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配付資料 - 一般社団法人日本草地畜産種子協会

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配付資料 - 一般社団法人日本草地畜産種子協会
日本中央競馬会特別
振興資金助成事業
第 8 回 放 牧 サ ミ
ッ
ト
『配合飼料高でも収益性の高い放牧酪農を推進しよう』
平成20年9月17日~18日
( 北海道 )
全国飼料増産行動会議
北海道
社団法人 日本草地畜産種子協会
社団法人北海道草地協会
ホクレン農業協同組合連合会
日 程 表
【第1日目】 9月17日(水)
【講演会・シンポジウム】
時 間
内 容 等
受 付
12:00~
「北海道大学 クラーク会館」
開 会
13:00~
講 演
13:20~14:00 飼料高でも放牧酪農はこんなに有利
帯広畜産大学准教授 花田 正明 氏
14:00~14:40 舎飼から放牧酪農への転換のための技術
北海道立根釧農業試験場 技術普及部次長 石田 亨 氏
休 憩
14:40~15:00
事例発表
15:00~15:30 狭い放牧地でも集約放牧で高泌乳
北海道江別市 百瀬牧場 百瀬 誠記 氏
15:30~16:00 低投入持続型の放牧酪農で人も牛も幸せに
北海道厚岸町 おのでらふぁ~む 小野寺 孝一 氏
パネルディスカッション
16:00~17:10 「なぜ今、放牧酪農か」
放牧畜産基準の説明
17:10~17:30 社団法人日本草地畜産種子協会 上野孝志
閉 会
17:30
懇親会
18:00~20:00 「京王プラザホテル」
【第2日目】 9月18日(木)
【現地検討会】
時 間
■集 合
7:45
バス出発
8:00
内 容
【テレビ塔前】
・バス移動
現地検討会
①牧場タカラ(喜茂別町)
・バス移動
現地検討会
②レークヒル牧場(洞爺湖町)
・バス移動
閉会(解散)
→ 15:30 「札幌駅」
→ 15:35 「千歳空港」
目
講
次
演
1.「飼料高でも放牧酪農はこんなに有利」
帯広畜産大学 花田 正明 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
2.「舎飼から放牧酪農への転換のための技術」
北海道立根釧農業試験場 石田
亨 ・・・・・・・・・・・・
7
事例発表
1.「狭い放牧地でも集約放牧で高泌乳」
北海道 百瀬牧場 百瀬 誠記
・・・・・・・・・・・・・・ 19
2.「低投入持続型の放牧酪農で人も牛も幸せに」
北海道 おのでらふぁ~む
小野寺 孝一
◇放牧畜産基準認証制度の概要
・・・・・・・・ 25
・・・・・・・・・・・・・・・・ 33
◇現地検討会資料◇
1.牧場タカラ(北海道喜茂別町)
・・・・・・・・・・・・・・・・
2.レークヒル牧場(北海道洞爺湖町)
・・・・・・・・・・・・・・
45
49
飼料高でも放牧酪農はこんなに有利
帯広畜産大学
花田正明
1.放牧への依存割合を高める
輸入飼料の保税制度や円高などにより安価で大量の穀類供給が可能であったこれまでの
日本の酪農は、泌乳能力の向上、穀類使用量の増加や飼養規模の拡大により、酪農経営の
向上を目指してきた。しかし、ここ数年、急激な生産資材費の高騰により安価で大量の穀
類供給という前提が揺らぎ始め、生産資材へ過度に依存した飼養形態の存続が危ぶまれる
ようになってきた。このような状況は日本よりも穀物供給が潤沢なアメリカにおいて早く
から危惧されており、すでに 1990 年代には乳価の低迷や穀物価格の高騰などにより放牧
に対する関心の高まりがみられている。1990 年代にアメリカ・ミズーリー州における混合
飼料給与酪農家と放牧主体酪農家の経営収支を比較した結果をみてみると(表 1)、放牧主体
酪農家の方が収益性は高いことが示されている(Moore,1998)。放牧導入による収益性の
向上は、飼料費の他に家畜診療費、家畜管理費、機械代や労働時間の減少による変動費の
抑制によってもたらされており、その中でも飼料費、特に穀類や貯蔵飼料費の支出がすく
ないことが飼料費の低減につながっている。北海道内の酪農家を調査した須藤(2003)は、
「放牧事例の経済効果では、収益拡大よりも生産費用の低減効果が大きいのが特徴である。
すなわち放牧の導入は、一定の飼養規模や産乳量水準を維持しながら所得を拡大できる可
能性が高い。
」と述べている。
表1 アメリカ・ミズーリー州のおける乳牛1頭あたりの生産費の比較
混合飼料給与
放牧主体酪農家
酪農家
収入,US$
乳代
1,950
1,950
個体販売他
301
205
合 計
2,251
2,155
支出,US$
変動費
飼料費
穀類
乾草
サイレージ
放牧地管理
1,100
700
300
70
30
856
440
278
0
138
72
220
115
55
305
148
2,015
43
142
72
22
255
161
1,551
固定費
208
217
全支出
2,223
1,768
(Moore, 1998)
家畜診療費
家畜管理費
機械代
光熱水費
労働費
その他
合 計
e-STAT(政府統計の総合窓口)によると平成 18 年度の放牧地 10a の管理費は 4,224 円で
あり、10a あたり 3,000kg の牧草が放牧地から乳牛に摂取されたとすると放牧草の生産費
- 1 -
は 1.41 円/kg(原物)、水分含量を 85%とすると放牧草の乾物生産費は 9.40 円/kg(乾物)とな
り、さらに TDN 含量を 65%とすると TDN 生産費は 14.45 円/kg(TDN)となる(表2)。同
様に平成 18 年度の牧草サイレージの生産費は 9.69 円/kg(原物)であり、水分含量を 60%、
乾物中の TDN 含量を 58%とすると、牧草サイレージの乾物生産費・TDN 生産費はそれ
ぞれ 24.23 円/kg、40.38 円/kg となる(表2)。牛乳 1kg 生産するためには約 330g の TDN
が必要とされており、その TDN を放牧草で賄うとすると飼料費は 4.8 円、牧草サイレー
ジだと 13.8 円となる。配合飼料の価格が 30 円もしくは 60 円/kg(原物)の時、配合飼料を
給与して牛乳 1kg 生産するのにそれぞれ 12.5 円、25.0 円となる(表2)。
表2 主な飼料のTDN価格および牛乳生産費
放牧草 牧 草 とうもろこし
サイレージ サイレージ
配合飼料
原物価格1),円/kg
1.41
9.69
8.34
30.0
40.0
50.0
60.0
乾物価格2),円/kg
9.39
24.23
27.80
34.1
45.4
56.8
68.2
TDN1kgの価格3),円/kg
牛乳生産費4),円/kg
14.45
41.78
42.12
37.9
50.4
63.1
75.8
4.77
13.79
13.90
12.51
16.63
20.82
25.01
1)
粗飼料の原物生産費は、e-STATのデータを利用
2)
放牧草、牧草サイレージ、とうもろこしサイレージおよび配合飼料の水分含量をそれぞれ、85%、60%、70%、88%として算出
3)
放牧草、牧草サイレージ、とうもろこしサイレージおよび配合飼料のTDN含量をそれぞれ、65%、58%、66%、90%として算出
4)
牛乳1kgを生産するのに必要な飼料費:牛乳1kg生産するのに0.33kgのTDNが必要として算出
このことは、生産資材費が高騰し、乳価と配合飼料の価格差が狭くなるほど放牧による
牛乳生産形態が経営的に有利になることを示している。アイルランドにおいて酪農経営の
研究を行っている Shalloo(2004)は、放牧を主体とした酪農経営において最大の収益を得
るためには、泌乳牛へ給与する飼料中の放牧草の割合を最大限に高めることであると述べ
ている。北海道天北地域において泌乳牛を放牧させている酪農家 13 戸を対象に実施した
調査(竹田ら,2002)でも、放牧依存率を高めることにより牛乳 100kg 生産するのに要する
飼料費が低減し、差し引き乳代(飼料費を差し引いた乳代)が増加することが示されている
(図1)。
7,000
差し引き乳代,円/100kg乳
飼料費,円/100kg乳
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
6,500
6,000
5,500
5,000
0
20
40
60
0
放牧依存率,%
20
40
60
放牧依存率,%
図1 放牧依存率と飼料費(●)ならびに差し引き乳代(■)との関係 (竹田ら(2002)より作図)
(放牧依存率:全TDN摂取量に占める放牧地からのTDN摂取量の割合)
- 2 -
さらに放牧への依存割合を高めことにより飼料自給率の向上やそこから生産される乳製
品の付加価値を高めることも期待される。飼料自給率を高め外部からの生産資材への依存
を軽減すことは、生産者自身がコントロールすることのできない不確定要素による影響を
少なくして酪農経営の安定性を向上させるであろう。また、放牧への依存割合を高めこと
により乳および乳製品の差別化・付加価値向上が図れ、低迷している乳製品の消費拡大が
期待できる。Scollan ら(2005)は、放牧を主体とした牛の乳にはω-3 脂肪酸、共役リノー
ル酸など人間の健康に有益な多価不飽和脂肪酸や抗酸化物質が多く含まれ、市場競争力の
ある差別化された乳製品を開発する可能性があると述べている。北海道農業企業化研究所、
あしょろ農産公社と帯広畜産大学では放牧主体で飼養された牛の乳を用いて特徴ある乳製
品の開発を試みている(写真 1)。産地偽装など食に対する信頼が揺らぐ中、放牧への依存割
合を高めた飼養条件下で生産された乳を利用して乳製品を製造することは、単に機能性成
分含量が多い製品を提供するだけではなく消費者の乳製品に対する信頼の獲得に貢献する
ものと思われる。
表3 粗飼料の違いが乳脂肪中の共役リノール酸含量に及ぼす影響
粗飼料
生 草
貯蔵資料
Timmen & Patton (1988)
1.34(放牧)
0.27(牧草・小麦サイレージ)
Precht & Milkentin (1997)
0.76(イネ科草)
0.38(とうもろこし・牧草サイレージ)
Precht & Milkentin (1997)
1.05(イネ科草)
0.55(牧草サイレージ・青刈とうもろこし)
Kelly et al. (1988)
1.09(イネ科・シロクローバ)
0.54(アルファルファ・とうもろこしサイレージ)
Dhiman et al. (1999)
1.09(イネ科・シロクローバ)
0.89(アルファルファ乾草・混播放牧地)
Whitie et al. (2001)
1.09(イネ科・シロクローバ)
0.36(とうもろこし・アルファルファサイレージ)
Schroeder et al. (2003)
1.12(エンバク放牧地)
0.41(とうもろこしサイレージ)
(Scollanら,2005)
2.放牧酪農の発展のために
1)放牧に適した乳牛の選抜
乳牛へ給与する飼料に占める放牧草の
割合を高めることにより飼料費の削減を
図ることができるが、乳量が多くなると
放牧草だけでは必要な養分を乳牛に供給
できなくなる。サプリメントを給与しな
いで放牧させた場合、混合飼料に比べ牧
草の採食速度が遅く消化性も低いため、
飼料摂取量は少なくなる。アメリカ北東
部のペレニアルライグラス草地に乳牛を
放牧させた Kolver and Muller(1998)は、
混合飼料を給与した乳牛併給飼料を与え
ずに放牧させた方が乾物摂取量は 20%
少なかったと報告している。さらに、個
体乳量が増加するに従い、乳牛のエネル
写真 1 のびのび放牧チーズ
ギー要求量を満たすためには飼料中のエ
- 3 -
ネルギー含量を高めなければならない。日本飼養標準(2008)によると乳量が 20kg/日と
40kg/日では飼料中の推奨 TDN 含量はそれぞれ 66%、76%となる。乳量が 20kg 程度な
ら放牧だけで TDN 要求量を満たすことができるが、より高い乳量を維持するためには穀
類などのエネルギー価の高い飼料のサプリメントが不可欠になる。
Buckley ら(2005)は、放牧を主体とした飼養形態において乳牛に求められる形質は遺伝
的産乳能力よりもむしろいかに牧草を多く摂取できるかといった形質の方が重要であり、
乳牛の牧草摂取能力を向上させることにより放牧への依存割合を高めることができると
述べている。放牧を主体とした酪農経営が多いアイルランドでは放牧に適した乳牛の系統
を模索しており、アイルランドでは北米系統のホルスタインよりもニュージーランド系統
の方が、アイルランドの放牧環境への適合性が高いと結論づけている(表4)。ペレニアル
ライグラス主体草地にホルスタインと乳肉兼用種であるモンベリエールとノルマンを放
牧させ乳量や繁殖成績を比較した Dillon ら(2003a,b)は、繁殖成績はホルスタイン種より
もモンベリエールとノルマンの方が優れていたと報告している。McCarthy ら(2007)は、
放牧を主体とした飼養形態では、「乳量の増加」に重点をおいた牛群の選抜は繁殖関連の
費用を増加させ収益性を低下させると報告している。勿論、ニュージーランドやアイルラ
ンドの報告をそのまま日本の放牧酪農に適用することはできないが、日本の放牧環境に適
した乳牛を選抜していくことが今後求められ、品種の枠を越えた見直しも必要になるかも
しれない。
表4 系統の違いがアイルランドにおけるホルスタインの繁殖成績に及ぼす影響
北米系統
ニュージーランド系統
乳量,kg
6,958(5,130)
6,141(4,970)
脂肪,kg
279(216)
275(236)
タンパク質,kg
241(175)
224(179)
1回の受精での受胎率,%
47(39)
60(46)
分娩後6週目の受胎率,%
59(54)
73(69)
分娩後14週目の空胎率,%
21(13)
9(7)
( )内の数字はニュージーランドでのデータ.
(Buckleyら,2005)
表5 春分娩・放牧主体飼養時におけるホルスタイン、モンベリエール、ノルマンの乳量・繁殖成績の比較
品 種1)
HF
CL
MB
NR
乳量,kg/頭
5,994 a
5,321 b
5,119 b
4,561 c
a
b
b
乳脂肪,%
3.90
3.75
3.81
4.00 c
a
b
b
乳タンパク質,%
3.39
3.36
3.49
3.60 b
a
a
b
乳糖,%
4.62
4.62
4.73
4.79 c
分娩から初回AIまでの日数,日
分娩から受胎までの日数,日
受胎率,%
受胎に要したAIの回数,回
71.5
99.0
73.7
2.79
a
a
c
a
70.9
87.3
83.9
2.39
ab
b
b
a
64.9
82.1
91.2
1.99
b
b
a
b
67.7
82.9
91.9
1.82
ab
b
a
b
1)
HF:ドイツホルスタイン,CL:アイルランドホルスタイン,MB:モンベリエール,NR:ノルマン
a,b,c
:P<0.05
(Dillonら,2003a,b)
2)環境への配慮
放牧飼養を取り入れることにより外部からの生産資材の投入量を低減でき、二酸化炭素
排出量の抑制などにより環境への負荷の低減も期待できる。しかし、果たして放牧はほん
- 4 -
とうに環境にやさしいのであろうか。放牧
地で飼養される時間が長くなればなるほど
放牧地に排泄される糞尿の量が多くなり、
それらを適切に管理できないと周辺環境へ
負荷をかけてしまうことになる。放牧を主
体とした酪農を展開しているニュージーラ
ンドでも放牧地で排泄される尿による周辺
環境への窒素負荷への関心が高まっている
(Betteridge ら,2008)。三枝(2003)は放牧
地における環境汚染の 90%は地下浸透と
表面流去による水質汚染であり、放牧地で
は採草地より厳重な水質汚染対策が必要と
いえると指摘している。写真2のような河
写真2 河川利用による飲用水の削減?
川を利用した放牧牛への水の供給は決して
コストの低減にはつながらない。むしろ環
境負荷に対する大きな代償を払うことにな
るであろう。
【参考文献】
1) Betteridge, K., C. Hoogendoorn, W. Griffis, D. Costall, M. Carter, P. Laube (2008)
Monitoring urine distribution by grazing livestock. In Multifunctional grasslands
in a changing world. Vol.1 (ed:Organizing committee of 2008 IGC/IRC conference)
Guangdong People’s Publishing House, Guangzhou, p654.
2) Buckley, F., C. Holmes, M.G. Kean (2005) Genetic characteristics required in dairy
and beef cattle for temperate grazing systems. In Utilisation of grazed grass in
temperate animal systems (ed. J.J. Murphy), Wageningen Academic Publishers,
Netherland, p61-78.
3) Dillon, P., F. Buckley, P. O’Connor, D. Hegarty, M. Rath (2003a) A comparison of
different dairy cow breeds on seasonal grass-based system of milk production. 2.
Milk production, live weight, body condition score and DM intake. Livestock
Production Science, 83:21-33.
4) Dillon, P., S. Snijders, F. Buckley, B. Harris, P. O’Connor, F.J. Mee (2003b) A
comparison of different dairy cow breeds on seasonal grass-based system of milk
production. 2. Reproduction and survival. Livestock Production Science, 83:35-42.
5) e-STAT:政府統計の総合窓口,農業経営統計調査・畜産物生産費・平成 18 年畜産物
生産費,http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/
6) Kolver, E.S. and L.D. Muller (1998) Performance and nutrient intake of high
producing Holstein cows consuming pasture or a total mixed ration. Journal of
Dairy Science, 81:1403-1411.
7) Moore, K.C (1998) Economics of grass for dairy cattle. In Grass for dairy cattle
- 5 -
(Eds: Cherney, J.H.. and Cherney, D.J.R) CAB Publishing, New York, p373-391.
8) McCarthy, S., B. Horan, P. Dillon, P.O. O’Connor, M. Rath, L. Shalloo (2007)
Economic comparison of different strains of Holstein-Friesian cows in various
pasture-based production systems. Journal of Dairy Science, 90:1493-1505.
9) 日本飼養標準 乳牛(2006)
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構編,中央畜
産会,東京.
10) Scollan, N.D., R.J. Dewhurst, A.P. Moloney, J.J. Murphy (2005) Improving the
quality of products from grassland. In Grassland: a global resource (ed: D.A.
McGilloway) Wageningen Academic Publishers, Netherlands, p41-56.
11) Shalloo, L., P. Dillon, M. Rath, M. Wallace (2004) Description and validation of the
Morepeak Dairy Systems Model. Journal of Dairy Science, 87:1945-1958.
12) 須藤純一(2003)
放牧を経営にどう生かすか,放牧で牛乳生産を
-北海道での放牧
成功の条件-(松中照夫編),酪農総合研究所,札幌,p87-100.
13) 竹田芳彦・井原澄男・荻間昇・中野長三郎・石田亨・木曽誠二・峰崎康裕・堤光昭・
奥村正敏・佐竹芳世・井内浩幸・佐藤尚規・吉田昌幸・乙部裕一・大塚省吾・岡元英
樹・遠谷良樹・草刈直仁・岡田直樹・山口正人・中村克己・出口健三郎(2002) 天北地
域における集約放牧技術の現地実証と経営成果,北農
- 6 -
69:306-317.
舎飼から放牧酪農への転換のための技術
-道北型集約放牧への移行マニュアル-
北海道立根釧農業試験場技術普及部
石田
亨
1.はじめに
北海道において低コスト・省力化の期待が大きい放牧酪農は、原油価格や構造的な輸入
穀物価格の高騰を受けて見直されています。特に、北海道北部の草地酪農地帯では、家族
経営主体の中規模酪農が重要な位置を占め、放牧経営も多く見られます。
これまで、集約放牧経営の有効性は、多くの研究や事例紹介で明らかとなっています。
しかし、放牧への移行過程の技術導入や経営的リスクの検討は行われておらず、放牧経営
を目指す酪農家の不安を解消できず、普及・拡大が進まない状況にあります。
このため、集約放牧へ移行する場合の問題点を技術と経営の両面から再度検討し、先進
的放牧経営の移行期から安定期までの技術変化や経済性と現地実証を基に「道北型集約放
牧への移行マニュアル」を作成しました。このマニュアルが、集約放牧経営へのスムーズ
な移行・転換に役立つ事が望まれます。
兼用地
0.6
40
0.49
2.放牧への移行に必要な技術
1)放牧地の適正配置
放牧草を効率的に利用するには、放牧専用地
と兼用地の比率を概ね6:4(道北の場合)程度
に配分し、特に春の余剰草を極力少なくします
(図1)。さらに、放牧草の採食量は、植生改善
や放牧馴致により増加します。このため、放牧
地面積は拡大、一方で併給粗飼料の給与量を削
減することで放牧依存度を高めます。
専用地
放牧牛1頭当たり
0.49
面積 (ha)
30
25
0.36
0.38
0.45
0.48
0.41
0.5
0.4
0.28
0.24
0.3
20
15
0.2
0.26
1頭当たり(ha)
35
10
0.1
5
0.09
0
0
導入前
1 2 3 45年 導入前
1 2 3 45年
E農場
G農場
図1 放牧地の利用形態・面積の推移
(2002~2007年)
2)放牧地の植生改善
放牧草をより効率的に利用する集約放牧では、短草・多回利用に適した放牧向きの草種
に換えます。方法は作溝型播種機を用いた簡易更新法で、放牧を継続しながらペレニアル
ライグラス(以後PRと略す)を播種(2.0~2.5kg/10a)します(写真1)。早春の播種では、2
年目の秋口に植生比率(冠部被度)30%以上を確保できます(図2)。
50
45
44
兼用地
専用地
40
42
35
40
36
PR冠部被度(%)
35
30
25
20
15
9
10
5
0
春
秋 春
秋 春
秋 春
秋 春
秋
更 新 年 2 年 目 3 年 目 4 年 目
5年目
図 2 簡 易 更 新 に よ る 放 牧 地 植 生 (G農 場 )
の 変 化 (2003-2007年 )
写真1 放牧地の簡易更新
- 13 -
3)放牧関連施設の整備
新たに放牧を導入する場合、特に牧柵・水槽等
の設置が必要となります。高張力線型電気牧柵は、
脱柵の心配が少なく、保守管理の省力化にも適し
ています(写真2)。水槽の場所は、放牧中の牛の
採食行動や採食場所を規制する作用があります。
長細い(300m 以上)放牧地や大きな放牧地では、
入口と中間から奥の2ヶ所に水槽を置くことが大
切です。また、牛道の整備は、誘導作業の省力化、
蹄病や個体の汚れ防止等に役立ちます。
4)放牧への馴致
写真2 2段張りの電気牧柵
放牧馴致は、早春の放牧開始時の1週間程度の場合と放牧未経験牛を放牧飼養へ馴らす
場合の2通りがあります。舎飼いからの転換では、乳牛が放牧草の採食に馴れていない事
から、転換1年目は時間制限から日中放牧程度、2年目に昼夜放牧まで放牧時間を延長さ
せる馴致が必要です。この点で放牧育成は、最も効率的な放牧馴致法と言えます。
兼用地(ha)
専用地(ha) 8 7 5 0
ha当たり
35
10000
9000
6101
5700
25
16.0
16 .0
5000
3041
4000
9.0
3000
21.1
10
14.7
5
7000
6527 6000
20
15
8000
14 .8
30
9.7
2000
14.7
9 .7
ha当たり乳生産量(kg)
40
放牧地面積(ha)
3.放牧移行時の技術変化
1)放牧地の生産性向上
簡易更新により播種したPRが増加して
放牧地の植生が改善され、短草利用された
放牧草は、栄養価(TDN)が高まり採食量が
増加します(図3)。さらに、放牧地1ha
当たり乳生産量は、舎飼いから放牧転換し
たG農場で植生改善と5月初旬からの早春
放牧により放牧草利用率を高め、6,000kg 以
上の高水準を維持出来ました(図4)。
1000
0
0
導 入 前1年 目 2年 目 3年 目 4年 目
経過年
2)飼料自給率の増加
経産牛の中で実際に放牧した頭数
を放牧牛比率とした場合、フリース
トール方式(G農場)では放牧転換と
同時にほぼ全頭が放牧され、繋留方
式(E農場)では放牧地の適正配置・
植生改善や放牧馴致及び淘汰・選抜
により徐々に比率が高まる傾向にあ
りました。飼料自給率は、放牧転換
した場合(G農場)に著しく増加し、
転換2年目以降の放牧期で 80%、
年間でも 60%以上と高い水準を維
持できました(図5)。
飼料自給率(%)
図 4 G農 場 の 放 牧 地 面 積 と h a当 た り
乳 生 産 量 の 推 移 (2 0 0 2 ~ 2 0 0 6 年 )
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
69
71
67
65
放牧期
舎飼期
年間
88
82
78
69 69
62
46
64
56
62
55
50
44
44
43
36
導入前 2年目
4年目 導入前 2年目
E農場 4年目
G農場
図5 集約放牧導入・放牧転換によ る 搾乳牛
の飼料自給率の推移(2002~2006年)
- 14 -
22
20
18
16
14
12
10
8
6
MUN(mg/dl)
採食量(DMkg/頭・日)
3)疾病事故の減少と乳中尿素窒素濃度の増加
舎飼いから放牧転換した場合、特に病傷
24
20 .8
20 .3
19.9
22
18.9
17 .4
事故率が着実に減少し、農業共済の評価基
20
準である「危険段階」が大幅に改善され、共
18
16
済費は導入前の 72%まで減少し改善効果が
14
見られました。
12
採食量(1年)
しかし、放牧への依存度が高まると採食
10
採食量(2年)
8
採食量(3年)
されたタンパク質とエネルギーのバランス
採食量(4年)
6
MUN(1年)
が崩れ、乳中尿素窒素(MUN)濃度を高めま
4
MUN(2年)
MUN(3年)
2
す(図6)。このため、濃厚飼料の粗蛋白質
MUN(4年)
0
含量を下げたり高エネルギー飼料の比率を
4月
夏
11月
4月
夏
11月
E農場
G農場
高める工夫や給与量の削減などが必要とな
図6 放牧草採食量とMUN濃度の関係
ります。
(2003-2006年)
4
2
0
4)労働時間の削減
年間の総労働時間は、集約放牧導入・転換により削減が可能です(表1)。舎飼いから放
牧へ転換した場合、粗飼料生産時間(粗飼料調製・施肥)が半減します。放牧する乳牛の比
率が高まると、給与・除ふん時間が削減できます。しかし、乳牛移動の時間は、放牧地が
遠くなったり車道を横断する場合に増加し、繋留方式では牛舎の出し入れにフリーストー
ル方式に比較 表1 集約放牧導入・転換による労働時間の変化(2002-2006年)
作業内容
E農場
G農場
項目
して多くの時
(時間) 1年目 2年目 3年目 4年目 導入前 1年目 2年目 3年目 4年目
間が必要とな 粗飼料 粗飼料調製 381
363
236
334
870
765
834
584
414
生産
施肥
105
126
115
110
410
469
337
153
215
ります。
125
73
54
29
10
173
728
680
900
724
117
215
2614 2279 2436 2668 3085 2917
2679 2478 2200 1138
763
914
1278 1320 915 1868
995
911
0
0
0
0
0
0
7910 7319 6856 6871 6250 6364
3
3
3
3
3
3
注1)1年目(2003年)は集約放牧導入及び放牧転換年を示す。
放牧地管理
牛移動
搾乳
飼養 給与・除糞
管理
育成管理
その他
総労働時間
専従者数(人)
放牧
管理
143
459
2402
883
1183
0
6241
3
58
470
3687
730
1095
158
6935
4
61
471
2468
1076
903
197
5805
4
4.放牧移行期の経営展開
1)集約放牧移行パターンの類型化
集約放牧への移行前の飼養管理等から、移行パターンを3タイプに分類しました。タイ
プⅠは放牧拡充型で、既存の放牧経営から集約放牧を積極的に経営に取り入れました。タ
イプⅡは放牧転換型で、通年舎飼管理から集約放牧に転換しました。タイプⅢは新規参入
型で、新規就農と同時に集約放牧を取り入れた経営です。
集約放牧への移行の動機は、事故率軽減と経営収支改善及び新規参入時の初期投資の軽
減などでした。
2)集約放牧への移行・転換に必要な年数
移行期間は、生産技術面では初期投資の完了と技術の普遍化、経営面では農業所得率 30
%を目安に改善傾向が見られるまでに必要な年数としました。放牧地の生産性向上や乳牛
の放牧草採食性、放牧牛の観察や管理する農場側の馴れなどには、長くて4~5年程度必
要です(表2)。タイプⅠは、放牧技術等に一通り熟知しており2~3年と比較的短い期間
で、タイプⅡは舎飼いからの転換であり、放牧技術の習得や草地等の整備及び牛群の放牧
馴致に時間がかかり4年以上必要です。タイプⅢは、通常ではリース事業等を活用してお
- 15 -
り、リース期間
の5年を目安に
経営基盤の整備
を行っており4
年以上が必要で
す。
表2 放牧移行時の農業収支と移行期間
農業所得率(%)
農業所得
タイプ 農家名
移行期間
導入前 移行期 安定期 導入前 移行期 安定期
37.9
42.6
2年
A
100
99
110
36.0
Ⅰ
B
100
110
30.3
33.6
3年
C
100
151
207
24.0
27.4
33.6
3年
E
100
124
98
32.0
34.3
31.2
2年
F
100
196
268
15.0
24.9
31.4
4年
Ⅱ
G
100
89
21.0
19.0
移行中
H
100
163
27.4
37.5
3年
Ⅲ
I
100
263
13.1
33.1
4年
J
100
7.5
移行中
注1)農業所得は導入前又は移行期を100とした割合。
注2)移行期間の移行中は、G、J農場とも5年目(2007年)に入っている。
3)経営収支の推移
集約放牧への移行・転換時には、生乳代金と農業経営費の両方の減少が見られます。放
牧転換に伴う初期投資は、最初の1~2年程度必要です。経営費全体の削減効果は、飼料
費や農業関係共済の経費減少により3年目頃から見られます。さらに、放牧牛の採食量を
的確に判断したり放牧依存度の増加など放牧技術の習得が、所得率を向上させ農業所得の
増加につながります(表3)。
表3 集約放牧農家の農業収支の推移
農業収入
タイプ 農家名
導入前 移行期 安定期
農業経営費
農業所得
農業所得率(%)
導入前 移行期 安定期
導入前 移行期 安定期
導入前 移行期 安定期
A
100
93
91
100
89
81
100
99
110 36.0
B
100
99
100
94
100
110
Ⅰ
C
100
131
146
100
124
127
100
151
207 24.0
D
E
100
114
99
100
109
99
100
124
98 32.0
F
100
116
127
100
103
102
100
196
268 15.0
Ⅱ
G
100
99
100
101
100
89
21.0
H
100
119
100
103
100
163
Ⅲ
I
100
108
100
84
100
263
J
注1)農業収入、経営費及び所得は、導入前(数年平均)又は移行期を100とした指数で表示。
37.9
30.3
27.4
34.3
24.9
19.0
27.4
13.1
7.5
42.6
33.6
33.6
22.2
31.2
31.4
37.5
33.1
5.移行マニュアルの提案
1)経営規模の設定
道北地域の先進的放牧酪農経営の調査から、営農条件別に「道北型集約放牧への移行マニ
ュアル」を作成しました。マニュアルは中規模経営を対象とし、タイプⅠ・Ⅱは飼養頭数
96 頭(うち経産牛 57 頭)、草地面積 65.7ha(うち放牧専用 23.1ha、兼用 14.2ha)、タイプⅢ
はリース事業を活用し、初任牛 40 頭、草地面積 46.1ha で就農する方式としました。
2)初期投資額の目安
放牧関連施設(牧柵・水槽・牛道等)と放牧地の簡易更新費用について、主に資材費につ
いて初期投資額をタイプ別に試算したものを紹介します(表4)。
試算額は、高張力線型の電気牧柵(メーカー施工基準)、牛道は山砂等による簡易な整地
及び簡易更新時の種子・肥料代です。外柵は2牧区分を一つとして2段張りで囲い、1日
当たりの必要面積は昼夜放牧で3a/頭×49 頭=1.5ha、日中放牧で2a/頭×49 頭=
1.0ha とし、10~20%の余裕を持たせて設定しました(図 7-1,7-2)。
- 16 -
表4 初期投資額の目安(資材費のみ)
1年目
2年目
3年目
総計
タイプ 施設
金額
面積(ha) 基数 金額
面積(ha) 基数 金額 面積(ha) 基数
面積(ha) 基数
電牧 専用地(3.4ha):22.4万円/区、兼用地(7.1ha):28.6万円/区、電牧器セット9.2万円
16.2
(牧区単価) 乾乳牛(1.0ha):12.2万円/区、育成牛(3.4ha):22.4万円/区、子牛(1.3ha):13.6万円/区
(電牧器セット)
16.2
6
水槽 専用地(3.4ha):6.2万円/区、兼用地(7.1ha):9.8万円/区
(牧区単価) 乾乳牛(1.0ha):3.8万円/区、育成牛(3.4ha):6.2万円/区、子牛(1.3ha):5.0万円/区
Ⅰ
簡易更新 専用地(3.4ha):14.4万円/区、兼用地(7.1ha):30.0万円/区
16.2
(牧区単価) 乾乳牛(1.0ha):4.2万円/区、育成牛(3.4ha):14.4万円/区、子牛(1.3ha):5.5万円/区
牛道
10万円
(牧区計) 217万円(専、兼用各1牧区と乾乳牛・育成牛・子牛の3牧区の合計)
電牧
22.1
152万円
15.0
92万円
37.1
水槽
9
45万円
5
27万円
14
Ⅱ 簡易更新 22.1
93万円
15.0
63万円
37.1
牛道
10万円
5万円
(年計)
300万円
187万円
電牧
17.1
79万円
14.3
95万円
31.4
水槽
6
26万円
6
27万円
12
Ⅲ 簡易更新 12.4
52万円
10.9
46万円
8.1
34万円 31.4
牛道
10万円
5万円
(年計)
167万円
173万円
34万円
注1)金額はいずれも資材費のみで、設置費用、播種機リース料及び消費税を含まない。
注2)電牧は高張力型方式とし、1年目に電牧器(1セット)92,000円を購入する。
注3)簡易更新は、作溝型播種機を用いてPR25kg/haとWC3kg/haを播種し、リン酸25kg/haのみ追肥。
注4)牛道は岩盤等を投入して簡易に整地した程度。
注5)タイプⅠは、電牧器(1セット)92,000円と専用、兼用、乾乳、育成、子牛の各1牧区分の費用。
170m
牛舎
68万円
10万円
217万円
244万円
72万円
156万円
15万円
487万円
174万円
53万円
132万円
15万円
374万円
放牧専用地は、2牧区を一つ
として外柵を2段張り、内柵は
簡易なポリワイヤー等で区分
します。
200m
放牧専用
3.4ha
2段張
金額
99万円
9万円
31万円
水槽は手前1カ所、木戸は牛
舎側に設置します。
水槽
牛道幅5~7m
牛道7m巾
バンジーゲート7m
図 7-1 タイプⅠの放牧専用地
200m
放牧専用
放牧転換時の放牧馴致(日中
放牧)を考慮して2~4牧区と
大きく設定し、外柵を2段張
り、内柵は簡易なポリワイヤー
等で適時大きさを調節できる
様にします。
水槽
4.8ha
240m
2段張
水槽
牛舎
牛道幅5~7m
牛道7m巾
バンジーゲート7m
図 7-1 タイプⅡの放牧専用地
- 17 -
水槽は手前と奥の2カ所、木
戸は牛舎側に設置します。
3)移行マニュアル
ここでは、舎飼いから集約放牧へ転換したタイプⅡ(放牧転換型)を紹介します(図8)。
移行期間は5年とし、草地整備・家畜管理及び技術習得の3項目について、年次別に取り
入れる放牧技術等を示しており、不安定な移行期の工程管理に活用できます。
図8 タイプⅡ(放牧転換型)の移行マニュアル
経過年
転換効果
2年目
3年目 4~5年目 6年目
経営 経営展開 放牧経営 放牧重視
移行期
安定期
集約放牧
形態
放牧形態 集約放牧
舎飼
日中放牧
日中~昼夜放牧 昼夜放牧
牧区再編
草地確保 放牧専用(ha) 面積確保
0
13.8
23.1
専・兼用
(中牧区)
(搾乳+乾乳+子牛) (搾+乾+子+育成)
比率調節
兼用地(ha)
0
9.4
14.2
採草地(ha)
65.7
42.5
28.4
28.4
28.4
草地
合計(ha)
65.7
65.7
65.7
65.7
65.7
整備
植生改善 簡易更新 PR草種導入
牧区検討
15-20ha
10-15ha
随時
採食性向上
放牧施設
牧柵
高張力電牧
専2段、兼1段張り
省力化
水槽
1基/2牧区
新設
牛道等
幅5~7m整備
随時補修
飼養技術 濃厚飼料 CP含量低減 CP18%,8-10kg/日 CP16-14%,6-8kg/日 CP14%,6kg/日 削減開始
3-5kg/日
削減
サイレージ・乾草飽食
飽食
削減開始
2-4kg/日
粗飼料
家畜 牛群管理 放牧誘導
省力化 放牧地レイアウト検討
放牧馴致
省力化
牧区再編
管理
群分け
放牧育成
子牛+乾乳放牧
育成放牧
(4群放牧)
放牧重視
繁殖管理 発情発見
目視観察
繁殖管理板・チョーク等
繁殖改善
エネルギー飼料増給
MUN対策 エネルギー補給
CP含量調節
MUN低下
経営管理 投資計画 低コスト化
投資検討
初期(1-2年)投資実施
低コスト
先進地視察
情報交換・支
放牧利用
体系化
移行マニュアル利用
(意見交換)
援
研修会参加
放牧レイアウト
省力化
技術
適正化
土壌分析
適正管理技術習得
習得 放牧技術 施肥管理
効率化
粗飼料生産 貯蔵量削減 生産計画見直し
情報交換・支
給与法 放牧型給与 先進事例研修
移行マニュアル利用
(意見交換)
援
繁殖
注1)放牧専用地には、乾乳用1.0ha(1年目)、子牛用1.3ha(1年目)、育成用3.4ha(2年目)の面積を含んで算出。
注2)飼養技術の各給与量は、放牧期における乾物給与量。
注3)図中の矢印は、重点(太線)、継続(実線)、随時(点線)をそれぞれ示す。
項目
作業
改善技術
目標
導入前
1年目
- 18 -
狭い放牧地でも集約放牧で高泌乳
北海道江別市
1.
百瀬誠記
経営概要
百瀬牧場は北海道江別市にあり、平成 10 年より放牧を実施しております。放牧地は約 10ha
と、経産牛約 50 頭に対して比較的小面積ではありますが、その条件の中で放牧地草を十分利
用し、高い乳生産に繋げる技術を日々模索しております。
【主な経営概要】
○経営面積
:
牧草地 35ha
○飼養頭数
:
経産牛
未経産牛
○施設
:
○平均乳量
2.
放牧地 14ha(うち搾乳牛用 10ha)
約 50 頭(うち搾乳牛約 45 頭)
約 35 頭
繋ぎ牛舎(繋留可能頭数
:
52 頭)
9,000~10,000kg
放牧に対する考え方
放牧期間は主に 5 月~10 月ですが、放牧開始時期は牧草の生長に関わらず、なるべく早め
(4 月下旬)に出すように心がけています。基本的に昼夜放牧ですが、天候、草地の状態、
乳成分の推移等を見ながら、放牧の仕方(牧区の区切り方、放牧に出す時間等)は臨機応変
に変更します。
放牧はあくまでも粗飼料給与方法の一つと考えており、高い乳生産を実現するために必要
な併給飼料は、必要に応じて給与しています。それでも放牧は飼料コストの削減につながっ
ており、また疾病の低減に対する効果や夏場の糞尿処理の効率化等に関してもメリットを感
じています。
3.
草地管理
放牧地の施肥は年数回実施しています。窒素施肥については季節により種類を変え、春は
尿素、夏・秋は硫安を施用しています。掃除狩りや追播は現在行っておりません。
4.
今後の主な課題(現在取り組んでいること)
・放牧地でのエネルギー飼料給与(糖蜜の給与を実践中)
・乳脂肪率の改善(放牧地の状態と乳成分の関係について検証中)
・よりコストの低い併給飼料の検討
5.
さいごに
放牧は飼料コストの削減だけでなく、繁殖や疾病に対する効果もあり、比較的小面積であ
っても経営に与える効果は大きいと思っています。またやり方によっては高い生産を得るこ
とも可能だと思いますが、放牧は一つではなく、それぞれの条件に適応した技術を追求する
必要があると思います。
様々な条件下で放牧を実施されている方々の経験、事例が蓄積され、技術として更に体系
化されていけば、いろいろな形で新たに放牧を取り入れる生産者も増えていくのではないか
と思っています。
- 24 -
「低投入持続型の放牧酪農で人も牛も幸せに」
北海道厚岸町
小野寺孝一
北海道の東、釧路管内の厚岸町で牛飼いをしています小野寺です。
1955(S30)年に農家の長男として生まれ、1963(S38)年に現在
地に移転入植しました。
農業高校を卒業と同時に、5歳年上の叔父と共同経営をスタートさせました。
1978(S53)年に総合資金で60頭収容可能な成牛舎、300トンのバンガ
ーサイロ、堆肥盤、尿貯めの建設、四駆のトラクター導入などで3,000万円
の投資を行い、負債総額は5,000万円を超えました。
1980(S55)年頃からデントコーンの作付を始め、4ha の土地に1年分
の生糞を投入していました。
放牧は、昼間だけで食べ残しが多く、全地掃除刈りをしていました。
当時は、まだロールべーラーが入っていなかったのでコンパクトベールの手積で、
大変な重労働でした。
出荷乳量のピークは、410トンで約80戸の農協の中では、上から8番目で
した。
何故、方向転換したのか?
それは、都合により共同経営を解消し、資産の買い取りで多額の負債を抱えた時
期でした。乳房炎など病気の多発で過重労働となり、牛舎で弁当を食べる日々が
続きました。それでも、絞らなければやっていけない、規模拡大こそ生き残れる
道だ!と信じきっていました。
そんな時に、マイペース酪農に出会いました。
マイペース酪農について
マイペース酪農のスタートは、1971(S46)年に始めた「別海労農学習会」
で、農政その他に振り回されずこの地域にふさわしい牛の飼い方と営農を進めて
いこうとする意味をこめていたそうです。
1991(H3)年5月に中標津町の酪農家、三友盛行さんを講師に迎えて開
催された学習会が大きな反響を呼びました。
それは、個々の酪農技術ではなく、農業観、営農哲学を根拠にした酪農であり、
その収益率が抜群に高い内容だったからです。酪農の基本は良い草を牛に与えて、
牛を健康に飼うこと。健全な土、草、牛でなければ、おいしい牛乳は搾れないし、
経営も立ち行かない。土、草、牛、糞尿、堆肥という循環を健全に保ち、その循
- 28 -
環の中から少しの牛乳と少しの牛肉をいただくのがが「農業としての酪農」とい
う生産方式。農業は「適地・適作・適量」がカギで、冷涼な根室地方の適作は牧
草。遅い循環にあわせて、収穫をひかえめにして営む酪農は、この風土に適した
農業。という内容だったようです。
そして、翌月の6月から「技術や数字を追いかけるだけではなく、農業の本質
をとらえ直し、酪農における経営、生活全般についてお互いに学び合って進もう」
と毎月1回交流会を開催してきました。あわせて、話し合った内容を通信として、
次回の案内と共に届けてきました。
おのでらふぁ~むのあゆみ
私達夫婦が、初めて交流会に参加したのは、1991(H3)年の11月でした。
当時は、夜8時からの開催でしたが、2歳と 5 ヶ月の二人の子どもを父母に預け、
後ろ髪を引かれる思いで参加しました。
参加者は、農民、獣医さん、学校の先生など様々でした。車座にすわり、この
1カ月にあった事を一人一人発言する。私達にとっては、とても新鮮でした。帰
りはいつも深夜でしたが、日々の忙しさで疲れ切った体でも、心に満たされるも
のがあり、とてもここち良い場所でした。
「配合は毒だ!」と言われ、私達は、次の日から配合を減らし、乾草をどっと
与えました。すると、乳量は減るわ、乾草は足りなくなって買う破目になるわで
大騒ぎでした。
「経済は後から付いてくる」という言葉を信じながらも電卓をたた
く毎日でした。
翌年から、昼夜放牧を開始し、デントコーンの作付を止めました。
「子牛は寝わ
らで育つ」と言われ、育成舎にバーンクリーナーを設置したり、
「握ると手にチク
チク刺さるような、硬い草が牛に良い」というので、牧草の収穫時期を遅らせた
りしました。
「牛は減りましたか?」が当時の交流会の合言葉でしたから、最初に
育成牛を減らして、それから徐々に経産牛も減らして行きました。
しかし、私達のこうした取り組みには、様々な難問や課題さらには高い授業料
を払ったこともありました。
それは、なんといっても多額の負債を抱えた重圧と家族との葛藤の日々でした。
周りの農家の人からも「3年でつぶれる」
「お前らみたいのが増えると農協が持た
ない」「怠け者の農業だ」などと言われました。
それでも、後戻りすることはありませんでした。「農業は生き方の表現だ!」
と交流会の仲間に励まされ、気がつけば 17 年の月日が過ぎていました。
- 29 -
表1
91 年
92 年
94 年
98 年
01 年
03 年
05 年
06 年
07 年
乳量(t)
410
324
303
227
242
270
250
276
262
乳価(円)
79,3
78,5
75,4
74,6
75,5
76,2
73,1
69,6
70,5
生乳販売代
3,253
2,544
2,285
1,694
1,826
2,058
1,827
1,920
1,848
個体販売
663
497
236
120
315
283
251
258
352
その他収入
204
228
84
61
151
275
217
272
353
収入計
4,120
3,269
2,695
1,875
2,292
2,616
2,295
2,450
2,553
肥料費
173
110
75
107
78
133
121
119
106
飼料費
941
487
325
309
339
379
349
382
386
支払利息
248
161
180
70
22
26
36
32
28
その他経営費
1,097
970
675
523
631
749
679
733
820
支出計
2,459
1,728
1,255
1,009
1,070
1,287
1,185
1,266
1,340
農業所得
1,661
1,541
1,350
866
1,222
1,329
1,110
1,184
1,213
40,3
47,1
51,8
46,2
53,3
50,8
48,4
48,3
47,5
573
694
671
370
259
163
237
241
237
草地面積(ha)
64
64
64
67
53
72
72
72
72
経産牛
57
55
52
45
42
44
42
44
42
育成牛
58
35
20
22
21
25
14
22
24
所得率
資金返済
表1は、我家の 1991(H3)年から 2007(H19)年までの経営概況です。91 年と
比べると 92 年は、乳量を約 90 トン減らしています。収入合計では、850 万円減り
ましたが、所得は 120 万円の減少ですみました。しかし、98 年には、出荷乳量が
227 トンまで落ち込み所得も 900 万円を割り込みました。
この時は、M資金を借りてしのぎました。ここで気がついたのが、乾草神話で
した。 三友盛行さんは、今でも冬は乾草一本ですが、この体系だとやはり 5,000kg
代が限界かなと思います。それと同時に三友さんのモノマネでは駄目だと考えま
した。それからは、ロールサイレージも取り入れるようになり、乳量も 6,000~
6,500kg になりました。
2003 年に、隣の農家が離農して19ha の農地を取得しましたが、思ったように
収量が望めず、足りなくなって購入しなければならなくなりました。
やはり、離農するということは、それなりの理由があるということがわかりま
した。それでも、堆肥の投入でかなりの改善がみられました。
- 30 -
マイペース酪農の仲間の営農実態
表2
マイペース型酪農20戸
別海町 B 農協の平均
の平均
草地面積
54㌶
80㌶
成牛換算頭数
54頭
120頭
配合飼料(1頭/年)
876kg
年間出荷乳量
271トン
2,599kg
531トン
表2は、マイペース酪農の仲間からアンケート方式で得られた 20 戸の営農実態
の平均と別海町B農協全体の平均値との比較です。
表3
マイペース型酪農営農実
別海町 B 農協の平均
績を交流して来た9戸の
平均
総収入
2,671万円
4,595万円
所得額
1,101万円
907万円
所得率
41%
19,7%
草地当たり の所得(所 得万円/草
20万円
11,3万円
地㌶)
表3は、長年にわたり交流会で営農実績を交流してきた 9 戸の平均と別海町B
農協全体の平均値との比較です。
これらの表からマイペース酪農の仲間たちは、規模が小さく、一見、生産が劣
るように見られますが、その所得率も所得額も上回っています。
所得率が高く、経費が小さいということは、人間の労働力の投入も小さく、即
ち生活時間にも余裕が生まれます。
草地面積当たりの所得が高いということは、この大地からしっかりと生産をあ
げていることも意味します。
安らげる農村空間と心豊かな農民をめざして
以上、おのでらふぁ~むのあゆみとマイペース酪農について報告させていただ
きました。
しかし、まだまだこれからやるべき事がたくさんあります。
- 31 -
まずは、放牧地に木を植えることです。これまでも、毎年植えてきましたし、今
年は、シラカバを中心に 300 本ぐらい植えましたが、まだまだ足りません。
木がたくさんあると、牛の日陰だけではなく保水により干ばつに強い草地にな
ると聞きました。また、土の流亡も防げるのではないでしょうか。
つぎに、活性水の利用も是非考えて行きたいと思います。マイペース酪農の仲
間も何軒か施設整備して実績をあげています。ただ、それなりの投資が必要にな
るので、なんとか安価で出来るよう模索中です。
最後になりますが、この 17 年間多くの皆さんに支えられて私達は歩んできまし
た。その感謝の気持ちをこめて、1999(H11)年から毎年秋に「牧場祭」を開催
して、今年で 10 回目になります。
我家で 1 年間育てた牛の肉や野菜を食べてもらっています。毎回、50~60
人くらい来て下さいます。
牧場祭も含めて 1 年中、たくさんの人がおのでらふぁ~むを訪れてくれます。
若い人からは、元気をもらいます。学者先生方からは、営農や生活のヒントを頂
きます。
まさに、マイペース酪農との出会いは、多くの人々との出会いであり、私達の
何よりの成果であり財産です。本当にありがとうございました。
- 32 -
◆放牧畜産基準認証制度の概要◆
参考資料
放牧畜産基準認証制度の概要
(1)放牧畜産基準認証制度の目的
放牧は、地域の土地資源(草地)を活用した、土―草―家畜が結びついた資源循環型の畜産
です。放牧によって健康的に飼養された家畜からは、低コストで良質な畜産物を産出すること
ができます。また放牧は、わが国の食料自給率の向上、国土の有効利用と環境保全、緑空間等
の景観の提供、アニマルウェルフェアの向上といった観点からも、その普及推進がのぞまれて
います。
(社)日本草地畜産種子協会では、このような放牧を取り入れた畜産(放牧畜産)を普及推
進するため、放牧畜産基準を制定し、その認証制度を創設することにしました。この制度が、
広く消費者から支持が得られるとともに、認証表示(放牧畜産の共通マーク)を通じて、放牧
畜産によって生産される畜産物の生産がより拡大し、ひいては放牧畜産の普及推進につながる
ことを期待しています。
(2)放牧畜産基準認証制度の全体概要
畜産は、家畜の成育段階によってその経営が分業化し、それぞれの飼養管理方法には独自の
工夫がほどこされ、畜産物が消費者に届くまでには生産者以外の処理・加工業者、製造業者等
を経るのが一般的です。
そこで、まず放牧畜産を実践する生産者が順守すべき「放牧畜産基準」を設定し、この基準
をみたした放牧を実践する畜産経営を「放牧畜産実践牧場」として認証します。実際に、この
対象になるのは酪農経営と肉用牛経営です。
つぎに、放牧畜産によって生産される生産物を認証表示するため、追加的な基準としてつぎ
の個別基準を設定し、それぞれ認証手続きを行うこととなります。
放牧畜産実践牧場のうち、酪農経営から生産されるのは生乳です。この生乳を原材料として
製造する牛乳(飲用乳)を「放牧酪農牛乳」として表示し、販売しようとする場合、
「放牧酪農
牛乳生産基準」を適用します。同様に、この生乳を原材料として製造する乳製品(ここではチ
ーズ、バター、ヨーグルト、アイスクリームに限定します)を、
「放牧酪農チーズ」、
「放牧酪農
バター」、
「放牧酪農ヨーグルト」
、
「放牧酪農アイスクリーム」として表示し、販売しようとす
る場合は、
「放牧酪農乳製品生産基準」を適用します。それぞれ表示するためには、その基準に
基づいて生産されていることを証明するなど、認証手続きを行うこととなります。
また、放牧畜産実践牧場の酪農経営において、放牧期間中に生産された生乳を原材料とする
牛乳については「放牧牛乳生産基準」を、乳製品については「放牧乳製品生産基準」を適用し、
それぞれの基準に基づいて生産されていることを証明するなど、認証手続きを行うこととなり
ます。
放牧畜産実践牧場のうち、肉用牛経営では、繁殖経営から直接生産されるのは子牛です。こ
の子牛を「放牧子牛」として表示し、販売しようとする場合は、
「放牧子牛生産基準」を適用し、
- 36 -
この基準に基づいて生産されていることを証明するなど、認証手続きを行うこととなります。
さらにこの放牧子牛(肥育素牛)は、肥育経営において肥育されますので、生体出荷するまで
の肥育段階は「放牧肥育牛生産基準」を適用し、最終的に肥育された放牧肥育牛はと畜、保管、
カットされ、牛肉として消費者に販売されるまでの過程については「放牧牛肉生産基準」を適
用し、すべての事業者の確認が必要となります。
放牧畜産実践牧場から生産される生産物が、処理、加工、製造されていく過程と、そこで適
用される基準と認証表示の対応は次頁に示すとおりです。
(3)放牧畜産基準の考え方
放牧畜産基準は、上記のことから、①放牧畜産基準、②放牧酪農牛乳生産基準、③放牧酪農
乳製品生産基準、④放牧牛乳生産基準、⑤放牧乳製品生産基準、⑥放牧子牛生産基準、⑦放牧
肥育牛生産基準、⑧放牧牛肉生産基準,の 8 基準で構成されます。各基準の基本的考え方はつ
ぎのとおりです。
①放牧畜産基準: 放牧を広く普及推進するために、放牧を実践する生産者が順守すべきガ
イドラインとして制定します。この基準を適用するのは酪農経営と肉用牛繁殖経営です。当基
準にしたがって放牧を実践する畜産経営(牧場)は、所定の認証手続きを経て「放牧畜産実践
牧場」として表示することができます。
なお、この基準が個々に規定する内容は、「1. 目的」にそって必要最小限の順守事項を定め
ています。したがってこの基準は、個別に畜産経営者や関係事業者が、より厳格なレベルで放
牧を実践することを制限するものではありません。
②放牧酪農牛乳生産基準: 放牧畜産実践牧場(酪農経営)から供給される生乳を原材料と
して牛乳(飲用乳)を製造し、
「放牧酪農牛乳」として表示し、販売しようとする場合に適用し
ます。放牧酪農牛乳は、通常の牛乳と同様に、生乳の殺菌処理から包装する段階まで、衛生管
理、品質管理に関する法令をすべて順守し、すべての段階において分別管理が求められます。
③放牧酪農乳製品生産基準: 放牧畜産実践牧場(酪農経営)から供給される生乳を原材料
として乳製品を製造し、
「放牧酪農チーズ」
「放牧酪農バター」
「放牧酪農ヨーグルト」」
「放牧酪
農アイスクリーム」として表示し、販売しようとする場合に適用します。
なお、この基準では乳製品の範囲をチーズ、バター、ヨーグルト(はっ酵乳)、アイスクリー
ムに限定します。また、通常の牛乳と同様に、生乳の殺菌処理から加工、製造、包装する段階
まで、衛生管理、品質管理に関する法令をすべて順守し、すべての段階において分別管理が求
められます。
④放牧牛乳生産基準: 放牧畜産実践牧場(酪農経営)において、放牧期間中(ただし放牧
を開始して 10 日後から放牧終了日まで)の乳牛から生産される生乳を原材料として牛乳(飲用
乳)を製造し、「放牧牛乳」として表示し、販売しようとする場合に適用します。放牧牛乳は、
通常の牛乳と同様に、生乳の殺菌処理から包装する段階まで、衛生管理、品質管理に関する法
- 37 -
令をすべて順守し、すべての段階において分別管理が求められます。
⑤放牧乳製品生産基準:放牧畜産実践牧場(酪農経営)において、放牧期間中(ただし放牧
を開始して 10 日後から放牧終了日まで)の乳牛から生産される生乳を原材料として乳製品(チ
ーズ、バター、ヨーグルト(はっ酵乳)、アイスクリーム)を製造し、
「放牧チーズ」
「放牧バタ
ー」「放牧ヨーグルト」
「放牧アイスクリーム」として表示し、販売しようとする場合に適用し
ます。
なお、通常の乳製品と同様に、生乳の殺菌処理からチーズ、バター、ヨーグルト、アイスク
リームに加工、製造、包装する段階まで、衛生管理、品質管理に関する法令をすべて順守し、
すべての段階において分別管理が求められます。
⑥放牧子牛生産基準: 放牧畜産実践牧場で飼養されている母牛から生まれ、放牧をとり入
れて育成された子牛を「放牧子牛」として表示し、販売しようとする場合に適用します。
放牧子牛は、出荷時までに 3 か月以上放牧されている子牛とします。
⑦放牧肥育牛生産基準: 放牧子牛を肥育し、
「放牧肥育牛」として表示し、出荷しようとす
る場合に適用します。
肉用牛の肥育では、放牧をとり入れてそのコンセプトを最終製品(牛肉)に反映させるた
めには、いくつかの課題があります。そこでこの基準では、肥育段階においても可能な限り放
牧することを努力目標とし、かつ粗飼料多給によって肥育することを必須要件としています。
粗飼料多給による肥育は、地域内の土地資源の有効利用や家畜の健康管理といった観点から、
まさに放牧畜産基準の趣旨にかなった肥育方法といえます。
なお、放牧子牛(肥育素牛)は、放牧畜産実践牧場から導入されるのが原則ですが、つぎの
条件をみたしている場合に限り、放牧実践牧場以外(未認証の繁殖経営)からの導入を認めま
す:
- 供給元の繁殖経営(ないし一部の酪農経営・育成牧場等)を特定できる場合で、かつ
- 導入する子牛が、放牧子牛基準と同等に放牧され、飼養管理されていたことを証明できる
場合
⑧放牧牛肉生産基準: 放牧肥育牛を、と畜、処理、カット等を経て生産された牛肉を「放
牧牛肉」として表示し、販売する場合に適用します。衛生管理、品質管理に関する法令をすべ
て順守し、すべての段階において分別管理が求められます。
- 38 -
放牧畜産 による生産 物フローと基準認証表示
← 放牧畜産基準 →
←
放牧酪農牛乳/乳製品生産基準、 放牧牛乳/乳製品生産基準
(中間製品)
「放牧畜産実践牧場」
酪農経営
- 39 -
肉用牛繁殖経営
「放牧酪農牛乳」
「放牧牛乳」
(飲用乳)
乳業組合
乳業会社
酪農経営等
(生乳)
(ミニプラント)
「放牧子牛」
(肥育素牛)
肉用牛
肥育経営
「放牧肥育牛」
→
(最終製品)
と畜・加工等
業者
「放牧酪農/放牧チーズ」
「放牧酪農/放牧バター」
「放牧酪農/放牧ヨーグルト」
「放牧酪農/放牧アイスクリーム」
(乳製品)
「放牧牛肉」
(繁殖素牛)
(繁殖経営へ)
← 放牧畜産基準 →
← 放牧子牛生産基準 →
← 放牧肥育牛生産基準 →
←
放牧牛肉生産基準 →
→ 放牧畜産実践牧場、
(肥育経営)
(処理・加工業者)等
:放牧畜産実践牧場
→ 放牧畜産基準・認証表示の対象
:放牧酪農/放牧牛乳、チーズ、バター、ヨーグルト、アイスクリーム
放牧子牛、肥育牛、牛肉
39
放牧畜産基準 の構 成
放牧畜産基準・区分
基準を適用する者
認証表示の対象
放牧表示(表記)
- 40 -
①放牧畜産基準
乳用牛又は肉用牛を飼養し、放牧を実践する者
酪農経営
肉用牛繁殖経営
放牧畜産実践牧場
②放牧酪農牛乳生産基準
放牧酪農牛乳の処理・製造等を行う者
(乳業、酪農経営等)
飲用乳
放牧酪農牛乳
③放牧酪農乳製品生産基準
放牧酪農乳製品を製造する者
(乳業、酪農経営等)
チーズ
バター
ヨーグルト
アイスクリーム
放牧酪農チーズ
放牧酪農バター
放牧酪農ヨーグルト
放牧酪農アイスクリーム
④放牧牛乳生産基準
放牧牛乳の処理・製造等を行う者
(乳業、酪農経営等)
飲用乳
放牧牛乳
⑤放牧乳製品生産基準
放牧乳製品を製造する者
(乳業、酪農経営等)
チーズ
バター
ヨーグルト
アイスクリーム
放牧チーズ
放牧バター
放牧ヨーグルト
放牧アイスクリーム
⑥放牧子牛生産基準
肉用牛繁殖経営
(一部酪農経営等)
子牛
放牧子牛
⑦放牧肥育牛生産基準
肉用牛肥育経営
肉用牛
放牧肥育牛
⑧放牧牛肉生産基準
と畜・枝肉保管管理
加工・包装業者
牛肉
放牧牛肉
(放牧ビーフ)
40
放牧畜産基準
1. 目的
放牧を取り入れた畜産の生産方式(以下「放牧畜産」という。
)は、牧草地、シバ型草地、野
草地等の地域の土地資源を活用した、土―草―家畜が結びついた資源循環型畜産である。家畜
にとって健康保持やアニマルウェルフェアの観点から優れた飼養管理方式であるばかりでなく、
健康的に飼養された家畜から低コストで良質な畜産物を産出することができる生産方式である。
さらに、この放牧畜産は、耕作放棄地の活用等国土の有効利用、保水、土壌流亡の防止等を
通じた国土保全、大気浄化等による環境保全、緑空間等の景観の提供等の機能を有するととも
に、国民への食育の場の提供等重要な役割を果たしている。
このため現在、各地に芽生えつつある放牧畜産の展開を一層促進することが重要となってお
り、放牧畜産の普及にあたっては、放牧畜産について消費者の理解を得ることが重要である。
この基準は、放牧畜産を実践する牧場(以下「放牧畜産実践牧場」という。
)が消費者の支持
を得るため、生産過程等において守るべき飼養管理事項について、全国の基本的な基準として
設定するものである。
2. 適用
この基準が適用されるのは、酪農経営および肉用牛繁殖経営である。
3. 家畜の由来(畜産物を生産する家畜)
(1)原則として、自らの経営内で本基準により飼養した家畜から生産、育成した家畜とする。
(2)やむを得ない理由により、
(1)の方法によって家畜を確保しがたい場合は、外部からの導
入を認めるが、この場合はその来歴の情報を開示することとする。
4. 放牧管理
(1)家畜 1 頭当たりの放牧地面積、放牧期間及び 1 日の放牧時間は、放牧により十分な粗飼料
摂取を可能とし、かつ、地域の自然・土壌・植生・草勢に応じ草資源の再生力を持続的に
維持することが可能なものとする。その具体的基準は、地域の自然条件により異なるが、
次の表のいずれかを満たすものとする。
- 41 -
植 生
牧草地
成牛換算 1 頭当たり
放牧地面積
放牧期間
1 日の放牧時間
25 a 以上
自然条件から見て放牧が可 昼夜放牧
能な全期間
夜間放牧又は昼間放牧
15 a 以上
自然条件から見て放牧が可 夜間放牧又は昼間放牧
能な全期間
シバ型草地
45 a 以上
自然条件から見て放牧が可 昼夜放牧
能な全期間
夜間放牧又は昼間放牧
野草地
90 a 以上
自然条件から見て放牧が可 昼夜放牧
能な全期間
夜間放牧又は昼間放牧
40 a 以上
自然条件から見て放牧が可 昼夜放牧
能な期間のうち 100 日以上 夜間放牧又は昼間放牧
とし、野草が衰退してきた
場合は、牧草地への転換を
行うことを条件とする。
(2)放牧方法は、集約放牧、輪換放牧、定置放牧等、地域の自然条件や経営条件等に適合する
方式とし、傾斜地での土壌流亡の防止、流水への牛の侵入防止、水飲み施設等の集合場所
での泥濘化の防止等、放牧地の適切な管理に努める。
(3)牛の生理上不可欠と認められる塩等のミネラルの給与、放牧草不足期における自家生産の
サイレージ等の補助飼料給与、子牛の発育遅延を防止するための別飼い飼料の給与は認め
られる。これらの飼料は、6 の規定を順守して生産した粗飼料、または経営外から導入し
た場合は「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律」
(以下「飼料安全法」という。
)
に基づく成分規格に合致したものを使用する。また同法に基づく対象家畜や使用上及び保
存上の注意が表示されたものについては、これにしたがって使用しなければならない。
5. 舎飼管理
(1)家畜の種付け、分娩、搾乳、飼料給与、悪天候時、冬期の放牧不可能期間等には畜舎内で
飼養できるものとする。
(2)畜舎は家畜に快適な広さがあり、通風、採光が良好で、床、パドック、飼そう等は清潔に
保ち、家畜にとって良好な衛生環境の保持に努める。
(3)舎飼時においても、家畜がパドック等で積極的に運動・日光浴をできるようにしなければ
ならない。
(4)舎飼時は、経営内で 6.の規定を順守して生産した粗飼料を十分に給与すること。経営外か
ら導入する飼料は、飼料安全法に基づく成分規格に合致したものを使用する。また、同法
に基づく対象家畜や使用上及び保存上の注意が表示されたものについては、これに従って
使用しなければならない。
(5)給与飼料への添加物は、農林水産大臣が飼料添加物と指定したものに限り使用を認め、か
- 42 -
つ、使用にあたっては飼料安全法に基づく成分規格及び飼料の製造方法の基準を順守する
ものとする。
(6)舎飼時に排せつされる家畜のふん尿は「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関
する法律」を順守し、適正に保管処理するものとし、ほ場散布前に腐熟化させるよう努め
るものとする。散布するほ場は経営内を原則とするが、販売等により経営外に供給する場
合は、供給相手側に適正な土地還元等環境に配慮した措置を講じるよう要請することとす
る。
(7)適切に保管処理された家畜のふん尿の散布は、河川への流入や悪臭を防止するために、緩
衝地帯の設置や散布方法等について適正な措置を講じなければならない。
6. 採草地、放牧地、飼料畑の管理
(1)採草地、放牧地、飼料畑への施肥は本基準で飼養した家畜から排出され、適正に処理され
たふん尿の散布を第一とし、これで必要な成分量が不足する場合は、外部から導入した堆
肥などの家畜ふん尿及び化学肥料を散布することができる。
(2)これらの土地へ散布する農薬は必要最小限とし、やむを得ず使用する場合にあっても、農
薬取締法で定める農薬毎の適用作物、使用時期、使用回数等を順守した使用に限る。
7. 繁殖管理
(1)繁殖は、人工授精、受精卵移植及び自然交配によるものとし、クローン牛生産や遺伝子を
直接操作した繁殖手段は用いない。
(2)要指示医薬品である繁殖用のホルモン剤は、獣医師の指示のもとに、薬事法に基づき動物
用医薬品として承認されたものを用量・用法、使用上の注意及び使用基準を順守して使用
するものとする。
8. 衛生管理
(1)本基準の順守により、家畜の健康を維持・増進し、疾病の予防に努めるものとする。
(2)薬事法に基づき動物用医薬品として承認された要指示医薬品であるホルモン剤、抗菌性物
質製剤、ワクチン及び駆虫剤は、獣医師の指示のもとに用法・用量、使用上の注意及び使
用基準を順守して使用するものとする。
9. 飼養管理等の記帳、開示
放牧畜産実践牧場として認証されるためには、以下の事項についてその内容を記帳し、証拠
書類とともに 8 年間の保管を行い、記帳内容の開示に努めることとする。
(1)放牧畜産物を生産する家畜及び外部導入家畜の来歴
(2)成牛換算 1 頭当たり放牧地面積
(3)放牧期間と 1 日の放牧時間
- 43 -
(4)放牧の方法
(5)放牧時に給与した飼料の名称、給与年月日、給与量、給与場所
(6)舎飼時の 1 頭当たり牛房面積
(7)舎飼時に給与した飼料の名称、給与年月日、給与量、給与場所
(8)使用した飼料添加物の名称と使用時期、使用方法、使用量
(9)家畜排せつ物の処理及び利用方法
(10)採草地、放牧地、飼料畑へ施用した堆肥の施用量と来歴、化学肥料の種類毎の施用量
(11)採草地、放牧地、飼料畑へ播種した種子の種類
(12)採草地、放牧地、飼料畑へ施用した農薬の種類、施用した飼料作物名、施用時期及び回
数、施用濃度、施用量
(13)繁殖方法
(14)治療履歴と使用したホルモン剤、抗菌性物質製剤、ワクチン、駆虫剤及び忌避剤等の動
物用医薬品の名称と使用方法、使用量
10. 情報公開
放牧畜産実践牧場は、消費者等から 9 について情報開示要求があった場合は、情報開示を行
うとともに、以下の項目についてインターネット等を通じ公開するよう努めるものとする。
① 当基準以外の自ら順守している生産基準等の内容
② 当該畜産物の販売方法等
③ 消費者との交流等放牧畜産の普及に関すること
- 44 -
◆現地検討会資料◆
①牧場タカラ(喜茂別町)
②レークヒル牧場(洞爺湖町)
ゆとりある生活のための放牧酪農
喜茂別町中里
牧場タカラ
1
所在地の概要
喜茂別町は後志支庁管内の東側に位置し、羊蹄山麓に広がる丘陵地帯である。馬鈴し
ょや食用ゆりを特産とする京極町や真狩村などと接し、また、石狩支庁の札幌市、胆振
支庁の伊達市と隣接する。
国道 230 号線の通る中山峠で販売される「あげいも」は、古くから観光客に親しまれ
また、峠からは自然豊かな羊蹄山の風景を展望できる。
喜茂別町の基幹産業は農業であり、1,350ha の耕地には、アスパラガスを代表とする
野菜や馬鈴しょ、てん菜等の畑作物が栽培されている。畜産農家は少なく、町内の酪農
家戸数は2戸である。
牧場タカラが所在する中里地区は、丘陵地を流れる尻別川沿いにあり、石礫の多い中
山間地帯での酪農経営を展開している。
2
牧場の概要
(1) 経営の特徴
乳牛の飼養頭数及び生産乳量は後志管内平均よりも少なく、経営規模は小さいが、
生乳の加工販売(牛乳、チーズ等)や修学旅行生を対象とした体験牧場を展開し、少
ない生乳生産に付加価値を付けている。
長男の信一さんは大学卒業後に就農し、酪農部門の責任者として手腕を発揮して
いる。また、後志放牧研究会の発起人として、管内には少ない放牧経営を志向する仲
間を集い、情報交換と技術の研鑽に努めている。放牧は 15 年前から取り組んでいる
が、近年、集約的な放牧に移行した。
「ゆとりある生活のための放牧酪農」を経営理念
に掲げ、家族が一丸となっ
た経営を展開している。
写真2 農場内の手作り看板
写真1 双子富士を望む放牧地の風景
写真3 農場で生産する牛乳と乳製品
- 45 -
(2) 家族及び農業従事者構成
家族構成
経営主
妻
年齢
斉藤 久
恵
信一
緑
愛三
美紗子
長男
妻
三男
妻
経営従事内容
57歳
57
経営の総括
哺育、体験牧場運営
31
39
25
31
酪農部門、飲用牛乳生産
飲用牛乳生産、ソフトクリーム生産
酪農部門、チーズ生産
チーズ生産
(3) 土地・施設・機械
項目
名称
規格・数
飼料作地
採草地
放牧地
30.0ha
12.0ha
搾乳方法
パイプラインミルカ
バルブクーラ
ユニット4台
1,200リットル
糞尿処理
堆肥舎
100m2
施設
搾乳牛舎
330m2
乾草庫
100m2
トラクタ
デスクモア
テッタ
80,60,60PS
1台
1台
レーキ
マニアスプレッダ
ロールベーラ
ラッピィングマシン
ブロードキャスタ
1台
1台
1台
1台
500リットル
機械
3台
1台
項目
名称
規格・数
牛乳
チーズ
ソフトクリーム
加工機材一式
(パスタンク、洗瓶機等)
(ソフトフリーザ)
200,70リットル
7リットル
写真4 搾乳牛舎の風景
写真5 生乳加工施設内の様子
(4) 乳牛飼養頭数・出荷乳量・乳成分の推移
平成16年に乳房炎の発生により経産牛頭数が減少するが、現在は30頭まで回
復する。育成牛の飼養頭数は12頭である。
- 46 -
乳成分は、放牧期間の5~10月にかけて乳脂肪、乳蛋白率ともに低下し、MUN
は上昇する。分娩時期は分散しているため、放牧期と舎飼期の生産乳量はほぼ同等。
(%)
(mg/dl)
35
5.0
200
30
4.5
25
150
25
4.0
20
100
20
3.5
15
50
15
3.0
10
0
10
250
生産乳量(t)
H19FAT
経産牛頭数
H15 H16 H17 H18 H19
30
H19MUN
H19PRO
2.5
5
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
図1 生産乳量と経産牛頭数の推移
図2 平成 19 年の乳成分の推移
(5) 放牧を導入した経緯
20年前頃までは舎飼いを中心とした飼養管理により、個体乳量は約 8,000kg 程度
であった。当時は放牧の依存割合は低く、乳牛の疾病は多かった。
15年前に放牧を始めるが、10年前に長男の信一さんの就農とともに本格的な放
牧を始め、最低限の施設整備でスタートする。その後、牧道や給水器の整備を進め、
3年前から集約的な放牧を開始する。
(6) 放牧方法
ア 牧区の配置図
NO
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
D①
D②
面積(ha)
1.0
0.8
0.7
0.7
0.7
0.7
1.2
1.5
1.0
1.0
1.7
0.7
0.3
主体草種
MF
MF
MF
MF
MF
MF
MF
KB
OG
KB
KB
KB
KB
※MF メドフェスク、KB ケンタッキーブルーグラス、OG
- 47 -
オーチャードグラス
12
イ
放牧期間
5月上旬~10 月上旬。泌乳牛用の固定牧区数は 11 区。季節や草量
に合わせ、固定牧区内を更に移動式ポールとワイヤーで分割する。1日
2牧区(昼夜)で転牧し、子牛を先行放牧させる。
ウ 放牧施設
外周は高張力線、中仕切はワイヤとリール、給
水器4、牧道の総延長は約 300m。
写真6 中仕切用のリール
エ
施肥管理
写真7 給水器は転牧時に移動
写真8 牧道沿に排水路を設置
化学肥料は使用しない。最終放牧後に堆肥散布(2t/10a)。
(7) 経産牛に対する飼料給与
ア 放牧期間
昼夜放牧、乾草、配合飼料(2kg)
イ 舎飼期間
ロールサイレージ、乾草
配合飼料(2kg)、BP(2kg)。
※配合飼料は非遺伝子組み換え飼料を利用
写真9 舎飼期に給与する
ロールサイレージ
(8) ふん尿処理
バンクリーナで搬出された糞尿はトレーラワゴンで受け、定期的に堆肥盤に搬入
される。堆肥と牛尿は採草地にも施用される。
3
放牧を実施している現在の課題
「集約放牧へ移行したばかりで課題は山積!」と話す斉藤さん。当面は、放牧地の生
産性を高め、放牧草による生産乳量を増加させたいと考えている。
そのために、簡易更新によるペレニアルライグラスの追播に努め、3年間で放牧地全
体の植生改善を進める計画である。
4
今後の目標
牧場タカラの労働時間は1人当たり約 1,800 時間。夕方の搾乳後にも自分の時間が取
れる作業体系である。「酪農家にもアフターファイブがあっても良いですよね」と笑顔
で話す。しかし、経済的なゆとりも大切と考えている。
現在の個体乳量は 6,000kg 代。濃厚飼料の給与量は少ないが非遺伝子組み換え飼料を
使っているため、乳飼比は低くないとのこと。
今後は、放牧の積極的利用と個体乳量の向上を両立し、所得の向上に努めるとともに
限られた土地条件下でも成功する放牧経営の確立を目指す。
- 48 -
- 49 -
1
タイトル
高泌乳牛を集約放牧で健康に飼う
2
洞爺湖町の概要(洞爺湖町ホームページから)
北海道南部に位置し、平成 18 年 3 月 27 日に虻田町と洞爺村が合併し、「洞爺湖町」として生
まれ変わりました。
東には伊達市、壮瞥町、北は豊浦町に接し、湖(洞爺湖)と山(有珠山)と海(噴火湾)に囲まれ
た自然豊かな町です。
洞爺湖町を中心とする地域は本道においても、もっとも気候温暖な地方で北海道の湘南地方
と呼ばれ、交通の便もよく観光景観に恵まれていることから北海道有数の観光地となっています。
3
レークヒル牧場の概要
(1)経営の特徴
昭和44年札幌オリンピック市街地化のため、牧場を札幌市より洞爺湖近くの丘に移転し、
昭和52年塩野谷牧場を(有)レークヒル牧場と改名し会社を設立した。
平成3年イタリアミラノにてアイスクリーム製造を学び、レークヒル牧場敷地内に工場を設立
し、平成4年にアイスクリーム製造販売(レークヒル・ファーム)を開始する。
平成13年から「体験牧場」を開始する。
(2)家族及ぶ農業従事者構成
氏
家
族
農業従事者
名
塩野谷幸一、万里江、通・孝二、久子、美奈、聡大、晄臣、勝也(9名)
塩野谷幸一、孝二・従業員2名(4名)
(3)土地・施設・機械
土地
施設
面積(うち借地)
・牛舎1棟
放牧地
13 ha
・倉庫2棟
採草地
38 ha (3 ha )
・堆肥舎1
飼料畑
9 ha
・尿だめ1
施
設
1 ha
・タワーサイロ4基(使用は3基)
合
計
61 ha (3 ha )
-1-
機械
・トラクター
4(95ps、85ps×2、75ps)
・マニュアスプレッダー
・ロータリハロー 1
・尿散布機 1
・デスクモアー
・プランター
1
・モアーコンディショナー
・レーキ
・テッター
1
1
・コーンハーベスタ
1
・ファームワゴン
2
・ロールべーラー
1
・グランドホック
1
2
1
1
・サイレージブロワー
1
(4)乳牛飼養頭数・出荷乳量・乳成分の推移
乳検成績(年間検定成績書)
牛群構成
区分
実頭数
年間乳量
単位
頭
t
H10
31.2
229.1
H11
28.4
208.4
H12
28.0
217.0
H13
38.1
333.5
H14
40.9
373.7
H15
41.7
403.9
H16
47.0
442.0
H17
52.3
486.0
H18
52.5
481.1
H19
48.0
460.3
乳量
kg
7,344
7,339
7,749
8,754
9,137
9,685
9,405
9,293
9,163
9,589
乳脂率
%
3.72
3.69
3.54
3.59
3.64
3.59
3.67
3.83
3.83
3.87
経産牛1頭当たり
無脂固形
乳蛋白 濃飼給与量 分娩間隔
%
%
kg
日
8.73
3.27
2,703
408
8.62
3.17
2,659
400
8.44
3.05
2,051
411
8.61
3.17
2,486
393
8.70
3.23
2,695
379
8.68
3.25
2,930
385
8.76
3.28
2,368
394
8.81
3.32
3,072
390
8.73
3.29
2,981
400
8.71
3.30
2,926
380
(5)放牧を導入した経緯
乳牛をずっと牛舎内で繋ぎ飼いすることについて、とても疑問を感じていていた。
乳牛飼養の本来あるべき姿は、放牧であると考えた。
このため、平成11年から放牧に取り組んだ。
放牧開始後は、乳脂肪率低下で2∼3年苦労した。この問題に対しては、グラスロールサ
イレージを積極的に給与し、乾物摂取量増加をさせて、改善した。
-2-
(6)放牧方法
ア 牧区の配置図
OG + PR 追播
OG + PR 追播
1.5 ha
1.5 ha
PR+WC
PR+WC
1 ha
1 ha
PR+WC
PR+WC
1 ha
1 ha
PR+WC
OG+PR+WC
1.5 ha
1.5 ha
(初妊牛用)
PR+WC
1 ha
(育成牛用)
OG + PR 追播
パドック
牛
※
1 ha
舎
草種の略称: OG (オーチャードグラス)
PR (ペレニアルライグラス)
WC (シロクローバ)
イ
放牧期間
4月下旬∼10月
ウ 放牧施設
平成11年∼16年:ガラガーエイジ
平成17年∼現在:サージミヤワキ
エ 施肥管理
施肥管理は、「エリック川辺
(代表施肥例)
氏
指導」のもとに、ほ場ごとに施肥量は異なる。
4月中旬:尿素4 kg / 10a
7月中旬:硫安3 kg / 10a +塩加5 kg / 10a
-3-
(7)経産牛に対する飼料給与
ア 放牧期間
放牧( 9:30 ∼ 16:00 ・ 19:00 ∼ 6:00
昼夜放牧)
コーンサイレージ20kg/頭・日
グラスサイレージ(ロール)は搾乳時間(牛舎内)に飽食
濃厚飼料は、上限を7kg/頭・日として、
日乳量に対して受胎前牛1/6
〃
受胎後牛1/8
ビートパルプ2 kg /頭・日
イ
舎飼期間
コーンサイレージ25kg/頭・日
グラスサイレージ(ロール)飽食
(夜には掃き寄せを実施している)
濃厚飼料は、上限を11kg/頭・日とし、日乳量に対して1/4
ビートパルプ2 kg /頭・日
(8)ふん尿処理
尿は、尿だめ。ふんは、敷料(麦桿)と堆肥舎へ。
4 放牧を実施している現在の課題
(1)放牧を導入してから10年が経過したが、牧区の仕切り方には、まだまだ改善の余地があ
る。
(2)牛道の整備が必要である(降雨後には牛道がぬかる)。
(3)7月中旬に放牧地の掃除刈りをすると秋の草量が不足する。
5 今後の目標
購入飼料価格が高騰するなかで、現在よりも濃厚飼料給与量を減らし、乳量が減少しても、
放牧主体とコーンサイレージ通年給与によって、飼料自給率を向上させて、酪農所得の確保を
図っていく。
-4-
第8回 放牧サミット開催要領
主 催
後 援
協 賛
社団法人日本草地畜産種子協会
北海道、社団法人北海道草地協会、 ホクレン農業協同組合連合会
北海道放牧酪農ネットワーク
1.テーマ
「配合飼料高でも収益性の高い放牧酪農を推進しよう」
平成 18 年 10 月以降の配合飼料価格の高騰は、輸入穀物に依存した我が国の酪農に危機をもたらし
ており、飼料基盤に立脚した畜産の確立が喫緊の課題となっている。中でも放牧は、飼料費、家畜ふん
尿処理コストの低減等生産コストの低減効果が大きく、配合飼料価格が高騰している今こそ、放牧酪農
による生産コストの低減効果、放牧酪農の高い収益性、資源環境型酪農の有利性等を明らかにし、放 牧
酪農の効果・魅力を関係者が再認識するとともに、様々な放牧酪農の取り組みについて研修し、飼料 高
に打ち克つ放牧酪農の一層の普及定着に資するものとする。
2.開催日時 9月17日(水)13時~9月18日(木)16時
3.開催場所
(1)講演会・パネルディスカッション(9月17日)
北海道札幌市北区北8条西5丁目
北海道大学 クラーク会館 大講堂
(2)現地検討会(9月18日)
喜茂別町及び洞爺湖町
4.日程
第1日目 9月17日(水)
【 講演会・パネルディスカッション】
13:00~17:30
(受付)
12:00~13:00
(1)開会、挨拶
13:00~13:20
(2)講演
①「飼料高でも放牧酪農はこんなに有利」
帯広畜産大学准教授
13:20~14:00
花田 正明 氏
②「舎飼から放牧酪農への転換のための技術」
14:00~14:40
北海道立根釧農業試験場 技術普及部次長
石田 亨 氏
( 休 憩 )
14:40~15:00
(3)事例発表
①「狭い放牧地でも集約放牧で高泌乳」
15:00~15:30
北海道江別市 百瀬牧場 場長
百瀬 誠記 氏
②「低投入持続型の放牧酪農で人も牛も幸せに」
北海道厚岸町 おのでらふぁ~む 代表
- 53 -
15:30~16:00
小野寺 孝一 氏
(4)パネルディスカッション
16:00~17:10
「なぜ今、放牧酪農か」
コーディネーター 近藤 誠司
氏
北海道大学教授
パネラー
小林 博行
氏 農林水産省生産局畜産部草地整備推進室長
落合 一彦
日本草地畜産種子協会 放牧アドバイザー
他講演者及び事例発表者
(5)放牧畜産基準の説明
(社)日本草地畜産種子協会
17:10~17:30
(6)閉 会
17:30
(7)懇親会
京王プラザホテル札幌
札幌市中央区北5条西7丁目2-1
電話番号:011-271-0111
第2日目 9月18日(木)
【現地検討会】
集合・出発場所
7:45 テレビ塔集合
1班:10:00
18:00
7:45~16:00
8:00 出発
喜茂別町 牧場タカラ (定置放牧から集約放牧へ)
11:35
(昼食)
13:00
洞爺湖町 レークヒル牧場 (高泌乳牛を集約放牧で健康に飼う)
15:25
札幌駅
2班:8:00 テレビ塔出発→10:30 レークヒル牧場→11:35 昼食→12:45 牧場タカラ→15:35 千歳空港
5.会 費
参 加 費
懇親会費
1,500円(内訳:18日昼食代)
5,000円
6.参加申込方法
別紙参加申込書に記入のうえ、FAX、郵送又はメール(HPの申込書)でお願いいたします。
7.問い合わせ
(社)日本草地畜産種子協会
〒104-0031 東京都中央区京橋1-19-8 大野ビル
TEL 03-3562-7032
FAX 03-3562-1651
E-mail :[email protected]
H P :http://souchi.lin.go.jp
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