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第五章上海市、浙江省、江蘇省の高級・中級法院の知財法廷概況

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第五章上海市、浙江省、江蘇省の高級・中級法院の知財法廷概況
第五章上海市、浙江省、江蘇省の高級・中級法院の知財法廷概況
本章では、知財法廷に関わる知財情報及び知財侵害判例の概要説明を通じて、現地法廷に
おける司法保護の活動と方向性の解釈を試みる。但し、毎年 4 月ごろに各地の高級人民法院
から前年の案例が開示される傾向があるため、2012 年の案例と詳細解析は未公開の部分が
多い。そのため本章では、2012 年以前の案例を採用している。またインターネットや公開
資料などの情報に基づき整理したものであるため、公開不十分又は調査時点で未公開の場合
もあるので、あらかじめご了承頂きたい。
5-1.上海市の高級・中級法院の知財法廷概況
5-1.1 知財法廷情報
上海市における知的財産案件を審理する人民法院(裁判所/法廷)は、1 つの高級法廷、2 つの
中級法廷及び 6 つの基層法廷の三段階体制で構成されている(図の一番下は各法廷が管轄する行
政区の名称である)
図 5-1 上海知財法廷構造
説明:
1) 第一、第二中級人民法院は特許、植物新品種、集積回路レイアウト設計、馳名商標認定、独
占禁止に関わる一審知的財産民事案件を管轄する。
2) 基層人民法院は一審で知的財産案件の審理が困難だと自覚した場合、上位人民法院に管轄の
指定の判断を依頼することが可能である。高級・中級人民法院は当法院の管轄地域において
重大な影響を及ぼす一審案件を担当し、また案件標的額の制限は下記等級に限らない
華東地域における模倣品実態調査 91
表 5-1 上海市人民法院一審知的財産民事案件の管轄等級
標的金額
(人民元)
管轄法院
「以下」は当該
数字を含める
当事者住所が両方
とも所属エリアで
ある
当事者一方の住所が
所属エリアでない
香港、マカオ、台湾
又は渉外の場合
500 万以下
基層人民法院
基層人民法院
基層人民法院
500 万以上 1000
万以下
基層人民法院
中級人民法院
中級人民法院
1000 万以上 1
億以下
中級人民法院
中級人民法院
中級人民法院
中級人民法院
高級人民法院
高級人民法院
高級人民法院
高級人民法院
高級人民法院
1 億以上 2 億以
下
2 億以上
表 5-2 高級・中級人民法院住所一覧
法廷名称
住所
電話
上海市高級人民法院
上海市徐匯区肇嘉浜路 308 号
021-63080000
上海市第一中級人民法院
上海市長宁区虹橋路 1200 号
021-34254567
上海市第二中級人民法院
上海市中山北路 567 号
021-56700000
5-1.2 知財裁判官情報
上記高級・中級法廷で知的財産権に関わる案件を管轄する主要裁判官の情報と、担当した代表
案件の概要をここで紹介する。
92 華東地域における模倣品実態調査
表 5-3 上海市高級人民法院
裁判官
陳立斌
朱丹
銭光文
張暁都
基本情報
上海市高級人民法院 副院長
人民法院の全体管理、指導役
上海市高級人民法院 民三廷法廷長
代表案例
Starbucks 商標侵害及び不正競争係争
(2006) 滬高民三(知)終字第 32 号
上海市第二中級人民法院一審の Starbucks 係争裁判(下記李国泉裁判
官の一審案件で当該案例紹介がある)で、被告上海星巴克コーヒー有
限公司は、判決を不服として、二審提訴したが、2006 年二審裁判で、
朱法廷長は一審での事実と裁判結果は正しいとし、一審の判決結果を
維持した。
上海市高級人民法院 民三廷副法廷長
代表案例
著作権係争 (2009)滬高民三(知)終字第 132 号
被告上海昶灃信息科技有限公司は、Microsoft 社の Windows XP
Professional ソフトウェア著作権侵害において、上海市第二中級人
民法院(2009)滬二中民五(知)初字第 71 号の一審判決を不服とし
て、上海市高級人民法院に提訴した。銭氏は裁判長として、一審判決
内容を確認し、事実認定に間違いがなく、且つ法律適用も正確であっ
たため、一審判決結果を維持した。
上海市高級人民法院 四級高級裁判官 裁判長
代表案例
不正競争係争 (2007)滬高民三(知)終字第 36 号
原告上海張小泉ハサミ有限公司は、1956 年に設立し、1993 年に社名
変更で現在の社名になったうえ、同年国内貿易部から「中華老字号」
の称号を与えられた。被告杭州張小泉集団有限公司の前身は、1964
年に設立し、
「張小泉牌」商標を登録し、1997 年に馳名商標と認定さ
れた。そして 2000 年に現在の被告社名に変更した。2005 年、原告は
スーパーで被告製品の「張小泉」ハサミを公証として購入し、不正競
争で一審(
(2005)滬二中民五(知)初字第 164 号)提訴したが、一審
裁判で原告の主張は却下された。原告は不服として二審提訴した。張
裁判長は、馳名商標認定また「張小泉」との商号の使用は不正競争に
あたらないとし、一審判決結果を維持した。
*一部の裁判官の情報は下記のホームページをご参照ください。
http://www.shcipp.gov.cn/shzcw/gweb/channel.jsp?pa=acGRkbT1GWVFTVzEzMDA3Nzc3Mzg4NzUPdcssz
華東地域における模倣品実態調査 93
表 5-4 上海市第一中級人民法院
裁判官
劉軍華
胡震遠
基本情報
法学修士、2003 年上海市高級人民法院裁判官として、外国商事・海事
案件の審理を担当していた。現在上海市第一中級人民法院 民五廷法
廷長として知的財産権に関わる案件の審理を担当している。
代表案件
著作権係争 (2009)滬一中民五(知)終字第 19 号
原告網楽互聯(北京)科技有限公司は、2008 年 6 月に被告上海全土豆
網絡科技有限公司に対し、被告のサイト www.tudou.com において許可
なく、原告の映画「時尚先生」の情報ネットワーク伝播権侵害を犯し
たとして提訴した。裁判長として、映画作品の製作は人・もの・お金
がかかるものだとし、個人による映画製作の可能性は低く、且つネッ
ト上で匿名で無料公開し、何の商業利益も求めないことは普通でない
ため、被告が侵害を予見できないという抗弁理由は成立しないと見な
した。一審で被告のサイト上での原告の映画放送を直ちに停止し、原
告に対し損害賠償 18,000 元の判決を下した。被告は不服として二審提
訴したが、劉裁判長は一審事実認定は正しいとし、一審判決結果を維
持した。
上海市第一中級人民法院 民五廷副法廷長
法学博士、上海財経大学の修士指導教官を兼務する。胡氏の審理案件
は 2010 年度中国法院知的財産司法保護トップ 10 案件に入選し、2010
年中国法院知的財産司法保護 50 件モデル案例にも入選した。また論文
10 篇、その他研究文書 50 篇が刊行物に発表された。
代表案件
著作権係争
(2010)滬一中民五(知)終字第 142 号
原告上海安氏影視伝播有限公司は、被告上海全土豆網絡科技有限公司
に対し、原告が所有するテレビドラマ作品の著作権が、被告のインタ
ーネットサイトでの無許可放送サービスにより、侵害されたとして一
審提訴した。一審裁判で、被告のネットにおける、著作権審査不備と
主観的な過失は明らかであるとし、侵害と見なされた。被告は不服と
して二審請求した。胡氏は裁判長として、被告の要請に対し、関連法
律の解説と事実分析をした上で、一審裁判結果は不当でないとし、一
審結果を維持した。
94 華東地域における模倣品実態調査
上海市第一中級人民法院 知的財産廷審判長
法学修士、知的財産権に関わる案件の審理を担当する
鄭軍歓
代表案件
1) 商標権係争 (2007)滬一中民五(知)初字第 199 号
原告米国の Ginseng Board of Wisconsin,Inc は、商標権侵害
を主張し、上海のあるスーパーとシンセンのある薬品企業を当法
院に提訴した。2007 年 5 月 30 日に受理され、2007 年 12 月 18 日
と 2008 年 3 月 3 日の二回で開廷審理が行われた。その後の調停で
和解が成立し、被告側であるシンセン企業は損害賠償およびその
他を含めて 30 万元を原告側に支払った。
2) 商標権係争 (2007)滬一中民五(知)初字第 236 号
原告 Exxon Mobil 傘下三社が米国 Model および現地企業 1 社に対
し、商標権侵害および不正競争を主張し、当法院に提訴した。2007
年 6 月 28 日に受理され、被告側は管轄不備のため移行請求を提出
し、同年 8 月 17 日に却下された。さらに被告側は高級法院に提訴
を行い、同年 10 月 17 日に却下された。2008 年 8 月 14 日に公開
審理で、被告側の商標権侵害が認められ、また被告側によるドメ
インネームの取り消し、損害賠償総計 50 万元の罰金が下された。
上海市第一中級人民法院 民五廷審判長
法学修士、続けて立案廷、審監廷、刑一廷、研究室、民五廷に勤めた
唐震
代表案件
原告米 Microchip は、中国の上海ハイアール集積回路有限公司(上海
Haier)を著作権侵害で提訴していたが、米 Microchip は上海 Haier に
対して、特許権の無効請求を提出した。その後、上海 Haier が逆襲とし
て米 Microchip の核心特許に対して、無効宣告を請求した。中国国家知
識産権局専利複審委員会の審査を経て、対象である米 Microchip の特
許権の請求項が全て無効宣告された。一方、米 Microchip は上海 Haier
の特許 15 件に対して、無効請求を提出した。Microchip 社はさらに台
湾でハイアールの関連台湾会社に対しても関連訴訟を起こした。ハイ
アールは相手の台湾特許権にも無効請求を提出し、2008 年末、台湾特
許庁は Microchip 社の対象権利を無効であると宣告した。その上、上
海ハイアールは自立の開発証拠を提示し、著作権侵害に該当しないと
の判決が下った。
華東地域における模倣品実態調査 95
表 5-5 上海市第二中級人民法院
上海市第二中級人民法院 知的財産廷法廷長
1992 年華東政法学院法律専攻卒業、法学学士を取得し、民事審判を
担当していた。1996 年華東政法学院法律修士学士取得。2001 年から
知的財産権に関わる審判案件を担当している
芮文彪
代表案件
1) 著作権係争
滬(2004)二中民五(知)初字第 12 号
2003 年 3 月原告正東唱片有限公司は、被告上海麒麟大厦文化娯
楽有限公司の KTV に、原告が著作権を所有する MTV3 曲が KTV と
して公衆に放送されていたことを公証で証拠入手し、本法院に提
訴した。原告の MTV 曲は、映画に類似する手法で作成された作品
と見なされ、被告は許可なく勝手に MTV 作品を放送することで、
原告 MTV 作品の上映権を侵害したことが認められた。但し、原告
が香港現地の費用基準に基づき求めた料金は認められなかった
ため、2005 年 5 月 25 日の一審で被告に対し、直ちに対象 MTV の
上映を停止し、原告の経済損失 2000 元と原告にて掛かった合理
費用 15,000 元を支払う判決が下された。被告は不服として再審
を高級人民法院に提出したが、
2006 年 11 月の最終裁で却下され、
一審判決を維持とした。
2) 意匠権係争
(2002)滬二中民五(知)初字第 132 号
原告上海迪比特実業有限公司は 1993 年から携帯電話の OEM メー
カーとして GSM モバイル端末製品を製造していた。1998 年被告
Motorola(中国)有限公司の委託で、一種類の携帯電話を製造す
ることに合意した。2000 年 1 月被告は元の機種 Shark 型携帯電
話のサイズを縮小するように依頼し、原告は課題解決 PJ を設立
し、開発を行ったが、5 月被告は当該設計方案を中止させ、更に
小さいサイズで Shark 型携帯電話を改善したいと要求した。7 月
被告から当該依頼の契約を電子メールで原告に送付したが、最終
的に当該契約は締結できなかった。2001 年 4 月原告が生産した
Motorola T189 携帯電話は、被告を経由して市場に導入され、
2002 年 4 月被告は自ら Motorola C289 の携帯電話の生産に乗り
出した。原告は本法院に対し、被告が原告の所有する T189 の携
帯電話の基板回路のレイアウト設計の権利を侵害していると主
張し、損害賠償 9,900 万元を求めた。印刷基板設計図は著作権に
該当し保護すべきだが、印刷基板本体は産業製品で、著作権の対
象外と認められ、著作権意義上の複製(コピー)行為とはいえな
いため、原告の主張を支持せず却下した。原告は再審を提出せず
終了とした。本案例は十分な調査、研究を通じて最終的に案例に
関わる法律問題が解消され、印刷基板生産行為の性質の認定に対
し、類似案件の重要参考資料と見なされている。
96 華東地域における模倣品実態調査
上海市第二中級人民法院 民五廷副法廷長
1999 年中国人民大学国際経済法法学修士取得、2005 年香港大学法学
修士取得、2001 年から知的財産権に関わる審判案件を担当している
李国泉
代表案件
1) 商標権及び不正競争係争 (2004)滬二中民五(知)初字第 1 号
原告 Starbucks 社は 1996 年~2003 年中国で「STARBUCKS」の文
字および図、また中文の「星巴克」を商標登録した上、上海統一
星巴克コーヒー有限公司に商標使用許諾を与えた。被告上海星巴
克コーヒー有限公司は 2000 年に設立し、
「星巴克」を商号とし南
京路分公司も設立した。会社経営において、被告が原告の商標と
同じ或いは類似する標識を使ったことが発見され、原告は商標侵
害および不正競争で提訴した。審理で、被告からの原告の主体資
格に対する異議は成立せず、原告の商標登録、使用、宣伝の状況
を見た上、馳名商標として保護情報と公衆の認知度を総合して考
えた結果、被告には主観的な悪意が存在し、商標侵害および不正
競争に該当することが認められた。一審で被告に損害賠償 50 万
元を支払う上、社名変更、また「新民晩報」にお詫び文を掲載し
謝罪することを求めた。被告が不服として再審提出後、高級人民
法院は一審を維持した。
2) 商標権及び不正競争係争 (2008)滬二中民五(知)初字第 91 号
原告イギリス Castrol 社は潤滑油メーカーとして、1996 年以来
中国で「CASTROL」
「嘉実多」また Castrol の図を産業用油と油脂
の商品分類に商標登録していた。また 2000 年に国家工商総局の
「全国重点商標保護名簿」に入れられ、2008 年中国馳名商標の
認定を取得した。被告姚育新は 2004 年 12 月香港で「U.S.A
JIASHIDUO INT’L PETROLEUM GROUP(H.K.) LIMITED」を企業登録
し、被告の妻と娘はさらに浙江省寧波に鄞州嘉帥潤滑油廠を設立
した。その後、被告の香港会社は寧波の会社に潤滑油の加工業務
を委託し、中国内での販売ビジネスを展開した。被告側にて使用
された「Casibar」ブランドの潤滑油製品の包装には「美国嘉実
多国際石油集団(香港)有限公司」が中・英文で表示され、中文
の「嘉実多」が目立つ赤字で表されていた。審理で、被告の成立
時間は原告の中国商標登録時間以後となり、同業者として知名度
の高い Castrol を知るはずであり、実際の経営においても、家族
の会社同士で委託受託関係を結び、侵害商品を生産販売していた
ことから、実質的な「主観悪意」があったことが判明した。判決
では、被告側に不正競争行為を直ちに中止させ、さらに「新民晩
報」に謝罪声明を掲載させた以上、原告のほかの請求は認められ
なかった。(2008)滬二中民五(知)初字第 91 号
上海市第二中級人民法院 知的財産廷審判長
1983 年復旦大学法学学士取得。次々と民事、商事、知的財産権に関
わる審判を担当した。
唐玉珉
代表案例
商標侵害係争 (2008)滬二中民五(知)初字第 185 号
原告 The North Face Apparel Corp は、2003 年~2004 年中国で「THE
NORTH FACE」との文字また文字と図の登録商標を取得した。2005 年 8
月被告 1.梅朝輝(米国籍)は原告の委任状を偽造し、被告 2.上海皓
華東地域における模倣品実態調査 97
柏服装有限公司に同商標のダウン・ジャケットの生産を委託した。被
告 2 はさらに被告 3.杭州柏尓豪工貿有限公司に生産を委託した。被
告 3.は続いて被告 4.安吉県白天鹅製衣有限公司に生産を委託した。
2005 年 9 月~2006 年 9 月被告 2.は被告 4.から上記ダウン・ジャケッ
ト 8,094 着を受領し、被告 1.の指示に基づき、商品を米国に輸出し、
被告 1.が販売を行った。その他に、ダウン・ジャケット 5,000 着が
配送中で工商部門に捕えられた。審理で、四被告の商標侵害事実が認
められ、侵害の即座停止と被告 1.被告 2.の共同損害賠償 60 万元、被
告 3.被告 4.の共同損賠賠償 20 万元の支払いの判決が下った。
5-1.3 知財判例情報
上海の経済と科学技術の発展に伴い、毎年の知財案件数が増える一方、知財侵害の種類も多様
化し、裁判の難易度も上がってきている。上海法廷は、法律に沿った司法保護の職責を履行し、
公正また効率的に各種知財案件を審理しながら、法律適用の基準統一化を進めていく。また裁判
での知財保護の質と効率を更に高めていくことによって、上海の経済、文化の発展により良い司
法保護の環境を提供することを目指している。
2011 年上海法廷は、審決した知財侵害案件の中で、最も知名度と代表性がある案件を抽出し、
初めて司法保護代表案例 10 件を社会に発表した。知財侵害案件の経過情報及び裁判結果、観点
などが記載されており、今後の関係知財侵害案件の参考にできる事例になると考えられる。以下
はその案例の中から、商標、ネット及び不正競争に関する案例各 1 件を紹介する。
案例 1.
JOHNNIE WALKER 商標侵害
原告:黛尔吉奥品牌有限公司(以下「Diageo 社」と呼ぶ)、帝亜吉欧(上海)洋酒有限公司
被告:常州碧爽生物科技有限公司、無錫永如生物美容品有限公司、肖紹力
上海市第二中級人民法院(2010)滬二中民五(知)初字第 31 号
【案件概要】
原告 2 社は被告 2 社が生産・販売していたオリーブ油に、
許可なく原告が所有する商標
「JOHNNIE
WALKER」を使っていたことを発見した。原告側は上海第二中級人民法院に提訴し、被告に 50 万
元の損害賠償を求めた。当法廷は「JOHNNIE WALKER」との登録商標が中国において既に公衆に周
知され、また許可なく他人商標を使用し、オリーブ油を生産・販売する行為は公衆に混同誤認を
生じさせ、商標権利者の利益に損害が与えられる可能性が十分あるとし、馳名商標と見なした上、
被告に対し侵害を停止することを命じた。さらに被告肖氏に対し賠償金 1,500 元、被告 2 社に対
し賠償金 12 万元の支払い判決を下した。その後被告と原告とも上訴せず、一審で終了した。
【コメント】
法廷は審理段階で、原告から提供された「JOHNNIE WALKER」製品の市場シェア、商標使用、宣
伝情報及び市場信望などの証拠を総合すると、商品分類を超えた保護も与えるべきであるため
「JOHNNIE WALKER」を馳名商標として認定し、損賠賠償を含めた判決を下した。本件は中国にお
98 華東地域における模倣品実態調査
ける馳名商標に対し、司法保護で登録商標の知名度が認められ、馳名商標の保護力を十分に表し
ている例であるという。
案例 2.
百度サイトによる著作権侵害
原告:上海玄霆娯楽信息科技有限公司
被告:北京百度网訊科技有限公司、上海隱志网絡科技有限公司
上海市盧湾区人民法院(2010)滬民三(知)初字第 61 号(一審)
上海市第一中級人民法院(2011)滬一中民五(知)終字第 141 号(二審)
【案件概要】
原告は五作の小説のコピー権やネットにおける情報伝播などの著作権を所有する。被告百度社
は www.baidu.com とのサーチエンジンサービスで長期的に原告が所有する上記著作権のリンクを
提供していた。2009 年から 2010 年にかけて、原告は数回にわたって被告に侵害リンクの削除を
要求し、且つ書面で著作権証明及び侵害リンクアドレスを被告に連絡したが、結果的に、侵害リ
ンクを直ちに削除できず、更に被告のドメイン wap.baidu.com において、
「最熱榜単」
(人気ラン
キング)と「精品推荐」
(お薦めの逸品)の欄を設けることにより、原告の対象作品を推薦し、
公衆から直接 WAP サイトを登録し閲読することとなった。被告のもう一つのサイト www.7999.com
は百度が認証した関連メンバー会社であり、このサイトに百度のサーチエンジンサービスの検索
ボックスが設置され、百度とその検索により得られた利益の配分についての契約があった。原告
は侵害リンクとコンテンツの侵害で被告 2 社に対し共同損害賠償金 100 万元、且つ原告から当該
侵害を差し止めるために掛かった支出 84,500 元を求めて提訴した。
一審で、被告百度社は www.baidu.com の侵害リンクを提供し、原告からの警告を受けても直ち
に侵害リンクの提供を中断せず、侵害援助と見なされた。また wap.baidu.com 上の侵害作品のコ
ンテンツを提供したことによって直接侵害と認められ、侵害停止と損害賠償の民事責任を負うべ
きとした。被告隱志社は証拠不備の原因で侵害と認められなかった。一審判決では被告百度社に
侵害停止と損害賠償金 50 万元且つ合理的費用 44,500 元の支払いの判決が下った。
二審では被告百度社が上訴を取り下げたため、一審の判決結果で発効となった。
【コメント】
原告は中国において最大の中文小説サイト「起点中文ネット」を経営している。一方、被告百
度社は中国における最大のサーチエンジンサービスのプロバイダーであるため、本件はインター
ネット業者、出版業者の中で広く注目された。本件を通じて、①ICP(Internet Content Provider)
の侵害基準線がより明確になり、即ち、
「侵害責任法」第 36 条に記載される「知る」と言う表現
が「既に知っている」と「知るべきである」の二種類の状態を含めることを明確にした。②被告
百度社の wap.baidu.com はリンクにより目的サイトに繋がるのではなく、第三者サイトに代わっ
て直接、コンテンツを提供することと同様であり、直接侵害に該当する。③技術進歩と権利者の
利益保護、技術創出との間で合理的なバランスが取られている。
華東地域における模倣品実態調査 99
案例 3.
「上海人材ネット」の企業名称不正競争
原告:上海人材ネット(集団)有限公司
被告:上海創匯信息科技有限公司
上海市浦東新区人民法院(2010)浦民三(知)初字第 249 号(一審)
上海市第一中級人民法院(2010)滬一中民五(知)終字第 226 号(二審)
【案件概要】
原告は人材資産のサービス会社として 2004 年設立し、2005 年 1 月から「上海人材ネット」と
いうサイトを立ち上げ、良好な実績をあげていた。被告は 2007 年 4 月から「上海人材ネット」
と全く同じ名称であり且つほぼ同じ内容を有するサイトを運営し始めたが、行政による許可を得
ずに人材資産の営業を行っていた。原告は企業名称侵害を主張し、被告に対し侵害停止、影響削
除及び損害賠償 114,000 元を求めて提訴した。一審法廷は原告の「上海人材ネット」という言葉
は、長期的また継続的な経営を通じて生じた影響力により、自社と他社を分かつ機能を有し、顕
著性と識別性があり、普通用語より特別な意味を持つことを認め、法律によって保護すべきとし
た。被告の行為は違法経営行為のほか、他人サイトを模倣する行為により公衆に混同誤認を生じ
させ、原告との関連性があるように誤認させていたため、不正競争に該当し、被告に対し「上海
人材ネット」の名称は不正競争として、新聞紙面に影響削除のための声明を掲載し、損賠賠償
64,000 元を支払う判決を下した。二審では被告の提訴を却下し、一審判決での決定を維持した。
【コメント】
本件は他人商号の不正使用により、他人サイトを模倣し同じビジネスを運営する不正競争行為
であり、
「上海人材ネット」という言葉に字面以上の意味があるかどうかが焦点であった。本来、
上海人材ネットは上海地域において人材の資源を取り扱うサイトの普通用語で、誰でも非独占的
に使うことができる。しかし、当該用語は特定的な使用を介して顕著性と識別性を有してから、
商品及びサービスの提供元を指す標識機能が備わったため、知的財産権の属性を有し不正競争を
防止すべきであった。本件は汎用用語以上の意味を持つ表現の司法保護に対する参考となり、ブ
ランド模倣など不正競争を有効に防ぐことができると考えられる。
上記案件を含め、上海法廷がこの数年間に受理した案件から、下記のような案件傾向が見られ
る。
1) 新類型の案件が出ている。
前記の案例 2.のような初めてのネットにおける著作権侵害で、コード変換技術に関わる
案件があり、中国大手ショッピングサイト「淘宝網」はそのサイトにて侵害衣服を販売
する業者との連帯責任を取り、共同損賠賠償を支払うという判決が下された代表案例が
あった。
100 華東地域における模倣品実態調査
2) 著作権侵害案件が急増している。
2011 年は一審著作権案件の受理件数が 1,565 件で、前年比 21.7%増となった。これは全
知財案件の一審受理案件の 63%を占めている。文化創出産業において商業活動などが活
発であることが考えられる。またネットにおける著作権侵害案件も増えているため、今
後更に規範化する必要がある。
3) 商標侵害案件で関わるブランド数が多い。商標は知名度が高いブランドに集中している。
4) 知財契約における紛争案件数が急増している。
2011 年に一審受理した知財契約紛争案件は総計 298 件で、前年比 68.4%増となった。特
にフランチャイズ契約案件は 92.3%の増加で、フランチャイズ契約の締結、履行がまだ
規範化されていないことが考えられる。
5) 渉外案件、また香港・マカオ・台湾関係の案件数が下がっている。
2011 年に一審受理した渉外、香港・マカオ・台湾関係案件は 174 件で、前年比 13%減と
なった。知財案件の当事者は主に国内主体間であり、国内の知財権利者が保護意識を高
め、司法による保護を求めるニーズが増えている。
6) 知財刑事案件数が大幅に増加している。
2011 年に全市の法廷が一審受理した案件は 268 件で、前年比 2 倍増となった。
「知的財
産権侵害および模倣品に対する集中取締キャンペーン」の打撃力は大きく、効果的であ
った。そのうち、商標侵害の比率が高く、7 割を占めている。犯罪コストが低く利益が
高いということで、知財刑事案件の頻発領域となっている。
華東地域における模倣品実態調査 101
5-2. 浙江省の高級・中級法院の知財法廷概況
5-2.1 知財法廷情報
浙江省における知的財産案件を裁判する法廷は高級 1 法廷、中級 11 法廷及び基層 26 法廷から
なり、高級法廷と中級法廷は下記の体制で構成されている(基層法廷はここでは省略する)
図 5-2 浙江省知財法廷構造
表 5-6 浙江省人民法院一審知的財産民事案件の管轄等級
標的金額
(人民元)
管轄法院
「以下」は当該
数字を含める
当事者住所が両方と
も所属エリアである
当事者一方の住所が
所属エリアでない
香港、マカオ、台湾又
は渉外の場合
200 万以上 500 万
以下
基層人民法院
中級人民法院
(その他)
中級人民法院
(その他)
中級人民法院
中級人民法院
(温州・嘉興・紹興・ (温州・嘉興・紹興・
台州・金華)
台州・金華)
中級人民法院
中級人民法院
中級人民法院
1000 万以上 3000
(温州・嘉興・紹興・ (温州・嘉興・紹興・ (温州・嘉興・紹興・
万以下
台州・金華)
台州・金華)
台州・金華)
中級人民法院
中級人民法院
中級人民法院
3000 万以上 1 億
(杭州・寧波)
(杭州・寧波)
(杭州・寧波)
以下
500 万以上 1000
万以下
1 億以上 2 億以下
2 億以上
中級人民法院
(その他)
中級人民法院
(杭州・寧波)
高級人民法院
高級人民法院
高級人民法院
高級人民法院
高級人民法院
(場合によって、高級人民法院に指定された中級人民法院による個別案件の管轄が可能)
102 華東地域における模倣品実態調査
表 5-7 高級・中級人民法院住所一覧
法廷名称
浙江省高級人民法院
杭州市中級人民法院
寧波市中級人民法院
温州市中級人民法院
嘉興市中級人民法院
紹興市中級人民法院
金華市中級人民法院
台州市中級人民法院
湖州市中級人民法院
舟山市中級人民法院
麗水市中級人民法院
衢州市中級人民法院
住所
杭州市馬塍路 5 号
杭州市之江路 768 号
寧波市江東区中興路 746 号
温州市府路 512 号
嘉興市中山西路 177 号
紹興市環城西路 8 号
金華市李漁路 1096 号
台州市白雲山南路 28 号
湖州市仁皇山路 300
舟山市隣城新区千島路 221 号
麗水市灯塔街 61 号
衢州市荷三路 30 号
電話
0571—87055305
0571-87393204
0574-87848087
0577-88018686
0573-82717122
0575-85146464
0579-82058231
0576-88553093
0572-2522736
0580-2080200
0578-2133045
0570-3024022
5-2.2 裁判官情報
上記高級・中級法廷で知的財産権に関わる案件を管轄する主要裁判官の情報と担当した代表案
件の概要をここで紹介する。
表 5-8 浙江省高級人民法院
裁判官
周根才
王亦非
基本情報
浙江省高級人民法院裁判委員会委員、知的財産裁判廷法廷長
1984 年西南政法大学卒業、同年浙江省高級人民法院に勤め、2002 年
7 月、中国人民大学を卒業し、法学修士を取得。
代表案例
特許権係争(正泰とシュナイダー) (2007)浙民三終字第 276 号
温州中級人民法院の一審判決結果((2006)温民三初字第 135 号)に
対し、シュナイダーは不服として二審提訴したが、シュナイダーの
本社と二審原告は正泰との和解を成立させた。周氏は係争特許権を
尊重した上、裁判長として和解協議を認め、シュナイダーから正泰
社に対し 1.575 億元を支払う最終判決を下した。
浙江省高級人民法院 民三廷裁判長 博士
代表案例
2009 年 3 月に原告米国 ZIPPO 社は、被告孫氏が慈溪市附海唐峰のプ
ラスチック工場で販売していた ZIPPO 懐炉製品を発見した。侵害商
品を購入し、被告孫氏と唐峰社を一審提訴したが、却下された。そ
こで ZIPPO 社は二審提訴した。裁判長の王氏は、ZIPPO とは顕著性が
高く、商標と社名に使用されて高い知名度を有すると判断し、一審
で被告が同じ標識を懐炉に使うことは商標侵害と不正競争に該当す
ると認めた。また被告は更に ZIPPO をドメインネームにも登録し、
宣伝においても ZIPPO と同じ表現のものを使い、その主観的悪意は
明らかであり、2012 年 11 月に一審で被告から損賠賠償 50 万元を支
払う判決を下した。
華東地域における模倣品実態調査 103
表 5-9 浙江省中級人民法院
裁判官
張政
朱為平
張良宏
鄭国棟
基本情報
杭州中級人民法院 民三廷法廷長
代表案例
商標侵害係争 (2004)杭民三初字第 391 号
原告金華市火腿(ハム)有限公司は、
「金字」商標の金華火腿のメー
カーであり、国内外で知名度が高い。一方、被告浙江省食品有限公
司は「金華火腿」商標登録を持ち、原告に対して商標侵害の停止も
主張していた。裁判で原告と被告の各自の商標権を認めたが、原告
の要請を認めず却下した。
杭州中級人民法院 民三廷副法廷長
代表案例
商標権係争 (2004)杭民三初字第 400 号
原告香港老爺車偉林国際有限公司は 1990 年 9 月 20 日、国家商標局
で「老爺車」の商標登録を受け、10 年以上製品・サービスに使用し
てきた。原告は、被告陳氏が杭州の衣料モールの店舗で「老爺車」
を社名に使用し、且つ商品にも目立つように「老爺車」を使用して
いたことに対し、商標権侵害で提訴した。朱氏は裁判長として、当
該商標権侵害の事実を認めた上で、被告に謝罪声明と損賠賠償 5 万
元を支払う判決を下した。
寧波市人民法院 知的財産廷副法廷長
代表案例
商標権係争 (2008)甬民四初字第 79 号
原告ドイツの GROHE WATER TECHNOLOGY AG&CO.KG はシャワー、蛇口
などの商品に「GROHE」
「RELEXA」商標を第 11 類において登録してい
る。2005 年 6 月被告余姚市のパイプ企業は、自社シャワー製品に
「Relexa Plus」が付けられた 2000 セットの製品を現地工商局によ
り摘発された。さらに同年 6 月、被告が貿易会社を通して輸出しよ
うとした「Relexa Plus Top4」標識のシャワー商品 2200 セットも現
地税関により摘発された。7 月被告は原告に対する侵害停止と損賠賠
償額を約束した承諾書にサインしたが、その後再び侵害が起こった
ため原告は提訴した。張裁判長は行政機関による処罰と侵害事実は
明らかであるとし、損賠賠償の約束を認めたうえ、最終的に 352 万
元という高額な損賠賠償金の支払いを被告に命じた。
浙江省温州市中級人民法院民三廷裁判員
2007 年個人三等功労賞、2008 年全省知財裁判優秀個人賞、2009 年個
人二等功労賞を受賞し、2010 全省法廷の優秀教師と称された。また
案件処理量が多く質的にも非常に優れ、差し戻しや誤審案件ゼロの
実績をあげた。
代表案例:
特許権係争 (2006)温民三初字第 135 号
原告正泰集団股有限公司は、小型遮断器における中国実用新案特許
権を持ち、被告シュナイダー電気低圧(天津)有限公司が当該権利
を利用した 5 種の製品製造・販売を行った事実を発見し、一審提訴
した。鄭氏は一審の裁判員として本件を担当した。裁判結果として
104 華東地域における模倣品実態調査
特許権侵害と認め、3.3 億元という裁判の歴史上最大の損賠賠償額の
判決を下した。
5-2.3 知財判例情報
浙江省高級人民法院は、全省の裁判を指導した上、商標権に関わる案件で権利保護の効果が認
められ、2011 年に WIPO 及び国家工商総局より「商標保護賞」を受賞した。全省の法廷において、
係争案件の当事者自身の成長及び地域経済発展の影響を研究・考慮した上、適切な措置をとると
いう方針に沿い、悪意ではない侵害をする企業に対し、積極的に調和を通じて紛争を解消し、当
該企業の存在と発展の保障に取り組む。また、知的財産保護にさらに力を入れ、浙江省の特徴を
有する卸・商売市場、アニメ漫画・ゲーム、マスコミ・映画業及び E コマースなどの文化産業の
急速な発展に、より良い司法保護の環境と創造空間を提供することを目指している。
浙江省は 2010 年と 2011 年において、相次いで浙江法廷における代表案例 10 例ずつを発表し
た。現地における知財侵害案件への対処の参考になると考えられるため、以下ではその案例のう
ち、最高人民法院の案例の中から、商標、ネット関係及び不正競争に関する案例各 1 件を抽出し
紹介する。
案例 1. 「HENNESSY」の商標侵害及び不正競争
原告:Jas HENNESSY & CO.(フランス)
被告:顧玉輝、杭州勃根地葡萄酒(ワイン)有限公司
杭州市中級人民法院(一審)
浙江省高級人民法院 (2011)浙知終字第 64 号(二審)
【案件概要】
原告は中国で「HENNESSY」と漢字「轩尼诗」を商品分類第 33 類(アルコール飲料(ビールを
除く))に商標登録した。原告は被告の「勃根地」社が許可なくワイン製品及び広告に斧を持つ
標識と「法国轩尼詩紅酒」
(和訳:フランスヘネシーワイン)という表現を使い、原告の商標権
を侵害しているとした。そして、ワイン製品とその包装には「法国軒尼詩葡萄酒(香港)集団股
份有限公司 FRANCE HENNESSY WINE(HK) GROUP STOCK LIMITED」という社名を使用しており、不正
競争に該当することが発覚した。また被告顧氏は「勃根地」社の法人代表であり、
www.xuannishiwine.com のドメインネームも登録したことが判明したため、杭州市中級人民法院
の一審で「勃根地」社の侵害行為を認めたが、被告顧氏が登録した www.xuannishiwine.com と「轩
尼詩」が一致していないため、商標侵害と認められなかった。また営業活動による行為は会社を
代表することで、個人活動ではないという理由で、顧氏には個人による侵害責任が認められなか
った。2010 年 12 月 10 日の裁判に従い、「勃根地」社に対し、商標侵害と不正競争行為の即座停
止、また損害賠償 30 万元を支払う判決が下った。
華東地域における模倣品実態調査 105
原告は不服として、浙江省高級人民法院に提訴した。そこで「xuannishi」は対象ドメインネ
ームの主要部分であり、発音は「轩尼诗」と全く同じで、さらに「xuannishiwine」は「xuannishi」
葡萄酒という意味を指すため、www.xuannishiwine.com ドメインネームは公衆に混同誤認を生じ
させ、当該ドメインネームで、
「法国轩尼詩紅酒」の電子取引ビジネスを行うことは商標侵害に
あたるとした。法廷の調査によると、被告顧氏が「勃根地」社と香港の「法国軒尼詩葡萄酒(香
港)集団股份有限公司」を登録する目的は、侵害商品の販売にあり、両社は共同侵害のために関
係を築いていたため、侵害性質・期間・結果と商標の知名度及び原告が侵害を阻止するための合
理的な支出を考慮し、二審裁判で「勃根地」社に対し、原告の商標侵害及び不正競争行為を停止
し、
「浙江法制報」
(現地新聞紙)に声明を出し、影響を削除することと、被告顧氏と連帯して賠
償最高金額 50 万元を支払う判決が下った。
【コメント】
本件は高級法廷で、被告「勃根地」社の侵害行為を認めたほか、顧氏が香港会社とドメインネ
ームを登録した主観目的と行為の性質も分析できている。また二被告の共同侵害により、連帯賠
償金額最高 50 万元の判決を下したことにより、侵害行為を有効に抑制し、市場の公平競争を正
確に導いたと考えられる。
案例 2. 浙江在線ネットにおける著作権侵害
原告:新京報社
被告:浙江在線网絡伝媒有限責任公司
杭州市中級人民法院(一審)
浙江省高級人民法院 (2010)浙知終字第 106 号
【案件概要】
2007 年 7 月、原告は被告が管理する「浙江在線」サイト上で、原告が著作権を有する文書作品
7,706 篇と画像作品 2,477 枚の著作権侵害を犯したと主張し、初め北京第一中級人民法院に提訴
したが、被告から管轄の指摘があったため、一審法廷に移管された。
一審法廷は対象侵害作品総計 1 万数点で、作者は 500 名以上となり、原告が異なる理由により
被告側に訴訟請求をしているため、2010 年 3 月 29 日に請求を却下した。
原告は不服として浙江省高級人民法院(二審法廷)に提訴した。二審法廷は原告による訴訟請
求は、実質的に同一種類また類似の紛争事実であり、同じ案件の中で共同主張を提出しているた
め、一般的に法廷は合併裁判ができるとした。但しその目的は訴訟プロセスの簡易化、効率的な
処理、判決の矛盾防止にあるほか、当事者の意見を求めるべきとの意見があった。そのほか、1
万点余りの作品に関して状況は異なるため、それぞれの証拠を確認する必要があり、公正な裁判
にならないと認識され、むしろ作品 1 点或いは作者 1 名を標的として、提訴したほうが裁判上の
便宜を図れるのではないかという法廷見解もあったが、原告に断れたため、2010 年 7 月に二審で
も却下された。その後、原告は最高人民法院に提訴し、別途 48 点の作品を選び、再び杭州中級
106 華東地域における模倣品実態調査
人民法院に分割訴訟を提出した。2010 年 12 月原告は被告と最終的に和解協議を締結し、提訴を
取り下げた。
【コメント】
本件は被告が運営している「浙江在線」ネットが浙江省において非常に代表的なサイトであり、
裁判段階では原告側は不服としたが、最終的にどんな条件で和解できたのかについては詳細不明
である。
案件 3. 「卡地亜」商標侵害及び不正競争
原告:CARTIER INTERNATIONAL N.V.
被告:杭州卡地亜大酒店有限公司(ホテル)
杭州市中級人民法院(一審)
浙江省高級人民法院 (2011)浙知終字第 32 号
【案件概要】
原告は「Cartier」及び「卡地亜」との二つの登録商標を商品分類第 14 類(金属、アクセサリ
ー、宝石、時計など)において取得している。長期の使用と広い宣伝を通じて、既に高い知名度
を誇っていた。2004 年 6 月 21 日に国家商標局は前記二つの登録商標を馳名商標と認定した。原
告は自身が所有する商標「卡地亜」と全く同じ漢字表現が企業名称に使われていることを発見し、
商標侵害及び不正競争に該当する主張理由で一審法廷に提訴した。
一審で下記の事実が認められた。
「卡地亜」商標は馳名商標の認定条件を満たし、関係公衆か
らの認知度も高まっている。原告と被告の商品及びサービスは、普通消費領域に該当し、関係公
衆も一般消費者である。また「卡地亜」はその言葉自体に意味を持たず、顕著性があり、被告の
対象社名はサービスの提供元を混同誤認させ、或いは原告と何らかの関係があるよう想像させる
ため、原告の登録商標権侵害に該当する。また企業名称として登録した行為も、原告と特定の関
係があるよう想像させるため、真実信用原則と商業道徳に違反し、不正競争に該当することが認
められた。そして 2010 年 11 月 17 日の裁判で、被告に対し「卡地亜」の使用を停止させ、謝罪
声明を掲載し、原告に 15 万元を支払う判決が下った。
被告は不服として二審法廷に提訴したが、事実認定は明らかで、法律適用も正確であるため
2011 年 11 月 10 日二審で却下し、一審判決決定を維持した。
【コメント】
本件では原告の商標は第 14 類にあるが、商標法に従い「混同誤認」及び「損害」を基準とし、
さらに実際の使用領域の公衆からの認知度も適切に考慮し、商品類を超えた合理的な保護範囲を
確定したうえ、法律に沿って馳名商標権利者の権利を保護できたと考えられる。
華東地域における模倣品実態調査 107
この数年間の裁判状況及び浙江省高級人民法院の研究調査結果によると、下記のような問題や
傾向が見られる。
1) 全省において個別法廷による執行猶予の判決率が依然高く、処罰軽量化問題もあった。全
省において 90%の民事案件が法定裁量基準に従っている一方、その基準には差異があり、
個別案件では裁判官の自由裁量権の行使不当で賠償金額が権利保護のコストより低く命
じられるという問題もある。
2) 他の経済発達地域に比べ、浙江省の裁判賠償金額は全体的に水準が低いため、権利者側の
権利保護の積極性に影響するところがある。また裁判判例の開示範囲が不十分或いは公開
時間が遅くなっているケースもあるため、改善していく必要がある。
3) 知財の刑事案件数が急速に上昇している。2011 年には刑事一審案件の受理数は 598 件で
前年比 449%増となった。発効された判決において、3 年以上の懲役は 35 人で、3 年以下
の懲役は 640 人であった。
4) 一審の著作権侵害案件の比率が比較的高く、61.22%を占め、前年比 212.33%増となった。
また、著作権の権利者は 1 社/人対複数侵害者の場合がよくあり、権利者の一作品が一連
の案件になってしまうこともある。
5) 全省法廷において調停・撤回(取り下げ)率が非常に高い。浙江省において「調停優先、
且つ調停と裁判の結び付け」の原則に沿って、2011 年一審知財民事案件の受理件数計
7,597 件のうち、6,331 件が調停或いは撤回で終了し、その比率は 85.17%を占め、一般民
事・商事案件の平均和解率(58.18%)を上回るという特徴がある。案件量が増える一方、
裁判官の人数が足りないといった矛盾があり、現実とバランスを取るための傾向と見られ
る。
108 華東地域における模倣品実態調査
5-3. 江蘇省の高級・中級法院の知財法廷概況
5-3.1 知財法廷情報
江蘇省における知的財産案件を審判する人民法院(法廷)は高級 1 法廷、中級 13 法廷及び基
層 17 法廷から構成されている。高級人民法院と中級人民法院は下記のような構造である。
図 5-3 江蘇省省知財法廷構造
表 5-10 江蘇省人民法院一審知的財産民事案件の管轄等級
標的金額
(人民元)
「以下」は当該
数字を含める
管轄法院
当事者住所が両方と
も所属エリアである
当事者一方の住所が
所属エリアでない
香港、マカオ、台湾又
は渉外の場合
中級人民法院
中級人民法院
(連雲港・塩城・徐
(連雲港・塩城・徐
基層人民法院
州・淮安・宿迁)
州・淮安・宿迁)
中級人民法院
中級人民法院
300 万以上 500 万
中級人民法院
(楊州・南通・泰州・ (楊州・南通・泰州・
以下
(宿迁)
鎮江・常州)
鎮江・常州)
中級人民法院
中級人民法院
中級人民法院
500 万以上 800 万
(連雲港・塩城・徐 (楊州・南通・泰州・ (楊州・南通・泰州・
以下
州・淮安)
鎮江・常州)
鎮江・常州)
中級人民法院
中級人民法院
中級人民法院
800 万以上 1000
(楊州・南通・泰州・ (楊州・南通・泰州・ (楊州・南通・泰州・
万以下
鎮江・常州)
鎮江・常州)
鎮江・常州)
中級人民法院
1000 万以上 3000
中級人民法院
中級人民法院
(楊州・南通・泰州・
万以下
(南京・蘇州・無錫) (南京・蘇州・無錫)
鎮江・常州)
中級人民法院
中級人民法院
3000 万以上 1 億
中級人民法院
(南京・蘇州・無錫) (南京・蘇州・無錫) (南京・蘇州・無錫)
以下
200 万以上 300 万
以下
1 億以上 2 億以下
2 億以上
中級人民法院
(南京・蘇州・無錫)
高級人民法院
高級人民法院
高級人民法院
高級人民法院
高級人民法院
(場合によって、高級人民法院に指定された中級人民法院による個別案件の管轄が可能)
華東地域における模倣品実態調査 109
表 5-11 高級・中級人民法院住所一覧
法廷名称
江蘇省高級人民法院
南京市中級人民法院
蘇州市中級人民法院
住所
南京市寧海路 75 号
南京市広州路 35 号
蘇州市解放東路 488 号
電話
025-83785888
025-83522114
0512-68220949
無錫市中級人民法院
揚州市中級人民法院
南通市中級人民法院
泰州市中級人民法院
鎮江市中級人民法院
常州市中級人民法院
連雲港市中級人民法院
塩城市中級人民法院
徐州市中級人民法院
淮安市中級人民法院
宿迁市中級人民法院
無錫市崇寧路 50 号
揚州市楊子江中路 730 号
南通市工農路 246 号
泰州市凤凰東路 52 号
鎮江市解放路 27 号
常州市永寧北路 6 号
連雲港市郁洲南路 76 号
塩城市毓龍東路 40 号
徐州市淮海西路 416 号
淮安市翔宇中道 152 号
宿迁市洪泽湖路 135 号
0510-82705729
0514-87863391
0513-85116312
0523-86391988
0511-85319244
0519-85332228
0518-85295214
0515-88236012
0516-85952263
0517-83589199
0527-84363800
5-3.2 裁判官情報
上記高級・中級法廷で知的財産権に関わる案件を管轄する主要裁判官の情報と担当した代表案
件の概要をここで紹介する。
表 5-12 江蘇省高級人民法院
裁判官
宋健
王成龍
基本情報
江蘇省高級人民法院 裁判委員会委員と民三廷法廷長
全国知的財産のリーディング人材(総 81 名)に入選
代表案件
著作権係争 ( 2011) 蘇 知 民 終 字 第 0018 号
原告葉根友(個人)が自己書道字体をウェブにアップロードし、公衆
に無料提供した後、被告無錫ケンタッキー有限公司はケンタッキーの
店内にバナーなどに原告の書道字体を使用していた。原告が一審提訴
後、著作権侵害と認められたが、原告、被告とも不服として二審提訴
した。宋氏は審判長として、公衆に字体の無料提供をし、且つ権利説
明がないため、原告は字体使用による報酬支払いの権利を放棄したも
のと見なし、侵害に該当せず、一審原告の請求を却下した。
江蘇省高級人民法院 民三廷裁判長
代表案例
不正競争係争 ( 2008) 蘇 民 三 終 字 第 0204 号
原告南京智達分析儀器有限公司は、被告南京科朗分析儀器有限公司に
対し、原告の元社員が被告の元に入社してから、被告が同業の営業活
動で原告のウェブサイト模倣及び虚偽の宣伝をしたとして、50 万元
の損害賠償を含め一審提訴した。一審法廷で部分的な不正競争行為が
認められ、損賠賠償 4 万元を支払う判決が下った。被告は一審結果を
不服とし、二審提訴したが、王氏は裁判長として事実認定の妥当性を
認め一審結果を維持した。
110 華東地域における模倣品実態調査
表 5-13 江蘇省中級人民法院
裁判官
姚兵兵
盧山
朱劼純
管祖彦
基本情報
南京市中級人民法院 民三廷法廷長
著作権、商標権、特許権、技術契約及び不正競争と研究開発成果など
知財案件に関する裁判経験を持つ。所在の知財法廷は全国優秀知財裁
判チームに入選。
代表案例
著作権係争 (2011)宁知民初字第 404 号
原告北京鳥人芸術推広有限責任公司は著作権を保有している 58 曲の
音楽・映像作品が被告南京歌府昇平餐饮娯楽有限公司の KTV で無断使
用され、著作権侵害にあたるとして、1100 元/曲の損害賠償を主張し
提訴した。姚氏は裁判長として侵害行為を認めたが、原告から実際損
失の証拠が提出されず、また被告の KTV が小さいということも考慮
し、損害賠償金 224 元/曲の判決を下した。
南京市中級人民法院 民三廷裁判長
2010 年 1 月から 2012 年 6 月の間、審決案件 178 件、調停率 29.31%
である。一審での終了率は 88.71%に達した。国・省・市レベルで論
文数篇を発表し、2009 年優秀公務員賞、2010 年全省法廷知的財産裁
判の優秀個人賞を受賞した。
代表案例
著作権係争 (20l1)宁知民初字第 60 号
原告北京漢儀科印信息技術有限公司(字体・書体のソフトウェア会社)
は被告 3 社が原告の保有する美術書体の不正使用を行ったとして、損
害賠償 50 万元を含め提訴した。盧氏は裁判長として侵害・製品販売
の停止と損害賠償 2.8 万元の支払い判決を下した。この判例は、字体
の独特な個別表現における著作権が認められたという全国初めての
事例であった。
蘇州市中級人民法院 民三廷法廷長
代表案例
商標侵害及び不正競争係争 (2006)蘇中民三初字第 0099 号
原告南京九竹電控門製造有限公司は、電動制御のドア製品メーカーで
あり、商標「九竹」も江蘇省において有名ブランドである。被告張家
港市のドア販売店店主朱氏が「久竹」を社名また営業活動において、
目立つよう使用していた。原告はそれに対し、商標権侵害で提訴した
が、
「九竹」と「久竹」は発音のみ同様である以外顕著性が弱く、文
字の形状字体も異なり、却下された。
(二審で高裁より侵害と認めれ
た。
)
蘇州市中級人民法院 民三廷副法廷長
代表案例
商標侵害係争 (2005)蘇中民三初字第 0213 号
原告米国 Kodak 社は、被告蘇州科達油圧エレベータ有限公司の製品に
「Kodak」標識が付けられ、被告の公式サイト、工場フロントゲート、
看板また名刺にも同様の「Kodak」を使っていたことを発見した。そ
のうえ、kodaklift.com.cn と kodak-bj.com ドメインネームも勝手に
取られていたため、商標侵害で 50 万元の損賠賠償を求め提訴した。
華東地域における模倣品実態調査 111
裁判で Kodak 社の知名度が高く馳名商標として認められたうえ、被告
に対し、商標侵害停止と損賠賠償 5 万元の支払いが命じられた。
5-3.3 知財判例情報
江蘇省法廷は、経済発展の方式変換へのサービスに注目し、知的財産権で優位性のある産業を
サポートしている。裁判機能のほかに、政府・企業及び現地党組織に対し、法的アドバイスやリ
スクの情報提示を行い、経済活動の管理に参加している。実務では司法保護裁判案件の処理を中
心とし、知的財産の司法保護水準の向上に努め、知財侵害及び模倣品摘発キャンペーンにおいて
積極的に刑事案件に対応した。また、全省の法廷は公安、検察及び各知的財産行政部門と緊密な
連携を取りながら、知財の民事・行政・刑事の「三審合一」という司法モデルを促進させ、さら
に積極的に裁判情報を公開することで、裁判による知的財産の保護を推進する。
以下では江蘇省における直近数年の影響のある、また知名度がある知財判例の中から、商標、
ネット関係及び不正競争に関する案例各 1 件を紹介する。
案例 1. 「FUJI」と「富士」に関する商標権侵害係争
(備考:「電梯」=エレベーター)
原告:富士電梯控股有限公司(A1)、広州番禺富士電梯工程有限公司(A2)
被告:蘇州富士電梯有限公司(B1)、蘇州江南嘉捷電梯股份有限公司(B2)、仏山富莱機電装備有限
公司(B3)、仏山市南海城市休閑購物広場有限公司(B4)、深圳市承翰投資開発有限公司(B5)
江蘇省蘇州市中級人民法院(2010)蘇中知民初字第 0039 号
江蘇省高級人民法院(2010)蘇知民終字第 0115 号
【案件概要】
原告(A2)は「FUJI 富士」の商標登録を申請し、2008 年 11 月 17 日に商標局にて登録した。2009
年 1 月 7 日に原告(A2)は原告(A1)に商標権を譲渡し、同日、原告(A1)は(A2)に無償での商標使用
を許諾した。被告(B1)は 1992 年 11 月 3 日に設立した。2001 年 2 月 19 日に日本富士エレベータ
ー株式会社から一部の株の譲渡を受けた。
被告(B1)は、保有する工場の外壁や、見積書及び製品宣伝パンフレット、エレベーターの包装
箱に「FUJI LIFT SUZHOU CO.,LTD」との文字を付け、特に「FUJI」を他の文字サイズより大きく
していた。一部のエレベーター設備の包装箱には「蘇州富士電梯」と書いてあった。被告(B2)は
2006 年から 2008 年にかけて、被告(B1)とエレベーター原材料及び部品に関して大量に取引があ
ったほか、見積書や会社案内の住所、電話番号、ファクス番号などの情報も被告(B1)の情報と一
致していた。また被告(B2)は工場の建物を被告(B1)に賃貸していた。被告(B3)はエレベーターの
取り付け、修理などの資格を持ち、自社サイトにて被告(B1)(B2)と知名ブランドを含めるエレベ
ーターの販売・取り付けサービスを提供していた。被告(B4)は 2001 年 10 月に被告(B1)から 11
台のエスカレーターを購入した。被告(B5)は被告(B1)から 12 台のエレベーターを購入した。こ
れらの事実に基づき、原告 2 社は商標権侵害を主張し、五被告を一審法定で提訴した。
一審法廷は下記 3 点を認めた:
1. 対象商標の顕著性が弱い。対象商標の登録日、更に原告企業の登録日の前に、国内では
112 華東地域における模倣品実態調査
既に複数企業により「富士」という商号が登録され、エレベーター製品にも「富士」、
「FUJI」と目立つように表示されていた。その使用状態から、原告の商標による区別機
能は低く、原告の商標と当該商品分類の製品との間に、直接的な対応関係を形成しにく
いとした。
2. 原告の商標は、関係公衆の中でまだ一定の知名度を持っておらず、原告の商標使用許諾
契約も 2005 年以降、特に 2008 年、2009 年、2010 年に締結されていた。それ以上に、
既に複数のエレベーター関連他社が「富士」、
「FUJI」をエレベーター製品に使っている
事実が存在したため、原告による証拠は、対象商標がエレベーター製品市場において、
一定の知名度を有することを証明できないとした。
3. 被告(B1)の「富士」との商号は、対象商標の登録日より前に登録していたため、使用上
の悪意がない。被告(B1)は 2001 年 2 月 19 日から「富士」を使い始めたが、原告の「FUJI
富士」の商標登録日は 2008 年 11 月 17 日だったため、被告(B1)が「富士」を含めた企
業名称を使う際、原告の商標により信望を得る可能性と過失もないという。
従って、一審二審の裁判で、被告 5 社は対象商標権侵害に該当しないという判決が下った。
【コメント】
本件は登録商標と企業名称間の係争事件だったが、対象標識の使用沿革と現状を確認しながら、
被告にて対象標識の使用意図も考慮した。即ち、歴史の原因による権利衝突において、正当使用
者への合理保護と商標権への尊重とのバランスが取られたと考えられる。
案例 2. コンピューターソフトウェア不正複製・発行による著作権侵害
被告:鞠文明、徐路路、華軼(公訴案件)
江蘇省無錫市中級人民法院(2011)錫知刑終字第 1 号
【案件概要】
被告人鞠文明は、無錫市信捷科技電子有限公司に勤務していた当時、会社の許諾を得ずに、OP
シリーズ人対機械監視制御ソフトウェア V3.0 などのソフトウェアを無断でダウンロードした。
その後、2008 年 8 月に被告徐路路、華軼と共謀して、共同出資により無錫市雲川工控技術有限
公司を設立し、不法に入手した上記 OP シリーズ人対機械監視制御ソフトウェアを利用して、信
捷社と同類の文字ディスプレイ装置を生産し、金儲けすることを企んだ。3 人は、2008 年 12 月
から 2010 年 10 月までの間に、前後して TD100 型、TD307 型などの型番の文字ディスプレイ装
置合計 2045 台を製造し、多数の企業や個人に販売し、その販売高は合計 CNY448,465 元に達し
た。その後 3 人は 2010 年 10 月 21 日に逮捕された。しかし、鞠文明、徐路路は 2010 年 11 月
下旬、公安機関から保釈された後、他の第三者と共謀してまた無錫市雲川電気技術有限公司の名
義で上記の文字ディスプレイ装置計 114 台を製造・販売し、その販売高は合計 CNY25,200 元に
達した。
華東地域における模倣品実態調査 113
一審、二審の裁判所は、いずれも次のとおりに判定した。被疑侵害ソフトウェアと権利者のソ
フトウェアのプログラム間の対比を行い、かつ、被告人が無断で権利者のソフトウェアをダウン
ロードしていた事実により、被告鞠文明、徐路路及び華軼が営利を目的として、著作権者の許諾
を得ずに、著作権者のコンピューターソフトウェアを複製・販売していたという状況は特に深刻
であり、その行為はすでに著作権侵害罪にあたると十分に判断できる。不法経営金額の計算方法
については、「知的財産権侵害刑事事件の取扱における応用法律の若干の問題に関する解釈」第
12 条で「不法経営金額」について、行為者が知的財産権侵害行為を行う過程において、侵害商
品を製造・貯蔵・運輸・販売したことにより生じた価値を指すと明確に規定している。すでに販
売した侵害商品の価値は、実際に販売した価格によって計算する。本件において、文字ディスプ
レイ装置の価値は、主にその商品機能を実現させるソフトウェアプログラムによるもので、ハー
ドウェア部分ではない。係争ソフトウェアの著作権価値がその主な価値を構成しているため、商
品全体の販売価格を、不法経営金額算定の根拠とすることは、合理性を有する。共同犯罪におい
て鞠文明が主犯で、徐路路と華軼は副次的役割を果たしているため従犯であり、その処罰を軽減
することができる。また、鞠文明と徐路路が保釈期間に引き続き侵害文字ディスプレイ装置を製
造・販売したことは、かなり悪質であり、社会的危害も比較的大きい。華軼は、正直に犯行を供
述し、自ら犯行を認め、罪を悔やむ態度も見られたため、情状酌量の余地があるとして、その処
罰を軽減することができる。上記の事実に基づき、裁判所は、鞠文明、徐路路及び華軼について、
著作権侵害罪で、それぞれ懲役 3 年と罰金 12 万元、懲役 1 年 6 ヶ月と罰金 8 万元、懲役 1 年
6 ヶ月執行猶予 2 年と罰金 5 万元を言い渡し、違法所得及び犯罪に使った道具などを差押えた。
【コメント】
本件は、事実認定が複雑で、審理の難易度が比較的高いコンピューターソフトウェア著作権侵
害事件であった。当該判決において、被疑侵害ソフトウェアと権利者のソフトウェアのプラグラ
ムとの対比を経て、また被告人が無断で権利者のソフトウェアをダウンロードした事実に基づき、
法により被告人の犯罪行為を認定した。それと同時に、ソフトウェア価値をメインとする侵害商
品の販売価格によって、不法経営金額を算定し、それぞれの被告に量刑を言い渡すことを通じて、
比較的隠蔽されがちな当該種類の知的財産権犯罪行為に対する打撃と懲罰を強化した。これらか
ら、当該案例は比較的良好な裁判指導意義と社会的効果を得た判例と考えられる。
案例 3. 商標専用権侵害及び不正競争紛争
原告:法国欧莱雅会社(L’OREAL)
被告:杭州欧莱雅化粧品有限公司(B1)、上海美莲妮化粧品有限公司(B2)、南通通润発スーパーマ
ーケット有限公司(B3)
江蘇省南通市中級人民法院(一審)
江蘇省高級人民法院 (2009)蘇民三終字第 168 号(二審)
114 華東地域における模倣品実態調査
【案件概要】
「欧莱雅」、
「莱雅」との中文登録商標はフランスの L'OREAL 会社より 2001 年に中国で登録さ
れ、化粧品商品の登録商標として、知名度が高い。
被告(B1)は 2004 年 6 月 15 日に設立し、被告(B2)と共同で化粧品の製造・販売を行った。2005
年 1 月に、被告(B2)はその生産販売した化粧品のパッケージに英文と中文を組み合わせた標識
「L'OIYIR 莱雅」を使用した。そのため、上海市工商行政管理局が原告の「莱雅」登録商標と類
似し、原告の商標権を侵害しているとし、被告に 40 万元の罰金を科した。その後、被告(B1)は、
ウェブサイト www.loiyir.com で L'OIYIR シリーズ化粧品を広く推奨し、その製品を「フランス
の L'OREAL 化粧品会社からのものである」
、また「フランスの L'OREAL 化粧品会社は、杭州に杭
州欧莱雅化粧品有限公司を設立し、L'OIYIR 製品はフランスの L'OREAL 化粧品会社の技術に沿っ
たグローバルブランド製品である」と強く宣伝した。
2008 年 3 月に、原告は公証により江蘇省南通市にあるスーパーで 34 点の「L'OIYIR」シリーズ
化粧品を購入した。当該商品包装には「L'OIYIR」また「莱雅丽晶」などの標記が目立つように
表示されていた。2008 年 8 月に、フランスの L'OREAL 化粧品会社は商標権侵害を理由に、杭州欧
莱雅会社と上海 Milene 会社などに対し、南通市中級人民法院で訴訟を起こした。
一審法廷で審理した結果、両被告が侵害品に使用した“L'OIYIR”商標のアルファベットの数、
一部のアルファベット順列および書き方、ならびに発音が原告の登録商標である「L'OREAL」と
類似し、一般の消費者がそれを原告の商品であると誤認したため、二社が共同で「L'OIYIR」シ
リーズ化粧品を販売する行為は商標権侵害行為にあたるとした。そして被告(B1)は、原告の「欧
莱雅」商標の知名度が高いことを知っていたにも関わらず、「欧莱雅」との文字を企業商号とし
て使用し、主観故意があるため、不正競争法に違反した。一審法廷の裁判により、被告(B1)と被
告(B2)が商標侵害行為を停止し、共同で原告に対して損害賠償金 40 万元を賠償するうえ、さら
に被告(B1)は「欧莱雅」の不正企業名称での不正競争について、原告に対して損害賠償金 10 万
元を支払う判決が下った。その後、被告二社は江蘇省高級人民法院に上訴したが、二審で 1 年ほ
ど審理した結果、一審判決を維持した。
【コメント】
本件は、原告の中国における初めての商標民事案件である。原告は日用消耗品市場において高
い知名度を有している。本件の裁判により、被告の商標侵害を中止させ、「欧莱雅」商号の使用
停止との不正競争行為を差し止めたため、原告の権益を保護することができた。
直近の裁判案例状況から、下記のような問題や傾向が見られる。
1) 関連案件(法律関係上で主体、客体又は内容に特定の関連性があるという特徴的なケー
スをいう)の比率は継続的に上昇している。2011 年全省において、原告、被告ともに同
華東地域における模倣品実態調査 115
じ一審関連案件は計 456 回合計 3,869 件となり、一審受理総件数の 64.2%を占めた。そ
のうち、著作権関係は 74.4%、商標権関係は 28.5%、特許権関係は 14.6%を占めた。
2) 新類型また難解な案件が増えている。独占禁止、反ダンピング、コンピューターソフト
ウェア字体(書体)著作権など、新たな案件が出てきている。
3) 渉外案件数は継続的に増えている。2011 年、渉外知財案件は 235 件で、前年に比べ 84
件増加した。
116 華東地域における模倣品実態調査
第六章
まとめ
上海市、江蘇省及び浙江省における経済発展が逐年発展している中 、知財の法律意識の欠乏
及び模倣品の巧妙化などの問題で、それらの流通市場や製造業において、模倣品問題が依然と深
刻な状況にあると考えられる。模倣品の市場調査結果によると、各地の代表的な卸売市場に模倣
品を販売している店舗が多く存在しているのは現状である。
このような模倣品の状況が既に経済発展及び正当な競争を妨げたため、中国政府部門及び法執
行機関は、法制を整備すると同時に、知財侵害や模倣品問題に対し日常的なルーチン摘発活動を
実施する上に、侵害行為に対しより強い抑制効果を持つ集中摘発キャンペーンを長期活動として
積極的に行っている。一連の行動によると、模倣品製造、流通、販売における不正業者への圧力
をより一層強くかけていくことが見られる。また、知財侵害の裁判状況から見て、裁判官によっ
て裁判の観点は多少異なっている現状はあるが、近年権利者による権利の主張が認められたケー
スが、従来に比べ多くなってきているように見える。
模倣品問題は近いうちになくなるとは言い難いが、現地での模倣品対策を実行する際に、この
ような背景情報を活用しながら、当局との連携強化を図ることで、より効果的な模倣品対策が可
能になると考える。
—以上—
華東地域における模倣品実態調査 117
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