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蘇生会総合病院 - 京都府立医科大学
医学フォーラム 37 <病 院 だ よ り> 蘇 生 会 総 合 病 院 院 長 長 澤 史 朗 は じ め に 平成 20年 3月に相川一郎前院長(現名誉院 長)が本誌(京都府立医科大学雑誌,第 117巻, 第 3号,2008年)に蘇生会総合病院を紹介させ ていただいてから 6年余が経過しました.平成 25年 1月に後任の院長に就任した私が,病院の 概要,次いでこの 6年間の蘇生会総合病院の取 り組みについて紹介いたします. 病院概要(平成 25年現在) 蘇生会総合病院は京都市伏見区,国道一号線 と大手筋の交差点の北東に位置し,病床数 350 床(一般病床 176床,回復期リハビリ病床 54 床,医療療養型と介護療養型各 60床) ,23診療 科目(内科・外科・脳神経外科・整形外科・心 臓血管外科・循環器内科・耳鼻咽喉科・婦人科・ 泌尿器科・眼科・皮膚科・小児科・精神科・麻 酔科・放射線科・肛門外科・神経内科・リウマ チ科・リハビリテーション科・歯科・歯科口腔 外科・呼吸器内科・アレルギー科)を標榜する 総合病院です. この総合病院を中核施設として,蘇生会クリ ニック・サイバーナイフセンター,二つの老人 保健施設(合計 230床) ,訪問看護施設などから 構成される蘇生会グループは,合計 580床を有 する大型の医療・介護複合体として機能してい ます. 津田永明理事長のもと,病院職員は 628名 (医 師 103名(内常勤 38名) ) ,看護師 202名,薬剤 師 21名,放射線技師 18名,臨床検査技師 13名, 理学療法士 33名,作業療法士 9名,臨床工学士 7名,言語療法士 3名など)で,平成 24年度の 医療統計は,新入院患者 3141名,一日平均外来 図 1 新病院外観 〒6 1 2 ‐8473京都府京都市伏見区下鳥羽広長町 101 38 医学フォーラム 患者 640名,手術 1405件,救急受入 1388件, 紹介患者 3218名でした. 蘇生会総合病院ならびにその関連施設は,確 実かつ安全な治療ときめ細かなトータルケアを 提供して,地域のみなさんの健康を維持・増進 することを使命としています.急性期治療から 在宅介護まで,途切れのない流れの中で,充分 に納得し満足してもらうことを目ざしていま す.I CUを含む一般病棟は救急をはじめとした 急性期医療を,急性期を脱してもなお治療が必 要な患者さんには回復期リハビリ治療に移行し てもらいます.さらに治療期を終えても介護や 福祉を必要とされる患者さんには,施設サービ ス(療養施設,老人保健施設)や在宅サービス を行います.地域医療と並行して,予防医学 (健診部門)や最新の医療(サイバーナイフによ る定位放射線治療)など地域をこえた医療も推 進しています. 病院の取り組み(平成 20年以後) 1.新病院グランドオープン(平成 20年 6月) 平成 16年に新病院建設の計画が始まり,新棟 に段階的に移転し,建設が終了した平成 20年 6 月にグランドオープンを迎えました.清潔で快 い医療環境を患者さんに提供し,働きやすく安 全な労働環境を職員も享受しようという構想が 実現しました(図 1) .これを機会に,気持ちを リフレッシュしよう,病院の中に常に「新しい 風」を吹きこもう,という機運が高まりました. 患者さんに対する基本的な態度,仕事に対して 職員が持ち続けるべき気概を, 「思いやりの気 持ちで,心とからだの蘇生を」という病院理念 にまとめました. また最近は災害の予防やエコロジーの推進が 重要視され,とりわけ医療施設への要請は強 まっています.病院では防火対策を強化するた めオール電化方式を採用しました.また平成 22年に井戸を設置して伏見の名水を揚水し,公 共水道が停止しても飲料水や透析に必要な水を 確保しています. 2.新しい医療機器の導入と活用 病院の基本方針の一つである「最新で質の高 い医療」を実現するため,新病院の建設過程で 大型の最新医療機器の導入を行いました. 3テ スラMRIを導入してMRIは 2台体制となり,外 来・入院患者さんに対する画像診断能力や即時 対応性が向上すると同時に,検診部門を充実さ せることができました.第一に脳ドックにおけ る診断精度が向上しました.当院のMRAを応 用した脳ドックは 1990年に世界で最初に稼働 しました.懸案であった小型脳動脈瘤の局在・ 形態診断や動脈硬化性病変の質的診断が正確に なりました.第二に拡散強調像を利用した全身 MRI腫瘍ドックを開始し,安価で利便性が高い がん検診を行っています.またCTスキャンは 新たに 64列CTスキャンを導入して現在は 3台 体制となり,即時対応性が向上しました.とり わけ心臓ドックにおける冠動脈描出の方法が多 様化し,必要とされる検査精度に対応して侵襲 度の低い順から MRA,造影CT,心臓カテー テル法と選択できるようになりました. 3.サイバーナイフセンター サイバーナイフ定位放射線治療は京都府立医 科大学放射線医学教室と大阪大学の御支援のも と,平成 14年に日本で 7台目,関西では大阪大 学について 2台目に導入しました.その後改良 型のサイバーナイフⅡを,さらに平成 25年 5月 には最新型のサイバーナイフラジオサージェ リーシステム(G 4)を導入しました(図 2, 図 2 最新型サイバーナイフラジオサージャリー シス テム(G 4) 医学フォーラム 日本で 9台目) .サイバーナイフは,①定位放 射線治療機器の中で最も精度が高い,②固定装 置が不要のため苦痛を伴わない,③病変の偶発 的な動きにも対応して治療できる,などの特徴 をもっています.特に新規導入した装置は,こ れまでの頭頸部病変に加えて,体幹部病変(保 険適応は現時点では肺癌,肝癌)も治療できま す.自動追尾システムを用いれば呼吸により生 じる腫瘍の動きを連続的に自動的に補正して照 射できるため,周囲正常組織の損傷を最小限に できます. 4.病院組織・体制の変革 A.医薬分業(平成 21年) 薬物療法の有用性・安全性を向上させて医療 を進化させるという流れにそって,医薬分業を 始めました.調剤待ち時間の短縮や服薬指導の 強化などにより外来患者さんには概ね好評で す.また薬剤師を病棟に配置することが可能に なりました.入院患者さんに接する機会がふえ た病棟薬剤師は,薬剤の適正管理,多様な患者 の服薬指導,処方提案などを行い,病棟管理の 一端を担いつつ医師・看護師をまきこんでチー ム医療を推進しています. B.一般病棟の 7対 1看護配置基準(平成 22年) 医療の質や安全性を高め,看護師の労働・学 習環境を向上させるべく,7: 1看護体制を開 始しました.院内・院外の研修や他部門での実 習などが恒常的に行われ,看護の質の向上に役 立っています. C.回復期リハビリテーション開設(平成 22年) 脳血管疾患,整形外科疾患,術後や肺炎後の 廃用症候群などの患者さんを対象に,リハビリ を集中的に行ってADLの向上を図り,早期の社 会復帰を推進しています.近隣の急性期病院か らも対象患者さんを受け入れております.在宅 復帰率,入院時重症度分類など高いハードルを 越えながら急性期から在宅までの一連のリハビ リを,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士, 看護師,医師,MSWなどが連携して取り組んで います. D.DPC対象病院(平成 23年) 大規模医療機関において年々DPCの導入が 39 進み,これが提供する標準化された情報は質の 高い医療の推進に不可欠であるとの認識から, 当院もDPCの導入を決定しました.標準化医 療の推進,クリニカルパスの浸透,コスト意識 など,まだまだ努力すべき課題があります.し かしながら少しずつですが職員の中にDPCの 理解や対応方法に進歩がみられ,医療の効率化 に役立つものと思われます. E.病院医療評価機構 Ve r s i o n6. 1認定( 2回 目) (平成 23年) 平成 18年 4月に第 1回の病院機能評価をう けました.そのレベルアップを図る目的で全病 院レベルで取り組み,Ve r s i o n6. 1認定を受け ることができました.1回目の評価から時間が 経過して,ともすればゆるみがちな規律の引き 締め,電子カルテ導入にともなって生じた変化 への対応,新たな病院組織の形成,医療安全の 深化など,大いに役立っています. F.病院組織運営とチーム医療への取り組み 質が高く安全な医療を求める患者さんの声が 高まる中で,医療の高度化・複雑化により業務 が増大しています.これに対応していくべく, 適切な病院組織運営とチーム医療の推進に努め ています.前者は病院を適切に機能させるため の組織作りとその運用であり,とりわけ患者さ んに密接に関連する安全管理,感染防御,医療 情報,患者サービスなど,また職員のモチベー ションに関連する研修,衛生などを重視してい ます.いっぽうチーム医療は,多様な医療ス タッフが目的と情報を共有し,連携しながらそ れぞれの専門業務を分担し,患者の状況に対応 した医療を提供するのに役立っています.その 新しい推進役として,病院管理に参加しはじめ た薬剤師,専門性をもった認定看護師などに期 待をよせています. G.電子カルテの更新 平成 18年に導入した電子カルテの更新が必 要となり,平成 25年 10月にプロジェクトを発 足させ,平成 26年 6月の稼働をめざしていま す.最新式の電子カルテの導入で進化したIT 技術の取り込みによる成果に期待しています. これと並行して従来の業務を総点検して無駄を 医学フォーラム 40 省き業務を迅速化することで,医療の質・安 全・効率の向上を目指しています. お わ り に 新しい建物や医療機器の整備が一段落して, 良好な稼働状態が維持されています.しかしな がらそのなかで働く医療人がその質を高め,モ チベーションをもって組織の一員として働くこ とが大切です.そのためには適切な組織運営と チーム医療を牽引する人的資源が不可欠です. しかしながら現状では医師不足は深刻で,本院 が地域医療を推進する上での最大の障害となっ ています.今後とも京都府立医科大学からの御 支援を賜るようお願い申し上げます.