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地質学, 年代学による伊吹山地域に伝わる河道閉塞の伝承
地質学,年代学による伊吹山地域 に伝わる河道閉塞の伝承-のアプローチ 後藤 晶子 ,鈴木 和博 , 中村 俊夫,池 田晃子 ( 名 古屋 大学 年代測定総合研 究セ ンター) は じめに 河道閉塞 は地震や豪雨な どが要因 とな り生 じた斜面崩壊 な どの大規模 な崩落土砂が,山間部 をぬ うよ うに流れ る河川 を堰止 めることによって生 じる.2004 年 に起 こった新潟県中越地震では震源地付近で 多数 の河道閉塞が報告 され,特に芋川流域では集落が水没す るな どの甚大な被害が生 じた. 本研究地域である伊吹山地域では,その西か ら南斜面にかけて数回にわたる過去の大規模 な崩落 の痕 跡が確認 できる.伊吹山西麓の姉川流域 に堆積す る石灰岩 の崩落堆積物,姉川沿いに分布す る湖成層 ( 伊 吹町史編 さん委員会,2003 :小嶋 ら,20b6) の存在 か らも過去にこの地域で河道閉塞が生 じていた と 考えられ る. 一方,伊吹山地域には河道閉塞の存在や閉塞 の決壊 を思わせ る多 くの伝承,地名 が伝 わっている.こ のことか らこれ らの伝承が伝 え継 がれ ることが可能な有史時代に,大規模 な河道 閉塞が生 じている可能 性が指摘できる. 本研究では姉川流域 において現地調査 をお こ な うと同時に, 姉川沿いの湖成層か ら採取 した木 片,小枝,針状の葉試料の 14C 年代 を決定 した. さらに伊 吹 山地域 に残 る河道 閉塞 に関連す る伝 承,民話,地名 な どを調査 した. 現地調査 と試料採取 伊吹山西麓米原市,旧伊吹町の姉川流域 を調査 地域 とした.この地域では北か らほぼ南下す るよ うに姉川 が流れてお り; 伊吹山の西側か ら下流に かけての地域で, 石灰岩 を主 とした崩壊堆積物が 確認 された. それぞれの露頭で崩壊堆積物の固結 程度 に差がみ られ ることか ら,これ らが堆積 した 研究地域概要 ( 伊吹山,姉川地域) 崩壊の時期 は様々であると思われ る. 崩壊堆積物 km の長 さにわたって河岸段丘がみ られ る.姉川沿い,下枝並の より上流の東岸,西岸 にはおお よそ 3 C年代測定に用 いた木片,小枝 ,針状の菓試 集落付近の河岸段丘の下部にみつかった湖成層 中か ら, 14 料 を採取 した.この湖成層 は灰色の砂∼泥が細か く成層 してお り,非常に穏やかな環境下で堆積 した も のである.試料 を採取 した層のみで埋没 した植物片の濃集 がみ られた. 1 4C 年代測定結果 名古屋 大学年代測定総合研究セ ンター設置のタンデ トロン加速器質量分析計 を用いて湖成層 中か ら 採取 した木片,小枝,針状の菓試料 の 14C 年代測定をお こなった.その結果 を次に示す. - 121- 木片 n ol 我幹 ■■ 木片 no. 1 4525±25yBP 木片 n o . 2 木片 no. 2 4530±25yBP 木片 n o . 3 木片 no. 3 4570±25yBP 小技 小枝 4445±25yBP 葉 莱 4475±25yBP 帝 3 4 0 触 - - 我 好 珊 3 c m 塀 聯耕耕椀癖 瑚 野 32 03 : 刀∝1 2 8 C O d d3 t e ( ca J BC) 1 4 C年代測定によ り得 られた採取試料の年代 はおお よそ 4400-4600年前 ( 3020-3370c alBC ;縄 2003)の報告 した小泉層 の年代 ( おお よ 文時代前期頃)である.この年代 は,伊吹町史編 さん委員会 ( 00年前),小嶋 ら ( 2006)の報告 した新期堰止 め湖堆積物 ( おお よそ 5000年前) とほぼ同時期 で そ 45 あった. 流 域 決 " 蝉 人 物 伝承, 地名 の調査 姉川 には,土砂 崩 落時 を思 わせ る " 伊 吹弥三 郎伝 説", 河道 閉塞 に伴 う湖の様 子 を伝 えた " 湖水 伝 説", 壊時の有様 を語 り継 いだ " 蝉合伝説 "な どの多 くの伝承が残 され て い る.特 に " 伊吹 弥 三郎 伝 説", 合伝説"ではそれ ぞれモデル と され る が西暦 1 000年 頃,1300年頃 に この地域に存在す る.また この地域 には 舟 付 と呼ばれ る地名 が み られ , 舟で対岸 に 渡 った とい う言い伝 えが残 る.これ らの伝 承 や地名が土砂崩 落 に よる姉 川 の河道 閉 塞 を伝 えるものであ る と考 えた場合, 科学 的 な証 拠は見 出 され て い ない ものの有史 つ伝承 ・民話 姉川流域に伝わる河道閉塞 に結び 時 代 に もこの地域 に河 道 閉塞 が生 じてい く た 可能性が指摘 され る. ま とめ 姉川地域 に残 る伝承 は,その内容お よび伝承の継続性 の視 点か ら考 えて紀元後の ものであ り,本研 究 で得 られ た縄文時代前期頃の年代値 との直接的な関係 は指摘 できない. しか し,伊吹 山西斜面において 数回の崩落の跡が見 られ ること,現地調査 によ り多様 な崩落堆積物が確認 できた こと,紀元後 にも伝承 に残 され るよ うな河道 閉塞が生 じた と考 え られ ることか ら,この地域では伊吹 山斜面の崩壊 によ り紀元 前か ら河道 閉塞が繰返 しお こ り,それ に伴 う湖 が形成 されて きた可能性 が高い と考 え られ る. 引用文献 2003):伊 吹町史 自然編 ,314p. 伊吹町史編 さん委員会 ( 小嶋智,西尾洋三,徐勝 ,永滞智江,後藤紘亮,大谷具幸,矢入憲二 ( 2006):滋賀県東部,姉川流域 96207. に分布す るせ き止 め湖堆積物 の特徴 と 14C 年代,応用地質,47, 1 - 1 22- Geol ogyandc hr onol ogyofal ands l i dedammedl akes ugges t ed byf ol kl or eofMt .I bukiar ea Aki koGo t o, Kaz uhi r oSuz uki ,Tos hi oNakamur aandAki koI ke da ( Ce nt e rf o rChr o no l og ic alRe s e ar c h,Nago yaUni ve r s i t y) Lar ges c al el ands l i de so c c ur r e dr e pe at e dl yo nt hewes t e r nands o ut he r ns l o pe so fMt . I buki , shi gaPr e f e c t ur e,c e nt r よlJapan,anddammedupt heuppe rAne gawar i ve r( Ko j i mae ta1 . , 2006 ) . Lar ge s c al el ands l i de shavebe e no 氏e nt r i gge r e dbyhugeear t hquakeand ノ o rt o r r e nt i al r ai ne ve nt s . Pr e c i s edat i ngo ft hedamml ngl Si mpo r t antbe c aus eMt .I bukii sl o c at e di nt he pe r i o di ci nl andt ypehug ee ar t hquakear e ai nc e nt r alJa pan. Tode t e r mi net het i ml ngO f l ands l i de dammi nge ve nt ,wec ar r i e do ut1 4 C da t i ngo fl e af ,t wi gands t o c kf r agme nt s ,and c o l l e c t i ono ff わl kl o r eo fMt . I bukiaI , e a. TheAne ga war i ve rr unst hr o ug ht heVs hape dval l e yname dasSe mi ai Kyo ko kuwhe r et he de br i swase xc avat e d. Ar i ve rt e r r ac es pr e adso utmo r et han3kmf r o m Se mi ai Kyo ko kual o ng t heAne gawar i ve r . Thee xpos e ds e di me nt ar ys uc c e s s i o nc o ns i s t smai nl yo fa s i l tl aye r . Chr o no l o ic g als a 、 mpl e so bt ai ne df r o ms ames e di me nt ar yl aye randc al c ul at e dt hec al e ndarage; t hes ampl e ss ho w3020-3370c alBC( e ar l yJomo nPe r i od) . Thes t o r i e si nt hec o l l e c t e df わl kl o r es ugges tt hel ands l i dedammi ngandt hee ndo fdammed l ake. So meo fc har ac t e r si nt hes t o r i e sc o ns i de r e dt obebas e do nr e alpar s o nswhol i ve di nt he l l1 4c e nt ur y .I nge ne r al ,t hef o l kl o r ei spos s i bl et opas sdo wno ve rs e ve r alhundr e dye ar s . The r e f わr e, t hef わl kl o r edo e sno tr e l at et heJo mo ne ve nt . 1 4 C da t i ngandf わl kl o r eo fMt ,I bukiar e as ugge s tt hatal ands l i dedamme dl akewo ul d o c c urr e pe at e dl yo nAne gawar i ve r . Re f e r e nc e:Ko j i maS. ,Ni s hi oY. ,XuS. ,Nagas a waC. ,Go t oH. ,Oht aniT.a ndYa i r iK.( 2006 ) Li t ho l o g i cc ha r ac t e r sa nd 1 4C ag e so fdamme dl a ke告 e di me nt sa l o ngt heAne g a war i ve r , Eds r e r nShi gapr e f e c t ur e ,Ce nt r a lJa pa n.Jou r .Ja panSo c .Eng.G eo 1 . ,47,1 96207. 2 3 - - 1