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「やめるを決める」
スペシャル対談 「やめるを決める」 大 倉庫の戦いの軌跡, 宝島社から単行本に れました。 たとえば,当社に他の物流会社の 営業マンが「新築の物流倉庫ですか らぜひ使ってください」などと言う と,大 太郎さんは「当社が何に困 っているのか,どんな悩みを抱えて いるのかも知らずに,きれいなパン フだけを持ってくるな」と,いくらそ この社長を同伴してやってきてもダ メです。 それを傍で見ていてゾッとしまし た。実は他ならぬ当社も,そうした 押しつけ・お願い営業をやっていた からです。 宮川 ここ数年で大 倉庫の売上が 大きく伸びた原点に,大 会長のそ ういう考え方があったのですね。 濵長 本にもよく「強みを打ち出せ」 と書いてありますが,大 倉庫の強 みというものを真に掴んでいなかっ 大 倉庫 代表取締役社長 宝島社 編集局 第1編集部 月刊『宝島』編集長 濵長一彦氏 宮川 亨氏 とおる 宝島社は新刊書籍として『やめるを決める』 (大 倉庫・濵長一彦社長著) を 7月22日に発刊した。宝島社からのオファーに応え,濵長氏が書き下ろした。 2011年6月,大 太郎氏(現会長)が新社長に就任後“激動”の3年間で, 外販比率50%・売上80億円アップの目標を達成するまでの戦いの記録である。 本誌が昨年来追ってきた同社の取り組みを内側から明かしたものと言え, 経営・マーケティング戦略の指南書としても充分に参考になる。 以下は,このほど新社長に就任した濵長氏と 宝島社の宮川亨編集長による,出版記念対談である。 た。大 太郎さんの元で仕事をする ようになって,それは自分たちがお 客さま企業に何で貢献できるか分か っていないということに,気づかさ れたのです。 宮川 それで営業はどう変わったの ですか。 濵長 たとえばお客様がぜひとも解 決したいと感じている問題は何なの か,絶えず検証するようになりまし 物流の営業を根底から 見つめ直す 宮川 のか。それを当社のノウハウでどう た。そしてお客様はわれわれ大 倉 解決できるのか。顧客ニーズ基点で 庫に何を求めているかを考えて行動 提案を行うべきだ」と言うのです。 するのです。 一言で大 太郎会長(当時社 長)を表現するとどういう人ですか。 宮川 業界の慣習とは異なるもので すか? 濵長 では外販拡大に向けて具体的 にどうスタートを切ったのですか。 「マーケティングをこの物流 業界に持ち込んだ人」です。われわ 48 宮川 濵長 まったく違います。会って間 濵長 実は新社長として大 太郎さ れの業界は倉庫を売る,トラックを もなく, 「濵長さんの提案を受けた んが来られてから1か月間,外へ営 売るという営業が当然なのですが, お客様はどういう印象を受けて,ど 業に出ることを止められました。 大 太郎さんは「そんな考え方では う考えようとしているか,濵長さん 毎日毎日,膝と膝を突き合わせる ダメですね。お客様は何を困ってる は相手を理解していない」と指摘さ 距離で大 太郎さんと営業会議です 2014・8 よ(笑)。 最初は言われた通りに行動するし かなく,訳がわからず苦しかったの ですが,動き続ける中で大 太郎さ んが言っている意味が徐々に理解で きていったんです。 マーケティングを進める 中で掴んだイノベーション 宮川 本書には,部下が行ったプレ ゼン資料を大 会長にビリビリに破 られるエピソードが出てきますね。 濵長 当時は価格を安くして仕事を 取るだけの発想でプレゼンを作って いたので,提案は薄っぺらなもので した。共同物流を提案するにも「ト 濵長一彦著/発刊・宝島社 本体 1,180 円+税 ラック,倉庫が余っていますので, 貴社の貨物も一緒に運ぶ共同物流を やりませんか」という調子です。 濵長 たのです。 物流業界だけに関わらず,会 社の何かを変えよう,変わろうと思 われわれのこの発想は, 「異業種 っている方はたくさんいると思いま までのように文字通り「何でも運ぶ」 の商品を組合せる」という物流にお す。経営でも,営業でも,業務でも 姿勢ではなく,運ぶモノを選ぶこと ける1つのイノベーションだったと いいと思います。ただ,過去の延長 にしました。当社のコア商品である 思います。 線で考えがちになってしまい,結果 しかし発想を変えた我々は,それ 変化しないんです。過去の私もそう ポカリスエットは重量物であり,ト ラックの積載重量一杯に積んでも容 宮川 失敗したことはありましたか。 す。私は大 太郎さんと3年前に出 積は50%程度しか埋まらない。だっ たら空いたスペースに軽いものを積 だったからそのジレンマも分かりま 濵長 いやいや,失敗はできません 会い,今までの常識を捨てて,あえ めば,当社にもお客様にもメリット 。営業を再開したとき, から(苦笑) て変化の道を選んで行動してきまし があるはずだ……。 200社ほどあったターゲットを5社程 た。そのことをこの本にまとめたの こうして自らの仕事を見つめ直す 度に絞りました。なぜなら,相性が です。 ことで,大 グループの商品と一緒 良くシナジー効果の期待できる荷物 に積載したら互いに効率が上がる, 以外は「やめると決めた」からです。 相性のいい荷物を探せばいいと気が その残った5社を失注したら会社 付いたわけです。 混載して容積率を100%に近づけ 宮川 本書はどのような方に読んで ほしいと思いますか。 が潰れるかも知れないと,死にもの 狂いでした。あるお客さまには「大 濵長 ずばり,今,もがき苦しんで 倉庫とA社(そのお客様)が業界の るビジネスパーソンです。そういう 枠を飛び越え全国共同物流を開始!」 人は私とは他人ではないですし,そ 席めんです。軽いだけでなく,夏に というニセの新聞記事まで作成しま ういう方々にこの私が, よく売れるポカリスエットとは逆に, したね。 それを責任者にお見せして, ◦どうやって変わったか 冬により売れる点でも補完し合える。 両社で同じゴールを目指しましょう ◦どう行動したか それまでの共同物流は同じカテゴリ と,熱く迫りました(笑)。 ◦そのために,じっさい何をやめた られる商品には何があるのか。 探した結果,まず見つけたのが即 のか ー同士で組むのが当たり前。その発 想を転換し,業界の枠を取っ払って 積載率向上,コスト削減を実現でき 宮川 そんな濵長さんからすると, 今回の本で何を伝えたいのでしょう。 ということを知って頂ければ,解決 の一助になると思います。 MF 2014・8 49