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ものづくりの発想を支援する『バイオミメティクス・データ検索基盤』を開発
ものづくりの発想を支援する『バイオミメティクス・データ検索基盤』を開発 バイオミメティクス・データ検索基盤と新材料開発 (北大院情報)○長谷山 美紀 [2V10] (Tel:011-706-6077) 開発技術の背景と概要 北海道大学大学院情報科学研究科 長谷山美紀教授の研究室では、技術者が生物の 知識を得るための障壁を低減し、ものづくりの着想を支援するための『バイオミメティクス・データ検索基 盤』を開発した。この検索基盤は、生物学データベースに含まれる大量の画像データを活用することで、従 来のキーワード検索の限界を超え、発想を支援する新しい検索を提供する。今回開発された検索基盤に格納 された画像データは、今世紀になって広く普及した走査電子顕微鏡(SEM)の画像で、昆虫や魚類、鳥類な どの表面のサブセルラー・サイズ構造を観察した 9900 枚である。キーワードの入力が不要なので、生物の 深い知識を持ち合わせていなくても、画像を通して様々な生物の構造を検索することができる。例えば、検 索基盤を利用する事で、材料科学など広い分野で研究者や技術開発者が、生物の表面構造や機能を理解し、 自身の開発の問題を解決する方法を見出すことができるなど、新しいものづくりの発想が期待できる。下に 検索の様子を図に示しながら、バイオミメティクス・データ検索基盤を紹介する。 大量の画像データからの検索 バイオミメティクス・データ検索基盤は、利用者の発想を支援する発想支援 型の検索理論に基づき実現されている。画像の類似性に基づき、自動で類似画像が近傍に配置される。個別 に調べる事が不可能な大量の画像データの中から、類似画像を近傍に配置することで、データ全体を把握す ることができる。この理論を用いて、甲虫目の昆虫の SEM 画像 125 枚(国立科学博物館提供)を可視化し た例を示す(図 1)。図中の(a)および(b)の昆虫は、科が異なり体サイズも異なるにもかかわらず、左の中脚の 裏の顕微鏡像から、その構造が類似していることが分かる。甲虫を専門とする生物学者から、両者が生息環 境に適した構造を生成した結果、類似した形状を持ったのではないかとの意見が示された。 (a) ジョウカイボン(ジョウカイボン科/中脚(左脚) ふ節下面/1200 倍) (b) トサカシバンムシ(シバンムシ科/中脚(左脚)ふ 節下面/1400 倍) 図1 発想支援型の検索理論に基づきデータベースを可視化した例 キーワードのいらないデータ検索 今回開発のバイオミメティクス・データ検索基盤のインタフェースを図 2(a)に示す。図中のデータは、昆虫の微細構造の SEM 画像 8139 枚である。また、従来の検索と同様に、見 つけた画像の生物情報を閲覧することや、キーワード検索も可能である(図 2(b)参照)。さらに、この検索基 盤には、画像を質問とした検索機能が備えられており、画像による画像の検索が可能である。この機能を用 いれば、生物についての知識が少なく、適切なキーワードを見つけられない場合でも、自身の開発で得られ 13 た画像を質問として、生物の情報を入手することができる。質問画像は、質問にのみ使用されデータベース へ登録されないため、検索機能利用後に画像が公開されることが無い。そのため、産業界に存在する開示困 難な画像データを質問画像として、生物情報を検索することが可能であり、企業のデータ運用の実際に合わ せた利用が可能である。 (a) インタフェースの様子 (b) 検索の様子 図 2 バイオミメティクス・データ検索基盤 『気づき』のためのデータ検索 図 3 は、材料系研究者が生物の情報を検索することを想定し、材料の表面 構造に類似の昆虫画像を検索した結果を示している。図 3(a) は、オオタバコガの眼、エゾハルゼミの翅、 リュウキュウアブラゼミの翅の画像の近傍に、材料系研究者が研究の過程で取得したマイクロレンズアレイ の顕微鏡像が存在し、生物と材料に共通のモスアイ構造を見出すことができる。また、図 3 (b)では、エゾハ ルゼミの翅の断面の画像の近傍にハニカムフィルムの上層を使ってシリコンをエッチングすることで作製さ れた突起構造アレイの画像が存在している。これら検索の様子から、開発中の材料の表面構造と類似の構造 を持つ生物を探し出すことができ、その生物の機能を知ることで、新しいものづくりの発想が期待できる。 (a) (b) 図3 材料の表面構造と類似の生物を検索した例 <適用分野>材料開発、再生医療、ロボット工学、省エネルギー製造技術開発など広く技術開発や製品開発 の分野に適用可能 14