...

口頭発表要旨修正版 - 植物生態学の研究室

by user

on
Category: Documents
31

views

Report

Comments

Transcript

口頭発表要旨修正版 - 植物生態学の研究室
要 旨 (Abstracts) 一般講演・口頭発表 (Oral Presentation) 第1会議室 9/14 (火) 15:30 - 18:30
一般講演・口頭発表 O-1
病気 I
コンタクト・プロセスを用いた
クローナル植物における病原体伝播モデル
Puropagation model of disease on
clonal plant used contact process
*酒井佑槙 a
*Y.Sakaia,
,高田壮則 a
T.Takadaa
a
a
北大院・環境
Hokkaido University
クローナル植物は、種子からだけではなく、根・茎・葉などの栄養器官から植物を繁殖さ
せ、親株と遺伝的に同じ個体をふやすことが出来る。有性生殖では、病原体がある遺伝子
型を攻撃するようになっても、遺伝子組み換えで、攻撃されない遺伝子型を作り出すこと
ができるが、クローナル植物が行う無性生殖ではそれができないため、植物の一部が病気
に感染すると個体群全体が絶滅する可能性が高くなると考えられる。
コンタクト・プロセスとは、1974 年に Harris によって導入された空間構造を持つ確率モ
デルである。グラフの各頂点に人間がいると仮定し、2 状態(健康,感染)のどちらかをとると
考え、健康な人はグラフ上で隣にいる病人の数に比例した感染率λで病気に感染する。
本研究では、植物の繁殖と病原体の伝播の時間スケールの違いを考慮し、まず植物の繁殖、
死亡という 2 状態のコンタクト・プロセスを用いて植物の繁殖過程を表現する。その後、
任意の頂点が病気に感染すると考え、健康、感染、死亡という 3 状態のコンタクト・プロ
セスを用いて病原体伝播のダイナミクスを表現する。このモデルを用いて、病原体の伝播
力・毒性をパラメータとし、生存個体の割合がどのように変化するかを数値シミュレーシ
ョンにより確かめる。
参考文献
[1] Sato K, Matsuda H, Sasaki A, Pathogen invasion and host extinction in lattice
structured populations. J. Math. Biol. 32, 251-268 (1994).
-----------------------1 [email protected]
- 54 -
第1会議室 9/14 (火) 15:30 - 18:30
一般講演・口頭発表 O-2
病気 I
格子 SIR モデルでの
モデルでの有限
での有限サイズスケーリング
有限サイズスケーリング
FiniteFinite
-size scaling in lattice SIR mode
*鈴木清樹 a d , 佐々木顕 a b c
*S. Suzukia1 , A. Sasakia
a
a
総研大・葉山 , bJST さきがけ,cIIASA,d 東工大
Graduate University for Advanced Studies, bPRESTO, cIIASA,
d
Tokyo Institute of Technology
格子上における宿主を介した病害のパーコレーションは,感染のクラスターが格子空間の端か
ら端まで繋がることであり,そのためには感受性宿主の初期頻度がパーコレーション閾値を越え
る必要がある.すなわち感染過程を考慮した動的パーコレーションの閾値が判れば,病害伝播を
抑えるための感受性宿主の密度が明らかとなる.そこで我々は,二次元格子上での SIR モデル(宿
主の増殖無し)についてシミュレーションを行った.
感受性個体の初期頻度を1-p,抵抗性個体を p として,様々な格子空間サイズ(L)や感染個
体の基本増殖率(ρ)において,病害がパーコレーションを起こす確率(P)や病害の平均クラ
スターサイズ(S)を求めた.ここで特徴的なのは,p の減少に従ってパーコレーション閾値を
境に感染拡大が始まり,病害の巨大クラスターの出現に関して相転移がみられる点である.この
閾値付近での P や S の振る舞いには,一般にスケールフリー性(べき則)がみられることが知ら
れており,例えば P の場合では,
P ∝ L− β /v F(L1/ v ( p − pc ))
の関係式が与えられる.ここでのβ,v は臨界指数,pc は無限格子サイズでのパーコレーション
閾値,F(•)はスケーリング関数を表し,この性質を利用して様々なスケーリングが可能となる.
具体的には,各ρの値での無限
無限サイズ
有限サイズ
無限サイズおよび有限
サイズ
有限サイズでのパーコレーション閾値,さらには
サイズ
全てが感受性の宿主集団に感染個体が侵入するためのρの閾値となる臨界基本増殖率
臨界基本増殖率が求まっ
臨界基本増殖率
た.以上の結果を例に,スケーリング則の有用性について解説を行う.
図
a) p の関数とした時の各格子サイズでのパーコレンション強度 P を示す.
b) スケーリング則に従って閾値付近で F(•)が重なるように pc の値を選ぶ.
-----------------------1
[email protected]
- 55 -
第1会議室 9/14 (火) 15:30 - 18:30
一般講演・口頭発表 O-3
病気 I
- 56 -
第1会議室 9/14 (火) 15:30 - 18:30
一般講演・口頭発表 O-4
病気 I
スケールフリーネットワーク上の感染症モデル
Models of infectious disease on scale-free network
1
*吉野友規 , 梶原毅
*Y.Yoshino , T.kajiwara
岡山大学大学院環境学研究科
Graduate School of Environmental Science,Okayama University
現代社会では,飛行機や鉄道などの交通手段の発展により人は世界中どこでも自由に移動することが可能
となっている。そのため,感染症も人間と共に移動し、急激に世界中へと拡大する可能性がある。例えば ,
SARS である。それに対して,まだ交通手段が発展していない頃に発生したペストなどの感染症はじわじ
わと周りに拡大していった。このように,交通手段の発展が感染症の伝播に与える影響は大きいと考えら
れる。そのため,従来の感染症モデルとは想定する状況が異なるため,従来のモデルでは現在の感染症流
行のダイナミクスをうまく説明できない。そこで,このような多様化した「ネットワーク」を考慮した感
染症モデルが研究されてきている。現実世界のネットワークの種類の代表的な例としては,スモールワー
ルド・ネットワークとスケールフリー・ネットワークがある。スモールワールドとは,知り合いを辿って
いけば比較的簡単に世界中の誰にでも行き着くことができるという性質のことをいい、スケールフリーと
は各頂点がもつ枝の本数(次数)の分布がベキ則に従う性質のことをいう。本発表では,スケールフリー ・
ネットワークを感染症モデルに採り入れ,病気の伝播にどのような影響を与えるかについて述べる。また 、
感染を防御するためのワクチン接種について考える。しかし,現実社会では,ワクチンの生産量や費用な
どの問題でワクチンの総量に制限があるなど様々な制約・コストが存在する。そこで,このような条件下
で,最適なワクチン接種を考える。今回はワクチンの総量と個体を見つけ出すコストの 2 つの制約が存在
する状況を想定して考える。そして、平均場近似によって得られた常微分方程式モデルから基礎再生産数
に当たる値を導き出し、ワクチン接種の制約条件の下で、その値を最大に下げるようなワクチン接種率を
計算する。この問題は線形計画問題に帰着でき、計算することが可能である。最後に、理論的に導いた最
適なワクチン接種が、本当に最適であるかをシミュレーションで確認した。
---------------------------------------1
[email protected]
- 57 -
第1会議室 9/14 (火) 15:30 - 18:30
一般講演・口頭発表 O-5
病気 I
Mathematical analysis of Swine-Human
influenza epidemic models
*N.Fujitaa ,Y.Takeuchib
a
静岡大学大学院工学研究科, b 静岡大学創造科学技術大学院,
a
Graduate School of Engineering, Shizuoka University,
b
Graduate School of Science and Technology, Shizuoka University.
In general, vaccination is considered an effective policy to prevent diseases,
since by performing vaccination, when pathogens enter the human body,
the immune system quickly eliminates pathogens and the infection can be
prevented. Futher,effective vaccination program is to bring collective action immunity, we can reduce the spread of infection. But vaccine policy
seems to be risky against vaccine-resistant virus. Several theoretical studies
have predict that vaccine policy increases the total number of infected human[1]. Around the world, the swine influenza virus spread from person to
person. This influenza virus is called ”Influenza A”. To prevent the spread
of infection of wild and mutant swine influenza, many countries executed
vaccination against influenza and anti-influenza medicine. In this study, to
consider the efficiency of anti-influenza medicine and vaccine, we proposed
and analyzed a mathematical model, described below;
 ′
S = λ − (µ + p2 )S − (βw Iw + βm Im )S




 T ′ = p2 S − σβm T Im − µT
Iw′ = βw Iw S − (µ + d + p1 + q)Iw
(1)

′

I
= (σT + S)βm Im − (µ + d + q)Im


 m′
R = (p1 + q)Iw + qIm − µR
References
[1] Iwami S., Suzuki T., Takeuchi Y., Paradox of vaccination: Is vaccination
really effective against avian flu epidemics?, PLoS ONE, 4(3):e4915.
- 58 -
第1会議室 9/14 (火) 15:30 - 18:30
一般講演・口頭発表 O-6
病気 I
保存量を用いたウイルス感染力推定法の開発
Quantification of viral infectivity by constant of motion
*岩見真吾 a , b , c 1 ,
*S.
a
a
多田哲子 c, 五十嵐樹彦 c, 竹内康博 d, 守田智 e, 三浦智行 c
Iwamia , b , c 1 , T. Tadac, T. Igarashic, Y. Takeuchid, S. Moritad, T. Miurac
JST・さきがけ, b 東大・数理科研, c 京大・ウイルス研, d 静大・創造, e 静大・システム
JST, b The University of Tokyo, c Kyoto University, d, e Shizuoka University
【目的と意義】1990 年代後半からの数理モデルを用いた研究によって、ウイルス粒子や感
染細胞の半減期などの定量化が可能になってきた。しかしながら、ウイルスの複製率・感
染率という動的なパラメーターの定量化は、未だ実現されていない課題の 1 つである。こ
れらの値は、ウイルスの病原性を支配する重要な要因であり、感染個体の臨床経過や治療
経過に深く関係する事が想定される。つまり、複製率や感染率が推定できれば、ウイルス
株内・株間・種間での定量的な病原性比較が可能になり、ウイルスを理解するためだけに
留まらず、治療戦略を考える上でも重要な情報を得る事になる。以上の事から、複製率・
感染率の定量化手法の開発は、対象ウイルスを特定する事なく必要とされているのである。
本講演では、
「ウイルスが標的細胞に感染する割合(ウイルス感染率)
」を定量化する実験
的・理論的な方法を紹介する。
【材料と方法】培養細胞(HSC-F)を使った感染実験系を用いる。培養細胞に、ウイルス
(SHIV-KS661)を接種すると、感受性のある細胞が感染し、感染した細胞は、ウイルスを複
製する。このように、感染個体内で繰り広げられている感染サイクルが試験管の中で再現
できる。ここで、これらの感染サイクルを標的細胞、感染細胞、ウイルス粒子の相互作用
によるダイナミクスとして捉えれば、数理モデルとして記述できるようになる。今回の実
験では、標的細胞数は CD4 レセプターを染色し FACS 解析する事で、ウイルス数は定量的
RT-PCR 法を用いる事で、それぞれ、定量化する事が出来る。また、感染細胞数は、ウイル
ス抗原の一種である Nef タンパク質を染色し FACS 解析するという新たな測定系を立ち上
げる事に成功し、定量化が可能になった。
【結果】解析の結果、SHIV-KS661 の感染率は、HSC-F を用いた培養細胞系において 10-9
~10-8 のオーダーである事が分かった。今後は、他のウイルス株(SHIV-#64, -KS689,
-KS705)の感染率も定量化していく。
【考察】現在取り組んでいるウイルス感染率の定量化と合わせて、「ウイルス複製率(バー
ストサイズ)の定量化」を行い、株間の比較をする事で、各株の感染実験における病原性
の違いを解明していく。
-----------------------1 [email protected]
- 59 -
第1会議室 9/14 (火) 15:30 - 18:30
一般講演・口頭発表 O-7
病気 I
複数株感染モデルの数理解析
Mathematical Analysis of Multi-strain Infections
Mathematical Analysis of Multi-strain Infections
∗
佐々木徹 1 , 梶原毅 1 , 井上徹
∗
T. Sasaki1 , T. Kajiwara1 , T. Inoue
1
岡山大院・環境
複数株の病原体の感染を記述する微分方程式系に関して,数理的な見地で考察
を行なう.
Nowak and May [1] は,以下のモデルを用いて,重複感染の効果を考察した.
∑
dx
= k − ux − x
βi yi
dt
i=1
(
)
i−1
n
∑
∑
dyi
= yi βi x − u − vi + sβi
yj − s
βj yj
dt
j=1
j=i+1
n
(i = 1, 2, ..., n)
ここで,x、yi はそれぞれ未感染ホスト、ウイルス株 i に感染したホストの数を
表わしている.ここでは,ホストのダイナミクスは移入によるものと仮定されて
いる.
本講演では,ホストのダイナミクスを移入からロジスティック増殖に変更したモ
デルを中心に解析を行ない,比較をする.
参考文献
[1] M. A. Nowak, R. M. May, Surperinfection and the evolution of parasite virulence, Proc. R. Soc. Lond. B, 255 (1994) 81-89.
- 60 -
第1会議室 9/14 (火) 15:30 - 18:30
一般講演・口頭発表 O-8
病気 I
ENGLISH
A Mathematical Model for Immune Response
to the Cancer Cells
*道
勇 a 1,
工
*Isamu
Dokua ,
a
a
埼玉大教育・数学 ,
Dept of Math., Fac of Education, Saitama
University
Abstract
We are aiming at mathematical modeling for immune response to the cancer cells.
When the normal cells are transformed into the cancer cells by some reasons, then a
group of immune cells does play an important role in the biological defense. Especially
we are very interested in the immune response on the occasion of extraordinary
proliferation of the cancer cells, and are eager to construct a stochastic model to
describe the cytotoxicity against the cancer cells X provided by the so-called effectors
such as NK cells, T cells and macrophages. Our goal is to explain the qualitative
properties of phenomena related to the immune response by analyzing such a model
mathematically.
References
[1] Murphy, K., Travers, P. and Walport, M., Janeway’s Immunobiology, Seventh Edition,
Garland Science, Taylor & Francis Group, 2008.
[2] Doku, I., A limit theorem of homogeneous superprocesses with spatially dependent
parameters, Far East J. Math. Sci. Vol.38, No.1, 2010, pp.1--38.
-----------------------1 [email protected]
- 61 -
第1会議室 9/14 (火) 15:30 - 18:30
一般講演・口頭発表 O-9
病気 I
乳癌の数理モデリング:
二種類の薬剤投与下でのホルモン療法について
Mathematical modeling for breast cancer:
hormonal therapy under the administration of two medicines
*森野佳生
*K.
a,1
, 平田祥人 b, 合原一幸 a,b
Morinoa , Y. Hiratab, K. Aiharaa,b
a
東大情報理工, b 東大生産研
a
Department of Mathematical Informatics, Univ. of Tokyo,
b
Institute of Industrial Science, Univ. of Tokyo
講演要旨内容
前立腺癌に対しては男性ホルモン(アンドロゲン),ある種の乳癌に対しては女性ホルモ
ン(エストロゲン,プロゲステロン)を抑制することで癌細胞の増加を抑えられるという
ことが知られている(ホルモン療法)
.このとき間欠的にホルモンを抑制するという治療法
を間欠的ホルモン療法といい,出田達によって前立腺癌の間欠療法の数理モデルが考案さ
れ,このモデルは実際のデータとよく合う結果が得られることが知られている[1].しかし,
乳癌の場合ではこのような数理モデルは未だ得られていない.
閉経患者ではアロマターゼという酵素の働きによって副腎で作られたアンドロゲンがエ
ストロゲンに変化し,このエストロゲンによって乳癌細胞の分裂・成長が促進される.乳
癌のホルモン療法ではタモキシフェン(TAM)とアロマターゼ阻害剤(AI)の二種類の薬剤が
知られており,TAM と AI を用いた効果的な投与戦略を得るために様々な試験(BIG1-98 試
験[2]等)が行なわれている.今回,我々は前述した前立腺癌の数理モデルを元にして乳癌の
数理モデリングを行い,TAM と AI を用いたホルモン療法の場合における最適な投与戦略
について調べた結果を報告する.本研究の一部は,日本学術振興会の最先端研究開発支援
プログラムにより,助成を受けたものである.
参考文献
[1] A. M. Ideta, G. Tanaka, T. Takeuchi and K. Aihara, “A mathematical model of
intermittent androgen suppression for prostate cancer”, J. Nonlinear Sci., 18, pp.
593-614 (2008).
[2] BIG 1-98 Collaborative Group, “A comparison of letrozole and tamoxifen in
postmenopausal women with early breast cancer”, N. Eng. J. Med., 353, pp.2747-2757
(2005).
-----------------------1 [email protected]
- 62 -
第2会議室 9/14 (火) 15:30 - 19:10
一般講演・口頭発表 O-10
発生・行動
複数回交尾戦略の適応性に関する数理的考察
A Mathematical Consideration on The Optimality of Multiple Mating Strategy
*瀬野裕美 a1 ・井上宏樹 b
a
広島大学大学院理学研究科数理分子生命理学専攻,b 広島大学理学部数学科
*Hiromi SENOa1 and Hiroki INOUEb
a
Department of Mathematical and Life Sciences, Graduate School of Science,
b
Department of Mathematics, Faculty of Science, Hiroshima University
Kagamiyama 1-3-1, Higashi-hiroshima, 739-8526 JAPAN
Multiple (polyandrous) mating has been mostly discussed from the viewpoint of genetic aspect to avoid
some unfavorable gene combinations, though it remains unclear why some females mate with multiple
males [1, 2, 3]. In contrast, from a simple viewpoint of the reproductive success maximization, we consider
here the optimality of multiple mating in a finite length of reproduction season, making use of a simple
and general mathematical model. Let E be the total energy to be invested by a reproductive female for
mating(s) and reproduction in the reproduction season, θi be the investment ratio of the energy to the i
th mating and reproduction, pi be the survival probability of offsprings born at the i th reproduction, σi
be the survival probability of the reproductive female after the i th mating and reproduction until the
i + 1 th.
We consider the expected reproductive success per reproductive female over the reproduction season
as the fitness, making use of the above-mentioned general factors. Comparing the expected reproductive
success of the multiple mating strategy to that of the single mating strategy in which the female invests
all energy to the first mating and reproduction and ignores the chance to another mating in the rest
of reproduction season, we discuss the condition with which the multiple mating strategy makes the
reproductive success larger than the single mating strategy does. Then, under such a condition, we
calculate the maximum of fitness in terms of the strategic parameters {θi }. Lastly we will show a
condition that the multiple mating strategy is better than the single mating strategy, and try to discuss
its biological meanings.
生物は,それぞれの種ごとに個々の繁殖期間を持っているが,繁殖期間内に複数回の交尾・繁殖をする生物
は多く知られている。たとえば,カサゴ目フサカサゴ科のカサゴ Sebastiscus marmoratus の繁殖生態は,
卵胎生と呼ばれ,子 (卵または稚魚) を雌の腹の中で,ある程度成長させてから産み落とすものであるが,
約半年にもわたる長い繁殖期間中で,個々の雌個体が1∼3回の交尾・繁殖を行う [4]。複数回の交尾・繁
殖を行うことは,これまで,血縁度の高い個体との交雑による劣性遺伝子の発現を避けるという遺伝的理由
で議論されることが多かった [1, 2, 3] が,未だ十分に理解されているわけではなく,急激な環境の変化や捕
食者の集中による稚魚の全滅を防ぎ,子孫を残す可能性を高めるというリスク回避型の繁殖戦略と考える
こともできる。雌個体にとって,繁殖期における全交尾・繁殖から期待される繁殖成功度を最大にするため
の最適な交尾・繁殖回数,各交尾・繁殖行動へのエネルギー配分はいかなるものであろうか。本研究では,
この問題を理論的に考察する基本的な数理モデルを一般的な設定で構成し,考察する。
E を,ある繁殖期において,雌個体が交尾・繁殖行動へ投資できるエネルギー総量であるとする。θi を i
回目の交尾・繁殖行動へのエネルギー投資率(割合),pi を i 回目の交尾・繁殖行動によって生まれた子の
生残確率,σi を i 回目の交尾・繁殖行動後の雌個体の次の交尾・繁殖行動の機会までの生存確率として,こ
れらの因子によって,複数回交尾戦略を採る雌個体の繁殖期全体における期待繁殖成功度(= fitness;適
応度)を数理モデルとして構成し,一回交尾戦略(=最初の交尾・繁殖行動の機会において全てのエネル
ギーを投資する戦略)の場合と比較し,複数回交尾戦略がより適応的であるための必要条件を求める。さら
に,その条件の下で,期待繁殖成功度を最大にする戦略パラメータ値 {θi } について考察し,複数回交尾戦
略が適応的な戦略として現れうる条件を導き,その生物学的な意味について試論を行う。
参考文献
[1] Hosken, D.J. and Stockley, P., 2003. Benefits of polyandry: A life history perspective, Evol. Biol., 33:
173–194.
[2] Hosken, D.J. and Tregenza, T., 2006. Evolution: Inbreeding, multiple mating and embryonic aid, Current
Biology, 16: R202–R203.
[3] Jennions, M.D. and Petrie, M., 2000. Why do females mate multiply? a review of the genetic benefits, Biol.
Rev. Camb. Philos. Soc., 75: 21–64.
[4] 矢冨洋道,宮川友則,秋葉正史,2005.静岡県清水港に棲息するカサゴ Sebastiscus marmoratus の生態的特性と
遺伝的特性,
「海 — 自然と文化」東海大学紀要海洋学部, 3(2): 21–28.
1 seno
@ math.sci.hiroshima-u.ac.jp
- 63 -
第2会議室 9/14 (火) 15:30 - 19:10
一般講演・口頭発表 O-11
発生・行動
線虫 C.elegans の温度走性戦略
The strategy of thermotactic behavior in C.elegans
中里研一
K.Nakazato
理研
望月理論生物学研究室
適切な環境で育った線虫は生育温度を適温として記憶する。そして温度勾配上に線虫を置
くと、生育温度に向かった移動行動を見せる。これを線虫の温度走性と呼ぶ。ところが、
線虫が生育温度へ向かう際に見せる行動パターンについては詳細がわかっていない。我々
は、温度勾配上に置かれた線虫を同時に撮影し、ビデオデータを画像解析することで線虫
の軌道を解析してきた。今回あらたに、大規模実験データを対象に軌道解析を行ったとこ
ろ、線虫の温度走性は従来の報告などとは大幅に異なる行動パターンから成り立っている
ことが明らかになった。さらに、その行動パターンから線虫の温度走性行動を機能的な視
点で解析したところ、線虫の行動パターンにはある種の最適性が見られることもわかって
いる。
発表では、今回新たに明らかになった行動パターンの詳細と、その機能性について述べる
予定である。
- 64 -
第2会議室 9/14 (火) 15:30 - 19:10
一般講演・口頭発表 O-12
発生・行動
上皮シートの陥入をおこす細胞のふるまい
Cell Behaviors Causing Epithelial Invagination
*本多久夫1,a,
西村真由子b,
近藤武史b,
林茂生b
*H.
Honda1,a,
M.
Nishimurab,
T.
Kondob,
S.
Hayashib
a,兵庫大;
b,理化研(神戸)
a,
Hyogo
University;
b,
CDB
RIKEN
多細胞生物は細胞からできているから、細胞の変形や動きがわかれば形態形成
を理解することができるはずである。このために細胞の運動方程式があれば役
立つ。物理学が物質の性質を、原子などの構成要素に基づいて明らかにするこ
とができたのは、原子や分子、粒子の運動方程式がつくれたからである。これ
にあやかるために細胞の運動方程式がほしい。細胞の塊を多面体の集まりと見
なせば、細胞塊の形態形成を知るには、すべての多面体の頂点(vertex)の動き
がわかればよい。頂点の動きの運動方程式(vertex
dynamics)による三次元細胞
モデルをつくった[1]。これを使って胚盤胞形成や細胞の割り込み(Cell
intercalation)をしらべたことがある。
ここでは林茂生研究グループ(理研 CDB)によ
る、ハエ気管原基形成における上皮陥入の形態形
成の精緻なデータに基づいた、気管原基の三次元
細胞モデルの研究を紹介する。気管形成領域の上
皮細胞のふるまいとして (1)柱状細胞のアピカ
ル面の周短縮(周拡大)
;(2)柱状細胞の胚体内へ
の入り込み;(3) 細胞アピカル辺の管形成中心に
対するアーク状配列を考えた。これらが上皮陥入
にどのように寄与するかをしらべた。陥入には入
り込み運動と周囲の細胞の周拡大が大きく寄与
した。アーク配列形成は陥入中心の位置決めに働
くと考えている。
参考文献
[1] Honda, Tanemura, Nagai (2004) J. Theor. Biol. 226: 439-453.
-----------------------1 [email protected]
- 65 -
第2会議室 9/14 (火) 15:30 - 19:10
一般講演・口頭発表 O-13
発生・行動
卵割の数理モデル
A Mathematical Model of Cleavage
1,∗)
秋山 正和, 2) 手老 篤史, 3) 小林 亮,
1) 北海道大学 電子科学研究所, 2)JST さきがけ,
3) 広島大学大学院 理学研究科 数理分子生命理学専攻
1,∗) Masakazu Akiyama, 2) Atsushi Tero and 3) Ryo Kobayashi,
1)Research Institute for Electronic Science Hokkaido University, 2)JST PREST
3) Department of Mathematical and Life Science, Graduate School of Science, Hiroshima University
Email: [email protected]
キーワード : 形態形成, 細胞分裂, 発生, 数理モデル, 分裂装置
口頭発表
卵割とは発生の初期段階において,受精卵が全体のサイズをほぼ一定に保ちつつ,分裂を
繰り返しながら,細胞数を増やしていく過程である.この間,割球同士の配置やタイミング
が如何に調整されて,自己を形作るのかは謎とされている [2][3].我々はこの問題に対して,
細胞内の細胞分裂装置 (中心体はそのコアとなる) の配置に目をつけ数理モデルの構築を行っ
た.その際,中心体の配置には力学的な 3 つの力 (中心体同士の反発力,膜との反発力,化
学物質から受ける走性) がかかり,その力のバランスで卵割パターニングが決定されている
事が研究の結果分かった.[1].特に,その化学物質がつくる濃度勾配の形状が本質的に重要
な役割を果たしていることが結論される.
発表ではこのモデルに関する最新の 3 次元シミュレーションの結果を紹介すると共に,化
学物質の種数や役割の違いだけで,ウニやナマコの卵割が再現されることを紹介する (図 1).
図 1: 3 次元シミュレーションの結果.ウニ (左),ナマコ (右)
予備的な知識は一切不要である.是非,聴いていただきたい.
参考文献
[1] Masakazu Akiyama, Atsushi Tero, Ryo Kobayashi “A Mathematical Model of Cleavage”, J Theor Biol., Vol.264, May 7;264(1):84-94. Epub 2010 Jan 4.
[2] Scott.E.Gilbert, 発生生物学 (上)「分子から形態進化まで」, トッパン, (1991)
[3] B. Albert et al., 「細胞の分子生物学」, Newton Pres (1995)
- 66 -
第2会議室 9/14 (火) 15:30 - 19:10
一般講演・口頭発表 O-14
発生・行動
位相制御と筋緊張制御を考慮したヘビの 這行様ロコモーションの数理モデル Mathematical Model of Serpentine Locomotion Based on Phasic and Tonic Control a
b
* 加納剛史 , 佐藤貴英 , 小林亮 c,d . 石黒章夫 b,d
* T. Kano a , T. Sato b , R. Kobayashi c,d . A. Ishiguro b,d a
東北大院・医 , b 東北大院・工, c 広島大院・理, d JST CREST a,b
Tohoku University, c Hiroshima University, d JST CREST 生物が示すしなやかで巧みなロコモーションは、身体に持つ膨大な自由度の間に生み出
される動きの位相的関係と筋力の空間的関係の双方が整合的に噛み合って実現されている.
しかしながら,その発現機序はいまだ明らかではない.自律分散制御はこの問題に答える
ための鍵となる概念の一つである.これは,単純な知覚・判断・行動出力の機能を持つ要
素(自律個)が多数集まり相互作用することで,大域的に有用な機能を創発させる制御方
策である. これまでの研究において,我々は生物の環境適応的な振舞いを齟齬関数に基づく自律個
への局所センサフィードバック則を用いて説明してきた[1]。しかしながら,これまでの研
究では位相制御のみに焦点が当てられており,筋緊張制御については考慮がなされていな
かった. 本研究では、比較的単純な構造であるにも関わらず巧みな振舞いを示すヘビの這行様ロ
コモーションに着目する。ヘビは、地面の摩擦や傾斜角度などの環境が変化しても、身体
のくねり方とスティフネスを変化させて、しなやかに進んでいくことができる。このよう
な振る舞いの数理モデル化を通して,位相制御と筋緊張制御が有機的に連関した自律分散
制御の設計論を構築する.また,シミュレーションによりモデルの妥当性を検証し,位相
制御と筋緊張制御が適切にバランスすることで摩擦の異なる面や斜面でも適応的に振る舞
うことができることを示す. 参考文献
[1] T. Umedachi, K. Takeda, T. Nakagaki, R. Kobayashi, and A. Ishiguro, Fully Decentralized Control of
a Soft-bodied Robot Inspired by True Slime Mold, Biological Cybernetics, vol. 102, pp. 261-269, 2010.
-----------------------1 [email protected]
3
[email protected]
2 [email protected]
4 [email protected]
- 67 -
第2会議室 9/14 (火) 15:30 - 19:10
一般講演・口頭発表 O-15
発生・行動
細胞選別の数理モデルと可解な格子模型の等価な系列
A model for cell sorting and equivalent series of
solvable lattice models
南 和彦 (名大多元数理)
Kazuhiko Minami (Grad. School of Math., Nagoya Universty)
細胞どうしが互いに接着してパターンを形成する細胞選別の数理モデル [1] は、
それぞれの次元で格子上のスピン模型の代表例である Ising 模型と等価である。
このうち2次元正方格子上の Ising 模型の伝送行列は、1次元の XY 模型および
transverse Ising 模型のハミルトニアンと可換、したがって同時対角化可能であ
り、共通の固有状態を持つ。このことは、細胞選別のモデルと後者に等価なシス
テム、例えばブラウン運動、との間に等価性があることを示している(種々のシ
ステムとの等価性を、対称な細胞選別の数理モデルの、すべてのパラメータ領域
について議論したい)。
この一連の等価性を通じて、一見異なる生物系、生態系どうしが、共通の数理
構造を持ち得ることを指摘し [2]、さらに一般に生物系の数理モデルに対応して、
それと等価なスピン系のハミルトニアンが必ず存在することを示す。
[1] A.Mochizuki,Y.Iwasa and Y.Takeda: J.Theor.Biol.179(1996)129.
[2] 南 和彦: 京都大学数理解析研究所講究録 (2010) 「生物数学の
理論とその応用」
[email protected]
http://www.math.nagoya-u.ac.jp/ minami/
- 68 -
第2会議室 9/14 (火) 15:30 - 19:10
一般講演・口頭発表 O-16
発生・行動
腹足類の殻形態における制約
Constraint on gastropod shell forms
*野下浩司 a 1 , 浅見崇比呂 b, 生形貴男 c
*K. Noshitaa , T. Asamib, T. Ubukatab
a
九大院・システム生命 , b 信州大・理, c 静岡大・理
a
Kyushu University, bShinshu University, cShizuoka University
生物の形態は,物理的要因や機能的要因により制約を受けている.腹足類ではその要
因として「捕食者に対する防御」
,
「姿勢の安定性」,
「殻形成効率」の三つがよく挙げら
れており,それぞれ個別に機能パラメータを見積もる定量的な検証もなされてきた.し
かし,競合しうる複数の機能を包括的に評価した形態空間解析は行われていない.本研
究は,姿勢の安定性と殻形成効率の二つの要因から腹足類の形態的多様性への制約をど
の程度説明できるかを理論形態学的に明らかにした.重力に対する力のモーメントから
姿勢の安定性を,殻全体の体積に対する軟体部の比率から殻形成効率をそれぞれ求めた.
その結果,螺塔を低く,臍を小さくしたよりコンパクトな殻ほど姿勢の安定性が良い
傾向にあり,逆に,殻の形成効率は螺塔を高く,臍を大きくした重複の少ない殻ほど良
い傾向にあった.つまり,姿勢の安定性と殻の形成効率は螺塔の高さと臍の大きさにつ
いて競合しており,実在の殻形態において機能的トレードオフが起こりうる (Fig. 1).
一方で,殻口の傾きが特定のパラメータ領域にあるとき姿勢の安定性と殻の形成効率は
ともに良い傾向にあった.また,実際に観察された腹足類の殻形態は両機能を同時に満
たすような殻口の傾きをもつことが明らかになった.加えて,陸生の巻貝は海生のもの
に比べ姿勢の安定性と殻形成効率について強い制約を受けていることがわかった.
Fig. 1 姿勢の安定性と殻形成効率の
競合. T は螺塔の高さ,D は臍の大き
さに関するパラメータ.姿勢の安定性
は T と D が低いほど良く,殻形成効率
は T と D が高いほど良い.×,○,△
はそれぞれ陸生種,淡水生種,海生種
を示している.
---------------------------------------------1 [email protected]
- 69 -
第2会議室 9/14 (火) 15:30 - 19:10
一般講演・口頭発表 O-17
発生・行動
心臓ペースメーカ部位における周辺・中心細胞の
周期変動性の違いについて
Difference of Variability of Rhythm in Periphery and
Center Cells of Cardiac Pacemaker
*潘振興 a1 , 土居伸二 b2
*Z. Pan a1 , S. Doi b2
a
a
阪大院・工,b 京大院・工
Osaka University,b Kyoto University
心臓の収縮・弛緩運動を引き起こす心臓ペースメーカ(洞房結節)細胞において,周期的な電気信号
(活動電位)が自発的に発生する.活動電位の周期は細胞膜上に存在する様々なイオンチャネルに深く
関わってる.イオンチャネルの異常はペースメーカ周期を乱し,(洞性)不整脈を引き起こすため,イ
オンチャネル(イオン電流)の周期に及ぼす影響を調べることは不整脈治療に有益である.また,心臓
ペースメーカの部位(周辺,中心)によって活動電位が異なることは既に文献 [1] で報告されており,
周辺・中心細胞の周期変動性の違いについて調べる必要もある.Zhang モデルは活動電位の時間変化を
Hodgkin-Huxley 型の非線形常微分方程式で記述するため,パラメータ変化によりモデルのダイナミク
スが定性的に変化すること(解の分岐)がある.本研究は Zhang モデルの大域的分岐構造を調べ,イオ
ンチャネルのコンダクタンス変化に対する周期の変動性と感受性を部位別に考察した.
Zhang モデルの標準状態では,周辺細胞は中心細胞より活動電位の周期が短く (161 対 325 msec),
振幅が大きくなっている.この違いは,周辺細胞には(非常に大きな)Na+ 電流 INa が存在するが,中
心細胞には INa が存在しないことに大きく依存すると考える.周辺細胞での INa のコンダクタンス変化
に対して,周期の変動性が大きいので,感受性が強いことが分かった.また,INa の有無が周期に大き
な影響を与えることも確認できた.
周辺・中心細胞のどちらにおいても,L 型 Ca2+ 電流 ICa,L のコンダクタンス変化に対する周期の増
減が単調ではないが,変動が大きいので感受性が強いと言える.ただし,活動電位が連続的に発生する
(周期解が存在する)範囲は部位によって相当異なる.周辺細胞の場合は範囲が広く,中心細胞の場合
は範囲が狭くなっている.
また,2 つのイオン電流のコンダクタンスを同時に変化させたときの周期変動性から,イオン電流同
士の相互関係を調べた.周辺と中心細胞のどちらにおいても,ICa,L と IK,r は相互に強く関係し,ICa,L
と If はほとんど関係しない(If の影響が弱い)ことが分かった.ICa,L と ICa,T ,ICa,L と IK,s は周辺
細胞で相互関係は弱い(ICa,T ,IK,s の影響が弱い)が,中心細胞で相互関係は強くなっている.Zhang
モデルは,以上のイオン電流以外の電流も考慮しているが,Ito , Isus は常に細胞に存在することがなく,
Ib,Na , Ib,Ca , Ib,K , INaCa , Ip は小さな電流であるため,それらの分岐解析は省略した.
以上のように,心臓ペースメーカの周辺・中心細胞ごとに周期の変動性・感受性を調べ,その違いを
考察した.その結果から,例えば,2 つのイオン電流(イオンチャネル)に強い相互関係がある場合,
一方のイオンチャネル異常から生じた不整脈を他方のイオンチャネルに作用する薬で治療できることな
ど,医学的にも有益な結果が得られた.
参考文献
[1] H. Zhang, A.V. Holden, I. Kodama, H. Honjo, M. Lei, T. Varghese, and M.R. Boyett, “Mathematical
models of action potentials in the periphery and center of the rabbit sinoatrial node,” Am J Physiol Heart
Circ Physiol, vol.279, pp.H397-H421, 2000.
1
2
[email protected]
[email protected]
- 70 -
第2会議室 9/14 (火) 15:30 - 19:10
一般講演・口頭発表 O-18
発生・行動
ENGLISH
Quantitative analysis of vertebrate limb morphogenesis
*森下喜弘 a , b , 1
(Yoshihiro Morishita)
b
a
・理 (Kyushu University),
九大院・
九大院
Abstract
科学技術振興機構(
JST)
科学技術振興機構
(JST
)
Organ morphogenesis is achieved through dynamic deformation of tissue at
a rate varying over space and time. The deformation of each piece of tissue
reflects the behaviors of constituent cells, such as cell proliferation, cell
death and cell growth. Hence clarifying the spatio-temporal pattern of the
dynamic deformation accurately is a key to bridge between cell behaviors
and morphogenesis of a tissue or an organ. In a mathematical sense, organ
deformation is regarded as a map of position of each cell between in the
material configuration (reference) and in the current configuration. Here, we
developed a method to estimate the deformation map from quantitative fate
map obtained by tracking fluorescent markers, and applied it to
two-dimensional data of chick limb development. Based on the obtained
deformation map, we calculated the spatio-temporal pattern of deformation
gradient tensor (or velocity gradient tensor). Comparing the components of
the tensor with expression patterns of key genes such as Shh, Fgf and Hox,
we discuss how these molecules contribute to the tissue deformation and
spatial patterning of anatomical structures during limb development.
------------------------
1 [email protected]
- 71 -
第2会議室 9/14 (火) 15:30 - 19:10
一般講演・口頭発表 O-19
発生・行動
歩行軌跡における運動要素の分類とその遷移
Elements and their transition probability of a movement path
*堀部直人 a 1 ,
*N.
阿部真人 a, 池上高志 a, 嶋田正和 a
Horibea , M. Abea, T. Ikegamia, M. Shimadaa
a
a
東京大学大学院・総合文化研究科
University of Tokyo, Graduate School of Arts and Sciences
生物が運動した結果残された移動軌跡には、その生物の自律的な運動メカニズム、外部環
境の影響を受けての意志決定過程が反映されている。そのため、この軌跡を解析していく
ことで生物の生理状態や適応戦略を明らかにすることが可能となる。例えば、go-stop
analysis によって軌跡が Levy walk に従うことが分かればその運動は適応的であるという
ことができる[1]。また、時系列解析により軌跡をいくつかの運動要素に分類し、各要素の
発現機構を議論し、適応への貢献について考察することが可能である[2]。本研究は、運動
要素をより細かく分類することで 2 番目の方法をさらに洗練させ、より高い解像度で移動
軌跡を理解することを目指すものである。発表では、そのための新たな試みについての紹
介をはじめに行う。次に、自律的に運動を行う生物システムと、同じく自律的に運動を行
う無生物システムとについて、運動要素が切り替わる頻度、各要素の持続時間と時系列全
体に占める割合の比較を行う。最後に、この比較を通じて 2 つのシステムの異同、特に運
動要素の切り替えタイミングについて議論を行う。
参考文献
[1] Sims D. W., E. J. Southall et al. (2008) “Scaling laws of marine predator search
behaviour.” Nature 451(7182): 1098-1102
[2] Takahashi H., Horibe N, Shimada M. and Ikegami T (2008) “Analyzing house fly's
exploration behavior with AR methods.” J. Phys. Soc. Jap. 77(8): 084802-1-6
-----------------------1 [email protected]
- 72 -
第2会議室 9/14 (火) 15:30 - 19:10
一般講演・口頭発表 O-20
発生・行動
ENGLISH
A mathematical model for Physarum's
period-memorizing behavior
*立川正志 a 1,
*M.
a
望月敦史 a b
Tachikawaa , A. Mochizukia b
理研・基幹研 , bJST・さきがけ
a
ASI, Riken, bPRESTO, JST
Abstract
The plasmodium of Physarum polycephalum is a huge unicellular organism with
amoeboid movement, and shows various interesting behaviors such as entrainment to
environmental
stimulation,
mutual
entrainment, symmetry-induced
patterns,
maze-solving, and computing. Recently, another interesting behavior - memorization of
the period of periodic stimulation - has been reported by Saigsa et al. (2008), where the
Physarum plasmodia memorized the period of the periodic stimulation. In this study,
we propose a mathematical model to describe this period-memorizing behavior. In
constructing the model, we first examine the basic characteristics required for the class
of models, then create a minimal linear model to fulfill these requirements. We also
propose two modifications of the minimal model, nonlinearization and noise addition,
which improve the reproducibility of experimental evidences. We will discuss the
differences in the mechanisms and in the reproducibility of experiments between our
models and previous models.
References
[1] T. Saigusa, et al. “Amoebae Anticipate Periodic Events.” PRL 100, 018101 (2008)
[2] M. Tachikawa, “A mathematical model for period-memorizing behavior in Physarum
plasmodium.” J Theor Biol. 263:449-54 (2010).
-----------------------1 [email protected]
- 73 -
第1会議室 9/15 (水) 9:00 - 11:40
一般講演・口頭発表 O-21
病気 II
Nowak-Bangham モデルの Hopf 分岐解析∗
Hopf Bifurcation Analysis of the
Nowak-Bangham Model∗
江上 親宏 †
Chikahiro Egami†
沼津工業高等専門学校・電子制御工学科
Numazu National College of Technology, Department of Digital Engineering
In this talk, we discuss the local bifurcation problems of the CTL response
model established by Nowak and Bangham [1]. The Nowak-Bangham model,
which consists of five variables: uninfected cells, infected cells, free virus particles, CTLs and complex, can have three nonnegative equilibria depending on
the basic reproduction number, and generates a Hopf bifurcation through two
bifurcations of equilibria.
Our main result shows a sufficient condition for the interior equilibrium to
have a unique bifurcation point at which a simple Hopf bifurcation occurs.
For this proof, some new computational techniques are developed with the aid
of Liu’s method [2]. Moreover, to illustrate the result obtained theoretically,
some bifurcation diagrams are presented with numerical examples.
For details of the analysis, refer to [3].
参考文献
[1] M. A. Nowak, C. R. M. Bangham, Population Dynamics of Immune Responses to Persistent Viruses. Science 272 (1996), 74–79.
[2] W. M. Liu, Criterion of Hopf Bifurcations without using Eigenvalues. J.
Math. Anal. Appl. 182 (1) (1994), 250–256.
[3] C. Egami, Bifurcation Analysis of the Nowak-Bangham Model in CTL Dynamics. Math. Biosci. 221 (1) (2009), 33–42.
∗
†
This work is partly supported by KAKENHI No.22740114.
[email protected]
- 74 -
第1会議室 9/15 (水) 9:00 - 11:40
一般講演・口頭発表 O-22
病気 II
Global asymptotic stability for HIV-1 dynamics with two
distributed Delays
Jinliang Wanga , Gang Huangb, Yasuhiro Takeuchib
a
b
Department of Mathematics, Harbin Institute of Technology, Harbin 150001, China
Graduate School of Science and Technology, Shizuoka University, Hamamatsu, Japan
Abstract
Based on the drugs treatment to prevent HIV-1 infection and virions reproduction, we
express the intracellular delays during life cycle of virions in host cell as distributed
delays because of pharmacological actions. In this paper we investigate a class of HIV-1
infection dynamical model with two distributed delays.
one delay describes the period
between the time that HIV virion enters (infects) target cell and the time that the
infected cell starts producing viruses. The other expresses the time for the virion
maturation. They are both allowed to tend to be infinite because of drugs resistent
strains. Utilizing the method of Lyapunov functionals, we obtain that the global
properties of delay differential equations model are completely determined by the basic
reproduction number $R_0$. When $R_0\leq 1$, the infection-free equilibrium is
globally asymptotically stable; and when $R_0> 1$, there exists a unique positive
equilibrium which is globally asymptotically stable. The dynamical results indicate that
time delays has effect on the global stability of two equilibria through threshold value
$R_0$, which is a decreasing function of delays. The biological meanings imply the
drugs that prolong the time of viral reproduction through by the reduction of the time
for reverse transcription of HIV in host or the reduction of maturation time of viruses
are very effective on control virus loads. This gives us a good guidance on the
development of treatment strategies.
References
[1] G. Röst and J. Wu, SEIR epidemioloical model with varying infectivity and infinite
delay, Math. Biosci. Eng., 5(2008), 389-402.
[2] C.C. McCluskey, Global stability for an SIER epidemiological model with varying
infectivity and infinite delay, Math. Biosci. Eng., 6(2009), 603-610.
[3] P. Nelson and A. Perelson, Mathematical analysis of delay differential equation
models of HIV-1 infection, Math. Biosci., 179(2002), 73-94.
[email protected]
- 75 -
第1会議室 9/15 (水) 9:00 - 11:40
一般講演・口頭発表 O-23
病気 II
ENGLISH
HIV Mutations and Escapes from Immune Response
*黄 剛, 竹内 康博 *Gang Huang, Yasuhiro Takeuchi
静岡大学 創造科学技術大学院
Graduate School of Science and Technology, Shizuoka University
Abstract When human immunodeficiency virus (HIV) invades the body, it targets the
CD4+T cells, often referred as “helper” T cells to immune responses. The immune
responses, or cytotoxic lymphocytes (CTLs) clear the infected cells to control viral
load. In this paper, we study a simple three-dimensional ordinary differential equations
model to describe the interaction between HIV, CD4+T cells and CTLs immune
responses. Since HIV impairs indirectly immune system by decreasing the population
of helper T cells, viruses finally can escape from immune control and break out the
control with accompanying continuous mutation. Under the hypothesis that CTL
response coevolves with virus simultaneously, it is possible that immune system
successfully controls viral load in the case where evolution of immune system concerts
with virus mutations. By establishing the immune activation threshold and the
immunodeficiency threshold, the theoretical analysis and numerical results clear the
various mechanisms of HIV disease progress and explore why there is a long and
variable asymptomatic period before the development of AIDS.
References
[1] M.A. Nowak (2006), Evolutionary dynamics, Harvard University Press.
[2] D. Wodarz
(2006),
Killer Cell Dynamics, Mathematical and Computational
Approaches to Immunology, Springer.
[3] Y. Iwasa, F. Michor and M.A. Nowak (2004), Some basic properties of immune
selection, J. theor. Biol. 229, 179-188.
[4] S. Iwami, S. Nakaoka and Y. Takeuchi (2008), Viral diversity limits immune diversity
in asymptomatic phase of HIV infection, Theor. Popul. Biol. 73, 332-341.
------------------------------------1
f5845034@ipc. shizuoka.ac.jp (G. Huang);
2
[email protected] (Y. Takeuchi)
- 76 -
第1会議室 9/15 (水) 9:00 - 11:40
一般講演・口頭発表 O-24
病気 II
Homotopy perturbation method for traveling wave solutions of
system of biological reaction-diffusion equations
Amjad Khan*, Rahmat Ali Khan**, Takenori Takada***.
* School of Civil and Environmental Engineering , NUST Institute of Civil Engineering , National University of Sciences and Technology, Sector H-12, Islamabad,
Pakistan.
**Centre for Advanced Mathematics and Physics, National University of Sciences and Technology, Sector H-12, Islamabad, Pakistan.
*** Graduate School of Environmental Earth Science, Hokkaido University, Kita-ku, Sapporo 060-0810, Japan.
Key words and Phrases: Reaction-diffusion equations, homotopy perturbation method, traveling waves.
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
ABSTRACT
In this paper, we apply a technique which is called homotopy perturbation method (HPM) for
obtaining analytical approximate traveling wave solutions of system of biological reaction diffusion
equations of the type
St = ρ S xx − υ S x − f ( S ) P,
Pt = Pxx − υ Px + [ f ( S ) − K ] P.
(1)
Biological reaction diffusion equations are used as mathematical model for several problems in biology
and chemistry. For example (1) was used as a mathematical model for microbial growth and competition
in a flow reactor [1], where S ( x, t ) and P ( x, t ) represents the densities of the nutrient and the
microbial population at position x and time t , respectively, ρ > 0 is the diffusion coefficient, υ > 0 is the
flow velocity and K > 0 is the cell death rate. The function f , which is nutrient uptake rate function
satisfy [2]
f (0) = 0, f ' ( S ) > 0 for S > 0, and lim f ( S ) > K .
S →∞
The theory of reaction–diffusion waves started in the 1930s, initial works was carried out in
population dynamics, combustion theory and chemical kinetics [3]. Nowadays, it is a well developed area
of research. This includes qualitative properties of travelling waves for the scalar reaction–diffusion
equation and for system of equations, complex nonlinear dynamics, numerous applications in physics,
chemistry, biology and medicine. Existence of traveling waves reflects the important phenomena of wave
propagation and has extensively studied by many authors, see for example, [4] etc..
The homotopy perturbation method (HPM) [5] was proposed by Ji-Huan He in 1998. HPM is a
method for finding approximate solutions of non-linear differential and integral equations. The method
couples the perturbation method and homotopy theory. This method is popular amongst nonmathematician and engineers because HPM decomposes a complex problem under study to a series of
simple problems that are easy to be solved.
The results obtained reveal that the homotopy perturbation method is effective and simple. Some
plots are presented to confirm the theoretical results.
References
[1]
M. Ballyk, D. Le, D.A. Jones, H.L. Smith, Effects of random motility on microbial growth
and competition in a flow reactor, SIAM J. Appl. Math. 59 (1999) 573–596.
[2]
Yifu Wang a,Jingxue Yin b, Travelling waves for a biological reaction diffusionmodel with
spatio-temporal delay, J. Math. Anal. Appl. 325 (2007) 1400–1409.
[3]
V. Volpert, S. Petrovskii, Reaction–diffusion waves in biology, Physics of Life Reviews 6 (2009)
267–310
[4]
Y. Hosono and V. Ilyas, Traveling waves for simple diffusive epidemic model, Math. Models
methods Appl. Sci.,5(1995), 935-966.
J. H.He, Homotopy perturbation technique, Comput. Methods Appli.Mech. Engg., 178 (1999)
[5]
257–262
- 77 -
第1会議室 9/15 (水) 9:00 - 11:40
一般講演・口頭発表 O-25
病気 II
アナジーは自己免疫反応を避ける戦略である
T cell anergy as a optimal strategy: Bayesian immunological approach
*佐伯晃一
a1
, 巌佐庸 a *K. Saekia 1 , Y. Iwasaa
a
九大院・生物 a
Kyushu University Some self-reactive immature T cells escape the negative selection in the thymus and
may cause autoimmune diseases in the future. We consider the adaptive significance of
the mechanism to reduce the risk of autoimmunity, which is called "T cell anergy". T
cell anergy has been defined as a state of unresponsiveness in T cells associated with the
lack of proliferation and cytokine production 1. The point is that T cell anergy is induced
by the insufficient stimulus from the antigen presenting cells (APCs). Since the
self-reactive T cells which received the strong stimulus from self-antigens are
eliminated in the thymus, T cells which receive the strong stimulus in the periphery are
likely to be non-self-reactive. In contrast, when a T cell receives the weak stimulus, the
likelihood of the cell to be self-reactive is higher than the case it receives the strong
stimulus. Then it may be safer to inactivate the cell with the weak stimulus to reduce the
risk of autoimmunity. We consider the formalism in which each T cell adopts Bayesian
decision-making, and explore the optimal T cell responses. The possible responses are
activating the cell or inactivating the cell (= anergy), or neglecting the stimulus. The
optimal T cell responses for the weak and the strong stimulus are obtained both when T
cells respond deterministic manner and probabilistic manner.
Reference
[1] R. H. Schwartz, 2003. T cell anergy. Annu. Rev. Immunol. 21: 305-334
-----------------------1
[email protected]
- 78 -
第1会議室 9/15 (水) 9:00 - 11:40
一般講演・口頭発表 O-26
病気 II
遅延時間に季節変動性を持つ疫学流行動態の解析、コイ
ヘルペスにおける水温調節による流行抑制を例に
Controlling Koi herpesvirus epidemics with
water temperature management
* 大森亮介 a 1 ,
* R.
a
Omori
a1
Ben Adams
b
, B. Adams
b
九大・数理生物学研究室 , b University of Bath
a
Kyushu University , b University of Bath
理論疫学に於いて SIR モデル等のホストの免疫状態を離散的に記述する場合は、次の免
疫状態に遷移するまでの待ち時間が存在し、これまでの多くの理論疫学のモデルはこの待
ち時間が一定であると仮定していた。コイヘルペスにおいて、この待ち時間(感染から感染
性を有するまで、感染性を有してから死亡するまでの待ち時間)は水温に比例し変化する事
が報告されている[1]。発表者らは遅延時間に季節変動性のある遅延微分方程式を Nisbet,
Gurney による先行研究[2]をもとに構築し、[1]の報告を適用し待ち時間が季節変動性を有
する場合の疫学動態を解析した。上述の二種の待ち時間の季節変化に差異がある事により、
一年のうち決まった期間にウイルスが集団に侵入した場合、死亡個体数が少なくかつ免疫
を持つ個体数が多くなるという養殖にとって理想的な状態を作る事が可能である事が示唆
された。
また、コイヘルペスウイルスの流行対策として水温調節が考案された。発表者等は上述
のモデルをもとに季節変動性を一時的に破壊した場合の流行動態についても解析したので
合わせて報告する。
参考文献
[1] Yuasa K., Ito T. and Sano M., 2008. Effect of water temperature on mortality and virus shedding in
carp experimentally infected caps with koi herpes virus. Fish Pathology, 43 (2), 83-85
[2] Nisbet R. M. and Gurney W. S., 1983, The systematic formulation of population models for
insects with dynamically varying instar duration. Theor. Pop. Biol. 23, 114-135
-----------------------1 [email protected]
- 79 -
第1会議室 9/15 (水) 9:00 - 11:40
一般講演・口頭発表 O-27
病気 II
根室半島におけるキタキツネの疥癬流行の数理モデル
Mathematical model for epidemics of sarcoptic mange in Ezo red foxes
in Nemuro Peninsular
*村嶋祥子 a 1 , 浦口宏二 b , 重定南奈子 a ,川崎廣吉 a
*S.Murashimaa , K.Uraguchib, N.Shigesadaa,K.Kawasakia
a
a
同大院・文化情報 , b 北海道衛生研究所
Doshisha University, b Hokkaido Institute of Public Health
浦口は 1987 年から北海道根室半島の調査地区でのキタキツネの個体群動態を調査してき
た。1997 年までは、ほぼ一定の個体数を維持していたが、1998 年から、ファミリー数が減
り始め 2000 年には 1/4 にまで減少し、このとき捕獲されたキツネから疥癬の症状を示すも
のが確認されている。その後徐々に増加を始め、2005 年をピークに再び減少に転じている。
本研究では、疥癬の流行を伴うとキタキツネの個体群動態を数理モデルによって、明らか
にしようとするものである。数理モデルは、以下の川澤(2002)を基本モデルとして、パ
ラメータの時間変化を組み込んだモデルである。キタキツネの生活環を考え、一年間を営
巣期と分散期にわけて構築されている。キツネの集団を未感染個体、未発症個体、発病個
体に分け、調査地区の個体数密度をそれぞれ S ( t ), H ( t ), I ( t ) として、それらの変動を下記の
の方程式で記述する。
営巣期:
S ( n + τ ) = ( a + 1)γ 0 S ( n ) ,
€
H (n + τ ) = 0 ,
I ( n + τ ) = ( a + 1)γ1 ( I ( n ) + H ( n ))
N = S + H + I として
€ dH /dt = βSI −
€(b + σ + µN ) H ,
dS /dt = −(b + µN + bI ) S,
分散期:
€
dI /dt = δH − (b + bi + µN ) I
€
健康なキツネの集団に感染個体が少数侵入してきた時、感染が拡がる過程をパラメータの
€
€
値を変化させながら解析し、個体群動態のデータにフィットする値を求めるとともに、今
€
後の個体群変動を明らかにした。
-------------------------------------------------1 [email protected]
- 80 -
第1会議室 9/15 (水) 9:00 - 11:40
一般講演・口頭発表 O-28
病気 II
北海道における狂犬病侵入の可能性
− 数理モデルによる考察 −
Prediction of invasion and expansion of rabies in Hokkaido
- simulation study by mathematical model -
* 福家理 a 1 ,
* O.Fuke a
a
a Doshisha
浦口宏二 b , 重定南奈子
a
川崎廣吉
a
, K. Uraguchi b , N. Shigesada a , K. Kawasaki a
同志社大院・文化情報 , b 北海道立衛生研究所
University, b Hokkaido Institute of Public Health
狂犬病は死亡率が高く,非常に恐ろしい感染症の1つである.日本では,狂犬病予防法
の施行により 1956 年以来発生はないが,野生のキタキツネが広く分布し,狂犬病の流行地
であるロシアとの貿易が多い北海道では,狂犬病の侵入と流行の可能性が考えられる.
本研究では,狂犬病に感染した犬が侵入した場合,北海道内で広がっていくかどうか,
あるいは広がる場合,どのように広がっていくかを以下の数理モデル[1]を用いて調べた.
その結果を報告する.
€
∂S( x, y,t ) ∂  ∂S  ∂  ∂S 
=  DS  +  DS  + ( a − b) S − µSN − βSI
∂t
∂ x  ∂x  ∂y  ∂y 
∂H ( x, y,t ) ∂  ∂H  ∂  ∂H 
=  DH
 +  DH
 + βSI − (b + σ + µN ) H
∂t
∂x  ∂y 
∂y 
∂x 
∂I( x, y,t ) ∂  ∂I  ∂  ∂I 
=  DI  +  DI  + σH − (b + bI + µN ) I
∂t
∂ x  ∂x  ∂y  ∂y 
€
S,H,I は時刻 t,場所(x,y)における未感染個体,保菌個体,発病個体のそれぞれの個体密
€ N = S + H + I , DS ,DH ,DI はそれぞれの拡散係数,a は出生率,b は自然死亡率,μは
度,
競争係数,βは感染率,σは発病率, bI は発病による死亡率を表す.拡散係数や出生率,
自然死亡率等が場所によって依存する場合も含めて考察した.
€
参考文献 €
€
[1]N.Shigesada and K.Kawasaki,
1997, Biological Invasions:Theory and Practice ,Oxford
University Press.
-----------------------1 [email protected]
- 81 -
第2会議室 9/15 (水) 9:00 - 12:00
一般講演・口頭発表 O-29
進化 I
動的なネットワークにおける囚人のジレンマ
Evolutionary Prisoner’s Dilemma on adaptive networks
吉野好美 A ,増田直紀 AB
東大院情報理工 A ,JST さきがけ B
Yoshimi YoshinoA and Naoki MasudaAB
Graduate School of Mathematical Informatics, The University of TokyoA ,
JST PRESTOB
進化ゲームとは、ネットワーク上の相互作用粒子系 (interacting particle
systems; 無限粒子系とも呼ばれる) の一種である [1]。進化ゲームにおいて、
ネットワーク構造はダイナミクスに大きな影響を及ぼす [2]。例えば、正方格
子上の囚人ジレンマゲームにおいては、完全グラフの場合と異なり、協力が安
定に存在できる [3]。また、スケールフリー・ネットワークも協力を促進するこ
とがある [2]。これらの研究ではネットワークが固定されていることが非常に
多い。しかし、現実のネットワークは動的であることが多い。例えば、相互協
力している枝を保とうとし、片方でも裏切れば枝を絶つというルールを考える
ことができる。Pacheco らによる Active Linking (AL) モデルにおける、
枝の生成・消滅ルールは次で与えられる [4]:
Ẋsi sj = αsi αsj (Xsmax
− Xsi sj ) − γsi sj Xsi sj ,
i sj
(1)
ここで、 プレイヤー i と j の戦略 (si , sj ) は (C, C), (C, D), (D, D) のいずれ
かである(C は協力、D は裏切りを表す)。 Xsi sj は状態 si と sj を端にもつ
枝の数を表す。Xsmax
は定数である。
i sj
AL モデルでは、ネットワークのダイナミクスが速いほど協力が進化しやす
いことがわかっている。しかしながら、これまでの研究ではネットワークの次
数分布の影響を含む合計利得が考えられていた。非一様なネットワークでは合
計利得を次数で割った平均利得を用いると種々の結果が異なることがある。本
研究では、AL モデルを用いて囚人のジレンマの合計利得および平均利得の方
式が協力者の割合に与える影響を調べた。その結果、AL が速いときには、協
力の進化が頑健に表れることがわかった。
参考文献
[1] M. A. Nowak 著, 竹内康博,佐藤一憲,巌佐庸,中岡慎治 監訳, 進化のダイナミク
スー生命の謎を解き明かす方程式 共立出版 (2008)
[2] 増田直紀, 人工知能学会誌 23 巻 5 号 652-658 (2008 年 9 月)
[3] M. A. Nowak and R. May, Nature 359, 826 (1992)
[4] J. M. Pacheco and A. Traulsen and M. A. Nowak, J. Theol. Biol. 243,
437-443 (2006) ; J. M. Pacheco and A. Traulsen and M. A. Nowak, Phys. Rev.
Lett. 97, 258103 (2006)
- 82 -
第2会議室 9/15 (水) 9:00 - 12:00
一般講演・口頭発表 O-30
進化 I
A Condition for Cooperation in a Game
on Complex Networks
紺野友彦
∗
ネットワーク上の囚人のジレンマゲームでどのような条件の時に協力が促進されるかを研究し
た。 モデルでは協力者と裏切り者の2種類の生物がいる。協力者は隣接するすべての生物に対し
てそれぞれ利得 b を与える、それと同時に隣接する全てのの生物数 ×c のコストを支払う。裏切
り者は何もせず、協力者から利得を得るのみである。Weak Selection を考えた。k をリンクの数、
⟨k⟩ を平均リンク数とする。利得行列で表すと以下のようになる。
(
C
D
C
D
b−c
b
−c
0
)
(1)
Death-Birth Update では、b/c > ⟨k⟩ が協力を促進する条件だと今まで考えられてきたが [1]、わ
れわれは b/c > ⟨knn ⟩ が条件であることを示した [2]。ここで、knn 隣接ノードのリンク数を表し、
⟨knn ⟩ はその平均値である。ネットワーク上のモデルでの興味深い結果、例えばスケールフリー
ネットワーク上では感染爆発が起こる、などと言ったことは ⟨k⟩ と ⟨knn ⟩ が異なることから生ま
れ、ネットワーク理論において ⟨k⟩ と ⟨knn ⟩ の違いは本質的である。レギュラーネットワークの時
のみ両者は一致する。b/c > ⟨knn ⟩ という条件の帰結として レギュラー、ランダム、スケールフ
リーネットワークのうちレギュラーネットワークでは協力が起こりやすく、スケールフリーでは起
こりにくいことが示される。スターネットワークでも起こりにくいことが示される。
参考文献
[1] H. Ohtsuki, C. Hauert, E. Lieberman, M. A. Nowak, A simple rule for the evolution of
cooperation on graphs and social networks, Nature 441 (7092) (2006) 502–505.
[2] T. Konno, A Condition for Cooperation in a Game on Complex Networks, arXiv:1003.0088.
∗
東京大学 [email protected]
1
- 83 -
第2会議室 9/15 (水) 9:00 - 12:00
一般講演・口頭発表 O-31
進化 I
状況依存的な相利関係の進 化
Evolution of situation dependent mutualism
*福井眞 a 1 ,
山内淳
a
*S. Fukuia , A. Yamauchia
a
a
京大・生態研センター
Center for Ecological Research, Kyoto University
Symbiosis is the fundamental relationship in nature, and it ranges from parasitism to
mutualism continuously. The relation can alter parasitism to mutualism or vice versa
because the strength and the manner of interaction change depending on the habitat
environment and the situation (e.g. the secondary endosymbiont of aphid[1]). This study
focused on the case that an organism can have a positive effect on its partner species in
a certain situation even it affects negatively (parasite) at ordinary times. What
condition realizes such a flexible symbiotic system? Assuming asymmetric interaction
between two species (host-parasite) including the environmental effect, we investigated
the
cost/benefit
balance
and
environmental
condition
that
establishes
the
situation-dependent mutualism (SDM) using dual-lattice model[2][3]. It is found that the
SDM can not spread into the parasitic population (wild type) regardless of the
environmental condition, and also it can not invade including spatial structure
(Yamamura et al. (2004) showed mutualist can invade into non-mutualist population
with spatial effect in case that symmetric interaction between individuals on different
lattice). However, the temporal change on the habitat including spatial structure
allowed the SDM invasion into wild type population.
Ref eren ce s
[1] Koga et al. (2003) Proc. R. Soc., B.
[2] Doebeli and Knowlton (1998) Proc. Natl. Acad. Sci., USA.
[3] Yamamura et al. (2004) Jour. Theor. Biol .
-----------------------1
[email protected]
- 84 -
第2会議室 9/15 (水) 9:00 - 12:00
一般講演・口頭発表 O-32
進化 I
CONDITIONS FOR THE EVOLUTION OF
CONFORMIST TRANSMISSION
HOW SPATIAL VARIATION AND THE NUMBER OF CULTURAL TRAITS FAVORS STRONG
CONFORMIST BIASES OVER INDIVIDUAL LEARNING, UNBIASED TRANSMISSION AND
PAYOFF-BIASED TRANSMISSION
*中橋 渉 a 、若野 友一郎 a 、ジョセフ・ヘンリック b
*Wataru Nakahashia , Joe Yuichiro Wakanoa , Joseph Henrichb
a
明治大学、b ブリティッシュコロンビア大学
a
Meiji University, b The University of British Columbia
E-mail: [email protected]
Abstract
Long before the origins of agriculture Homo sapiens expanded across the globe into
an immense variety of environments, from the malarial swamps of New Guinea to the
Arctic tundra of Alaska. Surviving in these diverse environments did not principally
depend on local genetic adaptations, but instead on evolved learning strategies that
permitted individuals to assemble locally adaptive behavioral repertoires. To develop
hypotheses about the psychological processes that underpin human learning, we model
the evolution of different kinds of learning strategies to examine the kinds of strategies
are favored and under what conditions.
We focus on understanding how spatial variability, temporal variability, and the
number of cultural traits influence the evolution of four types of strategies: individual
learning, unbiased social learning, payoff-biased social learning and conformist
transmission. Using a combination of analytic and simulation methods, we show that
spatial, but not temporal, variation strongly favors the emergence of conformist
transmission. This effect intensifies when migration rates are high and there are many
different environments. We also show that increasing the number of cultural traits favors
the evolution of conformist transmission, which is important because prior models of
conformist transmission have assumed only two cultural traits. This approach provides
an evolutionary foundation for understanding conformist transmission in humans, and
generates clear hypotheses to guide empirical research on social learning.
- 85 -
第2会議室 9/15 (水) 9:00 - 12:00
一般講演・口頭発表 O-33
進化 I
世代間相互作用が態度と行動の乖離に与える影響
How intergenerational interaction affects attitude-behavior inconsistency
*関口卓也 a * ,
中丸麻由子 a
*Takuya
Sekiguchia * , Mayuko Nakamarua
a
東工大院・社理工
a
Tokyo Institute of Technology
社会規範を分析するにあたり、個人の態度と行動を共に観察することは大きな意義を持
つ。この点に注目した社会心理学的研究の多くは、(i)パーソナリティや動機付けといった個
人レベルの要素を説明項とし、(ii)実験・調査時点での態度と行動の乖離を記述することが
多い。これに対し本報告では、(i)世代間/内での相互作用の形態という構造的側面も説明項
とし、(ii)より長期的な視点からこの現象を捉え、世代を経る過程でどのようにして態度と
行動が乖離していくのかを進化ゲーム理論の枠組みを用いて動的に描くことを目的とする。
本研究では、関口・中丸(2009)に倣い、個人が態度と行動の2つの要素を持ち、それらが
垂直伝達、斜行伝達、水平伝達という3つの文化伝達によって影響を受ける進化ゲーム理論
的モデルを構築した。個人は、成人、新生児、子、という3つの世代に属す。成人は、他の
成人と調整ゲームを行う。利得は個人のとる行動により決定され、態度と行動が一致しな
い個人の利得は低くなると仮定する。そうして計算された正味の利得に比例して新生児の
態度と行動の組の頻度が決定する(垂直伝達)。新生児は子に成長する過程で成人からの文化
伝達を受け(斜行伝達)、子は成人に成長する過程で同世代の子から影響を受ける(水平伝達)。
なお、斜行・水平伝達のそれぞれの場面で、他人の行動を見て自分の行動を変更する(斜行
の場合Ob-BB、水平の場合Ho-BBと書く)、他人の態度を知って自分の態度が変わる(Ob-AA、
Ho-AA)、他人の態度を知って自分の行動が変わる(Ob-AB、Ho-AB)、他人の行動を見て自分
の態度が変わる(Ob-BA、Ho-BA)という4種類の意思決定を考慮した。これらの単独効果と
交互作用が、態度と行動の頻度の時間変化に与える影響を調べた。
分析の結果、(1)全ての個人が同じ態度を持ち、
水平なし
Ho-BB
Ho-AA
Ho-AB
Ho-BA
それと一貫した行動を採っている、(2)全ての
斜行なし
(1)
(1)
(1)(2)
(1)(3)(4)
(1)
個人が同じ態度と行動を採るが、態度と行動が
Ob-BB
(1)
(1)(3)(4)
(1)(2)
(1)(3)(4)
(1)(4)
乖離している、(3)全ての個人が同じ態度を持つ Ob-AA
(1)(2)
(1)(2)
(1)(2)(5)
(1)(3)(4)
(1)(5)
が、複数の行動が観察される、(4)態度と行動の Ob-AB (1)(3)(4) (1)(3)(4) (1)(3)(4) (1)(3)(4)
(1)(4)
(1)
(1)
(1)(5)
(1)(4)
(1)
全ての組み合わせが共存する、(5) 成員間で異な Ob-BA
る態度が存在するが、全ての個人が同じ行動を
採るという5つの社会状態が伝達の種類に応じて生じることが分かった。特に(5)は、本研究
が新たに導入したOb-AAやOb-BAという斜行伝達の効果によってはじめて生じた社会状態
である。上の表はこれをまとめたものである。
本研究は、成員間で異なる態度が存在するが全ての個人が同じ行動を採る(上記の(5))と
いう関口・中丸(2009)のモデルでは導けなかった均衡状態を記述し、その発生条件が、集団
内の他者の態度が分かったり、他者の行動から影響を受けたりしたとしても、それを行動
として表出しないこと(AA や BA)が、世代間/内相互作用の双方で起きている場合(Ob-AA
と Ho-AA、Ob-AA と Ho-BA、Ob-BA と Ho-AA)であることを明らかにした。
-----------------------*
[email protected]
- 86 -
第2会議室 9/15 (水) 9:00 - 12:00
一般講演・口頭発表 O-34
進化 I
追放による資源競争モデル
A mathematical competition model via expulsion
*瀬川悦生 a 1 ,
*E.Segawaa 1
大槻久 a,b
, H. Ohtsukia,b
a
東工大・社理工 , bJST さきがけ
a
Tokyo Institute of Technology, bPRESTO JST
協力ゲームでは、提携を組んで資源を獲得した時、そのメンバーは事前に約束した配分に
従うことが前提とされている。ところが‘理性的’な人間社会以外では、その前提がほと
んどの場合保証されておらず、そもそも配分に関する取り決めなど存在しないことが期待
される。例えば、メスのヒヒとの交尾を獲得するために、オス数匹で確かに「提携」を組
むが、ほとんどの場合、最後は力の強いオスがそのメスを独占する傾向にある[1]。こうい
った状況下の「提携」を理解するため、我々は次のような数理モデルを考案した。ここで
は簡単のため 3 個体の場合について説明する。各個体には正の実数値の攻撃力が割り振ら
れており、次の 2 ステージを経て、勝ち残った者がその資源を総取りする。
ステージ 1. 各個体は自分以外の誰か一個体に攻撃を仕掛け、受けた攻撃力に比例した
確率で一個体だけその「提携」から追放される。
ステージ 2. 残った二個体で資源を奪い合い、自分の攻撃力に比例した確率でそれを総
取りできる。
この発表ではどのように各個体が行動すると、勝利確率を最大にできるか、またその最適
化行動をとったときの、勝利確率がいくらになるかを報告する。
参考文献
[1] R. Noë, Alliance formation among male baboons, Oxford (1992).
1 [email protected]
- 87 -
第2会議室 9/15 (水) 9:00 - 12:00
一般講演・口頭発表 O-35
進化 I
不完全な情報のもとで間接互恵性を促進する社会規範の安定性解析 (Stability analysis of social norms that promote indirect reciprocity
under incomplete information)
* 中村光宏 a , 増田直紀 a,b
* Nakamura a , M., Masuda a,b , N. 東大・情報理工, b JST さきがけ a
Univ. of Tokyo, b JST PRESTO
a
血縁関係や繰り返しのない状況での協力行動(間接互恵性)を促進するメカニズムとして
「評判」がある.これまで関わったことのない相手とゲームを行うとき,相手の評判が分
かれば,非協力者に搾取されにくい.単純なモデル[1]において,b/c > 1/q(協力のコスト c,
便益 b,相手の評判を知っている確率 q)であれば,相手の評判がよいか悪いかを区別して
協力する戦略(discriminator)によって協力行動が促進されることが知られている.また,
より一般的な評判の割り当て方(社会規範)を調べたモデル[2]では,leading eight と呼ば
れる 8 つの規範のもとで,discriminator が進化的に安定な戦略(ESS)であることが知ら
れている.しかし,情報の行き渡り方が不完全で相手の評判が見えない可能性がある場合
において,どのような社会規範が協力を促進するかは明らかでない.本発表では,q < 1 の
場合に ESS であるような社会規範と discriminator 戦略とのペアを調べた結果について報
告する.
参考文献
[1]
M. Nowak and K. Sigmund. The dynamics of Indirect Reciprocity. J. Theor. Biol.,
194, 561-74 (1998).
[2]
H. Ohtsuki and Y. Iwasa. How should we define goodness? — reputation dynamics
in indirect reciprocity. J. Theor. Biol., 231, 107-20 (2004).
- 88 -
第2会議室 9/15 (水) 9:00 - 12:00
一般講演・口頭発表 O-36
進化 I
メタ規範ゲームの脆弱性
Vulnerability of the Metanorms Game
*山本仁志 a 1 ,
*
岡田勇 b
H. Yamamotoa 1 , I. Okadab
a
立正大・経営 , b 創価大・経営
a
Rissho University, bSoka University
[狙い] 集団における規範維持のモデルとして良く知られたメタ規範ゲーム[1]は、n 人囚人
のジレンマの拡張モデルとして、国際問題における協調問題など中央集権的でない集団に
おいていかに規範を維持するかを検討する上で優れたモデルである。進化論的な分析によ
って、規範ゲームでは協調は維持されないが、メタ規範を導入することで協調が維持され
ることが知られている。しかし近年、メタ規範がシミュレーションの世代数に対して脆弱
であるとの指摘がなされている。我々は、様々なシミュレーション条件におけるメタ規範
の成立条件を精査し、脆弱性のメカニズムを探る。また、メタ規範による規範の成立を頑
健にするための「社会的ワクチン」を提案し、その効果を検討する。
[方法] Axelrod が提案した規範・メタ規範ゲームを実装しつい実験をおこなう。続いて、シ
ミュレーション世代、集団の規模、進化手法など様々なパラメータを精査しメタ規範の成
立条件を探る。続いて我々は、頑健に協調を維持するための方策として「社会的ワクチン」
の導入を提案する。ワクチンとは一般的に弱毒化した病原体を接種することで抗体をつく
り病原体への感染を予防することをいう。社会的ワクチンとは、集団の中にごく少数の常
に裏切り行為をとるエージェントが存在することで、集団全体の規範を高く維持すること
ができる効果をいう。
[結果] 我々は、メタ規範が協調を安定させる条件を探るためにシミュレーション実験をお
こなった。その結果多くのパラメータ環境において、協調が崩壊することを示した。また、
我々は従来協調が崩壊するといわれているパラメータ空間においても協調が頑健に維持さ
れるための方策として「社会的ワクチン」の導入を提案した。社会的ワクチンを導入する
ことでメタ規範における超長期および様々な突然変率における安定達成を可能とした。
参考文献
[1] Axelrod, R. M. , An Evolutionary Approach to Norms, American Political Science
Review, 80 (4), 1095-1111, 1986
-----------------------1 [email protected]
- 89 -
第2会議室 9/15 (水) 9:00 - 12:00
一般講演・口頭発表 O-37
進化 I
逐次的リスク
逐次的リスク戦略
リスク戦略の
戦略の進化
Evolution of Sequentially Risk Strategy
*岡田勇 a 1 ,
*I.
山本仁志 b
Okadaa 1 , H.
amamotob
H. YYamamoto
a
創価大・
創価大・経営 , b 立正大・
立正大・経営
a
b
University,
Soka University
, Rissho University
[狙い] 実力が同じ個体が競争するとき、いくつかの選択肢の中からリスクの度合いがどの
程度のものを選択するかに対して自由である場合、どのようなリスク戦略が適応的である
かは、広範な現実の問題に適応できる。それは原始社会の群れの中のみならず、子供にど
のような教育を受けさせるのか、将棋でどのような序盤を戦うのか、金融市場においてど
のようなポートフォリオを選択するのかといった、広く社会的な場面にみられ、この進化
論的な分析は、人間行動のある基本的な側面の理解につながる。そこで、高度に抽象化し
た数学モデルを構築して分析する。
[方法] 数理解析とシミュレーションを用いる。期待値が同じくじを考える。定義を工夫す
ると、リスクの度合いの異なるくじを無限に生成することができる。これを用いてプレイ
ヤーが逐次的に複数のくじを引く。逐次的であるから条件付き戦略を持つことができる。
これらのくじの結果、プレイヤーは利得を得る。多数の集団において、任意にペアを選び、
利得の大小に基づき競争するものとする。GAを用いて戦略を適応させるとどうなるか調
べる。適応に対し突然変異の有無の違いも観察する。
[結果] 最もリスキーではないが比較的にリスクの高い戦略が生き残る(適応的である)こ
とが分かった。突然変異の有無によって、生き残る戦略のリスクの度合いが異なることも
明らかになった。発表ではこのメカニズムについて詳細に説明し、生物学的あるいは経済
学的・社会学的な解釈の可能性について議論したい。最後に、このゲームの拡張について
のアイディアを提案する。
参考文献
[1] Okada, I., Yamamoto, H., Proc. of World Congress of Social Simulation (WCSS 2010)
(printing).
-----------------------1 [email protected]
- 90 -
第1会議室 9/15 (水) 15:00 - 16:40
一般講演・口頭発表 O-38
生態 I
海洋保護区設置のパラドックス:禁漁区をもうけると種が絶滅するか
Paradox of Marine Protected Area: when it causes the loss of species.
* 高科直 a 1 ,舞木昭彦
* N.
Takashina
a
a1
a
,巌佐庸
a
, A. Mougi a , Y. Iwasa
a
九大院・システム生命
Kyushu University
a
多数の漁獲資源が過度な漁業により崩壊の危機にさらされている。海洋保護区は,その
ような疲弊した漁業資源の保全や改善を目的として導入される。しかし一方では,海洋保
護区の設置が漁業生態系に与える影響の詳細な理解は得られていない。
本研究では,海洋保護区の導入が漁業資源に対して与えるインパクト,とくに結果とし
て資源の低下や資源種の絶滅をもたらす可能性についての数理的な解析を行った。漁獲資
源が,被食者−捕食者系である場合を仮定し,種が保護区と非保護区を random に移動分散
する場合と, fitness の高い方に偏重する adaptive な移動分散[1]をする場合を比較した。
共存している 2 種のもとに保護区を導入すると,被食者は捕食者があるパラメータ領域
を満たすときに絶滅することがわかった。また個体群動態は,それぞれの種の移動能力に
大きく依存しており,2 種がより adaptive な振る舞いをするときに,保護区導入時の共存
領域が大きくなった。
図 1:被食者の総個体数の変化
保護区の導入が被食者の絶滅を引き起こす
例を示した。黒塗り部分は絶滅を表す。横
軸は保護区の割合,縦軸は被食者の移動能
力を表す。図は移動能力が高いほど絶滅し
やすいことを示している。
参考文献
[1] Abrams, P. A. 2007. The Role of Behavioral Dynamics in Determining the Patch
Distributions of Interacting Species. The American Naturalist.169; 505-518.
-----------------------1 [email protected]
- 91 -
第1会議室 9/15 (水) 15:00 - 16:40
一般講演・口頭発表 O-39
生態 I
絶滅危惧植物における全個体遺伝子情報と個体群存続解析
Population viability analysis of critically endangered
plant populations using genetic information
*加藤元海 a 1 ,
佐竹暁子 b
*M. Genkai-Katoa , A. Satakeb
a
a
高知大・黒潮 , b 北大・創成
Kochi University, bHokkaido University
自然環境に対する人為インパクトの増大によって、多くの生態系で生物多様性が低下
しつつある。日本列島には変種や亜種も含めると約 7000 種の維管束植物が分布してお
り、そのうちの約 4 割が固有種である。日本に生息する維管束植物のうち 2 割を超える
種が、何らかの形で絶滅の危機にさらされている。絶滅危惧種の保全に関して、詳細な
遺伝解析に基づく保全活動が展開されている例はまだ少ない[1]。生物個体群の遺伝的
特徴は絶滅危惧種の動態に対して大きな影響力をもつため、集団の遺伝的多様性や遺伝
構造を知ることは絶滅危惧種の保全のために必要となる。
本研究では、近年著しく発展した遺伝子解析技術によって得られた絶滅危惧植物の現
存する全個体に関する位置情報、繁殖状況、遺伝子型を考慮した数理モデルを構築して、
その個体群存続解析を行なった。個体群存続解析では、個体群の遺伝構造と地理情報に
関しては小笠原諸島に生息するムニンフトモモ[2]をモデルに解析を行なった。空間構
造を考慮した数理モデルを用いて、絶滅危惧植物のメタ個体群の持続可能性や脆弱性に
ついて総合的な解析を行なった。さまざまなパラメータを変えることにより、どのよう
な生物学的特徴が絶滅リスクを高める要因になるかを解析し、生物多様性維持のために
必要な管理の方針の助けとなることを目指す。
参考文献
[1] Kirchner F, Robert A & Colas B. (2006) Modelling the dynamics of introduced
populations in the narrow-endemic Centaurea corymbosa: a demo-genetic
integration. Journal of Applied Ecology 43: 1011-1021.
[2] 兼子伸吾・延島冬生・井鷺裕司. (2009) 小笠原固有樹種ムニンフトモモの遺伝的多様性
と遺伝構造. 日本生態学会関東地区会会報第 57 号 13-18.
-----------------------1 [email protected]
- 92 -
第1会議室 9/15 (水) 15:00 - 16:40
一般講演・口頭発表 O-40
生態 I
生息地削減後の種数減少プロセス:
中立モデルに基づく新公式と
鳥類相データでの検証.
Decrease in species number after habitat loss:
a new formula based on neutral model
and its test with avifaunal data.
⃝巌佐 庸 a・John M. Halleyb
⃝Yoh Iwasaa, J.M. Halleyb
a
九大理生物, b University of Ioannina, Greece
a
Dept Biology, Kyushu Univ, b University of Ioannina, Greece
生息地が削減された後の種数の減少過程について、中立モデルを用いた新しい公式
を導いた。
N 個体のサイトがあり、各個体はランダムに枯死しその後を以前いた個体のコピーが埋
める(連続時間モランプロセス)。 s 種の間で N 個体を奪い合う状態の間の遷移について、
€
すべての状態を等確率でとる分布が最大固有値 (−1) s( s −1) τN に対応する固有ベクトル
である。(注:この固有ベクトルが表す確率分布は、折れ棒モデルの仮定に等しい)。これ
€
€
から、種数は時間とともに次式にもとづいて減少することが導かれる。
€
S0
S( t ) =
S
1+ 0 t
τN
ここで τ は平均世代時間、 N は総個体数、 S0 は初期時点での種数、 t は時間である。シミ
ュレーションで確認した。
€
種数が半減する時間 t1 2 は Nτ S0 に等しく、種数に反比例し、総個体数に比例する。
€
€
€
€
鳥類の種数の減少に関するデータを解析すると、半減時間の予測 Nτ S0 は幅広い範
囲で当てはまることが確認された。
€
MacArthur €and Wilson による従来の式は、種の絶滅が独立で同等としたもので時間の
€
指数関数になる。これに対して時間の双曲線関数を描いて種数が減少する式は
Terbough(1984)が経験的に使用していた。
[email protected]
- 93 -
第1会議室 9/15 (水) 15:00 - 16:40
一般講演・口頭発表 O-41
生態 I
草原系と森林系における社会生態ネットワークの差異
Different Social-ecological Networks in Grassland and Forest Systems
* 山村則男 a , 石井励一郎 b , 酒井章子 a ,大沼あゆみ c
* N.Yamamura a , R.Ishii b , S.Sakai a , A.Onuma c
a
地球研, b 海洋開発機構, c 慶応大・経済 a
RIHN, b JAMSTEC, c Keio Univ.
世界中の多くの生態系において、人間による過度な資源収奪による劣化が深刻な問題とな
っている.そのような生態系の維持管理を考えるとき、人間社会系と生態系が相互作用す
るネットワークとして全体を把握することが重要である[1].地球研プロジェクト「生態系
ネットワークの崩壊と再生」[2]において、我々は、モンゴルの草原系とマレーシア・サラ
ワクの森林系では、環境問題を引き起こしている社会生態ネットワークに大きな違いがあ
ることを見いだした.草原系では、経済のグローバル化により遊牧民は換金性の高い家畜
を多く飼うという草原の過剰利用により草原の劣化を導いている.一方、森林系では、企
業の直接の森林開発によって先住民が利用できる森林が減少している.
我々は、このような系の相違を表現できる社会生態系の動態を数理モデル化し、それら
の系のグローバル経済の変化に対する安定性を調べた.草原系では、草原劣化に対する家
畜量の制限という負のフィードバックが働くが、降水量の大きな変動によってシステムは
不安定化する.森林系では、森林の減少と先住民の森林利用の減少による森林開発の受け
入れに正のフィードバックが働くため、系はもともと不安定であることがわかった.ネッ
トワークの違いに応じて、どのような政策シナリオが生態系の持続的利用に有効なのかも
数理モデルに基づいて議論する.
参考文献
[1] Folke, C., Carpenter, S., Walker, B. Scheffer, M. Elmqvist, T. Gunderson, L. and
Holling, C. S. (2004) Regime Shift, Resilience, and Biodiversity in Ecosystem
Management. Annual Review of Ecology, Evolution and Systematics 35: 557-581.
[2] http://www.chikyu.ac.jp/rihn/project/D-04.html
- 94 -
第1会議室 9/15 (水) 15:00 - 16:40
一般講演・口頭発表 O-42
生態 I
ENGLISH
The optimal harvesting policy for the
migrant species
*Shigehide Iwata
1
National Research Institute of Far Seas Fisheries
Abstract
The reference point captures in broad term the management objective for
the fishery (FAO, 1995). As one of the reference point, there is maximum
sustainable yield (MSY) which ensures the largest average catch and yield
that can continuously be taken from a stock under existing environmental
conditions. However, in the explanation of MSY, there is a little knowledge
about MSY which including the spatial effects. In this study, we suggest
the spatial explicit model and investigate the effect of species migrant to
the MSY or the optimal harvesting policy.
Our model is contained two types of habitats; first is spawning site,
and second are non spawning sites. In the spawning site, the reproduction,
natural death and migration to next habitats occur. On the other hand, in
non spawning habitats, migration and natural death occur.
As a result, the total abundance at the equilibrium point might increase
if the out-flow from spawning habitats and the inflow to spawning habitats are large or the outflow from spawning habitats is very small. Since
individuals in spawning habitats may contribute the reproduction, but the
individuals in non spawning sites cannot contribute to the reproduction.
In this meaning, the case which a lot of individuals stay in the spawning
sites is better. Furthermore, MSY also change depending on whether we
purpose to maximize yield considering one habitat yield or average yield at
all habitat.
References [1] J.F. Caddy and R. Mahon, 1995, Reference points for fisheries management, Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO) fisheries technical paper, 347.
1
siwata@affrc.go.jp
- 95 -
第2会議室 9/15 (水) 15:00 - 17:20
一般講演・口頭発表 O-43
分子・生理・細胞
アマゴの初期成長過程でのパーマーク形成
Parr Mark Formation on the Skin in the Early Development of Amago Trout
関村利朗(中部大学応用生物学部応用生物化学科),A, Madzvamuse(サセックス大学数学科),
P.K.Maini(オックスフォード大学数理生物学センター及び統合システムバイオロジーセンター)
Toshio Sekimura:Department of Biological Chemistry, Graduate School of Bioscience and
Biotechnology, Chubu University, Kasugai, Aichi 487-8501, Japan
Anotida Madzvamuse:Department of mathematics, University of Sussex, Mantell Build.,
Brighton,BN1 9RE,UK
Philip K. Maini : Centre for Mathematical Biology, Mathematical Institute, St. Giles’
Oxford,OX1 3LB, and Oxford Centre for Integrative Systems Biology, Department of
Biochemistry, University of Oxford, UK
要旨
アマゴ(Amago trout、学名 Oncorhynchus masou ishikawae)はサケ科(Salmonidae)の魚
で、体表に特徴的な赤(朱)色斑点が見られる事から英名で Red spotted masu trout とも呼
ばれている。生息地は日本の河川で、神奈川県酒匂川を北限とし、それ以西の本州太平洋
側、四国全域、九州大分県大野川以北の瀬戸内海に注ぐ河川である。
この魚の産卵期は10月上旬から11月下旬で、生活環の違いにより陸封型(land-locked
form)と降海型(anadormy form)の2つの型がある。陸封型は冷水性(8度∼18度程度)
のため通常は川の上流(渓流)域で一生を過ごす。陸封型の成熟期間は通常2年で、全長
25cm程度までしか大きくならず、成魚になった後もサケ科の幼魚のトレードマークで
ある小判形の青色斑紋(パーマーク)が消えることなく体表面に残っている。
我々は、2004年から2009年まで5年間にわたり、毎年11月下旬に岐阜県中津
川市の養魚場から受精卵100∼200粒を持ち帰り、大学実験室の冷水水槽内(10度
∼13度)で孵化をさせた後約6ヶ月間にわたり15匹程度のアマゴについて個体識別を
行いながら観察を行い、パーマーク形成の規則を見出した。また、ある反応拡散方程式系
がパーマーク過程を再現することも確認した。本発表で、我々はパーマーク形成の規則を
報告すると同時に、その形成過程の数理モデル(反応拡散方程式系)とその計算機シミュ
レーションを提示する。
- 96 -
第2会議室 9/15 (水) 15:00 - 17:20
一般講演・口頭発表 O-44
分子・生理・細胞
視交叉上核で見られる減衰振動の数理的特性
Mathematical Properties of Damping Oscillations in the
Suprachiasmatic Nucleus
*浅川剛 a 1 ,
*T.
鯉沼聡 b、長野護 b、升本宏平 b、重吉康史 b
Asakawaa , S. Koinumab, M. Naganob, K. Masumotob, Y. Shigeyoshib
a
ソニー株式会社・システム技術研究所, b 近畿大学・医学部
a
Sony Corporation, bKindai University
視交叉上核(Suprachiasmatic nucleus; SCN)は哺乳類体内時計の中枢である。この神経核は約
一万個の細胞からなり、そのうちの多くを占める神経細胞のおのおのが安定した内因性の概日リ
ズムを発振すると考えられている。しかしながら、最近 Webb et al.[1]は,分散培養した個々の
SCN ニューロン細胞のうち 70%以上が 3 日以内に減衰して振動性を示さなくなることを明らかに
した。また、我々のグル-プでも時計遺伝子 Per1 を位相マーカーとした in situ hybridization
法により明暗条件で認められていた SCN の腹外側部(ventrolateral region of the SCN; VLSCN)
の日周リズムが、恒常暗において著明な減衰を示す事を認めている。しかし、減衰振動を示すこ
のような SCN のニューロン細胞内でも、PER や CRY などの主要な時計遺伝子がネガティブフィー
ドバックループを持ち、外部からの入力によるリミットサイクルを生み出すポテンシャルを本来
は備えていると考えられる。SCN の数理モデルを考える場合、一般に全ての振動子が自立性のリ
ミットサイクルとなっていると暗黙裡に仮定されてきたが、より現実に即した系を考案するため
には減衰振動子の数理的特性を取り入れる必要がある。そこで、本研究では減衰振動子がどのよ
うな数理的特性を持つのかを、Stuart-Landau 方程式を用いて考察する。さらに視交叉上核に減
衰振動子が含まれると仮定し、減衰振動子がもつ一般的数理特性が、視交叉上核のダイナミクス
にどのように作用するかについて検討を加える。
参考文献
[1] Webb AB, Angelo N, Huettner JE, and Herzog ED, “Intrinsic nondeterministic circadian
rhythm generation in identified mammalian neurons”, PNAS 106, 16493-16498 (2009)
-----------------------1
[email protected]
- 97 -
第2会議室 9/15 (水) 15:00 - 17:20
一般講演・口頭発表 O-45
分子・生理・細胞
振動を安定化する光入力機構
Transient light response stabilizes circadian entrainment
* 黒澤元 a 1 ,津元国親 b ,吉永哲哉 c ,合原一幸 d
a1
*G. Kurosawa
a
, T. Yoshinaga
理研・基幹研・望月理論生物学研究室,
c
a
b
, K. Tsumoto
RIKEN ASI ,
b
b
c
, K. Aihara
d
阪大・MEI センター,
徳大・HBS 研究部, d 東大・生産研
Osaka Univ .,
c
Univ. Tokushima,
d
Univ. Tokyo
Period of circadian clocks is different from 24h for many organisms.
Understanding the synchronization of the clocks with 24h environmental
cycles is one of essential issues for circadian biology. An important step
in the understanding the basis of the synchronization of circadian clocks
with 24h day-night cycles has been the discovery of up-regulation of some
genes by light for fungi and mammals. Intriguingly, upregulation of genes
by light in fungi stops within 1h that is called light adaptation. We
examined how transient light response affects the stability of circadian
oscillations. Through analysis of bifurcations of periodic oscillations,
we showed that the entrainability of circadian oscillations under 24h
light-dark cycles increases as the duration of transcriptional response
by light shortens (adaptation). On the other hand, if the duration of
transcriptional response under light is 12h (no adaptation) or
up-regulation of gene by light occurs slowly (slow response), circadian
oscillation under 24h light dark cycles are more likely to be destabilized
under light-dark cycles. Present results indicate that the functional
consequence of transient light response observed in fungi is to increase
the stability of oscillations under 24h light-dark cycles.
-----------------------1 [email protected]
- 98 -
第2会議室 9/15 (水) 15:00 - 17:20
一般講演・口頭発表 O-46
分子・生理・細胞
Role of negative feedback regulations in gene network
for somite development
*Daisuke
Saito1, Atsushi Mochizuki
Theor. Biol. Lab. RIKEN ASI
Spatiotemporal dynamics of gene expression is critical for somite
development in vertebrate. The novel gene Ripply is essential for somite
boundary formation and may act as a negative feedback regulator in gene
network. To understand the role of negative feedback regulations by Ripply,
we developed two alternative models and examined which model can
reproduce both wild-type and Ripply mutant phenotypes. In our model, the
region of somite formation (presomitic mesoderm) is represented as one
dimensional array of 500 cells and the growth is represented by the
movement of cells in a posterior-to-anterior direction. The model describes
cell-autonomous dynamics of four proteins (NICD, Mesp2, Tbx6, Ripply) and
two mRNAs (Mesp2, Ripply) with hypothetical clock regulating NICD
synthesis. We hypothesized that negative feedback to Tbx6 (degradation
pathway) is mediated by either Mesp2 (model A) or Ripply (model B). We
first confirmed that both model A and B can reproduce typical wild-type
expression of genes at future segmentation border, supporting that the
modeled gene networks are sufficient to explain wild-type phenotype. Then,
we tested the mutant condition for both models. Model B can reproduce
mutant phenotype, but model A cannot. The results suggest that the
negative feedback regulation in model B (Ripply-mediated Tbx6 degradation)
is essential for somite boundary formation. Experimental evidence also
supports the presence of this regulation. Our results exemplified the
importance of collaborative interaction between experimental and
mathematical biology.
-----------------------1 [email protected]
- 99 -
第2会議室 9/15 (水) 15:00 - 17:20
一般講演・口頭発表 O-47
分子・生理・細胞
ENGLISH
Mathematical Modeling of Retroactivity
in MAPK Signal Pathway
*Tsuyoshi Hirashima1, Yoosik Kim2, and Stanislav Y. Shvartsman3
1. Graduate School of Systems Life Sciences, Kyushu University
2,3. Department of Chemical Engineering and Lewis-Sigler Institute for Integrative
Genomics, Princeton University
The Mitogen Activated Protein Kinase (MAPK) is known for a highly conserved
signaling pathway of phosphorylation-dephosphorylation cycle among all
eukaryotes. Through interconnection to some network components a number of
binding competitions in protein level can be generated, which could lead to
breaking network modularity, e.g., the MAPK is modulated by downstream
factors on a well-defined signal pathway.
We here demonstrate that the MAPK phosphorylation in the early
Drosophila development can be altered by the level of its downstream substrate
Capicua using genetic experiments and mathematical modeling. First, we
quantified the level of MAPK phosphorylation for various Capicua mutants and
obtained data that the number of Capicua copies was proportional to the MAPK
phosphorylation. Then, we introduce a mass-action kinetic model of simplified
MAPK cycle pathway, and show that the Capicua can alter the level of MAPK
phosphorylation by directly interacting with the MAPK. We found that adding the
Capicua controls the level of MAPK phosphorylation positively or negatively,
depending on both balance of dissociation constants between the Capicua and
the MAPK as well as properties of MAPK cyclic signaling in the absence of the
Capicua. Finally, we discuss that a more biologically relevant model including
spatial compartments, nucleus and cytoplasm, gives a possibility that the
observed phenomena can result from the translocation of Capicua in nuclei,
triggering phosphorylation in the MAPK chemical kinetics.
-------------------------1
[email protected]
2
[email protected]
3
[email protected]
- 100 -
第2会議室 9/15 (水) 15:00 - 17:20
一般講演・口頭発表 O-48
分子・生理・細胞
ショウジョウバエ翅原基形成における
Wingless 発現局在化メカニズムの数理的解析
Mathematical analysis of localization mechanism of
Wingless expression in Drosophila notum development
*廣中謙一 1、巌佐庸 1、森下喜弘 1,2
*Kenichi Hironaka1, Yoh Iwasa1, and Yoshihiro Morishita1,2
1.九州大学, 2. PRESTO JST
1. Kyushu University, 2. PRESTO JST
ショウジョウバエ胸背板形成において、二つのモルフォゲン、Decapentaplegic
(Dpp)と Wingless (Wg)は局在化したソースから拡散し、それぞれが濃度の空間勾
配を作る。勾配は翅原基の細胞に位置情報を与え、その情報に基づいて感覚毛
や筋肉の空間パターンが決定される。様々なノイズに対してモルフォゲンがロ
バストな位置決定を行うには、モルフォゲンソースが適切な位置でシャープな
境界を持って局在化されなければならない。本研究において、我々は複雑なシ
グナルネットワークによって制御される Wg 発現の局在化メカニズムに焦点を
当てた。このネットワークはフィードフォワード及びフィードバックループを
含んでいる。(i)フィードフォワードループ――Wg 発現は二つの転写因子、Pnr
と Ush を介して Dpp を制御する。Pnr が Wg を活性化する一方で、Pnr-Ush 複合
体が Wg を抑制する。Dpp が Pnr,Ush を活性化するのに必要な閾値に差があるた
め、Wg 発現は Dpp ソースから距離を置いて発現する。(ii)三つのフィードバッ
クループ――Dpp シグナルは自身の活性を抑制し(ネガティブフィードバック)、
Pnr-Ush 複合体は Ush 発現を活性化し(ポジティブフィードバック)、Wg 発現は
自身の生産物によって活性化される(ポジティブフィードバック)。我々はこの
システムの数理モデルを構築し、ネットワークの特性を調べた。その結果、我々
はこのネットワークが Wg 発現を適切な位置でシャープな境界を持って局在化
させるようにデザインされていることを発見した。
- 101 -
第2会議室 9/15 (水) 15:00 - 17:20
一般講演・口頭発表 O-49
分子・生理・細胞
ENGLISH
Theoretical analysis of epigenetic regulation of
FLOWERING LOCUS C
*Akiko Satake a , b and Yoh Iwasa c
a
Hokkaido University, b PRESTO, c Kyusyu University
A central gene in the vernalization pathway is FLOWERING LOCUS C (FLC), a
MADS-domain-containing transcription factor that acts as a floral repressor. FLC
prevents plants from flowering until winter has passed. The repression of FLC by
prolonged cold involves chromatin remodeling by addition of repressive histon
modification at FLC chromatin, such as histone H3 lysine 27 trimethylation
(H3K27me3), as well as the loss of histone modifications associated with active
transcription, such as histone H3 acetylation and histone H3 lysine 4 trimethylation. In
A. thaliana, the repressive histone modifications persist in FLC even after a return to
warm conditions, and FLC expression is stably repressed. The mitotic stability of the
vernalized state in Arabidopsis in the absence of the cold signal is characteristic of an
epigenetic switch, and this switch permits plants to “remember” winter at a cellular
level. In contrast to A. thaliana, in the perennial herb A. alpina, the level of H3K27me3
decreases in the ortholog of A. thaliana FLC (PEP1) and PEP1 is reactivated after a
return to warm conditions. Here we develop a mathematical model for epigenetic
regulation of FLC and propose a mechanism that causes the difference in FLC
repression between annuals and perennials. Addition and removal of active/repressive
modifications per histon was modeled as a stochastic process. Results from model
analysis showed that bistability at a cellular level caused by a positive feedback is
necessary to reconstruct FLC repression pattern in the data. By calculating the mean
first passage time from fully repressed to fully active state at a cellular level, we showed
that winter memory is sustained more than a year when the addition speed of repressive
histon modifications is large. This long duration of winter memory is robust even when
cell division actively occurs.
- 102 -
第2会議室 9/16 (木) 9:00 - 11:40
一般講演・口頭発表 O-50
生態 II
成り年の初期進化:周期性と同調性
Initial Evolution of Masting: Intermittency and Synchrony
*山内 淳 a,b、白濱圭通 a、小林 豊 a *A. Yamauchi a , b , Y. Shirahama a , Y. Kobayashi a a
京大・生態研センター , b JST・さきがけ a
Kyoto University, b JST PRESTO 講演要旨内容
樹木など植物では、個体群や樹木群集が同調して周期的に大量開花や大量結実を行う、
「成り年」
と呼ばれる現象が知られている。成り年の進化をもたらす要因についてはいくつもの仮説が出さ
れているが、それらは大きく分けて、開花量が結実率を高める「受粉効率の促進」と結実量が種
子の生存率を高める「生存率の促進」に分類することができる。こうした「促進効果」が集団レ
ベルで働く場合には、集団内の総繁殖量の増大によって、そこに属する個体の繁殖成功は高めら
れる。こうした状況では、資源を蓄積するための「周期性」と集団内での繁殖を一致させる「同
調性」が同時に進化するかもしれない。しかしながら、
「周期性」と「同調性」の相関は、相互作
用の強さやその及ぶ範囲に影響される。例えば、促進効果において他個体の影響が相対的に弱く、
自分自身の開花・結実の影響が優先するならば、個体レベルで「周期性」がもたらされたとして
も個体間の「同調性」は生じないかもしれない。実際、多年草である Sanicula europaea では、各
個体の繁殖は周期的であるにもかかわらず個体間での同調が見られないことが知られている
(Inghe and Tamm, 1988; Inghe, 1990)。また、Koenig et al. (2003)は、成り年の長期データの解析
から、「周期性」と「同調性」には異なる選択圧が作用している可能性を示唆している。
これらのことを踏まえ、
「受粉効率の促進」と「生存率の促進」の二つの促進効果と、それぞれ
の促進効果における個体間の相互作用の強さが「周期性」と「同調性」の進化にどのように影響
するのかを、連続的な繁殖から短い周期での繁殖への進化、すなわち成り年の初期進化に注目し
て理論的に解析した。
モデルの解析から、単独の促進効果(例えば、受粉効率の促進)に注目した場合、個体間の相
互作用が強まるほど「同調性」の進化は促進されるが「周期性」の進化はかえって抑制される傾
向があることが明らかになった。またその場合に、他の促進効果(例えば、生存率の促進)の存
在が、周期性の進化に大きく貢献することが分かった。これらの傾向は、繁殖のタイミングに季
節性がある場合により顕著になることも示された。以上の結果から、成り年を特徴づける2つの
要因「同調性」と「周期性」の相関は一つの促進効果から必然的にもたらされる自明なものでは
ないこと、および、
「受粉効率の促進」と「生存率の促進」がともに働くことによって成り年の進
化が強く促されることが明らかになった。
Inghe, O.
1990.
J. Theor. Biol., 147: 449-469.
Inghe, O. and C. O. Tamm.
Koenig, W. D. et al.
2003.
1988.
Oikos, 51:203-219.
Oikos, 102:581–591.
- 103 -
第2会議室 9/16 (木) 9:00 - 11:40
一般講演・口頭発表 O-51
生態 II
樹木の一斉開花結実における進化的ジャンプ An evolutionary jumping in the evolution of masting in trees * 立木佑弥 1 , 巌佐庸 (* Yuuya Tachiki 1 , Yoh Iwasa)
九大・理・生物 (Kyushu University) 講演要旨内容
多くの樹木は毎年繁殖を行う訳ではなく、数年に一回の同調した繁殖パタンをみせる。
同調した繁殖は、受粉率を改善するためたくさんの種子を生産する事ができる。しかし、
樹木の間欠的な繁殖は、繁殖を行なわない年に子孫を残せない事が大きな不利となる。結
果として、間欠的な繁殖は進化せず、樹木は毎年繁殖を行うように進化する。私たちは実
生バンク(幼い樹木の集団)の存在が間欠的繁殖の進化に大きな貢献をする事を見出した。実
生が耐陰性(光が届かない林床でも長生きする性質)をもって長生きするときには、長年にわ
たりギャップ獲得競争に参加するのでこの不利を補償する。結果として、実生バンクを持
つ事で、間欠的で同調した繁殖が進化した。このことは、多くの耐陰性樹木が間欠的同調
繁殖を行うという事実によくあう。
このシステムでは、進化形質の実生の生存率に対する依存性を調べると、実生がある生
存率に達すると、進化平衡点が離散的に変化する(進化的ジャンプ)。本講演では、この進化
的ジャンプの数理的背景を明らかにすることを目的とする。
ある繁殖パタンをもつ先住者集団に異なる繁殖パタンを持つ変異体が生じた時の侵入可
能性を議論する。
結果としては、形質空間上には複数の進化平衡点が存在し、パラメータにより、平衡点
が移動し、不安定平衡点と安定平衡点が衝突したときに、中間形質の消失がおこる(下図)。
このとこで、形質の平衡点は突如として大きな方に移動し、結果的に離散的な進化的安定
平衡点を持つ事がわかった。
PIP:横軸が先住者の形質、縦軸が変異体の形質。 黒で塗られた領域は変異体の侵入可能領域。
パラメータが小さいとき(左)は横軸=1 付近と k=2 付近に平衡点が存在するが、パラメータが大
きくなると(右)、k=1 付近の平衡点が消失し、進化形質は k=2 付近に平衡点を持つ
-----------------------1 [email protected]
- 104 -
第2会議室 9/16 (木) 9:00 - 11:40
一般講演・口頭発表 O-52
生態 II
成長率の分散制御と 最適生活史戦略
The Optimal Control of Growth Process under Environmental Stochasticity.
*大泉 嶺 a 1 , 高田 壯則 b,
*R. Oizumi a , T. Takadab,
a,b
北大環境科学院,
a,b
Graduate School of Environmental Hokkaido University
要旨
生物個体は様々なリスク(気候、天敵や病気、他種との競争、資源の流出、さらには資源量の変動、
成長速度のばらつき、など)を、生活史戦略を駆使して回避している.そのなかでも、成長速度のば
らつきは平均適応度を減少させるという数学による解析結果(Tuljapurker, 1990)が得られている.
実際、各生活史パラメータにおける適応度の感度がその分散と負の相関をもつ事が推移行列モデルを
用いたデータ解析から得られている(Pfister,1998).しかし、これまで生活史戦略のモデルではば
らつきの制御を含むものはあまり見られない.そこで本研究では、ばらつきの制御を含む生活史過程
の理論モデルを推移行列モデルおよび「積分写像モデル」で表された個体群動態から導く.続いてこ
の理論モデルに基づいて成長過程における最適リスク制御を解析した結果を紹介したい.
- 105 -
第2会議室 9/16 (木) 9:00 - 11:40
一般講演・口頭発表 O-53
生態 II
コクヌストモドキにおける死にまね行動の数理モデル
Mathematical model for tonic immobility of ribolium castaneum
*梶原
*T.
毅, 中山
慧, 宮竹貴久, 佐々木徹
Kajiwara1, S. Nakayama, T. Miyatake, T. Sasaki
岡山大学環境学研究科
Graduate School of Environmental Science, Okayama University
講演要旨内容
動物の興味ある行動は進化の結果獲得されたものであるとされており、古来より数理モデ
ルによって詳しく研究されている。特に実験で観察される現象をモデルで説明することは
興味深い。以前我々は、米の害虫として知られているコクヌストモドキの闘争の際の負け
記憶について数理モデルによる研究を行った([1])
。今回の発表では、同じくコクヌストモ
ドキの一部の個体が死にまねと呼ばれる擬死行動によって捕食を逃れている現象をとりあ
つかう。コクヌストモドキの死にまね行動については、すでに [2], [3] において実験的研
究を報告している。死にマネを行うと周りの死にまねを行わない個体の犠牲によって捕食
の危機を軽減することができるが、一方では死にまねを行う個体は運動能力が低いので、
繁殖成功度が下がり、それによるトレードオフがある。さらにメスについては捕食圧の選
択のみがかかる。これらによって死にまね行動が進化する状況は単純ではない。以上につ
いて、得られた結果について報告する。
参考文献
[1] T. Sasaki, Kajiwara, T. Miyatake and K. Okada, On the optimal duration of memory of
losing a conflict -a mathematical model approach- , J. Biological Dynamics, 4(2010),
271-281
[2] S. Nakayama, Y. Nishi and T. Miyatake,
Genetic correlation between behavioural traits
in relation to death feigning behaviour. Population Ecology, 52(2010), 329-335.
[3] T. Miyatake, S. Nakayama, Y. Nishi, and S. Nakajima, Tonically immobilized selfish prey
can survive by sacrificing others. Proc. Roy. Soc. Ser. B., 276(2009 ), 2762-2767
-----------------------1 [email protected]
- 106 -
第2会議室 9/16 (木) 9:00 - 11:40
一般講演・口頭発表 O-54
生態 II
compartment model における移動分散率の表現公式 Formula for the dispersal rates in a compartment model *池田 幸太 a 1 , 若野 友一郎 a , 三木 健 b , 三村 昌泰 a *Kota Ikeda, Joe Yuichiro Wakano, Takeshi Miki, Masayasu Mimura a
明治大・先端数理科学インスティチュート, b 國立台灣大・海洋研究所 a
Meiji University, b National Taiwan University 講演要旨内容
空間構造が種の共存を促進するかどうかを調べるため, 2 つのパッチが移動
によって結合されていると考えるモデル (以下, compartment model と呼ぶ) が
考えられてきた. このモデルに含まれている「移動分散率」は定性的に導入され
たにすぎず, 空間的に連続につながった領域における個体群動態の定量的な予
測をするには不十分である. したがって, 空間的に連続なモデルである反応拡
散系と compartment model の関係性を調べることは重要である. 関連した先行研
究がいくつか知られており, これらの先行研究では 2 つの領域を細い領域がつ
ないだ「ダンベル型領域」を扱っていた. しかしながら, その結果の導出には技
術的な仮定が含まれている. そこで本研究では, 先行研究と同じくダンベル型
領域を考える一方で, より現実的と思われる状況で 2 つのモデル方程式の関係
性を調べた. その結果, 移動分散率を与える公式を導くことができた. これによ
って, compartment model を用いて個体数変化の定量的な予測をすることが可能
になったと言える.
-----------------------1 [email protected]
- 107 -
第2会議室 9/16 (木) 9:00 - 11:40
一般講演・口頭発表 O-55
生態 II
L-V パーマネント行列の十分条件
A sufficient condition
for the L-V permanent matrices
*中島久男
*H.
Nakajima
立命館・理工
Ritsumeikan University
Lotka-Volterra 型の群集系
dx
= X(Bx − Bx)
dt
を考える。ただし、 x は n 次元ベクトルで各要素はそれぞれの生物種の個体群密度を表し、
X は対角行列でその要素は x の各要素に等しく、B は n 次の正方定数行列で種内・種間相互
作用の形態と強度を表している。また、 x は群集の共存定常状態であり、ここでは全ての要
素が正であると仮定する。
定義
上の Lotka-Volterra 型の群集系が任意の x に対してパーマネントであるとき、行列
B を L-V パーマネント行列という。
昨年度は、行列 B が L-V パーマネントとなる必要条件が、Harvest Paradox が起こらな
いことになることを示した。今年度は、行列 B が L-V パーマネントとなる十分条件を求め、
その生物学的な意味合いについて議論を行う。
[email protected]
- 108 -
第2会議室 9/16 (木) 9:00 - 11:40
一般講演・口頭発表 O-56
生態 II
単一栄養塩での
被食-捕食系ケモスタットモデルの多種共存について
Coexistence in Prey-Predator Chemostat Model
with Single Nutrient
*横井大樹 a1 , 竹内康博 a
*Hiroki Yokoia1 , Yasuhiro Takeuchia
静岡大学創造科学技術大学院
Graduate School of Science and Technology, Shizuoka University
a
a
湖など水の流入流出などによって、栄養塩が時間変動する場合の微生物の生態を実
験によって再現する装置としてケモスタット (連続培養装置)と呼ばれるものがある。
これを表す数理モデルをケモスタットモデルといい、よく研究されている。このモデ
ルでは、栄養塩を食べる消費者が数種類いて互いに競争関係である時、栄養塩が一種
類だと競争関係にある消費者は一番競争力のある一種のみしか生存できず、他の種は
絶滅することが分かっている。
また、競争関係にある生物種間の生態系に捕食者を加える事によって共存できる様に
なることが知られている。そこで、下記に示す被食-捕食の関係を考慮したケモスタッ
トモデルを解析した。この講演では、下記のモデルで共存する場合があるのか、どの
ように共存するのかなどの、解析結果を報告する。

n
∑
dS(t)

0


= D (S − S(t)) −
fi (S(t)) xi (t)


dt

i=1





dxi (t)
= fi (S(t)) xi (t) − D xi (t) − gi (xi (t)) z(t)

dt





n

dz(t) ∑



=
gi (xi (t)) z(t) − D z(t)
(i = 1...n)

dt
i=1
(1)
ここで、S は栄養塩、x は消費者、z は捕食者を表し、S 0 は栄養塩が流入する量、D
は流出率を表す。f は消費者による栄養塩の消費率を表す関数で、 g は捕食者による
消費者の捕食率を表す関数である。
参考文献
[1] H.L. Smith, P. Waltman, The Theory of the Chemostat, Cambridge University,
Cambridge, 1995.
- 109 -
第2会議室 9/16 (木) 9:00 - 11:40
一般講演・口頭発表 O-57
生態 II
第一原理から考察する種間競争のモデル
Interspecific competition models derived from
first principles
穴澤正宏
Masahiro Anazawa
東北工業大学
Tohoku Inst. of Technology
離散時間の個体群モデルは,季節的な繁殖を行う生物の個体群動態のモデル化によく利
用される。様々な離散時間の個体群モデルが使われるが,これらは現象論的なモデルとし
て導入されることが多い。また,複数の生物種が競争している場合の個体群モデルも,同
様に,個体群レベルでの現象論的なモデルとして導入されることが多い。著者の最近の研
究では,個体間の資源の分配を具体的に考察することで,離散時間の個体群モデルを第一
原理から導出した[1]。それにより,スクランブル型,コンテスト型および両者の中間的な
競争型に対応する様々な個体群モデルの関係を理解することができた。今回の研究では,
上の研究を発展させ,2種の生物個体群が同じ資源をめぐり競争している場合に,個体間
での資源をめぐる競争を具体的に考察することで,2生物種の個体群の競争モデルを導出
した。各生物種はスクランブル型,コンテスト型,中間型のいずれかの競争型をとると仮
定し,2生物種の競争型の様々な組み合わせに対して,様々な個体群レベルの競争モデル
を導出した。また,得られたモデルから2種の共存や競争排除についてどのような示唆が
得られるかもコメントする。
参考文献
[1] Anazawa, M., The mechanistic basis of discrete-time population models: the role of
resource partitioning and spatial aggregation. submitted to Theor. Popul. Biol.
[email protected]
- 110 -
小講堂 9/16 (木) 14:30 - 15:50
一般講演・口頭発表 O-58
進化 II
細胞の最適運命決定と代謝コスト Cellular Decision Making, and its Metabolic Cost
*小林徹也
a1
, 上村淳
a
* . T.J. Kobayashi a ,A. Kamimura a a
a
東大・生産研 Institute of Industrial Science, University of Tokyo
運命決定は細胞レベルでの生命現象において最も重要な現象の一つである。細胞分化、
細胞死、代謝応答、免疫応答、細胞走性など、運命決定のバリエーションとして捉えられ
る細胞現象は多様に存在する。このような細胞の運命決定で特に問題となるのが、環境や
細胞内部に存在する様々なノイズやゆらぎである。例えば細胞外に存在するリガンドなど
の情報分子の有無を細胞膜上のレセプターなどで感受する場合、リガンドの膜への到着自
体が確率過程であり、またレセプターの活性化自身も確率過程であることから、レセプタ
ーの活性化を介して細胞内部に伝えられる情報は大きなノイズを含んだものになってしま
う。細胞内情報伝達系などをみると、細胞はこのようなノイズをさらに下流の反応系で処
理し、適切に環境状態に関する情報を取り出しているように見受けられる。では情報を処
理するための最適な反応系とはどのようなものなのだろうか?そしてそれは細胞内の実際
の反応と対応がつくのだろうか?
我々はこの細胞の運命決定に関わる情報処理の問題を解くために、問題をまず統計的な
推定問題と再定式化した。そしてその問題に対して、逐次ベイズ推定の手法を適用するこ
とによって、環境情報を取り出す最適な反応系を理論的に導出した(参考文献[1])。またこ
の反応を可逆反応でモデル化することによって、反応の非定常性と情報を取り出す効率と
の間の関係を調べた。そして、反応に関わる代謝コストのパラメータ依存性を調べること
によって、情報を取り出す際に細胞が負担すべきコストについての定性的な特性を議論す
る。
参考文献
[1] T.J.Kobayashi, 2010, Phys. Rev. Lett., 104, 228104.
-----------------------1 [email protected]
- 111 -
小講堂 9/16 (木) 14:30 - 15:50
一般講演・口頭発表 O-59
進化 II
ENGLISH
Upstream reciprocity in heterogeneous social networks
岩上顕夫 a , * 増田直紀
a , b,1
Akio Iwagami a , * Naoki Masuda a , b,1 東大院・情報理工, b JST さきがけ a
University of Tokyo, b JST PRESTO
a
Abstract
Indirect reciprocity, in which other-regarding behavior of player A toward player B is
rewarded by other players, not by player B, is established as a mechanism for evolution
of cooperation in social dilemma games. The upstream reciprocity (also called
generalized indirect reciprocity or misguided reciprocity; see e.g. [1]) is one of the two
subtypes of indirect reciprocity; player A that is helped by player B helps another player
C. In contrast to the other subtype, downstream reciprocity (also called vicarious
reciprocity [1]), the theoretical support of the upstream reciprocity is not strong in spite
of its prevalence in behavioral experiments. We examine upstream reciprocity in
networks of players by numerical simulations [2]. We show that networks in which the
number of contacts that players maintain (called the degree of the player) is
heterogeneous among players (e.g., scale-free networks [3]) enhance evolution of
cooperation.
References
[1] K. Sigmund. The calculus of selfishness. Princeton University Press (2010).
[2] A. Iwagami, N. Masuda. Upstream reciprocity in heterogeneous networks. J. Theor.
Biol., 265, 297-305 (2010).
[3] 増田直紀, 今野紀雄. 複雑ネットワーク. 近代科学社 (2010).
-----------------------1 [email protected]
- 112 -
小講堂 9/16 (木) 14:30 - 15:50
一般講演・口頭発表 O-60
進化 II
Protection of Offspring, Evolution of
Social-Status Preference, and the Fertility
Transition
影山純二 1
Junji Kageyama
明海大学・経済学部
Meikai University, Department of Economcis
Among human hunter-gatherers as well as non-human primates, offspring
survival, which exerts a major selective pressure, is contingent on parents’
social status. This study incorporates this relationship into an ecological
model and demonstrates that the influence of social status on reproduction
emerges when production level reaches a certain threshold. In the perspective of evolutionary preference theory that regards human preferences as
the end products of natural selection, this result suggests that individuals
gain utility from social status itself and/or status-enhancing behavior when
income is sufficiently high. This is consistent with the findings in happiness literature that the preference for relative position varies with income.
By incorporating this result into economics, this study examines the effect
of income-dependent social-status preference (represented by the preference
for the relative level of consumption) on fertility, and shows that it can explain the contemporary fertility transition. A preference for social status,
which was to raise fitness in ancient world, results in lowering fitness in the
modern world.
1
[email protected]
- 113 -
小講堂 9/16 (木) 14:30 - 15:50
一般講演・口頭発表 O-61
進化 II
ENGLISH
Modeling the consequence of increased host tolerance toward
avian brood parasitism
* Fugo Takasu a 1 , Csaba Moskát b
a
Nara Women's University, b Hungarian Academy of Sciences
Abstract
Avian brood parasites greatly reduce reproductive success of their hosts. Empirical studies
demonstrated that some hosts have evolved defense against parasitism like an ability to recognize
and reject parasitic eggs that are dissimilar to own eggs. Detailed mechanisms of how hosts
recognize parasitism still remain unknown but recent studies have shown that host's recognition, in
many cases, is based on discordance of the eggs in a clutch and that hosts are more error-prone when
the nest is multiply parasitized, i.e., hosts tend to accept more multiple parasitism than single
parasitism. In an area in Hungary, the great reed warbler Acrocephalus arundinaceus, one of the
main hosts of the common cuckoo Cuculus canorus, has been heavily parasitized and the parasitism
rate is kept at quite a high level for decades. Previous mathematical models suggest that such a high
parasitism rate can be maintained as the focal host population behaves as a sink where few hosts can
reproduce but immigration from outside replenishes the loss of host reproduction in the sink
population. Here we explore the consequences of the increased host tolerance towards multiple
parasitism which has been overlooked in the previous studies using a simple model. The model
analysis shows that the increased host tolerance can dramatically contribute to both the parasite
abundance and the parasitism rate kept at high level. We suggest that such a host behavior, combined
with host immigration, can be an important factor responsible for the observed severe parasitism.
-----------------------1
[email protected]
- 114 -
第1会議室 9/16 (木) 14:30 - 15:30
一般講演・口頭発表 O-62
生態 III
表現型可塑性の共進化:誘導攻撃が誘導防御よりまれなわけ
Coevolution of phenotypic plasticity: why are inducible offenses rarer than inducible
defenses?
*舞木昭彦 a1、岸田治 b、巌佐庸 a
A. Mougi1, O. Kishida2, and Y. Iwasa1
a. 九大・理、b. 北大・北方生物圏フィールド科学センター
a. Kyushu University, b. Hokkaido University
捕食の危険が被食者の行動や形態の変化を誘導することがある。それは誘導防御と呼ばれ、
被食者の適応的な表現型可塑性として理解される。誘導防御は多くの分類群に見られ、と
きに劇的な形態変化として現れることから進化生態学者に注目されてきた。一方で捕食者
も捕食効率を上げるために可塑的に形態を変える事があるが(誘導攻撃)
、報告例は多くな
い。本研究では、誘導攻撃がまれである理由を共進化の帰結として説明する。数理モデル
を用いて、可塑性により変化する被食者の防御レベルと捕食者の攻撃レベルの進化ダイナ
ミクスを計算した。進化の最終状態では、2種ともに可塑性を持つ場合が広い条件で生じ
るが、捕食者集団内の誘導攻撃タイプの割合は少なく、かつ攻撃レベルは防御レベルに比
べて低い。誘導攻撃が稀な理由は、いても見つけにくいだけなのかもしれない。
1. [email protected]
- 115 -
第1会議室 9/16 (木) 14:30 - 15:30
一般講演・口頭発表 O-63
生態 III
配偶なわばりをもつ魚の多種共存の擬連続モデル
Pseudo continuous model of coexistence of fish with mating territory
*飯野理美 a 1 ,
幸田正典 b,
高橋智 a
*S. Iinoa , M. Kohdab, S. Takahashia
a
a
奈良女院・人間文化
,
b 大阪市立大・理学
Nara Women's University, b Osaka City University
アフリカのタンガニイカ湖の Petrochromis 属のシクリッドの3種(P.
polyodon,
P.
trewavasae,
P.
famula)の摂餌なわばりはモザイク模様に入り乱れて分布している。摂餌
なわばりは摂餌場所を守るためにあり、重なることはない。摂餌なわばり内に侵入してき
た餌資源の競争相手となる同種と同属は追い出される。 P.
polyodon,
P.
famula
のオス
は同種オスと 1m 以上離れて分布している。離れて分布しているのは配偶なわばりがある
ためだと考えられている。離れて分布することで生まれる空間に同種オス以外の種が摂餌
なわばりを確保できるようになるので、配偶なわばりは多種共存を促進していると考えら
れている。
本研究ではオスが配偶なわばりをもつことで多種共存を促進しているかどうかを全長依
存順位モデルによって調べた。全長依存順位モデルではなわばりを配置する空間を連続と
考えており、個体ごとに種と全長から摂餌なわばり半径を決め、種に関係なく全長の大き
な個体からなわばりを確保できるとした。一つのなわばりに対してずらせるのは一度だけ
とし、重ならなかったなわばりの個体だけが場所を確保できるとした。このモデルで P.
polyodon,
P.
famula
のオスの配偶なわばり半径を変え、その時のそれぞれの種の個体数
と種数を調べた。また架空の魚を一種追加し、共存種数が限界かどうかを調べた。全長依
存順位モデルにおいて、多種共存には摂餌なわばりの大きさが深く関係しており、大きな
摂餌なわばりのサイズの隙間に小さな摂餌なわばりをもつ個体は場所を確保できた。配偶
なわばりは P.
polyodon メスと P.
trewavasae との共存を促進したが、P.
famula オスと
の共存を促進しなかった。
次になわばりを配置する空間を細かい格子に分けた擬連続モデルを考える。なわばりが
重なった場合は格子ごとに支配力の強い方が格子を獲得し、格子の確保数がなわばりの大
きさにあたる。このモデルで配偶なわばりが多種共存を促進しているかどうかを考える。
-----------------------
1
[email protected]
- 116 -
第1会議室 9/16 (木) 14:30 - 15:30
一般講演・口頭発表 O-64
生態 III
植物群集における種内・種間競争強度の空間分布
中河嘉明*(筑波大院)
・横沢正幸(農環研)
・原登志彦(北大)
Spatial pattern of the intra / interspecific competition-weight in a plant community
Y. Nakagawa*(Univ. of Tsukuba), M. Yokozawa(NIAES), T. Hara(Hokkaido Univ.)
[email protected]
これまでの我々の行ってきた研究(中河ら, 2009)で、個体間競争によって個体の集中分布が形成され
ることと、そのメカニズムが明らかになった。このメカニズムは、大個体は周辺の比較的大きな個体を排
除するため、大個体の近傍に及ぼされる個体間競争の負の影響が小さくなり( Competition-induced
shelter:以下 CiS)
、小個体が生存するために適した環境が形成されるというものであった。このメカニズ
ムは比較的単純かつ植物にとって基本的な性質だと考えられるため多種系へと拡張できるのではないか、
と考えられる。従来、多種共存を可能にするためには、種内競争よりも種間競争のほうが激しくないとい
う条件が必要であると考えられてきた。その条件を可能にするものとして、1 つに「群集において局所的
に同種の個体の集中分布が多種共存をもたらす」という説がある(Ives and May, 1985)。実際の植物群集
において特定の種では同種が集中分布していることが報告されており、この機構が多種共存において重要
な役割を果たしているのではないかと指摘されている(Stoll & Parati, 2001)
。さらに、この同種個体の集
中分布の形成の要因については、一般に種子散布が考えられ、個体間競争による集中分布の形成のメカニ
ズムを明白に説明できた研究は少ない(Murrell, 2009)。そこで、我々は、これまで研究してきた CiS の原
理を適用し群集中の同種個体の集中分布の説明し、さらには多種共存機構の説明に敷衍できるのではない
かと考えた。そこで、本研究では、第一段階として、多種共存状態にあると考えられる植物群集において、
「CiS によって、
『同種の集中分布』が形成されている」という仮説を検証する。
まず、大雪山の 3 種(トドマツ、エゾマツ、アカエゾマツ)が共存する極相林で測定された毎木デー
タを基に個体ベースモデルのパラメータをベイズ推定し、一個体ごとの近隣個体から受ける個体間競争に
よる負の影響の大きさ(CW)を定量化する。このとき使用するモデルは、Schneider ら(2006)によっ
て提案されたモデルを改良したものである。次に、このチューニングされたモデルをもとに、二次元平面
上における CW の空間分布を調べる。このとき、
「CW の空間分布」と「個体の空間分布」の分布の関係を
観察するために「大個体からの距離」に対して「1 個体の受ける個体間競争の負の影響の総和(競争の激
しさ)/個体の空間分布」にプロットする。ただし、「CW の空間分布」と「個体の空間分布」の分布は種
内、種間、サイズクラスごとに区別した。
中河嘉明, 横沢正幸, 原登志彦(2009). 第 19 回 日本数理生物学会大会講演要旨集, 194
Ives, A., & May, R. (1985). Journal of Theoretical Biology, 115(1), 65-92.
Stoll, P., & Parati, D. (2001). Ecology, 82(2), 319-327.
Murrell, D. (2009). Journal of Ecology, 97, 256-266.
Schneider, M. K., Law, R., & Illian, J. B. (2006). Ecology, 94, 310-321.
- 117 -
Fly UP