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ハイビジョン・システム開発の 手引き
第2章 ハイビジョン・システム開発の 手引き ― データ・ストリームを合成・分離・加工するディジタル放送送出システム に必要な機能 谷津 純一 放送の送受信の流れのうち,灰色のブロックの範囲です. 圧縮後でも 8Mbps ∼ 20Mbps と高速なハイビジョン信号を MPEG-2 エンコーダを搭載するシステムによって放送さ 扱うシステムにおいては,FPGA や DSP,CPU の選択がシス れる番組の,送出装置と受信機器の基本的なブロック構成 テムの性能を大きく左右する.ここでは,「映像」,「音声」, 「番組に付随する情報」を同一のストリームに多重化するシステ を図 2 および図 3 に示します.なお,データの流れだけを ムを例に,どの程度のハードウェアを準備すれば,どのくらい 示すために省略してありますが,映像と音声の符号化およ のデータを転送したり加工したりできるのかを示す. (編集部) び復号化においてはDSP を,また,データの符号化やパケ タイザ,マルチプレクサ,デマルチプレクサ,データ処理 ここでは,ディジタル放送の送信・受信の流れを説明し, では CPU や DSP を使う場合が多いようです.ただし,民 そこにどのような機能が要求されるのかを述べます.また, 生機器における符号化・復号化には専用 LSI を使う場合が それらの機能ブロックに必要な処理や性能を示し,それら ほとんどで,受信機用の復号 LSI には,デマルチプレクサ がどのようなハードウェアやソフトウェアで実現されるのか の機能も搭載している品種が多くあります. を検討します.本稿で解説するのは,図1 に示すディジタル 送出側 映像 音声 データ圧縮 パケット化 多重化 伝送路 符号化 変調器 送信機 データ RF 映像 データ 伸張 チューナ 復調器 誤り訂正 パケット 分離 音声 データ データ グラフィックス処理 処理 モニタ・ インター フェース 受信側 図1 ディジタル放送の送信・受信の流れ 本稿では灰色のブロックをおもに説明する KeyWord ビット・レート,I ピクチャ,P ピクチャ,B ピクチャ,ISO/IEC 13818-7,AAC,ISO/IEC 13818-6,DSM-CC, ES,エレメンタリ・ストリーム,PES,パケタイズド・エレメンタリ・ストリーム,ISO/IEC 13818-1 Design Wave Magazine 2006 August 33 2 に音声,データ放送,番組情報などが含まれています.これ らのデータはすべて1Mbps 以下と考えてよいでしょう. 1.ディジタル放送用パケットの基礎知識 画像の MPEG-2 圧縮では,一般には 15 フレーム程度の BS デジタル放送および 110 度 CS 放送では,1 送信機当 画像を一つのまとまりである GOP(group of picture)ごと たり約 51Mbps をハイビジョン 2 局で分割し,地上デジタ に分割し,過去と未来のフレームから物体の動きを参照し ル放送では約 23Mbps を 1 局で使っています. て,その変化分を伝送する方法をとります.参照される元 となるフレームを I ピクチャ,I ピクチャを参照しながら, ● ビット・レートを落とすためにまずは圧縮 みずからも参照されるフレームを P ピクチャ,ほかのフレ ハイビジョンの映像だけのデータ容量は,エンコーダによ ームから参照されず,もっぱら過去と未来のフレームを参 って異なります.その値は一般的には 8Mbps ∼ 20Mbps で 照するだけのフレームを B ピクチャと呼び,その参照関係 す.この値の差は,エンコーダにおける圧縮アルゴリズム は図 4 のようになります.このため,フレームごとのデー や,動きベクトル検出アルゴリズムの性能によるところが大 タ量は通常,I ピクチャ > P ピクチャ > B ピクチャとな きいでしょう.ハイビジョン番組のデータには,映像のほか ります.ただし,動きの早い画像の場合,B ピクチャでも 映像 映像符号化 音声 音声符号化 データ 番組情報 図2 データ符号化 データ符号化 映像ES パケタイザ 音声ES パケタイザ セクション・ データ パケタイザ セクション・ データ パケタイザ 映像PES 音声PES データ・ カルーセル マルチプレクサ (多重化器) TS 機器間 インターフェース 変調器へ ES :エレメンタリ・ストリーム PES:パケタイズド・エレメンタリ・ストリーム TS :トランスポート・ストリーム PSI :program specific information SI :service information PSI/SI ディジタル放送送出側の基本的なブロック図 放送機器の送信ブロックを想定している 映像PES RF 受信・復調部 デマルチプレクサ (分離器) IEEE1394 インターフェース TS ディジタル放送受信側の基本的なブロック図 テレビや HDD レコーダなどの受信ブロックを想定している 34 Design Wave Magazine 2006 August 音声復号化 音声 データ・ カルーセル 蓄積・処理 データ データ処理 番組情報 時間軸情報 データ・ カルーセル 時間軸情報 PSI/SI 図3 映像 時間軸情報 TS 音声PES 記録TS (パーシャルTS) 映像復号化