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リウマチの治療

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リウマチの治療
病気のプロフィル No.
36
リウマチの治療
その1
標題に掲げたリウマチとは、アメリカのリウマチ学会があげている120余種のリ
ウマチ性疾患のうちの慢性関節リウマチ
の病気の英語名の頭文字を取って
rheumatoid
arthritisを指す[1]。以下、こ
RAの略語で通すことにする。
RAはリウマチ・膠原病と呼ばれる疾患群のなかで圧倒的に多く、比較的遭う機会
が多い全身性エリテマトーデスなどの20数倍の患者がいると推測される(表1)。わが
国全土でおよそ70万人のRA患者がいるとおり、多関節症状を訴えるいわゆる「リ
ウマチ予備軍」をも含めると、RAまたはその疑いの患者は200-300万人はいると試
算されている[2]。
RAは治療がむずかしい病気の一つである。
百人の患者がいれば百とおりの治療の仕方があると言われるように、一人一人の
患者に対して医師およびコメディカル・メンバー(後述)の対応の仕方は一様にいか
ず、その診療は多分に経験的である。
絶えず変化する症状に対して、日常生活動作
ながら最も適切な治療法を選択し、生活の質
activity
quality
of
of
daily
life(ADL)に配慮し
life(QOL)を高める努力を
する[4-6]。
その仕方は内外のリウマトロジスト
rheumatologist
(リウマチ専門医または研究
者)が長年にわたって試行錯誤を繰り返しながら作り上げてきたものである。したがっ
て一般の医師がRA患者を診療する際に、その方式をある程度心得ておくのと、おか
ないのとでは結果に大差が生ずると云われている。
何故いま
「リウマチの治療」を取り上げたか
まとめるのが容易でない「リウマチの治療」をあえて取り上げたのには、過去と
最近における五つの理由またはきっかけがある。
治療法に見るべき進歩 ある知り合いに免疫学者が言った。ヒトの白血球抗原
(HLA)の発見(J.Dauss et
al
. 1958)を一つの起点としてヒトの免疫学は著しく進歩し
たが、自己免疫現象の仕組みに関してはほとんど何も分かっていないと。RAの病因
解析も、それを反映してか、ほとんど進展していないらしい。しかし、それとは裏
腹に、RAの治療は着実に進展しつつあるという。これが筆者の関心を引いた理由の
第一である。
西日本におけるリウマチ専門医の数 筆者はリウマトロジストではないが、かつ
1
て厚生省難病感染症対策「リウマチ・膠原病研究班」に所属していたことがあり、
いわゆる難病
intractable
diseaseとしてのRAのしたたかさを肌身で感じていた。
RA患者の頻度には東西南北または寒・温・熱帯による地域差はないと言われてい
るが、西日本地域におけるリウマチ専門科の数は東京あたりに比べると格段に少な
い。この現実に対する懸念が理由の第二である。
一般病院におけるRA患者 リウマチ専門科がない病院にも一年中RA患者が絶え
ることがない。上述の全土における患者から見て当然のことである。リウマチ専門
でない医師もそれ相応の対応をしなければならない。
関節外病変がある患者についての筆者の経験 第四に、「病気のプロファイル」
No.
26に紹介したように、以前、classIIIぐらいのRA患者の診察を求められたこと
があって、そのときに一年以上も胸部X線写真が撮られていないことに気づいた。
急ぎ撮影してもらったところ、案の定、RAに頻度の高い肺疾患
complications
ウマチ肺
associated
rheumatoid
with
rheumatoid
pulmonary
arthritisの一つ、間質性肺炎(通称リ
lung)が見つかった。この患者で抗リウマチ薬を使った形跡
はなかった。当然、治療法はそれまでとは大きく変った。
患者と家族の精神心理学 第五に、家族に難治のRA患者を抱えていた知人のこと
がある。
この患者は重度の関節傷害のある患者で、手指は変形、短縮し、引っ張ると伸び
縮みする「オペラグラス手」を示し(ムチランス型関節炎 Arthritis
mutilans
)、日
常生活は著しく傷害されていた。
あるとき知人は言った。「リウマチという病気は陰うつな病気ですね。昔、"どこ
まで続くぬかるみぞ...."という軍歌があったが、いまや家じゅうがそのような状態
です」と。この歌の一節は、北支か何処かの戦線で三日三晩続く雨中の泥濘行軍の
難儀さをうたったもので、知人と同世代に育った筆者にはこの歌の意味するところ
がよく分る。
RAは一般に30~50歳の女性に多く(表1)、家庭内で子供の養育から家事全般に重
要な役割を果している主婦が罹患すると、それと向き合って暮らしている家族全体
がいわゆる"third
party
handship"の状態に陥る[2]。
主治医は病気そのものばかりでなく、患者の背景にまで思いを至さないと、満足
な診察ができない(後述)。
RAの臨床像(概要)
ここで、型のごとく、RAの臨床像についてごくあらましを述べておく。
リウマチという言葉は医師には抵抗なく受け入れられるとしても、一般の人には
分かりにくいらしい。
2
「リウマチ」の語はギリシャ語の rheuma
"
"
(流れる)に由来し、大脳のなかに生
じた質の悪い液状の物質が全身に流れて、とくに関節を冒すというほどの意味らし
い[7]。関節症状があちこちと移動するがごとく見えることが「流れる」という印象
を与えたのかもしれない。
臨床的にはRAの主な症状は関節に在り[8]、この部分から病変が始るかのように
みえるが、実態は分らない。関節と同時に他の臓器、組織にも病変がきざしている
かもしれないが、まだ明確に把握されていない。
関節症状 初め関節腔をおおっている滑膜に原因不明の炎症をきたし、その結果、
関節は腫脹する。図1に示すように、滑膜炎は寛解と再燃を繰り返しているうちに
関節包や靱帯などの関節周囲の軟部組織が弛緩し、滑膜炎はパンヌス(pannus)と呼
ばれる肉芽組織に進展していき、次第に骨・軟骨組織は破壊され、関節は変形して
くる[6,
9-12]。
ヒトでは滑膜をそなえる可動性の関節は200以上はある。すなわち、ヒトのRAで
は200カ所以上の関節で上に述べたような炎症が起る可能性がある[76]。患者の心
身両面にわたる負担がどんなに大きいか分る。
RAは関節という身体各所の症状(関節の腫脹、疼痛、朝のこわばり、変形、拘縮
など)が優位の全身疾患である[7,
11]。
関節外病変 病気が進展するにしたがって病変は関節ばかりでなく次第に全身に
および、皮下結節、皮膚病変、目の強膜炎、心、肺、腎などの病変、血管炎、神経
炎、リンパ節腫大などの関節外病変
extra
articular
lesion
をきたす[8,
13]。
リウマチ・膠原病としてのRA 病因解析と病態生理学の視点から、RAは膠原病、
自己免疫疾患、結合織病、または血管炎疾患群と共通あるいは類似している点が多
く、またシェーグレン症候群やフェルティ症候群などと重複する頻度が有意に高い。
はじめに述べたように、RAの病因、病態の解析はこの近年さほど進歩したように
はみえない。しかし、治療に関しては、ゆっくりとではあるが着実に進歩しつつあ
る[39,
88]。
治療方針策定に必要な情報
RAの治療方針の策定には、患者がRAの病期
能の障害
(stage)のどの時期にあるか、身体機
(class)はどの程度か、活動的か非活動的であるかが問題になる。したがっ
て体温表などには月ごとにRAの診断名にこれらの指標を付記すべきである[28]。
例:Rheumatoid
arthritis
(stage
III,
class
2,
active)
以上の記載は具体的に説明すると、この患者はいわゆる「燃え尽き終末
out
burn-
terminus」の状態にまで至っていないが、第三期に相当するかなり進行した
RAで、骨粗しょう。骨・軟骨の破壊が進んで関節の変形と拘縮があり、筋肉の萎縮
3
も見られる。Hochberg et
al
.(1992)の基準にしたがって機能障害の程度を判断する
と、身の回りのことと職業的動作は何とか出来るが、非職業的動作には困難がある
ことが分る。
ちなみに、職業的動作とは、仕事、学校、家事などに関連する動作で、非職業的
動作とは娯楽、趣味、または余暇に関連する動作である[24,
29]。
早期RAをふくむRAの診断、病期、重症度、機能障害の程度、活動性、臨床的寛
解の基準などについては、すでに五十数年も前から
Steinbrockerをはじめとする
リウマトロジストによって作られたものがある。一般の医師のあいだにも広く普及
しているから、ここで表2にその項目までを示しておく。これらの項目の委細は小
冊子にまとめてベッドサイドに常備しておくと便利である(それほどの大冊にはなら
ない)。
これらの項目のうち、治療によって病気が改善しているかどうかを判断する基準
が比較的少ないから、簡便なPinals et
基準を表3に示しておく[6,
12,
al
. (1994)の臨床的寛解 clinical remissionの
38]。
治療の主要な柱
RAの対する治療の目指すところを、関節症状に重点をおいて具体的に述べると、
次のとおりである[4,
(1)
9,
18,
28,
40,
48]。
発症の基礎になっていると推定される免疫異常を是正する。(2)
骨・軟骨、関節の破壊
炎症を抑制す
る。(3)
疼痛を緩和する。(4)
(変形と拘縮)への進展を阻止す
る。(5)
運動機能をできるだけ正常に近い状態に維持し、身体全体の保全をはかる。
以上の目標に向ってなされるRA治療の主要な柱は、次の四本である[6]。
基礎療法
薬物療法
リハビリテーション
外科療法
これらの四つの柱はどれも重要であるが、このプリントでは装具、運動療法、理
学的療法などを含むリハビリテーションと外科療法については、それ専門の成書ま
たは論文にゆずる[1,
2,
6,
42-47]。
リウマチ診療体制 RAの診療には、リウマトロジストと外科の専門医を中心に、
理学療法士
(PT)、作業療法士
(OT)、医療ソーシャル・ワーカー
(MSW)、および看
護婦などのコメディカル・メンバーが協力し、一体となって当ることが望ましい。
わが国の大多数の医療機関ではこのような体制になっていないようであるが、今
後、リウマチ・膠原病科を標榜する科はこの水準に近づく努力をしなければならな
いであろう。
4
基礎療法
基礎療法は、薬物療法、リハビリテーション、および外科療法と並行してなされ
るべきRA治療の重要な一環である。基礎療法だけで症状が改善することが多く、ま
た基礎療法なくしては他の治療法の成果が上らない[28]。
基礎療法は表4に示すような内容項目を含んでいて、そのかなりの部分は主治医
の指導下で上述のコメディカル・グループが分担する。
家族と患者に対する教育 患者と家族に対してRAはどのような病気で、どういう
治療をし、どのような経過が予測されるかについて説明する。これについては川合
監修の「インフォームドコンセントのための図説シリーズ−慢性関節リウマチ」が
有用である[6]。
安静と運動の均衡 RAの炎症には安静が必要である。しかし、ただひたすら安静
を保つだけでは筋肉が萎縮、関節の保持が弱化して、運動機能が低下する。次第に
廃用症候群
disuse
syndromeの様相をおびてくる。したがって筋力の低下、関節の
可動域の減少、骨の萎縮を防ぐために、関節に過度の負担がかからないよう程度に
適度の運動をさせ、また日常的な活動もさせる。
生活に対する指導 家庭または病院における生活において、症状を悪化させる誘
因を避けさせる。とくに心身の疲労、感染、寒冷への暴露には注意する。また食事、
便通、排便、睡眠、入浴などにも気を配らねばならない[2,
6,
18]。活動期には発熱、
食思不振、全身倦怠をきたした場合には安静をとらせる。
QOL向上対策 一般にRAは長期にわたって寛解と増悪を繰り返し、またその病
態からも患者ならび家族の心身両面にわたる負担は小さくない。
1989年にStewartは慢性疾患患者の日常における心身の機能と満足感(健康感)を
向上させることを重視する論文を発表した[56]。また川合(1994)は、RA患者を中心
に慢性疾患患者のQOL障害のパターンを身体機能、役割機能(職業、家事、学校な
どに関連する機能)、社会機能(付き合い、行事への参加などに関連する機能)、健康
感、痛みの程度、および精神心理面の問題に分けて比較検討している[57]。今後の
新しく、かつ重要な課題である。
基礎療法全般について平山(1998)ほか4篇の論文[2,
6,
ついては藤井・辻(1998)ほか4篇の論文[2,
57]に詳しい。また慢性疾患患者
29,
56,
27,
58]、QOL向上対策に
の家族のQOLについては、とくに落合(1999)の論文を奨める[27]。
RAの主要な治療薬
RAの主要な治療薬は主に鎮痛と抗炎症作用を示す非ステロイド抗炎症薬、RA発
5
症の基礎にある免疫異常を正常化し、骨・軟骨、関節の病変の進行を遅延させる可
能性のある抗リウマチ薬、および以上の2種類の効果をほぼ兼ねそなえた副腎皮質
ステロイド薬の三つに大別される。
非ステロイド抗炎症薬
ステロイド骨格(後述)のない構造を持った抗炎症薬を総称して非ステロイド抗炎
症薬
non-steroidal
antiinflamatory
drugという。一般にNSAIDの略語で通って
いるから、以下、この略語で通すことにする。
臨床におけるNSAIDの位置 臨床で使用された最初のNSAIDは、1899年に開発
されたアスピリン(aspirin)である[49]。この薬は少なくとも第二次世界大戦までは
ただ一つのNSAIDで、世界中で最も多く使われた薬らしい[50]。
現在では、今なおよく用いられるアスピリンを含めて、50種類以上のNSAIDが開
発されている。
RAの治療方式が変遷して若干影が薄くなった感がある現在でも、NSAIDはRA治
療の"background
drug"として評価するリウマトロジストが少なくない[5,
24]。軽症のRAはNSAIDだけで治療し得るとみなす人もいる[18,
12,
18,
24]。
製剤の選択 NSAIDには酸性のものと非酸性のものと二とおりある。前者は鎮痛、
解熱、抗炎症作用が強いが、後者は鎮痛作用が主で、抗炎症作用は弱い。したがっ
てRAには酸性のNSAIDが用いられることが多い[28,
50,
51]。
一般にはNSAIDの効果の現れ方には患者ごとに差が大きい。それで、酢酸系、プ
ロピオン酸系、エノール酸系、.....の順序で使用し、そのなかから有効なものを選
ぶことを奨める人もいる[24]。
それにもまして重要なのは、副作用軽減を目的とした製剤の選択である(後述)。
RAに対するNSAIDの効果とその特色 RAに対するNSAIDの効果には次のような
特色がある[5,
(1)
8,
24,
41]。
一般に速効性。疼痛や炎症症状に対して有効で、患者のQOLを高めるが、RA
の自然経過を変えるほどの効果はない。
(2)
RAの長期にわたる寛解には期待できない。
(3)
骨・軟骨、関節の変化の進行を阻止する効果はない。
(4)
副作用は当初推測されたより多い。
主な作用 NSAIDの多くに共通する薬理作用は消化管粘膜におけるプロスタグラ
ンジンの生成を抑制することに在り、その主要な作用点は酵素
cyclooxygenase
(COXと略称する)の活性阻害である。COXには組織に構成的に発現されるCOX-1
と炎症などの刺激によって誘導されるCOX-2の二つのアイソフォームがあり、これ
までに開発されたNSAIDの多くはCOX-1を標的に効果を発揮する。
50種類以上のNSAID製剤の副作用には共通するものが多く、それらのなかで最も
6
多く、かつ警戒を要するのは上部消化管の潰瘍とびらんである。
3ヶ月以上NSAIDを服用した関節炎の患者を無作為に選んで内視鏡観察すると、
15.5%に胃潰瘍が発見された。これは対照における2.2%に比べると有意に高率で、
その41%はほとんど無症状であったという[52]。これが「NSAID潰瘍」と通称され
るもので、潰瘍特有に症状に乏しく、知らないうちに穿孔、大出血などを起して重
症化することがある。とくに高齢のRA患者では気をつけねばならない[52,
53,
75]。
NSAID製剤についての副作用対策 NSAIDの副作用を軽減または防止する目的で
剤型にいろいろな工夫がこらされ、薬物配送システム
drug
delivery
system
(DDS)の技術によってプロドラッグ、腸溶錠、徐放剤、坐薬などが開発されている
(表5)。そのためにRAに対するNSAIDの効果が弱まる傾向があるが、ある程度止む
を得ない。
プロドラッグは消化管粘膜では不活性の薬として吸収され、肝臓で代謝されては
じめて活性型のNSAIDになる製剤で、日本人に向いていると云われている。また腸
溶錠は消化液が酸性の胃内では溶けず、アルカリ性の腸管内では溶けるから、胃粘
膜の障害が小さくて済む[49,
54]。
最近では、NSAID潰瘍に有効な薬が併用されている。すなわち、病巣に出現する
COX-2の活性を選択的に阻害するCOX-2阻害剤を用いるか、あるいはミソプロス
トル(プロスタグランジン製剤)のようにNSAID潰瘍に特異的に効く薬が併用される
ようになった[5,
12,
22,
23]。
注意すべきは、2種類以上のNSAID併用である。経口剤と坐薬の併用はさほど問
題がないが、2種類以上の経口剤の併用は副作用の危険度を高めるだけで、RAに対
する効果はさほど上らない[55]。
抗リウマチ薬 以前、NSAIDと副腎皮質ステロイドをも含めて、RAに作用される主要な治療薬
を抗リウマチ薬と総称する報文もあったが、ここではRAの進行を抑制する可能性の
ある薬を抗リウマチ薬
antirheumatic
drugとする[6]。このなかには以前別のカテ
ゴリーで取り扱われていた免疫抑制薬や免疫調節薬の一部がふくまれる。
抗リウマチ薬には表6に示すような別の呼び方があり、これらのなかで疾患修飾
抗リウマチ薬
(DMARD)の名称が用いられることが多いが、このプリントではすで
にNSAIDの略語を用いているから、以下、邦語の抗リウマチ薬で通すことにする
(略語の多用は好ましくない)。
抗リウマチ薬はT細胞やマクロファージなどの免疫担当細胞に作用してRAの炎症
を軽減、鎮静化する作用がある[41]。急性期反応の指標であるCRPなどはNSAIDに
よってほとんど変化しないが、抗リウマチ薬によって30~50%低下する[59]。また
メトトレキサートなどには骨・軟骨、関節の破壊の進行を抑制する効果も示されて
7
いる[60]。このような点から、抗リウマチ薬は最近におけるRA治療の中心的存在に
なっている。
わが国で用いられている抗リウマチ薬 表7に示すように、わが国で用いられて
いる抗リウマチ薬は5分類・9種類で、その数はNSAIDなどに比べるとはるかに少な
い。しかしレフルノミド
(leflunomide)などいくつかの有望な薬が開発途上にあり、
いずれ臨床にさらに数種類の薬が導入するであろう[39]。
表7を見て直ぐ気づくことは、従来からウィルソン病、潰瘍性大腸炎、悪性新生
物などの他の病気に使われてきたものがあり、またロベンザリット二ナトリウム(カ
ルフェニール)などはわが国で開発された薬である。
RAに対する抗リウマチ薬の効果とその特色 抗リウマチ薬にほぼ共通する薬物と
その特色は、次のとおりである[6,
8,
12,
61,
62]。
(1)
遅効性である(ふつう8~12週間使用して後に効果が現れる)。
(2)
RA発症の基礎になっていると推定される免疫異常を是正する。
(3)
非特異的な抗炎症作用はほとんど認められない。
(4)
RAを完全寛解に持っていくことは難しいが、進行を遅らせる可能性がある。
(5)
この薬に反応する患者は(responder)としない患者(non-responder)がある。
(6)
よく反応していた患者が後に反応しなくなることがある。
(7)
一般に高い頻度で副作用が発現し、重篤な副作用についての報告が多い。
一般に抗リウマチ薬にはD-ペニシラミン、メトトレキセート、ブシラミンのよう
にRAに対して切れ味の鋭い薬が多いが、それだけ副作用に重篤なものが多い。その
主なものは腎、肝臓の障害、間質性肺炎、造血臓器の障害、感染、難治の下痢、皮
膚・粘膜障害などである。
副腎皮質ステロイド
ステロイド(steroid)は、図3に示すように、3個の六員環と1個の五員環の基本骨
格を持った物質で、ほとんどすべての生物の種の保存と生命の維持に不可欠な生理
活性物質である。
副腎皮質ステロイドホルモン
Hench et
adrenocortico-steroid
hormoneは1949年に
al
.によって発見され、17-droxy-11-dehydrocortisoneが治療薬として
最初に用いられた病気がRAであった[63]。用いられた当時、劇的ともいえる効果に
医学界が驚倒したと伝えられている。このことをも含めた一連の業績によって
Henchら三人の研究者はノーベル医学・生理学賞を受けたことは「病気のプロフィ
ル」No.35で紹介した。
以下、副腎皮質ステロイド薬をステロイド薬と呼ぶことにする。
それ以降、1955年に合成されたプレドニゾロン(predonisolone)をはじめとして
多くの合成ステロイド薬が登場した。その主要なものの対応量と推定半減期を表8
に示す。この間およそ四十数年、この薬は臨床に不可欠なものとなったが、その効
8
用には功罪半ばするものがあることは周知のとおりである。
ステロイド薬の安全域 ステロイド薬の使用で重要なのは、副作用が発現しない
で済む安全域である[6,
91]。それは薬の用量と使用期間による。
ステロイド薬は、数日といった短期間であれば、大量使用でも安全域は広いが、
数ヶ月またはそれ以上の長期間使用では安全域はずっと狭くなる。慢性疾患である
RAでは長期間使用になりがちであるから、1日の使用量を最低限にすることを心が
けねばならない[5,
6,
48,
64]。
ステロイド薬の安全性と有効性の境界値は、経験的にプレドニゾロン換算量
5mg/日前後と考えられる[6]。最近、1mg錠剤が開発されたことから、少量使用が
やり易くなった。これまで就眠前頓用であったものを、朝、昼、夕、就眠前の4回
に分服することもできる[1]。
上の境界量を越えてプレドニゾロン20mg/日を服用した患者を短期的に見ると、
関節の痛み、朝のこわばり、手足の運動機能、赤沈などは著しく改善するが、長期
的に経過を追跡調査すると、非ステロイド薬を使用した患者の群に比べて、身体障
害の程度は増大、死亡率は上昇するという[90]。
しかし、上述の安全域を守ることのできない患者が少なくない(後述)。
RAに対するステロイド薬の効果とその特色 周知のように、ステロイド薬には顕
著な抗炎症作用があり、一般に速効性である(表8)。最近、少量でRAの骨・軟骨、
関節の破壊の進行を抑制することが明らかにされている[65,
は次のとおりである[6,
66]。RAに対する効果
8]。
(1)
短い期間におけるステロイド薬の効果は、少量でも顕著である。
(2)
患者によって薬の効果に差がある(後述)。
(3)
長く使用しているうちに効果が次第に低下してくることがある。
(4)
骨・軟骨、関節の破壊をある程度抑制する。
(5)
副作用は薬の量に依存して発現する。
(6)
安全性/有効性の境界はプレドニゾロン換算量5mg/日で、状況で許せば、そ
れ以下に漸減することが望ましい。
抗リウマチ薬同様に、ステロイド薬に対する反応に患者ごとに個人差がある。プ
レドニゾロン換算量5mg/日でよく反応する患者がいる一方、10mg/日でも無反応
な患者がいる[8]。後者は全患者のおよそ40%と意外と高率である[67]。
RAに対する治療指針 RAに対するステロイド薬の使用指針を表9に示す。副作用
に関連して、他の薬との相互作用はとくに留意すべきもので、表10に示す。
RAに対するステロイド薬の使用法には、経口服用のほかに、パルス療法、関節内
注入、リポステロイド・ターゲッティング法などがある(後述)。
[謝辞] 立元 貴博士(福岡逓信病院・内科)、藤井 俊志部長、および庄野 泰英
主任(福岡逓信病院・薬剤部)の御協力に深謝する。
9
参考文献は次回の「その2」に回す。
柳瀬 敏幸
(2000.10.15)
10
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