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論文の内容の要旨 デヒドロアビエチン酸構造を基盤としたカリウム

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論文の内容の要旨 デヒドロアビエチン酸構造を基盤としたカリウム
論文の内容の要旨
デヒドロアビエチン酸構造を基盤としたカリウムチャネル開口物質の創製
田島 俊彦
目的
大コンダクタンスカルシウム依存性カリウムチャネル(BKチャネル)は、細胞膜電
位の脱分極や細胞内カルシウムイオン濃度上昇に応じて開口する。BKチャネル開口による
細胞外へのカリウムイオン流出は膜電位を過分極させ、膜電位依存性カルシウムチャネル
を抑制する。BKチャネルは平滑筋・神経組織などに発現しており、αサブユニットが四量
体としてポアを形成し、更に四つのβサブユニットがαサブユニットを取り囲んでチャネル
を構成している(図 1) 1 。αサブユニットは、膜貫通ドメイン(S0-S6)と細胞質内ドメイ
ン(S7-S10)を持つ。S4 は電位センサーで、S9-S10 間の Ca 2+ bowlはカ
Cl
ルシウ ムセ ンサー であ ると考 えら れてい る。 βサブ ユニ ッ
12
トはαサブユニットのカルシウムイオン感受性や電位感受
性を増強させる。BKチャネルの開口により、平滑筋の弛緩 、
神 経伝達物質の放出制御などが起こるため、BKチャネル開
図1. BKチャネル
C
A
B
H
CO2H
14
Cl
1
口物質は高血圧・膀胱過敏症等の平滑筋関連疾患、てんか ん・脳虚血等
の脳関連疾患などに有効であると期待される。しかしながら、化合物によるBKチャネルの
開口機構は未知である。当教室では既に 12,14-ジクロロデヒドロアビエチン酸 1 にBKチャ
ネル開口活性を見出した 2 。そこで、本研究では、1 を構造展開し、より活性の強いモノマ
ー化合物の探索を行った。更に、得られた知見を基に、四量体から成るBKチャネルに対し
て二箇所の結合部位を持つことで効果的な開口活性を示すダイマー化合物を創製した。
構造展開
チャネル開口活性の増強を目指して、(1)デヒドロアビエチン酸構造を用い、
構造活性情報を得るため、芳香環上に窒素原子を導入し、13 位N-アシル誘導体を合成した
(スキームⅠ)。(2)次に、新たな構造展開を図るべく、デヒドロアビエチン酸のB環に窒
素原子を導入した七員環ラクタム(テトラヒドロベンゾアゼピン)誘導体を合成した(ス
キームⅡ)。
(3)ファーマコフォアをリンカーで結合したダイマー化合物をデザイン・合成
した。即ち、チャネル構造の対称性から結合サイトも四箇所存在すると考えられ、ダイマ
ー化合物は同一チャネルの結合サイトに同時に結合することが想定される。結果、モノマ
ーよりも活性の増強が期待される。ウサギ膀胱平滑筋を用いた弛緩作用によって選別され
たモノマー5(図 2 参照)をダイマー化した化合物の合成法をスキームⅢに示した。ダイマ
ーはベンゼン環のオルト・メタ・パラ位にアセチレンを介して連結させた。X線結晶解析
により、電位依存性カリウムチャネルKcsA、KirBac、MthK、KvAPのポアの径はそれぞれ
6 Å、8 Å、25 Å、19 Åであることが分かっている。前者二つが閉状態で、後者二つが開状
態である。カリウムチャネルスーパーファミリー間ではポアのアミノ酸配列はよく保存さ
れており、BKチャネルのポアの径も 6-25Å程度であると予想される。BKチャネル開口物
質の構造活性相関により、カルボキシル基はBKチャネル開口活性の発現に必須であること
が分かっており、各ダイマーのカルボキシル基間の距離は、このポアの大きさと対応して
いる。
NaO3S
Br
1)Br2 / KBr /H2O
2)TMSCHN2
/ MeOH / PhMe
3)fum.HNO3 / H2SO4
(Ⅰ)
1)H2 / Pd-C / Et3N / MeOH
2)RCOCl or (RCO)2O
/ Et3N / MeOH
3)KOH / crown ether
/ MeOH
4)HCl
NO2
H
CO2Me
H
CO2H
R1
(Ⅱ)
1)CrO3 / Ac2O / AcOH
2)NH2OH・HCl
/ EtOH / Py
3)TsCl / Py
R2
H
CO2Me
R1
NHCOR
H
CO2H
R1
1)TFA
2)KOH
/ crown ether
/ MeOH
3)HCl
R2
N
H
CO2Me OTs
R2
NH
H
O
CO2H
R
1)NaH / DMF
R
2)
(Ⅲ)
R
NH
H
O
CO2Me
I
3)diiodobenzene
/ Pd(PPh3)2Cl2
or Pd(PPh3)4 / CuI
4)KOH / crown ether
/ MeOH
5)HCl
R
R
N
R
N
H
O
CO2H
O
H
HO2C
R=Cl; o, 8; m, 9; p, 10, R=H; m, 11
ウサギの膀胱平滑筋の弛緩活性
(-)-con 5
relaxation (%)
により、化合物のスクリーニングを行った。
即ち、30 mMカリウム溶液で収縮させた状態
で評価化合物を作用させ、その弛緩率を求め
た(図 3)。評価化合物はDMSOに溶かして 10
0
10
20
30
40
50
60
(-)-con 13
relaxation (%)
活性評価
0
10
20
30
40
50
60
(N=5, p=0.031)
mMス ト ッ ク 溶 液 と し 、 評 価 時 に 精 製 水 で 希
釈して最終濃度 10 µM(DMSO 0.1%)とした。
(N=5, p=0.017)
図3.ウサギ膀胱平滑筋短冊を用いた弛緩活性
よって、コントロールはDMSO 0.1%として弛緩を比較した。図 2 では活性を示した化合物
を図の上段に、他方、活性を示さなかった化合物を下段に列挙した。1)その結果、N-ア
セチル体 2 には弛緩活性があるが、それよりも側鎖の長いN-ブチリル体 3 では弛緩活性が
減弱するため、ダイマー化では芳香環からはリンカーが伸ばせない。2)七員環ラクタム誘
導体では、ジクロロ体に於いてNH体 6 は弱い活性のある可能性があるが、N-Me体 5 には
有意な活性が見出された。また、塩素原子のないNH体 4 にも有意な活性が見られた。次に、
活性のある化合物(p<0.05)・活性のある可能性がある化合物(p<0.15)
Cl
NHAc
NHSO2Me
O
Cl
1
CO2H
(N=5, p=0.030)
Cl
CO2H
CO2H
2
(N=4, p=0.033)
NMe
CO2H O 5
(N=5, p=0.031)
CO2H
(N=4, p=0.131)
(N=4, p=0.098)
Cl
Cl
Cl
Cl
Cl
CO2H O 6
(N=5, p=0.071)
NH
4
CO2H O
(N=3, p=0.013)
N
O
13
CO2H
(N=5, p=0.017)
CO2H
(N=4, p=0.179)
O
CO2H
(N=5, p=0.045)
14
H
N
Cl
Cl
Cl
(N=4, p=0.297)
(N=5, p=0.069)
N
O 12
CO2H
(N=5, p=0.017)
CO2H
(N=4, p=0.179)
CO2H O
Cl
N
NH
NMe
Cl
活性の見られない化合物(p≧0.15)
Cl
CO2H
Cl
H
N
CO2H
(N=5, p=0.481)
O
3
CO2H
(N=4, p=0.773)
Cl
Cl
NMe
CO2H O 7
(N=5, p=0.831)
NH
NH
CO2H O
(N=4, p=0.847)
CO2H O
(N=4, p=0.684)
Cl
NMe
CO2H O
(N=5, p=0.393)
図2. 膀胱平滑筋の弛緩活性評価
平滑筋弛緩が実際にBKチャネル開口によるものなのかを、ヒトBKチャネルαβ 1 サブユニッ
トを発現させたtsA201 細胞を用いたパッチクランプ実験で確認した。その際、最大電流の
半値を活性化する電圧をV 1/2 と称するが、BKチャネルが開き易くなると電流電圧曲線が過
分極側にシフトするので、負のV 1/2 値を与えるほど化合物の活性は強い(図 4)。ジクロロ
体のN-Me体 5 に開口活性があり、塩素のないN-Me体 7 には活性がなかった。そこで、ベ
ンゼン環に塩素原子を持つダイマーについて評価したところ、オルト 8、メタ 9、パラ 10
で活性が保持されたが、V 1/2 値にそれほど相違はなかった。V 1/2 値の差が小さいため、化合
物の共通構造が一つの結合サイトと相互作用していると考えられる。一方、塩素原子を含
まないダイマー11 を合成して評価したところ、活性が確認された。従って、7 と 11 の比
較からリンカー自体もBKチャネル開口活性に関与する可能性が示唆され、12-14(図 2 参
照)のような部分構造を合成し、平滑筋弛緩作用を評価したところ、活性を示した(図 3)。
更にパッチクランプ法によっても、13 や 14 に 5 や 7 よりも大きな活性増大が見られ、側
鎖のベンゼン環も含めてBKチャネル開口活性に関与していることが判明した。
結論
BKチ ャ ネ ル が 四 量 体 を 成 す
Compounds
という構造学的知見から、5 をリン
5
ン・合成して生物学的評価を行った。
0
ダ イ マ ー は BKチ ャ ネ ル 開 口 活 性 を
保持しているが、BKチャネルに二箇
所ではなく、一箇所で結合し、その
結合には共通構造のリンカー部分も
関 与 し て BKチ ャ ネ ル 開 口 活 性 を 示
していることが示唆された。つまり、
ダイマーの共通構造を有する化合物
13 に 1 を上回るBKチャネル開口活
shift of V1/2 (mV)
カーで締結したダイマーをデザイ
1
5
7
8
9
10
11
12
13
14
-5
-10
-15
-20
-25
図4. 電流電圧曲線のV1/2のシフト値(パッチクランプ法)
負の値が過分極側方向へのシフトを表す。
性のあることが明らかになった。デ ヒドロアビエチン酸B環を七員環ラクタムにしたテト
ラヒドロ ベ ンゾアゼ ピ ン骨格がBKチャ ネル 開口物質 創 製の新た な ファーマ コ フォアであ
ることを見出した。
参照
1.Sha. Y., Tashima. T., et al. Chem. Pharm. Bull., 53, 1372-1373 (2005).
2. Ohwada. T., et al. Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 13, 3971-3974 (2003).
3. Tashima. T., et al. “Design, Synthesis and BK Channel Opening Activity of 7a,8,9,10,11,11aHexahydro-5H,7H-dibenzo[b,d]azepin-6-one Derivatives”, in preparation
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