
84
19
86
19
88
19
90
19
92
19
94
19
96
19
98
20
00
20
02
20
04
20
06
出願件数
付図3.21 輸送機器(その他)
35
30
25
20
15
10
5
0
出願年
付図3.22 窯業
120
100
80
60
40
20
0
出願年
A-82
○この印刷物は国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)に基づ
く基本方針の判断の基準を満たす紙を使用しています。
○リサイクル適正の表示
この印刷物は A ランクの資材のみを使用しており、印刷用の紙にリサイクルできます。
Fly UP