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北関東信越メガロポリスの構築による産業振興の可能性
北関東信越メガロポリスの構築による産業振興の可能性 戸所 隆 高崎経済大学 地域政策学部 教授 1.はじめに −東京を頂点にセクター状の れた。しかし、これらの都市は東京との交流を 社会経済文化圏を形成する首都圏− 優先してきたため、地域間結節は放射首都圏軸 現状の関東平野は、東京を中心に概ね次のよ が中心になっている。その結果、東京30km圏を うな社会経済構造を構成する。すなわち、東京 除いて同心円上に環状立地する都市間交流頻度 都心から千葉・柏・大宮・八王子・横浜などを は相対的に低い。また、東京を頂点に関東平野 外縁とする東京30km圏は、市街地が連坦し、 の諸都市が垂直統合・階層化され、東京一極集 JR・私鉄を問わず様々な系統の電車が頻繁に運 中を加速している。 行される東京と一体化となった日常生活圏を構 他方で、東京を頂点に垂直統合された放射状 築している。また、東京都心から概ね30 ∼ 60km 首都圏軸は、それぞれ性格の異なる後背地と結 圏は、土浦・熊谷・小山・小田原などが外縁を 節するため、セクター状に地域性の異なる首都 構成する拠点都市であり、東京への通勤・通学 圏構造を形成してきた。たとえば、上越・信越 圏をなす東京の郊外地域である。この東京60km セクターは日本海側の新潟や長野・北陸を経由 圏が概ね東京大都市圏を構成しており、その外 して京都などと結ばれ、言語アクセントは標準 側には茨城県・栃木県・群馬県・山梨 県 の 主 要 部 が 存 在 し、 東 京 都 心 か ら 図1 首都圏構造図 上越軸 100kmの位置に水戸・宇都宮・前橋・ 東北軸 高崎・甲府という県庁所在都市級の中 常磐軸 宇都宮 核都市群がほぼ等間隔に立地する。こ 100 km の東京100km圏は直通のJR普通電車で 東京都心から概ね2時間の距離にあり、 前橋・高崎 信越(北陸)軸 水戸 小山 首都圏を形成してきた(図1)。 60k 土浦 m 熊谷 この首都圏構造は次のように形成、 発展してきた。すなわち、日本が明治 以降に中央集権体制を構築する中で、 柏 大宮 甲府 八王子 全国から首都東京への人口や都市機能 中央軸 の集中現象が発生した結果、先ず東京 千葉 東京 から放射状に東海軸・中央軸・信越軸・ 房総軸 横浜 上越軸・東北軸・常磐軸・房総軸など の大都市圏軸が構築された。次いで各 放射状大都市圏軸には、東京都心から 小田原 東海軸 ほぼ等距離の同心円上に類似した機能・ 規模を持つ都市が発達した。その結果、 都心(旧市街地・再開発地) 大都市圏軸(国土軸) 都心周辺部・周辺市街地(旧市街地・再開発地) 大都市圏軸(主要軸) 関東平野には東京都心を中心に、放射・ 郊外(新市街地) 環状に立地する都市分布構造が形成さ 郊外(市街地促進地域・新規開発地) ’ 13.7 4 (2000 年 戸所 隆) 戸所 隆(とどころ たかし) の市町村合併』 、『日常空間を活かした観光まちづく り』<日本地理学会賞受賞>(以上、古今書院刊)、 『観 光集落の再生と創造―温泉・文化景観再考―』<日 本地理学会賞受賞>海青社などがある。 現職:高崎経済大学・地域政策学部・教授 文学博士・専門地域調査士 専門:都市地理学・都市政策学・国土構造論 1974年 立命館大学大学院文学研究科地理学専攻修 士課程修了 1989年 立命館大学・文学部地理学科・教授。 1996年より現在に至る。 主な著書としては、 『都市空間の立体化』<日本都市学会賞受賞>、『商 業近代化と都市』、『地域政策学入門』 、『地域主権へ 語に近い。東北セクターは福島の中通りを経て、 また常磐セクターは浜通りを経て東北地方と結 学会・社会的活動としては現在、 日本都市学会・会長、 (公社)日本地理学会・理事、 日本学術会議・連携会員(内閣府) 、上越市・創造行 政研究所・所長、草津市・未来研究所・顧問、富岡市・ 景観づくり会議(景観審議会)委員長、群馬県文化 財保護審議会副会長、山西大学(中国)客座教授 などを務める。 くり拠点となっている。 人口動態では北関東3県間の転入・転出よりも、 ばれ、言語アクセントはいわゆる東北弁といわ 東京を中心に神奈川・千葉・埼玉の1都3県(東 れる無アクセント系である。また、地方銀行の 京圏)との転入・転出者数の方が多い。すなわ 本支店立地もこのセクターに規制され、結果と ち2010年 で は、 北 関 東 3 県 間 の 転 入・ 転 出 数 してセクター毎に独自の経済圏が形成され、各 26,992人に対して、北関東3県と東京圏の間にお セクターにおける主要交通流は東京を中心に放 ける転入・転出数は188,727人と7.0倍も多く、し 射交通流となる。その結果、一般国道の場合、 かも北関東3県から東京圏へ6,650人の転出超で セクターを横断する国道での信号待ち時間はセ ある。 クターを縦断する方向に比べ長く、移動時間が 就業者の県内通勤者率は、茨城県で90.6%、栃 距離に比較して多くかかる。こうしたセクター 木県で93.6%、群馬県で95.0%と県内の比率が高 による地域性の違いや交通条件が、北関東3県 い。一方、北関東3県間の通勤者7.1万人に対して、 における交流を妨げ、環状都市群相互間の交流 北関東3県から東京圏への通勤者は16.7万人と を停滞させてきた要因の一つでもある。 2.4倍も多い。また、北関東3県における通学者 北関東自動車道の全線開通(2011年)や圏央 の県内比率は83 ∼ 89%であるのに対して、北関 道の整備の進展はこうした状況を変化させる可 東3県から東京圏への通学者3.7万人は3県間の 能性を持つ。また、この地域では北関東自動車 通学者0.7万人と5.3倍である。このように、北関 道以外に茨城空港の開港や北陸新幹線の延伸、 東の通勤通学流動は3県間より東京圏との繋が そして茨城港や直江津港の機能強化など交通イ りが強く、その傾向は年々強まってきている。 ンフラの整備が近年進展している。本稿ではこ 他方で、背後に存在する新潟県や長野県、福島 うした新たな広域的交通インフラの形成を活か 県と北関東の間における転入・転出、通勤通学 した北関東3県の今後のあり方や広域交通ネッ での交流は少ない(2010年国勢調査)。 トワーク活用方策を考えてみたい。 一般旅客流動や物流、北関東3県に本所を置 く事業所の支所展開地としては、隣接県間が第 2.北関東3県間より強い東京圏との人的交流 1位、第2位を占め、新潟・長野・福島県への まず、北関東3県の交流実態に関する統計デー 展開もみられる。結城・筑西・古河市と小山市 タをみてみる。 など茨城・栃木県境地域、足利・佐野市や桐生・ 北関東3県の旅客輸送機関分担率の90%前後 太田・館林市などからなる栃木・群馬県境の両 を自家用自動車が占めており、北関東3県は全 毛地域など県境を挟んで地域間交流が活発な地 国有数の自動車社会である(2006年国土交通省・ 域が存在しており、それらの地域では県境を超 旅客地域流動調査)。また、産業的には製造業に 越した経済社会的・文化的一体感の醸成が見ら 特化しており、首都圏外郭地域におけるものづ れる。 ’ 13.7 5 しかし、北関東3県は全体的にみて、様々な 支店の日常的な営業エリアとなる。しかし、各 面で東京圏との交流を強めている。その結果、 県域内営業によっては日帰りが困難になること 北関東の自律発展性や自立性は、次のように従 もあり、宿泊需要は増加している。また、営業 前に比べ低下しつつある。 拠点の集結や新幹線1時間圏となったことによ り、大宮への通勤・通学者増がみられる。その 3.東京30km圏と仙台・新潟などの狭間 結果、水戸や宇都宮、前橋・高崎などの中核都 で空洞化する北関東 市の駅周辺にビジネスホテルやマンションが増 東京100km圏都市は、東京までJR普通電車で 加した。ビジネスホテルやマンションの増加を 2時間強の距離にあるため、垂直統合的に東京 都市力の強化・都市の発展と見る向きもあるが、 とネットワーク化されても一定の自立性と独自 実態は流出企業からの出張者用や東京−宇都宮・ 文化を有してきた。しかし、新幹線など高速交 高崎の所要時間1時間弱(上野−水戸は在来線 通の発達で東京1時間圏に組み込まれることで、 特急で最速1時間5分)になったことによる東 東京への通勤・通学者が増加し、自立性を低下 京30km圏への通勤者増等による現象で、水戸や させつつある。すなわち、水戸や宇都宮、前橋・ 宇都宮、前橋・高崎が中心性を喪失しつつ東京 高崎などの中核都市に立地していた企業の本所 30km圏の衛星都市化する姿といえよう。 や支所がさいたま市など東京30km圏都市に流 日経リサーチによる「2013地域ブランド戦略 失・統合化している。他方で、新幹線で約2時 サーベイ」の調査によると、北関東3県は全国 間弱の仙台・新潟などへの中枢管理機能の集積 最下位を競っている。北関東3県は個性豊かな が進み、結果として東京30km圏都市と仙台・新 地域性を持っているにも係わらず、東京圏と仙 潟の狭間にある水戸や宇都宮、前橋・高崎など 台・新潟などとの狭間に埋没して、社会的に認 東京100km圏都市の空洞化・衰退化がみられる。 知されない状況にある。この流れを変え自律性 たとえば、9時台に東京駅を発車する東北新 を高めるには、交流のあり方を再検討し、北関 幹線は6本あるが、宇都宮に停車するのは3本 東自動車道や北陸新幹線の延伸、茨城港や茨城 だけである。仙台は10分に1本と利便性が高い上、 空港を活かした新たな展開が必要となろう。 宇都宮を通過するはやぶさは東京−仙台間を1 時間36分で結び、立地論的にみても拠点機能の 4.連携・一体化の進まない要因と新たな展 立地は東京圏の次は仙台が有利になる。大宮− 開の方向性 宇都宮、大宮−高崎の新幹線所要時間はともに 北関東3県における交流・連携の停滞要因は、 25分に過ぎない。そのため、宇都宮や高崎・前 明治以来構築されてきた中央集権体制により巨 橋等にそれぞれ立地していた支所等を北関東支 大都市東京および東京圏との交流・連携を優先 店として大宮に集結し、営業活動の効率化を図 してきた結果である。たとえば、明治22年に全 るようになってきている。 通したJR両毛線は東京方向と直交する路線で、 さいたま市や仙台市、新潟市がビジネス拠点 沿線には製糸業・絹織物産地である小山・栃木・ 化し、北関東はさいたま市に配置された北関東 佐野・足利・桐生・伊勢崎・前橋・高崎などの ’ 13.7 6 諸都市が連続する重要幹線であった。現在でも JR両毛線92km沿線の9市1町だけで168.0万人 流を低下させる面もある。 以上のように北関東3県の交流が少ないのは (住民基本台帳、2012年3月末現在)が生活する。 交通需要がないからではない。交通インフラの しかし、JR両毛線は単線で、群馬・栃木県境の 未整備と中央政府と地元を含め国民の多くが、 桐生―足利間は1時間に1本程度の運行頻度で この地域のこうした実態と重要性を十分に認識 しかない。また、普通列車のみで路盤が悪いた していないことによる。北関東の各都市が競争 めスピードアップもできない。通常、この人口 して東京圏との繋がりを強めるほどに隣接県の 集積があれば10分に一本の運行頻度で、そのう みならず県内都市間連携を難しくし、北関東全 ち半分は快速運転となり複線が必要である。こ 体の活力低下を招いている。しかし、北関東は のため高崎から宇都宮へ行く場合、時間的に半 東京圏との交流とは別に、協調精神をもって北 分で行ける大宮経由の新幹線を約3倍の乗車運 関東信越の交流・連携を強化することで、21世 賃・料金を費やして利用することになる。その 紀における国のかたちづくりへの方針や新しい ことが群馬県民に東京以上に遠い宇都宮との感 地平を見出せる可能性が高いといえよう。 覚を醸成し、益々北関東内での交流・連携を妨 げている。 同様の問題が道路でもある。前橋−水戸間の 北関東3県の空洞化は、東京からの放射高速 交通体系の整備に伴い益々顕在化してこよう。 これを防ぐには首都圏構造を再構築して北関東 一般国道50号は4車線化した区間の栃木県足利 を中心性の高い自立した地域にする必要がある。 市や佐野市では1日5万台(国土交通省調べ) 北関東3県の中心性と自立性を高めるには、地 を越す。しかし、片側1車線の群馬県伊勢崎市 域中心都市への接近性と結節性を高め、創造性 の区間では1日1.8万台と少なく、渋滞箇所も多 豊かな都市形成を図らねばならない。東京−仙 い。交通量や開発ポテンシャルから見れば優先 台・新潟などの狭間で空洞化する地域の中心性 的に高速道路が建設されるべき区間であるにも 向上には、その放射軸に交差する強力な横断交 か か わ ら ず、 北 関 東 自 動 車 道 が 全 通 し た の は 流軸の構築が不可欠となる。また、首都の東京 2011年になってからである。かつて高速道路の 大都市圏は巨大すぎて、近接する北関東の中核 建設見直しが論議された際は、北関東自動車道 都市を個別に強化しても効果は期待できない。 の建設中止まで論議され、漸く2011年に全通し これを超越するには北関東諸都市が協調・連携し、 た。その結果、2012年1月現在の1日平均交通 水戸から上越に至る太平洋と日本海を結ぶ国土 量は高崎−岩舟間3.0万台、栃木都賀−水戸南間 横断交流軸の形成と一体感の醸成が重要となる。 1.9万台で増加し続けている(『高速道路と自動車』 55巻−4号・2012年)。また、一般国道50号のよ うに日本列島を横断するかたちの道路と東京方 5.環太平洋・環日本海経済圏を一体化する 「上越−ひたちなかライン」の重要性 面に向かう縦貫道路が交差した場合、東京方面 北関東の主要交流軸には、①東京から放射状 へ向かう道路を優先するため信号待ち時間等で に発する常磐・東北・上越(関越) ・信越(北陸) 必要以上の時間を要すことで、北関東相互間交 軸があり、東京と地方を結ぶ消費・情報軸の役 ’ 13.7 7 割・性格を持つ。もう一つの交流軸は、②日本 二つの交流軸が結節し、両軸の交差する水戸や 海岸と太平洋岸を結ぶ上越市―長野市―群馬県 宇都宮、前橋・高崎などの中核都市の接近姓・ 央部―宇都宮・小山市―水戸・ひたちなか市(以 結節性は格段に高まる。その結果、様々な人・物・ 下、「上越―ひたちなかライン」)である。上越 金・情報の交流が始まり、新たな価値の創造が ―ひたちなかラインは現状では放射軸ほど活発 活発になり、水戸・宇都宮・前橋・高崎の活性 な交流軸でないが、前述のように北関東自動車 化や都市力の高度化が図れる。近年の上越―ひ 道と上信越自動車道の高速道路で結ばれる日本 たちなかラインにおける建設機械や自動車関連 有数の市街地連坦・人口稠密・生産機能立地地 産業の生産拠点形成や港湾利用を見る限り、環 域をなす。 太平洋経済圏と環日本海経済圏を結ぶ物流・人 上越―ひたちなかラインは、日本の貿易構造 からも重要性を増している。すなわち、日本貿 流は増加しており、政策的誘導によってこの考 えの実現可能性は高まるであろう。 易振興機構資料(2011年)によると日本の貿易 総額に占める対アメリカ合衆国の割合は輸入で 6.北関東の地域力向上に必要な「大都市化 8.7%、輸出で15.3%であるのに対し、対中国は 分都市化型100万都市」の創生 輸入で21.5%、輸出で19.7%とアメリカ合衆国よ 北関東が東京30km圏や仙台市や新潟市と対峙 り多く、中国語圏の国・地域に韓国・ロシアを しつつ持続的発展を継続するには、上記の結節 加えた環日本海経済圏が急成長しつつある。こ 性向上とは別に、独自の経済・社会・文化圏の のため従前の太平洋沿岸重点型地域開発から太 形成と都市的魅力を発揮できる100万都市が不可 平洋・日本海沿岸一体型地域開発への転換が不 欠となる。しかし、北関東3県に100万都市は存 可欠になっている。東京大都市圏に隣接し日本 在せず、新たに造ることも難しい。しかし、既 列島の中央部で環太平洋経済圏と環日本海経済 存中小都市が合併しなくとも連携・協調する多 圏を結ぶ上越―ひたちなかラインはその中心軸 核心連携都市の創生によって、大都市パワーを になり得る可能性をもつ。また、このラインの 持つ都市地域形成は可能となる。筆者はこれを、 物流・人流の強化・活性化は、北関東3県のみ ならず長野・新潟両県の自立性・中心性の向上 にも役立つ基本政策となる。 空洞化しつつある北関東の中核都市に人・物・ 「大都市化分都市化型100万都市」の創生と言っ ている。 大都市化分都市化型100万都市は、都市核を持 つ個性豊かなコンパクトな中小都市(分都市) 金・情報を再び集積させるためには、性格の異 からなる多核心連携大都市である。換言すれば、 なる交流軸を結節させる必要がある。東京から 分都市を公共交通網でネットワーク・一体化し 放射状に発する消費・情報軸としての常磐・東北・ たモザイク大都市である。たとえば、仙台市や 上越(関越)軸だけでは空洞化が避けられない。 広島市の市域面積を群馬県央部に当てはめると、 しかし、この放射軸に対して生産軸として環太 前橋・高崎・伊勢崎・藤岡・富岡・安中・渋川 平洋経済圏と環日本海経済圏を一体化する上越 の各都市が含まれ、その合計人口は約120万にな ―ひたちなかライン通すことで、性格の異なる る。これらの都市があたかも一つの都市のよう ’ 13.7 8 に連携協調することで、都市機能的に100万都市 の影響力強化が不可欠となる。北関東と長野・ が創生できる。同様に、水戸・ひたちなか、宇 新潟両県との連携による太平洋と日本海を結ぶ 都宮、両毛の各地域にも人口100万前後の都市集 本州中央部における横断国土軸の構築はその基 積の創生が可能となろう。 軸となる。 知識情報社会に発展する都市・地域は、明確 上越―ひたちなかライン約310kmの北関東自 な都市像を発信し、域外の人々に認知されやす 動車道・上信越自動車道沿線市町村だけで約450 い都市である。中小都市が多数分布するだけでは、 万人が活動しており、これらの都市群は形態的 知名度の向上は難しい。それらの都市群が大同 にも機能的にも小規模なメガロポリス(巨帯都 団結することで、規模の利益によって軌道系公 市群)と見なせる。そこで筆者はこの環太平洋・ 共交通の整備も可能となる。また、大都市パワー 環日本海経済圏を帯状に一体化する都市群を「北 の発揮が地域イメージ・地域ブランド力の向上 関東信越メガロポリス」と命名した。これまで にも役立ち、新しい日本のかたちづくりにも貢 縦貫軸を中心に構築してきた国土構造・日本列 献できるようになる。 島の中間点へのメガロポリス型横断国土軸の構 築は、北関東信越地域にこれまでにない自立性 7.環太平洋・環日本海経済圏を結ぶ横断国 と地域価値、新たな活力創生の機会を与えるこ 土軸・北関東信越メガロポリスの構築 とになろう。 茨 城・ 栃 木・ 群 馬 の 北 関 東 3 県 に は 4 つ の 東京から放射状に形成されてきた首都圏軸は 百万都市を創生する力がある。しかし、北関東 階層型ネットワーク軸で、東京と群馬・新潟な の人々も他の日本国民も北関東をそのように認 どとの関係は意識面でも経済社会面でも互恵平 識していない。東京大都市圏を構成する1都3 等の関係でなく、主従関係・上下関係にある。 県からみた北関東は、南関東への食料・リゾー これに対して北関東信越メガロポリスを構成す ト供給地など付属物的認識でしかない。そうし るひたちなか市・水戸市―宇都宮市―両毛地区 た認識では、首都圏を構築する4つの環状高速 ―前橋市・高崎市―長野市―上越市の都市群は、 道路において都心環状は完成したものの、東京 互恵平等関係で成り立つ。北関東信越メガロポ 外環や圏央道が未完成な時に最外郭環状の北関 リス構成都市間にも規模の差はあるが、この都 東自動車道建設は不要との考えになるのであろ 市間に上下関係はない。今後、日本に数本の列 う。他方で、北関東の人々は内部連携・交流よ 島横断軸が構築されるであろうが、上越―ひた りも東京圏との繋がりを優先・強化しており、 ちなかラインは環太平洋経済圏と環日本海経済 結果として北関東の潜在力が十分に活用されて 圏を結節し交流させる日本列島中央部における こなかった。 最重要横断国土軸といえる。それだけに北関東 北関東が東京圏の付属物的存在から自立した 信越メガロポリスの形成は、縦貫軸中心の国土 存在へ転換するには、従前と異なる展開が求め 構造にこれまでにない強力なインパクトを与え られる。それには北関東3県の4つの百万都市 られるものと考える。 力と地の利を活用し、南関東をはじめ他地域へ ’ 13.7 9 8.国のかたちづくり・産業振興に貢献する 陸の港湾間における荷動きも活発化できる。 北関東信越メガロポリス −おわりに− 以上の実現には、北関東信越と南関東との結 東京100km圏にある北関東信越メガロポリス 節構造の転換が必要となる。すなわち、現状の は、首都直下大震災や様々な危機に際して東京 関東信越地域間結節構造は図2のB型で、北関東 との同時被災が回避できる距離にあり、首都機 信越内諸都市と東京圏とが直結し、北関東信越 能のバックアップ機能立地にも適している。また、 内諸都市間連携に乏しい階層ネットワーク型で 東京60km圏ほど東京と一体化した経済活動関係 ある。この構造を「ひたちなか−上越ライン」 はない。そのため、北関東信越はメガロポリス を基軸に図2のA型の分権・水平ネットワーク型 を基軸にして、東京圏から自立した日本を代表 結節構造に転換することで、東京から自立した する国土横断型経済圏も形成可能となる。それ 交流・連携型経済圏が形成され、横断国土軸の により独自の中心機能集積が可能となり、茨城 構築も可能となる。 空港と新潟空港の活用・連携、茨城港(日立港区、 常陸那珂港区、大洗港区)と直江津・新潟・北 北関東信越の自治体・商工会議所への筆者実 施のアンケート結果では、42.9%がA型への転換 図2 北関東信越と東京圏における結節構造の現状とあるべき姿 A型 <分権・水平ネットワーク型> あるべき姿 新潟 上越 長野 B型 <階層ネットワーク型> 現状の姿 新潟 北関東・信越 前橋・ 高崎 両毛 宇都宮 水戸 上越 長野 北関東・埼玉・信越 前橋・ 高崎 宇都宮 さいたま さいたま 千葉 東京 千葉 東京 川崎 川崎 横浜 横浜 東京圏(南関東) 東京圏(南関東) (戸所 隆 原図) (図の都市名は都市圏が連続するイメージを表現している) ’ 13.7 10 両毛 水戸 に賛成し、3.2%がB型の階層ネットワークを望 交流窓口となるゲ−トウェイ機能の強化。③豊 ましいとした。しかし、分からない・未回答が かな自然や食材を活かした地域づくり・魅力創 53.9%と過半数を占め、東京や南関東との対峙に 造。④交通・企業立地環境の充実と本社機能のU 躊躇が感じられる。だがB型では東京中心のヒ ターン化などによる雇用と税収の確保。⑤意識 ト・モノ・カネ・情報の流れや結節性が強化され、 高揚と一体感醸成を図るスポーツ・文化イベン 北関東も信越・北陸地域も自立性が低下する。 トの県単位持ち回り開催。⑥官民協働参画と多 分からないと回答しつつもそうした事態を懸念 様性・一体感のある地方分権型統治への転換な する意見もある。 どである。 B型の階層ネットワークの結節構造では中央か 国のかたちづくり・産業振興に貢献する新た らの投資が鈍化し、東京方面への人口流出が拡 な横断国土軸・北関東信越メガロポリスの構築は、 大する。また、北陸新幹線の開業など高速交通 北関東の将来に不可欠なものであり、北関東信 環境の整備の進展により、東京圏への依存度が 越地域が連携した推進政策の策定が求められて 高まり、北関東信越のみならず北陸地域のアイ いる。 デンティティも失われる。その結果、東京一極 集中は促進され、地方分権化や産業構造の再編 は停滞するであろう。他方で、A型(水平ネット ワーク型)への転換は、希薄だった北関東信越 地域内でのヒト・モノ・カネ・情報の流れが活 発化し、一体的・自立的な北関東信越経済文化 圏が構築される。その結果、北陸地域は歴史的 に近畿とのつながりが強いが、北関東信越メガ ロポリスの創生で北関東信越との交流を深め、 茨城港などの利用も増加すると考えられる。 北関東信越メガロポリスの構築には、新たな 産業振興に資する次の政策が求められる。①東 京圏に依存せずに自立経済圏として成長できる 新システムづくり。②成長著しい東アジアとの <引用・参考文献> 1)上越市創造行政研究所:『直江津港をいかしたまちづく りに関する調査―広域的な視点から見た直江津港ポテン シャル―』2008.3 112p. 2)戸所 隆:『地域主権への市町村合併−大都市化・分都 市化時代の国土戦略−』 古今書院 2004. pp.126 ∼ 148. 3)戸所 隆:環日本海経済圏の発展と道州制を見据えた群 馬県央百万都市構想 「地域政策研究(高崎経済大学)」11-1.2008. pp.1 ∼ 20. 4)戸所 隆:北関東信越メガロポリスの創生と道州制の在 り方 「地域政策研究(高崎経済大学)」12巻1号 2009年 pp.1 ∼ 22. <付記> 本稿の作成には日本学術振興会科学研究費補助金・平成23 ∼ 25年度基盤研究(C)(課題番号23501245 研究代表者 戸所 隆) 「分権型知識情報化社会における開発哲学の構築」の 一部を使用した。 ’ 13.7 11