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若い踏み台

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若い踏み台
英語_目次/はしがき 04.10.20 0:32 PM ページ i
はしがき i
はしがき
人間の言葉がきわめて複雑で高度な抽象構造物であることに我々はほとんど
気がついていないのではないだろうか。言葉は人が生まれて数年すると、教え
られもしないのに話せるようになる。気がつくと無意識で使用できるようにな
っている。人間が無意識で行うことはたくさんある。息をする、目で何かを見
る、立って歩く、耳で何かを聞き理解するなど、あげればきりがない。これら
の行動は非常に複雑な筋肉運動、それを指示、管理する脳神経細胞、それを誘
発する体内での分子反応など、驚くほど高度で複雑な生物学的作用のたまもの
である。
機械工学の発達で、二足歩行するロボットがお目見えするようになってきた。
ペットロボットも販売されるようになった。留守の間に自動的に掃除してくれ
るロボットも出てきた。言葉で普通に話しかけると反応するロボットも現れた。
これらのロボットは複雑な行動が可能になっており、人間に多少近づいたと言
える。これらが我々の日常生活に入り込み、普通になる日もそう遠くはなさそ
うである。
では、これらのロボットがなぜこのような人間と同じような行動がとれるの
か、一般の我々は知っているであろうか?もし、故障したら、直し方を知って
いるであろうか?どうしたら人が希望する行動をしてくれるロボットが作れる
のか知っているであろうか? 勿論、答えは No! である。自由に使えるからと
いって、そのものの本質を知っているとはいえないのである。言葉がまさにそ
れである。
人は言葉を自由に操る。操れはするが、その本質は全く意識していない。宇
宙の真理に匹敵する(あるいは上まわる)複雑さを持っているが故に、それを意
識することが出来ない。本書は言葉の背後に潜む構造を明らかにすることを目
的として書かれた英語学、言語学の入門書である。英語学、言語学の理論や考
え方を紹介し、それらを用いて身近な映画や小説の英語を例に親しみを持って
理解してもらえるように書かれたものである。
各章の中には A Tip for Thinking という囲み記事がちりばめられている。い
ずれも映画や小説からとったものである。理論を理論としてだけ理解するので
はなく、実際の英語を通して、言葉そのものとしても理解してもらいたいため
に入れたものである。
本書の執筆者はすべて京都外国語大学から巣立っていった若い研究者達であ
る。編者が初めて Noam Chomsky から質問に答えてくれた手紙を受け取ってか
ら20数年になる。その間に探求心旺盛な学生が数多く英語学、言語学、特に生
成文法(当時は変形文法)を勉強し研究者の道に進んで行ってくれた。すべて
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編者を踏み台とし、さらなる一歩を踏み出してくれた者たちである。
[執筆者]
小野隆啓(Ono,Takahiro)
京都外国語大学外国語学部
(第1章 英語から言語学へ)
山根典子(Yamane-Tanaka, Noriko) ブリティッシュコロンビア大学
大学院言語学科(博士課程)
(第2章 音の構造)
小野尚之(Ono, Naoyuki)
東北大学大学院国際文化研究科
(第3章 語の構造)
近藤 真(Kondo, Makoto)
静岡大学情報学部
(第4章 文の構造 4.5-4.8)
藤本幸治(Fujimoto, Koji)
京都外国語大学外国語学部
(第4章 文の構造 4.1-4.4)
蔵藤健雄(Kurafuji, Takeo)
琉球大学教育学部
(第5章 意味の構造 5.1, 5.2, 5.4)
田畑圭介(Tabata, Keisuke)
金沢学院短期大学言語コミュニケーション
学科
(第5章 意味の構造 5.3, 5.5)
桐生和幸(Kiryu, Kazuyuki)
美作大学生活科学部
(第6章 談話の構造)
島田将夫(Shimada, Masao)
福山平成大学福祉健康学部
(第7章 言語と社会)
松岡和美(Matsuoka, Kazumi)
慶應義塾大学経済学部
(第8章 言語と心理)
神谷昌明(Kamiya, Masaki)
豊田工業高等専門学校
(第9章 英語の歴史)
言葉の神秘は尽きることなく、理論も次から次へと移り変わっていく。言葉
の科学的研究が始まってまだ半世紀ほどしかたっていない。言葉のおもしろさ、
その背後に隠れている原理の美しさを追求したいと思う新たな若い世代の誕生
に一役買えれば、本書の目的は十分に果たせたものと言える。
2004年3月
小野 隆啓
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