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機能的形状と意匠の有効性 - 東京理科大学大学院 イノベーション研究科

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機能的形状と意匠の有効性 - 東京理科大学大学院 イノベーション研究科
平成27年度 MIPペーパー
機能的形状と意匠の有効性
東京理科大学 専門職大学院
イノベーション研究科
知的財産戦略専攻
学籍番号 M314022 氏名 関 大
指導教員 教員名
鈴木 公明
平成28年1月19日
教授
目次
1 はじめに
2 日本の現状
2-1
意匠法 5 条 3 号成立までの歴史的経緯
2-2
日本意匠登録例の考察
2-3
無効審判事件の考察
2-4
小括
3 海外の現状
3-1
3-2
米国の現状
3-1-1
類否判断の現状
3-1-2
機能性判断手法
3-1-3
機能的形状が意匠の有効性に与える影響
3-1-4
小括
欧州共同体の現状
3-2-1
類否判断の現状
3-2-2
機能性判断手法
3-2-3
機能的形状が意匠の有効性に与える影響
3-2-4
小括
4 機能的形状に関する悪影響を回避するための提言
4-1 意匠出願に関する提言
4-1-1
機能的形状の破線表現
4-1-2
外国意匠出願時における優先権主張の要否検討
4-2 特許出願に関する提言
4-2-1
実施形態の追加検討
4-2-2
特許出願に関する提言による副次的効果
5 まとめ
1
1
はじめに
昨今、商品開発の場面では、デザインとエンジニアリングを有機的に融合した、英国ダイソ
ン社のファンやクリーナーなどの成功事例が出現している。これは、商品の使用価値を底上げ
するために、使用者の視覚価値とユーザビリティを商品開発の重要な要素として捉えた戦略
であると言える。一方で、日本企業は特に新興国で、現地ニーズに沿った商品開発を重視し、
最先端の技術のみならず、デザインやブランドを組み合わせた商品開発を進めてきた。この戦
略は画一的な商品開発からの脱却であり、今後、日本企業が更なる成長を遂げるための重要
なテーマの1つである。
知的財産の分野においても、デザインとエンジニアリングの融合は、検討する価値が見直さ
れつつある。中でも、意匠権は自社製品のブランド力向上を目指した商標的活用方法や主要
な技術を特許で押さえ、その周辺技術を意匠権で押さえるという特許の補助的活用方法が可
能であることから、知財4法の中では、他の知財法域と連携する機会が多い法域と言える。こ
の複数法域の融合に関しては、2009 年に妹尾が「知財権ミックス」として、企業の総合的な知
財競争力の向上を説いており*1、2015 年に鈴木が知財権ミックス戦略の一つのあり方として、
意匠権、商標権、不正競争防止法を総動員する知財権ミックスによるブランディング支援を提
唱している*2。その他、平成 24 年度、平成 25 年には日本弁理士会の意匠委員会から、意匠と
特許の併用に関する詳細な事例研究*3,4 が発表されている。しかしながら、上記研究、調査で
は複数法域の権利期間の差異を考慮した活用方法や意匠権と特許権の併用時の意匠権の
取得意義などの重要性が提唱されている一方、意匠権を他の法域と連携して活用する場合の
デメリットや留意点に関して言及する研究は少なかった。日本では、特許権と意匠権が併存し
ている中、主にそれらを重畳的に保護することのメリットを追求してきた結果、両者を併用する
場合のデメリットを考慮する機会が少なかったと考えられる。
本研究では、日本の意匠出願実務では拒絶理由としてほとんど引用されない意匠法 5 条 3
号と同様な規定が、欧米ではどのように解釈されるか、そして機能的形状であることのサポート
として、自らの特許公報が使用される場合があることを留意すべき点として言及する。その上で、
機能的形状と判断されることによる悪影響を回避するための施策を、意匠出願並びに特許出
願の側面から提言する。尚、日米欧における意匠法(米国は特許審査便覧中の意匠関連規
定)において、機能的形状の関連条文が存在するが、その用語や定義は若干異なる。本論文
中の「機能的形状」とは日米欧の各国法制度下で、それに相当する概念を総括的に呼称する
用語として使用している。
2 日本の現状
2-1 意匠法 5 条 3 号成立までの歴史的経緯
日本意匠法の機能性に関する条文である意匠法 5 条 3 号は、意匠登録を受けることができ
ない対象を規定している。意匠法 5 条では、3 つの不登録事由を規定し、その中で 3 号は平成
2
10 年改正で追加された。3 号は、物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意
匠を保護対象から除くことを規定している。この条文に対応する意匠審査基準 41.1.4.1 におい
ては、物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠と認められるものの類型
の1つとして、物品の技術的機能を確保するために必然的に定まる形状(必然的形状)からな
る意匠とされ、①その機能を確保できる代替的な形状が他に存在するか否か、②必然的形状
以外の意匠評価上考慮すべき形状を含むか否かなどを考慮すると規定されている。
平成 9 年工業所有権審議会における特許法などの改正に関する答申で本条文が検討され
た。この審議会では、機能にのみ基づく意匠の保護除外が検討され、(1)機能にのみ基づく
意匠を保護対象外とし、新たに拒絶・無効とする根拠条文の明文化、(2)機能にのみ基づく意
匠は、意匠権の効力が及ばない旨の明文化に関する見直しが行われた。つまり、(1)では機能
にのみ基づく意匠を拒絶するための根拠条文を作成することを目的としており、(2)では機能に
のみ基づく意匠の意匠権の効力を限定することを目的としている。これら見直し理由を検討す
る背景には、技術的・機能的形状は特許、実用新案法下で保護されるべきであること、そして、
平成 10 年の改正により、部分意匠制度が導入されると、機能的形状の部分意匠的保護による
独占の弊害の恐れがあることが懸念されたことが挙げられている。各見直しテーマの内容とそ
の結果を詳述する。
(1) 機能にのみ基づく意匠を拒絶するための根拠条文
当時の意匠審査基準では、「美感」の基準の一つとして、「機能、作用効果を主目的としたも
ので、美感をほとんど起こさせないもの」は意匠法 3 条柱書で拒絶されていた。この基準では、
機能にのみ基づく意匠であっても「美感」を有していれば登録せざるを得ず、「美感」の有無を
判断基準としていた。その美感を判断基準とすることには限界があるため、別の判断基準を設
定する必要があり、具体的判断基準として、(a)形態必然性、(b)相互連結性の観点から、代替
形状の適用可能性、すなわち、その機能を異なる意匠によって達成できるか否かによることが
適当であると判断された。その結果、機能にのみ基づく意匠を保護対象外とし、新たに拒絶・
無効とするための意匠法 5 条 3 号が明文化された。
(2)意匠権の効力限定解釈の明文化
(1)と同様の理由をベースとして、技術的機能に由来する形状について、意匠権の効力を限
定解釈することが検討された。詳細には、たとえ機能的形状の意匠が登録されても、意匠権の
効力は機能にのみ基づく意匠には及ばない旨の規定を明文化することの是非がスプレーガン
事件*5 を考慮に入れて検討された。その結果、「機能にのみ基づく意匠は意匠権が及ばない
範囲とされていないが、侵害訴訟では意匠権が及ばない範囲であると解釈する余地がある。さ
らに、明文化することに対する、出願人、企業などの要望が小さく、諸外国の制度においても、
この点を明文化した例を見ないことを勘案し、機能にのみ基づく意匠は、意匠権の効力が及
ばない旨の明文の規定を設けることは見送る」こととなった。
3
以上のように、意匠法 5 条 3 号の成立背景には「機能、作用効果を主目的としたもので、
美感をほとんど起こさせないもの」を保護範囲から除くことが検討され、その判断基準も明確に
規定された。その一方、機能的形状には意匠権の効力が及ばないと明文化するには至らなか
った。この審議会で引用されたスプレーガン事件では、「スプレーガンの構成として、ピストル
状の形態を採ることは、その機能から考えて極めて常識的な構想であり、その機能を全うする
ためには、本件登録意匠及び本件意匠のようにピストル状の基本的形態を採るものである」と
述べられていた。つまり、機能的形状の多くは公知形状であり、意匠の類否判断においては
需要者が注視しない部分、つまり意匠の要部としては当然に考慮されないとの考えがあったと
推測される。
図1
意匠登録第 245763 号 正面図と右側面図
2-2 日本における意匠登録例の考察
日本での電子機器関連意匠の登録状況を分析する。まず、国際意匠ロカルノ分類 13-03
類「Equipment for distribution or control of electric power」(日本意匠分類では H グループ(電
気電子機械器具及び通信機械器具)が相当)には、電子部品などの意匠登録が分類されてい
る。多くの電子部品は他の電子機器に電気的接続して使用することが多いため、当該分類に
属する意匠は技術的機能の影響を受けた形状が多いと推測される。下記表1は、2010 年 1 月
1 日から 2013 年 12 月 31 日の間に出願され、現時点で日本、米国、欧州でロカルノ分類 13-03
類に意匠登録されている件数を表したものである。日本は全体の出願件数に占める 13-03 分
類の登録件数の割合(3.4%)が欧米と比較して高い。ちなみに、米国も 3.2%と日本とほぼ同
じ割合であるが、登録件数のうち約 22%が日本意匠出願を優先権主張していた。一方、欧州
では全体的な登録件数が日本の約 3 倍であるにも関わらず、13-03 に属する分類の意匠登録
件数は 1.4%と非常に少ない。以上から、日本では、13-03 に属する意匠が欧米に比べ、積極
的に出願されていることが分かる。
4
表1 ロカルノ意匠分類 13-03 分類に属する意匠登録比較
登録件数(全分類)
登録件数(13-03)
13-03 の占有率
日本
134,299
4,647
3.4%
米国
111,255
3,597
3.2%
欧州共同体
395,513
5,695
1.4%
データソース: 日本:J-Plat Pat、欧米:Design View
実際の日本意匠登録例を検証する。日本意匠登録第 1356306 号「鍵材」は部分意匠であり、
鍵先の一部形状を実線で表記している。
図2
日本意匠登録第 1356306 号の斜視図
実線部分が意匠登録を受けようとして表現された部分であり、破線部分が意匠登録を受け
ようとする部分以外の部分である。実線部分は鍵先の構造、形状を指向しており、当該部分は
鍵の機能を発揮するためには、対応する鍵穴の形状との関係が重要である。つまり、鍵先の
形状は鍵穴の形状に依存すると考えられるが、本件では実線部分全てがそのような依存関係
にはない。これは、鍵先形状の一部を任意に変更できる余地を残しており、その部分には創
作の自由度をもたらすこともできると考えられる。日本特許庁は拒絶理由を通知することなく、
登録査定とした。
日本意匠登録第 1375779 号は「誤嵌合防止キー」に関する意匠登録である。
5
図 3 日本意匠登録第 1375779 号 斜視図と参考図
本物品は産業用ロボットや工作機械等の産業機器に使用される電気コネクタ用誤嵌合防
止キーである。二つの電気コネクタの中心に、凹又は凸が設けられた誤嵌合防止キーを装着
し、凹凸の組み合わせによって二つの電気コネクタ誤嵌合を防止するものである。斜視図をみ
ると本物品と相手キーとの関係性が分かるが、本物品の前方に延伸した先端部の略五角形柱
の形状は相手キーの凹部形状と嵌合するとも考えられる。ただし、当該先端部の上面や先端
部の根本部分の形状は創作の自由度があるとも考えられる。日本特許庁は、拒絶理由を通知
することなく、無事に登録査定とした。
上記登録例において、製品の用途や使用状態図面から、他の製品との嵌合状態を想定で
きるが、機能性がこれらの 2 件の意匠登録の有効性に影響を与えるとは考えにくい。日本特許
庁は、意匠法 5 条 3 号で規定されている、機能を確保するための不可欠な形状について、非
常に厳格にかつ限定的に捉えている、または意匠審査基準 41.1.4.1 のその機能を確保できる
代替的な形状の適用範囲を広くみていると考えられる。
2-3 無効審判事件の考察
この意匠法 5 条 3 号の規定が実際の無効審判請求事件において、どのように解釈されてい
るのか、無効審判事件「無効 2004-35078」をベースに検証する。この事例は日本意匠登録第
1154092 号に対する無効審判請求事件である。本意匠に係る物品は「マンホール蓋」である。
一般的なマンホール蓋は重厚な構造であるため、通常手鉤を使って開蓋する。本意匠登録で
は当該手鉤を差し込む部分の開口形状を権利化したと推測される。
6
図 4 日本意匠登録第 1154092 号 平面図、正面図、A-A 断面図
この無効審判では、無効請求人は日本意匠登録第 1154092 号に対応する特許公開公報第
2003-55996 号明細書中の【0008】並びに【0010】段落の記載を理由に、本件登録意匠の構成
態様の1つである、マンホール蓋表側に向かって突出させた略四角柱状の凸状部(18)を開口
部の外縁端に設け、該凸状部は上記開口部よりも幅が小さく、開口部との間に隙間が形成さ
れるようになっている点は、発明の効果を発揮させるための必要不可欠な要素であると主張し
た。
図 5 特許公開公報第 2003-55996 号の図1(a)、図4(b)
「【0008】 蓋本体は、その縁部上面に、手鉤に設けられている係止部を差し込むための開口
を有している。開口は係止部を差し込むための口であり、それ以上のものでもそれ以下のもの
でもない。そして、開口が手鉤の係止部を受け入れる大きさと形態を有し、かつまた開口内は
袋状の穴であることによって、係止部は開口の下側において蓋本体に係止可能となる。
7
【0010】
このような構成において・・・。前記の支持部は、開口及び切欠口のどちらをも塞ぐことがなく、
かつそれらの間に隙間を保つように設けられることが望ましい。この隙間により、袋穴に溜まっ
ている土砂やごみなどを掻き出すことが容易になる。」
日本特許庁は「その機能を確保できる代替的な形状が他に存するかという基準から厳格に
適用するのが相当である」という判断のもと、無効請求人が主張する、凸状部の形態は必ずし
も略四角柱状である必然性を見出すことはできないものであり、その大きさ、構成比も限定さ
れるものではないから、当該凸状部の態様も物品の技術的機能を確保するに必然的に定まる
形状とは言えないと判断した。
本事件から、特許庁は 5 条 3 号の要件を厳格に捉えていることが分かる。まず、特許庁は、
物品の形態として、機能的な要請に基づくものであっても、同時に、その意匠的効果をもたら
すことは当然であると述べている。そして、審査基準どおり、機能を確保できる代替的な形状
が他に存在すればよいと述べているが、特許庁はこの代替的な形状の提示を意匠権者に求
めておらず、尚且つ特許庁自ら代替的形状の存在を認定している。後述の米国では、意匠権
者が自ら代替的形状を提示し、非機能性を主張していることと比較すると大きな違いがある。
2-4
小括
日本では意匠法 5 条 3 号の適用に対して、非常に厳格な基準をもっていることが分か
る。そのため、特許庁が意匠法 5 条 3 号を理由とした拒絶理由通知する可能性はかなり
低いと考えられる。最近では、機能性に関連する形状等も美感を判断する要素と解され
るという知的財産高等裁判所の意匠権侵害事件(目違い修正用治具事件)*6 もあり、今後
機能を確保するための必要な形状が、意匠の類否判断に多少なり影響する可能性がある
が、意匠の有効性という観点では日本では大きな影響は及ぼさないと考えられる。
3 海外の現状
3-1 米国の現状
3-1-1 類否判断の現状
米国では、特許法中に意匠関連規定(171 条から 173 条)が含まれている。その中で、米国
特許法 171 条は意匠の定義として「製造物品に関する新規で独創的かつ装飾的な意匠を創
作した者は、特許を受けることができる」と規定されている。この規定では、意匠登録の要件と
して、新規性、独創性、装飾性のほか、保護対象が製造物品であることが挙げられている。特
許出願と同様なルール、例えば情報開示義務の規定(37 CFR 1.56)などは意匠出願にも適用
されており、米国では意匠登録を Design patent と呼ばれている。
8
従来、米国における意匠権侵害の判断手法は 2 つのステップが存在していた。1つ目が
Novelty テストであり、2 つ目が Ordinary observer テストである。Novelty テストは登録意匠が
先行公知意匠に対して新規な特徴を見出すこと、そしてその新規な特徴を、疑義侵害意匠が
同様に有しているかを検証するテストである(Litton Systems, Inc. v. Whirlpool Corp 事件*7)。
このテストに関しては、多種多様な意匠(形状)が氾濫している状況では、このテストの要件通
りに形状比較することは困難だったと考えられる。その上、novelty テストの他に、Ordinary
observer テストが行われ、先行公知意匠を参酌した上で、登録意匠が疑義侵害意匠と実質
的に類似するか否かを検討していた(Gorham Co. v. White 事件*8)。意匠の類否判断ではこ
れら 2 つのステップをクリアする必要があり、権利者にとっては非常に困難な問題だった。その
中で、従来の判断ステップに変革を与えたのが、2008 年の Egyptian Goddess Inc. v. Swisa 事
件*9,10 である。この事件で Novelty テストは意匠の類否判断ステップとして否定され、Ordinary
observer テストのみが唯一の判断ステップとなった。その後、2012 年になると Apple と
Samsung による意匠権侵害事件で、巨額な賠償額が認められ、米国における意匠権活用事
例が日本でも話題になったが、この事件においても、Ordinary observer テスト基準で侵害判
断が行われた。
3-1-2 機能性判断手法
このような判例変遷を歩んできた米国では、日本であまり報告されていないが、意匠の機能
性に関する議論が多い。米国の Banner & Witcoff 事務所の Robert S. Katz 弁理士は、BNA
社出版の「Drafting Patents for Litigation and Licensing」にて、”functional”は米国の意匠特許
業 界 独 特 の 単 語 で あ り、 ”ornamental” と は 逆 の意 味 を 有 す る 、 裁 判 上の 造 語 (judicially
created term)として位置づけている。そして、裁判所は、”functional”とは逆の”ornamental”な
意匠の特徴に限定した保護を試みてきたと語っている*11。この最たる例が、1989 年の Bonito
Boats, Inc v. Thunder Craft Boats, Inc 事件*12 である。この事件では、意匠権が保護されるた
めの要件として、機能的理由で形成されていない審美的(aesthetically pleasing)外観を開示
しなければならないと示された。
実際に、登録意匠が機能的形状であるか否かという議論は、意匠権侵害訴訟中に被告側
からの反論で持ち出されることが多い。例えば、被告側が原告の意匠権の有効性に疑義を唱
える場合の根拠として、このような議論を使用する。(High Point Design LLC v. Buyers Direct,
Inc.事件*13)。または、原告の意匠の構成要素が機能的形状であると主張し、原告の意匠権
の権利範囲から当該形状を除かせ、最終的にその意匠の権利範囲を狭小させるために当該
議論を使用する場合がある(Richardson v. Stanley Works, Inc.事件*14)。
このように、米国では意匠権活用の場面で機能的形状の議論が多く登場するが、その判断
基準の1つとして、米国最高裁判所が 2001 年に下した、トレードドレス侵害事件(Traffix
Devices, Inc v. Marketing Displays, Inc.事件*15)が影響を与えている。この事件では、権利満
了した特許公報に記載されたロードサイン(表示装置)の形状をトレードドレスとして(特許権の
9
権利満了後、継続的に)保護することが可能か審理された。対象米国特許第 3662482 号と第
3646696 号である。
図 6 米国特許公報第 3662482 号の代表図
米国特許第 3662482 号の要約文の一部抜粋したのが以下である。
「ポスタディスプレイ装置はポスタや広告宣伝を受けるポスタフレームを備えるベース部を有
している。ポスタフレームをベース部に備えるために、ポスタフレームを少なくとも 2 つのポイン
トでベース部に相互結合する、スプリング構造を含んでいる。ポスタフレームは通常ベース部
から縦方向に延伸している。フレームの表面は比較的広く、フレームに装着されたスプリング
構造により、フレームを下方に偏向させ、ベース部を折れ曲げることなく、いずれかの方向に
偏向させることが可能となる。その偏向する力が強ければ強いほど、フレームは下方に偏向さ
せ、それによって、ディスプレイデバイスが倒れるのを抑制することができる。」
一般的に、米国では商標およびトレードドレスを規制するランハム法 43 条(a) で、侵害者に
対する権利行使を認めているが、その要件として自己のトレードドレスが非機能的であることが
求められる。そのため、商品の形態が専らその技術的機能に由来するときは保護されないと解
することができる。上記 Traffix 事件で、最高裁は「特許の存在が、機能的であることの有力な
証拠となる」として、トレードドレスでの保護を認めなかった。
このように、米国ではトレードドレスの保護に際して、技術的機能に由来するか否か、そして
その証拠としての特許の有無が重要なポイントになり得る。このトレードドレス視点で意匠権が
機能的形状か否か審理したのが、医療用ラベルシートに関する米国意匠登録第 496405 号と
第 503197 号に関する事件(PHG Tech v. St. John 事件*16)である。被告である、St.John 社は
当該ラベルシートが PHG 社のプログラムソフトをインストールしたプリンタだけでしか印字でき
ないレイアウトであり、他のレイアウトで印字するためにはソフトウェアを変更する必要があった。
この点から、St. John 社はプリンタが印字するようにプログラムされたとおりに、ラベルシートの
配置が決まっているとして、PHG 社の意匠登録が機能的であると主張した。CAFC(連邦巡回
10
控訴裁判所)は、この事件で、機能的形状の判断基準として以下の 5 つの要素を査定した。
1
登録意匠がベストデザインか
2
代替的意匠だと製品の実用性に逆効果がうまれるか
3
対応特許の有無
4
宣伝広告が製品の特定の実用面を示唆しているか
5
機能的理由で形成されていない要素の有無
図 7 米国意匠登録第 496405 号の代表図
この中で、判断要素 2 は日本の意匠審査基準 41.1.4.1 と類似するため、詳細に検証する。
本来、機能的形状であるか否かは、他の代替形状の有無で判断されることが一般的である。こ
れにより複数存在する代替的形状の中から意匠を選択したという主張が成立するからである。
実際に、過去の米国の意匠権侵害事件(Hupp v. Siroflex of Am.事件*17)でも同様の主張によ
って非機能性が認められた。ただ、上記米国の判断要素 2 では、代替的意匠の実用性も問わ
れており、その実用性の程度として、実製品の実用性と完全同一なのか否かが不明だった。こ
の点に関しては、最近の判例(Ethico Endo-Surgery v. Covidien 事件*18)で、「完全同一の機
能を発揮する必要はなく、類似機能を発揮できればよい」と CAFC が判示した。これにより、米
国のトレードドレス視点による意匠の機能性分析に関しては、同一または類似する性能が発揮
できる、代替的形状の存在によって非機能性を主張できる可能性が生まれた。これは、日本
特許庁のプラクティスに近づいた判断基準と言える。
その後、2010 年になると、CAFC はトレードドレス視点での機能性評価とは異なる手法を多
機能ハンマー事件(Fubar 特許)で採用した。これは米国意匠登録第 507167 号に関する意匠
権侵害事件(Richardson v. Stanley Works, Inc.事件*14)である。CAFC はこの事件で、従来の 5
つの判断要素を用いた審査ではなく、意匠登録中の機能的形状を排除する(factor out)手法
を採用した。詳細には、ハンドル、ハンマーヘッド、顎、クローバーは機能的形状であり、それ
らを排除した上で、残った部位だけで類否判断を行った。
11
図 8 米国意匠登録第 507167 号の斜視図(上)と正面図(丸印部分が排除された形状)
この判断手法は誤っているとの論評も多いが、それ以降米国国内の地裁レベルで、この手
法を用いて意匠の類否判断がなされた事例もあった。米国意匠登録第 661801 号、第 661802
号、 第 661804 号の外科手術用器具に関する意匠権侵害事件(Ethico Endo-Surgery v.
Covidien 事件*19)では、オハイオ州地裁は当該意匠のハンドルやダイヤル部などを機能的形
状と判断し、それら形状を排除した結果、判断すべき特徴が消滅して最終的に非類似と判断
した。この事件は、その後 CAFC にアピールされ、オハイオ州地裁の判断の誤りが指摘された
が、今後も地裁レベルではこの判断手法が用いられる可能性は否定できない。
図 9 米国意匠登録第 661804 号の代表図
3-1-3 機能的形状が意匠の有効性に与える影響
米国特許審査便覧 1504.01(C)では、機能的理由で形成された形状(例えば、鍵先など)は
特許を受けることができないが、機能的形状の意匠であっても、その機能を達成する代替手段
が幾つか存在する場合は該当しない、と規定されている。(Best Lock Corp. v. Ilco Unican
Corp.事件*20)。この事件は、鍵の先端形状をクレームした米国意匠登録第 327636 号に関する
12
事件だった。他の鍵の先端形状では、この登録に対応する鍵穴にはフィットしないため、本件
意匠の鍵の先端形状は機能的形状と考えられ、最終的に無効となった。
図 10 米国意匠登録第 327636 号の代表図
本件において、鍵先と鍵穴の形状が相互依存関係にあることから、鍵先の形状は変更
し得ない形状と考えられる。ただ、この考えに関しても、他の鍵先形状でも鍵としての
機能を達成できることができれば、機能的形状の問題を回避できる可能性がある。例え
ば、前述の日本意匠登録第 1356306 号をベースに検証すると、鍵穴の輪郭に合致する部
分以外(鍵先の本体部分など(以下図 11 参照))は他の形状でも対応できる。このよ
うな部分に代替的な意匠を施しても、同程度の実用性は維持できることが予想され、そ
のような主張により意匠の有効性が確保できると考える。
図 11 日本意匠登録第 1356306 号 意匠に係る物品:鍵材
また、意匠権侵害事件において、被告が原告意匠権を機能的形状として無効主張する場
合、その根拠として、同一出願人が有する対応特許公報が使われる場合がある。2007 年にア
イオア州地裁で起きた、Titan Tire Corporation and The Goodyear vs. Case New Holland Inc
and GPX International Tire Corporation 事件を参考にして解説する。
13
図 12 米国意匠登録第 360862 号の代表図
図 13 米国特許公報第 5337814 号の代表図
原告はトラクタ用タイヤに関する米国意匠登録第 360862 号(以後、862 意匠)を保有していた。
原告の意匠権侵害という主張に対して、被告は 862 意匠に対応する米国特許公報第 5337814
号(以後、814 特許)の機能的記述を理由に、原告意匠権の無効性を主張した。814 特許では、
トラクタタイヤのラグは土に堀込んで、トラクタを前進させる牽引力の機能を果たし、さらに、ラ
グの頂点部分(lug head)がラグの端部と向き合う角度によって、更なる効果が生まれるとして、
ラグの頂点部分が拡大された点がクレームされていた。原告はラグとラグの特徴が主に機能的
効果を果たしていることを認めたが、ラグの頂点部分の形状は非機能的であると反論した。つ
まり、862 意匠のラグ頂点部分は六角形であるが、この部分の形状はラウンド、四角、多角形で
も同様な機能を発揮できると主張し、その上で六角形の頂点部が当該製品の識別力も有して
いると補足した。結果的に、裁判所は 862 意匠が機能的理由で無効であることを被告が立証
していないと述べた上、さらに、原告が提示した多種多様なラグ頂点部の形状の資料により、
原告の主張通り、当該ラグの頂点部の形状は主に装飾的な目的を有すると判示した。
14
この事件では、代替的形状の存在によって、タイヤトレッドのラグ頂点部が非機能的形状、
つまり装飾的な特徴として認められた。原告はラグ頂点部分の特徴が識別力を有するという主
張の際に、他社もこの特徴に独自の形状を有していることを主張し、他社の製品カタログを提
出した。このような証拠資料が原告の主張をサポートとしたと考えられる。但し、タイヤのトレッド
パターンの機能面を指向した特許では、トレッドの角度や長さ、深さなどがもたらす機能的効
果をクレームする場合も多いと考えられ、それに対応する意匠出願をする場合には本件と同
様に代替的形状でも同様な実用性があることを特許担当者と意匠担当者とで情報交換してお
くことが有益だと考える。
3-1-4 小括
米国における機能的形状の判断は、主にトレードドレス視点での判断手法と factor out 手法
による機能性排除の判断手法が存在する。裁判所がどちらの手法を採用するのかは予測困
難であるが、意匠担当者が自らの意匠権における機能的形状を事前に理解しておくことが賢
明だと考える。実際に、Apple 社と Samsung 社の携帯情報端末という一般消費者向け商品の
意匠権侵害事件においても、Samsung 社は機能性の議論を採用した。これは、相手の権利範
囲を狭める、または瑕疵を顕在化させることを目的とした行為だと推測されるが、意匠権の対
象製品の用途に限らず、意匠権活用時には、機能的形状に関する議論への準備が必要だと
考える。
今回の研究では、対応特許公報の機能的な記述が意匠の有効性に直接的な影響を与え
た事例は多く索出されなかった。前述の通り、トレードドレス視点での判断手法だと、機能的な
判断要素として対応特許公報の存在が挙げられているが、その事実だけで意匠権の有効性
に影響が出るとは考えにくい。その理由として、MPEP1504.01(c) lack of Ornamentality にお
いても、「製品が主に機能的理由で形成されているという理由だけで、製品デザインが装飾性
を喪失しているとみなすことはできない」と規定されていることが考えられる。そして、前述のトラ
クタタイヤに関する事件でも、対応特許公報の存在よりも、原告の意匠的特徴点に関する明確
な主張とそれをサポートする代替形状を示す資料などが優先して考慮された。このような判断
は日本のプラクティスに近いものと言えるが、米国では意匠権活用時に、機能性に関する議論
が頻発する点並びに原告は非機能性を立証する必要がある点などは、日本と異なるポイント
だと考えられる。そのため、意匠担当者と特許担当者とが、機能的形状とその代替的形状の
有無、その実用性のレベルなどを共有しておくことが重要である。
3-2
欧州共同体の現状
3-2-1 類否判断の現状
2003 年より、欧州共同体意匠出願制度が施行され、出願人は欧 州 連 合 知 的 財 産 庁
( EUIPO: European Union Intellectual Property Office, 旧 称 OHIM) 」 に意匠出
願手続きすることで、EU加盟国に個別に意匠出願するのと同様の効果を享受できるようにな
15
った(EU 規則 39 条)。2008 年にはハーグ協定に基づく国際意匠出願で欧州共同体指定も可
能となり、2014 年度の欧州共同体出願(直接出願)とハーグ協定に基づく国際出願による欧
州共同体指定(間接出願)の合計は 97,756 件と、日本の約 3 倍の出願件数である。
欧州共同体意匠出願制度の特徴としては、早期権利化が挙げられる。通常の無審査国で
も、出願してから登録証が発行されるまでに数か月要するのが一般的であるが、EUIPO では、
数週間または Fast track 出願に指定されると、数日で登録証が発行される。他法域と比較し
た場合の意匠権のメリットの1つである、出願から登録までのスピードを欧州共同体意匠出願
では重視されている。
EUIPO は無審査主義を採用している。下記表 2 のとおり、2014 年に EUIPO が受理した、欧
州共同体意匠権無効審判請求数は 393 件となり、前年よりも増加しているのが分かる。
表 2 欧州共同体 無効審判請求件数 2012-2014 年
年度
2012 年
2013 年
2014 年
請求件数
344 件
340 件
393 件
実際の無効審判事例を見てみると、2011 年に Samsung 社が Apple 社の欧州共同体意匠登
録第 000748694-0003 号(以後 748694 号意匠)に対する事件が興味深い。この意匠登録は米
国意匠出願第 29/281460 号を優先権主張している。つまり、Apple 社が米国で Samsung 社と
侵害訴訟で争った米国意匠登録第 604305 号と同一の意匠である。この 748694 号意匠に対し
て、Samsung 社が無効審判請求した事件である。この事件で、Samsung 社は数多くの先行例を
提示し、748694 号意匠の新規性(5 条)、独自性(6 条)、技術機能(8 条)違反をベースに無効請
求を申し立てた。結果、EUIPO は複数の先行例の中から、先行例 D4 を最も類似する先行例と
定めて、両意匠を比較し、背景の色彩、アイコンの形状とその中身のデザインの相違から、
748694 号意匠を有効と認定した。
図 14 欧州共同体意匠登録第 000748694-0003 号と先行例 D4
16
欧州共同体意匠権に基づいて権利行使する場合は、EU 加盟国の Community Design
Courts に権利侵害を申し立てる必要がある。(EU 規則 81 条)。各国の裁判所が事件の詳細を
英語で公開しているケースは少なく、または、EUIPO が受理・審査する無効審判事件におい
ても、EUIPO は英語以外の言語も公用語としているため、適切な情報をタイムリーに入手する
ことは困難であるが、米国と同様に欧州でも意匠権侵害事件や無効審判事件が発生している
ことを認識しておくべきである。
3-2-2 機能性判断手法
欧州共同体意匠制度の施行後、EU 各国の意匠制度内容は、EU 規則*21 に準拠した。現在
の EU 規則の無効理由として以下項目が含まれている。
1
新規性(5 条)、独自性(6 条)を有さない意匠
2
複合製品に使用されるものであって、通常使用時に、エンドユーザーから見えない意
匠。この通常使用とは、修繕や交換を含まない(4 条(2))
3
機能的必然形状からなる意匠(8 条(1)、(2))
4
公序良俗に反する意匠(9 条)
本研究では以下 8 条の規定中、8 条(1)について考察する。
技術的機能によって支配される意匠及び相互連結の意匠
(1)
専ら技術的機能によってのみ律せられる製品の外観的特徴には、意匠権は存在しな
い。
(2)
何れか一方の製品の機能を発揮させるには、意匠が組み込まれ又は施された製品を
別の製品に機械的に連結し、又は当該別の製品の中かその周囲若しくはこれに接触
させて当該製品を設置する必要がある場合であって、そのような連結又は設置を可能
にするためには、当該製品の外観的特徴の形状と寸法を正確に再現しなければなら
ないときは、当該製品の外観的特徴に意匠権は存在しない。
この条文に関連して、意匠権の有効性が議論された事件として以下のものがある
(1) No R211/2008-3(2010/04/29) 液体分配装置事件
製品の外観形状における全ての主要な特徴が機能的理由によってのみ形成された場合に
その意匠全体を無効とする。
(2) No R690/2007-3(2009/10/20) シュレッダ事件
17
機能を達成することだけを目的とした製品の外観形状は欧州共同体意匠権として保護され
ない。保護対象はある程度製品の外観の魅力を高めることを目的として選ばれた特徴である。
前述の通り、EUIPO は無審査主義であるため、EUIPO 無効部に無効審判請求を申し立て
ることで、EUIPO 無効部は対象意匠権の有効性を審査する。HIMは無効審判ガイドライン
(RCD Invalidation Guideline)を公開しており、その中で上記 2 つの事件を、EU 規則の 8 条の
無効理由を判断する場合の事例として挙げている。この 2 つの事例からは、製品の主要な特
徴が機能的理由で形成され、外観の魅力を高めることを目的として選択されていない形状は、
保護されないと解される。ここでは、外観の魅力を高めるという文言が重要であり、この点を証
明することができるか否かが、機能性の判断に影響すると考えられる。
3-2-3 機能的形状が意匠の有効性に与える影響
2013 年、Package container 事件*22 で、欧州共同体意匠権が 8 条(1)を理由に無効となる基
準として、General Court の判決 T/9/07(Grupo Promer Mon Graphic SA v OHIM – Pepsico
Inc)を類推しながら、例示された。
図 15 欧州共同体意匠登録第 000639349 – 00001 号
本件意匠は液体供給装置に接続する容器である。当該意匠の権利者は上記意匠権の他
に、デンマーク実用新案 DK200900197U3 を所有していた。無効請求人は、本願意匠の特徴
として、ひだ状の側部、フラットな底部、円錐状のネック部などを挙げ、それぞれの特徴が対応
するデンマーク実用新案で開示されていることを主張した。つまり、ひだ状の側部に関しては、
容器のボリュームを減らすことを目的としており、フラットな底部は容器から液体を効率的に絞
り出すための形状であり、円錐状のネック部は容器から液体供給装置に液体を排出するため
のじょうごの役目を果たすとして、これらは、ユーザーに外観の魅力を惹きつけるものではなく、
機能的理由で形成されたものとする見解を示した。
18
図 16 デンマーク実用新案 DK200900197U3 代表図
さらに、EUIPO はこの事件で製品の重要な特徴点(essential features)が機能的理由によっ
てのみ形成されたかどうかを判断するための要素として以下の点を考慮すると述べた。
1
製品の技術的機能は何か?
2
機能的か否かの判断は客観的に(objectively)査定しなければならない。これは限られた
技術的な知識を有するような informed user の認識で判断すべきではない。
3
製品の技術的機能性は、特に形状の機能的な要素を説明する特許に関する書類を考
慮することによって、査定することができる。
上記規定から、この条文をベースとした無効審判請求では「特許公報」によるサポートが可
能であることが読み取れる。さらに、機能的か否かの判断が、判断主体をその分野に精通した
使用者(informed user)ではなく、あくまでも客観的な視点で行われることが分かる。実際に、
本件では、デンマーク実用新案の技術内容が参酌され、対応する 000639349 意匠が機能的
理由で形成されたことをサポートした。その他に、特許公報の記載内容によって対応する意匠
権が 8 条(1)を理由に無効となった事例を調査したところ、以下案件が索出された。
事例(1) FILE NUMBER ICD 000002970 ゲームカートリッジ事件
意匠に係る物品: Game cartridges for electronic games or electronic games stations
19
図 17 欧州共同体意匠登録第 000235247 – 0002 号
無効請求人は、対応する米国公開特許公報 2005/0245313 A1中の「0008」、「0009」の記
載を引用した上で、当該欧州共同体意匠が機能的理由によって形成されていると主張した。
「「0008」 実質的に四角形状のゲームやメモリーカードはゲーム機の使用に特化したデザイン
であり、平らな上下表面、前方端部、後方端部、そして一対の側端部を有している。上面の前
方端は凹部を有して形成されており、複数の端子やコネクターストリップが配置されており、そ
の凹部内にある後方壁部からカードの前方端に向かって延伸している。端子ストリップは互い
に平行に並んでおり、隆起したリブによってセパレイトされている。それらのリブは端子ストリッ
プがユーザーの手や他の物品に接触することから守る機能を有している。
「0009」 大きな面積を有する半径部材(radius)が、前方端の一方の角に備わっており、カード
の前方端はカードの一方の側端と向かい合いっている。第一ノッチは同じ側端に形成されて
おり、第 2 ノッチは同じ側端沿いで、カードの前方と後方端の中間に形成されていている。二
つのノッチはゲーム機からカードを出し入れするための、ゲームスロット内にある、バネが内蔵
した push-push 機構と連結する。」
図 18 米国公開特許公報 2005/0245313 A1号の図面
20
EUIPO 無効部は、本件登録意匠から、カートリッジの外観の魅力を高めることを目的とした
特徴を認識できなかったとして無効決定を通知した。無効請求人が提出した米国公開特許公
報の対象箇所は、もっぱら機能的形状であることを記載しているわけではない。むしろ、カート
リッジの外観形状を図面表現されたとおりに説明するに留まっている。しかしながら、EUIPO 無
効部は当該特許公報の上記記述に注視し、そのような構成上の特徴はカートリッジの視覚的
特徴を向上させることを目的として選択されたものではない、そして、カートリッジの外観の魅
力を高めるために必要な特徴ではないと判断し、本件意匠を無効とする決定をした。当該意
匠は日本で意匠登録されており、その審査過程で意匠法 5 条 3 号の拒絶理由は通知されな
かった。この点で日本では当該意匠の外観が機能的に不可欠な形状とは判断されなかった
一方、欧州では対応特許公報の記載が当該意匠の有効性に与える影響を与えた事例と考え
られる。
事例(2) FILE NUMBER ICD 9682 LED 事件
意匠に係る物品: Light emitting diodes
図 19 欧州共同体意匠登録第 001000087-0001 号 代表図
無効請求人は、米国公開特許公報 2011/0188237 A1を提出し、欧州共同体意匠登録第
001000087-0001 号(以後、1000087 意匠)が機能的理由によって形成されているとして、8 条
(1)の要件を満たさないと主張した。本件特許は飲料ボトルの中身を照射する装置に関してお
り、要約部分の記載は以下の通りである。
「ボトルの底などにアタッチするための照明内臓装置(10)は、不透水性のフレキシブルパッド
(11)の中央に接する、LED(14)付プリント基板(12)を備えている。中央部は環状の粘着エリアで
囲われており、その粘着エリアは、密封方式で前記パッドを容器にアタッチするように配置され
ている。パッドはプラスチックのベース層(32)を含んでおり、そのベース層は粘着層(34)並び
に剥離紙の周辺層(36)でカバーされている。」
21
図 20 米国公開特許公報 2011/0188237 A1 代表図
意匠権者は米国公開特許公報[0107]の「プリント基板の基本的な形状は円形であるが、必
ずしもその形状には限定しない」という記載などを引用し、本発明の図面はあらゆる可能性の
中から選択したものであることを主張した。無効請求人は、意匠権者の multiplicity-of-forms
セオリー(2 つ以上存在する外観形状の中から選択する権利をデザイナーが有する場合、そ
の製品の外観は技術的機能に依存して形成されたものではないという主張)に対して、更に
PCT/GB2009/00297 公報を提出し、本件製品の外観形状は確実に機能することが重視され
ており、美的な要素を考慮していなかったと反論した。
EUIPO 無効部は主に以下理由により、1000087 意匠を無効決定とした。
(1)Game cartridge 事件「R1772/2012-3 (Paragraph 19 Page29)」のアピールボード(上訴委
員会)の見解に言及して判断。つまり、代替的な製品構造によって同一機能を達成できるとい
う理由だけで、製品の外観特徴が非機能的であると認めると、EU 規則 8 条(1)の規定は非常に
例外的な場合にのみ適用されることになる。EU規則 8 条(1)は、製品の機能を達成する必要
性が、その特徴を選択するための唯一の重要な要因であることを意味している。従って、機能
的形状として疑義のある特徴が機能的理由で形成された場合、つまり、機能するだけではなく、
見た目も良くするように製品をデザインする必要性を考慮しない場合に、この条文が適用され
る。代替的な形状が存在するだけでは、製品の外観が機能的理由以外で形成されたことを意
味しない。
(2)対応の米国公開特許公報中の[0031]~[0048]で、1000087 意匠の視覚的外観要素
(a)-(f)が技術的機能の役割を果たしていることが記載されている。
(a)
構成要素
機能的説明
円形パッドまたはラベル(11)
ボトルやグラスの底に貼りつく機能。
22
(b)
円形のプリント基板(12)
プリント基板としての機能。
(c)
4 つのLED(14)
照射の機能。
(d)
クリップ付の 2 つのバッテリ(16)
バッテリを収納する機能。
(e)
回路パッケージ(18)
電気接触をサポート。
(f)
突出したプルタブ(22)
タブがはずれる前に電流が流れるのを防ぐ。
(3)権利者は米国公開特許公報[0107]中の「図面に表れた形状に限定していない」という
記載に依拠して反論しているが、当該[0107]の後段で「実際に、円形のプリント基板を使う方
がシンプルであり、それにより、小さな楕円形状よりも、トラッキングするためのプリント基板のエ
リアやLEDの配置が大きくさせることができる」と述べている。この点は円形の形状が製造を容
易とし、かつ機能的な目的を達成することを目指していることが分かる。よって、様々な解決策
や代替的な構造を有する目的は、潜在する機能的解決策を提供することである。
3-2-4 小括
EUIPO 無効部は、前述のカートリッジ事件(ICD 000002970)において、日本や米国のよ
うな代替的形状の存在を重要視しなかった。むしろ、EUIPO 無効部は、外観形状の魅
力を高める要素の欠如を理由に無効決定を下した。この点から、欧州においては機能的
形状の判断基準が、日本や米国と異なることが分かる。
EUIPO 無効部が EU 規則 8 条(1)に基づいた無効請求に対して、有効と判断した事例*
23
では、「デザイナーが、ある製品を創作するときに、その創作に関して、ある程度の自由度を
まだ(still)有している場合は、その特徴は技術的機能によってのみ形成されたとは考えられな
い」と述べている。つまり、デザイナーが当該製品の技術的機能に影響を与えることなく、自由
に異なる他の形状を適用することができる場合は、その特徴は技術的機能に依存した形状で
はないことを示唆している。上記無効判断された事例と比較すると、意匠製品単体で形状を変
えても同様な機能が発揮できるような場合は、EU 規則 8 条(1)に該当する可能性は低いと考え
られる。一方、意匠製品が他の製品と係合または完成品の内部に挿入して装着される場合な
どは、当該意匠製品自体が、主体的となって形状を変更することができず、相手の製品の構
造に依存する性質を持つこととなる。言い換えると、意匠製品単体で外観形状の魅力を高める
ことができないと言える。このような条件が、EU 規則 8 条(1)の適用基準として想定される。
併せて、EU 規則 4 条(保護要件)も、8 条(1)と同様に留意すべきである。EU 規則 4 条(2)で
は、通常使用時にエンドユーザーから見えない意匠を無効とする規定であるが、技術的機能
に依存する形状を有する製品は当該 EU 規則 4 条(2)にも該当する可能性がある。例えば、自
動車のエンジン部品や電気製品に内蔵された電子部品などである。このような製品に関する
意匠は、欧州では、有効な意匠権として活用できない可能性があることに、留意すべきであ
る。
23
4 機能的形状に関する悪影響を回避するための提言
4-1 意匠出願に関する提言
4-1-1 機能的形状の破線表現
機能的形状を検討し、当該形状を破線表記とした(ディスクレームする)図面で出願すること
を提言する。破線で示した部分は意匠登録を受けようとする部分以外の部分である。この破線
の意味は各国で共通理解されているため、機能的形状が意匠の有効性に影響を及ぼす可能
性がある国では、出願図面において、当該機能的形状を破線表現にして意匠登録を受けよう
とする部分から除くことが効果的だと考える。前述のとおり、日本、米国、欧州で、機能的形状
の解釈とその判断基準が異なっている。日本では機能的形状が意匠権の有効性に致命的な
悪影響を及ぼす可能性は低いと考えられる。一方で、米国では機能的形状が権利範囲に影
響する可能性があり、欧州では有効性判断に悪影響を及ぼす可能性がある。そのため、米国
意匠出願時には、代替形状の有無並びにその代替形状による実用性の影響を特許担当者と
意見交換した上で、そのような形状を予め破線表現にして意匠登録を受けようとする部分から
除くことが望ましい。そして、欧州では、外観形状の魅力を高めるために注力した形状を分析
し、その部分を意匠登録を受けようとする部分として定める。その上で、出願意匠製品の使用
において、他物品との係合や装着といった関係性が必要な部分を特許担当者などと意見交
換した上で破線表現にした図面を検討することを提言する。
米国における Group-A Autosports, Inc. v. DNA Motor Inc.,事件*24 を検証する。本件は、
Exhaust manifold に関する米国意匠登録第 636316 号が対象意匠である。
図 21 米国意匠登録第 636316 号 代表図
上記意匠登録において、権利者は予め機能的形状と考えられる部分(丸印部分)を破線表
記にしていた。これら破線部分は本物品が別エンジン部材と結合する部分と言える。つまり、こ
の破線部分は本物品が機能する上で必要な部分であり、当該部分は機能的形状と考えられ
る。このような形状を破線とし、予め意匠登録を受けようとする部分から除外していた。これによ
り、本件審理中に意匠登録中の機能的必要部分が機能的形状であるという被告側からの主
24
張を回避できたと推測される。併せて、機能的形状に関する審理を回避できたことで、訴訟の
長期化、訴訟費用の増大という問題も排除できた。それらの点から、本件意匠登録で機能的
形状を破線表現にしたことは効果的だったと言える。
4-1-2 外国意匠出願時における優先権主張の要否検討
日本企業の多くが、外国意匠出願の際に優先権を主張する。当然、外国意匠出願を検討
する上で、優先権期間内に出願国を検討する必要がある場合には優先権主張が必要である。
但し、優先権主張のメリットを追求することで、知らずに他の面でデメリットが発生するため、優
先権主張の要否を比較考慮したほうがよい。外国意匠実務では、優先権主張する場合、基礎
出願図面と同一図面で外国出願することが必要である。前述のように、機能的形状の判断基
準が各国で異なる点に鑑みると、本来、各国で最適な出願図面を作成することが好ましいが、
優先権主張することで、基礎出願と同一図面を提出せざるを得ず、それにより不適切な図面
で外国意匠出願せざるを得ない状況となる。例えば、機能的形状と判断されることが稀な日本
では、全体意匠出願用図面(出願意匠の全ての形状を実線で表現した意匠図面)を作成す
ればよいが、優先権主張することで、当該判断基準が厳しいと言える欧州でも、機能的形状を
実線とした全体意匠出願図面で出願することが必要になる。この点を比較考慮すると、機能的
形状を含む意匠を外国出願する際には、優先権主張の必要性を検討すべきである。さらに、
費用面においても、優先権主張を伴わない外国意匠出願はメリットがある。優先権主張に関
する諸費用は、米国で約 3-6 万円、欧州共同体で約 1-3 万円が追加で発生している。さらに、
優先権主張する際に必要な優先権証明書は、特許庁に申請してから発行されるまでに数週
間掛かる場合があり、優先権期限間近で外国意匠出願する場合には、優先権証明書の提出
が出願時に間に合わない場合がある。その場合、出願後に優先権証明書を補充提出すること
になるが、その補充提出により意匠出願の審査が遅延され、登録が遅れるという問題が発生
する。優先権主張をせずに外国意匠出願することで、上記のような出願から登録までの期間を
早めることも可能となる。
4-2 特許出願に関する提言
4-2-1 実施形態の追加検討
一般的に特許明細書中に、「本発明は、以上述べた実施例に限定されるものではない」と
記載することが多い。この文言を追加する際に、可能であれば潜在的な代替形状を実際に検
討し、図面または明細書に含めることを検討して頂きたい。図 22 に、折り畳み椅子のヒンジ部
分に関する実施例を複数開示した想定意匠を示す。ヒンジ構造を発明ポイントして考えた場
合、特許明細書に図 22 の右図のようなヒンジ構造の代替実施例を複数開示することで、当該
折りたたみ椅子のヒンジ部分の特定の具体的形状が機能的形状であるという主張を回避でき
る可能性が生まれる。これにより、幾つかの代替可能な形状の中から、創作者は出願意匠を
選択したという権利者の主張をサポートすることになる。
25
図 22 折り畳み椅子の参考事例と想定実施例
4-2-2 特許出願に関する提言による副次的効果
前述の特許出願時に想定する別の実施形態は、同一・類似機能を果たすことを前提に考
えられている。この別実施形態は外観形状に相違点があるが、その形状が新規なデザインで
あるならば、日本ではそれぞれの意匠を意匠出願することも可能である。意匠のバリエーショ
ンを創作するときに、デザイナーまたは意匠担当者の視点を考慮するのが一般的であるが、
実際の模倣品業者は、デザイナーではなく、技術者である場合が多く、他国での登録意匠を
参考にして、技術者として製品の外観形状を改良する傾向が強いと考える。そのため、上記折
り畳み椅子という製品に関しても、開発者視点で創作された意匠のバリエーションは、潜在的
に模倣品を抑止する効果が生まれる可能性がある。特に、複数意匠を1出願でまとめ提出で
きる制度を有する国に意匠出願する場合、このような技術者視点で創作されたバリエーション
意匠を、模倣品対応のために出願する価値を検討すべきである。
5 まとめ
本研究では、高度な技術的思想を保護する特許権と、その技術的機能が時に悪影響を与
える意匠権との関係性を、欧米の事例を通して検証した。各国事情を総括すると、日本は機
能的形状が意匠権の有効性に影響を及ぼす可能性が低く、欧州は逆にその可能性が高いと
考えられる。米国はその可能性は低いと考えられるが、機能的形状に関する議論が係争時に
発生する可能性が高いと言える。特に、欧州共同体では EUIPO 無効部が 8 条(1)の適用基準
として、機能するだけではなく、見た目も良くするように製品をデザインする必要性を考慮しな
い場合にこの条文が適用されると述べており、日本とは異なる基準を提示している点で留意が
必要である。また、機能的形状が意匠の有効性に影響を及ぼす恐れのある国において、その
影響を回避するための施策を意匠出願、特許出願の実務面から提言した。各国で機能的形
26
状の解釈や影響の程度に相違があるため、上記提言が全ての想定しうる問題を解決できると
は考えにくいが、機能的形状が意匠の有効性に影響を与えそうな場面では、当該提言を参酌
した施策によって、権利者は多少なり有利な立場になると考える。
今後、日本企業が知的財産権を活用するステージは一層海外にシフトし、意匠権も海外で
活用する機会が増えると予想される。その際に、特許権と意匠権の併用のメリットだけでなく、
併用の留意点も考慮に入れて、活用することが重要である。その際に、本研究が有益な情報
として活用されることを望む。
以上
27
脚注
1 妹尾堅一郎 [2009] 『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのかー画期的な新製品が
惨敗する理由』 「ダイヤモンド社」
2 鈴木公明 [2015] 『非技術的知財のマネジメント』 「知財管理 65 巻(2015 年) /4 号」 一般
社団法人 日本知的財産協会
3 平成 24 年度意匠委員会第 2 委員会活性化第 1 部会 『事例から考察する意匠制度活用
について 特許と意匠の併用の観点から』 「パテント 2013 Vol. 66 No. 11」 日本弁理士会
4 平成 25 年度意匠委員会第 2 委員会活性化部会 『意匠権活用事例の検討-特許権・実用
新案権との併用-』 「パテント 2014 Vol. 67 No. 10」 日本弁理士会
5 東京高裁昭和 48(ネ)第 2082 号 意匠権侵害訴訟事件(判決日 昭和 50 年 4 月 2 日)
「対象物品の用途、機能に伴う必然的形状を要部として意匠の類否判断を行うべきではない」
と判示された。
6 知財高裁平成 23(ネ)10085 意匠権侵害差止等請求控訴事件 (判決日 平成 24 年 6 月
28 日)
7 Litton Systems, Inc. v. Whirlpool Corp., 728 F.2d 1423 (Fed. Cir. 1984)
8 Gorham Co. v. White, 81 U.S. 511, 20 L. Ed. 731 (1871)
9 Egyptian Goddess Inc. v. Swisa Inc., 543 F.3d 665 (Fed. Cir. 2008)
10 西村 雅子 [2011] 『Egyptian Goddess 事件判決に見る侵害判断基準』 「パテント Vol.
64 No. 2」
11 Robert S. Katz(2010)” Design Patents”, Bradley C. Wright ed, Drafting Patents for
Litigation and Licensing Chapter 10 , BNA Books
12 Bonito Boats, Inc. v. Thunder Craft Boats, Inc., 489, U.S. 141, 148(1989)
13 High Point Design LLC v. Buyers Direct, Inc., No.11-CV-4530, 2012 WL1820565
(S.D.N.Y. May 15, 2012
14 Richardson v. Stanley Works, Inc. 597 F.3d 1288 (Fed. Cir. 2010)
15 Traffix Devices, Inc v. Marketing Displays, Inc. 532 U.S. 23 (2001)
16 PHG Tech v. St. John 469 F.3d 1361,. 1366 (Fed. Cir. 2006)
17 Hupp v. Siroflex of Am., Inc., 122 F.3d 1456, 1460 (Fed. Cir. 1997)
18 Ethico Endo-Surgery v. Covidien 796 F.3d 1312 (Fed.Cir.2015)
19 Ethicon Endo-Surgery, Inc. v. Covidien, Inc. Case Number 1:2011cv00871 (Ohio
Southern District Court 2011)
20 Best Lock Corp. v. Ilco Unican Corp., 40 USPQ2d 1048 (Fed. Cir. 1996)
21 Council Regulation (EC) No. 6/2002 of 12 December 2001
22 ICD8891 2013/01/21 Strawman Limited vs Hove ApS
23 FILE NUMBER ICD9231 Expendable hose 事件、ICD 9185 Horseshoes 事件
24 Group-A Autosports, Inc. v. DNA Motor Inc., EDCV 14-01834-JGB (C.D. Cal. 2015)
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