Comments
Description
Transcript
少子化要因の構造転換- 若年層の不安定化が少子化に与える影響の考察
第77回日本社会学会大会 少子化要因の構造転換 − 報告原稿 2004年11月 若年層の不安定化が少子化に与える影響の考察 山田昌弘(東京学芸大学) 1.少子化要因の構造転換 日本では、実態として、1950年頃から1975年頃まで(経済高度成長期)は、合計特 殊出生率は2.2前後で安定していた。1975年頃から合計特殊出生率の低下が始まるが、そ れは、未婚化、晩婚化によるものであった(低成長期)。結婚した夫婦の平均子ども数は2.2前 後で安定していたのである。しかし、1990年代半ばから、未婚化に加え、夫婦の平均子ども 数も減少に転じ少子化を深刻化させている(不安定期) (国立社会保障・人口問題研究所の推計に よる)。 私は、低成長期における少子化の進行は、パラサイト・シングルの増大によって、未婚者の生 活水準が高くなる一方、経済の低成長によって若年男性の収入の伸びが鈍化し、結婚後の豊かな 生活が期待できなくなるために、結婚時期を引き延し、未婚化、晩婚化が生じるという仮説をた てた。 しかし、近年起こっていることは、若年男性の収入の伸び鈍化にとどまらない。ニューエコノ ミーの影響によって、若年男性の現在の雇用自体が不安定となり、また、将来の雇用や収入の「予 測」が立てにくくなる。更に、若年女性の就労条件も悪化する。その結果、子どもを産み育てな がら豊かな生活を送ることに「不安」を感じる若者が増えたことが、近年の少子化・深刻化の原 因ではないかとの仮説をたてた。 2.調査の概要 上記の仮説を検証すべく、厚生労働省科学研究費の助成を受け、2002 年度は、未婚の不安定雇 用者(いわゆるフリーター)に対するインタビュー調査を行い、2003 年度は、結婚、出産期に当 たる若者(25 歳-34 歳)への質問紙調査を行った。調査地は東京練馬区、青森県弘前市の二カ所 で行った。訪問留め置き法で行い、東京では 1200 サンプル、有効回収票 609 票(回収率 50.8%)、 後者は 1000 サンプル、有効回収票 444 票(回収率 44.4%)を得た。 3.調査結果の概要 (1) 実態として、若年男性の職業が不安定になっている(ここで、不安定な職業状況とは、1) 職業が常勤雇用者でない、2)収入が低い、3)収入が低下する危機感を持っていることから判 断した。) 職が不安定な男性は、結婚相手として女性から選ばれにくい。この年齢の未婚男性の 収入は、未婚女性の期待からかけ離れている(表1参照)。 (2) たとえ、雇用が安定している男性(夫をもつ女性)でも、将来の雇用や収入の面の見通しが たたず、将来生活に不安を感じる人が多くなっている。将来生活に不安を感じている既婚者は、 追加予定の子ども数が少なくなっている(表2参照)。 (3) 女性の就労状況も不安定であり、男性の雇用や収入の不安定化を補うものになっていない。 また、家庭の経済責任は夫であるという意識が依然強い。 (4) 子育てにかけたいと思っている費用、手間は高水準である (1)−(4)の結果、結婚生活や子育て生活にリスク意識(人並みの生活が出来なくなる危険性) を感じている若者が増えている。その結果、結婚や出産を先送りする傾向が強まり、少子化が深 刻化する。 大都市である東京練馬区と地方青森県弘前市を比較した結果、次のような知見を得た。 (5) 大都市では、雇用状況が比較的良好で、収入の高い男性は多いが、生活費が高く、共働きが しにくい。一方、地方では、生活費が安く、親同居率が高く、共働きがしやすいが、男性・女性 共に、雇用状況(賃金、正規雇用比率)は悪い。 その結果、東京では、雇用が安定している男性の夫婦と、未婚の男女との格差が大きい。一方、 地方では、結婚への敷居は低いが、既婚者の生活の不安定度は高い。 表1 青森 男性未婚者の年収と未婚女性の結婚相手の男性に対して期待する収入(%) 未婚男性の年収 未婚女性の期待 東京 2 0 0 万以下 200-400 万 47.9 49.6 未婚女性の期待 30.5 16.1 2 0 0 万以下 200-400 万 33.8 43.2 1.7 0.9 400 万以上 4.3 600 万以上 39.8 13.6 400-600 万 600 万以上 19.5 200 万以上 こだわらない 29.7 表2 600 万以上 200 万以上 こだわらない 未婚男性の年収 400-600 万 400 万以上 26.8 3.5 600 万以上 39.2 既婚者の将来の自分の生活に対する見通しと「追加予定子ども数(平均値)」 (内は人数) 青森 東京 今以上に豊かになる 1.00人(20) 0.75人(45) 現在と同じようなもの 0.83人(69) 0.61人(141) 今より豊かでなくなっている 0.50人(91) 0.52人(113) 4.結論 * −現在日本の少子化要因の構造転換 晩婚化、未婚化の深刻化の原因 若者の職業の不安定化が進んでいる。非正規雇用につくものだけでなく、正規雇用につくもの であっても、将来の雇用や収入に対して不安を抱いている。 その結果、フリーターに象徴される不安定な雇用に就く男性は結婚の見通しがまったく立って いない。特に、生活費用がかかる大都市部ではその傾向が強い。女性も十分な収入をもった男性 に出会う確率が低下するために、結婚しにくくなる。 それは、依然として、男性が一家の生活の稼ぎ手であるという意識が残る上に、女性の就業状 況も男性以上に悪化しており、夫婦共働きで相当の収入という見通しも立たないという理由に基 づく。 * 結婚している夫婦の出生率の低下の原因 結婚している夫婦も、自分たちの将来の収入低下不安があり、将来の生活の見通しに対して悲 観的になる人が増えている。その結果、追加して子どもを持とうという意欲が減退している。