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FRICSにおける分布型洪水予測モデル検討の 方向性

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FRICSにおける分布型洪水予測モデル検討の 方向性
FRICSにおける分布型洪水予測モデル検討の
方向性と課題
深見
親雄1・吉村
英司2・黒田
尚吾3・井上
靖生4
1財団法人河川情報センター
研究第一部 部長
研究第一部 主任研究員
3
元財団法人河川情報センター 研究第一部 研究員
4
財団法人河川情報センター 研究第一部 研究員
2元財団法人河川情報センター
分布型流出モデルを用いた洪水予測システムが、河川管理の実業務において本格的に活用され始めてき
た。 財団法人河川情報センターにおいては、これに先駆け、レーダ雨量の利用が開始され始めた平成13
年からレーダ雨量計運用管理による合成レーダ雨量の精度向上とあわせ、その利用技術の一つとして、い
ち早く洪水予測システムに分布型モデルを適用するための研究開発を開始し、FRICS独自の合成レーダ雨
量を用いた分布型洪水予測システムを開発、分布型洪水予測分野の発展・精度向上に努力しているところ
である。 本稿では、財団法人河川情報センターのこれまでのFRICS分布型洪水予測システムの構築・検
討経験に基づき、財団法人河川情報センターが目指す洪水予測に用いる分布型モデルの方向性とともに、
モデル検討における課題を示したものである。
Key Words :分布型流出モデル、洪水予測,レーダ雨量、水文観測
1.分布型流出モデル
分布型流出モデルとは、対象流域をメッシュ単位
等に分割し、レーダ雨量等を入力することにより、
精度の高い流出解析を行なうことができる流出モデ
ルである。
集中型流出モデル
【雨 量】
R1
R2
R3
地上雨量
(ティーセン分割)
【流【出
量】 】
流出量
(分割流域・メッシュ毎
(基準地点))
R1
R2
R3
Rn
レーダ雨量
(1kmメッシュ)
流 域
斜面
1
斜面
2
斜面
3
斜面
n
Q
Q1
Q2
Q3
Qn
流出量算定地点の予測流量
図-1
Rn
流域平均雨量 Rave
【流域特性】
(単位流域毎)
分布型流出モデル
(1kmメッシュ毎)
(任意地点)
流出量算定地点の予測流量
集中型モデルと分布型モデルの概念図
分布型流出解析モデルの各分割メッシュに適用す
る要素モデルやパラメータの取り扱い方には、種々
のタイプが用いられており、表面流についてはキネ
マティックウェーブ法で解く場合が多いが、浸透流
出については、主に
●概念的モデル(タンクモデルや貯留関数型モ
デルなど)
●物理的モデル(多層浸透流モデルなど)
などのほか、要素モデルのパラメータを
●ニューラルネットワーク
(要素モデルは問わない)
により算出しているものもある。
分布型モデルでは、全ての要素モデルについて
①降雨の時間的・空間的な分布の考慮
②任意地点における流出量の算出
が可能である。
これらのうち、要素モデルにタンクモデルや貯留
関数型モデルを適用しているもの(概念的モデル)
は、過去の観測データをもとに降雨―流出の応答関
係を解析し、メッシュ毎に適用するモデルであり、
取り扱いが容易である反面、過去の検証洪水に類似
した洪水については、平均的に良好な再現が期待で
きるものの、検証洪水に類似しない未経験の洪水に
対しては、同様の再現が得られない可能性がある。
また、物理的なモデルを使用する場合でも、種々
の観測誤差を含んだままのデータで検証を行ない、
主に洪水波形の適合度のみで評価することが多いた
め、パラメータ自体に観測誤差が含まれてしまい、
物理性に欠ける設定となることがある。
図-2
7-1
雨量分布による流出波形の違い
図-3
このようにモデル誤差を最小限に抑えた物理モデ
ルにより、リアルタイムで得られる水文観測誤差に
基づく予測誤差だけをフィードバックにより補正し
て予測演算することが洪水予測の目指すべき方向性
であると考えている。
このためには、
●降雨流出現象を忠実に表現できるモデル
●モデル誤差を最小にするための検証手法
●モデルに適用する物理パラメータの妥当性
といった課題に取り組むとともに、その後発生する
洪水を追加してモデル検証を継続的に行なうことに
より、洪水予測の精度向上を図ることが重要である。
任意地点における流出量の算出
一方、洪水の降雨・浸透から流出までの物理現象
を解析できるようにモデリングし、一定のパラメー
タで実際に流域で起きている流出現象を忠実に再現
できるような物理的モデル(パラメータは、透水係
数や空隙率などの一般的な物性値)は、検証するパ
ラメータ数に比例して検証ケースが増えるなど、モ
デル検証作業に多大な労力がかかるものの、パラメ
ータの妥当性や検証データ品質を踏まえた再現性の
評価を行い適正な検証を実施すれば、分布型の特徴
である前述の①、②に加え、
③地形や流域を構成する植生・土壌・地質等に
よって決まる流出特性の場所的な違いの反映
ができ、流域の持つ物理的な降雨流出特性を一定の
パラメータで表現可能な普遍性の高いモデルの構築
が可能であり、未経験の洪水に対しても、精度の高
い流出解析を行うことが期待できる。
ニューラルネットワークの場合は、基本的な流出
機構・特徴は、適用する要素モデルに準じるが、学
習経験の無い洪水については、再現性に課題がある
ものと考えられる。 また、要素モデルに物理的モ
デル(解法は物理的でも洪水毎にパラメータが異な
るようなモデル)を用いても、洪水の都度、同じ場
所の物性値(透水係数や空隙率など)が変化するな
ど、パラメータの物理的意味は明確でなくなってし
まう。
多層貯留関数型モデル
多層タンクモデル
q1
q1
H1
q2
S1
q2
H2
S2
●
●
●
●
●
●
q=kH(水深に比例)
q=kSP(貯留量に比例)
ニューラルネットワーク
多層浸透流モデル
H1
q1
H2
q2
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
●
i
q=kiH(ダルシー則)
図-4
【入力層】
【中間層】
・観測データ ・中間素子
【出力層】
・パラメータ
分割メッシュに適用する要素モデルの種類とニュ
ーラルネットワーク
要素モデルに概念的モデルを適用した場合
実況水文データに起因する予測誤差
2.FRICSにおける分布型洪水予測モデルの方
向性
フィードバック
観測誤差
検証データに含まれる水文観
測誤差に起因するモデル誤差
実況水文
データ
近年、過去に類を見ないような洪水(検証洪水に
類似しない洪水)が頻発しており、従来の概念モデ
ルを延長した分布型モデルでは、パラメータを変え
ない限り、十分な再現性が得られないことが大きな
課題であると言える。 このような洪水の予測を行
なう上で、モデル検証時と同様の再現性を得るため
には、流域で発生する降雨の流出現象を再現できる
普遍性の高い物理モデルを洪水予測システムに適用
することが最も合理的であると考える。
また、適用する物理モデルが、できるだけ忠実に
流域の降雨の流出現象を再現できるようにするため
には、初期条件の管理とともに検証データに含まれ
る水文観測誤差の影響が最小限となるように検証を
行なうことが重要である。
予測結果
降雨-流出の応答関係
f (x)
過去の降雨と流出の応答関係
から構築した概念モデル等
要素モデルに物理的モデルを適用した場合
実況水文データに起因する予測誤差
フィードバック
観測誤差
実況水文
データ
適切な検証で
モデル誤差を
最小化
予測結果
降雨の浸透現象・流出現象を
忠実に再現する物理モデル
図-5
7-2
従来の洪水予測モデルとFRICSが目指す洪水予測モ
デルのイメージ
3.FRICS分布型洪水予測システム
rainfall(mm/hr)
0
(1) FRICS分布型モデル
FRICSは、前述のように洪水予測システムに用い
るモデルとして、物理的モデルが最も優れていると
考え、FRICS独自の分布型流出モデルを開発した。
FRICSが開発した分布型流出解析モデル(以降、
FRICS分布型モデルという)は、対象流域を1kmメッ
シュ以下に細分し、メッシュ毎に短期流出に関係す
る比較的地表に近い地層を、表層・土壌層、風化基
岩層、基岩層で構成している。 表面流、浸透流
(飽和度に応じて逐次各層の透水係数を変化させる
など、非線形性を考慮した解析を行うことが可能)
を物理的に解析することにより、さまざまな洪水波
形に対しても、モデルパラメータをその都度変える
ことなく再現させる洪水予測に適した流出解析モデ
ルである。
モデルパラメータには、流域を構成する土壌や地
質などから決まる「透水係数」や「空隙率」といっ
た一般的な物性値のみを使用するモデルであり、十
分な検証を実施することにより、より普遍性の高い
パラメータ設定が可能であり、一定のパラメータで
種々の降雨に対する洪水波形の再現性を得ることが
できる。
5
10
15
流域平均雨量
20
5000
4000
3
discharge(m /s)
実績流量
江の川
尾関山地点
4500
流観値
最終定数
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
2004/10/23
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2004/10/22
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0
rainfall(mm/hr)
0
5
10
15
流域平均雨量
20
2500
3
discharge(m /s)
実績流量
江の川
粟屋地点
2000
流観値
最終定数
1500
1000
500
rainfall(mm/hr)
2004/10/23
00:00
2004/10/22
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2004/10/22
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2004/10/21
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00:00
流域平均雨量
15
1000
800
FRICS分布型モデルの概念図
実績流量
江の川
土師ダム地点
900
3
図-6
5
10
20
discharge(m /s)
地層流下
流下
河道
1km
Darcy則
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0
表面流
土壌
層か
浸透
らの
風化
流出
基岩
層か
らの
流出
基岩
層か
らの
流出
2004/10/20
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Kinematic
Kinematic
Wave法
Wave法
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00:00
0
レーダ雨量
700
最終定数
600
500
400
300
200
100
(2) FRICS分布型洪水予測システム
2004/10/23
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2004/10/20
12:00
2004/10/20
00:00
FRICS分布型洪水予測システムは、統一河川情報
システムとの連携を基本に、洪水予測に必要なレー
ダ雨量、水位、ダム諸量等の観測データをオンライ
ン取得し、6時間先まで10分毎の演算を行う24時間
365日稼動するリアルタイムシステムである。 自
システム内に移動解析による降雨予測プログラムを
内蔵し、データ取得から洪水予測演算、結果表示ま
でをマルチタスク的に処理することにより迅速な洪
水予測演算を実現している。 また、予測結果は
WEBによる閲覧が可能であるほか、統一河川情報シ
ステムに配信する機能を付加し、予測結果の情報提
供も可能としている。
2004/10/19
12:00
2004/10/19
00:00
0
図-7 FRICS分布型モデルの再現計算事例
統一河川情報システム
レーダ雨量
予測降雨
水位、地上雨量
ダム諸量
洪水予測システム
雨域移動解析
による降雨予測
表示端末
洪水予測結果の表示
降水短時間予報
分布型流出モデル
による流出予測
統一河川情報システム
への予測結果の送信
図-8 FRICS分布型洪水予測システムのシステム構成
7-3
4.洪水予測に用いる分布型モデル検討におけ
る課題
これまでのFRICS分布型洪水予測システムの構築
経験に基づき、分布型洪水予測モデルを検討する上
での主な課題について述べる。
FRICS システム
(1)河道における洪水波形の変化
予測結果流域図
河道における水位と流量の関係は、一般に一意的
な関係にはなく、増水時と減水時では大きく異なる
場合があることが知られている。 しかし、モデル
検証に用いるH-Q関係は、通常、一意的な関数で表
現されているため、そのH-Q関係を用いて洪水時の
観測水位から実績流量に換算するだけでは、このよ
うな現象を反映した物理的な検証は行うことができ
ない。 大きな高水敷を持つような複断面河道や蛇
行する河道では、実際の現象として
・低水路と高水敷間における運動量の交換
・緩勾配河道で顕著に見られる増水時と減水時の
水面勾配の違い
・河道内植生の洪水流に与える影響
・河道内における貯留効果
・河道の蛇行による影響
などがあり、これらの効果を洪水予測モデルでいか
に適切に表現するかは、検証時における物理モデル
の妥当性や洪水予測システムの精度向上における重
要な課題である。
FRICS システム
予測結果一覧
FRICS システム
河道予測グラフ
同水位においても、洪水上昇期・低減
期において最大約 1,000m3/sもの流量
差があることがうかがえる。
FRICS システム
図-10
河道予測表
複断面のモデル河道における水位と流量の関係を
二次元不定流解析で再現した既往の研究事例1)
Case1:植生有
Case2:植生無
植生の考慮がある Case1 のほうが、植
生の考慮の無い Case2 よりループ幅が
大きいことがうかがえる。
FRICS システム
メッシュ雨量図
図-11
図-9 FRICS分布型洪水予測システム画面例
7-4
平面二次元不定流モデルを用いた植生の有無によ
る水位―流量関係を解析した既往の研究事例2)
である。 その場合、モデル検証において、使用す
る水文観測データについては、十分な品質管理を行
い、
・系統的な誤差(バイアス誤差)がある場合には、
必要に応じて水文観測データを補正
・洪水・地点毎に異なる水文観測誤差(ランダム
誤差)や河道の影響等を考慮した上で、検証結
果の妥当性を評価(波形一致のみを優先した評
価をしない)
することが重要である。
(2)メッシュサイズとモデルサイズの関係
一般的にメッシュサイズを小さくすれば、物理モ
デルの再現精度向上には有利であると考えられる。
特に10数方キロというような小流域の場合には、
こうしたメッシュサイズの影響が大きいと考えられ
るが、図-12に示すようにある程度の流域規模以上
であれば、メッシュサイズが1kmでも250mでも同様
の再現は可能である。
メッシュサイズを小さくすると、モデル構築にか
かる労力・費用は増大するため、モデルのメッシュ
サイズの決定にあたっては、
・予測地点の流域規模
・レーダ雨量のメッシュサイズ(CバンドかXバン
ドか)
・地形、土壌・地質などのデータの解像度
を考慮して設定することが望ましい。
rainfall(mm/hr)
0
20
40
60
80
相関係数 0.93
総雨量比 0.99
補正
流域平均雨量
100
250
実績流量
250mメッシュモデル
200
discharge(m3/s)
1kmメッシュモデル
150
100
凡例 (単位:mm)
50
図-12
1999/09/15
14:00
1999/09/15
12:00
1999/09/15
10:00
1999/09/15
08:00
1999/09/15
06:00
1999/09/15
04:00
1999/09/15
02:00
1999/09/15
00:00
1999/09/14
22:00
0
図-13
1kmメッシュモデルと250mメッシュモデルの再現
計算の比較事例(流域面積 約70km2)
1000~
900~1000
800~900
700~800
600~700
500~600
400~500
300~400
200~300
150~200
100~150
50~100
0~50
レーダ雨量データの補正事例
(合成境界段差の補正)
(4)検証時における初期条件の妥当性
(3)モデル検証時における誤差の取り扱い
従来の貯留関数法はもちろん、分布型モデルにお
いても、洪水再現検証における初期条件の設定につ
いて明確な考え方がなく、一律に何%が飽和という
ような簡易な初期条件を与え、短期間の助走計算を
するなどして検証を行っている事例が多い。 しか
し、実際には流域の水分量は、時間的・空間的な分
布を有しており、その違いにより降雨に対する流出
の関係が大きく変化すると考えられる。 高精度な
分布型流出モデルを構築する上では、初期条件の違
いが、検証結果に与える影響は無視できず、検証洪
水毎に空間的・量的な初期条件分布を適切に表現し
た上で検証を行なうことは、非常に重要である。
FRICSモデルのモデル検証においては、パラメー
タ毎の初期条件、例えば、実際の予測システムで計
算される流域の土中水分量分布の状態と同様となる
実際の洪水予測においては、フィードバックを行
なわなければ、流出計算値と観測値が完全に一致す
ることはほとんどない。 これは、主に流出計算モ
デル自体の「モデル誤差」と水文観測値の持つ「観
測誤差」に起因する。 観測誤差を無くすことは難
しいが、モデル誤差を最小限とする努力は可能であ
り、降雨の流出機構をできるだけ忠実に再現する物
理モデルを採用することの意味はそこにある。
観測値には必ず誤差が含まれていることを前提と
して、誤差を最小限とした物理的な流出モデルによ
り流出計算を行い、洪水、地点毎に異なる「水文観
測誤差」分をフィードバックにより補正して予測演
算を行うことが合理的である。 このように、洪水
予測における誤差を切り分けて取り扱うことは、今
後、洪水予測モデルの精度向上を図るためには重要
7-5
rainfall(mm/hr)
よう、常に流域状態を再現しながら実施している。
0
5
10
15
流域平均雨量
20
3000
初期条件
:初期水分量 80%
:初期水分量 40%
:1 年間実降雨による
連続計算後
discharge(m3/s)
2500
2000
1500
1000
500
図-14
07/07/04
07/07/03
07/07/02
07/07/01
07/06/30
07/06/29
07/06/28
07/06/27
07/06/26
07/06/25
07/06/24
07/06/23
07/06/22
07/06/21
0
初期条件(初期水分量)を変化させた場合の洪水
波形の比較
(5)物理モデルに適用する水文学的な物理パラメ
ータ
物理モデルに適用する土壌や地質の透水係数や空
隙率などの物理パラメータについては、各種文献に
示されているが、
●土壌については、農耕地土壌分類起源のもの
(黒ボク土壌、低地土壌など)と、森林土壌分
類起源のもの(褐色森林土壌、赤色土壌など)
があり、必ずしも統一されておらず、水文学的
な物性値がほとんど整理されていない。
●表層地質については、ある程度の水理学的な物
性値が示されているが、「室内試験や屋外試験
など、必ずしも統一された方法により測定され
たものではない」こと、また「水文学的な観点
から体系的に整理がされているものがない」こ
とから各種物性値は大きな幅を持っている。
図-15
図-16
物理パラメータの文献例②4)
このように、マクロ的な水理・水文学的な観点の
物理パラメータが体系的に整理がされていない中で
は、流域の地質・土壌の状況を調査し、できるだけ
流域状況を反映したパラメータを設定することが重
要である。 また、モデルの物理性を崩さないよう、
流域の地質や土壌の持つ流出特性に係わるパラメー
タの序列(土壌や岩の透水性の相対的な大小関係
等)を守りながらモデル検証を行なうことも忘れて
はならない。
物理パラメータの文献例①3)
写真-1
7-6
現地調査事例
高精度の洪水予測を行なうためには、前述までの
課題に対し、関係部局が連携し、包括的に取り組む
ことが重要である。
褐色森林土壌
0
50
100
経過時間(秒)
150
200
250
300
0.0
0.5
1.0
水位低下量(cm)
1.5
謝辞:本稿の作成に貴重な資料提供をしていただい
た松山河川国道事務所、三次河川国道事務所に、こ
の場を借りてお礼申し上げます。
2.0
2.5
1回計測データ
3.0
3.5
4.0
4.5
2回計測データ
透水係数0.03cm/sec
(=1,080mm/hr)
透水係数0.02cm/sec
(=720mm/hr)
透水係数0.01cm/sec
(=360mm/hr)
参考文献
5.0
図-17
1) 井垣友孝,本永良樹,Maritess Quimpo,山田 正:水
位通水能曲線を用いた流量算定手法の実河川への適用
についての研究,第35回土木学会関東支部技術研究発
表会,Ⅱ-061
2) 竹森洋史:河川中・下流域の河道地形,〔特集〕なが
れと地形,ながれ24 (2005) 27-36
3) (編集委員長)中澤弌仁:改訂地下水ハンドブック,
建設産業調査会,平成10年
4) 岡山地下水研究会 代表 西垣 誠:実務者のための地
下水環境モデリング,技報堂出版株式会社,2003
現地調査による簡易浸透試験
4.まとめ
(1)今後の取り組みと展望
今後、財団法人河川情報センターとして
a) 要素モデルにおける物理的な流出現象のよ
り適切な表現手法の検討
b) 河道流量に含まれる河道形状等の影響の評
価と予測システムへの反映手法についての検
討
c) モデル検証におけるより適切な初期条件に
ついての検討
d) 流域規模(モデルサイズ)とメッシュサイ
ズについての検討
など、物理的な分布型モデルの高精度化に取り組む
とともに、
●広域的洪水監視への応用
●流域の土中水分量状態の情報を活用した土砂
災害危険度評価システムへの応用
●融雪出水のある流域への融雪予測モデルとの
組み合わせによる精度向上
●低水管理への応用
●物質輸送モデルへの拡張
など、FRICS分布型モデルの今後の展開に関しても
検討を実施していく予定である。
(2)最後に
精度のよい分布型モデルを適用した洪水予測シス
テムであっても、実運用に際しては、
●洪水予測に適用するHQ関係の適切な管理
●予備放流などの実際に行なわれるダム放流操
作の適用
●補助ダム、利水ダムのリアルタイムデータの
配信
●水文観測の精度向上
●降雨予測の精度向上
などの課題についても対応をしていかなければ、精
度の良い洪水予測は難しい。
7-7
On Flood Prediction system of FRICS Based on a Distributed-Parameter Runoff Model
Chikao FUKAMI , Eiji YOSHIMURA , Shougo KURODA and Yasuo INOUE
Usage of the flood prediction system based on a distributed parameter runoff model has started on the
real-time basis for the river and dam management / operation. We have improved the accuracy of the
radar rainfall data and began the research and development to apply the distributed parameter runoff
model to flood prediction system since 2001. We developed FRICS’s original flood prediction system
based on a distributed parameter runoff model using radar rainfall. Now , we are making an effort to
improve the accuracy of the distributed parameter runoff model. In this thesis, present status and
problems of flood prediction based on a distributed parameter runoff model construction is described
through FRICS’s experiences.
7-8
Fly UP