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博士学位論文 一方向 CFRP の強度信頼性確保のための 材料特性試験法確立に関する研究 2014年3月 金沢工業大学 大学院工学研究科 高信頼ものづくり専攻 博士後期課程 奥屋 嗣之 指導教員 宮野 靖 教授 一方向 CFRP の強度信頼性確保のための 材料特性試験法確立に関する研究 目 次 頁 第1章 緒 1 論 1.1 構造強度部材としての CFRP の利点 2 1.2 CFRP の利点を活かした構造設計における課題 2 1.3 CFRP の長期信頼性に関わる研究の動向 5 1.4 まとめ 9 10 参考文献 第 2 章 一方向 CFRP 繊維方向静的強度の評価試験法確立 12 2.1 はじめに 13 2.2 供試材および試験装置 13 2.3 接着組立式 CFRP ストランド試験片による静的強度評価 15 2.4 一体成形式 CFRP ストランド試験片による静的強度評価 18 2.5 まとめ 25 26 参考文献 第3章 一方向 CFRP 繊維方向静的強度の温度依存性予測 27 3.1 はじめに 28 3.2 一方向 CFRP 繊維方向静的強度の温度依存性予測法 28 3.3 一体成形式 CFRP ストランド試験片による温度依存性予測法の検証 31 3.4 まとめ 34 36 参考文献 第4章 一方向 CFRP 繊維方向の統計的クリープ破断時間予測 37 4.1 はじめに 38 4.2 一方向 CFRP 繊維方向クリープ破断時間の統計的予測法 38 4.3 一体成形式 CFRP ストランド試験片による統計的クリープ破断時間予測法の検証 42 4.4 まとめ 47 49 参考文献 第5章 結 51 論 本論文に引用した著者の研究論文 54 著者が開発した CFRP ストランド試験片専用試験装置 55 謝辞 58 ⅰ 主 s 要 記 号 :ストランドの破断応力 Pmax:ストランドの破断荷重 te :ストランドの繊度 :ストランドの密度 σs :繊維方向静的強度 Gm:マトリックス樹脂の剪断弾性率 α :ワイブル分布における形状パラメータ β :ワイブル分布における尺度パラメータσ0 L :CFRP ストランドの長さ B :CFRP ストランドの惰円形断面の幅 H :CFRP ストランドの高さ Ef :炭素繊維のヤング率 Vf :CFRP の炭素繊維体積含有率 ε :動的粘弾性試験における振幅 tr :動的粘弾性試験における周期 P :動的粘弾性試験における反力 T :温度 t :時間 Pf :破壊確率 σs :静的強度 σ0 :静的強度のワイブル分布における尺度パラメータ nR :静的強度の粘弾性特性に関わる材料定数 D* :時間温度履歴に対する粘弾性コンプライアンス Dc :初期のクリープコンプライアンス KR :静的強度および引張クリープ破断応力の粘弾性領域における対数時間勾配 mR :長時間領域における粘弾性コンプライアンスの耐数時間勾配 ii 第 1 緒 章 論 1 炭素繊維強化プラスチック(以下,CFRP と記す)の利点を活かした構造設計を行うためには,長 期信頼性を確保するために必要な設計データを取得することが不可欠である.本研究は,もっとも基 本的な設計データである一方向 CFRP の繊維方向強度に関する材料特性試験法の確立を図ったもので あり,その位置付けを以下に述べる. 1.1 構造強度部材としての CFRP の利点 構造部材としての CFRP の最大の利点は,一般的な構造部材である鉄鋼材料と比較し比重が約 1/5 と軽く,かつ剛性や強度が高いことである.剛性や強度を比重で除した比剛性や比強度が高いことは, 構造体を軽量化し機械装置の省エネルギー化を図ることができるばかりでなく,高速化や高性能化を 図ることができる.このような観点から金属材料においても,高強度合金鋼や高強度軽金属合金であ るアルミニウム合金やチタン合金等が航空宇宙用途,高速回転体用途等のために開発が続けられてき た.比強度に着目して体表的な高強度合金鋼,アルミニウム合金およびチタン合金と CFRP を比較 すると表 1.1-1 に示す通りであり,CFRP の優位性が際立っている (1~7) . 表 1.1-1 高強度材料の比強度 種別 アルミ合金 チタン合金 MPa/(g/cc) SNCM616 151 SUS630 166 マルエージング鋼 278 A7075 204 Weldalite 049 277 Ti-6Al-4V 264 Ti-10V-2Fe-3Al 267 Ti-6Al-6V-2Sn 271 高強度合金鋼 CFRP 比強度 材質 トレカ T800 Vf=50% 1 方向配列 1,716 2 方向配列 858 3 方向配列 572 1.2 CFRP の利点を活かした構造設計における課題 CFRP の利点を活かした構造設計を行うためには,以下の点を十分に理解して設計に取組む必要が ある. (1)金属材料と CFRP 材料の違い 金属材料はほぼ等方性の材料であり外力負荷に対して均等な発生応力となるように構造の最 適化を図ることができるが,CFRP は極端に異方性のある材料であり,繊維方向と繊維直角方向 の物性と強度が全く異なるため,金属材料の設計手法を踏襲することはできない.構造部材の設 計を行う場合, 素材の材質,形状,加工法や接合法を念頭において最適設計を行うことになるが, 2 金属材料と CFRP では表 1.2-1 に示すような違いがあり,この違いを十分に理解した上で設計 する必要がある. 表 1.2-1 金属材料と CFRP の特徴 項 目 CFRP 金属材料 1.材質 選択した材質により物性と強度が 決まる. 2.形状 炭素繊維の組合せと層構成により物 性と強度を調整することができる. 形状により物性および強度が大幅 成形可能な形状の制約が大きく,繊 に変わることはなく,発生応力の均 維方向の物性および強度を活かした 3 等化による形状の最適化が可能. 3.加工法 素材を機械加工しても特別な使用 次元的な形状とすることはできない. 炭素繊維を切断すると強度が低下す 環境でない限り強度の低下が問題 るため,可能な限り成形品を機械加工 となることはほとんどない. 4,接合法 ボルト締結,溶接等の接合方法に しない構造とする必要がある. 繊維直角方向の強度が低いため,可 対して接合部の強度を見込んだ設 能な限り一体成形可能な構造とし簡単 計が可能. な接合構造とする必要がある. 更に,製品の長期信頼性を左右する材料特性に関し,金属材料と CFRP では表 1.2-2 に示すよ うな違いがあり,この違いを十分に理解した上で設計する必要がある. 表 1.2-2 金属材料と CFRP の材料特性の違い 項 目 1.静的強度 CFRP 金属材料 一般的な構造部材として使用され 樹脂の粘弾性特性による応力緩和 る延性材の場合,ネジ,穴等の応力 は生じるが,繊維方向は脆性的な破断 集中部で局部的に塑性変形しても 様式であり,応力集中部で許容応力を 全体破断に繋がらず許容できる. 2.クリープ 応力集中部の結晶粒界に転移が集 超えると全体破断に繋がる. マトリックス樹脂の粘弾性特性に 積して粒界割れを起こし,クリープ より繊維直角方向はクリープ変形し, 破断する場合がある. 繊維方向は炭素繊維の損傷が伝播し てクリープ破断する. 3.疲労 交番荷重により材料欠陥,傷等で 交番荷重により炭素繊維の損傷が 亀裂が進展し応力拡大係数が破壊 累積し強度が低下して破断する. 靭性値を超えると破断する. (2)使用材料の選定 炭素繊維には多くの種類があり,原料の違いによって PAN 系とピッチ系に大別されるが,そ の機能上の違いによっていくつかのタイプに分類される.高弾性材および高強度材とその中間的 3 な材料である.代表的な炭素繊維の機能分布は図 1.2-1 に示す通りであり(8),構造部材に要求さ れる機能毎にいくつかの種類を選定し,繊維配向と層構成の最適化を図ることになる. 図 1.2-1 炭素繊維の機能分布 (3)設計用データの取得 初期の構造設計を行うに際しては,材料メーカーが提示している炭素繊維単体の物性や機械的 特性のデータおよび一般的なエポキシ樹脂の特性データを用いて,炭素繊維含有率を仮定し複合 則を用いて必要な設計用データを推定することになるが,最終的に繊維配向および層構成の最適 化を図る上で CFRP としての設計用データを取得する必要がある.設計上特に重要なデータは, 製品の長期信頼性に関わる材料特性データであり,製品開発における位置付けは図 1.2-2 に示す 通りである. 4 図 1.2-2 CFRP 製品開発における材料特性試験の位置付け CFRP の利点を活かした構造設計における課題は設計データの取得であり,特に製品の長期信 頼性に関わる材料特性データの取得が重要である. 1.3 CFRP の長期信頼性に関わる研究の動向 CFRP は金属に比べて軽量かつ高強度・高剛性で大きな部材の一体成形が可能であることから,特 に近年は厳しい使用環境下で高い信頼性が要求されるような航空機や自動車などの一次構造部材に 適用されてきている.しかしながら,長期耐久性を正確に予測する技術がないため,過大な安全率の 適用により,CFRP の特徴を十分に活かした設計が行われていない.CFRP のマトリックス樹脂の機 械的特性は時間や温度により著しく変化するいわゆる粘弾性挙動を示す.したがって,これをマトリ ックスとする CFRP の機械的特性も時間や温度によって変化する (9~13).CFRP の長期信頼性予測に 関する主な研究の動向は,以下とおりである. (1)繊維直角方向のクリープ変形 繊維直角方向のクリープ変形に関するものとしては時間・温度換算則により長期クリープ変形 を予測する方法がある.宮野(13)らにより,温度をパラメータとした短時間のクリープ試験によ り得られるクリープコンプライアンスカーブを対数時間軸に対して,横移動して所定の温度にお けるクリープコンプライアンスのマスターカーブを作成する基本的な手法が提案された.クリー プコンプライアンスのマスターカーブ作成の概要を図 1.3-1 に示す. 5 図 1.3-1 クリープコンプライアンスのマスターカーブ作成の概要 この時間・温度換算則における対数時間横移動量 logaT0(T)は,絶対温度の逆数に対して線形 性を有し,化学反応におけるアレニウスの式で表現することができる. log aT 0 (T ) H 1 1 2.303G T T0 (1.3-1) ここで, aT0:時間・温度移動因子 ΔH:ガラス状領域および粘弾性領域における活性化エネルギー G:気体定数(8.314×10-3[kJ/(K・mol)]) T:測定温度,T0:基準温度 宮野ら(14)は更に,長期クリープ変形の予測精度の向上を図るため,クリープ変形による対数時 間の横移動に加えて,温度変化による対数クリープコンプライアンスの縦移動を行う修正時間・ 温度換算則を提案した.これらの研究成果を受けて時間・温度換算則による長期クリープ変形の 予測法が定着化し,クリープ変形の温度加速試験における加速条件を決める材料物性としてアレ 6 ニウスの式における活性化エネルギーΔH が広く活用されるようになった. (2)繊維方向静的強度の時間温度依存性 繊維方向静的強度の環境依存性および時間・温度依存性のイメージを図 1.3-2 に示す. 図 1.3-2 繊維方向強度の環境依存性および時間・温度依存性のイメージ 繊維方向の時間温度依存性に関しては,信頼性のある強度試験法の確立が課題であり,解析的 な研究は多いが,実験的な実証研究はいまだ少ない (15~17) .宮野らは,弾性体マトリックスを 用いた一方向繊維強化複合材料に対するローゼンの解析結果 (18)を,粘弾性体マトリックスを用 いた一方向 CFRP に拡張した予測法(19)およびこの予測法を基に CFRP の応力負荷履歴に対する 破断応力の統計的予測法(20)を提案した.これらの予測法の詳細は第 3 章および第 4 章で述べる が,実証的な研究が少ない原因は,実証試験の基本となる繊維方向静的強度の試験が難しいこと であり,繊維方向強度が寿命を支配する圧力容器,回転体等においては,信頼性の高い繊維方向 静的強度の試験法確立が急務である.現状の繊維方向静的強度試験の課題を図 1.3-3 に示す. 7 図 1.3-3 現状の繊維方向静的強度試験の課題 一方向 CFRP 積層板による繊維方向静的強度試験においては,試験片の機械加工による強度低 下が避けられないことや疲労試験や高温での試験の際につかみ部の応力集中により,著しい強度 低下が生じる問題がある.樹脂含浸炭素繊維ストランド(以下,CFRP ストランドと記す)によ る繊維方向強度試験においては,成形品をそのまま使うことができるので機械加工による強度低 下が防止できるが,破断荷重の大きいストランドの場合,つかみ部の接着強度不足が問題となる. 繊維方向静的強度試験における試験片の構造に起因する強度低下が製品の強度設計に与える影 響は大きく,フライホイール蓄電器を例にとって材料試験結果の強度低下とバラツキが強度設計 に与える影響を表 1.3-1 に示す. 8 表 1.3-1 静的強度試験結果の強度低下とバラツキが強度設計に与える影響 材料そのものの平均強度を基準としてそのバラツキが 3%の時,材料試験結果の平均値が 90% でバラツキが 6%であったとすると,発生する応力の許容値を強度の平均値-標準偏差の 3 倍と した時,製品性能である蓄電量は材料本来の性能を活かした設計に対して 79%に低下すること になり,材料試験の信頼性が極めて重要であることがわかる. 1.4 まとめ 本研究の狙いは,CFRP の利点を最大限に活かした構造設計を行うに際して,製品の長期信頼性を 確保する上で最も基本的な繊維方向静的強度に関する設計データを取得するための材料特性試験法 の確立を図ることである.そのため,一方向 CFRP について繊維方向静的強度の評価試験法の確立, 温度依存性の予測法の検証およびクリープ破断時間の統計的予測法の検証を行った(21-23). 9 参 考 文 献 (1) JIS G 4053 機械構造用合金鋼鋼材 (2) JIS G 5121 ステンレス鋼 鋳鋼品 (3) 株式会社特殊金属エクセルホームページ http://www.tokkin.co.jp/materials/others/000110.php (4) JISH4000 アルミニウム板およびアルミニウム合金板 (5) SubsTech ホームページ http://www.substech.com/dokuwiki/doku.php?id=properties_of_aluminum_alloys (6) JIS60 種チタン合金 (7) 東レ株式会社炭素繊維カタログ (8) 炭素繊維協会ホームページ http://www.carbonfiber.gr.jp/index.html (9) Sullivan, J. Creep and Physical Aging of Composites, Composite Science and Technology, 39: 207-232 (1990) (10) Gates, T. “Experimental Characterization of Nonlinear, Rate Dependent Behavior in Advanced Polymer Matrix Composites”, Experimental Mechanics 32: 68-73 (1992) (11) Miyano, Y., McMurray, M.K., Enyama, J. and Nakada, M. “Loading Rate and Temperature Dependence on Flexural Fatigue Behavior of a Satin Woven CFRP Laminate”, Journal of Composite Materials 28: 1250-1260 (1994) (12) Miyano, Y., Nakada, M., McMurray, M.K. and Muki, R. “Prediction of Flexural Fatigue Strength of CFRP Composites under Arbitrary Frequency”, Stress Ratio and Temperature, Journal of Composite Materials 31: 619–638 (1997) (13) Miyano, Y., Nakada, M. and Cai, H. “Formulation of Long-term Creep and Fatigue Strengths of Polymer Composites Based on Accelerated Testing Methodology”, Journal of Composite Materials 42: 1897–1919 (2008) (14) Nakada, M., Miyano, Y., Cai, H. and Kasamori, M. “Prediction of Long-term Viscoelastic Behavior of Amorphous Resin Based on the Time-temperature Superposition Principle”, Mechanics of Time-Depend Materials 15:309-316 (2011) (15) Miyano, Y., Nakada, M., McMurray, M.K. and Muki, R. “Prediction of Flexural Fatigue Strength of CFRP Composites under Arbitrary Frequency, Stress Ratio and Temperature”, Journal of Composite Materials 31: 619-638 (1997) (16) Miyano Y, Kanemitsu M, Kunio T. and Kuhn H. “Role of Matrix Resin on Fracture Strengths of Unidirectional CFRP”, Journal of Composite Materials 20: 520-538 (1986) (17) Christensen, R. and Miyano, Y. “Stress Intensity Controlled Kinetic Crack Growth and Stress History Dependent Life Prediction with Statistical Variability”, International Journal of Fracture, 137: 77-87 (2006) 10 (18) Rosen, B.W. “Tensile Failure of Fibrous Composites”, AIAA Journal, 2: 1985-1994 (1964) (19) Nakada, M., Miyano, Y., Kinoshita, M., Koga, R., Okuya, T. and Muki, R. “Time-Temperature Dependence of Tensile Strength of Unidirectional CFRP”, Journal of Composite Materials, 36: 2567–2581 (2002) (20) Nakada, M. and Miyano, Y. “Advanced Accelerated Testing Methodology for Long-Term Life Prediction of CFRP Laminates”, to be published in Journal of Composite Materials. (21) Okuya, T., Nakada, M. and Miyano, Y. “Reliable Test Method for Tensile Strength in Longitudinal Direction of Unidirectional CFRP”, Journal of Reinforced Plastics and Composites. 32-21 (2013) (22) Okuya, T., Nakada, M. and Miyano, Y. “Temperature Dependent Tensile Strength in Longitudinal Direction of Unidirectional CFRP”, to be published in Journal of Composite Materials. (23) Nakada, M. and Miyano, Y. “Advanced Accelerated Testing Methodology for Long-Term Life Prediction of CFRP Laminates”, to be reviewed in Advanced Composite materials. 11 第 2 章 一方向 CFRP 繊維方向静的強度の 評価試験法確立 12 2.1 はじめに CFRP は金属に比べて軽量かつ高強度・高剛性で大きな部材の一体成形が可能であることから,と くに近年は厳しい使用環境下で高い信頼性が要求されるような航空機や自動車などの一次構造部材 に適用されてきている.しかしながら,長期耐久性を正確に予測する技術がないため,過大な安全率 の適用により,CFRP の特徴を十分に活かした設計が行われていない.CFRP のマトリックス樹脂の 機械的特性は時間や温度により著しく変化するいわゆる粘弾性挙動を示すため,CFRP の機械的特性 も時間や温度によって変化する(1-6).そのため,CFRP を構造物として実環境下で長期にわたり使用 する際には,これらの時間や温度により変化する強度およびそのバラツキを正確に評価する必要があ る.CFRP の基本特性である一方向 CFRP の繊維方向静的強度を把握するためには,短冊形試験片 による静的強度試験法が一般的に用いられるが,試験片を機械加工することによる強度低下や試験片 のチャッキング部での応力集中による強度低下が起きる.さらに,タブとの接着強度が不十分でタブ 内で試験片の滑りが発生することや試験部で縦割れを伴う破壊が生じ,純粋な引張破壊であるかどう かの判定は難しく,信頼性の低い試験結果になる.そこで,信頼性の高い一方向 CFRP の繊維方向 静的強度試験を行い,かつその強度特性を正確に評価する方法を確立する必要がある.著者ら(7-9)は, 一方向 CFRP の繊維方向静的強度試験として成形品をそのまま使用でき機械加工による強度低下が 問題とならない CFRP ストランド静的強度試験法に着目し,恒温環境下での強度特性を正確に評価 する手法について検討してきた. 近年,フィラメント数が大きい高強度炭素繊維ストランドが市場に登場してきた.このような破断 荷重が大きい高強度炭素繊維ストランドの場合,従来の CFRP ストランドとタブの接着組み立て式 の試験片では,接着力が不足しタブ内ですべりが生じる問題があった.このため,本研究では CFRP の構造体として最も信頼性が高いとされている一体成形式の試験片を用いて接着力の強化を図ると ともに,試験片成形時の強度低下要因の対策を行って信頼性の高い試験法の確立を図った(10). 2.2 供試材および試験装置 (1)供試材 繊維方向静的強度の評価試験に用いる CFRP ストランドの材質および成形装置の概要を Table 2.2-1 および Figure 2.2-1 に示す. Table 2.2-1 Carbon fiber strand and resin system Carbon fiber strand T300-3000 T800-12000 Composition of resin (weight ratio) Cure schedule Epoxy: jER828 (100) 100oC×5h Hardener: MHAC-P (103.6) + 150oC×4h Cure accelerator: 2E4MZ (1) + 190oC×2h 13 Figure 2.2-1 Configuration of winding machine for resin-impregnated carbon fiber strand T300-3000 は炭素繊維が産業用途として広く使用されるようになった当初の代表的な炭素繊維 であり,T800-12000 は近年高強度炭素繊維として広く使用されるようになったものである.マト リックス樹脂は汎用の熱硬化型エポキシ樹脂であり,ガラス転移温度は約 160℃である.CFRP ストランド成形品の炭素繊維体積含有率は約 50%であり,直径および長さは約φ1mm および 310mm である. (2)試験装置 静的強度の評価試験には,CFRP ストランド試験片専用の万能引張試験機を使用した.試験機の 外観およびストランド試験片装着部の構造を Figure 2.2-2 に示す. 14 Figure 2.2-2 Universal tensile testing machine for CFRP strand specimen 樹脂ストランド試験片の中央部に恒温槽を設け,高温での強度試験を行う際にタブの接着強度が 低下することを防止する構造である.樹脂ストランド試験片の破断応力σs は,マトリックス樹 脂の強度が無視できることから,破断荷重 Pmax,ストランドの繊度 te および炭素繊維の密度ρ から以下の式で算出することができる. s Pmax te (2.2-1) 静的強度の評価試験は,2mm/min の低ひずみ速度引張試験を行い,試験温度はタブの接着強度 が十分であるかどうかを評価するかため室温とした. 2.3 接着組立式 CFRP ストランド試験片による静的強度評価 接着組立式 CFRP ストランド試験片の構造を Figure 2.3-1 に示す. 15 Figure 2.3-1 Structure of post-bonded CFRP strand specimen ストランド成形品両端の扇形部に,逆テーパ形状のスリットを設けた板と両側を挟む押え板で構成 されるタブを接着し,ストランドのタブ抜けを防止する構造である.接着組立式 CFRP ストランド 試験片を用いた T300-3000 および T800-12000 の静的強度評価試験結果を Table 2.3-1 および Figure 2.3-1 に示す. Table 2-3-1 Static test results for post-bonded CFRP strand specimen Strength CV value Toray catalog data (MPa) (%) (MPa) T300-3000 3,514 2.99 3,530 T800-12000 5,143 9.58 5,490 Carbon fiber strand 16 (a) T300-3000 (b) T800-12000 Figure 3-2-2 Load–elongation diagrams for post-bonded CFRP strand specimen T300-3000 の場合,荷重伸び線図においてタブ内での滑りが若干認められるが,静的強度のバラツ キは小さく安定した試験結果が得られた.T800-12000 の場合,荷重伸び線図においてタブ内での滑 りが多く認められ,静的強度のバラツキが大きいため安定した試験結果が得られなかった. T800-12000 の破断荷重は T300-3000 の 3 倍以上であり,ストランドとタブの接着強度が不足して いるものと考えられる. 17 2.4 一体成形式 CFRP ストランド試験片による静的強度評価 (1)接着強度不足対策 接着組立式 CFRP ストランド試験片のストランドとタブの接着強度不足を対策するためストラ ンドとタブを一体成形することにした.一体成形式 CFRP ストランド試験片の構造を Figure 2.4-1 に示す. Figure 2.4-1 Configuration of co-cured CFRP strand specimen 溝付きのタブ①に樹脂を含浸したストランドを巻付け,歯付きのタブ②で挟んで一体成形する構 造である.一体成形式 CFRP ストランド試験片の成形および組立の状況を Figure 2.4-2~2.4-5 に示す. 18 Tab① Figure 2.4-2 Winding frame with Tab① Figure 2.4-3 Hand-winding of strand to winding frame 19 Tab② Figure 2.4-4 Assembling Tab② to winding frame before curing Bolt Figure 2.4-5 Bolt fastening between Tabs① and ② after curing. 巻付け冶具に溝付きのタブ①を取り付け,樹脂を含浸したストランドを手動で巻付ける.巻付け 後,歯付きのタブ②を取り付け,恒温槽で加熱硬化する.加熱硬化後,試験片を巻付け冶具から 取外し,タブ①とタブ②の間をボルトで締結する. 一体成形式 CFRP ストランド試験片を用いた T300-3000 および T800-12000 の静的強度評価試 験結果を Table 2.4-1 および Figure 2.4-6 に示す. 20 Table 2.4-1 Static test results for co-cured specimen Carbon fiber strand Toray catalog data Strength (MPa) CV value (%) T300-3000 3,216 7.93 3,530 T800-12000 5,211 6.75 5,490 (MPa) (a) T300-3000 (b) T800-12000 Figure 2.4-6 Load–elongation diagrams for co-cured CFRP strand specimen 一体成形式 CFRP ストランド試験片を用いることで,ストランドとタブの接着強度不足による 21 と考えられるタブ内の滑りについての対策はできたが,T300-3000,T800-12000 ともに静的強度 のバラツキが大きいため,安定した試験結果が得られなかった.また,T300-3000 の静的断強度 が接着組立式試験片に比べて低く,一体成形試験片の構造あるいは成形過程において強度低下が 発生しているものと考えられる. (2)強度低下対策 一体成形式 CFRP ストランド試験片における強度低下の対策を行うため,強度が低下する要因 を検討し個々の要因に対する対策を行った.強度低下要因と対策内容および対策の実施状況を Table 4.2-2 および Figure 4.2-7 に示す. Table 4.2-2 Improvement work on co-cured specimen Cause of damage (1) Damage during winding (2) Stress concentration at end tabs (3) Damage by thermal expansion of winding frame (4) Damage of cured CFRP strand by handling Measure for improvement Employing traverse to prevent the damage by hand-winding Having tapers of 2 deg×15 mm on end tabs and adding epoxy resin adhesion around the tapers to avoid the influence of stress concentration Cutting strands between specimens before curing to avoid the large tension in strand by thermal expansion of winding frame Using holding plates to avoid the bending of CFRP strands while removing CFRP strand from the winding frame. Traverse (a) Without hand-winding of strand by using traverse. 22 Epoxy resin (b) Add epoxy resin adhesion at the end of tabs. (c) Cutting strands between specimens before curing. (d)Holding plates for co-cured CFRP strand specimen. Figure 2.4-7 Improvements on co-cured CFRP strand specimen 23 樹脂を含浸したストランドを成形冶具に巻付ける際の損傷を軽減するため,巻付け装置のトラバ ーサーの送りピッチと成形冶具のタブの取付けピッチおよび角度を調整し,自動的に巻付けを行 うことができるようにした.タブの接着端部での応力集中を緩和するため,タブの先端部に角度 2°,長さ 15mm のテーパ部を設け,テーパ部に比較的硬度の低い常温硬化型の接着剤を塗布し た. 硬化時の成形冶具の熱膨張による損傷を軽減するため,常温硬化型接着剤が硬化した後ストラン ドの余長部を切断して加熱硬化した.硬化後に試験片を取り外す際に曲げ力が加わり損傷を受け ることを防止するため,試験片両端のタブ間に連結板を取り付けた.強度低下対策を行った一体 成形式 CFRP ストランド試験片を用いた T300-3000 および T800-12000 の静的強度評価試験結果 を Table 2.4-3 および Figure 2.4-8 に示す. Table 2.4-3 Static test results for improved co-cured specimen Carbon fiber strand T300-3000 T800-12000 Strength CV value Toray catalog (MPa) (%) data(11) (MPa) Post-bonded 3,514 2.99 Co-cured 3,216 7.93 Co-cured (improved) 3,536 2.87 Post-bonded 5,143 9.58 Co-cured 5,211 6.75 Co-cured (improved) 5,561 3.09 Specimen (a) T300-3000 24 3,530 5,490 (b) T800-12000 Figure 4.2-8 Load–elongation diagrams for improved co-cured CFRP strand specimen 改良した一体成形式 CFRP ストランド試験片を用いることで T300-3000,T800-12000 ともに バラツキが小さく安定した試験結果が得られ,信頼性のある静的強度の評価試験法を確立するこ とができた. 2.5 まとめ 一方向 CFRP 繊維方向の静的強度の評価試験法を確立するため,試験片の構造依存性が最も小さい と考えられる CFRP ストランド試験片について,タブの構造および試験片の製作法について改良を 行った.供試材として T300-3000 および T800-12000 を使用し,室温での定ひずみ速度引張試験を 行って静的強度を評価し,以下の結果を得た. (1)接着組立式 CFRP ストランド試験片を用いた静的強度試験において,T300-3000 についてはバ ラツキが小さく安定した試験結果が得られるが,T800-12000 についてはタブ内での滑りが多く認 められ,静的強度のバラツキが大きく安定した試験結果が得られなかった. (2)接着組立式 CFRP ストランド試験片のストランドとタブの接着強度不足を対策するため,一体成 形式 CFRP ストランド試験片を試作して静的強度の評価試験を行った結果,ストランドとタブの 接着強度不足によると考えられるタブ内の滑りは対策できたが,T300-3000,T800-12000 ともに 静的強度のバラツキが大きく安定した試験結果が得られなかった. (3)一体成形式 CFRP ストランド試験片における強度低下対策を行うため,強度低下要因を検討し, 個々の要因に対する対策を行った結果,T300-3000,T800-12000 ともに静的強度のバラツキが小 さく安定した試験結果が得られ,炭素繊維のカタログデータに対しても同等の静的強度であり,信 頼性のある繊維方向静的強度の評価試験法を確立することができた. 25 参 考 文 献 (1) Miyano, Y., Kanemitsu, M., Kunio, T. and Kuhn, H. “Role of Matrix Resin on Fracture Strengths of Unidirectional CFRP”, Journal of Composite Materials 20: 520-538 (1986) (2) Aboudi, J. and Cederbaum, G. “Analysis of Viscoelastic Laminated Composite Plates”, Composite Structures 12: 243-256 (1989) (3) Sullivan, J. “Creep and Physical Aging of Composites”, Composite Science and Technology 39: 207-232 (1990) (4) Gates, T. “Experimental Characterization of Nonlinear, Rate Dependent Behavior in Advanced Polymer Matrix Composites”, Experimental Mechanics 32: 68-73 (1992) (5) Miyano, Y., McMurray, M.K., Enyama, J. and Nakada, M. “Loading Rate and Temperature Dependence on Flexural Fatigue Behavior of a Satin Woven CFRP laminate”, Journal of Composite Materials 28: 1250-1260 (1994) (6) Miyano, Y., Nakada, M., McMurray, M.K. and Muki, R. “Prediction of Flexural Fatigue Strength of CFRP Composites under Arbitrary Frequency, Stress Ratio and Temperature”, Journal of Composite Materials 31: 619-638 (1997) (7) Miyano, Y., Nakada, M., Kudoh, H. and Muki, R. “Prediction of Tensile Fatigue Life under Temperature Environment for Unidirectional CFRP”, Advanced Composite Materials 8: 235-246 (1999) (8) Miyano, Y., Nakada, M., Kudoh, H. and Muki, R. “Determination of Tensile Fatigue Life of Unidirectional CFRP Specimens by Strand Testing”, Mechanics of Time-Dependent Materials 4: 127-137 (2000) (9) Nakada, M., Miyano, Y., Kinoshita, M., Koga, R., Okuya, T. and Muki, R. “Time-Temperature Dependence of Tensile Strength of Unidirectional CFRP”, Journal of Composite Materials 36: 2567-2581 (2002) (10) Okuya, T., Nakada, M. and Miyano, Y. “Reliable Test Method for Tensile Strength in Longitudinal Direction of Unidirectional CFRP”, Journal of Reinforced Plastics and Composites 2-21: 1579-1585 (2013) (11) 東レ株式会社炭素繊維カタログ 26 第 3 章 一方向 CFRP 繊維方向静的強度の 温度依存性予測 27 3.1 はじめに CFRP は金属に比べて軽量かつ高強度・高剛性で大きな部材の一体成形が可能であることから,と くに近年は厳しい使用環境下で高い信頼性が要求されるような航空機や自動車などの一次構造部材 に適用されてきている.しかしながら,長期耐久性を正確に予測する技術がないため,過大な安全率 の適用により,CFRP の特徴を十分に活かした設計が行われていない.CFRP のマトリックス樹脂の 機械的特性は時間や温度により著しく変化するいわゆる粘弾性挙動を示すため,CFRP の機械的特性 も時間や温度によって変化する(1-6).そのため,CFRP を構造物として実環境下で長期にわたり使用 する際には,これらの時間や温度により変化する強度およびそのバラツキを正確に評価する必要があ る.CFRP の基本特性である一方向 CFRP の繊維方向静的強度を把握するためには,短冊形試験片 による静的強度試験法が一般的に用いられるが,試験片のチャッキング部で応力集中の影響により強 度低下が起こる.さらに,タブとの接着強度が不十分でタブ内で試験片の滑りが発生することや試験 部で縦割れを伴う破壊が生じ,純粋な引張破壊であるかどうかの判定は難しく,信頼性の低い試験結 果となる.そこで,信頼性の高い一方向 CFRP の繊維方向静的強度試験を行い,かつその強度特性 を正確に評価する方法を確立する必要があり,著者ら(7-9)は,一方向 CFRP の繊維方向静的強度試験 として CFRP ストランド静的強度試験法に着目し,恒温環境下での強度特性を正確に評価する手法 について検討してきた.近年,フィラメント数が大きい高強度炭素繊維ストランドが市場に登場して きた.このような破断荷重が大きい高強度炭素繊維ストランドの場合,従来の CFRP ストランドと タブの接着組み立て式の試験片では,接着力が不足しタブ内ですべりが生じる問題があった.このた め,第 2 章の研究では一体成形式の試験片を用いて接着力の強化を図るとともに,試験片成形時の強 度低下要因の対策を行って信頼性の高い試験法の確立を図った(10).本章ではその成果を踏まえて, 一方向 CFRP 繊維方向静的強度の温度依存性に関して,信頼性の高い一体成形式 CFRP ストランド 試験片を用いて,温度依存性予測法の検証を行った(11). 3.2 一方向 CFRP 繊維方向静的強度の温度依存性予測法 一方向 CFRP の繊維方向静的強度は,マトリックス樹脂の粘弾性特性により時間温度依存性を有 する.マトリックス樹脂の粘弾性特性による一方向 CFRP 繊維方向静的強度の時間温度依存性の予 測法および CFRP ストランドのマトリックス樹脂の剪断弾性率の時間温度依存性の測定法を以下に 述べる. (1)マトリックス樹脂の粘弾性特性による繊維方向静的強度の時間温度依存性の予測法 著者ら(9)は弾性体マトリックスを用いた一方向繊維強化複合材料に対するローゼンの解析結果 (12)を粘弾性体マトリックスを用いた一方向 CFRP に拡張し,炭素繊維のバラツキがワイブル分布 に従うとした.すなわち,一方向 CFRP の繊維方向静的強度σs を Figure3.2-1 に示すローゼン モデルにおける炭素繊維の無効長さ lR がマトリックス樹脂の剪断弾性率 Gm に支配され,その時 間温度依存性が炭素繊維の静的強度のワイブル分布における形状パラメータαによって,以下の ように関連付けられることを示した. 28 Figure3.2-1 Rosen type strength analysis model for fiber reinforced plastics Figure3.2-1 に示すローゼンモデルおける炭素繊維の無効長さ lR は以下の式で表すことができる. 1 1 lR ln 21 1 / n V f 1/ 2 Ef r G t , T f m (3.2-1) ここで,l0,rf,n および Ef は炭素繊維の長さ,半径,取り囲む繊維本数およびヤング率である. Figure3.2-1 に示すローゼンモデルのσt は平均引張応力であり,ワイブル分布に従う炭素繊維の 強度のスケールパラメータσ0 と形状パラメータαで表現されるチェーンセオリーに基づくσt の 限界値が静的強度σs であり,以下の式で表すことができる. 1/ 1 l0 s ts , T 0 2e l R 1/ 1 l0 0 2e r f 21 1 / n Gm t , T Ef ln(1 / V f ) 1 2 (3.2-2) ガラス状領域における値添え字 g で示し無次元化すると,静的強度σs の時間温度依存性は,マ トリックス樹脂の剪断弾性率 Gm の時間温度依存性と炭素繊維のワイブル分布における形状パラ メータαにより,以下の式で表すことができる. s ts , T Gm t , T sg Gmg 1 2 (3.2-3) 29 (2)CFRP ストランドのマトリックス樹脂の剪断弾性率 上記の一方向 CFRP の繊維方向静的強度の温度依存性予測を行うため,CFRP ストランドの動 的粘弾性試験を行いマトリックス樹脂の剪断弾性率の時間温度依存性を測定する方法は以下の通 りである(9).CFRP ストランドの動的粘弾性試験の概要を Figure 3.2-1 に示す. Figure 3.2-2 Schematic diagram of the dynamic test setup 2 本の CFRP ストランドを並べてその両端を固定し,中央を挟んで一定の周期と振幅で上下に 変位させ,反力を検出して動的な機械的特性を測定するものである.長さ L,惰円形断面の幅 B, 高さ H,炭素繊維のヤング率 Ef および体積含有率 Vf の樹脂ストランドを温度 T,振幅εおよび 周期 tr で強制変位加振した時の反力 P とした時,以下の式でマトリックス樹脂の剪断弾性率 Gm の時間温度依存性を表すことができる. Gm t , T t , T Gmg 1 C1 t , T (3.2-4) ここで,φは反力 P の時間温度依存性であり,C は CFRP ストランドの形状および物性で決ま る定数であり,以下の式で表すことができる. t , T C Pt , T Pg L 3V f 1 V f E f H Gmg (3.2-5) 2 (3.2-6) 30 3.3 一体成形式 CFRP ストランド試験片による温度依存性予測法の検証 信頼性の高い一体成形式 CFRP ストランド試験片を用いて,一方向 CFRP の繊維方向静的強度の 温度依存性予測法の検証を行うことにし,炭素繊維単体の静的強度試験,樹脂ストランドの動的粘 弾性試験および温度をパラメータとした CFRP ストランドの静的強度試験を行った.なお,温度依 存性は室温短時間(25℃,1 分)のガラス状領域の値で無次元化して評価した.各試験の結果に基 づき温度依存性予測法の検証を行った結果を以下に述べる. (1)炭素繊維単体の静的強度試験 炭素繊維の静的強度試験を行い静的強度がワイブル分布に従うことを確認するとともに,ワイブ ル分布における形状係数を評価した.静的強度試験の条件および静的強度試験結果を Table 3.3-1 および Figure 3.3-1 に示す. Table 3.3-1 Tensile strength test condition of carbon fiber mono-filament Carbon fiber Length Temperature Speed Number of specimens (mm) (oC) (mm/min) for each length 25 1 50 5.0 T800 12.5 25 50 Figure 3.3-1 Weibull distributions of tensile strength of T800 mono filament 31 炭素繊維 T800 の静的強度はワイブルプロットすると直線性が有り,ワイブル分布に従うことが 確認できた.各炭素繊維長さの静的強度の尺度パラメータβc は,炭素繊維の長さが短いほど高く なるが,形状パラメータαc は,ほぼ一定の値約 8 である.なお,炭素繊維長さ L と静的強度の尺 度パラメータβc との関係は,チェーンセオリーにより以下の式で算出された尺度パラメータβ’c と良く対応している. 1 /( 2 c ) L 'C L c L0 0 L (3.3-1) (2)樹脂ストランドの動的粘弾性試験 樹脂ストランドの動的粘弾性試験を行い, CFRP ストランドのマトリックス樹脂の剪断弾性率の 温度依存性を評価した. CFRP ストランド試験片の定ひずみ速度引張試験における破断時間約 2 分間に相当するクリープ時間は約 1 分である.これに相当する正弦波加振の周期は約 2π分であ り、加振周波数を 0.002Hz とした.動的粘弾性試験の試験条件および試験結果を Table 3.3-2 に 示す. Table 3.3-2 Dynamic dual cantilever test condition and results Material Frequency Temperature o (Hz) CFRP strand 0.002 T800-12000 Reactive force rate ( C) P/Pg 25 1 120 0.769 150 0.377 樹脂ストランドの形状および物性と動的粘弾性試験の結果を用いて,式(3.2-2)から剪断弾性 率の温度依存性を算出した結果を Table 3.3-3 に示す. Table 3.3-3 Ratio of shear modulus of matrix resin in CFRP strand Temperature Shear modulus rate (°C) Gm/Gmg Vf=50% 25 1 H=0.9mm 120 0.236 L=33.5mm 150 0.054 CFRP strand data Ef=294GPa Gmg=1.15GPa 32 (3)一体成形式 CFRP ストランド試験片を用いた静的強度試験 一体成形式 CFRP ストランド試験片を用いて定ひずみ速度引張試験を行い,一方向 CFRP 繊維 方向静的強度の温度依存性を評価した. 定ひずみ速度引張試験の試験条件および試験結果を Table 3.3-4 および Figure 3.3-2 に示す. Table 3.3-4 Constant strain rate tensile test condition Material CFRP strand T800-12000 Speed Temperature (mm/min) (°C) Number 25 2 120 150 50 pieces for each temperature Figure 3.3-2 Weibull distributions of tensile strength of T800 CFRP strand T800CFRP ストランドの静的強度は炭素繊維単体と同様にワイブルプロットすると直線性が有 り,ワイブル分布に従うことが確認できた.各試験温度の静的強度の尺度パラメータβは温度が 高くなるほど低くなるが,形状パラメータαはほぼ一定値である. (4)一方向 CFRP 繊維方向静的強度の温度依存性予測手法の検証 一体成形式 CFRP ストランド試験片を用いて定ひずみ速度引張試験を行った結果と,剪断弾性 率の温度依存性から繊維方向静的強度の温度依存性を予測した結果を比較し,一方向 CFRP 繊維 33 方向静的強度の温度依存性予測手法の検証を行った.繊維方向静的強度の温度依存性に関する試 験結果および予測結果を Table 3.3-5 および Figure 3.3-3 に示す. Table 3.3-5 Temperature dependence of CFRP strand (experiment and prediction) Temperature Strength Experiment Prediction ( C) s (=) (MPa) s/sg (Gm/Gmg)1/(2m) 25 5,608 1 1 120 5,365 0.957 0.914 150 4,806 0.857 0.833 o Figure 3.3-3 Tensile strength of CFRP strand versus shear modulus of matrix resin 一体成形式 CFRP ストランド試験片を用いて定ひずみ速度引張試験を行った結果と,炭素繊維 の静的強度試験結果および CFRP ストランドの動的粘弾性試験結果から予測した繊維方向静的強 度の温度依存性は良く一致している.無次元化した静的強度とマトリックス樹脂の剪断弾性率の 対数グラフの傾きは予測結果が 0.0625 であるのに対して試験結果が 0.0609 であった. 3.4 まとめ 一方向 CFRP 繊維方強度の温度依存性に関して,弾性体マトリックスを用いた一方向繊維強化複 合材料に対するローゼンの解析結果を粘弾性体マトリックスを用いた一方向 CFRP に拡張し,炭素 繊維のバラツキがワイブル分布に従うとすると,一方向 CFRP の繊維方向静的強度σs の時間温度 34 依存性をマトリックス樹脂の剪断弾性率の時間温度依存性と炭素繊維の静的強度のワイブル分布に おける形状係数から予測することができる.この予測法について,信頼性の高い一体成形式 CFRP ストランド試験片を用いて一方向 CFRP の繊維方向静的強度の温度依存性予測法の検証を行うこと にし,炭素繊維単体の静的強度試験,樹脂ストランドの動的粘弾性試験および温度をパラメータと した CFRP ストランドの静的強度試験を行い,以下の結果を得た. (1)炭素繊維 T800 の静的強度試験を行った結果,静的強度はワイブル分布に従い,各炭素繊維長さ の静的強度の尺度パラメータは炭素繊維の長さが短いほど高くなるが,形状パラメータはほぼ一 定の値約 8 であることが確認できた. (2)樹脂ストランドの動的粘弾性試験を行い,CFRP ストランドのマトリックス樹脂の剪断弾性率 の温度依存性を算出した. (3)一体成形式 CFRP ストランド試験片を用いて定ひずみ速度引張試験を行い,一方向 CFRP 繊維 方向静的強度の温度依存性を評価した結果,T800CFRP ストランドの静的強度は炭素繊維単体と 同様にワイブル分布に従い,各試験温度の静的強度の尺度パラメータは温度が高くなるほど低く なるが,形状パラメータはほぼ一定の値であることが確認できた. (4)一体成形式 CFRP ストランド試験片を用いて定ひずみ速度引張試験を行い,炭素繊維の静的強 度試験結果および CFRP ストランドの動的粘弾性試験結果から繊維方向静的強度の温度依存性を 予測し試験結果と比較した結果,両者は良く一致しており繊維方向静的強度の時間依存性予測法 を検証することができた. 35 参 考 文 献 (1) Aboudi, J. and Cederbaum, G. “Analysis of Viscoelastic Laminated Composite Plates”, Composite Structures, 12: 243–256 (1989) (2) Gates, T. “Experimental Characterization of Nonlinear, Rate Dependent Behavior in Advanced Polymer Matrix Composites”, Experimental Mechanics, 32: 68–73 (1992) (3) Miyano, Y., Kanemitsu, M., Kunio, T. and Kuhn, H. “Role of Matrix Resin on Fracture Strengths of Unidirectional CFRP”, Journal of Composite Materials, 20: 520–538 (1986) (4) Miyano, Y., McMurray, M.K., Enyama, J. and Nakada, M. “Loading Rate and Temperature Dependence on Flexural Fatigue Behavior of a Satin Woven CFRP laminate”, Journal of Composite Materials, 28: 1250–1260 (1994) (5) Miyano, Y., Nakada, M., McMurray, M.K. and Muki, R. “Prediction of Flexural Fatigue Strength of CFRP Composites under Arbitrary Frequency”, Stress Ratio and Temperature, Journal of Composite Materials, 31: 619–638 (1997) (6) Sullivan, J. “Creep and Physical Aging of Composites”, Composite Science and Technology, 39: 207–232 (1990) (7) Miyano, Y., Nakada, M., Kudoh, H. and Muki, R. “Prediction of Tensile Fatigue Life under Temperature Environment for Unidirectional CFRP”, Advanced Composite Materials, 8: 235—246 (1999) (8) Miyano, Y., Nakada, M., Kudoh, H. and Muki, R. “Determination of Tensile Fatigue Life of Unidirectional CFRP Specimens by Strand Testing”, Mechanics of Time-Dependent Materials, 4: 127–137 (2000) (9) Nakada, M., Miyano, Y., Kinoshita, M., Koga, R., Okuya, T. and Muki, R. “Time-Temperature Dependence of Tensile Strength of Unidirectional CFRP”, Journal of Composite Materials, 36: 2567–2581 (2002) (10) Okuya, T., Nakada, M. and Miyano, Y. “Reliable test method for tensile strength in longitudinal direction of unidirectional CFRP”, Journal of Reinforced Plastics and Composites 32-21: 1579-1585 (2013) (11) Okuya, T., Nakada, M. and Miyano, Y. “Temperature Dependent Tensile Strength in Longitudinal Direction of Unidirectional CFRP”, to be published in Journal of Composite Materials. (12) Rosen, B.W. “Tensile Failure of Fibrous Composites”, AIAA Journal, 2: 1985-1994 (1964) 36 第 4 章 一方向 CFRP 繊維方向の 統計的クリープ破断時間予測 37 4.1 はじめに CFRP は金属に比べて軽量かつ高強度・高剛性で大きな部材の一体成形が可能であることから,と くに近年は厳しい使用環境下で高い信頼性が要求されるような航空機や自動車などの一次構造部材 に適用されてきている.しかしながら,長期耐久性を正確に予測する技術がないため,過大な安全率 の適用により,CFRP の特徴を十分に活かした設計が行われていない.CFRP のマトリックス樹脂の 機械的特性は時間や温度により著しく変化するいわゆる粘弾性挙動を示すため,CFRP の機械的特性 も時間や温度によって変化する(1-6).そのため,CFRP を構造物として実環境下で長期にわたり使用 する際には,これらの時間や温度により変化する強度およびそのバラツキを正確に評価する必要があ る.著者ら(7,8)はマトリックス樹脂の粘弾性特性に基づき CFRP 積層板について,静的強度に関 する統計的予測手法を提案した.一方,CFRP の基本特性である一方向 CFRP の繊維方向静的強度 に関しては,信頼性の高い一方向 CFRP の繊維方向静的強度試験を行い,かつその強度特性を正確 に評価する方法を確立する必要があり,著者ら(9-11)は一方向 CFRP の繊維方向静的強度試験として CFRP ストランド静的強度試験法に着目し,恒温環境下での強度特性を正確に評価する手法について 検討してきた. 近年,フィラメント数が大きい高強度炭素繊維ストランドが市場に登場してきた.このような破断 荷重が大きい高強度炭素繊維ストランドの場合,従来の CFRP ストランドとタブの接着組み立て式 の試験片では,接着力が不足しタブ内ですべりが生じる問題があった.そのため,第 2 章の研究では 一体成形式の試験片を用いて接着力の強化を図るとともに,試験片成形時の強度低下要因の対策を行 って信頼性の高い試験法の確立を図った(12).第 3 章では,その成果を踏まえて,一方向 CFRP 繊維 方強度の温度依存性に関して,信頼性の高い一体成形式 CFRP ストランド試験片を用いて,温度依 存性予測法の検証を行った(13).本章では,一方向 CFRP 繊維方向静的強度の時間依存性に関して, 信頼性の高い一体成形式 CFRP ストランド試験片を用いて,クリープ破断時間の統計的予測法の検 証を行った(14). 4.2 一方向 CFRP 繊維方向クリープ破断時間の統計的予測法 一方向 CFRP の繊維方向静的強度は,マトリックス樹脂の粘弾性特性により時間温度依存性を有 する.マトリックス樹脂の粘弾性特性による CFRP の応力負荷履歴に対する破断応力および一方向 CFRP 繊維方向のクリープ破断時間の統計的予測法を以下に述べる. (1)CFRP の応力負荷履歴に対する破断応力 CFRP の静的強度がワイブル分布に従う時,温度 T,時間 t および破壊確率 Pf の破断応力σs は,ワイブル分布における尺度パラメータσ0 と形状パラメータαs およびマトリックス樹脂の 粘弾性特性を用いて以下の式で表すことができる log s ( Pf , t , T ) log 0 (t 0 , T0 ) (15) . D * (t , T ) log[ ln(1 Pf )] nR log s Dc (t 0 , T0 ) 1 38 (4.2-1) ここで,nR は粘弾性特性に関わる材料定数であり,D*および Dc は時間温度履歴に対する粘弾 性コンプライアンスおよび初期のクリープコンプライアンスである.定ひずみ速度引張試験にお いては,粘弾性コンプライアンス D*は以下の式で表すことができる. D * t , T Dc (t / 2, T ) (4.2-2) 定ひずみ速度引張試験における破壊確率 Pf は,式(4.2-1)に式(4.2-2)を代入して整理する と以下の式で表すことができる. Pf 1 exp F , D (t / 2, T0 ) log F s log s s nR log c 0 Dc (t 0 , T0 ) (4.2-3) (2)一方向 CFRP 繊維方向のクリープ破断時間 上記の CFRP の定ひずみ速度引張試験における破壊確率の予測を基に,一方向 CFRP 繊維方 向のクリープ破断時間を予測する方法を以下に述べる.一方向 CFRP の繊維方向静的強度に関 しては,ローゼンモデルを用いた解析結果に従えば,式(4.2-1)および式(4.2-3)における粘 弾性特性に関わる材料定数 nr は,炭素繊維の静的強度のワイブル分布における形状パラメータ αc と以下の式で関係付けられる(11). nR 1 (4.2-4) 2 C 一方,クリステンセンら(16)の解析によれば,定荷重引張における引張クリープと定ひずみ速度 引張における静的強度の時間温度依存性は,Figure 4.2-1 に示すように耐数時間軸に対して一定 の量だけシフトした挙動となり,対数シフト量 log A は以下の式で表すことができる. log A log(1 1 / k R ) (4.2-5) 39 Figure 4.2-1 Time shifting between static strength and creep strength 定ひずみ速度引張試験における静的強度および引張クリープ破断試験における破断応力の粘 弾性領域における対数時間勾配 KR は,Figure 4.2-2 に示すように粘弾性特性に関する材料定数 nR と,長時間領域における粘弾性コンプライアンスの耐数時間勾配 mR により以下の式で求め ることができる. k R n R mR mR 2 C (4.2-6) 40 k R n R mR Figure 4.2-2 Slopes of viscoelastic compliance of matrix resin and static strength of CFRP クリープ変形試験および定ひずみ速度引張試験を行って式(4.2-6)の対数時間勾配 KR を求め, 式(4.2-5)の耐数時間シフト量 log A を求めることにより,Figure 4.2-3 に示すように式(4.2-3) に基づいてクリープ破断確率を予測することができる. Figure 4.2-3 Time shifting between failure probability of static and creep 41 4.3 一体成形式 CFRP ストランド試験片による統計的クリープ破断時間予測法の検証 信頼性の高い一体成形式 CFRP ストランド試験片を用いて,一方向 CFRP 繊維方向の統計的クリ ープ破断時間予測法の検証を行うことにし,マトリックス樹脂のクリープ変形試験および CFRP ス トランドのクリープ破断試験を行った.クリープ破断試験結果とマトリックス樹脂のクリープ変形 試験結果を基に統計的クリープ破断時間の予測を行い,動的粘弾性試験および温度をパラメータと した CFRP ストランドの静的強度試験を行った.各試験ならびに前述の炭素繊維単体の静的強度試 験結果および CFRP ストランドの定速度静的強度試験結果に基づき統計的クリープ破断時間予測法 の検証を行った結果を以下に述べる. (1)マトリックス樹脂のクリープ変形試験 温度をパラメータとしたマトリックス樹脂のクリープ変形試験を行い,時間温度換算速を用い てクリープコンプライアンスのマスターカーブを作成して耐数時間勾配を求めた.クリープ変形 試験の試験条件および試験装置の概要を Table 4.3-1 および Figure 4.3-1 に示す. Table 4.3-1 Creep deformation test condition for matrix resin Material Period Temperature (min) (°C) Number 120 Epoxy resin 0.1~200 130 1 piece 140 for each temperature 150 Figure 4.3-1 Creep deformation testing machine for the matrix resin 42 マトリックス樹脂のクリープ変形試験結果と 120℃におけるクリープコンプライアンス Dc お よび log1/2 シフトした定ひずみ速度引張試験の粘弾性コンプライアンス D*を 25℃,1min の値 で無次元化したマスターカーブを Figure 4.3-2 に示す. Figure 4.3-2 Dimensionless creep compliance of matrix resin at T=120oC. (2)CFRP ストランドのクリープ破断試験 一体成形 CFRP ストランドを用いて T800-12000 のクリープ破断試験を行った.クリープ破断 試験の試験条件および試験装置の概要を Table 4.3-2 および Figure 4.3-3 に示す. Table 4.3-2 Condition of creep failure test for T800 CFRP strand Temperature Stress (°C) (MPa) 120 4,564 * Number of specimens 26 * 81.4% of scale parameter of static strength at 25°C 43 Figure 4.3-3 Creep failure testing machine for the CFRP strand specimen クリープ破断試験は,試験機の専有時間が長いため,CFRP ストランド試験片専用のコンパク トなクリープ破断試験機 20 台を使用して効率的に試験を行った.クリープ破断試験の試験結果 を Table 4.3-3 に示す. 44 Table 4.3-3 Creep failure test result Oder Failure Failure Oder Failure Failure Number time Probability Number time Probability nf tf (min) Pf =nf/27 (%) nf tf (min) Pf=nf/27 (%) 1 0.72 3.7 14 150 51.9 2 1.83 7.4 15 270 55.6 3 1.90 11.1 16 492 59.3 4 4.5 14.8 17 744 63.0 5 7.5 18.5 18 1200 66.7 6 9.7 22.2 19 1884 70.4 7 17.4 25.9 20 2184 74.1 8 18.3 29.6 21 2784 77.8 9 24.5 33.3 22 6876 81.5 10 73.8 37.0 23 6972 85.2 11 74.0 40.7 24 7680 88.0 12 85.1 44.4 25 10158 92.6 13 144 48.1 26 15300 96.3 (3)クリープ破断時間の統計的予測 炭素繊維および CFRP ストランドの定ひずみ速度引張試験とマトリックス樹脂のクリープ変 形試験の試験結果に基づき,Table 4.3-4 に示す予測パラメータを用いてクリープ破断確率の予 測を行った.クリープ破断確率の試験結果と予測結果を Figure 4.3-4 に示す. Table 4.3-4 Parameters for statistical creep failure time prediction Shape parameter of static strength of CFRP strand S 26 Shape parameter of static strength of carbon fiber mono-filament C 8.0 Viscoelastic parameter of matrix resin nR 0.063 Slope of viscoelastic compliance of matrix resin mR 0.28 Slope of static strength of CFRP strand against failure time k R 0.018 Logarithmic time shifting factor log A 1.8 45 Figure 4.3-4 Probability of creep failure time of T800 CFRP strand クリープ破断時間に対する破断確率の試験結果と予測結果を比較すると,長時間領域で試験結 果と良く一致しており,長時間領域を対象としたクリープ破断時間の統計的予測手法の検証がで きた.短時間領域で偏差が生じる主な要因は,マトリックス樹脂のクリープコンプライアンスマ スターカーブの長時間領域での対数時間傾斜を用いて対数時間シフト量 log A を算出することに よるものと考えられる.短時間領域での対数時間傾斜を用いて対数時間シフト量 log A を算出す ると,Figure 4.3-5 に示す通りとなり,短時間側での予測精度の向上を図ることができる. Figure 4.3-5 Creep rupture time prediction for long time range and short time range また,クリープ破断時間の予測における予測パラメータの予測結果に与える影響として,CFRP ストランド強度の形状パラメータαと炭素繊維強度の形状パラメータで決定される強度の温度 46 依存性指数 nR を変化させた場合のクリープ破断時間の予測結果を Figure 4.3-6 に示す. Figure 4.3-6 Effects of prediction parameters for statistical creep rupture time prediction CFRP ストランドの静的強度のバラツキが大きくワイブル分布の形状パラメータが小さくなる と破断時間のバラツキが大きくなり,炭素繊維強度のバラツキが大きく強度の温度依存性の指数 が大きくなると破断時間が短くなり,予測精度に与える材料試験バラツキの影響が大きく,材料 特性試験の信頼性が重要であることが分かる. 4.4 まとめ 一方向 CFRP 繊維方向静的強度の時間依存性に関して,信頼性の高い一体成形式 CFRP ストラン ド試験片を用いて,クリープ破断時間の統計的予測法の検証を行った.CFRP の静的強度がワイブ ル分布に従う時,CFRP の応力負荷履歴に対する破断応力が温度,時間および破断確率の関数とし てワイブル分布における尺度パラメータと形状パラメータおよびマトリックス樹脂の粘弾性特性で 表すことができる.また,一方向 CFRP 繊維方向のクリープ静的強度と定ひずみ速度引張試験にお ける静的強度の時間温度依存性は,耐数時間軸に対して一定の量だけシフトした挙動となることか ら,定ひずみ速度引張試験の結果を基にクリープ破断時間の統計的な予測を行うことができる.こ の 予 測 法 に つ い て, 評価 温 度 を 120 ℃ と し ,マ ト リ ッ ク ス 樹 脂の クリ ー プ 変 形 試 験 およ び T800-12000CFRP ストランドのクリープ破断試験を行い,以下の結果を得た. (1)温度をパラメータとしたマトリックス樹脂のクリープ変形試験を行い時間・温度換算則を用い てクリープコンプライアンスのマスターカーブを作成して長時間領域でのクリープコンプライア ンスの耐数時間勾配を求めた. (2)一体成形 CFRP ストランドを用いてクリープ破断試験を行い,破断時間と破断確率の関係を求 めた. (3)炭素繊維および CFRP ストランドの定ひずみ速度引張試験とマトリックス樹脂のクリープ変形 47 試験の試験結果に基づき,予測パラメータを算出してクリープ破断時間に対する破断確率の予測 を行った結果,長時間領域で試験結果と良く一致しており,長時間領域を対象としたクリープ破 断時間の統計的予測手法の検証ができた.短時間領域で偏差が生じる主な要因は,長時間領域で のクリープコンプライアンスの対数時間傾斜を用いて対数時間シフト量 log A を算出することに よるものと考えられ,短時間領域での対数時間傾斜を用いて対数時間シフト量 log A を算出する ことにより短時間側での予測精度の向上を図ることができる. 48 参 考 文 献 (1) Aboudi, J. and Cederbaum, G. “Analysis of Viscoelastic Laminated Composite Plates”, Composite Structures, 12: 243–256 (1989) (2) Gates, T. “Experimental Characterization of Nonlinear, Rate Dependent Behavior in Advanced Polymer Matrix Composites”, Experimental Mechanics, 32: 68–73 (1992) (3) Miyano, Y., Kanemitsu, M., Kunio, T. and Kuhn, H. “Role of Matrix Resin on Fracture Strengths of Unidirectional CFRP”, Journal of Composite Materials, 20: 520–538 (1986) (4) Miyano, Y., McMurray, M.K., Enyama, J. and Nakada, M. “Loading Rate and Temperature Dependence on Flexural Fatigue Behavior of a Satin Woven CFRP Laminate”, Journal of Composite Materials, 28: 1250–1260 (1994) (5) Miyano, Y., Nakada, M., McMurray, M.K. and Muki, R. “Prediction of Flexural Fatigue Strength of CFRP Composites under Arbitrary Frequency, Stress Ratio and Temperature”, Journal of Composite Materials, 31: 619–638 (1997) (6) Sullivan, J. “Creep and Physical Aging of Composites”, Composite Science and Technology, 39: 207–232 (1990) (7) Miyano, Y., Nakada, M. and Cai, H. “Formulation of Long-term Creep and Fatigue Strengths of Polymer Composites Based on Accelerated Testing Methodology”, Journal of Composite Materials, 42:1897-1919 (2008) (8) Nakada, M. and Miyano, Y. “Advanced Accelerated Testing Methodology for Long-Term Life Prediction of CFRP Laminates”, to be published in Journal of Composite Materials. (9) Miyano, Y., Nakada, M., Kudoh, H. and Muki, R. “Prediction of Tensile Fatigue Life under Temperature Environment for Unidirectional CFRP”, Advanced Composite Materials, 8: 235-–246 (1999) (10) Miyano, Y., Nakada, M., Kudoh, H. and Muki, R. “Determination of Tensile Fatigue Life of Unidirectional CFRP Specimens by Strand Testing”, Mechanics of Time-Dependent Materials, 4: 127–137 (2000) (11) Nakada, M., Miyano, Y., Kinoshita, M., Koga, R., Okuya, T. and Muki, R. “Time-Temperature Dependence of Tensile Strength of Unidirectional CFRP”, Journal of Composite Materials, 36: 2567–2581 (2002) (12) Okuya, T., Nakada, M. and Miyano, Y. “Reliable Test Method for Tensile Strength in Longitudinal Direction of Unidirectional CFRP”, Journal of Reinforced Plastics and Composites, 32-21: 1579-1585 (2013) (13) Okuya, T., Nakada, M. and Miyano, Y. “Temperature Dependent Tensile Strength in Longitudinal Direction of Unidirectional CFRP”, to be published in Journal of Composite Materials. (14) Nakada, M., Okuya, T. and Miyano, Y. “Statistical Prediction of Tensile Creep Failure Time for Unidirectional CFRP”, to be reviewed in Advanced Composite materials.. 49 (15) Nakada, M. and Miyano, Y. “Advanced Accelerated Testing Methodology for Long-Term Life Prediction of CFRP Laminates”, to be reviewed in Advanced Composite materials. (16) Christensen, R. and Miyano, Y. “Stress Intensity Controlled Kinetic Crack Growth and Stress History Dependent life Prediction with Statistical Variability”, International Journal of Fracture, 137: 77-87 (2006) 50 第 5 結 章 論 51 本研究の狙いは,CFRP の利点を最大限に活かした構造設計を行うに際して,製品の長期信頼性を 確保する上で最も基本的な繊維方向静的強度に関する設計データを取得するための材料特性試験法 の確立を図ることである.そのため,一方向 CFRP について繊維方向静的強度の評価試験法の確立, 温度依存性の予測法の検証およびクリープ破断時間の統計的予測法の検証を行った. 本研究の成果は,以下の通りである. (1)一方向 CFRP 繊維方向静的強度の評価試験法の確立 一方向 CFRP 繊維方向の静的強度の評価試験法を確立するため,試験片の構造依存性が最も小 さいと考えられる CFRP ストランド試験片についてタブの構造および試験片の製作法について改 良を行った.従来の接着組立式 CFRP ストランド試験片を用いて静的強度試験を行った結果,破 断荷重の小さい T300-3000 についてはバラツキが小さく安定した試験結果が得られるが,破断荷 重の大きい T800-12000 についてはタブ内での滑りが多く認められ,静的強度のバラツキが大き く,安定した試験結果が得られなかった.接着組立式 CFRP ストランド試験片のストランドとタ ブの接着強度不足の対策を行うため,一体成形式 CFRP ストランド試験片を試作して静的強度の 評価試験を行った.その結果,ストランドとタブの接着強度不足によると考えられるタブ内の滑 りは対策できたが,T300-3000,T800-12000 ともに静的強度のバラツキが大きく,安定した試験 結果が得られなかった.一体成形式 CFRP ストランド試験片における強度低下対策を行うため, 強度低下要因を検討し個々の要因に対する対策を行った.その結果,T300-3000,T800-12000 と もに静的強度のバラツキが小さく,安定した試験結果が得られ,信頼性のある繊維方向静的強度 の評価試験法を確立することができた. (2)一方向 CFRP 繊維方向静的強度の温度依存性予測 信頼性の高い一体成形式 CFRP ストランド試験片を用いて,マトリックス樹脂の剪断弾性率の 時間温度依存性と炭素繊維の静的強度のワイブル分布における形状係数から一方向 CFRP 繊維方 向静的強度の時間温度依存性を予測する方法の検証を行うこととした.T800-12000 について炭素 繊維長さをパラメータとした炭素繊維単体の静的強度試験,樹脂ストランドの動的粘弾性試験お よび温度をパラメータとした CFRP ストランドの静的強度試験を行った.炭素繊維単体の静的強 度はワイブル分布に従い,各炭素繊維長さの静的強度の尺度パラメータは,炭素繊維の長さが短 いほど高くなるが,形状パラメータは,ほぼ一定の値約 8 であることが確認できた.樹脂ストラ ンドの動的粘弾性試験を行い,CFRP ストランドのマトリックス樹脂の剪断弾性率の温度依存性 を算出した.一体成形式 CFRP ストランド試験片の定ひずみ速度引張試験を行い,一方向 CFRP 繊維方向静的強度の温度依存性を評価した結果,CFRP ストランドの静的強度は炭素繊維単体と 同様にワイブル分布に従い,各試験温度の静的強度の尺度パラメータは,温度が高くなるほど低 くなるが,形状パラメータは,ほぼ一定の値であることが確認できた.炭素繊維の静的強度試験 結果および CFRP ストランドの動的粘弾性試験結果から予測した繊維方向静的強度の温度依存性 を試験結果と比較した結果,両者は良く一致しており繊維方向静的強度の時間依存性予測法を検 証することができた. 52 (3)一方向 CFRP 繊維方向の統計的クリープ破断時間予測 CFRP の静的強度がワイブル分布に従う時,CFRP の応力負荷履歴に対する破断応力が温度, 時間および破断確率の関数としてワイブル分布における尺度パラメータと形状パラメータおよび マトリックス樹脂の粘弾性特性で表すことができる.また,一方向 CFRP 繊維方向のクリープ破 断強度と定ひずみ速度引張試験における静的強度の時間温度依存性は,耐数時間軸に対して一定 の量だけシフトした挙動となる.これらの関係を用いてマトリックス樹脂のクリープ試験結果と CFRP ストランドの静的強度試験結果からクリープ破断時間を統計的に予測した. 一方,信頼性の高い一体成形式 CFRP ストランド試験片を用いてクリープ破断試験を行い,破 断時間と破断確率の関係を求めた結果,長時間領域で予測結果は試験結果と良く一致しており, 長時間領域を対象としたクリープ破断時間の統計的予測手法の検証ができた.短時間領域で偏差 が生じる主な要因は,長時間領域でのクリープコンプライアンスの対数時間傾斜を用いて対数時 間シフト量 log A を算出することによるものと考えられ,短時間領域での対数時間傾斜を用いて 対数時間シフト量 log A を算出することにより短時間側での予測精度の向上を図ることができる. 以上の結果より,CFRP の強度特性を最大限に活かした構造設計において最も重要な繊維方向の強 度特性を評価するための試験法を開発するとともに,クリープ破断時間に関する予測手法を検証し、 長期信頼性を確保するために必要な材料特性試験法を確立することができた. 本研究で開発した一体成形式 CFRP ストランド試験片を用いて繊維方向静的強度の時間・温度依存 性に関して信頼性の高い材料特性試験を行うことが可能となったことを受け,今後の研究の発展性と しては,試験片のスケール効果,疲労強度特性および繰り返しクリープ強度特性等についての評価を 行うとともに,繊維直角方向強度についても一体成形式試験片の開発を行い信頼性の高い材料特性試 験法の確立を図ることが有用と考えられる. なお,本研究においては,繊維方向強度がワイブル分布に従い,その時間・温度依存性がマトリッ クス樹脂の粘弾性特性に支配される現象に対して有効な予測手法の検証を行ったが,繊維と樹脂との 界面強度が問題となるような現象に対しては新たな取り組みが必要となるものと考えられる. 53 本論文に引用した著者の研究論文 (1) Nakada, M., Miyano, Y., Kinoshita, M., Koga, R., Okuya, T. and Muki, R., “Time-Temperature Dependence of Tensile Strength of Unidirectional CFRP”, Journal of Composite Materials, 36: 2567–2581 (2002) (2) Okuya, T., Nakada, M. and Miyano, Y., “Reliable Test Method for Tensile Strength in Longitudinal Direction of Unidirectional CFRP”, Journal of Reinforced Plastics and Composites 2013; 32: 1579-1585 (2013) (3) Okuya, T., Nakada, M. and Miyano, Y., “Temperature Dependent Tensile Strength in Longitudinal Direction of Unidirectional CFRP”, to be published in Journal of Composite Materials. (4) Nakada, M., Okuya, T. and Miyano, Y., “Statistical Prediction of Tensile Creep Failure Time for Unidirectional CFRP”, to be reviewed in Advanced Composite materials. 54 著者が開発した CFRP ストランド試験片専用試験装置 導入時期 試験装置 台数 1995 年 クリープ試験機 10 台 1996 年 小型疲労試験機(機械式) 5台 1998 年 小型疲労試験機(制御式) 5台 1998 年 小型クリープ試験機 20 台 1999 年 繰り返しクリープ試験機(クリープ試験機改造) 10 台 1999 年 小型万能引張強度試験機(低・中負荷用) 1台 2003 年 小型万能引張強度試験機(低・中負荷用,増設) 1台 2009 年 小型万能引張強度試験機(高負荷用) 1台 55 56 57 謝 辞 本研究は,1987 年に著者が CFRP 製構造体の開発に着手した当初から,構造設計に必要な材料特性デ ータを取得するために金沢工業大学の宮野研究室に一貫してご協力を頂き,最終的に金沢工業大学大学院 高信頼ものづくり専攻に在籍し,寿命設計を行うために必要な繊維方向強度の信頼性に関わる材料特性評 価法の確立を図ったものです. はじめに,この度長年 CFRP の材料特性評価に取り組んできた研究成果を博士学位論文にまとめて学位 を取得することを熱心にお勧め頂き,更には直接研究のご指導をして頂きました宮野靖教授に心から感謝 の意を表します. また,最終的に論文をまとめるに際して,論文の審査をして頂きました金沢工業大学高信頼ものづくり 専攻の金原勲教授と遠藤和弘教授,金沢工業大学機械工学専攻の中田政之教授ならびに東京理科大学機械 工学科の荻原慎二教授に大変貴重なご意見を頂きました.信頼性のある CFRP 製構造の設計をする上で 一方向 CFRP の材料特性評価の信頼性がどのような形で反映されるのか具体的な事例で示すこと,予測 手法の式とパラメータの物理的な意味合いを分かり易く説明すること,今後の研究の発展性と課題を示す こと等のご指摘を頂いたことで,研究の位置付けと成果をより完成度の高い形で論文にまとめることがで きたことを深く感謝いたします. 振り返ると,著者が東芝に入社し,当時の総合研究所に配属され,特殊な機械装置の開発に携わること になりましたが、その主要構成部材は軽量かつ高強度であることが必要とされ,それまでに実用化されて いた超高強度鋼製の構造体を CFRP 製とする開発の過渡期でした.数年して東芝,日立製作所,三菱重 工業の重電 3 社が合弁会社を作り,各社から多くの技術者が集結しました.新会社で新たな CFRP 構造 体の開発を立ち上げるために,CFRP 構造体の試作設備として FW マシン,硬化炉,機械加工装置,非 破壊検査装置等を新規に導入するとともに,CFRP 構造体の構造設計に必要な解析ツールを各社から持ち 寄りました.しかしながら,当時重電 3 社においても CFRP 構造体の設計技術は確立しておらず,構造 設計のあり方を模索する状態でした.複合素材である CFRP は金属材料と異なり,材料メーカーに CFRP としての材料特性データがなく,設計者自ら設計用の材料特性データを取得する必要があり,CFRP 用の 材料特性試験機を導入することにしましたが,CFRP 材料の材料特性試験法が確立しておらず研究要素が 多いため,当時新会社の開発部長に就任された日立製作所の安保勝夫氏は,これまでの開発経緯の中で CFRP 材料の専門家として参画して頂いた経緯のある宮野靖教授に協力を要請しました.その結果,当時 金沢工業大学の常任理事で研究支援機構の事務局長でありました岩下信正氏の全面的なご支援を受け,宮 野研究室を増強して材料試験設備を設置させて頂くとともに,継続的に CFRP 材料に関する委託研究を 行って頂くことになりました.著者が CFRP 構造体の構造設計を担当し開発業務を遂行するために最も 重要な CFRP 材料に関する研究の場を与えて頂いた安保勝夫,岩下信正両氏に心から感謝の意を表しま す. 金沢工業大学の宮野靖教授,新保實教授および中田政之教授には 20 有余年の長きに亘って CFRP の特 58 性を活かした構造設計の在り方から始まり,時間・温度換算則による繊維直角方向の長期クリープ変形特 性の評価法,成形時の熱残留応力の評価法および繊維方向強度の時間温度依存性の評価法をご指導頂きま した.先生方のご指導により CFRP 構造体の開発過程において多くの技術的な課題を克服することがで きたことに対し,改めて深く感謝いたします. 宮野靖教授には,CFRP 製構造体の開発に携わった当初,金属材料との違いを懇切丁寧にお教え頂きま した.著者が金属の熱間プレスと同じ考え方で CFRP 積層板を加熱して波形に成形したサンプルを宮野 先生にお見せしたところ,その場でライターを取出してサンプルを加熱されました.その瞬間にサンプル は元の平板に戻ってしまい,CFRP のクリープ変形は可逆的であることをものの見事に実証して頂いた時 のことが今でも鮮明に思い出されます.また,CFRP 構造体の開発過程においては,繊維直角方向のクリ ープ変形を防止するためには繊維方向層で曲げ変形を拘束する必要があること,接着勘合部のクリープ変 形を防止するためには可能な限り一体成形し,かつ成形品の強度低下を防止するためには表面を機械加工 するべきではないこと等をお教え頂き, 信頼性のある CFRP 構造体の基本設計を行うことができました. 新保實教授には,CFRP の成形過程における水分の影響,熱残留応力の発生メカニズムおよび測定法等 をお教え頂き,CFRP 構造体の成形プロセスのあり方をご指導頂きました. 中田政之教授には,開発当初から現在に至るまで,材料特性試験法確立のために自ら学生さん達の先頭 に立って試験片の成形から試験および試験結果の評価解析まで身を持ってご指導頂きました.また,不慣 れな英語の海外論文投稿に際して懇切丁寧にご指導頂きました. 材料試験装置に関しては,当初材料試験機の専門メーカーに製作を依頼しましたが,研究を進める過程 で繊維方向強度の時間温度依存性を評価するための専用試験装置を多数装備する必要が生じました.この ため,製品の試作に必要な冶具の製作を依頼していた一般機械メーカーである佐藤精工社にご協力頂きま した.また,この度の一体成形 CFRP ストランド試験片の開発においては自動機と精密機器の専門メー カーであるヤザック社にご協力頂きました.佐藤精工,ヤザックの両社の並々ならぬご協力で効率的に研 究を進めることができたことに対して心から感謝の意を表します. 本研究を行う中で,宮野・中田研究室の学生諸君に熱心に試験を行って頂きました. 特に,学生諸君のリーダー役として尽力して頂いた修士課程のお二人の名前を記し,深い感謝の意を表 します. 2012 年度修士 2 年:諸見里 透 君 2013 年度修士 1 年:笠原 和也 君 2014 年 3 月 奥屋 59 嗣之