Comments
Description
Transcript
詳細 - 日本心理学会
日心第70回大会(2006) 教員志望者が言葉かけを学ぶオンデマンド講義の教育効果 西口利文 (中部大学人文学部) Key words:オンデマンド講義,児童への言葉かけ,教員養成教育 目 的 教師が,問題場面(教師あるいは子どもがフラストレーシ ョンを抱える場面)での言葉かけのレパートリーを豊富にす ることは,子どもとのコミュニケーションのスキルを高める ことに大いに資する。それゆえ,教員志望学生に対して,大 学の教員養成教育の段階より,言葉かけのレパートリーを豊 富にするための教育的支援を行うことには意義がある。 ところで,e-ラーニングは,学習者にとって, 「時間が自由」 「場所が自由」「繰り返し学習することができる」 (経済産業 省商務情報政策局情報処理振興課 編,2005)という利点で近 年注目されている。そのため,言葉かけのレパートリーが教 育できる e-ラーニング用コンテンツを構築し,教員志望学生 や教師に向けて開放することは考えられてもよいだろう。 問題場面での言葉かけのレパートリーを学ぶ e-ラーニン グコンテンツの具体的なかたちとしては,オンデマンド講義 を提案できる。これは,講義内容をビデオカメラによって収 録し,プレゼンテーション・ソフトによる資料を同時に提示 するものである。西口(2005)は,問題場面での言葉かけのレ パートリーを学ぶ講義を教員志望学生に実施し,受講者が言 葉かけのレパートリーを豊富にすることを確認している。そ のため,これと同内容のオンデマンド講義であれば,同様な 教育効果を期待できるが,実証的な検討が必要である。 そこで本研究では,問題場面での子どもに対する言葉かけ のレパートリーを,教員志望学生が豊富にするためのオンデ マンド講義の教育効果について検討することを目的とする。 方 法 被験者:大学生 56 名(男性 34 名,女性 22 名) 。 オンデマンド講義形式のコンテンツ: 西口(2005)が【内気・ 引っ込み思案】という場面(Table1)を題材に実施した講義と 同内容の講義を実施し,ビデオカメラで記録した。ならびに 講義内容に即した Microsoft PowerPoint によるスライドを作 成した。そして, Microsoft Producer for PowerPoint 2003 を用いて,ビデオカメラの映像と,Microsoft PowerPoint で 作成されたスライドを同期させて,オンデマンド講義形式の e ラーニングコンテンツを作成した。 Table1 プレおよびポストテストで示した場面の記述 【内気・引っ込み思案】ゆきえは聡明なのであるが,内気で引っ込 み思案である。彼女はクラスの中に自発的に参加していかないし, あなたが呼びかけても反応しないことが多い。今日あなたが授業中 れる言葉かけを, 被験者に最大7回答までたずねた。その後, オンデマンド講義形式のコンテンツを,教室内のディスプレ イに提示し,視聴を求めた。視聴後,プレテストと同内容の ポストテストへの回答を求めた。 テストの得点化:プレ・ポストテストの回答について, 「言葉 かけレパートリー」 (西口,2000)に基づいて,回答を質的に 分類した。被験者1場面あたりの回答にみられた,質的に異 なる言葉かけ数を, 「カテゴリーレパートリー」として,結果 の分析に用いた。 結 果 【内気・引っ込み思案】 ,【授業中の落書き】の場面に対す る,プレ・ポストテストのカテゴリーレパートリーの平均値 と標準偏差を求め,場面別に対応のある t 検定を行った (Table2)。結果, 【内気・引っ込み思案】のカテゴリーレパー トリーにおいて,5%水準(両側)で,ポストテストの得点 が高いことを示した(t(55)=2.16,p<.05) 。 【授業中の落書き】 での言葉かけの回答については,プレおよびポストテストで, 有意差はみられなかった(t(55)=1.34,n.s.) 。 また【内気・引っ込み思案】では,86%の被験者が,1か ら5個の範囲で,ポストテストにおいて,プレテストではみ られなかったカテゴリーの言葉かけを回答していた。 【授業中 の落書き】では 82%の被験者が,1から5個の範囲で,ポス トテストにおいて新たなカテゴリーの言葉かけを示した。 Table2 カテゴリーレパートリーの平均値と標準偏差 【内気・引っ込み思案】 平均値 標準偏差 【授業中の落書き】 平均値 標準偏差 * p<.05 プレ ポスト t値 2.43 2.84 t(55)=2.16* .95 1.25 2.71 2.95 t(55)=1.34 .97 1.33 考 察 本研究で作成したオンデマンド講義形式の e ラーニングコ ンテンツが,問題場面での教師の言葉かけを豊富にする可能 性を示した。しかし,今回の研究では,大学の講義の中で, 受講者に一斉に視聴を求めて,その効果を検討した。e ラー ニングの本来の使用方法を考えるならば,個々の学習者が, コンピュータのディスプレイ上に提示されるコンテンツに向 かい合って学習する状況で,学習効果を検討することが求め られるだろう。また,一度習得された言葉かけが,長期間保 持されるかどうかについても,さらに検討する必要がある。 に彼女に質問を投げかけたが,彼女は目を下に向けたままで何も答 えない。 【授業中の落書き】たかおは一つのことに集中することができない のか,自分の与えられた課題をなかなか仕上げない。あなたは授業 で算数の練習問題のプリントを配布し,それを子どもたちにさせて いる。数分後に彼らの様子を見に回ってみると,たかおの作業量は 少ない。プリントに落書きをしていたようである。 実施手続き:講義「心理学概論」の中で実施した。講義の開 始時に,プレテストとして, 【内気・引っ込み思案】, 【授業中 の落書き】という2場面(Table2)で,教師が使うと考えら 引用文献 経済産業省商務情報政策局情報処理振興課 編 (2005). e ラーニング白書 2005/2006 年版 オーム社 西口利文 (2000). 学校場面における教師の心理的要因と児 童への言葉かけとの関連 名古屋大学教育発達科学研究 科紀要(心理発達科学),47,117-138. 西口利文 (2005). 問題場面での言葉かけのレパートリーを 教員志望学生が豊富にする教育実践 日本教師教育学会 第 15 回大会プログラム要旨集, 92-93. (NISHIGUCHI Toshifumi)