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進行・再発胃癌に対する化学療法

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進行・再発胃癌に対する化学療法
胃
・
十
二
指
腸
1
進行・再発胃癌に対する化学療法
大阪市立大学大学院腫瘍外科
はじめに
平 川 弘
聖
いた3).ところが,第 III 相比較試験の結果が1991
本邦の胃癌患者は,胃癌検診の普及により早期
年に報告され4),FAMTX が FAM より奏効率お
のうちに発見されることが多くなったことや,治
よび OS において有意に優れていたことから,
療法の進歩などにより,
5年生存率が60∼70%まで
FAMTX こそが標準治療ではないかと考えられ
改善してきた.しかしながら,本邦では年間約 5
る よ う に な っ た.続 い て1997年 に ECF と
万人が胃癌により死亡しており,これは全癌死亡
FAMTX の 第 III 相 比 較 試 験 の 結 果 が 報 告 さ
1)
者の15%を占め,
肺癌に次いで多い .進行・再発
れ5),ECF の優位性が証明されたことから,現在
胃癌については,PS 0∼2の症例を対象とした,
欧米では ECF を標準治療とする考えがある.
BSC 群と化学療法群との無作為化比較試験の結
一方,米国においては DCF と CF の第 III 相比
果により,化学療法が生存期間の延長に寄与する
較試験(V325試験)が行われた.2003年に報告さ
ことが証明された(表1)
.このことから,日本胃
れ た 本 試 験 の 結 果6)で は,奏 効 率,TTP,MST
癌学会発行の胃癌治療ガイドライン
(第 2 版,2004
のいずれも DCF が CF より有意に優れていた(表
2)
「切除不能進行再発癌,非治癒切除症例
年)でも,
2).この結果をもって米国 FDA は2006年に DCF
に対して化学療法は第一に考慮されるべき治療
を進行胃癌の治療法として認めた.しかしグレー
法」としている.また,同ガイドラインには化学
ド3,4の副作用が DCF で81.4%と高く,治療関連
療法の適応基準として,
「PS 0∼2を対象とする.
死も10%に見られ,安全性の面で課題が残されて
PS 3以上は全身状態を考慮して投与を判断する」
いる.
としている.また,米国 NCCN のガイドラインで
欧米では歴史的に経口抗癌剤の効果について懐
は,PS 3以上は BSC とされている.しかし,どの
疑的であったが,最近は見直されつつある.FDA
レジメンが最も推奨されるかは,大規模な第 III
は1998年 に な っ て 経 口 抗 癌 剤 と し て は 初 め て
相臨床試験が現在進行しているところであり,消
capecitabine を進行乳癌の治療薬として認 め,
化器外科医は常に最新の胃癌化学療法の知識を持
2002年までに欧米で乳癌,大腸癌の治療薬として
つことが望まれる.
認可されている.同剤は1993年に本邦で創薬され
たもので,肝臓で代謝されて doxifluridine とな
1.胃癌化学療法の変遷
り,これを5-FU に代謝する thymidine phosphory-
進行・再発胃癌に対する化学療法は1950年代末
lase が腫瘍中に比較的高いことから,腫瘍選択的
から開始され,当初は5-FU や MMC などを key
な効果が期待されるフッ化ピリミジンである.胃
drug として,単剤あるいは併用による様々なレジ
癌における capecitabine の使用については,本邦
メンが試みられてきたが,長年にわたって大きな
は勿論のこと,欧米でも認可されていない.しか
治療成績の向上を認めることが出来なかった.
し,食道癌!胃癌または胃癌を対象とした 2 つの第
III 相 試 験(REAL 2お よ び ML 17032)に よ り
capecitabine の静注5-FU に対する非劣性が証明
(1)欧米における胃癌化学療法の変遷(表2)
されている.
1980年初めには FAM が標準治療と考えられて
1
進行・再発胃癌に対する化学療法
表 1 BSCvs
.
化学療法の比較試験成績
報告者
(報告年:雑誌)
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BSC
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表 2 欧米における切除不能・進行胃癌に対する臨床第 I
I
I相試験成績
報告者
(報告年:雑誌,学会)
レジメン
症例数
奏効率
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(2)本邦における胃癌化学療法の変遷
く標準治療が確立されようとしている.
本邦では,1980年∼2000年の時期は,欧米で施
2.治療ガイドラインにおいて効果が
行 さ れ て い た FAM,FAMTX,EAP な ど の レ
ジメンを使用する一方で,経口フッ化ピリミジン
認められているレジメン―本邦と
の UFT,doxifluridine,S-1などが独自に開発さ
欧米の相違―
れ臨床応用されてきたことが特筆される.また,
本邦では,胃癌治療ガイドラインに「胃癌に対
この時期は biochemical modulation を理論的根拠
する標準的化学療法として,フッ化ピリミジン
として FP,MTX+5FU,5-FU+LV による治療
(5-FU 等)と CDDP を含む化学療法が有望である
が盛んに実施された時期でもある.
2000年前後は,
が,国内外の臨床試験からも現時点では特定のレ
新規抗癌剤である CPT-11(1995),S-1(1999)
,
ジメンを推奨することができない」と明記されて
DTX(2000)
,PTX(2001)が相次いで本邦で保険
いる.一方,日本癌治療学会は2006年に発行した
認可された.2000年以降はこれら新規抗癌剤を含
進
「抗がん剤適正使用のガイドライン」7)において,
む大規模な第 III 相臨床試験が進行しており,胃
行・再発胃癌の化学療法として,表3に示すレジ
癌化学療法が始まって半世紀を経た現在,ようや
メンをエビデンスレベル II,勧告グレード B とし
2
2008年(平成20年)度前期日本消化器外科学会教育集会
て提示している.しかしながら,同ガイドライン
の結果が発表されたことから,これらのガイドラ
でも「現時点において進行胃がんに対する化学療
インが今後どのように改訂されていくかに注目さ
法の標準的治療法は存在しない」としている.た
れる.
だし,次の項で解説するように,2007年から2008
一 方,米 国 に お け る 推 奨 レ ジ メ ン は NCI の
年にかけて,本邦で行われた重要な第 III 相試験
PDQ や NCCN に公開されているが
(表4),本邦の
レジメンとは大きく異なる.この本邦と欧米のレ
ジメンの相違は,両者における胃癌の臨床病理学
表 3 本邦の進行・再発胃癌に対する化学療法レ
ジメン
(日本癌治療学会:抗がん剤適正使用のガイド
ライン― 2
0
0
6年―を編集)
的相違,医療環境の相違,薬剤代謝の相違などが
関係している.また,欧米の臨床試験では,胃癌
と胃食道接合部癌あるいは下部食道癌をまとめて
対象とすることが多く,厳密に胃癌だけを対象と
I
. 単剤
①静注 5
FU(±LV)
②経口フッ化ピリミジン:UFT,do
xi
f
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di
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,S1など
③ CPT1
1
④t
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ne
(PTX,DTX)
I
I
.併用
①5
FU+ CDDP
② CPT1
1+ CDDP
③ S1+ CDDP
④ MTX+ 5
FU
⑤ S1+ CPT1
1
⑥ CPT1
1+ MMC
する本邦の臨床試験の結果と同等に比較出来な
い.これらの理由から,本邦と欧米に共通する
global standard の確立は困難が予想される.
3.本邦における第 III 相比較試験の結
果と意義(表5)
(1)JCOG 9205試験
本邦では1990年代に FP 療法,特に5-FU+低用
量 CDDP が全国的に汎用されたが8),第 III 相試
上記レジメンはエビデンスレベル 2
,勧告グレード B
である.
験により有用性が証明されたものではなかった.
表 4 米国の進行・再発胃癌に対する化学療法レジメン
(2
0
0
8年 4月現在)
NCIの PDQ推奨レジメン
①5
FU
② ECF
③ CF
④ ELF
⑤ FAMTX
NCCNの推奨レジメン
① DCF(Ca
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y1
)
② ECF(Ca
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)
③ ECFmo
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(Ca
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)
④ CPT1
1+ CDDP(Ca
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B)
⑤ LOHP+ 5
FU
(または c
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B)
⑥ DCFmo
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(Ca
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B)
⑦ CPT1
1+ 5
FU(または c
a
pe
c
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)
(Ca
t
e
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y2
B)
Ca
t
e
go
r
yはエビデンスを根拠として NCCNのメンバーによ
りコンセンサスが得られた程度を表す.
Ca
t
e
go
r
y1は高いエビデンスレベルにより,統一したコンセ
ンサスが得られたことを示す.
Ca
t
e
go
r
y2
A,2
Bの順にコンセンサスの程度は落ち,Ca
t
e
go
r
y3は推奨に反対する意見も多かったものである.
3
胃
・
十
二
指
腸
1
進行・再発胃癌に対する化学療法
表 5 本邦における切除不能・進行胃癌に対する臨床第 I
I
I相試験成績
報告者
(報告年:雑誌,学会)
レジメン
症例数
奏効率
MST(月)
5
FU
UFT+ MMC
FP
5
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CPT1
1+ CDDP
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結論
FPの 5
FUへの
優越性なし
S1の非劣性
CPT1
1+ CDDPの
優越性なし
(3)SPIRITS 試験
JCOG によって FP 療法の有効性,生存期間延長
JCOG 9912で進行再発胃癌に対する標準治療と
を検証する第 III 相比較試験が行われ,2003年に
9)
そ の 結 果 が 報 告 さ れ た .UFT+MMC,FP,
された S-1を対象に,S-1+CDDP 併用療法の臨床
5-FU 持続静注の奏効率は FP 群が優れていたが,
的位置付け及び有用性を検討するための多施設共
MST は 3 者に有意差がなかった.このことより,
同第 III 相無作為化比較試験11)が行われた.図1に
FP の5-FU への優越性を示すことができず,5-FU
投与スケジュール,効果,および有害事象を示す.
単剤療法が次期比較試験の reference arm として
奏効率では S-1単独よりも S-1+CDDP の方が高
残った.
かった.また,MST は S-1単 独 が11カ 月,S-1+
CDDP が13カ月であり,CDDP 併用により有意に
(2)JCOG 9912試験
生 存 期 間 が 延 長 し た.PFS,TTF で も S-1+
10)
S-1や CPT-11+CDDP は進行再発胃癌に対す
CDDP が 勝 り S-1+CDDP の 有 効 性 が 証 明 さ れ
る第 II 相試験にて高い奏効率と安全性が報告さ
た.一方グレード3,4の有害事象は S-1+CDDP
れた.このような背景から,5-FU 持続静注に対す
で白血球減少,好中球減少,貧血,食欲不振が多
る CPT-11+CDDP 併用療法の優越性,および S-1
かったが,S-1,S-1+CDDP とも治療関連死亡は
単独療法の非劣性を検証することを目的とした第
認められず認容性も優れていた.以上より進行胃
III 相比較試験が施行された.その結果 MST から
癌に対する S-1+CDDP は,S-1単独に比べ有効で
みて,S-1単独の5-FU に対する非劣性は証明され
認容制にも優れており,標準治療の一つと位置付
たが,CPT-11+CDDP の優越性は証明できなかっ
けられた.
た.ま た 一 方,有 害 事 象 に お い て は CPT-11+
ところで,FP に対する S-1+CDDP の優越性を
CDDP において,好中球減少,下痢,悪心,食欲
検 証 す る26カ 国 が 参 加 し て い る 第 III 相 試 験
不振などの頻度が高く,治療関連死を1.3%に認め
(FLAGS 試験)が現在進行中である.参加国は米
た.以上より,効果と安全性の兼ね合いから見て,
国,カナダ,欧州,ラテンアメリカ,ロシア,オー
S-1が切除不能進行・再発胃癌に対する標準治療
ストラリア,南アフリカなどで,アジア圏を含ま
の一つと位置づけられた.
ない.結果は2009年の ASCO に発表される予定で
あるが,その成績によっては S-1+CDDP が本邦
のみならず,国際的にも標準治療として認知され
4
2008年(平成20年)度前期日本消化器外科学会教育集会
図 1 S1vs
.
S1+ CDDP(SPI
RI
TS試験)
る可能性がある.ただし,欧米人では S-1による下
との併用により生存期間の延長を認めたものは
痢などの副作用が強く,S-1に含まれる tegafur
CDDP の み で あ る.し か し,S-1 vs. S-1+DTX
を5-FU に変換する酵素である CYP2A6の遺伝子
(JACCRO GC-03試験)や S-1 vs. 5-FU+l-LV の第
多型の違いなどが原因ではないかと考えられてい
III 相試験が行われており,その結果によっては標
る.欧米での第 I 相臨床試験の結果を踏まえて,
準治療と考えられるレジメンが新たに出現する可
日,CDDP を75
FLAGS 試験では S-1を50mg!m !
能性がある.
2
2
mg!
m に設定しており,本邦における S-1+CDDP
4.今後の課題・展望
とは投与量が異なる.
(1)S-1+CDDP に関する課題
(4)GC0301!TOP-002試験
これまで述べたように,最近の一連の第 III 相
前治療のない切除不能進行再発胃癌症例を対象
試験の結果より,S-1単独または S-1+CDDP が現
に S-1単独療法に対する S-1+CPT-11(IRIS)の優
時点における本邦の進行・再発胃癌に対する標準
越性,安全性の比較試験が行われた.奏効率では
治療の一つと考えられる.しかし,経口摂取不能
S-1に比較して IRIS が有意に高かった.しかし,
例には S-1の投与ができず,このような患者に対
MST には有意差が認められず,2007年10月の最
するレジメンの検討が必要である.また,SPIRITS
終解析時点で S-1に対する IRIS の優越性は証明
試験で用いられた CDDP は60mg!
m2と高用量で
できなかった.
あり,
腎毒性を予防するため CDDP 投与前に1,500
ml,投与後48時間に持続で4,000ml の大量輸液を
このように,現在のところ S-1単独に比べて,S-1
5
胃
・
十
二
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腸
1
進行・再発胃癌に対する化学療法
必要とする.このため,CDDP 投与前後の数日間
メンに分子標的治療を加えた検討も必要であろ
は入院治療が行われている.外来治療のみで行う
う.
場合は,大量輸液を必要としないように CDDP
を低用量で weekly 投与∼週 2 回投与する方法12)
(3)2次治療の検討
が考えられる.しかし,このためには S-1+低用量
現在まで標準レジメンが確立していなかった進
CDDP の S-1単独に対する有用性を第 III 相試験
行・再発胃癌においては,2次治療の有用性を検討
で証明することが必要である.また,大量輸液の
する臨床試験は十分行われていなかった.現在の
不要な L-OHP を 使 用 し た S-1 vs. S-1+L-OHP の
ところ本邦で胃癌に有用な薬剤は S-1,CDDP,
検討も望まれる.欧米,韓国,中国では L-OHP
CPT-11,DTX,PTX など限られており,1次治療
や capecitabine などを含む臨床研究が多く進め
が failure した場合の 2 次治療薬は,これらのうち
られている.これらの薬剤の本邦における胃癌へ
1 次治療薬で使用したもの以外が投与されるであ
の保険適応拡大や,これらを含むレジメンの臨床
ろうが,その有用性を臨床試験で確認することが
研究も必要であろう.
必要である.なお,NIH の登録サイトでは胃癌の
2 次治療として 9 つの第 II 相試験と 1 つの第 II!
(2)分子標的治療薬の開発
III 相試験があり,うち 4 試験が分子標的治療薬単
医学雑誌編集者国際委員会は,2005年 7 月以降
独(sunitinib,sorafenib など)であり,残り 1 試
に患者の登録を開始する第 II 相以上の臨床試験
験は cetuximab を含むレジメンの試験である.2
については,公的な臨床試験登録サイトに登録す
次治療においても今後は分子標的治療薬が注目さ
ることを論文出版の条件とした.登録サイトとし
れていることが示されている.
ての条件を満たすものとして米国 NIH が運営す
おわりに
るもの(www.clinicaltrials.gov)を挙げている.
2008年 4 月の時点で,このサイトに登録されてい
進行再発胃癌に対する化学療法は,本邦でも質
る進行胃癌を対象とした化学療法に関する第 III
の高い臨床試験が施行されるようになり,ようや
相臨床試験は前述の,S-1+CDDP vs. FP(FLAGS
く標準治療が確立しつつある.現在,欧米と本邦
試験)
,
S-1 vs. 5-FU+l-LV,S-1 vs. S-1+DTX(JAC-
における標準治療のレジメンは大きく異なるが,
CRO GC-03)を含む 7 つである.この 7 つのうち
欧米でも経口抗癌剤の有用性は認識されつつあ
2 つのレジメンに分子標的治療薬が含まれてい
り,今後はこれを含むレジメンが主流になる可能
る.1つは日本から登録されている lapatinib vs. la-
性もある.治療成績の格段の進歩のためには,分
patinib+PTX であり,もう一つは米国で施行する
子標的治療や 2 次治療法に関する臨床研究がさら
bevacizumab+capecitabine+CDDP vs. capecit-
に進められることを期待したい.
abine+CDDP である.また,当サイトに登録され
て い る47の 第 II 相 試 験 の う ち 実 に21試 験
文
献
1)国民衛生の動向・厚生指数
(45%)が分子標的治療薬を含んだレジメンであ
臨時増刊
54:
49―54, 2007.
る.21試験の施行国の内訳は米国 12,
台湾 3,中国
2)日本胃癌学会:胃癌治療ガイドライン,第 2
2,
欧州1,
ドイツ 1,
カナダ 1,
韓国 1 であり,日本
版,金原出版,東京,2004.
からの登録は現在ない.レジメンに含まれている
分 子 標 的 治 療 薬 の 内 訳 は cetuximab 5試 験,
3)MacDonald JS, Schein PS, Woolley PV, et
bevacizumab 3試 験,erlotinib 2試 験 の 他,soraf-
al:5-Fluorouracil, doxorubicin and mytomy-
enib,sunitinib,bortezomib,lapatinib などが 1
cin(FAM)combination chemotherapy for
試験ずつ登録されている.今後は S-1を含むレジ
advanced gastric cancer. Ann Intern Med
6
2008年(平成20年)度前期日本消化器外科学会教育集会
93:533―536, 1980.
ンケートを中心として―.癌と化学療法
4)Wils JA, Klein HO, Wagener DJ, et al:Sequential
high
dose
methotrexate
24:1892―1900, 1997.
and
9)Ohtsu A, Shimada Y, Shirao K, et al:Ran-
fluorouracil combined with doxorubicin : A
domized phase III trial of fluorouracil alone
step ahead in the treatment of the Europian
versus fluorouracil and cisplatin versus
Organization for Research and Treatment of
uracil and tegafur plus mitomycin in patients
Cancer, Gastrointestinal Tract Cooperative
with unresectable, advanced gastric cancer.
Group. J Clin Oncol 9:827―831, 1991.
The Japan Clinical Oncology Group Study
(JCOG9205)
.J Clin Oncol 21:54―59, 2003.
5)Webb A, Cunningham D, Scarffe JH, et al:
Randomized trial comparing epirubicin, cis-
10)Boku N, Ohtu A, Shimada Y, et al:Phase II
platin, and fluorouracil versus fluorouracil,
study of a combination of irinotecan and cis-
doxorubicin, and methotrexate in advanced
platin against metastatic gastric cancer. J
esophagogastric cancer. J Clin Oncol 15 :
Clin Oncol 17:319―323, 1999.
11)Koizumi W, Narahara H, Hara T, et al:S-1
261―267, 1997.
6)Van Custem E, Moiseyenko VM, Tjulandin S,
plus cisplatin versus S-1 alone for first-line
et al:phase III study of docetaxel and cis-
treatment of advanced gastric cancer(SPIR-
platin plus fluorouracil compared with cis-
ITS trial ): a phase III trial. Lancet Oncol
platin and fluorouracil as first-line therapy
9:215―221, 2008.
for advanced gastric cancer:a report of the
12)Morita S, Nakata B, Tsuji A, et al:A phase I
V325 Study Group. J Cli Oncol 24:4991 ―
study of combination therapy of the oral
4997, 2006.
fluorinated pyrimidine compound S-1 with
7)抗がん剤適正使用のガイドライン No. 3.
日本
low-dose cisplatin twice-a-week administra-
癌治療学会がん診療ガイドライン委員会
tion(JFMC27-9902 Step2)in patients with
advanced gastric cancer using a continual re-
(編)
,Int J Clin Oncol 11 Suppl:1―3, 2006.
8)佐治重豊,相羽恵介,荒木
浩,他:低用量
assessment method. Jpn J Clin Oncol 37 :
CDDP・5-FU 療法の現況について―全国ア
924―929, 2007.
7
胃
・
十
二
指
腸
1
進行・再発胃癌に対する化学療法
略語解説(ABC順)
用語
BSC(be
s
ts
uppo
r
t
i
vec
a
r
e
):抗癌剤を使用せずに,あらゆる治療手段を用いて症状緩和を行うもの.
MST(me
di
a
ns
ur
vi
va
lt
i
me
)
:生存期間中央値.Ka
pl
a
nMe
i
e
r生存曲線で,生存率が初めて 5
0
%を下回るまでの期間.
OS(o
ve
r
a
l
ls
ur
vi
va
l
):生存期間.原病死,他病死の区別をせず,全ての死亡にいたるまでの生存時間.
PFS(pr
o
gr
e
s
s
i
o
nf
r
e
es
ur
vi
va
l
):無増悪生存期間.TTPと同じと考えて良い.
ただし,TTPでは Ka
pl
a
nMe
i
e
r法による解析で他病死を打ち切り扱いにして,PFSと区別することもある.
PS(pe
r
f
o
r
ma
nc
es
t
a
t
us
)
:活動度.本テキストは ECOG(Ea
s
t
e
r
nCo
o
pe
r
a
t
i
veOnc
o
l
o
gyGr
o
up)の分類を用いた.
TTF(t
i
met
ot
r
e
a
t
me
ntf
a
i
l
ur
e
):治療成功期間.治療中止,増悪,死亡のうち,早いものまでの期間.
TTP(t
i
met
opr
o
gr
e
s
s
i
o
n)
:無増悪期間.治療開始 /診断確定 /試験登録から増悪か死亡のうち,早い方までの期間.
機関
ASCO(Ame
r
i
c
a
nSo
c
i
e
t
yo
fCl
i
ni
c
a
lOnc
o
l
o
gy)
:米国臨床腫瘍学会.
NCCN(Na
t
i
o
na
lCo
mpr
e
he
ns
i
veCa
nc
e
rNe
t
wo
r
k)
:米国を代表する 2
1の癌治療専門病院からなる組織.
Cl
i
ni
c
a
lPr
a
c
t
i
c
eGui
de
l
i
ne
si
nOnc
o
l
o
gyをインターネット上で公開している .
NCI
(Na
t
i
o
na
lCa
nc
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rI
ns
t
i
t
ut
e
):米国国立癌研究所.国立衛生研究所(NI
H)の一部.
Phys
i
c
i
a
nDa
t
aQue
r
y(PDQ)をインターネット上で公開している.
J
COG(J
a
pa
nCl
i
ni
c
a
lOnc
o
l
o
gyGr
o
up):日本臨床腫瘍研究グループ.
薬剤・レジメンの略号と分子標的治療薬の解説(ABC順)
薬剤
5
FU(5
f
l
uo
r
o
ur
a
c
i
l
):フッ化ピリミジン系代謝拮抗剤.経口薬もあるが,本テキスト中のレジメンでは注射薬.
ADM(a
dr
i
a
myc
i
n):抗腫瘍性抗生物質.1
9
6
7年に Fa
r
mi
t
a
l
i
a研究所(イタリア)の Ar
c
a
mo
neらにより発見.
CDDP(c
i
s
pl
a
t
i
n):白金製剤.1
8
4
4年にイタリアの Pe
yr
o
neにより合成.1
9
8
7年に米国,カナダで抗癌剤の承認.
CPT1
1
(i
l
i
no
t
e
c
a
n):トポイソメラーゼ I阻害剤.本邦で開発された.
DTX(do
c
e
t
a
xe
l
):微小管阻害剤.t
a
xa
ne系.PTXより後に開発.投与 mg数は PXTの約 1
/
3で注意が必要.
LOHP(o
xa
l
i
pl
a
t
i
n):白金製剤.本邦で開発された.本邦・欧米ともに大腸癌治療薬として認可されている.
LV(l
e
uc
o
vo
r
i
n):葉酸の活性型誘導体.単独では抗腫瘍効果はないが,5
FUの効果を増強する.MTXの解毒剤.
l
LV(i
s
o
vo
r
i
n):LVの光学異性体.LVの 2倍の効力がある.
MMC(mi
t
o
myc
i
nC):抗腫瘍性抗生物質.1
9
5
5年に北里研究所の秦らによって発見.
MTX(me
t
ho
t
r
e
xa
t
e
):葉酸代謝拮抗剤.活性型葉酸にする酵素の働きを阻止することにより核酸合成を阻止.
PTX(pa
c
l
i
t
a
xe
l
):微小管阻害剤.t
a
xa
ne系.
S1
:フッ化ピリミジン系代謝拮抗剤の t
e
ga
f
urに,5
FUの分解酵素 DPDに対する阻害剤 gi
me
r
a
c
i
l
などを加えた合剤.
レジメン
CFあるいは FP:CDDP+ 5
FU
DCF:do
c
e
t
a
xe
l+ CDDP+ 5
FU
EAP:e
t
o
po
s
i
de+ ADM + CDDP
ECF:e
pi
r
ubi
c
i
n+ CDDP+ 5
FU
ECX:e
pi
r
ubi
c
i
n+ CDDP+ c
a
pe
c
i
t
a
bi
ne
ELF:e
pi
r
ubi
c
i
n+ LV+ 5
FU
EOF:e
pi
r
ubi
c
i
n+ LOHP+ 5+ FU
EOX:e
pi
r
ubi
c
i
n+ LOHP+ c
a
pe
c
i
t
a
bi
ne
FAM:5
FU+ ADM + MMC
FAMTX:5
FU+ ADM + MTX
FEMTX:5
FU+ e
pi
r
ubi
c
i
ne+ MTX
XP:c
a
pe
c
i
t
a
bi
ne+ CDDP
分子標的治療薬
be
va
c
i
t
uma
b:抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)モノクローナル抗体
bo
r
t
e
z
o
mi
b:プロテアソーム阻害剤
c
e
t
uxi
ma
b:抗上皮成長因子受容体(EGFR)モノクローナル抗体
e
l
r
o
t
i
ni
b:EGFRのチロシンキナーゼ阻害剤(TKI
)
l
a
pa
t
i
ni
b:EGFRと HER2の TKI
s
o
r
a
f
e
ni
b
:Ra
f
,血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)
,血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)
,および KI
Tの TKI
s
uni
t
i
ni
b:PDGFR,VEGFR,KI
Tの TKI
8
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