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2016秋学期ミニシラバス - 横浜国立大学 統合的海洋教育・研究センター
第 10 期統合的海洋管理学 Ⅱ(シラバス) 【平成28年度秋学期】 1.海洋政策概論 Ⅰ-海洋基本法・基本計画等 (寺島 紘士) まず、20 世紀後半からの海洋の管理に関する新海洋秩序の形成と国際的な海洋の政策的枠 組み・行動計画の進展、その下での広大な海域を管理することになったわが国における海洋の 諸問題に総合的に取り組むための海洋基本法の制定の経緯について概観する。次に、目的、基 本理念などを定めた総則、海洋基本計画、基本的施策および総合海洋政策本部の 4 章からなる 海洋基本法、及びこれに基づき、政府が海洋に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため に定めている海洋基本計画について学び、わが国の海洋政策の推進について総合的な知識・理 解を深める。その上でこれまでの取り組みの成果や今後の海洋立国の実現への課題について考 察する。 キーワード:国連海洋法条約、国連環境開発会議(地球サミット)、アジェンダ 21 第 17 章、 海洋の総合的管理、持続可能な開発、国連持続可能な開発会議(リオ+20)、持続可能な開発 目標(SDGs) 、海洋基本法、新たな海洋立国、基本理念、海洋基本計画、12 の基本的施策、総 合海洋政策本部、海洋政策担当大臣、参与会議 2.海洋政策概論 Ⅱ-国連海洋法条約と 200 海里問題 (中原 裕幸) まず、日本が小国で資源がない国という基本認識を払しょくする。我が国の国土面積は世界 第 61 位、海岸線の長さは世界 6 位。1996(平成 8)年、我が国は国連海洋法条約を批准し、 国内法で 200 海里の EEZ を設定したが、その領海+EEZ(200 海里水域)の面積は約 447 万 Km2 で世界第 6 位。我が国は、陸上で他国との間の国境をもたないが、海域では島の帰属を めぐる領土問題とそれに伴う境界画定問題を抱えている(北方四島、竹島、尖閣諸島に係る問 題) 。そして、国際海峡、直線基線、島か岩かの混乱した論議にさらされている沖ノ鳥島(7/12 南シナ海仲裁裁判所判断が関係してくる可能性あり) 、大陸棚(EEZ を超える大陸棚の延長問 題とも)など、様々な問題を抱えている。これらの現状を把握、整理して理解を深める。 キーワード:国連海洋法条約(UNCLOS)、領海、排他的経済水域(EEZ)、大陸棚、公海、主 権的権利、管轄権、中間線、境界紛争、東シナ海、島の定義、沖ノ鳥島、尖閣諸島、竹島 3.海の環境保全制度 (加藤 峰夫) 「海の環境保全制度」では、海の自然環境を保護保全するための制度の現状と課題について、 「海域公園」を中心に検討する。 海域公園は、国立公園や国定公園等を定める自然公園制度の改正によって、2010 年4月よ り実施されているものであり、それ以前の海中公園地域を大幅に拡充し進化させつつ、2016 年 4月現在では 14 の国立公園に 90 地区(132 ヵ所) 、合計 47,332.3ha が指定されている。しか し海域公園を含め、海の環境を適切に管理し利用するに際しては、困難な問題が多々ある。本 回では、最初に講師から基本的な情報を提供した上で、参加者と講師との間での質疑応答や 参 加者間での意見交換を通じて、海の自然環境を適切かつ効果的に保護保全し持続的に利用する ための社会的な「仕組み」 (制度)のありかたについて考察する。 1 キーワード:国立公園、自然公園、海域公園、漁業権、生物多様性、海洋生物多様性保全戦略 4.海事活動の国際管理 (森 裕貴) 国際海運は、公海自由の原則の下、世界中の海域を自由に航行することが可能となっている。 しかし、一旦、海難事故が発生すると、各国の人命、財産、海洋環境に多大な損害を与えかね ない。このため、各国は、人命等を保護する観点から、国際海運に対し各種規制を実施するこ とを考えるが、国際海運市場は、船籍国(旗国) 、荷主国、寄港国と多数の国が複雑に絡み合う 構造を成しており、各国が独自の規制を実施すると、物資等の円滑な輸送に多大な支障を与え かねない。このため、国際海運の安定・円滑化を図るため、船舶に係る規制は、国際条約によ り各国統一的に実施されている。 本講義では、海事分野における国際条約の原則である「旗国主義」の現-状、旗国主義の補完 手段(入港外国船舶の監督(ポートステートコントロール) 、非条約締約国に対する条約義務の 適用等) 、海事分野の各種条約(SOLAS 条約(海上人命安全条約) 、MARPOL 条約(海洋汚染 防止条約)等)を概説した後、海事分野における我が国の国際条約交渉戦略を紹介する。 キーワード:国際海事機関(IMO)、海上安全委員会(MSC)、海洋環境保護委員会(MEPC)、 SOLAS 条約(海上人命安全条約) 、MARPOL 条約(海洋汚染防止条約) 、旗国主義、便宜置籍 船(FOC)、サブスタンダード船、ポートステートコントロール、東京 MOU、IMO 加盟国監査、 シップリサイクル条約(香港条約) 、海上労働条約( MLC)、国際労働機関(ILO) 5.6.沿岸域の防災・減災・危機管理 Ⅰ、Ⅱ (鈴木 崇之) 沿岸域防災を考えるうえで必要な、災害要因、その影響と影響度、影響の評価方法を軸に講 義を進める。 ①海岸防災と波浪:海岸の物理的なダメージとは何か,それは何によって引き起こされている のかを考える。②津波災害:津波の発生メカニズムと伝播特性についての基礎を解説し,津波 の特徴と何故恐ろしいのかについて,具体例を示しながら講義する。③臨海部の防災と地震・ 津波:高潮災害の事例を示しながら,高潮に対する防災について講義する。通常の沿岸防災に おける高潮対策の重要性と防波堤設計の考え方を整理する。④津波防災:明治三陸津波,昭和 三陸津波などの過去の大津波災害後の復興計画とそのコンセプトを整理し直し,東日本大震災 後の復興計画・津波防災都市計画の策定について議論し、防災と減災の考え方を解説する。⑤ 海岸保全と防災:日本における海岸の特性を再認識してもらうとともに,自然海岸と人工海岸 の性状そのものを講義する。海岸の侵食と背後の土地利用,そして保全に係る行政区分と保全 方法などを総合的に捉えることで,問題点と今後の方向性について講義する。⑥被害や危険の 程度:高潮災害,津波災害など,考えうる災害それぞれは同じ災害といえどもその程度により 地域への影響度が異なる。よって,防災計画にも想定される災害の種類だけでなく,設定され るレベルという概念が必要であることを客観的に理解するための講義を行う。⑦防災・減災計 画:ここまでの講義で得た知識と手法を基に沿岸域における災害を改めて抽出し,その原因と 原因の発生する可能性について議論する。それを踏まえたうえで,防災・減災計画のあり方を 今一度考えてみる。議論をした後に,一般論としての防災・減災計画に係る全国の行政の方策 2 を紹介する。 キーワード:沿岸域、減災、防災、海岸工学、海岸災害、津波、高潮、海浜変形、海の波 7.海洋の安全保障 (八木 直人) 近年の国際政治を巡る議論は、米国の「アジアへの回帰(return to Asia)」や「リバランス (rebalance)」を中心に展開し、中国の台頭と米中のパワートランジションの地政学的現実とと もに、安全保障の分野では、 「大国間関係の再構築」が議題に挙がっている。本授業では、東ア ジアの海洋―西太平洋、東シナ海、南シナ海―の地政学的・戦略的状況を検討するとともに、 この地域共通のインタレストの確立や国際公共財としての海洋の意義を分析する。また、米国 の 21 世紀の戦略概念と言われる「エアシー・バトル」や「オフショア・コントロール」につ いても、その特徴と海洋の安全保障に対する意義を検討する。概ね、以下の項目に沿って、展 開する。 ①「リバランス」の概念、②戦略的リバランスの実態(外交・経済・安全保障) 、③「新たな タイプの大国間関係」 、④東アジアの地政学的構造-リバランスの評価-、⑤東シナ海、南シナ 海の戦略的意義-米国の戦略論争を中心に- キーワード:A2/AD(アクセス阻止・エリア拒否:Anti-Access/Area Denial) 、エアシー バト ル(AirSea Battle)/オフショア・コントロール(Offshore Control)/非対称戦略(Asymmetric Strategy)/リバランス(rebalance)、地域的多国間機構/アジア・ピヴォット(Asia pivot) 8.市民の海洋利用と海洋リテラシー (水井 涼太) 人々が精神的にも身体的にも回復のため海を利用するレジャー行為は、社会の経済的動向に 左右されながらも関心が高く、わが国に定着したといえる。また、公共物である海を市民は利 用する権利を有するとともに、環境保全などの理解増進、総合的海洋管理社会実現のためにも レジャー等を通した、海に親しむ場を創出していくことは非常に重要である。一方で、レジャ ーは釣り・ダイビングなどと漁業との衝突に代表されるように、関係者或いは関係業界間の利 益相反と利益の衝突が顕在化している。ここでは、市民の海洋利用の実例やそれに伴う様々な 取り組みとその課題について学ぶ。同時に、安全に対する意識付け、利用のルール、環境との 共存など海を活用するリテラシーを高める意義などについて学ぶ。 キーワード:海水浴、遊漁、潮干狩り、ヨット、サーフィン、スキューバダイビング、シュノ ーケリング、水上スキー、水上オートバイなど。海難事故の事例、安全対策、法制度、海辺の 環境と生態系、親水公園、磯遊び 10.11.沿岸域の総合管理(含む里海論) Ⅰ Ⅱ (古川 恵太) 陸域および海域の総体である沿岸域では、人々の生活、産業、交通、文化等の多様な利用が 輻輳する。また、地圏・水圏・大気圏の接点である沿岸域は、自然の微妙かつダイナミックな バランスにもとづく空間であり、人々に豊かな自然環境や生物多様性、美しい景観を提供する 一方、津波や高潮などの災害や海岸侵食などに対する脆弱性を併せ持っている。このような沿 岸域において、多様な分野にわたる利害関係者間の調整・合意形成を行い、総合的な視野で持 3 続的に開発、利用、保全する計画を立案し、その事業を実施するために必要な分野横断的知識、 俯瞰的視野の修得を目指す。 講義では、①健全な海洋環境と生態系サービスの享受、②沿岸域の物質循環の歪みと弊害(富 栄養化、貧酸素水塊等) 、③沿岸域の開発と沿岸生態系:埋立やダムや護岸工事等の環境への影 響、④干潟・藻場・浅場の役割と保全:この半世紀の間に激減した現状と、その保全の必要性、 ⑤沿岸域総合管理:陸と海を一体的に管理し、人々の豊かな暮らしを守り発展させる手法、考 え方、実践例、海洋保護区の設定などを含む制度的取組み等について考える。 キーワード:沿岸域総合管理、生態系サービス、流域圏、生態系アプローチ、国土の管理、海 洋政策、自然再生、生き物の棲み処づくり、里海、物質循環、生物多様性、賢い利用、順応的 管理 12.海洋再生エネルギーの利・活用 (村井 基彦) 21 世紀に入り、地球温暖化と二酸化炭素排出の関連性の指摘から、国際的に海洋再生可能エ ネルギーの利用に期待が高まっている。日本では特に東日本大震災以降に、世間の注目を集め るようになりつつある。 本講義では、海洋再生可能エネルギーの利用をとりまく、国内外の動向の変化について紹介 しながら、洋上風力、波力、潮力、潮流、海流、海洋温度差など、日本周辺海域の再生可能エ ネルギー利用の現状とそのポテンシャルやそうした開発と環境あるいはそのコストとの関わ りについて考える。 キーワード:海洋再生可能エネルギー、洋上風力発電、波力、潮流、海流、海洋温度差、 13.わが国の周辺海域を守る―海上保安活動- (三木基実) 四方を海で囲まれた我が国は、国土面積の約 12 倍にも相当する領海と排他的経済水域を有 する世界有数の海洋国家である。近年、我が国の近隣諸国等は、海洋進出の動きを活発化させ ており、外国船による領海侵入が繰り返されるなど、我が国周辺海域を巡る情勢は緊迫化する とともに、我が国の主権の確保、海洋権益の保全がますます重要な課題となっている。同時に 我が国周辺海域では、依然として多くの事件・事故が発生し、社会経済や国民生活に多大な影 響を及ぼしています。ここでは、日々、こうした事件・事故の未然防止、法令違反の取締りや、 海難救助、緊迫度を増す南海トラフ巨大地震等自然災害への対応等、様々な海上保安活動につ いて概説する。 キーワード:治安の確保(海上犯罪、密漁対策、外国漁船による違法操業等への対策、密輸・ 密航対策、海賊対策テロ対策、不審船・工作船対策)、領海とEEZ警備、海難救助、海洋汚染、 災害対応、船舶の航行安全 14.海岸の保全、臨海部の開発と埋立て (中村 由行) わが国は世界でも有数の長い海岸線を有し、漁業活動を支えるとともに、海とのふれあいを 通じて豊かな社会文化的な歴史を有している。一方で、国土の約 7 割を山地が占め、平地は沿 岸部に限定されている。また、天然資源に乏しく、エネルギー源や工業原料の多くを輸入に頼 4 っている。そのため、必然的に、人口や産業、交通の基盤施設などが沿岸域に集中しがちであ る。歴史的にも海岸保全施設の建設を行うと同時に、積極的に埋立て、干拓などにより臨海部 の開発を行い、産業の育成を図ってきた。ここでは、海洋管理の視点で、沿岸域の開発、利用、 保全及び管理について概観する。身近な例として、東京湾の埋立ての歴史、横浜市MM21地 区の造成について紹介する。 キーワード:干拓、埋立、地盤改良、浚渫、人工島、ウォーターフロント、海岸保全施設 5