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バディキッズ・アドベンチャー・チャレンジ・プログラム
スポーツ科学研究, 13, 28-40, 2016 年 バディキッズ・アドベンチャー・チャレンジ・プログラムにおける自己成長 -修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチによる自己成長のプロセスモデルの探索- Self-growth in the Buddy Kids Adventure Challenge program: Search for the process model of self-growth using the modified grounded theory approach 遠藤大哉 1) ,青柳健隆 1,2) ,岡浩一朗 3) Hiroya Endo 1 ) , Kenryu Aoyagi 1, 2 ) , Koichiro Oka 3 ) 1) 早稲田大学スポーツ科学研究センター 2) 3) 1) 2) 関東学院大学経済学部 早稲田大学スポーツ科学学術院 Waseda Institute for Sport Sciences College of Economics, Kanto Gakuin University 3) Faculty of Sport Sciences, Waseda University キーワード:野外教育,質的研究,達成感,フロー経験,自尊感情 Key words: outdoor education, qualitative study, sense of accomplishment, flow experience, self-esteem 【抄 録】 子 ども達 の自 然 体 験 活 動 不 足 が深 刻 な問 題 となっており,今 日 ,多 くの学 校 や社 会 教 育 団 体 ,民 間 団 体 ・組 織 によって様 々な自 然 体 験 事 業 が展 開 されているが,実 施 期 間 の短 さ,一 貫 したプログラム作 りの欠如,プログラム開発の不足,指導者の不足等の問題点が指摘されている. 遠 藤 ら(2015)は,その課題 解 決 に向 けて「長 期 継続 型 」で「幅広 い」,「本物 の自 然 」の中 で行 う活 動 を基 に「バディキッズ・アドベンチャー・チャレンジ・プログラム」を開 発 ・実 践 し,そのプログラムが子 どもの 成長にとって有益である可能性を提示し,プログラムにおける自己成長仮説モデルを試案したが,プログ ラムの提 供 者 による主 観 的 な仮 説 モデルにとどまるため,より科 学 的 で客 観 的 な視 点 による検 討 が課 題 として残されていた. 本 研 究 では,バディキッズアドベンチャー・チャレンジ・プログラムに参 加 した子 どもの視 点 から,質 的 研 究 手 法 を用 いて,自己 成 長 に影 響 する要 因要 素 の関 係 性 と自 己 成長 に至 るまでのプロセスを明 らか にすることを目的とした. 平成 26 年度バディキッズ・アドベンチャー・チャレンジ・プログラムに参加登録した 12 名の参加者に対 してインタビュー調 査 を実 施 した.インタビュー内 容 をすべて逐 語 化 し,コード化 したものから分 析 メモを 作成してデータをカテゴリに分類・整理し,カテゴリ同士の関係を検討した.その結果,42 のタイトルと 13 のカテゴリが生 成 された.実 際 にプログラムに参 加 した子 ども達 がどのように変 容 したかに注 目 し,自 己 成長モデルの改良を試 みた結果,【達成感】(経 過中の達 成 感)を得る経 過中に,【逆 境】の中で困 難を 乗り越える根源的な喜び(【フロー】)を自分で発見する能力などが開発されていくことが確認され,【逆境 の克服要因】に取り組むその時に【フロー】や【熟達】動機によって【モチベーション】が高められるという自 己 成 長 の内 容 とプロセスが明 らかになった.さらにその【モチベーション】は,【自 尊 感 情 】によって高 めら れる可能 性 が示 唆され,自己 成長 仮 説モデルの中に【自尊 感情】を支 える柱 が存 在 することが確 認され た.また自 己成 長 仮 説 モデルに示 されている心の安 全 を保 障 する雰 囲 気 は【仲 間の存 在 】,【帰 属 意 識 の高さ】,【スタッフの存在】によってつくられ,自分達の居場所を自分達で大切にしていることが確認され 28 スポーツ科学研究, 13, 28-40, 2016 年 た.さらに本 研 究 によって【逆 境 の克 服 要 因 】,【仲 間 の存 在 】,【スタッフの存 在 】,【帰 属 意 識 の高 さ】, 【自己成長の実感】を自己成長の影響要素とする自己成長モデルが作成された. スポーツ科 学 研 究 , 13, 28-40, 2016 年 , 受 付 日 :2015 年 12 月 19 日, 受 理 日 :2016 年 5 月 25 日 連 絡 先 :遠 藤 大 哉 359-1192 所 沢 市 三 ヶ嶋 2-579-15 早 稲 田 大 学 スポーツ科 学 研 究 センター [email protected] 部 科 学 省 ) は,青 少 年 の意 欲 を高 めるために重 Ⅰ.目的 視すべき視点と方策のひとつとして自然体験を含 子ども達 の自然 体 験 活 動不 足 が深 刻な問 題と なっており(黒 澤 ,2012),自 然 体 験 ・生 活 体 験 が む多 様 な体 験 活 動 の推 進 を取 り上 げいる一 方 で, 豊 富 な子 どもほど,道 徳 観 や正 義 感 があるという 「公 立 の青 少 年 教 育 施 設 においては,近 年 の自 調 査 結 果 ( 独 立 行 政 法 人 国 立 オリ ンピック記 念 治 体 の財 政 状 況 悪 化 等 の理 由 による指 導 者 数 青 少 年 セン ター ,2005 ) からも , 子 ど もの生 活 環 や事 業 数 の削 減 ,施 設 の統 廃 合 ,指 定 管 理 者 境にいかに自然との関わりが重要であるかが理解 制 度 導 入 による指 導 ノウハウやプログラムの引 継 できる. ぎ問 題 などによる教 育 効 果 の高 い体 験 活 動 の提 平成 8 年に報告された「青少年の野外教育に 供 の維 持 が課 題 」 であり,「 公 立 施 設 等 をめぐる 充 実 について」によれば,従 来 から多 くの学 校 や 状 況 の変 化 にも対 応 しつつ,公 立 施 設 などの事 社 会 教 育 団 体 ,民 間 団 体 ・組 織 によって様 々な 業 の質 や指 導 者 の専 門 性 を高 めるよう,これまで 自 然 体 験 事 業 が展 開 されているが,実 施 期 間 の 以 上 にモ デ ルとなる 体 験 活 動 プ ロ グ ラム 開 発 や 短 さ,一 貫 したプログラム作 りの欠 如 ,プログラム 指導 者育 成 事業 に力を注ぐことが強 く期待 される」 の開発不足,指導者の不足等の問題点が指摘さ と記 している.公 立 の青 少 年 教 育 施 設 の利 用 状 れている(青 少 年 の野 外 教 育 の振 興 に関 する調 況 や現 況 をもって,野 外 教 育 組 織 全 てを表 して 査 研 究 協 力 者 会 議 ,1996).報 告 は,実 施 期 間 いるとは言 いがたいが,全 体 的 傾 向 として捉 える の短 さについて,平 成 5 年 の社 会 教 育 調 査 (文 ことができるだろう. 部 科 学 省 )のデータから全 国 の公 立 青 少 年 教 育 遠 藤 ら( 2015)は,その課 題 解 決 のために「長 施設の宿泊期間別利用者数が 1~2 泊の利用が 期 継 続 型 」で「幅 広 い」,「本 物 の自 然 」の中 で行 全体の 9 割以上(1 泊が約 70%、2 泊が 22%)で う活 動 「バディキッズ・アドベンチャー・チャレンジ・ あることから全 体 的 傾 向 として短 期 間 に止 まって プログラム」を開発した.2014 年度のプログラムに いる現 状 であるとし,一 貫 したプログラム作 りの欠 参加した小学生 1~中学生 3 年生まで 49 名)と 如 については,ねらいの曖 昧 さ,指 導 方 法 ・指 導 その保 護 者 を対 象 にプログラムの感 想 について 自 由 記 述 によるアンケート調 査 を実 施 した結 果 と 形 態 が画 一 的 であり,実 施 可 能 な活 動 種 目 を羅 プログラム実 施 者 の観 察 記 録 をもとにプログラム 列 するだけのプログラムではあってはならないとし の効 果 検 証 をした.その結 果 ,プログラムの実 践 ている.平成 20 年の国公立青少年教育施設の が自 尊 感 情 の向 上 や感 動 体 験 の獲 得 ,道 徳 心 現 況 調 査 結 果 によると、国 公 立 青 少 年 教 育 施 設 の向 上 など子 どもの成長 にとって有 益 である可 能 の利用状況について 2 泊未満の宿泊状況は,国 性 を示 し,さらにプログラムにおける自 己 成 長 仮 立が 83.8%,公立が 93.3%とその状況は平成 5 年 説モデル(図 1)を試案したが,この仮説モデルは, 時 とほとんど変 わっていない.またプログラム開 発 プログラム提 供 者 による主 観 的 な仮 説 モデルにと や指 導 者 不 足 の問 題 については従 来 の課 題 に どまるため,より科 学 的 で客 観 的 な視 点 による妥 加 え,新 たに次 のような問 題 が生 じている.平 成 当 性 の検 討 が課 題 として残 されていた.そこで本 19 年の中央教育審議 会「次代を担う自立した青 研究は,調 査対 象者 を主観 的変 容 対象である参 少 年 の育 成 に向 けて―青 少 年 の意 欲 を高 め,心 加 者 とし,質 的 研 究 手 法 を用 いて,自 己 成 長 の と体 の相 伴 った成 長 を促 す方 策 について―」(文 プロセスとその要 因を明 らかにし,より科 学的で客 29 スポーツ科学研究, 13, 28-40, 2016 年 観 的 な視 点 から自 己 成 長 モデルを作 成 すること て努 力 する,困 難 に出 会 ってあきらめないなど向 を目的とした. 上 心 や努 力 に関 する」 自 己 成 長 性 という因 子 を 手 島 (2010)は,「野 外 教 育 は様 々な環 境 や目 抽出し,この因子が「自 己概念の一 側面を表し困 的 ・内 容 があるが,教 育 の一 環 として,社 会 的 状 難 な場 面 であってもそれを克 服 できるという自 信 況 や児 童 期 ,青 年 期 ,不 登 校 の子 ども達 などそ を表 す」としている.幼 児 期 の自 然 体 験 効 果 につ れぞれの年 代 ,それぞれの集 団 にある発 達 課 題 いて保 護 者 から見 た子 供 の変 容 を検 証 した井 原 を見 極 め,野 外 での活 動 を構 成 していくことにな (2008)は,キャンプ後 「自 己 成 長 は『みんなので る.その中で指導スタッフは何を準備 し,何を感 じ きないような難しいことに挑戦する方 だ』,『気持 ち 取 っていくかを考 え,目的 に向 かい意 図 的 にアプ をコントロールできる方 だ』,『自 分 の意 見 を言 うこ ローチしていく.その意 図 的 なアプローチを実 現 とができる』が特 に高 い向 上 を示 した」ことを報 告 していくためにも,現 代 の子 ども達 や青 年 達 がど している.また,岩淵(2011)は,授業づくりの観点 のように参 加 し,何 を体 験し,何 を学 び得 るのかと から,自己を成長させていくためには,「『わかった』 いう中 身 とプロセスを捉 えることが重 要 である.そ 『 できた』という達 成 感 や成 就 感 を得 る経 験 を積 れに向 けての質 的 研 究 の積 み重 ねが重 要 と考 え むことが重 要 である」と説明 している.自 己 意 識 の られる」(p18)と指 摘 している.また,伊 原 (2009) 心理学の著 者である梶 田(1998)は,自己形成 や は,「これまでの量 的 な研 究 手 法 を用 いた実 証 的 自 己 実 現 に関 する態 度 や意 欲 を「自 己 成 長 性 」 研 究 の積 み重 ねにより,今 日 では冒 険 教 育 プロ と概 括 し,因 子 分 析 によって「達 成 動 機 」,「努 力 グラムの幅広い効果が明らかになっている.しかし, 主 義 」 ,「 自 信 と自 己 受 容 」 ,「 他 者 のまなざしの この手法はプログラム要 因や指導 形 態といった外 意識」が「自己成長性」の基本的な軸であることを 的 な事 象 を独 立 変 数 にし,それを要 因 と捉 えるこ 明 らかにしている.このように、困 難 克 服 して自 己 とは可 能 であるが,プログラム参 加 者 の内 的 な体 概 念 が向 上 すること捉 える一 方 で,未 原 (2014) 験 から 変 容 要 因 を明 ら かにする こと は できない」 は,自己成長を「自己概念,自尊感情など変容し (p8)と指 摘 している.このように,野 外 教 育 研 究 にくい特 性 的 なものでなく,一 皮 むけた成 長 ,ささ における質 的 研 究 の必 要 性 が指 摘 されている. やかな成長」と捉え,ドラマチック体験が自己成長 木 下 (2003)によれば,質 的 研 究 の中 でも,修 正 へ寄与していることを示している.こうした中で,遠 版 グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA) 藤 ら(2015)は,プログラムの実 践 から,自 己 成 長 は,「研 究 対 象 とする現 象 がプロセス的 性 格 をも を「困 難 を乗 り越 えていくこと自 体 に根 源 的 な悦 っている」(p90)研 究 に適 していることから,本 研 びを自 分 で発 見 していく能 力 などが開 発 され,自 究では M-GTA の援用を試みた. 分 の力 で自 分 の能 力 を伸 ばし,生 きる力 を自 分 ところで,自 己 成 長 のとらえ方 は研 究 者 によっ で栽 培 する能 力 のある人 間 になること」と定 義 付 て様 々であり、その定 義 は曖 昧 である.小 ・中 学 けをしている.本 研 究 では,この実 践 的 な自 己 成 生 用 自 然 体 験 効 果 測 定 尺 度 を開 発 した谷 井 ら 長を定義として支持することとした. (2001)は,因子分 析の結果 から,「目標に向 かっ 図 1 バディキッズ・アドベンチャー・チャレンジ・プログラムの自 己 成 長 仮 説 モデル(遠 藤 ら,2015) 30 スポーツ科学研究, 13, 28-40, 2016 年 Ⅱ.方法 者 のサンプリングは,情 報 が豊 かなケースを選 択 1.対象者と対象者が経験したプログラム することができる目 的 的 サンプリングを行 い,分 析 インタビューは平 成 26 年 度 バディキッズ・アド は 12 名 のインタビュー終 了 後 に実施 した.対 象 ベンチャー・チャレンジ・プログラムに参 加 登 録 し 者 の選 定 においては偏 りなく意 見 を収 集 し,対 象 た 12 名の参加者に対して実施した. 者の属性が多様になるように,また 1 年間(24 回 バディキッズ・アドベンチャー・チャレンジ・プロ 中)に 5 回以上プログラムに参加していることに配 グラムは,毎 年年間 20 回程 度実 施 される「長期 慮 し,サンプリングを行 った結 果 ,継 続 年 数 が 2 継 続 型 」で,海 山 問 わず夏 も冬 もバラエティに富 年 未 満 の対 象 者 は該 当 しなかった.対 象 者 は男 んだ「幅 広 い」活 動 を用 意 し,人 工 物 の少 ない 子が 9 名,女子が 3 名,対象者の年齢は,9 歳か 「本物の自 然」の中で,自然の摂理 の中に身を置 ら 15 歳までであった(平均年齢=10.92 歳,標準 く点 に特 徴 があり,自 尊 感 情 の向 上 と感 動 体 験 と 偏差=1.51),小学 3 年生から中学 3 年生までの 道 徳 力 の獲 得 を目 指 して開 発 したプログラムであ 各 年 代 が含 まれており,異 年 齢 集 団 であると言 え る. る.対 象 者 の居 住 地 は関 東 首 都 圏 内 (神 奈 川 県 , 東京都)であった.また,公立学校に通う者(10 名) 本研究では,12 名の対象者のデータを分析し た結果,理論的飽和に達したと判断した.潜在的 と私 立 学 校 に通 う者 (2 名 )が含 まれ,本 プログラ な意見の 9 割程度は 12 名に対するインタビュー ム以 外 にサッカー,テニス,柔 道 ,野 球 ,アイスス で抽 出 されることを示 している先 行 研 究 (Guest, ケート,水 泳 などの活 動 を日 常 的 に実 施 している 2006)もあることから,本研究における 12 名の対 者がいた. 象 者 数 は十分 なサンプル数 であると言 える.対 象 表 1 本 研 究 の対 象 者 No. 学年 年齢 性別 プログラム 他 の活 動 1 中3 15 男 8 水泳 2 小5 11 男 3 サッカー 3 小5 11 男 5 野球 4 小5 11 男 5 空手 5 小4 10 男 3 柔道 6 中1 12 女 6 フィギアスケート 7 小5 11 女 3 なし 8 小5 11 男 4 テニス 9 小4 10 女 4 サッカー 10 小3 9 男 3 サッカー 11 小5 10 男 5 ラグビー 12 小5 10 男 3 体操 好 きですか?」,「他 にどんなことをやりたいです 2.調査手順 1 対 1 の半構造化インタビューを実施した.イン か?」,「もっと一 緒 にやる友 達 を増 やしたいです タビューガイドは,プログラム参加者 5 名に対して か?」,「この先 も続 けたいですか?」等 の質 問 を 1 人当たり約 30 分程度の予備調査を行い作成し 用 い,以 降 は会 話 展 開 に合 わせてオープンエン た(表 2).質問内容は,プログラムの効果,プログ ドに質問を行った. ラムの普及,プログラムの改善についてである.具 インタビューは,プログラムを主催する NPO 法 体 的 にはそれぞれ「 あなたが一 番 印 象 に残 った 人 バディ冒 険 団 の事 務 所 及 び対 象 者 の自 宅 で 活動は何ですか?」,「どんなところに自分の成長 第 一 著 者 が実 施 した.また各 インタビューは対 象 を感 じましたか?」,「プログラムのどんなところが 者及びその保護者の了解を得て録音した.インタ 31 スポーツ科学研究, 13, 28-40, 2016 年 ビューの実施時間は 20~45 分であった.予備調 と,個人情報は厳守されることを説明し,文書によ 査を経て 30 分程度の質問項目を準備したが,対 る同意を得 た.実施 にあたり,事 前に早稲田 大学 象 者 の 中 には 質 問 に 対 す る 回 答 を言 葉 で 表 現 の「人 を対 象 とする研 究 に関 する倫 理 委 員 会 」の するまでに時 間 がかかる者 もおり,実 施 時 間 に開 承諾を得た(2014-236).調査期間は 2015 年 3 きがあった. 対 象 者 及 び その保 護 者 には ,本 調 ~5 月までであった. 査 の趣 旨 ,調 査 内 容 ,参 加 は自 由 意 志 であるこ 表 2 インタビューガイド(質 問 項 目 ) ら独 自 の理 論 を生 成 するもので,看 護 ・保 健 ,ソ 3.分析方法 録 音 したインタビュー内 容 はすべて逐 語 化 し, ーシャルワーク・介 護 ,臨 床 心 理 ,教 育 など専 門 逐 語 録 を作 成 した.逐 語 録 を通 読 し,コード化 を 的 に対 人 援 助 に関 わる実 践 領 域 を中 心 に活 発 検 討 して組 織 だったコード群 (コーディングシステ に展 開 している点 に特 徴 があるとしている.本 研 ム) をつくり,それに 応 じて逐 語 録 を丹 念 に読 み 究 は,子 どもの成 長 を促 す野 外 教 育 プログラムの 返 しながらデータにコードを暫 定 的 に振 り,必 要 開発を目指しており,対人援助の範疇に含まれる に応 じてコーディングシステムを修 正 してコードを と考えられることから,M-GTA の採用は妥当であ 振 り直 す作 業 を繰 り返 した.続 いて,分 析 メモを ると考える. 作 成 してデータをカテゴリに分 類 ・整 理 し,カテゴ 分析は,3 名の研究者によって行われた.第一 リ同 士 の関 係 を検 討 した(分 析 メモについては付 著者 が主 導 で分 析 メモ(タイトル,説 明 ,データ例, 録を参照).分析メモの作成は,関 口(2013)の方 考 察 )の作 成 作 業 を行 い,その都 度 質 的 研 究 方 法 を参 考 に した. こ れは 関 口 が ,木 下 ( 2003 ) の 法に精通した研究者 1 名と確認・協議し,1 名が 提 唱 する修 正 版 ・グラウンデッド・セオリー・アプロ スーパーバイザーとして加 わり,仲 間 同 士 での検 ーチ(M-GTA)の中 で分 析 に使 用 するワークシー 証 を行 った.また,データ分 析 の信 頼 性 と妥 当 性 トを質的研究一般に活用でき,かつ初心者にもわ を高 めるために,分 析 メモを作 成 する際 に考 察 の かりやすい用語に修正したものである.M-GTA に 中 で類 似 のデータ例 だけでなく対 比 例 について ついて木 下 (2003)は,データに密 着 した分 析 か も検討した. 32 スポーツ科学研究, 13, 28-40, 2016 年 Ⅲ 結果 分析メモを整理した結果,42 のタイトルと 13 の カテゴリが生 成 された(表 3).尚 本 文 中 ,【】はカ テゴリ,下 線 はタイトル,〔〕はデータ例 ,<>はイ ンタビュアの発言を示す. 生 成 されたカテゴリで作 成 した自 己 成 長 のプロ セスモデルを結果図として図 2 に示した.プログラ ムに参 加 した子 ども達 は普 段 見 れない景 色 ,普 段 できない体 験 というタイトルを含 む【感 動 】と同 時 に自 然 界 の洗 礼 ,恐 怖 体 験 というタイトルを含 む【逆 境 】と対 峙 し,自 然 への馴 染 み,勇 気 ,怖 いから楽 しい,訓 練 の重 要 性 という概 念 を含 む 【逆 境 の克 服 要 因 】に取 り組 むその時 に夢 中 ・集 中 状 態 ,行 為 自 体 の楽 しさ,あっという間 というタ イトルを含 む,逆 境 を乗 り越 える根 源 的 な喜 びで ある【フロー】やもっと上 手 くなりたい,検 定 の意 味 , 自 律 性 ,上手 くなったらうれしいというタイトルを含 む【熟 達 】によって好 き,意 欲 ,挑 戦 というカテゴリ を含 む【モチベーション】が高 められるという自 己 成 長 の内 容 とプロセスが確 認 された.さらにその 【モチベーション】は有 能 感 ,自 慢 したい,自 信 と いうタイトルを含 む【自 尊 感 情 】によって高 められ ることが示 唆 された.このことから,自 己 成 長 を, 「困 難 を乗 り越 えていくこと自 体 に根 源 的 な悦 び を自 分 で発 見 していく能 力 などが開 発 され,自 分 の力 で自 分 の能 力 を伸 ばし,生 きる力 を自 分 で 栽 培 する能 力 のある人 間 になること」と定 義 できる. 【自 尊 感 情 】 は,明 るい,フレンドリー,自 由 で 気 楽 というタイトルを含 む【良 い空 気 感 】とチーム ワーク,ポジティブな刺 激 ,仲 間 の励 ましあい,思 いやりという概 念 を含 む【仲 間 の存 在 】とスタッフ へのあこがれ,スタッフの優 しさ,スタッフの信 頼 感 というタイトルを含 む【スタッフの存 在 】によって 向 上 することからその重 要 性 が示 唆 された.【良 い空 気感】や【スタッフの存 在】と【仲間 の存在 】は, 心 の安 全 を保 障 し,他 とは違 う,ワイルド・サバイ バル感 ,色 んなことができる,異 年 齢 集 団 ,継 続 性というタイトルを含む【帰属意識の高さ】が【良い 空 気 感 】に影 響 していることが示 された.こうした プログラムに参 加 したことによって,心 の強 化 ,体 力 の強 化 ,社 会 的 スキルが身 についたことを【成 長の実感】として子ども達自身が捉えていた. 表 3 生 成 されたカテゴリとタイトルと説 明 カテゴリ (13) 達成感 モチベー ション 自尊感情 フロー タイトル(42) 説明 結 果 の達 成 感 目 標 を達 成 した時 の喜 び. 山 頂 に着 いたとき嬉 しかった.(9) 1,2,4,6,7, .8,9,12 経 過 の達 成 感 活 動 中 ,経 過 中 の 喜 び. クライミングの時 に足 の置 き場 とか探 しているときとか,楽 しい.(2) 2,3,4 完 全 燃 焼 によ る達 成 感 力 を出 し切 ったこと に対 する達 成 感 . 色 々な経 験 とか,そっちの方 が積 み重 ねっていくから,終 わった時 に ああやりきったんだなあみたいな達 成 感 .(12) 5,12 好き その活動自体が 好 き. サーフィンにはまった.(4) 1,2,4,5,7 意欲 もっとやりたい,もう 一 回 やりたい. ゆっくり滑 ったらできたから嬉 しかった.もっとやりたいと思 った.(9) 5,8,9,11 挑戦 怖 くても失 敗 しても 恐 れずに挑 戦 . 次 は苦 労 せずにとは言 わないけどもうちょっと速 く滑 れたらいいなと いう感 じがあったから滑 った.(11) 10,11,12 有能感 自 分 はできるんだ という気 持 ち. サーフィンの時 とかスキーの時 とか急 なところが普 通 に滑 れるように なった.サーフィンとかだったら,ちょっと高 い波 に乗 れるようになった (9) 2,6,7,9,11 自 慢 したい 自 慢 したい. スキーの時 第 ,10 のすごいところを降 ったこと.自 分 すごいんだなと 思 った.(4) 4,5,9 自信 自 信 がついた. 出 てよかった.最 初 完 泳 できないと思 っていたから,結 局 完 泳 できて 自 信 になった.(2) 2,8,11 夢 中 ・集 中 状 態 夢 中 ・集 中 状 態 に ある時 . クライミング,岩 がハングオーバーしていて足 をかけるところが見 つか らなくて,降 りるのも怖 かったから登 るしかなくて,めっちゃ集 中 して 登 った.(6) 2,3,4,5,6,7,12 行 為 自 体 の 楽 しさ その活動自体が 楽 しい. サーフィンめっちゃ楽 しい.(2) 1,2,4,5,7 あっという間 あっという間 に時 間 が過 ぎていた. 白 馬 岳 に登 っている時 に,暑 いと思 いながら登 っていたらフッて気 が ついたら,あれもうこんなところに来 ているみたいな.(7) 7,11 自 然 界 の洗 礼 海 や山 の洗 礼 、自 然 の厳 しさ. 朝 早 く夜 中 に起 きて天 ととかに氷 がはってて,手 がかじかんで靴 紐 が結 べなかった.(5) 1,2,5,9,11 恐怖体験 溺 れる、落 ちる、転 ぶ怖 い体 験 . 怖 かったことは海 とかで溺 れそうになった.冷 たいし.水 を一 杯 がぶ って飲 んで溺 れそうになった.苦 しかった.波 もでかくてメチャ怖 かっ た.(4) 2,3,4,5,12 逆境 データ例 33 対象者 スポーツ科学研究, 13, 28-40, 2016 年 自 然 への馴 染 み 少 しずつ自 然 に慣 れた. 最 初 怖 くて全 然 沖 に出 れなかったけど,少 しずつ慣 れて大 きな波 で も沖 に出 れるようになった.(5) 1,2,3,5 勇気 勇 気 がもてたから 頑 張 れた. 勇 気 が持 てた.サーフィンとかスキーの時 とか.急 なところが普 通 に 滑 れるようになった.サーフィンとかだったらちょっと高 い波 に乗 れる ようになった.<なんで勇 気 が持 てたの?>みんなやってて楽 しそう だったから.(9) 3,6,9 怖 いから楽 し い 怖 いことでも楽 しい からまたやる サーフィンは怖 いから楽 しい.ゾクゾクして楽 しい.スキーやロッククラ イミングもそう.怖 くてもやっちゃう感 じ.(2) 1,2,3,10 訓 練 の重 要 性 できるようになるに は訓 練 が必 要 ちゃんと練 習 しなきゃだめだってことを海 が教 えてくれて,それでこれ から練 習 をどんどん増 やしていかなきゃいけない.(1) 1,5,8,12 もっと上手に なりたい 熟達動機 何 でももっと上 手 くなりたい.(9) 3,9 検 定 の意 味 具体的目標設定 が熟 達 を助 長 する 自律性 上 手 くなるために 自 分 の意 志 でやる うまくなったら 楽 しい 内 側 のご褒 美 スキーがすごい楽 しかった.やばかった.(中 略 )だんだん上 達 してい くから,そこが面 白 かった.(2) 2,7 普 段 見 れない 景色 山や海での神秘 的 な景 色 に感 動 頂 上 に行 けて,日 の出 は途 中 で見 た.もうほとんど登 頂 できるところ の途 中 で見 た.それがきれいだった.(中 略 )朝 日 はすごいきれいだ った.今 までで一 番 きれいだった.あんなきれいだったのは見 たこと なかった.(2) 2,4,6,7,8,9,10, 12 普 段 できない 体験 自 然 とのふれあい や活 動 に感 動 沖 縄 で海 がめの赤 ちゃんが海 に行 ったこと.(4) 3,4,6,7,9,10,12 心 の強 化 心 が強 くなった 心 が強 くなった.毎 日 楽 しくなる.(4) 1,4,5,6,8,10,11, 12 体力強化 体 力 がついた 体 力 がついたと思 う.いつも朝 練 とかで走 ったりしたんでだんだん走 っているうちに楽 になってきて体 力 がついてきたなあと思 う.(3) 3,4,12 社 会 的 スキル 友 達 づくりが上 手 学 校 とかでも新 しい友 達 とかでも普 通 に声 をかけられるようになった と思 う.<それはバディが関 係 してるの>うん,前 のキャンプに来 てい ない人 がいても,みんな普 通 にしゃべっているから,一 緒 にしゃべれ る.(6) 3,4,6,8,10 ス タッ フへ の あ こがれ スタッフみたいにな りたい なりたい.誰 かが困 っていてもすぐに行 けるとか,面 白 い人 になりた い.(4) 1,2,3,4,5,6,7,8, 9,10,11,12 スタッフの優 し さ やさしい、いつも見 守 ってくれる やさしいし面 白 い.色 々教 えてくれたりして.励 ましてくれる.(3) 2,3,5,7,8,9,11 スタッフの信 頼感 困 った時 に助 けて くれる 自 分 が困 ったときとかでも助 けてくれる.(No4) 1,2,4,7,8,10,11, 12 他 とは違 う 他 は怒 られるけど 怒 られない 好 きなところは自 由 にやらせてくれるところとか,面 白 いことをいっぱ いさせてくれる.(2) 2,6 ワイルド・サバ イバル感 ワイルド感 やサバイ バル感 が半 端 ない やっぱり全 部 で思 うんだけど,サバイバル感 が半 端 ない.(12) 1,3,7,12 色んなことが できる 色 んなことできるか ら好 き 好 きなところはいろんなことができる。(9) 8,9,10 異年齢集団 同 学 年 以 外 の友 達 ができてうれしい だけど,みんななんか同 じくらいに見 てるような気 がして,年 齢 差 を感 じないで,みんなでその学 年 だけで遊 ぶだけでなくて,みんなで遊 ん でいるっていう感 じ.(11) 3,4,7,9,11,12 継続性 まだ続 けたい、ず っと続 けたい 続 けたいよ.だって楽 しいから.サッカーで忙 しくなるけど,いっぱい 行 きたい.(2) 1,2,5,7 チームワーク・ 助 け合 い チームワークがす ごい みんなオーストラリアの大 会 でみんなが頑 張 っていて,一 丸 となって いると思 った.チームワークがすごいと思 った.(3) 3,11 ポジティブな 刺激 仲 間 の行 動 や態 度 に刺 激 されて 仲 間 の励 まし たくさん応 援 してく れる 思 いやり 辛 い時 に声 をかけ てくれる すごいみんな優 しかったから,できないところとかあったら,すぐに一 緒 にやってくれたりした.(11) 2,4,5,6,7,11 明 るい みんな性 格 が明 る い みんなが明 るいところ.(6) 6,9 フレンドリー 誰 とでも仲 良 くな れる バディの子 ども達 はフレンドリーだから結 構 すぐ仲 良 くなれるけど,同 じ年 代 だと自 分 が人 見 知 りだからそこまで仲 良 くなれないけど,バデ ィ入 っていなかったら,もっと仲 良 くなれないし,友 達 にもなれなかっ たと思 う.(1) 1,4,8,10,11 自 由 で気 楽 縛 りがなく自 由 で 気 軽 な感 じ 重 くないというか,楽 というか,縛 りがなくて気 軽 な感 じがいい.(1) 1,2,5,6 逆 境 の克 服要因 熟達 感動 成 長 の実 感 スタッフの 存在 帰属意識 の高 さ 仲 間 の存 在 良 い空 気 感 上 達 できた.最 初 始 めた時 は下 手 だから 2 級 とれると思 わなかった けど,今 年 やってみたら 2 級 取 れたからすごい嬉 しかった.来 年 は 1 級 取 れるかなって思 っているこど,取 れるかな.(2) でもスキーが結 構 楽 しかった.<結 構 苦 労 してたけどあきらめなかっ たのはどうして>上 手 くなって,自 由 に行 けるようになりたいから. (12) 難 しいこととか自 分 お怖 いと思 うこととかクライミングとか色 々あっても みんなが楽 しくやっていたり,周 りの子 が成 功 していると自 分 もやりた いと思 って嫌 なことでも意 欲 が出 たりして終 わったときには楽 しいと思 えるところが好 き.(6) 海 でビーチフラッグスの時 にメッチャ応 援 してくれる.取 れて終 わった 時 に立 ち上 がるの速 かったねとか取 れなかったらでも速 かったよとか 言 ってくれた.(4) 34 2,11 1,12 5,6,9,10 2,4,6 スポーツ科学研究, 13, 28-40, 2016 年 図 2 自 己 成 長 のプロセスモデルの結 果 図 Ⅳ 考察 り,自 分 が適 切 に振 舞 っているかどうかについて 本 研 究 では,バディキッズ・アドベンチャー・チ の明 確 な手 がかりを与 えてくれる行 為 システムの ャレンジ・プログラムに参 加 した子 どもを対 象 にし 中 で,現 在 立 ち向 かっている挑 戦 に自 分 の能 力 たインタビュー調 査 結 果 を踏 まえ,子 ども達 の自 が適 合 している時 に生 じる感 覚 である.注 意 が強 己 成 長 に影 響 する要 素 間 の関 係 性 と自 己 成 長 く集中しているので,その行為と無関係のことを考 にいたるまでのプロセスを明 らかにすることを目 的 えたり,あれこれ悩 むことに注 意 を割 かれることは ない.自 意 識 は消 え,時 間 の感 覚 は歪 められる. とした. このような経 験 を生 む活 動 は非 常 に喜 ばしいもの なので,人 々はそれが困 難 で危 険 なものであって 1 生成されたカテゴリによる自己成長の内容とプ も,そこから得 られる利 益 についてほとんど考 える ロセスの検証 ことなく,それ自 体 のためにその活 動 を自 ら進 ん 1)フロー経験の有無とモチベーションの関係 で行 う(p91)」と説 明 している.これらのことを踏 ま 【フロー】のカテゴリには行 為 自 体 の楽 しさ,夢 えると,本 プログラムに参 加 した子 ども達 がフロー 中・集中状 態,あっという間というタイトルが含まれ を経験した可能性は高いと考えられる. ており,子 ども達 が,海 でのスイミング,スノーケル, フロー理論によれば,我々の心理状態は「知覚 サーフィン,スキー,クライミングの行 為 自 体 を楽 された挑 戦 レベル」と「知 覚 された技 能 レベル」に しみ,溺 れないように,転 ばないように,落 ちない 規定される.機会が提供する挑戦レベルと自分の ように集 中 している様 子 が伺 えた.また,登 山 に 技 能 レベルをどのように知 覚 するかという組 み合 参加した No.7 は白馬岳に登っている時に,[暑 わせによって 8 種類(「フロー」「統制」「リラックス」 いと思 いながら登 っていたら,フッと気 がついたら, 「退 屈 」「無 関 心 」「心 配 」「不 安 」「覚 醒 」)の心 理 あれもうこんなところにきてるみたいな] という体 験 状 態 を経 験 するとされ,その知 覚 された挑 戦 レベ をしている.彼 らは,自 己 目 的 的 に活 動 を楽 しみ, ルと知 覚 された技 能 レベルが高 いところで釣 り合 身 体 的 危 険 も含 んだありのままの自 然 の中 で,よ って心理状態が「最適状態(optimal experience)」 り慎 重 に行 動 し,普 段 以 上 の集 中 力 が発 揮 され にある時 に,我 々はフローを体 験 すると考 えられ たと考えられる.チクセントミハイ(1996)によれば, ている(上 淵 ,2004).本 研 究 において,子 ども達 フローとは「 一 つの活 動 に深 く没 入 しているので の【逆 境 の克 服 要 因 】に自 然 への馴 染 み,勇 気 , 他の何ものも問題とならなくなる状態,その経験そ 怖いから楽しい,訓練の重要性というタイトルが含 れ自 体 が非 常 に楽 しいので,純 粋 にそれをすると まれた.子 ども達 は恐 怖 を乗 り越 える行 為 自 体 に いうことのために多くの時間や労力を費やすような 根 源 的 な喜 びを感 じ,その喜 びを得 るために,自 状態(p5)」という概念に基づく最適経験の理論で 分 の身 体 を自 然 に馴 染 ませ,自 発 的 に訓 練 に取 あるとし,最 適 経 験 を「目 標 を志 向 し,ルールがあ 33 スポーツ科学研究, 13, 28-40, 2016 年 り組 み,仲 間 から恐 怖 に挑 む勇 気 をもらい,困 難 る不安とフローの行き来に相当すると考えられるこ を乗り越えていく精 神力 を持つことが考えられた. とからも子 ども達 がフローを経 験 している可 能 性 このようにして恐 怖 と楽 しさの間 を行 き来 している が示 唆 され,さらに本 プログラムにおけるフローが 様子は,8 チャンネルフローモデル(図 3)におけ 生じる条件が明らかとなった. 3 8 チャンネルフローモデルに加 筆 また,上 淵 (2004)は,内 発 的 動 機 づけにおけ 難 な状 況 における適 度 な心 的 ストレスによって教 る情 動 的 側 面 での刺 激 が,何 かに没 頭 した状 態 育 的 効 果 が高 まることが認 められているように(井 で感 じるフローの感 覚 と関 連 するとし,もともとフロ 村 ,1982;橘 ら,2003),困 難 な状 況 すなわち【逆 ーとは遊びのような内発的動機づけに基づく行為 境 】をどのように扱 うかがプログラムデザインの重 を主 観 的 な体 験 として描 き出 す中 で見 出 された 要 要 素 となると考 えられる.最 近 の冒 険 教 育 では, 心 理 現 象 であるとしている.ただし,フロー理 論 に 教 育 手 法 として心 的 ストレスが強 調 され,汎 用 性 はフローモデルにおける挑 戦 水 準 と技 能 水 準 は を高 める目的 で身 体 的 危 険 を回 避 できるようにプ 客観的なものでなく行為者の知覚に依存している ログラムを設 定 し(小 西 ,2007),また,活 動 に実 という限界 性があり(迫 ,2013),子 ども達 のフロー 態やねらいに照らし合わせて適度な困難さを伴っ 経 験 の有 無 を断 定 することはできないが,フロー た内 容を含ませ,指 導者 によって,やり終 えたとき に近 い心 理 状 態 を経 験 し,それが内 発 的 に動 機 に達 成 感 が味 わえるようなプログラムがデザインさ づけられている可能性が高いことが示唆された. れている(独立 行 政 法 人国 立 妙 高 少年 自 然 の家, 2006)ケースもある.本 プログラムでは,逆 境 を乗 り越 えようと悪 戦 苦 闘 する最 中 にある根 源 的 な喜 2)子ども達にとっての逆境の意味 本 プログラムの特 徴 の一 つは本 物 の自 然 の中 びが人 をさらにやりたいと動 機 づけるのではない でプログラムを行 うことであり,身 体 的 危 険 も含 ま かと考 え,身 体 的 危 険 も含 んだありのままの自 然 れている.本 プログラムでは,自然の美しさを直接 と向 き合 うプログラムを開 発 ・実 践 してきた.それ 見 たり触 れたりすることに感 動 体 験 がある一 方 で, は乗 り越 えようとするものが人 智 を超 えた本 物 の 海 や山 で受 ける自 然 界 の洗 礼 ,恐 怖 体 験 を含 ん 自然だからこそ乗り越える価値があるのであって, だ【逆 境 】も経 験 する.特 に海 の活 動 全 般 ,クライ 人 間 によって身 体 的 危 険 が回 避 され,設 定 され ミングやスキーで数々の恐 怖 体 験を子 ども達 が報 た適度な困難の中では,根源的な喜びを感じるこ 告 している.これまでの野 外 教 育 研 究 によって困 とは難 しいと考 えているからである.本 研 究 では, 36 スポーツ科学研究, 13, 28-40, 2016 年 本 物 の自 然 の中 で子 ども達 は [死 ぬかもしれな に参加した対象者の [スキーとかで自分はすごい い] (No.3)というリアリティのある恐怖体験に対して 転んでいるのにもっと急なところに連れて行かれる. ネガティブな発言をほとんど持っていないことが特 でもできるようになると面白くなるからしょうがないと 徴 的 であった.反 対 に[もっとやりたい] (No.9), 思 った] (No.5)という発 言 から逆 境 の中 に成 長 [もっとうまくなりたい] (No.12),[怖さがあるから達 のチャンスがあることが伺 える.また,経 過 の達 成 成 感 がある] (No.2),[海 はプールより楽 しい, 感は,【フロー】や【熟達】とも深く関連し,それらに 無 限 だから] (No4)といった怖さに対 してポジティ 強 く動 機 づけられている可 能 性 が高 いと言 える. ブな発言が目立ち,逆境を好む傾向が伺えた. それは,困 難 を乗 り越 える行 為 自 体 に根 源 的 な 喜 び(フロー)があることと,その困 難 を乗 り越 えて 3)達成感と自己成長 いく時 には,必 ず【熟 達 】が必 要 になるからである. 本研究において【達成感】は 1 つではなく,結 実 際 に子 ども達 は,上 手 くできた瞬 間 の [爽 快 果の達成感,経過の達成感,完全燃焼の達成感 感 ] (No.4)をもう一 度 味 わいたい,あるいは [も の 3 つのタイトルから生成された.達成感とは,苦 っと上 手 くなりたい] (No.12)という欲 求 が強 い. しいことをやり遂 げた後 の満 足 感 や充 足 感 と考 え 【逆 境 】を克 服 するために,訓 練 の重 要 性 を理 解 るのが一 般 的 であり,本 プログラムでも子 ども達 が して自 律 性 を持 って訓 練 に励 み,失 敗 を重 ねな 山で頂上に登った時やライフセービングの大会 で がら恐 怖 に挑 める自 分 に自 分 で引 き上 げている 勝 った時 にはやった(No.7)という大 きな喜 びを のである.このことは,根 源 的 な喜 びを自 分 で発 感 じている.これを結 果 の達 成 感 とタイトルづけし 見 する能 力 が開 発 され,自 分 の力 で自 分 の能 力 た.一 方 で,子 ども達 は怖 さを乗 り越 えようとして を伸 ばすという本 研 究 で定 義 した自 己 成 長 と一 いる最 中 や乗 り越 えた時 に感 じる [爽 快 感 ] (No. 致していると言える. 4)も【達 成 感 】と捉 えていた.この【達 成 感 】には また,No.2 は,自 分 が成 長 したと思 うことにつ 経 過 の達 成 感 とタイトルをつけた.そして目 標 を いて [スキーとかでこっち行 くと危 ないけど,死 な 達 成 したわけではないが,連 泊 のキャンプを終 え ない程 度 になら,ここなら死 なないっていうのがわ た後 等 に疲 労 感 とともに [やり切 った] (No.12) かったりする.<これ以 上 行 ったら危 ないっていう という【達 成 感 】を感 じている.これには完 全 燃 焼 のが判 断 できるようになったんだ>わかるようにな の達成感とタイトルづけした. った.時 々やりすぎちゃうけど,これ以 上 やると危 本 研 究 では ,経 過 の 達 成 感 が自 己 成 長 に及 ないんじゃないかっていうのがわかる] (No.2)と ぼす影 響 が大 きいと考 えられた.例 えば,子 ども 述 べている.このように,本 プログラムで失 敗 をマ 達 がサーフィンをしている時 ,怖 い思 いをしている イナスの成 果 とは考 えず,当 然 の過 程 とみなし, にも関 わらず何 度 も海 に戻 って行 く.この時 の子 困 難 を乗 り越 えていく精 神 的 な姿 勢 が身 につい ども達の気 持ちは,経 過の達成 感 を味わいたいと ていく様 子 が伺 えた.自 己 成 長 モデルについて, いう欲求が大きく,失敗や痛い思いを当然の経過 本 研 究 では【逆 境 】を克 服 して【達 成 感 】(経 過 の と捉 えるといった強 さが身 についていることがわか 達 成 感 )を得 る経 過 中 に,【フロー】や【熟 達 】動 る.何 度 も遠 くの沖 までパドリングし,大 きな波 に 機 に強 く動 機 づけられていくという自 己 成 長 の内 乗る度に奇声をあげて喜んでいる子ども達の姿は, 容とプロセスが確認された. まるでフローからフローへ際 限 なく渡 り歩 いている 2.自尊感情が「モチベーション」に及ぼす影響 かのように感 じられた.こうした様 子 はクライミング やスキーでも見 られた.クライミングでは,ほとんど 【自尊感情】のカテゴリは,有能感と自信,自慢 手 も足 もかけられず,今 にも落 ちるかもしれないと したいというタイトルで生 成 された.困 難 なことや いう状 況 で [足 場 を探 しているときが楽 しいの.そ 怖 さを乗 り越 える経 過 の中 で経 過 の達 成 感 の根 れで見 つかってそこに足 を乗 せたときにやったっ 源 的 な喜 びと同 時 に有 能 感 を高 め,自 信 をつけ て思う] (No.2)という発 言があったことや,スキー ていたことから自 尊 感 情 の向 上 の可 能 性 が示 唆 37 スポーツ科学研究, 13, 28-40, 2016 年 された.池田(1991,2000)によれば,自尊感情は も達の【自尊 感情】に影 響を与 える可能 性が示 唆 「自 分 の能 力 や価 値 を評 価 した結 果 として生 まれ された. てくるものであるが,それは,他 者との相互 作用 の また植田 ら(2002)は,「コーチの言 動や態 度が 過 程 を通 じて形 成 され安 定 してくると,環 境 と自 アスリートの『やる気』に外部から影響を与え,アス 分 を解 釈 する枠 組 みそのものとなる.自 尊 感 情 が, リートにとってコーチは先 生 であり,リーダーであり 行動の意欲や責任感を生み出す(あるいは)原動 憧 れの対 象 であることが望 ましい」と指 摘 している 力 となるのは,このようにそれが世 界 解 釈 の枠 組 ことから,本 プログラムでも,スタッフが子 どもを外 みになるからである.(1991,p9)」として,自 尊 感 部から支ええる望ましい存在である可能性が示唆 情 を構 成 する柱 が包 み込 まれ感 ,社 交 的 感 覚 , された. 勤勉性感覚,自己受容感の 4 つであることを示し Ⅴ 結論 た.この 4 つの柱に関して,包み込まれ感は【良い 空 気 感 】,社 交 的 感 覚 は【仲 間 の存 在 】,勤 勉 性 本 研 究 において,バディキッズ・アドベンチャ 感 覚 は訓 練 の重 要 性 ,自 己 受 容 感 は有 能 感 の ー・チャレンジ・プログラムに実 際 に参 加 した子 ど カテゴリ及 びタイトルと内 容 が一 致 したことから, も達 の自 己 成 長 の変 容 に注 目 し,子 どもの視 点 自 尊 感 情 がそれぞれのカテゴリによって支 えられ から自己成長のプロセスモデルについて分析した ていることが示唆された.また【自尊感情】が【モチ 結 果 ,【達 成 感 】( 経 過 中 の達 成 感 )を得 る経 過 ベーション】に影響するという関係性が示された. 中 に,【逆 境 】の中 で困 難 を乗 り越 える根 源 的 な 喜 び(【フロー】)を自 分 で発 見 する能 力 などが開 3.心の安全を保障する周りの環境 発 されていくことが確 認 され,【逆 境 の克 服 要 因 】 【仲 間 の存 在 】には,仲 間 の励 ましだけでなく, に取 り組 むその時 に【フロー】や【熟 達 】に強 く動 [A ちゃんがいたから登れたと思う] (No.7),勇気 機 づけられ,【モチベーション】が高 められるという がでた.(No.3),[みんなやっていて楽 しそうだっ 自 己 成 長 の内 容 とプロセスが明 らかになった.さ たから] (No.11),[R 君が抜 かしそうだったから, らにその【モチベーション】は,【自尊感情】の向上 勇 気 を出 して一 番 上 まで行 った] (No.5)等 ,【仲 によって高められる可能性が示唆され,自己成 長 間 の存 在 】そのものや仲 間 の行 動 からポジティブ モデルの中 に【自 尊 感 情 】を支 える柱 が存 在 する な刺 激 を受 けていたことが示 され,【仲 間 の存 在 】 ことが確認 された.また自 己成 長 仮 説 モデルに示 の重 要 性 が確 認 された.心 の安 全 は【仲 間 の存 されている心の安全を保障する雰囲気は【仲間の 在 】以 外 にも明 るい,フレンドリー,自 由 で気 楽 と 存 在 】,【スタッフの存 在 】,【良 い空 気 感 】によっ いった【良 い空 気 感 】が影 響 し,こうした空 気 は, てつくられ,【貴 族 域 の高 さ】が自 分 達 の居 場 所 他 とは違 う,ワイルド・サバイバル感 ,色 んなことが を自分達で大切にしていることが示された. できる,異 年 齢 集 団 ,継 続 性 という【帰 属 意 識 の このように本 研 究 によって生 成 されたカテゴリで 高さ】が影響していることが伺え,こうした気持ちが 作 成 された自 己 成 長 モ デルは自 己 成 長 仮 説 モ 自 分 達 の居 場 所 を自 分 達 で大 事 にする態 度 に デルを支 持 すると同 時 に,【逆 境 の克 服 要 因 】が 現 れていることが考 えられた.また,【スタッフの存 自 己 成 長 に重 要 に働 くことと【仲 間 の存 在 】,【ス 在】も子ども達にとって重 要な役割を果たしている タッフの存 在 】,【帰 属 意 識 の高 さ】といった自 己 と考えられた.【スタッフの存在】のカテゴリは,スタ 成 長 を支 える周 りの力 の重 要 性 ,さらにはプログ ッフへのあこがれ,スタッフの優 しさ,スタッフの信 ラムに参 加 したことによる【自 己 成 長 の実 感 】の内 頼 感 から生 成 された.自 分 の気 持 ちをわかってく 容 が示 されたことで,自 己 成 長 の内 容 とプロセス れる,暖 かく包 みこんでくれる存 在 であり(包 み込 がより詳細に示された. まれ感 ),また友 達 感 覚 で自 分 の気 持 ちをわかっ 本 研 究 では,質 的 研 究 法 により子 どもの視 点 てくれる存 在 (社 交 的 感 覚 )は自 尊 感 情 を支 える で子 ども達 の自 己 成 長 の変 容 に注 目 して自 己 成 柱 である(岩 永 ら,2007)ことから,スタッフが子 ど 長 モデルを検 討 したため,一 般 的 に適 用 可 能 な 38 スポーツ科学研究, 13, 28-40, 2016 年 因 果 関 係 の原 理 を固 定 することはできないことは ・ 岩 淵 央 ( 2011 ) 達 成 感 を味 わ う こ とので き る 授 限 界 点 として挙 げられる.今 後 ,自 己 成 長 モデル 業 づくり,山 形 大 学 教 育 実 践 研 究 科 年 報 ,2, を一 般 的 に運 用 できるものにしていくために,さら 224-227. に参加 者の保護者 や指 導者といった多角的 な視 ・ 岩 永 定 ,柏 木 智 子 ,藤 岡 恭 子 ,芝 山 明 義 ,橋 点 で検 討 していくことや定 量 的 な研 究 及 び定 性 本 洋 治 (2007)宮 城 県 におけるプロジェクト・ア 的 な研 究 と定 量 的 な研 究 を併 用 した研 究 によっ ドベンチャーの取り組みと課題,鳴 門 教育大学 て検討していくことが課題である 研究紀要,22,37-50. ・ 梶田叡一(1998)自己意識の心理学(第 2 版), 東京大学出版会,東京,154-158. 引用文献 ・ 上 淵 寿 (2004)動 機 づけ研 究 の最 前 線 ,北 大 ・ 独 立 行 政 法 人 国 立 妙 高 少 年 自 然 の家 ,国 立 路書房,京都府. 妙 高 少 年 自 然 の 家 ( 2006 ) Open The Door! ・ 木 下 康 仁 (2010)グラウンデッド・セオリー・アプ 悩みを抱える中学生たちの冒険. ローチの実践,弘文堂,東京. ・ 独 立 行 政 法 人 国 立 オリンピック記 念 青 少 年 総 ・ 小 西 浩 嗣 (2007)アドベンチャーカウンセリング 合 センター(2005)青 少 年 の自 然 体 験 活 動 等 に関する実態調査(平成 17 年度調査). 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