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カナダ研究プロジェクト活動報告

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カナダ研究プロジェクト活動報告
研究所通信
カナダ研究プロジェクト活動報告
プロジェクトマネージャー
祖慶 壽子(本学国際文化学部准教授)
カナダプロジェクトは2004年にデビッド・マクマレー国際文化学部教授(当時助教授)の呼びかけによ
り,カナダ研究に関心を持つ本大学の研究者10名で発足した。更に活動を活発なものにするために今年度,
学外から2人の準会員を迎えた。鹿児島国際大学附置地域総合研究所に所属する研究機関として,カナダ
政府の後援を受けている。カナダプロジェクトは東京大学をはじめ全国に数箇所あるが,昨年はその中で
も最も活発な活動を行ったとして表彰されている。今年度の前期もすでに多くのカナダ専門家を招いて大
会を行った。また,カナダの建国記念日に合わせ,後期以降の研究計画と研究発表を兼ねた定例会も行っ
た。論集も年2回発行し,今年度前期の総括として第6巻(Vol. 6),後期締めで第7巻(Vol. 7)を刊行
する予定である。
以下,2009年度4月より7月までの活動を報告する。
1.カナダプロジェクト大会
日時:2009年5月29日(金)~5月31日(日)
「多様性は重要か?」“Does Diversity Matter?”というテーマで3日間にわたり様々な形でカナダに
関する行事を行った。
1)ワークショップ
カナダのプリンスエドワードアイランド大学と本学は協定を結んでいるが,交換教員としてマクレー
ン先生が来日された。ワークショップが行われ,本学から多くの大学院の学生や教員が参加した。ワー
クショップではティームワークを利用した文学の授業形態の試みが,参加者が実体験することにより紹
介された。
2)講演会
基調講演者と講演内容
① マイルズ チルトン氏(Ph.D.)千葉大学文学部准教授
「日本においてカナダ文学を教えるときの多様性は」について講演された。氏によると,多様性
も重要であるが,それは,多くの人が考えている意味において重要だというのではない。つまり
社会の鏡として重要であるという意味ではないと語られた。氏は,多様性に関するさまざまな理
論と仮説を考慮に入ることによりテキストを研究し,変化に基づくモデルを提案したいと語られ
た。
― 105 ―
地域総合研究 第37巻 第1号(2009年)
基調講演をされたチルトン先生
(Myles Chilton Ph.D)
ディベートコンテストの表彰式
奥 審査員をしていただいた,UPEI のマクレーン先生(Dr. Brent MacLaine)
手前 マクマレープロジェクトリーダー(Prof. David McMurray)
本大会通訳とディベートコンテスト審査員長をしていただいた
鹿児島大学の坂本先生
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研究所通信
② 高元昭紘氏 立命館アジア太平洋大学大学院経営管理研究科教授
「日本の異文化間コミュニケーションの落とし穴」と題して講演された。異文化の人とのコミュ
ニケーションはとても難しい。その原因は違いが外から分からない形で存在するからである。ま
た,ステレオタイプも障害になる。中国文化は日本文化同様,コンテクストに大きく依存する文
化だと言われているが,そうではないのではないかとの,ご意見を示された。
③ 岡本雅享氏 福岡県立大学人間社会学部社会学科准教授
岡本氏は「日本人の内なる他様性―同質幻想の脱却―」と題して講演され,その中で日本の民族
は単一民族では無いと述べられた。アイヌはもとより出雲と沖縄を例に出し,その歴史を紹介し
ながら日本の民族に対する考え方に疑問を投げかけられた。
④ 若手研究員の講演及び発表
今回は初めての試みとして期待される将来のカナダ研究者として大学院生の参加を呼びかけた。
講演者として東京大学大学院の岡田健太良氏,成城大学大学院の菊池洋氏の講演が決まった。カ
ナダ大使館のランバート氏による講演もあった。今回は本地域総合研究所所長でもある本学学長
の講演や,本学の大学院生及び交換留学生による発表とシンポジウムも行われた。講演者及び発
表者の人数が多数につき,詳細は講演会当日のプロ及び10月発行予定の第6巻(Vol. 6)をご覧
いただきたい。
3)学生によるディベート大会
学生によるディベート大会も行事の最終日(31日)に開催し,今回カナダプロジェクト準会員になっ
ていただいた鹿児島大学の坂本育生先生が総合ジャッジを担当された。ディベートでは鹿児島県内のみ
からだけでなく,福岡から西南女子大学からの参加もあった。大学単位でティームを構成できないグ
ループは混成ティームを作り,ディベートに参加した。ディベート大会は今回が初めての試みにも関わ
らず,活発な討論を行い盛況であった。
2.カナダプロジェクト定例会議
7月3日には,カナダプロジェクト定例会が開催された。昨年度の活動報告と会員(準会員も含め)の
今後の計画の発表に続き,大学院生の発表と準会員になられた鹿児島大学の坂本先生による講演が行われ
た。坂本先生は5月の大会におけるディベート大会でもジャッジをしてくださり,今回の講演はその総括
とディベートの方法に関するものであった。また,坂本先生には本大会ではいくつもの講演の通訳として
もお世話になった。
次ページに6月大会のプログラムを掲載します。
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地域総合研究 第37巻 第1号(2009年)
Students, professors, staff, and the general public are invited to participate in workshops, lectures, panel
discussions, and key-note speeches by 11 scholars from Canada and Kyushu in a vibrant on:
“Does diversity Matter?”
Canada Project & IUK International Affairs Centre & ACTJ 2009 Shades of Green Conference Saturday, May 30
The International University of Kagoshima
MAIN AUDIO-VISUAL HALL, Library 4F, IUK
12:45 Musical Chorus begins
12:55 Introductions by Prof. David McMurray, Canada Project Leader
PLENARIES
13:00 ACTJ Selected Speech by Dr. Chilton, Chiba University (Trans by Prof. Sakamoto) introduced by Prof. Kristie
Collins, Tsukuba University
13:30 Keynote Speech by Dr. Masataka Okamoto, Fukuoka Prefectural University Fukuoka Kenritsu University
Hidden Diversity of the Japanese People
introduced by Prof. Tom Onishi, IUK
14:30 Special Address
15:00 Musical Chorus and Refreshment Break
CONCURRENT SESSIONS
15:15 Keynote Speech by Prof. Takamoto, APU introduced by Prof. Yamada Okitsugu
15:45 Speech on Diversity of Loan Words in the Japanese and Chinese Languages by Huang Wei, IUK
16:00 Colloquium Panel On Diversity with Dr. Brent MacLaine, UPEI; Dennis Woolbright, Seinan Jo Gakuen; John
Foster, Kagoshima; introduced by Mr. Shinobu Uchi, IUK
PLENARY
16:45 Keynote Speech by Mr. Lambert, Embassy of Canada (Trans by Prof. Sakamoto) introduced by Prof. Takaharu
Mori, IUK
17:30 Opening Gambits for May 31 Debate by Selected Students:
Mr. Kikuchi, Seijo U.; Huang Wei, IUK;
Daniel Arturo Garfias Yamashita, APU; Mike Lin, NTNU.
introduced by Prof. Hisako Sokei, Canada Project
18:00 Closing
RESEARCH ROOM 4F Library IUK CONCURRENT SESSIONS
15:00 Graduate Student Speech by Mr. Kikuchi, Seijo University, Tokyo Graduate Student Speech by Mr. Kentaro
Okada, Tokyo University
15:45 Speech by Prof. Rob McLaughlin, Tohoku University introduced by Prof. Michael Guest, Miyazaki Medical
University Graduate Student Speech Jenny Ang Lu, NTNU
16:15 Graduate Student Speech by Ms. Xiao Lin, IUK Graduate Student Speech by Mr. Chen Ting Po, IUK
16:45 End of Graduate School and ACTJ presentations
FOYER Library 4F, IUK
12:00 – 13:00 Poster Presentations on Diversity by Debating Teams. Poster Presentation with Ms. Tomoka Kajiwara, IUK. Poster Presentation with Mr. Huang Wei, IUK.
15:00 – 15:30 Poster Presentations with Ms. Tomoka Kajiwara, IUK.
Sunday, May 31
Education Camp, IUK
10:00 - 13:30 Graduate School Student Debates on Diversity Issues
Debate Team A from Seinan Jo Gakuin University
Debate Team B from IUK
Debate Team C from APU, Tokyo U, Keio U., Seijo U.
Debate Team D from IUK
13:30 – 14:30 Judging Commentary and Scholarship Awards Ceremony By Professors Tetsuro Nukumi, Myles Chilton,
Hisako Sokei, Aki Takamoto, Dennis Woolbright, Brent MacLaine, Ikuo Sakamoto, and Mr. Etienne Lambert.
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鹿児島国際大学附置地域総合研究所『地域総合研究』投稿規定
1 投稿論文の種類 投稿論文は,研究論文,研究ノート,研究動向,書評,紹介,時評,学術資料,地
域情報のいずれかで,執筆要綱に従って執筆された,未発表のものとする。
2 制限枚数 制限枚数は,1論文につき,400字詰め原稿用紙で,論文の種類に応じて以下の枚数以内
とする。
研究論文・・・50枚 研究ノート・・・30枚 調査報告・・・30枚 研究報告・・・30枚
研究動向・・・20枚 書評・・・10枚 紹介・・・2枚 時評・・・20枚 学術資料・・・30枚 地域情報・・・20枚
3 投稿手続 投稿に際しては,著者名(漢字仮名表記とローマ字表記),所属,表題(和文と英文)を
明記した投稿票(様式自由)を付し,原稿1部を提出すること。投稿原稿の種別は,編集委員会の決
定により変更を求めることがある。
4 原稿の採否 投稿原稿の採否は,編集委員会の審査に基づき編集委員会で決定する。
5 著作権について 著作者は,著作権の内,複製権と公衆送信権に限って,鹿児島国際大学附置地域総
合研究所に権利行使を委託するものとする。
執筆要綱
1 原稿は横書きとする。但し,研究論文には必ず500語程度の英文抄録を添付するものとする。
2 原稿をワープロで作成した場合は,そのファイル(フロッピー・ディスク)を提出すること。ファイ
ルから印刷された形を完全に再現できる場合は,印刷原稿を必ずしも提出しなくてもよい。再現可能
かどうかを編集委員または事務局に確認すること。ファイルから印刷された形を完全に再現できない
場合には,印刷原稿に加えて,テキスト形式で保存されたファイルを提出すること。なお,提出の媒
体はフロッピー・ディスクまたは電子メールとする。
3 傍点部分および欧文イタリック体部分は下線を引き,その旨明記すること。
4 図・表の挿入箇所を指定するときは,原稿にその箇所を明記すること。
5 注は本文末尾にまとめ,1論文にわたる通し番号とすること。
6 文献は本文中および注の中で引用したものだけについて,そのすべてを,注の後にまとめて記すこと。
本文中または注の中での文献の引用は,原則として,括弧の中に著者名,発表年を記すことによって
行うこと。同一著者同一発行年の文献が複数あるときは,発行年の後に,「a」,「b」などの記号を
付すことによって区分すること。
7 文献の表記は原則として以下のとおりとする
(a)和文単行書の場合 著者名(発行年),『書名』,出版社。
(b)和文論文の場合 著者名(発行年),「論文表題」,『雑誌名』巻,ページ
(c)欧文単行書の場合 Author(year),Title(タイトルに下線),publisher.
(d)欧文論文の場合 Author(year),‘Title of the paper’, Journal(雑誌名に下線),vol, pages.
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編 集 後 記
本『地域総合研究』第37巻第1号は,論文5,調査報告1,書評,地域情報からなっている。本研究所
のプロジェクトテーマ「地域における知のネットワーク」に沿い,地域振興における今日的課題に取り組
む研究を揃えた。このうち,研究所員の論文は前号での記述を踏まえ,その研究をさらに深化させた内容
になっている。
衣川恵「小樽市のまちづくりと中心市街地活性化策」は,前号で青森市の中心市街地活性化事業を検討
した論文の第2弾として書かれたものである。行政と経済界を中心とした埋め立て派と一部市民による保
存派との間で続いた長く厳しい「運河戦争」は,運河を半分だけ残すという折衷的な決着を見たが,結局
残した運河が市内観光という新たな産業の基盤となったことから見ても,市民側の判断が正しかったこと
が明らかである。本論文では現地調査に基づいて,この小樽観光の核をさらに活かすための提案として,
運河地区のハード的整備と新たな事業創出のためのアイデアが述べられている。また,本論文は,小樽市
の中活事業に中心市街地に人を呼び込むための基本的な視角が欠けていることを指摘している。中でも,
中心市街地の地価の維持を行政課題としてあげる姿勢が本当に中心市街地の再生と市民のためのまちづく
りとして正しいのかという指摘は,中活事業の本質を問う重要な視点だと言えるだろう。
小林隆一「経済・社会の混乱期における地域経営」は,3回の分載論文の第2回分である。鹿児島県の
持続的発展のための戦略を考察するという全体の主題の中から,今回は県内産業の基軸をどこに置くべき
かについて論じられている。本論文は,「住みやすく,暮らしやすい県土の形成」が鹿児島県域の中心課
題であるとし,農業振興を軸とした集落の再生と良質で個性的な地域づくりを行って定住圏を形成するこ
とが,観光振興にも結びついていくとする。それと同時に,九州経済圏の形成を見据え,九州の物流拠点
化を進めることがもう一つの鍵であるとする。
吉田春生「温泉新時代の本質 II」は,前号掲載論文の続編である。前号で温泉の定義と温泉観光の歴史
的展開にまでさかのぼって展開された温泉論を受けて,今号では,源泉掛け流し志向に代表される温泉観
光の今日的動向を検討した上で,温泉を中核とする観光地づくりのあり方について提言を行っている。こ
の中で,マスツーリズムとスモールツーリズムの並立という状況の中でそれぞれのツーリズム形態の中で
どのような経営を追究していくのかという問題が論じられている。ここでは,スモールツーリズムの比重
の高まり,泉質にまでこだわる嗜好の台頭,インターネットを利用した集客の発展といった大きな環境変
化の中で,旅行会社と宿泊施設が互いに関係し合いながら,温泉の位置づけに試行錯誤している様子が描
かれている。この動きの中から,吉田は営業規模や業態の分析を行い,温泉観光のあり方がどのように分
化していくかを見通している。こうした観光形態の細分化を地域の観光振興戦略にどのように編成してい
くかという地域経営戦略・マネジメントの問題にも光を投げかけている。
深見聡「観光ボランティアガイドの台頭とその意義」は,鹿児島市に現れた二つの対照的な事例に注目
し,当事者への取材を通してその役割と可能性について論じている。本論では,スモールツーリズムにお
ける観光ボランティアガイドの重要性に加えて,地域住民が自らが地域資源に「気づき」,コミュニティ
形成の主体として成長するきっかけになるという意義を見いだしている。スモールツーリズムという観光
形態を基礎とするとき,それが地域コミュニティの再生と結びつくことが,長期に持続可能な観光モデル
の一つの可能性を開くことを示している。地域コミュニティ再生がそれ自体で観光的価値を持つという視
点は,小林論文,吉田論文にも共通している。スモールツーリズムが地域づくりにどのような可能性をも
たらすのかを評価することは,学問的にも地域再生の実践の場においてもこれからますます重要な意義を
持つことになろう。
井手口彰典「萌える地域振興の行方」は,地域振興の一形態として近年広がりつつある「萌えおこし」
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の態様について考察し,その成立プロセスを「メディア主導型」,「地域主導型」に大別しつつ,萌えおこ
しの効果と課題について検討している。特定のファンコミュニティによる「聖地巡礼」が原動力であると
いう点で,深見論文で言及された大河ドラマによる入り込み客の増加と本質的に同等の現象ではあるが,
深見論文が,この種の現象をその地域が本来的に内包していた地域資源の掘り起こしと住民の主体性獲得
へと振り向ける契機とするという視点を持つのに対して,井手口論文では,萌えの対象となるコンテンツ
自体の形成とそのコントロール可能性という問題に力点が置かれている。観光消費の対象とするコンテン
ツの性質がターゲットとする潜在顧客の単なる属性―性別や年齢など―を選別するだけにとどまらず,
ファンコミュニティの全体としての行動特性や価値観・情報共有の展開様式までも選別することになると
いう指摘を,深見論文が強調する観光とコミュニティ再生という文脈に重ね合わせてみると,地域振興と
いう営為が,地域が内包する多面的な価値の中から地域のアイデンティティを選び取っていく動的なプロ
セスに他ならないということが浮き彫りになろう。今回掲載の論文はいずれも視角は異なっているが,全
体を流れる通奏低音には,人間集団としてのコミュニティの動特性とコミュニティ内部の主体の行動特性
という問題がある。地域振興の現場で生じる現象が,地縁をベースとする地域コミュニティと特定の興味
関心をベースとするファンコミュニティの重なり合いから生じるという視点は,それぞれのコミュニティ
の構造研究と併せて,今後の地域研究の一つの流れとなるであろう。
また,調査報告として掲載した高橋信行・鄧俊「曽於市地域福祉活動計画策定のための基礎調査(1)」
は,曽於市住民2,000名を対象としたアンケート調査の概要報告である。旧末吉町,旧大隅町,旧財部町
の三地区の社会状況が浮き彫りにされている。
今号では,上記5本の論文,1本の調査報告に加えて,吉田春生執筆による地域情報「奄美大島の観光
資源」,小林隆一による書評『地方を殺すのはだれか』と中西康信の『地場産業と地域経済』の書評,祖
慶壽子の研究所通信「カナダ研究プロジェクト活動報告」が掲載されている。これらも「地域における知
のネットワーク」を考える上で有効な手がかりを与えるものとなっている。今後も幅広い研究者と共に
「地域」の実相について考察を進めつつ,本プロジェクトになお一層研究の広がりと深みを与えていきた
い。
(富澤拓志)
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