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対外債務と 再生産可能資源輸出の 動学的安定性
I 論文 序 天然資源 を 輸出 する 国 のマクロ 経済 モデル (Dasgupta-Eastwood-Heal 〔1978〕等)を再生利 用可能 な資源 の 場合 の 最適輸出問題 に 適用し、 対外債務と 再生産可能資源輸出の 動学的安定性 しかも同時に、対外債務の最適な蓄積という問題 を考察したのは、Rauscher〔1989〕である。対外 累積赤字を天然資源開発で埋めようとすることで 天然資源の涸渇や絶滅化を招く可能性があるとい う持続可能性 の資源・環境経済問題 は、特定の 天然資源に依存する主要産業 で一国の経済活動 が 支 えられている発展途上国などでよく知られて いる。 Rauscher〔1989〕の考察 は、 (再生または再利 用可能な)天然資源依存経済に見られるそうした 鈴木康夫 持続可能性 の問題を考える上での 基礎的なモデ Yasuo Suzuki ル分析を展開し、少なくとも、対外債務を天然資 滋賀大学経済学部 / 教授 源開発で相殺 するという経済的方策 が 合理的で あるか 否かを考察し、こうした方策 が、条件付き だが、無限計画期間で動学的に最適であり得るこ とを確認している。換言 すれば、対外累積赤字を 何らかの仕方で早めに減少させることができるの であれば、最適経路に従うと、再生天然資源とマ クロ経済 の 持続可能性を高めることができるとい う理解も可能である。 こうした分析は最適制御理論を用いているので、 理論的研究とはいえ、対象となる経済で、マクロ経 済学的な消費水準や企業が生産する再生資源開 発フローは、一本 の最適な軌道(初期値からの鞍 点接近軌道)で得られる最適経路上を正確に歩む ように動学的に制御される必要がある。このような ことは、マクロ経済学的に、かなり効果的な政策 やマクロ経済 だけでなく再生資源開発 の産業規 制も含む総合的な微調整が必要となるので、現実 の経済ではなかなか難しいと考えられる。また、近 166 彦根論叢 2011 spring / No.387 年 の 気象、とりわけ気候 の不安定さは、例えばエ ルニーニョ現象や極点周辺の異変 から偏西風 の 4 (1.1) D =f(D)–{pq–κ(q)–c}, f´>0, f ˝>0, κ´>0, κ˝ >0. 蛇行 や黄砂などのように、再利用可能な天然資源 の総量に人為を超えて広範に影響していることを ただし、非線型の対外債務利払い関数と実質 考えれば、そうした最適制御理論の手法だけで基 費用関数は共に単調増加的でかつ逓増的関数と 礎的な理論分析が十分だとは考えられない。 仮定されている。また、総消費c や生産資材・燃料 それゆえ、最適制御理論 の手法だけでなく、こ 等 の 生産投入量 は全 て外国 から輸入され、当該 れが困難 な、マクロ経済 の 制御能力が 最適では 国の輸出はもっぱら再生天然資源のみであると想 ないような場合でも参考になるそれ以外 の動学的 定されている(人口や労働力については分析でほ 手法で、 (再生)天然資源依存経済に見られる当 とんど無視されている)。 該問題を扱う基礎的なモデル分析 は有意義であ 再生可能資源に関する動学方程式 は、生態学 り、当該問題に日々直面する経済 が実在する限り、 や農林・水産学でよく用いられるロジスティック型 動学的な経済運営にとって示唆的なより多くの考 を単純化した(ある意味で一般化した)方程式で 察が必要であろう。その最適制御以外 の方法とは、 あり、Plourde 〔1970〕やClark 〔1976( 〕Chap.1)な 自動制御的な動学的安定化のそれであり、景気循 どのように、応用的な考察では一般的によく用いら 環理論 や 経済成長理論 でよく用いられる動学的 れている形式の関数である。再生(可能)資源ス 安定性分析に関する周知の古典的な方法である。 トック量をNと表 せば、この状態方程式は次のよ したがって、以下での考察は、当該の(再生)天然 うに想定される。 資源依存経済について、こうした古典的手法でそ の持続可能性の動学的条件を経済学的に明らか 44 (1.2) N = g(N)–q, g(0)=0, g´(N̂)= 0 > 0, for 0 < N̂ < ∞, g˝ < 0, N = > 0. q= にし、かつ派生的なマクロ経済学的分析と解釈を 展開する。 Rauscher〔1989〕のモデルは、小国を前提し、 対外債務と再生資源の 存在量を状態変数とする ただし、g(N)は再生資源の再生関数(regeneratoin 比較的に単純化された2つの 動学方程式に基 づ function)を表し、その微分係数 g´≡dg(N)/dN いている。累積対外赤字、あるいは対外債務(存 は、 Nの範囲で正負または0のいずれの符合も取り 4 在量)をDとし、この時間変化率Dが、D の利子支 得るが、逓減的な関数と想定されている。つまり、 払い分と、再生資源輸出に伴う貿易余剰との差に g˝≡d2 g/dN2<0と仮定されている。 qは、開発さ よって決まるものと想定されている。つまり、財は れる再生資源のフロー量を表している。 輸入財をニュメレールとして 計測されるものと仮 Rauscher〔1989〕は、これらの2つの蓄積方程 f D)で与 定され、総消費量をcとし、D の利払いが( 式の下で、新古典派 の最適成長理論などのように、 えられ、再生資源の輸出量をq、この相対価格をp、 輸入される消費 から得られる効用フローの 割引 また、その実質費用をκ (q)で表す。当該の対外債 現在価値の 総和を最大化 する最適なcとqの 経路 務 の 蓄積方程 式 は 次 のようになる(Rauscher を求める動学的最適化問題を扱い、上述のトレー 〔1989〕, p.58)。 対外債務と再生産可能資源輸出の動学的安定性 ド・オフ的な一義的最適経路 の 存在を証明して 鈴木康夫 167 いる。また、その動学的最適条件として、再生資源 開発 のロイヤリティ(p–κ´)の成長率 がf ´–g´に等 II 再生 (可能)資源輸出と 対外債務 の動学的体系と 長期均衡 しいことが導 かれ、もしDとNが十分大でf ´>g´と なるならば、そのロイヤリティが時間を通じて上昇 し続けるように最適に再生資源開発 が行われると 当該のモデル経済は( 、1.3)と (1.4)を伴う (1.1) いうことが 必要になる(Rauscher〔1989〕,p.60: と(1.2)の動学的連立体系に従って運行するわけ Proposition 1)。 だが、こうした体系は非線型の連立常微分方程式 以下の考察では、Rauscher 〔1989〕とは異なり、 であり、この一意な解の存在を保証するために (や 上述のように最適制御理論の方法を用いずに、替 や強い条件だが)、この連立体系の右辺 が数学的 わりに自動制御的な動学的安定性分析 が 採用さ な意味でリプシッツ条件と q、 (つまり諸関数 g(N)、 れ、上の2つの状態方程式の動学的均衡点に関し f(D)、cについて)C2 級であるという基本的な性質 て、再生天然資源とマクロ経済 の 持続可能性 の を充 たすものと前提しておく。その 体系の 長期均 分析が展開される。このために、以下では、総消費 衡点( N*, D*)が、N*≠N̂ であると 仮定 すると、 cと再生資源開発フローqを状態変数 に 基 づき自 N=D =0で 特徴付けられる。より詳しく分析 する 動で組み込まれた連続的なフィードバックで決ま ためにはその 体系の右辺についてのヤコビ 行列 J る変数 (広義の制御変数)と想定し、次のような関 が必要だから、これを計算して提示しておく。 無消費とする)。 >q= > 0. (1.3) q = q(D, N), q(D, 0) = 0, N = > 0. (1.4) c = c(D, N), c(D, 0) = 0, D = 4 Ï g´– Ô (2.1)J ∂q – ∂q ∂D ∂N Ô =Ô Ô ∂q ∂c Ô (κ´–p) + Ó ∂N ∂N f´+(κ´–p) ∂q ∂c + ∂D ∂D Ï Ô Ô Ô Ô Ô Ó 数で与えられるものと仮定する (ただし無生産では 4 次節以下では、この (1.3)等を伴う (1.1)と (1.2) ただし、当該の基本体系である、 (1.3)と(1.4) の動学的連立体系の持続可能性について、とりわ を伴う (1.1)と (1.2)で、このヤコビ行列 J の第1行 け、その長期均衡点とその動学的安定性について 目は、Nの右辺についての偏微係数であり、この J の基礎的な分析が展開される。同様にqの最適制 の第2行目はD の右辺についての 偏微係数である。 御 (だけ)を困難として、再生資源の零細的企業に g、qとc の偏微係数の符合が確定していれば、その よる競争的輸出 の 場合に総消費のマクロ経済的 ヤコビ 行列Jの諸要素を構成 するほとんどの 偏微 な最適制御問題とその持続可能性の経済的合理 係数の符合が確定するから、残りの条件を補えれ 性を考察した拙稿(鈴木〔1993〕)もある。以下の ば、その体系の(連続微分可能な)右辺の特異点 考察では、最適制御問題ではなく、あくまで当該 で陰関数定理を適用でき、当該 の 連立体系 の 長 の状態方程式体系の動学的安定性という基本的 期均衡点の存在が保証される。 な性質の解明が中心的かつ主な内容となっている。 すなわち、当該の基本体系である (1.3)と (1.4) 4 4 44 44 を伴う(1.1)と (1.2)について、N = D = 0の近傍 でこれらの右辺を考え、上記の諸仮定を考慮する と、 N*≠N̂の仮定 からg´の符合が確定 (連続的に) 可能であり、∂q/∂Nの符合 が定義域で与えられれ 168 彦根論叢 2011 spring / No.387 ば、 (2.1)Jの第1行第1列要素 (≡ J11)の偏微係数 企業 の資源開発を促進する助成・規制緩和政策 の 符 合 が 確 定 で きる。そ の 第1行 第 2 列 要 素 が 採用されると考えられるので、∂q/∂D>0と想定 (≡ J12)の 偏微係数 の 符合も、∂q/∂D の 符合を できるから (これにマイナスを付して)、J12<0となる。 定義域 で与えれば 確定 できる。その 第2行第1列 同様に、Jの第2行でc 等 の 偏微係数について考 ∂c/∂Nと 要 素( ≡ J21)の 偏 微 係 数 の 符 合 も、 える。 ∂c/∂Nの符合だが、再生資源が増大すると、 ∂q/∂Nの符合を定義域で与えて、かつ当該の近傍 資源開発量に依存している経済 では生産現場で で(連続的に)p≠κ´が成り立てば、やはり確定で 発生する余裕 が所得 への楽観的な態度に波及し、 きる。その第2行第2列要素 (≡ J22)の偏微係数の 経済全体でも余裕が生まれ、総消費を増やそうと ∂c/∂Dと∂q/∂Dの符合を定義域で与えて、 符合も、 する傾向が生まれるかもしれない。政府も輸出増 かつ当該の近傍で(連続的に)p≠κ´が成り立てば、 加の気運により付加価値増加分と (累積)財政赤 やはり確定することができる。 字 の削減を期待 するので、政策的にも楽観的とな そこで、順番に、 (2.1)のJの第1行でqの偏微係 るならば、政府 の消費も緩和されるので、総消費 ∂q/∂Nの符合だが、資源 数について考える。まず、 を規制することがないならば、∂c/∂N>0と想定で が増大すると、利益を追究する企業は資源開発量 きる。反対に、再生資源が減少するときには、政府 を増やそうとするだけでなく、政府も輸出増加によ が悲観的で緊縮政策を行うとすれば、民間の消費 る付加価値増加分を用いて (累積)財政赤字を削 が 余り反応しないときでも、政府 の公共消費を操 減できるので政策的にも都合 がよいから、定義域 作して、ある程度 は政策的に調整 できると考えら では∂q/∂N>0と想定できる。また、N*≠N̂の 仮定 れるから、やはり∂c/∂N>0と仮定される。 からg´は正負いずれかを取るので、これらの 差し また、当該国を小国とする前提 から、当該の再 引きの結果で J の当該要素の符合が決まるが、企 生資源と当該の輸入財の両方の国際的市場にお 業 の自由競争的な私的資源開発 はしばしば過度 いて、当該国の企業は完全競争的な存在と想定さ になりがちなので、g´よりも前者qの 偏微係数の絶 れるので、企業行動において(輸出財価格と輸入 対値 が大きいと考えられるから、g´>0となる資源 財価格 の両方がパラメータと想定し)p>0 は所与 ∂q/∂N>0が大きいものと 開発促進的な場合でも、 のパラメータであり、少なくとも限界収入 が限界 仮定すると、J11<0とできる。あるいは、g´<0となる > 0で 費用以上であると考えられるから、(p–κ´) = 資源保全促進的 な場合 には、このとき∂q/∂N>0 あるものと想定できる。ただし、もしも、再生資源 が小さいものと仮定してさえも、J11<0とできる。そ 開発 の利潤 が0となるならば、この極端な場合に れゆえ、 ∂q/∂N>0が相対的に大きいものと仮定す は、その 要素 が∂c/∂N>0だけとなるので、その 符 れば、g´の符合がどうでも、いずれにしてもJ11<0と 合は明らかに正となる。しかしながら、再生資源開 できる。 発 の利潤が0となるならば、再生資源開発に完全 一方、同じ (2.1)で J の第1行で、この第2列目要 に依存する当該国は対外債務を全く返済できなく 素を構成 する偏微係数 ∂q/∂D の 符合 は、 (累積) なり、消費のための輸入と利払いで累積対外債務 対外債務 が増大 すると、長期的な対外返済 の 負 が膨張しつづけ、やがて国際的にも国内的にも破 担が増大 するので、政府 は D を削減可能な方策 綻してしまうので、 ( モデルで 無視されている労働 を施行すると考えられるから、例えば現実的には、 力 への 賃金支払いも想起 すれば一層そうである 対外債務と再生産可能資源輸出の動学的安定性 鈴木康夫 169 が)この再生資源開発利潤 0の想定は極端過ぎる J21なので、これを計算して整理すると次のように ので余りにも非現実的である。そこで、以下では、 なる。 再生資源開発の利潤が0とならず、むしろこの正利 潤の場合を想定し、単位利潤が(p–κ´)>0となるも (2.2)|J|=( g´–∂q/∂N)J22 のと仮定する。 +{(κ´–p)∂q/∂N+∂c/∂N}∂q/∂D この場合、単位利潤が極端な値ではなく、相対 = g´・J22 –∂q/∂N( ・ f´+∂c/∂D) 的に小さいと前提しても、もしも∂q/∂N>0が大きく、 +∂c/∂N・∂q/∂D ∂c/∂N>0が小さいならば、J21の符合は負となり得 = g´[ ・ { f´–(p–κ´)・∂q/∂D}+∂c/∂D] るが、反対に、もしも∂q/∂N>0が小さく、 ∂c/∂N>0 –∂q/∂N・ ( f´+∂c/∂D)+∂c/∂N・∂q/∂D が大きいならば、J21の符合は正となり得る。それゆ え、J21の符合は、政府による資源開発 や財政支出 こうして、当該の 基本体系の右辺で、この定義 の政策しだいで正負または0のいずれにもなり得る。 域 の内部に、それが0となる点を 含 む 近傍を想定 Jの 第 2 行目 で、J22 の 符 合 につ いて 考 える。 し、N≠N̂とp≠κ´の仮定 から、 N̂を含まないならば、 ∂c/∂Dの符合は、 (累積)対外債務が増大すれば、 かつ、その基本体系の定義域内部( したがってそ 長期的な対外返済 の 負担 が増大 するので、政府 の近傍でも)で、ヤコビ行列Jの各要素の符合が諸 はDを削減可能な方策を施行 すると考えられるか 関数の 偏微係数の符合に関する上記の諸仮定 か ら、政府消費の抑制や(民間の)総消費を抑制・ ら確定できるとき、さらに、そのヤコビ 行列式が0 規制 するために財政引締め政策 や課税、規制 が にならないならば、古典的な陰関数定理が適用で 採用されると考えられるので、定義域 で∂c/∂D<0 きるから、これによって、その基本体系の長期均衡 と仮定できる。また、仮定 から f´>0であり、J21の 点がその近傍で一意に存在することになる。このよ 想定等から(p–κ´)>0と仮定されるので、これらを うに得られた内容を、次の補題にまとめておく。 まとめると、J22は正負または0のいずれにもなり得 るが、もしも、f´>0が小さいか、または、 ∂c/∂D<0 補題1 基本体系 ((1.3)と (1.4)を伴う( )1.1)と の絶対値や∂q/∂Dが大きい場合には、J22<0とでき (1.2)の右辺 がN≠N̂かつp≠κ´の下で、正値およ る。その反対の 場合にはこの 逆もまた想定できる び負値をとることができ、これらを 含 む 近傍 が定 けれども、しかしながら、債務返済利子率の変動 義域内部に含まれるとき、この近傍において、諸偏 が国際的に 極端でないならば、総消費 で政府 の 微係数の仮定 からJ11、J12、J21、J22の符合を確定 公共消費を調整し∂c/∂D<0の絶対値を政策的に できるならば、かつ|J|≠0ならば、長期均衡点 ( N*, ある程度大きくできるはずであり、また、 ∂q/∂Dが D*)が存在する。同時に、その近傍で、この長期 大きくなるように企業への指導や資源開発促進の 均衡点は局所的に一意である。■ 産業助成や規制緩和を行うことで政策的にマクロ 的な水準でも十分調整できると考えられるから、こ れを仮定すればJ22<0とできる。 ここで、ヤコビ行列Jの行列式|J|の値の大きさに ついて確認しておく。すなわち、|J|=J11・J22 –J12・ 170 彦根論叢 2011 spring / No.387 III 再生資源輸出と対外債務 の 命題1が成立すれば、この長期均衡点は鞍点だ 基本体系 の動学的安定性 から、状態変数の初期値に対して一義的な、また は一本 の軌道で 表現される安定的な経路あるい この節では、基本体系について前節で述べられ は安定化経路が存在する。また、このとき、通時的 た部分的な考察を整理し、上述の諸偏微係数の なフィードバック的な経済政策によって、経済状態 各々の仮定を当てはめて、J11、J12、J21、J22の符合 は 動学的に安定化されその 均衡点へと接近し続 を確定し、かつ|J|≠0の成立の可否を検討すること けることになる(局所的に確認された鞍点の大域 で、基本体系における補題の適用の可能性とその 性は標準的な微分方程式論でよく知られている性 動学的安定性が分析される。 質である)。 基本体系が基づく経済が、再生資源量に敏感に その安定化経路 は、再生資源開発促進的経済 反応する経済政策 で 十分 に制御可能であり、 (再 政策に基づくから、つまり、なるべく再生資源の開 生)資源開発促進的であるとき、再生資源量が比 発をしてマクロ経済を良くしようとする場合であり、 較的に少なくg´>0、∂q/∂N>0と∂q/∂D>0があまり 換言 すれば、対外債務を再生資源開発で十分 に 小さくなくあるいはある程度大きく、(κ´–p)<0、絶対 埋め 合 わせようとすることであるから、命題1の 場 値 が 十分 に 小 さい∂c/∂D<0と( か なり 小 さい ) 合は、Rauscher〔1989〕が想定した場合とほぼ同 ∂c/∂N>0から、|g´|<∂q/∂N、|(κ´–p)∂q/∂N|> |∂c/ じであることがわかる。 ∂N|、|∂c/∂D|<| f ´|<|(κ´–p)∂q/∂D|となるならば、こ それゆえ、命題1は、その基本体系の動学的安 のとき、J11<0、J12<0、J21<0、| f ´|<|(κ´–p) ∂q/∂D 定性を確保できる性質の 範囲に含まれる経済政 +∂c/∂D|となりJ22<0、および、|J|<0となる。したがっ 策なら許容され、その中で採択された性質の経済 て、次の命題が成立するのは明らかである。 政策に応じて安定化経路が決まるわけだから、少 しは自由度がある。他方、Rauscher 〔1989〕のよう 命題1 基本体系 ((1.3)と (1.4)を伴う( )1.1)と な最適制御で決まる唯一 の最適経路上を経済 が (1.2)の右辺 がN≠N̂かつp≠κ´の下で正と負にな 進 むようにすべき政策運営は窮屈であり、あるい る (2つの)点とこれを含む近傍が定義域内部に含 は精密でなければならないから、やはり命題1に比 まれるとき、この近傍において、資源開発促進的 べれば (相対的に)難しい方法といえる。まさに、こ な経済政策により、g´>0、 ∂q/∂N>0と∂q/∂D>0が うした難しい経済政策 の方法を用いなくても、持 ある程度大きく、(κ´–p)<0、絶対値が十分小さい 続可能な経済状態を達成 できるということを、命 ∂c/∂D<0と か な り 小 さ い∂c/∂N>0 か ら、| g´| 題1は示唆している。 <∂q/∂N、|(κ´–p) ∂q/ ∂N|>|∂c/∂N|、|∂c/∂D|<| さらに、命題1の場合に、再生資源を取り巻く環 f ´|<|(κ´–p) ∂q/∂D|となる なら ば、長期 均 衡点 境の外生的な変化で生じるわずかな影響を、モデ ( N*,D*)が存在する。同時に、その近傍で、この ル上では基本体系に及ぼすごく小さな摂動と解釈 長期均衡点は局所的に一意であり、鞍点となる。さ するならば、こうした摂動により影響が出ても、長 らにもしも、その長期均衡点が大域的に唯一存在 期均衡の鞍点の (標準的な微分方程式論で言うと するときも、この均衡点は鞍点である。■ ころの) 「構造安定性」から、相空間のベクトル 場 の位相をほとんど変えないので、その長期均衡点 対外債務と再生産可能資源輸出の動学的安定性 鈴木康夫 171 へと向かう安定化経路全体をわずかに変更させる 命題 2 基本体系((1.3)と (1.4)を伴う) (1.1) に過ぎない。上記の経済政策がこのわずかな変更 と(1.2)の右辺 がN≠N̂かつp≠κ´の下で正と負に に対応できれば、経済状態は長期均衡へ到ること なる (2つの)点とこれを含む近傍が定義域内部に ができ、長期均衡点では状態変数の定常状態 が 含まれるとき、この 近傍において、資源開発促進 維持されるので、持続可能な経済状態が達成され ∂q/∂N>0と∂q/∂D>0 的な経済政策により、g´<0、 るのである。 が十分に小さく、 (κ´–p)<0、絶対値が十分に大き 次に、命題1とは異なる性質の 経済政策 の可能 い∂c/∂D<0とある程度大きい∂c/∂N>0から、| g´| 性を検討してみよう。そこで、再生資源開発促進 <∂q/∂N、(κ | ´–p)∂q/∂N|<|∂c/∂N|、|∂c/∂D|> 的な経済政策とは反対に、再生資源保全促進的 | f ´|>|(κ´–p)∂q/∂D|となるならば、長期均衡点 な経済政策に基づく経済 の場合を考えることにす ( N*, D*)が存在する。同時に、その近傍で、この る。この場合、十分に資源保全 が達成できている 長期均衡点は局所的に一意であり、漸近安定とな ため、再生資源を 大切 に開発しようとするので、 る。さらにもしも、その 長期均衡点 が大域的に唯 ∂q/∂N>0が小さいものと考えられる。そうであると 一存在するとき、この均衡点は大域的に漸近安定 しても、経済 の 基本的な環境 の 在りようによって となる。■ は、再生資源量 N自体 は、命題1のように 比較的 に小さい場合もあれば、あるいは、反対に比較的 命題 2が成立すれば、この長期均衡点は鞍点や にまたは十分 に大きい場合もあり得る。再生資源 過心点ではなく、結節点や渦状点などであるから、 量 N自体が大きい場合は、g´<0である可能性が高 状態変数の初期値に対して無数の軌道で表現さ い。この場合には、次の命題 が得られる。 れる漸近安定な経路が存在する。また、このとき、 基本体系が 基 づく経済 が、再生資源量に敏感 通時的なフィードバック的な経済政策によって、経 に反応 する経済政策 で 十分 に 制御可能 であり、 済状態 は動学的にあるいは漸近的に安定的にそ (再生)資源開発保全的であるとき、再生資源量 の均衡点へと接近し続ける。 が比較的に多くg´<0ならば、 ∂q/∂N>0と∂q/∂D>0 その漸近的に安定な経路 は、再生資源保全促 が十分に小さく、(κ´–p)<0、絶対値が十分に大き 進的な経済政策に基づくから、つまり、なるべく再 い∂c/∂D<0と、あ る 程 度 大 きい∂c/∂N>0 か ら、 生資源の開発抑制を行うが、同時にマクロ経済も |(κ´–p)∂q/∂N|<|∂c/∂N|、|∂c/∂D|>| f ´|>|(κ´– 良くしようとする場合であり、換言すれば、対外債 p)∂q/∂D|となるならば、このとき、J11<0、J12<0、 務を再生資源開発で十分 に埋め 合 わせず、時に J21>0、| f´|<|(κ´–p)∂q/∂D+∂c/∂D|となりJ22<0、 は我慢して再生資源量の回復を待ち、動学的なま および、Jのトレースが負であり、また|J|>0となる。 たは長期的な利益を重視するように努めるのであ これらは、常微分方程式 の動学的安定性に関す る。この命題 2の場合は、Rauscher 〔1989〕や上の るオレッチの定理(和田〔1989〕,pp.44-50)の成 命題1が想定した場合と大きく異なっているのがわ 立に十分である。したがって、次の命題 が明らかに かる。 成立する。 それゆえ、命題 2の漸近安定な経路 は、初期値 に対して唯一存在するRauscher〔1989〕の最適経 路 や、それほどではないまでも動学的安定性を確 172 彦根論叢 2011 spring / No.387 保できる性質の範囲で 経済政策 の 特性を特定化 して運営しなければならない命題1の 安定化経路 よりも、遥 かに自由度が高いことがわかる。つまり、 命題 2の経済政策運営方法は、Rauscher〔1989〕 や 命題1に比べれば、かなり易しい方法といえる。 まさに、こうした難しいまたは 比較的に難しい 経 済政策の方法を用いなくても、持続可能な経済状 態を達成できるということを、命題 2は示唆してい る。こうした 実際的な政策的意味では、どちらも ⦿Rauscher,M.(1989) /Foreign Debt and Renewable Resources / Metroeconomica 4,-. ⦿Seierstad,A.,and K.Sydsaeter(198) / Optimal Control with Economic Applications / North-Holland. ⦿鈴木康夫 (1993) /対外債務と再生可能資源の 零細的輸出についてのノート 『熊本法学』第 76号/ 熊本大学法学会. ⦿和田貞夫 (1989) /動態的経済分析の方法/ 中央経済社. 実際の(マクロ)経済に適用できるものであるなら ば、命題1よりも命題 2の方が 優れているのは明ら かであり、格段に高く評価できる。 さらに、命題 2の場合にも、命題1と同様に、再 生資源を取り巻く環境の外生的な変化で生じるわ ずかな影響を、基本体系に及ぼすごく小さな摂動 と解釈するならば、こうした摂動により影響が出て も、長期均衡の「漸近安定性」が持 つ「構造安定 性」という数学的属性から、相空間のベクトル 場 の位相はほとんど変わらないので、その長期均衡 点へと向かう漸近安定経路(群)の全体をわずか に変更させるに過ぎない。上記の経済政策 がこの わずかな変更 に対応できれば、経済状態 は長期 均衡へ到り、状態変数の定常状態である、持続可 能な経済状態が達成かつ維持されるのである。 参考文献 ⦿Clark,C.W.(19) / Mathematical Bioeconomics: The Optimal Managementof Renewable Resources / Wiley. ⦿Dasgupta,P.S.,R.Eastwood,and,G.Heal(198) / Resource Management in a Trading Economy / Q.J.E., 92,29-3. ⦿Plourde,C.G.(19) / A Simple Model of Replenishable Resource Exploitation/ A.E.R., ,18-22. 対外債務と再生産可能資源輸出の動学的安定性 鈴木康夫 173 Dynamic Stability in Exports of Renewable Resources and Foreign Debt Yasuo Suzuki The author has tried to study and analyze the problems of sustainability and dynamic stability in the long-run equilibrium of a dynamical system in which there are two differential equations with regard to population growth: a kind of renewable resource to be exploited and exported by domestic competitive firms and the accumulation of foreign debt through the international trade of that resource, and imported consumption goods and firms’ user costs in a small country. The fundamental model body of the dynamical system is formulated by utilizing a macroeconomic model of Rauscher [1989] with some alterations. Rather than using his method of the optimal control theory, the author altered the control variables by the functions that are dependent upon state variables and that have some economic possibility of a plausible value range in differential derivatives. The main results are two propositions obtained through the study of the fundamental dynamical system, which are equations (1.1), (1.2), (1.3), and (1.4) with relative assumptions and functions. Proposition 1 is a case similar to the result of Rauscher [1989], which asserts that the long-run equilibrium of the system becomes a saddle point that provides a unique path to approaching and reaching the one and only equilibrium point, at least in the local, when the economy tends to very positively exploit the resource to a large or even excessive 174 extent. In contrast to Proposition 1, Proposition 2 asserts that the long-run equilibrium of the system becomes an asymptotically stable point that provides many paths to approaching and reaching the one and only equilibrium point, at least in the local, in a steady state (and also a more dynamic sustainable state than in Proposition 1) when the economy tends to conservatively exploit the resource to a moderate extent. The many paths make it much easier for the government to choose one path in practical cases such as through ordinary economic policies. THE HIKONE RONSO 2011 spring / No.387 Dynamic Stability in Exports of Renewable Resources and Foreign Debt Yasuo Suzuki 175