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大横川親水公園万華池 「かいぼり大作戦」 報告書

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大横川親水公園万華池 「かいぼり大作戦」 報告書
大横川親水公園万華池
「かいぼり大作戦」
報告書
∼ひと・生きものがつどう水辺をめざして∼
平成 27 年 8 月
墨田区環境保全課
1.はじめに
川に囲まれた低平地に位置する墨田区は、古くから市街地が形成され、
緑などの自然が少ない地域です。その中で、区の南部に長さ 1.8 ㎞にわ
たって整備された大横川親水公園は、区内外の自然をつなぐ中継地とし
ての役割を果たし、区内でもたくさんの野鳥や昆虫が訪れる場所です。
平成 2 年(1990 年)に完成した万華池(石原四丁目 13 番地先。面積
アジアイトトンボ
約 950 ㎡)は、大横川親水公園の中央部に位置し、水辺を求めてやって
くる生きものの繁殖や採餌、休息の場となっています。なかでも、トンボ類は、「レッドデータブッ
ク東京 2013」
(東京都環境局)で絶滅危惧種に区分されるベニイトトンボなど、過去に 26 種類が確認
されており、万華池は、区内でも多様な生きものが観察できる貴重な場所です。これまでも、区では、
すみだ自然環境サポーター(旧トンボサポーター)などの皆さんと、定期的に観察会や保全活動を行
い、万華池を見守ってきました。
しかし、池の整備から 20 年余りが経ち、池の底に堆積した泥に、水
生植物が根を広げて過剰に繁茂し、池の水面がほとんど覆われてしまう
など、生きものが生息しづらい環境となってきました。それは、トンボ
の調査結果からも明らかで、年月の経過とともに、観察できる種類が減
ってきました。 例えば、ベニイトトンボなどイトトンボの仲間は、平
成 18 年(2006 年)から翌年にかけて 7 種類が確認されましたが、平成
26 年(2014 年)には 3 種類と減ってしまいました(表 1 参照)。
表1
水生植物で覆われた池の様子
(平成 26 年 6 月)
イトトンボの確認記録に見る万華池の変遷
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
アオモンイトトンボ
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
アジアイトトンボ
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
クロイトトンボ
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
ベニイトトンボ VU※
○
○
○
○
○
○
▽
―
―
―
キイトトンボ EN※
―
○
○
○
―
―
―
―
―
―
ムスジイトトンボ
○
○
○
―
―
―
―
―
―
―
ホソミオツネントンボ NT※
―
―
▽
―
―
▽
―
―
―
―
オオアオイトトンボ
○
○
―
―
―
―
―
○
―
―
アオイトトンボ
―
―
―
―
―
―
―
▽
―
―
(イトトンボ科&アオイトトンボ科の確認された年)○:確認
▽:1 回のみ確認
―:確認されず
※「レッドデータブック東京 2013」による評価(EN:絶滅危惧ⅠB 類、VU:絶滅危惧Ⅱ類、NT:準絶滅危惧)
そこで、かつては見られたたくさんの種類のトンボや生きものが訪れる、生態系豊かな池を取り戻
すため、平成 26 年(2014 年)8 月から平成 27 年(2015 年)3 月にかけて、区民ボランティアや「小
学生かいぼり隊」などのみなさんと「かいぼり大作戦」を行い、池の環境改善と生きもの調査などを
行いました。
1
2.“かいぼり大作戦”の記録
1)池の環境改善
万華池を造成して以来初めて池の水を抜いて、根が広がり池一面に生い茂った水草(ヒメガマや
ヨシなど)を取り除き、池底に溜まった泥・ゴミ等の清掃や、池の水の入れ換えを行いました。
「かいぼり」の流れ
1
池の水生植物の除草(一部を保護)
2
池の水抜き(生きもの捕獲に適した水位まで減らす)
3
池に生息する生きものの捕獲・保護
4
池の水抜き(全部)
、泥・池底清掃、天日干し
5
池への水入れ、保護していた生きものの放流
6
水生植物(保護していたもの及び環境に適ったもの)の定植
清掃直後の池の様子
□<水質調査の結果>
「かいぼり」の前後で池の水質を調べました。透視度、溶存酸素(DO)、浮遊物質量(SS)が、大
幅に改善されました(表 2 参照)
。水を入れ替えたことにより、生きものが暮らしやすい環境へと改
善されたことが分かります。今後も定期的に水質調査を行い、万華池の水質を観察していきます。
表2
万華池水質調査結果
H26.10.31
H27.4.15
かいぼり前
かいぼり後
天気
くもり
晴れ(前日雨)
採水時刻
10:20
9:30
気温(℃)
17.9
23.0
水温(℃)
15.7
15.7
臭気
土臭
土臭
透視度(cm)
11
37
pH
7.4
8.1
3
9
19
4
日にち
(※1)
溶存酸素(DO)
浮遊物質量(SS)
(mg/l)
(※2)
(mg/l)
透視度調査の様子
※1 溶存酸素(DO)…水中に溶けている酸素のこと。数値が大きいほど生きものが暮らしやすくなる。
※2 浮遊物質量(SS)…水中に浮遊、または懸濁している直径 2 ㎜以下の粒子状物質の量のこと。水の汚れを示す指標の一つで
あり、浮遊物質が多いと透明度などが悪くなったり、魚類のえらが詰まって死んだりする影響を及ぼす。
□2)自然環境の啓発
「かいぼり」を通じて、区民の皆さんに身近にある自然環境への理解を深めていただくことを目
的に、講習会やワークショップを実施しました。
講習会やワークショップ等を実施するにあたり、区内の事業者をはじめ、継続的に地域の自然環
境調査や環境教育に携わってきた専門家など、多くの方々の協力をいただきました。
2
□□ア
関連イベント
□□□①「すみだの自然&かいぼり講習会」
8 月 30 日(土)
〔参加者〕21 名(区内在住在勤在学の高校生以上)
〔講師〕(株)生態計画研究所、墨田区職員
〔内容〕区の自然環境やかいぼりをテーマに講習会を開催し、
区の生物多様性と万華池の持つ意味、池周辺で見られる生
きもの、かいぼりの意義について学びました。また、9 月
から実施するかいぼりボランティア養成講座の案内とボラ
講習会の様子
ンティアの募集も行いました。
□□□②講義「すみだの川から海へ
水環境の多様性」
9 月 13 日(土)
〔参加者〕14 名(区内在住在勤在学の高校生以上)
〔講師〕すみだ水族館スタッフ
〔内容〕水環境について学ぶため、区内を流れる北十間川の生きものの調査結果や、東京湾、
東京諸島(伊豆諸島・小笠原諸島)の環境と生きものに関する講義を受けて、生物多様性
を維持するにはどうしたらよいかについて考えました。
□□□③ワークショップ「ハゼってどんな魚?」
9 月 13 日(土)
〔参加者〕17 名(区内在住在学の小学生と保護者)
〔講師〕すみだ水族館スタッフ
〔内容〕区内を流れる川に生息する生きものについて理解を深め
るため、子ども向けのワークショップを開催しました。実際
にハゼを観察しながら体の特徴を学びながら、ハゼの体を模
した「しおりづくり」を行いました。
□□イ
「かいぼりイベント」
ワークショップの様子
11 月 1 日(土)
〔参加者〕64 名(小学生かいぼり隊と保護者、かいぼり大作戦ボランティア、東京環境工科専門学校生)
〔講師〕須田真一氏(東京大学大学院保全生態学研究室特任研究員)、すみだ水族館スタッフ、
㈱生態計画研究所
〔内容〕池の水を抜いて、池に生息する生きものを捕獲し、種類や大きさなどを調べました。
小学生かいぼり隊や区民ボランティア、専門学校生などに参加いただき、12∼13 名からな
る 4 グループに分かれて作業を行いました。
(後述)
□3)区民ボランティアの育成
墨田区では、平成 19 年度にトンボサポーター(現在は「すみだ自然環境サポーター」に改称)
が発足し、万華池等でおもにトンボを中心とした生きものの定点調査と生息環境の保全活動を行っ
てきました。また、平成 21 年度からは自然環境観察員養成講座を開催し、自然環境の保全に意欲
的に取り組むたくさんの方が受講しています。さらに、平成 25 年度からは「セミの羽化観察会」
を企画・運営するなど、区民ボランティアが活躍の場を広げているところです。
「かいぼり大作戦」
でも、区民ボランティアの方がさらに積極的に区の自然環境の保全や啓発に携わっていただくため
3
に、「かいぼりボランティア養成講座」を開催しました。
□□<かいぼりボランティア養成講座(全 4 回)>
受講者 17 名
□□□〔対象〕次の 2 つの要件を満たす方
・区内在住在勤在学の高校生以上で、原則全日程参加可能な方。
・講座終了後も「すみだ自然環境サポーター」に登録し、区の自然環境の保全や環境啓発に携
わることが可能な方。
〔概要〕本講座では、万華池の現状を受講者がともに理解し、それぞれが役割を担い協力してか
いぼりを実施することで、区内の自然環境への認識をさらに深め、かいぼり後も積極的に
万華池の保全等の活動に携わることを目指しました。あわせて、各回のグループワークを
通じ、自らが習得したことを“ひとへ伝える”ことの大切さを学び、かいぼりイベントの
際に、受講者が主体的にグループ活動のリーダーとして携わることを目的に開催しました。
□□□①ボランティア講習会 9 月 21 日(日)
〔講師〕(株)生態計画研究所
〔協力団体〕すみだ水族館、東京環境工科専門学校
〔内容〕かいぼりの意義や内容・手順について講習を行いま
した。次に、かいぼりを実施する前の万華池を見学し、
かいぼり後の万華池へ期待することなどについて参加者
同士が意見交換しました。その後、かいぼりや池への思
グループワークの様子
いを書き込んだ「のぼり」を作成しました。この「のぼ
り」はイベントの際に池端に設置しました。
また、万華池の観察と講習会の資料を使って、グループワー
クを行い、かいぼりイベントに参加する小学生かいぼり隊に向
けた説明用ボードづくりを行いました。この活動で、チームの
結束力を育みながら、万華池の現状やかいぼりについての理解
を深めました。
説明用ボードの 4 テーマ
1
「かいぼり」ってなに?
2
なぜかいぼりをするの?
3
かいぼりの目的(①大そうじ+②水辺環境を整える)
4
かいぼりの目的(③いきものが豊かな池とする)
□□□②生きもの調査会
説明ボード作り
作成した「のぼり」
10 月 11 日(土)
〔講師〕(株)生態計画研究所
〔協力団体〕すみだ水族館、東京環境工科専門学校
〔内容〕かいぼりイベントの予行練習を兼ね、池に生息する
生きものの種類、大きさ、数量等の事前調査を行いまし
た。調査後、グループごとに生きもの捕獲手順の確認や
意見交換を行い、かいぼりイベントに参加する小学生か
4
グループワークの様子
いぼり隊への説明方法や注意点などをまとめました。どのように話したらよいか、伝える
側の立場で考えることで、講座の参加者としてではなく、かいぼりのチームリーダーとし
て携わる意欲が高まりました。
□□□③かいぼりイベント
11 月 1 日(土)
〔講師〕須田真一氏(東京大学大学院保全生態学研究室特任研究員)
すみだ水族館スタッフ、㈱生態計画研究所
〔協力団体〕東京環境工科専門学校
〔内容〕かいぼりボランティア、小学生かいぼり隊、専門学校
生からなるグループを編成しました。かいぼりボランティ
アがリーダーとしての役割を担い、かいぼりの意義や目的
について、小学生かいぼり隊に説明をした後、生きものの
捕獲や調査を行いました。この体験を通して、かいぼりボ
ランティアの方は、お子さんたちに“伝える”ことの楽し
サポートの様子
さや大切さを実感できました。
□□□④かいぼり報告会
12 月 20 日(土)
〔講師〕(株)生態計画研究所
〔協力団体〕すみだ水族館、東京環境工科専門学校
〔内容〕これまでの講座を振り返った後、かいぼりイベント
で捕獲した生きものの調査結果の報告と解説を行いまし
た。
また、かいぼりボランティアとしてイベントの進行や
小学生かいぼり隊のサポートに関する感想や、万華池を
今後どのように保全していったら良いかに関するアイデ
アを、グループごとに話し合いました。各グループで活
グループワークの様子
グループワークの様子
発な意見交換が行われ、さまざまなアイデアが発表されました。かいぼり大作戦に携わる
中で、ボランティア同士の連帯感が生まれ、今後も区の自然環境の保全等に関わっていく
意欲が高まりました。
□4)生きもの放流会
3 月 14 日(土)
〔参加者〕45 名(かいぼり大作戦ボランティア、小学生かいぼり隊と保護者、東京環境工科専門学校生)
〔講師〕すみだ水族館スタッフ
〔内容〕ケーブルテレビの区政情報番組で放映した「かいぼり大
作戦」の特集番組を上映し、かいぼりイベントに参加したみ
なさんで当日を振り返りました。また、かいぼりの間保護し
ていた、池へ戻す生きもの(ギンブナ・ドジョウ)の生態等
についてすみだ水族館のスタッフから説明を受け、知識を深
めました。その後池に移動し、かいぼりイベントに参加した
小学生かいぼり隊のみなさんの手で放流が行われました。
5
生きものを放流する様子
3.生きもの調査の結果
水生植物、生きもの(魚類・それ以外の生きもの)について調査しました(表 3 参照)
。
表3
調査の概要
項目
実施日
調査者
水生植物
6月25日(水)
3名
㈱生態計画研究所、墨田区職員
10月11日(土)
25名
かいぼり大作戦ボランティア、専門学校生
11月1日(土)
64名
かいぼり大作戦ボランティア、小学生かいぼり隊、専門学校生
生きもの
調査者内訳
□1)水生植物
ヒメガマ、ヨシ、オオフサモ(※1) が特に繁茂して、水面のほ
とんどを覆っていることが分かりました。また、水際ではミズヒ
マワリ(※1)、キショウブ(※2)なども確認されました。
根が池底に生え拡がっていたため、かいぼりでは池中の植物を
すべて撤去し、撤去の際に、かいぼり後に移植する在来種のサク
ラタデ(※3)、フトイ、ミソハギなどを保護しました。
※1:オオフサモ・ミズヒマワリ
「特定外来生物」(外来生物法(平成 17 年 6 月)
)
「総合対策外来種の緊急対策外来種」(生態系被害防止リスト(平成 27 年 3 月))
※2:キショウブ
「総合対策外来種の重点対策外来種」(生態系被害防止リスト(平成 27 年 3 月))
※3:サクラタデ
絶滅危惧Ⅱ種(VU)
(「レッドデータブック東京 2013」東京都環境局(平成 25 年 3 月))
保護した植物
□2)魚類
オオクチバス(※1)、ドジョウ、ギンブナ、コイ、カラドジョウ(※2) 、
コクチバス(※1)の 6 種 57 個体が確認されました(図 1 参照)
。
※1:オオクチバス・コクチバス
「特定外来生物」(外来生物法(平成 17 年 6 月)
)
「総合対策外来種の緊急対策外来種」(生態系被害防止リスト(平成 27 年 3 月))
※2:カラドジョウ
「総合対策外来種のその他の総合対策外来種」(生態系被害防止リスト(平成 27 年 3 月))
オオクチバス
ギンブナ
図1 調査会・かいぼりで採取された魚類の種組成
ドジョウ
コイ
6
□3)その他の生きもの
アメリカザリガニ、ミナミヌマエビ、シナヌマエビ、ウシガエル(幼体)、ツチガエル(幼体)、
ギンヤンマ(幼虫)、アオモンイトトンボ(幼虫)、コシアキトンボ(幼虫)、ヤブヤンマ(幼虫)、
シオカラトンボ(幼虫)の 10 種類 276 個体が確認されました(表 4 参照)
。
表4
魚類以外の生きものの調査結果
種名
ツチガエル
(※1)
ウシガエル
(※2)
ミナミヌマエビ
アメリカザリガニ(※3)
シナヌマエビ
個体数
3
9
15
231
1
種名
ギンヤンマ
ヤブヤンマ
コシアキトンボ
シオカラトンボ
アオモンイトトンボ
個体数
7
1
4
1
4
※1: ツチガエル…絶滅危惧IA種(CR)(「レッドデータブック東京2013」東京都環境局(平成25年3月))
※2: ウシガエル…「特定外来生物」(外来生物法(平成17年6月))
※3: アメリカザリガニ…「総合対策外来種の緊急対策外来種」(生態系被害防止リスト(平成27年3月))
アメリカザリガニ
ウシガエル(幼体)
□4)考察
□□①万華池の現状
調査結果から、魚類の種組成、体長の大きい個体、種類ごとの体長組成を整理しました(図 1、2
参照)
。
種組成では、オオクチバスが 30%を占めて優占種となり、カラドジョウ(7%)とコクチバス(5%)
を合わせた外来種が 42%を占め、国内移入種(国内の他地域から持ち込まれた種類)であるコイ(11%)
を加えると 53%が地域外からの移入種でした。一方、ドジョウ(26%)
、ギンブナ(21%)と在来種
も 47%確認することができました。
体長の大きい魚類では、42cm を筆頭にコイが上位を占め、次いでオオクチバスが 28cm∼18cm、
ギンブナ 23cm∼17cm を占めていました。
種類ごとの体長組成では、ドジョウは 6∼8cm の個体
が多数確認されました。泥の中に潜って外敵から逃れ、
繁殖できたものと考えられます。その一方で、ギンブ
ナについては全体的に個体数が少なく、かつ 10cm 以
上の個体しか確認されませんでした。小さな個体は、
ブラックバスなどの外敵に捕食され数が減少していた
可能性があります。
(図 3 参照)
図2
7
体長の大きい魚類・上位 20 個体
図3
種類ごとの体長組成
□□②生きものの生息環境
ブラックバス、コクチバス、ウシガエルは、一生を通して捕食力が強く、繁殖力も旺盛で、特定
外来生物に指定されており、また平成 27 年 3 月に公表された「生態系被害防止リスト」では「総
合対策外来種の緊急対策外来種」に区分されています。また、アメリカザリガニは、繁殖力旺盛な
だけでなく、水草を切ってしまうなど水域環境への影響が懸念され、「生態系被害防止リスト」で
は、総合対策外来種の緊急対策外来種に区分されています。コイは、トンボのヤゴや小さな貝類な
ど、口に入るものはなんでも捕食し、その際に泥を吹き上げて水が濁り、小さな閉鎖空間である万
華池の生態系に大きな影響を与えます。そのため、これらを取り除いた後、調査で確認されたギン
ブナ、ドジョウなどの在来種や、荒川水系に生息するメダカ・モツゴなど在来種を再導入すれば、
池の環境改善が期待できます。
これまで、池の水面はヒメガマやオオフサモによって覆われ、ほとんど水面が見えない状態であ
り、ギンヤンマなど、明るく開けた水面のある水辺を好むトンボ類が減少していました。また、水
生植物が繁茂することで、水底に日光が届かず、藻類の光合成が阻害され、酸素の供給が減少する
だけでなく、水底に堆積した泥が分解される際に酸素を消費する
など、水中の酸素が少なくなり、ヤゴや魚など、水中の生きも
のに影響があったと考えられます。これを解消するため、池の
周囲や島などの植栽帯に限定して植えることによって、明るく
開けた水面を取り戻すとともに、アサザやクロモなどの浮葉・
沈水植物、コウホネやマコモ、フトイなどの抽水植物など、多
様な水辺の植生を復活させることにより、多種類のトンボなど
多様な生きものが生息できるようになります。(表 5 参照)
表5
明るく開けた水面を好むギンヤンマ
水辺の植生と飛来が期待できるトンボ類
水深
5cm~10cm
10cm∼20cm
20cm∼
植物
小型の抽水植物
(コウホネなど)
中・大型の抽水植物
(マコモやフトイなど)
浮葉植物
(アサザなど)
飛来が期待できる種
シオカラトンボ、ショウジョウトンボなど
ギンヤンマ、コシアキトンボなど
クロイトトンボなど
8
このように、水生植物がバランスよく生育する環境を保つことで、池にやってくる生きものも多
様化し、豊かな「つながり」が生まれます。
4.おわりに
万華池のある大横川親水公園は、緑や水辺に親しむことがで
き、そこにつどう多様な生きものと出会える場所、そして生き
もののつながりについて学ぶことができる場所として、期待さ
れています。また、区民が生物多様性の保全・回復について理
解を深める上でも重要な場所といえます。
万華池は、かいぼりにより環境が改善され、今まで池に繁茂
していたヒメガマ・ヨシなど水生植物を取り除いたことで、池
スイレン(平成 27 年 6 月)
底に埋もれていたスイレンが復活し、鮮やかな花を咲かせまし
た。また、開けた水面を取り戻し、植物がバランス良く生育す
るようになったことで、平成 27 年(2015 年)6 月には 10 種類
のトンボが観察され、ムスジイトトンボも平成 19 年(2007 年)
以来、8 年ぶりに観察されました。
このように、生きものが戻りつつある万華池ですが、その一
方で、ゴミが捨てられたり、無断で様々な生きものが放流され
たりすることで環境が変化し、生きものが生息しにくくなるこ
ムスジイトトンボ(平成 27 年 6 月)
とも懸念されます。
「かいぼり大作戦」は、かいぼりボランティアや小学生かいぼり隊、地元の専門学校、講師及び事
業者等に協力いただき、無事終えることができました。今後さらに、多くの種類のトンボや多様な生
きものが戻ってくる万華池となること、また、その環境を維持し次世代へ伝えていくことを目指し、
専門家の意見もいただきながら、ボランティアや区民のみなさんと取り組みをすすめていきます。
□<今後の取り組み>
□□1)啓発
自然観察会等を開催し、生きものに触れ合い、命の大切さ
を学ぶ機会を設けます。
□□2)生きもの調査
池の自然状況を把握するため、定期的に池周辺に生息する
生きものを調査して、結果を公表します。
□□3)保全活動
多様な生きものがバランス良く生息できる池となるよう、
継続的に池を見守り保全していきます。
万華池の様子(平成 27 年 6 月)
9
大横川親水公園万華池「かいぼり大作戦」
報告書
平成 27 年 8 月
発
行
墨田区区民活動推進部環境担当環境保全課
〒130-8640 墨田区吾妻橋一丁目 23 番 20 号
電話
03-5608-6208
10
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