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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University

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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University
Title
両側下肢肥大を伴った多動性精神遅滞児に見られたミオ
キミー多汗症候群の1例
Author(s)
山内, あけみ; 林, 北見; 斎藤, 加代子; 泉, 達郎; 大澤,
真木子; 宍倉, 啓子; 鈴木, 暘子; 福山, 幸夫
Journal
URL
東京女子医科大学雑誌, 62(11):1422-1430, 1992
http://hdl.handle.net/10470/8394
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
364
〔轟講43欝、鞘〕
症例報告
1両側下肢肥大を伴った多動性精神遅滞児に見られた
ミオキミー多汗症候群の1例
東京女子医科大学小児科学教室(主任:福山幸夫教授)
ヤマウチ ハヤシ
キタミ サイトウカ ヨ ゴ イズミ
タツロウ
山内あけみ・林
北見・斎藤加代子・泉
達郎
オオサワマ キ コ シシクラ
ケイコ スズキ ハルコ フクヤマ
ユキオ
大澤真木子・宍倉
啓子・鈴木 陽子・福山
幸夫
(受付平成4年8月18日)
Myokymia・Hyperhidrosis Syndrome Observed in a Mentally Retarded and
Hyperactive Girl with B蓋1ateral Lower Limb Muscle Hypertrophy
Akemi YAMAUCHI, Kitami HAYASm, Kayoko SAITO, Tats覗ro竃ZUMI,
Makiko OSAWA, Keiko SHISHIKURA, Haruko SUZUKI
and Yukio FUKUYAMA
Department of Pediatrics, Tokyo Women’s Medical Co1監ege
Aten−year−01d girl w量th remarkable hyperactivity and mental retardatioh showed fecurrent
episodes of虚yokymia, i.e., undulating, wavy muscle contraction localized at quadriceps femor量s and
calf muscles. The episodes of myokymia were easi茎y provoked by vehement exercise and usually
gradually subsided by tke rest of a few hours,but almost a蓋ways they were accompanied by excessive
perspiration,body temperature elevation, myalgia and agitation. The Iower extremity muscles, which
were preferentially affected by myokymia, were remarkably hypertrophic. The biopsy of the
hypertrophic muscle revealed partial predominance of type l muscle fiber, small angulated f童ber, and
central nuc量eatlon all of which suggested for neurogenic changes. In addition, both hyperhidrosis and
elevat量on of body temperature represent cholinergic effects, so that the appearance of myo翼ymia may
be reiated to cholinergic hyperactivity of autonomic nervous in the present case.
緒 ・言
点が多い.また,従来の報告は成人例が多く2)∼12),
関節運動を伴わない筋の不随意運動には,
小児例は少ない13)∼16).
tremor, myoclonia, fasciculation, spasm, myo−
一方,飯田はミオキミー多汗症候群
kymiaなどがある.この中でミオキミーとは,
(myokymia−hyperhidrosis syndrome,以下
1895年,Schultzeが21歳農夫の下肢筋に認めた特
MHS)という概念を提唱している17). MHSはミ
異な波状運動に対して初めて命名した1症状名で
オキミー,筋肉痛,神経症状(興奮,不安感など),
あるn.現在は「筋が不随意運動をするために,皮
自律神経症状(発汗,頻脈,血圧充進など)を基
膚表面が比較的ゆっくりと虫が這うように波状運
本臨床像とする.今回我々は,著明な下肢筋肥大
動を繰り返す現象」2)と表現されている.多発性硬
を有し,多動傾向の強い精神遅滞女児にMHSを
化症,筋萎縮性側索硬化症などとの合併例や,健
認め,ミオキミーを含めた筋の不随意運動に関し
康者,特に肉体労働者にも報告されているが,そ
て若干の考察を加えたので報告する.
の発生機序や基礎疾患との関係に関しては不明な
一1422一
365
症 例
れを,また8歳時発作波の出現を指摘された.痙
10歳8ヵ月女児.
攣発作は4歳以降消失し,熱性痙攣複合型として
主訴:間欠的な,下肢筋の波打つような痙縮.
無投薬にて経過観察されていた.
家族歴:精神遅滞を含む神経疾患,筋疾患はな
現病歴:8歳6ヵ月時,運動会の日,左足肢行
く,近親婚はない.患児は第2子で,兄12歳と弟
に気付かれた.両足関節と両膝関節が伸展位を
8歳は健常児である.
とった状態で硬直し,左大腿部前面および左下腿
既往歴:出生前・周生期に特記すべきことなし.
部背面に大きく波打つような筋肉の動きが認めら
生後10ヵ月には数個の有意語,2,3歩の自立歩
れた.また,患児は下肢の痛みを訴え,母が触っ
行を獲得した.10ヵ月時,40度台の発熱が25日間
たところ,両下肢筋全体が堅く張りつめた感じで
持続し,他院にて川崎病と診断され入院,加療を
あった.その後,5,6時間の経過と共に下肢筋
受けた.この経過中,不機嫌と食欲不振は認めら
の波打つ動きは強さを増し,下肢の痛みを強く訴
れたが,意識障害や痙攣はなく,筋力低下もなかっ
えた.同時に多量の全身発汗,体温上昇(腋下で
た.しかし,その間に有意語はマンマのみと語彙
38.8度)が認められた.意識は清明であったが興
が低下し,寝返りもしなくなり,2ヵ月後(1歳
奮状態となり,夜間も眠れないほどであった.近
0ヵ月)の退院時には有意語は消失し,寝返り,
医にて解熱剤や精神安定剤などの投与を数日受
坐位保持も不能となっていた.以後,この病院に
け,ようやく症状の改善を得た.この頃より,急
通院,経過観察されていたが,明らかな精神運動
激な両下肢筋全体の肥大に母親は気付いている.
発達遅滞を認め,自立歩行を再獲得したのは1歳
その後,同様の症状が,9歳時に計4回,10歳時
9ヵ月であった.2歳頃から多動が目立ち,この
には6ヵ月で3回と増加傾向を示し,10歳8ヵ月
頃より有熱時,全身性強直性間代性痙攣を来し,
時当科を受診した.
4歳までに計6回の有熱時痙攣を認めた.脳波所
入院時理学所見:身長125,4cm(一1.05 SD),
見は2歳時異常なく,4歳,7歳時に基礎工の乱
体重26.8kg(一〇.32 SD),全身状態良好.落ち着
㌢ ,
㍗酌静鮎費
a b
図1 左:患児の全身像,右:下肢背面
身体の他の部位と比べ,大腿から下腿にかけて著明な肥大を認める.
一1423一
366
きなく,多動傾向著明.上肢には異常なし.下肢
約20語を話すが,単語の繰り返しが多く二語文に
筋,特に大腿筋と下腿屈筋群は,他の部位の三筋
ならない.多動で一時もじっとしていられず歩き
に比し著しく肥大(図1).顔貌,胸腹部は異常な
回るのが観察されたが,階段昇降,片足跳び,両
し.
足跳び,歩行,疾走など日常的運動に異常は認め
神経学的所見:意識清明.自閉傾向強く他人と
ない.主訴である下肢筋の波状運動以外の不随意
視線を合わせることはほとんどなく,母親以外の
運動はない.筋力は四肢,躯幹共に異常なし.筋
人との意志の疎通は極めて困難.発語は単語のみ
緊張異常,関節拘縮なし.四肢深部腱反射正常,
Babinski反射,足間代いずれも陰性.筋腹叩打,
強制把握によりミオトニーは誘発されなかった.
検査結果:入院時,血算,尿一般検査は異常な
く,生化学検査ではCK値1191U/ml, aldolase 6.9
1U/L,乳酸15.1mg/dlと軽度上昇を認めたが,ピ
ルビソ酸は0.48μg/mlと正常範囲内であった.
脳波では覚醒時,軽睡眠三共に,主に左後頭部,
時に右後頭部に限局する二丁や棘徐波が散見され
た.TK−Binet testでIQ 26,津守稲毛式では運動
45,探索35,社会30,生活45,言語30と,中等度
の遅れがみられた.股関節単純X・P正常,頭部
CTは異常なし.運動神経伝導速度は正中神経で
51.5m/s(57.1±7.2),腓骨神経で62.6m/s
(53.1±8.3)と正常範囲.
ミオキミーの誘発と検討:病歴上,下肢筋に生
ずる波状れん縮発作は,患児の日常生活の中で激
しい運動時に出現することが多かったため,エル
ゴメーターを用いて運動負荷試験を実施した.し
かし,多動,注意散慢のため検査に協力が得られ
ず,約1時間の試行中,実際にエルゴメーターの
ペダルを漕いだのはおよそ50∼60ワットで断続的
a)患部筋:安静時(上)と最大隆起時(下)の叢叢が
に合計50秒間程度であった.その直後には大きな
変化は認めなかったが,運動負荷中止後50分ほど
異なる.
lt M Biceps Femoris
r七 N Biceps Femoris
100戸.L−
lt M Gastrocηemius
1sec
rt 門 Gastrocne田ius
b)患部表面筋電図:10∼70μV,持続時間30∼60msecの単発,時に群議傾向を示す筋
放電が断続的に出現.
図2 ミオキミー出現中の大腿側面
一1424一
367
して,大きく波打つような継続的な筋肉の動きが,
軽快せずむしろ悪化した印象であった.さらに15
両側大腿部前面に肉眼的に観察され,同時に,下
分後には体温37.5度,脈拍120/分と上昇し,同時
腿背面にも,皮下で波打つような筋の動きが触知
に全身性の発汗を認めた.その後,約1時間の経
された.この筋れん縮は,特に左大腿伸側面で筋
過で徐々に軽快,正常に復した.家族の話では,
束の一部が1∼2Hzで不規則に膨隆し(最大波高
約0.5cm),次の瞬間には隣接した末梢懇懇束が膨
表1 ミオキミー出現前後の血清CK,乳酸,ピルビ
隆するといった連続的な動きで,皮膚表面が波状
ン酸値
にうねるように観察され(図2a),ミオキミーと考
入院時
えられた.大腿部皮膚では,怒張した表在静脈が
CK(IU/L)
ミオキミー出現
ミオキミー消失
@ 40分後
@12時間後
104
212
133
観察された.こむらがえりを治す時のように,足
緖_(mg/d1)
P5.1
P3.9
V.6
関節を他動的に強く何回か背屈させたが,症状は
sルビソ酸(mg/dl)
O.48
O.72
O.42
鷺
ド けウ
・徳
灘
鞍鷺
く上騰
雛
図3 ミオキミー頻発部位(左大腿四頭筋)の針筋生検所見
上:myosin ATPase染色,×200.左;pH 4.6,筋線維の大小不同および小角化線維
を認める.右;pH 4.3,写真左下にType IIc線維を認める.
下:NADH染色,×200,筋線維内に虫喰い様酵素欠損を認める.
一1425一
368
今までの発作症状と同様であるが,極く軽微との
80∼90μm径の肥大線維が散見された.II型線維
の直径は15μVから100μVまで広く分散し,大小
ことであった.
ミオキミー出現時の患部のvideo・表面筋電図
不同が著明であったが,60∼80μm径の線維が比
同時記録では1筋のれん縮に同期して10∼70μV,
較的に多く認められ,以上の所見より神経原性病
持続時間30∼60msecの単発,時に群化傾向を示
変と考えられた.また,中心核の軽度増加
す頻回の筋放電が記録された(図2b).
(10∼15%)およびIlc型線維の軽度増加が認めら
症状発現中,針電極による筋電図記録を試みた
れ,慢性的に進行したdenervationの存在が想定
が,患児の非協力のため,自発性筋放電の存在は
された.
確認できなかった.
考 察
ミオキミー出現前後の血清化学的検査では,ミ
不随意運動とは,一つの筋の一部,あるいは一
オキミー出現に気付かれて約40分後の血清CKお
つの筋全体,さらにはいくつかの筋群の不随意的
よびピルビン酸値に軽度上昇を認めた(表1).ま
な収縮によっては起こる症状をいい,身体(四肢,
た,ミオキミー.出現時から24時間蓄尿した尿中カ
躯幹等)の運動効果をもたらすものと,単なる筋
テーコルアミソ,尿中5HIAA,尿. ?uMAは各々
の収縮運動のみの場合がある18).関節の動きを伴
91.8μg/day(29.0∼136.0μg/day),2..2mg/day
わない不随意運動の主なものとして.はtremor;
(1。0∼6.Omg/day),1.41mg/day(1.3∼5.1mg/
myoclonia, fasciculation, spasm, myokymiaな
day)と正常範囲内であった.
どが挙げられる.これらの症状の鑑別点を,表2
病理学的検討(図3):間欠的に左大腿.四頭筋か
にまとめた.我々の症例では,皮下の膨隆が1∼2
ら針生検で得た筋組織に標準的な各種染色を施
Hzほどの周期で,大腿部の一筋束から隣接する
し,病理学的に検討したところ,正常の筋線維の
筋束へと連続してみられ,あたかも大腿部のある
中に萎縮した筋線維や小角化線維が不規則に散在
範囲の筋がat randomに上下に波打っているか
していた.NADH染色で虫喰い様酵素欠損像を
のように見えた.この症状は,拮抗筋との間の交
示す筋線維が多数認められた.また,1型線維が
代性れん縮で律動性がなく,単一二二のれん縮で
全体の50%以上を占める部位があり,部分的1型
ある点でtremorと異なり,同一部位で反復せず,
筋線維優i位が認められた.1型線維は40μm前後
移動性であることよりmyocloniaと,一部の筋線
の線維が大多数を占め,8∼10μm径の小線維と
維に限局しないことよりfasciculationと上例の
表2 関節の運動を伴わない不随意運動
臨 床 像
不随意運動
振戦 tremor
病 変 の 局 在
①休止時振戦:Parkinson病で黒質細胞変性
身体のある部分が(手,足,腕脚,頭など)がその平衡のとれた位置を中心として,不随意的律動的に動揺するもの.
T 運動時振戦:小脳 姿勢時振戦:中枢神経系④企図振戦:小脳中枢性,場合により間脳軟口蓋myoclonusではGuillain et Mollaretの三角下位運動ニュウロンの障害 (脊髄前角細胞の慢性変性)
オクロニー
@ myoclonia
}激な,短い,不随意な筋収縮でその収縮は目で見えるが,身体部分の移動,すなわち運動効果をもた
轤ウないもの.
リ線維性李縮
リ腹に見られる筋の小さな早舟であり,何本かの筋
@ fasciculation
?ロ束の速い,間代性の収縮で律動性はなく,筋の一部に限局している.
オキミー myokymia
Xパスム spasm
リが不随意運動するために皮膚表面が比較的ゆっく
阡g状運動を繰り返す現象.
柾ス神経あるいは神経筋接合部
処モ筋および不随意筋の非痙李性,不随意的な収縮
柾ス神経,筋肉内の循環障害
特徴とし,ある神経領域に現れるもの.ある程度,
搗ア的.
自験例
筋の不随意運動により,皮膚表面が約1Hzの波状運
おそらく末梢性
ョを示した.
文献18),23)より引用,一部改変.
一1426一
369
筋れん縮とは異なる.
運動を繰り返す現象」2)などと表現されている、
ミオキミーは,1895年Schultze1)により初めて
わが国での報告例は主として成人例で2)∼12),小
その概念が提唱され,命名された症状名である.
児例は検索した中には見あたらなかった.諸外国
この論文では21歳の生来健康な一農夫に「線維状
では2∼15歳の小児例の報告は散見され13)欄16),ほ
に膨張した筋線維束の攣縮」が出現したと記載さ
とんどの症例は基礎疾患や遺伝性は認められてい
れた.具体的には,ふくらはぎや大腿四頭筋が強
ない.今後,小児領域でも注目すべき症候と考え
く盛り上がる,ふくらはぎに短時間続く有痛性の
る.
収縮が起こり,時に第1趾背屈,他の足趾が底屈,
一方,1959年Gamstorpらは, myokymic syn・
下肢・足部の著明な発汗,大腿内側の静脈怒張な
dromeとしてミオキミー,pseudomyotonia, mus・
どの症状を示した.この報告以前にも1888年には
cular wasting,発汗過多を合併した3症例を報
Kny19)がミオキミーと考えられる症状を呈した1
告13)し,その相似性からspedal e血tityに属する
症例を報告した.それは「腓腹筋に緩徐に発生し
と述べた.また,Rogerら20)やDe Jongら21)セこよ
てきたcrampとfasciculationを特徴とする症
ると,ミオキミーは,①筋肉痛,②不安感,興奮
状」で,Knyはmyoclonus飾rillaris multiplex
状態などの精神症状,③発汗を主とし,他に紅斑
と称した.本邦では,「筋肉のゆっくりした波状性
や全身掻痒症などを含む自律神経症状を伴うとし
の,みみずの這うような不随意的な運動」17),「筋の
ている.これらの所見を踏まえ,飯田はmyo−
kymia hyperhidrosis症候群(MHS)という概念
小部分が不随意に繰り返し収縮し,しかも隣接す
る部位が入れ替わり立ち替わりして収縮するため
を提唱し,ミオミキーのみを主症状として有する
に皮膚表面が比較的ゆっくりと虫が這うように波
症例とMHSを同一疾患とみなすべきかどうか
状運動する現象」18),「筋が不随意運動するために
問題は残るが,一疾患単位として取り扱う方向に
皮膚表面が比較的ゆっくりと虫が這うように波状
あるとしている17).我々が検索し得た範囲では(最
下3 ミオキミー患者におけるMHS諸症状の出現に関する文献展望
報告年
年齢(歳)
性
Schultze1)
1895
21
男
Gamstorp
1959
23
男
男男男
全身
著者名
et al13)
12
ミオキミー出現部
筋痛
多汗
下肢
十
什
上下肢,肩,腹壁
㎜
精神症状
そ の 他
農夫
十
十朴
T12
hsaaCS141
Welch
1961
l肢,顔面
男
四肢,顔面
1972
22
男
上肢,胸壁
一
1975
43
男
下肢
十
23
男
下肢
十
et a124)
飯田ら3)
Irani
stiff posture
一
53
1977
et al16)
不安
運送業
工員
37
男
上肢
陶器工,ALS
61
男
ALS
3
女
2
女
肩,大腿,下腿
大腿四頭筋,腹壁
全身
14
男
全身
十
十
intolerant to heat
廿
intolerant to heat
一
20
女
全身
長嶋ら5)
1980
45
男
全身
原山ら1ω
1980
60
男
下肢
北原ら6)
1981
43
男
両下肢
川村ら4)
1984
30
男
下肢
十
豊島らη
1987
66
男
下肢
一
}
自験例
1989
10
女
両下肢
十
昔
甘
十
一
一1427一
両手,足関節の固縮
一
悪性胸腺腫
甘
柱
重症筋無力症,胸腺摘出後
神経線維腫症,パーキンソン
a
興奮
自閉傾向を伴う多動児
370
ミオキミーや過剰発汗の時期が尿中カテコールア
3),.ミオ’キミーを呈した20例中,多汗は12例,筋
痛は3例,精神症状は1例で認められた.一方,
ミン高値と相関した1例を報告している4).MHS
これらの症状が認められなかったと記載されてい
るのは多汗3例,筋痛5例であり,他の報告はこ
の4症状はいずれもコリン作動性充進症状であ
り,MHSの諸症状とミオキミーの発現にアセチ
れらの所見に関する記述が.なかった.本症例はミ
ルコリンが大きく関与しているこ.とが推察され
オキミー,興奮状態,著しい発汗,筋痛と全ての
る.自験例においては,入院時ミオキミー発症後
症状が出現し,典型的なMHSに一致すると考え
24時間蓄尿の尿中カテコールアミン,5HIAA,
た.
VMAは正常値を示したが,川村らの報告と比較
.ミオキミーは,一般.に硬膜外麻酔,脊椎麻酔,
するには,より長期にわたる検索が必要であろう.
末梢神経ブロックで消失せず,クラレにより消失
一方,ミオキミーが腰椎でのブロックにより消
することから,その発症機序は神経筋接合部の
失した例や8)10),腫瘍による末梢神.経近位部圧迫7)
hyperexcitabilityによると言われ,中でもアセチ
や,蛇毒による末梢神経の生化学的変化11),Con−
ルコリンとの関連が指摘されている4)∼6)..骨格筋
duction block12)などにより,それぞれミオキミー
では,末梢神経筋接合部において神経終板より
が出現した例が報告されており.,単一の病態生理
Achが遊離され,終板のニコチン受容体に接合
に起因する現象ではない可能性を残す.
し,Na+チャンネルが開き, Na+流入により終板
本症例の特徴は中等度の精神遅滞を伴う多動児
電流が発生し,この局部電位で生じた電流の吸い
である点である.精神遅滞は中枢性障害であり,
込みが近接した筋線維膜を脱分極させ,活動電流
末梢神経または神経筋終板の障害とみなされてい
を発生し筋収縮をもたらす.また,汗腺支配の交
るミ.オキミ7とは,直接の関係はないと考えられ
感神経節後線維はコリン作動性神経であり,終末
る,他方,患児は著しい多芸傾向を示し,一時た
からAchを分泌して汗腺に作用し,発汗を生じ
る.発汗,骨格筋収縮のいずれもAchを伝達物質
りともじっとしていず,常に歩き,走り回り,下
肢を酷使していた.上肢筋の筋量は全身の体格と
とする効果器の反−応であることほ興味深い.
均衡がとれ,ミオキ§一も出現しないりに対し,
Isaacsはミオキミーを神経終末からのアセチル
下山のみ著gい筋肥大を認め,ミオキミーが下肢
コリン過剰放出の結果と捉えた22).一方,川村らは
に限局して出現する点,また,、エルゴメーターに
表4 ミオキミー患者の筋生検所見の文献展望
著 者
報告年
年齢(歳)
飯田3)
1975
37
筋萎縮性
.Lanskaら9)
1988
62
豊島ら7)
1987
71
基礎疾患
筋 生 検 所 見*
ミオキミア部位
上,下肢,肩
(萎縮線維あ9)
筋萎縮性
側索硬化症
全身,特に下肢
(小片性萎縮)
神経線維腫症
下肢
(肥大線維,正常線維,小角化線維よりなる
筋線維iの大小不同,type grouping)
両下肢
(霧i饗箕田原雛、、瀧
@ 側索硬化症
パーキ.ンソン病
北原ら6》
1981
43
重症筋無力症
ォ性胸腺腫術後
筋鞘膜,ミトコンドリア,グリコーゲンは正常)
van Dykeら25)
1975
27
Q4
周期性四肢麻痺
?﨎ォ四肢麻痺
逍ハ,手,前腕
長嶋ら5}
1980
45
特になし
全身
時に小群性萎縮,小角化線維
顔面,指
(ステンレスエ)
小角化線維,中心核増加,type grouplng小角化線維,中心核増加,type groupingI型線維優位
原山ら10)
1979
60
特になし
両側腰部から
下肢全体
小角化線維
自験例
1989
10
自閉傾向を伴う
多動児
下肢
筋線維大小不同,小角化線維,中心核増加
部分的1型線維優位,IIC型線維出現
・:()内の所見は,基礎疾患によるものと思われるもの
一1428一
371
よる下肢運動負荷後,ミオキミーが誘発された点
本論文の要旨は第107回日本神経学会関東地方会
とを考え合わせると,ミオキミーの出現と筋の運
動量の間に有意な関連性があると考えられる.多
1988年12月3日於:東京都市センターで発表した.
動児におけるミオキミーの発症は他に報告はない
1)Schultze F:Beitrag zur Muskelpathologie.1.
が,飯田らが報告した4例の中でも,運送業者,
文 献
Myokymie(Muske董wogen)。 Dtsch Z Nerven・
heilkd 6:65−70, 1895
工員ζ下肢の運動負荷が多いと考えられる症例で
2)島田康夫:Myokymiaと筋電図.神経内科 6:
は下肢ミオキミーが,陶芸工の様に上肢の運動が
371−380, 1977.
多いと考えられる症例では上肢のミオキミーが出
現している3).基礎疾患が認められない特発症例
や,r
オキミーと基礎疾患の関連が不明確な例に
おいては,日常生活での運動負荷の質や量も重要
な発症因子として注目すべきであろう.また,自
3)飯田光男:myokymiaの臨床.最新医学30:
276−284, 1975
4)川村 力,木下真男,石田哲郎ほか:重症筋無力
症の胸腺摘出後出現したmyokymia,発汗過多,尿
中カテコラミシ高値の発現機序に関する1考察.
臨床神経 24:723−728,1984.
オキミーと思われる豊島らの症例のみであっ
5)長嶋淑子,宮本和人,山田克尋ほか:手拳開排雪
難,ミオキミア,発汗充進などを主訴とする症候
群の1例.神経内科 12:582−589,1984\
6)北原義介,宮本二十,姜 進ほか:myokymia,
mUSCUIar WaStlng,全身性多汗を伴いmyOtOnia
た7).自験例のミオキミー出現部位の筋生検所見
現象を欠如した悪性胸腺腫の1例.神経内科
は,正常筋線維の中に萎縮した筋線維が不規則に
14:432−438, 1981
散在し,部分的1型筋線維優位が認められ,また
7)豊島裕子,長嶋叔子,広瀬和彦ほか:myokymia
様不随意運動,下腿の肥大を呈した神経線維腫症
験例では,ミオキミーの出現部位に著明な筋肥大
を認めたが;同様の記載は,神経根圧迫によるミ
中心核の増加とIIC型線維の増加が認められた.
これらの所見は慢性に経過した脱神経と神経再支
とParkinson病の合併例.臨床神経28:
288−291, 1987
配を示すと考えられた.文献検索によって見出さ
8)Hosokawa S, Shinoda H, Sakai T et al:
れたミオキミー出現部位の筋生検組織所見に関す
Electrophysiologlcal study of limb myokymia
る記載を表4に示す.基礎疾患によると考えられ
in three women. J Neurol Neurosurg Psychia−
try 50:877−881, 1987
る所見を除くと,共通所見として,筋線維の部分
9)Lanska DJ, Ru{f R正:Myokymia in motor
的大小不同や小角化細胞,中心核の出現など,神
neuron disease. J Neurol Neurosurg Psychiatry
経原性病変が認められ,本症例の組織学的所見と
基本的に一致した.なお,本例では症状発現部位
のMCVには異常を認めなかった.ミオキミーの
病巣が末梢神経よりさらに末梢,即ち神経終板に
あるとする説と符合し興味深い.
51:1107−1108, 1988
10)原山尋実,白川健一,湯浅龍彦:低濃度硬膜外麻
酔で消失し,体温上昇,炭酸水素ナトリウム静注
により増強するミオキミアの1例。臨神経 20:
346−353, 1980
11)Brick JF, Gutman正, Brick J et al:Timber
rattle・snake venom−induced myokymla:Evi−
結 語
dence for peripheral nerve orig三n. Neurology
多動傾向の著しい精神遅滞の10歳女児で,ミオ
37:1545−1546, 1987
12)Roth G, Magistris MR: Neuropathies with
キミーと共に全身性の発汗,体温上昇,筋痛を示
prolonged conduction block, single and
し,ミオキミー多汗症候群と診断した症例を報告
grouped fasciculations, localized limb myo・
した.発症機序に関して,自律神経系機能異常の
kymia. Electroencephalogr Clin Neurophysio豆
関与が臨床症状より疑われ,また筋病理所見より
67 :428−438, 1987
末梢神経系病変の関与が示唆された.
13)Gamsto叩1, Wohlfart GA;Syndrome char・
acterized by myokymla, myotonia, muscular
wasting and increased perspiration。 Acta
稿を終えるにあたり,東京女子医科大学小児科学教
室福山教授開講25周年を記念して,本論文を恩師,福
山幸夫教授に捧げます.
Psychiatr Neurol Scand 34:181−194,1959
14)Isaacs H:Asyndrome of continuous muscle
丘ber activity. J Neurol Neurosurg Psychiatry
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372
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一1430一
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