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電磁力を利用した自動車用の新しいショックアブソーバの研究
平成 14 年 7 月 26 日 電磁力を利用した自動車用の新しいショックアブソーバの研究 東京大学 国際・産学共同研究センター/ 生産技術研究所 概要 東京大学 国際・産学共同研究センターおよび生産技術研究所の須田義大教授らの研究 グループは、次世代の自動車用のショックアブソーバ(ダンパ)を目指して、従来のオイ ルダンパとは異なり、電磁力を利用した新たな原理によるショックアブソーバの開発研究 を行ってきました。2000 年に完成したプロトタイプに引き続き、この度、カヤバ工業株式 会社と共同研究により、新たな試作ダンパ(以下電磁ダンパ)を完成させ、自動車用のダ ンパとしての妥当性が確認されました。自動車のダンパでは、操縦安定性、乗り心地の両 立が重要であり、減衰力特性をきめ細かくチューニングする必要があります。今回提案す る電磁ダンパでは、これらの特性が任意にかつ容易にチューニング可能という特長があり、 試作ダンパの実験評価により、自動車用のダンパとしての妥当性が確認されたものです。 その他にも電磁ダンパには多くの長所を持っており、今後の展開が期待されます。 なお、本研究の成果は、7 月 24 日に自動車技術会春季大会にて発表致しました。 自動車用ダンパ 自動車のサスペンションは、車体の質量を支持すると共に、路面不整などによる振動を 緩和して、乗り心地の向上、積荷の保護、車体の各部に加わる動的荷重の軽減を行い、さ らに走行安定性を向上させる重要な部品です。サスペンションを構成する要素に、ダンパ (ショックアブソーバ)があり、振動を減衰させるための減衰力を作用させます。通常の ダンパはオイルダンパであり、チューブ内に封入されたオイルの中をピストンが動く仕組 みになっています。このとき、バルブをオイルが流れる時の抵抗によって、減衰力を発生 させます。 従来のオイルダンパ 1 自動車のサスペンションには、操縦安定性と乗り心地向上という相反する要求の両立が 求められています。具体的には、操縦安定性を得るために、路面変位に対してばね下部分(タ イヤ,ホイール)が速やかに追従し、充分な接地性が確保される必要があり、かつ、車両の 姿勢変化を極力抑えるために減衰力は充分大きなことが望まれます。一方、乗り心地を向 上させるには路面の振動(変位)がばね上部分(キャビン)に伝わらないように、減衰力は小さ な方が良いわけです。これらの矛盾した要求に応えるため、通常用いられているパッシブ なオイルダンパでは、構造を工夫することによって、その減衰力特性は図のような非線形 を有しています。 自動車用ダンパに求められる非線形特性 最近では、より高性能を求めて、減衰力調整式のダンパ、セミアクティブダンパも開発 され、さらに、通常のオイルダンパに替えて、油圧アクチュエータを用いてコンピュータ により減衰力を制御するアクティブサスペンションも実用化しています。しかし、アクテ ィブサスペンションではエネルギー消費が課題であり、また、オイルダンパでは任意の減 衰力特性を得るためには構造的な工夫が必要でした。 電磁ダンパの提案 これに対して、須田研究室では、従来のダンパの動作原理とは全く異なり、電磁力を利 用した新たなダンパの提案を行ってきました。電気自動車のように、自動車の構成要素を 電気化することは多くの試みがあり、既に実用化したものでも、電動駆動のほか、電動パ ワーステアリング、電気式ブレーキ、電気式 4 輪駆動などがあります。電気を利用したサ スペンションも、この流れに沿ったものになります。 2000 年に須田研究室でプロトタイプを試作しました。直動運動をボールねじによって回 転運動に変換し、それを遊星歯車を介して直流モータを回転させて発電機として作用させ ます。このときに生じる抵抗力によって減衰力を発生させます。 2 提案する電磁ダンパの構造 2000 年に試作した電磁ダンパ 実際に実験車両の装着して基礎的な走行試験を実施し、提案する電磁ダンパがダンパと して機能すること、減衰力特性を電気的に調整可能であること、振動エネルギーを電気エ ネルギー変換することによって、エネルギー回生が可能なこと、左右のダンパを電気的に 結合することによって、ロール方向には硬く、上下には柔らかい理想的なダンパが実現で きること、などを実証しました。 自動車への装着状態 3 この度、ショックアブソーバメーカのカヤバ工業と共同研究により、自動車用のダンパ としての実用性と妥当性を評価するために、新たな電磁ダンパを試作しました。今回の開 発目標は、構造を工夫することにより、機械的な特性を大幅に改善すること、自動車用の ダンパとしての実用性から、外部からエネルギーを加えることなくパワーエレクトロニク スを利用して、非線形な減衰力特性を実現すること、そして、単体試験および実車試験に よりその成果を確認することです。 今回試作した電磁ダンパ 動作原理と減衰力特性 動作原理を下図に示します。モータを発電機として作用させると、抵抗力が発生し、回 路には電流が流れます。発生する誘導起電力は、速度に比例します。よって、モータが抵 抗に閉回路で結合していると、抵抗力は速度に比例し、減衰力が得られることになります。 回路の抵抗を変化させることによって、減衰力は任意にチューニングすることができます。 減衰特性のチューニング 減衰係数−抵抗の関係 基本回路 Damping coeffcient [Ns/m] 10000 Experimental Data Theoretical Data 8000 6000 4000 2000 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 Resistance [ Ω ] 外部抵抗を変えることで,減衰係数の調節が可能 4 22 24 電磁ダンパの動作原理 • DCモータが発生する力は電流に比例 • 誘導起電力はストローク速度に比例 • モータに抵抗rが接続されている場合 非線形減衰力特性の実現 このままでは、ストローク速度と減衰力の関係は線形であり、自動車に求められる非線 形特性を実現できません。 そこで、非線形特性を実現するために、モータが発電機として発電した電力によって駆 動されるパワーエレクトロニクス回路を考案しました。 MOS-FET と可変シャントレギュレータ、抵抗を用いて図に示す電流制限回路を構築する と、この回路の電圧‐電流特性は、下図のように電流が飽和する特性をもちます。このと き二つの抵抗を適切に選択することによって、電流が飽和する電圧値と、電流の飽和値が 設定できます。そこで、この可変電流制限回路を並列に接続することにより、折れ点をも つ非線形特性が実現できます。多くの回路を結合することによって、任意の曲線の特性を 得ることができ、かつ、抵抗の値を調整することによって、この非線形特性を容易にチュ ーニングすることができます。 すなわち、従来のオイルダンパで実現していた非線形特性を実現できるだけではなく、 この特性を任意にかつ容易にチューニングすることが可能になるわけです。 5 パワーエレクトロニクス回路の提案 可変電流制限回路ユニット 2段階可変電流制限回路 6 電磁ダンパの特長 電磁ダンパは、以上のように、任意に特性を実現でき、しかも容易にチューニングでき るという特長がありますが、それだけではありません。そのほかの特長として、以下の点 が挙げられます。 ・ 振動エネルギーを回生できること ・ セミアクティブダンパとして、減衰力を可変に制御できること ・ 電気的な結合により、左右連携ダンパが容易に構成できること ・ 電気モータを利用しているため、アクティブ制御への展開が可能なこと ・ 回路に流れる電流を計測することによって、ダンパで発生している力の計測が可能であ りセンサー機能を持つこと 以上のように、従来のオイルダンパでは不可能な、多くの機能をあわせ持つことが実現 します。 電磁ダンパの評価と今後の展開 試作した電磁ダンパは、単体試験による評価に加え、実車に装着して走行試験も実施し ました。 これらの結果から、試作した電磁ダンパは自動車用のダンパとしての妥当性があること が確認されました。 今後は、実用化を目指した開発研究を実施するとともに、電磁ダンパの性能向上、魅力 向上を目指した研究を展開する予定です。 7 まとめ 1) 世界で初めて自動車用電磁ダンパを提案し、乗り心地向上、操縦・安定性との両立を実 現する電磁ダンパの試作に成功した。 2) 自動車用ダンパとして求められる非線形減衰力特性を実現するため、外部からの電源供 給を必要としない省エネルギー方式のパワーエレクトロニクス回路を考案した。 3) 電磁ダンパにより自由度の高い減衰力特性の調整を可能とした。 4) 電磁ダンパは従来のオイルダンパにない多くの特長を持つ。 5) 各種試験により、試作した電磁ダンパの自動車への適用の妥当性を示した。 6) 実用化を始めとする電磁ダンパの今後の展開が期待される。 本件に関する問い合わせ先:東京大学 国際・産学共同研究センター/ 生産技術研究所 須田研究室 Fax 03-5452-6194 E-mail [email protected] 以上 8