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樹木精油が持つ自律神経系調節作用が明らかに
森林総合研究所 平成 20 年版 研究成果選集 樹木精油が持つ自律神経系調節作用が明らかに バイオマス化学研究領域 樹木抽出成分研究室 大平 辰朗、松井 直之 株式会社 ANBAS 永井 克也 背景と目的 樹木には様々な成分が含まれており、私たちの生活にとって大変役立つものがたくさんあ ります。森林総合研究所では、樹木の葉や材に含まれる精油（写真１）に注目し、それらの 機能の一つとして自律神経系調節作用について調べています。自律神経活動の変化は生体の 生理機能の変化（血糖、血圧、体温、エネルギー代謝など）と密接な関係にあることが知ら れています。これらの調節ができなくなると肥満や高血圧などの生活習慣病を生じる原因に なります。そのため自律神経系を調節する方法の開発が急務となっています。 ここで紹介するものは、木々の香りの元になっている樹木精油の、ラットにおける自律神 経系調節作用を調べたものです。 成 果 ウレタン麻酔ラットに樹木精油の香りを吸引させ、各 の交感神経活動を上昇させる効果が強いことがわかりま 臓器の神経活動を電気生理学的手法（図１）により、各 した（表２） 。腎臓の交感神経活動が上昇すると血圧が 種神経活動を測定しました。精油を吸引させた時の結果 上昇する効果（元気回復）が期待できます（表１） 。タ を空気のみを吸引させた時の結果（対照）と比較し、表 イワンヒノキやヒバは同じヒノキ科ですが、材油の効果 ２に示しました。 が逆に現れています。これは含有成分の違いによるもの と考えています。 交感神経活動を低下させる樹木精油 タイワンヒノキ材油、レモンユーカリ葉油には腎臓の 以上から、樹木精油の中には各種臓器の神経活動に影 響を及ぼし、それらと密接に関係している生理機能を変 交感神経活動を低下させる効果が強いことがわかりまし 化させることが可能なものがあることがわかりました。 た（表２） 。腎臓の交感神経活動が低下すると生理機能 これらの成果は、日常生活において樹木精油を健康増進 としては血圧が下降する効果（鎮静効果）が期待できま の一助として有効利用するための基礎データとして活用 す（表１） 。 されることが期待できます。 さらにタイワンヒノキ材油には胃の副交感神経活動を 上昇させる効果が強いこともわかりました。胃の副交感 今後は、効果の強かった精油に含まれる有効成分を特 定する予定です。 神経活動が上昇すると消化吸収能の向上が期待できま す。交感神経と副交感神経は拮抗して内臓などに作用し 本研究は、一般研究費「樹木抽出成分の機能、作用機 ますが、リラックスした状態を生み出すには、副交感神 構及び機能性材料への変換法の解明」 による成果であり、 経活動が優位であることが 1 つの条件です。 株式会社 ANBAS との共同研究として推進しました。ま た、本研究は株式会社 ANBAS 動物実験倫理委員会の承 交感神経活動を上昇させる樹木精油 ヤクスギ材油、ヒバ材油、ベイヒバ材油などには腎臓 52 認を得て実施されています。 ቑᖜჾ ໝ䛔่⃭ ቑᖜჾ Ⴧེ ┿㸯 ᶞᮌ⢭Ἔ ⚄⤒ 㸦ᮌࠎࡢ㤶ࡾࡢඖ࡛ࡍ㸧 㛫 㛫 㛫 ᤨ㑆 㛫 ᤨ㑆 ໝ䛔่⃭ ൬䈇ೝỗ ┿㸯 ᶞᮌ⢭Ἔ 㛫 ⾑ᅽ ໝ䛔่⃭ 㛫 ⾑ᅽ 䠄mmHg) ⣢⤳ᗵ⚻ᵴേ ⭈⮚ឤ⚄⤒άື 䠄mmHg) 䋨spikes/5sec) 䠄spikes/5sec) FFPRI ቑᖜჾ ⴊ ⾑ᅽ 䋨mmHg) 䠄mmHg) ⭈⮚ឤ⚄⤒άື 䠄spikes/5sec) ⭈⮚ឤ⚄⤒άື 䠄spikes/5sec) ⚄⤒ ᅗ㸯 ᶞᮌ⢭Ἔࡢ㤶ࡾࡢ㟁Ẽ⏕⌮Ꮫⓗ ᐃ 㸦ᮌࠎࡢ㤶ࡾࡢඖ࡛ࡍ㸧 ┿㸯 ౮⌀㧝 ᶞᮌ⢭Ἔ ᮸ᧁ♖ᴤ 写真１ 樹木精油 （葉や材に含まれており、水蒸気蒸 㸦ᮌࠎࡢ㤶ࡾࡢඖ࡛ࡍ㸧 㧔ᧁߩޘ㚅ࠅߩరߢߔ㧕 留により採取されます） 㸦ྛ✀⚄⤒ࢆ┤᥋ ᐃࡋࡲࡍ㸧 ᅗ㸯 ᶞᮌ⢭Ἔࡢ㤶ࡾࡢ㟁Ẽ⏕⌮Ꮫⓗ ᐃ ⚄⤒ ⚻ 㸦ྛ✀⚄⤒ࢆ┤᥋ ᐃࡋࡲࡍ㸧 図１ 樹木精油の香りの電気生理学的測定 ᅗ㸯 ᶞᮌ⢭Ἔࡢ㤶ࡾࡢ㟁Ẽ⏕⌮Ꮫⓗ ᐃ （各種神経を直接測定します） ࿑㧝 ᮸ᧁ♖ᴤߩ㚅ࠅߩ㔚᳇↢ℂቇ⊛᷹ቯ ⾲㸯 ⮬ᚊ⚄⤒ࡢኚணࡉࢀࡿ⏕⌮ᶵ⬟ࡢኚ 㸦ྛ✀⚄⤒ࢆ┤᥋ ᐃࡋࡲࡍ㸧 㧔ฦ⒳⚻ࠍ⋥ធ᷹ቯߒ߹ߔ㧕 ឤ⚄⤒άື ⾲㸯 ⮬ᚊ⚄⤒ࡢኚணࡉࢀࡿ⏕⌮ᶵ⬟ࡢኚ 表１ 自律神経の変化と予想される生理機能の変化 ឤ⚄⤒άື ឤ⚄⤒άື ⬡⫫⣽⬊䠄ⓑⰍ䠅 ⬡⫫ศゎ ⬡⫫㈓␃ቑຍ ⾲㸯 㧝 ⮬ᚊ⚄⤒ࡢኚணࡉࢀࡿ⏕⌮ᶵ⬟ࡢኚ ⥄ᓞ⚻ߩᄌൻߣ੍ᗐߐࠇࠆ↢ℂᯏ⢻ߩᄌൻ ឤ⚄⤒άື ⭈⮚ ⾑ᅽୖ᪼䠄ඖẼᅇ䠅 ⾑ᅽୗ㝆䠄㙠㟼ຠᯝ䠅 㒊 ឤ⚄⤒άື ⬡⫫⣽⬊䠄ⓑⰍ䠅 ⬡⫫ศゎ ⬡⫫㈓␃ቑຍ ᗵ⚻ᵴേ ᾘ྾ᢚไ ᾘ྾ಁ㐍 ⫶䞉⭠ ᗵ⚻ᵴേ ⾑ᅽୖ᪼䠄ඖẼᅇ䠅 ឤ⚄⤒άື ⭈⮚ චᶵ⬟పୗ ⭁⮚䠄ච⤌⧊䠅 ⾑ᅽୗ㝆䠄㙠㟼ຠᯝ䠅 චᶵ⬟ୖ᪼ 㒊 ⢽⢌⚦⢩䋨⊕⦡䋩 ⢽⢌ಽ⸃ ⢽⢌⾂⇐Ⴧട ⬡⫫⣽⬊䠄ⓑⰍ䠅 ⬡⫫ศゎ ⬡⫫㈓␃ቑຍ ᾘ྾ᢚไ ᾘ྾ಁ㐍 య㔜 ῶᑡ ቑຍ ⫶䞉⭠ ⣢⤳ ⴊ䋨ర᳇࿁ᓳ䋩 ⴊਅ㒠䋨㎾㕒ലᨐ䋩 ⭈⮚ ⾑ᅽୖ᪼䠄ඖẼᅇ䠅 ⾑ᅽୗ㝆䠄㙠㟼ຠᯝ䠅 චᶵ⬟పୗ චᶵ⬟ୖ᪼ ⭁⮚䠄ච⤌⧊䠅 ㇱ 㒊 ឤ⚄⤒άືࡀୖ᪼࠶ࡿ࠸ࡣឤ⚄⤒άືࡀୗ㝆ࡍࡿࠊ 㸸ୖ᪼ 㸸ୗ㝆 ⢗䊶⣺ ᶖൻๆᛥ ᶖൻๆଦㅴ ⫶䞉⭠ ᾘ྾ᢚไ ᾘ྾ಁ㐍 య㔜 ῶᑡ ቑຍ ∉ᯏ⢻ૐਅ ∉ᯏ⢻ ⣛⤳䋨∉⚵❱䋩 චᶵ⬟పୗ චᶵ⬟ୖ᪼ ⭁⮚䠄ච⤌⧊䠅 ࠼ࡤ⬡⫫ศゎࡸඖẼࡀᅇࡍࡿ⪃࠼ࡽࢀࡲࡍࠋ ㊀ ᷫᑡ ዋ Ⴧട ឤ⚄⤒άືࡀୖ᪼࠶ࡿ࠸ࡣឤ⚄⤒άືࡀୗ㝆ࡍࡿࠊ య㔜 ῶ ቑຍ 㸸ୖ᪼ 㸸ୗ㝆 ࠼ࡤ⬡⫫ศゎࡸඖẼࡀᅇࡍࡿ⪃࠼ࡽࢀࡲࡍࠋ 㧦 㸸ୖ᪼ ᗵ⚻ᵴേ߇ࠆߪᗵ⚻ᵴേ߇ਅ㒠ߔࠆߣޔ 㧦ਅ㒠 ឤ⚄⤒άືࡀୖ᪼࠶ࡿ࠸ࡣឤ⚄⤒άືࡀୗ㝆ࡍࡿࠊ 㸸ୗ㝆 ߃߫⢽⢌ಽ⸃߿ర᳇߇࿁ᓳߔࠆߣ⠨߃ࠄࠇ߹ߔޕ ࠼ࡤ⬡⫫ศゎࡸඖẼࡀᅇࡍࡿ⪃࠼ࡽࢀࡲࡍࠋ ⾲㸰 ྛ✀ᶞᮌ⢭Ἔࡢឤ⚄⤒άືཬࡰࡍຠᯝ 表２ 各種樹木精油の交感神経活動に及ぼす効果 ⭈⮚ ⫶䠄ឤ⚄⤒䠅 ⾲㸰 ྛ✀ᶞᮌ⢭Ἔࡢឤ⚄⤒άືཬࡰࡍຠᯝ 䝍䜲䝽䞁䝠䝜䜻ᮦἜ 㧞 ྛ✀ᶞᮌ⢭Ἔࡢឤ⚄⤒άືཬࡰࡍຠᯝ ฦ⒳᮸ᧁ♖ᴤߩᗵ⚻ᵴേߦ߷ߔലᨐ ⾲㸰 ⭈⮚ ⫶䠄ឤ⚄⤒䠅 䝺䝰䞁䝴䞊䜹䝸ⴥἜ 䠉 䝍䜲䝽䞁䝠䝜䜻ᮦἜ ⣢⤳ ⢗䋨ᗵ⚻䋩 ⭈⮚ ⫶䠄ឤ⚄⤒䠅 䝠䝜䜻ⴥἜ ኚ䛺䛧 䠉 䉺䉟䊪䊮䊍䊉䉨᧚ᴤ 䝺䝰䞁䝴䞊䜹䝸ⴥἜ 䠉 䝍䜲䝽䞁䝠䝜䜻ᮦἜ 䝲䜽䝇䜼ᮦἜ 䠉 䊧䊝䊮䊡䊷䉦䊥⪲ᴤ 䋭 䝠䝜䜻ⴥἜ 䠉䠉䠉 䝺䝰䞁䝴䞊䜹䝸ⴥἜ ኚ䛺䛧 䝠䝞ᮦἜ 䊍䊉䉨⪲ᴤ ᄌൻ䈭䈚 䋭䠉 䝠䝜䜻ⴥἜ ኚ䛺䛧 䝲䜽䝇䜼ᮦἜ 䠉䠉 䝧䜲䝠䝞ᮦἜ 䊟䉪䉴䉩᧚ᴤ 䋭 䝲䜽䝇䜼ᮦἜ 䝠䝞ᮦἜ 䠉䠉 㸸ᑐ↷ẚ࡚ୖ᪼ࠊ 㸸ᑐ↷ẚ࡚ୗ㝆 䊍䊋᧚ᴤ 䋭㸫㸸ᮍ ᐃ 䝠䝞ᮦἜ 䝧䜲䝠䝞ᮦἜ 䠉䠉 ⾑ᅽୗ㝆㸦㙠㟼ຠᯝ㸧 ᾘ྾⬟ྥୖ ⾑ᅽୗ㝆㸦㙠㟼ຠᯝ㸧 ⴊਅ㒠㧔㎾㕒ലᨐ㧕 ⾑ᅽୗ㝆㸦㙠㟼ຠᯝ㸧 ᾘ྾⬟ྥୖ ᶖൻๆ⢻ะ ᾘ྾⬟ྥୖ ⾑ᅽୖ᪼㸦ඖẼᅇ㸧 ⾑ᅽୖ᪼㸦ඖẼᅇ㸧 ⴊ㧔ర᳇࿁ᓳ㧕 ⾑ᅽୖ᪼㸦ඖẼᅇ㸧 (▮༳ࡢ㛗ࡉࡣࠊ 䊔䉟䊍䊋᧚ᴤ 䋭 ( 矢印の長さは、効果の強さを示す。対照とは空気のみを吸引させた時の結果を示す。) ຠᯝࡢᙉࡉࢆ♧ࡍ) 䝧䜲䝠䝞ᮦἜ 䠉 㸸ᑐ↷ẚ࡚ୖ᪼ࠊ 㧦ኻᾖߦᲧߴߡޔ 㸸ᑐ↷ẚ࡚ୖ᪼ࠊ 㸸ᑐ↷ẚ࡚ୗ㝆 㧦ኻᾖߦᲧߴߡਅ㒠 㸸ᑐ↷ẚ࡚ୗ㝆 (▮༳ࡢ㛗ࡉࡣࠊຠᯝࡢᙉࡉࢆ♧ࡍ) 㸫㸸ᮍ ᐃ 㧙㧦ᧂ᷹ቯ 㸫㸸ᮍ ᐃ (⍫ශߩ㐳ߐߪޔ ലᨐߩᒝߐࠍ␜ߔ) (▮༳ࡢ㛗ࡉࡣࠊ ຠᯝࡢᙉࡉࢆ♧ࡍ) 53