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静岡県環境衛生科学研究所報告

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静岡県環境衛生科学研究所報告
Shizuoka-Ken Kankyō Eisei Kagaku
Kenkyūsho Hōkoku 55(2012)
ISSN 1343-246X
静岡県環境衛生科学研究所報告
平成 24 年度
Bulletin
of
Shizuoka Institute of
Environment and Hygiene
No.55
2012
静岡県環境衛生科学研究所
は じ め に
先の東日本大震災は東北地方を中心に甚大な被害をもたらしました。震災を契機
に地震・津波に対する防災意識が今まで以上に高まることとなりましたが、一方で、環
境問題への関心は逆に希薄化しているのではないかという危惧を抱いています。
東日本大震災では、死者・行方不明者が2万人を超す未曾有の災害となりました。
一方で、このまま化石燃料を消費し続けて地球温暖化が進めば、生物種の3割が絶
滅の危機に瀕すると警告されており、「低炭素・循環型社会の構築」に向けた取組が
軽視されていいはずがありません。
また、微小粒子状物質(PM2.5)による大気汚染、中国における鳥インフルエンザ A
(H7N9)ウイルスの出現、マダニ媒介性の重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の発生、
脱法ハーブなど違法薬物による健康被害など、県民の生命や健康を脅かす新たな問
題が顕在化しています。さらに、食品の安全性への信頼を揺るがす事案が発生するな
ど、県民の健康不安を解消するための取組が強く求められています。
こうした中で、静岡県環境衛生科学研究所は、静岡県の環境と県民の健康を守る
ための技術的中核機関として、各種試験検査や調査研究に取り組んでいます。
調査研究においては、ファルマバレープロジェクトの一翼を担う創薬探索、富士山
の地下水の有効活用、病原微生物の迅速検査法の開発、医薬品・食品等の新たな検
査技術の確立などの重要課題のほか、県民生活に密着した課題、将来問題化するこ
とが予想される課題についても、県民の期待に応えられるよう取り組んでいます。
併せて、大学、病院、国や他の地方自治体の試験研究機関等との共同研究に積極
的に参加し、また、研究アドバイザー(顧問)会議や外部評価委員会といった第三者
機関の指導・評価をいただく中で、職員の研究者としての資質向上が図られるよう努
めています。
ここに、平成 25 年度の調査研究の成果を「静岡県環境衛生科学研究所報告
No.55」としてとりまとめましたので、御高覧の上、御批判・御指導を賜れば幸いです。
平成 25 年9月
静岡県環境衛生科学研究所長 山 口 英 彦
目
次
論 文
環境科学部
1 マイクロガスセンサを利用した可搬型ガスクロマトグラフの開発と揮発性有機化合物の
定量性に関する研究
………… 山下晶平 ………………………………………………………………………… 1
2 静岡県の主要 31 河川における未規制化学物質の調査結果(2007~2010 年度)について
………… 今津佳子, 村中康秀, 山下晶平, 金子亜由美, 神谷貴文,
中川寛基, 久米一成 …………………………………………………………
7
微生物部
3 インフルエンザ(H1N1)2009 ウイルスの HA タンパク質および PB2 タンパク質のアミノ酸変異に
関する研究
………… 山田俊博,小柳純子,池ヶ谷朝香,長岡宏美,川森文彦 ………………… 13
4 食肉に起因する E 型肝炎ウイルス(HEV)感染に関する研究
………… 小柳純子,湊 千壽,山田俊博,長岡宏美,川森文彦 ……………………… 17
5 食品保存環境におけるカンピロバクターの生残性に関する研究
………… 飯田奈都子, 渡邉朋恵, 佐原啓二, 川森文彦 ……………………………… 21
6 動物およびヒトにおけるジフテリア毒素産生コリネバクテリウムの実態調査
………… 道越勇樹,八木美弥,柴田真也,佐原啓二,神田 隆,
杉山寛治,川森文彦 …………………………………………・……………… 27
7 肉用鶏由来およびヒト由来の基質特異性拡張型βラクタマーゼ産生菌群の関連性に関する
研究
………… 渡邉朋恵,廣井みどり,飯田奈都子,佐原啓二,川森文彦,
渕田 琢,大橋典男 ……………………・…………………………………… 31
医薬食品部
8 クロルヘキシジングルコン酸塩を含有する医薬部外品「清浄綿」の確認試験について
………… 上村慎子,岩切靖卓,内田恭之,渡辺陽子,前田有美恵,
小和田和宏 ……………………………………………………………・……… 37
9 試験検査業務における「ミス・ヒヤリハット事例」
………… 渡辺陽子,岩切靖卓,内田恭之,上村慎子,前田有美恵,
小和田和宏 ………………………………………………………………・…… 41
10 農産食品中の残留農薬一斉分析法に関する検討
………… 小林千恵,大坪昌広,瀧井美樹, 影山知子, 堀池あずさ,
小和田和宏 ………………………………………………………………・…… 45
11 総アフラトキシン試験法の妥当性評価について
………… 大坪昌広,瀧井美樹,小林千恵, 堀池あずさ, 小和田和宏
…・…… 51
12 食品に含まれる有害化学物質等に関する調査
― 加工食品中のアクリルアミド含有実態調査(第 2 報) ―
………… 横山玲子,久保山真帆,小和田和宏 ………………・……・……………… 55
13 調味料等に含まれるカプサイシンについて
………… 久保山真帆, 横山玲子,小和田和宏
……………………………………… 61
大気水質部
14 芝川上流部の水質汚濁に関する研究
………… 後藤裕康,清水麻希,内山道春, 三好廣志 ……………………………… 67
15 浜名湖の水質研究における湖水流動の調査
………… 後藤裕康,内山道春,清水麻希, 村中康秀, 神谷貴文 ………………… 77
16 浜名湖における湖水流動の変化に伴う水質の悪化
………… 内山道春,後藤裕康,濱口浩太,清水麻希,三好廣志,
杉本勝臣,酒井貞典,谷 幸則 ………………………………………・……… 85
他誌に発表した論文
学会・研究会の報告
……………………………………………………………・……………………
95
…………・………………………………………………………………………… 96
表彰等 ………………………………・……………………………………・……・……………………… 99
CONTENTS
PAPERS
Department of Environment Science
1
Development of a Portable Gas Chromatograph with a Sensor Based on
Catalytic Combustion and Application to the Measurement of VOCs
Shohei YAMASHITA …………………………………………………………
2
1
The Results of Survey (FY 2007 - 2010) about Non-regulated Chemicals in 31
Rivers in Shizuoka Prefecture
Yoshiko IMAZU, Yasuhide MURANAKA, Shohei YAMASHITA,
Ayumi KANEKO, Takafumi KAMITANI, Hiroki NAKAGAWA
and Kazunari KUME ………………………………………………………
7
Department of Microbiology
3 Study of HA and PB2 Amino Acid Mutation in Influenza(H1N1)2009
Toshihiro YAMADA,Junko KOYANAGI,Asaka IKEGAYA,
Hiromi NAGAOKA and Fumihiko KAWAMORI
………………………………… 13
4 Study of Food-born Hepatitis E Virus (HEV) Infection from Pig, Japanese
Sika Deer and Boar
Junko KOYANAGI, Chihiro MINATO, Toshihiro YAMADA,
Hiromi NAGAOKA and Fumihiko KAWAMORI
………………………………
17
5 Study on Survival of Campylobacter in Food Preservation Environment
Natsuko IIDA, Tomoe WATANABE, Keiji SAHARA
and Fumihiko KAWAMORI …………………………………………………… 21
6 Prevalence of Toxigenic Corynebacterium ulcerans among Animals and Human
Yuki MICHIGOSHI, Miya YAGI, Shinya SHIBATA,
Keiji SAHARA, Takashi KANDA,Kanji SUGIYAMA
and Fumihiko KAWAMORI ……………………………………………………… 27
7
Comparative Analysis of Extended-spectrum β-lactamase-producing
Enterobacteriaceae of Human and Broiler Origins
Tomoe WATANABE, Midori HIROI, Natsuko IIDA,
Keiji SAHARA, Fumihiko KAWAMORI, Taku FUCHITA
and Norio OHASHI ……………………………………………………………… 31
Department of Drug and Food Science
8
Study on Identification Test of Clean Cotton Containing Chlorhexidine
Hydrochloride
Mitsuko KAMIMURA, Yasutaka IWAKIRI, Takayuki UCHIDA,
Yoko WATANABE, Yumie MAEDA and Kazuhiro OWADA ………………………… 37
9 Miss Hiyari-hatto Case Studies in Chemical Inspection Work
Yoko WATANABE,Yasutaka IWAKIRI,Takayuki UCHIDA,
Mitsuko KAMIMURA,Yumie MAEDA and Kazuhiro OWADA …………………… 41
10
Study of the Simultaneous Analytical Method for Pesticide Residues
in Agricultural Products
Chie KOBAYASHI, Masahiro OTSUBO, Miki TAKII,
Tomoko KAGEYAMA, Azusa HORIIKE and Kazuhiro OWADA ………………… 45
11 Validation Study on a Method for Analysis of Total Aflatoxins
Masahiro OTSUBO,Miki TAKII,Chie KOBAYASHI,
Azusa HORIIKE and Kazuhiro OWADA ………………………………………… 51
12 Study on Risk Products in Food
-Investigation of Acrylamide Contents in Processed Foods(2nd Report)-
Reiko YOKOYAMA, Maho KUBOYAMA and Kazuhiro OWADA …………………………… 55
13
Determination of Capsaicin Contents in Seasonings
Maho KUBOYAMA, Reiko YOKOYAMA and Kazuhiro OWADA …………………… 61
Department of Pollution Control
14 Research on Water Pollution of the Shibakawa Riv. upper Area
Hiroyasu GOTO, Maki SHIMIZU, Michiharu UCHIYAMA
and Hiroshi MIYOSHI …………………………………………………………… 67
15 Investigation into Lake Current in the Water Quality Research of Lake Hamana
Hiroyasu GOTO, Michiharu UCHIYAMA, Maki SHIMIZU,
Yasuhide MURANAKA and Takafumi KAMITANI ……………………………… 77
16 Water Pollution with the Change of Flow in Lake HAMANA
Michiharu UCHIYAMA,Hiroyasu GOTO, Kota HAMAGUCHI,
Maki SHIMIZU,Hiroshi MIYOSHI, Katsuomi SUGIMOTO,
Sadanori SAKAI and Yukinori TANI …………………………………… 85
SUMMARIES OF PAPERS IN OTHER PUBLICATIONS ……………………………………… 95
PRESENTATIONS AT CONFERENCES AND/OR SOCIETY MEETINGS …………………… 96
COMMENDATION …………………………………………………………………………………… 99
静岡県環境衛生科学研究所報告 No.55 1-5 2012
- 1 -
Bulletin of Shizuoka Institute of Environ. and Hyg.
マイクロガスセンサを利用した可搬型ガスクロマトグラフの開発と
揮発性有機化合物の定量性に関する研究
環境科学部
環境科学班
山下晶平
Development of a Portable Gas Chromatograph with a Sensor Based on Catalytic Combustion
and Application to the Measurement of VOCs
Shohei YAMASHITA
揮発性有機化合物の空気中濃度を簡易に現場で測定可能な装置開発を目的として原理試作機を作製した.
2008 年度に実環境中のトルエン測定を実施した結果,実用可能であることを確認した.しかしながら VOCs の複
合状況下での測定に関してはガス分離能に課題があった。そこで今回,新たに複合カラムを導入することで分離
能の改善を図った.家具工場を実環境モデルとするにあたり,対象物質として酢酸ブチルを追加し,トルエンと
の同時測定を狙いとした.実際に家具工場塗装ブース周辺において測定を行った結果,試作機による測定値は従
来法であるガスクロマトグラフ/質量分析計による値と良く一致した.またトルエンと酢酸ブチルの複合汚染を観
測し,オンサイトでの定量に成功した.
Key words: 揮発性有機化合物,センサ,ガスクロマトグラフ,室内空気質
volatile organic compound, sensor, gas chromatograph, indoor air quality
の分離能に課題があるために,現状では実用レベルに達
はじめに
近年,建築物(特に住宅)の高気密化と新建材の開発
していない.そこで再度,原理試作機を用い,今回は主
に伴い,揮発性有機化合物(以下 VOCs と略す)に起因
として VOCs 分離能の改善を狙いとしたカラムの複合化
するシックハウス症候群が社会的な問題となっている.
を検討することで,各種 VOCs 測定アプリケーションの
一方,近年開発が進められてきた技術として,総揮発
基礎となるオンサイト型 VOCs 測定装置の基本仕様を確
性有機化合物(Total volatile organic compound, TVOC)
立することを目的とした.
センサが市販されるようになった.しかしながら,この
一方,酢酸ブチルはトルエンの代替として最近,家具
種のセンサは一般に物質選択性がないために様々な化学
塗装用の溶剤に用いられるようになってきた溶剤のひと
物質を同時に検知してしまう.そのため,TVOC センサ
つであるが,室内空気汚染を未然に防止するためには,
に対する感度が低い物質で,なおかつ有害性の高いもの
こうした VOCs の使用状況の変化に柔軟に対応可能な技
が高濃度で存在する場合に,そのリスクに関して実際よ
術開発が必要である.前回の実環境試験 1)で家具工場内
りも過小評価してしまうことがある.こうした誤った判
において,トルエンおよび酢酸ブチルの複合による空気
断を下さないためにも,複合する化学物質を個別に測定
汚染が確認されたため,今回はその実態を明確にし,2
する技術が必要であり,オンサイトかつ簡便な計測技術
物質の同時検出を中心に評価検討することとした.
が必要とされている.
方 法
当研究所では,2006 年度より吸着燃焼式マイクロガス
1)
センサを用いた可搬型ガスクロマトグラフの開発 を行
1 対象物質
ってきた.その際に実際の室内において測定を行った結
酢酸ブチルを主対象とした.また,これまでの検討結
果,トルエンの測定に関しては実用レベルにあることを
果 1)により実環境測定への適用性が確認されているトル
実証した.しかしながらその他の物質に対しては,装置
エンおよび前回に引き続きスチレンも対象とした.本装
静岡県環境衛生科学研究所
(〒420-8637,静岡市葵区北安東 4-27-2)
Shizuoka Institute of Environment and Hygiene
(4-27-2,Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka,420-8637,Japan)
置は一般室内環境および作業環境中の VOCs 測定用とし
て開発しているが,特に一般室内環境中の低濃度域を定
量するためには,VOCs を濃縮する必要がある.従って,
一般室内環境測定への適用性が確認されれば,それ程の
- 2 高感度化を必要としない作業環境測定にも適用出来るこ
② クリーニングモード
とは明らかである。
そこで今回対象とする濃度レベルは,
装置に残留する VOC を清浄空気でパージする.
トルエンの室内濃度指針値が 0.07ppm であることを基準
③ 待機モード
に,測定濃度範囲を 0.01~1.2ppm に設定した.
2 試薬
サンプリングに備えて,流路切り替え,濃縮管の冷却
を行う.
トルエン:インフィニティピュア(和光純薬工業(株)
④ サンプリングモード
製)
,スチレン,モノマー:試薬特級(和光純薬工業(株)
測定対象となる大気を吸引し,濃縮管に捕集する.
製)
,酢酸ブチル:試薬特級(関東化学(株)製)
,VOCs
⑤ 分析モード
混合標準液:室内環境測定用(関東化学(株)製)
,
捕集した VOC を濃縮管より加熱脱離させ,カラムに
Toluene-d8:内部標準試薬(シグマアルドリッチ(株)製)
,
より分離後,各 VOC をセンサで検出する.
二硫化炭素:作業環境測定用(和光純薬工業(株)製)
二硫化炭素は蒸留したものを用いた.
GC/MS による分析
濃縮ユニットにおける濃縮管は,内径 4mm のガラス管
に関して,Toluene-d8 標準試薬 50µL を二硫化炭素に添
に Tenax TA(60/80 メッシュ,シグマアルドリッチ(株)
加して 100mL とすることで,内部標準液(1mg/L)を調製
製)を 100mg 充填したものを用いた.サンプリングモー
した.
ドにおける濃縮管による捕集は流速 40mL/min,
捕集時間
3 装置
25min で行った.濃縮した VOCs ガスのカラムへの打ち
1) 可搬型ガスクロマトグラフ原理試作機
込みは 15 秒間濃縮部におけるバルブを開くことで行っ
本装置は,VOCs を捕集・濃縮する濃縮ユニット,分
離カラムユニット及び吸着燃焼式センサを搭載した検出
ユニットを組み合わせて空気中の VOC を定性定量する
装置である.またキャリアガスとして,大気をシリカゲ
た.濃縮管の加熱温度は捕集時に 60℃,加熱脱離時に
280℃とした.
カラムユニットにおけるカラムは以下の 4 種類の市販
品を用いた.
ルおよび活性炭に流通させることでフィルタリングを行
① DB-WAX(0.53mm×30m, df:1.00µm)
った清浄空気を用いた.試作機の概要を図1に示す.
② DB-624(0.53mm×30m, df:3.00µm)
③ DB-225(0.53mm×30m, df:1.00µm)
④ HP-5(0.53mm×30m, df:1.50µm)
(上記いずれも Agilent Technologies inc..製)
但し,これらのカラムを原理試作機に組み込む際には
必ず 4m の長さにカットして用いた.カラム温度は常時
40℃に設定した.分析モードにおいて,濃縮部から脱離
した VOC をカラムに導入するためには,脱離ガスの打
ち込み機構が必要となることから,手動による電磁弁の
流路切り替え機構を設け,切り替えスイッチを押してい
る間だけ濃縮管内にキャリアガスが流通して脱離ガスが
カラムに導入されるようにし,導入時間は 15sec とした.
なお一連の分析において,キャリアガスである清浄空気
の流速は 5mL/min とした.
検出ユニットのセンサによるVOCの検出は1secごと,
30min,計 1800 回実行するよう設定し,検出ピークの面
図1 原理試作機概要図
積は,それら 1sec ごとのベースラインからの強度を積算
することで算出した.
本装置は,以下に示す 5 つのモードを有し,①の後に
なお今回複合カラムによる分離能改善効果の確認を主
②~⑤のループを実行することで測定を繰り返すことが
目的としたため,その他の装置条件は前回 1)と同様とし
可能である.
た.
① イニシャライズ
電源投入時にカラム,濃縮管温度,流量設定他,各制
御パラメータの初期化を行う.
2) 従来法として用いた測定機器
原理試作機による測定結果を評価するために,比較と
して従来の測定手法であるアクティブサンプリングを併
- 3 行した.この時,以下の機器を用いた.
表 2 単一カラムによる検出ピークの理論段数
ガ ス ク ロ マ ト グ ラ フ / 質 量 分 析 計 ( GC/MS ):
Toluene
Butyl acetate
Styrene
32
78
195
JMS-Q1000GC/K9(日本電子(株)製)
,アクティブサ
DB-WAX
ンプリング用カートリッジ:ORBO-101(Carbotrap 20/40
DB-624
192
42
74
メッシュ,シグマアルドリッチ(株)製)
,サンプリング
DB-225
38
26
208
ポンプ:SP208-1000DualⅡ(ジーエルサイエンス(株)
HP-5
39
22
185
製)
GC/MS による分析条件を表 1 に示す.
以上の結果から,3 物質のうちリテンションタイムが
最も短いトルエンについては DB-624,最も長いスチレ
表 1 GC/MS 分析条件
ンについては DB-225 が比較的高い理論段数が認められ
Column
EQUITY-1, 0.25mmx60m, df:1.00µm
た.但しトルエンと酢酸ブチルのピーク分離が不十分な
Oven
35℃, (5min) to 100℃ at 3℃/min to
ケースやスチレンの分離が分析時間内に終了しないケー
250℃ at 8℃/min (5min)
ス等,単一カラムでは分離に限界があることが判った.
Inj.
250℃
そこで以下に述べるカラムの複合化の検討では,DB-624
Det.
MSD, scan range 35-350amu, transfer line
および DB-225 の組み合わせを検討した.測定対象とし
250℃
て用いた 3 物質の混合標準ガスはおよそ 0.5ppm とした.
Flow
He, 1.0mL/min, constant, set at 35℃
2 カラムの複合化による VOCs 分離能
Injection
1.0µL, split 10:1
Liner
Single tapered
Source Temp.
220℃
DB-624 と DB-225 のカラムを複合する際の条件とし
て,DB-624 と DB-225 の長さの比を①2m : 2m および②
1m : 3m を検討した.3 物質の混合標準ガスはおよそ
0.5ppm とした.得られたクロマトグラムを図 3 に示す.
結果および考察
1 単一カラムによる VOCs 分離能
先に示した 4 種類のカラム(DB-WAX を含む)のクロ
マトグラム(図 2)から理論段数を以下の(1)式により算
出し比較した(表 2)
.測定対象として用いた 3 物質の混
合標準ガスはおよそ 0.5ppm とした.
N=2π(tr/H/A)
(1)
,H: ピーク高さ,
N: 理論段数,tr: 保持時間(sec)
図 3 カラム複合比による VOCs 分離状況
A: ピーク面積
この結果から,
DB-624:DB-225 の比が 1: 3 を選定した.
理論段数は,トルエン: 108,酢酸ブチル: 36,スチレン:
173 であった.なお,この結果はガスの流れる方向が
DB-225→DB-624 であるが,逆にした場合も検討した.
その際の理論段数は,トルエン: 96,酢酸ブチル: 33,ス
チレン: 169 であった.特に大きな差はなかったが,若干
数値が高かった DB-225→DB-624 として使用することと
した.
図 2 各種単一カラムによる VOCs 分離状況
3 複合カラムによる VOCs 分離時のブランク
リテンションタイムが 180sec 以降の検出域にお
いてブランクを測定した結果,クロマトグラムに顕
著なピークは認められなかった.
- 4 4 試作機の検出下限
今回,分離状況改善を優先したため,各ピークが若干
対象とした VOCs の定量下限値を決定するために,ベ
ブロードとなり,相対標準偏差の値が以前のデータ 1)に
ースラインノイズの標準偏差(便宜的に任意の 100sec 間
比べて高めとなったが,トルエンの室内濃度指針値であ
の値として算出した)の 10 倍のピーク高さの VOC 濃度
る 0.07ppm を室内環境濃度レベルのひとつの基準と考え
を検出下限値とした.その結果,トルエン: 0.010ppm,
た場合,10%未満であった.
酢酸ブチル: 0.017ppm,スチレン: 0.013ppm をそれぞれ定
本装置は簡易測定装置という位置付けであり,測定時
量下限値とした.
の校正は 2 点校正とすることを考えている.しかしなが
5 試作機の VOCs 濃度検出特性
ら,0.10~1.2ppm の濃度域を 2 点校正するといずれかの
0.010~1.2ppm の濃度範囲の混合標準ガスを調製
し,1 標準につき 3 サイクル測定を繰り返した(表
.
3~5)
領域において測定誤差が高くなることが繰り返し精度の
データから明らかとなり,測定濃度域を 0.01~0.1ppm と
0.1~1.2ppm の 2 領域に分割しそれぞれのプロットに対
して線形近似を試みた(図 4 および図 5)
.
表 3 トルエン繰り返し測定精度
濃度
(ppm)
0.0097
0.021
0.038
0.094
0.16
0.43
0.86
ピーク面積
リテンションタイム
平均
相対標準偏差 (%) 平均 (sec)
61453
11
181
90695
2.4
176
143900
2.4
178
224601
3.0
184
279535
3.1
175
724740
1.2
175
1807533
2.1
173
表 4 酢酸ブチル繰り返し測定精度
濃度
(ppm)
0.017
0.036
0.057
0.14
0.23
0.65
1.2
ピーク面積
リテンションタイム
平均
相対標準偏差 (%) 平均 (sec)
174652
11
320
220483
3.4
310
340229
1.5
310
502368
1.4
318
618313
8.1
302
1123674
2.7
299
2059550
0.91
297
図 4 ピーク面積の濃度特性(0.01~0.1ppm)
表 5 スチレン繰り返し測定精度
濃度
(ppm)
0.013
0.027
0.045
0.080
0.18
0.48
0.77
ピーク面積
リテンションタイム
平均
相対標準偏差 (%) 平均 (sec)
242346
7.4
601
304946
5.1
582
440430
2.7
588
590465
1.8
596
859755
7.8
576
1573025
5.7
574
2573720
3.3
571
図 5 ピーク面積の濃度特性(0.1~1.2ppm)
- 5 -
その結果,2 点校正とすることで,測定精度に関して
大きな影響がないことを確認した.
6 試作機による実環境測定および測定結果の評価
本装置による測定に関する最終的な評価として,実際
の作業環境での測定を実施した.測定地点として家具工
場塗装ブース周辺を対象とした.なお,塗装作業中は
VOCs が数 ppm~数十 ppm の高濃度になることが予想さ
れたので,より低濃度の VOCs を定量するために,作業
表 7 実環境測定における定量値の比較
(ppm)
【塗装作業前】
原理試作機
従来法
トルエン
0.221
0.224
酢酸ブチル
0.332
0.351
【塗装作業終了 3 時間後】
トルエン
酢酸ブチル
原理試作機
従来法
0.292
0.307
0.342
0.368
前および作業後において測定を実施した.試作機の定量
結果を比較するために同時にアクティブサンプリングを
行った.表 6 に原理試作機およびアクティブサンプリン
グによる従来法の 2 種類のサンプリングの概要を示す.
以上の結果から,原理試作機による定量値と従来法に
よる定量値は最大で 7%程度の誤差であり,原理試作機に
より実環境中で十分定量可能であることを確認した.ま
た,作業後に換気し 3 時間経過した時点で作業前と同様
の濃度レベルになっていることを予想していたが,この
表 6 実環境測定におけるサンプリング概要
吸着剤
捕集速度
捕集時間
試験実施日
原理試作機
Tenax TA
40mL/min
従来法
ORBO-101
500mL/min
25min
2013.3.4
結果からそのことも確認することが出来た.但し今回は
広い濃度範囲での適用性の確認が出来なかった.しかし
ながら前回トルエンの実環境測定 1)において 0.02ppm~
2ppm 超の範囲での適用性が確認されていること,今回の
濃度検出特性において酢酸ブチルがそのトルエンと同様
に良好な定量性を示したことから,酢酸ブチルについて
も十分実用レベルにあることが示唆された.
試験の結果,作業前・作業後ともにトルエンおよび酢
酸ブチルが検出された.一例として図 6 に作業前に測定
した試作機によるクロマトグラムを示す.リテンション
タイムが 700sec および 860sec 前後にピークが検出され
たが,スチレンのリテンションタイムが 600sec 前後であ
ることからスチレン以外の物質の存在が示唆されたが,
GC/MS 分析では該当するピークを見出すことが出来な
かった.このことから必ずしも VOCs とは限らずアクテ
ィブサンプラーに吸着されない無機ガス等を検出した可
能性も考えられた.
まとめ
原理試作機に複合カラムを導入することで VOCs の分
離能向上を図った.実験モデルとしてトルエン,酢酸ブ
チル,
スチレンを対象に試作機の濃度検出特性を調べた.
0.01~0.1ppm および 0.1~1ppm に校正濃度域を分割する
ことで 2 点校正した.実際の家具工場塗装ブース周辺空
気を試作機により定量し,トルエンと酢酸ブチルの複合
状況を確認した.さらにアクティブサンプリング法およ
び GC/MS により従来法から求めた定量値とよく一致し
た.
謝 辞
本試作機の作製および保守に関してご協力下さいまし
た矢崎総業株式会社 豊田和弘氏ならびに実環境測定に
関してご協力下さいました静岡県工業技術研究所 櫻川
智史氏に深謝します.
文 献
図 6 原理試作機によるクロマトグラム
原理試作機および従来法によって得られた定量値を表
7 に示す.
1) 山下晶平他:吸着燃焼式マイクロガスセンサを利用し
た可搬型ガスクロマトグラフの開発と実環境測定への
適用性に関する研究(第 1 報)
,大気環境学会誌 45, 1,
1-9 (2010)
- 6 -
静岡県環境衛生科学研究所報告 No.55 7-12 2012
- 7 -
Bulletin of Shizuoka Institute of Environ. and Hyg.
て
静岡県内の主要 31 河川における未規制化学物質の
調査結果(2007~2010 年度)について
環境科学部
環境科学班
今津佳子,村中康秀,山下晶平,
金子亜由美*1,神谷貴文,中川寛基*2,
久米一成
The Results of Survey (FY 2007 - 2010) about Non-regulated Chemicals
in 31 Rivers in Shizuoka Prefecture
Yoshiko IMAZU, Yasuhide MURANAKA, Shohei YAMASHITA,
Ayumi KANEKO*1, Takafumi KAMITANI, Hiroki NAKAGAWA*2
and Kazunari KUME
静岡県では,県内主要河川において,環境基準が定められていない未規制化学物質の中から,環境中の排出
状況などに基づき優先順位を付けて水質調査を実施している.本報告では,2007~2010 年度の県内主要 31 河川に
おける未規制化学物質調査事業の結果についてまとめ,同時期または過去直近の全国調査結果,予測無影響濃度お
よび水質汚濁にかかる監視項目の指針値など参考となる値と比較検討を行った.
今回は,内分泌かく乱化学物質に関する 5 物質(4-tert-オクチルフェノール,4-ノニルフェノール,ビスフ
ェノール A,o,p'-DDT,p,p'-DDE)および「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関す
る法律」における排出量等の届出対象物質に関する3物質(1,4-ジオキサン,直鎖アルキルベンゼンスルホン酸およ
びその塩,トルエン)の計 8 物質について調査した結果、環境省から魚類に対する内分泌かく乱作用に係る予測無
影響濃度や指針値に示されている濃度と比較して,直ちに問題となるような物質は無かった.
Key words: 未規制化学物質,河川水,内分泌かく乱化学物質,PRTR 対象物質
non-regulated chemicals, river water, endocrine disrupters, PRTR substance
はじめに
学物質の調査を実施している.そのうち,2007~2010 年
本報告において未規制化学物質とは,本報告で扱う未
度の 4 ヵ年に掛けて,
県内主要 31 河川において実施した
規制化学物質調査事業の全体計画を策定した 2006 年度
調査結果について報告する.対象化学物質は,内分泌か
において,河川における環境基準値が定められていなか
く乱化学物質に関する 5 物質および「特定化学物質の環
った化学物質をいう.
境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法
静岡県では,公共用水域における未規制化学物質の存
在状況を把握し,化学物質による環境汚染の未然防止を
図る目的で,県内主要河川および漁港における未規制化
律」における排出量等の届出対象物質(以下,PRTR 対象
物質)に関する 3 物質とした(表 1)
.
本稿では,全国調査結果ならびに環境省の検討会等で
示された予測無影響濃度等の参考値と比較し報告する.
静岡県環境衛生科学研究所
(〒420-8637,静岡市葵区北安東 4-27-2)
Shizuoka Institute of Environment and Hygiene
(4-27-2,Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka,420-8637,Japan)
*1:静岡県工業技術研究所
*2:静岡県賀茂健康福祉センター
調査方法
1 調査対象物質
1) 内分泌かく乱化学物質
「化学物質の内分泌かく乱作用に関する環境省の今後
の対応方針について-ExTEND2005-」において魚類に対
- 8 し内分泌かく乱作用を有することが推察された 5 物質 1)
表1 県内主要 31 河川における未規制化学物質調査
(2007~2010 年度)の対象化学物質
区分
とした(表 1).
物質名(略称)
主な用途・発生源
4-tert- オ ク チ ル フ
界面活性剤(オクチル
ェノール(OP)
フェノールエトキシレ
ート等)の原料・分解物
2 試料採取方法
1) 調査対象河川および調査地点
4-ノニルフェノー
界面活性剤(ノニルフ
泌か
ル(NP)
ェノールエトキシレー
要な 2 級河川 25 河川に 1 級河川 6 河川を加えた 31 河川
とした(図 1)
.
ビスフェノール A
合成樹脂(ポリカーボ
物質
(BPA)
ネート等)の原料等
物質
調査地点は,原則として,当該河川の末端付近とした
殺虫剤
が,海水や河川改修工事の影響を受けている場合は,そ
(昭和 46 年~販売禁止)
れらの影響を避けるため,上流側に移動して採水した.
p,p'-DDE
DDT の分解物
2) 採取時期
1,4-ジオキサン
有機化合物合成時の反
o,p'-DDT
対象
調査対象河川は環境基準類型が設定された県内の主
ト等)の原料・分解物
化学
PRTR
PRTR 対象物質のうち,県内における水域への排出量
が多い 3 物質とした(表 1).
内分
く乱
2) PRTR 対象物質
直鎖アルキルベン
調査時期は,化学物質環境実態調査実施の手引き(平
応溶剤等
成 20 年度版,環境省)に従い 9~11 月とした 2).
洗濯用洗剤等
3) 採取機材等
河川の表層水を,ステンレス製のバケツまたは柄杓で
ゼンスルホン酸お
採取した.
よびその塩(LAS)
トルエン
3 測定方法
化学合成原料等
測定方法は,
表 2 に示す方法によった.
報告下限値は,
これらの測定方法に記載の目標検出下限値等を採用した.
鮎
沢
川
大
場
川
黄
瀬
川
朝
比
奈
川
安
倍
川
瀬
戸
川
潤
井
富 川
士
川
敷
地
川
天
竜
川
仿
僧
川
原
野
谷
川
逆 菊 萩
川 川 間
川
勝
間
田
川
坂 湯
口 日
谷 川
川
芝
川
大
井
川
小
黒 石
栃 石 川
山 川
川
図 1 調査対象河川
沼
川
来
光
川
狩
野
川
青
野
川
稲
生
沢
川
河
津
川
伊
東
大
白 川
田
川
- 9 表 2 各化学物質の報告下限値と測定方法
区分
内分泌
かく乱
化学
対象物質
報告下限値
OP
0.01 µg/L
NP
0.1 µg/L
BPA
0.01 µg/L
o,p’-DDT
0.05 µg/L
物質
p,p’-DDE
1,4-ジオキ
PRTR
対象
サン
0.05 µg/L
0.05 µg/L
LAS
0.05 µg/L
トルエン
0.2 µg/L
物質
測定方法
測定機器
「GC-MS によるノニルフェノールの分析に
ガスクロマトグラフ質量
3)
おける試料精製の検討」 に準じた方法
分析計(以下,GC/MS)
2007 年度:
「農薬等の環境残留実態調査分析
2007 年度:GC/MS
法(平成 12 年 1 月)
」4)
2008~2010 年度:高分解
2008~2010 年度:
「モニタリング調査マニュ
能 GC/MS
アル(平成 16 年 3 月)
」5)に準じた方法
「要調査項目等調査マニュアル(水質,底質,
水生生物)(平成 12 年 12 月)
」6)に準じた方法
GC/MS
「平成 15 年度化学物質分析法開発調査報告書
液体クロマトグラフタン
(平成 16 年 8 月)」7)に準じた方法
デム質量分析計
JIS K 0125-1995 用水・排水中の揮発性有機
ヘッドスペースガス試料
化合物試験方法 5.2
8)
導入装置付き GC/MS
た.
調査結果と考察
o,p’-DDT および p,p’-DDE は,
調査した 8 物質のうち,
一方,内分泌かく乱化学物質としての OP については,
精巣卵の出現を指標としたメダカのフルライフサイクル
全 31 河川で報告下限値(0.05µg/L)未満だった.なお,
試験結果に基づき魚類に対する予測無影響濃度が
p,p’-DDE については,2010 年 7 月に環境省から示され
0.99µg/L と想定されている 11).本調査結果の最大値はそ
た「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応
1
-EXTEND2010-」において,
「明らかな内分泌かく乱作用
魚類に対する予測無影響濃度: 0.99
は認められないと判断」9)された物質として報告されてい
0.8
る.
以下,
検出された 6 物質について,
本調査の検出頻度,
幾何平均値および検出された濃度範囲について,同時期
0.6
予測無影響濃度,水質汚濁に関する監視項目の指針値お
よび調査開始後に定められた環境基準値を参考値として
比較する.
1 内分泌かく乱化学物質
1) 4-tert-オクチルフェノール(OP)
0.4
全国最大値: 0.35
0.2
0.08
0
沢
東
田
津
生
野
野
瀬
場
光
川
井
士
川
倍
戸
比
石
石
山
井
日
口
間
間
川
川
野
地
僧
竜
川
大 川
川
川
沢 川
川
川
川
川
川
調査項目等存在状況調査 10)において実施されている.全
川
川
った(図 2).
川
川
奈 川
川
川
川
川
川
谷 川
田 川
川
谷 川
川
川
川
限値(0.01µg/L)以上検出されたのは 31 河川中 4 河川であ
OP の全国調査は,本調査期間中では,2007 年度の要
鮎
伊
白
河
稲
青
狩
黄
大
来
沼
潤
富
芝
安
瀬
朝
小
黒
栃
大
湯
坂
勝
萩
菊
逆
原
敷
仿
天
4-tert-オクチルフェノール(以下 OP とする。)が報告下
濃度(µg/L)
または本調査以前直近の全国調査結果と比較する.
また,
調査河川名
図 2 4-tert-オクチルフェノール(OP)の調査結果
国調査のうち,比較対象を公共用水域の淡水のみに限定
して比較する.全国調査の検出頻度は 13%(40 地点中 5 地
の 10 分の 1 以下であった(図 2).
点),幾何平均値は検出下限値未満,検出濃度範囲は 0.01
2) 4-ノニルフェノール(NP)
~0.35µg/L であった.それに対し,本調査の検出頻度は
4-ノニルフェノール(以下 NP とする。)が報告下限値
13%(31 地点中 4 地点),幾何平均値は報告下限値未満でい
(0.1µg/L)以上検出されたのは 31 河川中 8 河川であった
ずれも全国調査と同等であった.本調査の検出濃度範囲
(図 3).
は 0.02~0.08µg/L で全国調査の検出濃度範囲内であっ
NP の全国調査は,本調査期間中では,2007~2010 年
- 10 度の要調査項目等存在状況調査 10)において実施されてい
67%(6 地点中 4 地点)で,本調査の報告下限値以上の値の
る.全国調査のうち,比較対象を公共用水域の淡水のみ
範囲は 0.025~0.12µg/L であった.それに対し,本調査
に限定して比較する.これらの全国調査では,検出頻度
の検出頻度は 61%(31 地点中 19 地点),検出濃度範囲は
16%(のべ 182 地点中 30 地点),幾何平均値は定量下限値
0.01~1.1µg/L であった.
未満,
検出濃度範囲 0.1~5.5µg/L であった.
それに対し,
本調査での最大値(1.1µg/L)が検出されたのは 2008
本調査の検出頻度は 26%(31 地点中 8 地点)で全国調査よ
年度に調査した沼川で,再生紙製造過程で利用された古
り高かったが,幾何平均値は報告下限値未満で同等であ
紙に混入した感熱紙(国内では 2000 年以前に顕色剤の成
った.検出濃度範囲は 0.1~0.2µg/L で全国調査の検出濃
分として BPA を使用)に由来することが,2002 年度の当
度範囲内であった.
所の調査研究で報告されている 13).今後,古紙への古い
一方,
内分泌かく乱化学物質としてのNP については,
感熱紙の混入の減少とともに沼川の BPA 濃度はさらに
精巣卵の出現等を指標としたメダカのパーシャルライフ
低下傾向を示すと推測される.
本調査と同じ 31 河川を対
サイクル試験結果に基づき魚類に対する予測無影響濃度
象として2011年度から5ヵ年計画で実施中の未規制化学
物質調査では,再度 BPA を調査対象物質としたが,2011
62
年度における沼川の結果は 0.22µg/L で,2008 年度の結
果の 5 分の 1 であった,
全国最大値: 5.5
1.5
5.5
一方,内分泌かく乱化学物質としての BPA については,
受精率の低下を指標としたメダカのフルライフサイクル
264
魚類に対する予測無影響濃度: 0.61
253
0.5
2
鮎
伊
白
河
稲
青
狩
黄
大
来
沼
潤
富
芝
安
瀬
朝
小
黒
栃
大
湯
坂
勝
萩
菊
逆
原
敷
仿
天
0
L)
魚類に対する予測無影響濃度:25
0.2
沢
東
田
津
生
野
野
瀬
場
光
川
井
士
川
倍
戸
比
石
石
山
井
日
口
間
間
川
川
野
地
僧
竜
川
大 川
川
川
沢 川
川
川
川
川
川
川
川
川
川
奈 川
川
川
川
川
川
谷 川
田 川
川
谷 川
川
川
川
調査河川名
濃度(µg/ L)
濃度(µg/L)
1
1.1
1
全国最大値:
0.12
図 3 4-ノニルフェノール(NP)の調査結果
沢
東
田
津
生
野
野
瀬
場
光
川
井
士
川
倍
戸
比
石
石
山
井
日
口
間
間
川
川
野
地
僧
竜
川
大 川
川
川
沢 川
川
川
川
川
川
調査河川名
3) ビスフェノール A(BPA)
ビスフェノール A(以下 BPA とする。)が報告下限値
川
川
川
川
奈 川
川
川
川
川
川
谷 川
田 川
川
谷 川
川
川
川
が 0.61µg/L と提案されている .本調査の最大値は,そ
の 3 分の 1 以下であった(図 3).
鮎
伊
白
河
稲
青
狩
黄
大
来
沼
潤
富
芝
安
瀬
朝
小
黒
栃
大
湯
坂
勝
萩
菊
逆
原
敷
仿
天
0
12)
図 4 ビスフェノール A(BPA)の調査結果
(0.01µg/L)以上検出されたのは31 河川中19 河川であった
(図 4).
BPA の全国調査は,本調査期間中には実施されていな
試験結果に基づき魚類に対する予測無影響濃度が
25µg/L と想定されている
14)
.本調査の最大値は,その
い.本調査以前の直近では,2005 年度の化学物質環境実
20 分の 1 以下であった(図 4).
態調査において実施されている.全国調査のうち,比較
2 PRTR 対象物質
対象を公共用水域の淡水のみに限定して比較する.全国
1) 1,4-ジオキサン
調査の検出下限値 0.0024µg/L に対し,報告下限値
0.01µg/L で,検出頻度および検出濃度範囲を本調査結果
とそのまま比較することはできないため,本調査の報告
1,4-ジオキサンが報告下限値(0.05µg/L)以上検出され
たのは 31 河川中 18 河川であった(図 5).
1,4-ジオキサンの全国調査結果は,本調査期間中では,
下限値以上の結果について比較する.全国調査における
公共用水域水質測定結果として,試料の種類ごとの調査
検出頻度 83%(6 地点中 5 地点),幾何平均値は 0.12µg/L,
地点数,指針値超過地点数が公表されているが 15).個々
検出濃度範囲は 0.0027~0.12µg/L であった.これらの結
の地点の結果が公表されておらず,本調査結果と検出頻
果のうち本調査の報告下限値以上の値の地点の割合は
度等を比較することはできない.
- 11 監視項目としての指針値 50µg/L で,本調査の最大値
る.全国調査のうち,比較対象を公共用水域の淡水のみ
(15µg/L)は,その 3 分の 1 以下であった(図 5).なお
に限定して比較する.全国調査では,調査地点数のべ 180
地点・検出下限値 0. 2µg/L であった.それに対し,本調
55
25
査の調査地点数 31 地点・報告下限値 0.05µg/L であった.
監視項目の指針値・環境基準値(2009 年 11 月~): 50
50
20
また,本調査の検出頻度は 100%(31 地点中 31 地点),幾
何平均値は 4.6µg/L,検出濃度範囲は 0.06~130µg/L であ
った.全国調査における検出頻度 46%(のべ 180 地点中 83
地点),幾何平均値は 0.6µg/L,検出濃度範囲 0.2~
15
15
濃度(µg/L)
19000µg/L であった.下限値が異なり検出頻度,幾何平
均値および検出濃度範囲を本調査結果とそのまま比較す
10
ることはできないため,全国調査の検出下限値(0.2µg/L)
以上の結果について比較する.
本調査結果のうち 0.2µg/L
5
以上検出された地点の割合は 97%(31 地点中 30 地点),
0.2µg/L 以上検出された地点の濃度範囲は 0.26~130µg/L
鮎
伊
白
河
稲
青
狩
黄
大
来
沼
潤
富
芝
安
瀬
朝
小
黒
栃
大
湯
坂
勝
萩
菊
逆
原
敷
仿
天
0
沢
東
田
津
生
野
野
瀬
場
光
川
井
士
川
倍
戸
比
石
石
山
井
日
口
間
間
川
川
野
地
僧
竜
で全国調査の検出濃度範囲内であった(図 6).
川
大 川
川
川
沢 川
川
川
川
川
川
川
川
川
川
奈 川
川
川
川
川
川
谷 川
田 川
川
谷 川
川
川
川
3) トルエン
トルエンが報告下限値(0.2µg/L)以上検出されたのは
調査河川名
図 5 1,4-ジオキサンの調査結果
31 河川中 5 河川であった(図 7).
トルエンの全国調査結果は,公共用水域水質測定結果
として,試料の種類ごとの調査地点数および指針値超過
1,4-ジオキサンは、2009 年 11 月にこれまでの監視項目
6028
の指針値 50µg/L と同じ値で環境基準が設定されてい
る 16).
監視項目の指針値: 60 0
2) LAS
6006
LAS については全 31 河川で報告下限値(0.05µg/L)以上
)
検出された(図 6).
LAS の全国調査は,本調査期間中では,2007~2010 年
度の要調査項目等存在状況調査 において実施されてい
19000
30
全国最大値: 19000
4
濃度(µg/L)
11)
2
0.5
0.5
鮎
伊
白
河
稲
青
狩
黄
大
来
沼
潤
富
芝
安
瀬
朝
小
黒
栃
大
湯
坂
勝
萩
菊
逆
原
敷
仿
天
0
130
沢
東
田
津
生
野
野
瀬
場
光
川
井
士
川
倍
戸
比
石
石
山
井
日
口
間
間
川
川
野
地
僧
竜
25
130
0.5
川
大 川
川
川
沢 川
川
川
川
川
川
川
川
川
川
奈 川
川
川
川
川
川
谷 川
田 川
川
谷 川
川
川
川
20
調査河川名
図 7 トルエンの調査結果
濃度(µg/L)
15
10
地点数が公表されている 15).
監視項目としての指針値は 600µg/L で,本調査の最大
5
鮎
伊
白
河
稲
青
狩
黄
大
来
沼
潤
富
芝
安
瀬
朝
小
黒
栃
大
湯
坂
勝
萩
菊
逆
原
敷
仿
天
0
値(0.5µg/L)は,その 1000 分の 1 以下であった(図 7).
沢
東
田
津
生
野
野
瀬
場
光
川
井
士
川
倍
戸
比
石
石
山
井
日
口
間
間
川
川
野
地
僧
竜
川
大 川
川
川
沢 川
川
川
川
川
川
川
川
川
川
奈 川
川
川
川
川
川
谷 川
田 川
川
谷 川
川
川
川
調査河川名
図 6 LAS の調査結果
まとめ
未規制化学物質 8 物質について,4 年間で静岡県内の
主要な 31 河川を調査した.
その結果,環境省所管の検討会で提案された予測無影
響濃度や水質汚濁に関する指針値等の参考値と比較して,
- 12 直ちに問題となるような濃度で検出された物質は無かっ
た.
14) 環境省環境保健部ホームページ:平成 16 年度第 1
回内分泌攪乱化学物質問題検討会配布資料 5-2「魚類
を用いた生態系への内分泌攪乱作用に関する試験結
文 献
1) 環境省:化学物質の内分泌かく乱作用に関する環境
省の今後の対応方針について-ExTEND2005-,7,環
境省環境保健部環境安全課,東京(2005)
2) 環境省:化学物質環境実態調査実施の手引き(平成
20 年度版)
,11,環境省総合環境政策局環境保健部環
境安全課,東京(2009)
3) 岡崎幸司:GC-MS によるノニルフェノールの分析に
おける試料精製の検討,
用水と廃水,
45,
12,
1151-1156
(2003)
4) 農薬等の環境残留実態調査分析法
(平成 12 年 1 月)
,
4-13,環境庁水質保全局,東京(2000)
5) 環境省:モニタリング調査マニュアル,Ⅱ-54-Ⅱ-69,
環境省環境保健部環境安全課,東京(2004)
6) 環境庁:要調査項目等調査マニュアル(水質,底質,
水生生物) ,71-80,環境庁水質保全局水質管理課,
東京(2000)
7) 環境省:平成 15 年度化学物質分析法開発調査報告書,
113-126,環境省環境保健部環境安全課,東京(2004)
8) 財団法人日本規格協会:JIS ハンドブック 2008 53
環境測定Ⅱ(水質)
,1055-1068,財団法人日本規格
協会,東京(2006)
9) 環境省:化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後
の対応-EXTEND2010-,2,環境省環境保健部環境安
全課,東京(2010)
10) 環境省水・大気環境局ホームページ:要調査項目等
存在状況調査結果,
http://www.env.go.jp/water/chosa/index.html
11) 環境省環境保健部ホームページ:平成 14 年度第 1
回内分泌攪乱化学物質問題検討会配布資料 5「魚類を
用いた生態系への内分泌攪乱作用に関する試験結果
について(案)」
,1-4,
http://www.env.go.jp/chemi/end/speed98/commi_98/k
ento1401.html
12) 環境省環境保健部ホームページ:平成 13 年度第 1
回内分泌攪乱化学物質問題検討会配布資料 2「ノニル
フェノールが魚類に与える内分泌攪乱作用の試験結
果に関する報告(案)」,29,
http://www.env.go.jp/chemi/end/speed98/commi_98/k
ento1301.html
13) 渡邊雅之他:離解処理により古紙から発生するビス
フェノール A 等の化学物質の分析とエストロゲン活
性,環境化学,14,65-71(2004)
果について(案)」,1-4,
http://www.env.go.jp/chemi/end/speed98/commi_98/k
ento1601.html
15) 環境省:平成 22 年度公共用水域水質測定結果,31-32,
環境省水・大気環境局,東京(2011)
16) 環境省告示:水質汚濁に係る環境基準についての一
部を改正する件,平成 21 年 11 月 30 日,環境省告示
第 78 号
静岡県環境衛生科学研究所報告 No.55 13-16 2012
Bulletin of Shizuoka Institute of Environ. and Hyg.
- 13 -
インフルエンザ(H1N1)2009 ウイルスの HA タンパク質
およびPB2タンパク質のアミノ酸変異に関する研究
微生物部 ウイルス班
山田俊博,小柳純子,池ヶ谷朝香,
長岡宏美,川森文彦
Study of HA and PB2 Amino Acid Mutation in Influenza(H1N1)2009
Toshihiro YAMADA,Junko KOYANAGI,Asaka IKEGAYA,
Hiromi NAGAOKA and Fumihiko KAWAMORI
2009/2010 シーズンから 2012/2013 シーズンに静岡県で分離された AH1pdm09 型インフルエンザウイルス
43 株について,病原性に関与するウイルス性状変化を監視するため,HA タンパク質の D190E,D225G と PB2
タンパク質の S590G,Q591R ,E627K,D701N の各アミノ酸変異の検出を行った.その結果,HA タンパク質
の D190E,D225G および PB2 タンパク質の E627K,D701N はすべて野生型を示し,アミノ酸変異は認められな
かった.しかし,PB2 タンパク質の Q591R はすべての株にアミノ酸変異が認められた.
Key words: インフルエンザ(H1N1)2009,アミノ酸変異,HA タンパク質,PB2 タンパク質
Influenza(H1N1)2009,amino acid mutation,HA protein,PB2 protein
はじめに
2009 年 3 月に発生したブタ由来の新型インフルエンザ
よく認識するアミノ酸である 2).この HA タンパク質の
225 番目に変異をおこすと,α(2,6)結合シアル酸だけで
ウイルスは,
本邦をはじめ世界各地で流行し 21 世紀初の
なくα(2,3)結合シアル酸との結合が可能となり,マウス
パンデミックとなった.しかし,2011 年 3 月には季節性
の感染実験で肺組織に強い病理学的変化が確認されてい
インフルエンザウイルスに移行し名称もインフルエンザ
る 3).ヒトにおいても肺細胞に存在するα(2,3)結合シア
(H1N1)2009(略称:AH1pdm09)に変更された 1).この
ル酸 4)とウイルスの結合が可能となり肺炎を起こし易く
AH1pdm09 型は,ウイルス学的にも臨床症状からもこれ
なることが考えられる.また,RNA ポリメラーゼ(PB2)
までの季節性インフルエンザウイルスとは異なる病態が
タンパク質において,627 番目のアミノ酸変異を起こす
2)
確認されており ,さらにヒトへ適応するための変異を
とウイルス遺伝子の転写・増殖の至適温度が下がり,ヒ
獲得していく可能性がある.
トの咽喉・鼻腔で効率よく増殖することが考えられてい
AH1pdm09 型ウイルスのヘマグルチニン(HA)タンパ
る 5-8).さらに,PB2 タンパク質でもう一つの重要なアミ
ク質は,すでにヒト型レセプターに結合する性質をもっ
ノ酸変異が,701 番目であり,ウイルスの増殖効率が上
ており,190 番目と 225 番目がヒト型レセプターを効率
昇することが報告されている
4,8-9)
.AH1pdm09 型の流行
株では,PB2 タンパク質の 627 番目,701 番目ともアミ
静岡県環境衛生科学研究所
ノ酸変異は認められていないが,本タンパク質の 590 番
(〒420-8637,静岡市葵区北安東 4-27-2)
目または 591 番目のアミノ酸変異により,ヒトでの増殖
Shizuoka Institute of Environment and Hygiene
に適応した可能性が報告されている 2,5,9-10).
(4-27-2,Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka,420-8637,Japan)
- 14 本研究では,インフルエンザウイルス AH1pdm09 型の
Q591R(591 番目のアミノ酸が Q(グルタミン)から R(アル
病原性に関与するウイルス性状変化を監視するため,静
ギニン)へ置換)
,E627K(627 番目のアミノ酸が E(グルタ
岡県内で分離された AH1pdm09 型 43 株を対象に HA タ
ミン酸)から K(リジン)へ置換)
,D701N(701 番目のアミ
ンパク質の 190 番目と,225 番目ならびに PB2 タンパク
ノ酸が D(アスパラギン酸)から N(アスパラギン)へ置換)
質の 590 番目,591 番目 ,627 番目および 701 番目の各
のアミノ酸変異の検出を行った.対照遺伝子として HA
アミノ酸変異の検出を行った.
タンパク質では A/California/07/2009(H1N1) segment 4
hemagglutinin gene (GenBank Accession No.FJ981613)を用
材料および方法
1 供試ウイルス株
い,PB2 タンパク質では A/California/07/2009(H1N1)
segment 1 polymerase PB2 genes (GenBank Accession
2009/2010 シーズンから 2012/2013 シーズンに静岡県
No.GQ334352)を用いて野生型の遺伝子配列を確認した.
内のインフルエンザ定点医療機関で,感染症発生動向調
査のために採取された咽頭拭い液から MDCK 細胞を用
いて分離された AH1pdm09 型 43 株(2009/2010 シーズ
ン:16 株,2010/2011 シーズン:25 株,2011/2012 シー
結 果
1 HA タンパク質のアミノ酸変異検出状況
AH1pdm09 型 43 株の 190 番目のアミノ酸は,すべて D
ズン:1 株,2012/2013 シーズン:1 株)を供試した.
(アスパラギン酸)の野生型であり,変異型は認められ
2 アミノ酸変異検出法
なかった.225 番目のアミノ酸においても,すべて D(ア
AH1pdm09 型ウイルス株からの RNA 抽出は,QIAamp
スパラギン酸)の野生型であり,変異型は認められなか
Viral RNA Mini kit(Qiagen)を用いた.RT-PCR は One Step
った(表1)
.
RNA PCR kit AMV(TAKARA)を用いて図1に示した温
2 PB2 タンパク質のアミノ酸変異検出状況
度条件で実施した.なお,HA タンパク質の遺伝子領域
AH1pdm09 型 43 株の 590 番目のアミノ酸は,すべて S
の増幅に関しては,190 番目と 225 番目のアミノ酸を同
(セリン)の野生型であり変異型は認められなかった.
11)
(図1a)
.
時に検出可能なChen ら のプライマーを用いた
しかし,591 番目のアミノ酸は,すべての株に R(アル
また,PB2 タンパク質の遺伝子領域では,590 番目,591
ギニン)の変異型が認められた.また,627 番目のアミ
番目,627 番目および 701 番目のアミノ酸を同時に検出
ノ酸は,すべての株で E(グルタミン酸)の野生型,701
可能な独自に設計したプライマーを用いた(図1b)
.PCR
番目のアミノ酸においてもすべての株で D(アスパラギ
増幅産物は Wizard SV Gel and PCR Clean-up System
ン酸)の野生型を示し,変異型は認められなかった(表
(Promega)を用いて精製を行った後,CEQ8000 DNA
1)
.
Analysis System(BECKMAN COULTER)により塩基配列
を解明し,HA タンパク質の D190E(190 番目のアミノ酸
考 察
が D(アスパラギン酸)から E(グルタミン酸)へ置換),
今回の我々の調査研究は,地方衛生研究所で通常行わ
D225G(225 番目のアミノ酸が D(アスパラギン酸)から
れているインフルエンザウイルスの発生動向調査に加え
G(グリシン)へ置換)
および PB2 タンパク質の S590G(590
,ウイルス性状変化に関与するアミノ酸変異について静
番目のアミノ酸が S(セリン)から G(グリシン)へ置換)
,
岡県内で分離された AH1pdm09 型 43 株を解析した.
a)HA 領域アミノ酸変異の RT-PCR
(D190E ,D225G )
PCR プライマー
b)PB2 領域アミノ酸変異の RT-PCR
(S590G ,Q591R ,E627K ,D701N )
PCR プライマー
F-primer:GTTCATGGCCCAATCATGAC
F-primer:CTTGTCCCTAAGGCAACCAGAAGC
R-primer:GATTTCCAGTTGCTTCGAATG
R-primer:TCATTGATGCTTAATGCTGGGCCAT
PCR 条件
PCR 条件
50℃,30min→94℃,2min→(94℃,2min→
酸変異部
50℃,30min→94℃,2min→(94℃,2min→
57℃,1min→72℃,2min)30cycles→
57℃,1min→72℃,2min)30cycles →72℃,
72℃,10min
10min
図 1 RT-PCR 法によるアミノ酸変異部位の増幅方法
- 15 表 1 HA および PB2 たんぱく質のアミノ酸変異検出結果
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
HAタンパク質
D190E
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D225G
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
PB2タンパク質
S590G
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
S
Q591R
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
R(変異)
E627K
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
E
D701N
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
D
分離シーズン
(AH1pdm09株)
2009/2010
2010/2011
2011/2012
2012/2013
D:アスパラギン酸,S:セリン,E:グルタミン酸
各アミノ酸は,数字の左が置換前(野生型),右が置換後(変異型)を表す.
その結果,HA タンパク質の 190 番目と 225 番目のアミ
アミノ酸においてもすべてが野生型を示し,ウイルス増
ノ酸は対象とした株すべてが野生型を示し,ヒト型レセ
殖効率を高めるとされるアミノ酸変異も起こしていない
プターに結合する性質をもっていることが確認された.
ことが示された.しかし,PB2 タンパク質の 591 番目の
また,225 番目のアミノ酸の結果は,肺炎が起こり易く
アミノ酸はすべて変異型であることが確認され,この変
なる病原性変化がないことも示唆していた.PB2 タンパ
異が 627 番目や 701 番目の代わりにウイルス増殖におい
ク質の 627 番目のアミノ酸についてもすべて野生型を示
て機能していること示した河岡らの報告 9)と一致してい
し,AH1 ソ連型や AH3 香港型が獲得しているヒトの咽
た.
喉・鼻腔で効率よく増殖するアミノ酸変異は起していな
現在のところ,AH1pdm09 型インフルエンザウイルス
いことが明らかとなった.また,PB2 領域の 701 番目の
は,ウイルス学的にも臨床症状からも季節性ウイルスに
- 16 比べ,
特に病原性が強いという証拠は見つかっていない.
4)
the human airway, Nature, 440: 435-436(2006)
また,この AH1pdm09 型は,2011/2012 シーズン以降に
流行が小康化しており,当所におけるウイルス分離にお
Shinya, K, et al.: Avian flu: influenza virus receptors in
5)
渡辺真治他:これからのインフルエンザ対策 インフ
いても検出率は1%以下にとどまっている.しかし,イ
ルエンザウイルスの分子遺伝学,臨床と微生物,37,
ンフルエンザウイルスは分節された RNA で構成されて
17-23 (2010)
いるため突然変異を起しやすく,変異が蓄積されるとウ
6)
Hatta, M, et al.: Growth of H5N1 influenza virus in the
イルスの性状が変わることがあり,今後 AH1pdm09 型が
upper respiratory tracts of mice, PLoS pathog, 3,
ヒトへ適応するための変異を獲得し病原性が増強するこ
1374-1379 (2007)
とも否定できない.特に,PB2 タンパク質の 627 番目の
7)
viruses containing the 2009 H1N1 influenza pandemic
アミノ酸変異については,これまでの季節性 A 型インフ
polymerase, mBio, 1, e00067-10 (2010)
ルエンザウイルスがすでに獲得した変異であることや,
ヒトの上気道で効率よく増殖することを考えると伝播力
Brett, W, et al.: The PB2-E627K mutation attenuates
8)
Neumann, G, et al.: Emergence and pandemic potential
の強いインフルエンザウイルスに変化することが懸念さ
of swine-origin H1N1 influenza virus, Nature, 459,
れる.したがって,今後も病原性に関わるアミノ酸変異
931-939 (2009)
の解析を継続して行く必要があると考えられた.
9)
Yamada, S, et al.: Biological and structural
characterization of a host-adapting amino acid in
文 献
1)
2)
MHLW, http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/
10) Mehle, A, et al.: Adaptive strategies of the influenza
kekkaku-kansenshou01/index.html
virus polymerase for replication in humans, Proc Natl
堀本泰介他:新型 H1N1 インフルエンザ-ウイルス
Acad Sci USA, 106, 21312-21316 (2009)
学の立場から-,ウイルス,60,3-8 (2010)
3)
influenza virus, PLoS pathog, 6, e1001034 (2010)
11) Chen, H, et al.: Quasispecies of the D225G substitution
Bojian, Z, et al.: D225G mutation in hemagglutinin of
in the hemagglutinin of pandemic influenza A(H1N1)
pandemic influenza H1N1(2009) virus enhances virulence
2009 virus from patients with severe disease in Hong
in mice, Exp Biol Med, 235: 981-988 (2010)
Kong, China, J Infect Dis, 201, 1517-1521 (2010)
静岡県環境衛生科学研究所報告 No.55 17-20 2012
- 17 -
Bulletin of Shizuoka Institute of Environ. and Hyg.
食肉に起因する E 型肝炎ウイルス(HEV)感染に関する研究
微生物部
ウイルス班
小柳純子,湊
千尋*,山田俊博,
長岡宏美,川森文彦
Study of Food-born Hepatitis E Virus (HEV) Infection from Pig, Japanese Sika Deer and Boar
Junko KOYANAGI, Chihiro MINATO*, Toshihiro YAMADA,
Hiromi NAGAOKA and Fumihiko KAWAMORI
E 型肝炎は,E 型肝炎ウイルス(HEV)によって汚染された水や食品の摂取により引き起こされる急性肝炎で
ある。日本においては,特に,加熱不十分な豚レバーあるいは野生動物(シカおよびイノシシ)の肉および肝臓の喫
食による感染事例が報告されている.そこで,摂食対象動物であるブタ,ニホンジカおよびイノシシを原因とす
る HEV の感染リスクを把握するために,静岡県におけるそれらの HEV 浸淫状況を調査した.ニホンジカは HEV
抗体および HEV 遺伝子は認められなかったが,ブタは HEV 抗体を高率に保有していた.さらに,イノシシの 49.5%
が HEV 抗体を保有しており,4.2%から HEV 遺伝子が検出された.イノシシの血清,肝臓,糞便および筋肉から
HEV遺伝子が検出されたことから,
可食部位である肝臓および筋肉におけるHEVの汚染が認められただけでなく,
糞便を介した HEV の環境への汚染拡大の可能性が考えられた.
Key words: E 型肝炎ウイルス,浸淫状況,ブタ,ニホンジカ,イノシシ
hepatitis E virus (HEV),epidemiological study,pig,japanese sika deer,boar
はじめに
れている.原因はジビエの生食,あるいは加熱不十分な
近年,静岡県ではイノシシ等による農林産物への被害
状態での喫食等によるものと考えられており 1-4),本県に
が深刻化しており,その駆除対策が検討される一方で,
おいても 2007 年以降ほぼ毎年数名の患者報告がある.
それらを地域資源として見直し,狩猟鳥獣肉(ジビエ)と
2007 年の患者2名は県内で捕獲されたイノシシの生肝
して有効活用する取り組みが盛んに行われている.民間
の喫食,
および 2009 年の患者 1 名はシカの生肉の喫食に
あるいは自治体が運営するジビエ専用の食肉加工施設の
よる感染であると推定されている 5).実際に,摂食対象
稼動によりジビエの普及拡大が図られ,獣肉利用研究会
動物の肉などジビエから HEV に感染する危険性がある
やジビエ料理教室の開催等の報道によりジビエは県民に
ことが各県での実態調査
広く知られるものとなっている.さらに,一般消費を視
食品衛生上の問題として危惧されている.
6,7)
により明らかとなっており,
野に入れ,県内の大学ではジビエの非常食への応用に関
E 型肝炎ウイルス感染を防止するため,本県では、2010
する研究や,ユニークな加工製品化についての検討等も
年に「野生動物肉の衛生及び品質確保に関するガイドラ
行われている.
イン(ニホンジカ・イノシシ)」8)を策定し,食肉取扱者等
E型肝炎は,E型肝炎ウイルス(HEV)によって引き起
へのジビエの衛生管理に取り組んでいる.県猟友会でも
こされる急性肝炎で,日本をはじめ世界各地で各種動物
ジビエの取り扱いや喫食について注意喚起を行っている.
での感染が明らかとなっており,人獣共通感染症の一つ
そこで本研究は,本県で食肉利用されるブタ,ニホン
1)
として注目されている .その発生は 2000 年以降全国で
ジカおよびイノシシにおける HEV の保有実態を調査し
報告され,2007 年以後は毎年 50 例前後の発生が認めら
食肉等の汚染の危険性について正確な把握を試みること
を目的とした.
静岡県環境衛生科学研究所
方 法
(〒420-8637,静岡市葵区北安東 4-27-2)
Shizuoka Institute of Environment and Hygiene
(4-27-2,Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka,420-8637,Japan)
*:静岡県中部健康福祉センター
1 材料
ブタは,2005 年から 2009 年に日本脳炎の流行予測調
査のために同一農場から収集され,
-60℃で保管されてい
- 18 た成豚 120 頭の血清を調査対象とした.
狩猟動物は,
2010
2 HEV 遺伝子の検出状況
年 3 月から 2010 年 11 月までに捕獲されたニホンジカ 64
HEV 遺伝子は,ブタの血清,およびニホンジカの検体
頭,
および 2011 年 5 月から 2012 年 11 月までに捕獲され
からは全く検出されなかった.イノシシについては,
たイノシシ 118 頭から,それぞれ血液,肝臓,糞便およ
HEV 遺伝子は 118 頭のうち 5 頭(4.2%)から検出された.2
び筋肉を採取し調査材料とした.血液検体は採取後冷蔵
頭は血清のみ,1 頭は血清,肝臓および糞便から,血清
保存されたものを回収し,
それ以外の検体は-20℃で冷凍
未採取の 1 頭は肝臓および糞便から,1 頭は血清,肝臓,
保存した.
糞便および筋肉から HEV 遺伝子が確認された(表 2).
2 ELISA 法による IgG および IgM 抗体の測定
表 2 HEV 遺伝子の検出 (陽性数 / 検体数)
ニホンジカおよびイノシシの血液を 3,000rpm で 10 分
動物種
血清
肝臓
糞便
筋肉
間遠心分離して血清を採取した.ブタ 120 検体およびニ
ニホンジカ
0 / 63
0 / 39
0/2
0/6
ホンジカ 64 検体の血清中の HEV 特異的 IgG および IgM
イノシシ
4 / 112
3 / 116
3 / 41
1 / 29
NT
NT
抗体の測定は,Li ら 9)の ELISA 法により国立感染症研究
ブタ
0 / 53
*
NT
所にて実施した.
イノシシ血清のHEV IgG 抗体の測定は,
標識抗体を HRP 抗ブタ IgG
Takahashi ら 10)の方法に準じ,
抗体(KPL, Gaithersburg, MD)に変更して当所にて実施し
た.
*
NT; 検査せず
3 HEV 遺伝子の塩基配列解析結果
イノシシから検出された HEV の遺伝子型は全て
3 RT-PCR 法による HEV 遺伝子検出および塩基配列解析
Genotype4 型であった(図 1).同一個体の異なる検体から
肝臓および筋肉は細切し,糞便は懸濁して PBS(−)で
検出された HEV 遺伝子の塩基配列はそれぞれ 99%以上の
20%乳剤とし,10,000rpm で 10 分間遠心分離後,上清を
相同性を示した.また,5 頭から検出された HEV の遺伝
採取した。
子間の相同性は 98%以上であった.系統樹解析により,
RNA 抽出は,血清および乳剤上清について市販キット
(QIAamp Viral RNA Mini Kit,QIAGEN)を用いて行った。
これらは以前に愛知県で検出された HEV と近縁である
ことが判明した.
11)
HEV 遺伝子の検出は Li ら の方法に準じて,HEV 遺伝
子の ORF2 領域を対象とする Nested PCR を実施した.
2%アガロースゲル電気泳動で特異的バンド(378bp)が確
認された PCR 増幅産物は,市販キット(Wizard SV Gel and
PCR Clean-Up System,Promega)を用いて精製後,ダイレ
クトシークエンス法により塩基配列を決定した.得られ
た塩基配列は,分子系統樹解析により Genbank に登録さ
れている HEV 遺伝子の塩基配列と比較した.
結 果
1 HEV 特異的 IgG および IgM 抗体の保有状況
ブタは今回調査した 120 頭全てが HEV IgG 抗体陽性で
あり,その内 10 頭は IgM 抗体も陽性であった.ニホン
ジカは 64 頭全てが HEV IgG 抗体が陰性であったが,イ
ノシシは 107 頭のうち 53 頭(49.5%)が HEV IgG 抗体が陽
図 1 イノシシから検出された HEV 遺伝子解析結果
性であった(表 1).
考 察
表 1 HEV 抗体保有状況
動物種
検体数
IgG 陽性数(%)
IgM 陽性数(%)
ニホンジカ
64
0 (0%)
NT*
イノシシ
107
53 (49.5%)
NT
ブタ
120
120 (100%)
10 (8.3%)
*
NT; 検査せず
ブタにおいて HEV は世界各地で極めて高率に浸淫し
ていることが明らかとなっている 1).ほとんどのブタ集
団で HEV の感染があることが抗体調査から確認されて
おり,日本において 6 ヶ月齢のブタでは 90%以上の抗体
保有率であると報告されている 10).農場において,1~3
ヶ月齢の子豚の多くが HEV に感染し,出荷される 6 ヶ
- 19 月齢では,ほとんどが抗体を保有し,HEV は体内から消
1)
検出された.HEV 遺伝子は肝臓,血液,筋肉および糞便
失することが報告されている .本研究では,全ての検
から確認され、本県のイノシシが HEV に感染している
体が IgG 抗体陽性であり,IgM 抗体陽性の検体もあった
実態が確認された.したがって,イノシシの肝臓および
ことから,検体を採取した農場では HEV がかなり浸淫
筋肉の生食あるいは加熱不十分な状態での摂食によって
しており,群飼下で水平感染した時期が異なるブタが存
HEV に感染する危険性があることを営業者および消費
在したと考える.また,HEV 遺伝子は 2~3 ヶ月齢のブ
者に周知し,調理器具の共用を避けてジビエから他の食
タの血清,肝臓および糞便から高率に検出される一方,
品への二次汚染を防止し,喫食の際には十分な加熱調理
出荷時期のブタであっても HEV が体内から消失せずに
を行うことを広報する必要があると考える.また,糞便
12)
ウイルスを保有する例外も存在すると考えられている .
から HEV 遺伝子が検出されたことから,HEV を保有す
HEV感染動物との接触だけではヒトはE型肝炎を発症し
るイノシシの移動により環境中への HEV 汚染が拡大す
ないとされているが,HEV 感染の可能性のある動物を扱
る可能性があると考えられる.さらに,猟友会員および
う人を対象とした抗体調査では,一般人に比べて明らか
ジビエ処理施設の作業員などに対しては,イノシシから
15)
に高い割合で抗体陽性者が認められている .したがっ
HEV に感染する可能性があることを周知し,イノシシの
て,ブタの採血や解剖を行う家畜防疫員およびブタの血
と殺および解体時の血液や糞便の取り扱いについて注意
液や肝臓を取り扱うと場の解体従事者およびと畜検査員
喚起する必要があると考える.
に対して,ブタからの HEV 感染の危険性があることを
今回の調査では,5 頭のイノシシから検出された HEV
周知し,注意喚起を行うことが必要であると考える.さ
遺伝子間の塩基配列は 98%以上の相同性を示し,過去に
らに,今後も県内で流通する可能性のあるブタにおける
近隣の愛知県で報告された HEV と近縁であった。この
HEV 汚染を評価するために,食肉衛生検査所などと連携
ことから,本県のイノシシに浸淫している HEV は非常
して県内出荷豚の検体を採取して継続調査していく必要
に類似した遺伝子をもっていると考えられ,近接環境で
があると考える.
生活圏が交差するイノシシの間で伝播し,維持されてい
ニホンジカについては,HEV の感染は認められるが全
国的に HEV の浸淫度は低いと考えられている
10,14)
.今回
る可能性があると思われる.また,イノシシとニホンジ
カが共に目撃される地域では,共通する生息環境でイノ
は HEV の浸淫を示す結果は得られなかったが,調査に
シシからニホンジカへの HEV の伝播が起こる可能性が
用いた検体は県内で有害捕獲が集中して行われた一部の
あると考えられる.したがって,今後,本県のイノシシ
地域から得られた検体であった.したがって、県内のニ
が保有する HEV の由来調査およびニホンジカにおける
ホンジカにおける HEV の浸淫状況を把握するためには,
HEV の汚染調査を継続して行っていくことは,公衆衛生
より広範囲から検体を収集して調査する必要があると考
上極めて重要であると考える.
える.
まとめ
イノシシの HEV 感染事例は全国的に多数報告されて
1,14,15)
.本調査では約 50%のイノシシが HEV 抗体を保
1) 抗体保有状況を調査した結果,ニホンジカでは抗体の
有していたことから,HEV は本県のイノシシに高率に浸
保有は認められなかったが,ブタとイノシシでは抗体を
淫していることが判明した.これは,2005〜2009 年に実
高率に保有しており,浸淫度が高いことが確認された.
施された県内イノシシ 140 頭における抗体調査報告(県
2) HEV 遺伝子はイノシシから検出された.可食部位とな
内全域で 34.2%,東部地区では 66.7%)と同様の高い浸淫状
る肝臓および筋肉の汚染が確認されただけでなく,糞便
いる
14)
兵庫県や愛知県などでは,
HEV
況を示す結果であった .
を介した環境への汚染拡大の可能性も示唆された.イノ
は限局した地域でイノシシに浸淫していると報告されて
シシを食肉利用する際には十分な加熱調理を行うととも
17,18)
19)
.また,Williams ら は,イノシシは群生活をす
に,調理器具を介した二次汚染の防止を行うことを注意
るため,その血縁集団のなかで HEV 感染が生じている
喚起する必要性があるものと考える.また,イノシシの
ことを報告している.今回対象としたイノシシは県内の
と殺および解体時の血液と糞便の取り扱いについても注
いくつかの地域での有害捕獲にて得られており,それら
意する必要があると考える.
が HEV 感染集団の一部であったために抗体保有率が高
3) イノシシから検出された HEV は,その遺伝子配列の
率になったことも考えられる。したがって,県内のイノ
相同性から近接する愛知県で報告された HEV と近縁で
シシにおける HEV の地理的分布を評価するためには,
あった.
いる
より広範囲の検体を得て詳細に調べる必要があると考え
る.今回の調査では 4.2%のイノシシから HEV 遺伝子が
- 20 謝 辞
本研究を行うにあたり,ニホンジカおよびブタの抗体
測定についてご協力いただいた国立感染症研究所ウイル
ス第二部の先生方に深謝致します.
また,イノシシの検体採取にご協力いただいた静岡県
猟友会長伊藤政夫様と猟友会員の皆様に感謝申し上げま
す.
14) 武田直和:食品媒介ウイルス感染症,日本食品微生
物学雑誌,25,1-6 (2008)
15) 川本歩他.:ヒト、ブタ、イノシシにおける E 型肝炎
ウイルスの感染状況,鳥取県衛生環境研究所報,45,
1-3 (2005)
16) 寺田修三他:イノシシ肝の喫食による重傷 E 型肝炎
の一例,治療学,44,1046-1049 (2010)
17) 榮賢司:厚生労働科学研究補助金 食の安全性・高度
文 献
化推進研究事業「ウイルス性食中毒の予防に関する
1) 恒光裕他:動物での E 型肝炎ウイルスの感染状況,
研究」班 平成 16 年度総括・分担研究報告書,27-32
IASR, 26,269-270 (2005)
(2005)
2) Matsuda, H. et al:Severe hepatitis E virus infection after
18) 松浦友紀子:平成 16-19 年度科学研究費補助金「野
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生のニホンジカは人あるいは他の動物種の感染源に
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なりうるのか?」班 研究成果報告書,19-24 (2008)
3) Tei, S. et al.:Zoonotic transmission of hepatitis E virus
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Infection in wild boars and deer and genetic identification
of genotype 3 HEV from a boar in Japan. J. Clin.
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5) 川村欣也他:静岡県西部地域で発生したシカ生肉また
はイノシシ生肝摂食後の E 型急性肝炎 3 例,肝臓 ,
51,418-424 (2010)
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の E 型肝炎ウイルスの保有状況,新潟県保健環境科
学研究所年報,23,103-105 (2008)
7) 保科健他:野生動物等の E 型肝炎ウイルスの保有状況,
島根県保環所報,50,70-73 (2008)
8) 静岡県/農山村共生課ホームページ
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enzyme-linked immunosorbent assay for antibodies to
hepatitis E virus. J. Med. Virol., 62, 327-333 (2000)
10) Takahashi, M. et al.:Swine hepatitis E virus strains in
Japan from four phylogenetic clusters comparable with
those of Japanese isolates of human hepatitis E virus. J.
Gen. Virol. 84, 851-862 (2003)
11) Li, T. C. Et al.:Detection of hepatitis E virus RNA from
the bivale Yamato-Shijimi (Corbicula Japonica) in Japan.
Am. J. Trop. Med. Hyg,, 76, 170-172 (2003)
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infection and risk in xenotransplantation. Curr. Top.
Microbiol. Immunol., 278, 185-216 (2003)
13) 植木洋他:宮城県における E 型肝炎ウイルスの浸淫
状況調査,宮城県保健環境センター年報,23,
40-42(2005)
19) Williams, T. P . et al.:Evidence of extrahepatic sites of
replication of the hepatitis E virus in a swine model. J.
Clin. Microbiol., 39, 3040-3046 (2001)
静岡県環境衛生科学研究所報告 No.55 21-25 2012
- 21 -
Bulletin of Shizuoka Institute of Environ. and Hyg.
食品保存環境におけるカンピロバクターの
生残性に関する研究
微生物部
細菌班
飯田奈都子,渡邉朋恵,佐原啓二,
川森文彦
Study on Survival of Campylobacter in Food Preservation Environment
Natsuko IIDA, Tomoe WATANABE, Keiji SAHARA
and Fumihiko KAWAMORI
食品の保存環境である低温温度帯に注目し,冷蔵保存温度(4℃)におけるカンピロバクターの生残性につ
いて研究を行った.市販鶏肉の汚染実態調査では,69.7%からカンピロバクター属菌が分離された.汚染菌数が
一部の検体では,
生きているが培養できない,
いわゆる viable but non-culturable
102/100g 以上の検体は 16 検体あり,
(VBNC)状態の菌の存在が推測された.実験的に Campylobacter jejuni を 4℃で静置保存したところ,生存率につ
いては約 70~80%を推移するものの,12 週間目に VBNC 状態になり,菌体の形態は,本来のらせん状から球状に
変化していた.4℃で静置直後の通常状態と 12 週間後の VBNC 状態の菌における遺伝子発現を比較したところ,
VBNC 状態において,一部の代謝関連タンパク質をコードする遺伝子の発現が減少することが明らかとなった.
Key words: カンピロバクター,生残性,汚染実態,VBNC(viable but non-culturable),遺伝子発現
Campylobacter, survival, contamination status, VBNC(viable but non-culturable), gene expression
はじめに
環境であり,カンピロバクターも低温によるストレスを
カンピロバクター食中毒は,現在,細菌性食中毒にお
1)
受け,菌の増殖能力が低下して,生きているが培養でき
いて全国的に発生件数が最も多い食中毒 であり,その
ない,いわゆる viable but non-culturable(以下,VBNC)
予防対策を講じることが急務となっている.
状態になることが確認されている 3,4).
カンピロバクターは,発育に微好気条件(酸素濃度:
C. jejuni の VBNC 状態は,1986 年に Rollins と Colwell
3~15%)
を必要とし,
実験的には大気中の酸素濃度では,
によって初めて報告 5)されて以来,pH や低温等の様々な
すみやかに培養不能となる.しかしながら,本菌による
ストレス要因によって,この状態に入り込むことが報告
2
ヒトへの感染は,10 個程度の少ない菌量でも引き起こさ
されている 3,4,6-8).この状態の菌を,発育鶏卵に接種した
れることがあるため,汚染レベルが低い場合でも食中毒
り,実験動物に経口投与することにより,培養可能な菌
の発生するリスクは高い.さらに,カンピロバクターは
が回収されたという報告 9,10)があり,VBNC 状態の菌は,
低温保存した食品中では比較的長期間生存できる特徴が
食中毒発生の潜在的なリスク因子として重要性が示唆さ
ある.これらが,食中毒発生防止を難しくしている原因
れている.
2)
として挙げられている .
カンピロバクターが生き延びる温度帯である低温にお
カンピロバクター食中毒の主な原因菌は
ける本菌の生存様式を解明することは,食品の安全性を
Campylobacter jejuni で,原因食品として鶏肉が疑われる
確保する上で非常に重要であり,今後は,本菌の特徴に
場合が多く,その流通および保存は冷蔵や冷凍といった
応じた対策や検査が必要であると思われる.しかし,カ
低温温度帯である.低温は,多くの菌にとって不都合な
ンピロバクターの低温ストレス応答に関する機序につい
ては十分解明されていない.そこで,本研究では,冷蔵
静岡県環境衛生科学研究所
保存温度(4℃)における C. jejuni の生残性の把握を目
(〒420-8637,静岡市葵区北安東 4-27-2)
的に,
自然汚染されている市販鶏肉の汚染状況の把握と,
Shizuoka Institute of Environment and Hygiene
低温ストレス応答のメカニズムの解明を試みた.
(4-27-2,Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka,420-8637,Japan)
- 22 2 低温(4℃)における C. jejuni の生残性および形態変化
材料と方法
1 市販鶏肉の汚染実態
1)生残性試験
C. jejuni ATCC700189 株を Mueller Hinton Broth(Difco)
1) 供試検体
2011 年 11 月から 2013 年 1 月に,県内の小売店(8 店
を用いて,
37℃で 24 時間微好気培養した.
培養液を 8,000
舗)で購入した国産鶏肉(非凍結品)33 検体が供試され
×g で 5 分間遠心後,沈渣を PBS(-)で再浮遊させた.こ
た.
の操作を再度行った後,最終濃度を約 108cfu/mL に調整
2) カンピロバクターの分離同定
し,14mL のポリプロピレン ラウンド・チューブ
検体 25g にプレストン増菌培地(OXOID)100mL を加
(FALCON)
に 10mL ずつ分注して 4℃に静置保存した.
えてストマッキングし,5 倍乳剤(試料原液)を作製後,
保存後,1 週間毎に 2 本ずつ総菌数,生菌数および培養
42℃で 24 時間微好気培養した.この増菌培養液を
可能な菌数を測定し,
各測定法ごとに平均値を算出した.
mCCDA 培地(OXOID)に塗抹し,42℃で 48 時間微好気
総菌数はアクリジンオレンジ(和光純薬工業)
,生菌数は
培養を行い,疑わしいコロニーについて Yamazaki らの方
LIVE/DEAD BacLight Bacterial Viability Kits(Molecular
11)
法 に従ってカンピロバクターの菌種を同定した.
Probes)で染色後,蛍光顕微鏡(UV フィルター)で測定
3) 培養法による菌数測定
した.なお,生菌数は,1,000 倍で 200~300 の菌数につ
試料原液 10mL を 3 本の試験管に分注し,さらにプレ
いて生菌数(緑色)と死菌数(赤色)を計算し,生菌の
ストン増菌培地 9mL を 3 本ずつ分注した試験管に試料原
比率と全菌数から 1mL 当たりの生菌数を算出した.培養
液および 10 倍希釈液をそれぞれ 1mL ずつ加えた.上記
可能な菌数は,菌液を PBS(-)で 10 倍段階希釈し,各希
の定性試験と同様の方法で培養し,MPN(most probable
釈液の 100µL を mCCDA 培地およびウマ血液寒天培地
number method)3 本法により菌数を測定した.
(BD)にコンラージ棒を用いて塗抹し,37℃で 48 時間微好
4) Propidium monoazide(PMA)処理および DNA 抽出
気培養後,平板上の集落数から菌数を算出した(直接平
試料原液 1mL をマイクロチューブに分注し,
4℃,
8,000
板塗抹法)
.
×g で 5 分間遠心し,上清を除去した.沈渣を生理食塩
2) 形態観察
水 1mL で再浮遊させた後,PMA(Biotium)を 10µg/mL
4℃における静置直後と 12 週間後の形態変化を,蛍光
となるよう添加し,懸濁した.氷上で,遮光 10 分間静置
顕微鏡および透過型電子顕微鏡により観察した.蛍光顕
した後,可視光を LED Cross Linker(TaKaRa)で 5 分間
微鏡では LIVE/DEAD BacLight Bacterial Viability Kits で染
照射した.直ちに,4℃,8,000×g で 5 分間遠心後,沈
色したものを観察した.また,電子顕微鏡観察では 2%リ
渣について NucleoSpin DNA Tissue(MACHEREY-
ンタングステン酸によるネガティブ染色を施した.
NAGEL)を用いて,マニュアルに従い,DNA 抽出を行
3 遺伝子発現解析
った.
1) RNA 抽出
Total RNA は,生残性試験で作製および調整した静置直
5) リアルタイム PCR 法による生菌数測定
12,13)
を参考
後,1 週間後および 12 週間後の菌液から抽出した.すな
に,C. jejuni,C. coli および C. lari の 16S rRNA 領域を標
わち,
8,000×g で 5 分間遠心後,
沈渣について RNAprotect
的としたハイブリダイゼーションプローブ法により行っ
Bacteria Reagent(QIAGEN)により total RNA の安定化後,
た.反応液組成は,2× Premix Ex Taq (Probe qPCR)
NucleoSpin RNA II(MACHEREY-NAGEL)を用いて抽出
(TaKaRa)
,プライマー各 0.3µM,プローブ 0.2µM,Rox
した.DNase(QIAGEN)処理により,ゲノム DNA を完
Reference Dye II 0.2µL,DNA 溶液 2µL を滅菌蒸留水に添
全に分解後,NucleoSpin RNA Clean-up XS(MACHEREY-
加し,全量を 20µL とした.装置は,7500 Real-Time PCR
NAGEL)で濃縮・精製した.
system(Applied Biosystems)を用い,95℃・30 秒処理後,
2)リアルタイム RT-PCR 法
リアルタイム PCR 法は,Josefsen らの方法
95℃・5 秒,60℃・40 秒の反応を 40 サイクル行った.実
験の結果は,SDS software により解析した.
抽出した total RNA から,SuperScript Ⅲ(invtrogen)を
用いて cDNA を合成し,低温ストレスに関与すると推測
菌 数 測 定 は , 以 下 の と お り 実 施 し た . C. jejuni
した 60 遺伝子について,SYBR Green を用いたリアルタ
ATCC700819 株の 10 倍段階希釈系列を作製後,各希釈液
イム PCR 法で mRNA の発現量を定量解析した.プライ
から抽出された DNA 溶液についてリアルタイム PCR を
マーは,Primer3Plus を用いて設計し,反応液組成は,
実施し,SDS software により検量線を作成した.
KAPA SYBR FAST qPCR Master Mix(2×)Universal
(KAPABIOSYSTEMS),プライマー各 0.4µM,Rox
Reference Dye II 0.4µL,cDNA 溶液(1ng/µL)2µL で,
- 23 滅菌蒸留水を用いて全量 20µL とした.装置は,7500
体は検出された.このうち,1.2×103/100g であった検体
Real-Time PCR system を用い,95℃で 30 秒処理後,95℃・
は,本法では 1.8×103/100g と測定され, 2 つの測定法で
5 秒,60℃・40 秒の反応を 40 サイクル繰り返した後,融
比較すると,菌数差(6.5×102/100g)が認められた.
解曲線分析を行った.結果の解析は,SDS software を用
2 低温(4℃)における C. jejuni の生残性および形態変化
いて行い,ΔΔCt 法により定量解析した.内部標準遺伝
1) 生残性試験結果
子は,4℃において最も安定した発現が確認された rpoA
C. jejuni を 4℃で 12 週間静置保存したところ,全菌数
遺伝子を用いた.
は期間を通して変化はほとんど無く,生存率は 70~80%
3) マイクロアレイ法
を推移していた.培養可能な菌は,mCCDA 培地では 8
Filgen 社の DNA マイクロアレイ遺伝子発現受託解析サ
週間目以降,
血液寒天培地では 11 週間目以降で認められ
ービスにより,マイクロアレイ実験を行った.実験は,
なくなった(図 1)
.
Filgen Array Campylobacter jejuni を使用した単色法で実
2) 形態変化
施し,1680 遺伝子について解析した.
通常状態(4℃で静置直後)と VBNC 状態(4℃で 12
週間後)の菌の形態を,蛍光および電子顕微鏡で観察し
結 果
たところ,通常状態ではらせん状であった本菌は,VBNC
1 市販鶏肉の汚染実態調査
状態では多くの菌が球状に変化していた(図 2)
.
1) 分離検出状況
3 遺伝子発現解析
調査した市販鶏肉 33 検体のうち,23 検体(69.7%)
通常状態と VBNC 状態における遺伝子発現について比
からカンピロバクター属菌が検出された.検出された菌
較すると,リアルタイム RT-PCR 法では,検討した 60
種は,C. jejuni が 16 検体と最も多く,C. coli が 2 検体,
遺伝子のうち,17 種類に変化が認められ,相対比で 1/2
C. jejuni/C. coli 同時検出が 2 検体,Campylobacter spp.が
以下に減少した遺伝子は 12 種類,2 倍以上増加した遺伝
3 検体であった.
子は 5 種類であった.マイクロアレイ法では,1680 遺伝
2) 汚染菌数
子のうち,65 種類に変化が認められ,相対比で 1/2 以下
市販鶏肉のカンピロバクター属菌による汚染菌数につ
に減少した遺伝子は 34 種類,2 倍以上増加した遺伝子は
2
いて,
MPN 法により算出した結果, 7 検体が 15-10 /100g,
31 種類であった(表 2)
.両方の方法で共通して減少した
3 検体が>103/100g となり
(表1)
,
13 検体が102-103/100g,
遺伝子には,代謝関連タンパク質やペリプラズムタンパ
2
平均値は 5.2×10 /100g であった.
ク質,鉄輸送に関連するタンパク質等をコードする遺伝
PMA 処理リアルタイム PCR 法では,多くの検体が検
子が確認された.このうち,代謝関連タンパク質である
3
コハク酸デヒドロゲナーゼ (sdh) 遺伝子の発現は,静置
出限界以下であったが,MPN 法で>10 /100g であった検
表1 市販鶏肉におけるカンピロバクター属菌汚染状況(MPN法)
検体数
陽性数
33
23
菌数 (/100g)
<15 *
15-102
102-103
>103
7
13
3
10
直後および 1 週間後ではほとんど変化がなく,12 週間目
に 1/2 以下に減少し,生残性試験で示された培養能の変
化と同様の推移を示していた.
* 検出限界以下
9
100 (%)
8
90
血液寒天培地
80
mCCDA培地
70
全菌数
6
60
生菌数
5
50
生存率
4
40
log cfu/mL
7
30
3
20
2
10
1
0w
1w
2w
3w
4w
5w
6w
7w
8w
0
9w 10w 11w 12w
Time(weeks)
図1 C. jejuniの4℃保存における菌数変化
図2 形態が球状に変化した C. jejuni
(4℃,12週間後)
- 24 -
遺伝子発現変化
表2 遺伝子発現解析結果
られた.このうち,代謝関連タンパク質である sdh 遺伝
遺伝子数
子の発現は,通常状態の発現と比較して 1 週間後では減
リアルタイムRT-PCR法
マイクロアレイ法
少せず,12 週間後に減少がみられたが,この経時的変化
減少(1/2以下)
12
34
は,寒天培地における培養能と類似していた.Sdh(コハ
増加(2倍以上)
5
31
ク酸デヒドロゲナーゼ)は,エネルギー代謝である TCA
変化せず
43
1615
サイクルに関連する酵素であり,コハク酸からフマル酸
計
60
1680
に酸化するときに作用する酵素である.
この酸化反応は,
カンピロバクターの鶏の腸管定着に重要な酵素反応であ
るとの報告 21)もあり,増殖能に関与する遺伝子発現の抑
考 察
鶏肉のカンピロバクターの汚染実態については多くの
報告
14-18)
があり,国産鶏肉のカンピロバクター汚染率は
制と,菌の VBNC 状態への移行との関連性があることが
推測された.
40%以上とされている.
今回実施した市販鶏肉の汚染実態
カンピロバクターは,低温において長期間生存するこ
調査では,調査検体の 69.7%からカンピロバクター属菌
とができるため,このストレスに対する応答を上手に利
が分離され,鶏肉におけるカンピロバクター汚染が改め
用している細菌と言える.
食品の安全性確保や衛生管理,
て確認された.Black らは,ヒトにおける C. jejuni の発症
適切な検査法の開発は,菌の環境適応機構についての理
2
19)
.本調査
解が必要不可欠であり,C. jejuni の低温における生存様
で MPN 法により求めたカンピロバクター属菌の汚染菌
式の解明について,さらなる研究の進展が期待される.
菌量が 10 個程度であることを報告している
2
3
数は,平均で 5.2×10 /100g を示し,さらに 10 /100g 以
上は 16 検体確認された.この結果より,生肉の不適切な
取扱いや加熱不足による食中毒発生の可能性が考えられ
文 献
1)
厚生労働省ホームページ:食中毒統計,
ることから,生肉の取扱者に対し,カンピロバクター食
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_
中毒防止に向けたさらなる啓発が必要と思われた.
iryou/shokuhin/syokuchu/index.html
通常の PCR 法は,死菌の DNA についても検出してし
2)
三澤尚明:カンピロバクター感染症,モダンメディ
3)
Lázaro, B. et al.: Viability and DNA maintenance in
まう問題点がある.そこで,市販鶏肉中の VBNC 状態の
菌の存在を調べるために,検体の試料原液について,
ア,51,45-52(2005)
PMA 処理後にリアルタイム PCR 法を行うことで,生き
nonculturable spiral Campylobacter jejuni cells after
た菌のみを検出して菌数測定を行った.その結果,同一
long-term exposure to low temperatures. Appl. Environ.
検体の菌数測定結果を培養法と PMA 処理リアルタイム
Microbiol., 65(10), 4677-4681 (1999)
PCR 法とで比較すると,菌数差がみられた.この差は,
4)
Chaisowwong, W. et al.:Physiological characterization
生きているが培養できない,VBNC 状態にある菌と推測
of Campylobacter jejuni under cold stresses conditions:
され,このことより,実際の食品における VBNC 状態の
its potential for public threat. J. Vet. Med. Sci., 74,
菌の存在が明らかとなった.
43-50(2012)
C. jejuni を実験的に低温(4℃)に静置保存したところ,
5)
Rollins, D. M. et al.: Viable but nonculturable stage of
12 週間経過して培地上で集落形成がみられなくなって
Campylobacter jejuni and its role in survival in the
も,菌液に含まれる全菌数のうち 70~80%が生存してお
natural aquatic environment. Appl. Environ. Microbiol.,
り,その形態は,本来のらせん状から球状に変化してい
52, 531-538 (1986)
た(図 2)
.このように,C. jejuni が低温に暴露されるこ
6)
Chaveerach, P. et al.: Survival and resuscitation of ten
とによって VBNC 状態に入り込み,菌の形態が変化する
strains of Campylobacter jejuni and Campylobacter coli
ことは,過去の報告 3-8)と同様であった.
under acid conditions. Appl. Environ. Microbiol., 69,
カンピロバクターの低温における遺伝子発現の網羅的
な解析は,短期間暴露の報告
20)
はあるものの,VBNC 状
711-714 (2002)
7)
Murphy, C. et al.: Environmental survival mechanisms
態の報告は見当たらない.そこで,本研究では,C. jejuni
of the foodborne pathogen Campylobacter jejuni. J.
を 4℃で保存し,VBNC 状態の遺伝子発現についてリア
Appl. Microbiol., 100, 623-632 (2006)
ルタイム RT-PCR 法およびマイクロアレイ法により解明
8)
Jackson, D. N. et al.: Survival mechanisms and
を試みた.通常状態と VBNC 状態の遺伝子発現量を比較
culturability of Campylobacter jejuni under stress
した結果,65 遺伝子に減少あるいは増加の制御反応がみ
conditions.
Antonie
van
Leeuwenhoek.,
96,
- 25 Genome Letters 2003., 2, 18-27 (2003)
377–394(2009)
9)
Cappelier, J.M. et al: Recovery in embryonated eggs of
21) Woodall, C. A. et al.: Campylobacter jejuni gene
viable but nonculturable Campylobacter jejuni cells and
expression in the chick cecum: evidence for adaptation
maintenance of ability to adhere to HeLa cells after
to a low-oxygen environment. Infect. Immun., 73,
resuscitation. Appl. Environ. Microbiol., 65, 5154-5157
5278-5285 (2005)
(1999)
10) Baffone, W. et al.: Campylobacter jejuni loss of
culturability in aqueous microcosms and ability to
resuscitate in a mouse model. Int. J. Food. Microbiol.,
107, 83-89(2006)
11) Yamazaki, M. W. et al.: Development of a multiplex
PCR assay for identification of Campylobacter coli,
Campylobacter fetus, Campylobacter hyointestinalis
hyointestinalis,
Campylobacter
jejuni,
subsp.
Campylobacter lari and Campylobacter upsaliensis. J.
Med. Microbiol., 56, 1467-1473(2007)
12) Josefsen, M. H. et al.: Enrichment followed by
quantitative PCR both for rapid detection and as a tool
for
quantitative
thermotolerant
risk
assessment
campylobacters.
of
food-borne
Appl.
Environ.
Microbiol., 70, 3588-3592(2004)
13) Josefsen, M. H. et al.:Rapid quantification of viable
Campylobacter bacteria on chicken carcasses, using
real-time PCR and propidium monoazide treatment, as
a tool for quantitative risk assessment. Appl. Environ.
Microbiol., 76, 5097-5104((2010)
14) 伊藤武他:市販食肉および食肉店舗や食鳥処理場の
環境における Campylobacter の汚染状況ならびに分
離菌株の血清型別に関する研究.感染症誌,62,
17-25(1988)
15) Ono, K. et al.: Contamination of meat with
Campylobacter jejuni in Saitama Japan. Int. J. Food.
Microbiol., 47, 211-219(1999)
16) 川森文彦他:カンピロバクターの生体および検出方
法に関する研究. 静岡県環境衛生科学研究所報告,
45, 5-11 (2002)
17) 渡邉節他:市販食肉等からのカンピロバクター検出
と低温保存での菌消長. 宮城県保健環境センター年
報, 23, 98-101(2005)
18) 古川一郎他:市販鶏肉におけるカンピロバクター・
ジェジュニの汚染状況および分離菌株の解析. 神奈
川県衛生研究所研究報告, 37, 24-27(2007)
19) Black, R. E. et al.: Experimental Campylobacter jejuni
infection in humans. J. Infect. Dis., 157, 472-479(1988)
20) Stintzi, A.: Investigation of the Campylobacter jejuni
cold-shock response by grobal transcript profiling.
- 26 -
静岡県環境衛生科学研究所報告 No.55 27-30 2012
- 27 -
Bulletin of Shizuoka Institute of Environ. and Hyg.
動物およびヒトにおける
ジフテリア毒素産生コリネバクテリウムの実態調査
微生物部
細菌班
道越勇樹,八木美弥,柴田真也,
佐原啓二,神田
隆*1,杉山寛治*2,
川森文彦
Prevalence of Toxigenic Corynebacterium ulcerans among Animals and Human
Yuki MICHIGOSHI, Miya YAGI, Shinya SHIBATA,
Keiji SAHARA, Takashi KANDA*1,Kanji SUGIYAMA*2
and Fumihiko KAWAMORI
ジフテリア毒素産生 Corynebacterium ulcerans は,イヌやネコからヒトへ感染することが疑われているが,静岡
県内のイヌやネコにおける感染実態は不明である.そこで,県内のイヌ 306 頭およびネコ 250 頭における本菌の実態
調査を実施したところ,ジフテリア毒素産生 C. ulcerans がイヌ1頭およびネコ 7 頭から分離されたことから,イヌや
ネコが本菌のヒトへの感染源となる可能性が示唆された.また, ニホンジカ 107 頭からはジフテリア毒素産生 C.
ulcerans は分離されなかったが,ジフテリア抗毒素抗体が 61 頭中 27 頭で確認された.このことから,ニホンジカの感
染機会は高く、本菌のリザーバーとなっている可能性も考えられる.
Key words:
コリネバクテリウム・ウルセランス,人獣共通感染症,ジフテリア
Corynebacterium ulcerans,zoonosis,diphtheriae
はじめに
Corynebacterium 属菌は動物やヒトにおける皮膚や口
腔内の常在菌である.そのうち,ジフテリア毒素
におけるジフテリア診断基準の項に C. ulcerans および
C. pseudotuberculosis においても留意が必要であるとの
記載があるが,届出の対象とはされていない 3) .
(Diphtheriae Toxin,
以下 DT)
を産生する Corynebacterium
DT 産生 C. ulcerans は、動物からヒトへ伝播すると考
diphtheriae は,ジフテリアの原因菌である.ジフテリア
えられており 4),国内 11 例のヒト感染事例のうち 3 例か
は,
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関す
らは患者と接触したネコから DT 産生 C. ulcerans が分離
る法律(以下感染症法)
」において二類感染症に指定され
され,パルスフィールドゲル電気泳動法により患者株と
ており、扁桃や咽頭に偽膜を形成し呼吸困難を引き起こ
遺伝子型が一致したことから,ネコがヒトへの感染源と
す重篤な疾患である.
なった可能性が疑われている.海外の事例としては,フ
近年,C. diphtheriae の近縁菌である C. ulcerans が DT
ランスでのイヌから飼い主への感染が疑われた事例 5),
を産生し,ヒトにジフテリア様疾患を引き起こすことが
ドイツでのブタから農場主への感染が疑われた事例 6)な
解明された 1).国内における DT 産生 C. ulcerans による
どが報告されている.
ヒト感染事例は,2001 年から 2012 年 6 月までに 11 例の
2)
報告がある .DT 産生 C. ulcerans 感染症は,感染症法
静岡県では,2009 年に県内の動物病院を受診したネコ
から DT 産生 C. ulcerans が初めて分離され 7),静岡県に
おける DT 産生 C. ulcerans の存在が明らかとなった.
静岡県環境衛生科学研究所
そこで,県内のイヌ,ネコおよび野生ニホンジカにお
(〒420-8637,静岡市葵区北安東 4-27-2)
ける DT 産生 C. ulcerans の保有実態を調査し,ヒトへの
Shizuoka Institute of Environment and Hygiene
感染リスクを評価した.
(4-27-2,Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka,420-8637,Japan)
*1:静岡県中部健康福祉センター
*2:株式会社マルマ
- 28 材料および方法
1 供試材料
3 ジフテリア抗毒素抗体価の測定
2010 年 5 月~2012 年 12 月の間に静岡県動物管理指導
採取された血清の抗 DT 抗体の測定は,国立感染症研
センターに搬入されたイヌ 306 頭およびネコ 154 頭,鼻
究所細菌第二部においてVero 細胞を用いた培養細胞法 4)
汁や目やに等の症状で動物病院を受診したイヌ 5 頭およ
により実施した.すなわち,血清検体と標準抗 DT 抗体
びネコ 96 頭,ならびに県内に生息する野生ニホンジカ
(単位既知)をそれぞれ 2 倍連続希釈し,一定量のジフ
107 頭を対象として,鼻腔スワブ,咽頭スワブあるいは
テリア試験毒素を加えて中和反応させた.その後,96 穴
鼻汁を菌分離用に採取した.対象動物のうち,動物管理
培養プレートに培養された Vero 細胞と混合して、4 日間
指導センターに搬入されたイヌ305頭およびネコ154頭,
培養後,DT の中和能を細胞への毒性として細胞の 50%
動物病院を受診したネコ 47 頭ならびにニホンジカ 61 頭
死亡を End point とし,
標準抗 DT 抗体の End point から,
については心臓あるいは橈側皮静脈等から採血し,血清
各血清検体の抗 DT 抗体価を算出した.
分離を行った.
採材日当日に検査を行えなかった場合は,
菌分離用検体は検査時まで 4℃,血清は-80℃で保存した.
結 果
1 DT 遺伝子および DT 産生 C. ulcerans の検出状況
2 C. ulcerans の分離および DT 遺伝子の検出
動物管理指導センターに搬入されたイヌ 306 頭および
菌分離用検体は,勝川変法荒川培地(
(株)日研生物医
ネコ 154 頭について DT 産生 C. ulcerans の検出を試みた
学研究所)に塗沫し,37℃で 48~72 時間好気培養した.
ところ,それぞれ 1 頭(0.3%)および 5 頭(3.2%)か
勝川変法荒川培地にコロニーが発育した場合は,コロニ
ら本菌が分離された(表 1,表 2)
.なお,ネコの 2 頭に
ーの密集部位について Colony Sweep PCR により DT 遺伝
ついては,Colony Sweep PCR により DT 遺伝子が検出さ
子の検出を試みた.DT 遺伝子が検出された場合は,疑
れたが,C. ulcerans の分離には至らなかった.一方,動
わしいコロニーを DSS 培地(
(株)日研生物医学研究所)
物病院を受診したネコ 96 頭中 2 頭(2.1%)から DT 産
に釣菌し,
37℃で 48 時間好気培養後,
糖分解性を調べた.
.なお,動物病
生 C. ulcerans が分離された(表 1,表 3)
C. ulcerans が疑われる性状(ブドウ糖分解,白糖非分解)
院を受診したイヌおよび野生ニホンジカからは本菌は分
を示した分離株について,PCR により DT 遺伝子の検出
離されなかった.
を試みるとともに,BBL CRYSTAL GP(日本ベクトン・
ディッキンソン(株)
)を用いて菌種を同定した.疑わし
2 ジフテリア抗毒素抗体の検出状況
いコロニーが多い場合には,複数コロニー(最大 10 コロ
動物管理指導センターに搬入されたイヌ 305 頭中 3 頭
ニー)をまとめて Group PCR を行い,DT 遺伝子が検出
(1.0%)
,同ネコ 154 頭中 12 頭(7.8%)
,動物病院を受
されたグループ内のコロニーを DSS 培地に釣菌し,上記
診したネコ 47 頭中 4 頭(8.5%)およびニホンジカ 61 頭
の手順で菌種の同定を試みた.なお, DT 遺伝子検出用
中 27 頭(44.3%)から抗 DT 抗体が検出された(表 1)
.
8)
PCR は、病原体検出マニュアル に従って実施した.
なお,動物管理指導センターの陽性個体情報を表 2,動
物病院受診ネコの陽性個体情報を表 3 に示した.
表 1 動物におけるジフテリア毒素産生 C. ulcerans 調査結果
DT*遺伝子検出及び C. ulcerans 菌分離
動物種(由来等)
検体数
DT 遺伝子
DT 産生 C. ulcerans
陽性数(%)
分離陽性数(%)
抗 DT 抗体検出
血清数
抗 DT 抗体
陽性数(%)
イヌ(動管センター搬入)
306
1(0.3)
1(0.3)
305
3(1.0)
ネコ(動管センター搬入)
154
7(4.5)
5(3.2)
154
12(7.8)
イヌ(動物病院受診)
5
0
0
0
0
ネコ(動物病院受診)
96
2(2.1)
2(2.1)
47
4(8.5)
ニホンジカ(野生)
107
0
0
61
27(44.3)
*DT:ジフテリア毒素
- 29 -
表 2 動物管理指導センターにおける陽性個体情報
動物
No.
採材日
イヌ
81
イヌ
性
年
*
地域
飼育
病変
DT**
菌
抗 DT 抗体
遺伝子
分離
(IU/mL)
別
齢
2011.11.11
♂
中
東部
不明
なし
-
-
0.115
4
2012.6.1
♂
若
東部
保護
なし
-
-
0.0052
イヌ
86
2012.8.1
♂
老
西部
保護
歯石多数
+
+
<0.0018
イヌ
126
2012.9.21
♂
若
中部
保護
なし
-
-
0.0036
ネコ
32
2010.6.16
♀
老
東部
飼育
なし
-
-
0.0576
方法
ネコ
37
2010.6.18
♀
中
中部
飼育
なし
-
-
0.0576
ネコ
52
2010.6.25
♂
老
東部
飼育
なし
-
-
0.0816
ネコ
62
2010.6.29
♂
老
西部
保護
鼻汁
+
+
<0.0018
ネコ
64
2010.6.29
♂
老
西部
保護
鼻汁
+
+
<0.0018
ネコ
68
2010.7.1
♀
老
中部
飼育
口腔内潰瘍
+
+
0.0816
ネコ
71
2010.7.1
♀
中
中部
飼育
なし
-
-
0.0816
ネコ
73
2010.7.1
♀
中
東部
飼育
なし
-
-
0.0816
ネコ
86
2010.7.23
♀
中
西部
保護
なし
-
-
0.0288
ネコ
87
2010.7.23
♀
中
西部
保護
なし
-
-
0.0408
ネコ
94
2010.7.23
♀
老
西部
飼育
なし
-
-
0.0816
ネコ
104
2010.8.6
♂
老
中部
飼育
なし
+
-
<0.0018
ネコ
105
2010.8.6
♀
老
東部
保護
なし
-
-
0.0144
ネコ
106
2010.8.6
♀
若
東部
保護
なし
+
+
<0.0018
ネコ
107
2010.8.6
♀
若
東部
保護
なし
+
+
0.0072
ネコ
108
2010.8.6
♂
若
東部
飼育
なし
+
-
<0.0018
ネコ
112
2010.8.20
♀
若
東部
飼育
なし
-
-
0.0408
DT*
菌
抗 DT 抗体
遺伝子
分離
(IU/mL)
*:歯牙より推定:若(3 ヶ月以上~5 歳未満),中(5 歳以上~8 歳未満),高(8 歳以上)
**DT:ジフテリア毒素
表 3 動物病院受診ネコにおける陽性個体情報
No.
採材日
O9
2010.6.24
O18
性
年齢
飼育地
飼育形態
病変
♂
1才
島田市
不明
鼻汁
-
-
0.0816
2010.7.9
♀
8才
島田市
屋内・屋外
鼻汁
-
-
0.0288
O28
2010.7.26
♀
5才
島田市
屋内・屋外
皮下膿瘍
-
-
0.0816
F1
2010.9.13
♀
5才
静岡市
屋内のみ
鼻汁
+
+
NT**
F2
2010.9.15
♀
10 才
静岡市
屋内・屋外
鼻汁
+
+
0.0816
*DT:ジフテリア毒素
別
**NT:検査せず
- 30 考 察
本研究で,県内のイヌやネコが DT 産生 C. ulcerans を
文 献
1)
1986-2008 :the increasing role of Corynebacterium
保有していることが明らかとなったが,本菌の分離率は
ulcerans,Epidemiol. Infect. , 138,1519-1530 (2010)
イヌが 0.3%,ネコが 2.1~3.2%であったことから,ヒト
への感染リスクはイヌよりもネコのほうが高いことが解
Wagner,K. S.et al.:Diphtheria in the United Kingdom,
2)
浦川貴朗他:山形県で確認された C. ulcerans による
明された.このことは,過去に感染したことを意味する
上肢皮下膿瘍の 1 例,病原微生物検出情報,33,
抗 DT 抗体の陽性率が,イヌ(1.0%)よりネコ(8.0%)
271-272(2012)
の方が高かったことからも裏付けられる.
3)
厚生労働省健康局結核感染症課長通知:感染症の予
ニホンジカの検体は,全て DT 遺伝子および菌分離は
防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第
陰性であったが,
抗DT抗体の陽性率が44.3%であった.
12 条第 1 項及び第 14 条第 2 項に基づく届出の基準
そのため,ニホンジカが DT 産生 C. ulcerans を保菌して
等の一部改正について,平成 23 年 1 月 14 日,健感
いる可能性が考えられた.抗 DT 抗体保有率がイヌやネ
発第 0114 第 1 号
コに比べて高率であったにもかかわらず,ニホンジカで
4)
山本明彦:厚生労働科学研究費補助金(新型インフ
本菌が分離されなかった原因としては,狩猟の対象とな
ルエンザ等振興・再興感染症研究事業)分担研究報
らない幼獣時に一時的に本菌に感染し,捕獲時には本菌
告書 コリネバクテリウムに関する研究,34-43
を保有していなかった可能性が考えられる.また,DT
(2012)
産生 C. ulcerans は,動物によっては皮膚炎を引き起こす
5)
9)
Lartigue,M.F.et al.
:Corynebacterium ulcerans in an
ことが知られているので ,本菌が鼻腔や咽頭以外の部
immunocompromised patient with diphtheriae and her
位(皮膚等)に感染していた可能性も考えられる.今後
dog,J.Clin.Microbiol.
,43,999-1001(2005)
は上気道部のスワブだけでなく皮膚炎や潰瘍病変部等の
6)
Schuhegger R.et al.:Pigs as source for toxigenic
Corynebacteriu ulcerans , Emergi. Infect. Dis., 15,
検査も必要であると思われる.
1314-1315(2009)
まとめ
7)
が分離された家庭猫の 1 例,日獣会誌,63,379-382
動物管理指導センターに搬入されたイヌおよびネコ,
動物病院を受診したネコから DT 産生 C. ulcerans を分離
したことから,県内のイヌやネコがヒトへの感染源とな
小川高他:鼻汁より毒素産生 Corynebacterim ulcerans
(2010)
8)
国立感染症研究所:病原体検出マニュアル,
る可能性が示唆された.本県では,現在まで DT 産生 C.
http://www.nih.go.jp/niid/reference/pathogen-manual-
ulcerans がヒトへ感染した事例は報告されていないが,
60.pdf
今後本菌による感染症の発生は十分考えられるので,本
9)
Alves,A.et al.
:Corynebacterium ulcerans diphtheria:
研究の成果を踏まえ,発生時に迅速な検査と患者の環境
an emerging zoonosis in Brazil and worldwide,Rev Saude
調査が行えるよう,検査体制を維持していくことが重要
Publica, 45, 1-16(2011)
であるものと思われる.
謝 辞
本研究は,厚生労働科学研究費補助金,新型インフル
エンザ等振興・再興感染症研究事業,ワンヘルス理念に
基づく動物由来感染症制御に関する研究「コリネバクテ
リウムに関する研究」の支援も受けて実施した.血清の
抗 DT 抗体の測定等,多大なご協力をいただいた国立感
染症研究所 細菌第二部 山本明彦先生および小宮貴子先
生に深謝いたします.また,イヌおよびネコの採材にご
協力いただいた動物管理指導センター職員各位および県
内動物病院の獣医師の皆様ならびに野生ニホンジカの採
材にご協力いただいた農林技術研究所 森林・林業研究セ
ンター職員各位および県猟友会の皆様に深謝いたします.
静岡県環境衛生科学研究所報告 No.55 31-35 2012
Bulletin of Shizuoka Institute of Environ. and Hyg.
- 31 -
肉用鶏由来およびヒト由来の基質特異性拡張型
βラクタマーゼ産生菌群の関連性に関する研究
微生物部
細菌班
渡邉朋恵,廣井みどり*,飯田奈都子,
佐原啓二,川森文彦
静岡県立大学
渕田 琢,大橋典男
Comparative Analysis of Extended-spectrum β-lactamase-producing
Enterobacteriaceae of Human and Broiler Origins
Tomoe WATANABE, Midori HIROI*, Natsuko IIDA,
Keiji SAHARA, Fumihiko KAWAMORI, Taku FUCHITA
and Norio OHASHI
ESBL 産生菌は肉用鶏で高率に分離されるので,鶏肉を介したヒトへの伝播が危惧されている.ESBL 産生
遺伝子は主にプラスミド上に存在し,接合伝達を起こしやすいことが知られている.本研究において,ヒトから
分離された ESBL 産生菌由来プラスミドと肉用鶏から分離された ESBL 産生菌由来プラスミドを制限酵素切断パタ
ーンによって比較したところ,3 種類の制限酵素処理で同一のパターンを示す株がヒト由来株と肉用鶏由来株で確
認されたので,肉用鶏からヒトへ ESBL 産生菌が伝播している可能性は高いと考えられた.また,肉用鶏(ブロイ
ラー,地鶏)と採卵鶏における分離率の比較を行ったところ,ブロイラーが突出して高かった.肉用鶏で高率に分
離される原因として,ESBL 産生菌を保菌している雛が導入された可能性,農場に潜在している可能性,外界から
持ち込まれた可能性が考えられた.
Key words: 基質特異性拡張型βラクタマーゼ産生大腸菌,肉用鶏,プラスミド
extended-spectrum β-lactamase-producing Escherichia coli,broiler,plasmid
はじめに
近年,ペニシリン系薬剤から第 3 世代のセファロスポ
回,ヒトおよび肉用鶏由来株で確認された ESBL 産生遺
伝子がコードされているプラスミドを比較し,関連性を
リン系薬剤まで幅広く分解できる基質特異性拡張型β
解析することで,
ヒトにおける発生原因の究明を試みた.
ラクタマーゼ(extended spectrum β-lactamase : ESBL)産
また,薬剤耐性菌は薬剤の使用によって増加すると考
生菌が増加傾向にあり,院内感染原因微生物として問題
えられるが,国内における家禽に対するセファロスポリ
となっている.特に,第 3 世代セファロスポリン系薬剤
ン系薬剤の使用は禁止されており,肉用鶏から高率に分
は医療分野で広く使用されるため,ヒトへの感染が増加
離される原因は不明である.そこで今回,雛の由来や飼
した場合,
治療に大きな影響を及ぼすと考えられている.
育形態が異なるブロイラー,地鶏および採卵鶏における
ESBL 産生菌は,肉用鶏が高率に保菌しており,肉用鶏
ESBL 産生菌の分離率を比較し,肉用鶏で高率に発生す
およびヒト由来株の ESBL 産生遺伝子型は類似している
る原因究明の一助とすることを目的とした.
1)
という報告がある .ESBL 産生遺伝子は,プラスミドを
介して他の細菌へ伝播することが確認されていることか
2)
ら ,食肉を介したヒトへの伝播が危惧されている.今
材料および方法
1 ヒトおよび肉用鶏由来 ESBL 産生菌の関連性に関する
解析
静岡県環境衛生科学研究所
(〒420-8637,静岡市葵区北安東 4-27-2)
1)
供試菌株
2000~2007 年に一医療機関において患者から分離さ
Shizuoka Institute of Environment and Hygiene
れた ESBL 産生菌 20 株,2007 年に健常人から分離され
(4-27-2,Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka,420-8637,Japan)
た ESBL 産生菌 4 株,2005~2007 年に肉用鶏から分離さ
*東部健康福祉センター
れた ESBL 産生菌 39 株,計 63 株を供試した(表 1)
.
- 32 -
表 1 供試された ESBL 産生菌における接合伝達試験結果
健常人
肉用鶏
2)
較して CVA との合剤のディスクの阻止円が 5 mm 以上拡
ESBL 産生
供試
接合伝達
遺伝子型
株数
成功数
E. coli
CTX-M-2
7
6
E. coli
CTX-M-14
10
8
K. pneumonia
CTX-M-2
2
2
K. oxytoca
CTX-M-2
1
1
E. coli
CTX-M-14
3
1
K. pneumonia
CTX-M-2
1
1
E. coli
CTX-M-2
29
13
よび ClaⅠ(Takara)を用いて消化した.その後,0.7%
E. coli
CTX-M-14
9
7
SeaKem Gold Agarose (Lonza)を用い,100 V で 2 時間,
K. pneumonia
CTX-M-2
1
1
電気泳動を実施した.ゲルをエチジウムブロマイド溶液
由来
患者
および CTX/CVA の阻止円を計測し,単剤の阻止円と比
菌種
大した場合を ESBL 産生陽性とした.また,テトラサイ
クリン(TC),クロラムフェニコール(CP),ホスホマイ
シン(FOM),シプロフロキサシン(CPFX),ゲンタマイ
シン(GM),スルファメトキサゾール/トリメトプリム
(ST)に対する感受性についてもディスク法により検査し
た.
5)
抽出した plasmid DNA を,制限酵素 EcoRⅠ,SphⅠお
で染色後,トランスイルミネーター下で撮影し,得られ
接合伝達試験
リファンピシン含有普通寒天培地(日水)によって高度
にリファンピシン耐性を付与した E. coli DH5α(Takara)
た制限酵素切断パターンを基に各株間の比較を行った.
6)
レシピエントの菌液を各 0.1 mL ずつ 1 mL の LB Broth に
加え,1 夜混合培養を行った.培養液をリファンピシン
( 50μg/mL ) ・ セ フ ォ タ キ シ ム ( 1 μ g/mL ) 含 有 BTB
Lactose Agar(Merck)に塗抹し, 37℃で 24 時間培養し、
接合伝達株を得た.
ESBL 産生菌については, PFGE 法による菌自体の遺伝
子型の比較を行った.泳動条件は,電圧 6 V/cm,12℃,
スイッチタイム 2.2-54.2 秒で 20 時間とした.制限酵素
として Xba Ⅰ (Takara) を用い,サイズマーカーは,
Salmonella Braenderup H9812 の XbaⅠ切断断片を用いた.
得られた PFGE パターンについて,バンドの相違が 3 つ
プラスミドプロファイル
接合伝達株の plasmid DNA は Kado&Liu の変法 4)によ
り抽出した.
4)
パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)法
プラスミドの制限酵素切断パターンが同一であった
をレシピエントとした 3).ドナー(ESBL 産生菌)および
3)
プラスミドの制限酵素切断パターンによる比較
以下のものは関連性のある株とし,バンドの相違が 3 つ
より多いものは関連がないとみなした 5).
2 ブロイラー,地鶏および採卵鶏からの ESBL 産生菌の検
ESBL 産生確認試験および薬剤感受性試験
出
ESBL 産生菌は,第 3 世代セフェム系薬剤に対する MIC
が 2 μg/mL 以上を示し,βラクタマーゼ阻害剤である
クラブラン酸(CVA)により薬剤分解作用が阻害される
ことが特徴である.したがって,接合伝達株について
Clinical Laboratory Standards Institute(CLSI)の方法に従い,
ESBL 産生菌の確認試験を行った.セフォタキシム(CTX)
1)
ESBL 産生菌の分離
2012 年 11~12 月食鳥処理場に搬入,処理されたブロ
イラー,地鶏および採卵鶏について,腸内容物を各 30
検体(10 農場;1 農場当たり 3 検体)採取した.腸内容物検
体を CTX(1μg/mL)含有 Tryptic Soy Broth を用いて前培
養を行い,クロモカルト コリフォーム寒天培地 ES およ
M
ヒト由来 M
肉用鶏由来
20kb-
10kb-
7kb-
5kb-
3kb-
2kb-
1.5kb-
1kb-
0.7kb-
0.4kb-
図1 CTX-M-14型接合伝達株由来プラスミドの
制限酵素(SphⅠ)による切断パターン
M
- 33 びクロモアガーESBL 培地に塗抹し,35℃で 24 時間培養
在を示す単一のバンドが認められたが,複数のプラスミ
を行った.培養後に各分離培地から大腸菌様コロニーを
ドが伝達したと考えられる株が 6 株認められた.再度コ
最大 3 菌株釣菌した.純培養した菌株について大腸菌で
ロニーを選択し,4 株については単一バンドを認める株
あることを生化学的性状検査にて確認し,必要に応じて
が得られたが,2 株が複数バンドの株しか得られなかっ
BBL CRYSTAL E/NF(日本ベクトン・ディッキンソン)を
たため,単一バンドを認める合計 38 株について,その後
用いて同定を行った.
のプラスミド解析および薬剤感受性試験に用いた.
2)
PCR 法によるβラクタマーゼ遺伝子の検出
6)
7)
8)
2)
9)
薬剤感受性試験結果
Lal ら ,Fang ら ,Woodford ら および Kojima ら の
全ての接合伝達株が CTX 耐性であり,ESBL 産生が確
プライマーを用いて,基質特異性拡張型を含む 6 種類の
認された.患者および健常者由来の CTX-M-2 型の接合
βラクタマーゼ(CTX-M-1, CTX-M-2, CTX-M-9, SHV,
伝達株は全て TC 耐性を示した.また,そのうち 8 株は
TEM, CMY-2) を コ ー ド す る β ラ ク タ マ ー ゼ 遺 伝 子
レシピエント株と比べて GM に対する阻止円の縮小が認
(blaCTX-M-1, blaCTX-M-2, blaCTX-M-9, blaSHV, blaTEM, blaCMY-2)の検
められた.肉用鶏由来の CTX-M-2 型接合伝達株も 13 株
出を行った.これらの遺伝子検出には multiplex PCR 法を
中 10 株が TC 耐性を示したが,GM における阻止円の縮
用いた.
小は認められなかった.患者および健常者由来の
3)
CTX-M-14 型の接合伝達株は,
TC および ST 耐性が 1 株,
ESBL 産生確認試験
鶏から分離されたβラクタマーゼ遺伝子保有菌株に
TC 単剤耐性が 1 株,GM における阻止円の縮小を示した
ついて,CLSI の方法に従って ESBL 産生菌の確認試験を
株が 1 株認められた.肉用鶏由来の CTX-M-14 型接合伝
行った.
CTX,
CTX/CVA,
セフタジジム
(CAZ),
CAZ/CVA
達株においては,CTX 以外に耐性は認められなかった.
の阻止円を計測し,単剤の阻止円より CVA 合剤のディ
それぞれの株の由来および CTX-M 型の違いにより特徴
スクの阻止円が 5 mm 以上拡大した場合を ESBL 産生陽
が認められた.
性とした.
3)
プラスミドの制限酵素切断パターンおよび供試され
た ESBL 産生菌の PFGE 法による比較
結
CTX-M-14 型接合伝達株由来のプラスミドの SphⅠに
果
1 ヒトおよび肉用鶏由来 ESBL 産生菌の関連性に関する
よる切断パターンを図1に示した.ヒト由来株から得ら
れたプラスミドは,それぞれ独自の切断パターンを示し
解析
接合伝達試験結果およびプラスミドプロファイル
たことから,ヒト由来株は多様なプラスミドを保有する
供試された ESBL 産生菌 63 株中,40 株から接合伝達
ことが明らかとなった.肉用鶏由来株から得られたプラ
株が得られた(表 1)
. 患者由来株の接合伝達株を得ら
スミドは,農場や分離時期の違いを超えて,ほぼ同一の
れた割合は,健常人および肉用鶏由来株から得られた接
パターンを示した.ヒトと肉用鶏由来株のプラスミド間
合伝達株の割合よりも高い傾向にあった.
で一致するパターンは認められなかった.EcoRⅠおよび
1)
接合伝達株の多くは数十 MDa の巨大プラスミドの存
M
ヒト由来
ClaⅠによるパターンも同様の傾向を示していた.
M M
肉用鶏由来
M
20kb-
10kb-
7kb-
5kb-
3kb-
2kb-
1.5kb-
1kb-
図2 CTX-M-2型接合伝達株由来プラスミドの制限酵素(SphⅠ)による切断パターン
★:ヒト由来株と肉用鶏由来株で同一のパターンを示したもの
- 34 -
表 2 鶏糞便からの ESBL 産生菌分離状況
検体(糞便)の
検体数
ESBL 産生菌の検出
ESBL 産生菌
由来
(農場数)
陽性検体数(%)
陽性農場数(%)
分離菌株数
ブロイラー
30 (10)
22 (73.3)
9 (90.0)
100
地鶏
30 (10)
1 (3.3)
1 (10.0)
6
採卵鶏
30 (10)
1 (3.3)
1 (10,0)
6
CTX-M-2 型接合伝達株由来のプラスミドの SphⅠに
今回検査を行ったブロイラー農場のうち,5 農場につ
よる切断パターンを図 2 に示した.全体的な切断パター
いては 2007 年にも検査を行っていたため,
日本で多く分
ンは類似しているが,バンドの本数とサイズがやや異な
離される ESBL 産生遺伝子型である CTX-M-型について
るグループが,ヒト由来および肉用鶏由来株でそれぞれ
比較を行った.
いずれの農場においても 2007 年に分離さ
数種類認められた.★で示した切断パターンは患者由来
れなかった ESBL 産生遺伝子型が検出され,農場 D に至
株 1 株と肉用鶏由来株 2 株で一致しており,これら 3 株
っては ESBL 産生菌が 2007 年には分離されなかったが,
はいずれも CTX と TC に耐性を示した.EcoRⅠおよび
2012 年には高率に分離された(表 3).
ClaⅠによる切断パターンも同一であったが,これらの 3
株の分離年は異なっており,菌自体の PFGE パターンも
異なっていた.
2 ブロイラー、地鶏および採卵鶏からの ESBL 産生菌分離
状況
1)
考 察
肉用鶏とヒトで多く検出される CTX-M-14 型と
CTX-M-2 型のプラスミドの制限酵素切断パターンの比
較を行ったところ,CTX-M-2 型の患者由来株 1 株と肉
ESBL 産生菌の分離状況
用鶏由来株 2 株で一致した株が確認された.これらの株
2012 年に検体を採取したブロイラー,地鶏および採卵
の PFGE パターンは異なっていたことから,同一起源の
鶏における ESBL 産生菌の分離率は,それぞれ,73.3%
プラスミドが接合伝達などにより大腸菌間を伝播し,患
(n=30),3.3%(n=30)および 3.3%(n=30)でとなり,ブロイラ
者と肉用鶏に分布している可能性が考えられた.肉用鶏
ーが突出して高かった(表 2).
が ESBL 産生大腸菌を高率に保菌しており 2),鶏肉の包
2)
装内浸出液(118 検体中 45 検体)から ESBL 産生大腸菌が
PCR 法によるβラクタマーゼ遺伝子の検出状況
地鶏と採卵鶏から分離された ESBL 産生菌は全て
分離されていることから 10),肉用鶏から鶏肉を介してヒ
blaCTX-M-1 を保有していたが,ブロイラーから分離された
トへ ESBL 産生菌が伝播し,分布を拡大していく可能性
ESBL 産生菌は複数の遺伝子をもつ菌株も多く検出され,
は高いと考えられる.
また,CTX-M-14 型の肉用鶏由来プ
全体的に遺伝子型の種類が豊富であった.
ラスミドの制限酵素切断パターンは農場や分離時期の違
表 3 2012 年と 2007 年におけるブロイラーの農場別 ESBL 産生遺伝子型
農場
A
B
C
D
E
ESBL 産生遺伝子型
CTX-M-1
+
CTX-M-2 CTX-M-9
CTX-M-9
その他
(SHV,TEM)
1
4
分離年
ESBL 産生菌
分離株数
CTX-M-1
2012
11
1
2007
8
2012
14
2007
4
3
2012
10
10
2007
5
2012
17
2007
0
2012
11
2007
6
5
8
3
7
4
1
5
12
5
11
3
3
- 35 いを超えて一致していたことから,同一起源のプラスミ
Shizuoka prefecture, Japan. Jpn. J. Infect. Dis., 64,
ドが拡散している可能性が示唆された.
153-155 (2011)
本報告において解析した CTX-M-2 遺伝子をコードす
2)
Hiroi, M. et al.: Prevalence of extended-spectrum
一部異なるが類似しているものの全塩基配列が渕田らに
β-lactamase-producing Escherichia coli and Klebsiella
pneumoniae in food-producing animals. J. Vet. Med.
よって比較解析された 11).その結果,これらのプラスミ
Sci., 74, 189-195 (2012)
るプラスミドのうち,3 種類の制限酵素切断パターンが
ドの塩基配列は高い相同性を示しており,ヒト臨床材料
3) 中谷 林太郎他著, 日本細菌学会教育委員会(編):R
中の ESBL 産生大腸菌が持つ CTX-M-2 遺伝子をコード
プラスミドの分子遺伝学的実験法 第 1 版. 菜根出
するプラスミドが,肉用鶏糞便中の ESBL 産生大腸菌の
版 (1983)
保有するプラスミドと関連している可能性が示唆されて
4)
いる.
Sasakawa, C. et al.: Molecular Alteration of the
140-megadalton plasmid associated with loss of
virulence and congo red binding activity in Shigella
ブロイラー,地鶏および採卵鶏の雛の由来を比較する
flexneri. Infect. Immun., 51, 470-475 (1986)
と,地鶏の種鶏は特定の場所で飼育されており,地鶏の
雛も同様の場所から搬入されるが,ブロイラーや採卵鶏
5) Tenover, F. C. et al.: Interpreting chromosomal DNA
は大規模孵化場から雛を導入する.また,飼育形態につ
restriction patterns produced by pulsed-field gel
いて,ブロイラーと地鶏は平飼いが多く,他個体と接触
electrophoresis: criteria for bacterial strain typing, J.
する機会があるが,採卵鶏はケージ飼いが多く,他個体
Clin. Microbiol., 33, 2233-2239 (1995)
と接触する機会がほとんどない.今回,雛の由来が異な
6)
Lal, P. et al.: Occurrence of TEM & SHV gene in
るが,飼育形態が類似しているブロイラーと地鶏で差が
extended spectrum β-lactamases (ESBLs) producing
出たため,ブロイラー農場に ESBL 産生菌を保菌してい
Klebsiella sp. isolated from a tertiary care hospital.
る雛が導入された可能性が考えられる.また,雛の由来
Indian J. Med. Res., 125, 173-178 (2007).
が類似しているが,飼育形態が異なるブロイラーと採卵
7) Fang, H. et al.: Molecular epidemiological analysis of
鶏の間でも ESBL 産生菌の保菌率は顕著な差がみられた.
Escherichia coli isolates producing extended spectrum
これらのことから,ブロイラーの保菌率が高い原因とし
β-lactamases for identification of nosocomial outbreaks
ては,ブロイラー農場に ESBL 産生菌が高率に潜在して
in Stockholm, Sweden. J. Clin. Microbiol., 42,
いることや,採卵鶏に比べブロイラーは他個体との接触
5917-5920 (2004).
機会が多いことなどが,可能性として考えられる.
8) Woodford, N. et al.: Multiplex PCR for rapid detection of
genes
2012 年と 2007 年に検査を行った 5 農場における ESBL
encoding
CTX-M
extended-spectrum
β
産生遺伝子型の比較をおこなったところ,同一農場にお
-lactamases. J. Antimicrob. Chemother., 57, 154-155
いても調査年による検出状況は異なっていることが確認
(2006).
された.国内においてセファロスポリン系薬剤の使用は
9)
Kojima,
A.
et
al.:
Extended-spectrum- β
禁止されていることから,農場内に常在している腸内細
-lactamase-produsing Escherichia coli strains isolated
菌等が新たな ESBL 産生遺伝子型を獲得することは困難
from farm animals from 1999 to 2002: Report from the
であると考えられるので,飼料などを介して外界から持
Japanese veterinary antimicrobial resistance monitoring
ち込まれた可能性も考えられる.今後,雛,農場,飼料
program.
等の調査を行い,原因を解明し,肉用鶏における ESBL
3533-3537 (2005).
産生菌の発生防止対策を講ずることが必要であると考え
Antimicrob.
Agents
Chemother.,
49,
10) 黒崎守人他:島根県における食肉の基質特異
性 拡 張 型 βラ ク タ マ ー ゼ (ESBL)産 生 大 腸 菌
られる.
の汚染状況及び食肉由来株とヒト由来株と
謝 辞
検体採取にご協力いただいた西部食肉衛生検査所の皆
様に深く感謝申し上げます.
の 比 較 , 島 根 県 保 健 環 境 科 学 研 究 所 報 , 51,
45-47 (2009)
11) 渕田琢他 :Complete sequences and comparative
analysis of IncN plasmids encoding blaCTX-M-2 from
文 献
1) Hiroi, M. et al.: A survey of β-lactamase-producing
Escherichia coli from farm animals and raw retail meat in
broiler and human origin,第35回日本分子生物学会年
会プログラム集,p527 (2012)
- 36 -
静岡県環境衛生科学研究所報告 No.55 37-39 2012
Bulletin of Shizuoka Institute of Environ. and Hyg.
- 37 -
クロルヘキシジングルコン酸塩を含有する
医薬部外品「清浄綿」の確認試験について
医薬食品部
医薬班
上村慎子,岩切靖卓,内田恭之,
渡辺陽子,前田有美恵,小和田和宏
Study on Identification Test of Clean Cotton
Containing Chlorhexidine Hydrochloride
Mitsuko KAMIMURA, Yasutaka IWAKIRI, Takayuki UCHIDA,
Yoko WATANABE, Yumie MAEDA and Kazuhiro OWADA
承認不要医薬部外品基準に定められる「クロルヘキシジングルコン酸塩を含む医薬部外品の清浄綿」の確
認試験である沈殿の生成およびその呈色反応において,期待される結果が認められない事例があった.清浄綿の
湿潤液中の定量結果は基準の範囲内であったことから,製品の品質でなく,試験方法に問題があると考えられた.
そこで,確認試験方法の改良策を検討した結果,清浄綿からのクロルヘキシジングルコン酸塩の抽出方法を変更
することにより,沈殿の生成および呈色を明瞭に確認することができた.
Key words: 清浄綿,クロルヘキシジングルコン酸塩,承認不要医薬部外品基準
clean cotton, chlorhexidine hydrochloride, standard of quasi-drug exempted approval
はじめに
1) 清浄綿
「クロルヘキシジングルコン酸塩を含む医薬部外品の
1)
脱脂綿に 0.02%クロルヘキシジングルコン酸塩液を湿
清浄綿」の品質規格は,承認不要医薬部外品基準 (以
潤させた市販の製品を用いた.
下,基準)により定められているが,当研究所で収去検
2) 試薬および試液
査を実施したところ,確認試験の 1 項目で,期待される
20%クロルヘキシジングルコン酸塩溶液は和光純薬工
結果が認められず,配合成分であるクロルヘキシジング
業(株)製一級を用いた.その他の試薬は特級以上のもの
ルコン酸塩の確認ができない事例があった.本製剤は,
を用いた.
基準によると,
「グルコン酸クロロヘキシジン水溶液を脱
2 試験方法
脂綿に湿潤させた無菌の製剤」で,その湿潤液は「グル
1) 基準の方法
コン酸クロロヘキシジン 0.018~0.022%を含む」とされ
基準に定められている「クロルヘキシジングルコン酸
ており,湿潤液の定量結果は基準の範囲内であった 2).
塩を含む清浄綿」の確認試験(イ)の規格および試験方
今回,この事例について試験方法の改良策を検討した
法は次に示すとおりである.
ところ,清浄綿からのクロルヘキシジングルコン酸塩の
本品の内容物 30g を試料とし,漏斗上でガラス棒で数
抽出方法を変更することにより,沈殿の生成および呈色
回押し,ろ過した液を試験液とする.試験液に硫酸銅試
を明瞭に確認することができたので報告する.
液 0.5mL を加えるとき,液中に白色の沈殿物が生じる.こ
の沈殿物は沸騰するまで加熱するとき,
淡紫色を呈する.
方 法
1 試料および試薬・試液
2) 塩酸試液による抽出法(今回検討した方法)
清浄綿を取り出し,0.02mol/L 塩酸試液を加えてガラ
ス棒で数回押して混和し,綿をしぼって抽出液を得た.
静岡県環境衛生科学研究所
この抽出液を水酸化ナトリウム溶液で中和した液を試験
(〒420-8637,静岡市葵区北安東 4-27-2)
液とした.基準の方法に準じ,試験液に 0.5mol/L 硫酸銅
Shizuoka Institute of Environment and Hygiene
試液 0.5mL を加え,液中に白色の沈殿物を生じさせた.
(4-27-2,Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka,420-8637,Japan)
これを沸騰水浴中で加熱したとき,この沈殿物が淡紫色
- 38 を呈することを確認した.
濃度が薄いため,沈殿の生成と呈色の確認が困難である
3) 陽性対照
ことが予想された.そこで,0.002%溶液を陽性対照とし
20%クロルヘキシジングルコン酸塩溶液を水で希釈し,
て,基準に従って試験したところ,ごく少量の沈殿が生
湿潤液と同じ 0.02%溶液およびその 10 分の 1 濃度の
成し,加熱後に淡紫色を呈した.このことから,期待ど
0.002%溶液を調製し,これを試験液として 1)と同様に操
おりの試験結果が得られないのは,試験液中の濃度が薄
作した.
いことだけが原因ではないと考えられた.
3 クロルヘキシジングルコン酸塩の抽出方法の検討
結果および考察
1 基準の方法
この確認試験における沈殿の生成およびその呈色の反
応機構は明らかでないが,クロルヘキシジンのグアニジ
市販の製品を用い,基準に従って試験を行った結果,
ル基の金属錯体形成に由来する反応と考えられている 5).
白色の沈殿がわずかに生成したが,その量は,陽性対照
ほかのグルコン酸塩ではこの反応が起きないことから,
(0.02%)と比較して明らかに少量で,沸騰するまで加
クロルヘキシジンによる反応と考えられる.しかし,塩
熱したとき沈殿が淡紫色を呈することは確認できなかっ
でないクロルヘキシジン溶液では,生じた沈殿の呈色は
た(図 1(1))
.一方,陽性対照(0.02%)では,生成し
淡紫色でなく青色であったことから,クロルヘキシジン
た白色の沈殿を加熱したとき,淡紫色を呈することが明
だけでなく,グルコン酸もこの反応に関与しており,ク
瞭に確認できた(図 1(3))
.
ロルヘキシジングルコン酸塩の確認試験としては,特異
性に優れた試験であると考えられた.そのため,この原
理を生かした改良方法を検討することとした.清浄綿の
抽出液にクロルヘキシジンを添加した場合には,沈殿は
紫がかった色を呈したことから,基準で製剤の試験がで
きない理由は,清浄綿の抽出液中のクロルヘキシジング
ルコン酸塩が低濃度であるだけでなく,グルコン酸とク
ロルヘキシジンの存在比の違いなどが影響していると考
(1)
(2)
(3)
えられた.
一方,基準に定められているもうひとつの確認試験
(ア)や定量は,抽出後,クロルヘキシジンの吸光度を
測定する方法であるが,これらでは問題なく試験を行う
図 1 試験液(1)~(3)に硫酸銅試液を加え、沸騰する
まで加熱したもの
ことができており,試験液中にクロルヘキシジンが十分
抽出されていると考えられた.これらの試験液は,塩酸
(1) 基準に従い清浄綿から得られた試験液(沈殿
はごく少量で淡紫色を呈さない)
(2) 塩酸試液を加えて清浄綿から抽出後,中和し
グアニジル基
クロルヘキシジン
た試験液 (淡紫色を呈する沈殿)
(3) 陽性対照(0.02%)
(淡紫色を呈する沈殿)
※下段は試験管を底面から見た様子
2 クロルヘキシジングルコン酸塩液の濃度の検討
この確認試験の原理は,日本薬局方 3)(以下,日局)
各条クロルヘキシジングルコン酸塩液の確認試験と同様
であるが,その試験液の濃度は,日局各条の試験方法で
は 1%であるのに対し,清浄綿の湿潤液は,50 分の 1 の
0.02%である.また,クロルヘキシジングルコン酸塩は,
脱脂綿に吸着することが知られており,0.02%溶液では,
脱脂綿への吸着率は 87.6%とされる 4).そのため,綿から
グルコン酸
の抽出液中の濃度は,湿潤液のさらに 10 分の 1 の約
0.002%と考えられ,クロルヘキシジングルコン酸塩液の
図 2 クロルヘキシジンおよびグルコン酸の構造
- 39 試液を加えた抽出用メタノールや抽出用エタノールによ
り抽出されたものである.そこで,本確認試験において
も抽出溶媒としてメタノールおよび塩酸試液について検
討した.
まず,綿からの抽出液にメタノールを加えたところ,
液に白濁が生じ,硫酸銅試液の添加による沈殿の生成が
確認できなかった.なお,沈殿の生成を確認しやすいよ
う,抽出溶媒の量はできるだけ少ない範囲で検討した.
次に,塩酸試液で抽出した結果,塩酸の存在下では沈
殿の生成反応が起きなかった.そこで,塩酸試液で抽出
したのち塩酸を中和したものを試験液として試験を行っ
たところ,
硫酸銅試液の添加により白色の沈殿が生成し,
加熱により沈殿が淡紫色を呈することを明瞭に確認する
ことができた(図 1(2))
.
まとめ
「クロルヘキシジングルコン酸塩を含有する清浄綿」
の基準による確認試験において,綿からの抽出方法を検
討した.塩酸試液を用いて抽出し,その後中和したもの
を試験液として試験したところ,沈殿の生成および呈色
を明瞭に確認することができた.今回,試験液の調製方
法を改良することにより,クロルヘキシジングルコン酸
塩の確認試験の原理や操作を大きく変更することなく,
実施することが可能となった.
文 献
1) 厚生省:薬事法第 14 条第 1 項の規定に基づく承認不
要医薬部外品基準,
平成 9 年 3 月 24 日付厚生省告示第
54 号
2) 上村慎子他:医薬品等の規格試験法に関する問題点
(第九報),静岡県環境衛生科学研究所報告,53,59- 62
(2010)
3) 厚生労働省:第十六改正日本薬局方,平成 23 年 3 月
24 日付厚生労働省告示第 65 号
4) 吉田製薬(株):消毒薬の脱脂綿などへの吸着について,
Y's Letter, 2 (7) , (2005)
5) 日本薬局方解説書編集委員会:第十六改正日本薬局方
解説書,C-1563-1567,廣川書店,東京 (2011)
- 40 -
静岡県環境衛生科学研究所報告 No.55 41-44 2012
- 41 -
Bulletin of Shizuoka Institute of Environ. and Hyg.
試験検査業務における「ミス・ヒヤリハット事例」
医薬食品部
医薬班
渡辺陽子,岩切靖卓,内田恭之,
上村慎子,前田有美恵,小和田和宏
Miss Hiyari-hatto Case Studies in Chemical Inspection Work
Yoko WATANABE,Yasutaka IWAKIRI,Takayuki UCHIDA,
Mitsuko KAMIMURA,Yumie MAEDA and Kazuhiro OWADA
試験検査の精度管理事業の一環として,環境衛生科学研究所,保健所および食肉衛生検査所が行う試験検
査業務において発生した「ミス・ヒヤリハット事例」を検査等精度管理委員会事務局が取りまとめ,各所で情報
共有することにより,重大なミスの未然防止を図っている.今回,2007 年度から 2011 年度までの 5 年間において
報告された理化学試験検査に関する「ミス・ヒヤリハット事例」について集計し,生じやすいエラーを整理した.
ミス・ヒヤリハットを原因別に分類すると,不注意によるものが最も多く,チェックを十分行う,慎重に
操作する等の対策とともに,ヒューマンエラーを生じさせないための方策等についての教育訓練も必要であると
考えられた.
Key words: ヒヤリハット事例,化学検査,精度管理
hiyari-hatto case study,chemical inspection,accuracy control
はじめに
方 法
静岡県では,
試験検査の精度の信頼性を確保するため,
1 調査対象
環境衛生科学研究所,保健所および食肉衛生検査所が行
2007 年度から 2011 年度の 5 年間において,各所から
う試験検査について,1997 年度から体系的な精度管理事
検査等精度管理委員会事務局に報告された「ミス・ヒヤ
業を実施している 1).2000 年度からは,試験検査業務に
リハット事例」のうち,理化学試験検査に関するものを
おける「ミス・ヒヤリハット事例」を検査等精度管理委
集計した.
員会事務局が取りまとめ,それらを各所で情報共有する
2 報告項目
ことにより重大なミスの未然防止を図っている.
この
「ミ
「ミス・ヒヤリハット事例」の報告項目は,発生場所,
ス・ヒヤリハット事例」の報告において,
「ミス」とは,
業務区分,検体名,検査項目,試験工程,ミス・ヒヤリ
エラーが発生した検査結果を行政処分等の根拠としたり,
ハットの内容,顛末,原因,今後の対応等とされている.
エラーにより怪我等の被害があったりした事象,
「ヒヤリ
ハット」とは,エラーがあったが試験途中で気づき修正
されたものや,検査結果が検査区分責任者の段階でチェ
ックが入り訂正されたもの等とされている.
結果および考察
1 ミス・ヒヤリハットの年度別件数
2007 年度から 2011 年度の 5 年間において,理化学試
2000 年度以前の「ミス・ヒヤリハット事例」について
2)
験検査におけるミス・ヒヤリハットの報告件数は,ミス
は,大村らにより集計分析され報告されている .今回
が 1 件(1%)
,ヒヤリハットが 135 件(99%)であった.
は,
近年 5 年間の理化学試験検査に関する事例を集計し,
報告件数を年度別に表すと,図 1 に示すように,年々件数
分析したので報告する.
が増加しているが,
これは 2007 年度から保健所で行う理
化学試験検査業務が中部保健所化学検査課に集約され情
静岡県環境衛生科学研究所
報の共有化を深めていることによるものと考えられる.
(〒420-8637,静岡市葵区北安東 4-27-2)
2010 年度に発生したミス 1 件の内容は,標準作業書に
Shizuoka Institute of Environment and Hygiene
記載された必要な試料数量を用いずに試験を行い,その
(4-27-2,Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka,420-8637,Japan)
検査結果を根拠に行政処分を行う際に,他自治体からの
- 42 確認によって規定どおりに検査が行われていないことが
判明したというものであった.
2 精度管理部会区分別の解析
ミス・ヒヤリハット事例を精度管理部会別に分けると,
食品部会 116 件(85%)
,医薬品部会 20 件(15%)であ
った.保健所で実施している検査は食品が大半を占め,
50
検査件数も多いことから,食品部会での件数が多かった
ミス
ヒヤリハット
40
ものと考えられる.
件 30
数 20
3 試験工程別区分別の解析
ミス・ヒヤリハット事例は,試験検査の工程の種類と
10
して,
「受入→測定準備→前処理→操作→計算→通知→後
0
H19
H20
H21
H22
H23
年度
処理」の 7 段階のいずれに該当するエラーであったかを
分類し,具体的な内容を記載して報告することとなって
いる.図 2 に工程別のミス・ヒヤリハットの件数,表 1
図 1 ミス・ヒヤリハットの年度別件数
に工程別の主なエラーの内容を示した.
ハインリッヒの法則と呼ばれる経験則は,1 件の重大
事故の背後に29件の小規模な事故と300件のヒヤリハッ
受入
トエラーが存在することを示している 3). 重大な事故に
測定準備
前処理
至る前のヒヤリハット事例を収集し,分析し,対策を講
じることは事故防止の有効な手段となる.
2000 年度以前の集計 2)では,ミス事例として怪我 2 件
があったが,今後も引き続き人身事故がないように注意
していく必要がある.
また,ミス・ヒヤリハット事例のようなマイナス情報
1
14
21
操作
工
程
71
計算
5
12
通知
後処理
4
8
その他
0
はその事象を起こした当事者にとっては報告しづらいも
10 20
のであるため,報告の意義を理解し,報告しやすい職場
の雰囲気作りも必要である.
30 40 50 60
件数
70 80
図 2 ミス・ヒヤリハットの工程別件数
表 1 工程別のヒヤリハット事例
工程
受入
測定準備
前処理
エラーの内容
試験品の検品
試験品の取り違い(飛び番号の試験品番号)
標準溶液の調製
希釈溶媒・希釈倍率・調製濃度の間違い,保存中の劣化
装置の準備
パージ流量のまま送液し高圧停止,ガス栓の開栓忘れ,ガス圧不足
検体均一化
検体付着の脱酸素剤やフィルムを共に処理
試料溶液の調製
試薬
操作
捕集蒸気ガスの漏出,分析ロートからの液漏れ,ラベルシールの剥がれ
古い試薬の使用,試薬グレードの間違い,試薬の取り違い(類似名称)
,
スポイト瓶に別の溶媒を補充,複数試薬使用時にピペットを別の試薬に挿入
器具
安全ピペッター使用時のピペット破損,器具の汚れ,ぶつけて破損
LC
ライン洗浄不足,移動相のセット・比率の間違い,バイアルの置き忘れ
TLC
マーキング筆記具の選択間違い(ボールペンは不適)
,展開溶媒の間違い
計算
結果記録表
誤字脱字,結果の判定誤り,計算式での数字の取り扱い(桁数)
通知
検査結果通知書
公印間違い,誤字,規格の誤記載(法令施行日直後)
,送付先保健所の間違い
後処理
器具の洗浄等
ピペットの汚れ(詰まり)
,置き場所の間違い,廃棄ガラスによる怪我の恐れ
その他
その他
冷蔵庫のフィルター清掃不良,停電後の装置条件の確認
- 43 集計した報告書において,試料溶液の調製に関するエ
件は,1 件はミス事例で他自治体からの通報によるもの,
ラーについて,報告する者によって前処理段階に分類す
2 件はヒヤリハット事例で点検業者によるものであった.
る場合と操作段階に分類する場合とがあったが,報告さ
2000 年度までの集計 2)においては,
本人 78%,
課内 7%,
区分責任者 9%であり,これと比べると近年 5 年間にお
れた工程別に基づいて集計した.
受入段階では,検品時の試験品の取り違い等のエラー
いては,課僚による発見割合が高くなっている.本人と
が報告されている.測定準備段階では,標準溶液の調製
課僚が同時に気付いたエラーもあり,本人のみでなく,
に関わるエラーが多く,機器のウォーミングアップ,試
共に試験検査を行う課僚がエラーを発見するのに重要な
験工程の誤転記等のエラーの報告があった.前処理段階
役割を果たしていることが分かった.
では,試料溶液の調製に関わるエラーが多かった.最も
しかし,検査担当部署内で発見できなかったエラーも
件数が多かった操作段階では,試薬および機械器具の取
あり,これが今後のミス事象に発展する可能性がある.
り扱いに起因するエラーが多く,特に汎用機器である液
組織のエラーの発生メカニズムとして,
「検出の失敗→指
体クロマトグラフ
(HPLC)
に関するものが多かった.
摘の失敗→修正の失敗」というプロセスがあることが報
計算段階では,計算式で使用する数字の桁数に関するエ
告されている 4).試験検査業務で発生したエラーは,そ
ラーが報告されている.通知段階では,規格の誤記載等
の試験検査を担当した者のみの責任ではなく,試験検査
のエラーがあった.後処理段階では,検査終了後の器具
担当部署としてのエラー事象であることを再認識し,区
の後片づけに係るエラーが多く,怪我につながりうる事
分責任者をはじめ担当部署内でエラーを見逃さず,発生
例もあった.その他として,業者の点検時に係るエラー
したエラーに対しては適切に対応していく努力を続けて
や常時通電されている機器に係るエラーがあった.
いかなければならない.
工程別にヒヤリハットの内容をまとめることにより,
どのような工程でエラーが生じやすいのかが具体的に明
2) ミス・ヒヤリハットの発見の時期
らかとなった.この集計結果は,2012 年度検査等精度管
ミス・ヒヤリハット事例は,本検査中(最初に行った
理委員会理化学検査担当者研修会において各所で情報共
検査)
,追検査中(本検査で結果に支障がある等の理由で
有した.過去に生じた同様のエラーは再度生じさせない
行った再検査)
,
検査終了後
(担当者が結果を起案した後)
という意識がさらに高まることを期待している.
の3つに分類して報告することになっている.
事例を発生の時期で分類すると,本検査中 105 件
4 ミス・ヒヤリハットの顛末
(77%)
,追検査中 2 件(1%)
,検査終了後 12 件(9%)
,
1) ミス・ヒヤリハットの発見の端緒
その他 17 件(13%)であった(図 4)
.
エラーを誰が発見したのかという発見の端緒で分類す
追検査中 2 件は,再試験をした際に試薬または試料採
ると,本人 87 件(62%)
,課僚 43 件(31%)
,所内(他
取量を間違えたという内容であった.
検査終了後 12 件は,
所の検査依頼課を含む)5 件(4%)
,外部 3 件(2%)
,
通知および後処理に関するもので,その他 17 件は,試験
その他 2 件(1%)
,区分責任者による発見は 0 件であっ
の準備,機器点検等におけるものであった.
追検査中に発見されたエラーは,基準違反疑いまたは
た(図 3)
.
区分
責任者
0%
所内
4%
外部
2%
試験のやり直しによる再試験中に生じたものであり,時
その他
1%
間・試料等に制限がある中での試験検査担当者の心的動
揺も影響したのではないかと考えられる.
課僚
31%
本人
62%
その他
検査 13%
終了後
9%
追検査中
1%
図 3 ミス・ヒヤリハットの発見の端緒
本検査中
77%
所内で発見された 5 件は,検査依頼担当課により発見
された通知段階のエラーであった.外部で発見された 3
図 4 ミス・ヒヤリハットの発見の時期
- 44 中で忘れた,焦り等様々な要因が含まれているものと考
5 ミス・ヒヤリハットの原因
エラーは,様々な要因が複合的に作用して起こるもの
えられる.
であるが,訓練不足(検査を行うのに必要な知識や経験
事例報告書には,ミスやヒヤリハットを生じた者が考
が不足しているために起こるエラー),環境条件の不備
えた対策等も記載されており,チェックを十分に行う,
(検査室が暗い,狭い,騒がしい,実験台の配置や試薬
複数人で確認する,
慎重に操作する等の対策が多かった.
類の配列の不備等による起こるエラー)
,
不注意
(意識
(注
ヒューマンエラー対策として,エラーを生じやすい作
意)がたまたま目的としている対象以外の対象に向いて
業等について,①やめる,②できないようにする,③分
いて起こったエラー)の3つに分類して報告するように
かりやすくする,④やりやすくする,⑤知覚させる,⑥
なっている.
認知・予測させる,⑦安全を優先させる,⑧能力を持た
エラーを原因別に分類すると,訓練不足 10 件(7%)
,
せる,⑨自分で気づかせる,⑩検出する,⑪備えるとい
環境条件の不備 13 件(9%)
,不注意 115 件(76%)
,そ
う 11 の戦術が報告されている 7).このようなエラーを生
の他 12 件(8%)とであった(図 5)
.
じさせないための方策等についての教育訓練も今後は必
訓練不足によるエラーは,転入時や定期的な教育訓練
要ではないかと考える.
によって減らすことができる.
まとめ
環境条件の不備については,速やかに改善していくべ
きであり,
既に装置更新等により対応されたものもある.
本県が 2000 年度から継続している「ミス・ヒヤリハッ
医療分野で調剤ミス防止対策として薬品棚の配置の工夫
ト事例」の報告制度によって現在までに多くの事例が収
や注意書きによる注意喚起等の対策がとられているよう
集され,各所で共有することが可能となっている.過去
に 5,6),試験検査においても,試験室内での配置等の改善
の事例や他人の経験から学んでいくことは,重大なミス
や工夫によってエラーを生じにくい作業環境にしていく
の発生防止にとって有用である.今後もこの事例を収集
ことは可能である.
し活用していくには,ヒヤリハット事例の収集目的を明
不注意に対しては,試験検査担当者自らの意識を高め
ていくことも必要であるが,エラーを生じにくい作業手
確化し,再度同様の事象を生じないという意識の共有化
が必要である.
順等を工夫していくことも大切である.試薬の間違い等
また,些細なエラーに対しても,日ごろから誘発要因
は,チェックシートに実施した内容を記録し,第三者が
を限りなく少なくするよう努力し,エラー等のマイナス
別の視点で確認する等の方策が有効である.
情報についても日ごろから気兼ねなく共有できる円滑な
その他に分類された原因は,思い込みや業者との連絡
コミュニケーションを行っていくことが大切である.
不備等であった.立入業者が起こしたエラーも発生して
いるため,関係業者との連絡・連携は十分に行っていか
なければならない.
文 献
1) 静岡県:検査等精度管理実施要綱,1997 年 6 月 24
日,水利第 200 号,薬第 490 号
その他
8%
訓練不足
7%
環境条件
の不備
9%
2) 大村吉彦他:試験検査業務における「ミス・ヒヤリ
ハット事例」調査結果について,第 38 回静岡県公衆衛
生研究会抄録集,3B,48-50(2002)
3) 村田厚生:ヒューマン・エラーの科学-失敗とうま
く付き合う法-,8-10,日刊工業新聞社,東京(2008)
4) 大山正他:事例で学ぶヒューマンエラー,69-72,麗
澤大学出版会,千葉(2006)
不注意
76%
5) 澤田康文他:薬剤師のための徹底リスクマネジメン
ト,95-132,株式会社南山堂,東京(2007)
6) 舘知也他:調剤ミス防止対策における調剤室環境整
図 5 ミス・ヒヤリハットの原因
備とヒューマンエラーの関連性の分析,
医療薬学,
38,
513-521(2012)
報告されたミス・ヒヤリハット事例の原因は,エラー
7) 河野龍太郎他:ヒューマンエラーを防ぐ技術,
を生じた当事者が主観的に判断して報告した分類であり,
173-210,日本能率協会マネジメントセンター,東京
「不注意」として報告された事象でも,気が散った,途
(2006)
静岡県環境衛生科学研究所報告 No.55 45-49 2012
Bulletin of Shizuoka Institute of Environ. and Hyg.
- 45 -
農産食品中の残留農薬一斉分析法に関する検討
医薬食品部
食品班
小林千恵, 大坪昌広, 瀧井美樹,
影山知子*, 堀池あずさ, 小和田和宏
Study of the Simultaneous Analytical Method for Pesticide Residues
in Agricultural Products
Chie KOBAYASHI, Masahiro OTSUBO, Miki TAKII,
Tomoko KAGEYAMA*, Azusa HORIIKE and Kazuhiro OWADA
県内に流通する農産品のより高い安全性を確保することを目的に, 検査の必要性は高いが, 現在の当研究
所の残留農薬の一斉分析の対象項目にはない 50 項目の農薬について, 迅速かつ簡便な分析法として注目されてい
る QuEChERS 法を前処理に取り入れた一斉分析法を検討した.
その結果, 本前処理法を取り入れた一斉分析法は, 従来法よりも前処理操作の時間の大幅な短縮や, 検査
に要する有機溶媒および検査器具の量の大量削減に効果があった. また, 夾雑成分による定量分析結果への影響
が大きいレモンと枝豆を試料とし, 新規 50 項目について添加回収試験を行ったところ, 30 項目以上が妥当性評価
ガイドラインの真度と併行精度の目標値を満たす良好な結果が得られた. 本一斉分析法は, LC/MS/MS を用いて分
析した項目に, 特に有用であると考えられた.
Key words: QuEChERS, 残留農薬, 一斉分析, 妥当性評価
QuEChERS, pesticide residue, simultaneous analysis, method validation
はじめに
平成 18 年 5 月から, 食品中の残留農薬等の規格基準に
いる QuEChERS 法を前処理に取り入れた一斉分析法を
検討したので報告する.
ポジティブリスト制度が導入され, 規制対象となる農薬
試料および方法
等が約 800 種と大幅に拡大した. そのため, 多種類の農薬
を同時に分析することができる一斉分析法の重要性が高
まっている.
当研究所では, ポジティブリスト制度に対応するため,
厚生労働省から通知された一斉分析法をもとにした
LC/MS/MS および GC/MS/MS による残留農薬の一斉分
1)
1 試料
農薬が検出されていないことを確認したレモン(酸性
果実), 枝豆(脂質の多い農産品)を使用した.
2 試薬等
標準品は, 関東化学㈱製, 和光純薬工業㈱製の農薬標
析法を開発 し, 現在, 農産品において約 200 項目の農
準品を用いた. その他の試薬については, 残留農薬分析
薬について検査を行っている. しかし, 農産品に対し使
用または特級を使用した.
用頻度が高い農薬や, 検疫所における違反事例として報
固相抽出カラムは, Supelco 社製の ENVI-Carb/LC-NH2
告があり, 残留の可能性が危惧される農薬の中には, 現
SPE (500mg/500mg)を用いた.
在の一斉分析法の対象項目になっていない項目がある.
3 方法
そこで, 今回, 使用頻度の高い農薬や違反事例が報告
されている農薬のうち, 50 項目の農薬について,
1) 検討対象項目
検討対象項目は, 農産品収去時に入手した農薬の使用
2)
等を参考に選定し,
LC/MS/MS および GC/MS/MS を用いて分析条件の最適
履歴や検疫所における違反事例
化を行い, 迅速かつ簡便な分析法として近年注目されて
LC/MS/MS および GC/MS/MS を用いて, 分析条件を最
適化した(表1).
静岡県環境衛生科学研究所
(〒420-8637,静岡市葵区北安東 4-27-2)
Shizuoka Institute of Environment and Hygiene
(4-27-2,Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka,420-8637,Japan)
*:静岡県富士健康福祉センター
2) QuEChERS 法を取り入れた前処理
粉砕均一化した試料 10g を 50mL のポリプロピレン製
遠心管に採取し, アセトニトリル 10mL を正確に加え,
- 46 1分間ホモジナイズした. これに, 塩化ナトリウム 1g,
流速:0.2mL/min
無水硫酸マグネシウム 4g, クエン酸水素二ナトリウム
注入量:5μL
1.5 水和物 0.5g, およびクエン酸三ナトリウム 2 水和物
移動相: A 液 H2O
1g を加え, 1分間手で振とうした. その後, 遠心分離
B 液 100mM 酢酸アンモニウム溶液
(2,500rpm, 10 分間)し, 得られたアセトニトリル層か
C 液 メタノール
ら 4mL を正確に分取し, コンディショニングした固相
グラジェント条件(A: B: C(分)):
カラムに負荷後, アセトニトリル:トルエン混液(3:1)
80:5:15 (0)→55:5:40 (1)→55:5:40 (3.5)→45:5:50 (6)→
30mL で溶出し, 試料溶液とした. 収去検査で用いてい
40:5:55 (8)→0:5:95 (17.5)→80:5:15 (30)→80:5:15 (40)
る前処理方法(従来法)との比較を図1に示した.
③ MS 条件
イオン化モード:ESI positive, ESI negative
分析モード:Multiple Reaction Monitoring (MRM)
ソース温度:120℃
脱溶媒温度:350℃
コーンガス流量:50L/hr
脱溶媒ガス流量:600L/hr
5) GC/MS/MS 分析条件
① 装置
ガスクロマトグラフは, CP-3800(Varian 社製), 質量
分析計は, GC-MS/MS1200(Varian 社製)を用いた.
② GC 条件
カラム:VF-5ms(Varian 社製)
(0.25mm×30m, 膜厚 0.25μm)
キャリアガス:ヘリウム(1.2mL/min)
注入口温度:260℃
カラム昇温:50℃(1min)→25℃/min→125℃(4min)→5℃
/min→300℃(6min)
注入量:2μL
注入方法:パルスドスプリットレス(パルス圧 40psi,
1min)
トランスファーライン温度:280℃
図 1 前処理方法の比較
③ MS 条件
イオン源温度:230℃
3) 添加回収試験
粉砕均一化した試料に各農薬が 0.01ppm となるように
添加し, 30 分間放置後に前処理を行った. 試験は 5 回繰
り返し行い, 真度(%)と併行精度(RSD%)を算出した.
4) LC/MS/MS の分析条件
① 装置
高速液体クロマトグラフは, Alliance2695 (Waters 社
製), 質量分析計は, Quattro Micro API (Waters 社製)を
用いた.
② HPLC 条件
カラム:Mightysil RP-18 (関東化学)
(4.6mm×150mm, 3μm)
カラム温度:40℃
イオン化エネルギー:70eV
イオン化法:EI
分析モード:MRM
- 47 表1 検討項目および測定イオン, 妥当性評価ガイドライン(真度および併行精度)適合項目
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
項目名
アルジカルブスルホキド
アルジカルブスルホン
イプロジオン
イミダクロプリド
エチプロール
ジウロン
シエノピラフェン
ジノテフラン
ジメトモルフ
シモキサニル
スピノサド
スピロメシフェン
スピロメシフェンエノール体
ノバルロン
ピラクロストロビン
ファモキサドン
フルベンジアミド
フロニカミド
フロニカミド代謝物TFNA
フロニカミド代謝物TFNG
プロパニル
ボスカリド
ミルベメクチンA3
ミルベメクチンA4
メソミル
メパニピリム
メパニピリムプロパノール体
イマザリル
トリホリン
3-OHカルボフラン
アセフェート
カルボスルファン
カルボフラン
トリシクラゾール
トリフルミゾール代謝物
ナレド
フラチオカルブ
フルアジナム
ベンフラカルブ
メタミドホス
イソカルボホス
ジメトエート
スピロジクロフェン
テトラジホン
トルフェンピラド
ピリダリル
プロパルギット
クロロタロニル
ジクロルボス
ホレート
LC/MS/MS
GC/MS/MS
定量用イオン 確認用イオン 定量用イオン 確認用イオン
207
223
328
256
397
231
394
203
388
199
733
371
273
493
388
373
681
230
190
249
218
343
546
560
163
224
244
297
434
238
184
381
222
190
295
383
383
463
411
142
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
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>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
132
148
141
175
351
186
310
129
301
128
142
273
255
158
163
282
254
203
146
203
162
307
511
526
122
106
226
159
390
163
143
118
165
163
278
127
195
416
195
110
207
223
256
397
231
394
203
388
199
733
371
273
493
388
373
681
230
190
249
218
343
546
560
163
224
244
297
434
238
184
381
222
190
295
383
383
463
411
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
>
89
86
209
255
150
254
157
165
111
98
255
187
141
194
329
274
174
69
148
127
272
113
507
106
131
200
201
98
220
113
160
123
136
215
95
252
398
252
真度 70~120%, 併行精度 25%>
レモン
枝豆
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
137 >
81 137 > 109
136 >
94 136 > 42
118 >
76 160 > 104
164 > 149 164 > 131
162 > 135 162 > 118
167 > 132 167 > 104
ジクロルボスとして測定
163 > 135 163 > 107
418 > 372 387 > 282
190 >
90 190 > 102
141 > 126 141 > 95
136 > 108 136 > 82
125 >
79 125 > 47
312 > 259 312 > 109
159 > 131 356 > 159
383 > 145 383 > 171
204 > 148 204 > 128
173 > 107 173 > 115
266 > 168 266 > 133
109 >
79 185 > 109
121 >
93 121 > 65
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
- 48 結果および考察
1 QuEChERS 法を取り入れた前処理方法の確立
QuEChERS 法は, 本分析法の優れた点である Quick,
である. 本分析法は, Anastassiades らが開発した方法と
して 2003 年に報告 3)され, それ以降, 本方法を改変した
方法 4)や活用した事例 5-7) が報告されている.
併行精度 %
Easy, Cheap, Effective, Rugged, Safe の頭文字を集めた
迅速かつ簡便な前処理法を用いる残留農薬の一斉分析法
本分析法は, ポリプロピレン製の遠心管内で, アセト
ニトリルへの農薬の抽出, 塩析, 脱水を同時に行い, 抽
出液の精製は, PSA(primary secondary amine)粉を投入し,
0
遠心分離により試料溶液を得る方法である. 本分析方法
の精製は迅速かつ簡便な方法であるが, 農産品によって
は夾雑物との分離が不十分との報告
5, 7)
QuEChERS 法に変更し, 精製については従来の固相カラ
ムによる方法を変更せずに行った. その結果, 1検体あ
たりの前処理時間は従来法の 3 分の 1 に迅速化され, 検
査に要する有機溶媒量は 10 分の 1 に削減された. また,
検査に要するガラス器具の量の減少に伴い, 器具の洗浄
や準備に要する時間も大幅に短縮された.
20
40
60
80 100
真度 %
120
140
図 3 枝豆の真度と併行精度 (n=5)
がある. そのた
め, 従来法の抽出, 塩析, 脱水を段階的に行う工程を
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
特に, LC/MS/MS で分析した 40 項目については, レモ
ンでは約 8 割, 枝豆では約 7 割の項目が目標値を満たす
良好な結果であった. しかし, GC/MS/MS で測定した
20 項目は, 半数以上の項目において, 目標値を満たす
ことができず, 併行精度の値が 25%を超える項目が多か
っ た . そ の 要 因 と し て , GC/MS/MS 測 定 項 目 は ,
LC/MS/MS 測定項目よりも 5 回の繰り返し試験の前処
2 本前処理法を取り入れた一斉分析法の検討
レモン, 枝豆に対する 50 項目の添加回収試験により
得られた真度(回収率%)と併行精度(RSD%)の関係を
図 2 および図 3 に示した.
理にかかった時間の差等が大きく, 試験結果のばらつき
に影響したと考えられた.
また, 夾雑成分の特徴が異なるレモン, 枝豆ともに 5
項目(No. 19, 20, 32, 36, 39)については真度が 0~10%
となり, 著しく回収率が低かった. その要因としては,
併行精度%
50
45
40
No. 19, 20 については, 酸性物質の ため, 塩基性の固相
カラムに吸着し, 溶出が不十分であった可能性が考えら
れた. No.32, 36, 39 については, 加水分解しやすい等,
35
30
25
20
15
水溶液中で不安定な物性 9) のため前処理操作中に分解し,
回収率が得られなかった可能性があると考えられた.
このように, 様々な物性の農薬を同時に分析している
こと, 夾雑成分の影響により比較的分析が困難なレモン
10
5
0
と枝豆を試料としていることから, 今回の検討対象項目
の中には, 妥当性評価ガイドライン 8) の真度と併行精度
0
20
40
60
80
100
120
140
真度%
図 2 レモンの真度と併行精度 (n=5)
の目標値を満たさないものがあった. しかし, 農薬の使
用履歴から県内産農産品に対して特に使用頻度が高く,
違反事例も報告されているアセフェート, イミダクロプ
リド等の特に主要な項目は, 目標値を満たすことができ
厚生労働省から通知された「食品中に残留する農薬等
に関する試験法の妥当性評価ガイドラインの一部改正に
8)
た.
今回検討対象として選定した項目の多くが,
ついて」 の目標値(真度 70~120%, 併行精度 25%>)と
LC/MS/MS で測定可能な項目であった. かつて, 脂溶
比較すると, 50 項目中レモンは 37 項目, 枝豆は 31 項目
性が高く, 分解されにくい農薬の残留性が問題となった
が, 真度および併行精度の目標値を満たした(表 1).
ため, 農薬の開発には, 水溶性の高い傾向のある易分解
性のものが不可欠との報告がある 10). よって, 現在使用
- 49 されている農薬が, 水溶性が高い傾向のものが多く, 今
回選定した項目についても LC/MS/MS で分析可能なも
2) 厚生労働省ホームページ: 輸入食品監視業務
http://www.mhlw.go.jp/topics/yunyu/kanshi/
のが多いと考えられた. このことからも, LC/MS/MS で
3) Anastassiades, M. et al.: Fast and Easy Multiresidue
分析した項目で良好な結果を得た本一斉分析法は, 今後
Method Employing Acetonitrile Extraction/Partitioning
の残留農薬検査に有用であると思われた.
and
一方, 現在の収去検査において LC/MS/MS を用いて
分析している 66 項目についても本前処理法を取り入れ
“Dispersive
Solid-Phase
Extraction”
for
the
Determination of Pesticide Residues in Produce, J. AOAC
Int., 86, 412-431 (2003)
て添加回収試験を行い, 同様に真度および併行精度を算
4) Lehotay, S.J.: Comparison of QuEChERS sample
出したところ, レモンは 50 項目, 枝豆は 52 項目におい
preparation methods for the analysis of pesticide residues
8)
て妥当性評価ガイドライン の目標値を満たした. また,
レモンの収去検査時に併せて実施した添加回収試験(従
来法, 添加濃度 0.02ppm)では, 回収率が 70~120%を満
たしているものは 49 項目であったため, この結果から,
in fruits and vegetable, J. Chromatography A, 1217,
2548-2560 (2010)
5) 高取聡他:農産物中の残留農薬検査に用いる新規一斉
分析法, 大阪府立公衛研所報, 45, 67-75 (2007)
LC/MS/MS を用いて分析する農薬の検査では, 本前処
6) 柳岡知子他:農作物中の残留農薬一斉分析法の検討
理方法は, 従来法と同等以上の方法である可能性が高い
-GC/MS, GC/MS/MS によるスクリーニング法の検討
と考えられた .
-, 茨城県衛生研究所年報, 45, 46-49 (2007)
今後は, 今回確立した一斉分析法について, 妥当性評
8)
7) 赤木祐介他:QuEChERS 法を活用した GC/MS/MS による
価ガイドライン に基づいた妥当性評価を実施し, 対象
農産物中残留農薬一斉分析法の検討, 平成 24 年度地
農産品をさらに拡大し, 現在よりも多種類の農薬を迅速
方衛生研究所全国協議会関東甲信静支部理化学研究
に一斉分析する検査を目指し, 県内に流通する農産品の
部会, 53-56 (2013)
安全性の確保に努めていきたいと考える.
8) 厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知:食品中に残
留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドラ
まとめ
1 QuEChERS 法を取り入れた前処理方法の確立
1) 従来の前処理方法における抽出, 塩析, 脱水工程に
QuEChERS 法を取り入れ, 固相カラム精製に導く前
処理法を確立した.
安発 1224 第 1 号
9) CDS Tomlin: The Pesticide Manual, 149-150, BCPC,
England (2006)
10) 山口之彦:農薬を環境衛生および食品衛生の両面か
2) 本前処理法を確立したことにより, 1 検体あたりの前
処理時間が従来法の3分の1に迅速化され, 検査に要
する有機溶媒量が従来法の 10 分の 1 に削減できた.
2 本前処理法を取り入れた一斉分析法の検討について
1) 検査の必要性の高い 50 項目を選定し, 測定機器の分
析条件の最適化を行うことで, 選択性の高い分析を
可能とした.
2) 選定した 50 項目の添加回収試験(添加濃度 0.01ppm)
を実施したところ, レモン 37 項目, 枝豆 31 項目が,
真度および併行精度において, 妥当性評価ガイドラ
インの目標値を満たした.
3) LC/MS/MS を用いて分析した項目の約 7~8 割が, 妥
当性評価ガイドラインの目標値を達成する良好な結果
を得ることができた.
文 献
1) 高橋真他:農産食品中の残留農薬一斉分析法における
LC/MS/MS の適用, 静岡県環境衛生科学研究所報告,
49, 17-22 (2006)
インの一部改正について, 平成 22 年 12 月 24 日, 食
らみる, 生活衛生, 50, 283-290 (2006)
- 50 -
静岡県環境衛生科学研究所報告
No.55
51-54 2012
- 51 -
Bulletin of Shizuoka Institute of Environ. and Hyg.
総アフラトキシン試験法の妥当性評価について
医薬食品部 食品班 大坪昌広,瀧井美樹,小林千恵,
堀池あずさ,小和田和宏
Validation Study on a Method for Analysis of Total Aflatoxins
Masahiro OTSUBO,Miki TAKII,Chie KOBAYASHI,
Azusa HORIIKE and Kazuhiro OWADA
これまでアフラトキシンを含有する食品の検査はアフラトキシン B1 を指標に実施されてきたが,今般,薬事・食品衛
生審議会における審議の結果,食品安全委員会の食品健康影響評価,国際動向および国内流通食品中の含有実態を踏まえ,
総アフラトキシン(アフラトキシン B1、B2、G1 および G2 の総和)に変更された.これに対応するため,当所では厚生労働省
医薬食品局食品安全部長通知「総アフラトキシンの試験法について」
(平成 23 年 8 月 16 日付け食安発 0816 第 1 号)により
示された試験法に改良を加え,総アフラトキシン試験法を確立し,これを用いたアーモンド等 4 食品の妥当性評価が完了し
た。
Key words:総アフラトキシン,多機能カラム,イムノアフィニティカラム,妥当性評価
total aflatoxins,multi functional column,immunoaffinity column,validation study
はじめに
アフラトキシンは主に真菌類の不完全菌類に属する
るため,食品の種類に応じた試験法の妥当性評価の実施
が必要不可欠である.
かびである Aspergillus flavus および Aspergillus parasiticus
そこで,当所では過去の検査実績や検出状況 4) を考慮
によって産生される二次代謝産物の毒素で,強力な発が
した上で対象試料を選定し,前処理法の検討および妥当
1)
ん性物質である .産生菌は土壌や食品など自然界に広
性評価を実施したので,その結果について報告する.
く分布しており,食品に対しては主に種実類や香辛料等
の農産物に感染し,アフラトキシンを産生している.ま
た,熱にも非常に強く,通常の調理過程では分解できな
1)
い物質でもある .
試料及び方法
1 対象試料
試料は以下のとおりとした.
そのため,アフラトキシン汚染防止対策には法規制に
基づいたアフラトキシン検査の実施が重要である.静岡
県においてもアフラトキシン汚染防止対策として,県内
流通品の収去検査を年に1回実施している.
今般,アフラトキシンの検査指標がアフラトキシン B1
から総アフラトキシン(アフラトキシン B1,B2,G1 およ
2)
び G2 の総和)に変更された .それに伴い,平成 23 年 8
月 16 日付け食安発 0816 第 1 号厚生労働省医薬食品局食
3)
ナッツ類:アーモンド,カシューナッツ,ピーナッツ
香辛料:ナツメグ,レッドペッパー
2 試薬
各アフラトキシン標準品には SIGMA-ALDRICH 製混
合標準溶液を用いた.その他の試薬は特級またはそれ以
上のものを使用した.
3 HPLC 装置及び分析条件
装置:Agilent 1100
「通知」とする.
)にて総アフ
品安全部長通知 (以下,
カラム:Mightysil RP-18 GP,4.6×250mm (5μm)
ラトキシン試験法が示された.しかし,この試験法を適
移動相:メタノール:水=4:6
用するためには食品の多様性等にも配慮する必要があ
流量:0.8mL/min
静岡県環境衛生科学研究所
(〒420-8637,静岡市葵区北安東 4-27-2)
Shizuoka Institute of Environment and Hygiene
(4-27-2,Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka,420-8637,Japan)
カラム温度:40℃
検出器:蛍光 Ex (365nm),Em(450nm)
注入量:20μL
4 添加回収試験
- 52 ブランク試料への添加回収試験は,試料 50.0g に各ア
フラトキシンが 2.5ng/g となるように添加し,図1に示
した方法により実施した.なお,前処理法にはアーモン
表 1 通知法による添加回収試験
食
回収率(%)
品
前処理法
B1
B2
G1
G2
ド,カシューナッツおよびピーナッツのナッツ類は多機
アーモンド
94.0
96.6
89.8
94.2
能カラム法を用い,ナツメグおよびレッドペッパーの香
カシューナッツ
87.2
84.8
81.6
87.1
辛料はイムノアフィニティカラム法(以下,
「IAC 法」
ピーナッツ
93.5
88.5
92.2
89.9
とする.
)を用いた.
ナツメグ
0
41.2
80.3
64.4
87.4
92.0
91.2
76.8
また,抽出溶媒はレッドペッパーにはメタノール・水
(4:1)混液および塩化ナトリウム 5g を用い,その他には
レッドペッパー
多機能カラ
ム法
IAC 法
目標とする回収率:70%以上 110%以下
アセトニトリル・水(9:1)混液を用いた.
表 2 前処理に用いるカラムの検討
食
品
アーモンド
ナツメグ
回収率(%)
カラム
B1
B2
G1
G2
InertSep VRA-1
94.0
96.6
89.8
94.2
InertSep VRA-3
72.1
85.4
83.2
93.8
0
41.2
80.3
64.4
54.7
64.4
70.6
81.0
AflaTest
AFLAKING
目標とする回収率:70%以上 110%以下
精製工程で用いるカラム 5) はその種類により,さま
ざまな特徴を持っているため,検査する食品に応じた
カラムの選択が重要になる.そこで,前処理に用いて
いるカラムの違いによる効果を検討した.
なお,多機能カラムの検討にはアーモンドを検体と
図 1 試験溶液の調製方法(通知法)
結果と考察
1 前処理法の検討
1) 通知法の適用性確認
食品中の総アフラトキシンを試験する際,通知法に
示された前処理を行う場合,食品の多様性を考慮する
こととされている 3).そこで,各食品への通知法の適
用性確認を実施した.なお,本検討には多機能カラム
にジーエルサイエンス製 InertSep VRA-1,イムノアフ
ィニティカラムに VICAM 製 AflaTest を用いた.また,
ナツメグはブランク試料が入手困難であったため,ア
フラトキシンを含むものを試料として用いることと
した.
各食品の添加回収試験の結果を表 1 に示した.アー
モンド,カシューナッツ,ピーナッツおよびレッドペ
ッパーについては目標の回収率(70%以上,110%以
下)を得ることができた.しかし,ナツメグについて
はアフラトキシン B1 の回収率が 0%であったことなど
からも試験法の条件最適化が必要と考えられた.
2) 精製用カラムの検討
し,カラムは脂溶性の高い食品に適するジーエルサイ
エンス製 InertSep VRA-3 を追加した.また,イムノア
フィニティカラムの検討はナツメグを検体とし、カラ
ムには耐溶媒性強化型の堀場製作所製 AFLAKING を
追加した.
各カラムにおける添加回収試験結果を表 2 に示した.
アーモンドについては InertSep VRA-3 を用いた場合,
InertSep VRA-1 に比べ,回収率は若干低下した.この
ことより,ナッツ類の精製には一般的な食品に用いら
れる InertSep VRA-1 の方が適すると考えられた.また,
ナツメグについては AFLAKING を用いることで大幅
な回収率改善が認められた.
3) IAC 法に用いる希釈水の検討
ナツメグに通知法を適用したところ,ろ液 10mL を
水で希釈する工程で大量の沈殿が生じた.一般的に,
この工程で生じる沈殿はアフラトキシンを捕集し,回
収率低下を引き起こすと考えられている 3).そこで,
沈殿発生の軽減策として,希釈水にポリソルベート 20
含有水を用いることとした.
希釈水として 2%,5%,8%および 10%のポリソルベート
20 含有水を用いて検討したところ,ポリソルベート
- 53 表 3 ナツメグの前処理における希釈水の検討
水
2%Tween20 含有水
5%Tween20 含有水
8%Tween20 含有水
10%Tween20 含有水
① アーモンド,ナツメグ及びレッドペッパーの妥当
回収率(%)
希釈水
2) 枝分かれ実験計画 3)
性評価
B1
B2
G1
G2
54.7
64.4
70.6
81.0
実施者:2 名
85.4
78.3
87.4
77.3
併行数:1 日 2 回、3 日間分析
83.7
74.6
83.6
70.6
評価項目:選択性,真度,併行精度および室内精度
87.3
78.0
92.8
85.2
88.5
80.3
90.8
84.3
実施者:1 名
87.3
113.1
122.3
99.7
併行数:1 日 5 回,1 日間分析
36.8
94.4
101.4
92.9
81.6
76.3
60.8
61.8
90.3
92.5
88.5
81.3
8%Tween20 含有水
3) 妥当性評価結果
アーモンド,カシューナッツ,ピーナッツおよびレ
について妥当性評価ガイドラインに示された目標値
表 4 レッドペッパーの前処理における希釈水の検討
水
評価項目:選択性および真度
ッドペッパーは表 5 に示したとおり,全ての評価項目
目標とする回収率:70%以上 110%以下
回収率(%)
希釈水
② カシューナッツおよびピーナッツの妥当性評価
B1
B2
G1
G2
87.4
92.0
91.2
76.8
82.9
80.9
86.5
89.3
83.0
81.2
84.8
86.6
目標とする回収率:70%以上 110%以下
を満たすことができた.
ナツメグについても,回収率,併行精度および室内
精度の目標値を満たし,検査法として有効であること
を明らかにした.しかし,試料に用いたナツメグから
アフラトキシンが検出されたため,ブランク試料に妨
害ピークを認める場合,妨害ピークの面積(高さ)が各
アフラトキシン 1.25μg/L に相当するピークの面積
(高さ)と比較し,1/10 未満であることを確認するとい
う選択性の評価基準を確認できなかった.当所や他機
20 の濃度が高いものほど沈殿発生が軽減され,5%以
関のこれまでの検査結果
上のポリソルベート 20 含有水を用いた場合には沈殿
トキシンが非常に検出されやすい食品であるといえ
はほとんど認められなかった.また,表 3 に示したと
る.ナツメグのようにアフラトキシンの検出率が高く,
おり,ポリソルベート 20 含有水の濃度増加に伴い,
ブランク試料の入手が困難である食品については,各
各アフラトキシンの回収率の増加傾向も確認できた.
機関での検査体制の強化のためには選択性を評価す
しかし,ポリソルベート 20 含有水濃度が過剰にな
るための何らかの対策が必要ではないかと考えられ
ると,併行試験間での回収率のバラツキが大きくなり,
6)
からもナツメグはアフラ
る.
検査精度の著しい低下が認められた.この原因はポリ
ソルベート 20 の濃度増加によってカラムの洗浄不足
が起こり,カラム内に残存した界面活性剤がアセトニ
まとめ
アフラトキシンの検査指標がアフラトキシン B1 から
トリルによる抗体の変性を妨げたことが考えられる.
総アフラトキシンに変更されたことに伴う新たな検査
同様にレッドペッパーについても,希釈水に 8%ポ
法の確立を目的とし,アーモンド,カシューナッツ,ピ
リソルベート 20 含有水を用いて検討したところ,表 4
ーナッツ,ナツメグおよびレッドペッパーを対象試料に
に示したとおり,全ての項目において 80%以上の回収
通知法における条件最適化及びその条件を用いた試験
率を得ることができた.
法の妥当性評価を実施した結果,以下のことが明らかと
2 試験法の妥当性評価
なった.
1) 前処理法の条件
1 前処理法の検討について
前述までの前処理法の検討の結果,妥当性評価に用
1) アーモンド,カシューナッツ,ピーナッツおよびレッ
いる多機能カラムはジーエルサイエンス製 InertSep
ドペッパーは通知法が適用できる食品であることを明
VRA-1,イムノアフィニティカラムは堀場製作所製
らかにした.
AFLAKING とした.また,IAC 法における前処理で用
2) ナツメグの検査時は通知法における希釈工程で水を
いる希釈水にはナツメグは 5%Tween20 含有水,レッ
用いると大量に沈殿を生じ,回収率低下を引き起こす
ドペッパーには 8%Tween20 含有水を用いた.
が,水の代替として 5%Tween20 含有水を用いることで
- 54 -
表 5 各食品の総アフラトキシン検査法の妥当性評価結果
食
品
アーモンド
カシューナッツ
ピーナッツ
指
標
選択性
真度(%)
アフラトキシン B1
1/10>
91.2
9.0
8.3
アフラトキシン B2
1/10>
89.3
4.0
7.5
アフラトキシン G1
1/10>
85.7
13.2
16.0
アフラトキシン G2
1/10>
86.7
9.5
13.8
レッドペッパー
室内精度(%)
アフラトキシン B1
1/10>
90.5
‐
アフラトキシン B2
1/10>
89.1
‐
‐
アフラトキシン G1
1/10>
84.6
‐
‐
アフラトキシン G2
1/10>
88.7
‐
‐
※3
‐
アフラトキシン B1
1/10>
95.9
‐
アフラトキシン B2
1/10>
83.8
‐
‐
アフラトキシン G1
1/10>
96.9
‐
‐
アフラトキシン G2
1/10>
88.3
‐
‐
87.6
10.3
10.1
80.1
2.8
8.8
90.8
3.1
4.8
アフラトキシン B1
ナツメグ
併行精度(%)
アフラトキシン B2
アフラトキシン G1
‐
※1
1/10>
‐
※1
※3
‐
アフラトキシン G2
1/10>
79.8
4.3
5.5
アフラトキシン B1
1/10>
76.0
2.3
5.4
アフラトキシン B2
1/10>
78.5
1.7
3.3
アフラトキシン G1
1/10>
80.8
3.6
5.9
アフラトキシン G2
1/10>
82.1
3.0
4.9
70~110
※2
目標値
1/10>
20≧
30≧
※1 ブランク試料からアフラトキシンのピークが認められたため,評価不能
※2 各アフラトキシン 1.25μg/L に相当するピークの面積(高さ)と比較し,1/10 未満であること
※3 通知法を用いたため,精度の評価は不要
改善された.
号
3) ナツメグ等,IAC 法での検査を要する食品には堀場製
2)厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知:アフラト
作所製 AFLAKING など,耐溶媒性の高いカラムを用い
キシンを含有する食品の取扱いについて,平成 23 年
ることで回収率が改善された.
2 試験法の妥当性評価について
1) 前処理条件の検討結果を用いて,アーモンド,カシュ
ーナッツ,ピーナッツおよびレッドペッパーの 4 食
品について妥当性評価を完了した.
3 月 31 日,食安発 0331 第 5 号
3)厚生労働省医薬食品局食品安全部長通知:総アフラ
トキシンの試験法について,平成 23 年 8 月 16 日,
食安発 0816 第 1 号
4)(財)マイコトキシン検査協会ホームページ:アフラ
2) ナツメグの妥当性評価については回収率,併行精度
トキシンB1規制から総アフラトキシンへ規制値変
および室内精度は目標値を満たしたが,選択性につい
更とその後のアフラトキシン検出状況について,
ては満たすことができなかった.
なお,既に本研究成果に基づき検査実施標準作業書を
作成し,実際の収去検査に役立てている.
http://www.mycotoxin.or.jp/PDF/total_aflatoxin.pdf
5) 厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課通知:総
アフラトキシンの試験法について,平成 23 年 8 月 16
日,事務連絡
文 献
1)食品安全委員会委員長通知:食品健康影響評価の結
果の通知について,平成 21 年 3 月 19 日,府食第 261
6) 田端節子:東京都における香辛料のアフラトキシン汚
染調査,第 39 回カビ毒研究連絡会講演要旨集(2012)
静岡県環境衛生科学研究所報告
No.55
55-60
2012
Bulletin of Shizuoka Institute of Environ. and Hyg.
- 55 -
食品に含まれる有害化学物質等に関する調査
-加工食品中のアクリルアミド含有実態調査(第 2 報)-
医薬食品部 食品班
横山玲子,久保山真帆,小和田和宏
Study on Risk Products in Food
-Investigation of Acrylamide Contents in Processed Foods(2nd Report)-
Reiko YOKOYAMA, Maho KUBOYAMA and Kazuhiro OWADA
食品の調理加工段階で生成される有害化学物質であるアクリルアミドについて,消費者が手軽に利用でき
る即席袋めんやスーパーの惣菜等を対象にその含有実態調査を行った.その結果,食品 1g あたりの含有量は 0.047
~0.202μg であり,加工食品の種類や銘柄による含有量の差はほとんど認められなかった.また,商品 1 袋ある
いは惣菜 1 個あたりの含有量は 3.2~75.1μg であり,1 日に 1 袋,あるいは 1 個を 1 人で食べた場合,日本人の推
定一日摂取量に達する可能性のある銘柄が認められた.
惣菜の天ぷらやフライは,1 日あるいは 1 回に複数個を食べる可能性があり,毎日の食生活においては,高
温で加熱調理したさまざまな加工食品を食べる機会がある.一方,アクリルアミドは家庭における調理において
も生成される可能性がある.アクリルアミドは,人の健康に影響がある可能性が否定できないとされる物質であ
ることから,摂取量に配慮することが大切であると考えられた.
Key words: アクリルアミド,加工食品,冷凍食品,惣菜
acrylamide,processed food, cooked frozen food, daily dish
糖を含む食品を高温で加熱調理したときに生成しやすい
はじめに
アクリルアミドは,産業界においては,凝集材,土壌改
ことが知られている 4).アミノ酸と糖を含む食品を高温で
良剤,接着剤や塗料などの材料となるポリアクリルアミド
加熱調理した加工食品は,身近に多数存在すると考えられ
1)
を製造するための原料として用いられる物質である .こ
ることから,アクリルアミドは多種類の加工食品中に存在
のアクリルアミドに曝露された場合,末梢神経や中枢神経
する可能性がある.
など神経系に対する悪影響や遺伝毒性がある
1,2)
とされ,
食品中のアクリルアミドに注目が集まったきっかけは,
国際がん研究機関(IARC)は,アクリルアミドの発がん
かつてスウェーデンにおいて,建設工事現場で働く作業員
性分類について,危険性が高いほうから 2 番目の「ヒトに
や周辺の住民に対し,工事で使用されたアクリルアミドに
対しておそらく発がん性がある物質(グループ 2A)
」に分
よる健康調査を行ったところ,アクリルアミドに接してい
3)
「高
類 してその危険性を指摘している.また WHO は,
ないはずの人の体内から低濃度のアクリルアミドが検出
用量を摂取し続けた場合ヒトの健康に影響がある可能性
された 5)ことであった.このことから,建設工事のほかに
が否定できない」としている.
原因があると考えて調査した結果, 2002 年,スウェーデ
一方,食品中において,アクリルアミドは,アミノ酸
ン食品庁が「炭水化物を含む食材を高温で加熱した食品に
の一種であるアスパラギンとブドウ糖や果糖などの還元
アクリルアミドが含まれている」と発表 6)し,話題となっ
た.
静岡県環境衛生科学研究所
近年,食品の安全性に対する消費者の関心が高まる中,
(〒420-8637,静岡市葵区北安東 4-27-2)
農林水産省は,科学的知見に基づき,リスク管理するべき
Shizuoka Institute of Environment and Hygiene
化学物質をリストアップしている 7).このリストの中には
(4-27-2,Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka,420-8637,Japan)
食品の加工段階において意図せずに生成される化学物質
- 56 があり,中でも,調理・加工段階で生成される化学物質の
表1
調査対象とした加工食品
うち「優先的にリスク管理が必要(直ちに含有実態調査な
どが必要)
」な物質として,アクリルアミド等を挙げてい
No.
る.しかし,農林水産省は,アクリルアミドに関するリス
1
即席袋めん1
油揚げめん
ク管理を進めるうえで,国内における食品中の含有実態や
2
即席袋めん2
低減技術等に関するデータについてはいまなお不足して
3
即席袋めん3
いると考えており ,具体的なデータは不十分な状態とい
4
える.
5
そこで,消費者にアクリルアミドに関する情報を提供す
ることを目的として,県内に流通する調理加工食品につい
8)
てその含有量を調査した。第 1 報では子どものおやつとし
て人気が高いスナック菓子を中心とした菓子類について
報告した 9).今回は,即席袋めん,冷凍食品,バラ売りの惣
種類
価 格
内容量
(g)
\70
87
油揚げめん
\70
85
めん
\78
80
即席袋めん4
めん
\125
80
即席袋めん5
油揚げめん
\78
89
6
即席袋めん6
油揚げめん
\78
92
7
即席袋めん7
油揚げめん
\78
92
8
即席袋めん8
油揚げめん
\48
85
9
即席袋めん9
油揚げめん
\60
85
10
即席袋めん10
めん
\56
80
11
即席袋めん11
味付油揚げめん
\40
80
12
冷凍食品 1
からあげ
\278
260
加工食品に着目し,アクリルアミド含有量の実態調査を行
13
冷凍食品 2
からあげ
\297
240
ったので報告する.
14
冷凍食品 3
からあげ
\498
325
15
冷凍食品 4
からあげ
\198
105
16
冷凍食品 5
からあげ
\201
126
17
冷凍食品 6
からあげ
\258
140
静岡市内の店頭で購入した,即席袋めん(乾めん)11
18
冷凍食品 7
からあげ
\278
240
銘柄,冷凍食品 13 銘柄(からあげ 7 銘柄,たこやき 4 銘
19
冷凍食品 8
たこ焼
\315
400
柄,お好み焼 2 銘柄)
,バラ売り惣菜 17 銘柄(天ぷら 8
20
冷凍食品 9
たこ焼
\398
400
21
冷凍食品 10
たこ焼
\98
140
22
冷凍食品 11
たこ焼
\198
180
23
冷凍食品 12
お好み焼
\98
120
24
冷凍食品 13
お好み焼
\298
253
菜および市販の弁当など手軽に消費者が利用できる調理
試料および方法
1 調査対象食品
銘柄,フライ 9 銘柄)の合計 41 銘柄を調査対象食品とし
た(表 1)
.なお,たこやき等とは,小麦粉の生地と野菜
や肉,魚介類を混ぜて焼いた「たこ焼」および「お好み焼」
をいう.
天1
惣菜 1
野菜かき揚げ
\98
天2
惣菜 2
なす天ぷら
\84
ため,市販の弁当 2 銘柄を調査対象とした.
天3
惣菜 3
かぼちゃ天ぷら
\84
2 試薬および標準品
天4
惣菜 4
揚げ玉
\52
1) アクリルアミド標準液(1mg/mL,水質試験用)
(関東
天5
惣菜 5
れんこん天ぷら
\77
天6
惣菜 6
さつまいも天ぷら
\77
さらに,食事 1 食分のアクリルアミド摂取量を推定する
化学社製)
2)
C3-アクリルアミド標準液(1mg/mL)(Cambridge
天7
惣菜 7
小エビかき揚げ
\100
Isotope Laboratories,Inc)
天8
惣菜 8
えび天ぷら
\150
ふ1
惣菜 9
ハムカツ
\50
ふ2
惣菜 10
牛肉コロッケ
\50
ふ3
惣菜 11
イカカツ
\50
13
3) その他の試薬:LC/MS 用
4) 固相抽出カートリッジ:Oasis HLB(200mg/6cc)
,Oasis
MCX(150mg/6cc)
(Waters 社製)
3 方法
1) 試料の調製
ふ4
惣菜 12
メンチカツ
\50
ふ5
惣菜 13
白身魚フライ
\87
ふ6
惣菜 14
野菜コロッケ
即席袋めんは,およそ 3mm 以下となるように細切し均
ふ7
惣菜 15
トンカツ
\37
一化したものを試料とした.また,即席袋めんのスープに
ふ8
惣菜 16
じゃがいもコロッケ
\17
ついては,水に溶解して 100mL にしたものを試料とした.
ふ9
惣菜 17
黒はんぺんフライ
\57
冷凍食品については,検体を外袋に記載された「作り方」
弁1
弁当 1
たっぷり海苔弁
\398
に従って調理した後,フードカッターで細切して均一化し
弁2
弁当 2
和風幕の内弁当
\398
\298
たものを試料とした.惣菜は,検体をフードカッターで細
切して均一化したものを試料とした.
弁当については,おかずそれぞれを 1 検体とし,おかず
ごとにフードカッターで細切して試料とした.弁当の米飯
については,調査対象から除外した.
- 57 2) 試験溶液の調製 10~12)
フィルターを通過した液を試験溶液とした.
試料の前処理方法を図 1 に示した.試料約 1g を精密に
3) 装置および測定条件 11)
量り100ng/mL13C3-アクリルアミド溶液1mLを正確に加え,
測定機器は,高速液体クロマトグラフ質量分析計
さらに,
水 9mL を加えてボルテクスで約 15 秒間混合した.
(LC/MS/MS)を用いた.測定条件は,以下のとおりであ
液体試料は,9mL を正確に分取し,100ng/mL13C3-アクリ
る.
ルアミド溶液 1mL を正確に加えてボルテクスで約 15 秒間
装置:ACQUITY TQD(Waters 社製)
混合した.
測定モード:ESI+(MRM)
次に,約 20 分間ゆるやかに振とうしたのち,4℃,
測定イオン:アクリルアミド
72→55
13
C3-アクリルアミド 75→58
3,000rpm にて30 分間遠心分離して,
水層約5mL を採取し,
溶離液:0.1%酢酸:メタノール(99.5:0.5)
0.45μm のフィルターにてろ過した.
流速:0.2mL/min
この水層 1.5mL を分取し,あらかじめメタノール 5mL
および水 5mL でコンディショニングした Oasis HLB に負
オーブン温度:40℃
荷し,通過液は捨て,水 0.5mL で洗浄した後,この通過
カラム:Atlantis dC18 2.1×150mm,3μm(Waters 社製)
液も捨てた.次に,あらかじめメタノール 3mL および水
注入量:10μL
3mL で洗浄した Oasis MCX を Oasis HLB の下部に接続し,
Oasis HLB の上から水 3mL を注入して溶出液はすべて採
4)
定量
13
C3-アクリルアミドを内部標準物質とし,ピーク面積
比対質量比により検量線を作成し,定量した.
取した.
窒素パージにより約 1mL に濃縮したのち,0.20μm の
結 果
試料 1g(液体は9mL)
13
C3-AA 1mL
H2O 9mL(液体は0mL)
ボルテクス 15秒
調査対象とした調理加工食品 41 銘柄のアクリルアミド
含有量を表 2 に示した.その結果,食品 1g あたりの含有
量は,即席袋めん(めん)0.047~0.101μg,即席袋めん
(スープ)0.007~0.074μg,冷凍食品(からあげ)0.053
~0.102μg,冷凍食品(たこやき等)0.092~0.169μg,惣
振とう 20分
菜(天ぷら)0.099~0.202μg,惣菜(フライ)0.071~0.136
遠心分離(5℃、3,000rpm、30分)
μg であり(図 2)
,今回の結果は,国内における報告 3,13,14)
と同程度の含有量であった.また,食品 1g あたりの平均
水層
5mL採取
含有量は,即席袋めん 0.072μg,即席袋めん(スープ)
0.017μg,冷凍食品(からあげ)0.084μg,冷凍食品(た
0.45μmフィルターろ過
こやき等)0.125μg,惣菜(天ぷら)0.127μg および惣菜
(フライ)0.102μg であり,全体の平均は 0.099μg であ
った(図 3)
.今回調査した調理食品においては,食品の
1.5mL採取
種類や銘柄による含有量の違いはほとんどなかった.また,
Oasis HLB
H2O 0.5mL
通過液は捨てる
アクリルアミド含有量は昨年度調査した菓子類と比較し
て全体的に低く,全体の平均含有量は菓子類の約 1/6 量で
あった.
Oasis MCX
H2O 3mL
次に,食事 1 食分のアクリルアミド摂取量を推定するた
め,市販の弁当 2 銘柄についてアクリルアミド含有量を調
溶出液はすべて採取
査した.高温で調理されたおかずそれぞれのアクリルアミ
ド含有量は 0.088~0.184μg/g であり(表 3)
,これを合計
N2パージ
した結果,弁当 1 食分の含有量は 20.7 および 13.6μg で
1mLまで濃縮
あった.
0.20μmフィルターろ過
試験溶液
図1
(AA:アクリルアミド)
試験溶液の調製
考 察
商品 1 袋(バラ売り惣菜は 1 個)に含まれるアクリルア
ミドの量を算出すると(図 4)
,即席袋めん(スープを含
- 58 -
表2
表3
調理加工食品のアクリルアミド含有量
種 類
測定値
μg/g
μg/mL
めん
スープ
AA 量
市販弁当のアクリルアミド含有量
種 類
μg/袋
弁1
測定値
AA 量
μg/g
μg/食
たっぷり海苔弁
1
2
即席袋めん 1
即席袋めん 2
0.073
0.065
0.013
0.011
8.0
7.1
ごはん(のり、ふりかけ、漬物)
-
ハンバーグ(デミグラスソース付) 0.095
3
即席袋めん 3
0.080
0.015
8.1
白身魚フライ(タルタルソース付) 0.091
4
即席袋めん 4
0.087
0.012
8.5
ちくわ磯辺天
0.092
5
即席袋めん 5
0.073
0.012
8.1
コロッケ
0.144
6
即席袋めん 6
0.076
0.012
8.9
味付ゆで卵
7
即席袋めん 7
0.101
0.008
10.8
焼そば
8
即席袋めん 8
0.056
0.010
6.0
マカロニサラダ
-
9
即席袋めん 9
0.066
0.007
7.6
大根漬(桜漬け)
-
10
即席袋めん 10
0.047
0.074
13.0
11
即席袋めん 11
0.065
0.010
7.4
12
13
冷凍食品(からあげ)1
冷凍食品(からあげ)2
0.053
0.064
14.0
15.4
14
冷凍食品(からあげ)3
0.102
33.0
15
冷凍食品(からあげ)4
0.090
9.8
16
冷凍食品(からあげ)5
0.084
17
冷凍食品(からあげ)6
0.099
18
冷凍食品(からあげ)7
0.098
19
20
冷凍食品(たこやき等)1
冷凍食品(たこやき等)2
0.092
0.169
弁2
20.75
-
0.184
和風幕の内弁当
ごはん(ごましお、梅干)
エビフライ(タルタルソース付)
-
0.094
コロッケ
0.091
竹輪煮(竹輪、人参、しいたけ、サトイモ)
-
焼そば
0.130
10.9
焼鮭
0.088
13.9
卵焼き
0.100
24.1
肉団子(タレ付)
0.096
38.0
75.1
玉ねぎ人参コーンかき揚
0.141
大根切干煮
-
13.57
21
冷凍食品(たこやき等)3
0.132
19.8
大根漬(桜漬け)
-
22
冷凍食品(たこやき等)4
0.109
20.7
しょうゆ
-
23
冷凍食品(たこやき等)5
0.145
22.4
24
冷凍食品(たこやき等)6
0.100
28.3
天1
天2
惣菜(天ぷら)1
惣菜(天ぷら)2
0.122
0.106
13.5
6.3
天3
惣菜(天ぷら)3
0.099
5.9
5.9~14.6μg,惣菜(フライ)3.2~19.6μg であった.ま
天4
惣菜(天ぷら)4
0.123
10.2
た,弁当 1 食分のアクリルアミド含有量は,即席袋めん 1
天5
惣菜(天ぷら)5
0.102
7.2
食あるいは惣菜 1 個を喫食した場合と同程度の含有量で
天6
惣菜(天ぷら)6
0.114
11.1
天7
惣菜(天ぷら)7
0.202
14.6
天8
惣菜(天ぷら)8
0.149
6.1
ふ1
ふ2
惣菜(フライ)9
惣菜(フライ)10
0.100
0.100
3.3
7.3
リルアミド生成に関しては,
製造時あるいは調理時におけ
ふ3
惣菜(フライ)11
0.096
4.3
る調理温度,アスパラギンや還元糖の量や存在比,還元糖
む)6.0~13.0μg,冷凍食品(からあげ)9.8~33.0μg,
冷凍食品(たこやき等)19.8~75.1μg,惣菜(天ぷら)
あった.
前述のとおりアクリルアミドは,アスパラギンと還元糖
を含む食品を高温で加熱調理することで生成する 4).アク
ふ4
惣菜(フライ)12
0.116
4.3
の種類,水分の存在量など,さまざまな因子が複雑に影響
ふ5
惣菜(フライ)13
0.094
7.9
するといわれる 15,16).今回調査した調理食品は菓子類と比
ふ6
惣菜(フライ)14
0.136
11.5
較して水分を多く含み,比表面積が比較的小さいものが多
ふ7
惣菜(フライ)15
0.116
19.6
ふ8
惣菜(フライ)16
0.092
5.7
かったことも,
アクリルアミドが生成しにくい一因であっ
ふ9
惣菜(フライ)17
0.071
3.2
弁1
弁当 1
20.7
弁2
弁当 2
13.6
たと考える.
トータルダイエットスタディによる推計では,日本人の
アクリルアミド推定一日摂取量は体重1kg あたり0.3~2.2
μg とされている 8).体重 60kg の人では 18~132μg を摂
- 59 取していることになるが,1 日で 1 袋すべてを一人で喫食
0.25
した場合,今回の結果の中には日本人の推定一日摂取量に
(μg/g)
達する可能性のある銘柄が複数認められた.今回調査対象
0.2
食品に選定した惣菜の天ぷらやフライは,1 日,あるいは
0.15
1 回の食事で複数個を喫食する可能性がある.また,毎日
の食生活においては,今回調査対象として取り上げた加工
0.1
食品のみを食べるというわけではなく,高温で加熱調理し
たさまざまな加工食品を喫食する機会も少なくない.
0.05
一方,アクリルアミドは,家庭における「焼く」
,
「揚げ
る」など高温での調理において生じることも考えられる.
フライ
天ぷら
たこやき等
からあげ
即席めんの
スープ
即席袋めん
0
身のまわりの様々な食品(食材)は,アミノ酸と糖を含む
と考えられることから,さまざまな加工食品中にアクリル
アミドが存在する可能性があり,毎日の食生活の内容によ
っては,推定一日摂取量を上まわる可能性も考えられる.
図 2 食品 1g あたりのアクリルアミド含有量
現在のところ,
アクリルアミドのヒトの健康への影響につ
0.15
いては,日本においても厚生労働科学研究などによって調
(μg/g)
査が進められている 17)が,ヒトの健康に影響がある可能性
が否定できないといわれる物質であるため,摂取量に配慮
0.1
することが大切であると考える.
今回取り上げた「食品中のアクリルアミド」に関しては
0.125
国内における規制はなく,現在までに,海外においても基
0.127
0.102
0.05
準を設けている国はない.しかし,人の健康への影響が懸
0.099
0.084
0.072
念されている物質である.
食品からの健康リスクを最小限にするためには,科学的
0.017
全体平均
フライ
天ぷら
たこやき等
からあげ
即席めんの
スープ
即席袋めん
0
なデータに基づく情報提供を行うことで,
バランスのとれ
た食生活の重要性および食品の安全性等に関する情報を
消費者に発信し,
広く普及することが大切である.
そして,
消費者自らが正しい知識を身につける環境を整えること
が重要であると考える.
図 3 食品 1g あたりのアクリルアミド平均含有量
まとめ
(μg/袋・個)
消費者が手軽に利用していると考えられる,即席袋めん,
体 重 ㎏の 人 の
推定一日摂取量
100
60
50
冷凍食品,バラ売り惣菜などの加工食品について,静岡市
内で市販されていた 41 銘柄を対象にアクリルアミド含有
実態を調査した.また,食事 1 食分のアクリルアミド摂取
量を推定するため,市販の弁当 2 銘柄について調査したと
ころ,以下のことが明らかとなった.
1 今回調査した加工食品のアクリルアミド含有量は食品
1g あたり 0.047~0.202μg であり,国内における報告値
と同程度の含有量であった.
フライ
天ぷら
たこやき等
からあげ
即席袋めん
スープ含む
(
)
0
図 4 商品 1 袋(惣菜 1 個)あたりのアクリルミド含有量
2 食品 1g あたりの含有量は食品の種類や銘柄による違い
がほとんどなく、昨年度調査した菓子類と比較して含有
量が低い結果であった.
3 市販の弁当 1 食分のアクリルアミド量は,即席袋めん 1
食あるいは惣菜 1 個分と同程度の量であった.
- 60 4 今回調査した銘柄の中には,1 日で 1 袋すべてを 1 人で
喫食したと仮定した場合,日本人の推定一日摂取量に達
する可能性のある銘柄が複数認められた.
5 アクリルアミドはアスパラギンと還元糖を含む食品を
高温で加熱することで生成するといわれており,家庭に
AOAC Int.,87(4),961-964(2004)
12) 木村圭介他:調理食品中のアクリルアミド,平成 22
年度全国衛生化学技術協議会年会講演集,140-141
(2009)
13) 寺田久屋他:カラムスイッチング HPLC を利用した
おける調理の際にも生じる可能性が考えられる.食品か
UV 検出による加工食品中のアクリルアミドの定量,
らの健康リスクを最小限にするためには,バランスの取
食品衛生学雑誌,44(6),303-309(2003)
れた食生活の重要性および食品の安全性などに関する
14) Takatsuki,S. et al.: Determination of acrylamide in
正しい情報を消費者に確実に発信し,広く普及すること
processed foods by LC/MS using column switching, J.
が重要であると考えられた.
Food Hyg. Soc. Japan, 44(2), 89-95(2003)
15) 高附巧他:農産物の加熱調理によるアクリルアミドの
参考文献
1)
2)
食品安全委員会:加工食品中のアクリルアミドについ
food model system, and examination of inhibitory
農林水産省:アクリルアミドの健康影響,http://
conditions, J. Food Hyg. Soc. Japan, 46(2), 33-39(2005)
about/eikyou.html
厚生労働省:加工食品中アクリルアミドに関する
Q&A,
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/11/tp1101-1.html
4)
Yaylayan,V.A. et al.: Acrylamide formation in food:A
mechanistic perspective,J. AOAC Int.,88(1),262-267
(2005)
5)
農林水産省:アクリルアミドの食品からの発見の経緯
~アクリルアミド問題の背景について~,http://
www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/acryl_amide/
a_syosai/about/keii.html
6)
National Food Administration(April 26,2002) Press
Release, Uppsala, Sweden,http://www.mindfully.
Org/Food/Acrylamide-Heat-Processed-Foods26apr02.
htm
7)
農林水産省:個別危害要因への対応(有害化学物質)
,
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/
risk_analysis/priority/hazard_chem.html
8)
農林水産省:食品安全に関するリスクプロファイルシ
ート,http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/
risk_analysis/priority/pdf/chem_aa.pdf
9)
16) Ishihara,K. et al. : Formation of acrylamide in a processed
て,http://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets.html
www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/acryl_amide/a_syosai/
3)
生成,食品衛生学雑誌,45(1),44-48(2004)
横山玲子他:食品に含まれる有害化学物質等に関する
調査-加工食品中のアクリルアミド含有実態調査-,
静岡県環境衛生科学研究所報告,54,55-59(2011)
10) Cheng,W.C. et al.:Validation of an improved LC/MS/MS
method for acrylamide analysis in foods, J. Food Drug
Anal., 17(3),190-197 (2009)
11) Young,S.C. et al.:Solid-phase extraction and cleanup
crocedures for determination of acrylamide in fried fotato
froducts by liquid chromatography/mass spectrometry, J.
17) 厚生労働科学研究成果データベース,http://mhlw
-grants.niph.go.jp/niph/search/NIST00.do
静岡県環境衛生科学研究所報告 No.55 61-66 2012
Bulletin of Shizuoka Institute of Environ. and Hyg.
- 61 -
調味料等に含まれるカプサイシンについて
医薬食品部
食品班
久保山真帆,横山玲子,小和田和宏
Determination of Capsaicin Contents in Seasonings
Maho KUBOYAMA, Reiko YOKOYAMA and Kazuhiro OWADA
唐辛子の辛味成分であるカプサイシンは,体熱産生,発汗,健胃等の効果があることが知られており,唐
辛子を使用した辛い食品の人気は高い.そこで,一味唐辛子類や鍋の素,調味料等に含まれるカプサイシン類含
有量を調査した結果,商品によりその含有量に大きな差があった.また,
「赤い色」は辛さを連想させるが,鍋の
素や調味料等では赤色の着色料を使用している商品も多く,色は辛さの目安にはならないと考えられた.したが
って,商品を選ぶ際には見かけの色やパッケージのデザインだけでなく,原材料表示を確認して比較することが
必要であると考えられた.
また,開封後に異なる条件で保管した一味唐辛子のカプサイシン類の含有量の変化について調べた結果,
密封容器に入れて冷蔵庫に保管することが望ましいと考えられた.
さらに,青唐辛子や鷹の爪の各部位に含まれるカプサイシン類含有量を調べたところ,唐辛子のカプサイ
シン類は胎座に多く含まれていることがわかった.
Key words: カプサイシン,ジヒドロカプサイシン,唐辛子,調味料
capsaicin, dihydrocapsaicin, red pepper, seasoning
はじめに
試料および方法
唐辛子は香辛料や野菜として広く食用にされている.
1 テスト対象
また,具材を入れるだけで手軽に料理が作れる合わせ調
静岡市内のドラッグストアまたはスーパーマーケッ
味料や鍋の素は多くの家庭で利用されており,唐辛子が
トで購入した一味唐辛子 9 銘柄,鍋の素 9 銘柄,カレー
含まれている商品も多数流通している.一方,唐辛子の
ルウ 3 銘柄,袋麺 2 銘柄,調味料 10 銘柄,サプリメン
主要な辛味成分であるカプサイシンには,体熱産生,発
ト等 6 銘柄および青唐辛子 1 銘柄の合計 40 銘柄をテスト
汗,健胃等の効果があることが知られており
1,2)
,この
ため,代謝を促進させる等のダイエット効果を謳ったカ
対象とした(表 1)
.
2 試薬および標準品
プサイシン含有サプリメントも数多く販売されている.
カプサイシン標準品およびジヒドロカプサイシン標準
そこで,
唐辛子類をはじめ,
「辛さ」
を強調した調味料,
品:和光純薬工業(株),その他の試薬:特級またはそれ
加工食品およびカプサイシン含有サプリメント等に含ま
以上のもの,ろ紙:No.5C,110mm
れるカプサイシン類含有量(カプサイシンおよびジヒド
3 方法
ロカプサイシン)を調査した.
1) 表示
また,家庭において開封後に長期保存されることの多
商品に記載されている栄養成分等の表示を調査した.
い一味唐辛子について,保管条件の違いによるカプサイ
2) カプサイシン類含有量
シン類含有量の変化を調べるとともに,青唐辛子および
① 試料の調製
鷹の爪について,各部位におけるカプサイシン類含有量
の違いを調査したので併せて報告する.
鷹の爪は包丁で 1~2mm の輪切りにしたものを試料と
し,カレー(フレークタイプを除く)は包丁で細切した
ものを試料とした.また,形状が錠剤のサプリメントに
静岡県環境衛生科学研究所
ついてはすりつぶして均一化したものを試料とした.そ
(〒420-8637,静岡市葵区北安東 4-27-2)
の他は検体をそのまま試料とした.
Shizuoka Institute of Environment and Hygiene
② 試験溶液の調製 3,4)
(4-27-2,Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka,420-8637,Japan)
No.1~9,29,30 は 0.5g,No.24~28,34~37 は 2g,
- 62 No.19~23,33 は 5g 試料を精密に量り,アセトン:水=1:1
60 分間超音波抽出後,一晩振とう撹拌した.これにアセ
(モル比)を約 18mL 加えて 60 分間超音波抽出後,一晩
トンを加えて正確に 10mL としたものをボルテクスで撹
振とう撹拌した.これにアセトン:水=1:1(モル比)を加
拌後,ろ紙でろ過し,さらに 0.45μm のフィルターでろ
えて正確に 20mL としたものをボルテクスで撹拌後,ろ
過したものを HPLC 用試験溶液とした.
紙でろ過し,さらに 0.45μm のフィルターでろ過したも
③ HPLC 測定条件
のを HPLC 用試験溶液とした.
カラム:Mightysil RP-18 GP Aqua (4.6mm×150mm, 5μ
液状の試料(No.10~18,31~32,38 および 39)につ
いては試料を精密に 5g 量り,アセトン約 4mL を加えて
m, 関東化学㈱)
移動相:1%酢酸:アセトニトリル=6:4(No.6,14,16
および 17 については,1%酢酸:アセトニトリ
ル=63:37)
表 1 テスト対象
種類
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
一味唐辛子
鷹の爪
一味唐辛子
一味唐辛子
一味唐辛子
一味唐辛子
一味唐辛子
一味唐辛子
一味唐辛子
キムチ鍋の素
キムチ鍋の素
味噌鍋の素
味噌鍋の素
キムチ鍋の素
キムチ鍋の素
キムチ鍋の素(濃縮タイプ)
キムチ鍋の素(濃縮タイプ)
キムチ鍋の素
カレー(フレーク)
カレー
カレー
袋麺(ラーメン)
袋麺(きしめん)
調味料(タバスコ)
一味唐辛子類
銘柄 No.
鍋の素
カレー
袋麺
調味料
サプリメント等
調味料(タバスコ)
調味料(タバスコ)
調味料(タバスコ)
調味料(タバスコ)
調味料(香辛料)
調味料(辛味オイル)
調味料(豆腐チゲの素)
調味料(エビチリの素)
調味料(キムチの素)
健康食品(タブレット)
健康食品(粉末)
健康食品(タブレット)
健康食品(タブレット)
健康食品(ドリンク)
健康食品(ゼリー飲料)
青唐辛子
金額(円)
67
100
100
98
189
140
231
136
157
298
178
298
248
298
258
198
198
298
298
128
138
168
148
198
493
493
588
798
118
158
128
128
248
980
1980
1795
999
164
278
198
内容量
14g
6g
30g
30g
100g
20g
16g
16g
12g
750g
700g
750g
700g
750g
750g
300ml
500ml
750g
180g
100g
100g
226g
110g
60mL
148mL
148mL
148mL
150mL
14g
31g
180g
110g
190g
22.5g
52g
90 粒
30g
100mL
180g
20 本
カラム温度:40℃
流量:1.0mL/min
検出器(蛍光)
:励起波長 280nm,蛍光波長 325nm
3)各部位におけるカプサイシン類含有量
① 試料の調製
青唐辛子(No.40)は果皮上部,果皮下部,胎座(果皮
内側の種子付着部)および種子に分け(図 1),鷹の爪
(No.2)は果皮上部および果皮下部に分けた.果皮は包
丁で 1~2mm の輪切りまたは千切りに,胎座は 5mm 程度
に切ったものを試料とし,種子はそのまま試料とした.
果皮上部
果皮下部
胎座
種子
図 1 青唐辛子の各部位
② 試験溶液の調製
各試料の重量を測定し,アセトン:水=1:1(モル比)を
加えて 60 分間超音波抽出後,一晩振とう撹拌した.これ
にアセトン:水=1:1(モル比)を加えて青唐辛子は正確に
10mL とし,鷹の爪は正確に 20mL としたものをボルテク
スで撹拌後,ろ紙でろ過し,さらに 0.45μm のフィルタ
ーでろ過したものを HPLC 用試験溶液とした.
③ HPLC 測定条件
2)③の HPLC 測定条件を用いた.
4) 一味唐辛子中のカプサイシン類含有量の経時変化
① 保管条件
同ロットの一味唐辛子(No.4)を各条件で 50 日,100
日および 150 日保管したものを試料とした.なお,密封
容器にはチャック付保存袋を用い,
室温保管は 9~2 月の
一般家庭と同程度の室温の直射日光の当たらない部屋で
行い,冷蔵庫保管は 10℃に保たれた冷蔵庫の中で行った.
② 試料の調製
検体をそのまま試料とした.
③ 試験溶液の調製
試料 0.5g を精密に量り,アセトン:水=1:1(モル比)を
- 63 約 18mL 加えて 60 分間超音波抽出後,一晩振とう撹拌し
(No. 22,23)
,調味料 3 銘柄(31~33)
,サプリメント
た.これにアセトン:水=1:1(モル比)を加えて正確に
等 6 銘柄(No.34~39)の計 24 銘柄において栄養成分表
20mL としたものをボルテクスで撹拌後,
ろ紙でろ過し,
示があった.このうち,カプサイシンに関する表示があ
さらに 0.45μm のフィルターでろ過したものを HPLC 用
ったのは No.38 のみであった.
試験溶液とした.
2 カプサイシン類含有量
④ HPLC 測定条件
各銘柄におけるカプサイシン類の含有量について,一
2)③の HPLC 測定条件を用いた.
味唐辛子類を図 2 に,鍋の素を図 3 に,調味料類を図 4
に,サプリメント等を図 5 に示した.なお,鍋の素のう
結果および考察
ち,No.16 および 17 は濃縮タイプ(その他はストレート
1 表示
タイプ)
であったため,
図 3 は希釈後の含有量を示した.
1) 辛さに関する記載および原材料について
1) 一味唐辛子類
様々な辛さの商品が市販されているタバスコやカレー
No.1~9 は唐辛子のみを原材料としており,No.2 は一
については,消費者が好みの辛さの商品を選択できるよ
本,No.9 は輪切り,その他は細挽きの形状であった.原
うに,辛さに関する複数の表示がされていた.
産地の記載があったのは No.2,5,6 でこれらの原産地は
カレーでは「甘口」「中辛」「辛口」という一般的な表
すべて中国であった.
示に加え,自社メーカーの複数のブランド商品を辛さ別
No.2 はカプサイシン類の含有量が一番多く,他と比較
に示した表をパッケージに印刷することで,同じ「中辛」
して 2 倍以上であった.また,この銘柄は「鷹の爪」と
でもブランドによって辛さが異なることがわかりやすく
いう品種の唐辛子を使用していることが表示からわかっ
表示されていた.また,タバスコでは「中辛」等の表示と
た.一方,No.2 以外は唐辛子を使用していることは確認
ともに、消費者が一目で辛さの比較ができるようシリー
できたが,品種名はわからなかった.唐辛子のカプサイ
ズ商品の辛さをイラストで示す等の工夫がされた表示が
シン類の含有量は品種や産地によって大きく異なるとい
目立った.
われており 5),No.2 のカプサイシン類の含有量が突出し
鍋の素や合わせ調味料は,味の特徴や厳選した原材料
ているのは品種によるものであると考えられた.
を使用していること等の商品の美味しさを強調するよう
一味唐辛子では外観や価格から辛さを推測することは
な表示が多く見られ,辛さに関しては「キムチの技冴え
困難であるため,辛さを推測する方法として原材料表示
る」
,
「韓国産唐辛子使用」等の記載があった.また,す
等の唐辛子の品種を確認するのも有用と考えられた.
べての銘柄で調理例の写真と調理方法が掲載されていた.
2) 鍋の素
鍋の素 9 銘柄のうち,原材料に「唐辛子」を使用して
No.11~18 の鍋の素のカプサイシン類含有量は銘柄間
いるものは 8 銘柄あったほか,唐辛子を原料とする「コ
で差が見られた.鍋の素の色は銘柄によって異なってい
チュジャン」を使用しているものは 4 銘柄,
「トウバンジ
るが、辛さを連想させる赤色の着色料を使用している商
ャン」を使用しているものは 2 銘柄,
「香辛料抽出物」を
品も多く,商品の色とカプサイシン類の含有量に関連は
使用しているものが 1 銘柄あった.このうち 5 銘柄でこ
ないと考えられた.
れらの原材料が複数使用されていた.
さらに,キムチ鍋の素 7 銘柄のうち,パッケージに主
鍋の素には唐辛子の他に「コチュジャン」や「トウバ
ンジャン」を使用している銘柄も多く見られ,カプサイ
に赤色を用いている商品は 5 銘柄あり,これ以外の銘柄
シン類含有量の多かった No.15,
17 では,
「コチュジャン」
でも一部に赤色を使用する等,辛味を連想させる「赤色」
が原材料の一つ目に記載されていたことから「コチュジ
を使用しているものが多く見られた.
ャン」由来のカプサイシン類によるものと考えられた.
一方,サプリメント等 6 銘柄については,すべてに「ダ
実際の商品の辛さを推測するためには,原材料表示の
イエットをサポート」
「たくさん食べたと感じたら」
,
「燃
,
「唐辛子」
,
「コチュジャン」および「トウバンジャン」
焼」等,カプサイシンがダイエットの助けとなるような
の記載および記載順を確認することも参考になると思わ
成分であることを消費者に感じさせる記載がされていた.
れた.
また,No.34,36,37 の銘柄には「唐辛子エキス」や「唐
3) カレールウ
辛子パウダー」の使用量の記載があった.
2) 栄養成分表示について
一味唐辛子類 2 銘柄(No.2,3)
,鍋の素 8 銘柄(No.10
~14,16~18)
,カレー3 銘柄(No.19~21)
,袋麺 2 銘柄
No.19~21 のカレールウにおいて,ジヒドロカプサイ
シンは定量限界未満 (0.1μg/mL)であり,また No.20
の甘口カレーではカプサイシンも定量限界未満であった.
No.19 と 21 では 100g あたりのカプサイシンの含有量
- 64 は約 3 倍の差があり,さらに 1 食あたりに換算すると
り,野菜エキスやアミノ酸等の調味料が多く含まれてい
No.19(0.77mg)には No.21(0.17mg)の約 4.5 倍のカプ
ることから商品における「唐辛子」等の使用割合がわず
サイシンが含有されていることから,同じ辛口であって
かであったためと推測された.また,No.30~33 の銘柄
もカプサイシン含有量は大きく異なり,カプサイシン類
では「赤色の着色料」が使用されており,鍋の素同様,
以外の辛味成分により辛味を感じる可能性が考えられた.
辛味のある調味料では視覚からも辛味を感じさせるため
4) 袋麺のスープ
に商品を赤色に着色するケースが多く見られた.
No.22,23 の袋麺のスープについて,カプサイシン含
有量を 1 袋あたりに換算すると No.22 では 0.84mg,
No.23
7) サプリメント等
No.34~39 のサプリメント等について,100gあたり,
では 1.04mg となり,スープをすべて飲んだ場合のカプサ
および各銘柄に記載されていた一日摂取目安量あたりの
イシン摂取量は No.2 の鷹の爪に換算すると、約1本分
カプサイシン類の含有量を図 5 に示した.
(0.86mg)と同程度であった.
成分に関する記載は「とうがらしエキス」や「ハバネ
ロパウダー」等のカプサイシンを含有する原材料の配合
5) タバスコ
No.24~28 のタバスコについて,No.25~27 は辛さの異
のみで,記載内容からカプサイシンの含有量を読み取る
なるシリーズ商品(No.25「中辛」
,No.26「大辛」
,No.27
ことはできなかった.しかし,
「一日摂取目安量あたりカ
「激辛」
)であったが,No.25「中辛」と No.26「大辛」
プサイシン含有とうがらしエキス末 14mg」との記載があ
のカプサイシン含有量は同程度であった.No.28 はカプ
った No.36 と「一日摂取目安量あたりトウガラシエキス
サイシン類の含有量が突出して高かったが,これは,カ
3) カレールウ
プサイシン類を多量に含む「ハバネロ」や「ジョロキア」
という品種が使用されているからであると考えられた.
100g あたりのカプサイシンの含有量は多かった.No.31,
カプサイシン
ジヒドロカプサイシン
3.0
12
2.5
10
mg/100g
の料理に好みに応じて加えるタイプの調味料であり,
mg/100g
6) 調味料
No.29~33 の調味料において,No.29,30 は,カレー等
4) 袋麺
カプサイシン
ジヒドロカプサイシン
2.0
1.5
8
6
1.0
4
32 ではカプサイシンの含有量は低かったが,これらの銘
0.5
2
柄は具材を入れるだけで料理が作れる合わせ調味料であ
0.0
0
19
1) 一味唐辛子類
100
0
カプサイシン
ジヒドロカプサイシン
100
80
80
60
2
3
4
5
6
7
8
9
No.
2) 鍋の素
0.20
300
0
0
24
35
150
50
10
11
キムチ鍋
12
13
味噌鍋
0
14
28 No.
29
カプサイシン
ジヒドロカプサイシン
300
30
31
32
33 No.
2.66
1.08
15
16
17
18 No.
34 35 36 37 38 39 No.
キムチ鍋
図 3 鍋の素のカプサイシン類含有量
200
20
15
0
150
100
10
5
カプサイシン
ジヒドロカプサイシン
250
25
100
0.00
27
30
mg/100g
μ g /日
0.05
26
7) サプリメント等
200
0.10
25
0.67 0.24
0.38 0.16
図 4 調味料類のカプサイシン類含有量
カプサイシン
カプサイシン
ジヒドロカプサイシン
ジヒドロカプサイシン
250
0.15
40
20
μ g /日
1
60
20
図 2 一味唐辛子類のカプサイシン類含有量
No.
23
6) 調味料
40
50
mg/100g
22
mg/100g
100
mg/100g
mg/100g
120
250
150
No.
カプサイシン
ジヒドロカプサイシン
300
200
21
5) タバスコ
カプサイシン
ジヒドロカプサイシン
350
20
0.133
0.054
0.027
34 35 36 37 38 39 No.
50
0
2.66
1.08
34 35 36 37 38 39 No.
図 5 サプリメント等のカプサイシン類含有量
(左図:100g あたり,右図:一日摂取目安量あたり)
- 65 パウダー25mg,トウガラシエキス 15mg」との記載があ
中の含有量はカプサイシンで 0.26~31.98μg,ジヒドロ
った No.34 では,No.36,37 よりも含有量が多かったこ
カプサイシンで0.41~21.46μgと差が大きかった
(表2).
とから,
「エキス」や「パウダー」等の配合量からこれら
これらの結果から青唐辛子中のカプサイシン類の含有量
の銘柄間におけるカプサイシン類含有量を予測できる可
の個体差は非常に大きいと考えられた.
また,胎座はその他の部位と比較して,1g 中のカプサ
能性もあると考えられた.
今回調査したサプリメント等の中で最もカプサイシン
イシン類含有量が著しく高い.そのため,胎座の重量は
含有量の多かった No.34 の一日摂取目安量中に含有され
試料全体の 1 割程度であるにもかかわらず,青唐辛子中
ているカプサイシン量は 0.24mg であり,No.2 の鷹の爪
に含まれるカプサイシン類はその大部分が胎座に由来す
であれば約四分の一本,No.4 の一味唐辛子であれば約
るものであるといえる(図 6)
.
0.24g,No.19 の辛口カレーであれば約 1/3 食分で同程度
なお,試料によっては胎座以外の部位のカプサイシン
のカプサイシンを摂取できる計算となる.したがって,
類の割合が多いものも見られたが,胎座に含まれるカプ
カプサイシンを摂取したい場合には,これらの食品を料
サイシン類が非常に多いこと,胎座は果皮と種子に密着
理に取り入れることで,サプリメントと同程度のカプサ
していることから,試料調製の際に完全に分離できなか
イシンを普段の食事において摂取することが十分可能で
った胎座によって,果皮や種子中のカプサイシン類含有
あると考えられる.ただし,サプリメントは飲食時に辛
量が実際よりも多くなったためであると予想される.
味を感じさせない工夫がされているため,カプサイシン
2) 鷹の爪
の辛さが苦手な場合にはサプリメントからカプサイシン
鷹の爪の上部および下部の各部位 1g 中のカプサイシ
を摂取するのも一手である.
ン類の含有量を表 3 に,鷹の爪 1 本中の各部位における
3 青唐辛子および鷹の爪の各部位におけるカプサイシン
カプサイシン類の含有量を図 7 に示した.
類含有量
乾燥した鷹の爪では青唐辛子と異なり,胎座部分を切
1) 青唐辛子
り分けることが困難であり,すでにヘタが切り落とされ
青唐辛子の上部,下部,胎座および種子,各部位 1g
て種子が外に出てしまっているものも多かったことから,
中のカプサイシン類の含有量を表 2 に,青唐辛子1本中
果皮を上部および下部に分けて含有量を調べた.上部と
の各部位におけるカプサイシン類の含有量を図 6 に示し
下部における含有量を比較すると,若干上部の含有量の
た.試料 C ではすべての部位で定量限界未満
方が多かった(表 3)が,これは上部部分に含まれる乾
(0.1μg/mL)であったが,その他の試料では,試料 1g
表 2 青唐辛子各部位 1g 中のカプサイシン類含有量
果皮上部
カプサイシン 果皮下部
含有量
胎座
(μg/g)
種子
全体
果皮上部
ジヒドロカプ 果皮下部
サイシン含有
胎座
量
種子
(μg/g)
全体
A
3.88
4.08
235.74
11.75
31.98
2.84
3.77
152.96
10.28
21.46
B
C
D
11.82
5.66
2.05
9.95
4.17
1.66
F
0.34
3.29
76.14
2.08
14.62
11.34
0.26
2.66
0.83
2.86
47.30
3.30
11.35
7.04
0.41
2.43
定量限界未満(0.1μg/ml)
-:
種子
胎座
下半分
上半分
μg/本
80
60
b
3.39
0.94
2.25
2.44
0.64
1.60
c
1.58
0.90
1.25
0.71
0.35
0.53
下部
800
上部
600
40
400
200
20
ジ ヒド ロ
カプサイシ ン
b
カプサイシ ン
ジ ヒド ロ
カプサイシ ン
a
カプサイシ ン
図 6 青唐辛子の各部位におけるカプサイシン類含
有量(μg/1 本あたり)
ジ ヒド ロ
カプサイシ ン
F
0
カプサイシ ン
ジ ヒド ロ
カプサイシン
E
カプサイシン
ジ ヒド ロ
カプサイシン
D
カプサイシン
ジ ヒド ロ
カプサイシン
C
カプサイシン
ジ ヒド ロ
カプサイシン
B
カプサイシン
ジ ヒド ロ
カプサイシン
A
カプサイシン
ジ ヒド ロ
カプサイシン
カプサイシン
0
a
1.86
2.10
1.98
0.70
0.82
0.76
カプサイシン 果皮上部
含有量
果皮下部
(μg/g)
全体
ジヒドロカプ 果皮上部
サイシン含有 果皮下部
量(μg/g) 全体
μg/本
100
表 3 鷹の爪各部位1g中のカプサイシン類含有量
E
c
図 7 鷹の爪各部位におけるカプサイシン類含有量
(μg/1 本あたり)
- 66 燥した胎座の量が多いためと考えられた.また,青唐辛
子と比較すると含有量の個体差は少なかった.
料 a は若干果皮の赤色が薄かったが,カプサイシン類の
D
100
B
含有量は最も多く(図 7)
,試料の色とカプサイシン類含
95
有量との関連性は見出せなかった.
90
C
A
開封直後
生の青唐辛子と乾燥した鷹の爪(赤唐辛子)では,重
量あたりのカプサイシン類の含有量に数千倍の差がある
いかほとんどない代わりに糖度が高く,主に野菜として
100
55
mg/100g
には,辛味があって香辛料に使われる品種と、辛味がな
50
150
日後
A:室温
B:室温(密封)
C:冷蔵庫
D:冷蔵庫(密封)
D
B
50
C
45
A
食される品種がある.今回の含有量結果から,鷹の爪は
前者,今回調べた青唐辛子は後者に属するものであった
◆カプサイシン
:未開封で室温保管
(150日)
ジヒドロカプサイシン
60
固体もあり,試料の水分含有量を考慮してもカプサイシ
ン類の含有量には大きな差があると考えられた.唐辛子
A:室温
B:室温(密封)
C:冷蔵庫
D:冷蔵庫(密封)
105
mg/100g
同じパック中の鷹の爪 3 本(a,b,c)を比較すると試
カプサイシン
110
40
開封直後
50
100
150
●ジヒドロカプサイシン
:未開封で室温保管
(150日)
日後
と考えられる.
4 一味唐辛子中のカプサイシン類含有量の経時変化
図 8 カプサイシン類含有量の経時変化
開封した一味唐辛子を室温および冷蔵庫に,密封され
た状態とそうでない状態に保管し,保存条件の違いによ
るカプサイシンおよびジヒドロカプサイシン含有量の変
化を調べ,結果を図 8 に示した.
まとめ
一味唐辛子類や鍋の素,調味料等に含まれる唐辛子の
A~D のすべての条件において,時間経過に伴い,カ
辛味成分であるカプサイシン類含有量は,商品によって
プサイシン類含有量の減少が見られた.中でも A:室温
大きな差があった.また,
「赤い色」は辛さを連想させる
保管では 150 日後にはカプサイシンで約 10%,ジヒドロ
が,鍋の素や調味料類では赤色の着色料を使用している
カプサイシンで約 18%の含有量の減少が見られ,温度や
商品も多く,色は辛さの目安にはならないと考えられる
湿度の影響が考えられた.
ため,商品を選ぶ際には見かけの色やパッケージのデザ
密封容器に保管した B と D ではカプサイシン類の減少
が最も少なかった.今回の調査では,密封容器に保管し
インだけでなく,原材料表示を確認して比較することが
必要であると考えられた.
た場合の B の室温(9~2 月)と D の冷蔵庫における差
唐辛子のカプサイシン類は胎座に多く含まれているた
は見られなかったが,真夏には今回の条件よりもさらに
め,辛さを求める場合には,種子を取り除く際に胎座を
室温が上昇することも考えられることから,品質を保つ
残すことも一手である.
ためには,開封後には冷蔵庫に保管することが望ましい
と考えられる.
また,
未開封の状態で 150 日間室温保管した場合でも,
わずかにカプサイシン類含有量の減少が見られた.今回
一味唐辛子は家庭で開封したまま長期間保管されてい
ることも多いが,辛味を保つためには,開封後には密封
容器に入れ,冷蔵庫に保管することが望ましいと考えら
れた.
試料とした銘柄の賞味期限は購入時点で約 20 カ月後で
あった.
香辛料として一味唐辛子を一度の調理や食事において
使用する量はわずかであるため,一般の家庭では開封し
たまま長期間保管される可能性がある.
今回の結果から,
一味唐辛子の辛味を保つためには,製造日の新しいもの
を使用する直前に購入し、開封後には密封容器に入れて
冷蔵庫に保管することが望ましいと考えられた.チャッ
ク付の袋やキャップタイプの容器に入った商品を選択す
ることも一味唐辛子の辛味や風味を長く楽しむための方
法の一つである.
文 献
1) 食品機能性の科学編集委員会:食品機能性の科学,
284-289,
(2008)
2) 中谷延二:香辛料の機能性成分,生活科学研究誌
(Vol.1)(2002)
3) 四国イノベーション創出協議会 地域食品・健康文化会
編:食品中の健康機能成分の分析法マニュアル
4) 唐辛子からカプシノイド化合物を抽出分離する方法及
び唐辛子抽出物 http://www.ekouhou.net
5) 日本水産㈱ホームページ
http://www.nissui.co.jp/academy/taste/06/taste_vol06.pdf
静岡県環境衛生科学研究所報告 No.55 67-76 2012
Bulletin of Shizuoka Institute of Environ. and Hyg.
- 67 -
芝川上流部の水質汚濁に関する研究
大気水質部
水質環境班
後藤裕康,清水麻希,内山道春,
三好廣志
Research on Water Pollution of the Shibakawa Riv. upper Area
Hiroyasu GOTO, Maki SHIMIZU, Michiharu UCHIYAMA
and Hiroshi MIYOSHI
芝川上流部の水質常時監視地点である「横手沢橋」で,BOD が環境基準を超過して年々悪化する傾向がみ
られたため,その原因について調査した.その結果,
「横手沢橋」では平成 19 年度頃から急激な BOD の上昇傾向
がみられるが下流の「芝富橋」ではみられない,芝川上流部の水質はほぼ同様で特定地点からの汚濁負荷の流入
は認められない,降雨直後の源流部で畜産系の水質汚濁を確認,水源を含む芝川水系のほぼ全域で Sphaerotilus
natans のミズワタの大量繁殖を確認,ミズワタは平成 19 年冬季に水源で初出現したことが判明,ミズワタ養分供
給源推定地域に平成 18 年度頃から堆肥埋立て・野積み等の畜産系の汚濁負荷源が出現したことを確認,ミズワタ
添加による試水 BOD の上昇を確認,複数の湧水等の水源で糞便汚染指標菌が検出され広域な糞便汚染を確認,等
の成果を得た.これらのことから,芝川上流の流域(水源涵養地域)には広域な畜産系の面源汚濁負荷があり,
これによる S. natans のミズワタの大量繁殖が「横手沢橋」における BOD 上昇の原因であると推察された.
Key words: BOD,有機汚濁,畜産汚染,ミズワタ,糞便汚染指標菌
BOD,organic pollution,stock raising pollution,Sphaerotilus natans,feces index bacteria
はじめに
ている.このように芝川は水利用が盛んで,発電用,農
芝川は上流型(Aa~Bb)の河川形態を有する富士川の
業用などで取水された表流水は複数の用水路を通って流
支流で,富士山西麓の朝霧高原南部にある静岡県水産技
れ,河川流量が著しく低下している区間や水無川となっ
術研究所富士養鱒場(以下富士養鱒場)水源地を起点と
ている区間もみられる.
し,全流程が富士宮市内を流れている.主な水源は東側
芝川には,
「横手沢橋」と「芝富橋」の 2 か所に公共用
に位置する富士山からの流入水と,西側に位置する毛無
水域水質常時監視の定点が設定されており,県が毎月 1
山をはじめとする天子山塊からの流入水であり,低温で
回水質調査を行っている.また,芝川には「生活環境の
清浄な水質と豊富な水量を有している.富士山や朝霧高
保全に関する環境基準」の水質水域類型が設定されてお
原からの流入水は,溶岩や火山灰・火山礫・スコリア等
り,
「横手沢橋」が AA 類型(利用目的適応性:水道 1 級,
の火山砕屑物を主体とする地質を反映して,ほとんどが
BOD:1mg/L 以下)
,
「芝富橋」が A 類型(同:水道 2 級,
地下水や伏流水となり,
湧水として芝川に流入している.
2mg/L 以下)の水域に含まれる.
豊富で清浄な芝川の水は,富士宮市内野の横手沢橋上
「横手沢橋」の調査地点は,北山用水の取水部に位置
流で取水された北山用水が水道水源として利用され,富
しており,1989 年 4 月(平成元年度)より毎月 1 回(12
士宮市給水量の 20%以上を賄っているほか,大小 20 か
回/年)
,水温,pH,DO,BOD,SS,流量等を調査して
所以上の流れ込み式小規模水力発電所や,複数の養鱒場
いる.これらの調査項目のうち,有機汚濁の指標として
等でも利用されている.また,北山用水,三区用水等複
公共用水域の水質環境基準達成状況の評価に用いられて
数の農業用水の取水も行われ,灌漑用水として利用され
いる BOD の値は,調査開始以降平成 20 年度までは毎年
静岡県環境衛生科学研究所
(〒420-8637,静岡市葵区北安東 4-27-2)
Shizuoka Institute of Environment and Hygiene
(4-27-2,Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka,420-8637,japan)
環境基準を達成してきた(75%水質値)
.しかし,平成
21 年度に年間 4 回の超過を観測して未達成となり,以降
平成 22,23 年度と連続して未達成が続き,さらに超過回
数や BOD の値は年々急激に悪化する傾向がみられた.
- 68 「横手沢橋」の上流域には,酪農場,ゴルフ場,養鱒
の河川には,降雨時や豊水期だけに水が流れる水無川が
場などの施設はあるものの,排水量の大きな工場等の事
多くみられるが,それらについても出水時に繁殖したミ
業場はみられない.また,酪農場,ゴルフ場,養鱒場等
ズワタの痕跡を調査した.
は水質悪化時期よりも以前から存在しているため,近年
これらの調査により把握したミズワタの出現状況は,
の急激な有機汚濁とは結び付けにくく,原因は不明であ
国土地理院の 1/25000 地形図に記録し,地形から読み取
った.そこで,
「横手沢橋」より上流の芝川水系で調査を
った表流水・伏流水の流路から,流域内におけるミズワ
行い,
「横手沢橋」における BOD 環境基準超過原因の推
タの養分供給源を推定した.
定を行ったので,結果を報告する.
また,BOD 等の有機汚濁指標への影響を検討するため,
ミズワタの添加試験を行った.ミズワタは芝川起点付近
調査方法
の湧水部で採取した,芝川でもっとも一般的な淡褐色の
1 水質調査
もの(珪藻類等着生)を用い,軽く水を切った状態で湿
1)公共用水域常時監視データ調査
重量を計測,湿重量比で 0.01,0.02,0.05,0.1%になる
「横手沢橋」
,
「芝富橋」の水質常時監視地点における
よう蒸留水に添加,激しく攪拌・懸濁させた後,水質調
過去の BOD 常時監視データを整理・解析し,BOD の長
査と同様に BOD,COD,TOC を分析した.0.1%添加に
期変動を検討した.
ついては, 110℃で枯死乾燥したものも分析した.
2)芝川上流部水質調査
2) 糞便汚染指標菌調査
「横手沢橋」上流の芝川水系に調査定点を設定し,地
芝川水源における糞便汚染の状況を把握するため,湧
点毎の水質特性と経時変化の検討を行った(河川水質調
水等水質調査定点において,糞便汚染の指標菌である糞
査)
.調査項目および分析方法は表 1 のとおり.
便性大腸菌,嫌気性芽胞菌,および糞便性連鎖球菌を調
採水は河川の流心付近から,サンプル瓶(ポリ瓶)で
査した.分析方法は,大腸菌および嫌気性芽胞菌が「水
直接,またはステンレス製のロープ付きバケツにより,
道におけるクリプトスポリジウム等対策指針」に基づく
浮遊物ができるだけ混入しないように注意して行った.
検査法(厚生労働省通知 平成 19 年 3 月 30 日付け健水
また,芝川水系の最上流部の水源である猪之頭地区周
発第 0330006 号)
,糞便性連鎖球菌が上水試験法(2011
辺の湧水と河川源流部に調査定点を設定し,同様の水質
年版Ⅴ-3 5.4.3 3)(2))で行った.なお,分析は外部分
調査を行った(湧水等水質調査)
.
析機関への委託で行った.
表1 分析方法一覧
項 目
分析方法・分析機器
気 温
水銀温度計
水 温
ペッテンコーヘル水温計,pH計付属
流 量
TOHO DENTAN CM-1BN
pH
東亜DKK HM-31P
BOD
ウィンクラー変法
DO
ウインクラー変法
COD
酸性法(過マンガン酸カリウム)
TOC(全有機態炭素) SHIMAZU TOC-V CPH(NPOC法)
SS
環境庁告示付表9
陽イオン
日本ダイオネクス ICS-1100
(Na+,K+,Mg2+,Ca2+,NH4+)
陰イオン
日本ダイオネクス ICS-2100
(F-,Cl-,SO42-,NO2-,NO3-,PO43-)
結果および考察
1 水質調査
1) 公共用水域常時監視データ調査
「横手沢橋」と「芝富橋」における平成 11~23 年度の
月別 BOD を表 2 に,同期間における BOD の 13 ヶ月移
動平均の推移と月別の河川流量を図 1,2 に示した.
「芝富橋」では,A 類型の環境基準値である 2mg/L を
超過したのは平成 18,22 年度の 2 回だけで,いずれも 2
月であった.また,比較的高い 1~2mg/L の値は冬季~
春季(11~5 月)に集中する傾向がみられた(表 2)
.
2 生物環境調査
1) ミズワタ調査
「横手沢橋」では,平成 11~18 年度には AA 類型の環
境基準である 1mg/L を超過した事例はみられなかった
芝川水系上流部の河川・用水路および猪之頭地区周辺
が,平成 19 年度 3 月に超過して以降,20 年度には 3 回,
の湧水において,糸状細菌のミズワタや糸状緑藻類等の
21 年度には 5 回(75%水質値未達成)
,22 年度には 6 回
出現状況を調査した.調査は目視で行い,水質等の調査
(同)
,23 年度には 8 回(同)と,年々超過回数が増加
時も含めて河川や湧水の実態を広範囲に調査して,-~
する傾向がみられ,平成 22 年度 2,3 月には 2mg/L を超
++++の 5 段階で記録した.また,ミズワタ等が出現し始
える値も観測された.超過がみられた時期は「芝富橋」
めた時期について,
芝川水源にある富士養鱒場の職員や,
と同様の冬季~春季(11~6 月)であり,7~10 月には超
住民等への聞取り調査を行った.なお,芝川水系上流部
過事例がみられなかった.また,平均河川流量は,超過
- 69 表2 芝川水質常時監視地点(横手沢橋(水域類型:AA),芝富橋(同:A))における月別BOD(mg/L)
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月 11月 12月
1月
2月
3月
H11
0.8
0.6
0.8
<0.5
<0.5
1.0
<0.5
<0.5
<0.5
<0.5
<0.5
<0.5
H12
0.7
1.0
0.9
0.5
0.9
0.7
<0.5
0.8
<0.5
0.6
0.6
0.9
H13
0.7
0.5
0.6
<0.5
0.6
<0.5
0.7
0.7
0.7
0.9
<0.5
<0.5
H14
<0.5
0.8
<0.5
0.9
<0.5
0.8
<0.5
0.6
0.9
<0.5
1.0
0.5
H15
0.8
0.7
0.6
0.5
<0.5
0.6
<0.5
0.6
<0.5
0.6
0.5
<0.5
横
H16
0.8
<0.5
0.9
0.7
<0.5
0.7
<0.5
<0.5
<0.5
0.6
0.7
0.9
手
H17
0.5
0.8
0.5
0.6
0.5
0.8
0.6
<0.5
<0.5
0.7
1.0
0.7
沢
H18
0.9
1.0
<0.5
<0.5
0.6
<0.5
<0.5
<0.5
<0.5
0.9
0.5
0.9
橋
H19
0.7
0.7
1.0
0.7
0.6
0.6
0.8
0.9
<0.5
0.7
0.6
1.2
H20
0.6
0.5
1.1
<0.5
<0.5
0.7
1.0
1.1
0.9
0.7
1.3
0.8
H21
1.1
1.9
<0.5
1.0
<0.5
0.8
0.9
1.1
0.8
1.4
1.9
1.3
H22
1.4
1.4
1.0
0.6
<0.5
0.5
1.0
1.1
0.7
1.4
2.3
2.3
H23
1.6
1.1
1.4
<0.5
0.6
<0.5
0.8
1.3
1.2
1.3
1.4
1.2
平均
0.9
0.9
0.8
0.6
0.6
0.7
0.7
0.8
0.7
0.8
1.0
0.9
H11
1.0
0.9
0.7
1.3
0.8
0.5
0.7
0.9
1.2
2.0
1.4
0.6
H12
1.0
1.6
<0.5
0.8
0.9
<0.5
<0.5
0.5
1.3
1.9
0.9
1.2
H13
1.8
0.9
<0.5
1.6
0.9
0.7
<0.5
1.4
1.1
1.0
0.7
1.0
H14
1.4
1.7
<0.5
<0.5
<0.5
<0.5
<0.5
1.4
1.1
1.6
1.0
0.9
H15
1.2
1.1
0.8
0.5
<0.5
0.5
1.3
1.0
1.3
1.1
1.4
1.2
芝
H16
1.0
0.6
<0.5
<0.5
0.6
<0.5
0.9
1.3
1.0
1.2
1.5
1.2
富
H17
1.0
0.7
0.7
<0.5
<0.5
1.7
0.6
1.2
0.9
1.4
1.3
1.1
橋
H18
1.4
0.6
0.5
<0.5
0.6
<0.5
0.9
0.5
1.4
1.6
2.3
1.1
H19
0.6
1.0
0.8
<0.5
<0.5
0.9
0.6
0.9
1.2
1.3
1.7
0.6
H20
1.0
<0.5
0.8
<0.5
<0.5
0.9
0.5
0.8
0.9
0.8
1.0
0.6
H21
1.3
1.2
<0.5
0.6
<0.5
1.0
0.8
1.0
0.8
0.8
1.4
0.8
H22
1.4
1.4
0.6
0.5
<0.5
<0.5
0.6
1.1
1.3
1.3
2.2
1.0
H23
1.1
0.7
1.1
<0.5
<0.5
<0.5
0.6
0.9
0.9
1.3
1.2
0.8
平均
1.2
1.0
0.7
0.7
0.6
0.7
0.7
1.0
1.1
1.3
1.4
0.9
:1.1~2.0
:2.1≦
平均
0.6
0.7
0.6
0.7
0.6
0.7
0.6
0.7
0.8
0.8
1.1
1.2
1.1
0.8
1.0
1.0
1.0
1.0
1.0
0.9
1.0
1.0
0.9
0.7
0.9
1.0
0.8
0.9
最大値
1.0
1.0
0.9
1.0
0.8
0.9
1.0
1.0
1.2
1.3
1.9
2.3
1.6
2.3
2.0
1.9
1.8
1.7
1.4
1.5
1.7
2.3
1.7
1.0
1.4
2.2
1.3
2.3
事例がみられない 7~10 月の期間に増大していた
(図 2)
.
1.5
なお,下流である「芝富橋」の河川流量が少ないのは,
横手沢橋 (類型:AA)
芝富橋 (類型:A)
多項式 (横手沢橋 (類型:AA))
多項式 (芝富橋 (類型:A))
3
利水目的の取水によるものである.
13ヶ月移動平均でBODの経年変動をみると,
「芝富橋」
では平成 20 年度以降はやや上昇傾向がみられるものの,
2
BOD (mg/L)
y = 4E-07x - 9E-06x - 0.0016x + 0.6738
2
R = 0.9493
長期的には 0.9~1.0 mg/L 前後で安定~やや減少傾向で
推移している.これに対し,
「横手沢橋」では平成 18 年
1.0
度頃までは 0.6mg/L 前後で安定していたが,19 年度頃か
ら急激な上昇傾向となり,平成 23 年度冬季には約
1.3mg/L にまで上昇している.
これらのことから,芝川における近年の BOD の上昇
0.5
は上流部に特徴的な現象であり,
平成 19 年度冬季頃から
H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23
図1 芝川水質常時監視地点のBOD推移(13ヶ月移動平均値)
から,河川流量と密接な関係があると考えられた.
8
2) 芝川上流部水質調査
3月
2月
1月
12月
11月
10月
9月
糞便汚染指標菌調査と併せて,
平成 24 年度に 3 回
(5,
8,
8月
回)
,
延べ 268 地点で実施した.
また,
湧水等水質調査は,
0
7月
に行った.河川水質調査は,原則として毎月 1 回(計 18
2
6月
水質の調査は,
平成 23 年 5 月~平成 24 年 12 月の期間
4
5月
6
4月
流量(㎥/s)
10
含め河川流量が増大する夏季には低く,11 月~5,6 月,
特に流量が減少する冬季に上昇する傾向がみられること
横手沢橋
芝富橋
12
始まったものと推察された.また,BOD の値は下流部を
図2 芝川水質常時監視地点の月別河川流量(H11~23)
12 月)に行った.主要な調査地点を図 3 に示した.また,
芝川上流部の主要な流路の概略図を図 4 に,主要地点の
流量を表 3 に示した.
- 70 山梨県
根原
支流A-1
St.S7-2
陣場の滝
五
斗
目
木
川
St.R1
(芝川起点)
朝霧高原
St.S2
St.R13
St.S5-2
St.R14
St.S3
St.S8
St.S9
支流B 陣馬の滝
St.S4
富士養鱒場
五
斗
目
木
川
St.S10
St.R3
St.R5
支流C
①
大棚発電所
St.R4
川
St.R6
芝
支流D
川
芝
⑤ ④
川
足形発電所
人穴
内野大橋
St.R15
猪
之
窪
川
⑥
内野発電所
半野用水
St.R16
内野大橋
St.R10
白糸の滝・
音止めの滝
⑧ 北山用水
北山浄水場
芝
川
大倉川ダム
St.R11
大
倉
川
上井出
横手沢橋
⑦
横手沢橋
St.R9
内野
猪
之
窪
川
東電用水路
St.R7
田
貫
湖
② 川
③
St.S12
芝
芝
猪之頭発電所
St.R2
猪之頭
たぬき橋
St.R8
東電用水路
五
斗
目
木
川
St.S1
St.S6
St.S11
N
St.S5-1
支流A-2
St.S7-1
芝川起点
St.R12
白糸の滝
・音止の滝
芝
川
図3 芝川水系上流域の概況と水質調査地定点
:湧水等調査地点
:河川水質調査地点
図4 芝川水系上流域の主要流路概略図
:自然流路 :用水路
:河川・用水路 :水無川
丸数字は流量調査地点
国土地理院1:25000地形図(上井出)
表3 芝川流路主要地点の流量(㎥/s)(平成24年度)
調査地点
種別
3/16
3/28
① 横道下橋
用水路
6.5
5.5
② 芝川大橋
河川
0.9
1.1
③ 遠原橋
用水路
11.9
7.1
④ 足形発電所放水路
用水路
0.7
0.5
⑤ 足形発電所本流
河川
1.3
0.9
⑥ 内野発電所放水路
用水路
8.8
8.0
⑦ 内野発電所本流
河川
1.5
1.2
⑧ 横手沢橋
河川
9.1
9.3
4/19
6.0
1.0
5.6
0.6
1.4
8.8
1.4
9.1
5/11
6.2
1.6
5.7
0.6
2.2
8.6
2.7
10.1
6/7
5.8
0.4
4.7
0.6
0.6
8.4
0.8
7.9
8/17
5.7
1.4
5.7
1.5
1.7
6.0
3.6
8.9
9/21
5.7
1.4
5.9
0.7
3.3
8.8
3.2
10.8
10/11
6.0
1.3
5.7
0.6
2.1
7.8
2.6
9.6
11/15
4.9
0.3
4.4
0.4
0.6
6.1
0.5
7.8
12/13
4.4
0.3
5.0
0.4
0.7
5.8
0.6
7.0
平均
5.7
1.0
6.2
0.7
1.5
7.7
1.8
8.9
芝川は,大小複数の用水路が整備されて取水と放水が
ての調査日と調査地点で環境基準の超過がみられた.大
繰り返されるため,流路が非常に複雑である.流量調査
量の降雨(約 140 ㎜:気象庁アメダス白糸)の直後に調
の結果,上流部の発電用水取水区間では用水路の方が自
査を行った平成 24 年 7 月 12 日では,平常時には水が流
然河川よりも流量が多く,また芝川起点に近い地点(①
れていない芝川源流部
(富士養鱒場釣り場上流)
の St.R13,
横道下橋,③遠原橋)でも平均 6 ㎥/S 前後と非常に豊富
R14,猪之窪川水系の St.R14,R15 で高い BOD・COD の
な流量であった.
値が観測された.特に St.R16 では強い糞便臭のする水が
主要地点における BOD の分析結果を表 4 に,河川水
流れており,BOD は 24.1(COD:63.6)mg/L と著しく
質調査の7 月と12 月のイオン分析結果を図5-1,5-2 に,
高い値であった.
しかし,
平常時に水が流れている芝川,
湧水等水質調査の 8 月と 12 月のイオン分析結果を図 6-1,
五斗目木川や,猪之頭地区湧水の調査地点では,
「横手沢
6-2 に示した.
橋」の BOD の環境基準超過につながるような特定地点
調査期間における河川水質調査各地点の水温は平均
11.8℃(Max-Min:8.4-16.5℃)であり,低温で安定して
いた.
.
からの汚濁負荷の流入等は確認できなかった(表 3)
イオン組成も,河川,湧水とも月毎・地点毎には大き
な変化はみられなかった.しかし,平成 24 年 7 月 12 日
河川水質調査における BOD の値は,調査日別では平
の降雨直後の調査では,BOD・COD が高かった St.R13
成 23 年 5,9,12 月,平成 24 年 10 月を,調査地点別で
~R16 で,
畜産排水流入の特徴 1)とされる高い K+/Na+や,
は St.R1(芝川起点)
,St.R3(五斗目木橋)を除き,すべ
,芝川や猪之窪川の源
NH4+濃度の上昇がみられ(図 5-1)
- 71 表4 芝川上流域における水質調査結果(BOD)
No.
区分
(河川調査)
St.R1
芝 川
St.R2 芝川(水路)
St.R3 五斗目木川
St.R4
芝 川
St.R5 芝川(水路)
St.R6
芝 川
St.R7 芝川(水路)
St.R8 五斗目木川
St.R9 芝川(水路)
St.R10
芝 川
St.R11 芝川(水路)
St.R12
芝 川
St.R13
芝 川
St.R14
芝 川
St.R15 猪之窪川
St.R16 猪之窪川
(湧水等調査)
St.S1
湧 水
St.S2
湧 水
St.S3
湧 水
St.S4
湧 水
St.S5
湧 水
St.S6
湧 水
St.S7 五斗目木川
St.S8 五斗目木川
St.S9
湧 水
St.S10
湧 水
St.S11
湧 水
St.S12
湧 水
St.R1
芝
PO4
NO3
芝川起点
富士養鱒場排水
五斗目木橋
井之頭小学校裏
横道下橋
芝川大橋
遠原橋
たぬき橋
足形発電所放水路
内野大橋
内野発電所放水路
「横手沢橋」
田幣橋
笹峯橋
大又澤橋
富士見橋
富士養鱒場水源地①
富士養鱒場水源地②
富士養鱒場釣り場上①
富士養鱒場釣り場上②
保存湧水11号
保存湧水10号
支流A
陣馬の滝上流
保存湧水9号
保存湧水6号
保存湧水7号
保存湧水12号
NH4*20
K
NO3
Ca
SO4
PO4
NO3
K
Mg
Ca
Cl
NO3
PO4
NO3
K
NO2
Ca
Cl
F
Na
6
SO4
Cl
K
0
Mg
NO2
Ca
Cl
Mg
NO3
Na
6
SO4
0
NO3
Mg
NO2
F
Ca
Cl
Mg
NO3
NO3
Mg
Ca
Cl
K
Mg
Na
9
6
3
0
SO4
PO4
NO3
SO4
PO4
Mg
NO3
St.R9
PO4
NO3
K
Mg
Ca
Na
9
6
3
0
SO4
PO4
NO3
Mg
PO4
K
Mg
NO3
NO3
NH4*20
K
Mg
10.4
NO2
Ca
F Ca:30.6
St.R12
Na
9
6
3
0
SO4
NH4*20
PO4
K
Mg
NO3
NH4*20
K
Mg
NO2
Ca
Cl
Na
9
6
3
0
Cl
NO2
F
F
St.R8
SO4
芝
Na
9
6
3
0
Mg
Ca
F
SO4
K
Cl
PO4
St.R11
芝
Ca
Cl
K
NH4*20
NO2
五
Ca
Cl
NO3
NH4*20
NO2
NH4*20
NO2
F
NO3
F
St.R10
芝
NH4*20
Cl
Mg
Na
9
6
3
0
SO4
PO4
Mg
Na
9
6
3
0
SO4
PO4
Ca
Cl
Na
9
6
3
0
K
K
St.R7
芝
NH4*20
NO2
Ca
F
SO4
F
Na
9
6
3
0
NH4*20
Ca
F Ca:31.0
Cl
St.R6
NH4*20
NO3
NO2
Ca
Cl
NO2
Mg
NO2
K
PO4
K
St.R4
芝
Na
9
6
3
0
SO4
NH4*20
Ca
Cl
F
F
図5-2 芝川上流域河川におけるイオン組成(mg/L)(平成24年12月13日調査)
:芝川水系 :五斗目木川
五
芝
NH4*20
K
K:16.0
Mg
NO2
Ca
Cl
F
SO4
F
NO3
芝
Na
9
6
3
0
NO2
St.R16
PO4
NO3:
NO3
25.9
Mg
Ca
芝
K
PO4
St.R3
五
Na
9
6
3
0
SO4
F
Cl
NH4*20
NO2
猪
Ca
Cl
Na
9
6
3
0
PO4
NH4*20
NO2
F
F
St.R12
SO4
F
Na
9
6
3
0
SO4
Ca
Cl
St.R15
PO4
K
Mg
K
St.R5
NH4*20
K
NH4*20
NO2
芝
NO2
K
Cl
猪
NH4*20
3
NO3
芝
NO3
St.R2
芝
Na
9
6
3
0
PO4
F
Na
9
6
3
0
SO4
NH4*20
St.R1
Cl
St.R8
F
Ca
F
St.R14
PO4
Mg
NO2
Ca
芝
NH4*20
3
NO3
NO3
PO4
K
Ca
PO4
K
Na
9
6
3
0
SO4
Mg
Cl
St.R11
芝
K
平成24年度
4/19 5/11 6/7 7/12* 8/17 9/21 10/11 11/15 12/13
0.5
1.0
0.5
0.5 <0.5 0.5 <0.5 0.5 <0.5
0.9
1.4
1.5
1.3
1.1
0.8
0.5
0.7
1.1
0.8
0.9 <0.5 <0.5 <0.5 <0.5 <0.5 <0.5 <0.5
1.5
1.8
1.4
3.6
1.5
1.2
1.0
0.7
1.0
1.4
1.4
1.4
1.3
1.5
0.9
0.6
1.0
0.5
1.0
2.5 <0.5 0.8
0.7 <0.5 <0.5 0.5
0.5
1.1
1.2
0.6
1.2 <0.5 0.7
0.6
0.5 <0.5
<0.5 0.6 <0.5 <0.5 <0.5 <0.5 0.5 <0.5 <0.5
1.6
2.6
1.1
0.7
0.6
0.5 <0.5 0.5
0.8
0.9
1.3
1.0 <0.5 0.9
0.5 <0.5 0.5 <0.5
1.5
1.5
1.2
1.0
0.8
0.7 <0.5 1.1 <0.5
1.3
1.2
1.3
2.2 <0.5 <0.5 <0.5 0.8 <0.5
-
-
- 2.2
-
-
-
-
-
-
-
- 1.3
-
-
-
-
-
-
-
- 3.2
-
-
-
-
-
-
-
- 24.1
-
-
-
-
-
5/31
8/31
12/6
- <0.5
-
- 0.5
-
-
- <0.5
- 0.9
-
- 0.8
-
-
- 0.6
- 0.6
-
- 0.7
-
-
- 0.7
- 0.7
-
- 0.8
-
-
- <0.5
- 0.9
-
- 1.9
-
-
- 1.0
- 0.6
-
- 0.6
-
-
- <0.5
- <0.5
-
- <0.5
-
-
- <0.5
- 0.5
-
- <0.5
-
-
- <0.5
- 0.6
-
- <0.5
-
-
- <0.5
-
-
-
- 0.5
-
-
- <0.5
- 0.8
-
- 0.5
-
-
- <0.5
- 0.7
-
- 0.6
-
-
- 0.7
*降雨直後(降水量約140mm:白糸(アメダス))
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
SO4
NH4*20
NO2
Ca
Cl
NH4*20
NO2
St.R13
PO4
Na
9
6
3
0
NO3
NH4*20
NO2
St.R10
PO4
Mg
NO3
F
SO4
PO4
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
芝
Na
9
6
3
0
五
Na
9
6
3
0
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
:2.1≦
St.R4
SO4
F
PO4
Mg
Mg
St.R7
SO4
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
芝
Ca
Cl
K
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
:1.1~2.0
NH4*20
K
NO2
芝
Ca
Cl
NH4*20
NO3
NH4*20
NO2
芝
Na
9
6
3
0
SO4
芝
PO4
F
St.R9
芝
Na
9
6
3
0
SO4
St.R3
Na
9
6
3
0
SO4
PO4
F
St.R6
NH4*20
NO2
Mg
Ca
芝
Na
9
6
3
0
K
Cl
St.R5
芝
NH4*20
NO2
F
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
五
Na
9
6
3
0
SO4
PO4
Mg
NO2
Cl
St.R2
芝
Na
9
6
3
0
SO4
平成23年度
5/13 9/15 10/13 11/16 12/15 1/25 2/16
<0.5 <0.5 1.0
0.6 <0.5 0.6
0.9
-
- 1.2
1.2
-
- 1.5
<0.5 <0.5 0.9
0.6 <0.5
- <0.5
-
-
-
-
- 1.2
1.8
0.5 <0.5 0.7
1.4
0.9
1.1
1.7
<0.5 0.7
0.7
0.8
1.0
1.0
0.9
-
-
-
-
-
- 1.9
<0.5 <0.5 1.1
0.6 <0.5 0.6
0.6
-
-
-
- 0.5
1.0
1.8
0.7 <0.5 1.1
1.1
0.9
1.1
1.1
0.9
0.5
0.0
1.5
0.7
1.2
1.7
0.8 <0.5 0.6
1.4
1.0
1.3
1.6
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
名 称
F
図5-1 芝川上流域河川におけるイオン組成(mg/L)(平成24年7月12日調査)(降雨直後)
猪
:芝川 :五斗目木川 :猪之窪川
芝
五
St.S2
St.S1
Na
9
6
3
0
SO4
PO4
NO3
K
Mg
NO2
Ca
Cl
F
PO4
NO3
Na
9
6
3
0
SO4
NO3
K
NO3
SO4
NO3
K
Mg
Ca
Cl
F
NH4 *20
K
Mg
NO2
Ca
Cl
K
Mg
Na
9
6
3
0
SO4
PO4
NO3
Mg
Ca
Cl
Na
9
6
3
0
NO3
K
Mg
NO2
Ca
Cl
SO4
NH4 *20
F
PO4
NO3
K
Mg
F
NO3
NO3
NH4 *20
K
Mg
Ca
NO3
NO3
Cl
K
Mg
F
K
Mg
NO3
NO3
K
Mg
K
Mg
Ca
F
PO4
NO3
NO3
PO4
NO3
Mg
Ca
F
K
NO3
NO2
Cl
F
Na
9
6
3
0
SO4
PO4
Mg
NO3
NH4 *20
K
Mg
NO2
F
Na
9
6
3
0
SO4
PO4
Mg
St.S8
Ca
Cl
St.S11
K
K
Ca
Cl
Ca
Cl
NH4 *20
NO2
NH4 *20
NO2
NH4 *20
NO2
Cl
Na
9
6
3
0
SO4
F
Na
9
6
3
0
SO4
PO4
F
Na
9
6
3
0
SO4
NH4 *20
Mg
Ca
Cl
NH4 *20
Ca
Cl
K
NO2
St.S10
NO2
Cl
Na
9
6
3
0
SO4
NH4 *20
St.S7-2
NO2
F
Na
9
6
3
0
SO4
NO3
F
PO4
Ca
PO4
Mg
St.S4
Na
9
6
3
0
PO4
St.S6
NH4 *20
NO2
K
Ca
St.S9
Ca
図6-1 猪之頭地区湧水等のイオン組成(mg/L)(平成24年8月31日調査)
NO3
St.S3
SO4
NH4 *20
NO2
F
Cl
NH4 *20
NO2
Cl
Mg
Na
9
6
3
0
SO4
PO4
F
Na
9
6
3
0
SO4
PO4
K
St.S5-2
NO2
Cl
PO4
Ca
Cl
Na
9
6
3
0
SO4
NH4 *20
NO2
F
St.S12
Ca
Cl
Mg
Na
9
6
3
0
SO4
PO4
NH4 *20
NO2
PO4
Ca
Cl
F
Na
9
6
3
0
K
Na
9
6
3
0
SO4
St.S8
K
NO2
F
NH4 *20
NO2
NH4 *20
St.S11
SO4
NO3
F
St.S10
PO4
PO4
St.S2
St.S1
Na
9
6
3
0
SO4
St.S7-1
Ca
Cl
NH4 *20
NO2
NO3
NH4 *20
NO2
F
St.S9
PO4
PO4
F
Na
9
6
3
0
SO4
PO4
Mg
Na
9
6
3
0
Mg
St.S4
Na
9
6
3
0
SO4
St.S6
Ca
Cl
K
Ca
Cl
NH4 *20
NO2
NH4 *20
NO2
St.S5-1
PO4
St.S3
Na
9
6
3
0
SO4
NH4 *20
F
St.S12
NH4 *20
K
Mg
Ca
F Ca:28.6
Na
9
6
3
0
SO4
PO4
NO3
NH4 *20
K
Mg
NO2
図6-2 猪之頭地区湧水等のイオン組成(mg/L)(平成24年12月6日調査)
Ca
Cl
F
- 72 ミズワタは,芝川源流(起点周辺)や五斗目木川源流,
流域に畜産系の汚濁負荷があることが推察された.
また,平成 24 年 12 月の調査では,五斗目木川の調査
猪之頭地区の多くの湧水の湧出部など,芝川水系各所の
地点(St.R3,R8)と,五斗目木川西側の畑作地帯の下流
水源から繁茂がみられた.ミズワタがみられなかったの
2+
2+
にある湧水(St.S11)で,きわめて高い Ca や Mg が観
は,降雨時にもほとんど水が流れない水無川の部分を除
測された(図 5-2,6-2)
.これは,上流に畑が広がってい
くと,芝川起点上流の湧水湧出部付近,富士養鱒場北西
2+
ること,農閑期であること,降雪前であること,Ca だ
2+
+
部の湧水,上流に集落等がほとんどない小規模な支流な
けでなく Mg や K も上昇していることなどから,上流の
ど,限られたわずかな地点だけであった.これらのこと
畑への土壌改良剤の投入によるものと考えられた.
から,ミズワタの養分供給源は,芝川,五斗目木川,猪
之窪川の水源よりもさらに上流の流域である,朝霧高原
2 生物環境調査
1) ミズワタ調査
ミズワタ等の調査は,平成 24 年 5 月~25 年 1 月の期
周辺の広範囲な水源涵養地域にあると推察された(図 7)
.
聞き取りによると,芝川起点付近の芝川源流部(富士
養鱒場水源地周辺)で S. natans のミズワタが初めて出現
間に実施した.芝川水系上流部(芝川,五斗目木川,猪
之窪川等)の河川・水路・湧水のミズワタ調査地点と出
N
五斗目木川水系の推定
養分供給源地域 ①
④
現状況,養分供給源の推定地域を図 7 に示した.図中に
は,富士宮市環境森林課より入手した,市が把握してい
る平成24年9月現在の芝川水系上流域における畜産堆肥
の埋立てや野積み,畜産堆肥による農地改良地点を丸数
字で示すとともに,その概要を表 5 に示した.
芝川,五斗目木川,猪之窪川の本流では,いずれの調
査地点でも流れが比較的緩い場所を中心に,Sphaerotilus
natans とみられる糸状細菌のミズワタの繁殖や,その痕
跡がみられた(図 8-1~図 8-4)
.調査期間中では,8 月
頃までは河川・湧水各所で繁殖していたが,9~11 月に
は多くの地点で減少,12 月には再び増加する傾向がみら
れた.平成 24 年 9 月は,富士宮市白糸において 80~100
ミリ以上の降雨が 3 度記録されており
(気象庁アメダス)
,
猪之頭地区の推定
養分供給源地域
B ⑦
五
斗
目
木
川
五斗目木川水系の推定
養分供給源地域 ②
支流A-1
⑧
B
① ⑨
B
⑪⑫
③ ⑬
猪之窪川水系の推定
養分供給源地域 ①
B
芝川起点
支流A-2
猪之頭地区
山梨県
⑥
陣馬の滝
芝
支流B
五斗目木橋
支流C
A
五
斗
目
木
川
⑤
富士養鱒場
川
田
貫
湖
芝
A
川
猪
之
窪
川
猪之窪川水系の推定
養分供給源地域 ②
B
②
支流D
9~11 月のミズワタの減少は,増水に伴う河床攪乱によ
るものと考えられた.また,ミズワタは湧水の湧出部か
内野大橋
ら繁殖がみられることから,地下水や伏流水中でも繁殖
横手沢橋
して水質浄化に寄与していることが推察される.
ミズワタ以外に,芝川と五斗目木川では初夏~冬季に
複数種の糸状緑藻類の繁殖が目立った(図 8-5)
.さらに
一部の湧水では冬季に,ミズワタに加えて湧出部周辺で
のり状のシアノバクテリアの繁殖もみられた(図 8-6)
.
白糸の滝・
音止めの滝
図7 猪之頭地区湧水・河川のミズワタ出現状況と推定養分供給源
: ミズワタ - : ミズワタ +~++ : ミズワタ +++~++++
: ミズワタなしの予想水脈 : ミズワタありの予想水脈
: ミズワタなしの河川 : ミズワタありの河川
: 未調査河川
:養分源推定地域 A,B:養分源の種別
丸数字は堆肥埋立て、野積み等把握地点(富士宮市資料による(表5))
表5 芝川水系上流域における畜産堆肥埋立・農地改良等把握地点(富士宮市調査:平成24年9月現在)
No.
年度
面 積
種 別
備 考 ①
H18
約0.6万㎡
堆肥埋立(農地改良)
牧草地化
②
H18
不 明 堆肥野積・埋立
牧草地・林地化?
③
H22
数万㎡
堆肥野積・埋立?
牧草地化
④
H22
約5万㎡
堆肥埋立(農地改良)
牧草地化,未熟成堆肥使用
⑤
H22
不 明 家畜排泄物過剰散布
牧草地肥料
⑥
H22
約0.6万㎡
堆肥埋立(農地改良)
過剰施肥,未成熟堆肥使用
⑦
H23
約1万㎡
堆肥野積
未熟成堆肥
⑧
H21
3.6万㎡
農地改良
牧草地
⑨
H21
1.3万㎡
農地改良
牧草地
⑩
H24
0.9万㎡
農地改良
堆肥利用
⑪
H22
1.5万㎡
農地改良
土利用
⑫
H23
0.4万㎡
農地改良
バーク堆肥利用
⑬
H24
3.8万㎡
農地改良
堆肥利用
- 73 -
図8-1 芝川基点付近(水源地)のミズワタ
図8-2 富士宮市保存湧水9号湧出部のミズワタ
図8-3 五斗目木川源流部のミズワタと流下浮遊物
図8-4 猪之窪川(水無川)のミズワタ痕(白色部)
図8-5 芝川源流部の糸状緑藻類とミズワタ
図8-6 猪之頭湧水湧出部のシアノバクテリア
したのは平成 19 年度の冬季であり, これは「横手沢橋」
市が確認)からと,芝川源流部でのミズワタ初出現時期
の水質常時監視データで BOD が急激な上昇傾向となっ
や「横手沢橋」における BOD 上昇時期と一致する.
た時期と一致する(図 1)
.また糸状緑藻類も,陣馬の滝
周辺などでは近年になって急に増加したという.
S. natans はアミノ酸を必須養分とする強腐水生の流水
環境を好む好気性の糸状菌類で,流水河川でみられるミ
畜産堆肥の埋立て・野積み等の把握地点(図 7,表 5)
ズワタの主要構成種とされ,通常は都市河川など有機汚
は,全てがミズワタの養分供給源の推定地域にあり,ま
濁の進んだ水域で多くみられる.水温 10℃以下の低温で
た問題が生じた時期も平成 18 年度冬季頃(19 年 3 月に
溶存酸素の豊富な環境を好み,長く伸長してミズワタを
- 74 形成し,非常に高い水質浄化能力を持つ.BOD が高めの
水域を好む上,好気性細菌であるミズワタ自体が千切れ
88
BOD
BOD
COD
COD
TOC
TOC
BOD(dry)
BOD(dry)
COD(dry)
COD(dry)
て流れ採水・分析されることにより,BOD 上昇の原因に
なるとされている 2-7).
66
また,S. natans は BOD の生物指標としての有効性が
50mg/L2)の河川での出現が多いとされるが,今回の調査
では BOD が 1mg/L 以下の水域でも著しい繁殖がみられ
mg/L
mg/L
報告されており,BOD が 2~5mg/L4) ないしは 10~
た.これは,芝川上流部の水温が安定して低く溶存酸素
= 49.5x+ +0.558
0.558
y =y49.5x
2
0.994
R2R= =0.994
44
22
が豊富な S. natans に適した環境であることと,流量が豊
= 3.79x+ +0.336
0.336
y = y3.79x
2
=
0.967
R
R2 = 0.967
富で薄い養分でも供給の絶対量が多いことに起因すると
00
推察されるが,渓流等の河川上流における S. natans の繁
00
殖事例は報告が少ないため,繁殖条件や BOD の指標性
については今後検討する必要があるだろう.
ミズワタの添加による有機汚濁指標の変化(図 9)を
BOD,COD とも上昇するが,特に BOD では生体添加よ
りも 1mg/L 以上低く,これはミズワタの呼吸による差と
推察された.
0.05
0.05
添加率%(湿重量比)
添加率%(湿重量比)
0.1
図9 ミズワタ添加による有機汚濁指標の変化
みると,TOC では上昇が小さいが,BOD,COD では顕
著な上昇がみられる.枯死乾燥したミズワタの添加でも
= 66.6x+ +0.12
0.12
y =y66.6x
0.943
R2R=2 =0.943
糞便汚染指標菌は,湧水 7 地点,河川 2 地点の合計 9
地点と,芝川,五斗目木川源流部の広範囲の地点で検出
された.特に St.S5-1(富士宮市保存湧水 11 号)
,St.S7-1
(五斗目木川支流(土玉川)の沢(支流 A-2)からの農
業用水の放水部)では,5,8 月の調査で大腸菌数
1000MPN/100mL 以上と,
著しく多い菌数が検出された.
2) 糞便汚染指標菌調査
糞便汚染指標菌調査の結果を表 6,図 10 に示した.
また,12 月の調査では St.S5-1 の上流に位置する人工池
表6 富士宮市猪之頭地区湧水等糞便汚染指標菌調査結果(平成24年度)
12月6日
8月31日
5月31日
調査
月日
No.
St.S1
St.S2
St.S3
St.S4
St.S5-1
St.S6
St.S7-1
St.S8
St.S9
St.S10
St.S11
St.S12
St.S1
St.S2
St.S3
St.S4
St.S5-1
St.S6
St.S7-1
St.S8
St.S9
St.S10
St.S11
St.S12
St.S1
St.S2
St.S3
St.S4
St.S5-2
St.S6
St.S7-2
St.S8
St.S9
St.S10
St.S11
St.S12
地点名
富士養鱒場水源地①
富士養鱒場水源地②
富士養鱒場釣り場上①
富士養鱒場釣り場上②
保存湧水11号
保存湧水10号
五斗目木川①
五斗目木川②
保存湧水9号
保存湧水6号
保存湧水7号
保存湧水12号
富士養鱒場水源地①
富士養鱒場水源地②
富士養鱒場釣り場上①
富士養鱒場釣り場上②
保存湧水11号
保存湧水10号
五斗目木川①
五斗目木川②
保存湧水9号
保存湧水6号
保存湧水7号
保存湧水12号
富士養鱒場水源地①
富士養鱒場水源地②
富士養鱒場釣り場上①
富士養鱒場釣り場上②
保存湧水11号上流の池
保存湧水10号
五斗目木川①
五斗目木川②
保存湧水9号
保存湧水6号
保存湧水7号
保存湧水12号
水源部
下流側(水門下)
水源部
下流側
伊勢神明宮
湯の奥林道口
支流A-2用水路(猪之頭橋)
陣馬の滝上流
陣馬の滝東側
陣馬の滝下
五斗目木橋西側
猪之頭養鱒場上流
水源部
下流側(水門下)
水源部
下流側
伊勢神明宮
湯の奥林道口
支流A-2用水路(猪之頭橋)
陣馬の滝上流
陣馬の滝東側
陣馬の滝下
五斗目木橋西側
猪之頭養鱒場上流
水源部
下流側(水門下)
水源部
下流側
井之頭中学校ホタル池
湯の奥林道口
支流A-1
陣馬の滝上流
陣馬の滝東側
陣馬の滝下
五斗目木橋西側
猪之頭養鱒場上流
種別
湧水
湧水
湧水
湧水
湧水
湧水
表流水
表流水
湧水
湧水
湧水
湧水
湧水
湧水
湧水
湧水
湧水
湧水
表流水
表流水
湧水
湧水
湧水
湧水
湧水
湧水
湧水
湧水
湧水
湧水
表流水
表流水
湧水
湧水
湧水
湧水
ミズワタ出現
状況(5段階)
-
+++
-
++
-
++
-
+++
++++
-
++
+++
-
+++
-
-
-
++
-
+++
++
-
+
+
-
++
-
+
(-)
++
(-)
+
+
-
-
+
大腸菌
嫌気性芽胞菌 糞便性連鎖球菌
MPN/100mL
CFU/100mL
MPN/100mL
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2.0
1
0
2,400
3,900
79,000
0
0
0
220
13
330
2.0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2.0
170
5
0
2.0
0
0
1,400
700
4,600
0
0
0
220
7
4,900
33
0
110
0
0
0
11
0
4.5
0
0
0
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
20
0
0
2
0
17
0
0
0
0
0
0
0
0
2.0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
- 75 (井之頭中学校ホタル池:St.S5-2)と,土玉川の別の沢
観測された芝川や猪之窪川の源流部を除き,河川や湧水
(支流 A-1:St.S7-2)で調査を行ったところ,St.S7-2
の水質はほとんど差がなく,
「横手沢橋」の BOD 上昇の
では糞便汚染指標菌は検出されなかったが,St.S5-2 では
直接的原因となるような,河川の特定地点からの汚濁負
冬 季 で 水 温 が 6.4 ℃ と 低 か っ た に も か か わ ら ず ,
荷の流入はないと考えられる.また, S. natans のミズワ
17MPN/100mL の大腸菌が検出された.ホタル池の排水は
タが水源から広域に繁殖していること,芝川水源でミズ
保存湧水 11 号に向かう谷筋で地下浸透しており,
保存湧
ワタが出現するようになった時期と「横手沢橋」で BOD
水 11 号(St.S5-1)の主要な水源と考えられた.なお,
が急激な上昇傾向となった時期が一致すること,河川流
ホタル池と保存湧水 11 号,および支流 A-1 にはミズワ
量が増大してミズワタが減少する夏季には超過事例がみ
タの発生はみられなかった.
られないことなどから,
「横手沢橋」における BOD 上昇
ミズワタの多い地点では糞便汚染指標菌の出現が少な
い傾向がみられたが,これは S. natans のミズワタの水質
の原因は,芝川水系上流部で広域に繁殖しているミズワ
タの流下混入によるものと推察された.
浄化効果によるものと推察される.また,糞便汚染指標
さらに,水源から糞便汚染指標菌類が検出されている
菌が特出して多かった St.S5-1,St.S7-1 では,糞便等の
こと,ミズワタの養分供給源推定地域に多数の畜産排泄
汚染物質が新しく汚染源からの距離も短いことが予想さ
物関係の汚濁負荷源が把握されていること,降雨増水後
れる.それ以外の湧水や河川では,検出地点が広範囲に
の河川源流部で BOD,COD,NH4+が高く,畜産系排水
わたることから,小規模な糞便汚染源が多数点在するの
の特徴とされるK+/Na+の高い表流水が採水されたことな
ではなく,汚染源からの距離が長いため地下水・伏流水
どから,ミズワタ増殖の主な原因は,畜産排泄物(未熟
中の S. natans のミズワタ等による自然浄化により菌数が
性堆肥)の埋立てや野積み,牧草地等への過剰施肥であ
減少したことが推察された.
ると考えられる.芝川水系の水源涵養地域の一つである
朝霧高原周辺には,
平成 15 年頃からメガファームと呼ば
N
St.S7-2
支
流
A
|
2
支
流
A
|
1
れる大規模畜産農場が複数整備され,牛や豚の養育頭数
が増えてきており,これに伴う家畜排泄物の増加が未熟
成堆肥の過剰施肥や野積み等につながり,近年急激に S.
五
斗
目
木
川
用水路
natans のミズワタが増殖して BOD が上昇したものと推
察される.
また,
保存湧水 11 号や井之頭中学校ホタル池の糞便汚
井之頭
中学校
St.S5-2
染は,検出菌数が非常に多い,ミズワタの発生がみられ
St.S1
St.S2
芝川起点
St.S5-1
St.S7-1
富
士
養
鱒
場
St.S6
St.S8
陣馬の滝
ない,イオン組成で NH4+の比率が目立って高いなどの差
がみられることから,他の調査地点とは汚染原因が異な
St.S3
St.S4
ることと,井之頭中学校付近に汚染原因があることが推
定された.
St.S9
St.S10
養鱒場
支流B
St.S11
五斗目木川支流(土玉川)A-2 の汚染原因は,糞便汚
芝
糞便指標菌数
川
養鱒場
五
斗
目
木
川
養鱒場
井之頭
小学校
St.S12
養鱒場
染指標菌の検出数がきわめて多いことや,5 月の調査で
(各種・全回次最大
値 CFU/100mL)
は特徴的であったイオン組成が 8 月には他地点の組成と
0
同様になっていたことから,最近になって新たな汚染原
1~10
因が源流域に出現し,雨水等によって河川に流入してい
11~100
ることが推察される.この地点の汚染原因は把握されて
101~1000
1001≦
図10 富士宮市猪之頭地区湧水等における糞便汚染指標菌数の概要
(大腸菌・嫌気性芽胞菌・糞便性連鎖球菌)
ミズワタ出現状況; -: , +~++: , +++~++++:
いないが,源流部より上流の山腹には車道が通っている
ため,
流域への糞便等の不法投棄が考えられる.
ただし,
平成 21 年 12 月に富士養鱒場が行った魚類調査時の写真
にはミズワタとみられる河川の汚れが認められることか
ら,それ以前にも同様な汚染物質が存在していたことが
総合考察
水質調査の結果では,芝川上流部の河川・湧水の水質
+
4
推察される.
なお,平成 24 年 12 月の水質調査でみられた,五斗目
は,イオン分析で NH の比率が高かった保存湧水 11 号
木川水系の河川や湧水における土壌改良剤の影響と考え
(St.S-1,B-2)や,大量の降雨直後に高い K+/Na+の値が
られる顕著な水質変化は,芝川上流域が溶岩や火山砕屑
- 76 物からなる地質のため,地表に投入・散布した物質の影
7)
滝元男:糸状バルキング防止に関する研究(第 3 報)
響が湧水や河川に出やすいことを示していると推察され
-糸状細菌の炭素源および窒素源の利用性-,日本
る.そのため,この地域では,家畜排泄物以外に農地へ
水処理生物誌,15(1),35-44(1979)
の薬剤等の散布にも注意を要すると考えられた.
芝川上流部に大量に発生する S. natans のミズワタは,
河川水の浄化に役立っている上,人の健康には無害であ
る.また,北山用水から取水供給される水道水は市の浄
水場で浄水処理されているため,現在のところ住民に大
腸菌などによる食中毒の被害報告はみられない.
しかし,
猪之頭地区の湧水には多くの住民が湧き水を飲用に汲み
に来ており,利用者の多い陣馬の滝の湧水(保存湧水 6
号)でも大腸菌等が検出されているため,食中毒等の健
康被害の発生が懸念される.さらに,芝川上流域には白
糸の滝や陣馬の滝等の河川の観光スポットも多く,ミズ
ワタや糸状緑藻類等の発生による河川景観の悪化も問題
である.
「富士の湧水」は当該地域の貴重かつ重要な天然資源
であり,水源に広域かつ大規模な糞便汚染があることは
非常に大きな問題で,早急に対策を講じる必要がある.
一方で,畜産業も当該地域の重要な基幹産業であり,大
規模畜産農場は今後も増加する計画があるため,家畜排
泄物の排出量は今後も継続・増大することが予想される.
大規模な畜産地域の糞便排出量は都市に匹敵するといわ
れる.
今回の調査結果からも,
牧草地への施肥等による,
芝川流域内での家畜排泄物の自然浄化可能量は,既に大
きく超過していると考えられる.そのため,流域外への
排出や高度な浄化処理などによる,広域的かつ総合的な
対策が望まれる.
文 献
1)
鈴木穣他:流域における物質動態特性の解明と流出
モデルの開発(2)
,平成 19 年度下水道関係調査研究
所年次報告書集,土木研究所資料第 4123 号,117-126
(2009)
2)
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
』
3)
小林節子:着生微生物の剥離による河川水質への影
響,水質汚濁研究,5(6),329-339(1982)
4)
安田郁子:水質汚濁の指標としての河床付着生物(藻
,水質汚濁研究, 12 (1),
類と Sphaerotilus natans)
46-52(1989)
5)
初貝留美他:都市河川における汚濁物質の周日変動
(第 2 報)-大岡川-,横浜市環境科学研究所報,
20,31-36(1996)
6)
初貝留美他:都市河川における水質調査-鶴見川,
鳥 山 川 - , 横 浜 市 環 境 科 学 研 究 所 報 , 17 ,
123-132(1993)
静岡県環境衛生科学研究所報告
No.55
77-83
2012
- 77 -
Bulletin of Shizuoka Institute of Environ. and Hyg.
浜名湖の水質研究における湖水流動の調査
大気水質部
水質環境班
後藤裕康,内山道春,清水麻希
富士山地下水プロジェクトスタッフ
村中康秀,神谷貴文
Investigation into Lake Current in the Water Quality Research of Hamana Lake
Hiroyasu GOTO, Michiharu UCHIYAMA, Maki SHIMIZU,
Yasuhide MURANAKA and Takafumi KAMITANI
浜名湖の公共用水域水質常時監視地点の「新所」,「湖心」における COD の環境基準超過原因の究
明の資料とするため,浜名湖本湖奥部水域において湖水流動の調査を行った.浜名湖奥部の湖水流動は非常
に複雑であり,水深ごと,時間ごとに傾向が異なる,密度成層流とみられるさまざまな流れが観測された.
浜名湖奥部における深部底層水の浅所への移動のメカニズムを把握するためには,今後広範囲かつ詳細な調
査を行っていく必要があると考えられた.
Key words:
浜名湖,湖水流動,ADCP,密度成層流
Hamana lake,lake current,acoustic doppler current profiler,stratified flows
はじめに
浜名湖は,南端にある幅約 200mの湖口(今切
は,潮汐や海水交換に関する報告
1,3,4)
や,付属湖
の猪鼻湖における鉛直流動や海水交換性に関する
5,6)
等はあるものの,浜名湖本湖等の広域な流
口)で遠州灘とつながる,平均水深約 5mの比較
報告
的浅い汽水湖である.湖口を通じて大量の外海水
れに関するものはみられない.しかし,生息生物
が流出入し,近年の平均塩分は約 30psu あり,湖
や漁場・漁獲物の変化など,浜名湖の海水交換率
奥部まで閉鎖性内湾の環境を呈している.
や外海水の影響は年々増大しており
4,7)
,湖水流動
湖口に近い湖南部は天竜川由来の土砂が堆積し
が水質等の湖内環境の変化に大きく影響している
て水深が 5m以下(平均約 3m)と浅く,広い瀬が
ことが推察されるため,湖水流動の把握は湖内環
形成され,網の目状に掘られた複数の澪を中心に,
境を検討する上で非常に重要だと考えられる.
外海と湖奥との海水交換が行われている.一方,
そこで,浜名湖の公共用水域水質常時監視地点
湖北部(湖奥部)は水深が 5-16m(平均約 7m)
である「新所」と「湖心」における COD の環境
と深く,底質は泥質で,夏期には成層が形成され
基準超過原因の検討に資するため,別に報告する
下層に貧酸素水塊が発達する.また,細江湖,猪
水質調査にあわせて湖水の流動に関する調査を行
鼻湖,松見ヶ浦等の複数の付属湖や入り江を持つ
ったので,結果を報告する.
複雑な地形をしており,さらに,都田川をはじめ
調査方法
とする複数の河川が流入し,陸水の影響を強く受
けている
1,2)
.
1 定点・通日調査
浜名湖はこのように複雑な地形や,陸水や外海
水質の定点調査および通日調査(25 時間定時観
水,強い季節風等の影響を受けるため,湖水の流
測)時に,図 1 に示した水質調査地点における採
動も複雑である.浜名湖の湖水流動に関する報告
水層の湖水流動を把握するため,流向流速の調査
を行った.流向流速の測定には電磁流速計
静岡県環境衛生科学研究所
TK-105X((株)東邦電探製)を用い,25mmφ塩
(〒420-8637,静岡市葵区北安東 4-27-2)
化ビニル製パイプに接続して,各採水層の採水時
Shizuoka Institute of Environment and Hygiene
刻における流向と 20 秒間の平均流速を測定した.
(4-27-2,Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka,420-8637,japan)
- 78 -
浜松市
都田川
細江湖
N
猪鼻湖
St.1-5 で行った.
浜名湖
(本湖)
本湖) 5m
結果の一部として,定点調査の 2011 年 7 月 13,
St.1-4 St.1-5
新所
また,通日調査として,2011 年 8 月 25-26 日に
年 8 月 7-8 日に St.1-4 で,2012 年 9 月 3-4 日に
St.2
「湖心」
St.3
湖西市
地先(St.3)で 2011 年 7 月 13,14 日に行った.
St.1-2 で,2012 年 7 月 4-5 日に St.1-3 で,2012
大崎
松見ヶ浦
2011 年 6 月 16 日に,
「新所」
(St.1)と対岸の大崎
St.1-2
St.1
「新所」
14 日と,通日調査の 2012 年 9 月 3-4 日における
St.1-3
鷲津湾
採水層別の流向流速を図 2-1,2 に示した.大量の
航路(澪)
庄内湾
陸水流入がない平常時には,浜名湖の湖水流動に
影響のある要素としては潮汐(潮流)と風(吹送
浜松市
瀬・干潟
湖西市
流)が大きいと考えられるため,参考データとし
て,湖西市役所にある大気測定局の風向風速と,
新川(佐鳴湖)
今切口
遠州灘
3,4)
を 参 考 に ,「 新 所 」 で
2-2.5 時間,「湖心」と大崎で 2.5 時間とした.な
お,大雨の影響で成層構造が弱まっていた 2011
2 ADCP 調査
年 8 月の調査を除き,各調査日とも本湖北部水域
1) 移動調査
浜名湖本湖北部海域における湖水流動の概況を
把握するため,2010 年 8 月 25-26 日に,音響ドッ
プラー流速計(ADCP)による調査を行った.使
ADCP
記した.舞阪潮位からの位相遅れは,通日調査の
観測結果と過去の報告
図1 浜名湖における水質・流向流速調査地点(2010-2012年)
用 し た
舞阪潮位からの位相遅れを考慮した潮候を図中に
は
WorkHorseADCPSentinel
(RDInstruments 社製)で,調査船の舷側に固定し
て,低速で走行しながら計測を行った.なお,調
査は代理店である株式会社 SEA の協力のもと行
った.
では水深 5~6m 付近に躍層が形成されていた.
2011 年 7 月 13,14 日の調査は(図 2-1),夏季
に躍層の形成により貧酸素水塊が発達する浜名湖
本湖北部水域において,湖口側の湖底の急傾斜部
(かけ上がり)(St.1「新所」)と湖奥側のかけ上
がり(St.2 大崎)および最深部付近(St.2「湖心」)
における水質や流動の概況を把握するために行っ
た.「新所」と大崎の調査は約 30 分の時間差で交
互に行ったため,潮位の位相遅れの状況から
2) 新所水質定点周辺調査
2012 年 9 月の通日調査時に,新所地先の調査定
点周辺および「湖心」における詳細な湖水流動の
状況を把握するため,さらには今後の浜名湖にお
ける流動調査の基礎資料とするため,ADCP によ
る調査を行った.
使用した ADCP は River Surveyor M9(SonTec
製)で,専用の曳航用リバーボートに設置し,ア
ンカーで固定した調査船から,小型定置網用の樹
脂製ポールとロープを用いて舷側から約 1.5m 以
上離した湖面に浮かべ,三次元の流向流速を約 2
分間計測した.
3,4)
,
潮汐の影響は「新所」の約 30 分後の大崎がほぼ同
等とみられる.
7 月 13 日の調査では,13-18 時頃の上げ潮時に
は,
「新所」の表層(0.5m 層)では北-北東への,
大崎の表層では南東-東への比較的速い流れが観
測された.一方 2m 層では,
「新所」では表層とは
逆方向となる南-南西へのやや速い流れが観測さ
れた.中層-底層では,いずれの調査点でも特に
強い流れは観測されなかった.
7 月 14 日の調査では,6-12 時頃の下げ潮時に
は,表層と 2m 層は「新所」では南,大崎では東
南東へのやや速い流れが観測された.中層-底層
は,「新所」の底層(水深約 3.5m)で 7 時に南,
結果および考察
1 定点・通日調査
流向,流速の調査は,定点調査として水質常時
監視地点の「新所」(St.1)と「湖心」(St.2)で
11 時に北西,
「湖心」の 4m で東へのやや速い流れ
がみられた.なお,調査期間中は風が穏やかであ
ったため,吹送流の影響はほとんどなかったと考
えられた.
2012 年 9 月 3-4 日の通日調査では(図 2-2),9
-0.1
0
0
-0.2
W
-0.1
0
-0.2
S
E
0.2
-0.2
0.1
0.1
-0.1
0
S
0
0.1
0.2
E
-0.1
-0.1
W
-0.2
-0.1
St.3 大崎
7/14 8:30
(潮候:下)
-0.2
W
St.1「新所」
7/14 8:00
(潮候:下)
W
-0.2
0
0.1
0.2
-0.2
-0.1
0
0.1
0.2
-0.2
-0.1
0
-0.1
-0.1
W
-0.2
-0.1
St.3 大崎
7/14 9:35
(潮候:下)
W
-0.2
St.1「新所」
7/14 9:00
(潮候:下)
W
-0.2
0
0.1
0.2
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-0.1
0
0.1
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E
0.2
E
E
0.2
E
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0.2
-0.2
0.1
0.1
0.1
0.1
St.1「新所」
7/13 14:35
(潮候:上)
-0.1
0
N
S
0
N
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0
N
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0
N
-0.1
0
0.1
0.2
-0.2
S
E
0.2
-0.1
St.3 大崎
7/13 13:53
(潮候:上)
W
-0.2
0.1
0.2
-0.2
0.1
0.5m
2m
底層
E
0.2
E
0.2
St.1「新所」
7/13 13:17
(潮候:上)
E
0.2
-0.1
0
N
0.1
0.1
0.5m
2m
底層
0.1
-0.1
0
N
St.3 大崎
0.2
7/14 7:30
(潮候:下)
-0.1
-0.1
0
N
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0.2
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W
-0.2
-0.1
St.3 大崎
7/14 10:30
(潮候:下)
W
-0.2
St.1「新所」
7/14 10:00
(潮候:下)
W
-0.2
St.3 大崎
7/13 16:00
(潮候:上)
W
-0.2
St.1「新所」
7/13 15:25
(潮候:上)
-0.2
-0.1
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W
-0.2
-0.1
St.3 大崎
7/14 11:30
(潮候:下)
-0.2
W
St.1「新所」
7/14 11:00
(潮候:下)
W
-0.2
St.3 大崎
7/13 17:00
(潮候:上)
W
-0.2
St.1「新所」
7/13 16:30
(潮候:上)
-0.2
-0.1
0
0.1
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-0.2
-0.1
-0.2
-0.1
0
0.1
S
0
N
St.1「新所」
7/14 12:00 0.2
(潮候:下止)
W
-0.2
0.1
N
St.3 大崎
7/13 18:00 0.2
(潮候:上止)
W
-0.2
St.1「新所」
7/13 17:30
(潮候:上)
0.1
0.1
0.1
図2-1 浜名湖水質調査時における水深別の流向流速(m/s)(2011年 7月13,14日)
風向風速: 5 m/s以下 5~10 m/s (湖西市役所大気測定局データ) 水深 ; St.1「新所」:約3.5m, St.2「湖心」:約11m, St.3大崎:約5m
-0.2
W
0.1
0.2
月齢:12.8(大潮)
0.5m
2m
4m
底層
-0.1
St.1「新所」
7/14 7:00
(潮候:下)
W
-0.2
-0.2
S
E
0.2
-0.2
0.1
0.1
0.2
-0.2
-0.1
0
-0.1
0
St.3 大崎
-0.1
0.5m 7/13 12:32
2m (潮候:下止)
4m
底層
W
-0.2
0.1
-0.1
0
N
2011/ 7/14
-0.1
0.1
0.2
月齢:11.8(中潮)
St.3 大崎
7/14 6:30
(潮候:下)
W
-0.2
-0.1
N
St.1「新所」
7/13 11:51 0.2
(潮候:下止)
W
-0.2
-0.2
S
E
0.2
-0.2
0.1
0.1
N
St.2「湖心」
7/14 6:00 0.2
(潮候:上止)
-0.1
0
0.5m
2m
4m
6m
8m
-0.1
0
2011/ 7/13
-0.1
St.3 大崎
7/13 11:26
(潮候:下)
W
-0.2
0.1
N
St.2「湖心」
7/13 10:34 0.2
(潮候:下)
E
0.2
E
0.2
E
0.2
-0.1
-0.2
-0.1
0
S
0
W
-0.2
-0.1
-0.2
-0.1
0
0.1
S
0
St.1「新所」
N
7/14 12:45 0.2
(潮候:下止)
W
-0.2
0.1
N
St.1「新所」
7/13 18:30 0.2
(潮候:上止)
0.1
0.1
E
0.2
E
0.2
- 79 -
- 80 月齢:16.5(大潮)
St.1-5
9/3 11:00
(潮候:上)
0.2
N
0.5m
2m
4m
底層
0.1
W
-0.2
0
-0.1
0
E
0.2
0.1
St.1-5
9/3 12:00
(潮候:上)
0.2
0.1
W
-0.2
0.2
0
-0.2
S
St.1-5
9/3 17:00
(潮候:下)
N
0.2
0.1
W
-0.2
E
0.2
0.1
-0.1
E
0.2
0
0
0.1
W
-0.2
St.1-5
9/3 18:00
(潮候:下)
N
-0.1
0
E
0.2
0.1
-0.2
S
E
0.2
W
-0.2
0
-0.1
0.2
-0.1
E
0.2
W
-0.2
0.1
E
0.2
W
-0.2
-0.2
S
St.1-5
9/3 20:00
(潮候:上)
0
-0.2
0.1
E
0.2
0.2
0.1
E
0.2
0.1
E
0.2
0.1
E
0.2
0.1
E
0.2
S
N
0.1
0.1
E
0.2
W
-0.2
0
-0.1
0
-0.1
-0.1
S
0
-0.1
0
-0.1
N
0
-0.1
0.1
0
-0.2
0.1
N
St.1-5
9/3 19:00 0.2
(潮候:下止)
N
-0.1
S
0
-0.2
S
0.2
0.1
-0.1
0
W
-0.2
-0.1
-0.2
0.1
0.1
0
-0.1
0
-0.2
S
St.1-5
9/3 15:00
(潮候:下)
0.1
-0.1
0.1
-0.1
N
St.1-5
9/3 14:00 0.2
(潮候:上止)
N
0
W
-0.2
-0.1
-0.2
0.2
0.1
0
-0.1
-0.1
St.1-5
9/3 16:00
(潮候:下)
St.1-5
9/3 13:00
(潮候:上)
N
-0.2
S
S
月齢:17.5(中潮)
St.1-5
9/3 21:00
(潮候:上)
0.2
St.1-5
9/3 22:00
(潮候:上止)
N
0.2
0.1
W
-0.2
E
0.2
0
0
0.1
W
-0.2
-0.1
0
-0.2
S
St.1-5
9/4 3:00
(潮候:下)
N
0.2
0.1
W
-0.2
0
E
0.2
0.1
W
-0.2
-0.1
-0.2
0.2
-0.2
St.1-5
9/4 8:00
(潮候:上)
N
0.2
0
E
0.2
0.1
W
-0.2
-0.1
-0.2
E
0.2
0.1
-0.1
St.1-5
9/4 9:00
(潮候:上)
N
E
0.2
0.1
-0.1
0.1
E
0.2
W
-0.2
0
-0.1
St.1-5
9/4 6:00
(潮候:上)
0.1
E
0.2
W
-0.2
E
0.2
W
-0.2
-0.2
S
St.1-5
9/4 11:00
(潮候:下)
0
-0.2
0.2
S
N
0.1
0.1
E
0.2
W
-0.2
0
-0.1
0
-0.1
-0.1
S
0
-0.1
0
-0.1
N
0
-0.1
0.1
0.1
0.2
S
0.1
N
St.1-5
9/4 10:00 0.2
(潮候:上止)
N
0
-0.2
S
0
-0.2
N
-0.1
0
-0.1
S
0
-0.2
W
-0.2
-0.1
-0.1
S
E
0.2
0.1
0
W
-0.2
0.1
N
St.1-5
9/4 5:00 0.2
(潮候:下止)
0.1
0
-0.2
0.2
0
-0.2
0.2
0.1
0
-0.1
S
0
-0.2
S
St.1-5
9/4 1:00
(潮候:下)
N
-0.1
0
W
-0.2
-0.1
S
W
-0.2
-0.1
0
-0.1
E
0.2
0.1
0.1
0
-0.1
0.1
N
St.1-5
9/4 4:00 0.2
(潮候:下止)
N
-0.1
S
0
-0.2
S
0
0.1
W
-0.2
-0.1
0.2
0.1
-0.1
0
-0.1
St.1-5
9/4 0:00
(潮候:下)
N
0
W
-0.2
0.1
0
-0.1
St.1-5
9/4 7:00
(潮候:上)
0.1
-0.1
-0.2
0.2
E
0.2
0
-0.1
0.2
0.1
0.1
-0.1
St.1-5
9/4 2:00
(潮候:下)
St.1-5
9/3 23:00
(潮候:下)
N
S
-0.2
S
図2-2 浜名湖水質調査時における水深別の流向流速(m/s)(2012年 9月 3~4日)
風向風速: ➡ 5 m/s以下、 5~10 m/s (湖西市役所大気測定局データ) 水深 : 約6m
底層DO
0.5m水温
底層水温
0.5m塩分
底層塩分
月 3 日 18-22 時の上げ潮時に,底層(水深約 6m)
32
31
30
29
28
27
26
25
24
10
DO (mg/L)
8
6
4
2
11時
9時
7時
5時
3時
1時
41156
23時
21時
19時
17時
15時
13時
11時
41155
0
図3 浜名湖新所沖(St.1-5)における通日調査の水質変動
や 4m 層で北西-北東への強めの流れが観測され
WT(℃)・S(psu)
0.5mDO
た.DO・水温・塩分の変化をみると(図 3),19
-22 時の底層の数値が表層とほぼ同様になって
いることから,この間に上げ潮による南部表層水
(外海水)の強い差込みがあったと推察される.
なお,9 月 3 日の日中は,南東-東南東からのか
なり強い風が吹いていたが,吹送流の影響につい
ては明確ではなかった.
- 81 浜名湖の漁業者や釣り人には,表層と下層の潮
点 G)に戻るコースを調査した.なお,当日本湖
の流れが異なる,いわゆる二枚潮の現象が知られ
北部の貧酸素水域には,水深 6m 付近に躍層が形
ている.今回の調査でも,図示しなかった事例を
成されていた.
含めいずれの調査時,調査地点でも密度成層流と
当日の潮位は,「新所」では 8 時頃が満潮,14
考えられる,各調査層で大きく異なる方向・速さ
-15 時頃が干潮であったため,調査時間中の潮候
の流れが観測された.
は下げ潮-下げ止まりであったとみられる.その
ため,上層(1.3m 層)では地点 E 付近を除き湖口
2 ADCP 調査
側(南)への流れが卓越し,特に水深の浅い南部
1) 移動調査
の中央航路沿いの水域で速い流れが観測された.
ADCP による移動調査の結果を,水深 1.3m(表
地点 E では上層が北東(細江湖側),下層(6.8m
層),4.0m(中層),6.8m(下層)の水平方向への
層)が南西(本湖側)への比較的速い流れが観測
流れについて図 4 に示した.調査は,2010 年 8 月
され,下げ潮時に下層水が細江湖から流出し,表
25 日の午前と午後に分けて実施した.浜名湖本湖
層水が細江湖に流入している状況を示していると
北部の貧酸素水域周辺を広く探索するため,午前
みられた.また,地点 C では中層(4m 層)で南
は 10 時「新所」
(地点 A)をスタート,
「湖心」
(地
西―南南西への比較的速い流れが観測されており,
点 B),猪鼻湖口(瀬戸)地先(地点 C),再度「新
潮汐による猪鼻湖からの流出を示していると考え
所」を経由して 12 時 30 分鷲津地先(地点 D)ま
られるが,下層では猪鼻湖に流入する方向への流
でのコースを,午後は 13 時 30 分頃鷲津地先(地
れもみられた.また,この調査でも密度成層流と
点 D)をスタート,細江湖口部地先(地点 E),
「湖
みられる各測定水深で異なる方向(逆方向)への
心」
( 地点 F)を経由して 15 時 30 分頃鷲津地先(地
流れが各所で観測された.
2) 新所水質定点周辺調査
ADCP による水平方向へ
細江湖
E
猪鼻湖
の流れの調査結果を図 5 に
示した.St.①は図 1 の St.1
0.5m/s
地点C
「新所」と,St.③は St.1-5
潮候:下止
,F
と同じ調査点である.
ADCP を湖面に浮かべて計
潮候:下
潮候:下止
潮候:下
「湖心」
潮候:下
測したことから,波の影響
を受けてデータが著しくば
5mDP
らついたため,流れの傾向
を把握するため,60 秒間の
潮候:下
潮候:下止
移動平均値 20 秒分(延べ観
測時間 80 秒間)について示
5mDP
した.ADCP のデータは測
潮候:下止
「新所」
潮候:下
定地点の水深に応じて適宜
の間隔の深度で出力される
ため,水質調査の採水層
潮候:下
潮候:下止
鷲津湾
12:30
測定水深
1.3m
4.0m
6.8m
潮候:下
(0.5,2,4,6,8m)に最
も近い測定水深のデータを
解析に用いた.なお,船舶
の引き波の影響とみられる
潮候:下
D,G
垂直方向の大きな流れがみ
られたデータは除去して解
図4 浜名湖北部におけるADCP移動調査による水深別流向流速ベクトル(2010年8月25日)
風向風速 5 m/s以下、 5~10 m/s (湖西市役所大気測定局データ)
析した.
0.1
0.2
N
S
0
N
S
0.1
0.1
0.2
E
0.5m
2m
4m
0.2
E
0.5m
2m
4m
S
0.1
0.2
N
-0.2
S
0
-0.2 -0.1 0
-0.1
W
9/3 12:24
Dp=3.7m
St.①
(St.1)
St.① 60s
「新所」
-0.2
-0.1
0.1
0.1
E
0.2
0.5m
2m
4m
6m
0
S
0
0
S
0
0.1
0.1
E
0.2
0.5m
2m
4m
E
0.2
0.5m
2m
4m
S
-0.2
S
W
0
-0.2 -0.1
0
-0.1
St.① 60s 0.2 N
9/4 8:33
Dp=3.8m
0.1
-0.2
0.1
0.5m
2m
4m
6m
8m
E
0.1 0.2
E
0.2
0.5m
2m
0.2
E
0.5m
2m
0.1
0.2
N
S
0.1
0.2
N
0.1
S
0.1
S
0
-0.2
-0.1
-0.2 -0.1
W
S
0
St.⑤ 60s 0.2 N
9/4 9:10
Dp=9.4m
0.1
-0.2
-0.1
W
0
-0.2 -0.1
0
St.③ 60s 0.2 N
9/4 8:51
Dp=8.8m
0.1
-0.2
W
0
-0.2 -0.1 0
-0.1
9/3 13:02
Dp=9.2m
St.⑤
St.⑤ 60s
-0.2
0
-0.2 -0.1 0
-0.1
W
9/3 12:43
Dp=8.6m
St.③
(St.1-5)
St.③ 60s
0.2
0.5m
2m
4m
6m
E
0.5m
2m
4m
6m
8m
E
0.1 0.2
E
0.2
0.5m
2m
4m
6m
0.1
0.2
E
0.5m
2m
4m
6m
0
S
0
N
S
0.1
0.1
E
0.2
0.5m
2m
4m
E
0.2
0.5m
2m
S
-0.2
-0.1
S
W
0
-0.2 -0.1
0
St.① 60s 0.2 N
9/3 14:57
Dp=3.6m
0.1
-0.2
0.1
0.1
E
0.2
0.5m
2m
4m
6m
S
-0.2
-0.1
S
W
0
-0.2 -0.1
0
St.② 60s 0.2 N
9/4 9:44
Dp=5.6m
0.1
-0.2
-0.1
W
0
-0.2 -0.1
0
St.⑥ 60s 0.2
9/4 10:20
Dp=5.2m
0.1
N
0.1
0.1
E
0.2
0.5m
2m
4m
E
0.2
0.5m
2m
4m
0
S
0
0.1
-0.2
-0.1
S
0
W
-0.2 -0.1
0
St.① 60s 0.2 N
9/4 9:37
Dp=3.9m
0.1
-0.2
-0.1
-0.2 -0.1
W
St.④ 60s 0.2 N
9/4 9:59
Dp=9.6m
0.1
0.1
E
0.2
0.5m
2m
4m
6m
新所地先 2012年9月4日 9:37-10:20
-0.2
-0.1
W
0
-0.2 -0.1
0
St.② 60s 0.2
9/3 15:05
Dp=5.8m
0.1
-0.2
-0.1
-0.2 -0.1
W
St.⑥ 60s 0.2 N
9/3 15:44
Dp=4.7m
0.1
-0.1
W
0
-0.2 -0.1
0
St.④ 60s 0.2
9/3 15:19
Dp=9.1m
0.1
N
新所地先 2012年9月3日 14:57-15:44
0.2
E
0.5m
2m
E
0.2
0.5m
2m
図5 浜名湖新所地先と「湖心」におけるADCP観測結果(2012年 9月 3日-4日) (80s観測データ,60s移動平均)
風向風速: 5 m/s以下、 5~10 m/s (湖西市役所大気測定局データ)
-0.2
-0.1
-0.2 -0.1
W
St.② 60s 0.2 N
9/4 8:43
Dp=5.4m
0.1
-0.2
-0.1
-0.2 -0.1
W
St.⑥ 60s 0.2
9/4 9:25
Dp=5.3m
0.1
N
0
-0.2 -0.1
0
-0.1
W
St.④ 60s 0.2
9/4 8:59
Dp=9.5m
0.1
N
新所地先 2012年9月4日 8:33-9:25
-0.2
-0.2 -0.1 0
-0.1
W
St.② 0.2
St.② 60s
9/3 12:33
Dp=5.5m
0.1
-0.2
0
-0.2 -0.1 0
-0.1
W
9/3 13:14
Dp=5.3m
St.⑥
St.⑥ 60s
0.1
0.2
N
W
0
-0.2 -0.1
0
9/3 12:52
DP=9.3m
St.④
St.④ 60s
新所地先 2012年9月3日 12:24-13:14
S
S
0
0.1
S
-0.2
-0.1
S
W
0
-0.2 -0.1
0
St.⑤ 60s 0.2 N
9/4 10:08
Dp=9.4m
0.1
-0.2
-0.1
-0.2 -0.1
0
-0.2
-0.1
W
0
-0.2 -0.1
0
St.③ 60s 0.2 N
9/4 9:51
Dp=9.1m
0.1
W
0.1
St.⑤ 60s 0.2 N
9/3 15:31
Dp=9.1m
0.1
-0.2
-0.1
W
0
-0.2 -0.1
0
St.③ 60s 0.2 N
9/3 15:11
Dp=8.6m
0.1
E
0.2
0.5m
2m
4m
6m
0.5m
2m
4m
6m
8m
E
0.1 0.2
E
0.2
0.5m
2m
4m
6m
0.1
E
0.2
0.5m
2m
4m
6m
S
0.1
S
0.1
E
0.2
0.5m
2m
4m
E
0.2
0.5m
2m
S
0
S
0
N
「新所」
-0.2
-0.1
-0.1
0.1
0.2
-0.2
-0.1
S
W
0
-0.2 -0.1
0
湖心 60s
9/3 11:08
Dp=11.5m
W
-0.2
0.1
St.① 60s 0.2 N
9/3 15:54
Dp=3.5m
0.1
-0.2
「湖心」 2012年9月3日 11:08
-0.2
-0.1
W
0
-0.2 -0.1 0
St.② 60s 0.2 N
9/3 16:00
Dp=5.0m
0.1
-0.2
W
0
-0.2 -0.1
0
-0.1
St.⑥ 60s 0.2 N
9/3 16:36
Dp=4.7m
0.1
-0.1
W
0
-0.2 -0.1
0
St.④ 60s 0.2 N
9/3 16:14
Dp=9.1m
0.1
0.1
0.1
E
0.2
0.5m
2m
4m
6m
0.2
1m
2m
4m
6m
8m
E
E
0.2
0.5m
2m
新所地先 2012年9月3日 15:54-16:36
S
0.1
S
0.1
E
0.2
0.5m
2m
4m
6m
「湖心」
-0.2
-0.1
W
0
-0.2 -0.1
0
St.⑤ 60s 0.2 N
9/3 16:25
Dp=9.1m
0.1
-0.2
-0.1
W
0
-0.2 -0.1
0
St.③ 60s 0.2 N
9/3 16:06
Dp=8.5m
0.1
E
0.2
0.5m
2m
4m
6m
- 82 -
- 83 移動平均によって平準化したにもかかわらず,
の流動は非常に複雑であることが推察される.今
20 秒間の数値にかなりのばらつきがみられた.短
回の調査でも,水深ごと,時間ごとに傾向が異な
時間における流速の変化は多くの地点・水深で観
る,密度成層流とみられるさまざまな流れが観測
測されたが,特に,9 月 3 日 12:24-13:14 の St.
されている.しかし,密度成層形成期における深
②,St.⑤の 4m 層,14:57-15:44 の St.③,St.⑤の
部底層水の有光層への移動は,直接的な上昇では
0.5m 層では,流向もかなり大きく変化していた.
なくかけ上がりに沿って行われると予想される.
さらに,9 月 3 日 12:24-13:14 の調査は各地点
そのため今後は,今回調査を行った新所沖や大崎
とも予備的に 2 回計測を行ったが,続けて計測し
地先以外の本湖奥部のかけ上がり周辺など,より
たにもかかわらず,流向・流速が大きく異なる水
広範囲の湖水流動について詳細な調査を行い,深
深がみられた.同様な現象は定点・通日調査でも
層底層水の有光層への供給メカニズムを検討して
観測され,特に潮候の切り替わり前後の潮流が不
いく必要があるだろう.
安定な時間帯で顕著であった.9 月 3 日 13-15 時
なお,今回は 2 種類の ADCP を用いて曳航法(移
頃,9 月 4 日 9-11 時頃は,上げ潮から下げ潮へ
動調査)と定点法(新所水質定点周辺調査)で調
の切り替わりの時間帯であり,潮流が不安定であ
査を行ったが,定点法では調査船の挙動と潮流の
ったことが推察される.また, 9 月 3 日の午後に
変動が重なって正確な湖水流動の把握が難しかっ
はかなり強い南東の風が吹いており,吹送流の影
た.そのため今後の ADCP による調査では,広域
響も大きかったと考えられる.さらには,水面に
の湖水流動の把握には曳航法が適していると考え
浮かべた ADCP の波浪等による挙動の影響や,湖
られる.また,定点での流動を ADCP で把握する
底地形や密度成層流等の影響による潮流の振幅や
場合には,湖底等に固定しての調査が必要であろ
乱流も推察され,流向流速のばらつきが大きくな
う.
ったものと考えられた.そのためか,同様の時刻
に同地点の St.③(St.1-5)で計測した通日調査の
電磁流速計のデータ(図 3-2)とも差がみられた.
文
献
1) 松田義弘:浜名湖の海水交換(Ⅰ)―塩分輸
また,地点による流れの差についても,9 月 3 日
送形態と地理的環境,東海大学紀要海洋学部,
15:54-16:36 における,かけ上がり部である St.
15,1-16 (1982)
②から St.④にかけての表層・2m 層と 4m 層の流
向の変化のように興味深いデータも得られたもの
の,今回の調査だけでは実態を明らかにすること
はできなかった.
2) 浜名湖地区水産振興協議会:浜名湖地区の水
産,67pp(2001)
3) 有田守他:浜名湖における潮汐特性の経年変
化に関する研究,海洋開発論文集,20,土木
学会, 1073-1078(2004)
まとめ
今回の浜名湖本湖における湖水流動の調査は,
別報の水質調査やプランクトン調査で推察された,
4) 有田守他:浜名湖今切口の固定化による湖内
の潮汐と海水交換特性の変化,海岸工学論文
集,52,土木学会, 201-205(2005)
北部貧酸素水域底層から有光層へのリン等の栄養
5) 陸眞姫他:閉鎖性内湾における夏期密度成層
塩供給のメカニズムを検討するため,湧昇等の湖
形成時の海水交換と鉛直混合に関する研究,
水流動を把握することを目的に実施した.しかし,
海岸工学論文集,53,土木学会,981-985(2006)
今回図示しなかったデータを含め,新所沖と大崎
6) 青木伸一他:狭水路で連結された2つの成層
地先では深部底層水の湧昇と呼べるような,かけ
水域の風による海水交換について,土木学会
上がりに沿った明確な上層への流れは把握できな
論文集 B2( 海岸工学),66,No.1,376-380(2010)
かった.しかし,水質やプランクトンの調査では,
7) 後藤裕康:漁獲量変動からみた浜名湖の漁場
密度成層形成期における新所沖の水深 2-4m 層へ
環境の変化,静岡水試研報,39,31-50(2004)
の深部底層水の流入が把握されているため,広域
的にはかなりの量の深部底層水の有光層への移動
があることは間違いないだろう.
浜名湖の複雑な湖底地形と潮流,吹送流,湖水
の成層構造等が湖水流動に関与するため,浜名湖
- 84 -
静岡県環境衛生科学研究所報告
No.55
85-94
2012
- 85 -
Bulletin of Shizuoka Institute of Environ. and Hyg.
浜名湖における湖水流動の変化に伴う水質の悪化
大気水質部
水質環境班
内山道春,後藤裕康,濱口浩太 *1,
清水麻希,三好廣志,杉本勝臣,
酒井貞典
静岡県立大学環境科学研究所
谷
幸則 *2
Water Pollution with the Change of Flow in HAMANA Lake
Michiharu UCHIYAMA,Hiroyasu GOTO, Kota
HAMAGUCHI*1,
Maki SHIMIZU,Hiroshi MIYOSHI, Katsuomi SUGIMOTO,
Sadanori SAKAI and Yukinori TANI*2
浜名湖の水質は 1993 年頃から改善傾向にあったが,2004 年頃から COD 値が上昇傾向にあ
り,一部の地点では環境基準の超過が続いている.そこでなぜ COD 値が上昇傾向にあるのか原因
究明を行った.
その結果,浜名湖における COD 値の上昇は,懸濁態 COD および色素量の変動から従来の知見
どおりプランクトンの増殖によることが再確認された.プランクトンの増殖に必要な栄養塩は陸
水が供給源ではなく,底質から溶出し底層に滞留していたものが中層に移動したものと,湖中央
部における燐酸態リンと緑色光合成硫黄細菌由来の色素の挙動から考えられた.培養試験による
COD 値の変化から,深層海水の表層付近への移動がプランクトンの増殖につながり,水質悪化の
原因のひとつになっていることが示唆された.
従来,湖中央部では夏季に密度躍層が形成されるため,湖水上下層間の水交換は停止する
とされていたが,今回の調査結果から深層海水の浅い水域への移動が推察され、これが水質悪化
に影響している可能性が示唆された.
Key words:
浜名湖,COD,燐酸態リン,緑色光合成硫黄細菌,深層海水
Hamana lake, chemical oxygen demand, phosphoric phosphate
静岡県環境衛生科学研究所
(〒420-8637,静岡市葵区北安東 4-27-2)
Shizuoka Institute of Environment and Hygiene
(4-27-2,Kita-ando,Aoi-ku,Shizuoka,420-8637,Japan)
*1:静岡県西部健康福祉センター
*2:静岡県立大学
環境科学研究所
- 86 はじめに
るにもかかわらず,なぜ COD 値が上昇傾向にあるの
浜名湖は今切口で遠州灘と繋がる汽水湖である
か原因究明を行ったので,その結果を報告する.
が,これまでも自然災害等によりその水質環境は変
化してきた.近年では 1953 年の台風被害復旧を機
調査・実験方法
に今切口が幅 200m に固定され,その結果湖水の塩
分濃度が 1953 年頃から増大し,1965 年頃に安定し
た
1)
1 データ調査
とされている.また,1973 年までに湖口外海
側に導流堤の延長工事が行われ,さらに,湖内にお
公共用水域常時監視のデータ等を現在に至るまで
精査し,各項目の経年変化・傾向等を調査した.
いては南部の浅瀬にて 1993 年まで航路(澪)整備
が行われた.(図 1)
2 現地調査
浜名湖では「浜名湖水環境管理計画」により水環
表 1 に示す海域類型 A の 5 地点および「鷲津」
(海
境保全対策が示され,県や市町は水質監視を行いつ
域類型 B,「新所」に隣接)の計 6 地点において月 1
つ対策を進めてきた.図 2 に示すとおり浜名湖にお
回採水を行い,水質等の年間変動を調査した.
2)
は,常時監視開始以降湖奥
また,日変動の調査のため 25 時間連続調査を図 1
側の「新所」,「湖心」で環境基準を超過し,湖口側
に示した調査地点において表 2 のとおり 5 回実施し
の「新居」では環境基準達成という状況が続いてい
た.なお,分析項目および分析法は表 3 に示した.
ける過去の COD75%値
たが,1993 年以降は改善傾向にあり 2001 年からは
全地点で環境基準を達成した.しかし,2005 年以
3 培養試験
降は全測定地点で水質が悪化する傾向となり,2006
調査過程で,夏季の浜名湖湖心部の深層海水が表
年からは「新所」で,2008 年からは「湖心」でも
層付近のプランクトン増殖に影響している可能性
ふたたび環境基準を超過し,現在に至っている.
が示されたため,表 4 に示す培養条件により,DO と
「新所」,「湖心」は湖中央に近いため陸水の影
COD 値の変化から光合成促進の有無を調査した.
響を受けにくく,湖内では比較的開放的な地点であ
「気賀」
浜松市
都田川
細江湖
「新所」では 2006 年,
「湖心」では 2008 年か
N
ら環境基準を再度超過
猪鼻湖
「湖心」
大崎
St.2
松見ヶ浦
St.3
水深 10m 超の
浜名湖
(本湖)
本湖) 5m
湖西市
St.1 -4 St.1-5
新所 St.1
St.1- 2
「新所」
「新所」
鷲津湾
「鷲津」
盆地状の湖底地形
St.1-3
航路(澪)
庄内湾
浜松市
「新場」
湖西市
浅瀬
:通年調査地点
新川( 佐鳴湖)
浅瀬が広がり、澪
(航路)が整備
今切口
「新居」
遠州灘
(~1993)
図 1 浜名湖の地形と測定地点
:連続調査地点
- 87 -
平衡状態
漸減傾向
適合状態
漸増傾向
4
COD mg/L
3
2
1
0
1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012
作澪工事
・1993 年以降改善傾向
・2005 年から再度悪化傾向
(~1993 年)
・2001 年全地点で環境基準達成
・環境基準超過「新所」・「湖心」
湖心
新所
図2
新居
環境基準
COD75%値の経年変化
表 1 年間変動調査地点一覧
地点名
海域類型
新居
A
新場
(A)
湖心
A
気賀
(A)
表 3 分析項目および分析方法
水深
項目
4m
COD
5m
DO
11m
7m
分析法
JIS
K0102
19 CODOH(原水,ろ液)
ウインクラーアジ化ナトリウム変法
TOC
TOC 計(NPOC)
pH
ガラス電極法
-
新所
A
4m
Cl
鷲津
B
3m
PO4-P
サリノメーター
吸光光度法(50mm セル)
プランクトン 色素分析(静岡県立大)
(A):補助地点
表 4 培養条件
表 2 25 時間連続調査地点一覧
水深
項目
条件
2010.8.24~ 大潮 凪
4m
供試海水
「新所」2m層水に「湖心」底層水添加
St.1-2
2 番ポール南 2011.8.25~ 若潮 凪
6m
光源
太陽光(曇りのち晴れ)、5.4 時間培養
St.1-3
中央航路西 2012.7.4~
温度
近傍海水掛け流し(約 30℃)
調査地点
St.1
新所
調査日
潮況
風
大潮 W 微
5m
St.1-4 女河浦沖
2012.8.7~
中潮 SW 強
6m
St.1-5 新所地先
2012.9.3~
大潮 SW 強
6m
・「湖心」底層は一晩曝気して使用
備考
・DO(n=3)、COD(n=1)
・リン濃度:
「新所」2m層
「湖心」底層
0.016mg/L、
0.637mg/L
表 5 月別 COD 環境基準超過率
環境基準の適不適
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10 月
11 月
12 月
1月
2月
3月
適合年
超過回数
1/11 5/11
2/11
4/11
5/11
4/11
1/11
1/11
0/11
0/11
0/11
0/11
11/40 年
超過率%
18.2
36.4
45.5
36.4
9.1
9.1
0.0
0.0
0.0
0.0
超過年
超過回数
4/29
4/29
1/29
3/29
29/40 年
超過率%
超過率の差
※欠測月あり
9.1
45.5
5/28 20/29 25/29 27/29 28/29 23/28 20/29 11/29
17.9
69.0
86.2
93.1
96.6
82.1
69.0
37.9
13.8
13.8
3.4
10.3
8.8
23.5
68.0
56.7
51.1
45.7
59.9
28.8
13.8
13.8
3.4
10.3
- 88 結果および考察
2 色素分析によるプランクトン構成の推定
結果は COD 値の傾向,色素分析結果,水質の日変
2010 年「湖心」表層,
「新所」表層の色素分析結
動,水質モデルの仮説,底層海水の水質への影響,
果を図 4-1 から図 4-2 に示した. 5 月から 7 月は
湖水流動要因の検討の 6 項目に分けて説明する.
Fucoxanthine が,10 月には Peridinin が高濃度で
検出されたが,Fucoxanthine は珪藻に,Peridinin
は渦鞭毛藻に特有な色素であるため,「湖心」,「新
1-1 COD 値の傾向(データ調査)
環境基準超過が最も多い「新所」における過去
40 年の水質データ
2)
を確認したところ,環境基準
適合年は 11 回,超過年は 29 回であった.(表 5)
これらの月別超過率を比較したところ,環境基準
所」においてはそれぞれ珪藻,渦鞭毛藻が増殖した
と考えられた.このように地点・月毎に抽出される
色素の構成比率の変動から,プランクトンの構成が
変遷していることが推察された.
超過は初夏から秋期に集中していた.また,環境基
また,近年他の湖沼・海域で藍藻類の異常増殖に
準適合年と超過年を比較した結果,超過年は 5 月か
よる水質悪化が問題化しているが,浜名湖において
ら 11 月の間で 20%以上超過率が高まっており,特
も「猪鼻湖」や「湖心」の表層において, 夏季に藍
に 6 月,7 月,8 月,10 月は 50%以上上昇していた.
藻類に由来する色素(Zeaxanthine)が確認された.
このことから,近年の水質悪化は夏季の COD 値上
しかし,その構成比は小さく継続性もないことから
昇によるものと考えられた.
優先的な増殖はなかったと考えられ, 浜名湖の COD
値上昇の主因は藍藻類の増殖ではないと推察した.
また 図 5 に示すとおり,
「新所」の底層において
1-2 COD 値の傾向(年間変動)
湖内各地点において懸濁態 COD と溶存態 COD の値
9 月 に 緑 色 光 合 成 硫 黄 細 菌 由 来 の 色 素
を測定したところ,湖表層の溶存態 COD は年間を通
(Isorenieratene
以下,硫黄細菌色素と略す)が
じてほぼ同じ濃度であったが,懸濁態 COD は変動が
検出され,この時は本バクテリアが大きな構成比を
大 き く ,夏 季 に 高 い 値 を 示 し た . そ の 事 例 と し て
占めていたことが確認された.
2010 年「湖心」表層における COD 値と色素濃度の
80
静岡県立大学の色素分析結果によれば,2010 年
「湖心」表層において懸濁態 COD の増加した 5 月,
6 月,7 月,10 月の内, 5 月,7 月,10 月は総色素量
も増加しており,7 月はクロロフィルaも増加した.
色素濃度 μg/L
測定結果を図 3 に示した.
60
40
20
COD 値と総色素量が比例傾向にあることから,夏季
0
のプランクトン増殖が COD 値上昇の原因と推察さ
れた.これらの結果は,内部生産による懸濁態 COD
の増加が COD 値全体の変動に大きく寄与する
3)
であった.
図 4-1
60
2
30
色素濃度 μg/L
4
Fuco
8月
Zea
10月
12月
Isorenieratene
2月
others
「湖心」表層の色素構成(2010 年)
80
90
色素濃度 ug/L
COD mg/L
Peridinin
6月
と
いう,過去の浜名湖の調査研究成果と合致するもの
6
4月
60
40
20
0
0
0
4月
6月
8月
10月
12月
2月
溶存態COD
懸濁態COD
Chlorophyll-a
Total carotene
図 3 表層 COD と色素濃度の例(2010 年「湖心」)
4月
6月
Peridinin
Fuco
8月
Zea
10月 12月
2月
Isorenieratene
others
図 4-2 「新所」表層の色素構成(2010 年)
- 89 ける底層海水の浅い水域への移動は特異的な事例
ではなく,地点・条件によっては気象イベント等が
なくとも発生しうる事象であることが推察された.
40
20
0
4月
Peridinin
6月
Fuco
8月
Zea
10月 12月
Isorenieratene
15
410
10
370
5
330
0
290 底層 DO
2月
others
9時
13時 17時 21時 1時
図 5 「新所」底層の色素構成(2010 年)
3 水質の日変動
5時
全水深 cm
60
DO mg/L
色素濃度 μg/L
80
9時
0.5mDO
2.0mDO
底層DO
新所全水深
の低下
図 6-1 「新所」DO と全水深(2010 年 8 月 24-25 日)
かけて底層 DO の低下および 2m層と底層での燐酸
態リン濃度の上昇が観測された.(図 6-1,図 6-2)
この時降雨の影響はなかったため,陸水以外にリン
供給源が存在することが考えられた.
PO4-P mg/L
25 時間連続調査において,24 日 17 時から 19 時に
0.2
450
0.15
400
0.1
350
0.05
300
これに関して,静岡県立大学での色素分析の結果,
0
250
9時
リン濃度が上昇した時間帯に硫黄細菌色素が検出
全水深 cm
2010 年 8 月 24 日から 25 日の「新所」における
13時 17時 21時
1時
0.5mP
底層P
され,その濃度変動はリン濃度の挙動とよく合致し
ていることが判明した.(図 7)
5時
9時
底層,2m 層
2.0mP
新所全水深
P の上昇
直上の海水(以下「底層海水」と記述)に由来する
と考えられた.(図 9-2)
また, 同様な水温や水質の変化は 2012 年 9 月 3
日から 4 日の調査においても観測された.
図 8-1 から図 8-3 は「新所地先」における 2012
年 9 月 3 日から 4 日の DO・燐酸態リンと塩素イオ
層の DO・塩素イオン濃度等がいずれも表層並みに
変動した.
さらに,底層では 4 日 1 時以降にリン濃度が上昇
し,4m層では 4 時から 10 時にかけてリン濃度が上
昇し,同時に DO の低下と塩素イオン濃度の上昇が
見られた.さらに,2m層では 4 時にリン濃度が突発
的に上昇した.
これらの観測結果から,9 月 3 日 19 時から 22 時
にかけては「新所地先」底層まで外海水が流入し,
4 日 1 時以降は底層海水が「新所地先」底層まで移
動し,底層ばかりでなく 4m層と 2m層でも一時的
に深層海水の影響を受けたことが考えられた.
この 2 回の水質変動の事例から,「新所」等にお
0.15
4
0.1
2
0.05
0
9時 13時 17時 21時 1時
底層硫黄細菌色素
5時
0
9時
底層P
図 7 硫黄細菌色素と燐酸態リン(2010 年 8 月 24-25 日)
10
底層 DO
7
の上昇
8
6.5
DO mg/L
ンの変動であるが, 3 日 19 時から 22 時にかけて底
6
6
4
6
全水深 m
度の燐酸態リンは「湖心」付近の密度躍層下の湖底
硫黄細菌色素 ug/L
や,急激な DO 低下が観測されたことなどから,高濃
PO4-P mg/L
緑色光合成硫黄細菌は還元状態で増殖すること 図 6-2 「新所」燐酸態リンと全水深(2010 年 8 月 24-25 日)
2
4m 層 DO
0
11時 15時 19時 23時 3時
2mDO
4mDO
5.5
7時 11時
底層DO
の低下
全水深
図 8-1「新所地先」DO と全水深(2012 年 9 月 3-4 日)
- 90 -
PO4-P mg/L
0.5
底層 P
0.4
の上昇
0.3
4m 層,2m 層
P の上昇
0.2
0.1
0
11時 15時 19時 23時 3時 7時 11時
2mP
4mP
底層P
図 8-2「新所地先」燐酸態リン(2012 年 9 月 3-4 日)
底層 Cl の低下
図 9-1
17000
従来の浜名湖夏季の水質モデル
Cl- mg/L
16500
16000
4m 層 Cl
15500
の上昇
15000
11時 15時 19時 23時 3時
7時 11時
2mCl
底層Cl
4mCl
図 8-3「新所地先」塩素イオン(2012 年 9 月 3-4 日)
4 水質モデルの仮説
図 9-1 に示したとおり,従来の浜名湖の水質モデ
ル
3)
では,夏季の湖心部では密度躍層が発達して上
下層の水交換は停止するとされている.下層では無
酸素化が進展し,底質から栄養塩の溶出や硫化水素
の発生が始まるが,これらは躍層に阻まれ,降雨な
どの気象イベント等による躍層破壊がない限り表
図 9-2 想定される浜名湖夏季の水質モデル(仮説)
図 10 は 2010 年「湖心」底層 DO と「湖心」底層・
移であるが,
「湖心」底層では夏季に DO が低下する
とともに燐酸態リン濃度が上昇している.しかし,
表層では「湖心」「新所」ともこの時期には燐酸態
リンはほとんど検出されず,実際に躍層によって表
層への移動は制限されていると考えられる.
しかし 25 時間連続調査の結果,一時的にではあ
るが 「新所」のような水深 4m 未満の浅い水域にお
いて底層海水が検出されたことから, 図 9-2 のよ
うに従来と異なって平穏時でも底層海水が浅い水
域まで移動するような湖水の流動があることが示
唆され,燐酸態リン等に富む深層海水が,表層付近
でのプランクトン増殖のための栄養塩類の供給源
となっている可能性が考えられた.
PO4-P mg/L
「湖心」表層・「新所」表層の燐酸態リン濃度の推
0.8
12
0.6
9
0.4
6
0.2
3
0
DO mg/L
層へは流出しないとされてきた.
0
4月
6月
湖心10mDO
湖心底層P
8月
10月 12月
湖心0.5mP
2月
湖心10mP
新所0.5mP
図 10 「湖心」底層 DO と表層燐酸態リンの例(2010 年)
- 91 5 底層海水の水質への影響
表 7 「湖心」深層海水混合・培養時の COD
これまでの調査において, 平穏時でも底層海水
が浅い水域まで移動することが示唆されたため,底
COD
添加割合
層海水による表層でのプランクトン増殖への影響
を検討した.
mg/L
培養前 培養後
差
0%(対照区)
0.7
0.8
+0.1
方法は,「湖心」底層水を「新所」2m層水に段階
10%
0.7
1.1
+0.4
的に混合し,明暗法によって DO 変化および COD 値を
20%
1.0
1.0
±0.0
1.0
0.9
-0.1
測定した.予備試験において光合成阻害が確認され
10%未曝気
たため,「湖心」底層水は一晩曝気して使用した.な
お,曝気による燐酸態リン濃度の低下はなかった.
6-1 湖水流動要因の検討(吹送流)
5.4 時間培養後の DO 測定では,対照区(底層海水
浜名湖周辺では夏から秋季に吹送流による底層
添加割合 0%)に対し,試験区では純光合成速度・
の貧酸素水の湧昇(青潮・苦潮)の発生が知られてお
総光合成速度とも下回り,光合成促進は確認できな
り,今回の底層海水移動も風が影響した可能性が考
かった.未曝気の底層海水 10%添加の区では,純光
えられた.
合成速度はマイナスとなり阻害があったと考えら
そこで,それぞれ当日の風向風速を最寄りの地上
れた.(表 6)
測定地点(湖西市役所大気測定局)のデータで検討
しかし,COD では 10%添加区で対照区より増大す
した.その結果,2010 年 8 月の水質変動時は強い風
る傾向が見られ,プランクトン増殖の可能性が示唆
はなく,2012 年 9 月の水質変動時にはほぼ無風であ
された.(表 7)ただし,20%添加区では対照区と同
り,表 8 および表 9 に示すとおり強い吹送流が発生
等であったため,条件を含めさらに検討する必要が
する状態ではなく,今回観測された深層海水の浅い
あるだろう.
海域への移動は吹送流によるものではないと考え
られた.
表 6 「湖心」深層海水混合・培養時の光合成速度
添加割合
DO
光合成速度等 O2mg/L/h
mg/L
培養前 明ビン 暗ビン 純光合成 呼吸速度総光合成
0%(対照区) 7.1
7.8
6.4
0.13
0.13
0.26
10%
7.2
7.8
6.5
0.11
0.13
0.23
20%
6.9
7.5
6.3
0.11
0.10
0.22
6.8
6.7
6.1
-0.02
0.13
0.11
表8
2010 年 8 月 24 日-25 日の風向風速(参考:湖西市役所大気測定局)
10%未曝気
日
24 日
時 10
11 12 13
25 日
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
1
2
3
4
5
風向SSW SW SW SSW SW
SW
SW
SW
SSW SSW SSW SSW S
SW
-
SE
-
NE NW
6
7
8
9
10
WNW SSW N
W
S
SSW
風速 3.4 3.2 4.3 4.2 5.3 3.9 3.8 3.3 2.0 2.2 1.6 1.3 0.9 0.8 0.2 0.7 0.4 0.5 0.6 0.5 0.5 0.7 1.7 1.8 3.4
網掛け:底層海水影響時間帯
表9
2012 年 9 月 3 日-4 日の風向風速(参考:湖西市役所大気測定局)
日
3日
時
12 13 14 15 16 17 18 19
風速 ESE SE SE SE SE SE SE
4日
20
21 22
23
24
1
2
3
4
5
6
7
E ENE NE ENE NW SSE
-
W
-
-
-
-
- SSE SSWWSW NE ESE
風速 3.4 4.3 4.9 5.4 4.2 4.0 2.7 2.0 1.7 1.4 1.7 1.2 0.5 0.4 1.3 0.4 0.2 0.2
網掛け:底層海水影響時間帯
8
9
10 11
12
0 0.4 0.6 1.6 1.6 2.8 3.4
- 92 -
間から 4 時間,潮汐の振幅は,
「 舞阪」の 45%から 100%
と観測された.(表 10)
No.
13時
地点名
新所
St.1-2 2 番ポール南
潮汐時差
潮汐振幅
比率
(舞阪の干満に
(cm)
%
0.5-2 時間
100/100
100
1-4 時間
48/70
70
St.1-3 中央航路西 1.5-3.5 時間
55/123
45
St.1-4 女河浦沖
2-3 時間
37/75
50
St.1-5 新所地先
2-2.5 時間
70/89
79
湖西市新居町中之郷地先では 120 分程度,浜松市北
区三ヶ日町瀬戸で 160 分程度遅れるとされており 4)
(図 12), 潮位差は舞阪港に対し村櫛町地先で 1/3,
2.9
9時
新所全水深
新所全水深
「舞阪」潮位と「新所」全水深(2011 年 8 月)
5.5
120
90
5.1
60
4.7
30
0
4.3
11時 14時 17時 20時 23時 2時 5時 8時 11時
とされてきた.しかし,今
回の観測から,干満の影響が湖奥部まで大きく伝わ
るように変化していると考えられた.
5時
150
舞阪潮位 cm
は舞阪港基準時より村櫛町地先で 100 分程度遅れ,
1時
150
6.2
130
110
5.8
90
70
5.4
50
30
5
11時 14時 17時 20時 23時 2時 5時 8時 11時
舞阪潮位
これに対し,過去の知見による湖奥側の干満時刻
5)
21時
図 11-1 「舞阪」潮位と「新所」全水深(2010 年 8 月)
図 11-2
湖奥部ではそれ以下
17時
舞阪潮位
25 時間連続調査地点の潮汐
対する遅れ) 測点/舞阪
St.1
3.3
9時
舞阪潮位 cm
表 10
3.7
新所全水深 m
らの結果から,「舞阪」との潮汐の時差は約 0.5 時
4.1
新所全水深 m
推移は図 11-1 から図 11-5 のとおりであった.これ
60
40
20
0
-20
-40
-60
新所全水深 m
「新所」等における 25 時間連続調査時の全水深の
舞阪潮位 cm
6-2 湖水流動要因の検討(潮汐)
舞阪潮位
新所全水深
図 11-3 「舞阪」潮位と「新所」全水深(2012 年 7 月)
6)
としている.そ
の振幅は 50%,遅延は 2.5 時間と観測しているが,
今回の結果から約 10 年を経てさらに潮汐の伝達特
性は拡大していると考えられる.また,後藤は漁獲
量という生物面から浜名湖の環境変化を論じてお
160
6.1
140
120
5.7
100
80
5.3
60
40
4.9
11時 14時 17時 20時 23時 2時 5時 8時 11時
り, 1986 年頃以降海水交換量の増大により浜名湖
舞阪潮位
の外海化が進んでいると推察している 7).これらの 図 11-4
湖奥部での潮汐の影響拡大傾向から,底層海水の浅
考えられたので,2011 年以降は水質調査時に流向・
流速データを併せて収集した.
その結果, 表層・2m 層に比べ底層は流速が小さい
ことや同一地点においても水深によって潮流のベ
舞阪潮位 cm
い水域への移動には潮流の増大が影響することが
クトルが大きく変化し,浜名湖の潮流は極めて複雑
「舞阪」潮位と「新所」全水深(2012 年 8 月)
150
130
110
90
70
50
30
11時 14時 17時 20時 23時 2時 5時
であることが判明した.
舞阪潮位
注:12 時~17 時
図 11-5
新所全水深
6.7
6.3
5.9
新所全水深 m
の振幅および遅延が生じている
舞阪潮位 cm
調査を行っており,今切口から 5kmの範囲で潮汐
新所全水深 m
浜名湖の潮汐特性については 2003 年に有田らが
5.5
8時 11時
新所全水深
強風により調査地点が変動(船移動)
「舞阪」潮位と「新所」全水深(2012 年 9 月)
- 93 図 13 は 2012 年 9 月 3 日の調査における「新所地
先」の全水深と燐酸態リンの 10 倍値,DO のグラフ
と水深ごとの流向流速ベクトルである.3 日 19 時
細江湖
と 22 時には底層で北東向きの顕著な潮流が観測さ
猪鼻湖
れ,これが底層まで流下する外海水の流れと判断さ
160 分
れた.しかし,「新所地先」への底層海水の移動が
160 分
推察された(図 8)4 日 1 時,4 時の流向流速ベクトル
120 分
松見ヶ浦
では底層,4m 層,2m 層とも顕著な潮流は観測されず,
浜名湖
(本湖)
本湖)
底層海水の浅い水域への移動と潮流の関連は明ら
かにはできなかった.
(流速調査の詳細は別報参照)
新所(St.1)
庄内湾
鷲津湾
120 分
100 分
100 分
舞阪 0 分
今切口
図 12 「舞阪」「新所」の位置および潮汐の時差
「浜名湖地区の水産」より
2m 層
St.1-5
9/3 19:00
(潮候:下止)
W
-0.2
4m 層
底層
St.1-5
9/3 22:00
(潮候:上止)
N
St.1-5
9/4 1:00
(潮候:下)
N
St.1-5
9/4 4:00
(潮候:下止)
N
N
0.2
0.2
0.2
0.2
0.1
0.1
0.1
0.1
0
-0.1
0
0.1
E
0.2
0
W
-0.2
-0.1
-0.1
-0.2
底層リン*10、DO mg/L
風向
0
0.1
E
0.2
W
-0.2
-0.2
0
0.1
E
0.2
W
-0.2
-0.1
-0.1
S
0
-0.1
-0.2
S
0
-0.1
0
-0.1
-0.2
S
S
10
6.7
8
6.5
6.3
6
6.1
4
5.9
2
5.7
0
5.5
11時
13時
15時
17時
19時
底層-DO
21時
23時
底層-P*10
1時
3時
0.1
5時
7時
9時
新所全水深
図13 「新所地先」の全水深、P、DO(2012年9月3日-4日)
図 13 「新所地先」の全水深、リン、DO(2012 年 9 月 3 日-4 日)
11時
「新所地先」全水深 m
表層
E
0.2
- 94 まとめ
浜名湖中央部の「新所」等における COD 値上昇の
原因解明のため実施した調査により,得られた知見
は以下のとおりであった.
1
2
3) 静岡県環境部浜名湖保全室:平成 11 年度浜名
ンクトンの増殖によることが再確認された.
湖 富 栄 養 化 防 止 対 策 調 査 報 告 書 , Ⅰ 4- Ⅰ
他の海域で COD の上昇原因として問題となって
9(2000)
「新所」における 25 時間連続調査で一時的に
の移動によるものと推察された.
湖奥部では夏季に密度躍層が形成されると,従
来は湖水の上下層間の交換は停止すると考え
られていたが,気象イベントがない時でも底層
海水が浅い水域まで移動していることが示唆
された.
表層水に底層水を添加した培養試験では,DO の
増大は認められず光合成促進は確認できなか
ったが,COD 値が増加したことから底層海水の
上層への移動が水質悪化の原因のひとつであ
ることが示唆された.
6
底層海水の浅い水域への移動は吹送流による
ものではないと考えられた.
7
2) 静岡県環境衛生科学研究所:静岡県公共用水域
よび色素量の変動から,従来の知見どおりプラ
菌由来色素は,湖奥部の底層海水の浅い水域へ
5
(2003)
および地下水水質測定結果,(1971-2011)
出現した高濃度の燐酸態リンと光合成硫黄細
4
1) 鈴木克宏:静岡県水産試験場研究報告,38,1-6,
浜名湖における COD 値の上昇は,懸濁態 COD お
いる藍藻類の優先的な増殖はみられなかった.
3
文 献
湖奥部での潮汐の影響拡大傾向が観察され,潮
流の増大が底層海水の浅い水域への移動に影
響していることが推察されたが,今回の調査で
はこれを証明する潮流は観測されず,その発生
メカニズム解明にはさらに流向流速等のデー
タの収集・解析が必要であると考えられた.
4) 浜 名 湖 地 区 水 産 振 興 協 議 会 : 浜 名 湖 地 区 の 水
産,12-16(1992)
5) 松田義弘:浜名湖水のふしぎ,静岡新聞社,
20-21(1999)
6) 有田守:海洋開発論文集,vol.20,1073-1078
(2004)
7) 後藤裕康:静岡県水産試験場研究報告, 39,
31-50,(2004)
- 95 -
他誌に発表した論文
環境科学部
1) Emission Sources and their Contribution to Indoor Air
Pollution by Carbonyl Compounds in a School and a
Residential Building in Shizuoka, Japan
Yamashita S., Kume K., Horiike T., Honma N., Fusaya M.,
Amagai T.
Indoor Built Environ., 21, 392-402 (2012)
A simple method for screening indoor emission sources of
carbonyl compounds developed previously by the authors was
used for this study. The new device, which is called “emission
cell for simultaneous multisampling” (ECSMS), was used for flux
sampling of volatile carbonyl compounds from surfaces of building
and furnishing materials insitu. Indoor carbonyl concentrations in
various rooms at a school and residential building in Shizuoka,
Japan were investigated in 2006 using the developed techniques.
In several rooms, formaldehyde concentrations exceeded the air
quality guideline value (100 µg m-3) set by the World Health
Organization. The formaldehyde emission rates from the various
surfaces in those rooms were determined using the ECSMS units.
The furniture was found to be the major emission source of
formaldehyde emission in many of the rooms; emissions from the
furniture accounted for 42–79 % of each room’s total emissions.
On the basis of the results, a strategy to reduce the indoor
formaldehyde concentrations in each room is proposed by this
paper. This study confirmed that the ECSMS can be used for
on-site screening of primary emission sources of formaldehyde
that could cause indoor air pollution.
微生物部
1) Antibiotic resistance in bacterial pathogens from retail raw
meats and food-producing animals in Japan.
Hiroi, M., Kawamori, F., Harada, T., Sano, Y., Miwa, N.,
Sugiyama, K., Hara-Kudo, Y., Masuda, T.
J. Food Prot., 75, 1774-1782 (2012)
To determine the prevalence and antimicrobial susceptibility
profiles of Campylobacter, Salmonella, Staphylococcus aureus,
methicillin-resistant
S.
aureus
(MRSA),
and
vancomycin-resistant enterococci (VRE) in food-producing
animals and retail raw meats in Japan, raw meat samples as well
as food-producing animal feces, cutaneous swabs, and nasal
swabs collected from 2004 to 2006 were analyzed. Isolation rates
of Campylobacter jejuni and Campylobacter coli, Salmonella, and
S. aureus were 34.6% (363 of 1,050), 2.7% (28 of 1,050), and
32.8% (238 of 725), respectively. MRSA was isolated from 3% (9
of 300) of meat samples. No VRE were isolated in this study.
Antibiotic resistance in C. coli was higher than that in C. jejuni.
Three C. jejuni isolates from a patient with diarrhea in a hospital
of Shizuoka Prefecture and two chicken samples that exhibited
resistance to ciprofloxacin had identical pulsed-field gel
electrophoresis patterns, suggesting that ciprofloxacin-resistant
C. jejuni could have been distributed in meat. S. aureus isolates
showed the highest level of resistance to ampicillin and
tetracycline. Resistance to tetracycline in S. aureus isolates from
beef was lower than that seen in isolates from chicken and pork
(P < 0.01). This study revealed that the prevalence of MRSA and
VRE were low in food-producing animals and retail domestic
meats in Japan, although Campylobacter isolates resistant to
fluoroquinolone and erythromycin were detected. The
occurrence of antimicrobial-resistant pathogens should be
monitored continuously to improve the management of the risks
associated with antimicrobial drug resistance transferred from
food-producing animals to humans.
2)
リアルタイム PCR 法による食中毒起因菌の一斉迅速ス
クリーニング法の検討
飯田奈都子,高橋奈緒美,廣井みどり,八木美弥,西尾
智裕,神田 隆,杉山寛治
食品衛生研究,62(11), 45-51 (2012)
細菌性食中毒検査の迅速化・省力化のため,リアルタイ
ム PCR 法を用いた食中毒起因菌の迅速スクリーニング法を
確立した.本法は,検体から抽出した DNA 中から,食中毒原
因菌の 16 種類の遺伝子を一斉に検索できる.実際の食中毒
事例の患者糞便検体に本法を試験的に導入したところ,培養
法と同等の成績を約 3 時間で得ることができた.本法は病原
性の本体となる病原遺伝子を直接検出するため,長期培養を
要する菌(カンピロバクター等),毒素産生性の確認が必要
な菌(ウエルシュ菌等)についても迅速かつ的確に検出する
ことができ,培養法の効率化にもつながると思われた.市販
食品を用いた添加回収試験を行った結果,食品検査では短時
間の増菌培養を加えることで死菌との判別も可能と考えら
れた.
3)
Factors
for
occurrence
of
extended-spectrum
β-lactamase-producing Escherichia coli in broilers.
Hiroi, M., Matsui, S., Kubo, R., Iida, N., Noda, Y., Kanda,
T., Sugiyama, K., Hara-Kudo, Y., Ohashi, N.
J. Vet. Med. Sci., 74, 1635-1637 (2012)
To clarify the factors for occurrence of extended-spectrum
β-lactamase (ESBL)-producing Escherichia coli in broilers, two
flocks (1 day of age) fed a diet with or without antibiotics were
kept in a broiler house sanitized with disinfectants.
ESBL-producing E. coli, however, was detected at a
concentration of over 10(6) CFU/g of feces at 9 days of age to 49
days of age in both broiler flocks. Therefore, this indicated that
the antibiotics other than cephalosporins used in this study had
no effect due to co-selection on the numbers of ESBL-producing
E. coli in broiler feces during this period. When a flock was kept
with diet containing antibiotics for 49 days in a laboratory animal
room, no ESBL-producing E. coli was detected in the flock.
These results suggest that the occurrence of ESBL-producing E.
coli may not be related to feeding with antibiotics and that the
contamination of broiler houses with ESBL-producing E. coli
might be an important factor.
- 96 -
学会・研究会の報告
環境科学部
1) ヤンバルトサカヤスデのミトコンドリア DNA 解析
神谷貴文
第 35 回日本土壌動物学会大会
2012. 5.26~27 (富士吉田)
2)
3)
4)
富士山南部地域の水質マップ
神谷貴文
日本地球惑星科学連合
2012. 5.23~24 (千葉)
植物被害から探る大気汚染物質
久米一成
大気環境学会植物分科会
2012. 6.30(静岡)
富士山南部地域の水質マップ―生態系基盤として―
神谷貴文
大気環境学会植物分科会
2012. 6.30(静岡)
5) 富士山における水循環の解明と持続可能な地下水利用
に関する研究
村中康秀
環境フォーラム 21
2012.11.12 (静岡)
6) 静岡県における外来種フロリダマミズヨコエビの分布・
生態特性
古屋洋一
環境フォーラム 21
2012.11.12 (静岡)
7)
8)
9)
10)
11)
外来不快害虫ヤンバルトサカヤスデの県内分布状況と
遺伝子多型
神谷貴文
第 49 回静岡県公衆衛生研究会
2013. 2. 8(静岡)
12)
富士山周辺域の降水・湧水の水質モニタリング
渡邊雅之
第 2 回同位体環境学シンポジウム
2013. 2.18~19(京都)
13)
富士山南部地域の水質マップ
神谷貴文
第 2 回同位体環境学シンポジウム
2013. 2.18~19(京都)
14)
静岡県における外来種ヤンバルトサカヤスデの分布状
況と遺伝子多型
神谷貴文
日本生態学会
2012. 3. 7 (静岡)
微生物部
1) 静岡県内で分離された結核菌の VNTR 法による分子疫学
調査
八木美弥
第 61 回日本医学検査学会
2012. 6.10(三重)
2)
静岡県における外来種ヤンバルトサカヤスデの分布・生
態特性
神谷貴文
環境フォーラム 21
2012.11.12 (静岡)
One-tube nested PCR 法による紅斑熱群リケッチアの検
出
川森文彦
第 20 回ダニと疾患のインターフェイスに関するセミナ
ー
2012. 7. 7(徳島)
3)
静岡県における外来種フロリダマミズヨコエビの分
布・生態特性
古屋洋一
平成 24 年度自然系調査研究機関 調査研究・活動事
例発表会(さいたま市)
2012.11.19~20 (さいたま)
食品および拭き取り検体からのノロウイルス高感度検
出法の検討
長岡宏美,小柳純子,山田俊博,川森文彦
全国食品衛生監視員協議会第 52 回関東ブロック研修
大会
2012. 8.31(東京)
4)
生食用生鮮魚類によるクドア関連の 3 事例
道越勇樹
静岡県寄生虫症研究会第 17 回研究総会
2012. 9. 8(浜松)
5)
拭き取り検体が行政判断根拠となったノロウイルスに
よる集団胃腸炎2事例について
長岡宏美,小柳純子,池ヶ谷朝香,山田俊博,川森文彦
平成 24 年度地方衛生研究所全国協議会第 27 回関東甲信
静支部ウイルス研究部会
2012. 9.27(甲府)
Water quality map in the southern part of Mt.Fuji in
Japan
神谷貴文
AGU Fall Meeting
2012.12. 2~8(サンフランシスコ)
県内主要 31 河川における未規制化学物質の調査結果
(平成 19~22 年度)について
今津佳子
第 49 回静岡県公衆衛生研究会
2013. 2. 8(静岡)
- 97 6)
2012.11.12(静岡)
食品および拭き取り検体からのノロウイルス高感度検
出法の検討
長岡宏美,小柳純子,山田俊博,川森文彦
平成 24 年度全国食品衛生監視員研修会
2012.10.25(東京)
4)
ミトコンドリアDNA解析に基づく,外来不快害虫ヤン
バルトサカヤスデの国内分布
飯田奈都子,神谷貴文,村上 賢
第 87 回麻布獣医学会
2012.11.10(相模原)
5)
クドア属粘液胞子虫関連事例と市販魚の検査について
渡邉朋恵,道越勇樹,飯田奈都子,八木美弥,柴田真也,
佐原啓二,川森文彦
第 25 回地研全国協議会関東甲信静支部細菌研究部会
2013. 2. 8(横浜)
6)
7)
8)
生食用生鮮魚類によるクドア関連の集団胃腸炎 3 事例
道越勇樹,渡邉朋恵,飯田奈都子,佐原啓二,川森文彦
第 49 回静岡県公衆衛生研究会
2013. 2. 8(静岡市)
10) 食中毒起因菌の一斉検索法の実用化に向けた検討
八木美弥,渡邉朋恵,道越勇樹,飯田奈都子,
柴田真也,佐原啓二,川森文彦
第 49 回静岡県公衆衛生研究会
2013. 2. 8(静岡市)
創薬探索プロジェクトにおける環境衛生科学研究所の
役割
大場 舞,小郷尚久,小和田和宏
静岡環境フォーラム 21
2012.11.12(静岡)
静岡県における医薬品関連の実習講座の実施について
渡辺陽子,岩切靖卓,内田恭之,上村慎子,
前田有美恵,小和田和宏
第 49 回全国薬事指導協議会総会
2012.10.25(広島)
クロルヘキシジングルコン酸塩を含有する医薬部外品
「清浄綿」の確認試験について
上村慎子,岩切靖卓,内田恭之,渡辺陽子,
前田有美恵,小和田和宏
第 49 回全国衛生化学技術協議会年会
2012.11.21~22(高松)
9)
7)
静岡県に流通する農産物中の残留農薬調査
小林千恵,大坪昌広,瀧井美樹,堀池あずさ,
小和田和宏
第 49 回全国衛生化学技術協議会年会
2012.11.21~22(高松)
8)
11)
静岡県における過去 3 シーズンのインフルエンザ発生
状況について
山田俊博,小柳純子,池ヶ谷朝香,長岡宏美,川森文彦
第 49 回静岡県公衆衛生研究会
2013. 2. 8(静岡市)
12)
静岡県で経験したクドア属粘液胞子虫検出事例に
ついて
飯田奈都子,道越勇樹,渡邉朋恵,佐原啓二,川森文彦
平成 24 年度日本獣医師会学術学会年次大会
2013. 2.10(大阪)
医薬食品部
1) 静岡県における化合物ライブラリーシステムの構築
小郷尚久,鈴木紳之,大場 舞,小和田和宏,
浅井章良
日本ケミカルバイオロジー学会第 7 回年会
2012.6. 7~9(京都)
2)
本邦における大腸癌初回 mFOLFOX6 療法に対するグラニ
セトロン(Gra)およびデキサメタゾン(Dex)の予防的制吐
効果の検討
多久佳成,辻 大樹,大門貴志,渡辺昌也,
内田恭之,青島広明,安井博史,伊藤邦彦,
山本信之,朴 成和,金 容壱
第 10 回日本臨床腫瘍学会学術集会
2012. 7.26~28 (大阪)
3)
静岡県に流通する農産物中の残留農薬調査
大坪昌広,小林千恵,瀧井美樹,堀池あずさ,
小和田和宏
静岡環境フォーラム 21
医薬品・医薬部外品の知事承認申請のための技術的支援
について
上村慎子,内田恭之,宮本憲吾,渡辺陽子,
前田有美恵,坂根弓子,橋本 守
第 45 回東海薬剤師学術大会
2012.12. 2(名古屋)
9)
ノロウイルス不活化剤の探索に関する研究
大場 舞,小和田和宏,渡辺陽子,岩切靖卓,
安藤隆幸,遠藤麻子,小柳純子,川森文彦,
小郷尚久
ふじのくに総合食品開発展 2013
2013. 1. 23(静岡)
10)
医薬品関連の実習講座の実施について
渡辺陽子,岩切靖卓,内田恭之,上村慎子,
前田有美恵,小和田和宏
第 49 回静岡県公衆衛生研究会
2013. 2. 8(静岡)
11)
簡易懸濁法に関する薬剤情報の構築-投与量変化につ
いて-
内田恭之,岩切靖卓,上村慎子,渡辺陽子,
前田有美恵,小和田和宏,岩崎剛士,中條倫成,
鈴木崇代
第 49 回静岡県公衆衛生研究会
2013. 2. 8(静岡)
12)
迅速かつ簡便な前処理法を取り入れた残留農薬一斉分
析法の開発
小林千恵,大坪昌広,瀧井美樹,堀池あずさ,
小和田和宏,影山知子
第 49 回静岡県公衆衛生研究会
- 98 2013. 2. 8(静岡)
13)
14)
15)
16)
加工食品中のアクリルアミド含有実態調査(第 2 報)
横山玲子,久保山真帆,小和田和宏
第 49 回静岡県公衆衛生研究会
2013. 2. 8(静岡)
総アフラトキシン検査の妥当性評価について
大坪昌広,瀧井美樹,小林千恵,堀池あずさ,
小和田和宏,浅賀彦人
第 49 回静岡県公衆衛生研究会
2013. 2. 8(静岡)
簡易懸濁法に関する薬剤情報の構築-投与量変化につ
いて-
内田恭之,岩切靖卓,上村慎子,渡辺陽子,
前田有美恵,小和田和宏,岩崎剛士,中條倫成,
鈴木崇代
平成 24 年度地方衛生研究所全国協議会関東甲信静支
部理化学研究部会
2013. 2.15(宇都宮)
総アフラトキシン検査の妥当性評価について
大坪昌広,瀧井美樹,小林千恵,堀池あずさ,
小和田和宏,浅賀彦人
平成 24 年度地方衛生研究所全国協議会関東甲信静支
部理化学研究部会
2013. 2.15(栃木)
大気水質部
1) 常時監視からみた静岡県の PM2.5
三宅健司、萱沼広行、篠原英二郎
平成 24 年度全国環境研協議会関東甲信静支部大気専
門部会
2012.9.21(浜松)
2)
浜名湖における COD 環境基準超過について
内山道春
平成 24 年度全環研関東甲信静支部水質専門部会
2012.11.1(埼玉)
3)
浜名湖における COD 環境基準超過について
内山道春
環境フォーラム 21
2012.11.12(静岡)
4) 常時監視から見た静岡県の PM2.5
三宅健司、萱沼広行、篠原英二郎
環境フォーラム 21
2012.11.12(静岡)
5) 静岡県の酸性雨について
松田健太郎、篠原英二郎,萱沼広行
環境フォーラム 21
2012.11.12(静岡)
6)
浜名湖における COD 環境基準超過について
内山道春
第 21 回浜名湖をめぐる研究者の会
2012.12.8(浜松)
7) 新幹線騒音の等価騒音レベル評価の検討
萱沼広行、高木千佳、鈴木恒雄
第 49 回静岡県公衆衛生研究会
2013.2.8(静岡)
8) 浜名湖における COD 環境基準超過について
内山道春
第 49 回静岡県公衆衛生研究会
2013.2.8(静岡)
9) 近年の静岡県における酸性雨について
松田健太郎
平成 24 年度しずおか環境調査研究推進連絡会議
2013.2.28(静岡)
10) 浜名湖における湖水流動の変化に伴う水質の悪化
内山道春
平成 24 年度日本水環境学会併設全環研研究集会
2013.3.13(大阪)
11) 富士山麓におけるブナの生理活性調査及び大気環境調
査結果について
松田健太郎,金子智英,三宅健司,瀧本俊晴,篠原英
二郎,萱沼広行
Ⅱ型「ブナ林生態系における生物・環境モニタリング
システムの構築」に係る検討会
2013.3.28(福岡)
- 99 -
表
環境科学部
1) 第 49 回静岡県公衆衛生研究会第 4 分科会優秀賞
「外来不快害虫ヤンバルトサカヤスデの県内分布状
況と遺伝子多型」
2013 年 2 月 8 日
神谷貴文
微生物部
1) 地方衛生研究所全国協議会
平成 24 年 7 月 18 日
佐原啓二
2)
3)
関東甲信静支部長表彰
大同生命厚生事業「地域保健福祉研究助成」
「静岡県における野生動物の E 型肝炎ウイルスの汚染
実態に関する研究」
平成 24 年 10 月 16 日
小柳純子
地方衛生研究所全国協議会
平成 24 年 10 月 23 日
川森文彦
彰
等
医薬食品部
1) 独立行政法人医薬基盤研究所 「保健医療分野における
基礎研究推進事業」 研究助成(平成 21 年度~平成 25
年度)
「Aggrus を標的とした低分子化合物の開発研究」
平成 21 年 4 月 1 日
小郷尚久
2)
厚生労働科学研究費補助金(平成 23 年度~平成 25 年
度)
「がん幹細胞を標的とした化学療法及び放射線療法
の PARG 阻害剤による効果増強法の実用化研究」
平成 23 年 11 月 4 日
小郷尚久
3)
独立行政法人日本学術振興会研究助成(平成 24 年度~
平成 26 年度)
「グリオーマがん性幹細胞を標的とした新規低分子
化合物の開発」
平成 24 年 4 月 1 日
小郷尚久
4)
第 49 回静岡県公衆衛生研究会第 3 分科会優秀賞(薬事部
門)
「簡易懸濁法に関する薬剤情報の構築-投与量変化に
ついて-」
平成 25 年 3 月 1 日
内田恭之
5)
第 49 回静岡県公衆衛生研究会第 3 分科会優秀賞(食品衛
生部門)
「迅速かつ簡便な前処理法を取り入れた残留農薬一斉
分析法の開発」
平成 25 年 3 月 1 日
小林千恵
会長表彰
4)
全国食品衛生監視員研修会 会長表彰
「食品および拭き取り検体からのノロウイルス高感度
検出法の検討」
平成 24 年 10 月 26 日
長岡宏美
5)
麻布獣医学会奨励賞
「ミトコンドリアDNA解析に基づく,外来不快害虫
ヤンバルトサカヤスデの国内分布」
平成 24 年 11 月 10 日
飯田奈都子
編集委員会
久米一成(委員長)
鈴木守正
川森文彦
小和田和宏
前田有美恵
髙橋 真
渡邊雅之
佐原啓二
渡辺陽子
後藤裕康
静岡県環境衛生科学研究所報告
(第 55 号)
平成 25 年 9 月
編集発行
静岡県環境衛生科学研究所
静岡県静岡市葵区北安東 4 丁目 27-2
電話 (054)245-7655
E-mail [email protected]
インターネットホームページ
http:// www6.shizuokanet.ne.jp/eikanctr/
印刷所
有限会社東海美術社
静岡県静岡市葵区古庄 2 丁目 3-21
電話 (054)263-1700(代)
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