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仮名導入時の連想法が及ぼす学習効果と独自の学習ストラテジーの発達

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仮名導入時の連想法が及ぼす学習効果と独自の学習ストラテジーの発達
仮名導入時の連想法が及ぼす学習効果と独自の学習ストラテジーの発達:
ローマ字圏 vs. 非ローマ字圏
カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校
松永幸子
1.
はじめに
仮名(平仮名、片仮名)を第二言語、又は外国語の文字として導入する際、よく使用される導入法の一つ
に連想法(e.g.,「き」と「キ」を「鍵」の絵と英語のキーワード‘key’に連想させて覚える方法)がある。しか
しながら、その連想法が及ぼす学習効果の研究はまだ乏しく、大学レベルでは、現在カッケンブッシュ、中
条、長友、多和田(1989)、Matsunaga(2003)の平仮名習得の研究に限られている。カッケンブッシュ等の
研究は、日本で日本語を学ぶ非漢字圏、非英語圏からの留学生を対象に、連想法の長期的効果のみが認めら
れたと報告している。一方、カッケンブッシュ等の研究方法を改善したMatsunagaの研究では、短期的効果の
みが米国のローマ字圏(英語圏を含む)の日本語学習者に対し認められたとし、カッケンブッシュ等の研究
結果が連想法以外の要因(e.g., 被験者の背景、特に平仮名の既存知識、テスト法、コントロールされていな
い個人練習)に影響を受けている可能性を指摘した。又、非ローマ字圏(e.g., 漢字圏)の学習者には連想法
の効果が短期的にも長期的にも見られなかったことから、母語からの文字認知ストラテジーの転移(e.g.,
Chikamatsu, 1996)の可能性も示唆した。
では平仮名の後に学ぶ片仮名の場合はどうなのだろうか。本発表では、米国の日本語初級学習者を対象に、
片仮名連想法の短期的、長期的学習効果と他の学習ストラテジーを、ローマ字圏の学習者と非ローマ字圏の
学習者に分けて調べた実験結果を報告し、Matsunagaの平仮名の結果と比較考察する。
2.
調査方法・被験者
米国で日本語を学ぶ大学生で平仮名を既習している58名の初級学習者を対象に、40個の片仮名を10
個ずつ4セッションに割り当て、下記の教授法(セッションごとに異なる)を用いてコンピュータで導入し
た。
教授法1(P+S):絵と音(英語のキーワード)を連結した連想法
教授法2(P):絵だけの連想法
教授法3(S):音だけの連想法
教授法4(F):フラッシュカード
被験者は導入された10個の片仮名をコンピュータで復習してから短期記憶テストを受け、実験中の学習
経験についてインタビューに答えた。そして、その2 4日後に同じ片仮名の長期記憶テストを受けた。実
験は、この方法を四回繰り返す(合計40個の片仮名を4セッションで導入し、5セッション目に被験者が
四つ目の長期記憶テストを受ける)ことによって終了した。又、連想法以外の要因が長期記憶テストに影響
する可能性を防ぐために、実験室以外での仮名の復習は、Matsunagaの実験時と同様に禁止した。
連想法の効果は、短期記憶テストの結果と長期記憶テストの結果を33名のローマ字圏(平仮名以外の非
ローマ字を既習していない)学習者と25名の非ローマ字圏(平仮名以外の非ローマ字をL1として既習して
いる)学習者に分けて調査し、連想法の使用度とその他の学習ストラテジーは、インタビューでの報告デー
タに基づいて分析した。
3.
結果
3.1. 連想法の短期的、長期的学習効果
短期記憶テストの結果分析(ANOVA)によると、どちらのグループの学習者の成績(ローマ字圏:56.4 [P+S];
43.2 [P]; 52.1 [S]; 41.4 [F]; 非ローマ字圏:49.4 [P+S]; 44.4 [P]; 54.4 [S]; 47.8 [F])にも連想法の効果は現われず、
二グループの学習結果の差も認められなかった(p > .05)。又、長期記憶テストの結果分析(ANOVA)にお
いても、連想法の効果もグループ差も全く見られなかった(ローマ字圏:29.1 [P+S]; 20.3 [P]; 29.5 [S]; 21.8 [F];
非ローマ字圏:28.8 [P+S]; 26.9 [P]; 30.0 [S]; 29.4 [F])(p > .1)。即ち、どの連想法もフラッシュカードと同程
度の短期的、長期的学習効果しかもたらさず、非ローマ字圏学習者の転移の優位性も統計的に認められなか
った。
3.2. 連想法の使用度と独自の学習ストラテジー
次に、学習者の連想法の使用度とその他の学習ストラテジーを分析した。その結果、ローマ字圏学習者(51.8
[P+S]; 42.7 [P]; 37.8 [S])の方が非ローマ字圏学習者(42.4 [P+S]; 29.6 [P]; 24.4 [S])よりも与えられた連想法を
多く使用し( p < .05)、二グループとも、P と S に比べ、P+S をより多く使用していることが分った(p < .05)。
又、他の学習ストラテジーとしては、二グループとも、丸暗記法(ローマ字圏:62.2%;非ローマ字圏:69.9%)、
平仮名の既存知識(ローマ字圏:12.7%;非ローマ字圏:12.5%)、独自の連想法(e.g., 「フ」は‘hook’)(ロ
ーマ字圏:22.0%;非ローマ字圏:6.6%)を使用し、非ローマ字圏学習者だけがL1の文字知識(10.8%)を
利用していることが分った。
4.
考察
上記の実験結果は、Matsunagaの平仮名の結果と異なるものとなった。 インタビューで両グループが「連
想法(特にP+S)を使用した」と答えたにも関わらず、両グループの短期記憶テストの成績はフラッシュカ
ードの教授法においてもP+Sの教授法の時と同じだった(即ち、連想法の短期的効果が非ローマ字圏学習者
だけでなく、ローマ字圏学習者にとっても無かった)。このこと(特にフラッシュカードでの好成績)は、
1)非ローマ字圏学習者が、Matsunagaの平仮名の実験時と同様に、母語から文字認知ストラテジーを転移さ
せている可能性を示唆しているだけでなく、2)ローマ字圏学習者が、平仮名習得後、非ローマ字圏学習者
の転移力に相当する独自の学習ストラテジーを発達させている事実を反映していると思われる。又、
Matsunagaの平仮名の研究結果と同様に、既製の片仮名連想法がどちらのグループの学習者にとっても長期的
効果が無かったのは、長期的復習無しでは、仮名の記憶力が学習者の背景に関わらず衰えてしまったからで
あろう。今後は、宿題等の復習がもたらす学習効果の研究に加え、片仮名を先に学習する被験者を対象とし
た連想法の効果の研究、転移力の確実性とその影響の研究、独自の学習ストラテジーの発達過程を明らかに
する研究を期待したい。
参考文献
Chikamatsu, N. (1996). The effects of L1 orthography on L2 word recognition: A study of American and Chinese
learners of Japanese. Studies in Second Language Acquisition, 18, 403-432.
Matsunaga, S. (2003). Effects of mnemonics on immediate and delayed recalls of hiragana by learners of Japanese as a
foreign language. Japanese-Language Education Around the Globe, 13, 19-40.
Quackenbush, H., Nakajo, K., Nagatomo, K., & Tawada, S. (1989). 50-pun hiragana doonyuuhoo: “Rensoo-hoo” to
“Irotsuki kaado-hoo” no hikaku. Nihongo kyooiku, 69, 147-162.
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