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06~10年度の年平均成長率は名目2.4

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06~10年度の年平均成長率は名目2.4
SCB
SHINKIN
CENTRAL
BANK
総合研究所
内外経済・金融動向(月刊)
No.17−13
〒104-0031 東京都中央区京橋 3-8-1
TEL.03-3563-7541 FAX.03-3563-7551
URL http://www.scbri.jp
(2006.3.10)
日本経済の中期展望
−06∼10 年度の年平均成長率は名目 2.4%、実質 1.9%と予測−
< 要 旨 >
1.景気は踊り場を脱却∼堅調な世界経済、IT需要の回復など外部環境は良好
景気は踊り場を脱し、足元では回復テンポを高めている。今後も、米中経済が堅調を維持する
とみられるうえ、シリコンサイクルが底入れしたことで、日本の輸出・生産は堅調に推移しよ
う。回復のすそ野が非製造業に広がっていることも景気を押し上げる要因になっている。
2.構造調整の一巡で、設備投資は中期的にも拡大局面
設備投資は 03 年度から増加傾向が続いているが、不採算設備の廃棄を並行して進めている結果、
生産能力はさほど高まっていない。企業収益は引き続き増益基調にあり、企業の投資意欲は依
然として根強い。中期的にも設備投資の拡大余地は大きいと考えられる。
3.所得・雇用環境の改善を背景に、個人消費は堅調持続へ
家計の所得・雇用環境は明るさを増している。過剰雇用の調整が一巡したことで、今後は家計
部門にも景気回復の恩恵が本格的に波及しよう。当面の税・社会保障負担増は雇用者所得の回
復でほぼ吸収できるとみられ、個人消費は今後も堅調に推移すると予想される。
4.安定成長に向けた中長期的な課題は労働力の確保
中長期的には、人口減少によって労働力の供給制約が発生する恐れがある。当面は、ニートな
ど求職意欲喪失者の活用や雇用のミスマッチの縮小で労働力は確保できようが、長期的には女
性の労働参加率の引上げや高齢者の労働市場への再参入が必要となろう。
5.民需主導の自律回復の実現で景気は安定成長軌道へ
06 年度は民需主導の自律回復の動きが強まり、需給ギャップの縮小でデフレ経済から脱却する
と予測した。07 年度は消費税率引上げ(08 年度に7%へ引上げと想定)前の駆込み需要が成長
率を下支えしようが、08 年度にはその反動減や海外景気の減速で調整局面を迎えよう。ただ、
構造調整を終えた日本経済の基盤は底堅く、
調整は比較的短期間で終息しよう。
09 年度以降は、
個人消費を中心とした巡航速度での安定成長軌道をたどると予想される。
(注)本稿は 2006 年 3 月 9 日時点のデータに基づき記述されている。
(図表1)GDP成長率の予測
実 質 G D P
個 人 消 費
住 宅 投 資
設 備 投 資
公 共 投 資
純輸出(寄与度)
名 目 GDP
(単位:%)
2004 年度
05 年度
06 年度
07 年度
08 年度
09 年度
10 年度
〈実績〉
〈予測〉
〈予測〉
〈予測〉
〈予測〉
〈予測〉
〈予測〉
3.3
2.7
2.5
0.3
1.7
2.2
2.4
▲0.6
8.1
▲1.6
(0.4)
1.9
2.2
1.3
6.0
▲4.3
(0.3)
2.7
2.3
3.2
3.4
▲2.6
(0.2)
2.8
0.2
▲2.2
2.3
▲2.4
(▲0.0)
1.4
1.5
▲0.2
4.1
▲2.0
(0.0)
2.1
1.7
0.5
4.4
▲1.8
(0.2)
2.7
1.7
1.7
1.7
5.4
▲12.4
(0.5)
0.5
(備考)内閣府「国民経済計算年報」より作成。予測は信金中金総合研究所
©信金中央金庫 総合研究所
1.景気は踊り場を脱却∼堅調な世界経済、IT需要の回復など外部環境は良好
(1)IT関連の在庫調整一巡と輸出の回復で生産活動は回復基調
景気は踊り場を脱し、足元では回復テンポをやや高めている。鉱工業生産は、05 年4
∼6月、7∼9月と前期比マイナスとなった後、10∼12 月には 2.6%増と3期ぶりのプ
ラスへ転じた。月次ベースでみると、05 年8月から6か月連続で前月比プラスとなり、
06 年2月、3月の製造工業生産予測指数を単純に当てはめると、1∼3月は前期比 1.7%
増と2期連続でプラスとなる見通しである(図表2)。生産の抑制要因となっていたI
T関連の在庫調整が一巡したことに加え、設備投資の拡大持続で、電気機械や一般機械
の生産が堅調に推移していることが背景にある(図表3)。
輸出の持直しも生産回復に寄与している。輸出数量指数(季節調整済み)は、05 年4
∼6月に前期比プラスに転じ(04 年7∼9月から 05 年1∼3月までは3期連続で前期
比マイナス)、05 年 10∼12 月には前期比 3.2%増と3期連続で増加した。中国の景気拡
大を背景に、電気機械や一般機械、素材全般の需要が回復しているうえ、米国向けの輸
出も堅調に推移している。
先行きについても、米中を中心に世界景気は堅調を維持するとみられる。世界的なシ
リコンサイクルが底入れしたことで、IT関連の需要も回復傾向にある。日本の輸出・
生産は、今後も堅調に推移する公算が大きい。
(図表2)鉱工業生産指数と輸出数量指数の推移
(図表3)電子部品・デバイス工業の在庫循環図
60
(00年=100)
118
50
輸出数量指数
114
01年1月
︵
在 40
庫
110
30
予測指数
前
年
20
比
102
% 10
98
0
05年1月
、
106
04年1月
︶
03年1月
-10
94
06年1月
-20
90
86
02年1月
-30
生産指数
-40
-40
82
98
99
00
01
02
03
04
05
-30
-20
-10
0
10
20
30
40
出荷(前年比、%)
06 (年)
(備考)1.シャドー部分は景気後退期。2∼3 月の予測指数は製造工業
2.輸出数量指数は内閣府による季節調整値
3.財務省、内閣府、経済産業省資料より作成
(備考)経済産業省「生産・出荷・在庫」より作成
(2)事業所サービス、個人サービスなど非製造業の回復テンポも高まる
バブル崩壊以降の2回の景気回復局面1は、製造業を中心とした回復であったが、今回
は非製造業にも景気回復が波及している。日銀短観の全規模・非製造業の業況判断DI2
をみると、バブル崩壊後の最初の回復局面のピークはマイナス4(96 年5月調査)、2
回目の回復局面のピークはマイナス 20(00 年 12 月調査)にとどまったが、今回の回復
局面は、05 年 12 月調査でゼロまで改善した(図表4)。
1
バブル崩壊以降の景気回復局面は、93 年 10 月(谷)∼97 年 5 月(山)の 43 か月、99 年1月(谷)∼00 年 11 月(山)の 22 か月。今回は 02
年1月(谷)からの景気回復局面が続く。
2
04 年 3 月調査から企業規模の区分基準が、「常用雇用者」から「資本金」に変更され、併せて調査対象企業の見直しなども行われたため、
時系列データに不連続が生じている。ちなみに、新基準への変更によって、比較可能な 03 年 12 月調査のDIは、全規模・製造業が2ポイント、
全規模・非製造業が7ポイント、それぞれ上方修正された。
1
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
©信金中央金庫 総合研究所
サービス業の活動状況を示す第3次産業活動指数も上昇傾向で推移している。同指数
は、直近の 05 年 10∼12 月に前期比 1.2%増、前年比では 2.7%増と高い伸びを示し、05
年(暦年)は、前年比 2.2%増と3年連続で増加した(図表5)。製造業の生産活動の
活発化で、運輸や電気・ガス、広告など事業所サービスなどが伸びているほか、底堅い個
人消費を反映して、小売や飲食・宿泊も増加傾向を維持している。都市再開発の活発化
や大都市部の地価の下止まりで不動産業も堅調に推移している。
これまでの輸出主導による製造業中心の回復から、非製造業にも景気回復のすそ野が
広がってきたことは、原油高や一時的な海外経済の変調といったショックに耐えうる安
定的な経済基盤を形成し、景気回復の長期化や回復の勢いを高める要因になっている。
(図表4)日銀短観の業況判断DI(全規模)
(図表5)第3次産業活動指数の推移
(%ポイント)
50
(00年=100)
110
40
製造業
30
108
20
106
10
0
104
-10
102
-20
-30
100
非製造業
-40
98
-50
-60
96
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06(年)
(備考)1.シャドー部分は景気後退期
2.日銀短観より作成
98
99
00
01
02
03
04
05 (年)
(備考)1.シャドー部分は景気後退期
2.経済産業省「第3次産業活動指数」より作成
(3)米景気は今後も安定成長が続くと予測
日本経済が内需主導型の景気回復へ移行しつつあるとはいえ、世界経済、とりわけ米
中経済の動向は、日本経済にとって重要なファクターである。
足元の米国経済は、底堅い個人消費と
(図表6)米国の住宅着工件数と新築住宅の販売在庫
企業収益の拡大を背景とした設備投資 (万件)
(万件)
55
240
がけん引役となり、引き続き堅調に推移
220
50
している。
新築住宅着工件数
200
(左目盛)
45
ただ、個人消費を支えてきた住宅ブー 180
ムは沈静化しつつある。住宅着工件数は 160
40
依然として年率 200 万件ペースを維持し 140
35
ているものの、新築住宅の販売在庫は、 120
30
05 年 11 月以降 50 万件を上回るなど歴史 100
25
80
的高水準に達している(図表6)。住宅
販売用住宅在庫
(右目盛)
60
20
価格の上昇も 05 年後半以降は上昇に歯
75
80
85
90
95
00
05 (年)
止めがかかっている。これまでの政策金
(備考)シャドー部分は景気後退期。米商務省資料より作成
利引上げの影響も加わって、今後の住宅
2
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
©信金中央金庫 総合研究所
投資は徐々に減速すると予想される。
こうした住宅ブームの一巡に加え、エネルギー価格の高止まりも個人消費の抑制要因
となり、06 年後半にかけて米景気は徐々に減速しよう。ただ、企業収益の拡大基調は維
持されており、堅調な設備投資が景気を下支えするとみられる。短期的には、06 年後半
にマイクロソフトの次世代OS「Windows Vista3」の発売が控えており、IT関連を中
心とした設備投資が拡大すると予想される。また、設備投資の名目GDP比をみると、
ITバブル崩壊後の設備投資の抑制で、03 年1∼3月には 9.8%まで低下し、その後は
回復基調にあるが、足元の水準(05 年 10∼12 月)は 10.8%にとどまっている(図表7)。
過去の平均である 11.3%を下回っていることなどから判断して、設備投資の拡大余地は
中期的にも大きいと考えられる。
米景気は住宅ブームの調整が一服する 07 年には再び回復のテンポを高めよう。08 年
には設備投資の増勢鈍化などで実質成長率は2%台へ低下すると想定しているが、物価
の安定を背景に機動的な金融政策が実施される公算が大きく、調整は短期間で終息する
と予測した(図表8)。
(図表7)米国の設備投資の名目 GDP 比
14
(図表8)米国の実質成長率の推移と予測
(%)
5.0
(%)
4.5
予測
4.5
4.2
4.2
13
70年以降の平均
(11.3%)
4.0
3.7
3.7
3.5
3.2
12
3.0
3.4
3.4
3.0
2.7
2.5
2.2
11
2.0
10
1.0
9
1.6
0.8
0.0
70 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 (年)
(備考)シャドー部分は景気後退期。米商務省資料より作成
95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10(年)
(備考)米商務省資料より作成
(4)高成長が続く中国経済∼08 年北京オリンピックに向けて高水準の投資が続く
日本経済にとって、中国経済の影響が一段と大きくなっている。05 年の日本の中国向
け輸出(香港を含む)は 12.8 兆円、日本の輸出額に占める比率は 19.5%と 10 年前の 95
年(11.2%)から大幅に上昇した。この間(95∼05 年)の対米輸出の構成比が 27.3%か
ら 22.6%へ低下したのとは対照的な結果である。日本から中国へ部品を輸出し、中国で
組み立てた製品を米国に輸出する「中国経由の対米輸出」も少なくないが、日本経済に
とって中国経済の動向は重要度を高めている。
05 年の中国経済は、固定資産投資と輸出がけん引役となり、実質成長率は 9.9%と3
年連続で 10%前後の高成長を記録した(図表9)。先行きについては、貿易黒字の急増
による欧米との貿易摩擦や人民元の切上げが輸出環境の悪化要因になる恐れがある。た
3
パソコンの基本ソフト(OS)で、2001 年 10 月に発売された「Windows XP」の次世代版。デジタルAV機能が拡充されており、デバイスの技術
革新と大量消費をもたらすソフトウエアとして注目されている。
3
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
©信金中央金庫 総合研究所
だ、政府は5か年計画の重点課題とし
(図表9)中国の実質成長率の推移と予測
て、個人消費主導による内需拡大を掲
(%)
12
予測
10.9
げている。今年1月からは、①個人所
10.0
9.8
10.0 10.1 9.9 9.5
9.5
10
9.2
9.0
9.3
9.1
得税の基礎控除の引上げ、②農業税の
8.4 8.3
7.8 7.6
撤廃による農民負担の軽減と貧困農 8
家などに対する直接補助の拡充、とい 6
った消費刺激策が実施されている。こ
4
れによって、都市部の中低所得者層の
消費拡大が期待されるほか、重税に苦 2
しんでいた農民の消費も底上げされ 0
95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 (年)
る可能性がある。中国経済をけん引す
(備考)中国国家統計局、予測は信金中金総合研究所
る固定資産投資についても、西部大開
発や 08 年の北京オリンピック(08 年8月8日∼8月 24 日)に向けたインフラ投資が高
い伸びを維持するとみられ、当面は高めの成長持続が予想される。
北京オリンピック関連の需要が一巡する 08 年後半以降は、成長テンポがスローダウン
しようが、引き続き世界経済の拡大に大きく寄与する公算が大きい。
(5)シリコンサイクルは上昇トレンドに転換∼世界的なIT関連需要は回復へ
シリコンサイクル(半導体景気循環) (図表 10)世界半導体出荷額の前年比
が上昇トレンドに転換したことも、日
(%)
60
本の景気回復の持続にとって追い風と 50
なろう。世界の半導体出荷額は、05 年 40
30
7月に前年比 0.0%まで鈍化したもの 20
の、その後は徐々に増加テンポを高め 10
0
ている(図表 10)。
-10
06 年は、半導体需要の大きい薄型テ -20
レビが本格普及期に入ってくるとみら -30
-40
れることがプラス要因となろう。06 年 -50
6月のサッカー・ワールドカップ終了 -60
96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06(年)
後には、一時的にデバイス需要が停滞
(備考)「Semiconductor Industry Association」資料より作成
する可能性もあるが、前述したように、
06 年後半にはデバイスの大量消費をもたらす次世代OS「Windows Vista」の発売が予
定されており、半導体需要は底堅く推移するとみられる。さらに、北京オリンピック開
催に伴うデジタル家電の需要拡大を取り込むために、電機各社は 07 年半ばから量産体制
を強化する可能性が大きい。
ちなみに、WSTS4の予測によると、世界半導体出荷額の前年比は、05 年の 6.8%増
から、06 年には 8.0%増、07 年には 10.6%増と伸びを高めると予測している。
4
WSTS(World Semiconductor Trade Statistics、世界半導体市場統計)
4
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
©信金中央金庫 総合研究所
2.構造調整の一巡で、設備投資は中期的にも拡大局面
(1)企業収益の拡大持続を背景に、企業の投資余力は一段と高まる
設備投資(実質GDPベース)は、 (図表 11)名目設備投資と機械受注の推移(年率換算)
機械受注 (兆円)
(兆円)
1∼3月
機械受注
05 年 10∼12 月まで7期連続で前期比 80
見通し
(船舶・電力を除く民需)
右目盛
78
13
プラスとなった(1次速報)。先行指
76
標である機械受注(船舶・電力を除く 74
12
民需)は、05 年 10∼12 月まで5期連 72
続の前期比プラスを記録、06 年1∼3 70
11
月の受注見通しも前期比 1.3%増が見 68
66
込まれるなど、先行きについても堅調
10
64
設備投資
持続が予想される(図表 11)。
62
(名目GDPベース)
左目盛
設備投資の拡大が続いている最大 60
9
98
99
00
01
02
03
04
05
06 (年)
の要因は、企業収益の回復である。財
(備考)内閣府「機械受注統計」などより作成
務省の法人企業統計季報によると、全
産業ベースの経常利益は 02 年度に増益に転じ、04 年度には前年比 24.6%増と大幅に拡
大した。05 年度の経常利益は、原油価格など原材料価格の大幅上昇で伸びが鈍化しよう
が、06 年度は、原油など原材料価格の上昇テンポが鈍化するとみられ、内外需の堅調を
背景に企業収益の増益基調は維持されよう(図表 12)。
設備投資は順調に回復してきたが、企業収益の拡大に伴って増大するキャッシュフロ
5
ー に比べると、そのテンポは緩やかである(図表 13)。これは、財務面でのリストラを
優先してきたことが背景にある。しかし、バランスシート調整がほぼ終了したことで、
今後、企業は余剰資金を積極的に設備投資へ振り向けていくと考えられる。特に、大企
業を中心とした上場企業では、企業買収のリスクを回避するためにも経営資源を有効活
用して、株主価値を高める必要に迫られている。資金面での高い投資余力は、今後の設
備投資の持続的な拡大に大きく寄与しよう。
(図表 12)企業収益と設備投資の前年比
(図表 13)キャッシュフローと設備投資(年率)
(%)
40
(兆円)
70
経常利益の前年比
30
60
20
50
10
40
0
キャッシュフロー
設備投資
経常利益×0.5
30
-10
20
-20
-30
10
設備投資の前年比
-40
0
94 95 96 97 98 99 00 01 02 03
(備考)財務省「法人企業統計季報」より作成
5
減価償却費
04
05 (年)
85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05(年)
(備考)1.4期移動平均値
2.キャッシュフロー=経常利益×0.5+減価償却費
3.財務省「法人企業統計季報」より作成
キャッシュフロー=経常利益×0.5+減価償却費
5
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
©信金中央金庫 総合研究所
(2)過剰設備の調整一巡で、設備投資のすそ野が広がる
過剰設備の調整一巡も、先行き
(図表 14)過剰設備の推移
の設備投資を押し上げる要因とな
(兆円)
67.3
70
ろう。
60
54.4
財務省の法人企業統計季報のデ
50
43.4
ータから、企業の過剰設備を試算
40
29.6
してみると(図表 14)、バブル崩
23.7
非製造業
30
壊以降、2度の景気回復局面では
ともに過剰設備は縮小したものの、 20
製造業
10
過剰が解消されるには至らなかっ
0.5
0
た。しかし、今回の景気回復局面
-9.5
では、企業のリストラが一段と強 -10
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 (年)
化されたほか、大規模な合併など
(備考)1.対売上高資本ストック(有形固定資産+建設仮勘定)比率の
トレンド線(78∼89 年)からの上方かい離を過剰設備とした。
で余剰設備の統廃合が進められた。
2.4期移動平均値。財務省「法人企業統計季報」より推計
同時に、内外需の回復テンポが高
まったこともあって、過剰設備の調整は大きく進展し、足元では供給力が不足気味の状
況となっている。
多くの企業で過剰設備の調整が一巡したことで、設備投資のすそ野が広がっている。
例えば、前回の景気回復局面(99 年 1 月<谷>∼00 年 11 月<山>)における設備投資の動
きを日銀短観調査でみると、回復の大部分が電気機械であり、非製造業については回復
の動きはみられなかった。しかし、今回の回復局面では、03 年度から製造業、非製造業
とも増加傾向にある。特に、05 年度計画(05 年 12 月調査)では、非製造業の増加テン
ポが加速し、全体の伸びが高まる見通しとなっている。製造業については、04 年度にけ
ん引役となった電気機械が 05 年度に大幅に鈍化する見込みだが、鉄鋼や化学など素材産
業がその分を補う格好になっている(図表 15)。
設備投資のけん引役が、①製造業から非製造業、②電気機械から素材産業など、適度
に入れ替わっていることが、息の長い設備投資の回復に結び付いている。
(図表 15)設備投資の前年比と業種別寄与度
20
(%)
<製造業>
8
15
6
10
4
5
2
0
(%)
<非製造業>
0
その他加工
輸送機
電気機械
その他素材
鉄鋼非鉄
化学
-5
-10
-15
-2
その他
不動産
電気ガス
リース
運輸
通信
-4
-6
-20
-8
98
99
00
01
02
03
04
05(年度)
(計画)
98
99
00
01
02
03
04
05 (年度)
(計画)
(備考)日銀短観より作成
6
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
©信金中央金庫 総合研究所
(3)設備投資は中期的にも拡大傾向を維持する公算大
設備投資は 03 年度から増加が続いているものの、不採算設備の廃棄を並行して進めて
いる結果、生産能力はさほど高まっていない。製造工業の生産能力指数(00 年=100)を
みると、97 年 11 月の 102.5 をピークにほぼ一貫して低下し、設備投資が増加に転じた
03 年度以降も横ばい圏の動きが続いた。05 年4月をボトムに上昇しているものの、05
年 12 月時点でも 91.9 と低水準にとどまっている(図表 16)。堅調な内外需に支えられ、
設備稼働率が上昇を続けていることもあって、今後、能力増強投資を積み増す動きが広
がる公算が大きい(図表 17)。
(図表 16)生産能力指数(製造工業)の推移
(図表 17)設備稼働率の推移
(%)
(00年=100)
105
97年11月
102.5
120
115
100
110
05年12月
91.9
105
95
100
95
90
87年4月
91.0
90
05年4月
91.1
85
85
86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 (年)
86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05(年)
(備考)1.シャドー部分は景気後退期
2.経済産業省「生産・出荷・在庫」より作成
(図表 18)資本ストック循環図
20
︵
0%
1%
2%
3%
4%
5%
91.1-3
(山)
期待成長率の上昇
15
05.10-12
(直近)
設
備 10
投
資 5
の
前
年 0
比
、
97.4-6
(山)
86.10-12
(谷)
00.10.12
(山)
-5
%
93.10-12
(谷)
︶
中期的には、企業の期待成長率
の高まりが、設備投資の回復を長
期化させる要因となろう。ここで、
縦軸を設備投資の増加率、横軸を
「設備投資/資本ストック」とし
た資本ストックの循環図 6 をみる
と、バブル崩壊以降、企業の期待
成長率の低下を反映して、大きく
左方へシフトした(図表 18)。し
かし、04 年頃からは景気回復が明
確となり、企業は資本ストックを
積み増すために、設備投資を増や
している。
(備考)1.シャドー部分は景気後退期
2.経済産業省「生産・出荷・在庫」より作成
-10
02.1-3
(谷)
-15
5
6
99.1-3
(谷)
7
8
9
10
11
12
(前年の設備投資/前年末の資本ストック、%)
(備考)1.点線は期待成長率に見合う水準の双曲線
2.グラフ上のプロットは景気の「山」、「谷」
3.内閣府資料より作成。05 年 10∼12 月は信金中金総合研究所推定
6
縦軸を設備投資の増加率、横軸を「設備投資/資本ストック」とした循環図を描くと、その軌跡は期待成長率に見合った双曲線上を時計回
りに循環する。仮に、企業の期待成長率が高まれば、その水準に見合うまで資本ストックを増やそうとするため、設備投資の増加が長期化す
ることになる。
7
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
©信金中央金庫 総合研究所
企業の期待成長率は、景気回復の持続とデフレ脱却が視野に入ってきたことで、今後
一段と高まる可能性がある。足元の曲線が依然として期待成長率1%の双曲線の近辺に
あることから判断すると、今後の設備投資の拡大余地はなお大きいと考えられる。
3.所得・雇用環境の改善を背景に、個人消費は堅調持続へ
(1)回復の勢いが増してきた家計の所得・雇用環境
家計所得は回復の勢いを増しつつある。厚生労働省の毎月勤労統計(事業所規模5人
以上)によると、現金給与総額(1人当たり)の前年比は、05 年4∼6月に2年ぶりの
プラスに転じ、10∼12 月は 1.1%増と3期連続で増加した(図表 19)。企業収益の拡大
が続くなか、ボーナスの増額などで雇用者に還元する動きが広がってきたためである。
パートに比べて賃金の高い正社員の採用が増加していることも、家計全体の所得増に
寄与している。「団塊の世代7」の大量定年退職が始まる 07 年を前に、企業が正社員の
採用を増やし始めていることが背景にある。毎月勤労統計の常用雇用者8の前年比をみる
と、パートの伸びが頭打ちになる反面、正社員にほぼ相当する一般労働者(フルタイム
で働く派遣労働者を含む)は、05 年1月以降増加を続け、徐々に増加ペースが高まって
いる。
雇用者全体(労働力調査)でみても、増加テンポは高まっている。05 年 10∼12 月の
雇用者数は、前年比 1.2%増と今回の景気回復局面で最も高い伸びを示した。この結果、
雇用者数に1人当たり賃金を乗じた家計全体の所得は、05 年 10∼12 月に前年比 2.3%増
と 97 年7∼9月以来の高い伸びとなった(図表 20)。
(図表 19)現金給与総額の前年比と寄与度
(図表 20)家計全体の所得の前年比
(%)
(%)
3.0
2.0
ボーナスの寄与
5.0
残業代の寄与
4.0
賃金の寄与
所定内給与の寄与
3.0
雇用者数の寄与
1.0
2.0
0.0
1.0
0.0
-1.0
-1.0
-2.0
-2.0
-3.0
-3.0
-4.0
-5.0
97
98
99
00
01
02
03
04
05 (年)
97
98
99
00
01
02
03
04
05 (年)
(備考)1.賃金は事業所規模5人以上の名目賃金、雇用者
数は労働力調査ベース
2.厚生労働省「毎月勤労統計」などより作成
(備考)1.現金給与総額はパートも含めた1人当たりの平均額
2.厚生労働省「毎月勤労統計」より作成
7
家計全体の
所得の前年比
-4.0
現金給与総額の前年比
1947 年から 1949 年(昭和 22 年から昭和 24 年)生まれが「団塊の世代」と呼ばれている。
8
常用雇用者は、①期間を定めず雇われている者、②1か月を超える期間を定めて雇われている者、③1か月以内の期間を限って雇われて
いる者のうち、前2か月にそれぞれ 18 日以上雇われた者と定義される。その常用雇用者は一般労働者とパートタイム労働者に区分され、①1
日の所定労働時間がその事業所の一般労働者より短い者、②一般労働者と1日の所定労働時間が同じでも1週間の所定労働日数が少ない
者がパートタイム労働者と定義される。
8
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
©信金中央金庫 総合研究所
所得・雇用環境が改善に転じた最大の要因は、ここ数年のリストラで企業の過剰雇用
の調整が進展したことにある。雇用調整の進捗度合いをGDPベースの労働分配率9から
みてみると、バブル崩壊以降、高原状態が続いていたものの、今回の景気回復が始まっ
た 02 年以降、低下トレンドに転じた(図表 21)。特に、03 年から 04 年にかけて、景気
の回復が続く一方で、企業がリストラの手綱を緩めなかったこともあって、労働分配率
は大きく低下し、足元では 80 年代の平均水準を下回っている。労働分配率は、ほぼ適正
なレベルまで調整が進んだと考えられる。今後は、大幅に増加した企業収益を、家計部
門へ還元する動きが強まると予想される。
すでに、大企業を中心にボーナスを大幅に増やす企業が増加している。景気の回復で
人手不足感も強まっており、人件費の増加を容認する傾向が広がっている。例えば、内
閣府の「企業行動に関するアンケート調査」をみると、企業は、今後3年間(05∼07 年
度)で、雇用者数を年平均 0.8%増やす計画となっている。雇用の増加計画が打ち出さ
れたのは、実に 93 年以来 12 年ぶりである(図表 22)。
(図表 21)労働分配率の推移
61
(図表 22)今後3年間の雇用者数の年平均増減率
(%)
2.0
60
59
(%)
1.1
0.8
1.0
80年代の平均
58
0.0
57
-0.3
-1.0
56
55
-0.7
-0.8
-0.7 -0.6 -0.6
-1.1
-1.7
-2.0
54
-0.6
-1.9
-2.3
53
-3.0
80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 (年)
(備考)1.労働分配率=雇用者報酬÷帰属家賃を除く名目GDP
2.内閣府資料より作成
93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05(年)
(備考)1.05 年の見通しは 05∼07 年度の年平均増加率
2.内閣府「企業行動に関するアンケート調査」より作成
(2)家計の税・社会保障負担増が可処分所得の抑制要因
一方、家計の税・社会保障負担増が可処分所得の下押し要因となる(図表 23)。06 年
1月からは、定率減税の減税幅が半分に縮小され、平年度ベースでは国税1兆 2,500 億
円、地方税 4,000 億円の税負担が増加する。4月からは介護保険料が引き上げられ、7
月からはたばこ税が増税となる。国民年金・厚生年金保険料は、2017 年度まで毎年引き
上げられる。一方、少子化対策の一環として、児童手当の支給対象が現行の小学校3年
生から6年生へ拡大されるとともに、所得制限も緩和される予定である。これは、家計
への給付の増加となるが、これを差し引いても 06 年度の家計の税・社会保障負担は、05
年度に比べて 2.5 兆円程度(可処分所得の 0.9%程度)増加すると試算される。
さらに、07 年1月には定率減税が廃止されることが、ほぼ確実視されている。これに、
年金保険料などを加えた 07 年度の税・社会保障負担増は、06 年度に続き2兆円を上回
ると試算される。
9
労働分配率=雇用者報酬÷帰属家賃を除く名目GDP
9
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
©信金中央金庫 総合研究所
今回の予測では、08 年4月から消費税率が現行の5%から7%へ引き上げられると想
定した。消費税率の引上げによる家計の税負担増は4兆 8,000 億円程度とみられ、年金
保険料の負担増などを加えると、08 年度の家計の税・社会保障負担増は 5.3 兆円に達す
ると予想される。
(図表 23)05 年以降の税・社会保障制度の変更に伴う家計の負担増減額
ポイント
実施年月
05 年 1 月
高齢者への所得課税強化(老年者控除の廃止など)
(平年度、国税 2,400 億円+住民税 1,400 億円)
負担額
(※)年度計
400 億円
04 年度計
1.1 兆円
〃
国民年金保険料の引上げ(月 280 円)
月 1 万 3,300 円→2017 年度・月 1 万 6,900 円
雇用保険料引上げ(1.4%→1.6%労使折半)
1,500 億円
6月
配偶者特別控除・上乗せ分控除廃止(住民税)
1,700 億円
9月
厚生年金保険料の引上げ(毎年 0.354%労使折半)
定率減税の縮小(半減)
全廃で国税 2 兆 5,000 億円、住民税 8,000 億円の負担増
4,000 億円
05 年 4 月
06 年 1 月
06 年 4 月
〃
〃
6月
700 億円
国民年金保険料の引上げ(月 280 円)
1,800 億円
700 億円
介護保険料の引上げ
2,600 億円
2,600 億円
(受取り増)
児童手当の支給対象拡大(小学 3 年→小学 6 年)と
所得制限の緩和
住民税の定率減税縮小
3,300 億円
〃
高齢者への所得課税強化(住民税)
1,200 億円
7月
たばこ税の増税(年間 1,800 億円)
1,400 億円
9月
厚生年金保険料の引上げ(毎年 0.354%労使折半)
4,000 億円
10 月
70 歳以上の高所得者の医療費窓口負担引上げ
07 年 1 月
05 年度計
1.2 兆円
定率減税の廃止
07 年度
国民年金、厚生年金保険料の引上げ
定率減税廃止に伴う 07 年度負担増分など
08 年度
国民年金、厚生年金保険料の引上げ
消費税率引上げ(5%→7%、4兆 8,000 億円)
800 億円
06 年度計
1,800 億円
2.5 兆円
07 年度計
2.1 兆円
08 年度計
5.3 兆円
(備考)1.(※)年度計には、制度変更の平年度化に伴う負担増を含むため、内訳の合計とは一致しない。
2.定率減税は 07 年に廃止、消費税率は 08 年4月に5%から7%へ引き上げられると想定した。
3.信金中金総合研究所作成
ただ、06∼07 年度の2兆円台の税・社会
保障負担増は、雇用者報酬の伸びが高まる
ことで吸収できよう。実際、05 年4∼12
月の雇用者報酬は前年比 1.7%増に達し、
05 年度合計では前年比 1.8%増(同 4.5 兆
円増)と5年ぶりにプラスに転じる見通し
である(図表 24)。
前述したように、雇用調整が一巡したこ
とで、今後は家計部門にも景気回復の恩恵
が本格的に波及してくると予想される。雇
用者報酬は 06 年度から 07 年度にかけて前
年比2%を上回る上昇になろう。
(図表 24)可処分所得の前年比の推移と予測
12
10
8
6
(%)
年金など社会保障受取
財産所得・営業余剰など
直接税・社会保障負担
予測
雇用者所得
可処分所得
4
2
0
-2
-4
-6
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10(年度)
(備考)内閣府資料より作成。予測は信金中金総合研究所
10
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
©信金中央金庫 総合研究所
(3)個人消費は安定成長軌道へ
(図表 25)消費者態度指数の推移(季節調整値)
景気回復の恩恵が、賃金の増加と
(% )
いう形でようやく家計にも波及して 55
消費者態度指数
きたことで、今後の個人消費は安定 50
45
成長軌道をたどると予想される。
所得の回復は、直接的に個人消費 40
の増加に寄与することに加え、雇用 35
不安の解消と相まって消費者マイン 30
ドを押し上げる効果がある。消費者 25
雇用環境
マインドを示す消費者態度指数10(四 20
半期ベースの季節調整値)は、雇用 15 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05
(年 )
環境の好転や収入の増加を反映して、 (備考)1.シャドー部分は景気後退期。内閣府「消費動向調査」より作成
05 年 12 月調査では 48.2 ポイントと
91 年6月調査(48.6 ポイント)以来 14 年半ぶりの高水準を記録した(図表 25)。消費
者マインドの改善は、個人消費の安定成長を下支える要因となろう。
ここ数年の所得の伸び悩みで抑制されていた需要、いわゆる「ペントアップ・デマン
ド」の顕在化も今後の個人消費の回復に寄与しよう。最近の所得回復で、90 年代に購入
された耐久財等の買替えの動きが出始めてきたが、なお潜在的な買替え需要は大きいと
考えられる。例えば、代表的な耐久財の一つである「白モノ家電(洗濯機、冷蔵庫)」
の国内出荷台数は、90 年代に年間 500 万台前後で推移していたが、所得の減少で 02∼03
年には年間 400 万台強まで落ち込んだ(図表 26)。04 年以降はやや持ち直しているが、
潜在的な買替え需要は依然として大きいと考えられる。
耐久財消費のけん引役としては薄型テレビが期待される。液晶とプラズマを合わせた
薄型テレビの出荷台数は、05 年にブラウン管テレビを上回った(図表 27)。今後は、量
産効果による価格の低下で、ブラウン管テレビからの買替え需要が拡大すると予想され
る。また、08 年には北京オリンピックの開催が控えているほか、2011 年にはアナログ放
送が廃止されることなどから、中期的にも薄型テレビの需要は拡大するとみられる。デ
ジタル家電を中心とした耐久財消費は、中期的にも個人消費の押上げに寄与しよう。
(図表 26)白モノ家電の国内出荷台数
(図表 27)テレビの国内出荷台数
(万 台 )
(万 台 )
580
1000
560
540
800
520
600
500
480
400
460
440
420
薄 型 テ レ ビ (液 晶 + プ ラ ズ マ )
冷蔵庫
洗濯機
200
400
ブラウン管テレビ
0
85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 (年 )
(備考)経済産業省「生産・出荷・在庫」より作成
95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 (年 )
(備考)電子情報技術産業協会(JEITA)資料より作成
10
今後半年間に今より「良くなる」に(+1)、「やや良くなる」に(+0.75)、「変わらない」に(+0.5)、「悪くなる」に(0)の評価を与え、各回答区分の構成比
(%)を乗じて合計して算出する。
11
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
©信金中央金庫 総合研究所
4.安定成長に向けた中長期的な課題は労働力の確保
(1)2005 年に減少に転じた日本の総人口
日本経済は、バブル崩壊後の構造調
(図表 28)年齢別将来推計人口
予測
整の一巡で、民需主導による景気の本
(万 人 )
格回復が展望できる状況にある。長期 12000
に及ぶデフレ経済からの脱却も視野に 10000
入ってきたことで、先行きの景気見通
8000
65歳 以 上
しには明るさが広がっている。ただ、
6000
15∼ 64歳
0∼ 14歳
中長期的には、人口の減少によって労
4000
働力の供給制約が発生し、潜在成長力
2000
を押し下げる恐れがある。
0
80
85
90
95
00
05
10
15
20 (年 )
国勢調査の人口速報によると、日本
(備考)国立社会保障・人口問題研究所による推計値(中位推計)
の総人口は 05 年に減少に転じた。予想
以上のペースで少子化が進んでいることで、政府の予測より2年早く人口減少社会に突
入した。政府が拡充を進めている少子化対策にも即効性はなく、日本の人口は長期的に
減少傾向で推移しよう(図表 28)。
労働力の中核を担う生産年齢人口(15∼64 歳人口)は、すでに 96 年から減少に転じ
ている。これまでは、不況の影響で企業の人事戦略が人員削減に傾斜していたため、労
働力の供給減少による問題は表面化しなかった。しかし、景気の回復で人手不足感が強
まってきたうえ、07 年からは「団塊の世代」の大量定年退職が始まることもあって、企
業の採用意欲は上向いている。一方、若年人口の減少が続くなか、労働力の供給には限
りがある。国立社会保障・人口問題研究所の人口推計によると、団塊の世代の定年退職
が始まる 07 年に 60 歳に到達する人口は 215 万人と、同年の大卒相当に当たる 23 歳人口
の 151 万人を大幅に上回る見通しである。
(2)ニートなど非労働力化した求職意欲喪失者の活用が急務
仮に、今後5年間(06∼10 年)の男女別・年齢別の労働力率11が、05 年の水準にとど
まった場合、年齢構成の変化によって労働力人口(就業者+失業者)は年平均 33 万人減
少すると試算される。
ただ、雇用環境が大きく悪化した 97 年後半以降、失業者が求職活動を見送ったり、パ
ート労働の主婦が職探しを休止したことなどで、離職者の非労働力化12が進んだ。さらに、
企業の採用抑制で、若年層の就職環境が大きく悪化し、ニート13という無業者が増加した。
こうした離職者や無業者は、統計上の労働力人口からは除かれているが、職業訓練等で
11
労働力率=15 歳以上の人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合=(労働力人口÷15 歳以上人口)×100
12
離職した場合、通常は失業者となるが、統計上の完全失業者は、①現在仕事がない、②すぐに就業が可能、③仕事を探している、の3条
件を満たすことが条件となる。この③の条件のために、職を失っても職探しをしていない者、職探しを一時的に中断している者は、実質的に失
業者であっても統計上は失業者ではなく、非労働力人口となる。
13
ニート(NEET)とは「Not in Employment, Education or Training」の略語。就業も在学もせず、職業訓練も受けていない「無業」の若者で、親
に「パラサイト(寄生)」して生活しているケースが多い。
12
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
©信金中央金庫 総合研究所
(図表 29)求職意欲喪失者数(推計)
ある程度のスキルアップが達成されれば、
新たな労働力人口として十分期待できる。
ちなみに、就職活動を中断している離職
者やニートなどを求職意欲喪失者 14 として
試算してみると、05 年の求職意欲喪失者は
82 万人程度となる(図表 29)。統計上、非
労働力人口に計上されている求職意欲喪失
者が労働市場に復帰すれば、今後の労働力
人口の減少をある程度補うことは可能と考
えられる。
(万人)
80.3 81.5
80
70
59.4
60
51.7
50
40
29.9
30
20
10
8.5
12.9 14.7
1.5
0
97
98
99
00
01
02
03
04
05 (年)
(備考)1.求職意欲喪失者の推計方法は備考 14 の通り
2.総務省「労働力調査」より信金中金総合研究所が推計
(3)雇用のミスマッチ縮小も労働力の確保に向けた課題
労働力の確保は、90 年代後半から拡大した雇用のミスマッチを縮小させることでも可
能となる。失業率をミスマッチなどによる構造的失業と景気変動による需要不足失業に
分解してみると、需要不足失業率は、雇用情勢が大幅に悪化する前の 97 年前半頃の水準
まで改善したが、構造的失業率は依然として高い水準にある(図表 30)。ただ、過剰雇
用の調整が一巡し、景気回復の持続で人手不足感が一段と強まったことから、企業は採
用条件(年齢や性別、賃金など)を緩和させ始めている。新卒者や正社員の採用を増や
す企業が増えてきたため、正社員を希望する求職者とのギャップは縮小しており、構造
的失業率も緩やかながら改善方向にある。
(図表 30)構造的失業率と需要不足失業率
(%)
5.5
5.0
4.5
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
-0.5
02年7∼9月
5.4%
完全失業率
10∼12月
4.5%
4.1%
構造的失業率
(03年4∼6月、4.3%)
需要不足失業率
(01年10∼12月、1.2%)
0.4%
80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 (年)
(備考)1.Ln(雇用失業率)=α+βLn(欠員率)を推計し、失業と欠員が等しい時の失業率を構造的雇用失業率と
して、Ln(構造的雇用失業率)=(Ln 雇用失業率−βLn 欠員率)÷(1−β)から算出
2.雇用失業率=失業者数÷(雇用者数+失業者数)、欠員率=未充足求人数÷(雇用者数+未充足求人数)
3.需要不足失業率=完全失業率−構造的失業率。( )内は各失業率のピーク時期と水準
4.シャドー部分は景気後退期。総務省資料などより信金中金総合研究所が推計
14
男女別・年齢別の労働力率は景気変動の影響で変化するが、中長期的には比較的安定している。しかし、雇用環境が悪化した 97 年後半
以降、若年層と男性で労働力率が大幅に低下した。そこで、20∼24 歳(男女)と 25∼64 歳(男性)の労働力率について、80 年から 97 年までの
平均を算出し、その平均からのかい離を求職意欲喪失者として試算した。
13
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
©信金中央金庫 総合研究所
05 年 10∼12 月の構造的失業率は 4.1%、同失業者数は 270 万に達しているが、ミスマ
ッチ失業率が 97 年前半の 3.0%程度まで縮小すれば、構造的失業者数は単純計算で 200
万人へ減少する。ミスマッチ失業をある程度解決できれば、就業者を 70 万人程度供給す
ることが可能になるということである。
(4)中長期的には労働環境を巡る制度やインフラの整備が必要
今回の予測期間中(06∼10 年度)は、ニートなど求職意欲喪失者の活用やミスマッチ
の縮小などで、労働供給をある程度確保できると考えられる。ただ、団塊の世代が 65 歳
に到達する 2012 年以降は、労働力の確保がより大きな問題になる可能性がある。この影
響を最小限に抑制するためには、女性の労働参加率の引上げや高齢者の労働市場への再
参入を促すような制度やインフラの整備が必要といえよう。
また、中長期的に潜在成長率を維持・向上させていくためには、資本ストックの蓄積
に加えて、技術革新によって生産性を引き上げることが重要な課題となろう。
5.民需主導の自律回復の実現で景気は安定成長軌道へ
(1)06∼10 年度の年平均成長率は名目 2.4%、実質 1.9%と予測
06∼10 年度の年平均成長率は
(図表 31)実質・名目成長率の中期見通し
名目 2.4%、実質 1.9%と予測し
(%)
予測
4
3.3
た(図表 31)。設備・債務・雇用
2.8
3
2.3
の「3つの過剰」の調整が一巡し
2.7
2
2.5
たことで、06 年度からは民需主導
1.1
2.2
1.7
1.7
1
の自律回復局面に入ると予想さ
0.3
0
れる。
今回の中期予測の前提として、 -1
-0.8
実質GDP
名目GDP
08 年4月から消費税率が現行の -2
5%から7%へ引き上げられる -3
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 (年度)
と想定している。07 年度末にかけ
(備考)1.図表中の計数は実質成長率
て、個人消費や住宅投資の駆込み
2.内閣府資料より作成。予測は信金中金総合研究所
需要が盛り上がり、景気を下支え
するとみられるが、08 年度はその反動減や海外景気の減速で、日本経済も調整局面を迎
えると予想される。
ただ、構造調整を終えた日本経済の基盤は底堅く、ストック調整圧力も軽微にとどま
る。家計の税・社会保障負担増も峠を越えるため、調整は比較的短期間で終息しよう。
09 年度以降は、巡航速度での安定成長軌道をたどると予測した。
景気回復の持続による需給ギャップの縮小で、06 年度にはデフレ状態から脱却しよう。
GDPデフレーターは 06 年度に下落が止まり、07 年度以降は、実質成長率が名目成長
率を上回る「名実逆転」が解消されると予測した。
14
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
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(2)今後5年間の景気動向
<06 年度>∼構造調整の一巡で民需主導の自律回復局面へ
06 年度はシリコンサイクルの上昇で、世界的なIT関連需要の回復テンポが高まろう。
海外経済については、米国が利上げ効果の浸透でやや減速するものの、基調としては底
堅く、中国を中心としたアジア経済も引き続き堅調に推移しよう。日本の輸出環境は良
好な状態が維持される公算が大きい。実質輸出は前年比 8.2%増と予測した。
設備投資は 03 年度から増加が続いているものの、不採算設備の廃棄を並行して進めて
いる結果、生産能力はさほど高まっていない。企業収益の拡大持続で資金面での余力も
高く、企業の投資意欲は根強いものがある。なかでも、需要拡大が続く薄型テレビやそ
の周辺部品、携帯電話関連など情報通信の分野では、大規模な能力増強や新工場建設が
計画されている。08 年夏の北京オリンピック開催に伴うデジタル家電の需要を取り込む
ためには、07 年半ばまでに量産体制を整える必要があり、電機各社は 06 年度に集中投
資を実施する可能性がある。アジアからの引合いが旺盛な鉄鋼や非鉄金属、化学など素
材産業でも高水準の設備投資が続くとみられる。06 年度の実質設備投資は前年比 6.0%
増と堅調が続くと予測した。
06 年度には家計部門にも景気回復の恩恵が本格的に波及してくると予想される。ここ
数年のリストラで労働分配率が大きく低下するなど、企業の過剰雇用の調整は一巡した。
06 年度には雇用者への還元が本格化しよう。一方、06 年1月から定率減税の減税幅が半
分に縮小された。06 年度の家計の税・社会保障負担は、前年度比 2.5 兆円程度(可処分
所得の 0.9%程度)増加すると試算される。ただ、雇用者所得の伸びが高まることで、
税・社会保障負担の増加は、ほぼ吸収できるとみられる。06 年度の実質個人消費は前年
比 2.2%増と 05 年度に続き2%台の伸びを維持すると予測した。
<07 年度>∼消費税率引上げ前の駆込み需要が成長率を下支え
07 年度は、デジタル関連投資の一巡で設備投資の拡大が一服すると予想される。ただ、
国内外の需要が底堅く推移すると想定しており、設備投資が大幅に落ち込む可能性は小
さい。実質設備投資は前年比 3.4%増と予測した。
一方、家計部門は引き続き堅調に推移しよう。07 年度も税・社会保障負担の増加が下
押し要因ではあるが、企業収益の雇用者への還元が続くと予想される。個人消費は 05∼
06 年度に高めの伸びを見込んでおり、07 年度前半は増勢がやや鈍化するとみられる。た
だ、08 年4月から消費税率が現行の5%から7%へ引き上げられると想定しており、年
度末にかけて駆込み需要が盛り上がる可能性が大きい。実質個人消費は前年比 2.3%増
と予測した。
住宅投資は、基調として横ばい圏の動きが続くと予想される。ただ、07 年度は、消費
税率引上げ前の駆込み需要が見込まれ、実質住宅投資は前年比 3.2%増と伸びを高めよ
う。
<08 年度>∼消費税率引上げで家計部門を中心に急減速
08 年度は消費税率の引上げ(5%→7%)で家計の実質購買力が低下する。実質個人
消費は、07 年度末の駆込み需要の反動もあって、前年比 0.3%増と減速すると予測した。
15
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
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北京オリンピックが開催される夏場を境に、デジタル家電の需要拡大が一服するとみ
られ、シリコンサイクルはピークアウトしよう。米国経済は設備投資の減速で調整局面
を迎えると想定しており、日本の輸出拡大にもブレーキがかかろう。国内外の需要鈍化
で、生産活動は在庫調整局面に入るため、企業部門も減速すると予想される。08 年度の
実質成長率は 0.3%へ減速し、02 年1月を「谷」とする景気の拡大局面が終了すると予
測した。
<09 年度∼10 年度>∼巡航速度での回復軌道に復帰へ
08 年度に景気は調整局面を迎えるものの、構造調整が一巡した日本経済の基盤は底堅
く、09 年度には回復しよう。定率減税の廃止や消費税率の引上げなど、家計の税・社会
保障負担増が峠を越えることで、個人消費が早い段階で持ち直すとみられる。09 年度か
らは個人消費をけん引役に安定成長軌道をたどると予測した。
(3)06 年度には需給ギャップ解消へ
06 年度からは民需主導の自律回復局面に入ると想定しており、需給ギャップの縮小を
背景にデフレ状態から脱却しよう。
需給ギャップ(GDPギャップ)は、潜在GDP15(現存する資本と労働を全て利用し
た場合に可能となる供給力)に対する実際のGDPのかい離率として定義され、物価変
動圧力を評価する基本的な指標の一つとなっている。ここ数年の需給ギャップの推移を
みると(図表 32)、02 年1∼3月(マイナス 5.2%)を直近のボトムとして縮小方向に
転じ、05 年 10∼12 月にはマイナス 0.7%とバブル崩壊以降の回復局面では最小となった。
今後も 1.5%程度と考えられる潜在成長率を上回るテンポで景気回復が続くとみられ、
06 年度中にも需給ギャップは解消すると予想される。
(図表 32)需給ギャップとコア消費者物価の前年比
(%)
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
-1.0
-2.0
-3.0
-4.0
-5.0
-6.0
-7.0
コア消費者物価の前年比
GDPギャップ
85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 (年)
(備考)1.GDPギャップ=(実際のGDP−潜在GDP)÷潜在GDP×100
2.潜在GDPは、実際の成長から資本と労働の寄与以外の部分(全要素生産性)を求め、その全要素
生産性に資本・労働の最大(潜在)投入量を加えて算出した。
3.内閣府資料などより推計
15
潜在GDPは、コブ・ダグラス型生産関数を前提に、実際のGDPから資本と労働の寄与以外の部分である全要素生産性(TFP)を求め、そ
のTFPに資本と労働の最大投入量を加えて算出した。
16
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
©信金中央金庫 総合研究所
(4)07 年度以降は、GDPデフレーターもプラス圏へ
需給ギャップが縮小するにつれて、デフレ圧力は和らいでいる。実際、コア消費者物
価(生鮮食品を除く総合)は、05 年 10 月に前年比横ばいと下落に歯止めがかかり、11
月以降はプラス圏で推移している。06 年度は、ガソリンや灯油などの押上げ効果が縮小
し、電力料金の値下げや診療報酬の引下げが物価を押し下げる要因になるが、需給ギャ
ップが解消に向かうなか、財・サービス全般の物価は緩やかに上昇すると予想される。
需給ギャップの解消で、07 年度以降もコア消費者物価は安定的なプラス圏で推移しよう。
なお、06 年度には、消費者物価指数の基準年が現行の 00 年から 05 年に改定される(公
表は 06 年8月)。物価指数には基準年から離れるほど実勢に比べ上振れするバイアスが
あることに加えて、今回の改定では、技術革新による価格下落が著しいDVDレコーダ
ーや液晶テレビなどが新たな品目に加わる。前回(01 年)の改定では、パソコンの新規
採用などにより、月次ベースの前年比が 0.2∼0.3%程度押し下げられており、今回も基
準変更によって前年比騰落率が下方修正される可能性が大きい。
GDPデフレーターは、足元で大幅に下落しているが、原油価格高騰の影響で控除項
目である輸入デフレーターが高い上昇率となる一方で、最終財への転嫁が不十分なため、
製品一単位当たりの付加価値を示すGDPデフレーターが押し下げられている。06 年度
には、原油価格の上昇に歯止めがかかるとみられることから、GDPデフレーターも下
げ止まり、07 年度以降はプラス基調が定着すると予測した。
(5)景気回復とデフレ脱却で、金融政策は正常モードへ
日本経済は着実な成長軌道をたどり、消費者物価の前年比もプラス基調が定着してき
たとして、日銀は量的緩和解除の条件は満たされたと判断した。3月8∼9日の金融政
策決定会合で、日銀は量的緩和政策という「異常な事態に対する異常な政策」から、金
利をターゲットとする平時の金融政策へ転換した。
量的緩和解除後は、日銀当座預金残高が中立的水準(6∼8兆円程度)まで減少し、
短期金融市場の機能が回復するまではゼロ金利政策が維持されようが、デフレからの脱
却が予想される状況下で、ゼロ金利政策を長期にわたって継続する理由は乏しい。06 年
末までに、日銀はゼロ金利政策を解除、無担保コールレート(翌日物)の誘導目標を 0.25%
程度に引き上げよう。
07 年度も景気は底堅く推移し、コア消費者物価の上昇率は高まると予想される。日銀
は、景気後退期における金融の緩和余地を確保するといった観点からも、消費者物価上
昇率の高まりに応じて超低金利の是正を進めよう。コールレートの誘導目標は、07 年度
末までに 0.75%程度まで引き上げられると想定した。
景気が調整局面に入る 08 年度は、小幅な金融緩和が実施される可能性がある。ただ、
景気の調整は比較的軽微にとどまるとみられ、回復基調を取り戻す 09 年度以降は、消費
者物価の上昇率に見合った水準へ金利が引き上げられると想定した。
景気回復と政策金利の引上げに伴って、長期金利(10 年国債利回り)も徐々にその水
準を切り上げよう。ただ、長期金利の水準に大きな影響を与える名目成長率は、10 年度
でも 2.7%と想定している。財政再建路線も堅持されるとみられることから、長期金利
が急騰するリスクは小さく、景気回復に見合った「良い金利上昇」の範囲にとどまると
予想される。
17
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
©信金中央金庫 総合研究所
(総括表)06∼10 年度の経済見通し
(単位:%)
名目GDP
GDPデフレーター
実質GDP
個人消費
住宅投資
設備投資
在庫投資(寄与度)
政府最終消費
公共投資
純輸出(寄与度)
<輸出>
<輸入>
内需(寄与度)
為替レート(円/ドル)
完全失業率
消費者物価(除く生鮮食品)
経常収支(兆円)
貿易収支
サービス収支
所得収支
無担保コール翌日物(年度末)
10年国債利回り(年度平均)
(レンジ)
04年度
05年度
06年度
07年度
08年度
09年度
10年度
<実績>
<予測>
<予測>
<予測>
<予測>
<予測>
<予測>
0.5
▲1.2
1.7
1.7
1.7
5.4
▲0.3
1.8
▲12.4
0.5
11.4
8.7
1.2
107.5
4.6
▲0.2
18.21
13.48
▲3.92
9.64
0.001
1.52
1.27-1.94
1.9
▲1.3
3.3
2.4
▲0.6
8.1
0.1
1.7
▲1.6
0.4
8.3
5.9
2.9
113.5
4.4
0.1
18.41
9.77
▲2.57
12.09
0.001
1.40
1.10-1.70
2.7
0.0
2.7
2.2
1.3
6.0
0.2
1.6
▲4.3
0.3
8.2
6.7
2.5
113.0
4.0
0.4
19.54
10.10
▲2.53
12.79
0.25
1.90
1.50-2.20
2.8
0.3
2.5
2.3
3.2
3.4
0.2
1.6
▲2.6
0.2
6.4
5.9
2.3
110.0
3.8
0.7
20.70
10.90
▲2.58
13.16
0.75
2.40
2.00-2.80
1.4
1.1
0.3
0.2
▲2.2
2.3
▲0.2
1.6
▲2.4
▲0.0
3.9
4.5
0.4
113.0
3.7
2.2
19.20
10.11
▲2.52
12.38
0.50
2.20
1.80-2.60
2.1
0.4
1.7
1.5
▲0.2
4.1
0.0
1.6
▲2.0
0.0
4.3
4.7
1.8
115.0
3.5
0.9
18.96
10.00
▲2.73
12.41
0.75
2.60
2.20-3.00
2.7
0.5
2.2
1.7
0.5
4.4
0.1
1.6
▲1.8
0.2
6.0
5.5
2.0
115.0
3.2
1.3
19.91
10.94
▲3.03
12.70
1.25
2.80
2.40-3.20
06∼10年度
平均成長率
2.4
0.5
1.9
1.6
0.5
4.0
−
1.6
▲2.6
−
5.7
5.5
−
(備考)1.予測の前提として、07 年に定率減税が廃止され、08 年度に消費税率が2%引き上げられると想定した。
2.信金中金総合研究所予測
以 上
(角田 匠)
本レポートは、標記時点における情報提供を目的としています。したがって投資等についてはご自身の判断に
よってください。また、本レポート掲載資料は、当研究所が信頼できると考える各種データに基づき作成して
いますが、当研究所が正確性および完全性を保証するものではありません。
なお、記述されている予測または執筆者の見解は、予告なしに変更することがありますのでご注意ください。
18
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
©信金中央金庫 総合研究所
【内外経済・金融動向バックナンバーのご案内】
号
数
No.16-6
題
名
「市町村の社会・経済構造からみた都道府県の特性」
発行年月
2004 年 10 月
−各市町村が担う機能・役割の特性から地域社会・経済を分析−
No.16-7
「原油を中心とした商品市況高騰の背景と今後の展望」
2004 年 10 月
−地政学的リスクが薄れれば、原油相場は安定へ向かう可能性が大きい−
No.16-8
「物価動向と金融政策の行方」
2004 年 12 月
−05 年度のコア消費者物価はプラスに転じようが、量的緩和の解除は早くとも 06 年前半−
No.16-9
2004 年 12 月
「拡大EUとドイツの構造問題」
−EU拡大はドイツの空洞化を助長する恐れ。構造改革が喫緊の課題−
No.16-10 「県民経済計算からみた都道府県の経済構造」
2005 年2月
−大都市依存体質からの脱却には、地元資金の有効活用による民間活力の向上が必要−
2005 年3月
No.16-11 「日本経済の中期展望」
−05∼09 年の年平均成長率は名目 1.7%、実質 1.5%と予測−
No.16-12 「2004 年の地域経済の回顧と人口動態」
2005 年3月
−輸出産業の集積、公共投資依存度、人口動態が地域間格差の主因−
No.17-1
「人民元問題と中国の金融資本市場改革」
2005 年4月
−中国経済の国際化のためには人民元改革と対外資本取引の自由化が不可欠−
No.17-2
「設備投資は中期的にも上昇局面」
2005 年6月
−中小企業、非製造業にも回復のすそ野が広がる−
No.17-3
「2004 年度の中小企業の業況と経営課題」
No.17-4
「米国経済の見通しと双子の赤字」
2005 年7月
−財務体質は改善が続いたが、規模別・地域別格差は一段と拡大へ−
2005 年8月
−米国経済は減速後も拡大傾向を持続。双子の赤字の是正は中長期的問題−
No.17-5
「今後の人民元改革のシナリオと日本経済・産業界への影響」
2005 年8月
−年内にも人民元は再切上げ、産業界は対中戦略の見直しが課題に−
No.17-6
「雇用情勢改善の背景・特徴と地域別の動向」
2005 年9月
−雇用調整の進展で雇用のミスマッチも縮小しているが、地域間格差は依然として大きい−
No.17-7
「日本の証券市場に大きな影響を与えるオイルマネーの動向」
2005 年9月
−05 年の石油輸出収入は前年比 3,000 億ドル超の増加に−
No.17-8
「都道府県別にみたサービス化の進捗度合いとその特徴」
2005 年 10 月
−労働集約的で地理的制約が小さい産業の誘致が地域の活性化に有効−
No.17-9
「BRICs経済の現状と投資環境」
2005 年 11 月
−総合的な投資環境では中国がリード。インドはIT産業に強み−
No.17-10 「最近の物価変動の要因分析と金融政策の行方」
2005 年 12 月
−デフレ圧力の低下で量的緩和解除に向けた基盤は徐々に整う−
No.17-11 「地域別にみた日本経済の景況判断」
2006 年2月
−地域間の格差は大きいが、ほぼ全地域で緩やかな回復に向けた動き−
No.17−12 「地方財政の仕組みと市町村の財政健全度」
2006 年2月
−三位一体改革の下で、財政健全度の向上が喫緊の課題に−
No.17−13 「日本経済の中期展望」
2006 年3月
−06∼10 年の年平均成長率は名目 2.4%、実質 1.9%と予測−
19
内外経済・金融動向(No.17−13) 2006.3.10
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