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地域産業競争力の強化 東海三県の産業クラスターをケースとして

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地域産業競争力の強化 東海三県の産業クラスターをケースとして
02-NRI/p54-71 04.1.14 11:24 ページ 54
NAVIGATION & SOLUTION
地域産業競争力の強化
東海三県の産業クラスターをケースとして
岩垂好彦
C O N T E N T S
Ⅰ 成功した産業クラスターとしての東海三県 Ⅳ
さらなる発展に向けての課題と対応
Ⅱ
堅調な発展を続ける東海三県経済 Ⅴ
新産業クラスター創発の仕組み構築
Ⅲ
時代に合わせた産業創発の歴史
要約
1
現在、国内各地で「産業クラスター」形成に向けた取り組みが行われている。
その多くは産学連携によるものだが、それだけで産業を創発することには限界
がある。本稿では、東海三県(愛知、三重、岐阜)の産業クラスターをケース
として、今後の産業クラスター創発に向けた取り組みに対する示唆を導く。
2
東海三県は、自動車、工作機械など世界でも高いシェアを誇る産業を有し、現
在の日本において最も成功している産業クラスターの1つである。ものづくり
が地域経済を支え、高いシェアを誇る産業、企業が多数集積している。
3
東海三県の産業クラスターは、古くからある産業が、時代に合わせて業態・業
容を変えながら、今日まで生き残ってきた業種が多い。域内でバリューチェー
ンがある程度完結し、競争力向上のための技術革新が進んできた。また、新世
代の産業を構想し、それに必要な技術を取り込んできたことで発展してきた。
4
ものづくり環境が厳しさを増すなか、新事業、新産業によって成長のシナリオ
を描くことが求められている。東海三県では、新技術開発の取り組みも盛んだ
が、個々の要素技術の開発では産業としての成長力も限られている。次世代の
産業を構想し、実現していくことが求められている。
5
今後の産業創発に向けて、①技術の組み合わせによる新産業創発への取り組
み、②技術ソリューションを通じたアプリケーション開発、③先端技術の実証
実験成果のビジネス展開、④先端技術の実用化を通じた産業育成、④地域ブラ
ンドコンセプトの設定、⑤バリューチェーン構築型の企業誘致――を提案す
る。行政がこれらの活動のための仕組みを構築し、財界が主体的に取り組むこ
とによって、初めて新産業創発が実現する。
54
知的資産創造/2004年 2月号
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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Ⅰ 成功した産業クラスター
としての東海三県
本稿は、野村證券と野村総合研究所が、東海三県(愛知、三重、
岐阜)の産業競争力の分析、および今後の産業発展のためのア
クションプランの作成を目的として実施した、「東海三県産業
競争力強化支援プロジェクト」(愛知万博パートナーシップ事
現在、国内各地で「産業クラスター」「知
業)をベースとしており、岩垂好彦がプロジェクトチームを代
的クラスター」形成に向けた取り組みが行わ
表して執筆した。
れている。その多くは、産学連携による新産
業の創造をめざすものである。しかし、大学
の持つ技術シーズは事業化に時間がかかるも
高い供給業者・サービス提供者、関連機関
のが多く、また起業に対して慎重な国民性も
(大学、業界団体など)が地理的に集中し、
あり、短期的に成果を求めるのは難しい。
相互に競争しつつ同時に協力し、継続的にイ
一般的に、最先端の技術シーズがあればお
ノベーションが起きている状態にあると分析
のずと産業に発展するわけではない。次の時
した(図1)。そして、個々の企業や機関は
代、次の世代に求められる製品、サービス、
独立しながらも、ある一定のエリア内に立地
事業や、社会の仕組みを構想し、それを実現
していることで相互に影響を及ぼしており、
するために必要な技術や機能を組み合わせて
全体はぶどうの房(クラスター)のように
事業化が行われる。やがて市場が拡大し、多
一塊であることから、このような産業集積を
数の事業者が参入し、雇用が拡大して初めて
「産業クラスター」と命名した。
産業となるのである。
このような条件を備え、現在の日本で最も
そもそも産業クラスターとは、産学連携だ
成功している産業クラスターの1つとして、
けで成立するものではない。経営学者のマイ
東海三県(愛知、三重、岐阜)の自動車産
ケル・ポーターは、国際的に高い競争力を持
業、工作機械産業をあげることができる。こ
つ産業集積を分析した結果、その競争力の源
れらの機械系産業は、もともとは綿織物や食
泉は、特定産業分野における企業、専門性の
品加工などに端を発し、現在では高い世界シ
図1 「産業クラスター」成立の条件(ダイヤモンド・フレームワーク)
企業戦略に影響を与える環境
や競合企業間の競争状況
>域内、域外での競合や事業環境
(例)自動車産業の環境技術開発
企業戦略、
競合関係
製品やサービスに対す
る需要の特質
要素条件
需要条件
>厳しい顧客の存在
(例)トヨタ自動車
企業が競争するために
必要とするインプット
>人材、資源、インフラ、
風土、技術開発支援機
関など
関連産業、
支援産業
供給業者や関連業者の存在と
その質
>サプライヤー、業種専門の
対事業サービスなど
出所)マイケル・E・ポーター『競争戦略論Ⅱ』竹内弘高訳、ダイヤモンド社、1999年などより作成
地域産業競争力の強化
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ェアを誇る産業となっている。しかし、自動
博(愛知万博)」の開幕(2005年3月)まで
車も工作機械もすでに一定規模以上に成長し
あと1年強となった。単なる地方博ではな
た産業であり、次の時代に向けての産業創発
い、本格的な国際博覧会は、条約により5年
の取り組みも行われつつある。
以上の間隔を置いて開催されることになって
本稿では、東海三県を1つのケースとして
取り上げ、その競争力の源泉を分析するとと
もに、現在抱えている課題を整理し、今後の
おり、愛知万博は今世紀最初の国際博覧会と
なる。
万博に合わせ、中部地方ではセントレア
産業創発に向けた取り組み方向を提示する。
(中部国際空港)の建設も急ピッチで進みつ
過去の産業発展の歴史は地域によって異なる
つある。セントレアは日本では那覇、新千
が、今後の取り組みについては他の地域にも
歳、関西、羽田に次ぐ5番目の24時間空港と
共通するものがある。
なる予定であり、また建設プロセスで「トヨ
すでに全国各地で、産業政策に関する種々
の提言や構想が打ち出されている。今、重要
なのは、何をするかという以上に、提言や構
タ方式」を導入したことでも注目を集めて
いる。
産業経済面では、トヨタ自動車(愛知県)、
想を実行に移すことである。本稿が、各地で
本田技研工業(三重県、工場)をはじめとし
新産業創発に向けた具体的な取り組みが立ち
た自動車産業の集積があり、長く低迷する国
上がる1つのきっかけになれば幸いである。
内景気にもかかわらず、全般的に好調であ
る。東海三県には自動車関連の素材、部品メ
Ⅱ 堅調な発展を続ける
東海三県経済
ーカーや工作機械メーカーが多いため、自動
車産業の好調の波及効果は大きく、地域経済
の堅調さにつながっている。
1 注目を集める東海三県
東海三県の経済成長率は、全都道府県合計
21世紀最初の国際博覧会である「愛・地球
と比較して、バブル経済の崩壊後はやや低迷
していたが、1995年頃より全都道府県を上回
り、消費税率引き上げで自動車需要が落ち込
図 2 東海三県と全都道府県の実質経済成長率の推移
6
んだ97年を除き、おおむね全国よりも高い経
5.2
%
済成長率で推移してきた(図2)。
東海三県
4
2.9
2.7
2.1
3.1
2
1.2
0.6
1.8
1.9
1.4
0
−0.3
0.8
−1.2
−0.7
2 ものづくりが支える地域経済
東海三県は、日本のものづくりのメッカで
全都道府県
ある。東京都大田区や東大阪市のように、局
−0.3
−2
地的に技術力の高い中小企業が集積した地域
もあるが、東海三県は圏域全体が製造業で支
−4
−3.9
えられているという点に特徴がある。
−6
1993 94 95 96 97 98 99 2000年
特に愛知県は、第一次世界大戦後に工業化
注 1)前年比の数値について、全都道府県のデータがそろうのは 1993 年から
2)東海三県:愛知県、三重県、岐阜県
出所)内閣府経済社会総合研究所「県民経済計算年報(平成 12 年度)」より作成
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図 3 都道府県別の製品出荷額(2001 年)
50
兆
円
40
30
20
10
0
愛
知
県
神
奈
川
県
大
阪
府
東
京
都
静
岡
県
埼
玉
県
兵
庫
県
千
葉
県
茨
城
県
群
馬
県
三
重
県
栃
木
県
福
岡
県
広
島
県
長
野
県
岡
山
県
滋
賀
県
北
海
道
福
島
県
京
都
府
岐
阜
県
山
口
県
新
潟
県
東
海
三
県
注)関西三府県:大阪府、京都府、兵庫県
出所)経済産業省「工業統計表」
が進展し、日本でも有数の工業県となった。
グループだけで世界シェア10%以上、工作機
第二次大戦後の高度経済成長を経て、経済が
械も、愛知県の生産額は世界シェア10%程度
成熟化してきたため、最近では全国と同様に
を占めるといわれている。
製造業のシェアは低下しつつある。しかし、
四
国
・
九
州
より細かい品目単位で見ても、全国シェア
それでも東海三県における製造業のシェアは
トップの品目の数は非常に多い。シェア30%
総生産の29.2%であり、全国平均の20.8%、
以上の品目に限って見ても、115品目が全国
京浜地域(東京都、神奈川県)の14.3%、阪
トップとなっており、幅広い業種で高い競争
神地域(大阪府、兵庫県)の19.6%などと比
力を持っている(図4)。このことはすなわ
較しても高い水準を維持している。
ち、新しい技術が出てきたときに、それを採
工業製品の出荷額を都道府県別に見ると、
関
西
三
府
県
用して事業化するための受け皿が多く、新し
愛知県は四半世紀にわたり全国第1位を続け
ており、第2位の神奈川県との差も大きい。
図 4 全国シェア 30%以上の品目数(2000 年)
愛知1県で、京都、大阪、兵庫3府県の製造
80
品出荷額と同程度の規模を誇る、日本一の工
70
業県である(図3)。さらに、三重県が第11
60
位、岐阜県が第21位と比較的高い水準にあり、
50
71
67
シェア30%以上
50%未満
シェア50%以上
44
東海三県は日本のものづくりのメッカである
40
といえる。
30
東海三県の自動車、航空機などの輸送機器
20
製造業、工作機械などの機械産業は、世界の
10
トップ水準にある。自動車はトヨタ自動車
0
43
31
29
東海三県
京浜地域
阪神地域
注)京浜地域:東京都、神奈川県、阪神地域:大阪府、兵庫県
出所)経済産業省「工業統計表」
地域産業競争力の強化
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表1 中部のトップシェア企業(1997年)
分野
企業名
本社所在地
シェア1位の事業内容
シェア
(%)
売上高
(億円)
従業員数
(人)
電子機器
アイホン
名古屋市
家庭用インターホン
52
259
733
東洋電機
愛知県春日井市
エレベーター用センサー
80
72
345
表示灯
名古屋市
インフォメーションマップ
95
72
244
ホシザキ電機
愛知県豊明市
自動製氷機
67
480
1,260
本多電子
愛知県豊橋市
小型魚群探知機
85
48
110
旭精機工業
愛知県尾張旭市
水晶振動子部品
60
133
590
菊川鉄工所
三重県伊勢市
集成材加工機(生産額)
64
63
322
SHINPO
名古屋市
無煙ロースター
50
33
93
大同特殊鋼
名古屋市
クロッシングレール
70
2,690
5,964
中部コーポレーション
三重県桑名市
氷削機
80
88
330
日本車輌製造
名古屋市
くい打ち機(稼働機中のシェア)
83
907
2,461
ビューテー
名古屋市
洗車機
65
220
360
富士機械製造
愛知県知立市
高速チップマウンター
43
1,017
1,280
アイシン・エィ・ダブリュ
愛知県安城市
自動車AT(専業メーカー中のシェア)
63
3,630
6,250
住友電装
三重県四日市市
工ンジンケーブル
60
2,010
5,000
太平洋工業
岐阜県大垣市
タイヤバルブ(世界シェア第2位)
25
366
1,418
アイセロ化学
愛知県豊橋市
防錆フィルム
83
133
549
岐阜セラック製造所
岐阜県岐阜市
天然樹脂セラック
60
44
145
日本ガイシ
名古屋市
プリンター用圧電セラミックス
50
2,345
4,280
フジミインコーポレーテッド
愛知県西春日井郡
シリコンウエハー用ラッピング材
90
266
355
住宅・建設
日本デコラックス
愛知県丹羽郡
アンカーボルト用固着剤
45
78
249
資材
未来
岐阜県安八郡
配線ボックス
80
235
748
医療・薬品
天野製薬
名古屋市
消化酵素
90
110
400
医学生物学研究所
名古屋市
自己免疫疾患検査薬
70
30
186
ヤガミ
名古屋市
蘇生法教育人体モデル(1998年)
40
65
143
食品
佐藤食品工業
愛知県小牧市
粉末茶エキス
90
52
349
日用品など
馬印
名古屋市
レーザー罫引きホワイトボード
85
9
73
シャチハタ工業
名古屋市
浸透印
90
180
520
八幡ねじ
愛知県小牧市
ねじを扱うホームセンターの店舗シェア
60
52
349
機械・金属
自動車部品
窯業・素材
商業
注 1 )上場企業は国内シェア40%以上、未上場企業は国内シェア60%以上を抽出(シェア不明の場合は含まず)
。太平洋工業は世界シェア
2 )AT:自動変速機
出所)日本経済新聞社編『中部のナンバーワン企業』日本経済新聞社、1999年
い事業、産業を創発するためのポテンシャル
が高いといえる。
ある。このように、この地域には特定の市場
(ニッチ市場)で高いシェアを維持している
企業が多く、ニッチ市場では他社の事業参入
3 シェアトップ企業の集積
東海三県には、個々の企業レベルで見ても
も限られているため、安定的な経営を実現し
ている企業が多いといえる。
高いシェアを誇る企業が多い。1999年に発行
された日本経済新聞社編『中部のナンバーワ
58
4 イノベーションによる経済成長
ン企業』に掲載された企業のうち、特に高い
過去20年にわたる東海三県の製造業の発展
シェアを持つ企業について示したのが表1で
(製造品出荷額の増加率)について、資本の
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図5 保存されてきた「産業生態系」(産業の略譜)
木製品、家具、建材
木曽木材
(岐阜→名古屋)
航空機
時計
(製麺機)
醸造、食品
鉄鋼、鋼材
工作機械、計測器
(動力織機)
綿織物
ゴム、プラスチック
織機、自動織機
自動車
エレクトロニクス
窯業
陶器
投入量とイノベーション(全要素生産性)が
寄与した分とを分けて計測した。その結果、
特に愛知県、三重県において、イノベーショ
ンの寄与度(それぞれ0.81、0.78)が、全国
(0.76)や東京都(0.37)、大阪府(0.68)と比
べて高い数値となった。
ここでいうイノベーションとは、単に技術
革新だけではなく、プロセスの革新や新しい
セラミックス
れる。
①伝統的産業が時代に合わせて生き残るた
めに新事業を創発してきた
②次世代の事業・産業を構想し、必要な技
術を組み合わせて実現してきた
③域内でバリューチェーン(価値連鎖)が
完結し、アンカー企業が産業全体の技術
革新をリードしてきた
ビジネスモデルの創出なども含んでいる。
東海三県においては、たとえばトヨタ自動
車は、自動車の大量生産が始まる前からすで
にジャスト・イン・タイムを導入していたと
されているし、セラミックス関連産業でも、
1 技術・産業の系譜――
時代に合わせた新事業創出
東海三県の産業は、技術の歴史的系譜の上
に連綿と発展してきたものが多い(図5)。
焼成プロセス技術のイノベーションが継続し
濃尾平野は愛知県と岐阜県にまたがる、日
てきた。また、ゲームソフトのオンデマンド
本第2の平野である。ここには長良川、木曽
販売機や通信カラオケ(以上ブラザー工業)、
川、揖斐川などが流れ込み、また日本のほぼ
パチンコホールの営業管理システム(ダイコ
中心に位置し、関東と関西にはさまれた交通
ク電機)のように、それまでの本業とは違う
の要衝でもある。このため、農産物、木材な
分野で新しいビジネスモデルを創出して大き
どが集積し、古くから商業が発達してきた。
な事業の柱に育て、成功した事例も多い。
さらに、これらの産品がここで加工されるよ
うになり、食品、木工製品、綿織物や窯業な
Ⅲ 時代に合わせた産業創発の歴史
どが発達した。生糸、綿織物、陶磁器などは
早い時期から日本の輸出品目であったが、そ
このような東海三県の産業クラスターの強
の後貿易摩擦に苦しむなど、課題も早い時期
みの源泉は、特に次の3点にあると考えら
から抱えたため、時代環境に適合すべく、本
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業から派生して新たな事業を展開していった
2 技術の組み合わせによる発展
新しい技術を用いて、新しい事業を立ち上
産業も少なくない。
東海三県は世界最大の工作機械産地だが、
げ、それらの事業が大きく育ち産業として発
その源流は、たとえばオークマは製麺機、ヤ
展するためには、個々の特殊な技術だけでは
マザキマザックは製畳機、豊和工業は動力織
限界がある。実際に、東海三県の企業で新規
機である。木材から木製プロペラが作られ、
事業を立ち上げて成功してきた事例を見る
それが航空機産業へと発展し、また木材を使
と、自社技術に加えて、外から技術を取り込
った柱時計などの産業から計測器などに展開
むことで事業としての完成度を高めたケース
してきた。
が多い(図6)。
こうして、古くからある産業が、時代に合
古くは米国から技術を導入し、自動織機か
わせて業態・業容を変えながらも今日まで残
ら自動車に展開したトヨタグループ、赤外線
ってきた。すなわち、伝統的な産業のままで
ガスストーブという当時日本になかった製品
とどまることへの危機感があったため、企業
を、ドイツの触媒技術を用いて開発したリン
戦略として新事業の立ち上げに注力してきた
ナイ。ミシンから情報通信関連の製品・サー
といえる。この点が、伝統産業がそのままの
ビスに展開しているブラザー工業も、その歴
形で残っているような他の産地との違いで
史をひもとけば、ドットプリンターの印字ヘ
ある。
ッドを開発した米国のベンチャー企業との提
このような産業発展の軌跡を振り返ると、
この地域では、起業家が次々と新事業を立ち
携が、その後の情報通信事業へのシフトの出
発点になったと見ることができる。
上げたというよりは、既存の企業が時代に適
次の時代に求められる製品やサービスを構
合した産業を創発することで成功した事例が
想し、その実現に向けて技術を組み合わせる
多いといえる。
ことで、新しい事業を起こし、産業として発
図6 東海三県における新技術開発の例
企業名
従来の事業
技術の導入
新製品・事業
トヨタ自動車
自動織機
米国から自動車製造技術を導入
自動車
リンナイ
ガスコンロなど
ドイツから触媒技術を導入
赤外線ガスス
トーブ
米国ベンチャーと提携(基幹部品
は自社開発)
情報通信機器・
サービス
ブラザー工業
ミシン、タイプ
(メカトロ技術)
ハギワラシスコム
金属精錬
研究開発型企業を買収
メモリーカード
光触媒研究所
工作機械
工業技術院から光触媒技術を導入
光触媒
出所)インタビュー調査および日本経済新聞社編『中部企業家列伝』日本経済新聞社、2003年などより作成
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展してきた。技術シーズ起点ではなく、潜在
図 7 産業別の乗数(県内受注→県内生産の乗数)
的なニーズを想定し、それを実現させるとい
1.80
う視点での取り組みが実を結んできたとい
1.70
える。
1.60
このように、全く新しい価値を社会に提供
し、受け入れられ、定着して、初めてイノベ
愛知県
東京都
三重県
岐阜県
神奈川県
大阪府
1.74
1.50
1.40
ーションを起こしたといえる。そして、その
ようなイノベーションが次々と生まれてきた
のが、これまでの東海三県の強みであった。
1.30
1.20
1.10
3 域内で完結した
バリューチェーン
1.00
食
料
品
東海三県および東京、神奈川、大阪各都府
県の産業連関表から、産業・業種の県内への
生産波及効果を見たのが図7である。この分
繊 木パ 化
維 製ル 学
製 品プ 製
品
・ 品
紙
・
石
油
・
石
炭
製
品
窯
業
・
土
石
製
品
鉄
鋼
非
鉄
金
属
金
属
製
品
一
般
機
械
電
気
機
械
輸
送
機
械
精
密
機
械
出所)各都府県の産業連関表より算出
析は、たとえば、愛知県の輸送機械に1億円
の受注があると、その受注が引き出す県内生
プロセスにおけるイノベーションに大きく貢
産額の波及効果は約1.74億円に達することを
献してきたと考えられる。
示している。
東京都、大阪府、神奈川県と比較して、東
自動車は、1台当たりの部品点数が数万点
海三県のなかでも特に愛知県は、県内生産誘
にのぼる。鉄鋼、ゴム、樹脂、繊維、ガラス
発の係数が全般に高く、県内で完結した経済
などさまざまな素材、およびそれらの素材を
圏であるといえる。三重県、岐阜県は相対的
組み合わせた部品から成立している。愛知県
に低い水準にとどまっているが、たとえば岐
内にはこれらの素材および部品企業が集積し
阜県南部は愛知県との経済的なつながりが強
ており、域内でバリューチェーンがある程度
い。東海三県という単位での産業連関表はな
完成しているため、最終製品の成長が地域全
いが、地域全体で見れば域内の波及効果は高
体に波及し、地域の発展につながっていると
いのではないかと想定される。
考えられる。
これまで、アンカー企業である完成車メー
カーが成長することにより、部品、素材の需
Ⅳ さらなる発展に向けての
課題と対応
要が発生し、それを域内で充足してきた。ま
た、素材から完成車までバリューチェーンが
域内に集積することにより、生産プロセスの
効率化に産業をあげて取り組むことができる
などのメリットを有してきた。このことが、
1 新しい産業創発、市場開拓が
必要
前章で、産業クラスターを形成するために
は、①既存産業の時代に合わせたイノベーシ
地域産業競争力の強化
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ョン、②外部からの技術導入による組み合わ
トヨタ自動車の近年の地域別生産台数を見
せ、③アンカー企業の存在による域内で完結
ても、日本での生産台数の伸び率が鈍化する
したバリューチェーンの形成――の3つが重
なか(2002年は減産)、欧州、およびアジア、
要であると述べた。
オセアニアを含む途上国地域における生産台
しかし、現時点では成功事例といえる東海
数が急速に伸びている(同社の年次報告書に
三県の産業クラスターも、将来が約束されて
よれば、2003年に欧州は前年比50%増、アジ
いるわけではない。特にものづくりは、グロ
アなどは同85%増の生産予定)。
ーバル経済のなかで競争にさらされ、技術革
生産の海外展開に伴い、企業としてのグロ
新の速度が上がるなかで勝ち続けなければな
ーバル連結業績は引き続き好調を続けたとし
らない。イノベーションが継続するために
ても、域内の雇用吸収力は低下する懸念さえ
は、乗り越えるべき課題があることが重要で
ある。こうした事態に対応するためには、新
ある。当面の課題として、以下の3つがあげ
しい事業や産業を創発し、雇用の受け皿を確
られる。
保するとともに、新しい産業が求めるような
人材を育成していくことが必要になる。
(1)ものづくりの空洞化
(2)ニッチトップ戦略の限界
ものづくりでは、中国をはじめとした発展
途上国の追い上げも激しく、今後も東海三県
ニッチトップ企業が多いことは、東海三県
が競争力を維持し続けることができるかどう
企業の株価の水準にも影響を与えている可能
かは予断を許さない。自動車産業は市場に近
性がある。図8には、東海三県に本社のある
い所に生産拠点を持つ傾向が強く、今後は、
企業とTOPIX(東証株価指数)構成企業の
これまで日本車のシェアの低かった欧州や、
配当利回り(株価に対する配当の利回り)の
これからモータリゼーションを迎える途上国
分布、および PER(株価収益率)の分布を
に生産が移管される可能性がある。
示している。両者の比較では、東海三県企業
図 8 東海三県企業と TOPIX 構成企業の配当利回り、PER の分布(2003 年 3 月末)
25
25
東海三県企業
20
TOPIX構成企業
20
TOPIX構成企業
構 15
成
比
︵
% 10
︶
構 15
成
比
︵
% 10
︶
5
5
0
東海三県企業
0
無配当 0.5未満 0.5∼1 1∼1.5 1.5∼2 2∼3
配当利回り(%)
3∼4
4以上
5未満
5∼10
10∼15
15∼20 20∼30
PER水準(倍)
30∼50
注 1)東海三県に本社を置く株式公開企業 272 社と TOPIX 構成企業 1544 社を比較
2)PER:株価収益率、TOPIX:東証株価指数
出所)野村證券金融研究所
62
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50以上
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は3%以上の比較的高い利回りに分布する
企業が高いが、PERでは10倍未満の企業が
多い。
できないとしている。
現在、すでに確立した産業が地域経済を牽
引している東海三県においては、このような
これは、企業の収益水準や配当の水準に対
落とし穴に陥りやすい。実際に、ある大手企
して株価が低いことを意味している。なぜ、
業からは、「数億円の事業規模では、当社の
収益性が高く、経営が安定しているのに株価
新規事業たり得ない」という指摘が聞かれ
が低いのかに関しては、いくつかの解釈が可
た。また、安定した経営基盤で安全な経営を
能である。1つの解釈としては、東海三県の
志向してきた企業にとって、未知の市場を開
企業は優良企業が多いにもかかわらず、素材
拓するのは勇気のいる決断になる。
や部品メーカーが多く、競争力の高さが一般
最初から期限を区切り、何段かのフェーズ
の株主に広く知られていないことがあげられ
ごとに市場性を再評価しながら、有望な事業
るだろう。
は継続し、難しいようであれば撤退する、柔
一方、ニッチトップ企業とは、いわば「小
軟な取り組みが求められる。
さな池の大きな鯉」である。経営は安定して
いるが、市場から見て将来の成長性への期待
感が低いともいえる。池が小さい以上、あま
2 新産業創発への取り組みの現状
(1)行政、財界による取り組み
り成長しないのではないかという予断が働
このような課題に対応するため、新しい産
く。一般論として、将来の成長期待が高まら
業の創出に向けて、すでに地元の行政、財界
ないと、たとえ現下の利益水準が高くても、
により種々の取り組みが行われている。
株価が向上しないことがある。リスクをとっ
行政による取り組みの主流は、起業支援や
て、池を大きくするか、新しい池へと打って
企業誘致である(次ページの表2)。政策の
出ていくことが、資本市場から期待されてい
方向は間違っていないが、成果が出るまでに
るシグナルであると考えられる。
はまだしばらく時間がかかる可能性がある。
一般に、大学発の基礎研究に基づく技術シ
(3)破壊的イノベーションの実現
ハーバード大学のクレイトン・クリステン
ーズが、事業として開花するまでには10年、
15年といった長い時間がかかることが多い。
センは『イノベーションのジレンマ』(玉田
ベンチャーも、設立当初から大きな雇用吸収
俊平太・伊豆原弓訳、翔泳社、2001年)の中
力を有する企業が生まれることは少ない。ま
で、優良大企業であるほど、小規模でスター
た、この地域はリスクに対して敏感であると
トする破壊的イノベーションを採用しにくい
いわれ、ベンチャーが育ちにくい風土である
と指摘する。また、既存製品の性能改善など
ともいわれている。
「持続的技術」は、将来の市場をある程度予
比較的、短期間に一定規模の事業を立ち上
測し得るが、全く新しい市場を顧客とともに
げていくためには、大きな市場の見込める分
創出する「破壊的技術」の場合、今はない市
野を見定め、その市場のニーズに応える製
場を対象としているので、市場規模の予測は 品・サービスを実現するために技術を組み合
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02-NRI/p54-71 04.1.14 11:24 ページ 64
表2 行政の新産業創出の取り組み
組織
主な産業政策
中部経済産業局
産業クラスター計画
主な取り組み
>大学研究者と企業との人的ネットワークづくり
>ネットワークの中から新規事業、第二創業、ベンチャーの立ち上げ支援
文部科学省
知的クラスター
>大学の技術シーズをもとにした起業支援(自治体を支援)
愛知県
新産業創造プラン
>新産業の創出・育成(ベンチャー支援)
>魅力的な事業環境の整備(インフラ整備、企業誘致、人材育成)
>既存産業の高度化、新展開の支援(国際ネットワーク、地場・中小企業)
>産業活性化推進システム・体制の整備
名古屋市
なごやサイエンスパーク
>企業誘致
三重県
産業集積形成
>クリスタルバレー(液晶)、メディカルバレー(医療・治療)、シリコン
バレー(半導体)
>パールバレー(コールセンター、データセンター)
岐阜県
スイートバレー
>IT 関連企業、コンテンツビジネス、ロボット産業の一大集積地の形成
注)IT:情報技術
出所)ホームページ、インタビュー調査などより作成
表3 財界の新産業創発の取り組み
組織
中部経済
連合会
現在の主な取り組み
その他の提案
>中部産業振興協議会の設置
>物流ネットワークの形成
>企業誘致活動(健康医療産
>リゾートパークの形成
業都市の形成)
>ベンチャービジネス支援セ
ンター など
>国際学校の整備
>広域防災拠点の整備(社会
>道州制の実現
>創業・ベンチャー支援、産学交流支援
>人材育成
>中小企業金融、事業再生、提携・M&Aの支援
>ブランド戦略
>企業誘致活動 など
中部経済
同友会
が出されているが、それをどう効果的に実現
していくのかという点が課題となっている。
>環境共生都市(社会実験)
実験)
名古屋商
工会議所
どが中心となっている(表3)。各種の提案
(2)企業による取り組み
新事業創発の必要性は、当然、東海三県企
業にも認識されており、現在業績の好調な自
動車産業も含め、新しい事業の柱を確立すべ
く、新技術の開発に取り組んでいる。66、67
>環境、雇用、財政・金融、ものづくり、国際、地域開発、消
ページの図9は、縦軸に産業、横軸に技術
費、教育、国内交流の各委員会および21世紀の日本を考える
をとり、主な技術開発の分野をプロットした
委員会を設置して議論し、提案を発信
注)M&A:合併・買収
出所)ホームページ、インタビュー調査などより作成
ものである。
全体的な傾向として、自動車関連(軽量
化、新エネルギーなど)およびエコマテリア
64
わせたり、外部から導入してきたりすること
ル(環境にやさしい材料)に関する技術開発
も必要である。その際には、個人や中小企業
が盛んに行われている。また、量的な集積は
による起業だけでなく、大企業、中堅企業が
関東、関西に及ばないものの、バイオに関す
新しい分野に進出するのを支援していくこと
る取り組みにも再生医療などの分野で特徴的
も必要である。
な動きが見られる。
一方、財界の取り組みとしては、企業誘
しかし、これらの取り組みが、事業・産業
致、創業・ベンチャー支援、ブランド戦略な
として創発され、発展・成功している事例は
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まだ多くない(成果を求めるには、あまりに
に部品の大部分を取り込み、強固なバリュー
も時期尚早なものも含まれてはいる)。要素
チェーンを構成することができた。しかし今
技術開発の事業化、産業創発のためには、い
後は、エレクトロニクス、通信、建設、金
くつかの解決すべき課題がある。
融、交通サービスなどさまざまな業界が ITS
関連の技術、ノウハウを出し合って、新しい
3 求められる次世代産業の構想力
交通システムを開発する必要がある。これら
行政や財界、民間企業の現在の取り組みを
の多様な業種の持つノウハウを一社ですべて
実りあるものにするために、イノベーション
そろえるのは非現実的であり、全体を統合し
が活性化するようなさらなる構想力が必要で
て新たなバリューチェーンを構築しなければ
ある。ここでは、以下の3点を指摘したい。
ならない。
東海三県においては、他社と胸襟を開いて
(1)技術の組み合わせと
アライアンスを組むことが苦手な企業が多い
自前主義からの脱却
といわれているが、自前主義にこだわってい
図9において、個々の新技術はおおむね縦
ては、市場が求めるような製品・サービスは
軸、横軸の交点の欄に収まるが、事業・産業
実現しにくいであろう。市場の視点から求め
の視点からこれらを俯瞰すると、むしろ複数
られる製品・サービスを想定し、それを目指
の技術を組み合わせて1つのシステム(系)
して技術の組み合わせを統合していくことが
とすることにより、応用の可能性が広がると
必要である。
考えられる。
これまでは、特定の製品としての性能の向
(2)先端技術の先行的導入と情報発信
上に注力していればよかったが、これからは
既存の集積のない、全く新しい産業・技術
いかに新しい機能を提供するかが問われてい
分野で産業クラスターと呼べるだけの集積を
る。たとえば、ETC(自動料金収受システ
形成するのは容易ではない。世界の最先端の
ム)などに代表される ITS(高度道路交通シ
技術開発と、その技術を次々と事業化するプ
ステム)は、自動車を情報通信ネットワーク
レーヤー、すなわち研究者、技術者、研究開
に組み込み、金融や交通サービスと組み合わ
発型企業などがそろわなければ、競争力のあ
せることによって、新しい機能を付加してい
るクラスターにはならない。
る。すなわち、自動車という単一製品のカテ
東海三県内のあるサイエンスパーク開発に
ゴリーの枠内で性能や機能を増やすことには
ついて、「世界のトップクラスの研究者を招
おのずと限界があり、他の製品やサービスと
聘すべき」という提案が学識経験者から出さ
組み合わせることによって、新しい価値を提
れたというが、世界トップの研究者が「ぜひ
供することが求められている。
東海に行きたい」と思えるような環境を整備
また、これまでは、たとえば自動車であれ
しなければならない。企業誘致についても同
ば、数万点に及ぶ部品を組み合わせて一台の
様である。すでに先端技術の相当な集積があ
自動車を製作してきた。このため、自社系列
れば、それも可能かもしれないが、新たな技
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術・産業分野を創発する際には、「ニワトリ
ついての実証実験が行われ、新技術が実社会
と卵」の関係になってしまい、先に進むこと
で“使える”ことを証明できる」といったメ
ができなくなる。
リットによって、内外の企業や技術者をひき
この問題を解決するための1つの方法が、
つけることが可能であろう。
先端技術を使った製品やサービスを先行的に
東海三県には質実剛健なものづくり企業が
導入する仕組みや場を提供することである。
多く、また古い文化の名残からか、「でしゃ
「東海三県に行けば、エコマテリアルに関す
ばらない」ことを美徳とする風土がある。自
る技術的問題が解決する」「日本の他の地域
他ともに認める情報発信の弱い地域である。
ではまだ使われていない、新しい治療技術を
その気質を変えるのは難しいが、「世界初の
使うことができる」「新しい交通システムに
実用化」「日本で最初の製品化」といった取
図9 東海三県における主な新技術開発分野と新製品・事業
軽量化
窯業、セラミックス
環境素材
計測、センサー
二次電池
防汚
DNAチップ
NAS電池
脱臭素材
新エネルギー
ロボット
バイオ
情報通信
人口骨
※中部大学
セラミック膜
空気浄化素材
機械、金属
マグネ成形
ハイドロ成形
分散エネ
ルギーシ
ステム
ロボス
光触媒
異方性ボンド磁石
ナノコンポジット
自動車
LEV(低排出ガス車)
コミュニティ
ビークル
エレクトロニクス
燃料電池
ケナフボード
風力発電
生分解プラスチック
回転センサー
バイオマス
磁気センサー
(セルソーター)
ITS
カーナビ
温度センサー
歩行者ITS
電気自動車
太陽電池
リサイクルプラスチック
イフロボット
超音波
事務機器
(感情表現ロボ) (複合機)
電力、ガス
食品
(電化ハウス)
新冷媒
天然ガスコジェネ
廃油利用
臨床試験ネッ
トワーク
植物育成促進剤
食品バイオ
醸造技術
健康食品、
食品バイオ
(トレーサビ
リティ)
※名古屋大学
医療、医薬、健康
再生医療
接骨用デバイス
再生医療病院
免疫抗体
医薬品
※名古屋大学
生活、住宅
防犯システム
脱VOC接着剤
安全な住宅・保育・高齢者施設
エンターテインメント
産業技術観光
注)DNA:デオキシリボ核酸、FED:電界放射ディスプレイ、ITS:高度道路交通システム、LED:発光ダイオード、NAS:ナトリウム硫黄、VOC:揮発性有機化合物
出所)インタビュー調査、有価証券報告書などより作成
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知的資産創造/2004年 2月号
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り組みが出て成功すれば、おのずと情報発信
究所、公的研究機関などに優れた技術のシー
にもつながるはずである。
ズは存在しているが、重要なのはそれらを組
み合わせ、資金を確保し、市場を開拓する機
(3)「産業プロデュース」の仕組み構築
能である。
優れた技術を持っていても、それを事業化
また、新しい技術が破壊的技術である場
する段階で次の段階に進めずに頓挫すること
合、期限を区切って市場性を評価し、継続か
が多い。そのような現象は「死の谷」と呼ば
撤退かを判断しなければならない。
れているが、「死の谷」は個々の企業内だけ
ベンチャー育成や産学連携は、クラスター
でなく、地域産業創発においても存在してい
政策以前から取り組まれてきており、すでに
る。大学をはじめとした研究機関や企業の研
種々の支援体制や制度が整備されている。技
術移転に積極的な技術者や、事業マインドの
ある技術者も増えてきている。しかし、技術
ディスプレイ
マイクロシステム、ナノテク
その他
衛生陶器
偏光板
をコーディネートし、市場を開拓し、事業と
して軌道に乗せていく人材が不可欠である。
このような役割の人材をコーディネーターと
呼ぶことが多いが、単にコーディネーション
精密研削機
木工機械
(調整、とりまとめ)では不十分であり、む
しろプロデューサーが必要である。
ここでいうプロデューサーとは、市場の視
点に立ち、技術開発から複数の技術の統合、
ホログラムディスプレイ
ナノコンポジット
LED
水素吸蔵合金
ハイドロ成形
製品化、市場開拓までを一気通貫で責任を持
って行う人材である。現状では、経済団体や
液晶パネル
自治体の外郭団体のトップがコーディネー
半導体パッケージ
FEDパネル
ターを務めているというケースが多いようだ
が、自らが事業の責任をとり、推進すること
ディスプレイ製造
のできる人材をリクルートする仕組みが必要
食品添加物
化粧品(粉体)
である。
カテーテル
ジェルベッド
耐震住宅
住宅建材
先進エンターテインメントシステム
Ⅴ 新産業クラスター創発の
仕組み構築
次世代産業を実際に創発していくための具
業務用家具
体的な取り組みとして、本稿では次の6つを
パチンコ
提案する。①技術の組み合わせによる新産業
創発への取り組み、②技術ソリューションを 地域産業競争力の強化
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図10 次世代産業力の構想と具体的な取り組みの提案
つの「産業」を形成するためには、十分に大
きな需要に支えられ、産業としてのバリュー
技術の組み合わせによる新産業
創発への取り組み
技術ソリューションを通じたア
プリケーション開発
技術の組み合わせと
自前主義からの脱却
先端技術の先行的導
入と情報発信
チェーンが充実しなければならない。
以下に示す取り組みの提案は、そのような
需要開拓、バリューチェーン構築のための仕
先端技術の実証実験成果のビジ
ネス展開
組みづくりを目指すものである。
先端技術の実用化を通じた産業
育成
1 技術の組み合わせによる
新産業創発への取り組み
「産業プロデュース」
の仕組み構築
地域ブランドコンセプトの設定
バリューチェーン構築型の企業
誘致
自動車は、ITSによって情報通信、金融サ
ービスなどと融合し、従来の「輸送機器製造
業」という枠組みでは捉えきれない市場を形
成しつつある。同様に、既存の産業もさまざ
通じたアプリケーション開発、③先端技術の
まな技術、製品、サービスを組み合わせるこ
実証実験成果のビジネス展開、④先端技術の
とにより、新たな市場を創出できる可能性が
実用化を通じた産業育成、⑤地域ブランドコ
ある。
ンセプトの設定、⑥バリューチェーン構築型
の企業誘致――である(図10)。
東海三県には建材、屋根瓦、プレハブ住宅
など、住宅関連産業の集積もある(表4)。
現在、国内はもとより世界各地で、産学連
住宅は、建て替えも含めた巨大なリフォーム
携によりイノベーションの促進に取り組んで
市場が期待されているが、情報通信や防犯な
いる。その成果として、今後、ベンチャー企
どさまざまな機能を組み合わせることによ
業が続々と生まれてくる可能性は高い。しか
り、新しい機能と価値を提供し、より高いシ
し、それらのベンチャー企業が集積してひと ェアを確保することも可能になるのではない
か。たとえば、防災、防犯、家庭内事故防
表4 安全生活システムを構成する企業の例
止、健康など居住空間の安全性を実現する
「安全生活システム」として住宅や公共福祉
製品・技術
企業・機関の例
住宅・建材、
家具
トヨタホーム(住宅建築)、ニチハ、アイカ工業(シックハ
ウス対策)、鶴弥、TYK(防災瓦)、新東(太陽光発電一体
瓦)
、オリバー(施設用家具) 等
防犯
アイホン(インターホンを使った防犯システム) 等
ロボット
ビジネスデザイン研究所、ブラザー工業、名古屋工業大学
(以上、感情表現の可能な対人ロボット)、ヒューマンロボ
ットコンソーシアム(名古屋市) 等
センサー
デンソー(ミリ波センサー)、愛知製鋼(磁気センサー)→
転倒・転落防止センサー、事故未然防止システム開発
熱供給
中部電力、東邦ガス
情報通信
ソフトピアジャパン(岐阜県大垣市)における保育所テレ
ビ電話中継プロジェクト 等
触媒など
INAX(防汚技術)、光触媒研究所(光触媒=脱臭、空気清
浄) 等
等
施設などを実現することは、市場参入への1
つの切り口になると考えられる。
2 技術ソリューションを通じた
アプリケーション開発
特定の技術領域に関して、製品メーカーの
持つ悩みを何でも解決できるような、「技術
ソリューション」サービス体制を整えること
で、その分野のアプリケーション側のニーズ
注)インタビュー調査、有価証券報告書などをもとに想定される企業をあげた
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知的資産創造/2004年 2月号
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情報が常に入り、次々と新事業が立ち上がる
る」ことが実証されれば、一気に導入が進む
仕組みを構築することが有効と考えられる。
可能性がある。
単なる素材メーカーと製品メーカーの「お見
たとえば、ソニーが開発した非接触型 IC
合い」では、ビジネス成立の可能性は限られ
(集積回路)カードは、シンガポールなどで
る。技術の壁をブレークスルーすることで、
実証実験を経て「使える」ことを実証し、
ポテンシャルを高めるのである。
JR東日本、JR西日本で定期券などに導入さ
たとえば東海三県では、エコマテリアル開
れた。ソニー製のものよりもさらに情報機密
発の取り組みが盛んだが、環境面では優れた
性の高い技術を開発した企業もあるが、いち
新素材でも、既存の素材を代替するためには
早く「使える」ことを証明したため、ソニー
新たな加工技術が求められることもある。こ
製品が先に普及することとなった。
のような問題点について、市場ニーズをくみ
このような実証実験は、特に社会システム
とりながら、産学官連携体制によって技術ソ
や交通システムの分野で有効である。近年で
リューションを開発・提供することで、製品
は、社会実験や実証実験がよく行われている
メーカーの開発を支援するとともに、新素材
が、自治体のまちづくりの一環として一時的
のアプリケーション開発も同時に行う。
に取り組まれ、一過性のイベントとしてその
セラミックスなどの素材加工技術に強みの
ある民間企業と、産業技術研究施設や大学と
まま終わり、事業化につながらないケースが
多い。
が連携し、エコマテリアルの技術ブレークス
東海三県では、豊田市をはじめとして、エ
ルーを何でも受け付けるような技術開発ネッ
コカー(低排出車)、ITS、次世代交通シス
トワークを構築することが考えられる。東海
テムなどでさまざまな社会実験が行われてい
三県には、セラミックス、鉄鋼、ゴム・プラ
る。ここに産業界の関与を強め、実証結果を
スチックなどさまざまな素材産業が立地し、
用いて、他の地域に次世代交通システムビジ
大学では名古屋大学、公的研究機関では産業
ネスとして展開する。
技術総合研究所などが、企業の技術ブレーク
スルーを支援する活動を標榜している。これ
らの活動の連携をとることによって、「東海
4 先端技術の実用化を通じた
産業育成
三県にいけば、技術上の解決が得られる」と
規制による制限や既存産業への配慮などか
いう体制を整え、素材産業と製品メーカーの
ら、先端的な技術が産業界で使われないケー
マッチングの仕組みを構築する。
スがある。たとえば医療などがその代表的な
分野である。医療などは人命にかかわるもの
3 先端技術の実証実験成果の
ビジネス展開
どんなに優れた技術でも、問題なく実用化
できることが証明されなければ、なかなか
広く普及しにくい。逆に、実用化して「使え
であり、最先端の技術を実用化していくため
には、構造改革特区のような場所で監視のも
とに規制を緩和し、先行的に取り組むことが
現実的である。
近年、技術的な発展の著しい再生医療は、
地域産業競争力の強化
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これまで治療が困難であった傷病に対して有
把握システム)の導入を促進・支援し、伝統
効な治療を提供しうる技術だが、日本では、
だけでない、科学的な裏付けのある「安心・
治療行為はまだ規制されており、研究開発だ
安全食品」としてブランドの信頼向上に取り
けが粛々と行われている。組織培養など再生
組むことなどが想定される。
医療関連の企業も設立されているが、規制な
どのために売り上げが立たず、潜在的な成長
力が生かされていない分野もある。
(2)テーマを打ち出した産業観光
また、最近では産業観光という考え方が少
東海三県には、日本の再生医療の第一人者
しずつ浸透しつつある。産業観光とは、「歴
といわれる大学教授や、培養皮膚の製造が可
史的・文化的価値の高い産業遺産を観光資源
能な企業などが存在する。再生医療の研究開
として位置づけ、それらを介してものづくり
発については、関東、関西に比べて出遅れて
の心に触れ、人的交流を促進する観光活動」
いる感があるが、実際に治療行為を行うこと
(愛知県『あいちの産業観光』CD-ROM、
のできる病院の設置が実現すれば、産業創発
2002年)である。
の起爆剤になる可能性もある。すなわち、単
東海三県については、すでに多数の産業観
に病院事業だけでなく、培養皮膚や人口骨な
光ルートが設定されているが、それだけでは
どが実際に使われることによって、医療バイ
集客力が弱い。国内外の人の意識をこの地方
オ産業の発展が期待される。
に向けさせ、「一度は行ってみよう」と思わ
せるような、強力な魅力づけが必要である。
5 地域ブランドコンセプトの設定
(1)地域産品のブランド認知度の向上
この点についても、絞り込まれた地域コンセ
プトの設定とそのPRが必要である。
地域ブランドの認知度向上への取り組み
東海三県は、自動車、航空機産業との関連
は、さまざまな地方で取り組まれている。し
性から、「のりもの」をコンセプトにするこ
かし、逆にどこでも行われているため、その
とも可能ではないか。中部経済連合会では地
地域の独自性や統一的なコンセプトで訴求し
域ビジョンの中でテーマパークの設置を構想
なければ、PR効果は高くない。
しているが、たとえばそれは F1レースや飛
自治体や商工会が、優れた地元企業や地場
行機の本格的な、実機に近いシミュレーショ
産品に対して、地域の名前を冠して「○○ブ
ンのできる体験施設にすることが、ひとつの
ランド」と認定しているものが多い。だが、
アイデアとして考えられる。重要なのは、世
コンセプトを統一するなど、消費者や顧客に
界のどこにもないような、本格的な体験がそ
対してより訴求力の高い提案をしなければ、
こにあり、一度は行ってみようと思わせるだ
なかなか認知度は向上しない。
けの魅力を備えていることである。
東海三県については、伝統ある食品産業が
集積しているが、たとえば健康に徹底的にこ
だわったコンセプトを打ち出すこととか、ト
レーサビリティシステム(生産流通履歴情報
70
6 バリューチェーン構築型の
企業誘致
新産業クラスターの創出のためには、既存
知的資産創造/2004年 2月号
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02-NRI/p54-71 04.1.14 11:24 ページ 71
企業だけではなく、新たに企業誘致を進める
東海三県企業とのビジネスミーティングの設
ことにより企業集積を形成し、域内における
定など、手厚い支援を行うことが効果的で
競争環境を作り出し、競争力の維持・向上を
ある。
図る。
たとえばドイツ・ベルリンでは、バイオ産
マイケル・ポーターのいう産業クラスタ
業のバリューチェーンの中で、特にバイオイ
ーとは、イノベーションを長期継続的に誘発
ンフォマティクス(生物情報工学)の分野の
する、地理的に近接した場のことである。本
集積が少ないと判断し、外国企業の誘致活動
来、イノベーションとは、技術革新だけにと
を行った。すでに進出している他のバイオ関
どまらず、製品、生産プロセス、市場、素
連企業とのビジネス取引が行いやすいように
材・部品、組織などで今までにないものを創
環境を整備して、フランスにあった日立ソフ
造し、それが社会に受け入れられて、新し
トエンジニアリングの欧州拠点のベルリンへ
い経済のパラダイムをもたらす取り組みで
の移転と機能強化に成功した。誘致される企
ある。
業が、進出先の産業クラスターの中に浸透す
産学連携やTLO(技術移転機関)の仕組
ることができ、ビジネスを行いやすい環境を
みが構築されることによって、技術革新や技
用意することが、企業誘致を成功させるため
術移転の仕組みは、すでに全国各地で相当程
の最大の要因である。
度、充実してきた。
企業誘致の要諦は、誘致される企業の立場
これからは、より広い視点でイノベーショ
に立って事業計画を描くことにある。企業の
ンを捉えた取り組みが必要である。各地で、
投資意欲が旺盛であった頃は、税制などの優
既存の産業・技術と新技術をうまく組み合わ
遇措置が投資先の選定要因にもなっていた。
せ、市場を開拓する機能を強化することで、
現在は、日本企業に限らず、投資は選択的に
その地域の特徴を生かした大きな事業、産業
行い、明確にビジネスにつながらなければ投
が次々と生まれてくることを期待したい。
資をしない時代である。
東海三県からは行政、財界のミッションが
海外に派遣されている。誘致対象企業を絞り
込んで、その企業にとっての事業展開を想定
著●
者 ――――――――――――――――――――――
●
岩垂好彦(いわだれよしひこ)
技術・産業コンサルティング部上級コンサルタント
専門はグローバル戦略、産業政策など
し、その国の言葉での進出手続きサポート、
地域産業競争力の強化
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