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短腸症候群とビタミンA Short bowel syndrome and vitamin A
12 号(12 月)2014〕 トピックス 619 短腸症候群とビタミンA Short bowel syndrome and vitamin A ビタミン A は生体においてさまざまな生理作用を持 らのビタミン A 吸収において中心的な役割を担ってい つ微量栄養素であるが,ヒトをはじめとする動物はビ ると考えられている. タミン A を合成することができないため食事から必要 先天的や後天的な腸疾患により広範囲の腸管切除が な量を摂取する必要がある.腸管からのビタミン A の 避けられないことがあるが,このような患者ではタン 吸収機構を図 1 に示す.摂取されたレチニルエステル パク質,脂肪,炭水化物,無機質,ビタミンなどといっ は小腸内腔でトリグリセリドリパーゼや小腸ホスホリ た様々な栄養素の吸収不良が起き短腸症候群と呼ばれ パーゼの働きでレチノールに変換されたのち,小腸の る.短腸症候群であっても腸管から栄養を摂取するこ 吸収上皮細胞に取り込まれ,細胞内レチノール結合タ とが望ましいが,重症例においては電解質異常や腸炎 ンパク質(CRBP)II と結合する.CRBP II と結合した を容易におこすため経腸栄養が困難であり経静脈栄養 レチノールはレシチン:レチノールアシル基転移酵素 を余儀なくされる.しかし,過剰な経静脈栄養は肝障 (LRAT)によりエステル化され,生成されたレチニル 害の原因となり,これが肝不全に進行すると致死的で エステルがカイロミクロンに組み込まれリンパ管を経 ある.ところで,生体内では腸切除による腸管内吸収 由して大循環にのって肝臓に運ばれ貯蔵される.カイ 面積の減少を絨毛の細胞が増殖し,絨毛の長さと太さ ロミクロンはもっとも密度が低く大きさが最大のリポ を増すことで補おうとする反応(腸管順応)が起こるこ タンパク質粒子であるが,その表面に apolipoprotein とが知られている.腸管順応がうまくいくかどうかは (apo) A-I,II,IV や apo B-48 などのアポリポタンパク 短腸症候群患者の管理や予後に大きな影響がある.本 質が結合している. 稿ではこれまでに行われてきた腸切除モデル動物のビ CRBP II は空腸粘膜の可溶性タンパク質のおよそ 1% タミン A の吸収と代謝に関連にした研究について,筆 を占めるタンパク質で,腸管に豊富に存在し,腸管か 者らの成果も含めて紹介する. 図 1 小腸におけるビタミン A の吸収と輸送 APOA4:apolipoprotein A-IV,APOB:apolipoprotein B,CM:カイロミクロン,CRBP II:細胞内レチノール結合 タンパク質 II 型,LRAT:レシチン:レチノールアシル基転移酵素,RAL:レチナール,RE:レチニルエステル, ROL:レチノール トピックス 620 〔ビタミン 88 巻 Takase ら 1)は,ラットにおいて空腸のバイパス手術 よるレチニルエステル生成量が上昇した.しかし,レ 後の残存小腸にて CRBP II タンパク質が上昇すること チノール添加後の長時間培養によって細胞内のレチニ を報告した.その報告では,吻合部の上側に相当する ルエステル濃度が上昇してくると,CRBP II はむしろ 近位空腸では細胞あたりの CRBP II 発現量が増加して レチニルエステルの生成量を減少させた.短小腸モデ いた.一方,吻合部の下側に相当する近位回腸では細 ルラットにおいて小腸のレチニルエステルを定量した 胞あたりの CRBP II 発現量は変化せず,細胞が増殖す ところ,対照群に比して短小腸ラット空腸におけるレ ることで単位長あたりの CRBP II 発現量が増加してい チニルエステル量が有意に低かった.また,短小腸ラッ た.同時に,空腸において apo B タンパク質が上昇し トは対照群に比べて体重の減少傾向を示したにもかか ていたことから,レチノールの吸収上昇に伴って脂肪 わらず,単位重量当たりの肝組織に含まれるレチニル をはじめとした脂溶性分子全般の吸収亢進が起こって エステル量には有意な差がなかった.これらの結果か 2) いる可能性が示唆された.さらに,Goda ら は食餌に ら, 短 小 腸 と い う 条 件 下 で は 吸 収 不 良 を 補 う べ く 含まれる長鎖脂肪酸トリアシルグリセロールにより CRBP II が発現上昇し,LRAT と協調することでエス CRBP II mRNA の発現が誘導されることを見出した. テル化の効率を高め腸管でのレチニルエステル吸収を これを受けた研究にて,Suruga ら 3)は腸管での CRBP 促進し,さらに apo A-IV 遺伝子の発現が上昇すること II の発現制御が長鎖脂肪酸やその代謝産物をリガンド で産生されたレチニルエステルの腸管からの輸送を亢 とするペルオキシソーム増殖剤活性化レセプター 進させている可能性が示唆された. (PPAR)αと RXR のヘテロ二量体による転写制御に 以上紹介したように,腸切除モデル動物のビタミン て行われると報告している. A の吸収,輸送,貯蔵機構などとその生理的意義や腸 Rubin ら 4)は,70%小腸切除後 48 時間のラットの残 管順応との関係が徐々に明らかとなってきている.こ 存 回 腸 に お い て apo A-IV や fatty acid binding protein (FABP)2 の遺伝子発現が上昇していること,また術 れらの成果を短腸症候群患者の栄養管理と,将来的に は積極的な治療戦略に結び付けていきたい. 後 1 週間でも apo A-IV 発現の上昇が継続していること を報告した.同じ研究グループの Dodson ら 5)は同様 Key Words:vitamin A, short bowel syndrome, cellular reti- のラット短腸モデルを用い,サブトラクション法によ nol-binding protein II, lecithin:retinol acyl- る網羅的スクリーニングによって上記の apo A-IV や transferase, apolipoprotein A FABP2 に 加 え,CRBP II や ileal lipid binding protein (ILBP)の 遺 伝 子 発 現 が 上 昇 す る こ と を 発 見 し た. 1 ILBP は現在では FABP6 と呼ばれており,抱合胆汁酸 に強く結合し胆汁の腸肝循環に関与すると考えられて 6) Department of Pediatric Surgery, Akita University Graduate School of Medicine, 1-1-1 Hondo, Akita 010-8543, Japan. 2 7) Department of Cell Biology and Morphology, Akita Uni- いる .さらに,Wang ら は短腸ラットモデルに徐 versity Graduate School of Medicine, 1-1-1 Hondo, Akita 放性レチノイン酸製剤を用いて持続的にレチノイン酸 010-8543, Japan. に暴露させたところ,腸陰窩の深さと腸絨毛の長さが Taku Hebiguchi1, Yoshihiro Mezaki2 増加したことから,レチノイン酸に腸切除後の腸管順 1 秋田大学大学院医学系研究科小児外科学講座 応を促進する効果があると報告した.これらのレチノ 2 秋田大学大学院医学系研究科細胞生物学講座 イン酸による腸管順応促進効果は,細胞増殖促進,ア 蛇口 琢 1,目崎 喜弘 2 ポトーシス抑制,細胞の運動性促進,腸陰窩粘膜固有 層のコラーゲン産生促進などによるものであるとして いる. 筆者ら 8)が作成した 75%小腸切除短小腸ラットモデ 文 献 ルにおいても,CRBP II や apo A-IV の遺伝子発現が上 1)Takase S, Goda T, Shinohara H (1993) Adaptive changes of intes- 昇していることが確認された.CRBP II の発現上昇が tinal cellular retinol-binding protein, type II following jejunum- 小腸吸収上皮でのレチニルエステル生成に与える影響 を調べるため,培養細胞 HEK293T に LRAT 単独,な いしは CRBP II と LRAT 両方を強制発現させレチニル bypass operation in the rat. Biochim Biophys Acta 1156, 223-231 2)Goda T, Yasutake H, Takase S (1994) Dietary fat regulates cellular retinol-binding protein II gene expression in rat jejunum. Biochim Biophys Acta 1200, 34-40 エステルの生成量を比較したところ,レチノール添加 3)Suruga K, Mochizuki K, Kitagawa M, Goda T, Horie N, Takeishi 10 分後の時点で CRBP II の共発現下において LRAT に K, Takase S (1999) Transcriptional regulation of cellular retinol- 12 号(12 月)2014〕 トピックス 621 binding protein, type II gene expression in small intestine by di- istered retinoic acid has trophic effects in the rat small intestine etary fat. Arch Biochem Biophys 362, 159-166 and promotes adaptation in a resection model of short bowel syn- 4)Rubin DC, Swietlicki EA, Wang JL, Dodson BD, Levin MS (1996) Enterocytic gene expression in intestinal adaptation: evidence for a speci¿c cellular response. Am J Physiol 270, G143-G152 drome. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 292, G1559G1569 8)Hebiguchi T, Mezaki Y, Morii M, Watanabe R, Yoshikawa K, Mi- 5)Dodson BD, Wang JL, Swietlicki EA, Rubin DC, Levin MS (1996) ura M, Imai K, Senoo H, Yoshino H (2014) Massive bowel resec- Analysis of cloned cDNAs differentially expressed in adapting tion upregulates intestinal expressions of cellular retinol-binding remnant small intestine after partial resection. Am J Physiol 271, protein II and apolipoprotein A-IV mRNAs and alters intestinal G347-G356 vitamin A status in rats. Int J Mol Med, in press 6)Zwicker BL, Agellon LB (2013) Transport and biological activities of bile acids. Int J Biochem Cell Biol 45, 1389-1398 7)Wang L, Tang Y, Rubin DC, Levin MS (2007) Chronically admin-