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着心地良い妊婦用スラックス ー前後股上線傾斜度一 カロ 藤 祥 子
愛知教育大学研究報告,40(芸術・保健体育・家政・技術科学編), pp. 79 85, February, 1991 着心地良い妊婦用スラックス 一前後股上線傾斜度加 藤 祥 子 Shoko KATO (家政学教室) Suitable Slacks for Pregnant Shoko (Department Woman KATO of Home Economics) ABSTRUCT This experiment woman, deals with problems of actual fit to the shape of the pregnant which was conducted to demonstrate the shape of the pregnant woman which slacks pattern is more suitable for ; factors were the gradient of the front centerline, the gradient of the back centerline and subject. Each subject judged how she feltin certain slacks ',each observer judged how certain slacks looked to fiteach subject by means The result of this experiment 1) the more 2) The more gradient of the back centerlineis increased, i.e. made easily subjects can move The more of photographs. is as follows : and more more sloping, confortable she feels. gradient of the front centerline is increased, the better subjects Innlr 1.目 的 近年,女性の社会的進出に伴い働く妊婦が増加の傾向にあり,妊婦服に対する機能性, 審美性の要求が高まっている。種類も豊富で様々な工夫を凝らした妊婦服が市販されては いるが,その大半は妊婦服の典型とも思われるジャンパースカートやワンピースであり, スカート,スラックスなど下半身用衣服については妊婦の要求に十分対応出来ているか疑 問である。特にスラックスは保温性,安全性,活動性の面から働く妊婦に適する形式と思 われるが,手に入りにくいのが現状である。 妊産婦の体型については,山名ら1)により妊娠月做による体型変化について詳しい検討 がなされている。それらを基に妊婦用スラックスのパターンを展開し,着心地良い妊婦用 スラックスを設計することを考えた。 - 妊娠により体型が著しく変化する部位は胴部とその突出に伴う腹部である。西尾らの研 79一 加 藤 祥 子 究2)では,スラックス上部構造の中でも「後股上線傾斜度」と「後股幅」をとりあげ官能検 査により動作適合性を求めている。これより「股幅」,「後股上線傾斜度」,「腹囲のゆとり」 を要因として妊婦用スラックスの実験を行い,着心地,外観について検討した3)ところ「後 股上線傾斜度」,「腹囲のゆとり」に有意差が認められ,それらの交互作用もあることがわ かった。しかし,この「後股上線傾斜度」は,股上線延長の効果があり,「腹囲のゆとり」 も大きすぎると美観を損ねる。そこで本実験では,腹囲のゆとりと股上寸法を一定にし, 前後の股上線を正中線より傾斜させその効果をはかった。 2.方 1) 法 実験の要因と水準,割り付け 実験の要因は,「前股上線傾斜度」,「後股上線傾斜度」,「被検者」の3要因であり,各々 3水準としてL27直行配列表に割り付けた。 実験の要因と水準は表1に示す。図1は,前後股上線傾斜度の各水準を図示するもので ある。 表1 2) 実 験 実験の要因と水準 B A 服 実験服は綿100%の白無地のシーチン グを用い,表2に示す9種類の実験服を作成した。 実験服は,文化式婦人服参考寸法M寸法(胴囲62 ,腰囲88cin,腰丈18cm,股下67cin) を用い,股上寸法は,Y式の定寸法28cin,腰囲のゆとりを3cmとしたスラックス原型を図 2のように開いて基本型とした。補正に用いた做値は,妊娠10ヶ月の平均腹囲,平均股上 前後長と,それらの標準偏差1)から割り出し,予備的実験3)の結果を考慮してさらにゆとり を加え,股下を短くしたものである。ウェスト部分は6コールの平ゴムと丸紐でしぼり, 各被検者にフィットするようにした。9着の実験服の出来上り項目別計測値はすべて次の ようになった。 胴囲 3) 1030 被 腰囲 検 1140 股上前後長 817 股下 620 (mm) 者 被検者は,標準寸法の既成服を着用していた妊娠8 - 身体計測値は表3に示す。 80- 10ヶ月の妊婦3名である。各々の 表3 被検者の主な身体計測値 (mm) 4)実験の手順 被検者は実験服を着用して,立位正常姿勢から正椅座 位への移行動作をとり,動作適合性と着心地を判定した。 さらに,パネルによる写真判定のため前面,後面,側面 の写真を撮った。 5) 判 定 方 法 判定は動作適合性が「動きやすい」から「動きにくい」 の7段階,着心地が「良い」から「悪い」の7段階で行っ た。写真判定は,前後股上線傾斜度O度の実験服No.5を基 準にして「外観が良い」 「同じ」 「外観が悪い」の7段階で前面,後面,側面について 行い,さらに,後面についてはスラックス上部の着用状態も「自然である」 「同じ」 「不 自然である」の7段階で判定した。判定者は本学女子学生38名である。 6) 解 析 方 法 動作適合性,着心地,外観ともに累積法4)により分散分析を行った。有意な要因の最適水 準についてはオメガ法4)により推定を行う。 3.結 1) 果 動作適合性について 表4は被検者の動作適合性について分散分析した結果である。B(後股上線傾斜度),C (被検者)は1%有意,BXCが5%有意であった。寄与率をみるとBが26.0%と高く, 動作適合性と後股上線傾斜度は深い関係があることがわかる。またC,B×Cも15.3%, 12.3%と高く,動作適合性には被検者の個人差があり,被検者によって後股上線傾斜度に 対する評価の傾向が異なることを示している。Bの効果,BXCの効果を図3に示す。B についてはB 3,B 2, B 1の順に「非常に動きやすい」「かなり動きやすい」「やや動き やすい」の良い評価を合計した割合が高く,B3では77.8%を占めている。BXCについ ては,最も「動きやすい」と評価された組み合わせはB 3 C 3であり, 2と続いている。遂に最も「動きにくい」と評価された組み合わせはB B 1 C 3と続いている。これより,B3は被検者C - 1 C 2, 81 一一 3, B 3 C 2, B 2 C 1 C 1であり,B C 2に対して「動きやす 加 祥 子 分散分析表(動作適合性) - 表4 藤 82- 着心地良い妊婦用スラックス い」水準であり,B1はC 1,C 2, C 3のすべての被検者に対して「動きにくい」水準 であることを示している。これらのことから判断し,最適水準はB3と考えられた。個人 差を考えないとき,最適条件のB3の効果はオメガ法で推定しても77.8%の被検者から「動 きやすい」と・いう評価が得られることになる。以上,動作適合性を高めるために後股上線 傾斜度は重要であり,第3水準のように脇側に傾斜させることが望ましい。 2) 着心地について 表5は被検者の着心地についての分散分折表である。B(後股上線傾斜度),C(被検者) が5%有意であった。寄与率をみると15.9%, 14.5%とどちらも高く,着心地と後股上線 傾斜度は関係あるものの個人差も考慮せねばならないことがわかった。Bについてオメガ 法により推定すると,B3が66.7%の良い評価を得て最適水準と考えられた。動作適合性 と同様,後股上線傾斜度は脇側に傾斜させたものが着心地良い。 表5 分散分析表(着心地) *危険率5%で有意 3) F (12, 12 ; 0.05)=2.69 写真判定「前面の外観」について 前面の外観についての分散分析の結果,主効果,交互作用のすべてが1%水準で有意で あった。寄与率は,A(前股上線傾斜度)が13.4%, B (後股上線傾斜度)が5.2%,A× Bが2.0%で,これらが前面の外観に影響していると考えられる。その他については,寄与 率が低く考慮に値しない。 主効果についてオメガ法により推定するとA3が67%, う評価を得る。 A×BではA3 B 3が58%「外観が良い」とい B 3が78%「外観が良い」評価を得,最適水準と考えられ た。以上,前面の外観は前後の股上線を脇側に傾斜させることにより良くなることがわかっ た。 4) 写真判定「側面の外観」について 分散分析の結果,主効果,交互作用のすべてが1%水準で有意であった。寄与率はA(前 股上線傾斜度)が12.6%, C (被検者)が6.1%,A×Cが2.3%である。これらについて オメガ法により推定すると,AについてはA3が良く,AXCでは,どの被検者にとって もA3が適切であることがわかった。側面の外観には前股上線傾斜度による寄与が大きく, - もっとも脇側に傾斜させた第3水準が側面の外観をよくするものと思われた。 83- 加 5) 藤 祥 子 写真判定「後面の外観」について 後面の外観について分散分析した結果も主効果,交互作用すべてに1%水準で有意差が 認められた。寄与率はA(前股上線傾斜度)が8.1%, B (後股上線傾斜度)が3.4%,A× Bは2.9%であった。主効果について各水準の効果は,AについてはA3が,Bについては B3が良い評価を得ている。しかし,A×BではA2 A3 B 3となっている。A2 B 3がもっとも良く,次いでA 1 B 3, B 3の効果をオメガ法で推定すると表6のようになり,「非常 に良い」「かなり良い」「やや良い」の後面の外観が良いという評価は38.1%となった。 表6 6) A2 B 3の効果の推定 写真判定「後面のスラックス上部の着用状態」について 後面におけるスラックス上部の着用状態について分散分析した結果を表7に示す。A(前 股上線傾斜度)とB(後股上線傾斜度)の寄与率が高く,それぞれ8.4%,5.2%となって いる。図4でこれらの効果をみてみると,AについてはA3が,BについてはB3が着用 状態が自然であるという評価を得ている。従って,最適水準はA3 表7 53.3%のよい結果を得るものと考えられた。 分散分析表(後面のスラックス上部の着用状態) - ガ法による推定の結果, 84- B 3と考えられ,オメ 一一 …- 着心地良い妊婦用スラックス 4.結 語 着心地良い妊婦用スラックスを設計するために,前股上線傾斜度,後股上線傾斜度,被 検者を要因として実験を行った。被検者は正椅座位をとることにより動作適合性と着心地 を判定し,判定者は着用状態を写真によって判定した。判定はすべて7段階で行い,解析 は累積法による分散分析である。実験の結果を以下に示す。 1) 後股上線を脇側に傾斜させるほど動きやすく,着心地もよい。 2) 前後股上線を脇側に傾斜させるほど,外観が良い。 本実験にご協力くださいました薄井道子さん,水野晴美さんに深謝致します。 引 用 文 献 1)山名信子,岡部和代,中野慎子,銭谷八栄子,斉田つゆ子:妊娠体型の妊娠経過に伴う変化 学 20-3 171 人間工 178 (1984) 2)西尾愛子,猪又美栄子:衣服の動作適合性に関する研究(第2報)-スラックス上部の構造について 一 家政学雑誌 30-10 855 859 (1979) 3)加藤祥子,薄井道予,水野晴美:着心地良い妊婦用スラックスー上部構造について一 家政学教室 20 1 6 愛知教育大学 (1988) 田口玄一:第三版実験計画法(上)・丸善・67 84 (1976) (平成2年9月12日受理) - 4) 研究紀要 85-