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地域紛争から世界を考える
地域紛争から世界を考える 社会科 佐々木利昌 1.はじめに 20 世紀の終わり、厳密に言えば冷戦体制が終わるころから、世界各地で国家対国家の軍事的緊張よ りは、一つの国家の中での民族対立や宗教的対立が顕著になり、それが「地域紛争」という形態で頻 発してきた。21 世紀の地球社会を生きる地球市民として、どのような地域紛争がいまこの地球上で起 こっているのか、その地域紛争の中で人々の人権がどのように脅かされているのか、そしてそのよう な窮状にわれわれは何ができるのかを探求する学習活動を展開しようとした。 2.授業展開の実際 第1時間目:ユニセフ(国連児童基金)からの募金を訴える手紙のコピー(別紙資料 A)を配布し、 プリント(別紙資料 B)でその内容を確認していった。資料 A にある通り、現在、世界各地で一日約 1万人の子供が安全な飲料水が確保できないために命を失っている事実がある。この安全な飲料水が 確保できない理由の代表的なものは、第1に貧困であり、第2に地域紛争や戦争である。水の問題の 背後に現代の世界が抱える問題が横たわっている。 安全でない飲料水を飲んだことが原因で起こる下痢による脱水症状を緩和するための「経口補水 塩」というものがある。食塩と砂糖と水道水によって実際にこの「経口補水塩」を水1リットルに溶 かしたものと同じ溶液を作り、希望する生徒に飲んでもらった。その味の「まずさ」に生徒たちは驚 きの声を上げた。しかし、その「まずい」溶液が脱水症状で危険な状態にある人々を救う「モノ」で あるという事実の重さに生徒たちは再び驚いた様子であった。この「経口補水塩」は3000円あれ ば450人分を確保できるという事実にさらに彼らは驚く。日本の高校生でも、このような子供たち を救うために何らかの協力や支援が可能ではないか、 そういうことを伝える授業にしたつもりである。 この日、授業で取り上げたもうひとつのテーマはメインテーマそのものの「地域紛争」 」である。 配布したのは資料 C「世界難民白書まえがき」(第8代国連難民高等弁務官 緒方貞子氏)である。私 がとくに強調したのは緒方氏が難民をどのような存在として捉えているかという点である。氏は次の ように記された。 「過去50年間に生き抜いた何千万という難民や避難民の勇気は間違いなく祝福に値する。すべて を失っていても希望だけは失わない彼らは、20世紀を生き抜いた偉大な人々であり、私たちの尊敬 に値する。」 つまり、難民を同情や憐れみの対象としてみるのではなく、希望を失わず生き抜いた(生き抜きつ つある)存在として敬意を以って見る、という捉え方である。このことはこの後の「地域紛争学習」 において常に確認しなければならない原則であるとわたしは考える。 この日の授業で準備していたのに、配布できなかった資料がある。それが資料 D(毎日新聞 2001 年 5月6日の社説《何をなすべきか考えよう 世界難民白書》 )である。この論説に加えて 1975 年か ら 2000 年にかけての時期における難民数の推移を示すグラフも準備した。 私の授業構成の不手際から 時間不足になって、この資料を授業の中で生かすことはできなかった。反省すべき点である。 第2時間目:この時間は前回の授業を踏まえて、地域紛争の具体的な事例を取り上げ、地域紛争が なぜ起こり、それと日本に暮らすわれわれがどのように関わっているのかを考えてみることにした。 用いた教材は NHK の報道番組(クロ−ズアップ現代「汚れたダイアモンド」2000 年 11 月 15 日放映) である。この番組を生徒に見せるに当たって、内容確認のためのプリント(資料E)を準備した。30 分間の番組を見せて、生徒に質問を行い、内容を確認させたうえ、どのような印象を抱いたか数名の 生徒に感想を述べてもらった。ただ、時間が十分でなく、生徒相互の意見交換にまでは至らず、教員 と生徒の間の双方向性のある授業にはならなかった点が残念であった。とはいえ、遠いアフリカのシ 1 エラレオネの地での悲惨な内戦が宝石として珍重されるダイヤモンドによって引き起こされているこ と、しかもそれと日本が決して無縁ではなく、ダイアモンドへの需要がこの紛争を長引かせているも のであることを、生徒に印象付けた点は現在の地球社会の問題点の理解にとってプラスになったので はないかと思う。 この時間は夏休み前最後の授業だったので、授業の終わりに「総合学習Ⅰ」の夏休みの課題を提示 しておいた。それは現在、世界各地で起こっている地域紛争に関して新聞の報道記事の切り抜きとそ の紛争の原因および経過、今後の見通しについて小レポートの作成を求めるものである。夏休みとい う長期休暇を利用して普段にはできない学習活動を生徒にしてもらい、さらに夏休み明けに各自の研 究成果を発表してもらおうと考えた。 第 3 時間目:夏休み明けの最初の総合学習の授業は研究発表とした。しかし、ここで大きな問題に ぶつかった。前年度、2000 年度の総合学習では私の担当したコースはせいぜい 10 名前後であったが、 今年度はクラス単位であったため 40 名である。クラス全員に発表してもらうことはまったく不可能で ある。そこで最初のクラスではアトランダムに発表生徒を割り当てたが、7 月から 8 月にかけての時 期は国際報道は中東問題が中心であったので、発表する生徒の取り上げるテーマが中東問題に偏って しまった。このため、2 時間目のクラスでは中東問題以外のテーマの発表も必ず入れるようにして、 聴く側が退屈しないように多少工夫してみた。しかし、この発表は全体としては失敗だったと思う。 もっと少人数で、 十分準備期間があれば、 発表する側と聞く側の意見交換もありえたとおもうのだが、 それを可能にする体制作りに失敗したため、準備不十分なままの「棒読み発表」も見受けられ、授業 者として厳しく反省しなければならない状態であった。 3.おわりに 与えられた授業時間が 3 時間であり、この限られた時間を有効に活用する計画を私自身がしっかり 立てられなかったところに最大の問題点があった。 「時間数が少ないから」では理由にならない。限ら れた時間をどのように組み立て、地域紛争から現在の世界を見る目をどのように養い、生徒の主体的 な学習活動をどのように組織するか、という認識が不十分であった。2000 年度の経験に頼りすぎたの かもしれない。とはいえ、時間数、人数など根本的な条件の違いは確かに大きかった。次年度は今年 度の失敗の経験を踏まえて、そこを打開する道を何としても模索しなければならないと考える。 4.資料 資料A ユニセフからの手紙 資料B 地域紛争と国際社会 資料C 世界難民白書まえがき 資料D 毎日新聞 2001 年5月6日の社説《何をなすべきか考えよう 資料E 地域紛争を考える「汚れたダイアモンド」 5.参考文献 「世界難民白書 2000 世界難民白書》 ―人道行動の 50 年史―」国連高等難民弁務官事務所 2 2001 年発行