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「燃える集団化現象」を起こす - Nomura Research Institute
視 点 「燃える集団化現象」を起こす エッ!と思わず、テレビに身を乗り出して ホンダの高回転エンジンの開発は、創業者 しまった。韓国で「薄型ブラウン管テレビの の本田宗一郎氏がマン島レースへの出場宣言 発売」のニュースであった。 をした後、実際のレースを見てそのスピード ブラウン管方式では薄型ができない。だか に度肝を抜かれ、エンジンの回転を倍にしな ら、画面の大型化ができないということで、プ ければ太刀打ちできないと考えたことに端を ラズマや液晶が開発されたのでなかったのか。 発する。 ブラウン管方式で、薄型化、大型化が可能 マン島レースで欧米のオートバイメーカー ということになれば、既存の設備を活かすこ に勝たないと、世界への進出はおろかオート とができ、投資は桁違いに少なく済む。製品 バイマーケットから駆逐されてしまうと創業 価格は半分で十分になり、おまけに画像もき 者は考えたのである。 れいだというのである。いろいろな技術革新 頼みの綱であった大学教授に相談したもの の話のなかでも、この種の逆転的な発想のも の、そんなエンジンなどできるわけがないと のは、非常に面白い。 一蹴されてしまう。しかし、技術者たちはそ の不可能への挑戦をあきらめなかった。 このニュースで思い出したのが、NHKの テレビ番組『プロジェクトX』で紹介された 「プラズマテレビの開発」ストーリーである。 に果敢に挑戦し、ブレークスルーに成功した 当時、プラズマ方式ではフルカラー化はで 話はじつに痛快で面白いが、いくつかの共通 きないと言われていた。このため、IBM社な 点があるように感じる。「経営者の強い危機 どは開発から撤退していった。プラズマテレ 感のなかでの、わかりやすい目標の提示」と ビは、この不可能とされてきたフルカラー化 「粘り強く挑戦を続ける熱い技術者集団」の に、20年もの歳月をかけて粘り強く取り組ん だ結果、完成した技術だというのである。 4 こうした、その世界で不可能とされたこと 存在があるように思えてならない。 韓国の薄型ブラウン管テレビのケースの場 このように、業界で不可能であるとされて 合、現時点では液晶テレビが高い収益を稼ぎ きたことに、あきらめずに挑戦し、今日では 出しているものの、画面の大型化が進むにつ 当たり前になっているものは少なくない。 れ、投資が増大する傾向にある。加えて、他 かつてホンダは、マスキー法という厳しい の有力な新技術が登場することによって、主 排ガス基準をクリアする高回転エンジンの開 力の方式が交替するというリスクも決して小 発は不可能とする当時の常識を覆す、CVCC さくはない。いずれ、リスクに耐えられなく エンジンの開発に成功した。 なるのではないか、という経営者の危機感は 2005年5月号 レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright © 2005 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 野村総合研究所 常務執行役員 流通システム事業本部長 小山敏幸(こやまとしゆき) 相当なものだったであろう。 イデアが湯水のように湧いてきて、プロジェ また、ITで世界のトップ企業と対等に渡 クトを成功させるのに必要な人や技術にタイ り合っていくには、他社の特許技術に依存す ミングよく出会う状況になる」という。「燃 るのではなく、自社の技術で、逆に特許料を える集団」とはこうした状態を表したものだ もらうくらいにならなければならないという が、うまく強運をつかんでプロジェクトを成 思いもあったであろう。「金のことは心配す 功させるには、「燃える集団」化することが るな、必ずできる。やり抜いてくれ」という 不可欠だというのである。 経営者の期待は、技術者たちに痛いほど伝わ っていたはずである。 それは、かつてホンダの創業者が、マン島 レースで抱いた危機感とも共通する。こうし 人事を尽くして天命を待つ、という気持ち が強運を呼び寄せるのだということは、事の 大小はあれど、経験的にたしかにそうだ、と いう人が多いのではないだろうか。 た危機感による、経営者の強烈な意思が、新 技術開発を後押ししたであろうことは、想像 に難くない。 日本経済は、「失われた10年」と言われ、 閉塞感に覆われていた時期から、ようやく抜 け出そうとしている。確かな足取りで前進し 薄型ブラウン管テレビの開発現場では、技 ていくには、不可能であるという常識の壁を 術者が会社に寝泊りして、思い立っては実験 破るブレークスルーが必要である。そして、 し、いくつも失敗しては捨て、ということが それに欠かせないのが「燃える集団化現象」 繰り返されたに違いない。 であるように思う。 しかし、NHKの『プロジェクトX』を見て 目の前の現実に追われている技術者など いると、開発の成功ストーリーのなかには、 は、得てして常識に縛られる。しかし、中長 必ずといってよい程、特殊な能力をもった人 期的な競争環境を直視し、抱いた経営者の危 との出会いや、ひらめきや、関連技術の出現 機感は、技術者の感度を上回っていた、とい などがある。 うことも多いのである。この経営者の強い危 ロボット「AIBO」の生みの親である天外 機感が、技術者たちの挑戦する意欲を後押し 伺郎氏の著書『運命の法則』に、「燃える集 し、技術者たちを挑戦に駆り立てる環境を作 団」という語が出てくる。いくつもの新しい り出す。 ことに挑戦してきた氏の経験則によれば、 このような「燃える集団化現象」を引き起 「チームが夢中になって仕事をしている時、 こせる企業が、今後、一歩抜きん出ていくに 突然スイッチが替わり、ひらめきや新しいア ちがいない。 ■ 2005年5月号 レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。 Copyright © 2005 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission. 5