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博 士(歯 学) 大 出 博 司 学位論文題名 前後および上下の咬合関係と
博 士 ( 歯 学) 大 出博司 学 位 論 文 題 名 前後および上下の咬合関係と高い相関を認める 骨格系角度計測値の抽出 学位論文内容の要旨 【緒言】 上下顎の相対的な位置関係は、咬合が形成される解剖学的基盤となる。しかし、 従来、上 下顎間関係と咬合との関連を調べることを目的として、 両者の関係を統計学的 に分析し た報告はほとんど例を見ないと思われる。また、頭蓋部 を基準平面とする従来 のセファ ログラム分析値が、実際の上下顎間関係およぴ咬合と一 致しない場合があるこ とが報告 されており、セファログラム分析値と、上下顎間関係お よび咬合の関係につい ては不明 な点も存在していると思われる。本研究では、数多くの 骨格系セファログラム 分析値と 咬合との相関を調べ、咬合と関連を有する上下顎間関係 の分析としてのセファ ログラム 分析の有効性を検討し、さらに上下歯列の前後・上下的 な咬合関係と整合性を 認 め る 、 よ り 精 度 の 高 い 骨 格 系角 度計 測項目 を抽 出す るこ とを 目的 とし た。 【 材料 】資 料と し て町 屋矯 正歯 科診 療所 を受 診し た女 子矯 正患 者112名( 平均年齢1 5 歳 70月 、 範 囲 : 11歳 40月 ---19歳 40月 、 Hellman歯 年 齢 は IVA)の 術 前 セ フ ァ ロ グ ラム 11 2枚 と、 同日 に印象探得された平行模型を用いた。対 象患者は、歯数の異常・ 歯の形態 異常を認めないもの、側方歯部に叢生を認めないもの、 上下前歯に過度の唇舌 的傾斜を 認めないもの、計測に影響する歯冠修復を有しないもの 、正貌の非対称を認め な いも の、 唇顎 口 蓋裂・顎変形症 を含まないものという条件で抽出された。これら11 2 名の咬合 状態は、上顎第一大臼歯近心咬頭頂と下顎第一大臼歯頬 面溝の距離(上下第一 大 臼 歯 前 後 変 位 量 ) の 平 均 値 は O.lmmで 、 overbiteの 平 均 値 は 2. 2mmで あ っ た 。 【方法】 1 .側面セファログラムの角 度計測 側面 セフ ァロ グ ラム の計 測点 は歯 科矯 正に おける代表的な 1 8点とした。計測点はタ ブ レッ トか らパ ー ソナ ルコ ンピ ュー ター へX一 Y 座 標入 カし た。 18 点 のう ち、異なる2 点 の組 み合 わせ に よっ て形 成さ れる 直線 は153通り( 18 C2 =1 53) であり、15 3の直線から の 異 な る 2直 線 の 組 み 合 わ せ に よ り 得 ら れ た 骨 格 角 度 計 測 項 目 は 、 11628項 目 (1 53 C2 :ニ11 62 8) であった。それらを 全て算出した。 2.歯系の距離計測‘ 歯系の 距離計測のうち、前後的な評価には、上下第一大臼歯の前後的な変位量として、 上顎第一 大臼歯近心咬頭頂と下顎第一大臼歯頬面溝との水平距離 を計測した。台座を側 方歯列と 平行に作製したスタディーモデル側面のコピー紙上で規 格計測した。歯系の上 ―496 ― 下 的 計測 は 、 側 面セ ファロ グラム上 で咬合 平面に対 して垂 直にov er bi te を 計測した 。 3 .相関分析 骨格 系 角 度 計測 116 28項 目と 第 一 大臼 歯 の 前後 的変位 量およぴ o ve rb it eについ て、 ピア ソンの 積率相関 係数を 算出した 。さら に、複数 の骨格系角度計測項目が関与してい る 可 能性 が あ る ので 、st ep wi se 法 による重 回帰分析 を行っ た。頭蓋 顎顔面 領域にお け る上顔面部(頭蓋底).中顔面部・下顔面部の代表的な水平的直線( S N ,S −B a ,N ーB a ,F H pl an e,Pa la ta l pl an e,Oc cl us al p la ne ,M an di bu la r pl an e)および、 前顔面部 ・後顔 面部の代表的な垂直的直線(N 一A ,N −B ,Ya x i s ,Ra m u sp l a n e ) の合計1 1 直線を選択した。 前 後 的な 分 析 に は、 それら 1 1直線に 第一大臼 歯の前後 的変位 量と最も 高い相 関を認め た 2直 線 を 加 え た 13直 線 の 組 み 合 わ せ で あ る 78角 度 計 測 項 目 を 独 立 変 数 と し て ste pwise 法 に よ る重 回帰分 析を行 った。同 様にov er bi te に ついては 、ov er bi te と最 も 高 い 相 関 を 認 め た 2直 線 を 加 え た 13直 線 、 78角 度 計 測 項 目 を 独 立 変 数 と し た 。 【結果】1.ピアソンの積率相関係数 11 62 8の骨格 角度計 測項目と 、歯系の 前後的 計測項目 (第一 大臼歯の 前後的 変位量) についてピアソンの積率相関係数を算出した結果、A −Bto A ―A r( R = O .8 5 1 ) が最も高い相 関を 示して いた。日 常臨床 において 最も用 いられる A N Bの相関係数はR :0 .7 2 5で、有意 水準1 % で 有 意 差を 認 め た。 歯 系 の上 下 的 計測 項目 ( ov er bi te )につい てピア ソンの積 率相関係数を算出した結果、A N S ―Got oP o g 一A r (R =O .6 1 2 ) が、最も高い相関を示した。 Mand plane to FHは R=O. 455で あ り 、 危 険 率 5% で 有 意 差 を 認 め た 。 2 .重回帰分析 Stepwise法 に よ る 分 析 結 果 は 、 大 臼 歯 の 前 後 的 変 位 量 を 予 測 す る 重 回 帰 式 は Y =O .2 6 3 X1 + 0.0 88 X 2 + 0 .0 5 3 X 3 −3 2 .9 9 1 (Y :第一大臼歯前後変位量,X l : A ―B t o A ―A r ,X 2 : FH t o oc cl us al pl an e,X 3: r amu s pl . to m an d. p l. )で、重相関係数は0.88 2 であっ た。o v er b i te を予測する重回帰式はY =−0.3 2 4 X 1 + 0.0 8 9 3 X 2 + 1 8 .5 8 7 ( Y : o ve r b i t e ,X l : ANS ― Go t o Po g− Ar , X2: Nー Bt o ma nd. p lane )で、重 相関係 数は-0 . 63 9であっ た。 【 考 察】 第 一 大 臼歯 前 後 的変 位 量 と骨 格 角 度計 測との 間には 全1 16 28 項 目のう ち3 5項 目にO . 8 0≦r く0 .9 0 の高い相関を認めた。しかし、上下的骨格角度計測項目と、o v e r b i t e との 問には 、最も高 いもの であっても、0 . 6 0≦Rく0.65 の相関を認めるものが7 項目あ るに 過ぎな かった。 この結 果からは 、顎態 と咬合と の関係において、前後関係と比較し て上 下的関 係は相関 関係が 弱いと考 えられ た。第一 大臼歯前後変位量と最も高い相関を 示 し た骨 格 角 度 計測 項目の 上位10 項 目は全て 上下顎骨 前方部 の垂直的 な直線 と、上下 顎 領 域を 通 る 水 平的 な直線 で形成さ れてい た。ov er bi te と 最も強い 相関を 示す骨格 角 度 計 測項 目 の 上 位10項目は、 顎角か ら上顎前 方部ある いは眼 窩下縁を 結ぶ前 上りの直 線 と 下 顎 後 上 方 部 か ら 下 顎 前 方 部 へ の 前 下 が り の 直 線 で 形 成 さ れ てい た 。 S tepwi se法 を用 い て、骨格 系角度 計測値か ら咬合 関係を予 測する重 回帰分 析を用い る こ とに よ り 、 第一 大 臼 歯の 前 後 的変 位 量 につ いては 前述の 3 説明 変数が 抽出され 、 ov er bi te に ついては 前述の 2 説明 変数が 選択され た。いず れも、 単相関と 比べて、相関 の 向 上を 認 め た と考 えられ た。重相 関分析 において も、ov er bi te に ついて は、上下 第 ー 497− 一 大臼歯前 後変位 量はど高 い相関を認めなかった。前歯被蓋には、骨格系の要因のみな ら ず 、 舌 等 の 機 能 的 要 因 が 関 与 し て い る 可 能性 が あ るこ と が推 察 さ れる 。 【 結論】1.精 度の高い 前後的 な上下顎 間関係の セファ ログラム分析を行うためには、 ABpl an eを含む上 下顎領 域の角度 計測項 目を用い ることが 適切だ と考えら れた。 2.重回 帰方程 式を用い ること によって 、分析の 精度は さらに向上すると考えられた。 3. 上 下 的 な 上 下 顎 間 関 係 の 分 析 は 、 前 後 関 係 ほ ど 高 い 相 関 を 示 さ な か っ た 。 - 498― 学位論文審査の要旨 主 査 教 授 飯 田 順 郎 副 査 教 授 八 若 保 一 孝 副 査 教 授 森 田 学 学位論文 題名 前後および上下の咬合関係と高い相関を認める 骨格系角度計測値の抽出 審査は 審査員全 員出席の 下で行っ た。まず申請者に提出論文要旨の説明を求めると ともに 、適宜提 出論文と 関連分野 に関する説明を求め、その後、口頭試問の形式でそ の 内容 お よ び関 連分野につ いて試問 した。ま ず申請者 から以下 の説明が なされた。 【目的】 顔面頭蓋の 形態的特 徴と上下 顎歯列の 咬合関係 は密接に関連していることは 従来から 認識されて いるとこ ろであり 、矯正臨 床におい ては従来からセファログラム 分析によ り骨格的な 形態分析 が診断に 用いられ ている。 しかし、しばしば従来の分析 方法では 、その骨格 系の分析 値とそこ から推定 される上 下顎の前後的、上下的な咬合 関係が実 際の咬合関 係と一致 しないこ とが経験 される。 そこで本研究においては骨格 系セ フ ァロ グ ラ ム分 析 値と 上 下顎 歯列の前 後的およ ぴ上下的 咬合関係と の相関を 詳 細に調べ 、咬合と整 合性を認 めるより 精度の高 い骨格系 角度計測項目を抽出すること を目的と した。 【材 料 】資 料 は 町屋 矯 正歯 科 診 療所 を 受 診し た 女子 矯 正 患者 112名(Hellman歯年齢 は IVA)の 術 前 セ フ ァ ロ グ ラ ム 112枚 と 、 平 行 模 型 112個 で あ る 。 【方 法 】1.側 面 セ ファ ロ グラ ム の 角度 計 測: 側 面 セフ ァ ロ グラムの計 測点は歯 科 矯正 に おけ る 代 表的 な 18点 と した。 計測点は タブレッ トからパ ーソナルコ ンピュー ター ヘ X― Y座 標入 カ し た。 異 なる2点 の組み合 わせによ って形成 される直線 は153通 り(18C2‘153)であ り、153直線の 組み合わ せにより 得られた骨格系角度計測項目は、 11628項 目 (153C2二 ニ 11628)で あ っ た 。 そ れ ら を 全 て 算 出 し た 。 2. 歯系 の 距離 計 測 :前 後 的な 歯 系 距離 計 測は 、 上 顎第 一 大 臼歯近心咬 頭頂と下 顎 第一大臼 歯頬面溝と の水平距 離を平行 模型から 計測した 。歯系の上下的計測は、側面 セファロ グラムから overbiteを計測し た。 3. 相 関 分 析 : 骨 格 系 角 度 計 測 11628項 目 と 第 一 大 臼 歯 の 前 後 的 変 位 量 お よ び overbiteについて 、相関係数 を算出し た。さら に、複数 の骨格系角度計測項目が関与 し て い る 可 能 性 が あ る の で 、 stepwise法 に よ る 重 回 帰 分 析 を 行 っ た 。 【結 果 】1.ピ ア ソ ンの 積 率相 関係 数:11628の骨 格角度計 測項目と 、歯系の前 後的 計 測 項 目 ( 第 一 大 臼 歯 の 前 後 的 変 位 量 ) との 相 関 係数 を 算出 し た 結果 、 A― B to A―Ar (R=O. 851)が 最も 高い相関を示していた。歯系の上下的計測項目(overbite)に っ い て は 、 ANS― Go to Pog― Ar (R=ー 0. 612)が 、 最 も 高 い 相 関 を 示 し た 。 2. 重 回 帰 分 析 :Stepwise法 に よる 分析 結果 とし て、 大臼 歯の前 後的 変位 量を 予測 する重回帰式はY=0 . 2 63 Xi +0 .0 88 X2 +0 .05 3X 3ー3 2.9 91 (Y :第一大臼歯前後変位量,X l: A−B toAーAr,X2: FH to occlusal plane,X3: ramus pl.tomand . pl .)で、重相関 係数はO. 88 2であった。ov erbi teを予測する重回帰式はY =ーO .32 4X i+ 0.0 89 3X 2+ 18 .5 87 (Y: overbite, Xi: ANSー Go to Pog―Ar,X2:N―Bto mand. plane)で、重相関係数は ―O. 63 9であった。 【 考察 】第 一大 臼歯 前後 変位量と最も高い相関を示した骨格系角度計測項目は上下顎 骨 前 方 部 の 垂 直 的 な 直 線 と 、 上 下 顎 領 域 を 通る 水 平 的 な 直 線で 形成 され てい た。 overbiteと 最も 強い 相関 を示す骨格系角度計測項目は、顎角から上顎前方部あるいは 眼 窩下 縁を 結ぶ 前上 りの 直線 と下顎 後上 方部 から 下顎 前方 部へ の前 下が りの 直線 で 形成されていた。 【結論】1.精度の高い前後的な上下顎間関係のセファログラム分析を行うためには、 AB planeを 含む 上下 顎領域の角度計測項目を用いることが適切だと考えられた。 2.重回帰方程式を用いることによって、分析の精度はさらに向上すると考えられた。 3.上下 的な 上下 顎間 関係 の分 析は 、前 後関 係ほ ど実 際の咬合関係と高い相関を示さ なかった。 以上の論述に引き続き、以下の項目を中心に口頭試問を行った。 1.本 研 究 の 目的 2.得 られ た重 回帰 分析 の結 果を 臨床 に応 用す る方 法にっ いて 3.資 料 を 女 性に 限 っ た 理 由 4.セ フ ァ ロ 分析 を 角 度 計 測 で 行 っ た 理 由 5.正 中 に ず れ が あ る 症 例 に お け る 影 響 に 関 し て 6.今 後 の 展 開に 関 し て 矯 正歯科臨床においてセファログラム分析は現状ではまだ欠かせないものであり、 患者 の顎顔面頭蓋の骨格的な形態的特徴を分析し、上下顎歯列の咬合関係との関連を 評価 すると同時に治療のゴールを設定し、また治療の難易度をも判断している。しか しな がら、従来から用いられている骨格系の計測項目から推定される上下顎歯列の咬 合関 係と実際の咬合関係との問に隔たりがある症例も経験することから、本研究にお いて は、従来から用いられている骨格系の計測項目が、上下顎歯列の咬合関係の異常 の要 因とな る骨 格系 の不 正を 正し くと らえ る上 で最 適な もの であるかどうかを再度 検証 した。これは、従来のセファログラム分析法が作り上げられた時代には成しえな かっ た多量のデータを使って検証する方法を用いたものであり、矯正臨床に韜ける盲 点に メ ス を 入 れた 価 値 あ る 結果 を 示 し た も のと 高 く 評 価 でき る 。 加 えて、試問に対する回答は適切なものであり、申請者は本研究に直接関係する事 項の みならず、関連分野における基礎的、臨床的な広い学識を有していること、また 同時 に本研究を発展させる将来の展望についても評価された。よって、申請者は博士 (歯 学)の 学位 を授 与さ れる 資格 を有 する もの と認 めた 。