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給湯シャワー水のレジオネラ属菌対策について(誌上発表) 岡山市保健所
給湯シャワー水のレジオネラ属菌対策について(誌上発表) 岡山市保健所検査課 船橋 圭輔 1 はじめに レジオネラ属菌感染症は、レジオネラ属菌に汚染されたミスト状の水を肺に吸い込むことにより発 生すると言われている。 これまでの岡山市のレジオネラ属菌対策は、ミストの発生し易い場所を想定し、公衆浴場やプー ルに設置されているジャグジープールの水の検査を実施してきた。結果は、陽性となる施設はあるも のの、検出値が定量限界や多くても数百 CFU/100mL 程度であり、誤嚥の危険性はあるものの比 較的良好な状況であった。 近年、給湯水でのレジオネラ属菌の繁殖が指摘され、平成 15 年7月 25 日付け厚生労働省告 示第 264 号「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」で貯湯水温を 60℃以上に保ち、レジオネラ属菌の生育を抑制する管理を行うこととなった。 この状況に鑑み、給湯水設備から供給されミストの発生しやすいシャワー水のレジオネラ属菌の汚 染状況を調査し、その対策を検討したので報告する。 2 実施方法 (1)実施期間 平成 25 年 6 月~平成 26 年 11 月まで (2)検体の採取方法及び検査方法 採水方法は、公衆浴場等の浴槽水の採水時にシャワーヘッドから水を採取し、別途、家庭 のシャワーヘッドからも水を採取し、検体とした。 検査は、現場で遊離残留塩素濃度の測定、検査室で細菌数、大腸菌群、レジオネラ属 菌の検査を実施した。 細菌数検査法は水質基準に関する省令の規定に基づき厚生労働大臣が定める方法(平 成 15 年 7 月 22 日)(厚生労働省告示第 261 号)、大腸菌群検査法は、下水の水質の検定 方法等に関する省令(昭和 37 年 12 月 17 日厚生省・建設省令第 1 号)で実施した。 レジオネラ属菌検査法は、第 3 版 レジオネラ属菌症防止指針に準じた方法で実施し、ろ 過濃縮、熱処理し、100μL を 2 枚の GVPCα培地へ塗抹し、レジオネラ属菌様コロニーが発 育した場合、同定のためのリアルタイム PCR を実施した。 (3)レジオネラ属菌陽性施設の指導及び追加調査 レジオネラ属菌陽性施設には、実態に合わせ指導を行うと共に、給湯設備の構造等の聴き 取り調査を行った。 (4)再現試験及び施設における対策の実施 レジオネラ属菌陽性施設うち水が停滞しやすいシャワーヘッドとホースを定期的に塩素消毒 することで改善されないループ配管を有する施設の配管内の温度及び時間を想定し、模擬試 験により殺菌条件の検討を行った。 検討方法は、レジオネラ属菌が約 1,600cfu/100mL 入った水 100mL(保存していた陽性施 設の水)を準備し、試験区は熱処理を実施(55℃で 2 時間熱処理)、対照区は何も処理をし ないものとし、通常の検査を実施した。 同様に施設においても対策を実施後、採水検査を行った。 3 結果 (1)汚染状況 表 1 公衆浴場等のシャワー水からの検査結果 検査項目 細菌数 大腸菌群 レジオネラ属菌 年度 H25 H26 H25 H26 H25 H26 検査数 43 40 43 40 43 40 33 34 0 1 (2.5%) 5 (12%) 2 (5%) 30 以下 陽性数 30~300 2 3 300 以上 8 3 平成 25 年度のレジオネラ属菌の検出値は、15、40、100、170、230cfu/100mL で、平成 26 年 度は 2 施設とも 10cfu/100mL であった。平成 26 年度は前年の指導の効果で細菌数、レジオネラ 属菌の検出数及び検出値も低くなっていた。 別途行った家庭のシャワーヘッド16検体からは、検出されず、公衆浴場のシャワー水は、全体では 約1割の施設がレジオネラ属菌陽性となった。 (2)陽性施設の指導及び追加調査 細菌数が 300cfu/mL 以上検出される施設が 8 施設には、水が停滞しやすいシャワーヘッドとホー スを定期的に塩素消毒することで改善され、改善されない施設には、営業開始前にシャワー水をあ る程度流すように指導した。 しかし、この対策でも改善がみられなかった施設に対して営業者・設備担当者から聴取したところ、 蛇口及びシャワー配管は、水圧を保つため、給湯槽以降にループ配管が設置されていることが分か った(図 1)。 貯湯槽 (60℃以上) 加 温 給水圧確保のためのループ配管 P さらに、節電・省エネ対策で営業時は 55℃以上に保持していたループ配管を営業終了時に電源 を落としていた。そのため、ループ配管内がレジオネラ属菌の活発に発育できる温度帯となっていた可 能性が考えられた。しかも発育に必要な時間も、定休日等により最大約36時間あった。 指導を受け、営業者の自主的な対策は、営業開始2時間前にループ配管の加温の電源を入れ ることであった。 (3)再現試験及び施設における対策の実施 営業者の自主的な対策について、ループ配管のレジオネラ属菌を死滅させることが可能かを検査 室において試験した結果、試験区が 25cfu/100mL、対照区が 1,575cfu/100mL となった。試験 区は、98%のレジオネラ属菌を死滅することができたが不検出とはならなかった。 この結果を受け、営業者は、ループ配管を常時加温することと対策を変更したが、実際の施設の 状況を確認したところ、以前の結果 100cfu/100mL から 10cfu/100mL まで低下した(90%)が不 検出とはならなかった。 4 考察 (1) シャワーの危険性 シャワー水は噴出した水が身体にあたることによりミストを発生し易く、シャワーヘッド又は供給水が 汚染されると浴槽水以上にレジオネラ感染症の発生が危惧されるため、調査を行った結果、全体の 1割程度の汚染が見られ、実態の把握と対策の指導が必要であると考えられた。 (2)汚染要因 今回の調査では、サンプル数が少ないため断定できないが、家庭のシャワー水からは検出が無く、 公衆浴場等のシャワー水では検出され、検出施設のシャワーヘッドの消毒等により、多くの施設で改 善されたことから、不特定多数が利用することによるシャワーヘッド外部または接続ホース汚染が汚 染要因の一つとして考えられた。 一方でシャワーヘッドの消毒等により改善が見られない施設では、ループ配管等の構造特性が存 在したため再現試験を併用した指導を行ったところある程度の改善が見られたことから、ループ配管 等の構造特性も要因である可能性が考えられた。 また、ループ配管は、排水口もなく、消毒設備を有さないため、蛇口からの排水しかできない構造 である。消毒の配管の設置は、ループ配管の圧力低下を招くためできないため、一時的な配管の分 解後の消毒となり、営業を考えると、現実的でない。さらに安全設計上 55℃よりも温度を上げること ができないため、配管内のバイオフィルムが除去されず、レジオネラ属菌が完全に死滅することができ なかったことが要因と推測された。 (3)指針に基づく指導 「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」で貯湯水温を 60℃以上に 保ち、レジオネラ属菌の生育を抑制する管理を行うことされているが、今回の事例のようにループ配 管を有する場合、貯湯槽以外の構造特性を考慮し、特性に合わせた科学的根拠に基づき、営業 許可前に配管への高濃度塩素処理や排水が可能な構造を設けることの指導が必要不可欠である と考えられた。 5 まとめ 公衆浴場の給湯水の管理は、「レジオネラ属菌症を予防するために必要な措置に関する技術上 の指針」で示されるように、給水末端で常時 55℃以上を保つことが重要であるが、現実的には、節 電・省エネ対策及び配管構造上の特性から、レジオネラ属菌の抑制が困難な事例があった。 今回は、汚染実態の調査と実施の容易な指導を行い、改善の見られない施設では再現試験を 併用し指導を行うことで一定の改善が見られたが、岡山市公衆浴場法施行条例では、貯湯槽の 管理の条文はあるが、貯湯槽以降の給水(シャワー)までの管理の条文がなく指針に基づく指導・助 言となるため、営業者に対策の必要性を理解させるためには、実態に合わせた合わせデータに基づく 指導を行うことが必要不可欠であり、自主管理の向上に有用であると考えられる。 注意:条例改正や岡山市の今後の指導を言えば、報道や議員の目にとまった時の追求が危惧さ れる。 ・