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Harai Daisuke

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Harai Daisuke
技術開発・権利確保・許諾・行使
~ 知的財産の一生を駆け足で ~
きっかわ法律事務所
弁護士
第1
原井
大介
前説:技術開発に関係する知的財産
開発した技術が法的に保護され、模倣が制限される法体制であって初めて、技術革
新へのモチベーションが保たれる。法的に保護され財産権の対象となった技術を(狭
義の)知的財産という。どのようなものを知的財産として保護するかは各国の政策に
委ねられる。以下、日本を例にとって概説する。
1
発明
・自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいい(法 2 条 1 項)、特許
法で保護される。他人による無断実施に対して差止請求及び損害賠償請求を行い得
る。
・内容的には、物の発明と方法の発明(物を生産する方法とそれ以外の方法)に大別
され、新規性・進歩性等、内容上満たされるべきハードルは高い。
・依拠(著作権)や不正取得・開示等(営業秘密)が要件でない点では強力である。
・特許発明は出願から 1 年 6 ヶ月で公開され、特許権は登録後、出願から 20 年の間存
続する。
2
ノウハウ(営業秘密を含む)
・営業上又は技術上有用な情報一般を、本稿では「ノウハウ」と呼ぶことにする。そ
のうち不正競争防止法上の要件(秘密管理性・非公知性)を充たすことで同法の保
護を受けるものを特に「営業秘密」という。
ノウハウ
営業秘密
・営業秘密に該当する場合は、不競法に基づき他人による不正取得や不正開示に対し
て差止請求及び損害賠償請求を行いうる。
・営業秘密以外のノウハウについては、専ら契約によって、その相手方との関係で保
1
護を図っていくことになる(契約違反に基づく損害賠償請求。競業避止義務もしく
は秘密保持義務の履行請求も認められる)。
・発明(特許)とは異なり内容上の制約はない。文書化されている必要はなく、有体
物(試作品、動物・細胞等)でもよい。また、営業秘密以外のノウハウについては、
公知情報の単なる寄せ集めであっても、当事者が価値を見いだす限りにおいて取引
の対象となりうる。
・保護期間に制限はない。
3
著作物(コンピュータ関係)
・法文上、思想または感情の創作的表現をいうが(法 2 条 1 項 1 号)、プログラム及び
データベースもその一種として著作権法の保護対象となり(法 10 条 1 項 9 号、12
条の 2)、他人による無断複製を中心に保護(差止及び損害賠償請求)される。
・実務上、プログラム等を取引の対象とする場合は、著作権法による保護に付加する
形で契約による新たな制限を課し、債権的保護を併用することが多い。
・内容上の制限は緩い。ただ、大前提として、アルゴリズムも含めてアイディアは保
護されず、具体的なコードのみが保護対象となる。
・保護期間は原則として著作者の死後(団体名義の著作物については公表後)50年
(事実上期限は問題にならない)。
第2
開発段階
技術を他社と共同で開発する場合や、他社に開発してもらう場合については、成果
として生ずる知的財産に関して契約で取り扱いを定めておくのが通常である。
1
関係する契約
アカデミア-企業:共同研究契約(受託研究契約)
企業-企業:共同開発契約(開発委託契約)
2
特許権および著作権
(1)開発段階の契約におけるポイント
開発成果の切り分け、帰属、利用条件をどのように取り決めるかが重要。どのよ
うな成果が生じうるか、自社としてはそれらをどのように利用したいかを、技術的
観点及びビジネス上の観点からよく検討する必要がある。例えば、
ア
各当事者が単独で創作したものは各当事者に、共同で創作したものは共有とし
た上で、単独保有のものを相互に利用許諾する。
イ
基本はアだが、自らのコア技術に着目し「但しA技術に属する成果は常にXに、
B技術に属する成果は常にYに帰属する」等とする。
2
ウ
相手のフライングを防止するために、
「B技術に関連するとXYが書面にて合意
した成果はYに属する」等というように手続的観点を加味する。
エ
特にソフトウェアの開発委託の場合は、成果がモジュールの集合となりやすく、
基本モジュールについては他にも転用が予定されるため、切り分けには特に注
意が払われる。
「成果はYに帰属するが、Xが従前より有するモジュール等に係
る権利はXに留保される」といった文言がその例。
(2)共有について
安易に共有にすると利用に制限が掛かることに注意。すなわち、共有特許権につ
いては他の共有権者の同意なくしてライセンス等を行えず(特許法 73 条 3 項)、共
有著作権についてはこれに加えて自己利用まで行えない(著作権法 65 条 2 項)。な
お、こうした事情は国によっても異なる(資料1参照)。
3
ノウハウ
物権的に構成される特許権・著作権とは異なり、営業秘密を含むノウハウは、本来
「帰属」という観念に馴染まない。開発段階の契約書で特許等とひとまとめに「成果
にかかる知的財産は全て X に帰属する」等とされることが多いが、それのみでは、Y
による利用行為に対して X が何を主張できるのか実のところは不明である。例えば:
XY の共同開発で、Y の開発した部分に係る営業秘密 A が、契約上「X に帰属する」
とされていたところ、後に Y がこれを不正に利用した。
といった例において、Y が A を「示された」(不競法 2 条 1 項 7 号。資料5参照)と
言えるか否かについては、むしろ否定説の方が有力であり、不競法との関係では「X に
帰属する」の文言は意味が乏しいことになる(契約義務との関係では Y による利用禁止
等を含意する文言と解する余地はあるが、確実なことは言えない。)
。
結論として、営業秘密を含むノウハウの開発契約においては、抽象的に「帰属」を
定めるよりもむしろ、相手方の具体的な義務(秘密保持や使用禁止、単独利用の可否
等)を定める必要がある。
3
第3
権利確保
権利を確保するための方法や注意点は知的財産の種類によって異なる。
1
特許
出願して認められることが必要。
(1)登録要件
ア
明細書及びクレームの記載要件
発明の全体を、それを読んだ同業者(「当業者」という)が再現できるように明
細書に記載し、その発明の本質部分(当該発明を従来の技術から区別せしめてい
る特徴部分)を選んでクレームを作る必要がある(資料2-1)。
イ
特許要件(内容上の要件)
「発明」該当性、産業上の利用可能性、新規性、進歩性、先願との非同一、等を
満たす必要がある。
ウ
審査基準
上記要件の適用の実際(審査および侵害訴訟)に関する最良の資料は、特許庁
が HP 他で公開する「特許・実用新案審査基準」である。
(2)ポイント
出願内容については弁理士と相談しながら進めるしかないが、それ以前の段階での
新規性喪失に注意(出願前に営業部が試作品を配ってしまった等)。
(3)出願契約
権利確保それ自体に関して契約の役割は大きくない。但し、出願関連費用が嵩む
ことが多いため、共同開発の場合は、共同開発契約や別途共同出願契約等で出願国
や出願費用負担等に関する取り決めを行うのが通常。
2
ノウハウ
出願は不要だが、秘密管理体制の構築と、適切な契約処理が必要である。
(1)営業秘密
ア
要件
判例上、不正競争防止法上の「営業秘密」に該当するためには、有用性、非公
知性、秘密管理性の3つを備える必要があり(不競法 2 条 6 項。なお、この3要
件は世界的に共通する。)、うち秘密管理性については判例上次のように整理され
ている(管理車両一覧表事件、東京地裁平 12.12.7 他)。
①当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識でき
るようにしていること(営業秘密の認識可能性)
②当該情報にアクセスできる者が限られること(アクセス権者の限定)
イ
権利確保のためのポイント
4
上記の次第で、自社内での秘密管理を厳格に行うことが必要であるのはもちろ
ん、第三者に開示する場合や、アクセスを有していた従業員が退職する際にも
秘密保持契約等を締結する等、契約を駆使した総合的な秘密管理体制の構築が
必要である。さらには第三者に開示する場合は、当該開示先に対しても同様の
秘密管理体制の構築を義務付けることが望ましい(詳しくは経産省制定に係る
「営業秘密管理指針2010年改訂版」、及び同指針添付の「営業秘密を適切に
管理するための導入手順について」参照。いずれも経産省の HP から DL 可能で
ある。)。
(2)営業秘密以外
営業秘密以外のノウハウについても、流出阻止の内部措置を講ずる他、契約で外に
出す場合は相手方に効果的に契約責任を課すことを考慮する。対象の特定、秘密保
持義務、使用目的の制限等がポイントとなる。
3
著作権
(1)登録
プログラムの著作権はプログラム完成と同時に無方式で発生するが、登録してお
くと(財団法人ソフトウェア情報センターに複製物を提出して行う)著作者や作成
年月日の推定を受けることができ、訴訟に際して立証が相当容易になる。完成から
6ヶ月以内に行う必要がある(以上、著作権法 76 条の 2 他)
(2)契約
ア
契約によって、著作権法上は問題とならない行為について、これを禁止するこ
とが可能であり、かつ日常的に行われている。例えば、プログラムのライセンスに
おいて、特定端末以外での使用の禁止を定める例があるが、著作物の使用はそもそ
も著作権者の許諾を要しないので、これは純粋に契約の効果に過ぎない。
イ
なお、コンシューマソフトの分野ではシュリンクラップやクリックラップとい
った契約手法が頻用され、その効力如何がしばしば問題となるが、企業間のソフ
ト開発委託等に際しては、(当然ながら)正式契約書を交わすことが重要である。
5
第4
許諾
保有する知的財産は、自ら利用する他、第三者に利用を許諾することにより収益を
図ることができる。どのような場合に、どのような形で許諾を行うかは、基本的に契
約自由の原則に委ねられる。
1
一般的な契約の流れ
技術を評価する目的に限定されたNDA(秘密保持契約)やMTA(試料移転契約)
を経て、ライセンス契約に移行することが多い。
2
契約のポイント
(1)特許
(他人に利用権限を与える方法としては専用実施権設定もあるが、これはむしろ譲
渡に近い。以下ではより一般的な通常実施権許諾の場合について述べる。)
ア
許諾内容
ある特許の権利内容の全てを許諾する必要はない。
・独占、非独占の別
・分野限定、地域限定(実施地域、あるいは独占権を与える地域等)
・再実施許諾の有無(何も書かないと再実施許諾権なし。明文はないが当然視
されている。あえて言うと無断転貸を禁ずる民法 612 条。)
イ
無効等の場合の対価不返還
ウ
改良発明等の扱い
対象発明の実施に伴って得られた改良発明等の切り分け、帰属、利用条件等に
ついて共同開発契約と同じ問題が生ずる。上手く権利や実施権を確保しないと、
外堀を埋められて事実上自己実施も困難となる。
もっとも、ライセンサーへの無条件の譲渡等を義務付けてしまうと、後述の独
禁法違反となる可能性が高い。
エ
非保証
ライセンスは賃貸借や売買に似るため、法律上一定の品質保証が要求されるこ
とが多い(日本だと瑕疵担保責任、米国各州でも UCC の「売買」に相当し、商品
性や目的適合性の黙示保証が適用されると理解されている)。
それゆえ、特許が無効理由を含まないこと、実施に第三者の特許の実施を要さ
ないこと、特定目的への適合性等々、保証したくなければ積極的に契約で定めて
おくのが無難である。
オ
補償
カ
独禁法との関係
特許権の行使それ自体は独禁法違反とはならないが、権利の行使とみられても
6
競争秩序に与える影響を勘案して、知的財産保護制度の趣旨や目的を逸脱すると
認められるような場合(特許の許諾にあたって、その強い立場を利用して不当な
条項を入れる等)は、独禁法違反となる可能性がある。
詳しくは、公正取引委員会制定の「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指
針」(資料3として一部を抜粋する)、同指針の補足である「標準化に伴うパテン
トプールの形成等に関する独占禁止法上の考え方」、「共同研究開発に関する独禁
法上の指針」等を参照されたい。
(2)ノウハウ
開示とセットでライセンスが行われる。
契約の名前は様々でありうる(前述の MTA
等もノウハウライセンスの一種として用いられる。)。特許ライセンスに付随して、
その一部としてなされることもある。
最大のポイントは、相手方に対する(秘密管理体制の構築まで含めた)秘密保持
の義務付けである。その他、上記特許について述べたウ、エ、オ、カは、ノウハウ
ライセンスでも同じく留意点となる。特にウの改良技術の取り扱いについては特許
の場合よりもさらに注意が必要である。理由は開発段階でのノウハウの扱いについ
て述べたことと同じで、単に「帰属」を定めるだけでは足りず、何から何まで契約
で定めておく必要があるためである。
(3)著作権
特許同様に利用許諾を行いうる。許諾内容の特定に関しては、複製の制限、改変
(翻案)の可否等がポイントとなる。その他、特許について述べたウ(改変を許す
場合の改変プログラム(原プログラムの二次的著作物)に係る権利の帰属)、エ、オ、
カはプログラムライセンスにも妥当する。
なお、ソースコードとオブジェクトコードは法的には同一の著作物(どちらも「そ
のプログラム」)と扱われるが、ライセンシーに後者の利用のみ許諾することは可能
であり、実際それが通例である。
また、プログラムのライセンスを受けるに際しては、当該プログラムを構成する
各モジュールの上にライセンサー以外の複数人の権利が存在する場合があるので、
その処理にも注意を要する(保証を受ける等)
。殊にいわゆるオープンソフト系ライ
センス(GPL等)に基づき転々開発されたモジュール等が含まれる場合、ソース
コードを開示しないと頒布できないといった制約を引き継ぐ可能性がある。
7
第5
行使
第三者が無断で知的財産を利用した場合、あるいはライセンシーが許諾の範囲を越
えて対象知的財産を利用した場合、差止や損害賠償等の権利行使を行うことになる。
1
特許
特許紛争の争点は、大雑把にいうと、侵害論、無効論、損害論の3つに分かれる。
(1)侵害論
特許のクレーム(特許請求の範囲)の記載に該当するか否かを、一つ一つの構成
要件に当てはめて検討する。権利範囲はクレームによって決まり、明細書(発明の
目的や構成、効果を詳しく解説した部分)の記載によって直接限定されるわけでは
ない(但し、明細書の記載は不明瞭な文言の解釈における参照資料にはなる)。
(2)無効論
被告は、大抵の場合、問題の特許には無効原因が含まれると抗弁する。この争点
(無効論)との関連で、特許侵害訴訟は典型的には次のような経過を辿る。④と⑤
のように特許の有効性判断が裁判所と特許庁の 2 カ所で独立に審理されるのが「ダ
ブルトラック」問題で、特許侵害訴訟が長引く大きな原因となっている(フルに戦
うと4、5年かかることもある。)
。
①警告書の送付
②ライセンス交渉
③特許侵害訴訟提起(一審は東京・大阪地裁、控訴審は知財高裁の専属管轄)
④被告による特許無効の抗弁提出(資料2-2、2-3参照)
⑤同時に被告による特許庁への特許無効審判請求
⑥裁判所は⑤の結果を待たずに④を独自判断できる。ただ、この無効の抗弁が通
り被告が勝訴した場合でも、特許庁は⑤で独自判断が可能であり、特許維持と
なる場合がある。もっとも、同じ特許のままでの再訴は民訴法上不可能である
から、原告は特許庁に訂正審判を請求し、訂正が通れば原告はこれで再訴する。
⑦一方、⑤の無効審判の結果に対し、負けた方が審決取消訴訟を提起する。これ
が審決の取り消しかつ特許無効の方向で確定すれば、戻った無効審判の中で原
告が訂正請求し、訂正後のクレームで特許維持となれば、以後、当該新クレー
ムによる審理のやり直しとなる(その時点で無効抗弁を理由に判決が確定して
いれば原告再訴である。
)。
(3)損害論
侵害から発生した損害の額の立証を助けるため、侵害者が売った数量×自身の販売
で得られるはずであった単価利益(特許法 102 条 1 項)や、ライセンス料相当額(同
3 項)を損害額と推定しうることが法定されている。
8
2
ノウハウ
(1)営業秘密
不競法上、以下の類型がある(資料4、5参照)。効果は差止請求と損害賠償請求
である。なお、比較の趣旨で、米国の統一トレード・シークレット法(モデル法)の
抜粋を資料6として添付する。
・不正取得行為型(不競法 2 条 1 項 4~6 号)
・不正開示行為型(不競法 2 条 1 項 7~9 号)
(2)それ以外
契約の相手方(共同開発者やライセンシー)に対し、契約責任(秘密保持・目的
外使用禁止・競業避止等)の履行と損害賠償を請求できる。
3
著作権
著作権侵害類型の他、純粋な契約類型がありうるのはノウハウと同じである。
プログラムの著作権侵害を理由とする際には、通常は、複製権、翻案権の侵害を理由
とすることになるが、以下のようなハードルがある。
①複製・翻案については、判例上、原告の側で当該著作物への「依拠」の立証が必要
とされており、偶然似てしまった場合は侵害にならない。
②著作権という権利の性質上、アイディアではなく(ましてやプログラムの有する機
能ではなく)具体的なコードレベルでの模倣が必要であるところ、ソースコード
を入手することなくこれを立証することは難しい。
9
第6
国際契約及び国際紛争
知的財産に関して国際紛争が生じた場合、国際管轄や適用法如何の問題が生ずる。統
一的な国際ルールが未確立であり、現状では原告が訴訟提起した国の裁判所がそれぞれ
のルールで判断しているため、予めの予測は難しく、同一事件に関する裁判が複数の国
で並走するという自体も生じうる。以下、差しあたり日本の場合について述べる。
1
単純な侵害の場合
(1)特許
各国特許法は域外適用規定を持たないのが通常なので、適用法は侵害行為が為さ
れた国の特許法となり、裁判もその国で行われるのが普通である。その背景には、特
許権の付与手続、及び、内容は各国が独自に決定でき権利の効力は当該国の領域内に
のみ及ぶとの属地主義という伝統の考え方がある。
ただ、諸般の事情で、行為地以外の国の裁判所に、行為地以外の国の適用を主張
して訴訟が提起される場合もある。日本ではカードリーダー事件がリーディング判例
であり、日本での行為に対する米国特許法の域外適用条項(271 条(b))に基づく差
止請求と損害賠償請求が問題となった。最高裁(平 14.9.26 は、結論として、いずれ
の請求についても、米国法が準拠法となること自体は認めつつ、同条項に基づく請求
の認容は、日本特許法の採用する属地主義に反すること等を理由として、これを否定
した。
(2)営業秘密
営業秘密侵害の国際管轄・適用法については、曲がりなりにも属地主義的理解の伝
統がある特許権や著作権の場合以上に、世界的に議論が固まっていない。
日本の場合、国際管轄に関しては、一般原則に従い、当事者間の公平や裁判の適正・
迅速の理念により条理にしたがい決定され、具体的には民事訴訟法上の裁判籍が日本
にある場合は、当事者間の公平等の理念に反する特段の事情がない限り日本に管轄権
があるとされる(最判昭 56.10.16、最判平 9.11.11)。
一方、適用法については、営業秘密侵害を不法行為と性質決定した上で「法の適用
に関する通則法」17 条(旧法令 11 条 1 項)を適用し、行為地ないし結果発生地の法
とする考え方が優勢であったが、その後、差止請求に関し通則法 17 条の適用はなく、
条理によって決定すべきとした知財高裁決定(平 17.12.27。中国内の行為に関する日
本企業同士の紛争に日本法を適用)が出現し、今後の予想が難しい状況にある。
(3)著作権
特許の場合と同様争いはあるものの、
「(著作物の)保護の範囲及び…救済の方法は
…専ら、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる」とのベルヌ条約5条
2項を根拠に、著作権侵害は、専ら侵害行為が行われた国の裁判所において、当該国
の著作権法を適用して争われると理解するのが一般的立場であると一応言える。
10
但し、こうした立場に立った場合でも、サーバへのアップロードを伴う事案等、行
為地を特定するのが難しい場合がままある(行為地の特定方法についての国際的なコ
ンセンサスが固まっていない)。
2
契約が関係する場合
ライセンシーがライセンス解除後に実施し続けた場合のように、契約当事者間で知財
侵害が問題となる場合もある。こうした場合、元の契約に管轄や準拠法の指定がなさ
れていることが多い。
指定がなされている場合、管轄であれ、準拠法であれ、裁判所は当事者合意を尊重す
るのが一般である。但し、特許権や著作権が絡む事案では、各国特許法等を公法的秩
序と捉え、これを当事者合意よりも優先する国も多いと思われる。その結果、ある紛
争において、契約の成立はカリフォルニア法、実体的な侵害は日本の特許法というよ
うに、複数の法律が適用されることにもなりうる。
11
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