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第47号 ニュースレター

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第47号 ニュースレター
平成28年4月
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第47号
さんて会ニュースレター
さんて会ニュースレター
NEWS LETTER SANTE
TOPICS
◆
ご案内
平成28年度 さんて会総会開催
◆
ニューフェイス紹介
森健一 先生
◆
学位授与
川地俊明
◆
寄稿
最近の事件で気になること
鈴木大輔 先生
◆
寄稿
愚感-8 大宙
照坊
先生
ニューフェイス紹介
ご案内
「さんて会総会」の開催について
森健一先生
平成28年度さんて会総会を下記の日程で
開催いたします。
日
時: 平成28年5月22日(日)
午後12:00~15:00
会
場: 十八楼(長良川河畔)
(例年と同じ)
TEL 058-265-1551
会
費: 宴会費
年会費
8,000円
3,000円
準備の都合上、出欠のご意向を4月30日
(土)までに、同封しました返信用はがきにて
お知らせ下さい。
ご欠席の場合は、年会費を同封の郵便振替
にてお送りいただけますようお願い申し上げ
ます。
皆様こんにちは。さんて会に新しく入会さ
せていただきました森健一と申します。
簡単に経歴を紹介させていただきます。平
成14年に岐阜高校を卒業、平成21年に岐阜
大学医学部を卒業し、2年間の初期臨床研修
を経て、岐阜大学医学部・耳鼻咽喉科に入
局、耳鼻咽喉科医師として臨床の日々を送っ
てまいりました。
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さんて会ニュースレター
忙しく臨床に追われる生活の中でも、「今し
かできないことをする」をモットーに、なんと
か時間を作りスポーツや旅行など色々なことに
挑戦していました。そんな中、耳鼻咽喉科学分
野の伊藤教授より大学院への進学を勧められま
した。今まで考えてもいなかった進路のため非
常に迷いましたが、大学院での経験は必ず将来
に繋がるとの言葉に挑戦することに決めまし
た。もともと明確なビジョンがあったわけでは
ないため、入学後も社会人大学院生をしながら
色々な論文を読みあさり右往左往しておりまし
たが、このたび、永田教授のご厚意により疫
学・予防医学分野に受け入れていただいた次第
でございます。
先にも少し触れましたが、私は時間があれば
国内外さまざまな場所へ旅行をしております。
私は物事を対比させたり比較したりして考える
ことが多かったのだと思いますが、南米ペルー
のマチュピチュを訪れ想像以上の感動を覚えた
際に、当時話題になり始めていた日本のマチュ
ピチュこと兵庫県の竹田城跡と比べてみたくな
りました。帰国後に調べたところ、晩秋の早朝
に雲海に浮かぶ姿が幻想的でまるでマチュピ
チュのようだとのことでしたのでさっそく行っ
てみました。少しでも交絡因子(?)をなくす
ため、同じような服装・格好で行ったと記憶し
ております。訪れてみると、眼下に雲海が広が
り空中に浮いているような景色は確かに感動的
ではありました。が、どうしてもマチュピチュ
ほどの感動は覚えませんでした。そこへ到達す
るまでの時間や労力で調整すると感動の強さは
同程度だったのかもしれませんが、そもそも何
を目的変数として比較するのかを決めていな
かったこと、その評価基準が定まっていなかっ
たことなど、今から思うと素人の極みのような
検証だったと思います。
まだまだ知識が未熟で皆様にご迷惑をおかけ
すると思いますが、これから疫学的なものの考
え方や統計学的な手法を身につけて今後に繋げ
ていきたいと思っております。永田先生、和田
先生、田村先生始め諸先生方、どうか御指導・
御鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
学位授与
川地俊明先生に医学博士号
3月に、疫学・予防医学分野大学院生の川地
俊明先生に医学博士号が授与され、25日には
岐阜大学学位記授与式が行われました。
川地先生は、平成18年4月より当分野の社
会人大学院生となり、大垣市民病院で診療放射
線技師として診療に従事しながら、永田教授の
指導のもと研究に励んできました。
今後も更にご活躍されることを期待しており
ます。
次に学位対象となった論文の要旨を掲載しま
す。
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論文要旨
Sleep Duration and the Risk of Mortality
From Stroke in Japan : The Takayama
Cohort Study.
脳卒中は,欧米諸国と日本を含むアジア太平
洋地域における死亡の主な原因の一つで,特に
脳梗塞は,欧米諸国において脳卒中症例の
70%以上,日本では約74%を占めている。ま
た寝たきりの原因の一つで,経済的な高負担や
社会的負担が発生するため,効果的な一次予防
戦略が必要とされている。脳卒中リスク要因と
して,年齢,高血圧,糖尿病,脂質異常症,喫
煙,および心房細動などが確立された因子とし
て知られているが,環境および生活様式の要因
もその発症に重要な役割を果たしている可能性
がある。これまでの研究で睡眠時間と脳卒中含
む循環器疾患との間の関連が示唆されているが
睡眠時間と病型別脳卒中の関係についての研究
は少ない。本研究は,日本人男性と女性からな
るコホート(高山コホート)において睡眠時間
と全脳卒中および病型別脳卒中の死亡リスクの
関連について検討した。
【対象と方法】
コホート開始時1992年においてコホート研
究に賛同した35歳以上の岐阜県高山市の住民
は男性14,427名と女性17,125名(回答率
85.3%)であり,アンケートにて人口統計学
的特徴,睡眠時間や喫煙状態などの生活習慣,
既往歴などの情報を取得した。解析対象者は,
癌(男性186名,女性540名),虚血性心疾
患および脳卒中(男性886名と女性861名)
の既往者を除外した男性12,875名,女性
15,021名の27,896名である。エンドポイン
トは脳卒中死亡(脳梗塞,脳内出血およびクモ
膜下出血を含む脳出血,全脳卒中)とした。追
跡期間中(1992-2008)の死亡,死因,市
外への転居に関する情報は,市および法務局よ
り取得した。
統計解析は,コックス比例ハザード回帰分析
にて,各睡眠時間(6時間以下,7時間,8時
間,9時間以上)における脳卒中死亡リスクを
算出した。調整変数として年齢,教育歴,婚姻
状態,高血圧や糖尿病の既往,ボディマス指数
(BMI),喫煙状態,アルコール摂取量をモデ
ルに含めた。性別による交互作用については,
睡眠時間(連続変数)と性(二値変数)のクロ
ス積によって評価した。
【結果】
追跡中に611名の脳卒中死(脳梗塞354
名,脳出血217名,その他40名)を認めた。
共変量を調整後,7時間睡眠と比較し,9時間
以上の睡眠は全脳卒中および脳梗塞の死亡リス
クが有意に増加した。そのハザード比と95%
信頼区間(以下,95% CI)はそれぞれ1.51
(95% CI 1.16-1.97) および 1.65 (95% CI
1.16-2.35)であった。6時間以下の短時間睡
眠では,全脳卒中の死亡リスクの減少(ハザー
ド比0.77 [95% CI 0.59-1.01] )を示した
が,有意差は境界域(p =0.06)であった。全
脳卒中および脳梗塞の死亡リスクとの睡眠時間
の量反応関係は,有意であった (それぞれp <
0.0001 および p = 0.0002 )。脳出血におい
て,7時間睡眠に比較し,6時間以下の睡眠で
は死亡リスクが有意に減少(ハザード比0.64
[95% CI 0.42-0.98]) し,特に男性において
顕著であったが(ハザード比0.31 [95% CI
0.16-0.64 ]),睡眠時間と脳出血死亡リスク
の量反応関係は有意でなかった(p =
0.08)。
男女間において,睡眠時間と全脳卒中,脳梗
塞,脳出血による死亡リスクとの関連に,有意
差はなかった(それぞれp = 0.45,p =
0.47,およびp = 0.35)。9時間以上の睡眠
での全脳卒中と脳梗塞の死亡リスクは,高血
圧,糖尿病,結核,輸血,胃切の既往歴の無い
より健康な対象者に限った場合,やや弱まわっ
たが,量反応関係においては有意であった。
【考察】
睡眠時間と全脳卒中に関する前向きコホート
研究はこれまでに5つのみであり,病型別に脳
卒中を評価した研究となるとさらに研究数は少
ない。これらの先行研究は概して長時間睡眠は
全脳卒中の発症や死亡リスクを高めることを報
告している。9時間以上の睡眠では男女とも全
脳卒中と脳梗塞死亡のリスク増加を認めたとの
報告もあり,本研究結果に類似している。長時
間睡眠が糖尿病や高血圧,脂質異常,炎症マー
カーの上昇,および心房細動と関連していると
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いう報告がいくつかあり,これらの状態が動脈
硬化症およびアテローム性動脈硬化症を誘発
し,ひいては,脳卒中の発症そして死亡につな
がったと考えられる。ただし,健康状態良好の
対象者による解析では,死亡リスクにやや減弱
がみられ,潜在的な疾患や前臨床徴候が長時間
睡眠を起こしている可能性は否定できない。一
方,短時間睡眠において,本研究では男性の脳
出血死亡リスクとの関連を認めた。これまでの
報告では,全脳卒中や脳出血に有意に関連した
報告は少ない。今後,睡眠時間に関する情報を
繰り返し入手した,より長期でサンプルサイズ
の大きいコホート研究が望まれる。
【結論】
長時間睡眠は全脳卒中および脳梗塞の死亡リ
スク増加に関連することが示された。
Toshiaki Kawachi, Keiko Wada, Kozue
Nakamura, Michiko Tsuji, Takashi Tamura, Kie Konishi, and Chisato Nagata.
Sleep Duration and the Risk of Mortality
From Stroke in Japan: The Takayama
Cohort Study. J Epidemiol. 26;123-30
(2016).
寄稿
最近の事件で気になること
全日本医師柔道連盟副会長
鈴木大輔
以前として闘病生活は、続く。週3回の透
析、他の医療機関での糖尿病、眼科・歯科治療
等、気が安らぐことはない。透析だけならなん
とか耐えられるようになったが、病院は待ち時
間、検査等でストレスが大きく、体調も悪くな
るような気がする。透析時は、4時間以上かか
るが、イアホンでテレビを見て、いろんな
ニュース等を見るので、退屈しないが、大病院
は本当に時間の無駄で、自由でゆとりのある時
間を失う気がしてならない。完全によくならな
い病気と付き合うのは、よほどの精神力がいる
ものだと思う。
こんな状況で、人生を振り返り、強く心に残
ることがいくつかある。既に記述したこともあ
るが、事件の重大性に鑑み、補足も入れて記述
したい。
北朝鮮の拉致対応は、極悪非道
羽田空港の検疫所時代(東京空港検疫所支所
長時代)、検疫官の立場で機側検疫で拉致被害
者の歴史的、劇的な帰国の場を近くで見た。外
務省の担当課長から私宛に来た文書には「一時
帰国」と記されていたが、日本政府の強い意向
で、5人の被害者は永久帰国になり、更にその
後、被害者の子供たち(中学から高校くらい)
の数名も、夜9時ごろだったがすぐ(2~3
m)の近くで機側検疫官として迎えた。この子
供さんたちの帰国は、民放テレビで全国放映さ
れ、私もはっきり写っているようであったが、
このテレビを見ることはなかった。一時帰国が
永久帰国になった北朝鮮と日本側の考え方の違
いが多少気になったが、この時の時点で拉致問
題は解決に向かうものと思われた。しかしなが
ら、その後は全く解決に向かわず、北朝鮮は拉
致の調査も取り止めた。北朝鮮は、拉致被害者
を永久に利用するつもりなのだろうか。これは
本当にひどい話で横田めぐみさんのご両親等、
拉致被害者の怒りと絶望は大きいと思われる。
日本も人質をとられているので、断固たる経済
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制裁も出来にくい。こんな不条理な状態でこれ
からいつまで、未解決の状態が続くのか。北朝
鮮は、まともな理性、良識、人間性が通用する
国家でないことは、良識ある軍人、党役員な
ど、不可解な理由で粛清、処刑されるという狂
気の国家だけに、明るい展望は予想できない。
私も、認知能力のまだある時に、感激の再帰国
を夢見ているが、儚い夢だろうか。良識ある軍
人等が、クーデターでも成功させる以外に、北
朝鮮はまともな国家になれないのか。
化血研の不正に怒り
以前のニュースレターにも記述したが、旧厚
生省事務局生物製剤課(昭和54年1月~10
月)、課長補佐として勤務した。当時ワクチン
メーカーとして、化血研(化学及血清療法研究
所)は、有名であったし、化血研の担当者と
も、時々会った。ところが、この会社は40年
以上前から不正を繰り返し、隠蔽し続けた。最
近になって、同会社の内部告発で不正がバレ
た。私たち担当者は、バカにされ、「コケ」に
され、随分なめられたものだと怒り心頭であ
る。生物製剤課には、極めて優秀な女性薬系技
官もいたが、この人物でさえ見抜けなかった。
ましてや、ごみ、水道から転任してきて経験の
浅い私など気付くのは難しい。私など性善説
で、化血研の担当者と会う度に、この人たち
が、悪いことをするとは思えなかった。私はバ
カだった。だからバカにされた。無念である。
こんな会社はずっと以前に、健全派によるクー
デターで人が変わるべきであった。もう私は悔
しがるだけで、何の権限もないが、今の行政担
当者に厳重にチェックしてもらうしかない。会
社も人心一新が必要だろう。
覚醒剤対策に思う
プロ野球のスーパースターであった清原の覚
醒剤乱用問題は、重大な事件である。天性の素
質では、王、長嶋を上回る30年に1人でるか
でないかの天才型選手だった。但し、心の強さ
は、王、長嶋にはかなわない。繊細で傷つきや
すい性格で酒に溺れ、覚醒剤がやめられなかっ
たのだろう。これほど悪化すると、社会復帰は
困難を極めると思う。ダルクのような回復施設
に入るとしても、余程の強い意志がないと「ス
リップ」(脱落し、また使用に走る)すること
が多い。
私は、平成12年から、約2年足らず、厚労
省から茨城県下舘(現筑西)保健所に出向し
た。検疫所の仕事と同じくらい保健所には愛着
と自信があった。この保健所には、恐らく全国
の保健所にもない二大特色があった。
一つは、世界最大規模の日本ハム工場が下館
にあった。同ハム工場の食品衛生担当者には、
下館保健所管内の食品衛生協会員として、食品
衛生の向上に協力してもらった。一般には、飲
食店、菓子店、料理店等の食品衛生協力の活動
も活発であった。郡上保健所時代も食協の方々
とお付き合いしたことがあるが、下館の場合
は、交流も深く、楽しかった。
もう一つは、薬物、覚醒剤対策を極めて積極
的に行っていた。有名なダルクの代表が保健所
に来てくれ、色々助言を与えてくれた。薬事対
策としての「ダメ絶対」運動と、精神保健対策
として二本の柱として、保健所は熱心に活動
し、地元新聞にも報道された。
以前のニュースレターにも俳優の杉良太郎さ
んと一緒に写真を撮ったのを掲載したことがあ
る。杉さんが「1日入国管理局長」として、成
田空港に来た時は、当時の橋本元総理の秘書か
ら電話があり、「杉さんは、厚労省にも縁の深
い人だから、検疫所長も同席したら良い」とい
うアドバァイスをもらい、法務省入国管理局長
で同席させてもらった。法務省名誉矯正官の杉
さんは、刑務所を慰問していたが、「4回も5
回も覚醒剤で再入所している」と言っていた。
当時の茨城ダルクの岩井さん(代表)は、覚
醒剤をやると3分の1は死体安置所、3分の1
は刑務所、3分の1は精神病院と悲惨であると
説明していた。
またしても緊急入院
大がかりな心臓手術に耐え、術後の感染症も
なんとか克服し、幸い週3日の透析にも耐え、
やっと安らぎの時間が持てると思った矢先に、
透析中に体調悪化(ふらつきや歩行障害)で、
慈恵大病院に救急入院となってしまった(2月
16日)。
偶然というべきか、平成26年3月19日に
腎不全で緊急入院した時も、若い颯爽とした女
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医が担当医で、また今回も透析クリニックに週
1回非常勤勤務のこの女医の指示で緊急入院し
なければならなくなった。
腎臓内科医であるこの医師は、30代の働き
盛りと思われる。またしても厳しい試練に合
い、メンタルヘルスは最悪になりかける。辛い
が耐えるしかない。
75歳の後期高齢者、加齢に伴う諸機能の低
下もあり、かなりの輸血や人工心肺や心肺停止
時間の影響も今後全くないとは断言できない。
どうも明るい展望が今後ないような気がする。
私のように状況の悪い高齢者は少子高齢化で増
大する一方で、医療と介護が益々重大なピンチ
になりそうである。医療保険と介護保険、持ち
こたえられるか危機的状況が必ず追ってくる気
がする。
今回の原稿は病室で書いた
今まで多くの原稿を書いたが、今回のように
病室で書くのは初めてで大変であった。入院し
てから極度の食欲不振、37℃代の熱がよくあ
り、血液検査で炎症反応があり、何回もの点滴
(抗生物質)、インフルエンザのキットによる
検査、透析も慈恵大の透析ベッドにはテレビが
ないので4時間以上の透析が大変苦痛である。
今回の入院した心身状況は最悪である。従っ
て、今回の原稿は最悪の条件で書いたことで、
一つの思い出になることであろう。
【追記】
2月16日から2月19日まで入院。やっと
やっと退院という時、血管外科医から下肢の血
流障害を指摘された。造影剤を使ったCT検査
で確認されたが、自覚的にも歩行が困難になっ
た。悪くすると下肢の一部が壊死して一部切断
になると警告された。大きなショックを受け、
某病院で手術を受けることで、またしても入院
(近日中)。年齢も76歳に近づき、手術に耐
えられるか。運を天に任せるしかない。
愚感
-8
大宙
照坊
子: 「ねぇお父さん、土星ってさ、わかるか
な?」
父: 「わかるよ、輪っかがあるもん」
子: 「あ、そっかぁ! 輪っかあるからわかる
か!」
子: 「(わぁ!) ホントに輪っかがあるー!」
・・・・「宇宙人っていると思う?」
望遠鏡を大宙に向け、土星を初めて見つけた
父子の会話。深夜0時近く、月に一~二度だけ
気づいていた Fujitsu の TV-CM。耳目に鬱
陶しい CM が多い中で、気に入っていた CM
の一つである。子としても、父としても同じ様
な経験は僕にはない。だが、この CM は中学
生の頃に小口径の反射望遠鏡 (このころ、‘反
射’望遠鏡の意味・機能は理解できていなかっ
た) で観たおぼろな土星の輪を甦らせてくれ
る。最近、この CM の放映や Fujitsu HP で
の動画掲載が終了し、ちょっと惜しい。
高校生の時、数学の演習時間に同級生が図書
室から借り出していたガモフ全集 (George
Gamow, 物理学者, 1904-1968) の一冊を
ぱらぱら拾い読みしていた。もちろん訳本。す
ると、教師が 「ガモフだな」 と言って僕の机の
脇を通り過ぎた。今では古典であるが、当時は
それなりに知られる自然科学全集である。記憶
では、この全集の一頁はその四隅の一角から周
囲へ向け放散する矢印を画いていた (今回確認
すると、おおよそ記憶に適う図を見つけた!)。
この簡略図で宇宙の拡張を初めて知った。拡張
の時間を巻き戻せば、宇宙の爆発的起源に辿り
着く (現在の観測と計算では、138億年前)。
Gamow はこのような宇宙起源論を理論的に
主張したが、これに懐疑的な学者が big
mouth と同じ揶揄を込めこの理論を big
bang と呼んだ。皮肉なことに、big bang と
いう特徴的な命名が、かえって人々の目を宇宙
に向けさせるきっかけになったと言う。
帰宅時、夜空を飛行する宇宙船を見つけるこ
とがある。こんな時、しばらく静かに立ち止ま
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さんて会ニュースレター
り、宇宙船と航空機を聞き分ける。宇宙船は大
気の無い空間を飛行するため無音、航空機は大
気圏内で耳障りな飛行音を発するからである。
また、飛行の航跡もそれぞれの特性を現す。宇
宙船はいかにも物理法則に則った均一で規則的
な運動、航空機は重力に逆らう無理な動作に見
える。宇宙開発は科学の進歩を示すが、その一
方で戦略兵器や軍事技術の開発の最先端でもあ
る。この意味で、重力の拘束を免れた宇宙船内
での日本人宇宙飛行士 (他国は?) のでんぐり
返しや口で水滴球を捕まえる様子が、あまりに
無邪気かつ暢気な科学者と見えてしまう。宇宙
から戻った飛行士が、「地球には国境線が見ら
れない」 と発言するのも少し幼いと感じる。い
つでも上空を仰げば、我々を包み込む宇宙がな
んら境界を持たないことは自明なのだから。
それでも、宇宙開発の中核である National
Aeronautics and Space Administration
(NASA, アメリカ航空宇宙局) の事業のうち、
Hubble Space Telescope (HST, ハッブル宇
宙望遠鏡) は楽しく面白い。HST は地球の衛
星軌道を巡る口径2.4mの反射望遠鏡である。
その名は観測結果 (big bang のように一点か
ら宇宙が拡散すれば、遠くの銀河ほど暗く、赤
く輝いて観えるという仮説に基づく) から宇宙
の拡張を実証した Edwin Powell Hubble
(1889-1953) に由来する。HST が撮影した
天体画像は従来のものに比べ、あまりに鮮やか
で驚く。調査を終えた画像は NASA の HP に
順次公開され、みごとに輝く土星の姿もある。
それらの画像の中で、Hubble Deep Field は
とても印象強い。大熊座方向の視野角 2’
24” のごく狭い闇黒空間に (満月の視野角は
およそ 30’)、3000個以上の銀河を捉えて
いる。最遠方の銀河はおよそ130億光年と算
出され、Hubble の仮説どおり、淡い赤光を
放っている。以後、他の方角にも集積する銀河
が観察されたため、全宇宙には無限数の銀河が
存在する根拠となっている。凡人には、これら
すべての銀河が big bang から生じたとは容易
に信じられない。
寄り道: 今日、Galaxy は携帯電話や
Smartphone の商標に使われているが、本来
は星の集団である銀河を意味する。銀河のう
ち、我々が生きる太陽系を含む銀河を銀河系
(the Galaxy) = 天の川銀河 (the Milky Way)
と名付けている。ギリシャ語 galaxias は乳白
色 milky を意味する。では、「なぜ、西洋では
天の川を milky と呼ぶのか?」、これはギリ
シャ神話での Zeus の欲心に由来する。Zeus
はなんとも俗人的である。これに関する丸谷才
一 (1925-2012) の小文は多彩な知識に加
え、愉しく、かつ艶がある。やはり凡人には成
せない散文なので、そちらの一読を。
我々が眺める星々のほとんどは銀河系内の、
言わば仲間内の星である。Andromeda銀河は
銀河系から最短距離にある銀河系外の銀河。近
いとは言え、銀河系からおよそ230万光年離
れ、銀河系の二倍以上の直径 (およそ25万光
年) の中に一兆個の恒星 (数えられるのか?) を
含む渦巻銀河だという。夜空に Cassiopeia座
の W型を見上げ、向かって右V部底の首星 (座
内で最も明るい星) から北極星とは反対方向に
少し離れて座す。周囲に灯りがなく、新月であ
れば、人が肉眼で目視できる数少ない銀河系外
の天体だが、僕の近視+老眼では分別し難い。
この Andromeda と銀河系は、時速40万
km/h で互いに近づいていることは既に知られ
ていた (前記のガモフ全集の図にも横向きの矢
印があった)。2012.5.31. NASA は HST の
観測結果から、およそ40億年後に両銀河が衝
突、合体する 「確証を得た」 と発表した。星々
は相互の空間内に入り込み、直接ぶつかること
はまれで、新たな楕円銀河が生まれるという。
心配無用だが、地球が存在していれば、物理尺
度が今日とはまったく異なる時空に放り込まれ
るだろう。それにしても、一両日の晴雨寒暖す
ら的確に予測できない科学なのだが?
・~ / 父は提灯を川岸の石の段に置いて、
地圖みたいなものを擴げてしゃがむと、しきり
に何か調べてゐた。/ 私は草履の先を川の水
に濡らしたり、歌を歌ったりしながら、傍で遊
んでゐた。素足に竹の皮の草履が痛かった。/
父は星の話をしなかった。一人で何か調べて黙
つてゐた。そして或る時間が過ぎると、/ 「も
う歸らう」 / と云うだけだ。/ ~ (/ は改行)
父娘が千葉の別荘で夏を過ごした様子だが、
いつも母や弟は夜の散歩について来なかったと
いう。娘が描いた星を見上げる 「父」 は、彼自
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さんて会ニュースレター
身の診たてによれば萎縮腎で没する前年、大正
十年の森鴎外 (1862-1922) である。この
頃、鴎外は陸軍を退任し、帝室博物館総長 兼
図書頭であった。己の体調悪化に気づいていた
ようだが、軍服を着け、軍刀を佩いた毅然たる
陸軍軍医総監の姿とはその佇まいがとても異な
る。
冒頭の父子や鴎外と娘のように、一人ひとり
がそれぞれの思いで見つめる大宙は、物質存在
としての宇宙を超え、その遠く深く拡がる光と
陰は、人々に過日への追憶や来る日々への希求
を呼び起こす。今夜は、謐かに瞬く冬の大三角
を眺めませんか。
2016 忘れ雪
ねた帳
1. ガモフ全集 2 太陽の誕生と死 白揚社
2. ハッブル 銀河の世界 戎崎俊一 訳
岩波文庫
3. 人間的なアルファベット 丸谷才一
講談社文庫
4. http://www.nasa.gov/
mission_pages/hubble/science/milkyway-collide.html NASA
5. 晩年の父 小堀杏奴 岩波文庫
6. 公開された HST の画像を用いた図書や図
鑑は多種多彩
さんて会
〒501-1194 岐阜市柳戸1-1
岐阜大学大学院医学系研究科
疫学・予防医学分野(旧公衆衛生学講座) 担当:和田恵子
電話: 058-230-6412
Fax : 058-230-6413
E-mail: [email protected]
Home page: http://www.gifu-u.ac.jp/~ph/
【編集後記】
春ですね。新生活を迎える節目の季節、当教室でも
様々な別れや出会いがありバタバタしています。みん
ながそれぞれの道で力を発揮できるといいな、さんて
会が交差する道の道しるべならいいなと思いながら、
寄稿をまとめました。皆様、新年度のご活躍をお祈り
申し上げます。
寄稿をいつでも受け付けています。ph@gifu-u.ac.jp
(疫学・予防医学)までお送りください。
Fly UP