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心不全、後天性弁膜症

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心不全、後天性弁膜症
■心不全
●コアカリ到達目標
A.心不全の定義と重症度分類を説明できる
B.心不全の原因疾患と病態生理説明できる
C.左心不全と右心不全の診断を説明し、治療を概説できる
D.急性心不全と慢性心不全の診断を説明し、治療を概説できる
●対応する授業
9 心不全-1(内野先生)
10 心不全-2(内野先生)
●直前のまとめ
A.心不全の定義と重症度分類を説明できる
1.心不全とは、心機能障害に基づく全身循環障害状態をいう
2.症状的には、右心不全と左心不全に大きく分けられる
3.右心不全では、体循環系鬱血が主体となるので、全身浮腫が主症状となる
4.左心不全では、肺循環鬱血が主体となるので、呼吸困難が主症状となる
5.聴診所見では、Ⅲ・Ⅳ音が出現して、gallop リズム(奔馬調律)を呈するようになる
6.心不全の重症度分類として、NYHA(New York Heart Association)分類が広く用いられ、臨床症状からクラスⅠ∼
Ⅳに分けられている
B.心不全の原因疾患と病態生理説明できる
1.心不全には、左心不全、右心不全の他に、心拍出量が低下して、末梢組織が必要とするだけの血液を駆出できない
場合(低拍出性心不全)と末梢組織の血液需要が異常に増大した場合(高拍出性心不全)に分けられる
2.左心不全では、左室の心拍出量は低下し、肺動脈楔入圧は上昇する
肺血管が鬱血しており肺水腫を呈する
原因疾患としては心筋疾患、虚血性心疾患、不整脈、心臓弁膜疾患などがある
3.右心不全では、右心機能が低下するので、中心静脈圧が上昇し、全身浮腫が生じる
原因としては、慢性閉塞性肺疾患、肺梗塞、左心不全に伴う二次的変化などがある
4.高拍出性心不全とは、末梢組織の血液需要が異常に増大して、過剰の心負荷で心筋が疲弊するために生じる
原因としては、甲状腺機能亢進症、著明な貧血、シャントなどがある
C.左心不全と右心不全の診断を説明し、治療を概説できる
≪左心不全≫
1.左心不全が生じると肺鬱血が生じる
2.臨床症状:発作性夜間呼吸困難が生じ、血性泡沫状喀痰がみられ、起坐呼吸となる
3.胸部聴診:肺鬱血から肺水腫状態になるので湿性ラ音が聴取される
4.胸部 X 線写真:上肺野の血液陰影増強、Kerley B 線などがみられる
5.四肢末梢は循環不全が生じるので、冷感を生じるが浮腫はない
≪右心不全≫
6.右心不全が生じると、体循環の鬱血がみられる
7.全身浮腫、肝腫大、下腿浮腫がみられる
8.上大静脈鬱血の結果、頚静脈怒張や胸水を生じる
D.急性心不全と慢性心不全の診断を説明し、治療を概説できる
≪急性心不全≫
1.急性心不全は急激に新機能が低下する状態をいい、重症化すると心原性ショックとなる
2.原因:急性心筋梗塞(特に左室梗塞)、僧帽弁腱索断裂、急性心筋炎、急性心膜炎、不整脈などがある
急激に全身に循環障害が生じるので、全身乏血症状(血圧症状、尿量低下、意識障害、皮膚温低下など)が主
となる
3.治療:迅速なる応急対応が求められる
まず安静を保たせ酸素吸入を行う
薬物治療では利尿薬、血管拡張薬が用いられ、場合によってはモルヒネ、強心薬が併用される
薬物療法の効果が不十分な場合は大動脈内バルーンパンピングや PCPS などの補助循環も用いられる
≪慢性心不全≫
4.慢性心不全では、心機能低下はゆっくりと進むので、鬱血や浮腫(内臓腫大、四肢浮腫、腹水など)が主症状となる
5.原因:心筋梗塞後、高血圧、弁膜症などが挙げられる
6.治療:食事療法(塩分・水分摂取制限)、運動療法などの一般療法が主であり、それに併用する形で利尿薬、強心薬、
アンジオテンシン変換酵素阻害薬などが用いられる
●授業解説
ここからは内野先生による授業を簡単に解説します。なお、このプリントは授業プリントを持っていることが前提になっていま
すので、持っていない人はしけたいやお友達にコピーさせてもらいましょう。シラバスも持ってますよね?
§1 心不全とは
直前のまとめ A-1
心不全とは、心機能障害に基づく全身循環障害状態をいう
心不全はあらゆる心臓疾患の末期像です。心筋梗塞、弁膜症、不整脈、先天性心疾患、心筋症、心筋炎、高血圧
などなど・・・他の授業で扱う様々な心臓疾患の合併、進行によって最終的に心不全(特に慢性心不全)にたどり着きま
す。
易学的には、基本的に高齢ほど患者数が増加する傾向があるので、これから超高齢化社会を迎える日本ではます
ます心不全の患者さんが増えるだろう、先生は指摘されていました。
ここで心不全の定義を述べます。
・慢性の心筋障害のため、心臓のポンプ機能が低下し、臓器への酸素需要に見合うだけの血液を拍出出来ない状態。
・肺や体静脈系に鬱血をきたし、生活機能に障害を生じた状態。
心機能の低下⇒血液を送り出すパワーが足りない⇒※1 末梢が必要とするほどの心拍出量を保てない
⇒血液も滞る(鬱血)
という流れを押さえて下さい。
ただ、一つ注意して欲しいことがあります(※1)
直前のまとめ B-1
心不全には左心不全、右心不全という分類の他に、
低拍出性心不全= 心拍出量が低下して、末梢組織が必要とするだけの血液を駆出できない場合
高拍出性心不全= 末梢組織の血液需要が異常に増大した場合
に分けられる
“末梢が必要とするだけの心拍出量が保てない“という現象は、末梢が必要とする血液量(酸素量)が異常に亢進した
場合も起こります。
このように、心臓からの拍出量が絶対的に低下した場合の心不全を低拍出性心不全、末梢の酸素需要が異常亢進し
た場合の心不全を高拍出性心不全といいます。
直前のまとめ B-4
高拍出性心不全とは、末梢組織の血液需要が異常に増大して、過剰の心負荷で心筋が疲弊するために生じる
原因としては、甲状腺機能亢進症、著明な貧血、シャントなどがある
高拍出性心不全は、心臓は頑張っているのに報われない状態、ともいえます。具体例としては、重症貧血、甲状
腺機能亢進症、動静脈瘻など。
心不全の定義
慢性心筋障害⇒心臓のポンプ機能低下(鬱血生じる)⇒末梢への酸素需要に見合うだけの血液を拍出出来ない状態
ただし“末梢の酸素需要に見合うだけの血液を拍出出来ない状態”とは、
低拍出性心不全…心臓が頑張れずに末梢 O2 需要を満たせない
高拍出性心不全…心臓が頑張っても末梢 O2 需要を満たせない
§2 症状と分類
直前のまとめ C
≪左心不全≫
1.左心不全が生じると肺鬱血が生じる
2.臨床症状:発作性夜間呼吸困難が生じ、血性泡沫状喀痰がみられ、起坐呼吸となる
3.胸部聴診:肺鬱血から肺水腫状態になるので湿性ラ音が聴取される
4.胸部 X 線写真:上肺野の血液陰影増強、Kerley B 線などがみられる
5.四肢末梢は循環不全が生じるので、冷感を生じるが浮腫はない
≪右心不全≫
6.右心不全が生じると、体循環の鬱血がみられる
7.全身浮腫、肝腫大、下腿浮腫がみられる
8.上大静脈鬱血の結果、頚静脈怒張や胸水を生じる
Framingham 研究の心不全診断基準もいくつか説明していました。Framingham 研究に基づく臨床所見による診
断が有効とされます。臨床症状、胸部 X 線所見、聴診所見(Ⅲ音の聴取、Ⅳ音の聴取)、心エコー図所見、※2 血液検
査所見などを得ます。
やはり大基準が重要で、発作性夜間呼吸困難、ラ音、急性肺水腫、Ⅲ音 gallop など、心不全症状の根幹に関わる
病態目白押しです。細かい一つ一つの項目は、授業のプリントを確認してください。
確認してください・・・なんて言うと、なんだか全部大切そうですが、その中でも心不全の二大徴候は心拍出量の低
下と肺鬱血です。プリントに肺鬱血を示す所見と心拍出量低下に指標についての記載がありますが、読んでおいて
下さい。
※2 神経体液性因子の所で触れますが、血液検査所見から分かる一つの項目として、BNP の値があります。この BNP
値は、心不全の診断だけではなく、治療の効果判定、予後の予測(BNP 値が急降下⇒予後不良)にも極めて有効
です。
あと、心不全の病態をクラス分けするのによく用いられる NYHA 心機能分類にも触れました。
直前のまとめ A-6.
心不全の重症度分類として、NYHA(New York Heart Association)分類が広く用いられ、臨床症状からクラスⅠ
∼Ⅳに分けられている
これに関しても、細かい項目は授業プリントを確認してください。一つ補足すると、NYHA のクラスは不変の分類
ではありません。つまり、たとえクラスⅣになってしまったとしても、治療と生活の改善によりクラスⅢやⅡに戻
ることが出来る、ということです。
もう一つ、心不全の進展のステージ分類(ACC/AHA guideline)というものがプリントに書いてありますが、これは
慢性心不全の項で見てください。
§3 心不全の分類法
もう既に左心不全と右心不全、高拍出性心不全と低拍出性心不全という区分を説明しました。ここでは今一度心不
全の分類方法(アプローチの仕方)をまとめてみましょう。
①不全の時間による分類
急性心不全
慢性心不全
②不全の場所による分類
左心不全
右心不全
両心不全
③心臓の拍出量の程度による分類
低拍出性心不全
高拍出性心不全
④心機能障害の種類による分類
心筋収縮機能障害による心不全
心筋拡張機能障害による心不全
ここで見て欲しいのは、④の分類です。心臓はしぼむことで血液を全身に送り出すわけですから、
“心機能が低下
する”=心臓の収縮力が減少、と考えがちです。(間違ってはいませんが)
しかし、臨床でみられる心不全の患者さんの約 1/3 は、心筋の収縮機能が正常です。こういった患者さんは、心臓
の拡張が不十分である場合があります。
収縮不全は問答無用で悪そうですが、拡張不全は少しイメージしにくいですね。両者の“あくどさ”を少し生理
学的に説明してみます。
○収縮不全
収縮不全では、心臓はしぼみにくくなるわけですから、収縮末期容積は増加します。心臓の一回心拍出量は、拡
張末期容積から収縮末期容積を引いた値ですから、当然一回心拍出量は低下します。
後は
心拍出量=(一回心拍出量)×(心拍数)
の公式を思い出してくれれば心拍出量が低下するのは理解できると思います。
参考
ただし、実際に収縮不全になった(収縮末期容積が増大した)心臓は、自然と拡張末期容積(拡張末期圧)が増加する
ことにより、Frank-Starling 機構という代償機構が働いて、しばらくは心拍出量を低下させないように頑張ります。
血液が完全に出て行かないのに、後ろから心臓 MAX 分の血液がきたら、心臓はふくらんでやり過ごしますよね。
ちょうど口いっぱいに物を含んだ状態です。これは生理学的に拡張末期容積の増加(=前負荷の増大)を意味します。
前負荷の増大は一回心拍出量を増加させる訳ですから、収縮不全の分を補っちゃうのです、
“しばらく”は。
“しばらく”とわざわざ強調したのには理由があります。この代償は長くは続かないのです。拡張末期容積(拡張
末期圧)の増大は、やがて左房圧を増大させ、肺の血管圧まで上昇させます。すると、ひどくなると肺鬱血、果ては
右心系までやられてしまうことになります。このように代償機構は最初のうちはいいんですが、永遠に代償できる
訳ではない、ということを覚えておいてください。
○拡張不全
一方、拡張不全は心臓がしぼんだ後広がりにくくなってしまう状態です。これは心筋の能動的(=ATP を使う)弛緩
が妨げれられたり、心臓のコンプライアンス(柔らかさ、とみなして構いません)が低下することによって起こります。
生理学的には拡張末期容積が減少していることになります。ただしこの時※3 拡張末期圧は通常より上昇します。な
かなか膨らまない新品の風船と、すぐに膨らむくたびれた風船を、同じ大きさにするのに必要な空気の圧力は違い
ますよね?
拡張末期容積の減少により、
拡張末期容積の低下⇒前負荷低下=一回拍出量低下⇒心拍出量低下⇒心不全
という連鎖反応が起こって、拡張不全は悪者になってしまうのです。
参考
※3 を見て、「あれ?拡張末期容積と拡張末期圧はどっちも前負荷の指標として使うじゃないか。片方が増加して、
片方が減少したら、一体この時の前負荷はどうなっちゃうんだ?」なんて考えてしまった人もいるかもしれません。
(思わなかった人は、この参考は流してください)
まあ
(前負荷の上昇)=(一回心拍出量アップ)
ですから、この場合はもちろん前負荷は減少していることになるのですが。
臨床では拡張末期容積も拡張末期圧も前負荷の指標としてよく使われていますが、厳密に言えば両者は違う値で
す。両者の関係はコンプライアンスとして表されます。
コンプライアンス=
⊿容積
⊿内圧
通常は心臓のコンプライアンスが一定とみなすので、拡張末期容積も拡張末期圧も前負荷の指標として使用して
います。ところが拡張不全の話では、まさにコンプライアンスが低下してしまう(硬くなっちゃう)ので、両方を盲目
的に使うことは出来ません。話が長くなるので詳細は省きますが、前負荷で大事なのは、
“心筋がどれだけ伸びてい
るか”なので、ここでは
拡張末期容積の低下⇒前負荷低下=一回拍出量低下⇒心拍出量低下⇒心不全
と考えてください。
ちなみに、この拡張不全は今まで見過ごされてきた心不全で、肺鬱血、心拍出量低下を認め、収縮不全が無く、
呼吸器疾患、腎不全が無いケースでは拡張障害だと考えるのだそうです。おまけで BNP も高値だったらほぼ間違い
ありません。
以上を踏まえて収縮不全と拡張不全を見分けるための診断の進め方がプリントに“心不全の診断のすすめかた”
として記載されていますので、チェックしておいて下さいね。
§4 心不全の病態の検討視点
○心ポンプ機能不全(心血行動態 Hemodynamics)
心不全で大切なのは、低心拍出量と、肺鬱血による呼吸困難です。
Swan-Ganz Catheter を利用すれば、
肺動脈楔入圧の測定などで肺鬱血の病態を心血行動態的視点で把握できます。
○神経体液性因子
きっと生理学で詳しく説明があるのだと思いますので、ここでは項目列挙で勘弁してください。
神経体液性因子的視点で見るべきは、
・交感神経系(カテコールアミン)
・RAA 系(レニン、アンジオテンシン、アルドステロン系)
・利尿ペプチドファミリー系(ANP、BNP)
・その他(エンドセリン、MMPs、TIMPs、サイトカイン等)
などなど・・・
簡単に言うと、心ポンプ機能不全は心臓を『物理学的に診る』ことで、神経体液性因子は心臓を『生化学的に診
る』ことです。
§5 心室リモデリング
心室リモデリングとは、心疾患の進行とともに起こってくる心室の構造的、幾何的変化のこと。心臓がトラブル
に対応(代償)するために、分厚くなったり、でっかくなったりします。このリモデリングは、心不全進行の機序を考
える際に重要です。機序ってなんじゃい?ってことですが…
冒頭に書きましたが、心不全は様々な心疾患のなれの果てです。言い換えると、心不全になる原因はいっぱいあ
るってことです。この原因を心室のリモデリング具合で把握してみよう!というのが機序を考えることだと思いま
す。
心室のリモデリングは原因に即して起こります。例えば、高血圧なら心臓の壁は厚くなり、心筋梗塞なら梗塞層
は繊維瘢痕化して硬くなります。このように、心臓に加わったダメージは、リモデリングとして痕跡が残るのです。
最終的に、心室(左室)は不可逆的な心室リモデリングに至ります。こうなると、もはや代償にもならず、自分の首
を絞めるだけです。やっぱり代償には限界があるんですね。
§6 Laplace の法則
これは出るんでしょうか?分かりませんが、授業では触れたので少し解説します。
LV wall stress =
LV pressure × LV diameter
2 × LV wall thickness
って書いてあります。英語がめんどくさいので、訳してみます。
左室壁応力 =
左室内圧 × 左室内径
2 × 左室壁厚
こんな感じです。
左室壁応力とは、後負荷を難しくした言葉です。要は後負荷です。後負荷を正確に定義するには、左室壁応力という
概念を使うのです。壁応力は単位面積あたりにかかる力、です。
後負荷は、心室が打ち勝たなくてはならない抵抗、でしたね。同様に、左室壁応力とは左室が打ち勝たなくてはなら
ない抵抗の大きさを表します。大きければ大きいほど、心臓はきつくなります。
式の中身を見てみましょう。左室内圧が高まると(ex.高血圧)、左室壁応力は大きくなり(後負荷上昇)、一回心拍出量
は低下します。
左室内径が大きくなると(左室拡張)、やはり左室壁応力は大きくなり(後負荷上昇)、一回心拍出量は低下します。
一方、左室壁厚が大きくなると(ex.心肥大)、左室壁応力が小さくなり一回拍出量は増加します。壁応力は単位面積あ
たりにかかる力ですから、心筋が分厚くなると単位面積あたりにかかる力が分散してしまうわけですね。高血圧のとき、
心筋が厚くなるようにリモデリングされるのは、この Laplace の法則を利用した代償機構なんですね。もちろん肥大に
は弊害も沢山あります。が、それは心筋症の項に譲ります。
§7 ANP と BNP
ANP も BNP もどちらも心不全のときに体内で分泌される物質です。その他 CNP なる物質もあるんですが、プリ
ントには乗ってませんね。
ANP は心房性ナトリウム利尿ペプチドの略で、BNP は脳性ナトリウム利尿ペプチドの略です。名前が示すように、
どちらも利尿を促進します。頻拍になると、おしっこがしたくなるそうですが、これは ANP、BNP の効果だそうで
す。おしっこを沢山出す⇒循環血液量が減る⇒血圧が減少し、心臓が保護される、という有難い効果をもたらして
くれるわけです。
両者の特徴はプリント参照でお願いします。
特に注意すべきは両者が生合成される場所でしょう。
ANP は心房性、
と命名されているように、心房から分泌されます。一方、BNPの方は脳性、と名前が付いているにもかかわらず、
生合成部位は心室です。これは発見の順番のせいです。
あとプリントには、BNP を例に出して、NYHA の重症度と BNP の量が比例していること、および BNP の量の
推移から患者さんの予後を判定できることを挙げています。
§8 右心不全
右心不全の定義
純粋の左心系は問題なく、右心系のみに障害のある心不全。
左心不全の波及による右心不全は両心不全だ、と書いてあります。
今まで何の断りも無く心不全について話してきました。ここでは右心不全について触れます。心臓は基本的に全
身へ血液を送るポンプなので、左心系機能を中心にして考えます。だから一般に心不全といわれるものは左心不全
がその本体となります。
しかし、全身の血液が戻ってくるのは右心系ですし、大事な肺の手前にあるのも右心系なわけです。そういうこ
とで、右心系の機能不全も生体に重大な被害を与えます。
直前のまとめ C-6.7.8
≪右心不全≫
6.右心不全が生じると、体循環の鬱血がみられる
7.全身浮腫、肝腫大、下腿浮腫がみられる
8.上大静脈鬱血の結果、頚静脈怒張や胸水を生じる
右心不全の症状として、体重増加、頚静脈の怒張、下腿浮腫、肝腫大が挙げられます。これらに共通すること、
それは大静脈の還流障害です。いずれも右心系の収縮障害によって起こっています。すなわち、右室の拡張末期圧
が上昇して、その圧が大静脈を通して全身に伝播する、という流れです。ちなみに腫大した肝臓をニクズク肝、と
呼ぶのは覚えていますか?
続いて右心不全の原因疾患ですが、一番大切なのは、左心不全が波及してくる点です。左心不全が起こると、血
液が心臓から出て行きにくくなります。すると、段々左心系の拡張末期圧が上昇してきて、肺血管の圧が高くなり
ます。それってつまり、右心室に対する後負荷が上昇してるってことですよね?そんなわけで右心系の拍出量が低
下します。
その他にも原因疾患は色々ありますが、長くなるのでプリントを参照して下さい。
参考
右室と左室の間には、明らかな違いがあります。右室は左室に比べて壁が薄く、コンプライアンスが高い。その
ため、たとえ静脈還流が著しく増加しても、右室はあまり内圧を増加させることなく血液を受けることが出来る。
柔らかいから、沢山血液が来ても膨らんで圧力の上昇を抑えることができるのです。
その一方、右室は急激に後負荷が増大する状況に極めて弱い。これの典型例こそが左心不全なのです。
§9 慢性心不全
直前のまとめ D
≪急性心不全≫
1.急性心不全は急激に心機能が低下する状態をいい、重症化すると心原性ショックとなる
2.原因:急性心筋梗塞(特に左室梗塞)、僧帽弁腱索断裂、急性心筋炎、急性心膜炎、不整脈などがある
急激に全身に循環障害が生じるので、全身乏血症状(血圧症状、尿量低下、意識障害、皮膚温低下など)
が主となる
3.治療:迅速なる応急対応が求められる
まず安静を保たせ酸素吸入を行う
薬物治療では利尿薬、血管拡張薬が用いられ、場合によってはモルヒネ、強心薬が併用される
薬物療法の効果が不十分な場合は大動脈内バルーンパンピングや PCPS などの補助循環も用いられる
≪慢性心不全≫
4.慢性心不全では、心機能低下はゆっくりと進むので、鬱血や浮腫(内臓腫大、四肢浮腫、腹水など)が主症状と
なる
5.原因:心筋梗塞後、高血圧、弁膜症などが挙げられる
6.治療:食事療法(塩分・水分摂取制限)、運動療法などの一般療法が主であり、それに併用する形で利尿薬、強心
薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬などが用いられる
例によってまとめを最初に載せておきます。
慢性心不全は、時代によって病態と治療の概念が変化してきました。現在慢性心不全を考えるにあたって一番大
切なのは、神経体液性因子の上昇という病態と、治療薬としての ACE-I、β-blocker、ARB です。
○神経体液性因子の上昇
神経体液性因子の上昇は、Frank-Starling 機構と同じく、心不全の代償機構です。心臓ポンプ機能不全に反応し
て、神経体液性因子と呼ばれる様々な要素が活性化し、なんとかポンプ機能を回復させようと奮闘します。短期的
に見れば神経体液性因子の上昇は心不全を改善する有難い存在なのですが、やはり長期間上昇したままだと有害に
なってしまいます。そういうわけで、慢性心不全の治療では、せっかく頑張ってくれている神経体液性因子を泣く
泣く抑制します。
神経体液性因子の具体的な要素としては、
・交感神経系
・RAA 系
・抗利尿ホルモン
・エンドセリン
・サイトカイン
・酸化ストレス
などが挙げられます。
○治療薬
上でも書きましたが、慢性心不全の治療では神経体液性因子を抑制する薬を投与します。長期間心不全に悩まさ
れている人にとって、神経体液性因子の上昇はもはや心筋障害的であり、心不全の悪化要素でしかないからです。
そこで、心筋を傷害する神経体液性因子を抑制し、心筋保護的な ANP や BNP に頑張ってもらうのです。
○ステージ分類とステージ別治療
慢性心不全の進展のステージ分類(ACC/AHA guideline)は一度進行したらもう元には改善しません。そしてステー
ジ分類に基づいて、治療方法を決定します。いずれもプリントを眺めてください。
プリントの最後の方は授業中やってないので、とりあえず省きました。
■リウマチ熱及び後天性弁膜症
●コアカリ到達目標
A.主な弁膜症(僧帽弁疾患、大動脈弁疾患)の原因、病態生理、症候と診断を説明できる
●対応する授業
19 リウマチ熱及び後天性弁膜症(石上先生)
●直前のまとめ
A.主な弁膜症(僧帽弁疾患、大動脈弁疾患)の原因、病態生理、症候と診断を説明できる
≪僧帽弁狭窄症 mitral stenosis(MS)≫
1.僧帽弁狭窄症は僧帽弁口が狭窄した状態で、原因としてはリウマチ熱によるものが多い
2.症状:弁口面積が 1.5cm2 以上(通常 3∼5cm2)なら無症状。それ以上なら呼吸困難などが生じる
3.リウマチ熱再燃・妊娠などをきっかけに症状悪化や症状出現をみることがある
4.本症では心房細動をが合併しやすく、血栓形成にて塞栓を生じやすい
5.聴診所見:心先部にてⅠ音亢進、僧帽弁開放音、拡張期ランブル(低調性、遠雷様雑音)、拡張末期の前収縮期雑音(心
房細動を合併すると消失する)、Graham Steel 雑音(肺高雷様雑音を合併して肺動脈弁閉鎖不全を生じる
と出現する)などが聴取される
6.Q‐Ⅰ音時間の延長、Ⅱ音-OS 時間の短縮がみられる
7.心エコー検査:僧帽弁前尖拡張期後退速度(DDR)の低下、僧帽弁エコー輝度の増強、僧帽弁の左室へのドーム状突
出、弁口面積縮小が観察される
8.心カテーテル検査:肺動脈楔入圧の上昇がみられる
9.治療:まず安静、水分制限、利尿薬・血管拡張などの内科的治療が行われる。効果が不十分な場合は経皮的バルー
ン僧帽弁切開術(PTMC)、直視下交連切開術(OMC)、僧帽弁置換術(MVR)などが行われる
≪僧帽弁閉鎖不全症 mitral regurgitation(MR)≫
10.僧帽弁閉鎖不全症は心臓収縮期に左心室から左心房へ血流が逆流する現象をいう
11.原因:リウマチ熱、僧帽弁逸脱症候群、心内膜床欠損症、感染性心内膜炎、急性心筋梗塞(乳頭筋断裂、乳頭筋不
全)、鬱血性心不全(僧帽弁弁輪拡張)などがある
12.症状:無症状期間を経て、左心不全(肺鬱血)が出現する
13.聴診所見:心尖部の前収縮期逆流性雑音、Ⅰ音減弱、Ⅲ音聴取がある。相対的僧帽弁狭窄が生じると拡張中期雑音
が出現し Carey Coombs 雑音と呼ばれる
14.カラードップラー心エコー検査や左室造影検査で左心室から左心房へ逆流するのが確認される
15. 治療:内科的治療(血管拡張薬、利尿薬など)や外科的治療(僧房弁形成術・僧帽弁置換術)がある
≪大動脈弁狭窄症 aortic stenosis(AS)≫
16. 大動脈弁狭窄症は大動脈弁口が小さくなり、収縮期に左心室から大動脈への血流障害が生じた状態をいう
17.原因:先天性二弁症、リウマチ熱、動脈硬化(大動脈弁石灰化、高齢者)などがある
18.大動脈弁口面積が 1.5cm2 以下では軽度、1.0cm2 以下では中等度、0.5cm2 以下では高度の症状が出現する(正常
3cm2 前後)
19.無症状で経過する期間は長いが、症状出現後は経過が早く突然死することがある
20.症状:胸心痛(左心室壁肥厚による)、失神(脳血流低下による)、心不全などを呈する
21.他覚所見:脈の立ち上がりが遅く、遅脈・小脈を呈する。第二肋間胸骨右縁に駆出性雑音が聴取され、ⅡA 音が
遅れる(奇異性分裂)
22.心カテーテル検査:左心室と大動脈の圧較差を観察する(左室-大動脈圧較差が 50mmHg 以上の場合は手術が考慮
される)
23.治療:原則として大動脈弁置換術(AVR)が行われる
≪大動脈弁閉鎖不全症 aortic regurgitation(AR)≫
24. 大動脈弁閉鎖不全症は拡張期に血液が大動脈から左心室へ逆流する病態である
25.原因:リウマチ熱後遺症、大動脈弁輪拡張症(Marfan 症候群など)、大動脈解離(Ⅰ・Ⅱ型)、大動脈炎症候群、感染
性心内膜炎などがある
26.症状:長期間の無症状期を経て左心不全(左室容量負荷)、胸心痛(拡張期血圧低下)や失神(脳血流量低下)などが出
現する
27.脈拍:大脈・速脈があり、Corrigan 脈、反跳脈などを観察する。重症になると頚部が心拍ごとにゆれる(Musset
徴候)
28.血圧:収縮期の血圧が上昇し、拡張期血圧が低下するため脈圧が開大し毛細管拍動が観察される(Quincke 拍動)
29.聴診所見:第三肋間胸骨左縁で拡張期灌水様(高調性)雑音、ⅡA 音の亢進、心尖部の拡張中期雑音(Austin Flint
雑音、機能的僧帽弁狭窄による)などが聴取される
30.胸部X線検査:左室肥大による左第 4 弓の拡大と心胸比の増大
31.心エコー検査:僧帽弁前尖エコーの fluttering がみられる
32.カラードップラー心エコー検査:大動脈から左心室への逆流が観察される
33.大動脈造影:左心室への逆流がみられ重症度が分類されている(Sellers 分類)
34.治療:大動脈弁置換術が行われる
●授業解説
より詳しい症状とかはプリントを見てくださいね。やや見にくいですけど。
≪僧帽弁狭窄症 mitral stenosis(MS)≫
直前のまとめ A-1・2・3
1.僧帽弁狭窄症は僧帽弁口が狭窄した状態で、原因としてはリウマチ熱によるものが多い
2.症状:弁口面積が 1.5cm2 以上(通常 3∼5cm2)なら無症状。それ以上なら呼吸困難などが生じる
3.リウマチ熱再燃・妊娠などをきっかけに症状悪化や症状出現をみることがある
僧帽弁狭窄症は、僧帽弁の口が狭くなることで起こります。狭くなるので、左心房から左心室へ血液が流れにくく
なります。その結果心臓から血が出て行きにくくなったり、肺の方へ血が鬱滞したりします。
直前のまとめ A-5・6・7・8
5.聴診所見:心先部にてⅠ音亢進、僧帽弁開放音、拡張期ランブル(低調性、遠雷様雑音)、拡張末期の前収縮期雑音(心
房細動を合併すると消失する)、Graham Steel 雑音(肺高雷様雑音を合併して肺動脈弁閉鎖不全を生じる
と出現する)などが聴取される
6.Q-Ⅰ音時間の延長、Ⅱ音-OS 時間の短縮がみられる
7.心エコー検査:僧帽弁前尖拡張期後退速度(DDR)の低下、僧帽弁エコー輝度の増強、僧帽弁の左室へのドーム状突
出、弁口面積縮小が観察される
8.心カテーテル検査:肺動脈楔入圧の上昇がみられる
(心尖部)拡張期ランブルっていうのは、拡張期に雷鳴のような音が聴こえることです。Ⅰ音は房室弁が閉じる時の音
です。
ここで、僧帽弁開放音⇒拡張期ランブル⇒Ⅰ音亢進の流れを僧帽弁狭窄症の病態を元に考えてみましょう。
まず、この疾患は僧房弁の変性があるわけですから、弁が開く時に変な音がします。(僧帽弁開放音)
↓
さらにいざ弁が開いたとしても通常より開いた口が小さいので、そこを無理やり血液が通ろうとするとゴゴゴゴと
雷みたいな音がするわけです。(拡張期ランブル)
↓
それでもなんとか血液が弁を通過して拡張期が終了したとしましょう。せっかく頑張った心臓ですが、残念ながら
左心房はいつもより血液が多い状態のはずです。心房圧が高い状態で僧房弁を閉じるには、心房圧よりさらに心室
圧が高くなるまで待たなければなりません。しかも心室圧が高くなった瞬間、急に弁は閉まります。これは強引に
ドアを閉めたようなもので、閉じるとき音が大きく鳴ってしまいます。(Ⅰ音亢進)
なお、拡張末期の前収縮期雑音は拡張期の最後、心房が収縮して心室にとどめの血液を送り込む時期に発生します。
ここでも狭窄した弁を無理に血液が通らなくてはならないので、雑音が聴こえます。
直前のまとめ A-4
本症では心房細動をが合併しやすく、血栓形成にて塞栓を生じやすい
合併症としては心房細動が大事です。細動が起こると、血液循環的な影響はあまりありませんが、心房内で血液が
濁流となって、血が固まってしまいます。これが塞栓症のリスクを増加させてしまうのです。
ちなみに、塞栓症が初発症状の場合もあるそうです。
直前のまとめ A-9
治療:まず安静、水分制限、利尿薬・血管拡張などの内科的治療が行われる。効果が不十分な場合は経皮的バル
ーン僧帽弁切開術(PTMC)、直視下交連切開術(OMC)、僧房弁置換術(MVR)などが行われる
プリントを参照してください。
根治は外科療法となります。
抗凝固療法が用いられるのは、前述の通り血栓症が予後に大きく影響するからです。
経皮的バルーン僧帽弁切開術(PTMC)とは、バルーンを左心室で膨らまして狭窄を改善する治療法です。カテーテル
を静脈から挿入し、右心房へ到達後、心房中隔に孔をあけて左心房へ行き、最終的に左心室へ向かいます。
≪僧帽弁閉鎖不全症 mitral regurgitation(MR)≫
直前のまとめ A-10
10.僧帽弁閉鎖不全症は心臓収縮期に左心室から左心房へ血流が逆流する現象をいう
11.原因:リウマチ熱、僧帽弁逸脱症候群、心内膜床欠損症、感染性心内膜炎、急性心筋梗塞(乳頭筋断裂、乳頭筋
不全)、鬱血性心不全(僧帽弁弁輪拡張)などがある
僧帽弁閉鎖不全症は僧房弁がしっかり閉まらなくなり、収縮期に血液が左心房へ逆流する現象です。僧房弁が閉ま
らなくなる原因としては、僧房弁自体がおかしくなるのは勿論ですが、他にも乳頭筋や腱索など弁の開閉に関係す
る構造物の異常によっても生じます。
直前のまとめ A-12・13・14
12.症状:無症状期間を経て、左心不全(肺鬱血)が現れる
13.聴診所見:心尖部の前収縮期逆流性雑音、Ⅰ音減弱、Ⅲ音聴取がある。
相対的僧帽弁狭窄が生じると拡張中期雑音が出現し Carey Coombs 雑音と呼ばれる
14.カラードップラー心エコー検査や左室造影検査で左心室から左心房へ逆流するのが確認される
血液が左心房に逆流するので、左心系に容量負荷がかかります。つまり拡張します。拡張すると心臓機能が損なわ
れるので、それを補うためにどんどん心臓が肥大します。この代償機構のため、長い無症状期間を経てから左心不
全症状が現れます。
直前のまとめ A-15
15. 治療:内科的治療(血管拡張薬、利尿薬など)や外科的治療(僧帽弁形成術・僧帽弁置換術)がある
僧帽弁置換術は弁膜症の問題は解決しても、生涯抗凝固療法の継続を求められるという問題点があります。弁の再
形成が出来るならなるべく僧帽弁形成術を行う傾向だそうです。
≪僧房弁逸脱症候群 mitral valve prolaps syndrome(MVP)≫
収縮期に僧房弁(特に後尖)の一部が左心房内にはみ出す病態。僧房弁逆流をするものもしないものもある。
合併症としては、僧房弁狭窄症、感染性心内膜炎。
高リスク例は、①収縮期雑音がある
②肥厚した余剰僧房弁がある
③左室左房系の増大した場合
④年齢が 45 歳以上
とされている。
≪大動脈弁狭窄症 aortic stenosis(AS)≫
直前のまとめ A-16・17・18
16.大動脈弁狭窄症は大動脈弁口が小さくなり、収縮期に左心室から大動脈への血流障害が生じた状態をいう
17.原因:先天性二弁症、リウマチ熱、動脈硬化(大動脈弁石灰化、高齢者)などがある
大動脈弁狭窄症は大動脈弁口が小さくなり、左心室から大動脈への血液が流れにくくなった状態のことです。
病因としては、先天性のもの、動脈硬化によるもの、リウマチ熱の後遺症の 3 つが挙げられます。
直前のまとめ A-19・20・21・22
18.大動脈弁口面積が 1.5cm2 以下では軽度、1.0cm2 以下では中等度、0.5cm2 以下では高度の症状が出現する(正常
3cm2 前後)
19.無症状で経過する期間は長いが、症状出現後は経過が早く突然死することがある
20.症状:胸心痛(左心室壁肥厚による)、失神(脳血流低下による)、心不全などを呈する
21.他覚所見:脈のたち上がりが遅く、遅脈・小脈を呈する。第二肋間胸骨右縁に駆出性雑音が聴取され、ⅡA 音
が遅れる(奇異性分裂)。thrill も触知。
22.心カテーテル検査:左心室と大動脈の圧較差を観察する(左室-大動脈圧較差が 50mmHg 以上の場合は手術が考
慮される)
無症状の期間が長いのは、左室が肥大して代償するからです。ようするに圧負荷がかかるわけです。
直前のまとめ A-23
23.治療:原則として大動脈弁置換術(AVR)が行われる
その他、感染性心内膜炎の予防、心不全への対症療法を目的とした内科的治療も行われます。
≪大動脈弁閉鎖不全症 aortic regurgitation(AR)≫
直前のまとめ A-23
24. 大動脈弁閉鎖不全症は拡張期に血液が大動脈から左心室へ逆流する病態である
25.原因:リウマチ熱後遺症、大動脈弁輪拡張症(Marfan 症候群など)、大動脈解離(Ⅰ・Ⅱ型)、大動脈炎症候群、感
染性心内膜炎などがある
大動脈弁閉鎖不全症は大動脈弁がきちんと閉まらないため、拡張期に血液が大動脈から左心室へ逆流する病態です。
原因は上記の通りですが、このうちリウマチ熱後遺症が 1/3 で一番多く、この場合ほとんどが狭窄を合併します(AS
+AR)。
直前のまとめ A-23
26.症状:長期間の無症状期を経て左心不全(左室容量負荷)、胸心痛(拡張期血圧低下)や失神(脳血流量低下)などが
出現する
27.脈拍:大脈・速脈があり、Corrigan 脈、反跳脈などを観察する。重症になると頚部が心拍ごとにゆれる(Musset
徴候)
28.血圧:収縮期の血圧が上昇し、拡張期血圧が低下するため脈圧が開大し毛細管拍動が観察される(Quincke 拍動)
29.聴診所見:第三肋間胸骨左縁で拡張期灌水様(高調性)雑音、ⅡA 音の亢進、心尖部の拡張中期雑音(Austin Flint
雑音、機能的僧帽弁狭窄による)などが聴取される
30.胸部X線検査:左室肥大による左第 4 弓の拡大と心胸比の増大
31.心エコー検査:僧帽弁前尖エコーの fluttering がみられる
32.カラードップラー心エコー検査:大動脈から左心室への逆流が観察される
33.大動脈造影:左心室への逆流がみられ重症度が分類されている(Sellers 分類)
例によって無症状期間が長いのは、左室が拡大して代償するためです。容量負荷がかかるわけですね。
直前のまとめ A-23
34.治療:大動脈弁置換術が行われる
AS の時と同様、感染性心内膜炎の予防、心不全への対症療法を目的とした内科的治療も行われます。
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