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リンゴジュースおよびサイダー中の 天然パツリンの GC/MS 分析
リンゴジュースおよびサイダー中の 天然パツリンの GC/MS 分析 アプリケーションノート 食品試験・農業 著者 要約 Pat Sasso リンゴの栽培期間が伸び、リンゴおよびリンゴ濃縮果汁の輸出が増えるにつれて、汚染 Agilent Technologies, Inc. された製品を消費する懸念が高まっています。パツリンは、リンゴの腐敗に伴い生成さ れるマイコトキシン (カビ毒) です。Agilent ウルトライナートカラムを用いて、誘導体化 をおこなわずに、この物質をモニタリングしました。クロマトグラフィにより、5-ヒド ロキシメチルフルフラール (HMF) を分離しました。この物質は、リンゴ製品を過度に加 熱した場合に、糖から生成されます。サンプル前処理にあたっては、ポリスチレンジビ ニルベンゼン SPE カートリッジを用いた固相抽出に続いて、酢酸エチル中で液液抽出を おこなってから、GC/MS システムに注入しました。 はじめに MS Agilent 5975C シリーズ MSD、イナート EI 350 イオン源、 トリプルアクシス検出器搭載 MS : リンゴサイダーおよびリンゴジュースは、世界で消費されている 果実飲料のトップ 10 に数えられます。 リンゴおよびリンゴ由来 製品の生産量が多い上位 3 か国は、中国、米国、ポーランドで 溶媒待ち時間 : 6分 MS 温度 : 300 °C (イオン源)、150 °C (四重極) SIM モード : 質量 55.00、97.00*、110.00*、126.00、 それぞれドウェル 100 ms (*定量イオン) す。いずれの国にも、さまざまなリンゴ品種の栽培に適した気 消耗品 (特に記載のない場合はアジレント製) 候条件の地域があります。一般消費者向けのリンゴジュース は、高品質の香りや消費期限を得るために、ろ過、低温殺菌、 乾燥チューブ : Pyrex 遠心分離管、円錐形、スクリューキャップつき、 15 mL、目盛りつき (Sigma-Aldrich Corp.、 カタログ番号 CLS808215-12EA) 製品中の濃度が 10 ng/g 未満に規制されています [1]。ジュース バイアル : 茶色スクリューバイアル (p/n 5182-0716) 製造中のパツリン測定には、HPLC/UV、GC、GC/MS などの多く キャップ : 青色スクリューキャップ (p/n 5282-0723) 注入口ライナ : ウルトライナートスプリットレスシングルテーパーライナ 真空パックにより処理されます。アオカビが生成するマイコト キシンの一種であるパツリンは、ほぼ完全に除去され、包装 のテクニックが用いられています。誘導体化がおこなわれる場 (p/n 5190-3162) 合も、おこなわれない場合もあります [2,3]。いずれのテクニッ 標準試料 クも信頼性が高く、費用もそれほどかかりませんが、逆相 HPLC では、パツリンと HMF の分離が困難になることがありま す。しかし、不安がある場合には、LC/MS/MS を用いた確認を フレッシュサイダーの製造では、 処 実施することができます [4]。 直線性および検出下限を検証するために、酢酸エチル中で濃 度 10~1,000 ng/g のパツリンおよび HMF 混合標準試料を作成 しました。リンゴジュースおよびサイダーを購入し、常時冷蔵 理過程でフルーツペクチンが添加されることがあります。フ 庫で保管しました。初期検査後、希釈溶媒としてブランク抽 ルーツペクチンには血清コレステロールを下げる効果があると 出液を用いて、マトリックス適合させたキャリブレーション溶 されるため、健康上の効果を高めることができます。しかし、 液群を作成することも可能です。 こうした処理を加えると、消費期限が大幅に短くなり、パツ リンが発生する可能性が高くなります [5]。 サンプル前処理 材料とメソッド 1. ジュースまたはサイダー 10 g (10 mL) を計量し、きれいな 容器に移します。 この研究では、Agilent 7890A GC と、不活性 EI 350 °C ノンコー 2. サンプルを濃度 10 ng/g (10 ppb) で添加し、ジュースから ティングイオン源を搭載した Agilent 5975C 質量分析計を組み 適切な回収率が得られることを確認します。 合わせて使用しました。Agilent J&W DB-35ms UI カラムをコー 3. MeOH 4 mL、次いで脱イオン HPLC グレード水 4 mL で SPE チューブをコンディショニングします。 ルドスプリットレスモードのマルチモード注入口 (MMI) に設置 し、最適なサンプル注入を実現しました。パツリンと HMF は、 濃度 100 µg/mL (パツリン) および純形態 (HMF) として、Sigma- Aldrich Corp から入手しました。 4. コンディショニング済みの SPE カートリッジに、サンプル 10 mL を重力によりロードします (サイダーの場合、透明度 によっては若干の吸引が必要)。 分析条件 5. 1 % 重炭酸ナトリウム水 8 mL により、重力を利用して洗浄 します。 GC カラム : Agilent J&W DB-35ms UI、30 m × 0.25 mm、 0.25 µm (p/n 122-3832UI) サンプル前処理 : Agilent Bond Elut LMS、1 g、6 mL、 30/pk (p/n 12255022) サンプル : ジュースまたはサイダー 10 g キャリア : MSD ヘリウム、1 mL/min 定流量 オーブン : 50 °C (5 分維持)、40 °C/min で 50~300 °C (8.75 分維持) 注入 : コールドスプリットレス、67 °C (0.1 分維持)、 720 °C/min で 67~160 °C、1 分でスプリットベント (30 mL/min)、3 分でガスセーバーオン (20 mL/min) 6. 1 % 酢酸水 8 mL により、重力を利用して洗浄します。 7. 排液チューブをコレクションチューブに置き換えます。 8. HPLC グレードメタノール 8 mL により、重力を利用して溶 出します。 9. 温かい水槽中で溶出液を乾燥させてメタノールを除去しま す。これにより、およそ 4 mL の水溶液が得られます。 10. 3 ポーションの酢酸エチル 3 mL により、溶出液の液液抽出 をおこない、抽出液を円錐形チューブにまとめ、乾燥させ ます。 MSD トランスファーライン aux 温度 : 300 °C GC : Agilent 7890A GC サンプラ : Agilent 7693 オートサンプラ、注入量 1 µL 11. 酢酸エチル抽出液を乾燥させて体積を 1 mL とし、オート サンプラバイアルに移して注入します。 2 結果と考察 参考文献 図 1 は、HMF およびパツリンの 10 ng/g 混合物のスキャンモー 1. M. Llovera.J. Food Prot.62, 202 (1999). ド分析結果を示しています。ピーク形状とマトリックスの分 2. M. W. Trucksess.J. AOAC Int. 82, 1109 (1999). 離は満足のいくレベルでした。 3. A. Moukasa.J. Food Chem.109, 860 (2008). 45000 4. H. B. Christensen.Food Addit.Contam.A. 26, 1013 (2009). アバンダンス 40000 5. K. Harris.J. Food Prot.72, 1255 (2009). 35000 30000 パツリン 25000 詳細 20000 15000 HMF 10000 本書に記載されたデータは典型的な結果です。アジレントの 5000 製品とサービスの詳細については、アジレントのウェブサイト 7.00 9.00 11.00 13.00 時間 15.00 17.00 (www.aglient.com/chem/jp) をご覧ください。 19.00 図 1. HMF およびパツリンの 10 ng/g 混合物のスキャンモード分析。 良好なピーク形状が得られ、マトリックス成分から十分に分離されて います。 添加サンプルの回収率は 90 % 以上でした。このことから、Bond Elut LMS SPE は、低濃度分離に使用できることが実証されてい ます。抽出手順により、ジュース中に濃度 10 % で存在する糖を 除去しました。糖が存在すると、短期間でのインジェクタの 故障につながり、注入口メンテナンスの頻度が高くなります。 また、高濃度のビタミン C も除去しました。ビタミン C は HMF の近くで共溶出するため、ピーク積分が困難になります。ポ リフェノールなどの多数の高沸点物質も、同時に抽出しまし た。こうした成分は注入口に蓄積しますが、許容可能な範囲 内での最高温度で定期的にベイクアウトを実施すれば、除去 することができます。このテクニックでは、ベンズアルデヒド の分離が可能です。ベンズアルデヒドは、リンゴの劣化の目印 となる化合物です。ある程度のテーリングは見られましたが、 MMI により、クールオンカラムに匹敵する左右対称のピークが 得られました。 結論 Agilent J&W DB-35ms ウルトライナートカラムを用いて、パツ リンと 5-ヒドロキシメチルフルフラールを良好に分離すること ができました。分析に先立ち、Bond Elut LMS カートリッジと液 液抽出によるサンプル前処理をおこないました。サンプル量 が多くなる場合は、さらなる精製をおこない、抽出手順を自 動化すれば、時間的効率が向上するものと見込まれます。 3 www.agilent.com/chem/jp アジレントは、本文書に誤りが発見された場合、また、本文書の使用により付随的 または間接的に生じる損害について一切免責とさせていただきます。 本資料に記載の情報、説明、製品仕様等は予告なしに変更されることがあります。 アジレント・テクノロジー株式会社 © Agilent Technologies, Inc. 2013 Printed in Japan July 12, 2013 5991-2799JAJP