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トランスカルチュラル・スタディII「貧困削減のためのモノづくり」

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トランスカルチュラル・スタディII「貧困削減のためのモノづくり」
大阪大学グローバルコラボレーションセンター
トランスカルチュラル・スタディ・プログラム
「貧困削減のためのモノづくり」
阪大生が
バングラデシュで考えた
貧困削減のための
「モノづくり」2
大阪大学グローバルコラボレーションセンター
トランスカルチュラル・スタディ・プログラム
「貧困削減のためのモノづくり」
阪大生がバングラデシュで考えた
貧困削減のための「モノづくり」2
目
次
1. トランスカルチュラル・スタディ・プログラム「貧困削減のためのモノづくり」概要
2. フィールドスタディ調査報告・考察
・・・
3
(1)
職業訓練教育
3
(2)
栄養教育
・・・
6
(3)
公衆衛生
・・・
10
(4)
ゴミ問題の現状と今後
(5)
UBINIG について
(6)
大学生との懇談
(7)
現地での講義を受けて
(8)
農村の日常生活における男女の役割分担について
(9)
昔話の役割 ・・・
(10)
海外で働くことについて
・・・
15
・・・
18
・・・
・・・
23
・・・
26
32
・・・
33
3. アイディア出しワークショップ・発表 ・・・
36
(1)
問題点・課題の洗い出し
・・・
(2)
アイディア考案
39
(3)
アイディアまとめ・発表
・・・
4. バングラデシュ研修振り返り ・・・
・・・
49
0
36
46
・・・
30
・・・
1
1.トランスカルチュラル・スタディ・プログラム「貧困削減のためのモノづくり」概要
大阪大学グローバルコラボレーション科目「トランスカルチュラル・スタディ II」とは
グローバルコラボレーションセンター(GLOCOL)が提供する海外フィールドスタディ(海外実
習)への参加を通じ、大阪大学の教育理念の一つである「国際性(Transcultural Communicability)」
を学生が涵養することを目的とします。
海外フィールドスタディを通じ、実習先におけるテーマについて体験を通じた理解をうながすと
同時に、海外での学び、生活、人々との交流や協働に関する原体験を獲得します。
またそれぞれのテーマについて、より高度な研究を行うために大学院へ進学したり、海外留学を
行ったり、専門的職業人として課題解決に取り組んだりといった自己の将来像につなげていきます。
テーマ
「貧困削減のためのモノづくり」(実習地:バングラデシュ)
目的
バングラデシュの貧困地域において、聞き取り調査や住民からの意見聴収などを通じて、貧困と
開発について深く理解する。同時に現地での経験を踏まえて、貧困削減に貢献しうる製品のアイデ
アを考案し、
「モノづくり」による貧困削減を目指す内容とする。帰国後にはこのアイデアを基にし
て、製品化を視野に入れた提案を行う。
参加者
学生
教員
杉本 崇行
(医学部医学科 5 年)
中井
(人間科学部グローバル人間学科 2 年)
郁
畑中 園花
(外国語学部外国語学科スワヒリ語専攻 4 年)
平野 美優
(外国語学部外国語学科ロシア語専攻 2 年)
小峯 茂嗣
(グローバルコラボレーションセンター特任助教)
大野 光明
(グローバルコラボレーションセンター特任助教)
日本財団学生ボランティアセンター
Gakuvo
(正式名称:特定非営利活動法人 日本学生ボランティアセンター)
2010 年 4 月設立。
学生のボランティア活動の支援、学生ボランティアのスキルアップの支
援、ボランティア体験を広く社会に伝えていく力の育成を行う NPO 法人。また大学との連携により、出
張講義、寄付講座の設置、学生ボランティアに対する相談業務も行う。
所在地
〒105-0001 東京都港区虎ノ門 1-11-2
E-MAIL
[email protected]
TEL
03-6206-1529
ホームページ
FAX
03-6206-1530
http://gakuvo.jp
本プログラムは Gakuvo との協力協定に基づき実施されました。
1
フィールドワーク日程
2/8 関西国際空港発。シンガポール経由ダッカ着
2/9
Jahangir Nagar 大学訪問
Dr. Manas Kumar Chowdhur 氏(Anthropologist)講義受講
2/10
ダッカ市内視察
ゴミ処理所の管理者にインタビュー
ダッカ大学訪問
2/11
ダッカからタンガイルへ移動
UBINIG 活動施設見学
2/12
村のヘルスケア―訪問
郡のヘルスケア―訪問
国のヘルスケア―訪問
UBINIG のカルチュアルショーに参加
2/13
朝市場見学
村の早朝学習塾見学
政府運営職業訓練校見学
UBINIG 代表シャミン氏の講演
2/14
タンガイル村の家庭訪問
UBINIG 代表シャミン氏による口頭伝承物語
2/15
ドイツ NGO による職業訓練校見学
タンガイルからダッカへ移動
2/16
伊藤忠商事ダッカ事務局訪問
世界銀行ダッカ支局訪問
国立病院訪問
私立病院訪問
2/17
在バングラデシュ日本大使館訪問
ダッカ市内視察
空港へ移動、ダッカ発
2/18
シンガポール経由で関西国際空港着
2
2.フィールドスタディ調査報告・考察
(1)職業訓練教育
【目的】
TVET(Technical & Vocational Education and Training)について、社会・教育分野の中での位置づけ
とその現状、意義を探る。
【活動概要】
NGO 大国と言われるバングラデシュ。教育分野でも様々な役割を担っている NGO が運営する職業訓
練校、及び政府運営の職業訓練校を訪れ(いずれも中等教育)、その概要、意義と課題について校長先生
にお話を伺った。また、教師や学生との交流も行った。
【調査報告】
〈政府運営〉
:バングラデシュには、現在(2014.2)49 か所の政府管轄職業訓練校があり、local な要求に
応 え て そ れ ぞ れ に 学 部 が 設 定 さ れ て い る 。 1991 年 に 設 立 さ れ た Tangail Polytechnic Institute
(http://www.tpi.gov.bd/)には、electronics, construction, computer, telecommunication, electrical の 5
つの学部があり、男子学生には、近年の建設ラッシュ、インフラ整備のニーズの高まりからか、
construction が人気を博している。また女子学生に関しては、事務職に活かせるコンピュータ技術習得
のため、computer 学部の 50%を占めている。その他の学部においては、女子学生の割合は 10%前後だ
という。女性の活発な社会活動をあまり快く思わない宗教観、女性は最終的には嫁いでいくため、家庭
を支えていく男性に優先してお金を使いたいという家族の考えもあるのだろう、男女間の教育格差はこ
れからの大きな課題の一つであると感じた。また教師や授業、卒業後の就職サポートについては、まだ
改善の余地は大いにあるものの、想定していたよりも質や基準が高く、ある程度の実績も積み上げつつ
あるのに驚いた、というのが正直な感想だ。大学にて修士号を得ている教師陣、クラスごとにきちんと
組まれている時間割(図 1)、そして何よりも明確な意思と、輝かんばかりの目にやる気を感じさせる学
生たち(図 2)がその証拠であろう。アジア諸国をはじめ、様々な国からの協力を得ていることに感謝し、
自分たちの力で国を発展させていきたいという一学生の言葉に、研修参加メンバー一同、バングラデシ
ュの明るい未来を見た気がした。
〈NGO 運営〉:ドイツの NGO により 1990 年に創設、現在はバングラデシュ内に 9 つの校舎を構える
BANGLA-GERMAN SAMPREETI(以下 BGS)を訪れた。職業訓練教育先進国であるドイツの支援を
受けているだけあり、先述の政府運営の学校よりもあらゆる面においてクオリティーの高さを感じた。
まず、政府運営のものが理論中心型の教育で、座学が多いのに対し、BGS では“実践”に力を入れてい
る。卒業後社会に出て行く学生にとっては、実社会で求められている技術的・専門的能力を身に付けて
いると、それを現場でも応用することができる。
「習得した知識や技術を実際の場で応用して活かすこと
ができるかどうか」ということは、現在バングラデシュで重要課題の一つだそう。バングラデシュでは
教育のシステム上、全国統一テストに合格しないと初等教育から中等教育、また中等教育から高等教育
に進めないことになっており、そのため試験偏重型の教育が主流になっている。また試験には、教科書
の基礎知識がほぼそのまま出題されるため、教師も学生も、いわゆる教科書内容の“丸覚え”に一生懸
命だ。それは職業訓練においても同じで、例えば家電製品の配線を丸暗記するようなことが目的化され
ている。本来これらは手段であるべきで、
“現場で臨機応変に対応できる、応用力を身に付けること”が
目的となるべきであろう。
3
もう一つには、実社会で利用されている最新の機械を導入したり(図 4)、実際に外から注文を受けて
製品の製造・修理・メンテナンス管理等を行ったり(図 3)と、社会のニーズ変化や発展に合わせて学習
内容も変化させていく努力が為されている点である。目覚ましい発展を遂げるバングラデシュにおいて
は、最新の技術・機械の登場により、不必要になる技術もあれば、また新たに求められてくる能力もあ
る。そのためいつまでも同じ教育を行っていては、無駄足を踏む恐れもあろうし、
「こんなの見たことな
い」
「教科書に載っていなかった、分からない」と自信を無くす学生も増えてくるだろう。このように社
会の発展に合わせた授業、そして実際に自分たちの技術に対価が払われるという経験は、働くとはどう
いうことかを理解し、適切な能力と自信を身に付けるのに、大変効果的だ。
【図 1】びっしりと埋まった時間割
【図 2】Tangail Polytechnic institute の学生
【図3】商品化する衣服を縫製する学生
【図4】比較的新しい機種のコンピュータ
(SAMSUNG 社製)
【考察】
:バングラデシュ現地にて現状を把握するまで、私は概して職業訓練教育(以下 TVET)にマイ
ナスのイメージを抱いていた。というのも、TVET への高い関心の背景には―①工業化や産業化を“発
展”そのものとして捉え、専門的な技術・知識を持った人材の不足が遅れの原因だという考え、②技術
系人材の育成を、世界にバングラデシュ人材を売る手段の一つとして捉えていること(一足先に新興国
として名を挙げた隣国インドにおいて、先進国企業による、情報通信等の技術系でのインド人雇用が増
していることからの影響)、③大学や海外留学など、政府支出の増える高等教育への進学ではなく、なる
べく早く労働力として社会に進出し、経済的利益を上げてほしいのではないかという思惑―が感じられ
4
たからである。できるだけ多くの子供たちが高等教育を受け、ハイレベルな知識を身に付けることこそ
がその国の発展につながると私たちは考えていたため、9 つの主要国際協力ドナーと政府がなぜ、そこま
で TVET に関心と力を注ぐのか理解できず、今回現場を見たいと思った。その中で気が付いたことは大
きく 2 つ、TVET の必要性と課題である。
〈必要性〉:
1.急速な人口増加と、高まる教育熱の受け皿・若年層の雇用安定
現在バングラデシュの人口は約1億6千万人で、その内 3 分の 2 が 20 代以下、また人口は年率 1.4%
程度の割合で増加しており、2050 年には 2 億 9,000 万人に達すると見込まれている。このような中、
発展に伴って初等教育の教育水準が高まり、中等教育、さらには高等教育への需要も究極に高まっ
てきている。政府は時間・資金が十分にない状態で、その急で大きな需要に応えるのに必死。とい
うのもバングラデシュでは、政府高官、医者や銀行員など、ホワイトカラー職の枠が非常に狭いの
に加え、それらのポストには大卒の学歴が欠かせないからだ。だが競争率は非常に高いため、やは
り経済的に余裕のある家庭にしかそういった職への希望は持てず、また大卒者が増えたとしても、
その受け皿となるホワイトカラー層の職やポストは限られている限り、雇用機会は増えるわけでも
なければ、むしろ雇用不安の増大を招きかねないのだ。もちろん最終的には貧富の差を軽減し、自
由な職業選択が可能になることが目的であることに変わりはないが、発展には段階というものがあ
り、まずはしっかりとした土台作りが重要。現在のバングラデシュにおいては、人口増加と急激な
発展に伴う、インフラ整備や情報通信拡充などへのニーズの高まりに応えること、それらの担い手
として多大な若年層を起用し、雇用安定化につなげることが、これからの経済的、政治的発展への
重要な第一ステップなのであろう。
2.出稼ぎ労働者の質・地位向上、不当雇用改善
バングラデシュでは貿易収支が大赤字(多くを輸入に頼っているのに対し、自国の資源や産業を上
手く輸出に活かせていない)なのに対し、経済収支は黒字。これは海外での出稼ぎ労働者からの送
金が非常に大きいからである。実際送金はバングラデシュの多くの家計を支えており、またバング
ラデシュで1年働いて得られるお金を数週間、数ヶ月間で得られる出稼ぎ労働は、バングラデシュ
を経済的に支える糧にもなっている。そのため、たとえひどい労働条件であっても、一人外国に出
てストレスや寂しさが募っても、バングラデシュの家庭には、生活のため、子どもの教育費のため
に出稼ぎ労働は欠かせない。そこで問題になるのが、バングラデシュ人労働者の世界的認識である。
外国から見た、バングラデシュ人の労働力のイメージは「安価で単純重労働に特化」。雇う側からす
れば、非常に安く、自国の労働者たちは避けるような重労働を悪条件でもやってくれる、都合のい
い労働者なのだ。バングラデシュ人出稼ぎ労働者の多くは、貧しく、教育も受けておらず、専門的
な技術や知識がないため、いくら頑張っても管理職には就けないし、体を使う、単純できつい仕事
ばかりを黙って言われる通りにする他ない。こういった現状を少しでも改善するために、専門的な
高い技術と知識を身につけることが大変重要になってくるのである。高いレベルの実践的な技術と
知識によって、出稼ぎ労働先での地位向上を図り、バングラデシュ労働力の世界的イメージを変え
る。そうして現在の出稼ぎ労働者が置かれている悪状況を改善する。
「安価な労働力輸出国」という
認識を変えていくための TVET でもあるのだ。
〈課題〉
1.トップダウン型の教育システム、現場職員の自主性欠如
教育分野に限らず、バングラデシュは中央集権国家的な側面が強い。人口や規模が大きいにもかか
5
わらず、何もかも政府が決め、指示出しをしており非効率だ。また現場にいる者もそのシステムに
慣れきっており、上に意見を言ったり、現場を知るものとしての要望を伝えたりといったことがほ
とんどなく、独自性・自主性も欠けている。確かに知識や経験のある政府側の意見や助言は必要で
あるし、ガイドラインを共有して皆で同じ方向を向いて協力していくことも大切である。だがやは
り、最大限の効果を期待するならば、受益者となるべき学生のニーズや意見、現場に近い職員の声
を吸い上げる機会と仕組みは欠かせない。本当に必要なものは何なのかを考え、また現場の者に、
支援や資源を自らの意思で有効活用するためのインセンティブを与えるなど、トップダウンからボ
トムアップへの移行を目指していかなければならないだろう。
2.支援ドナー国間の協力
現在バングラデシュには、教育分野において 9 つの主要開発援助出資機関(JICA, World Bank,
ADB(Asia Developmental Bank), UNICEF, EU, BFID(Bank and Financial Institutions Division),
オーストラリア NGO, スウェーデン NGO, カナダ NGO)があり、これらと政府で 5 か年計画の教
育支援を行っている(現在第三次)。これだけ多くのドナーがいると、「やはりドナー側は自分たち
の案を売って結果を出そうと躍起になったり、意見の衝突が起こったりする。」と JICA、World Bank
で教育専門家として活躍されている山川さんは言う。また資金量や代表者の学歴・社会的地位など
によって声の大きいドナーもいれば、あまり口出しできないドナーもいるそうだ。だが重要なのは、
データ上に結果を残すことでも、たくさんのお金を出資することでもなく、何がバングラデシュに
は必要なのか、または合うのか、どのように導入をしていくべきかを話し合って、より良い教育提
供のための努力をしていくことであるはずだ。各機関にはそれぞれの得意分野があり、経験や知識
も様々であろう、決して我を通すのではなく、協調して政府と共に歩んでいくこと、そしてそれを
先導できるリーダーシップのある人材を中心に、粘り強い支援をすることを心掛けてほしい。
(2)栄養教育
【目的】
バングラデシュでの「栄養教育」の現状を探る。
【活動概要】
食育は出発前から掲げていた項目ではなかった。現地で調査を進めていく中で出会った問題である。食
事は生きることに直接つながっている問題だ。農業大国バングラデシュでは、“食べ物にありつけない”
ということはないそうだ。そうなると次の段階の問題として栄養状態が持ち上がる。私たち日本人が小
学生のころから家庭科などで得てきた「バランスの良い食事が健康に繋がる」という考えを、バングラ
デシュではどのようなプロセスで得ているのか。またその実践について調査した。
以下、どの活動もタンガイル県において行った活動である。
-・病院にて地域への食育セミナー開催について尋ねる
・妊婦さんの栄養摂取について産婆さんに尋ねる
・学校訪問した際に授業としての“食育”の有無を確認
・家庭訪問の際、子どもに学校での家庭科の授業について尋ねる
【調査報告】
6
・病院訪問
地域密着型の、小さな村の Health Complex を訪問した際に、患者の主な来院理由の一つが栄養不足で
あるということを聞く。その次に訪問した 24 時間体制である中規模の総合病院 Tangail District Health
Complex では、妊婦さんに体の変化の説明と共に、栄養をバランスよく取ることをアドバイスしている
そうだ。さらに栄養についてのセミナーを開き農業省と共に農家の人々に栄養価の高い作物を作るよう
アドバイスしている。栄養失調の患者にはサプリメントも勧めているそうだ。
・妊婦さんの栄養摂取について
タンガイルのある村の、産婆さんによる診療所では、訪れた妊婦さんの体調をチェックすると共にしっ
かり食べること、また栄養を取ることをアドバイスしている。この地域で活動する UBINIG(現地NG
O)が専門医を呼んで、産婆の間で代々受け継がれてきた知識に加え、彼女たちが今まで知らなかった
新しい知識を提供した。これによって今までは順調に育っているのかどうかさえわからなかった赤ちゃ
んが、栄養不足かどうかなどわかるようになったそうだ。
・各学校の家庭科への取り組み
バングラデシュの学校制度は、Primary School(1~5 年生、小学校)に始まり、Secondary School(6~10
年生、中学校)、College(11~12 年生、高校)となっている。Primary では家庭科の授業は無いそうで、
Secondary から始まるそうだ。しかし義務教育は Primary のみ。
・家庭訪問
政府が運営する職業訓練校に通うムハンマド・ビッグロフさんのお宅に訪問した。彼には二人の妹がお
り、彼女たちの通う Secondary High School では家庭科の授業があるそうだ。実際に家庭科の授業で使
っている教科書を見せてくれた。(図1)内容は食べ物のことと身体のことである。(図2,3,4,5)。
しかしこの家庭科の授業は女子学生だけの教科であり、男子学生は学ばないのかと聞くと、男子学生が
家庭科を学ぶわけがないと少し笑いが起こった。その代り、男子学生は農業について学んでいるそうだ。
家庭科の授業では調理実習も三回ほどあり、材料費を払って学校で調理するそうだ。
【図1】
【図2】
7
【図3】
【図4】
【図5】
【考察】
・病院訪問
村の診療所では人数も少なく、日々の診察や回診以上の活動は行われていない様子だった。一方、総合
病院で従業員数も多い Tangail District Health Complex は、地域に住む人々の健康を考える機関として
医療を超えた活動に取り組んでいる。それは農家の人々を対象としたセミナーを開き栄養価の高い作物
の生産を勧めることだ。
家で料理をするのは女性が主体、農作業は男性が主体という家庭内の分業が定着している状況下では、
良質な作物が増えると同時に男性が栄養についての知識を身に付けることになる。一日に食べる食材の
買い出しの場である朝のバザールへは男性が一人で買い出しに行くのが一般的である。買うものは彼ら
8
が決めることもあれば奥さんに頼まれることもある。実際に調理する女性だけでなく男性も栄養に関心
を持てば、自然と食べるものが変わっていくだろう。
・妊婦さんの栄養摂取について
妊娠しているときは一人で二人分の栄養を摂取しなければいけないので、普段よりも注意が必要だ。食
べ物は赤ちゃんの状態に影響する。訪れた診療所で産婆さんたちが気にしていたのは赤ちゃんが生まれ
てくるときの大きさである。大きな病院から少し離れているその村では小さすぎず大きすぎない健康な
赤ちゃんが一番良い。大きすぎた時に手術が迅速に受けられる保証がないからだ。妊婦自身に負担の少
ない出産のためにも栄養管理は重要な役割を果たしている。
・学校ごとの取り組み
男女によって受ける授業が違うということも驚いた。女子が家庭科をしている間に、男子は農業を学ん
でいる。一見、女子のみが栄養についての学習をしているようだが、病院職員が農家を対象に行ってい
るセミナーのように、男子の農業の授業には、栄養価の高い作物に関する学習も含まれているかもしれ
ない。
・家庭訪問にて
母から娘へのレシピの継承はどのように行われているのだろうか。学校給食のない現在、食事の物差し
となるのは家での食事だろう。母親、そして父親たちの食に関する意識を改革することが、子どもの食
育へと繋がる。各家庭で受け継がれているレシピの栄養バランスは何代もその地で生活してきた知恵か
ら、自然と栄養のバランスが取れるレシピになっているのだろうか。また、家庭訪問で男子学生は家庭
科の授業がないのか聞いたとき笑いが起こったように、食事を用意するのは女性という一般理解がある
ようだ。しかし食材を調達するのは男性である。男性はどの食材をどのぐらい調達してくればよいのか
について、どのタイミングで誰から学ぶのだろうか。またそれは栄養バランスを考えた買い方なのだろ
うか。
〈課題〉
・学校での食育
Primary にも家庭科を組み込むべきではないだろうか。義務教育に家庭科がなければ、家庭科を学ぶ前
に学校に通わなくなる層もいるだろう。
・妊婦さんの栄養管理
病院や診療所にはどの食材が体のどの部分によいかを示したポスターなどが貼ってあった。しかしその
調理方法や適切な摂取量などの知識も同時に広まっているのだろうか。また知識の提供から実践への導
きの弱さを感じた。
・大人への食育
学校に通う子供と違って、セミナーなど機会を作り、さらに参加を促さなければ大人が新しい知識を得
る機会は少ない。政府が運営する病院や診療所では活動の自由度は低めであった。この場合、NGO が知
識の普及に努める方が活動に幅が出るだろう。食育の実践の定着には地域に寄り添い実践の経過を見守
る存在が必要ではないだろうか。
・家庭での食育
9
母親が新たな調理方法を学ぶ場はあるのだろうか。セミナーでのレクチャーは実践可能な内容なのだろ
うか。男女ともに料理や栄養について学べば、家庭内の食育の状況は、父親の材料の買い出しと、母親
の調理によって改善されていくだろう。
(3)公衆衛生
【目的】
途上国、バングラデシュの保健医療の現状に関して、都市部・農村部両方における病院・施設などの
視察を行い、それらを比較することで、改善されるべき問題点を探る。
【調査報告】
〈村の Health Complex 見学。薬剤師、医師への聞き取り〉
診察費、薬剤などの費用はすべて無料、政府が負担している。地域住民のために設置され、地域にお
けるすべての初期診療を担っている施設である。スタッフは医師、看護師、薬剤師、アシスタントの計 4
名、業務時間は 8 時から 14 時半までで、金曜日以外の週 6 日行っており、1 日の平均来院者数は 60-65
人である。
疾病状況としては、栄養失調及び、季節の変わり目に起こる下痢などの風邪症状が多い。高度な医療
が必要と判断された場合は、町の病院への紹介状を用意し、患者が自弁した車にて転送している。救急
車はない。また場合により医療スタッフが自らお金を出して転送することもある。
HIV などの疾病に関する知識の住民への啓蒙活動は、ここではあまり盛んではない。なぜならここに
はセミナー室もなく、またそもそも政府の許可がなければそうした活動は出来ないからである。また、
時折無料での往診も行っているようであるが、緊急時を除き、この対象は、身体の自由が効かないなど
の理由により clinic まで来ることができない人が対象で、時間も原則 12 時ころと決まっている。
〈Tangail District Health Complex 見学〉
この病院も、政府が運営しており、治療や薬剤にかかる費用はすべて無料である。1 日に 400-450 人
ほどが来院し、診察を受けるが、紹介状をもらってくるのは 15%ほどである。スタッフは医師 17 名(男
性 12 名、女性 5 名)をはじめ、看護師、薬剤師、事務員など多岐にわたる。診療科も内科、外科、眼科、
10
産婦人科、歯科、ER などと多岐にわたり、すべて 4 人制の 24 時間体制で業務にあたっている。
この病院も、疾病状況は clinic と同様の傾向であり、事故も多く存在する。ここには入院病棟もあり、
現在約 50 床が稼働可能となっている。入院患者は男女ごとに部屋が分かれており、同性の看護師が看護
にあたる。ここで診きれない、重い病気に関しては、Tangail medical centre という拠点病院に、バスや
車、バイクや自転車などで転送する。
ここで、バングラデシュの医療の現状に関して Interview を行ったところ、非常に医師不足であるこ
とが分かった。日本では約 400 人につき 1 名の医師であるが、バングラデシュでは約 15,000 人につき 1
名の医師であった。政府は医師を増やそうとしているが、まだ十分な数とは言えない。一方で非常に成
功を収めているのが family planning であり、この担当者は乳幼児や産婦の死亡率を減らすために実際に
農村に入って、乳幼児の予防接種などに関する啓蒙活動を行う。本院では 17 名おり、ほぼすべてが女性
である。これは、子育ての中心が母親であり、女性同士のほうがより密接な関係を気づくことができる
と考えられているからだそうだ。
また、この病院では予防接種に非常に力を入れており、IMCI という子供の病気の管理に関するガイドラ
インにのっとって行われている。ここでは DPT(Diphtheria、Pertussis、Tetanus。ジフテリア・百日咳・
破傷風の三種混合ワクチン)、MR(Measles、Rubella。麻疹風疹混合ワクチン)、B 型肝炎といった疾病
に対する予防接種が行われているようだ。
11
〈Tangail District Office 保健担当者訪問〉
Tangail District の保健行政のトップの方にお会いすることができた。彼は行政官ながら、‘Civil
Surgeon’(民間外科医) という役職名称がついているのが印象的だった。1
ここでは主に、HPNSDP(Health Population and Nutrition Sector Development Program。衛生環境
を向上させたり、栄養状態を改善したりするセクターを生み出すプログラム)に関するお話を伺った。こ
のプログラムの骨子に、CHCP(Community Health Care Provider。コミュニティでのヘルスケアを充
実させる人やモノ)というものがあり、これは 6000 人につき 1 軒の Health Centre を作るものである。
これは、全国同時に始めており、毎月担当者が村に行き、すべての子供に対して BCG(結核)、ポリオ、
B 型肝炎、破傷風、MR(麻疹風疹)、肺炎球菌、ジフテリアのワクチンを接種している。またこの Health
Centre では栄養や病気についての、お母さんやおばあさん向けの啓蒙活動も行っており、実際にトイレ
後の手洗いをする人の率を上げ、衛生の向上に寄与しているようだ。
〈村の助産師訪問〉
UBINIG の運営する助産師の診療所に行くことが出来た。助産師は、先祖代々で行っており、時代に
即した新しい技術は全く知らなかったが、UBINIG が入って行き、招へいした政府の専門医によるトレ
ーニングを受けることで、現在は新しい技術も導入されており、また専門医により栄養失調なども発見
されやすくなっているようだ。実際に助産師たちが行っているのは、結婚した村の女性に対し、子供の
作り方や妊娠後の母体の変化、栄養指導、検診のための病院受診の奨励などであり、ノートに日付、妊
婦の状態、アドバイスを記録していた。
彼女たちの話によれば、この村においては生まれてくる胎児のうち、60%は病院出産(20%は帝王切開
などの手術、40%は妊娠合併症などによる投薬治療のため)、40%は村で出産ということであった。全体
としては、状況は良くなってきているということであったが、母子保健医療向上のために必要なことと
して、病院に勤務する医師との連携を彼女らはあげた。これは、村には常駐する医師がおらず、地域拠
点病院からも遠いため、緊急時に対処に難渋し、ベストではない出産になってしまうという問題が依然
として存在するかららしい。
省(Division)にはそれぞれ副長官(Deputy Director)が置かれている。その下には、県(District)の保健サービス
の長として、民間外科医(Civil Surgeon)がいる。民間外科医は、医学校と病院を除いて、県の全ての保健活動に関する
責任を持っている(国際協力事業団企画・評価部「国別障害関連情報バングラデシュ」平成 14 年 3 月)。
1
12
〈Uttara Central Hospital & Diagnostic Center 訪問〉
約 20 年前に完成した私立病院で、もともとは中国人の経営であったが現在はベンガル人の経営となっ
ている。医師 8 名、看護師 35 人などスタッフは約 100 人で 24 時間体制をとり、ICU、NICU、救急部
も完備しており、また外来患者も受けており、スタッフは手術や救急もやりながら入院患者、外来患者
の診療にも当たっている状況であった。ここは一体の拠点病院となっており、脳卒中や心筋梗塞を含む
すべての病気の人が来院する。整形外科の Hasib 医師によると、政府の病院よりも衛生体制がしっかり
しているため院内感染も政府の病院より少なく、抗菌薬についても WHO のガイドラインに基づいて使
用しているとのことであったが、実際に ICU を見学すると、消毒用のアルコールは全く見当たらず、医
療スタッフも手袋を着用していないなど、衛生管理についてはかなり怪しいものであった。また、抗菌
薬に関しても、時間がないときは第 3,4 世代セファロスポリン系(様々な細菌感染症に効く薬。反面、
それがきかなくなると、他に効く薬は限られてしまう)を多用しており、耐性菌に関しては想像したく
ない状況であるように見受けられた。また彼は、
「来院患者の中には経済的に困窮している人がおり、全
体の 15%は sacrifice である」ともおっしゃっており、医療者の自己犠牲がここでも行われていることが
分かった。
13
【振り返り・考察】
・政府が上から下へと政策を実施しているが、うまく行っているところもあれば、うまく行っていない
ところもあった。地域の診療所の先生も言うように、要望や改善もなかなか政府に受け入れてもらえな
いという状況らしい。また、村でのヘルスケアは、政府によってカルテのフォーマットが用意されてお
らず、まだまだ未整備であった。
・全国同時に進める CHCP は、村の内部の人間がやるということであったが、CHCP の provider は住
民からの選択なのであろうか。
・現場の人みんな、
「全体的に見たらよくなってきてはいる」、
「治療や健康の状況も良くなっていると感
じる」と言っているため、実際にそうなのだろうと思われる。しかし、clinic で聞いたことと center で
聞いたこと、そして government のいうことが矛盾している。様々なことをする人がいると政府は言う
が、clinic や center では、職員は皆、「人手が足りない」と言っていた。
・政府の施策には不十分な点があるため、いろいろな人のことを考えたシステムを考える必要があるだ
ろう。その意味で、NGO は草の根の声を吸い上げることが出来る可能性がある。しかし、本当にそれが
出来ているのかはわからなかった。
・政府としては、NGO を下請けとして使っているのか、それとも対等なパートナーシップを築いている
のか、疑問である。
・医療スタッフはどのセクターにおいても、自己犠牲を強いられているように感じた。この状態は決し
て持続可能性のある状態とは言えない。また、その場にいた医療スタッフは皆、志の高い人ばかりだっ
14
た。しかし、医療スタッフのすべてが志の高い人ではない。UBINIG 代表の Shamin さん曰く、
「業務が
過酷なのにもかかわらず、家族を養いながら満足に暮らしてはいけないほど給料が安すぎるので、多く
の医療従事者は Public の病院ではなく Private の病院に、しかしそれでも安いので個人で開業したり自
分で患者さんと契約して医療を行ったりしており、特に所得の低い人たちには非常に大きな問題だ」と
のことであった。つまり、政府や民間病院の給与体系では、自分たちの努力が一向に報われないと多く
の医療従事者が感じており、そのために本来の報われない病院での業務はあまりせず、個人契約の業務
を重視しているということである。したがって、病院にて一生懸命業務にあたっているスタッフは、た
とえどんな自己犠牲を払ってでも人に尽くしたいという非常に志の高い人だけなのだ。バングラデシュ
では医師を増やそうとしているが、このような国内体制である限り、医療供給体制の不足の解消は、な
かなか進まないであろう。
(4)ゴミ問題の現状と今後
【目的】
バングラデシュの家庭ゴミや路上ゴミの回収においてどのようなシステムが採用され、実際どの程度
機能しているのかを知る。
【活動概要】
・ダッカ市北部のゴミ回収のシステムについて
・家庭ごみを集めて回っている老夫婦にその仕事の詳細をインタビュー
・ゴミ集積場のゴミ拾いで生計を立てる人たちに、彼らの生活について聞く
・ガソリンスタンドの売店にて、店主に店の裏に放置されている大量のゴミについて聞き取り
・病院のスタッフに医療廃棄物について聞き取り
・お菓子やお金と交換で資源の回収をする人へインタビュー
・ダッカ大学の学生と露店ごみのポイ捨て、デポジットについてディスカッション
【調査報告】
・ダッカ市内のゴミ回収システム
まず、Dhaka North City Corporation の Conservancy Inspector の Abdur Razzak さんにお話を伺っ
た。彼は Ward No.12 Zone No. 04 で 49 人の清掃員を統括している(注1)。清掃員は 5:00~12:00 に毎
日休みなく働いており、採用条件は 18~30 歳の健康な男女だ。清掃員になるのは低いカーストの人が多
いようだ。Dhaka 市内には住民が誰でも家庭ゴミを出せるようにコンテナを設置してある。そこに集ま
ったゴミをゴミ集積場(埋め立て地)へ運ぶことと、路上のごみを掃除することが清掃員の主な仕事で、こ
の地区では 20 名が道路清掃にあたり、他の清掃員は運搬にあたっている。行政が管轄しているのはこの
範囲までだが、Dhaka 市ではさらにベンという民間のシステムが存在する。ベン(図1)とは自転車が荷
台を引っ張る形式の乗り物である。ベンは各家庭とコンテナを繋ぐ役目を果たしている。ベンの運転手
は自分の受け持つ家の集まり(町内会のようなもの)やレストランなどと直接契約を結んでおり、ベンに乗
ってゴミを集めて回る。見たところ主に生ごみが多いようだが、家庭ごみは分別されておらずガラスな
ども混ざっているそうだ。ベン(図1)の傍にいる男性は隣にいる奥さんと一緒にベンでゴミを集める仕事
をしているそうだ。今の仕事について 8 年になり、月に 2 人で 7000 タカ稼ぐそうだ。(注2)以前働いて
いた服飾の工場より稼ぎは悪いが、その分労働時間が短くしんどくないそうだ。それでも現在の労働時
間は 6:00~15:00 の 9 時間である。こちらではゴミを各家庭が袋に入れて出し、それを集めるといった
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日本のやり方とはちがい、各家庭でバケツなどに溜めたゴミをそのままベンの後ろに乗せている。その
ためゴミの臭いは強いが、彼は鼻がかゆくなるのでマスクは着けず、手の感覚が鈍り不用心にガラスの
破片などを掴んでしまったら危ないので手袋も使用していないそうだ。近くにいた市に雇われている清
掃員も普段着にサンダルで道路の清掃にあたっていた。
(注1)ダッカ市北部では、地域をいくつかの Ward(区画)にわけてゴミの回収を管理している。それぞれの Ward に
Abdur Razzak さんのような管理者がいて、数十名の清掃員を監督している。
(注2)タカはバングラデシュで使われている通貨で、1 タカがおよそ 1.2 円である。またバングラデシュは日本より
も物価が安い。物価は日本の 1/6~1/8 以下ほど。
・ゴミの集積場(図2)
ゴミの埋め立て地を訪れた。実際には運んできたゴミを積み上げてならしているようだった。分別さ
れていないゴミがあたり一面に敷き詰められているので臭いも相当強い。ここにいる作業員らしき人た
ちはヘルメットをかぶっていた。そして(図2)手前に写る女性のように普段着でゴミを集めて生計を立て
ている老若男女が十数人いた。彼らはこの集積場の近くに住んでおり、ペットボトルなどの、集めると
換金できるものを集めている。決まった活動時間はなく、朝早ければ早いほど、他の収集者よりもたく
さんお金になるごみを見つけることができる。中には子どもも大勢おり、昼間働き夜に学校に通ってい
るそうだ。一日の稼ぎは 50~200 タカと様々だが、ほとんどが食費に消えるという。彼らはゴミの中を
歩き回るためか、サンダルではなく紐靴を履いている人も多かったが、どれもかなり履き古されぼろぼ
ろの状態だった。ゴミは女性(図2)が持っているようなビニールで編まれた袋で集めている。彼らは政府
が雇ってくれれば、集められたゴミの分別係として働けると主張していた。この辺りには仕事があまり
ないそうだ。
・ガソリンスタンドの売店の裏のゴミ
ダッカ市内からタンガイルへ向かう途中立ち寄ったガソリンスタンド。小さな売店があり、その裏に
は草の生えた 10m ほどの斜面の下に池のようなものがあった。その斜面に紙コップなどのごみが捨てら
れていた。売店の店主に話を聞くと、ベンのシステムはなく、店の裏のゴミは溜めているもので、それ
を政府が週に一回取りに来るそうだ。
・医療廃棄物について
タンガイルで訪れた政府が運営する村の Health Complex と 24 時間体制の Tangail District Health
Coplex。村の Health Complex では、一般的な紙ごみなどは自主的に燃やすなどして処理し、針などの
医療廃棄物は月に一回 Tangail District Health Complex が回収に来るシステムだそうだ。Tangail
District Health Complex では、医療廃棄物専用のコンクリートでできた小屋があり、コンクリートの箱
状の空間(図3)に薬品が入っていた小瓶などを集めていた。(図4)しかし針は穴を掘って捨てるそうだ。
・お菓子と資源を交換
タンガイルで村内を歩いていたとき、道端でかごを担いでいる男性(図5)に出会った。彼は紙や缶、プ
ラスチックなどの資源と自家製のもち米のスナック菓子を交換して歩いているそうだ。夏の暖かい日に
はアイス屋もしているらしく、彼の場合けしてこの仕事一つに絞っているわけではない。一日あたりお
よそ 750 タカとかなり高給だ。
・ダッカ大学の学生から
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露店で使う容器をデポジット式にするアイディア(注3)について学生たちに意見を聞いてみると、露店
の容器のポイ捨ては実際にあるようだった。また、露店の容器のデポジットはまだないが、紙と鉄とプ
ラスチックのデポジットは浸透しているようで、タンガイルで出会った資源を集めてまわる人は Hokker
と呼ばれているようだった。さらに彼ら自身も使い終わったノートなどを資源として換金しに行くこと
があるという。Dhaka 市内に何か所か換金してくれる場所があるようだ。
(注3)実習の終盤に、実習で感じた問題の解決策を考えるワークショップを学生 4 人で行っている。そこで提案さ
れ検討された案のひとつである。道端のごみの多くは露店で食べ物に使われている包装のポイ捨てではないだろう
かという視点から、容器のポイ捨てを防ぎ、資源の再利用に繋がるシステムを考案し、実現可能性を検討している。
【図1】
【図3】
【図2】
【図4】
【図5】
【考察】
・ダッカ市のゴミ回収のシステムについて
日本のシステムに比べて、分別がほとんどなくいささかシンプルすぎるが、家や路地にゴミを溜めず
に回収するというシステムはベンの存在もあり軌道に乗っているようだ。驚いたのは、ゴミ袋やポリバ
ケツに入れてゴミを隠したがる日本人と違い、各家庭がゴミのみをベンに出していたり、軒先に溜めて
いたりしていることだ。スーパーでもビニール袋は禁止されており、布製や紙製の袋を用意していたこ
とを考えると、ゴミを作り出さない努力がなされており、わざわざゴミ袋というゴミを覆う新たなゴミ
を作り出すシステムも採用されなかったのかもしれない。また、ゴミ袋を有料で売る日本のシステムに
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比べて、ベンの直接雇用のシステムはとてもシンプルだ。
・ゴミの集積場
まず、かなり衛生状態が悪そうだ。そんな場所で一日中ゴミを集めて回ることで調子が悪くなること
はないのだろうか。それでもそれをしないと食べていけないのかもしれない。彼らが求めるように、集
積場の環境を良くするための作業員として雇用を生み出せないのだろうか。
・ガソリンスタンドの売店裏のゴミから
一見ゴミが散乱しているように見える「とりあえず建物の外で一か所に集める」という姿勢は、小さ
な診療所でも商店街のような場所の軒先でも多々見かけた。大学の図書館内でも空の段ボールがゴミ箱
替わり。大きな総合病院ではゴミ箱があった。集めたゴミを屋外であっても隔離した方が飛散せず衛生
的に良いのではないだろうか。
・医療廃棄物
紙ごみなどの普通のゴミとの分別、そして回収はきちんとなされていた。だが、回収後の最終処理は
どうなっているのだろうか。針を地中に埋める際に細心の注意を払えているか。また、Tangail District
Health Complex の院内には蓋付きのゴミ箱も設置してあった。やはりゴミが目につくのは不潔だという
考えがあるのだろうか。
・資源の回収
行政が体系立ててしているわけではなく、個人で稼ぐために行われているので回収率は不安定である。
ベンのシステムのように契約制に移行できないだろうか。
・デポジット
学生たちは利用している様子だったが、実際にどれくらい浸透しているのだろう。また資源の換金を
行う事業主が自ら回収に赴くことはないのだろうか。この事業主が資源の回収を行う従業員を雇ってい
る例はあるだろうか。
〈課題〉
まずはゴミの分別と集めた後のゴミの処理だ。ペットボトル、缶、紙はデポジットシステムが発達し
ている様子だが、ゴミに出す前に回収できているものと、集積場で集められたものとがある。デポジッ
トシステムが出来上がっているものはもっと活かして行けば、ゴミの量やリサイクル、もしかすると雇
用にも影響するかもしれない。ベンのシステムのように人々が取り組みやすい分別のシステムを考えね
ばならない。分別が進めば、焼却やリサイクルも取り組みやすくなる。
それから、ゴミの処理に関するシステムが細かく分業されすぎている。すべてが体系化されていないた
め、多くの仕事を生んではいるが、その結果資源の回収漏れが発生しているのではないだろうか。民間
サービスと公共サービスの線引きをさらに明確にし、役割分担する必要があるだろう。
(5)UBINIG について
【目的】
貧困削減のためにできることを考え、農民の生活向上等に取り組む UBINIG(現地 NGO)の活動や農民
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の人々の生活の様子を知ること。
【活動概要】
UBINIG が支援する Tangail の農園(図 1.2.3.4)、シードバンク(5.6.7.8)、織工房見学(9.10.11.12.13)
をした。
【調査報告】
1.農園
壮大な土地で無農薬の農作物が作られていた。麦、豆、にんじん、米、マスタードなど作られている
作物の種類は豊富だった。作物の種類によって農地の区画はなされていたが、その境界は計算しつくさ
れた人工的なものではなく、土を少し盛り上げていたり、簡易的な木の柵で目印のようにされている程
度だった。作物を育てるために必要な、種の種類、種まきの時期などといった知識は農民たちが各自覚
えているそうだ。
畑から少し離れた所で、牛糞が乾かされている場所がいくつもあった(図 3)。牛糞を乾燥させて保存可能
な燃料を作っているそうだ。雨季には薪がしけってしまい火が付きにくいため、牛糞の燃料が重宝され
るという。
村の人々は、畑から離れた小さな場所に生えている雑草でさえも生活に利用する。それらは薬草とし
て使われることが多い。止血のために用いられる葉や、歯の痛みを和らげるために鎮痛剤として使われ
る黄色い花(図 4)があった。花びらを口の中に入れ、痛む部分で噛むと痛みが和らぐそうだ。筆者も実際
に口の中に入れて花を噛んでみた。噛んで 30 秒程で歯茎が痺れていくのを感じ、麻酔をしているように
感じられた。
豊かで美しい自然に囲まれる地域だからこそ、民家の近くの水辺にあった、スナック菓子の袋やペット
ボトルなどの土に還らないゴミが目についた。
(図1)
(図2)
19
(図3)
(図4)
2.シードバンク
シードバンクとは、UBINIG が行う活動の一つで、米農家を支える活動である。農民に米の種を貸し、
有機栽培を促し、収穫後に借りた種を返してもらうシステムである。主に米を扱っているが、野菜の種
も扱っている。
Tangail の一画にシードバンクの蔵がある(図 5)。この蔵のなかには、1741 種類もの米の種がビンや土
器の中に保存されている。現在バングラデシュには 3700 種類の米があり、UBINIG のシードバンクでは
半分ほどの種類を扱っている。これほどの大量の種類を扱う
ことができるのは BRRI(国立稲研究
所)と契約しているからだそうだ。
それぞれの米の種類には、それぞれの特徴があり、田植えの時期や育て方が異なる。シードバンクで
は、そのような情報をノートに記載してまとめることで管理をしている(図 6)。
蔵の中は、日光が入らず薄暗かった。温度は外よりも低く、湿度も外より低く感じられた。壁に 3、4 段
の棚があり、そこにビンや土器がならべられていた(図 7)。ビンにはラベルが貼られており、収穫された
時期や種の概要が記されていた。土器は女性の周りにあるものである(図 8)。種はこれらの色や大きさが
様々な土器に入れ、蓋をして蔵の棚に収納されている。土器にはラベルが貼られているものもそうでな
いものもあった。ラベルが貼られていない土器には、蓋にメモ用紙がはさまれて保管されていた。種類
が混ざってしまわないような管理がなされていた。種の温度や湿度の調節をするために、ビンと土器を
使い分けているそうだ。ビンを使用する際も、ガラスの色で使いわけていることがあるそうだ。
農民から種が返されると、まずザルを使って米とモミに分ける作業をする。ザルを前後に揺らすと、
モミ殻だけが風でとばされて、ザルには米が残る。米とモミを分けたあと、分銅秤で米の重さを量り、
その重さと日付と種類名を記入して土器に入れる。そして、次の利用者が来るまで蔵で保管しておく。
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(図5)
(図7)
(図6)
(図8)
1.織工房
UBINIG が資金支援している、Tangail の織工房に見学に伺った。Tangail に 100 年以上も伝わる独自
の技術によって高品質のサリー2を生産している。この村で生産されているサリー1 枚は 3500 タカで売れ
るそうだ。そのため織物業はこの村の重要な収入源の一つである。
1 枚のサリーを作るには、人手と時間がかかる。まず、糸を紡ぐ工程があり、できた糸を伸ばして張る
作業がある。糸を張る工程では、村の道に腰ほどの高さの杭を 1~3 メートル間隔で数十本打ち、そこに
紡いだ糸を張って巻きつけていた。何日もかかる作業なので一貫して見ることはできなかった。70 歳ぐ
らいの男性が、数十メートルにおよぶ道を何往復もしながら、杭に糸をまきつけていた。糸ができあが
れば、プラスティックの芯(図 13)に糸を巻きつける(図 12)。糸を巻く機械は、家の玄関先にある家庭が
多く、妻が家事の合間にしている場合が多いそうだ。
次に、サリーの柄の製図(図 10.11)に基づいて、折り機に組み込む部品を作る。この村ではサリーの製
2
サリーとは、バングラデシュやインドにおいて現在も使われている伝統的な女性用の民族衣装で、一枚の長い布を体に
巻きつけて着ている。
21
図は、男性が行うことが多い。まず柄にしたい絵を方眼紙の升目を利用して描く。どの升目に色を付け、
どの升目を使えば形作れるかを考えながら、製図していく。一世代前は、全て手書きで行っていた(図 10)
ようだが、現在はパソコンで製図を作る人が増えたという(図 11)。
そして柄の図面をもとに、何種類もの糸を用いてサリーを折っていく(図 9)。手と足を同時に、器用に
動かしながらサリーを織っていく。
織り終えたサリーは、のりを塗って皺を完全に伸ばす。サリー1 枚を作るのに、いくつもの工程があり、
それぞれの職人がいる。最低でも 10 人は必要になる。
(図 9)
(図 11)
(図 10)
(図 12)
(図 13)
【考察】
1.
農園
農作物栽培において必要な知識は農民各自がきちんと覚えていることから、知識の受け継ぎが人から
人へと確実になされていることが伺える。また、それほど農作業が人々の生活にいかに重要あることが
わかる。
牛糞を生活に利用したり、小さな草花を薬として使ったりなど、どんな物でも無駄にすることなく大
事に使おうという姿勢を感じた。また、他の生き物や自然ともうまく共存できるように努めていること
が感じられた。
しかし、最近は自然と完全に調和できていないのではないかと思われる部分もあった。無農薬で作物
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を栽培したり、牛糞を利用したり、自然に感謝しながら自然の力を最大限に引き出そうとする一方で、
スナック菓子の袋のゴミがポイ捨てされていて自然を人の手で守ろうという意識が低いように感じた。
自然の大きさを実感して生活してきたからこそ、ポイ捨て程度で自然が壊れてしまうという考えがあま
りないのかもしれない。また、村に落ちていたゴミの中に、鎮痛剤の錠剤の空ケースがあった。黄色い
花(図 4)を痛み止めの薬草として使う人もいれば、科学的な薬に頼る人もいて、自然に対する信頼の温度
差が村の中にあると思われる。
2.
シードバンク
このシステムに関わる、UBINIG、国立稲研究所、農民の三者は良い関係にあると思われる。UBINIG
は農民の力になることができているし、有機栽培を進めることに成功している。国立稲研究所にとって
は、農民が種の量を増やしてくれるので、絶滅の危機にある種類を守ってもらえるというメリットが考
えられる。農民は、無料で種を貸してもらえるため、直接的に生活を助けられていると言える。三者と
もに利益があるため、非常に良いシステムが出来上がっていると思われる。
しかし、一方でこの 3 つのうちどれが一つでも欠けると、もしくは力が弱まると、シードバンクの形
態は崩れてしまうのではないかと懸念している。
3.
織工房
サリーの製図が手作業からパソコンの作業になるなど、作業の効率化をめざしている向がうかがえる。
しかし、製図以外の工程に昔からの大きな変化は特に見受けられなかった。それは 10 年以上続く技術を
守るために、効率化の限界があるのかもしない。
また、サリーは女性が着るものだが、男性がデザインすることが多いようだ。女性がデザインした方
が、現代風の柄や女性の好みを捉えることが簡単なのではないかと思われる。それでも今でもなお、男
性が製図することが一般的であることは、やはり伝統的な技術に誇りと自信を持っているからだと感じ
た。
Tangail の人々の生活が、自然と共存しながらも外部の影響で西洋化が進んできていること、周りの
人々との助け合いによって成り立っていることがわかった。また、UBINIG の支援活動は一方的にまっ
たく新しいモノやシステムを与えるのではなく、もともとにあるモノを利用して生活の質を向上してい
こうとする活動であることがわかった。
(6)大学生との懇談
【目的】
バングラデシュの教育や社会システムについて、現地の大学生(卒業後の進路が政府高官等、国内で
も有数の国立大学)の意見を聴いたり、同じ学生同士自由に会話を楽しみながらも、価値観の違いなど
を探ったりする。
【活動概要】
“Jahangirnagar University”, “Dhaka University” の 2 つ の 国 立 大 学 を 訪 れ 、 “Jahangirnagar
University” ( 図 1 )( 図 2 ) で は Dr. Manas Kumar Chowdhury 氏 (Anthropologist ・
http://people.juniv.edu/people.php?pid=manoshchowdhury) の ゼ ミ 生 は じ め 希 望 者 と 、 “Dhaka
University”(図3)では記念施設(図4)見学後に偶然出会った学生と、様々な分野について語り合っ
た。
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【調査報告・考察】
この時の話題はお互いの学生活に関するたわいもない話から、学業、将来や両国の政治・経済情勢、
バングラデシュの現状についてまで様々だった。どちらの大学でも、いつも現地の学生がそうするよう
に、学内の芝生に腰を下ろし輪になって、チャイを飲みながら非常に近い距離で語り合った。その中で
気がついたことをいくつか挙げたいと思う。
1.まず、バングラデシュの大学生と日本の大学生間にある大きな違いだ。大学卒業後の進路として、
日本の国立大学卒業生は自己の生活安定のため大手企業や外資系企業、公務員を希望しているのに
対し、バングラデシュの学生はその多くが教授や研究者、海外留学など、自分が専攻している学問
のプロフェッショナルを希望していた。だが彼らの多くが最終的に就くのは銀行員や初等・中等教
育の先生、官僚や政治家がほとんどだという。
「海外留学のチャンスは非常に少なく大学に残る道も
狭き門。大学で高等教育受け、卒業した者として、国の発展に貢献することは自分たちの義務であ
り、国内でもトップの国立大学を出た自分たちは特に、国の経済や政治の運営に関わっていくこと
が求められている、いやもうシステムのようになっているのだ」と語っていた。これからのバング
ラデシュの発展を最前線で引っ張っていく者としての責任感と自覚に驚くとともに、ある種のあき
らめのようなものも感じた。先の教育の章でも述べたが、やはりバングラデシュ政府としては、発
展と変化を続ける社会のニーズに応えていくためにも、なるべく早く若いものには社会に出て働い
て欲しいという思惑があるのだろう、大学生たちも「勉強している。大学に通っている。」のではな
く、「勉強させてもらっている。大学に通わせてもらっている。」のだ、だから卒業後はその責任と
して、対価として、バングラデシュのために貢献していかなければならないのだと考えているよう
に思えた。
2.次は、急に話しかけた私たちを快く輪のなかにいれてくれたことへの驚きだ。後から後から会話参
加者も自然と増え、楽しい時間を過ごすことができた。果たして日本人にはこれができるだろうか?
と、はっとしたのだ。現地で精力的に活動する NGO の代表 shamin 氏はその原因を、若い人たちに
は特に、これからはグローバルに生きていかなければならないという自覚があるからと言う。彼ら
は流暢な英語で話しており、また英語で討論をすることにも物怖じしていなかった。私たち日本人
は、バングラデシュの学生よりもはるかに教育のチャンスに恵まれ、またグローバルな社会で生活
しているにもかかわらず、どうしても文化を異にする人、他言語での会話をあまり歓迎できていな
い気がする。これからのグローバルな社会では、異文化や異社会を排除するでもなく、無理に統一
するでもなく、それらの間を橋渡しできるような柔軟な価値観をもった人が求められるのは必須だ
ろう。日本人ももっとそれを意識していかなければならないのではないかと思った。さらにもう一
つ、自国の政経の知識、現状への問題意識、そしてそれらと自分たちはどう向き合っていかなけれ
ばならないかということなどに対し、しっかりとした考えを持っているということへの驚きがあっ
た。特に印象的だったのは彼らの母国語-ベンガル語-への誇りである。皆口を揃えて、
「バングラ
デシュは、言語をかけて独立戦争を戦った唯一の民族だ、そして日本はその独立を認めてくれた4
番目の国だ。今でもすごく感謝しているし、同じように欧米列強から独立した国として、急速に発
展を遂げた日本に尊敬の念を抱いている」と言っていた。私たち日本人学生は、急に自国の政経情
勢や、それらに対する自身の考えを問われて答えられるだろうか。また、日本の誇りについて、何
か共通して語れるものはあるだろうか。バングラデシュのことについて学ぼうと始めた会話であっ
たが、予期せず日本について改めて考える機会となり、現場調査の面白さも感じた時間となった。
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3.教育問題について問うた際、彼らが最も問題視していたのは教育水準でも、職業訓練教育でも、貧
富の格差でもなく、男女間の教育格差であった。交流する中では、女性の方が積極的で、気さく、
男性は少し控えめな感じを受けたが、女性同士で将来の話をしていると、やはりバングラデシュで
はまだ、女性の社会進出への理解が得られていないようだった。
「女性は家庭を第一に考えるべきだ」
という考えが深く根付いており、男性のみでなく、女子学生も、
「結婚してももちろん自分の好きな
仕事は続けたいが、まず何よりも家族の幸せと健康を考え、夫を敬うことを忘れてはならない」と
言う。それは“destiny”なのだ、という言葉を使っていたのが大変印象的だった。だがもちろんそ
の中には、結婚しても経済的に独立していたい、男性に負けず海外留学をしたい、医者や専門家に
なって貧しい人々のために尽くしたいという女子学生も少なくなかった。宗教的な価値観や伝統的
な慣習を敬うことは大切ではあるが、それに固執していてはいけない。昔から生活を支えてきた女
性には、様々な知恵と、男性とは異なる能力があろう。
「まだ世間の目は厳しいが、理解のある家族
と仲間がいる。負けずに頑張っていきたい。」と語る学生の思い、女性ならではの能力・知恵が活か
される社会になってほしいと思った。
【図1】試験を受ける学生
【図3】Dhaka University にて
【図2】Jahangir Nagar University にて
【図4】英領時代を代表する建物-Curzon Hall
(ダッカ大学内にあり、現在は授業での利用も)
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(7)現地での講義を受けて
【目的】
バングラデシュの大学教育や頭脳流出に関して、現地の実情を知りながらも、客観的な視点からそれ
らの問題を分析し、解決に携わっている方の意見や思いから学ぶ。
(問題の当事者である国民や政府側の
意見のみでなく、客観的な見解の必要性を感じたため)
【活動概要】
“Jahangir Nagar University”の教授、Dr. Manas Kumar Chowdhury 氏(Anthropologist)とバングラデ
シュ現地 NGOUBINIG 代表 Shamin 氏に、教育や頭脳流出をはじめ、バングラデシュにおける課題や問
題点を伺った。
【調査報告】
〈Dr. Manas Kumar Chowdhury 氏〉
Manas 氏(図2)は、右記(http://people.juniv.edu/people.php?pid=manoshchowdhury)ホームページを参
照して頂ければ分かるように非常に多岐にわたって研究をなさっている文化人類学者である。大変お忙
しい中私たちのために時間を空けてくださり、限られた時間ではあったが、Manas 氏の広い見地に基づ
いたお話を聴くことができた。流暢で早い英語についていくのに必死で、自分たちの英語力不足を悔や
んだが、ここに私たちが Manas 氏から学んだことをいくつか挙げる。
1、頭脳流出について
「外国に出て行くバングラデシュ人」という観点からすると、今深刻な問題になっているのは、頭
脳流出というよりも出稼ぎ労働者(図1)の方らしい。出稼ぎ労働者からの送金はバングラデシュ
の多くの一般家庭を支えており、またバングラデシュ経済の主な収入源にもなっている。そのため、
出稼ぎ労働を無くすことはできないが、安い労働力輸出国として外国から見られていること、そう
いう認識が固定化してしまっていることは大きな問題で、これから変えていかなければならないと
語っていた。雇う側としては、外国人労働者に対しては保険の問題を考えなくてよく、またある程
度の悪条件での仕事を押し付けても、自国でのもっときつい肉体労働に慣れているため、黙って根
気よく働いてくれるので、都合がいいのだろう。が、バングラデシュ人にとっては、いつまでもそ
のような条件下で働いていくわけにはいかないし、実際、発展に伴いホワイトカラー職への就職希
望が急増しているそうだ。というのも、外国との交流が増えるにつれてバングラデシュでもグロー
バル化が進み、物価もそれに合わせて世界標準に近づきつつ(高くなりつつ)あるため、今まで通
りの安い賃金では生活がまかなっていけないからだ。かといって、既に十分きつい仕事を行ってい
るので、仕事量を増やすこともできない。では、物価に合わせて賃金も上げたらどうかと思ったが、
そうすると今度は「安い労働力」としての魅力がなくなり、出稼ぎ先で雇ってもらえなくなる。ま
た、この「安い労働力」という認識は非常に強く根付いており、外国籍企業は有能なバングラデシ
ュ人をヘッドハンティングしているにもかかわらず、結局は彼らの能力を無視して、体力仕事など
に搾取しているそうだ。こういった問題は、バングラデシュ労働者の質向上だけではどうすること
もできず、バングラデシュ自身のみで解決できるものでもない。様々な要因が複雑に絡み合った、
グローバルな問題として捉えてほしいと Manas 氏は語る。モノ、物価、ヒトはインターネットや交
通機関の発達でグローバル化しているが、もっと深いところでのグローバル化-世界中の人々が心
を通わせ仲よく、お互いへの配慮と尊敬の念をもって交流すること-を念頭において、インターナ
26
ショナルに発展していくことが、途上国のみでなく、すべての国にとって重要だと気が付いた。
【図1】 主な南アジア諸国の出稼ぎ労働者数(http://livedoor.blogimg.jp/hiroset/imgs/c/3/c37d6422.png)
2、大学教育、運営について
バングラデシュは、実は“超”がつくほどの学歴社会。限られたホワイトカラー職に就くためには、
最低でも大学卒業という学歴が必要なため、大学受験の競争率はとても高い。1万人に1人のみが
大学に行けるというのが現状だ。また特に、有名国立大学に入るためには、高い競争率の中で、特
殊で難関なテストで高得点をマークせねばならず、予備校に通っての受験対策が必須だそうだ。だ
が、調べてみると、大学受験に特化した予備校はダッカ市内中心部にしかなく、学費も相当高い。
日本でいう 3 代予備校-「駿台」
「代ゼミ」
「河合塾」のバングラデシュ版-「UCC」
「UNIAID」
「UAC」
で学んだ学生のみが大学受験を突破しているのが現実で、やはり所得格差が教育格差につながって
いる。また私立大学に関して、もちろん大学としての機能は果たしているが、お金儲けのための運
営という意図が見え透いていると言う。学費は高く設定してあるのに加え、運営方法や目的が、学
生の教育ではなく利益を出すことに主眼を置いている。教育世界に資本主義が全面的に侵入してい
る、という非常に悪い状況だ。またバングラデシュでは、まだ政教分離が確立しておらず、教育の
本来の目的が見失われているのではないかと感じた。
【図2】Dr. Manas Kumar Chowdhury 教授と彼のゼミ生
27
〈Shahid Hussain Shamim 氏〉
Shamin 氏は、バングラデシュ現地にてアントレプレナーシップを発揮し、もともとその地域に存在す
るものに価値を見出してアピールしていく活動を精力的に行っている方である。彼が代表を務める
UBINIG(http://www.ubinig.org/)(図3)
の活動に関しては、別の項にて既に説明した通りであるため、
本項では、Shamin 氏に伺ったお話しから考えたことを述べる。穏やかで、それでいて熱のこもった話口
調が印象的だった。
1、政府と NGO の関係
NGO 大国と言われるバングラデシュでは、グラミン銀行(図5)や BRAC をはじめ、様々なそして大
規模な NGO が活躍しており、その役どころは教育支援やマイクロクレジットに留まらず、行政やバ
ングラデシュ経済の下支えなど、政府の役割を肩代わりするまでに至る。これら2つが協力体制に
あれば問題はないのかもしれないが、政府は NGO の活発な動きを快く思っていなかったり、逆に
NGO は政府機能の弱さに不安を感じていたりと、上手くいっていない感がある。このことについて
Shamin 氏は、「政府は今、自分たちの利益や業績を追求しており、あらゆる政策への出資を渋って
いる。出資によって政府の収支が赤字になることを懸念しているのだ。本来ならばもっと出資を行
って有効活用し、国民の教育やバングラデシュの成長に役立てていくべきで、そうしない限り真の
意味での発展は見込めない。」と言う。また「だが、だからと言って政府の機能を NGO が肩代わり
してばかりはいられない。NGO は決して所有者にはなれないが、政府は国民から税を納めてもらう
ことでその所有者になり、代表として物事を決め、行っていくこと、治めていくことができるから
だ。今は、急激な発展と人口増加に対応できる能力がない政府を NGO が支える必要があるが、それ
では持続可能な発展はない。やはりこれからは、政府機能を強くしていかなければならない。」と語
っていた。確かにいつまでも NGO や海外援助国にたよっていてばかりでは、Shamin 氏がおっしゃ
るように持続可能性は見込めず、問題解決にも至らないだろう。そして、今バングラデシュ政府に
足りないのは、リーダーシップのとれる政治家の不足ではないかと思う。リスク管理を行い、責任
感・使命感を持って、公共の利益のために皆を向かわせることのできる人材がいないために、政府
機関が自己利益に走る政治家ばかりになるのだろう。何も、教育というのは子供たちだけのもので
はなく、リーダーシップ教育や、道徳教育など、国のトップに立つ者たちへ向けた教育もこれから
は重要なのではないかと感じた。
2、身の回りのモノの価値に気が付くこと
現在バングラデシュには、発展に伴いあらゆる物資が流入している。現地の人は支援される側とし
て、供給されること、与えられることに慣れており、外国から入って来る知識やモノが1番良いも
のだと思い込んでいる。また、支援をする側も、最新の技術や物資を与える事が発展につながると
思っている節がある。果たして本当にそうであろうか。もちろんまだバングラデシュに支援は必要
だが、
“与える”支援が常に良いとは言えないのではないか。実際、ファーストフード文化流入によ
る健康被害、伝統産業の荒廃問題、化学薬品利用による農作物や水産物への被害など、与えられた
ものへの過剰な期待と憧れは、バングラデシュで様々な問題を引き起こしている。そして、自分た
ち自身の伝統や、豊かな自然、生活の知恵などの価値を見失ってしまっている。今回私たちが視察
した、自然の中で育った魚や農作物、母の知恵として利用されてきた薬草、非常に繊細で美しい模
様をなす織物などはその一例にすぎない。Shamin 氏も語るように、バングラデシュに足りないのは
モノではなく、それら身の回りのモノに価値を見出し、上手く活用、そしてアピールしていく能力
なのだ。そしてまた、支援を行う側に求められているのは、現地に赴き、考えや知識をシェアし、
28
一緒にその価値を活かして発信していくための協力を行うことであると思う。今回の研修と Shamin
氏のお話を通して、支援とは何か、改めて考え直すことができたと思う。また、こういった活動を
行っていくことで、
「ツーリズムのない国」と言われ続けているバングラデシュにおいても、観光業
が新たな産業として成立しうる日も遠くないだろうとも感じた。これに関連して、Shamin 氏が現在
取り組んでいる活動の1つに“community based training”(図4)というものがある。これは、例えば
ホテル、空港、病院、レストランなど公共施設において、それぞれに特化した知識・技術教育は個
別に行われているが、サービスやケア教育が行われておらず、その概念すらないことを問題視して
始められた取り組みだ。外国人のみならず、現地の市民にとっても生活しにくい国と言われる所以
は、この、
“サービス”や“ケア”の欠如にあるという。皆教育を受け、技術や知識は備えているが、
それを公共のために使おうとはせず、自己の利益のために使う人がほとんどで、そのためなかなか
人を迎え入れる体制が整わず、外国籍企業の進出も拒まれている。これでは、観光産業も、また別
のグローバルなビジネスのチャンスも、いつまでたっても訪れないだろう。そこで、Shamin 氏が取
り組んでいるのが、ホテルもレストランも、コミュニティーベースで協力や情報などのシェアを行
い、共にサービス・ケア教育を行っていく、というものである。コミュニティーベースで行うこと
で、それぞれの得意分野を活かせたり、有益な情報の共有もスムーズだったり、また地域色を出し
てアピールしたりすることも可能で、効率もよいからだ。今回私たちも研修の中で、バングラデシ
ュの各地でさまざまな魅力を感じた。これからは身の回りの価値あるものを大切にしていくととも
に、その魅力を活かし、発信していくことで自信もつけていってほしいと思う。
【図3】UBINIG の施設(Tangail 県)
【図4】Community Based Tourism を掲げて活
動する UBINIG
【図5】グラミン銀行本社(Dhaka)
29
(8)農村の日常生活における男女の役割分担について
【目的】
性別の違いによる、役割の違いを知ること。それが社会的立場の差異にどのように影響しているのか
を知ること。
【活動概要】2014 年 2 月 14 日、首都ダッカから北に 100 キロ程離れた、タンガイルという村でインタ
ビューを行った。家庭訪問や、産婆として出産に関する支援をする団体へ質問をした。
【調査報告】
男性 A さん:
家族構成:妻、息子 1 人(鶏を売る商売をしている)、娘 1 人
現在は孫と一緒に暮らしている。
・起きてから、インタビューまでにしたことを聞くと、4 時に起床し、お祈り(イスラム教)、稲の
世話、そしてバザールでの買い物を終えて、いまここに来ていると言っていた。
・バザールでは毎日一日分の食べ物を買っている。魚、豆、野菜など、買われ食材は奥さんが頼
むときもあるそうだが、基本的には自分で決めて買っているそうだ。
・1.2.5 月は稲刈りで忙しく、10.11 月はマスタード、野菜作りをしている。
・日本では婿養子が存在することを伝えると、笑いが起こり、バングラデシュでは女性が嫁ぐと
説明してくれた。
・仕事の後は孫をバザールに連れて行ったりして、遊ぶそうだ。
男性 B さん:
家族構成:妻、息子 2 人
・畑の仕事をしている。疲れるし体を痛めることもあるが、まだ若いので負けない、と明るく話
していた。
・化学肥料を使わず、牛糞などの自然のものを使っている。防虫剤は買う。
・収穫した野菜は自分達で食べるよりも売ることの方が多いようだ。
30
男性 C さん:
家族構成:妻、息子 1 人、娘 4 人(1 人は嫁に行った。)
・カタールに出稼ぎにいっていたこともある。
・土地を借りて、稲作をしている。
・現在、マイクロクレジットに毎月 1200 タカを返済しており、支払いは間もなく終わるらしい。
女性 D さん:
家族構成:不明
・普段は稲作や牛の世話をしている。現在、子牛が生まれそうなので牛乳がたくさん取れるそう
だ。
・ご飯を作るのは大変。忙しい日は、前日に作り置きをする場合もあるようだ。ときどき、夫が
水を運んだり食材を洗ったりと手伝いをしてくれる時もあるそうだ。
・産婆として、毎日妊婦を訪ねて世話をしている。特別にお金はもらっておらず、少額のお金や
サリーなどをお礼としてもらうようだ。自分から請求することはないらしい。
・文化や言葉は違うけれど、バングラデシュ人も日本人も同じ「人」だと言ってくれた。
女性 E さん:
家族構成:息子 1 人、娘 6 人(全員結婚した。)
・普段の一日の流れを聞くと、
「4 時起き、お祈り、畑の世話、牛を外へ出す、牛糞の掃除、手と
顔を洗う、朝ごはんをつくる、食べさせる、畑の世話、昼ご飯を作る、家族に食べさせる、休憩、
畑の世話、夕飯を作る。
」と答えてくれた。産婆なので夜でも呼び出されることもあるようだ。
・出産の際、夫が立ち会うことは無いそうだ。日本では、立ち会い出産をすることが多いと伝え
ると、笑顔で「それは、いいですね。
」と答えてくれた。バングラデシュで立ち会うことが無いこ
とをどう思うか尋ねると、
「近くにいてくれることがわかっていれば安心できるので、立ち会って
手を握ってもらえなくても平気。」と、言っていた。はつらつとした笑
顔でそう話してくれた。我慢しているのではなく、本心からそう言っている様子だった。
また、別の機会に、男性に立ち会い出産についての意見を聞いた。その人によると、女性が出産
する場所というのは、どことなく神聖な雰囲気を醸し出していて男性は入ってはいけないものだ
と感じるそうだ。そして、自分の妻がきちんと服を着ていない状態を第三者がいる前で見ること
に抵抗を感じるようだ。近くで妻が苦しんでいる様子を見ると、代わってあげたいのに代われな
い苦しみや悲しみが大きくりすぎて耐えられなくなるそうだ。
・E さんが子供のころの生活を尋ねた。父はバザールと農業をしていて、母は農業と料理をして
いたそうだ。家庭内での子供のしつけは、父や長男が主にするようだ。しかし、父親は娘をかわ
いがってしまうので厳しくは怒れないようだ。
【考察】
男女間で、家庭における役割が比較的明確に分かれていると思われる。
男性は、農業、毎日の買い物、(出稼ぎ、)お金の管理をしており、一方、女性は、農業、牛の世話、料
理をしていた。毎日欠かすことなくしなければならないことは、男性よりも女性の方が多いと思われる。
そして、女性の労働の時間的拘束はより長いと感じられた。お金の管理や子供ものしつけは男性が主に
することから、家庭内の決定権は男性にある傾向がうかがえた。
しかし、夫が妻を支配しているような雰囲気や、妻が労働の拘束時間の多さに不満を感じている様子
31
は一切感じられなかった。男性が女性に対して神聖さを感じるときがあり、家事を手伝うときもあるこ
とから、決定権を牛耳っているのではなく、女性を守るべき対象としているように感じた。生活の効率
を良くするために、お互いが役割分担をしていると思われる。
【懸念】
現在の日常生活において、多くの女性が家の中で過ごさなければならない時間が長いのは事実である。
女性への教育機会や雇用機会が著しく増加しているので、従来の役割分担
では生活が崩れてしまわないかと懸念している。
(9)昔話の役割
【目的】
子供への“教育”は学校で習う座学だけではない。人としてのあり方、社会での生き方も同時に学習
しなければならない。大人から子供に伝えられる口頭での物語には教えるべきことが多く含まれている
のではないかと考え、人々の間での昔話の役割を確認することを目的とした。
【活動概要】
NGO、UBINIG の代表シャミン氏に、タンガイルに伝わる昔話を教えてもらった。
【調査報告】
本来ならば、一晩かかるだろう話を短縮して一時間程度で話してくれた。その話の内容は、夫に鉄を
渡されて「ご飯を作ってくれ。」と頼まれた妻が、神様に頼み、夫の要望に応えることができたというも
のだった。昔話をするときには、話す抑揚や声のトーン、そしてリズムも大事だそうだ。シャミン氏は、
それも含めて伝えるために、ベンガル語で話をしてくれた。話の速度はゆっくりだと感じた。表情や身
振りなどは、一貫して比較的穏やかな様子だった。表情を豊かに変えたり、大きな声を出したりして、
聞き手の意表をつくわけではなく、聞き手を安心感で包み込むようにして諭しているようだった。
この話は、タンガイルでは非常に有名だが、他の地域では知られていないという。シャミン氏は、幼
少期に、母や祖母から教わったそうである。夕方や寝る前など落ち着いた時間帯に、母や祖母の“にお
い”や包み込んでくれるような温かさを感じながら話を聞くのが好きだったそうだ。話を聞いたとき、
幻想的だと感じ、自分の存在する世界以外の別世界を想像したそうだ。シャミン氏は、当時を振り返り、
懐かしむ様子で、”dreaming”だったと表現した。
シャミン氏が子ども達に伝える側になり、同じように夕方や寝る前に話をしていたそうだ。話を終え
たあと、子どもたちは、「今の生活と全然違う。」という感想を述べた。現実世界と話の世界は異なって
いるという感想は、シャミン氏が感じたことと重なっている。
この類の話は文字化したものを大人が読んで聞かすものではない。大人たちの頭の中にあるものを口
頭で伝えるのだ。子供達も、文字を追いながら聞くのではないが、話を聞いてきちんと理解をし、記憶
している。実際にシャミン氏は、幼少期に聞いた話を記憶して、後世に伝えているし、シャミン氏の子
供達もスラスラと話を伝えることができるようだ。
しかし、話の一部を忘れてしまうこともあるそうだ。完璧に覚えていない話は二度としないという。
全ての言葉がそろっていないと意味がないからだとシャミン氏は語った。
このような地域に伝わる話は、子供たちが大人に話してほしいとお願いして聞く場合もあるし、大人
32
達が子どもを集めて聞かせる場合もある。どちらかと言うと、大人が子どもに聞かせたがるそうだ。話
をすることは、子供を楽しませるだけではなく、メッセージを伝えながらしつけをするのに使われると
シャミン氏は考える。しかし、
「鉄をご飯に変える話」の教訓は何かと尋ねると、困った表情で考え込ん
でいた。それぞれの話にメッセージがこめられてはいるが、明確な言葉で表現できる教訓を意識しなが
ら話していないようだった。
最近は、お話をするビジネスも誕生しているそうだ。都市に多くみられるようで、女性の story teller
が活躍しているという。2 時間程度の話を子供達にするビジネスである。正確な料金は把握できていない。
話をすることで子どもを集めて、お菓子等を売るビジネスではなく、話自体を売る商売である。このよ
う人たちが、新しい物語を作り出していくと、シャミン氏は予想している。
【考察】
地域ごとの、その地域限定の話が存在しているようである。自分の出身地域の話を幼少期に何度も教
わり、大人になっても何度も話すことから、アイデンティの確立に大きく影響しているのではないかと
思われる。
また、大人たちは、話に含まれている教訓を具体的に把握していなくても、昔話はこどものしつけに
重要だと考えている。わかりやすい教訓ではなく、言葉では表現しづらい感覚を刺激するようなメッセ
ージが含まれているのかもしれない。また、人々の間で共有するような一般化された教訓ではなくて、
それぞれの話し手が、自身の価値観を含んで子供達に伝えていることも考えられる。
そして、話を聞いた子どもは話の内容を鮮明に覚えているだけでなく、話してくれた人の温かさや、
その場の心地よい雰囲気も一緒に記憶している。そのため口頭伝承は、人と人のつながりの大切さを伝
えることができ、人の心を豊かにすることができると思われる。
【懸念】
人々の記憶が薄れて話が無くなっていかないように、文字化する活動があるようである。文字化され
て文化が保存されることは良いが、人から人へ伝えられることが減るかもしれない。また、ビジネス化
されているので、新しい話が生まれながら知らない人から伝わる形式が広まる可能性が高い。
地元への愛着を感じながら、心をゆるす人に話を聞いたり、伝えたりする時間が減っていくことに寂
しさを感じる。
(10)海外で働くことについて
【目的】
バングラデシュにおいて活動している日本の方の話を伺い、バングラデシュの現状に対する彼らの見
方を知るとともに、将来のキャリアを考える一助とする。
【調査報告】
今回の 10 日間の滞在を通じて、JU(Jahangirnagar University)に留学中の久松祥子さん(広島大学大
学院修士課程)や、ダッカ大で研修中の宇野杏梨日本大使館職員、杉本文恵・青年海外協力隊員(UBINIG
配属)、伊藤忠商事ダッカ事務所の鈴木拓也所長、世界銀行ダッカ事務所の山川由美子教育専門家、在バ
ングラデシュ日本大使館の齋木都夫医務官、柘植亮司一等書記官と面会し、さまざまな視点からのお話
をお伺いすることができた。
33
<伊藤忠商事ダッカ事務所訪問、鈴木拓也所長と面会>
ガイドの Kanan さんの個人的なつながりにより、伊藤忠商事のダッカ事務所に訪問することができた。
ダッカ事務所は、1961 年、まだバングラデシュ独立時前の東パキスタン時代に開設され、日系企業とし
ては最も歴史が古い。所長曰く、アジアの最貧国といわれるバングラデシュは、日本人よりも裕福な人々
も一定数存在し、そのためそれなりに商売ができているとのことであった。また、独立時の経緯および
その後の援助の実績から、バングラデシュは親日国となっており、非常にビジネスを行う素地が充分あ
るとのことであった。バングラデシュは建築資材や綱引きの綱に使われるジュートやケナフなどの産地
であり、それらを日本に販売したり、また日本のトラックや機械、セメント、合成樹脂などをバングラ
デシュに販売したりもしている。食糧分野でも、JICA が国際協力として農村部に無償で行っているのに
対して、伊藤忠商事は都市にてビジネスとして行っている。
この国特有の事情としては、輸入税が高く、また外資の参入障壁が非常に高いことがある。これは、
富裕層が政府をあまり信用せず、納税をしないからだそうだ。また、近年激しい交通渋滞となっている
ダッカ市内であるが、車の台数が多いからではなく、交通道徳が全くなっていないからで、教育をしっ
かりすればこの問題は解決可能であるということだ。
税金も払わず、輸出産業に乏しいバングラデシュであるが、出稼ぎからの送金により貿易収支は黒字
となっており、さらには、他の国の人と比較して、借りたものは返す、という契約へのコンプライアン
ス意識の高さがあり、ここがバングラデシュ人の根本的に良いところであるということであった。
日本はすでに経済的な中心ではなくなってきてはいるが、日本人としての強みというものは非常に多
くある。たとえば、人が見ていないところでも頑張れるといった勤勉さや相手を裏切らないといったこ
とである。こういったことを続ければ、日本が世界から見捨てられることはない、と所長は言った。特
に、商社のような、売り手と買い手を結び付けるソフトな力というのは、大変であるが、今後も重要な
力であり、こういった場では日本人は非常に活躍できるとのことであった。しかしながら、日本人もこ
のままではダメで、控えめ過ぎて自己主張ができないこと、そして Yes や No がいえないということが課
題としてあげられる。また、日本企業としての課題は、工場などのケアがあまりできていないというこ
とがある。いいものを安く持ってこれれば、労働環境が多少悪くても問題ないとする姿勢は、まだまだ
欧米企業と比較して企業としての文化レベルが低いということであった。
<世界銀行ダッカ事務所訪問、山川由美子教育専門家と面会>
引率教員の大野先生の個人的つながりにより、世界銀行のオフィスを訪問することができた。山川さ
んは、2002 年から 2004 年にエチオピア、その後ダッカの日本大使館で勤務されるなどして、そして 2009
年 1 月から JICA にて、2013 年 3 月から現職についていらっしゃるとのことであった。
現在、バングラデシュの教育は初等・中等・高等教育および skills development といった各セクター
に分かれており、セクターごとに 5 年計画というものを策定している。ここに、9 つの政府や国際協力機
関(JICA、World Bank、Asia Development Bank、EU、UNICEF、OFID、オーストラリア、スウェ
ーデン、カナダ)がどの Donor として関わり、それらが協力し合って政府の行う教育の質の改善を支援
している。とはいえ、教育の質を比較するのは大変困難であり、
「バングラデシュにあっているかどうか」
を基準にして考えているそうだ。2009 年にバングラデシュに赴任して以来、山川さんが具体的に行った
こととしては 9 つの Donor がそれぞれの思惑で動き、結果として政府に「Multiple Voice」
(それぞれが
送る、全然違う方向性のアドバイス)を送らないよう、その Donor 間でコンソーシアムを組み、その議
長として、各 Donor 同士の強みや弱みをまとめて、協力できるように調整をされていたそうだ。
彼女曰く、バングラデシュはとても人口が多いため、なかなか改革が進まない(小学校就学人口だけ
でも 1800 万人いる、など)が、政府として教育には非常に力点が置かれており、それにより、子供を学
校に行かせるということへの理解があるとのことであった。しかも、イスラム圏では珍しく、就学率の
34
男女比では男児<女児となっているとのことであった。したがって、バングラデシュで問題となるのは、
教育の質の向上であり、現在コンソーシアムでは、試験を competency base なものに少しずつ変えてい
くことで改革を進めているようだ。
今後、World bank にて必要とされる人材は、①膨大な報告書を端的にまとめることができる、②オフ
ィスだけでなく、現場で働くことができる、人材ということであった。World bank に限らないことだが、
まずはいくつかアプライし、自分の貢献できるものが何かということを訴え、そしてそれが組織の求め
るものと合致すれば、勤務できるそうだ。したがって、もしも国際機関にて勤務をしたいなら、現場志
向でかつ自分がニーズにあった能力があることを示すことが必要ということであった。
<在バングラデシュ日本大使館の齋木都夫医務官、柘植亮司一等書記官と面会>
伊藤忠商事ダッカ事務所鈴木拓也所長のご配慮により、偶然日本大使館を訪問することができた。柘
植書記官によると、バングラデシュと日本のつながりというものは想像よりも強く、毎年バングラデシ
ュからの留学生が 10 数人日本に来ている。また、独立時に最初に承認し、以後経済支援を続けてきたこ
とから、バングラデシュの人は日本への尊敬の念も強いようだ。また、近年バングラデシュ政府は特に
教育に力を入れており、現在では約 70%の就学率のようだ。しかしながら、政府の施策だけでは貧困層
は満足に教育できていないため、そこに BRAC などの NGO が入って、補完しているとのことであった。
齋木医務官は、2004 年まで大学病院で勤務され、以後外務省医務官として海外に出ており、これまで
に中国、ボリビア、クウェートといった国々で勤務なさっていた。先生は現地での医療状況に関して教
えてくれた。まず、医療スタッフは先進国最低といわれる日本と比較しても圧倒的に少なく、また医療
状況も劣悪で、大学病院においても感染管理・手術時の清潔操作などが国際基準から見て全くなってい
ないそうだ。さらに、手術時は本来麻酔科医が麻酔記録を取り、看護師が常に状況を見守るべきである
が、バングラデシュでは記録もとらず、看護師もすべき業務をしておらず、また物品取扱いが非常にず
さんだったそうだ。これは、教育が原因であると先生はおっしゃっていた。そして、そこから、日本式
の孤児院を紹介して下さり、ちゃんと教育すれば見違えるようによくなるということを語ってくださっ
た。
お二人は、海外で勤務することに関して教えてくださり、こういった仕事は英語力よりも「熱意」が重
要であり、またどんな勤務をしていても、現場に行かなければならない、現場に行けば、何かヒントが
落ちている、ということであった。この話は非常に参考になった。
【考察・振り返り】
・海外で勤務するというと、大きなことのように思えるかもしれないが、少しチャレンジ精神があれ
ば、なんとかなるかもしれないと思った。
・日本はすでに世界の経済的中心ではなくなってきているが、日本人としての強みは、今後世界の中
でまだまだ「competitive」であるように思えた。
・本来私たちはいつも英語力の不足を理由に海外に行かず、また現場に行かないことが多いが、実際
の海外勤務は英語力が多少不足していても熱意で何とかなるということを聞いて、なにか励まされた
ような気持ちになった。
・再びバングラデシュを訪問した際には、現地で勤務するということがどういうことであるか、イン
ターンシップをすることができれば、今後のキャリアにもつながるように思われた。
・みんな、現地に全くないものを援助しよう、という姿勢ではなく、今あるものをうまく生かすには
どうすればよいか、あるいは、うまく生かせるような素地を作ろう、という姿勢で海外にて勤務され
ていたので、今まで考えていた国際協力とは違っていて、新鮮であった。今後は、こういった視点で
考えていかねばならないと思われた。
35
3.アイディア出しワークショップ・発表
現地でのフィールドスタディを通し、様々な課題・改善点が見えてきた。それらについて、事前学習で
行ったアイディア出しワークショップの手法を利用し、問題点の洗い出し、絞込み、具体的解決策の考
案、発表とフィードバックを行った。以下、その経緯とまとめを簡潔に紹介する。
《1》 問題点・課題の洗い出し
バングラデシュの現状を見て、まずは、私たちが課題・問題だと感じたことを洗い出した。
⇒その後、項目ごとに分別。以下、9 項目に分けた意見を記載する。
1、食

手に入れたい食材をいつでも、簡単に手に入れるためには

料理時の煙を減らすためには(コンロなどの設置)

栄養不足の人を減らすためには(特に子供たち)

女性の家事の負担を減らすためには⇒バングラデシュでは女性の仕事が非常に多い。休む暇
もない母親が子供の面倒を常に見ることは可能か。保育所などもないし目を離すと危ない場
所・モノも多い
2、制度

制度や決まりがあっても下まで行き渡っていない

政府やドナー機関の政策や思いが末端まで行きとどくためには、国民に広く周知させるため
には何が必要か。宣伝方法は。都市と農村での方策の違い。

縦割り行政を打破するには(横のつながり、連絡網も)

結局、人・設備・資金が足りていない(いや、モノはあるけど有効利用ができていないので
は・・・という意見も)

男女間の不平等感や分け隔てを無くすためには。
(交流を通して、バングラデシュでは中学生、
大学生や一般の女性も社会進出や生活における女性の不平等感を感じていたので。また実際
に差別や、女性の社会進出の難しさもある。)
3、交通

交通事故を減らすには(運転マナーの悪さから、やはり事故も多発)

ダッカ市内の交通渋滞(発展に伴い、車がたくさん入ってきたが、マナー教育や)インフラ
整備、制度規制の周知がそれに追いついておらず、常に渋滞)

都市内、また都市と農村間、農村の交通状況、アクセスをよくするためには(緊急時などに、
整備された道路が少なかったり、なかったり、または渋滞がひどくて時間も労力もかかる。
緊急対応ができない)

田舎では都市よりも家同士が離れていて、しかも交通インフラが万全ではなく、様々な情報
共有や助け合いがしにくいのでは。
4、医療

妊婦に安心して出産できる環境を提供するためには(特に、農村地域においては、十分な医
療施設も医師もおらず、またそういった環境の整った場所へのアクセスが悪いので、流産に
36
つながる可能性大。早産やハイリスクな出産の際に困る。現在は、ボランティアの女性と
NGO が産婆さんとして活躍しており、状況は改善されてきている)

出産時、母子の健康を保つには

村や農村地域にドクターが素早く駆けつけるシステムと、現地でも十分な治療ができるだけ
の緊急持ち運び医療セットなどを常備する

国立病院を全員が利用できるようになるには(数が少ないためアクセスに時間がかかる、多
くの人が来るため診てもらえない。都市部以外の人には大変)

病院や、公衆衛生に関わる機関の施設をもっと衛生的に保つには。
(衛生管理への配慮や、意
識がほとんどない。そこまで考える余裕がないのか、そもそもそういった教育を受けていな
いのか)

医師不足を解消するためには(医師になれる人材の不足。また教育へのアクセスに経済的制
約があり、医師になることが難しい。また、医師を増やしているが、それでも急激な人口増
加に対応できていないのかもしれない)

薬局の人が資格をもって、薬品管理をするようにしないと危ない(現在は、無免許で、一般
の商人が自分で仕入れた薬を売っている。薬の知識もほとんどないのに)

薬の流通をきちんとするためには(バングラデシュでは、処方箋がなくても、専門の薬剤師
からでなくても、処方箋医薬品や抗菌薬、麻薬まで買えてしまう。統制がとれないし、副作
用も危ないし、不正利用の危険性もある。一応薬剤の種類によって規制はあるが、誰も守っ
ていない、または行き渡っていなくて知らない)

バングラにとって持続可能な医療体制とは?(ex:医療スタッフが足りない中、今は彼らが自
己犠牲を払って賄っている面が多い。これでは医療スタッフが疲弊し、持続できないため、
改善が必要と思われる)

子供の下痢をゼロにするには(下痢で亡くなる子供はまだまだ多い。これは栄養失調や衛生
環境の悪さ、十分な医療サービスが受けられないなどの理由がありこれらが絡み合っている)

病院までの安全な交通アクセス(ハザードマップのようなもの)はないのか
5、ゴミ問題

ポイ捨てを減らすためには(生ごみのポイ捨てによる衛生環境悪化もあり、その影響は、水
などを通して貧困層の地域にまで浸透し、彼らの住む場所がなくなるなどの問題にもつなが
る。一見しただけでは分からないところまで問題がつながっていることは多々ある。また、
ごみ山でリサイクルできるものを集めている子供たちにとって、ガラスの破片やペットボト
ルの切れ片などでケガをすること多く危険)

医療ゴミをきちんと分別して、適切に処分するためには(現状は、医療ゴミもゴミの一種と
して処理されており、特に分別はされていない)

田舎で燃えないごみの回収を適切に効率よく行うには(現在のバングラデシュでのごみ処理
は、集める or 埋立て。農村では、燃えるごみ以外のゴミは適切処理する施設も技術もなく、
ほったらかし)

露店のごみ回収(ごみ問題のなかでも特に深刻なのが、露店店主や利用者によるポイ捨て。
量が多いし、捨てるのがあたりまえ見たな感じの風潮あり)

ダッカ市内でさえちゃんとゴミ処理できていない。やはりゴミが一番たくさん出るところで
はあるので、ゴミの分別を行っていくべき。どう周知させ、行うか。費用。
37
6、教育

すべての大人、子供が各個人の望む教育にアクセスできる、享受できるように

お金がなくても、中・高等教育を受けられるようなシステムづくりや工夫必要(能力のある子
どもでも、貧困のせいで教育が受けられない現状回避。また、収入格差を教育格差につなげ
ていてはいけない)

男女間の教育格差(宗教観や、女性は結婚して家を出てしまうのでお金は息子に・・という
考えも影響しているのかもしれない)

医者・先生以外の職業を中学生が知って、将来の進む道の選択肢を増やすには(早朝塾にて
子供たちに将来の夢を聴いた際、9 割の子供たちが医者か先生。私たちがジャーナリストなど
の職を挙げてもピンとこないようだったし、いっぱいありすぎてまだ迷っているという概念
も理解できていない、またアジアなど隣国以外のことはあまり知らないようだった。⇒住ん
でいる世界が狭く、情報もなかなか入ってこなくて、選択肢や知識が非常に限られている。
自由が限られているともいえる?)

妊婦、またその夫に、出産や病気に対する知識を増やすためには
7、意識改革

人間の意識(やはりお金や自分の利益中心になってしまう)を根本的に変えるには

みんなに健康意識をもってもらうには(どれだけ設備や環境が整っても、知識があっても、
結局知っているだけ、モノがそろっているだけではダメで、行動に移すこと、効果的に活か
すことが大事。)

人々のモラル向上のためには何をすればよいか(自分たちの生活に手いっぱい、また意識・
道徳教育を受けていなくてモラルという観念もない)

キャンペーンや広告、セミナー開催などの呼びかけは行われているが、その効果は確かめら
れているのか。また効果的な宣伝になっているのか。様々な工夫、努力、改善は行われてい
るのか。

制度の項目にも記載したが、女性が差別感を感じない社会にしていくことは重要

先生、医者、政治家など政府から派遣される人や、国の発展・安定に大きく関わる人たちへ
の「責任感・使命感」をしっかり自覚させて、行動にもそれを反映させるためのトレーニン
グや教育。どうすれば自覚してくれるのか?(特に政治家に顕著だが、国民のため、バング
ラデシュの発展のためというより、まず自分の利益向上を考えている。優先順位が自分の利
益・金>公共の利益が一般的)

結局最終的に変わっていかなければならないのは市民1人1人の意識。だが、意識を変える
のは非常に難しく、時間もかかる。だがまず、そのための取り組みや対処が考えられてさえ
いない点が大きな問題。それが問題だと気が付いていないのかも。
8、意識 and 教育

18 歳未満の女性の早期結婚を無くすためには(家庭の事情、男性側の無理強いで十分な教育
も受けられていないうちに結婚すると、子供ができたときや病気になった時に困るし、そも
そも病気になったことにさえ気が付かないこともあって危険。栄養のある食事とかもしらな
いし、生活面で困ることも多い。また、女性はあまり自分の意見や困っていることを男性に
言えない感じがあった。宗教観か伝統か)

病気・健康・食育のセミナーを実際に生活に取り入れてもらうためには(政府等も工夫して、
農村にまで出向き定期的にセミナーを開催して健康に関する知識を伝えようとしているが、
38
結局それを住民など参加者が重要だ、効果的だと認識して実行に移してくれないと意味がな
い)

教育を受けていても、その重要性やそれがどう自分たちの生活に関わっていて、どう活かさ
れるのか理解できていないと効果が半減。
9、もともとある、良いものを活かす。地元学。観光アピール

地域の埋もれた産業資源、伝統芸能、観光資源を上手く活かす、アピールするには(バング
ラデシュにはモノがないというより、あるモノを活かせていない。おそらく貧困の原因はモ
ノ不足ではなく、身の回りにある本当は価値あるものの価値に気が付いていなかったり、そ
れを有効利用できなかったり、どう使っていいか分からなかったりして、無駄にしてしまっ
ていることかも。)

身の回りの良いものに気が付かず、外国のモノ、新しいもの、人が使っているものが良く見
えてそっちに惹かれてしまう。

バングラデシュが観光客にとって来やすいところになるには(ツーリズムがない。まだまだ
受け入れ態勢がない。せっかくいいもの、伝統的なものがあるのにアピールできていなくて、
観光アピールの手法もしらない)

技術や知識を身に付けても、それを活かせる場がちゃんと担保されていないのでは。
(社会の
発展に合わせた教育を、実践的な教育を行って個人個人の素質を活かす)
《2》 アイディア考案
沢山見えてきた課題であったが、その中で特に注目した{1、食育セミナーで学んだ内容を実践するた
めのインセンティブ}、
{2、露店ゴミの収集システム}の2つについて、具体的な解決策を考えた。
{1、 食育セミナーで学んだ内容を実践に移すインセンティブ}
【テーマ】
「農村地域の人々の健康を守るために、 病気、健康、食育のセミナーを行動に活かしてもらうには?」
【アイディア出し手法】
決まったテーマに基づいて、解決策の案を具体的に考える。目安として1人、3 つ、または 4 つ提案す
る。そのアイディアには、わかりやすい名前をつける。イラストをつけてもよく、人の目を引くように
工夫をする。箇条書きでその内容の説明をする。案が出終わった後、それぞれのアイディアを紹介し、
投票した。星の数は取得票数である。以下、個人で考案したアイディアを紹介する。尚、アイディア出
しワークショップの順にそって(I)~(III)の番号を振っている。
(I)アイディア出し
-「定期健康診断」★★
・月 1 回の定期診断を村で行う
・district, union の医者が来る
・前回の結果との比較をする
39
「検診セミナー」
・食に関するセミナーと同時に健康診断をする
・健康診断の結果に基づいて生活で気をつけることを、セミナーをする側から指摘してもらう
・次回、健診結果が良くなれば、何らかの形で“ご褒美”
「健康 note」(iLOHAS)★
・携帯電話に毎日情報を配信
・健康と食に関する役立つ情報をメールで知らせる
・配信メールの中に広告を載せてそれで儲ける
「健康 LINE」
・SNS のような形で、食からの健康推進活動の進捗状況をシェア
・定期的に更新するようアラームあり
・他のユーザーと競い合って、より健康で、より良い生活を!
「村内母の会」★★
・数世帯ごとにチームになる
・食の改善によって得られる健康面においての達成度の競争→達成度が高かったチームには商品がプレ
ゼントされる。
・達成度が高くなった要因を村内で共有する
「日めくり良いことカレンダー!!」★
・カレンダーに 1 日 1 つずつ健康や料理に関する教訓を書き込んだものを配布する
・それを実践日にはカレンダーに印をつける。→毎回のセミナーで出来具合を報告。
「栄養市場」★★
・市場の売り物を入れているカゴに、栄養表示した紙を貼る
・目に良い野菜や、筋力がつく野菜など、セミナーの知識をリマインドさせるものも添付する。
「みんなでチェック」
・定期的に村の人が集まって、健康に気をつけた行動を教え合う。
・良い所はお互いに真似をする。ほめ合う。それぞれの会で NO.1 を決めて、記録していく。
「Better life magazine」
・定期的に各家庭に配布
・健康情報をのせる
・実際の人々の暮らしぶりをのせて健康的な生活を送る意欲を刺激!
・良い結果を出せたひとを称賛するようなページも載せる。
「健康交換日記」★
・食べた物、体の調子、予防接種をしたこと等を日記に記入し、家族ごとに回す。そのときに、日常生
40
活の面白い出来事も綴って、周りの家族とのコミュニケーションもとる。
・健康的だな、と賛同できるページがあれば、”イイネ”と書く。”イイネ”がたまれば、セミナーをする人
から、プレゼントもらえる。歯磨き粉などの健康に関するものがもらえる。
「セミナー実践記録ノート」
・セミナーで学んだことを実践したことや、良かったと思える点を、絵を交えながらノートに週 2 回程
で記録していく。
・ノートはセミナーで、定期的に村人で回し読みをする。
「ママさん、おばあちゃん、お茶会」
・週 3 回の頻度で、5 人組みで健康的な料理を作って持ち寄って食べる。
・セミナーの内容と気をつけた点を発表する。
「双方向型セミナー」
・セミナーの内容を募集
・一方的ではなく、模範になる人の暮らしの様子を基本とする。
「セミナー実践 home work」★★
・セミナー内容を実践してレポートをかく
・子どもが学校で毎日交代して発表する
「栄養 1 日 1 袋」★★★★
・1 日に必要な栄養分の食材をセットにして売る
・さまざまな野菜、魚、肉の組み合わせる
・パッケージにレシピをのせる
-(II)アイディア絞込み・検討
★4 つが付いた「栄養 1 日 1 袋」のアイディアが採用となった。
次に、
「栄養 1 日 1 袋」のアイディアの良い点と悪い点を挙げる。各自で思いつく限り挙げて行く。以下
に、挙がった良い点と悪い点を表記する。
<良い点>
・一目でわかりやすい
・食材がまとまっているので、移動する必要がなく、買いやすい
・献立を考えやすい
・買い物をするのは夫の役目だが、買い物が楽にできるようになるので夫の負担が減る
・父親と一緒に買い物に行く子供たちは、健康的な食材の組み合わせを自然と学ぶことができる。
・1 つ 1 つ食材を別々に買うよりも割安にできるかもしれない。
・食材をセットで買えると、お得感があって購入する人が増えるかもしれない。
・袋詰めなので、食材の鮮度と清潔さが保たれる。
・レシピをのせることで、母親の料理のバラエティが増える。
・普段は使わない食材で新しいレシピに挑戦できる。
・子どもでも簡単に買えることができる。
41
・1 日単位で買うことができる
・1 日で食べきれるので、食べ残しがなくなる。
・栄養失調の抑制ができる
悪い点については、みんなで列挙した後、優先させるべき課題だと思われる項目に★印をつけた。
<悪い点>
・村人が仕分けられるなら良いけれど、誰かに頼まないといけないのならコスト UP になる。★★★
・誰が仕分けるのか。また仕分ける人に利益はあるのか。★
・食材を小分けにして詰めると、袋のゴミが増えてしまう。★★★★★★
・年齢、性別、栄養、健康状態によって必要な栄養素が異なるので、万能の栄養パックとして販売する
のは危険を含む。★★★
・量やバラエティはどのようにして決めるのか。★★★
・魚と野菜を一緒に同じ袋に入れたら、食材が痛んでしまう。★★★
・自分でレシピや食材の組み合わせを考えなくなってしまう。★
・購入しても、全てを一度に使わずに、バラバラにして使ってしまう可能性がある。★
・一袋をきちんと使わなければ、栄養失調になってしまう危険性がある。★
・市場で商売をしている人が協力してくれるのだろうか。★
・大家族は、多くのパッケージを買う必要がある。★★
・作り手の顔が見えない。★
・買ってくれるかわからないので、値段設定が難しい
(III)アイディア課題・対策
★が多く付いたもの(赤と青で表記している)を優先課題として対策を考えた。
以下、課題と対策である。
-①
値段をさげるために
→農家と漁師を動員して”1meal package”を作るように促す。そうして仲介コストを下げる。企業が
材料を仕入れて製品化するのではなく、自分達で協力し合って製品化する。
②
購入者が、包装袋を捨てて無駄なゴミを増やさないようにするために適切な買い物袋を考える
→
・購入者たちが自分たちの袋やカゴや鍋を使う。
・野菜をロープで縛る
③
食べ物と健康の関係性についての専門知識をもつ村人を増やす。
→健康施設から栄養の知識がある専門家を食のセミナーに呼ぶ
④
食べ物の鮮度を保つことができる持ち帰り方法を考える。
→野菜と、魚や肉を分けて持つ
42
{2、露店ゴミ回収システム}
【テーマ】
貧困層の人々の生活を守るためにゴミを減らす手立てを考える
【アイディア出し手法】
まず口頭で、問題解決のための様々なアイディアを出し合い、意見を交換する。次にアイディアを実
際に行える形で注意書きも添えて提案する。それぞれのアイディアを紹介し、投票した。星の数は取得
票数である。以下、個人で考案したアイディアを紹介する。尚、アイディア出しワークショップの順に
そって(I)~(III)の番号を振っている。
(I)アイディア出し
「ゴミ拾いでポイント券」★★
・ゴミ箱に係りの人がおり、ゴミをゴミ箱へ捨てたら1枚ポイントカードのようなものがもらえる。(分
別したら2枚、リサイクル品を持ってきたら3枚など、プラスアルファの活動も評価)
・10 枚たまれば露店での割引券となる
「露店のゴミ集めます」
・道の数か所にオープンなゴミ収集所と監督員を設置
・この監督員が指導もする。彼らはそれを仕事とし、給料を与えられる
「渋滞回収」★★
・車が渋滞で止まっている時に、ゴミを集める人が車の間を回りゴミを回収する
・ペットボトルなどリサイクル可能なものを集めるときは、それと引き換えにお金をドライバーに渡す
(ゴミを集める人は集めたペットボトルなどをリサイクル業者まで持って行き、換金する)
「路上フードコート」
・お菓子など食べ物を食べやすい場所に、人がお喋りしながら食事をできるところ(椅子など)を設置して、
手の届くところにゴミ箱を設置する。
・ゆっくりお喋りできるし、また何かをすぐに買いに行ける
「露店 Food コート」
・座ってみんなで食べられる場所を作る
・ゴミ箱と管理係を設置。→分別とリサイクルができる
「食べられる包装」★
・露店の食べ物をクレープで包む
「容器統一」★
・何種類か形を用意
・店主はそれを買って使用→エコマークなどを店に貼れる(エコ活動アピール)
・一つの企業が回収場を設ける
43
「露店へ Back して Cash Back!」
・露店で出す食べ物は捨てられない容器で渡す(容器代が料金に含まれる)
・後日容器を露店へ持ってきたら容器代を返してもらえる
「自己完結型露店」
・商品を売るとき容器代を上乗せ
・使った容器を返したら返金
「ポイ捨て場」
・土にかえる容器を利用する
・土にかえる容器と土を常に混ぜている場所を街中につくり、そこにぽいっと捨てればよい
・土の販売もする?園芸用?
「Less garbage
More money!」
・露店の前にゴミ袋設置
・ゴミ袋は生ごみ、プラスチックなどに分ける
・その露店の容器であればお金をもらえる
「Please use the bio-mass!」
・土にかえる容器を用いる
・ずっと残ることを防ぐことでゴミ増加の二次予防に
・この容器を用いた業者は容器代減免
「ポイ捨て監視員」
・ポイ捨ての多い地域に設置
・ポイ捨てを見つけると注意
・監視員として協力してくれた人にはささやかなお礼を
「Volunteer なアルバイト」★★
・ゴミ拾いをする
・露店をまわり露店から出るゴミも回収
・リサイクルショップにて換金→取り分に
「リサイクルセンターに行こう!」
・道に落ちているゴミ(露店の容器など)を拾ってリサイクルセンターで換金
・リサイクルした資源はまた(容器などになって)露店へ
「露店収集おじさん」★★★
・露店のゴミを集中的に集める仕事
・集める乗り物には「ポイ捨てかっこわるい!」などの広告
「露店のごみは露店で」
・各露店にゴミ箱を設置
・リサイクルセンターにて換金
44
「そうじ当番」
・近くの露店の人たちで5人組みたいなのをつくる
・5 人組で毎日交代で掃除をする→ゴミはリサイクルする
「デポジット容器販売機」★★★★★
・デポジット用容器の自動販売機を設置
・ある程度頑丈で数回洗って使える容器
・露店のものを食べたい人はまず容器を買う
・食べた後は販売機に返却してデポジット
・自販機の中で洗浄→また使える
(II)アイデア絞込み・検討
投票の結果、今回取り上げる解決策は「デポジット容器販売機」に決定した。この案について良い点
と悪い点を出し合い、投票によって特に注目すべき現状案の欠点を見出した。
<良い点>
・環境意識が高まる
・デポジットがもらえるなら返す人は増える(ポイ捨てが減る)
・この機材がインセンティブになって「ポイ捨てはダメ!恥ずかしい!」という意識が広がる
・容器が同じ形なら集めやすい
・容器が統一されているのでリサイクルしやすい
・何だか新しい感じがして面白いので興味を持つ人が多いかも
・味で勝負できる(容器を気にしないでいい)
・マイカップ、マイ皿の促進
・露店周りのゴミが減る→ゴミのたまり場が減る→捨てにくい?
・“容器”に対する意識が広がる
・ゴミ箱がいらない
・容器自弁の必要がない→店にとってもよい
・露店側にも買う人にも負担が少ない
<悪い点>
・手軽さがなくなる
・面倒くさいシステムのため露店に行かなくなるかも。経済効果マイナス?★★★★★
・わざわざ容器買わないとだめ→面倒→露店の人たちの収入減に??
・袋のお菓子はどうするのか?(そもそも容器買う必要がない)★★★★
・設置コスト、誰が設置するのか?機材は高くないか?★★★★
・食べ残しはどうする?★★
・手でももてるなら容器だけ返して骨だけポイ捨てするかも
・容器買わずに手でもらう人が増えて衛生的によくないかな?
・統一した容器→既存業者にダメージ?
・デポジット率(回収率)が高くなければ、より多くの容器をリサイクルできて環境によいというインセン
45
ティブが薄れてしまう。
・デポジットをいくらにしたらこのシステムがうまくいくのか判明するには時間がかかる★★
・同じ容器を返さず繰り返し使ってしまう→意味ない、衛生的によくない★★
・みんなが導入しないとゴミが全体で減っていかない★
・やっている露店の集団がいないと効率が悪い★
(III)アイデア課題・対策
前の作業を経て、特に注目すべき欠点を販売機設置のコストと、システムの面倒くささ、容器の必要
性にしぼった。そしてこれらの改善案を出し合い解決案の実現可能性を高める。
以下、課題と対策である。
①
設置コスト
・機械で容器販売するかわりに、人に容器を販売を任せる
・露店で容器を渡して人が回収
②
面倒すぎる
・露店で皿も渡せば面倒くささは少ない
・全露店に普及を目指して、その環境をつくる
・容器に広告をつけて、広告主から露店に利益が回ってくるようにする
→取り組む露店が増える
③
容器がいらない
・スナックなどは袋売りせず、容器にじかに入れて売る
・飲料系はペットボトルならリサイクルできるのでそれも回収
《3》アイディアまとめ・発表
最後に、目を付けた問題点とその解決策案をまとめ、現地 NGO-UBINIG の皆様はじめ、バングラデシ
ュ現地にて様々な活動をなさっている方々の前で発表し、フィードバックをいただいた。以下、発表内
容まとめと、フィードバックを記載。
1.<Meal Package>
セミナー内容実践のためのインセンティブとして考案
【目的】農村地域の人々の健康を守るために、病気・健康・食育のセミナーを行動に活かしてもらうた
め。
【内容】農民及び漁師が協力し、1 人当たり 1 日に必要な栄養にあたる量の野菜、魚、肉類を詰めて作成
する。また、これらの材料を用いたレシピなどを書いた紙も同封する。
【利点】
・長い間あちこち歩きまわらずに様々な種類の食品を購入できる。
・忙しい母親が献立を考えやすい。
・母親が簡単に手早く食品を購入できる。
46
・子供のおつかいになり、結果的に両親の買い物の負担を減らせる。
・1 日に必要なすべての栄養素を摂取でき、また 1 日分であるため毎日様々な新鮮な食材が手に入る。
・子供を市場に連れて行けば、健康に良い食材の組み合わせを現場で簡単に教えることができる。
・食材の買い忘れがない。
・メニューの幅が広がる。
・UBINIG にとってみれば、健康に良い有機栽培の食品を地元の人々に広げられる。
【問題点と解決策】
・コストや価格を下げる必要がある。
→農家や漁師が自分たちで”1 meal package”を作り、売るようにすればよい。
・ビニールの袋のような、使用後に捨ててしまうような袋を使ってはいけない。
→買い物の際にマイバッグを持参してもらうようにすればよい。また、野菜はひもで束ねればよい。
・食育に関する専門家を地元で育成する必要がある。
→食育を実施する機関に属する、あるいはセミナーの演者になるような専門家を呼んで育成すればよい。
・鮮度を保たなければならない。
→野菜と、肉・魚を別々にすればよい。
【フィードバック】
・なぜ米がないのか→私たちの意見としては、おかずの栄養を上げることに重点を置いているので、米
は入れていない
・野菜はすぐ腐る。大丈夫か
・人々は見て、触って、確かめてから購入したい。
・誰が自分の顧客なのか知りたいため、それぞれ新鮮なものを一つずつ購入することが好まれる。
・見て安心できる人から買いたいという要望がある。
・むしろダッカなどの都市部で役立つかもしれない。農村部では、50US¢以下でないと買えないと思う。
・都市部では野菜が高く、農村部では肉類が高い。いずれにせよ、人々は安いものを買うので、セット
にすると割高に感じるのではないか。
2.<Deposit System -Recycling plate for food stands->
露店ゴミ収集ためのアイディア
【目的】貧困層の人たちのため、路上のゴミを削減する。
【内容】現在のシステムでは、人々は露店にてただ食べ物を購入するだけでよい。しかし、購入後、そ
の皿や包み紙などの多くは路上に捨てられ、結果ポイ捨てゴミが増加するという状況を生み出している。
そこで、”Deposit System”では、人々は容器屋さんからまず容器を購入(デポジット)し、その上で食
べ物を購入することになる。そして、食事を終えたのち、それをリサイクル屋にもっていけば、デポジ
ットが返金される。これでポイ捨てゴミがなくせるのである。
【利点】
・”Deposit System”に移行すれば、新規のポイ捨てゴミがなくなるため、容器がきれいになり、またす
47
べての通りがきれいになることで綺麗な町が生まれる。
・きれいな通りであれば、ゴミを捨てることは気が引ける。また、お皿はこれまで付属品にすぎなかっ
たが、今後はお金を出して買うものだというように、容器に対する人々の意識を変えることができる。
・露天商にとって、容器を自分で用意する必要がなくなり、経費を節減できる。
・このシステムでは、容器屋やリサイクル屋などを必要とする。したがって、このシステムに伴って、
新しいビジネスを生み出すことができ、それが雇用の促進にもつながる。
【問題点と解決策】
・容器の料金は高いと思われる。
→容器に広告をつけ、広告主からお金を取ることで、お客から取る料金を少なくできる。
・客にとっては煩雑で面倒になり、客が減ると考えられる、露店商が取り入れるのを嫌がり、広がりに
くい気がする。
→取り入れた露天商に対して、広告収入の一部を付与すれば、取り入れると収入減にはならないと考え、
導入する露天商が増える。
【フィードバック】
・すでにペットボトルなど Deposit System は存在するが、露店の容器に関してはなかったので、良いと
思われる。
・ペットボトルでの Deposit System はあるのに活用されていない。それは、何よりも面倒だからだろう。
そしてまた、ペットボトルの場合は回収屋がいるからだろう。
・露店を使うのは、何よりも手軽だからであり、もし容器を買うということになれば、面倒なので、露
店に皆行かないだろう。
48
4.バングラデシュ研修振り返り
〈参加学生個人所感〉
①
参加申し込み時の各自の学習目標に照らして、自己評価をする。
②
教室だけじゃなく「現場」で学ぶ意義について、自己の経験を踏まえる。
③
学習や将来のキャリアについて、実習を経て考えたこと。
④
その他の発見や気付きがあれば、自由に記述
杉本 崇行
医学部医学科 5 年次
今回、バングラデシュでの足かけ 11 日間の実習に参加し、都市部
(ダッカ)と田舎(タンガイル)両方のフィールドにおいて、現状
を視察するとともに、貧困削減に寄与するアイディアを提案した。
① 参加申し込み時の各自の学習目標に照らして、自己評価をする。
今回は、たった 11 日間で、かつ初めての渡航のため、まだまだ見
えていないところは多いと思われたが、それでも、バングラデシュ
という国を肌で感じることができた。すべてを振り返ってみて思わ
れるのは、やはり自分の無力さで、あれだけ教室でいろいろ言っていても、現場に出ると、あまりしっ
かりと質問できなかったことは悔やまれる。
私の一番知りたかったのは都市と田舎の医療・保健サービスのシステムの違い、および政府と民間、
NGO の提供するそれらの違いについてであり、実際に病院を視察したり、担当者や行政官の方のお話を
聞いたりすることでわかることはたくさんあった。しかし、それは主にサービスの提供者側の視点でと
らえてしまっているところがあり、受益者の視点でとらえるということが少しおろそかになっていたよ
うに感じる。また初めのころは他の人のように積極的に入っていくことができなかったことも、反省材
料の一つである。
② 教室だけじゃなく「現場」で学ぶ意義について、自己の経験を踏まえる。
教室での事前学習などでは、バングラデシュでは貧困が大きな問題となっているということを学べた。
しかし、これでは、各自の持つ「貧困」というイメージの範疇の枠を外れないままで、かつそのイメー
ジに従って話を進めてしまいがちである。実際、私は渡航前、バングラデシュは非常に貧しい国である
というイメージ(先入観)を持っていたため、すべてにおいて大変な状況にある国だと考えていた。し
かし、ダッカに降り立った時、車の数が非常に多く、また思っているよりも建物はきれいで、さらにア
フリカで問題になっているようないわゆる餓死の人はほぼいないということがわかり、とてもアジアの
最貧国とは思えなかった。したがって、現場に出ることで、
「ありのままのバングラデシュ」を見ること
ができ、そして先入観を排したうえで調査を行えることから、よりバングラデシュに即した形での提案
が可能になるのではないかと思われる。
③ 学習や将来のキャリアについて、実習を経て考えたこと。
49
私の最も興味深かった公衆衛生分野において、実際に調査を行った際、政府・民間・NGO どのセクタ
ーにおいても、「非常に努力しており、状況はよくなってきている」という回答を得た。しかしながら、
日本と比較するとまだまだそれは不十分であると感じた。それどころか、UBINIG の Shamin さんが話
してくれたような、処方箋なしであっても薬局に行けば名前さえ言えば何でも薬が買えるという状況は
非常に危険であると感じた。また、在バングラデシュ日本大使館の医務官の齋木先生のお話にあった、
仕事と私生活の習慣を分けるのは難しく、医療をよくするためには政府の制度面での努力も必要だが、
それぞれの習慣を変えていかなければならないのかもしれない、というお話は非常に興味深く、また新
しい視点だと思った。
幸い、大使館でのインターンシップの申し出をしてみたところ、受け入れは可能と言っていただいてい
るので、時間があれば再度渡航し、今度は自分の専門である医療分野について、今回学んだ文化・社会
的背景などを加味して考えていきたいと思う。
④ その他の発見や気づきがあれば、自由に記述。
教室にていろいろと言ってはいても、いざフィールドに出ると、思ったように調査ができなかったこと
が一番悔やまれる。しかしながら、その調査をしたからと言って完全にわかった気になってもいけない
とも感じた。今回の調査は、あくまでバングラデシュの中の 1 つの例にすぎないのである。大事なこと
は、今回見聞きしたことから、どのように現状やこれからのことを想像していけるか、そしてどういっ
たことが本当に現地で必要とされているか考える、といったことではないかと思われる。
こうした、「無知の知」ともいえることを早期に実感できたことは、大変有意義であったと思われる。
最後に、このフィールドワークを催行するにあたって、ご尽力してくださったすべての方々に感謝の
意を表します。ありがとうございました。
中井
郁
人間科学部グローバル人間学科 2 年次
① 参加申し込み時の学習目標に照らした自己評価。
毎日、どんな時も勉強だった。現地の人から学び、通訳さんから
学び、先生から学び、学生から学び、自分から学んだ。ホテルから
目的地に向かう車の中から見える景色も教室だった。そんな環境に
身を置いて、私は何を吸収できたのだろうか。
渡航前に私が掲げた目標は三つ。まず一つ目はフィールドワーク
の実践によって、調査の際の人との接し方を体得すること。体得と
まではいかないが、毎回接し方を変えてみたり、接するときの意識
を変えてみたり、滞在中は試行錯誤を繰り返した。二つ目は問題を
見極めることと解決策を相手の立場から考えること。問題を見極め
ようと、つい実態確認の質問が増えた。これは個人的に反省点であ
る。現状を彼らがどう思っているかということにもっと時間を割い
てもよかったかもしれない。また解決策を考える段階では、その作
50
業を非常に楽しんでいる自分を発見した。アイディアで変化を起こすということ、人にインパクトを与
えることに魅力を感じた。ただし、相手の立場に立つという段階で理想と現実のギャップを痛感した。
今回のものづくりには BOP ビジネスを想定して取り組んだのだが、自分ではターゲットとなる相手のこ
とを考えたつもりでも、第三者にアイディアについてフィードバックをもらうと愕然とした。そして三
つ目は日本語以外のコミュニケーション能力を磨くこと。この点において、バングラデシュ人の他人を
向かえ入れる懐の広さに圧倒された。その懐にぱっと飛び込む能力は磨かれたかもしれない。
② 教室だけでなく「現場」で学ぶ意義について、自己の経験をふまえる。
今回の渡航で私にとって目玉の一つだった現地でのフィールドワーク。実際にいきなり見知らぬ他人
に話を聞くことの難しさも面白さも経験した。思いつきでそこに住んでいる人に突然話を聞くことがで
きるのは現場で学ぶメリットのひとつだ。そういうひとつひとつの声のためになにかしたいと思ってい
るのだから、それを生で聞くことはとても重要だ。さらに、言葉を推し量ることも学んだ。それは自己
勝手に解釈するのとは違う。通訳さんが話してくれている日本語だけではなくて、言語の意味は分から
ないけど、話者の話しぶりや表情の変化を追うこと。日本語だと自然にできても、違う言語だと意識し
てやらなければつい日本語にのみ流されてしまう。
③ 学習や将来のキャリアについて、実習を経て考えたこと。
そして将来について。正直自分が無知すぎて無力すぎて絶望した。これが初めてではないが、学生の
自分の能力はゼロに等しい。そしてもうひとつ、若い力にたくさん出会った。自分たちがこの国を良く
していくのだと燃える、同世代の存在。ここで外から来た私に何ができるのか、何をすべきなのか、そ
もそも何かをするべきなのか。将来どんな形でできるかわからないけれど、私は寄り添っていきたいと
思った。
④ その他の発見や気付きがあれば、自由に記述
いろんな人に送り出されて参加したこの実習は、期待を上回るしんどさと面白さがあった。ダッカの
人混みと喧騒に包まれた暮らしも、タンガイルの自然と共に生きる暮らしも、見慣れない私の目には鮮
やかに映った。そこで暮らす人に一歩踏み込んでいくことは、ただの景色から、生活の場へと見る目を
変えることだ。街角で、誰かの家で、自分が生活することを想像してみる。うまく想像できなかった。
でもそこで暮らす人と出会い、生活の空気を感じることは想像力を刺激する。たくさんの刺激をいただ
いたこと、感謝しています。
畑中 園花
外国語学部外国語学科スワヒリ語専攻 4 年次
① 参加申し込み時の学習目標に照らした自己評価。
参加申し込み時の学習目標は、発展途上国の低所得層の人々の
日常生活において欲しいものを知ることだった。この目標につい
ての自己評価は、10 点中 5 点。
出国前は、「今の生活を良くするために何が欲しい?」と質問す
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れば、「きれいな水、服、食べ物、勉強道具…が欲しい。」というように次々と答えが返ってくるかと思
っていた。しかし、その考えは甘かった。
村で、ある家族にインタビューをする機会があった。食生活の質を改善するために何が欲しいかと尋ね
ると、悩んだ末に「ガスコンロかな。」とお母さんがぽつりと言っただけだった。また、ゴミ山でゴミ拾
いをして生活する子供は、
「ゴミ拾いのための手袋と長靴がほしい。」と言っていた。
「~が欲しい。」と言
葉ではっきりと聞いたのは、ガスコンロと手袋と長靴だけだった。
思うように現地の方のニーズをうまく引き出すことができなかった。その原因として、先入観、抽象
的な質問の仕方、インタビューだけが調査だと思い込んでいたことが、挙げられた。それに気付いたと
き、村での実習が始まって半分以上が過ぎていた。
それから、質問の仕方を改善し、先入観をなくすよう心がけた。人々の表情や仕草や家の周りの状況も
よく観察した。村人は、現在ある物を上手く利用して暮らしているので、生活に不便さを感じるがゆえ
の欲しい物は無さそうだった。ただ、衛生面や健康面から見て、生活の質向上に”必要な”物はたくさんわ
かった。大切なことに気づくまでに半分以上の時間を費やしてしまったが、それ以降に少しは巻き返す
ことができたと思うので、申込時の目標達成については、半分の点数を自己評価とする。
② 教室だけでなく「現場」で学ぶ意義について、自己の経験をふまえる。
教室でもインタビューのデータをみんなで共有し多くを学べるかもしれない。
しかし、会話のやり取りの背景、話者の表情、聞き手の反応などはデータ化されたインタビューでは知
ることができない。
「沈黙」から多くを学ぶことができる、これが「現場」で学ぶ意義のひとつだと考えている。
③ 学習や将来のキャリアについて、実習を経て考えたこと。
実習を終えて、発展途上国への関心が高まった。正確に言えば発展途上国の”人々”の熱い思いに心を打
たれ、自分主体で生きている“人間くささ”に魅了された。
実習申込時には、発展途上国の支援をする仕事をしたいと思っていたが、今は発展途上国の人と一緒に、”
人間らしさ”を忘れずに新しいビジネスを展開したいと思っている。
実現のためには、まだまだ経験を積まなければならない。バングラデシュの実習で一番悔やまれたのが、
言語が通じないことだった。次の機会では、専攻語のスワヒリ語が使える東アフリカに、途上国につい
ての調査や人脈作りのために行きたいと思っている。
④ その他の発見や気付きがあれば、自由に記述
「バングラデシュ国民としての責任を持って一生懸命頑張ります。だから、この国の今後の発展に期待
してください。」専門学校に入学したばかりのが、まっすぐな眼差しでそう言った。多くのクラスメイト
や先生の前で、突然目の前に現れた初対面の日本人に対して、力強くこう言ったのだ。この少年が、事
前に代表者としてスピーチを任されていたわけではない。彼の熱意のある言葉を聞いて、胸が熱くなっ
た。「私も負けてられない。」強くそう感じた。
彼をはじめ多くの学生が強い志を持っていることがわかった。そして、その熱い思いがバングラデシ
ュの経済発展の源なのではないかと感じた。
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平野 美優
外国語学部外国語学科ロシア語専攻 2 年次
① 参加申し込み時の各自の学習目標に照らして、自己
評価をする。
私には、ジャーナリストとして、貧困や教育格差等の
問題を抱えるアジア諸国で活動していきたいという夢
がある。今回は、様々な課題を抱えるバングラデシュに
行き、現地の方の思いや現状を自分の目で見て感じる中
で、実際の取材の際には何に気をつけるべきか、リスク
を伴ってまで現地取材をする意義は何か等を考えよう
と思っていた。研修を通して自分の至らなさや準備不足
を感じたことは多かったが、学んだことも多く、これか
らの学習や将来を考える上で、非常に実のある時間にすることができたと思う。ここではその1つを取
り上げたい。
それは、相手との距離感や自分の立場を考えることの重要性だ。この度の研修では、私は「日本の大
学から調査に来た学生」という立場で聞き取り調査を行っていたが、常に同じ姿勢で臨んでいたわけで
はない。ダッカ大学では、学内の芝生に腰を下ろし、同じ学生同士、非常に近い距離感で語り合った。
農村の助産婦さんとは、ペンやカメラを手にせず、女性同士和やかな雰囲気の中でお話を聴いた。一見
遠回りに思えるが、そういった何気ない会話の中からしか見えてこない問題や事実も多い。一方職業訓
練校の校長先生や現地の医師の方々には、フィールドスタディを行う学生として、専門的な質問や鋭い
指摘も加えながら調査を行った。
聞き取り調査において、事実を書き留め、現状を写真や映像で記録し、確実に伝えることは大前提で
あろうが、根掘り葉掘り聴き、レンズを向けることが常に適しているとは言えない。カメラを向けられ
不快な思いをする人もいれば、鋭い多くの質問を尋問のように感じる人もいる。気づかぬうちに相手を
傷つけてしまっているかもしれないとか、対象となる相手との距離感、現実との距離感、自身の立場と
の距離感はどうしたらよいかとか、調査より先に意識しなければならないことは沢山あると気が付いた。
② 教室だけではなく「現場」で学ぶ意義に、自己の経験を踏まえる。
今回の研修で強く実感したことは、ただの資料・データでしかなかった事前知識が、文脈の中で生き
る現地の方の生活に密着することで、リアリティのある、一貫した事実・問題として見えてくるという
ことだ。教室で学べる知識をもとに問題提起すると、私たちは物事を点として捉えてしまい、例えば教
育の問題に関しては、原因は学校にあると思い込む。だが問題は、決して特定の一か所では起こってい
るわけではなく、様々な要因が複合的に絡み合って生じているのだ。先の教育の例で言えば、貧富の差、
都市集中型の産業、インフラ整備、政治利用、宗教との密接な関係、情報の欠如等、思わぬところで事
は繋がっている。人は、ある一点ではなく文脈の中で生きているのだから、やはり現場に身を置き、現
地の人々と同じ状況に立つことは、実態を知る上で欠かせない。その中で、自分の中に偏見や先入観が
あること、また自身の仮定に都合の良いように事を進めようとする自分がいることに気がつくこともで
きる。
ジャーナリストとしても、もちろん予備知識や数値化されたデータを持って取材に入ることは重要で
あるが、資料やデータの中だけでは得られないもの、計り知れないものがある。見方や伝え方は人によ
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って異なるのだから、他人の目を通じた鋳型の中ではなく、柔軟に、自分の目で現状を見ながら、現地
の人々にとって何が重要で、何が問題なのかを見極めていかなければならない。
③ 学習や将来のキャリアについて、実習を経て考えたこと。
社会の木鐸として、取り返しのつかない事態が生じる前に警笛を鳴らし得る、ジャーナリズムの世界
に私は惹かれる。しかし最近では、誤った報道や歪曲された報道が頻繁に生じ、それによって傷つく人
が沢山いる。特に、私が将来活動のフィールドにしたい発展途上の貧困国や戦地では、カメラを向ける
のには、銃を向けるのと同じくらいリスクと危険が伴うし、取材は難しい。
現場に行けば、物事は目の前で進行しており、情報を得る対象となる相手もすぐそばにいる。取材を
する中で不幸や不平を見ることもあるだろうが、私はジャーナリストである前に一人の人間である。こ
の研修を通して、事実を受信し、発信するというジャーナリズムの使命は念頭に置きながらも、人とし
ての感情と感性を大切にし、広く柔軟な視点を持って、その事実に関わる人々、そしてその事実を知る
権利を持っている人々のために報道できるジャーナリストになりたいと思った。
最後に、先生方、JABA ツアーの皆さん、UBINIG の皆さんをはじめ、本フィールドスタディ実施に
あたってご協力いただいたすべての方々に、改めてお礼申し上げたい。ありがとうございました。
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〈引率教員の講評〉
大阪大学グローバルコラボレーションセンター特任助教
大野 光明
フィールドスタディは終わらない
本フィールドスタディは、
「貧困削減に貢献するモノ作り」をテーマに実施された。以下、プログラ
ムの成果に関して三点、所感を記す。
第一に、事前学習、フィールドスタディを通じて、参加した学生のドラマチックな変化に目を奪わ
れた。参加者は、プログラムの最後にバングラデシュで実施可能な「ものづくり」プロジェクトの提案
を求められていた。そのため、ともすると、バングラデシュに「ないもの」や「足りないもの」、より直
接にいえば「だめなところ」を探すことになる。現地社会へのそのような構えとまなざしは、ときに、
バングラデシュを遅れた、未熟な社会であると外在的に、自国中心的に評価してしまう。しかし、現地
での滞在や調査を通じて、参加者は、そこに生きる人々が貧困解決のために多大な努力をはらっている
ことを実感しはじめる。たとえば、タンガイルでは「ないもの」を援助によって受け入れるのではなく、
「すでにあるもの」をいかに活用するのか、というアプローチのもとで展開されている様々な活動を視
察した。この過程で、学生たちは〈外在的な評価者・尋問者〉であることを徐々に断念し、既に取り組
まれている試行錯誤の事業にどのように参加できるのかを考える、
〈内在的な参加者の立場〉に立とうと
もがきはじめたように思う。この変化は、訪問した村、家庭、病院、学校での質問の仕方、面会者との
関係のつくり方、振る舞い方、あるいは事前の準備の仕方にまで影響を及ぼしていった。国際協力を仕
事としている人々のあいだですら前提にならないこともある、誠実な態度やまなざしを、参加者は獲得
していったのである。
第二に、行政、NGO、一般市民の立場からだけでなく、援助機関(世銀、JICA、日本大使館)や日
本の民間企業の知見をふまえて、バングラデシュを理解するプログラムとなった。現地社会に深く入れ
ば入るほど、参加者にはさまざまな疑問や違和感が蓄積していく。なぜ医薬品が処方箋なしに、街の売
店で自由に購入できてしまうのか。なぜ行政は「できている」と明言しているのに、現場では機能して
いないようにみえるのか。なぜごみのポイ捨てはあたりまえになっているのか。なぜ女性の地位が低い
ままなのか。なぜ、なぜ、なぜ・・・である。そんなとき、バングラデシュ社会からすれば「他者」で
ある国際援助機関や日本の民間企業で働く人々から、それらの違和感や疑問に対する見解と対処方法が
提示された。教育のせいだ、という答え。いや、国民性だ、という説明。一瞬、疑問や違和感がすっと
晴れるような説明である。自らの疑問や違和感を、他人の経験や目を通じて確認しなおすという作業は
重要なものだ。自らの疑問や違和感が妥当なものなのかを確認でき、あふれかえるそれらを了解可能な
ものに言語化できるからだ。しかし、学生たちが、提示された見解におおむね納得したようにみえた点
は気になった。自らの疑問や違和感を、バングラデシュ社会の「他者」である国際援助機関や日本の民
間企業で働く人々の見解によってあっというまに手放してしまってよかったのだろうか。なぜ、という
疑問と違和感は、やっかいで、はやく手放したくなるものではあるが、他者とのコミュニケーション(ギ
ャップごしに、他者を知ろうとする営み)の源でもあるはずだ。自らが手にした疑問や違和感について、
今後もぜひ考えつづけてほしいと思う。また、疑問や違和感を抱く自分自身(の態度やまなざし)をも
考察の対象とするような、reflexive な作業も必要であるのではないだろうか。
そして、第三に、フィールドスタディは、参加者にこれからの自分の働き方、あるいは少し大げさ
にいえば、生き方を問いかけるものとなった。自らの生活環境との非対称性やギャップ、現地で学び生
きる同世代の人々の言葉やふるまい、現地社会に積極的に介入する国際機関や民間企業で働く人々と出
会うことで、今後、自分はどのように生きていくべきか、を問い直さずにはいられない。就職活動をす
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るにしても、研究活動を続けるにしても、あるいは別の活動をつくるにしても、この世界には多様な生
き方と働き方が豊かに、ときに、残酷にひろがっている。フィールドスタディは、狭義の教育プログラ
ムであるだけでなく、その後の生き方や働き方を考える場でもあった。だから、私たちは帰国したもの
の、フィールドスタディは、おそらく、終わらない。生き方への問いとして持続せざるをえないだろう。
参加者が今後、どのように「フィールドスタディ」を続けていくのかを陰ながら見守りたい(おそらく、
私自身も続けるのだろう)。そのとき「フィールド」とはどこに、どのように、広がっているものなのだ
ろうか。
最後に、本プログラムの実施にあたり、あたたかく支援・協力してくださった、すべての方々に、
あらためて心より御礼申し上げたい。ありがとうございました。
大阪大学グローバルコラボレーションセンター特任助教
小峯 茂嗣
今回のバングラデシュ実習「貧困削減に貢献するモノづくり」は、前年度と同様、あえて特定のイシ
ューを限定せず、参加学生の関心領域に引き寄せて、都市部と農村部を比較しながら、調査活動とモノ
づくりの提案まとめを行った。
今回の参加者の関心領域は、保健・医療、教育、廃棄物処理、伝統文化の保全にカテゴライズするこ
とが可能であろう。
保健・医療と教育は、前年度も議論にあがった。多くの日本人がいわゆる発展途上国と呼ばれる地域
を訪れた時、とくに農村部では日本と比べてつつましく、けっして衛生的とはいえない生活環境にあり
ながら、人々は明るく、子どもたちは元気に走ったり飛んだり跳ねたりするのを目にし、
「この人たちは
ほんとうに苦しい/困っているのか?」、「外国の人間が何かする必要なんてないのではないか?」、「日
本人よりもしかしたら幸せなのではないか」という感想を持つことがよくある。それもまた一面である
が、しかし表層的なものに過ぎなくなる。前年度に参加学生と議論したのは、そのような表層的な部分
だけで認識することの問題点と、笑顔の裏側にある何かに目を向ける視点であった。そこで具体的にあ
がったのが、保健・医療サービスへのアクセスや、教育(とくに初等教育)の普及であった。生命と健
康の維持は人間の根源的な課題であり(保健・医療)、それを支える識字能力や処分可能財の拡大の可能
性としての教育機会が重要であるという(教育)議論であった。今年度は、この部分をより深く調査す
る機会を得られたといえる。
廃棄物処理も、急速に発展する国においては喫緊の課題である。行政によるシステムを知り、その不
完全/不充分な部分を実地でよく理解できた。またローカルレベルでは民間(個人)が「くずやさん」
をして廃棄物回収(古紙とプラスチックに限定だが)を行っている取り組みを知ることができた。
伝統文化の保全は、急速な発展とグローバル化の中で、言語や習慣、伝統的な知識が失われていく(と
くに文字を持たない場合)中、これもまた開発の大きな課題であるといえる。貧困削減という課題は家
計所得の向上や識字率の上昇といった西洋近代的な側面ばかりでなく、重要な着眼点だったと思う。
このようなテーマを掲げ、事前学習と現地実習を行ってきた。今年度の参加学生の熱心さは、これま
で私が担当してきた学生たちの中でもとりわけ高かったと見える。事前学習では提示した文献以外にも
各自の関心あるテーマについて資料を収集し、飛行機の中でも熟読していた。またフィールドワークで
は、インタビュー記録やノートのまとめなど勢力的に行い、毎日の振り返りの中で、聞き方の工夫を話
し合い、実践してきた。これらは海外の現場で知る、または現場を知るという上で重要なことであり、
その困難さやうまくいかなかったことを体験したことこそが、まさに学習であったといえよう。
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また今回の実習では、現地で活躍する日本人と会う機会が前年度と比較して多かったといえる。自ら
の将来のキャリアについてロールモデルを持てたことは非常に有意義であったと考える。
同様に現地の大学生と交流する機会も多かった。とりわけ、ストリートチルドレンの支援に取り組む
ダッカ大学の学生たちと出会えたことで、自分たちと同じくらいの青年世代が自らの社会問題に対して
アクションを取っている様を見て、刺激を受けていたと見受けられる。私が NGO 活動を通じてアジアや
アフリカを何度も訪れた中で気付いたことの一つが、
「青年(Youth)
」という層が規模や活動の質の程度
の差こそあれ組織されていることである。社会をリードする中高年以上と、経験も能力もまだまだ乏し
いが将来は国を担う少年少女たちとの橋渡しになりうる青年世代の役割は重要ではないかと考えるよう
になった。すでに日本では青年世代は消費者になってしまった。しかしダッカ大学の校舎の廊下でしゃ
がみながらストリートチルドレンの問題について話し込む日本とバングラデシュの大学生たちの姿を見
て、国境を越えた青年たちの連帯が地球社会に変化をもたらすのではないかという淡い期待を抱いた。
最後にモノづくりについて。前年度と今年度、5 つの提案をまとめることができた。どちらの年も深夜
まで議論し、現地の人々のフィードバックも真摯に受け止めながら取りまとめてきた。しかし次年度も
同じように提案をするだけでは、現地に対して何のインパクトも与えられない。今後は、これまでの提
案から選択して、試行していく段階に入っていかなければならないと考える。
2013 年度
大阪大学グローバルコラボレーションセンター(GLOCOL)
トランスカルチュラル・スタディ・プログラム「貧困削減のためのモノづくり」
阪大生がバングラデシュで考えた貧困削減のための「モノづくり」2
2014 年 3 月発行
発行
大阪大学グローバルコラボレーションセンター
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘 2-7
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大阪大学グローバルコラボレーションセンター(GLOCOL)
2007 年 10 月に実施した大阪大学と大阪外国語大学の統合に先立ち、両大学の研究教育資源
を有効に活かすため、2007 年 4 月 1 日付で設置されました。総合大学としての大阪大学と、
言語・国際研究を専門とする大阪外国語大学の統合により、大阪大学の教育目標の一つであ
る「国際性」を強化し国際社会への貢献を目指します。国際協力と共生社会に関する研究を
さまざまな学問分野で推進し、真の国際性を備えた人材養成のための教育を開発するととも
に、その成果等にもとづく社会活動を実践することを目的としています。
本プログラムは日本財団学生ボランティアセンターとの協力協定に基づき実施されました。
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