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6.現代――電子メディアの時代

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6.現代――電子メディアの時代
第6章現代.doc
6.現代――電子メディアの時代
現代は、話し言葉の時代から文字・活字の時代を経て、電子メディアの時代である。
代表的なメディアとして電話、ラジオ、テレビ、衛星通信及びコンピュータとそのネッ
トワークなどがあげられ、それらの技術の発展により、生活や文化の変容する時代でも
ある。これらの発展の過程をたどりながら、電子メディアの文化的特徴を考察する。
a.電気と電子
M.マクルーハンは、人類が獲得したさまざまな技術のなかで、電気の技術の重要性
を特に強調する。すなわち、電気の技術以前の機械を中心とする「これまでの技術は部
分的で断片的であったけれども、電気の技術は全体的で包括的な技術である」1)。たと
えば、メディアとしての「電気の光」が夜と昼、屋内と屋外という体制を終わらせた。
自動車は夜どおし走ることができるし、野球選手も夜どおし競技できる。電気の光のメ
ッセージは(社会の)全体を変える、と指摘する2)。
ここでは、まず、電気ないし電子が電子メディアとして発展していく様子をたどって
みる。
電気については、ギリシャの頃から、コハク(琥珀:樹脂の化石)を摩擦すると軽い
物体を引きつけることがよく知られていた。この電気は「静電気」と呼ばれ、17世紀
ごろから研究が始められた。その結果、18世紀はじめには、電気の生起を確かめる「検
電気」と「ライデンびん」が発明された。次の図表は、その2つを示している。
図表4 検電気とライデンびん3)
1
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検電気は、帯電した物体を近づけると金属ハクが放射状に開く。ライデンびんはガラ
ス容器の内外に金属ハクをはりつけたもので、
帯電状態を長く保たせることに成功した。
また、ヴォルタ(A.Volta)は、1799年、亜鉛版と銅板を塩水につけた電池を発明し、
これによって電流が定常に生じさせる方法がわかり、電気技術の成立にとって大きな一
歩を踏み出すこととなった。
電流を定常的に供給する方法として、基礎的な考え方は、磁石を用いた電磁誘導によ
り起電するやり方で、これを機械的に行ったのが発電機である。発電機の基本原理は、
1930年代ごろ明らかになり、発電機もこの頃制作されている。最初の実用的な発電
機は、イギリスで1935年に作られた。
ここで、
、電気と電子について整理しておく。電気は、明治のころ中国から移入した言
葉で、英語のElectrocity のことである。その語源はElectrum(コハクのこと)である。
電気という言葉は、物体に生じるさまざまな電気現象(たとえば、摩擦電気、電磁誘導、
電流作用、電波作用など)を起こさせるもとになるものとして把握される。その電気現
象のもとになるものは、電子である。電子はすべての原子において、原子核の回りの軌
道上を運動しているものと、原子の束縛を離れて自由に動くことができるものがあり、
後者は「自由電子」とよばれている。この自由電子がエレクトロニクス(電子工学)の
主役である。つまり、電気現象のもとになるものが電子である。従って、電気といって
も電子といってもそれほど大きく変わらない(ただし、電気工学と電子工学は応用面か
ら見て区別されることが多い)
。
ここでは、電子メディアと電気メディアとは、全く同一のものとしてとらえる。
b.有線通信技術(電信と電話)の発展
電気についての研究が進み、とくに、ヴォルタの電池発明によって電流が発見された
後、これを通信に用いようとするいくつかの試みがなされた。そのなかで主流となった
のは、磁気を利用する電磁式通信機であった。
電気通信の実用がはじめてなされたのはイギリスにおいてである。1830年にスチ
ーブンソンらによって鉄道が開通し、初期の電気通信の開拓者は次々に建設される鉄道
に装備させようと考えた。それが成功したのは、1837年であり、クック(W.F.Cook)
とホイートストン(C.Wheatstone)により、ヒューストン駅とカムデン駅に設けられ
たのが始めである。
この頃、アメリカでは画家であるモールス(S.F.B.Morse)の電信機の研究が注目さ
れていた。彼のアイデアは、電流の断続の組み合わせを符号化するもので、1837年、
公開実験をするまでになったが、事業化されたのは1840年代になってからである。
モールスの電信機はいくつかの改良がなされ、自記印字装置を組み込んだのもその1つ
である。この改良がなされてから、自記印字機の動作音だけで受信できることに電信技
手が気づき、1846年から音響受信機(サウンダー)が用いられることになった。モ
2
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ールスは、この頃に電信会社を組織し、各地をネットワークで結び、アメリカの社会に
根をおろし始めた。1856年には、65の電信会社を合併してウェスタン・ユニオン
電信会社とした。モールスの電信機は1870年代には、ヨーロッパのほとんどの国で
採用され、サウンダーを取り入れることで送信速度も、毎分30語も可能になった。
図表5 モールス信号4)
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1850年、ドーバ海峡に海底ケーブルが敷設され、以後またたく間に大洋をこえて
電信のネットワークが拡大した。アメリカでは南北戦争が1965年に終了し、国内市
場の統一がもたらされた。
1876年にA.G.ベルが電話を発明した。彼は電話改良の資金を得るため、
「ウェ
スタン・ユニオン」に特許を10万ドルで譲ろうとした。しかし、拒否されたために、
翌年「ベル電話会社」をつくった。当時、各地に電話会社がつぎつぎと結成されつつあ
ったが、ベルの会社は特許を利用してそれらの会社を支配下におさめ、後に、
「アメリカ
電話会社(ATT)
」となった。
わが国では、電信が1869年(明治2年)、電話が1890年(明治23)年に営
業を始め、西洋文化のさきがけととして注目を集めた。
c.無線電信とラジオの発展
1887年、ヘルツ(H.R.Hertz)が、電波の存在と電波が空間を伝わることを確か
めた。しかし、彼は電波を無線通信に用いることに否定的であった。ところが、ヘルツ
の実験を知り、これにとりつかれたマルコーニ(G.Marconi)は、1896年、約3キ
ロの距離をモールス信号による送受信に成功した。彼はこの業績で最小年のノーベル賞
を受けた。
1901年、マルコーニは、イギリスとカナダを結ぶ2700キロ間の受信に成功し、
彼の設立したマルコーニ社は海洋国の海上通信を独占した。また、送受信装置やアンテ
ナの開発など無線通信について指導的な役割を果たした。
このような無線通信の成果は、電話技術にも適用され、無線機に電話を取り付けた公
開実験に成功したのは、ド・フォレスト(De Forest)とフェッセンデン(R.Fessenden)
であった(1907年)
。彼らの成功は、その前年に発明された3極真空管によるもので
ある。この発明によって電子工学は全く新しい段階に到達したということができる。
第一次大戦の終わってまもなく、1920年デトロイトのデーリーニューズ社が無線
送信機を使ってニュースを流した。このほか、音楽やニュースを流す放送も出てきて若
い人の人気を集め、10ドルの鉱石受信機だ直ぐに売り切れたといわれる。
わが国におけるラジオ実験放送は、1922年頃から行われていたが、公共放送とし
て東京放送局が開局したのは1925年であった。
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d.電波通信の原理
無線通信の基礎となる実験は、ドイツのヘルツ(H.R.Hertz)が考えたものである。
彼は大小の金属球を導線でつないだものを2組作り、
1万ボルトの高い電圧をかけると、
小さい2つの球の間に火花がとびはじめ、このとき空間に電波が出ていることを確認し
た。
(1888年)
図表6 ヘルツの実験5)
マルコーニはベルの実験に興味を持ち、さまざまな工夫を加えて次のような装置を使
って無線電信の実験に成功した。
図表7
マルコーニの実験6)
図表8 コヒーラ管7)
なお、図表7の中にある「コヒーラ」とは、ガラス管にアルミの粉を詰め、電極をつけ
たゴム栓で両方からおさえ、導線を引き出している。近くで火花放電を起こすと、電波
を受けて、電流が流れる仕組みの受信装置である。
コヒーラ管のあと、2極真空管(1897年)
、3極真空管がそれぞれ発明され、電
波の受信は飛躍的に性能が向上した。特に3極管は受信だけでなく受けた電波の強さを
増す「増幅作用」と、電波を発射する性能が花火放電よりはるかに優れていた。その後、
さまざまな真空管が発明され、放送や受信にとって真空管は不可欠のものであった。戦
後になってトランジスタが発明されると、真空管はトランジスタに置きかえられること
になる。
真空管は、非常に弱い電流を大きくする増幅作用をもつが、それとともに、音声を電
気的に変換した電流(音声電流)を遠くへ運ぶための電波(搬送波)をつくることがで
きる。その仕組みは次のように図示される。
5
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図表9
NHKの東京第1放送は、590キロヘルツで放送しているが、1キロヘルツは、1
秒間に約1000回振動する電波にのせて放送するという意味である。日常使っている
ラジオやテレビなどに使っている電波は、およそ次の通りである。
○ふつうのラジオ
○VHFのテレビ
100キロヘルツ∼1.5メガヘルツ
100メガヘルツあたり (注)キロ=103
○UHFのテレビ
700メガヘルツあたり
○通信衛星・放送衛星 10ギガヘルツあたり
メガ=106
ギガ=109
高い周波数の電波はより多くの情報を送ることができという利点がり、電波通信技術
はより高い周波数をめざして進歩してきた。
高い周波数の電波は、短い波長の電波である。短い波長の電波は小型で高性能のアン
テナを作れるようになるという利点をもつ。例えば、周波数10ギガヘルツ、つまり3
cmのマイクロ波は、
パラボラアンテナを使って、
電波を光線のように集めて送るから、
次のパラボラアンテナの中継点は100キロメートル先まで、しかも小さいパワーで送
ることができる。
e.光ファイバー通信
光は電波と同じように電磁波である。波長がミリ単位をこえると遠赤外線、赤外線を
ミクロン
経て、
「光」とよばれる。可視光線は0.4∼0.7ミクロンである。(1 μ =1mm
の千分の1)
。
光は通信技術に登場するに当たって2つの技術が重要であった。1つは「レーザ
(LASER)
」であり、もう1つが「光ファイバ」である。レーザはいろいろなものがあ
るが、応用面で良く知られるものが半導体レーザである。半導体レーザは、CDプレ−
ヤーのピックアップ、洋服の裁断、医療手術などのほか、光ファイバー通信に使われる。
半導体レーザは、1ミリより小さい程度の半導体の中で光が何度も反射を繰り返しな
がら増幅され、その一部がレーザ光として外へ出る。レーザ光は光強度が強く、広がり
6
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が極わずかで、波がそろっている特徴がある。このレーザ光を光ファイバで送り、通信
するのが光ファイバ通信である。
光ファイバは2層構造をもったガラス棒が通信用に使われる(図表10)
。ガラス棒
の中心はコアとよばれ、その外側はそれより少し小さい屈折率のクラットとよばれるも
のからなり、光は主にコアの中を通る。屈折率の大きい材料の中では、浅い角度で光が
ぶつかると全反射する性質があり、きわめて低い損失で光を通信に利用することが可能
である。
光ファイバが登場して、光通信は電気通信を圧倒し、21世紀では光ファイバー通信
が主役になってしまうと考えられている。光ファイバ通信の長所は、①損失を少なくで
きる、②光ファイバは細く、軽く、曲げやすい、③引っ張りに対して鋼より強い、④電
力線のそばにあっても雑音がまじらない、⑤電話線として使ったとき話が漏れない、⑥
火花が出ない、ことである。特に重要なのは、⑦1秒間当たりについて、きわめて多く
のビット信号数を送れることである。
光ファイバは、CATV(ケーブルテレビ)の通信回線やISDN(Integrated
Services Digital Network:総合デジタル通信網)で使われている。CATVは、光フ
ァイバの回線(光ケーブル)を用いた有線テレビで受信者からの信号を送り、テレビの
番組の選択が可能である。ISDNは、現在、次のようなものがある。
① N−ISDN64:ふつうの電話回線を利用して光ファイバとつなぎデジタル信号を
送る。毎秒64キロビットで伝送し、電話とパソコンというように2本のチャン
ネルが独立して同時に使える。
② N−ISDN1500:企業向けで、デジタル専用回線を使う。1500キロビ
ットの情報が送れる。
③ B−ISDN:光ケーブルを利用してデジタル伝送を行う。
図表10 光ファイバ
9)光通信p.69
9)
図表11 光ファイバケーブル
10) 同情p.103
f.デジタル技術
7
10)
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現代を表すキーワードの1つとして「デジタル(digital)
」があげられる。デジタルと
は、非連続(あるいは離散的)という意味で、連続を意味する「アナログ(analog)
」
という言葉に対応する。例えば、音声のもとになる音は、空気の振動であり、その振幅
は時間に対して連続的に変化するからアナログ情報である。レコードに記録されている
音は、レコード盤の溝にアナログ情報として刻まれる。ところが、CDに記録されてい
る音情報は、一定の時間間隔で測った振幅の長さを数字にしたもので、数字列で示され
たデジタル情報である。だから、デジタル化するといった表現は、簡単にいうと数値化
することである。
1980年代に入って、レコードがあっという間にCDに変わってしまったように、
デジタル化が急激に進んできている。
コンピュータは、
アナログコンピュータもあるが、
大半はデジタル情報を扱うデジタルコンピュータである。デジタル情報を処理するデジ
タル技術は、オーディオ(音声)情報やビジュアル(映像)情報に関連する電話、オー
ディオ装置、デジタルカメラ、ゲーム機などのほかに、衛星通信や衛星放送などの通信・
放送分野にも取り入れられるようになった。デジタル技術の採用が革命的といわれるほ
ど早く進んだ理由は、
「情報圧縮技術」の進歩によるもので、とくに映像のように大量の
情報を使用する場合、記録や伝送が容易になったためである。
情報圧縮技術は、情報の質を変えずに、情報量を少なくする技術である。現在、われ
われの身のまわりにある情報は、膨大な量になっており、これを伝送したりするのにコ
ストがかかる。圧縮技術はデジタル信号を圧縮する技術であり、デジタル信号は0と1
の組み合わせであるから、情報(数値)のパターンを一定のルールに従って簡単にする
ことである。
このとき圧縮した情報を元に戻すことが必要で、
標準化された方法で行う。
国際標準化機構が規格したJPEG(Joint Photographic coding Experts Group)とMP
EG(Moving Picture coding Experts Group)がある。静止画にはJPEG が、動画と音声
にはMPEGが使用される。
次に、デジタル技術にかかわるメディアについて述べる。
① デジタルカメラ
このカメラは、ほとんどのものが液晶画面を見ながらシャッターを押すようにな
っている。画像は、半導体素子によって電気信号に変わり、メモリに保存される。
そのデータをパソコンに入れてディスプレイに表示させる。そのとき色調を変えた
り、合成するなどの加工も可能で、プリンタで印刷もできる。1995年度に普及
タイプのデジタルカメラが発売され、その後、売り上げが急速に伸びて、1996
年度に100万台近くを販売したといわれる。
② DVD(Digital Video Disk)
CDと同じ大きさのディスクに、文字、音声、映像を取り込むことができる光デ
ィスクである。CDを2枚貼り合わせたもので約4時間の映像が収められる(CD
約13枚分)
。このように記憶容量が大きいことと高画質、高音質で画像が劣化しな
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いのが特徴である。新しいビデオとして注目を集めており、将来、パソコンのCD
−ROM(読み出し専用)に代わってDVD−ROMが使用されるという見方もあ
る。DVD−RAMはごく近いうちに登場すると見られる。
③ 簡易型携帯電話(PHS)
PHS(Personal Handyphone System)は、デジタル式のコードレス電話とし
て、1995年からサービスを開始し、1年後には加入者数が280万を越した。
PHSは、デジタル方式を採用しているため、データ通信も可能であり、1つの
回線で4つのチャンネルが多重されているほか、1つのチャンネルで双方向の通信
ができる。問題は基地局のエリアが数百メートル程度で小さく、高速での移動中の
使用に対応できないこと(約20km/時以下)だが、料金が安く誰もが持てると
いう特徴がある。デジタル方式は、①周波数利用効率が高い、②通話の音質がよい、
③秘話機能が付いているため、ふつうの携帯電話でもデジタル化が進められている。
④ 衛星放送
1996年10月「パーフェクトTV」が本放送を始めた。これは、通信衛星(C
S:Communication Satellite)を介してのデジタル方式による放送である。アナ
ログ方式の放送だと中継器(トランスポンダ:transponder)1つについて1チャ
ンネルしか放送できなかった。パーフェクトTVは、デジタル方式だから、トラン
スポンダ当たり4∼6チャンネルの放送が可能である。CSによる放送は、トラン
スポンダを複数使用することで多チャンネル化が可能となった。
なお、衛星放送には放送衛星(BS : Broadcasting Satellite)によるものがあり、
BSは国際規約でチャンネル数が国ごとに割り当てられている。日本への割り当て
は8チャンネルで、現在、NHK2チャンネルとWOWOWが1チャンネル使って
いる。
CSにはチャンネル数の制限はない。
いま、
「ダイレクトTV」
、
「スカイD」
、
「JスカイB」が放送開始に向けて、準備中である。
⑤ CATV(Cable Television)
CATVはもともと難視聴地域を解消することを目指して、地域ごとの有線テレ
ビとしてスタートした。最近では、地域ごとの制限が廃止され、さまざまなサービ
スを行う都市型CATVへの方向に変わりつつある。CATVは、光ケーブルなど
を利用しているから、多チャンネル情報を送ることができ、地上波テレビ(NHK
総合などのVHFやUHFによる放送)や衛星放送、さらに局独自の番組を見るこ
とができる。
アメリカでは、CATVが各家庭に接続され、光ケーブルがテレビだけでなく電
話にも用いられており、通信革命の役割を担っている。
g.電子メディアの発展とその特徴
第2次大戦後、放送メディアとしてラジオの時代が続いた後、テレビの時代となった。
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この間に、さまざまな電子メディアが登場したが、技術の中核となったものは、コンピ
ュータ技術である。コンピュータ技術はデジタル技術である。家庭用電気機器をはじめ
自動車を含めほとんどあらゆる機械は数ミリ程度のチップに収められたコンピュータに
よって制御されている。デジタル関連技術の進歩は、放送や通信の分野にまでおよび、
両分野の壁が取り払われ、放送と通信の融合が大きな話題を呼んでいる。
グローバル・ヴィリッジの到来を予言したマクルーハンは、
「われわれに電気文化は
10)
われわれにふたたび部族社会的な基盤を与えつつある」 。すなわち電子技術によって
生まれる相互依存の関係は、世界を地球村として新しいイメージに変えるという。しか
し、そのマクルーハンは、電子技術を通して同時に多くの場所に存在できる「電子的人
間」は、
「身体から遊離した人間」であり、肉体ではなくてイメージあるいは情報パター
ンであるとして、ペンミティックな考えに傾いていったといわれる。
(Marchand,1989)
。
この考えは、バーチャル・リアリティーの世界ともかかわるもので、今後検討されるべ
き多くの問題と関係する。ここでは、問題提起だけにとどめ、電子メディアのもつ特徴
について考察する。
①電子メディアは、地理的距離と時間的距離をゼロにした。
たとえば、電話によって日本とアメリカとの間は、遠い距離にもかかわらず即時に話
が通じるし、テレビによって日本の茶の間でアメリカの映像を見るこができる。とくに
電話の普及は地理的空間において接近していなくとも、日常的なコミニュケーションが
可能となり電子メディアによって新しい社会状況が作り出されるようになってきた。た
とえば、
電子メールは、
企業組織を根本的に変えるほどのインパクトをもたらしている。
②電子メディアの発達は、情報の大量の処理・蓄積を可能にした
情報の処理として、コンピュ−タと関連機器によって、情報の収集、整理、加工がで
き、その蓄積も大量にできるようになった。たとえば、CDはそれまでのレコードの何
倍も情報が入っているし、CD−ROMはA4用紙(40字×40行)約21万枚分の
情報が入る。DVDではA4用紙約159万枚の内容が記録される。
③電子メディアは個人的コミュニケーションを促進する
たとえば、電話は家族と外部をつなぐコミュニケーション媒体だった。しかし、現在、
携帯電話を個人で所有することで、
個人的なコミュニケーションが可能となった。
また、
パソコン通信は電話以上に個人としての声や顔を知られずに、しかも匿名でコミュニケ
ーションができることから、個人単位でのコミュニケーションを推進していると考えら
れる。さらに、テレビゲームでは、隣に友人がいたとしても、友人とはほとんど関係な
しに画面と向き合って個人だけでプレーし、ここでもパーソナル化が促されることにな
る。
10
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④電子メディアは双方向コミュニケーションをもたらす
ラジオやテレビの時代は、人々は情報を一方向的に受信するだけであり、それ以外の
行動はせいぜいチャンネルを選択する程度であった。しかし、最近の電子メディアは情
報処理能力を与えられて、情報発信もできるっようになった。たとえば、パソコン通信
やインターネットのようにコンピュータを介しての情報発信であり、全ての電子メディ
アでそのことが可能になったわけではないが、この傾向はさらに進んでいくものと考え
られる。電子メディアのなかで、電話は発明だれた当初から情報の発信・受信ができる
双方向メディアであった。電子メディアは双方向コミュニケーションを目指しており、
その意味で電話は大きく注目されている。
宮田加代子によると電子メディアによる情報発信を含めて、主体的かつ能動的に情報
処理するようになって、メディアの利用者はコントロール感を持ちやすくなったと見ら
れる。
「コントロール感を持ち、
効力感を感じて生活することができれば無気力にならず、
むしろ積極的に生活していくことができる」11)。しかし、コントロール感を必要以上に
発揮すると、コントロールできない場面でのショックは大きく、極端な場合、無気力に
なることがありうると考えられ、その場合の対応の難しさを予想している12)。
⑥ 電子メディアの発展は、多様なメディアを統合する方向へ進展している
電子メディアは、人間の感覚器官に代わるものとして、たとえば次のように感覚器官
の機能を分化し高次元化させる方向で発展してきた。
・ラジオ、CD
・テレビ、VTR、DVD
―――――聞く
―――――見る 聞く
・電話
―――――話す 聞く
・コンピュータ
―――――記憶する 計算する 制御する
現在、デジタル技術の進歩を背景として、電子メディアの機能を統合化する傾向が出
てきた。それは、衛星や光ファイバーを使って大量の情報(とくに映像)が双方向での
やりとりが容易になったことによる。具体的には、テレビ電話が話す、聞く、見ること
がでいるし、また、マルチメディアパソコンによって音声、映像、データなどの統合が
可能であり、電話・テレビ・パソコンの機能が集約される。この統合化の方向は、最終
的にどのような形になるかは今後の課題であり、何れにしても、技術上の問題だけでな
く社会や産業だけでなく、政治的にも思想的にも大きなインパクトをもたらすのではな
いかと考えられる。
(引用文献)
1)M.マクルーハン、メディア論、栗原裕・河本仲聖訳、1987、みすず書房、p.60
2)同書、p.54
11
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3)岩田倫典、エレクトロニクスはいかにして創られたか、1969、日刊工業新聞、p.
11
4)大滝淳、電気工学から電子工学への歩み、1969、誠文堂新光社、p.181
5)同書、p.214
6)同書、p.223
7)同書、p.218
8)同書、p.236
9)大越孝敬、光ファイバー通信、1993、岩波新書、p.69
10) 同書、p.103
11) 富田加代子、電子メディア社会、1993、誠信書房、p.86
12) 同書、p.87
12
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