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太陽光発電を活用した水供給システム事業化調査(PDF

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太陽光発電を活用した水供給システム事業化調査(PDF
太陽光発電を活用した水供給システム事業化調査
報告書要約
日本鋼管株式会社
(事業地域の概況)
1. 背景
タイ東北部はタイ国の中で最も一人当たりのGDPが低い地区である。
人口は2100万人で全国のおよそ 1/3 を占めている。コンケン県は、この東北タイ
の中心部に位置し、行政的には 25 の行政区に分かれている。
調査対象地域は、コンケン県の 5 行政区であり、面積 1,209 km2 (755,574rai)、人口
8万2千人、地域住民の大部分は農業に従事している。コンケン県の水源であるウボン
ラ−トダムより高台に位置する地域が多く、灌漑施設の整備が遅れている。そのため、
乾期の渇水により農業収入は少なく、コンケン県の中で最も貧しい地域である。
タイ国では、第 8 次国家経済社会計画、タイ国の国家運営指針 (COS)により、地方
の経済の振興と社会環境の整備し、貧困の撲滅と生活の質的改善を行おうとしている。
調査区域(19 SAO)の 5000 人以上の村人たちは、内務省(Ministry of Interior:
MOI)副大臣に対し、書面にて水供給に関する正式要請を行った。これらタイ国政
府の方針と調査区域住民の要請を受け、タイ国政府の内務省の下部機関である公共事
業局 (The Department of Public Works : PWD) は、コンケン県で貧困に苦しむ地区
を選定し、灌漑用水を供給し、農業技術を整備し、農業振興を実施するための太陽光
発電を活用した水供給のシステム事業の原案を立案した。
太陽光発電を起用したのは、タイ国政府の方針である、「CO2 削減を目的とする代
替エネルギ−推進」政策を受けたものである。
PWD は、1999 年 12 月に予備 FS を実施したが、プロジェクトの事業性を判定す
る十分なものではなかった。PWD は JETRO に対して、コンケンにおける太陽光発
電を活用した水供給システム事業のFSの実施を要請した。
本調査はこの要請に基づき実施するものである。
(事業開発計画)
2. 事業目的
タイ国政府の内務省 (Ministry of Interior) の下部機関である公共事業局 (The
Department of Public Works : PWD) がタイ国第 8 次国家経済社会計画を受け立案し
た「太陽光発電を活用した水供給のシステム事業」は、低い農業所得と農業労働力の都
市部へ流出という大きな社会問題を解決するための事業の一つである。
事業計画の主目的は次の2点とする。
1) 乾期に十分な農業用水を供給し、農業の生産性を上げ、農業所得の向上を図る。
2) 農業人口の都市部への移動を低下させ、農村への定住化を図る。
3.
事業の実施組織
タイ国では、一般に灌漑事業は、以下の 3 つの政府組織により管理されている。
(1) 王室灌漑省(RID)
(2) エネルギー開発促進局(DEDP)
(3) 公共事業局(PWD)
タイ国で灌漑事業を主体的かつ大規模に実施してきた組織は RID であり、灌漑用水
を重力式にて送水している。DEDP と PWD は、RID の灌漑施設が未設置の地域に対
して、ポンプを利用した送水システムで、灌漑用水を供給している。DEDP は既設の
電線から受電する方式、PWD は、太陽光発電を活用する方式を採用している。
本事業「太陽光発電を活用した水供給のシステム事業」は、そのシステムにより
PWDの管轄となる。
4. 当該地区の策定
事業の対象地区を東北タイの社会、経済の中心となっているコンケン県の中で地形的
事情から、灌漑施設が未整備で農業用水の不足している地域を選定することとし、次の
事項を基本条件とした。
(1) 本事業の当該地区は、5 つの郡の内 19 村を対象とする。
(2) 対象地区内では、既に DEDP、RID、または、他の地方機関によって実施された
灌漑事業地域は除外する。
(3) 灌漑対象地域は、天水稲作の安定した収穫を維持するため低地地区とする。
(4) 灌漑のための適切な地区であるが、送水パイプライン及び中継の貯水池よりを離
れすぎた地域は対象地域から除外した
(5) 中継貯水池は、重力式の配水を採用するため、灌漑対象地域より、高い位置で、
できるかぎり既設の貯水池を用いることとした。
事業の対象地区を東北タイの社会、経済の中心となっているコンケン県の中で地形的
事情から、灌漑施設が未整備で農業用水の不足している地域を選定した。
5. 作付けパターンの策定
作付けスケジュールは、水の供給量、農業収益の算定の基本となる。調査対象とし
た19SAOは、高地と低地から成るので、高地、低地で推薦される作付けスケジ
ュ−ルを作成した。水の供給量、農業収益の効果を検討した結果、低地の稲作用、
裏作用水供給による農業用水の改善が、農業生産の高収益を生むことがわかった。
6. 水需要の策定
水需要は雨季と乾季とで異なり、作付けスケジュール及び作付け率に基づいて計
算し、需要量を算定した。乾期の水の供給期間を 90 日と算定し、概算全水需要量
は、1,862,100 m3 である。
7. 水資源の検討
本事業のための水資源は、PWD が以前提言した4箇所(ウボンラートダム、チー
川流域 2 個所、フアイサムモー川流域 1 箇所)について、水文・気象データで検証し、
現地調査を実施し、ウボンラートダム、及びフアイサムモー川流域からは、安定した
取水が可能であるので、本事業の水源地とした。
各々の計画取水量は以下の通り、
1) ウボンラートダム
:10,000 立方メートル/日
2) フアイサムモー川流域
:1,200 立方メートル/日
1 日当たりの水取水量は、通年で一定とする。
(施設計画)
8. 施設計画の概要
施設の基本設計を、灌漑対象地域の選定、必要灌漑水量から貯水池の容量の決定、送
水パイプラインの設計、ポンプ容量設計、太陽光発電施設の設計、取水・貯水施設の設
計及び付帯設備の設計と、実地調査結果も考慮し、段階的に実施し、各々の施設の仕様
を決定した。
以下にその施設項目について述べる
(1) 取水施設
(2) 送水設備
(3) 太陽光発電設備
(4) 計装設備
(5) 送水パイプライン
(6) 貯水施設
(事業実施計画)
9. 本事業の実施機関及び維持管理
本事業実施機関は、内務省の公共事業部 PWD である。PWD はタイ全土で約 850 箇
所の小規模の太陽光ポンプ揚水事業を実施している。
さらに、本事業の操業する段階において、以下の 3 つの事項が必要になる。
(1) 農業サービス・農民組織の支援
(2) 水管理組合
(3) 施設の運転維持管理
これらを実施するにあたり、タイ国に現存する機関の協力活用が必要である。以下に候
補となる機関を列記する。
・ 国際農林水産業研究センター( JIRCAS )
・ 農業普及局 ( DOAE )
・ KHON KAEN 大学( KKU )
・ 土地開発局(DLD:Department of Land Development)
・ 王立灌漑局(RID:Royal Irrigation Department)
・ 19 の SAO
・ PWD 地方事務所
10.事業の実施工程
本事業は、設計から建設工事の完成までを 3 カ年の工期で実施する計画である。
建設用土地取得については、当初の 1 年で完了することを事業主体者に提案する。
土地取得期間内に施設の詳細設計を完成させる。建設工事は、残りの 2 年間で完成
させる。施設完成後の 1 年間は、維持管理期間として、施設の運転、維持管理と農
業指導サービスを実施する。実施計画表を付表に示した。
11.事業費
本事業費は、施設建設費と操業・維持管理費を含めたものである。
施設建設費は、施設計画に基づく工事数量、タイにおける PWA 最近の工事単価、材
料単価に基づいて算定した。
(1)施設建設費
施設建設費は、次に示すように太陽光発電( バッテリー)方式と太陽光発電+
配電網方式の各々について算定した。
NO.
項
目
(1)太陽光発電(バッテリー)方式
(2)太陽光発電+ 配電網併用方式
単位
1式
1式
タイバ−ツ
ポ−ション
689,698,919
573,788,179
金
額
日本円
ポ−ション
2,219,332,300
911,382,000
金額 (タイバ
−ツ換算)
1,429,476,367
877,582,167
事業費には、維持管理用機器の購入費、測量・調査費、事務費及びコンサルタン
ツ費用を含めた。為替レ−トは、タイ国 1 バ−ツを日本円 3 円として換算した。
事業費には、1) 価格上昇費、技術的予備費 2) 用地取得費 3) 工事用仮設用地、
パイプラインル−ト上の工事上必要用地(ROW:RIGHT OF WAY)取得行為及び費用 4)
貯水池から農地への給水パイプライン費用 5) 関税およびVATは、含まないも
のとした。
(2)操業・維持管理費
操業・維持管理費は、太陽光発電(バッテリー)方式と太陽光発電+ 配電
網併用方式方式の各々について算定した。15年に1回交換するバッテリ
ー設備費用と太陽光発電+ 配電網併用方式において発生する電気代が主な
ものである。操業・維持管理要員の人件費については、SAO 組織の負担と
し、事業費には含まないものとした。
(事業評価)
12.事業の便益
事業の直接便益の主なものは、農作物の増産による収益である。作付け面積
14,020 ライ(2,243ha)の耕作地から得られる便益を、事業を実施する場合と事業を
実施しない場合とにわけ算定し、その差額を事業の便益とした。
事業評価については、経済的内部収益率(EIRR)によって評価するものとした。
経済的内部収益率を算定するための、経済的便益は、変換係数を財務価格に乗じ、
経済価格を算定した。
便益の対象とした項目は次の通り、
1) 農業収益による経済的便益
2) 生活用水による経済的ネット便益
3) CO2 削減効果
太陽光を使用することにより CO2 削減効果が生じる。CO2 削減量に応じ、環
境上の利益として評価する。
4) 電気料金
太陽光により発電した電気については、一般にグリッドから供給される電気
代をセ−ブしたことになるので、間接的な便益と見なすことができる。
13.事業評価
事業評価については、経済的内部収益率(EIRR)によって評価する。
経済的内部収益率 (EIRR)は、太陽光発電(バッテリー)方式と太陽光発電+ 配電網
併用方式の 2 方式について算定し、
・ 太陽光発電(バッテリー)方式
EIRR = 3 %
・ 太陽光発電+ 配電網併用方式
EIRR = 9.12 %
となった。
したがって、太陽光発電+ 配電網併用方式を実現可能性のある事業として選定される。
本 事 業 の EIRR は 9.12 パ − セ ン ト であることになる。
タイにおける資本の機会費用が10から15パ−セントであることから、本事業の
内部収益率は経済的指標としては低い。しかしながら、本事業の便益が農業中心であ
ること、農業がタイの基幹産業であるにも関わらず生産性の低い産業であり、その生
産性を向上させることは、地域社会の発展や経済の発展に対し本事業の果たす役割は
大きいと考える。
また、事業の建設、操業・維持管理期間を通して、地域における経済的需要の増加、
雇用の促進等社会経済への影響も期待できる。
14
初期環境評価
1997 年 12 月、経済社会開発委員会(NESDB)の事業評価ガイドライン並びに評価基
準に沿って、初期環境評価(IEE)が事業可能性調査の一部に含まれることになった。
この初期環境評価(IEE)は、Office of Environmental Policy and Planning (OEPP)
から出されたガイドラインと要求に従って行われる。
本事業が、地区周辺になんらかの環境変化を及ぼすと考えられるが、それは、肯定
的、否定的な両方の影響が考えられる。
事業の詳細と周辺環境に関する初期現地調査の検討を基にして、本事業の建設期間、
運転期間における環境への影響を評価・予測するために、初期環境評価(IEE)を実
施した結果、環境への影響は、問題がないと評価できる。
以上
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