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第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 28 シンポジウム[遺伝子診断の新たな展開] SY-1 提言 海外における乳癌等家族性腫瘍研究活動の推移 ○宇都宮 譲二1)、有賀 智之1)、大塚 恒博1)、松浦 千恵子1)、 矢嶋 多美子1)、黒井 克昌1)、斉藤 健司2) 1)NPO バイオマーカーがん予防フロンティア 2)ジーンンクエスト社 1)BRCA1 の発見:三木義男の業績は偉大だがユタのモルモン教団が有する数百年 の家系図が活用できる環境に移住し彼を招いた Mark Skornic の判断も大い。 2)美国の Cancer Family RgistryFCR:NCI 疫学部 Daniela Seminara 女史が担 当して CFR 計画を発足させ共同研究体制を敷いた。その目的は癌家系に関す る情報を一カ所に集めて長期保存し Genotye/PhenotyDB を確立する事である。 BreastCFR と ColonCFR に分け、それぞれ5か所の地域センターを設定し一カ所一 年1億円を5年間投じて資料と情報の収集を行いそれを独立した保存センターと情 報センター各一カ所を設定し管理・運営した。2003年ハワイの会議参加した。注目 したのは情報・資料(組織・血液・唾液等)の収集と生活習慣・家系情報の収集は 面接者を現場で養成して家庭訪問もする体制であった。その結果9116例の疫学、 2834例のクリニック DB 、6779例の罹患発端者、4116例の非罹患発端者が収集され た。これらの検体は西岸の拠点で冷凍保存しそのコピーは東岸の拠点にミラーサイ トを置いて保存する計画である。「中央情報センター」は研究全体の推進とデータ 長期保持を担当する司令塔であった。Genotype は不変であるが Phenotype は時間 と共に刻々と変化するから時間との相克を痛感した。 3)Human Variome Project(疾患遺伝子カタログ化計画)HGP の後組織とし て;2006年豪州の遺伝子学者故 RGH Cotton が先導したポスト HGP の世界の ルール作りであるが現在我々にとって是非知っておきたい制度がある Minimum attributions である即ち遺伝子を発見した際論文化せずとも世界が認めた委員会で 認可されれば業績と見做される制度で我が国にもそのその窓口はある。 4)Nipple Aspirate:米国では乳房マッサージで採取できる分泌液 Niple Aspirate が 乳癌ハイリスク患者の早期発見に有効とされていた。われわれもハワイ大学で学び 現在研究中で採取液は駒込病院において 研究していいる。 5)最近欧州で家族性腫瘍研究集団が地中海の孤島で MiILonga Groupe として発足 した。 結論;我々の活動の基軸は遺伝分子疫学でありその理念の共有に努めよう。経典は Lancetにある。 29 シンポジウム[遺伝子診断の新たな展開] SY-2 BRCA1/2 遺伝子解析で標準配列と違う箇所が見つかったら ~遺伝子配列バリアントの病的意義の解釈を考える~ ○田村 智英子1)2)3) 1)FMC東京クリニック 医療情報・遺伝カウンセリング部 2)順天堂大学医学部附属順天堂医院 遺伝相談外来 3)国立病院機構 岩国医療センター 家族性腫瘍外来 遺伝子の標準配列と異なる部分(バリアント)には、疾患原因と考えられるもの と、病的意義のないものがある。病的意義のないバリアントとしては、集団中1%以 上存在する「多型」が知られているが、近年の研究で、頻度の低いバリアントでも病 的意義のないものがあることや、発現する蛋白分子の量的・質的変化をもたらすと考 えられるバリアントでも従来の報告より浸透率が低い場合があることが判明し、バリ アントの病的意義の解釈が複雑化している。 バリアントの病的意義の解釈は、一般集団における頻度、蛋白機能解析、コン ピューター・プログラムによる予測、過去の報告、患者や血縁者の遺伝子状況や臨床 症状などを総合して判断する。さらに、ClinVar などのデータベースで他の機関の判 定結果と照合し、解釈に違いがあれば他の機関に連絡して判定のすり合わせを行うこ とが望ましい。 同じバリアントについて異なる医療機関で異なる解釈が用いられると、病的バリア ントであることを根拠にリスク低減手術を行う場合などに大きな混乱をもたらしか ねないため、病的意義不明(Variant of Unknown Significance;VUS)と解釈される例 を減らすことも大切であるが、解釈の標準化はVUSを減らすことより重要である。 American College of Medical Genetics and Genomics は2015年、暫定的にバリアント 解釈指針を提唱したが、解釈のあり方は今後も変わっていくであろう。 日本と異なり多数の検査機関が遺伝子解析を行っている米国では、検査機関によっ てバリアントの解釈が異なるケースが散見され、臨床現場にてこの問題の難しさが実 感されている。日本では、検査結果の解釈が個々の臨床現場にまかされている現状も あり、今後バリアントの解釈の問題が混乱を招く可能性は大きく、危機感をもってこ の問題に取り組んでいかねばならない。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 30 シンポジウム[遺伝子診断の新たな展開] SY-3 BRCA 遺伝子検査結果の解釈 ファルコバイオシステムズ= Myriad 社の場合 ○権藤 延久、浦川 優作、古井 陽介、福井 崇史 株式会社ファルコバイオシステムズ ㈱ファルコバイオシステムズでは2000年より米国 Myriad Genetics 社と提携し、 本邦での BRCA1/2 遺伝子検査と HBOC 診療の健全な普及に向け微力を尽してきて いる。2003年に Myriad 社より技術移管を受けて以降、測定解析は日本国内で行い、 MLPA法の導入追加や次世代シーケンサへの解析機器変更など日本での現状に即した 独自の改良を加えているが、プライマーセットの変更等はなく、Myriad 社との同等 性を維持している。結果解釈についてはMyriad社のデータベースに依存共有してい る。 Myriad 社データベースの結果解釈は、20年におよぶ150万件以上の検査経験 と100億円以上の投資により構築された myVision TM というプログラムによる。 myVisionTM はラボ責任者、医学責任者、遺伝カウンセラーの他に7領域30人以上の 専門科学者で構成されたチームで運営されている。myVisionTM は、・Segregation analysis ・Population frequency ・Literature evaluation ・mRNA analysis ・In trans and homozygosity analysis ・PhenoTM family history weighting algorithm ・ MCOTM mutation co-occurrence weighting algorithm の7つより構成されている。実際 には現状結果解釈の約6割がMyriad 独特のシステムとして商標のついた PhenoTM と MCOTM によりなされている。2015年に ACMG よりガイドラインが出ているが、これ はすべてのラボに対するミニマムスタンダードを示したもので、ミリアド社はこの基 礎の上に質と精度をさらなる新しい高みに引き上げたものが myVisionTM であるとし ている。myVisionTM の内容とそれにより得られる結果解釈の正確性、VUS の低減に つき紹介する。 31 シンポジウム[遺伝子診断の新たな展開] SY-4 Hereditary Cancer Testing: LabCorp’s Experience VUS/Interpretation ○Geraldie A. McDowell Center for Molecular Biology and Pathology, LabCorp Approximately 39.6 percent of American men and women will be diagnosed with cancer at some point in their lifetimes. Inherited cancers are estimated to play a role in 5 to 10 percent of these diagnoses. Identifying individuals who have inherited gene mutations, which increase their cancer risk, is important in order to provide appropriate monitoring and prophylactic therapies, and thereby reducing cancer morbidity and mortality. LabCorp offers clinicians an extensive menu of oncology tests, including individual gene and multigene sequencing assays, to identify pathogenic mutations in genes associated with inherited cancer syndromes such as breast and ovarian cancer (HBOC) and Lynch syndrome. As technology advances allow laboratories to obtain larger amounts of sequence data more quickly and efficiently, the testing challenges shift from technical challenges to data interpretation challenges. To classify sequence variants, LabCorp employs an algorithmically-weighted assessment of key components such as predicted functional impact of the variant, as determined by in silico analysis; prevalence of the variant in the general population; published segregation in affected individuals or families; and co-occurrence with other deleterious variants. An internally-maintained database (Gene ExplorerTM) preserves the classification and scoring for each identified variant. This system is able to classify the majority of variants as pathogenic or benign. However a small portion of variants (<4%) cannot be classified because the mutation’s effect on gene function is unknown, the variant has not been previously reported in the scientific literature, or it has been reported with inadequate or conflicting evidence regarding pathogenicity. Because variants of unknown significance (VUS) do not provide concrete guidance to health care providers and may raise patient anxiety, laboratories strive to minimize VUS rates while maintaining a rigorous classification standard. LabCorp has taken a number of steps to reduce VUS rates. Notably, LabCorp was the first participant in BRCA Share, a novel public-private datashare initiative designed to provide scientists and laboratory organizations around the world with open access to BRCA1 and BRCA2 genetic data. BRCA Share builds on Inserm’s gene data curation process that was developed over a decade of patient testing. BRCA Share is intended to accelerate research on BRCA gene mutations, particularly VUS, with its focus on functional studies to which commercial participants will contribute. 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 32 シンポジウム[遺伝子診断の新たな展開] SY-5 Precision Medicine の時代におけるMultigene Panel での 遺伝子検査 ○山内 英子 聖路加国際病院ブレストセンター 2008年にアメリカの NIH の Director は、今までの疾病が起こってから治療す る Curative medicine から疾病が起こる前の Preemptive medicine を宣言し、2015年1 月20日米国のオバマ大統領は、「Precision Medicine」Initiative を宣言して、215百万 ドル(約250億円)の資金を投じるとしました。医学の進歩とともに、Big Data や電 子カルテ、最近ではウェアラブル端末から健康データを解析し、また、遺伝医療の 進歩から、個々の発症リスクを事前に把握し、疾病の予防にまで用いることができ るようになり、大きなデータから解析した個々に応じた予防医学までを視野に入れ た Precision Medicine 時代の到来です。 そのような流れにのって、欧米では BRCA 遺伝子検査の現場も Multigene Panel で 行なうことが主流となってきました。 世界規模で遺伝医療がすすみ、新しい遺伝性腫瘍の原因遺伝子が見つかってきて います。その頻度はどのくらいなのか、浸透率は、リスク低減の手段は?がんの発 症の可能性の臓器も多岐に渡り、各診療科の横のつながり、また様々な専門家によ る Genetic Cancer Board も必要になってくるでしょう。結果の解釈から、Actionable Geneの 選択、そのリスク低減手段の選択肢、マネージメントを皆で検討し、またそ れに寄り添う診療体制が重要です。臨床の現場でどのように対応していくか、その可 能性と問題点を今、整理する必要があります。 この Precision Medicine が進み、がんにならない予防の体制をこの Multigene Panel を上手に活用し、皆さんと作り上げていければと思います。 33 シンポジウム[遺伝子診断の新たな展開] SY-6 Multi-gene Panel 遺伝子検査 ファルコの場合 Myriad myRisk 検査 と DigitalMLPA ○浦川 優作、福井 崇史、古井 陽介、権藤 延久 株式会社ファルコバイオシステムズ Myriad Genetics 社では、2013年夏から Multi-gene Panel 検査 myRisk の臨床研究 を開始し、2014年夏から一般に受託している。現在米国では、BRCA1/2 遺伝子検 査のすでに7割が Multi-gene Panel 検査へ移行しており、70,000症例以上を対象と した研究結果なども報告されてきている。myRisk は、8種の腫瘍を対象とした25 遺伝子のパネル検査であり、まず診断率の向上が期待できる。例えば HBOC を疑 う症例で MMR 遺伝子に変異を認めたり、また逆にリンチ症候群を疑う症例で、 BRCA1/2 に変異を認めて HBOC と診断されることもあることが分かってきた。家族 歴を聴取しても、どの疾患を疑い、いずれの遺伝子から解析すべきか悩ましいような 症例では、鑑別診断としての有用性と医療介入の最適化が期待される。一方で、パネ ルに含まれる遺伝子には、臨床的有用性が確立していない、がん発症リスクが中等 度レベルの遺伝子も含まれている。NCCN ガイドライン Genetic/Familial High-Risk Assessment ;Breast and Ovarian では2013.v1より Multi-gene Panel 検査についての記 載がなされ、2015v.1よりこれら遺伝子を含んだ乳腺・卵巣の予防的手術と MRI 検診 の指針ページが加わったが、もはや2016v.1では最新データを得て大幅に改訂されて いる。 今後、日本でも臨床研究によるデータ収集や、また遺伝カウンセリングでの情報 提供の方法などの課題、また、検査の精度管理、分析的・臨床的妥当性をいかに担 保するかについてなど、検査を受託する企業側の課題も存在する。当社では次世代 シーケンサーで myRisk の25遺伝子のシークエンス解析と、MRC Holland 社の Digital MLPA による Large rearrangements 解析を併せて行う検査を提供すべく検討している ので紹介する。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 34 シンポジウム[遺伝子診断の新たな展開] SY-7 Hereditary Cancer Testing: LabCorp’s Experience. Multigene Panels ○Geraldie A. McDowell Center for Molecular Biology and Pathology, LabCorp BRCA1 and BRCA2 genes explain approximately 20 to 25 percent of cases of hereditary breast cancer. The remaining inherited breast cancer cases are due to variants in other genes. NCCN Guidelines and the Society of Gynecologic Oncology (SGO) note that hereditary multigene panels may be an efficient and cost-effective approach to genetic cancer testing when used in appropriate clinical settings. LabCorp offers a 27-gene hereditary cancer panel, VistaSeq, for patients whose personal or family history indicates that they would benefit from this testing. Genes on this panel have been associated with an increased risk for other cancer types in addition to HBOC and Lynch syndrome that include endometrial, gastric, pancreatic, skin and prostate. The advantages of the VistaSeq panel include a higher detection rate than that from BRCA1 and BRCA2 alone and the ability to alert patients to additional cancer risks that were not apparent by family history alone. When timely results are clinically-warranted (e.g. pending surgery), a multigene panel may be more efficient than testing with a step-wise approach. The use of a multigene panel typically results in an increase in the VUS rate. We have compared physician test choices (single gene testing vs. multigene panel) based on patient clinical history and the performance of single gene and multigene tests in different patient populations. This data and its implications for hereditary cancer risk assessment will be presented. 35 教育セッション1[基礎] E-1-1 DNA 修復機構と家族性腫瘍 -2015年ノーベル化学賞から学ぶ- ○田村 和朗 近畿大学 理工学部 生命科学科 2015年10月7日、スウェーデン王立科学アカデミーは2015年のノーベル化学賞を 「DNA 修復機構の解明」に貢献した Tomas Lindahl 、Aziz Sancar 、Paul Modrich の 3氏に授与すると発表した。それぞれ、「塩基除去修復」、「ヌクレオチド除去修復」、 「ミスマッチ修復」のメカニズム解明が受賞の根拠となった。ヒトを形成する細胞は 3.72×1013とされ、それぞれが DNA 複製しその後に細胞分裂を繰り返すことで生命 体を維持しているが、その過程で生じる DNA の複製エラー、すなわち変異の源を可 能な限り減少させる修復システムが重要で、その機能がゲノムの完全性(integrity) 保持と個体の生命予後に関与している。 「がん」は自らの体細胞内に変異が蓄積し、本来細胞が持ち合わせている機能や増 殖制御能を失うこと(transformation)により生じると考えられている。DNA 修復機 構に異常があると変異が生じやすい状態(hypermutable state)になり、ひいてはが ん化ポテンシャルが高まることになる。 DNA 修復機構の異常が原因の3種類の家族性腫瘍について述べる。 ⑴ グアニンは通常シトシンとペアを組むが酸化グアニンはアデニンとも水素結合が 可能となる。そのまま細胞分裂すると G:C→T:A 変異が固定化されてしまう。塩基 除去修復(BER: base excision repair)は酸化グアニンに結合したアデニンを除去 し、シトシンを結合させるといった一塩基の変異の修復を担う。塩基除去修復異常 で生じる疾患としては MUTYH -associated polyposis(MAP)が知られている。 ⑵ 紫外線によりピリミジン二量体ができることが知られており、このまま修復さ れないと C:G→T:A 変異が生じる。複数の塩基が関わる際はヌクレオチド除去修復 (nucleotide excision repair)という少し複雑な修復機構が機能する。ヌクレオチド 除去修復機構の異常で生じる疾患としては色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum: XP)が知られている。 ⑶ DNA の誤対合やリピート部位の誤挿入・欠失などが生じた際の修復にミスマッ チ修復(mismatch repair)機構が働く。ミスマッチ修復機構の異常として大腸がん や子宮内膜がんが多発するLynch症候群が知られている。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 36 教育セッション1[基礎] E-1-2 合成致死性とがん治療:PARP 阻害剤から学ぶ DNA 損傷 修復機能を標的とした新規がん治療戦略 ○三木 義男 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 がん遺伝子における機能獲得変異とがん抑制遺伝子における機能欠損変異は、細胞 のがん化を誘導するが、一方で、これらの変異は新規治療標的の可能性を含んでい る。現在、がんの分子標的治療薬は、変異により活性化したドライバー遺伝子を標的 にその機能を抑制するものが大部分であり、不活性化されたがん抑制遺伝子のタンパ クを利用したがんの治療法は未だに見つかっていない。そこで、合成致死(Synthetic Lethality)概念に基づいた治療法開発が進められている。細胞の生存に係る特定の機 能が、2種の遺伝子(または経路)によって規定されている場合、一方の遺伝子(ま たは経路)に障害が発生しても細胞は生存し続ける。時にその遺伝子機能ががん抑制 の場合、その阻害によりがんが発生する。しかし、その生存に係る機能を規定する 2種の遺伝子(または経路)を同時に阻害するとがん細胞でも生存できなくなる。 これが合成致死である。例えば、遺伝性乳がん卵巣がんの原因遺伝子 BRCA1/2 の異 常により発生した乳がん・卵巣がんにおいて、合成致死を引き起こすパートナーが 治療標的候補となる。BRCA1/2 タンパクは、DNA 2本鎖切断の修復に機能する。 PARP1 は DNA 一本鎖切断を修復する。そこで、DNA 損傷修復機能を押さえ込み細 胞死を誘導する治療法として、遺伝性乳がん卵巣がんに対する PARP 阻害剤による合 成致死療法が開発された。さらに、遺伝性乳がん卵巣がんは DNA 損傷修復能が傷害 されているため、DNA 障害型の抗がん剤(carboplatin, gemcitabine 等)に感受性が 高いことが予想され、臨床試験で検証された。次いで、漿液性卵巣がんの約50%にお いて、DNA 損傷修復機能低下が認められ、PARP 阻害剤、DNA 障害型の抗がん剤の 使用が推奨されている。さらに、DNA 損傷修復機能の正常ながんに対し、DNA 損傷 修復経路の阻害剤を使用し、DNA 損傷修復機能を低下させ、PARP 阻害剤、DNA 障 害型の抗がん剤を使用する新規治療法の臨床試験が進んでいる。本発表では、合成致 死理論に基づく BRCA 遺伝子変異陽性乳がんの新規治療法に端を発したがんの新た な治療法開発を概説する。 37 教育セッション2[臨床] E-2-1 Lynch 症候群と FAP の臨床に関する最近の動向 ○田中屋 宏爾 国立病院機構 岩国医療センター 外科 Lynch 症候群は、ミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞系列変異を原因とする常染色体 優性遺伝性疾患で大腸癌、子宮内膜癌、胃癌など様々な関連腫瘍を好発する。最も頻 度の高い遺伝性腫瘍とされているが、わが国では臨床家の認識が乏しいこと、カウン セリングや遺伝学的検査の体制が十分に整備されていないこともあり、多くの症例が 見逃されている。確定診断は遺伝学的検査によるが、近年、検査対象者の絞り込みに 拾い上げ基準(アムステルダム基準Ⅱ、改訂ベセスダ基準など)によるスクリーニン グを行わず、大腸癌や子宮内膜癌の全症例を対象としてマイクロサテライト不安定性 検査やミスマッチ修復タンパクの免疫組織化学検査を行うユニバーサルスクリーニン グが欧米で推奨されてきた。発がん予防においては、大規模な無作為化比較試験に よって、高用量アスピリンの定期投与が大腸癌のみならず他の関連腫瘍の発症リスク を低減することが示された。また、免疫チェックポイント阻害剤はミスマッチ修復欠 損を示す固形癌で有効であることが報告された。 家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis, FAP)は、APC 遺伝子の生殖 細胞系列変異を原因とする常染色体優性遺伝性疾患で、大腸の多発性腺腫を主徴とす る。大腸癌以外の主要な死因となりうる十二指腸癌やデスモイド腫瘍も臨床では重 要である。MUTYH 遺伝子両側アレルの生殖細胞系列変異を原因とする常染色体劣性 遺伝性疾患の MUTYH 関連ポリポーシス(MUTYH associated polyposis, MAP)は大 腸腺腫が多発するが、FAP とは別の疾患概念として扱われるようになってきた。さら に、近年、DNA ポリメラーゼをコードする POLE 遺伝子および POLD1 遺伝子の生殖 細胞系列変異を原因として大腸腺腫が多発するポリメラーゼ校正関連ポリポーシス (polymerase-proofreading associated polyposis, PPAP)が報告されている。PPAP は 子宮癌の発生リスクも高く、Lynch 症候群とも鑑別を要する。非ポリポーシスの Lynch 症候群と、FAP を代表とするポリポーシスの表現型による鑑別は必ずしも容易 ではなく、Lynch 症候群と FAP を含む複数の疾患に対応した遺伝子パネルによる遺伝 学的検査も行われている。 Lynch 症候群と FAP の臨床に関する最近の動向を紹介する。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 38 教育セッション2[臨床] E-2-2 HBOC 診療 のup to date ○吉田 玲子、中村 清吾 昭和大学医学部 乳腺外科 家族性乳癌の高浸透率遺伝子として BRCA が発見され20年が過ぎた。その間、遺 伝子解析技術の進歩に伴い WES(Whole exome sequencing)でさえその解析コス トは今や1000ドルで可能となる時代となった。わが国では2006年から臨床検査とし て BRCA 検査が開始されたが、欧米では2012年から BRCA 以外の乳癌リスク遺伝子 を含んだ multi-gene panel が登場し、現在の遺伝性腫瘍検査の主流となっている。し かし、対象遺伝子が増加するとともにその variant の解釈・遺伝学的管理の対応は煩 雑となり混沌としている現状である。また、癌の driver gen eとして BRCA を target と した標的薬剤の登場により、遺伝学的検査はリスク評価や検診・予防管理だけでな く Companion diagnosis として治療分野においても大切な役割りを担うようになって きた。米国では、2015年一般教書演説においてオバマ大統領が“Precision Medicine Initiative”を発表し、総額215百万ドルをコホート研究・がんゲノム解析・データ ベース開発・データ利用開発やセキュリティなどに投入する予定である。わが国では 2012年に日本 HBOC コンソーシアムが設立され、2016年より全国的な registration を 開始し、日本人 HBOC のデータベースの構築、予測モデルの開発、ガイドライン策 定を目指している。 劇的に進歩していくゲノム診療において、臨床医がどのように遺伝性腫瘍を考え、 遺伝子検査を行い、適切な医学的管理を行っていくべきか、について最新の国内外の 報告とその解釈をお伝えし、今後のわが国の HBOC 診療の歩むべき道を皆様と考え ていきたい。 39 教育セッション2[臨床] E-2-3 遺伝性内分泌腫瘍-最近の話題 ○櫻井 晃洋 札幌医科大学医学部 遺伝医学 多発性内分泌腫瘍症(MEN)を代表とする遺伝性内分泌腫瘍症候群は複数の疾患 を含むが,本講演では MEN について以下の内容を紹介するほか、他の疾患について も可能な限り最近の話題を紹介したい。 MEN1:MEN1 では多くの関連病変のうち、膵消化管神経内分泌腫瘍(NET)が予 後に大きく影響するため、その診断法、治療法の向上にむけた努力が重ねられてき た。診断法では放射性オクトレオタイド誘導体を用いたシンチグラフィーが、海外で は広く用いられるようになってきたが、わが国ではまだ臨床試験が進められている段 階にとどまっている。また治療薬に関しては、mTOR 阻害薬をはじめとした分子標 的薬が導入され、選択肢が広がりつつある。非機能性腫瘍に関しては、多くが緩徐 な経過をとること、多発例が多く広範な切除術は患者の QOL を障害することから、 NCCN ガイドラインなどでも経過観察という選択肢が明記されるようになってき た。またMEN1患者は以前から糖脂質代謝異常の頻度が高いことが知られていたが、 MEN1 遺伝子産物である menin がこうした代謝経路に関与することを示す研究成果 が報告されている。 MEN2:MEN2 に関しては、2015年に米国甲状腺学会から甲状腺髄様癌に関する新 しいガイドラインが公表された。ここでは従来用いられてきた MEN2A 、MEN2B 、 FMTC(家族性甲状腺髄様癌)という3病型分類をやめ、MEN2A を、FMTC を含 む4亜型に分類している。またこのガイドラインでは、術式や手術のタイミングに ついて、フローチャートを用いてより具体的な提唱を行っている。わが国において は RET 遺伝子診断が保険収載となる予定で(2016年3月現在)、また進行髄様癌に 対する分子標的薬も保険収載となった。これにより、関連学会が推奨するように、 甲状腺髄様癌患者に対する RET 遺伝子診断が実施される比率は高まると予想され、 MEN2 の診断もれは減ると期待されるが、一方で結果を得てから家族への対応に苦 慮するなど、混乱を生じることも懸念される。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 40 要望演題1[家族性大腸腺腫症の大腸がん以外の腫瘍への対策] R-1-1 R-1-2 ドセタキセル+ダカルバジン・タモキシフェ ン・スリンダク療法が著効した FAP に合併した デスモイド腫瘍の1症例 当科における家族性大腸腺腫症のデスモイド 腫瘍発生状況:Genotype-Phenotype relationshipを含めて ○岡本 哲郎1)、村松 博士1)、猪股 英俊1)、 宮島 治也1)、長町 康弘2)、小池 和彦2)、 山内 尚文2)、後藤 義朗2)、井原 康二2)、 西里 卓次2) ○近 範泰、伊藤 徹哉、山本 梓、鈴木 興秀、 天野 邦彦、夛田 祐城、隈元 謙介、江口 英孝、 岡崎 康司、持木 彫人、岩間 毅夫、石田 秀行 1)社会医療法人札幌清田病院 消化器内科 2)社会医療法人札幌清田病院 内科 家族性大腸腺腫症(FAP)の術後には高頻度に腹腔内 デスモイド腫瘍(DT)を合併する。DT に対する外科 治療は切除困難であることに加え再発率も高く、保 存的な薬物療法が選択されるようになってきた。今 回われわれは、大腸亜全摘術後のFAP症例に合併し、 急速に増大するDTに対して、Doxorubicin( DOX)+ Dacarbazine(DTIC)による化学療法が腫瘍増大を抑制 し、引き続き行った Tamoxifen、Slindac 治療で著明 な腫瘍縮小を得た1症例を経験したので報告する ≪症例≫25歳女性。≪家族歴≫祖母、母、叔母、従 兄が FAP。≪既往歴≫23歳 抑うつ状態。≪現病歴≫ 2012年12月貧血を契機に当院を受診、FAP に合併した S状結腸癌ステージⅢを診断し、札幌医大消化器外科 にて大腸亜全摘術を受けた、術後、同腫瘍内科で、 XELOX 5コースを行った後経過観察していた。2013 年7月にわずかに出現した腹腔内 DT は、同年11月に は長径18㎝まで増大し、緊急の化学療法を要すると 判断され当院に紹介転院となった。イレウス症状を 伴う Church 分類Ⅳ期の腹腔内 DT に対して、DOX 16 ㎎/m2+DTIC 120㎎/m2(day 1-4, q28days)を4コース 行った。腫瘍は長径15㎝にわずかに縮小したが SD の 範疇であった。食欲不振、口内炎 grade3、脱毛、悪 心など grade2の有害事象があり、患者希望により同 治療は中止となった。2014年1月より Tamoxifen 80 ㎎/dayを行い4か月後に腫瘍は長径12㎝と縮小した が、頭痛、悪心、倦怠感 grade2出現し、抑うつの 増悪(自殺企図)があり治療中止となった。6月から Slindac 300㎎/day の投与を開始したところ、腫瘍は 緩徐に縮小し2015年11月には長径8.3㎝まで縮小、そ の後増大なく経過している。なお、APC 遺伝子解析 では exon15, codon1450 に CGA(Arg)→TGA(Stop)の 点変異が認められている。 ≪考案≫急速に増大する Church 分類Ⅳの DT に対 して、DOX + DTIC の化学療法が推奨されている。 それに引き続き継続された本症例の Tamoxifen およ び Slindac 療法の詳細な経過と文献的考案を加えて報 告する。 埼玉医科大学総合医療センタ- 消化管一般外科 埼玉医科大学ゲノム医学研究センター はじめに:画像診断が進歩した現在、家族性大腸腺 腫症(Familial adenomatous polyposis, FAP)に合併 するデスモイド腫瘍(Desmoid tumor,DT)の発生 頻度や部位については見直す必要がある。また、 本邦では DT 発生と APC の germline mutation の関係 (Genotype-Phenotype relationship)はよく調べられて いない。 対 象 ・ 方 法 : 当 科 で 1 9 8 9 年 以 降 FA P に 対 し 、 初 回 大 腸 切 除 を 行 っ た 症 例 に つ い て 、 D T の 発 生 、 APC の germline mutation の関係を中心に、後方視的 に検討した。 結果:37例、32家系で、性別は男性16例、女性21 例 で あ っ た 。 大 腸 切 除 時 年 齢 中 央 値 3 3 歳( 1 7 - 7 8 歳)。Attenuated type2例、非密生型(肉眼的腺腫数 100~2000個)31例、密生型4例。大腸癌の合併19例 (stage0;4例、stageⅠ;1例、stageⅡ;4例、stage Ⅲ;4例、stageⅣ:6例)。術式:大腸全摘・永久回腸 人工肛門造設術3例、大腸全摘・回腸嚢肛門 (管) 吻合 術16例、結腸全摘・回腸直腸吻合術15例。大腸外随伴 病変 (悪性) :甲状腺乳頭癌4例、胃癌1例、腎細胞癌 1例。DT 発生は10例(27%)で、DT の累積術後発生率 は1年、2年、3年、5年で各々10%、10%、23%、 36%であった。部位は腹壁のみ2例、腹壁+腹腔内4 例、腹腔内のみ4例であった。診断時期は大腸切除 前1例、手術時2例、術後7例であった。Church 分 類ではstageⅠ:5例、stageⅡ:2例、stageⅢ:1例、 stageⅣ:3例で、stageⅣの1例が死亡した。APC の生 殖細胞系列変異は35例(95%)に行われ、31例(84%)に 病的変異が認められた。病的変異が同定されなかっ た3例はすべて孤発例であったが、MUTYH の生殖 細胞系列変異も認めなかった。APC の生殖細胞系列 変異が同定し得た31例26家系を対象に,codon1444前 後で DT の発生を比較すると、~1443 : 1/11(9%)、 1444~8/11( 72%)で codon1444よりも 3’ 側の変異 が DT の発生が有意に多い傾向であった (p=0.05) 。 結論:FAP の DT 発生頻度と Genotype-Phenotype relatioship は従来の報告に矛盾しなかった。Church stageⅣに対する確実な治療法の確立が急務と考えら れる。 41 要望演題1[家族性大腸腺腫症の大腸がん以外の腫瘍への対策] R-1-3 R-1-4 当院における甲状腺篩型乳頭癌の検討 同一家系内で異なる胃の表現型を呈した FAP の 1家系 ○門馬 智之1)、鈴木 眞一2)、大木 進司1)、 福島 俊彦2)、伊藤 亜希子3)、松本 佳子2)3)、 内野 眞也3)、竹之下 誠一1) ○高雄 暁成、田畑 拓久、桑田 剛、大西 知子、 藤原 崇、荒川 丈夫、山口 達郎、小泉 浩一 1)福島県立医科大学 器官制御外科学講座 2)福島県立医科大学 甲状腺内分泌学講座 3)野口病院 がん・感染症センター都立駒込病院 消化器内科 内視鏡科 大腸外科 甲状腺篩型乳頭癌(CMVPTC)は若年女性に好発す 【背景】家族性大腸腫瘍(FAP)に合併する大腸外病変 る予後良好な甲状腺乳頭癌の亜型である。家族性大 として胃底腺ポリポーシス(fundic gland polyposis: 腸腺腫症(FAP)に合併することがみられ、本亜型の FGP)があり、FAP の約50%に認められる。FAP に 診断が、FAP の発見のきっかけとなることがあり、 合併する FGP は他の随 伴病変と同様 、APC の両 FAP 合併例は多発する傾向があるとされている。当 アレルの異常による新生物と考えられている。今 科で経験した CMVPTC は2005年から2014年の9年間 回、FGP について同一家系内で異なる表現型を呈し で、5例であった。診断時の年齢は16歳から21歳で平 た FAP の1家系を経験したので報告する。 均19.0歳であり、全例女性であった。腫瘍は、2例 【症例】症例1:43歳、女性。2007年に血便を契機 が多発(各々2個、7個)で、3例が単発であり、最 に非密生型 FAP と診断され大腸全摘術を施行。2009 大腫瘍径は13-20㎜で平均16.6㎜であった。手術は、 年の上部消化管内視鏡検査で前庭部の多発びらんと 両葉に多発していた2例は甲状腺全摘術を施行し、単 十二指腸潰瘍を認めたが FGP は認められなかった。 発症例3例は片葉切除を行っている。5例いずれの 抗 H.pylori IgG 抗体が高値(54U/㎖)を示しており、 症例もリンパ節郭清を付加しているが、リンパ節転 H.pylori 陽性と考えられた。症例2:18歳、女性(症 移は認めていない。術前に CMVPTC と診断して手術 例1の長女)。2015年に散発型 FAP と診断された。 を行った症例は、3例であった。5例中1家系で明 上部消化管内視鏡検査で胃体部~穹隆部にかけて多 らかな FAP 家族歴を確認できていない。5例すべて 発する表面平滑なポリープを認め、生検にて FAP に で、APC 遺伝子検査を行い、結果の出た4例すべて 合併した FGP の診断であった。生検組織内には H. で APC 遺伝子変異を認めている。 pylori の菌体を認めず、H.pylori 陰性と考えられた。 当院における甲状腺篩型乳頭癌経験症例について、 文献的考察を加え報告する。 【考察】FAP に合併する FGP は一般的に malignant potential は低いとされているが、胃癌や high-grade dysplasia の発生が稀ながら報告されており、dysplasiacarcinoma sequence を介した発癌には注意が必要であ る。本症例では同一家系内において世代間で FGP の 表現型に相違を認め、その要因として H.pylori 感染の 有無が関与していると推察された。すなわち FAP に お け る F GP の 発 生 と H.pylori 感 染 は 逆 相関し、 H.pylori 感染により FGP の発生が抑制される可能性が 示唆された。FAP 患者における H.pylori 除菌治療の是 非を問う上でも示唆に富む症例と考えられた。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 42 要望演題1[家族性大腸腺腫症の大腸がん以外の腫瘍への対策] R-1-5 R-1-6 家族性大腸腺腫症に合併した早期胃癌に関する 臨床病理学的検討 大腸全摘術後の回腸嚢に発生する腫瘍の検討 ○長田 涼子1)、田畑 拓久2)、桑田 剛1)、 藤原 崇1)、大西 知子1)、荒川 丈夫2)、 山口 達郎3)、堀口 慎一郎4)、小泉 浩一1) ○田近 正洋1)、田中 努1)、石原 誠1)、平山 裕1)、 大西 祥代1)、水野 伸匡2)、原 和生2)、肱岡 範2)、 奥野 のぞみ2)、小森 康司3)、木下 敬史3)、 清水 泰博3)、丹羽 康正1) 1) がん・感染症センター都立駒込病院 消化器内科 2)がん・感染症センター都立駒込病院 内視鏡科 3)がん・感染症センター都立駒込病院 大腸外科 4)がん・感染症センター都立駒込病院 病理科 【目的】家族性大腸腺腫症(FAP)の胃癌発生危険率は 東アジアでは一般人口の3~4倍と報告されており、 上部消化管内視鏡検査での早期胃癌の拾い上げは重要 な課題である。そこで当院における FAP 合併の早期 胃癌について臨床病理学的特徴を検討した。 【方法】2004年以降に上部消化管内視鏡検査を施行し た FAP 42例のうち早期胃癌と診断された4例(9.5%) を対象とし、それぞれの臨床的背景、内視鏡所見、病 理組織学的特徴についてretrospectiveに検討した。 【 成 績 】症 例( 1 )3 5 歳 女 性 、 散 発 型( 結 腸 全 摘 後 )。 H.pylori 陰性で胃底腺ポリポーシス(FGPs)を認め、 前庭部後壁の軽度発赤する浅い陥凹性病変(0-llc)に対 して ESD 施行。病理学的には2×2㎜大の高分化型 腺癌で深達度Mの診断。症例(2)65歳女性、非密生型 (PD+結腸亜全摘後)。FGPs は認めず、残胃に多発す る胃腺腫を認める。体上部後壁の白色平坦病変(0-llb) に対して ESD 施行。病理学的には12×2㎜大の高分 化型腺癌で深達度Mの診断。症例(3)51歳女性、非密 生型(結腸亜全摘後)。H.pylori 陰性で FGPs を認め、 体中部大弯の白色陥凹性病変(0-llc)に対して ESD 施 行。病理学的には11×10㎜大の胃型形質を有する高分 化型腺癌で深達度Mの診断。症例(4)47歳男性、非密 生型。H.pylori 陽性かつ背景粘膜は萎縮調で FGP が複 数個散在するが FGPs を認めず、前庭部前壁の発赤す る浅い陥凹性病変(0-llc)に対して ESD 施行。病理学 的には4㎜大の高分化型腺癌で深達度Mの診断。 【結論】FAP における胃癌発生機序としては通常の H.pylori 感染による慢性胃炎からの発癌に加え、FGPs の癌化や陥凹型腺腫からの発癌が想定されている。本 検討では症例 (3) が前者よるもの、症例(2)が後者によ るものと推察された。内視鏡的には発赤や白色調など の軽微な色調変化を拾い上げ、積極的に生検を行うこと が重要と考える。特に FGPs を認める例では H.pylori 陰性胃癌や胃型腫瘍の発生を念頭に置き、十分な送気 による伸展下での観察を行うことが肝要である。 1) 愛知県がんセンター中央病院 内視鏡部 2)愛知県がんセンター中央病院 消化器内科部 3)愛知県がんセンター中央病院 消化器外科部 【背景】近年、家族性大腸腺腫症(FAP)に対する大腸 全摘・回腸嚢肛門(管)吻合術の術後に、回腸嚢への腺 腫や癌が発生することが新たな問題となっているが、 そのサーベイランスについては未だ確立していない。 【目的】当院における FAP の大腸全摘術後の回腸嚢に おける腫瘍の発生およびそのサーベイランスについて 後方視的に検討する。 【方法】対象は術後1年以上経過が追えた回腸嚢を造 設した FAP 33例(再建術式は Kock;10例、IPAA;23 例)。術後サーベイランスは、原則内視鏡を6-12ヶ 月間隔で行い、治療可能な病変は EMR または APC 焼 灼術を行っている。Kock と IPAA を回腸嚢群33例と し、IRA 群12例と比較検討した。 【結果】観察期間は中央値で17.9年 (1.5-35.8年) 、腺 腫の発生は回腸嚢群で回腸嚢に23例(69.7%)、IRA 群 では直腸に10例(100%)認め(P=0.08)、回腸嚢群お よび IRA 群の累積腺腫発生率は5年︰10%、10年︰ 33%、20年︰80%と5年︰42%、10年︰59%、20年 ︰84%で差は認めなかった(P=0.099)。癌の発生を、 回腸嚢群で回腸嚢内に3例(術後、8.7年、19.7年、 25.9年)、IRA 群で直腸に1例(術後、18.2年後)認め ていたが、これらの症例は全例術後サーベイランス が行われていなかった症例であった。サーベイラン スの間隔は中央値で IRA 群6ヶ月、回腸嚢群12ヶ月 と IRA 群で短く、1回あたりの腺腫の処置個数は中 央値で IRA 群20個、回腸嚢群10個と IRA 群で多かっ た。偶発症は出血を回腸嚢群で6件に認めた。 【結論】FAP の大腸全摘術後は、回腸嚢においても直 腸と同様に高率に腺腫が発生し、また、癌の発生も認 めることがあるため、術後サーベイランスは不可欠で ある。 43 要望演題1[家族性大腸腺腫症の大腸がん以外の腫瘍への対策] R-1-7 家族性大腸腺腫症における十二指腸腫瘍のサー ベイランスと治療 ○松林 宏行1)、杉浦 禎一2)、上坂 克彦2)、 佐々木 恵子3)、浄住 佳美4)、堀内 泰江4)、 堀田 欣一1)、今井 健一郎1)、山口 裕一郎1)、 角嶋 直美1)、小野 裕之1) 1)静岡県立静岡がんセンター 内視鏡科 2)静岡県立静岡がんセンター 肝胆膵外科 3)静岡県立静岡がんセンター 病理診断科 4)静岡県立静岡がんセンター 遺伝子診療外来 【目的】当院の家族性大腸腺腫症(FAP)症例における 乳頭部を含む十二指腸腫瘍の頻度、診断、治療につい て後方視的に検討する。 【方法】当院で FAP と診断され、上部消化管内視鏡 (GF)を行った24例(男女比13 : 11、初回 GF 年齢 : 平 均33.5歳、16~58歳)を対象とした。GF は基本年1回 とし、患者希望や治療に応じて追加した。十二指腸腫 瘍のレベル評価には Spiegelman stage (SpS) を用いた。 【結果】初回 GF で96%(23/24)の症例に十二指腸腺腫 或いは腺腫を疑う多発退色調粘膜域を認め、SpS は 0:1例、Ⅰ:5例、Ⅱ:3例、Ⅲ:8例、Ⅳ:7例で あった。主乳頭が確認できた22例中15例(68%)に腫瘍 性病変を認めた。経過観察を指示していた21例中5 例(24%)が来院を中断/拒否した。SpS-IV の7例中4 例で診断後直ぐに治療を施行した。当院で3年以上 観察した十二指腸腫瘍11例中4例で SpS の上昇を認 め(0→Ⅱ、Ⅰ→Ⅱ、Ⅱ→Ⅳ、Ⅲ→Ⅳ)、内視鏡/画像 検査と生検所見を総合評価して経過観察/治療を選択 した。乳頭部病変が優位な3例には内視鏡的乳頭切 除(EP)を、SpS-IV で生検で癌が得られた4例には膵 温存十二指腸切除術(PSD) (3例)と膵頭十二指腸切除 (PD) (1例)を施行した。巨大デスモイドを併存した1 例では開腹術を拒否され、EP を行った。病理では腺 腫1例、腺腫内(併存)癌5例、sm 微小浸潤癌が1例 であったが、EP の1例で胆膵管断端(+)であった。 【考察】十二指腸腫瘍は比較的緩徐に発育する症例が 多く、サーベイランス GF はガイドライン(2012)が推 奨する年1回で十分と考えられた。しかし、FAP 症例 では何らかの理由で通院が途絶えることが多く、患者 との意思疎通を十分に計り、患者を理解し、患者に疾 患概念を理解して貰うことが肝要と考えられた。乳頭 部腫瘍 ・ 十二指腸腫瘍では正確な進展度 ・ 進達度診断 が困難なことがあり、タイミング良く適切な治療を選 択するためには早期から専門施設が介入することが好 ましいと考えられた。 【結語】FAP 症例では高頻度に十二指腸腫瘍を合併す るため、早期 GF サーベイランスが有用と考えられ た。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 44 要望演題2[遺伝性乳がん卵巣がん症例でのリスク低減手術] R-2-1 R-2-2 遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)遺伝子変異保因者に 対するリスク低減卵巣卵管切除(RRSO)の実現 まで 当院における HBOC 症例に対する卵巣卵管切除 術の経験 ○宮本 健志1)9)、中村 和人2)9)、柳田 康弘1)9)、 廣瀬 太郎3)9)、松木 美紀4)9)、櫻井 通恵4)9)、 大庭 章5)9)、板垣 佳苗5)9)、小池 由美6)9)、 松沼 晶子6)9)、真下 友実7)9)、久保田 幸雄8)9) ○松本 恵1)、三浦 清徳2)、矢野 洋1)、大坪 竜太1)、 田中 彩1)、金内 優典2)、増崎 雅子2)、 長谷川 ゆり2)、三浦 生子2)、佐々木 規子3)、 月川 弥生4)、増崎 英明2)、永安 武1) 1)群馬県立がんセンター 乳腺科 2)群馬県立がんセンター 婦人科 3)群馬県立がんセンター 形成外科 4)群馬県立 がんセンター 看護部 5)群馬県立がんセンター 精神腫瘍科 6)群馬県立がんセンター がん相談支援センター 7)群馬県 立がんセンター 臨床検査科 8) 群馬県立がんセンター 医事 課 9)群馬県立がんセンター HBOC診療チーム 【はじめに】当院では、乳腺科主導で HBOC 遺伝カウ ンセリングおよび遺伝学的検査を2010年より開始し た。当初より遺伝子変異保因者への RRSO やリスク 低減乳房切除(RRM)の実施が好ましいと考えていた。 Angelina effect により世間の声が高まったのを機に、 2014年1月に HBOC 診療チームを立ち上げ、これら の具現化を目指し活動を開始した。 【経過1】HBOC の病態確認、現状の把握ののち、問 題点を挙げることから開始した。変異保因者への心理 面への介入、外科的介入実現までの乳房と卵巣のサー ベイランス法と費用、RRSO ・ RRMの方法と費用、遺 伝カウンセリング体制の見直し等を主な問題点とし、 おおむね1か月ごとに会議を行った。 【経過2】心理面への介入に関しては個々の対応とな るが、医療サイドの疾患への十分な理解を浸透させ、 共有の知識を持つようにした。乳房のサーベイラン スは NCCN ガイドラインに従い乳癌術後の経過観察 に MRI を含むこととしたが、未発症者への対応につ いては、検討中である。RRM については、HBOC の 乳癌が卵巣癌に比して生命予後に大きく寄与しないこ とから優先順位を下げた。一方、卵巣癌については早 期発見困難であること、RRSO の全生存期間(OS)へ の寄与が明らかになっていることから最優先とし、臨 床試験の形で行う方針となり倫理員会に申請した。術 式は腹腔鏡手術が望ましいが、現状の体制では対応困 難なため、必要時に応援を頼むこととした。費用は、 手術に係るものを自費診療とするため、額面表示はし ていない。遺伝カウンセリング体制は、専任カウンセ ラーや遺伝専門医の確保は困難であり、現状(乳腺科 医師2名)によるカウンセリングを継続することとし た。 【RRSOの実現】HBOC 保因者が RRSO もしくは非手 術経過観察のどちらかを選択し登録するという観察研 究において、RRSO の実施については1症例ごとに倫 理委員会による承認を要するとした。2015年11月に1 例目の実施となった。 【まとめ】当院における RRSO 実現までの経過を報告 した。 1)長崎大学病院 腫瘍外科 2)長崎大学病院 産婦人科 3)長崎大学病院 遺伝カウンセリング室 4)長崎大学病院 看護部 【 背 景・目 的 】近 年 遺 伝 性 乳 が ん 卵 巣 が ん 症 候 群 (HBOC)に対する関心も高まっており、遺伝カウンセ リングの機会も増加してきている。BRCA 遺伝子変異 陽性例に関して、卵巣がんの早期発見が困難であるこ とより NCCN ガイドライン Version1.2016 でもリスク 低減卵巣卵管切除術(RRSO)が推奨されている。また 本邦の卵巣がん、乳がんそれぞれの治療ガイドライ ン2015年版でも RRSO は推奨グレードがBとなってお り、全生存率を改善することから体制整備が急務と なっている。今回当院で経験した HBOC 症例に対す る卵巣卵管切除術の経験を報告する。 【症例】46歳女性、43歳時右乳がんの診断で他院に て乳房切除術+センチネルリンパ節生検を施行さ れ pT2N1aM0 StageⅡB ホルモン受容体陽性 HER2 陰 性の診断であった。術後ホルモン療法中、東京在 住の妹が41歳で乳がんを発症し遺伝子検査を受 け BRCA2 遺伝子変異陽性の結果であったため、患 者も遺伝子検査を希望し当院へ紹介となった。妹の 遺伝情報をもとにシングルサイトの遺伝子検査を受 け BRCA2 遺伝子変異陽性の結果であった。 【 結 果 】当 時 当 院 で の R R S O の 体 制 は 整 っ て お ら ず、 NCCN のガイドラインに準じて RRSO を行わない 場合のサーベイランスを開始した。9か月後、乳がん の経過観察中に患側腋窩リンパ節腫大を認め、精査に て腋窩リンパ節再発の診断であった。遠隔転移確認で 行った PET/CT にて右卵巣周囲の高集積を認めた為、 診断的治療を目的に両側卵巣卵管切除術を施行した。 標本に悪性所見は無く、次に右腋窩リンパ節郭清術を 施行した。郭清した転移リンパ節はホルモン受容体陽 性 HER2 陽性となっており、術後 FEC→DTX +ハー セプチンによる治療後、現在ハーセプチン+アロマ ターゼ阻害剤を継続している。 【考察】PET/CT にて子宮付属器に異常所見を認め両 側卵巣卵管切除術を行った。病理結果で悪性所見は認 めず、結果的に RRSO を行うことにつながった。 【結語】現在当院でも RRSO の体制を整備したので、 今後もがんの一次予防に寄与したいと考えている。 45 要望演題2[遺伝性乳がん卵巣がん症例でのリスク低減手術] R-2-3 R-2-4 遺伝性乳がん卵巣がん症候群に対するリスク低 減卵巣卵管切除手術待機中に両側卵巣腫大をき たした一例 リスク低減卵巣卵管摘出術における婦人科医の 役割 ○西川 隆太郎、倉兼 さとみ、鈴木 規敬、村上 勇 ○白山 裕子1)、大亀 真一1)、竹原 和宏1)、 杉本 奈央2)、金子 景香2)、清藤 佐和子3)、 髙橋 三奈3)、青儀 健二郎3)、大住 省三3) 名古屋市立東部医療センター 産婦人科 1)四国がんセンター 婦人科 2)四国がんセンター 家族性腫瘍相談室 3)四国がんセンター 乳腺外科 当施設のある東海地区では、2014年より遺伝性 遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)に対して卵巣癌の早期発 乳がん卵巣がん症候群(Hereditary breast ovarian 見となる有効なスクリーニング方法は確立されていな cancer;HBOC)に対する地域連携診療ネットワーク会 い。一方リスク低減卵巣卵管摘出術(RRSO)は卵巣癌 議を定期開催しており、関連する施設の医師及びコメ 発症リスクを85~90%、乳癌発症リスクを40~70% ディカルが HBOC 診療のために連携をとることので 低減させると報告されている。当院では2013年より きる体制を構築すべく活動している。 RRSO を行っている。家族歴から HBOC が疑われる 今回我々は、他施設で診断された HBOC に対して 患者を拾い上げ、当院の家族性腫瘍相談室について紹 リスク低減卵巣卵管切除術(Risk reducing salpingo- 介し、カウンセリングについての情報提供を行う。遺 oophorectomy;RRSO)を希望され当院に紹介受診した 伝子検査の希望の有無にかかわらず、リスクが高いと 症例で、手術までの待機期間中に両側卵巣の腫大を呈 判断した人には婦人科でサーベイランスを受けるこ した一例を症例提示するとともに、RRSO 施行におけ とを勧めている。サーベイランスは HBOC (疑いを含 る様々な課題について考察する。 む)では6ヶ月毎の内診、経腟超音波検査、CA125測定 症例は38歳女性で1経妊1経産、既往手術歴として を行っている。HBOC 症例には RRSO も1つの選択 37歳時の左側乳癌に対する左側乳房切除術および右 肢として説明しており婦人科医が手術について充分に 乳腺リスク低減切除術があった。がん家族歴などか 説明を行った後に1症例ずつ施設内倫理審査委員会 ら HBOC を疑われ、連携施設において遺伝子検査を で承認をうけ RRSO を施行している。現在までに6 施行し、BRCA1 に生殖細胞系列遺伝子変異を認めた。 例に施行した。RRSO 施行時の年齢は36-60歳(中央 RRSO を希望され当院紹介受診し、そのおよそ4ヶ月 値39歳)、閉経前は5例であった。全例に乳癌の既往 後に手術枠を確保した。手術予定1ヶ月前に術前検査 があった。卵巣卵管摘出を行った3例は全て腹腔鏡下 のため外来受診された際の内診にて、両側卵巣の多嚢 手術、子宮全摘出も同時に施行した3例中2例は開 胞性腫大を認めた。両側卵巣腫瘍の疑いで精査を行 腹手術であった。特記すべき周術期合併症はなかっ う事とし、採血検査および造影 MRI 検査を施行した。 た。病理組織検査では卵管采に tubal intraepithelial 検査所見上悪性所見は明らかでなく、術前に本人、家 caricinoma や p53 signature を認める症例はなかった。 族への説明と同意のもと、腹腔鏡下での卵巣卵管切除 RRSO を行うかどうかの意思決定に際しては手術自体 術を施行することとなった。手術及び術後経過は良好 のリスクや実施のタイミング、術後の早期閉経の問題 であり、摘出検体の最終病理診断は内膜症性嚢胞およ があるため婦人科医の役割は重要であると考えられ び胚芽封入体嚢胞であった。 た。 当院では、RRSO を臨床試験として行っており、そ の評価項目は手術前後における卵巣欠落症状(更年期 症状)の有無とその程度の変化である。手術までの待 機期間は数ヶ月であるが、その間のフォローはどうす べきか、また術前のスクリーニングに関してはどこま で必要なのか、など検討すべき課題は多い。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 46 要望演題2[遺伝性乳がん卵巣がん症例でのリスク低減手術] R-2-5 当院におけるリスク低減卵管卵巣切除術 (RRSO)の現状 ○野村 秀高、高橋 顕雅、的田 眞紀、 岡本 三四郎、金尾 祐之、近藤 英司、 尾松 公平、加藤 一喜、宇津木 久仁子、 杉山 裕子、新井 正美、竹島 信宏 がん研有明病院婦人科 がん研有明病院遺伝子診療部 R-2-6 局所再発部位からみたリスク低減乳房切除術の 切除範囲に関する検討 ○山内 清明、大瀬戸 久美子、前島 佑里奈、 葛城 遼平、吉本 有希子、高原 祥子 公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院 ブレストセンター・乳腺外科 【目的】当院でリスク低減卵管卵巣切除術(RRSO)を 【目的】当院ではこれまでに乳がん高リスクの92症例 施行した遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)の症例背景 に遺伝カウンセリングを、うち45例に遺伝子検査を実 を検討し、今後の課題を見出すことを目的とした。 施した。その結果10症例が BRCA 遺伝子変異陽性で 【方法】2011年より、院内の倫理委員会の承認を得て、 あり、そのうち5例にリスク低減乳房切除術(RRM) BRCA1/2 変異保有者に対する RRSO の実施を開始し を実施した。しかし、RRM の標準術式はいまだ決定 た。RRSO を施行した28例の症例背景を中心として検 討を行った。 【結果】RRSO 施行時の年齢中央値は48.5歳(38-66 歳)であり、閉経後の症例が18例(64.3%)であった。 乳癌の既往を有する症例が23例(82.1%)であった。 BRCA1 変異保有者が21例(75%)、BRCA2 変異保有者 が7例 (25%) であった。 両側付属器摘出術のみを行ったのは1例のみであ り、26例に対して同時に子宮全摘術施行した。1例は 過去に子宮全摘、片側付属器摘出術後であった。術後 の詳細な病理学的検討において、これまでオカルト 癌は見つかっていない。しかし、子宮内膜に異型腺 管を認めた症例が2例あり、いずれもタモキシフェ ン内服の無い BRCA1 変異保有者であった。未閉経 で RRSO を行った1例に重篤な卵巣欠落症状を認め た。 【考察】NCCN ガイドラインでは出産が終了した35歳 から40歳で RRSO 施行を考慮することが推奨されて いる。しかし、当院で RRSO を施行した28例の大部 分が閉経後に手術を施行されていた。HBOC と診断 された発端者が RRSO の対象となっていることがそ の主因と考えられ、それ故に手術施行時期が遅い傾向 がある。しかし、今後はその家族を含めたサーベイラ ンスが必要であり、未発症者特に有経女性を対象とし て RRSO を行う機会が増加すると予測される。卵巣 欠落症状への対応、術式(子宮全摘を同時に行うか否 か)、手術時期の決定については遺伝性腫瘍専門医、 認定遺伝カウンセラー、乳腺外科医らとも協力し、十 分な情報提供の下に個別化されるべきであると考えら れる。 されていない。今回は通常乳がん症例に対し乳房切除 術を実施した後、長期間を経て胸壁に再発した乳癌症 例を2例経験したので、その経験から RRM の切除範 囲に関して考察する。 【症例】症例1は25年前に乳房切除術および腋窩リ ンパ節郭清を施行された Triple negative 型の左乳が ん症例で、術後25年目の昨年同側胸壁の肋軟骨上に 径1㎝の限局した腫瘤を認めた。穿刺吸引細胞診 で class V であったため切除術を施行。病理検査結果 で Luminal B 型の浸潤がんであることが判明した。断 端は確保されていたが、腫瘍周囲の胸壁に放射線療 法を施行した。症例2は15年前に乳房切除術および 腋窩リンパ節郭清を施行された Luminal 型の左乳癌症 例で、術後13年目に右肺転移をきたし、Bevacizumab +Paclitaxel を用いた化学療法を実施、わずかに残存 した病変に肺切除を実施した。病理検査結果は Triple negative 型であった。その2年後の本年左胸壁の肋軟 骨上に径2㎝の限局した腫瘤を認めた。穿刺吸引細胞 診で class V であったため切除術を施行。病理検査結 果で Luminal B 型の浸潤がんであることが判明した。 断端が陽性であったため腫瘍周囲の胸壁に放射線療法 を施行した。2症例とも残存乳腺に新たに発生した乳 がんであることを否定出来ない。 【考察】van Verschuer VMT らは6,044名の RRM 症例 のうち21名で乳がんの発生を認めた。うち乳房切除術 または NSM/SSM を受けたものは20名で、乳がん発 生は NAC や皮膚皮弁ではなく、胸壁や腋窩でみられ たと報告している。 【結語】今回の我々の2症例も含めて考察すると、胸 骨側に関しては少なくとも肋軟骨上の組織まで切除す る必要性が示唆された。 47 要望演題2[遺伝性乳がん卵巣がん症例でのリスク低減手術] R-2-7 当院で施行しているリスク低減乳房切除術の実 際 ○吉田 敦、竹井 淳子、大川 恵、山内 英子 聖路加国際病院 乳腺外科 遺伝性乳癌卵巣がん症候群の知識の一般化と、患 者教育から、リスク低減乳房切除術(Risk Reduction Mastectomy : RRM)を希望される患者は年々増加傾向 にある。当院で施行している RRM の実際について報 告する。現在当院での RRM の適応は HBOC であるこ とが遺伝子検査で証明された方を原則としている。 2003年8月から2015年12月までの期間に RRM もしく は RRBSO について遺伝カウンセリング(GC)を施行 し BRCA 遺伝子変異を認めた患者は166名であった。 GC 時年齢の中央値は42歳、GC のタイミングは未発 症時27名 (16%) 、乳癌診断後治療前75人(45%)、乳癌 治療終了後61人(37%)であった。BRCA1 の変異が87 例(52%)、BRCA2 の変異が77例(46%)、BRCA1,2 い ずれにも変異を認めた症例が2例であった。変異 は Deleterious mutation が117例(70%)、Suspected deleterious が6例(4%)、Uncertainが42例(25%)で あった。 遺伝子変異が判明後、RRM に関する十分な GC を 行い、当院で RRM を実施した患者は32症例あり、検 診の継続を選択された患者は86症例、そのほか48症例 は経過が不明もしくは、RRM に不適応な状況であっ た。 RRM を施行した患者のうち3例(9%)が非発症者 であり、20例 (63%)が乳癌手術と同時に、10例(31%) は術後に RRM を施行していた。一期的再建は24名 (75%) に施行され、内18名(56%)は乳頭乳輪温存乳房 切除術を施行していた。RRM を施行した乳房の病理 学的検査で4例(1.3%)にオカルト癌(非浸潤癌3名、 浸潤癌1名) が判明した。 R R M を 施 行 し た 患 者 の 遺 伝 子 変 異 は 2 8 名 が Deleterious mutationで2名がSuspected deleteriousで あり、2名が Uncertain significance であったが家族歴 が濃厚で強い患者希望がある症例であった。 RRM を施行する際の様々な問題について議論した い。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 48 要望演題3[Li-Fraumeni症候群] R-3-1 R-3-2 骨肉腫発症を契機に Li-Fraumeni 症候群が疑わ れた10歳女児例 緩和ケアセンターとの連携が有用であった Li-Fraumeni 症候群の1家系 ○嶋田 明、石田 悠志、金光 喜一郎、村岡 倫子、 鷲尾 佳那、国定 俊之、尾崎 敏文 ○西久保 敏也1)、伊豆原 知恵2)、四宮 敏章2)、 大仲 雅之3)、竹下 泰史3)、赤井 靖宏4)、 田村 和朗5)、上野 聡6) 岡山大学病院 小児科、 整形外科 1) 奈良県立医科大学附属病院 総合周産期母子医療センター 新生児集中治療部門 2)奈良県立医科大学附属病院 緩和ケアセンター 3)奈良県立医科大学附属病院 小児科 4)奈良県立医科大学附属病院 総合診療科 6)奈良県立医科大学附属病院 神経内科 5)近畿大学理工学部生命科学科 緒言)今回我々は10歳時に骨肉腫を発症し、手術、化 学療法にて寛解が得られた女児例を経験した。家族 【はじめに】Li-Fraumeni 症候群(LFS)は、がんを多発 歴の聴取により、近親者に癌の若年発症例が存在し、 する遺伝症候群の一つで、TP53 遺伝子変異が主たる L-Fraumeni 症候群が疑われた。文献的考察も踏まえ 要因と考えられている。LFS は癌の早期診断のみなら て報告する。 ず精神的支援も必要であるが、この精神的支援は必ず 症例)初診時10歳女児、右下肢痛にて近医受診、身 しも LFS 患者のみとは限らない。今回、緩和ケアセ 体所見、画像所見、生検結果より右脛骨骨肉腫と診 ンターの介入が有用であった LFS の1家系を経験し 断、肺転移もみられ、Stage IVA。化学療法は ADM、 たので報告する。 CDDP、MTX、IFO を含む JCOG0905 protocol で行 【症例】発端児は3歳の脈絡叢腫瘍の男児。脈絡叢 い、2回の末梢血幹細胞移植後、腫瘍切除、人口膝関 腫瘍は LFS 関連悪性腫瘍のため両親に遺伝カウンセ 節置換術実施、以後も化学療法を継続したが、肝機能 リングを行い、TP53 遺伝子変異を検索したところ、 障害や、口腔粘膜障害などの有害事象で、規定量は遂 c.928_929del/ins(A/GCATCCTCTCCCAG)の病的変 行できず、終了となった。現在14歳で、治療終了から 異を認め LFS と診断した。両親に結果を伝えるとと 4年間が経過しているが、寛解を継続している。家族 もに、両親と妹の遺伝子検査を追加したところ、父親 歴では、両親、同胞は健康、母方祖母が40歳台で胃が に変異を認めた。癌は未発症で、当院の総合診療科を ん、祖父は60歳台で肺がん、父方祖母の妹も40歳台で 紹介し定期検診を開始した。その後、叔母(28歳、独 胃がんを発症していた。以上より Li-Fraumeni 症候群 身)が遺伝子検査を希望し来談した。クライエントが 関連骨肉腫が疑われた。 若い独身女性のため、LFS であった場合の対応につい 考案と結語)Li-Fraumeni 症候群は、生殖細胞系列の て緩和ケア―センターに相談したところ、がん看護専 TP53 遺伝子変異により骨肉腫 ・ 乳がん ・ 脳腫瘍 ・ 副 門看護師が同席して遺伝カウンセリングを行うことに 腎皮質がんなどの発症率が高いことが知られている。 なった。遺伝子検査で叔母にも変異を認め、父親と同 また最近の大規模な遺伝子解析結果から、にも小児が じ総合診療科医師を紹介した。叔母は総合診療科を受 んの約10%弱と割合高頻度に生殖細胞系列の遺伝子変 診時に緩和ケアセンターも受診することで経過観察し 異(TP53 遺伝子以外も含む)が同定され、小児期の発 たところ、祖母が適応障害を発症した。祖母は自身の がんに関与していることが示された。Li-Fraumeni 症 母親が胃がんで約25年間の介護を行うなか、夫が45歳 候群関連腫瘍は放射線治療を最小限にとどめて、通常 の若さで胃がんのため永眠した。さらに孫が脳腫瘍を のがん治療を行うことが推奨されている。遺伝カウン 発症し二人の子供が LFS であることなど強い精神的 セリングを含めて、治療後の継続的フォローが重要で ストレスが重なったことから適応障害を発症したと考 ある。 えられた。幸い緩和ケアセンターの支持療法と薬物療 法による早期介入で症状の改善を見た。 【結語】LFS の支援は、遺伝カウンセリングによる情 報提供、患者の診察に加えて、患者・家族に強い精神 的ストレスを抱える人がいる可能性を念頭に入れた総 合的支援体制が重要と考えられた。 49 要望演題3[Li-Fraumeni症候群] R-3-3 R-3-4 神経膠腫(星細胞腫)、甲状腺癌術後に肺腺癌を 発症し、TP53 遺伝子解析により病的バリアン トを認めた Li-Fraumeni 症候群 (LFS) の一例 p53 蛋白質の4量体形成ドメインに変異を認め た Li-Fraumeni 症候群の2家系 ○塩田 智美1)、徐 仁美1)、田辺 悠記1)、小林 功1)、 木村 美葵2)3)、田村 智英子2)4)、恒松 由記子2)、 舩戸 道徳5)、加藤 俊介6)、高橋 和久1) ○菅野 康吉1)、斎藤 伸哉1)、青木 幸恵2)、 篠崎 浩治3)、吉田 玲子4)、中村 清吾4)、 森 泰昌5)、牛尼 美年子6)、吉田 輝彦6) 1)順天堂大学大学院医学研究科 呼吸器内科 2)順天堂大学医学部附属順天堂医院 遺伝相談外来 3)順天堂大学医学部 産婦人科 4)FMC東京クリニック 医療情報・遺伝カウンセリング部 5)独立行政法人国立病院機構 長良医療センター 臨床研究部 6)順天堂大学大学院 医学研究科 臨床腫瘍学 1) 栃木県立がんセンター研究所がん遺伝子研究室・がん予防研究室 2)栃木県立がんセンター病院 がん予防外来 3)済生会宇都宮病院 外科 4)昭和大学病院 ブレストセンター 国立がん研究センター中央病院・病理科/研究所・分子病理分野 5) 6) 国立がん研究センター中央病院遺伝子診療部門遺伝相談外来 【症例】38歳男性。血痰を主訴に気管支鏡検査目的で Li-Fraumeni 症候群(LFS)は TP53 遺伝子の生殖細胞 受診時、軽度低酸素血症、気管支内腔観察時の出血を 系列変異により生じる遺伝性腫瘍症候群であり、家系 認めたため緊急入院。全身画像検索で、肺、肝、副 内に小児の副腎皮質がん、骨軟部組織肉腫、脳腫瘍、 腎、多発骨に腫瘍性病変あり、腸骨生検、経気管支 成人女性の若年発症乳がん、その他一般固形腫瘍を含 鏡下肺生検を経て原発性肺腺癌、cT2aN1M1b stage む多様ながんの発症が認められる。 (4) (EGFR、ALK、RET、ROS1は陰性)と診断。喀血 TP53 遺伝子の変異好発部位としては、Exon5-8の と骨転移の疼痛に対し放射線照射実施、化学療法(カ DNA 結合ドメインが知られているが、Exon10 の4量 ルボプラチン+パクリタキセル)も開始したが、肺動 体形成ドメインの変異はブラジルにおける副腎皮質が 脈血栓塞栓症、深部静脈血栓症を発症、全身状態増 ん家系の創始者変異(p.R337H)として多数例が報告さ 悪にて死亡した。経過中、院内キャンサーボードに れている。今回、我々は TP53 遺伝子の4量体形成ド て、当該患者の神経膠腫(星細胞腫、21歳)、甲状腺 メインに同様の変異を生じた2家系を経験したので報 癌(分化型乳頭癌、35歳)の既往歴、母が28歳平滑筋 告する。 肉腫などの状況から LFS を疑うとの指摘あり、遺伝 症例1:クライエントは17歳女性で大腸がん(17Y) 相談外来に紹介。その後、母方家系の濃厚ながん集 を発症、弟が骨肉腫(14Y)、母親は上顎骨肉腫(39Y)、 積も判明、LFS の古典的診断基準及び TP53 解析適応 乳がん(42Y)を発症、母方祖母乳がん(45Y)、曽祖母 の Chompret 基準を満たすことから TP53 遺伝子解析 大腸がん (35Y) 等を認める。 を施行し、c.473G>A(Arg158His)のヘテロ接合性バリ 症例2:クライエントは23才女性、血管肉腫(21Y)、 アントを確認、IARCのデータベース(R17)には報告 右乳がん(22Y)を発症、両親を含む第二度近親内では がなかったが、ClinVar で pathogenic との登録があり、 母方祖父に膵がん (78Y) 罹患を認める。 出芽酵母の機能解析でも病的変異の可能性が高いとさ 遺伝子検査の結果症例1、症例2共に TP53 遺伝子 れたことから病的バリアントと判断した。 の Exon10 に p.R337C 変異が認められた。症例1では 【考察】2011年、TP53 病的変異保持者における多種類 母親にも同様の変異が認められ遺伝性と考えられた のがんリスクを考慮した検診指針(トロント・プロト が、症例2では両親の TP53 遺伝子変異は陰性であり コール)が提唱され、現在は NCCN 指針にも方針が記 de novo 発症例と考えられた。LFSの診断基準では、 載されている。本症例でも、早期に家族歴を聴取し、 1) 発端者は45才以下で肉腫に罹患し、2) 45才以下でが 少なくとも2度目のがん診断時に LFS と判明してい んに罹患した第1度近親の存在、3) さらにもう1名の れば、サーベイランスが可能であったかもしれないこ 第一度あるいは第二度近親が45才以下でがんに罹患、 とは悔やまれる。一方で、終末期の患者が 「自分の遺 あるいは年齢と関係なく肉腫に罹患していることとさ 伝子情報が親族の役に立つなら」 と検査に同意された れているが、診断基準に合致しない症例も多く、特に ことの意義は大きい。今後、父親を通して患者の同胞 de novo 発症例もあるので、希少がん、若年発症の乳 や他の血縁者に連絡、話し合いを行っていく予定であ がん、大腸がん、胃がん、肺がん等では孤発例でも生 る。 殖細胞系列の TP53 遺伝子変異の検索が必要と考えら れる。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 50 要望演題3[Li-Fraumeni症候群] R-3-5 R-3-6 Li-Fraumeni症候群 -特に成人発症がん (腫瘍) に注目して- 当院の小児固形腫瘍患者における家族性腫瘍症 候群とその対応について ○木戸 滋子、丹羽 由衣、菅原 宏美、濱野 裕太、 橋谷 智子、谷口 皇絵、岡村 弥妃、古賀 康平、 松本 将太、小野 嶺、金 相赫、巽 純子、 田村 和朗 ○服部 浩佳、秋田 直洋、関水 匡大、市川 瑞穂、 花田 優、後藤 雅彦、二村 昌樹、前田 尚子、 堀部 敬三 近畿大学大学院 総合理工学研究科 理学専攻 名古屋医療センター 小児科 【目的】Li-Fraumeni 症候群(LFS)は、小児期あるいは 若年成人期から、中高年までの幅広い年齢層に多種多 様な悪性腫瘍を引きおこす常染色体優性遺伝疾患であ Li-Fraumeni syndrome( LFS)をはじめとする家族 る。TP53 遺伝子の異常により引きおこされ、医療介 性腫瘍症候群に関しては、遺伝子検査と whole-body 入には遺伝子情報の活用も考慮され早期診断と治療 MRI 等の画像診断技術の進歩により、技術的にはス によるがん対策が期待されている。2015年 Chompret クリーニングとサーベイランスが可能となりつつあ 基準が改定され、TP53 遺伝子解析対象となる腫瘍に る。しかしながら、本邦においてはサーベイランスに embryonal anaplastic type の横紋筋肉腫と31歳未満の おける一定の指針はなく、実施に当たっては解決すべ 乳がんが加えられ、LFS 関連がんから白血病、肺の気 き課題も多い。当院における家族性腫瘍症候群の実態 管支肺胞がんは除かれた。LFS は、一般集団より早い を把握するために、小児固形腫瘍患者における重複が 年齢であらゆる腫瘍を発症する。今回、よく知られて んとがん家族歴について検討した。対象は2009年から いる成人がんに着目し、年齢階級別 LFS 関連腫瘍罹 2016年に治療を行った骨軟部肉腫および脳腫瘍患者 患数について報告する。 で、診療録に基づき自身の重複がんと家族の LFS 関 【対象と方法】TP53 遺伝子異常の明らかな11家系40 連がんを調査した。家族歴は患者の同胞と両親、祖父 名 ・ 66腫瘍の病理学的 ・ 遺伝疫学的情報と、2011年が 母までの範囲で、濃厚な家族歴がある場合は第3度近 ん罹患モニタリング集計(国立がん研究センターがん 親者も含めた。患者数は61人で、年齢の中央値は13歳 対策情報センター)にある年齢階級別がん罹患数/率を (1か月-24歳) 、男女比は27 : 34であった。腫瘍は限 照合し、サーベイランスを検討した。 局例53例、遠隔転移例8例であった。疾患の内訳は、 【結果と考察】2011年に新たに診断されたがん(罹 骨肉腫29例、ユーイング肉腫10例、横紋筋肉腫9例、 患全国推計値)は988,125例(男性 : 570,272例、女 滑膜肉腫5例、脳腫瘍5例、間葉性軟骨肉腫2例、未 性 : 417,853例、上皮内がん含む)、男女とも50歳代ぐ 分化多形性肉腫1例であった。重複がんは3例(骨肉 らいから増加し高齢になるほど高くなっている。11家 腫2例、ユーイング肉腫1例)で、3次がん1例、2 系の年齢分布では小児期、30歳代の2峰性を示し、特 次がん2例であった。1例は良性腫瘍(卵巣嚢腫)が に30歳代には初発がんの発生も多く、罹患臓器では 骨肉腫に合併した。LFS 家系の3例はいずれも骨肉腫 乳腺、肺、消化器系(胃、大腸)が上位をしめた。乳 であった。LFS 家系以外の両親と同胞に悪性腫瘍はい がん11例中、30歳代に4例(36.4%)、20歳代に3例 なかった。最近、骨肉腫患者の TP53 の生殖細胞系列 (27.3%) が、肺がん4例中3例(75%)が30歳代に認め 変異が、30歳未満の若年の場合に家族歴に関係なく られ(若年発症)、TP53 遺伝子解析対象と考えている。 9.5%と報告され、従来考えられていたよりも高頻度 消化器がんは40から50歳代の発生が多かったが、胃が である可能性が示された。LFS に対するサーベイラン んは16例中2例、大腸がん6例中1例は30歳代にみら スを行う場合には、未成年健常者である同胞に遺伝子 れた。LFS では患者の生涯にわたる、また家系内では 検査を行うことの倫理的問題、保険適応外の検査によ 世代を超えてのサーベイランスが必要である一方、対 る経済的負担、患者家族に対する心理社会的負担等に 象臓器の多さ、検査の煩雑さ、放射線など有害事象に 十分に配慮し、最終的には患者家族の利益につなげて よる二次性悪性腫瘍のリスクなど課題もある。年齢に いく必要がある。 応じ重点的サーベイと各科連携診療プログラムが望ま れる。 51 要望演題3[Li-Fraumeni症候群] R-3-7 日本家族性腫瘍学会 Li-Fraumeni 症候群部会設 立および活動報告 ○田村 智英子1)2)、石川 秀樹3)、加藤 俊介4)、 椙村 春彦5)、高木 正稔6)、田村 和朗7)、 舩戸 道徳8)、三木 義男9)、水谷 修紀10)、 矢形 寛11)、吉田 輝彦12)、恒松 由記子2)13) 1 )FMC東京クリニック医療情報・遺伝カウンセリング部 2 )順天堂大学医学部附属順天堂医院遺伝相談外来 3 )京都府立医科大学分子標的癌予防医学大阪研究室 4 )順天堂大学大学院医学研究科臨床腫瘍学 5 )浜松医科大学腫瘍病理学講座 6 )東京医科歯科大学小児・周産期地域医療学講座 7 ) 近畿大学大学院総合理工学研究科理学専攻遺伝医学研究室 8 )国立病院機構長良医療センター臨床研究部 9 )東京医科歯科大学難治疾患研究所分子遺伝分野 10)川崎市立北部地域療育センター 11)埼玉医科大学総合医療センターブレストケア科 12)国立がん研究センター研究所遺伝医学研究分野 13)順天堂大学大学院医学研究科・小児思春期発達病態学 日本家族性腫瘍学会では、将来検討委員会での発 案、検討を経て、2015年10月30日の理事会にて、LiFraumeni 症候群部会(LFS 部会)の設置を決定、恒松 由記子部会長の下、エキスパートを結集して、わが国 における LFS の臨床、研究の発展を目指し、活動を 開始した。これまでに2015年12月および2016年2月に 2回の会合を開き、LFS の臨床、研究両面における日 本および世界の動向について、情報交換、討議を行っ た。具体的には、文献検索とアンケート調査によるわ が国の LFS の実態調査報告、サーベイランス、機能 解析を含む TP53 遺伝子配列バリアントの病的意義の 解釈のあり方、病理学的所見、小児がんにおける状 況、乳がんにおける状況、遺伝カウンセリングのポイ ントなどについて、文献レビューおよび自験例を報告 しながら討議を重ねた。LFS 部会の活動の大きな目標 の一つは、わが国における LFS 症例・家系の登録シス テムの構築である。登録システムを通じて、日本の LFS 家系におけるがんの種類や発症年齢の統計、遺伝 子型との関連性などのデータ蓄積を目指す。 また、 臨床現場での LFS 患者・家系の拾い上げ、サーベイラ ンス、遺伝カウンセリング、遺伝子配列バリアントの 病的意義解釈などのあり方の検討、がん発症者におけ る放射線治療などの考え方の標準化なども重要課題で ある。LFSは、小児期から成人期まで多様な種類のが んを発症する可能性のある疾患であり、臓器別の学術 団体単独では全体像を捉えきれない中、診療科横断的 な立場で、日本家族性腫瘍学会初の部会として LFS部 会が発足したことの意義は大きい。今後、国際 LFSコ ンソーシアムにも参加し、海外の有識者との情報交 換、国際登録システムへの参画なども行いながら、わ が国における LFS の臨床、研究の充実を目指してい きたい。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 52 要望演題4[家族性腫瘍診療へのメディカルスタッフの関わり] R-4-1 「大腸がんのプライマリケア遺伝診療」のための 家庭医療スタッフの関わり ○岩泉 守哉1)3)、鳴本 敬一郎2)4)、福江 美咲1)、 倉地 清隆5)、椙村 春彦6)、前川 真人1)7)、 緒方 勤1)8)、井上 真智子2)9) 1)浜松医科大学 遺伝子診療部 2)静岡家庭医養成プログラム 3)浜松医科大学 内科学第一 4)浜松医科大学 産婦人科家庭医療学 5)浜松医科大学 外科学第二 6)浜松医科大学 腫瘍病理学 7)浜松医科大学 臨床検査医学 8)浜松医科大学 小児科学 9)浜松医科大学 地域家庭医療学 【背景】リンチ症候群は大腸がん以外の発がんリスク も高いため、臓器横断的な拾い上げが必要である。地 域に根ざしたプライマリケアが臓器横断的診療の最た る場であることより、家庭医が主に担当するプライマ リケアへの臨床遺伝診療の介入はリンチ症候群の拾い 上げ向上に寄与することが推測されるが、これまでに 本邦で実践された報告はない。 【目的】プライマリケアの場でのリンチ症候群の拾い 上げ向上をめざした診療体系を確立する。 【方法】静岡家庭医養成プログラム関連施設である森 町家庭医療クリニックおよび菊川家庭医療センターを 受診する外来患者を対象とし、リンチ症候群関連がん の家族歴の聴取を質問紙表を用いて行い、リンチ症候 群の拾い上げを開始した。また、リンチ症候群疑い症 例 ・ 家系には遺伝カウンセリングの情報提供を行い、 浜松医科大学遺伝子診療部や関連診療科との連携体制 を図った。 【実施経過】本診療開始に向け、はじめに森町家庭医 療クリニックおよび菊川家庭医療センターに勤務する 家庭医、看護師、受付担当事務員と浜松医科大学遺伝 子診療部のメンバーのあいだで、遺伝性大腸癌に関す るレクチャーおよびワークショップを複数回実施し、 家族ケアの中でのリンチ症候群の拾い上げの重要性を 共有した。本診療が一時的なものでなく習慣化するこ とが重要であると考え、家庭医の診療業務の妨げにな らないことに最大限配慮した本診療介入システムおよ びリンチ症候群拾い上げ基準を考案した。現時点で家 族歴質問紙を配布した患者のうち12.8%でリンチ症候 群のリスクがあると判断し、浜松医科大学遺伝子診療 部や関連診療科と診療の連携をとっている。 【結論】大腸がんのプライマリケア遺伝診療には、家 庭医はもとより、家庭医療施設の看護師や受付担当事 務員などのスタッフが鍵となる。また、地域の方が遺 伝カウンセリングを身近に感じるよう家庭医療施設と 遺伝子診療部の密な連携構築が重要である。 R-4-2 がんプロフェッショナル養成基盤推進プランを通 じた医療従事者への家族性腫瘍教育の取り組み -HBOCに対するPARP阻害薬承認を見据えて- ○植木 有紗1)2)3)4)、平沢 晃3)4)、今村 知世5)、 武田 祐子4)、守屋 利佳6)、赤羽 智子3)、 増田 健太3)4)、中田 さくら1)2)、安齋 純子2)、 三須 久美子4)、阪埜 浩司3)、小崎 健次郎4)、 谷川原 祐介5)、青木 大輔3) 1)川崎市立井田病院 婦人科 2)川崎市立井田病院 家族性腫瘍相談外来 3)慶應義塾大学医学部 産婦人科 4)慶應義塾大学医学部 臨床遺伝学センター 5)慶應義塾大学医学部 臨床薬剤学教室 6)北里大学 医療系研究科 【目的】2014年12月に欧州 EMA(European Medicines Agency)と米国 FDA(Food and Drug Administration) で、BRCA1/2 変異陽性卵巣がんに対する PARP 阻害 薬が承認された。近い将来本邦においても PARP 阻 害薬とコンパニオン診断としての BRCA1/2 遺伝学的 検査が実臨床に導入される可能性が高い。がんプロ フェッショナル養成基盤推進プラン(がんプロ) 「チー ム医療」分野別ワークショップの一環として、がん医 療に携わる医療者を対象に近未来シチュエーションと 銘打って PARP 阻害薬導入を想定したロールプレイ実 習を行ったので、その意義と課題について報告する。 【概要】がんプロ大学院生を中心に計16名(医師、歯 科医師、薬剤師、看護師)が参加した。参加者の多 くは家族性腫瘍の知識を十分に持っておらず、短時 間の実習で遺伝カウンセリングのロールプレイを行 うことは困難であると事前に推察された。そのため 今回は、各医療者が専門性を生かして、家族性腫瘍 の不安を抱える患者 ・ 家族にどのように対応できる か、また患者 ・ 家族はどのように反応(考えや心理面 への影響)するのかを、医療者・患者役のロールプレ イを通じて学び、必要に応じて遺伝カウンセリング の専門部門に依頼できることを目標とした。実際に は PARP 阻害薬とBRCA1/2 遺伝学的検査、そして家 族性腫瘍 ・ HBOC 概要などの講義後に、卵巣癌再発 症例に対する治療選択として PARP 阻害薬を提示した ロールプレイを模擬患者に参加してもらい行った。そ の後参加者でフィードバックを行った。 【考察】終了後アンケートでは参加者の理解度・満足度 ともに高く、特に他職種との交流からチーム医療の必 要性を再認識したとのコメントが目立った。今後がん 診療に携わる医療従事者に家族性腫瘍の知識を広く浸 透させるためには、今回のような試みが重要であると 考える。 53 要望演題4[家族性腫瘍診療へのメディカルスタッフの関わり] R-4-3 R-4-4 四国がんセンターにおける遺伝カウンセラーと 臨床研究コーディネーターの協力体制 -治験 に関連する遺伝カウンセリングを通して- 一般病院における家族性腫瘍拾い上げの問題点 と家族性腫瘍コーディネーターの関わり ○永井 千絵、金子 景香、杉本 奈央、大住 省三 ○加藤 孝子 大久保 雄彦 独立行政法人国立病院機構 四国がんセンター 戸田中央総合病院 当院では認定遺伝カウンセラー(以下CGC)2名が 【はじめに】当院は急性期病院であり、昨年がん診 常駐しており、遺伝カウンセリング担当医師、各科の 療連携拠点病院を取得した。外来患者数は1日平均 協力医師、主治医と協働し家族性腫瘍に関する業務を 1,000から1,200人、診療科は22科 (産婦人科以外) 、感 行っている。臨床研究コーディネーター(以下CRC) 冒から悪性腫瘍まで様々な疾患の診療を行っている。 は、医師、依頼者、被験者間で、臨床で行われる試験 今回、医師への家族歴聴取状況調査を実施し、家族性 が円滑に進むよう調整する役割を担っている。当院で 腫瘍の拾い上げおよび家族性腫瘍遺伝説明の必要性の は主に治験について、看護師、薬剤師、臨床検査技師 検討、実施への問題点を検討した。 の資格を持った13名(H28.2月現在)で業務にあたって 【方法・対象者】⑴期間 : 2015年8月から9月の2か月 いる。CGC はがん診断・治療開発部の分子遺伝学研究 間 ⑵対象 : 当院常勤医師82人、アンケート回収率 室に、CRC は臨床研究推進部・臨床試験支援室に所属 62.1% しており、ともに臨床研究センターに位置づけられて 【倫理的配慮】院内倫理委員会の承認を得ている。医 いる。 師に文章で匿名性、学会発表使用についての承認を説 最近、治験実施計画書に BRCA 検査を規定する治 明し実施した。 験が見られるようになってきた。当院には CGC が常 【結果】37%の医師が家族歴の調査を実施していた。 勤しており遺伝子検査を受けるための条件が整ってい 遺伝について質問を受けたことがある医師は21%、 るため、前述の治験を受け入れやすい環境にある。現 コーディネーターの活用を希望している医師は67%。 在までに BRCA 遺伝子変異陽性を対象とした2試験 家族歴の聴取は親のみが13%、第1近親者までが に5症例登録している。 17%、第2近親者35%、第3近親者5%、回答なしと 治験に関連して遺伝子検査を実施する場合は、プロ 聴取していないを合わせて19%、出来る限り聴取して トコールに沿ってスケジュールを組むため、被験者が いる医師は7%。気を付けている腫瘍は同一癌腫の 遺伝子検査を十分理解し納得するための時間が制約 回答が多く、家族性腫瘍関連病名は少なかった。し されることがある。被験者の思いを把握するために かし、一部の医師からは MEN、大腸ポリポーシス、 も、CGC、CRC はお互いの業務の中で被験者から受 HBOC などの記載もあった。 け取った印象や言動について、情報を共有していく必 【考察】外来患者の疾患が多岐にわたっていることや、 要がある。その他、費用に関する事務的な手続きがも 1日の外来患者数が多いことなどから、“現疾患” への れないよう、被験者のスケジュールについて密に連絡 対応が先決となり家族性腫瘍を考慮することは難し を取り合うことも重要である。 い。医師の家族性腫瘍への考慮は半数に及ばず、家族 また、結果開示が必須でない治験では CGC 介入 歴聴取でも、第2近親者までが大半を占め、家族性疾 の必要性を見落としやすい。CRC は遺伝子検査をよ 患に必要な聴取はなされていなかった。家族性腫瘍関 く理解し注意してプロトコールを確認し、必要時は 連疾患の聴取は実施できていなかった。一般病院にお CGC につなげていかねばならない。 いては家族歴聴取の時間が診療時間内では持てなく、 当院では月に一度家族性腫瘍相談室ミーティングが 多くの診療科が関わる場合の拾い上げのタイミングな 行われている。CRC も遺伝カウンセラーとの連携強 ど多くの問題点が明らかになった。拾い上げの方法、 化と情報収集、知識の向上を目的に積極的にミーティ 関連疾患など、キャンサーボードなどを活用し、院内 ングに参加し、治験における遺伝子検査が円滑に実施 のコーディネーターの存在やコンサルティングの方法 できるよう努めている。 の構築等が課題と考える。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 54 要望演題4[家族性腫瘍診療へのメディカルスタッフの関わり] R-4-5 家族性腫瘍における経年的サポートについて ○牧島 恵子、青木 幸恵、高井 響子、菅野 康吉 栃木県立がんセンター がん予防・遺伝カウンセリング外来 【はじめに】当外来は、開設より18年目を迎えこれま でに約304家系が来談し、長期にわたるクライエント と家系のフォローアップを実施している。クライエン R-4-6 遺伝学的検査において BRCA1/2 変異が認めら れなかった患者にがん専門病院乳腺科の認定遺 伝カウンセラーが関わった2症例 ○鈴木 美慧、安達 容枝、喜多 瑞穂、芦原 有美、 竹内 抄與子、北川 大、中島 絵里、新井 正美、 岩瀬 拓士、大野 真司 公益財団法人がん研究会有明病院 乳腺外科 公益財団法人がん研究会有明病院 遺伝子診療部 公益財団法人がん研究会有明病院 看護部 公益財団法人がん研究会有明病院 乳腺センター ト自身も結婚・出産等の経過を辿り、子どもの成長と 相まって家系毎に様々な問題を抱えている。フォロー アップのカウンセリングでは生活状況や家族に関する 【背景と目的】当院はがん専門病院として2000年より 報告・相談を傾聴することは精神的安定や問題解決の 遺伝子診療部の診療を開始し、2012年に認定遺伝カウ 糸口になることもあり外来での関わりとして重要であ ンセラー(CGC)、2014年より看護師が加わり多職種 る。また、血縁者、特に子供たちにおいても成長過程 が家族性腫瘍の診療に関わっている。2015年からは乳 に沿った経年的な支援が必要となることもある。家族 腺科にも CGC を配置し、遺伝性乳がん卵巣がん症候 性腫瘍においても子ども支援事業としてがん教育を企 群(HBOC)が疑われる患者の拾い上げや遺伝子診療部 画し、生活習慣の改善や遺伝子検査・検診等の支援を への紹介体制の充実を図っている。今回は遺伝学的検 実施している。 査(GT)で BRCA1/2 に変異が認められなかった20症例 今回、いくつかの家系の事例から家族性腫瘍患者の のうち、乳腺科 CGC が2015年4月から2015年12月の 関わりを振り返り、今後の課題とサポート体制を検討 間に関わった代表的な2例について紹介する。 した。 【症例1】44歳女性、28歳時右乳がん、41歳時胃がん、 【症例】 右乳がん、42歳時 GT 実施、43歳時リンパ節、肺転 ⑴ 若年でがんを発症し当外来受診、親が家族性大腸 移。家族歴 ; 母(d.36歳)、32歳時乳がん。転移治療の 腺腫症(FAP)で死亡していたことは子供たちに伝え ため乳腺内科受診時に相談があり遺伝子診療部の再受 られず、進行がんでの発見となった。 診を調整。 ⑵ FAP 未発症キャリアとして定期検査を受け、来院 【症例2】57歳女性、36歳時左乳房腫瘤摘出、48歳時 時に家庭の近況報告や相談により、自己解決や子供 卵巣がん、55歳時左乳がん55歳、56歳時 GT 実施。家 との関わりへの機会となる。 族歴 ; 姉 (61歳) 、50歳時乳がん。術後の経過観察で乳 ⑶ 21歳から FAP キャリアとして当外来受診、学生 から社会人としての生活や予防的切除の実施におけ る状況の変化。 ⑷ 両親が離婚し、母親の薦めから受診した FAP の 子供が結婚し親となる状況の変化。 腺外科受診時に相談があり、看護面談の紹介。 【まとめ】当院では2000年から2015年12月末までに375 名の発端者が GT を実施、104名が BRCA1/2 の変異陽 性だった(検出率27.7%)。変異検出者は HBOC とし て遺伝子診療部、婦人科、乳腺科で経過を看るが、変 ⑸ 本人が幼い時に父親が FAP のため死亡し、無症 異未検出者はその限りではない。患者の新規がんの発 状であったが母親の希望で来院、遺伝子検査で密生 症や再発 ・ 転移、家系内がん罹患者の増加などの状況 型と判明し3年後に大腸全摘術を受けた。 の変化に伴い、不安を表出できる場や新たに遺伝学的 【まとめ】これまでの関わりの中で生活状況 ・ 問題に 情報を必要することもある。乳腺科 CGC が存在する 対し、私たちが傾聴することで対処できることも多 ことで、ぬぐいきれない遺伝への不安に対して遺伝カ い。当外来での関わりに留まらず、病棟 ・ 地域との連 ウンセリングへの再紹介や看護職の介入など、科を超 携も今後の課題である。子ども支援事業として、施設 えた情報共有を円滑に行い、多職種で心理的な支援を 内の啓発活動 ・ サポーターの育成 ・ 家族性腫瘍に対す 充実できる可能性を見出すことができた。本症例での る教育等を計画 ・ 実施し、子どもへの経年的関わりを 対話を軸に実際の関わりについて紹介する。 考えていく予定である。 55 要望演題4[家族性腫瘍診療へのメディカルスタッフの関わり] R-4-7 がん専門病院の遺伝医療チームにおける看護師 の役割 ○竹内 抄與子1)、芦原 有美2)、喜多 瑞穂2)、 安達 容枝2)、鈴木 美慧3)、岩瀬 拓士3)、 床知 恵子1)、鈴木 美穂1)、新井 正美2) 1)がん研究会有明病院 看護部 2)がん研究会有明病院 遺伝子診療部 3)がん研究会有明病院 乳腺センター 乳腺外科 【背景】当院の遺伝子診療部は2000年に開設され、 2012年より認定遺伝カウンセラー(以下CGC)と臨床 遺伝専門医が共に診療に当たっている。2014年4月か ら看護師が専任で配置され、遺伝カウンセリングへの 同席、プレカウンセリングでの家族歴聴取、病棟訪 問、看護面談、予約管理業務などを行っている。今回 は、看護師が関わった代表的症例から、がん専門病院 における遺伝医療チームの看護師としての役割につい て考察した。 【症例呈示】 〔症例1〕乳がん術後化学療法中の30代女 性、遺伝性乳がん卵巣がん(以下HBOC)診断後、婦 人科サーベイランス開始までのマネジメント。〔症例 2〕大腸がん術後、40代女性、Lynch 症候群疑い、遺 伝学的検査結果開示までの不安への支援。〔症例3〕 乳がん術後、40代女性。HBOC 診断後予防的切除術 と血縁者への情報提供に関する意思決定支援。〔症 例4〕卵巣がん治療中の血縁者がいる非罹患、40代女 性。予防的切除術に関する意思決定支援。〔症例5〕娘 を乳がんで亡くした、乳がん術後60代女性。CGC によ る HBOC の情報提供時期などのマネジメント。 【考察】遺伝子診療部に来られるクライアントは、が ん医療に伴う意思決定や苦痛(治療の変更や治療によ る有害事象、研究や治験の参加など)と、遺伝医療に 伴う意思決定や苦痛(がん罹患ハイリスクへの不安、 子や親族への遺伝の心配、不確定な結果への不安な ど)の両方を抱えることが多い。したがって、その両 方を理解している看護師は、治療生活の中で主科、遺 伝子診療部、サーベイランス担当科との調整役を果た していた (症例1-3)。また、遺伝医療ではがん患者 の家族や遺族もクライエントになる。そのため、遺伝 子診療の視点から支援する臨床遺伝専門医や CGC と 共に、がん看護 ・ 家族看護の視点から支援を行う看護 師が関わることは、家族をがんで亡くすなどのライフ イベント後のクライエントにとって心理社会的支援の 一助になると考えられた(症例4、5)。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 56 優秀演題 S-1 S-2 本邦における Birt-Hogg-Dubé (BHD) 症候群 125家系の疫学解析: 家族性腎がんケアに向けた BHD ネット情報 母斑基底細胞癌症候群におけるスプライシング 変異の検討 ○古屋 充子1)、中谷 行雄2)、蓮見 壽史3)、 長嶋 洋治4)、黒田 直人5)、野村 文夫6)、 馬場 理也7)、田中 玲子8)、矢尾 正祐3) ○宮下 俊之1)、初瀬 洋美1)、長尾 和右1)、 高山 吉永1)、亀山 孝三1)、藤井 克則2) 1)横浜市立大学医学部分子病理学 2)千葉大学大学院医学研究院診断病理学 3)横浜市立大学医学部泌尿器科 4)東京女子医科大学病院病理診断科 5)高知赤十字病院病理診断科部 6)千葉大学大学院医学研究院病態解析学 7)熊本大学国際先端医学研究機構 8)千葉大学真菌医学研究センター 【目的】Birt-Hogg-Dubé(BHD)症候群は肺嚢胞、皮膚 線維性毛包腫、腎がんを3主徴とする常染色体優性 遺伝性疾患で、17番染色体短腕の FLCN 遺伝子胚細 胞変異が原因である。全国の医療機関から BHD ネッ ト(http://www.bhd-net.jp/)に提供された情報を元に、 本邦の BHD 症候群における腎がんの発症率、肺や皮 膚症状などから、腎がんケアと診療のあり方を検討し た。 【方法】BHD症候群疑い患者のうち、カウンセリング 後に同意を得て FLCN の遺伝学的検査を施行した125 名の発端者とその第1-3度近親者の検査陽性36名、 遺伝学的検査未施行で BHD 症候群症状を有する血縁 者156名を対象に、FLCN 胚細胞変異、臨床病理像、 臨床経過、腎がん発症率などを解析した。 【結果】計31種類の変異パターンが認められ、エクソ ン11-13に変異を持つ例が多かった。多くは気胸を 契機に確定診断され(63%)、次いで腎がんを契機に診 断されていた(26%)。皮疹を主訴に医療機関を受診し たのは2名にとどまり、いずれも気胸や腎がんを発症 してから BHD 症候群を疑われた。全年齢層からみた 腎がん罹患者は19%(62名)だが、40歳以上では34.8% (116名中41名)だった。発端者の診断確定がきっかけ で同胞あるいは子孫に初期腎がんが発見できたのは2 家系であった。摘出された56個の腎腫瘍の多くは嫌色 素性腎細胞がん(24個、43%)とハイブリッド腫瘍(20 個、36%)であった。7名は腎がんで死亡、3名は透 析となった。 【考察】本邦の BHD 症候群患者は気胸など呼吸器症 状を契機に診断されることが最も多いが、確定診断さ れたにもかかわらず気胸治療後に腎がん検診や家族ケ アを受けていないケースも少なからず見受けられる。 1)北里大学医学部分子遺伝学 2)千葉大学医学部小児病態学 母斑基底細胞癌症候群(NBCCS、Gorlin症候群) (OMIM109400)は骨格を中心とする小奇形と基底細胞 癌、髄芽腫、歯原性腫瘍等が好発する常染色体優性遺 伝病である。 我々は現在までに NBCCS の80家系を解析し、72家 系で責任遺伝子である PTCH1、あるいはその関連遺 伝子である PTCH2( 1家系)、SUFU(1家系)に生殖 細胞変異を検出している。今回はそのうちスプライシ ング変異について考察した。 PTCH1 遺伝子にスプライシング変異を検出したの は8家系であり、全家系の10%、変異の確定した家系 の11%であった。変異部位は5ʼ-スプライス部位が7 例、3ʼ-スプライス部位が1例であった。塩基レベル での変異部位はエキソン最終塩基の G>A が1例、- 1部位の G>C が1例、+1部位の G>AとG>C がそれ ぞれ2例と1例、+2部位の T>A が1例、+5部位 の G>C と G>T が各々1例であった。エキソン最終塩 基や+5部位の塩基の変異はゲノム解析だけでは病 的意義が確定できないため、mRNA の解析が必要で あった。 スプライシングの異常を証明するため、末梢血か ら EB ウイルスにより樹立した不死化リンパ芽球株か ら RNA を抽出し、RT-PCR の後にシークエンスを行 い、PTCH1 遺伝子の mRNA の解析を行った。その結 果、潜在的スプライス部位の相対的な活性化によりエ キソンが短縮したものと伸長したものがそれぞれ3例 と2例あった。また当該エキソンのスキッピングが3 例あった。翻訳への影響はフレームシフトが7例、ア ミノ酸の欠損 (63個) が1例あった。 スプライシング変異の意義付けには RNA 解析が必 要であることが改めて示された。特にエキソン最終塩 基の変異の場合はミスセンス変異やサイレント変異 との鑑別に、+5部位のように GT-AG 則に影響しな 各科が協力して発端者と家族に対し長期的なケアを行 いスプライス部位の変異では、その病的意義づけに、 えるような診療ガイドラインの確立が望ましい。 RNA 解析が必須と思われる。 57 優秀演題 S-3 S-4 パラガングリオーマと褐色細胞腫の予後の違い について 免疫染色におけるPMS2タンパクの単独発現低 下例の生殖細胞系列変異の解析 ○武内 大、稲石 貴弘、宮嶋 則行、安立 弥生、 大西 英二、柴田 雅央、高野 悠子、中西 賢一、 野田 純代、角田 伸行、林 裕倫、菊森 豊根 ○藤吉 健司、山本 剛、角田 美穂、若月 智和、 高橋 朱実、立川 哲彦、新井 吉子、小林 志帆、 菊地 茉莉、青木 美保、山田 身奈、松井 あゆみ、 松井 あゆみ、赤木 由人、赤木 究 名古屋大学医学部附属病院 乳腺・内分泌外科 埼玉県立がんセンター 腫瘍診断予防科 久留米大学 外科学講座 パラガングリオーマ(PGL)と副腎褐色細胞腫(PC) 背景︰リンチ症候群は大腸癌や子宮内膜癌などの様々 はいずれもクロム親和性組織から発生する稀な組織で な悪性腫瘍が発生する遺伝性疾患でありミスマッチ修 ある。両者の予後には差があるといわれているもの 復遺伝子(MLH1、MSH2、MSH6、PMS2)の異常が原 の、予後の報告は少ない。本研究では当院で手術を実 因として知られている。リンチ症候群の二次スクリー 施した PGL と PC の予後と再発を比較検討した。1979 ニングとしてマイクロサテライト不安定性(MSI)検査 年から2012年まで間に初回手術を行った症例のうち、 もしくは免疫染色法が用いられている。免疫染色に 遠隔転移がなく根治切除ができた手術症例(PGL 35 おいて MLH1 と PMS2 が共にタンパク発現低下の場 人、PC 89人)について後ろ向きに検討を行った。遺 合は MLH1 変異もしくは MLH1 プロモーターメチル 伝子変異が確定している症例は PGL で3例(VHL=2 化を想定し、PMS2 タンパクの単独発現低下の場合は 例、SDHB=1例)、PC で13例だった(MEN2A=9 PMS2 変異を想定する。しかし、免疫染色と MMR 遺 例、MEN2B=1例、VHL=3例)。追跡期間の中央値 伝子変異の結果が一致しない症例も報告されており、 は両群ともに8.0年だった。性別は両群に差はなかっ 今回われわれは PMS2 タンパクの単独発現低下症例に た(p=0.16)。手術時平均年齢は PGL が若かった(42 おける germline mutation を検討した。 歳と48歳、p=0.036)。術前の腫瘍径平均値は両群に 方法︰当院における大腸癌手術症例2439例のうち、ユ 差はなかった(6.0㎝と5.4㎝、p=0.39)。PGL は無病 ニバーサルスクリーニングとして MSI 検査を行った。 生存期間が PC と比較して短く(6年目で PGL 77%、 さらに MSI-high の症例に対して MMR タンパクの免 PC 93%、p=0.0012)、遠隔再発なし生存期間も同様 疫染色および MMR 遺伝子解析(Sanger 法もしくは次 であった (93%、97%、p=0.011)。疾患特異性生存率 世代シークエンサー) を行った。 と全生存率に関しては有意差はなかったが、PGL の 結果︰大腸癌手術症例2439例における MSI-high は144 方が短い傾向にあった(p=0.062、p=0.13)。褐色細 例(5.9%)であった。MSI-high 症例における PMS2 タ 胞腫に関しては、遺伝性の有無でその再発と予後につ ンパクの単独発現低下群は24例あった。内訳として いて比較したが、無病生存期間、遠隔再発なし生存期 MLH1 プロモーターメチル化は15例(62.5%)、非メチ 間、疾患特異性生存率、全生存率のいずれに関しても ル化は9例(37.5%)であった。メチル化群に MMR 遺 両群に差を認めなかった。 伝子変異例は認めなかった。非メチル化群9例の その遺伝性の有無にかかわらず、PGL は PC よりも うち PMS2 変異1例、MLH1 変異2例、PMS2 の 再発率が高く予後が悪い傾向にあるので、両者は別の Unclassified variant 2例であった。 疾患として術後の経過観察を行って行く必要があると 考察︰PMS2 タンパクの単独発現低下群には MLH1 プ 考えられた。 ロモーターメチル化例が多く存在し、さらに MLH1 変異例も認めた。PMS2 タンパク発現単独欠損症例は PMS2 変異だけでなく。MLH1 変異および MLH1 プ ロモーターメチル化にも関係していると示唆された。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 58 優秀演題 S-5 S-6 4つのモノヌクレオチドリピートマーカーを用 いたマイクロサテライト不安定性腫瘍検出方法 の検討 トリプルネガティブ乳がんにおける BRCA 遺伝 子変異検出率 ~日本 HBOC コンソーシアムデータ報告~ ○永坂 岳司、竹原 裕子、入谷 光洋、母里 淑子、 春間 朋子、原賀 順子、中村 圭一郎、 平松 祐司、藤原 俊義 ○赤間 孝典1)、野水 整2)、横山 士郎3)、 渡邊 知映4)、新井 正美5)、中村 清吾6)、 日本HBOCコンソーシアム登録委員会 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器外科 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 産科・婦人科 Background : Microsatellite instability (MSI) is used to screen Lynch Syndrome, and can predict tumors with hypermutant-phenotype including sporadic cases as well as hereditary cases which may response to immune checkpoint blockade, anti-PD1 antibody. We tested a panel of four quasi-monomorphic mononucleotide repeat markers amplified in a single multiplex PCR reaction (tetra-mono nucleotide repeat PCR of tumor DNA [TetraPot]) to detect tumors with mismatch repair (MMR) deficiency (dMMR). Methods : To confirm accuracy of the TetraPot for dMMR tumors, at beginning, we used a cohort of 317 colorectal cancer (CRC) specimens, comprised of 105 dMMR (45 tunors with MLH1-deficient [d MLH1], 45 tumors with MSH2-deficient [dMSH2], 15 tumors with MS H6-deficient [dMSH6], and no tumor with PMS2-deficient [dPMS2]) and 212 MMR-proficient (pMMR) tumors as a validation set. Secondly, we used a cohort of 133 endometrial cancer (EC) specimens which was determined MMR expression status by immunohistochemistry (IHC) staining for the conventional four MMR proteins, MLH1, MSH2, MSH6, and PMS2, as a test set. Results : Amplification of alleles from 212 pMMR specimens allowed optimization of the QuasiMonomorphic Variation Range (QMVR) at each marker, and eliminated the requirement for matched reference DNA to define MSI in each sample. Using >1/4 unstable markers as the criteria for MSI resulted in a sensitivity of 98.1% (95% CI=93.3-99.5%) for CRCs with dMMR and a specificity of 96 .2% (95% CI=92.7%-98.1%) for CRCs with pMMR at the validation set. Of the test cohort of 133 EC specimens, 39 ECs diagnosed as dMMR by IHC staining. By using the same criteria, the TetraPot system can detect dMMR tumors with a sensitivity of 89.7% (95% CI=76.4-95.9%) and pMMR tumors with a specificity of 97.9% (95% CI=92.6%-99.4%). Conclusions: An optimized TetraPot system offers a facile, robust, and highly sensitive assay for the detection of CRCs as well as ECs with dMMR. 1)公益財団法人星総合病院看護部外科・がんの遺伝外来 2)公益財団法人星総合病院外科・がんの遺伝外来 3)日本HBOCコンソーシアム事務局 4)上智大学総合人間科学部看護学科 5)がん研有明病院遺伝子診療部 6)昭和大学病院ブレストセンター 【背景・目的】BRCA1 遺伝子の生殖細胞系列変異を有 する乳がんにはトリプルネガティブ乳がん(TNBC)が 多いと言われ、近年 BRCA 遺伝子と TNBC の関係が 注目を集めている。2016年日本 HBOC コンソーシア ムでは既に BRCA 遺伝子検査を実施した家系を対象 とした全国登録事業を開始するにあたり、試験登録 を行った4施設の登録データを用いて、TNBC におけ る BRCA 遺伝子変異検出率の分析を行ったので報告 する。 【方法】試験登録参加施設である星総合病院、がん研 有明病院、昭和大学病院、聖路加国際病院で2012年か ら2014年までの3年間に BRCA 遺伝子検査を実施し た合計827症例を後方視的に分析。TNBC 因子に加え 発症年齢因子 ・ 乳がん家族歴因子 ・ 本人を含む卵巣が ん家族歴因子それぞれをクロス集計した。 【結果】827例中88例(10.6%)に BRCA1 遺伝子変異を 認め、76例(9.2%)に BRCA2 遺伝子変異を認め、1例 (0.1%)に BRCA1 and BRCA2 遺伝子両方の変異が認 められた。608例(73.5%)に遺伝子変異を認めず、54 例(6.6%)は Uncertain だった。827例中198例が TNBC だった。TNBC 198例中70例(35.4%)に BRCA 遺伝子 変異を認め、内訳は57例(28.8%)に BRCA1 遺伝子変 異、13例(6.6%)に BRCA2 遺伝子変異を認めた。「40 歳未満で TNBC を発症した」既往歴をもつ86例中の BRCA1 遺伝子変異検出率は31例(36%)。BRCA2 は7 例 (8.1%) 。 「本人以外に1名以上乳がん家族歴がある」 TNBC 発症106例中の BRCA1 遺伝子変異検出率は38 例(35.8%)。BRCA2 は9例(8.5%)。「本人を含め卵 巣がん家族歴がある」TNBC 発症41例中の BRCA1 遺 伝 子 変 異 検 出 率 は 2 6 例( 6 3 . 4 % )。B R CA 2 は 4 例 (9.8%)。本人の TNBC 以外の3因子がない38例中の BRCA1 遺伝子変異検出率は3例(7.9%)。BRCA2 は 0例だった。 【結語】試験登録データ分析では、若年発症の TNBC 症例や、本人以外の乳がん家族歴のある TNBC 症例 の BRCA1 遺伝子変異検出率はそれぞれ約36%。本人 を含む卵巣がん家族歴のある TNBC 症例の BRCA1 遺伝子変異検出率は約63%といずれも高率であった。 TNBC 因子の他、若年発症、または乳がん家族歴、 または卵巣がん家族歴のいずれかが加わる場合には BRCA1 遺伝子変異を認める可能性が高くなることが 予測される。 59 優秀演題 S-7 最近3年間に Li-Fraumeni 症候群疑いで遺伝子解 析の依頼を受けた38家系に認めた TP53 生殖細 胞性系列遺伝子配列バリアントの病的意義評価 ○舩戸 道徳、関 順子、川瀬 千鶴、金子 英雄 国立病院機構長良医療センター 臨床研究部 【はじめに】演者らは厚生労働科研費(H23-難治-一 般-069)により、わが国の Li-Fraumeni 症候群(以下、 LFS)の文献レビューおよび全国2916の癌治療施設へ の質問紙調査を施行、全国規模の LFS 症候群の調査 を行った。以来、当院ではこれまでに全国から10施設 計38家系38名の患者の TP53 解析の依頼を受け、解析 を行ったので報告する。 【結果】38名はいずれも Chompret のクライテリアに ほぼ合致する家系内にがんが異常集積する患者や若年 発症の LFS 関連悪性腫瘍の患者で、そのうちの8名 (約21%)に7種類の TP53 のバリアントを認めた。7 種類のうちの5箇所は既報の病的バリアントで、残り の2箇所はこれまでに報告のないバリアントであっ た。新規バリアント2箇所のうち1つは DNA 結合部 位の250番目のコドンでのミスセンスの一塩基置換で あり、病的バリアントである可能性が高いと判断し た。もう1名に認められた49番目のコドンでのミス センスの一塩基置換については、ClinVar 等のデータ ベースを活用し、 「病的意義不明バリアント」 (VUS) と 判断した。一方で、加藤らの出芽酵母を用いた TP53 の機能解析 (Kato S et al. 2003)では、いずれのバリア ントも転写活性能が障害されており、VUS と判断し た49番目のコドンのバリアントも今後、病的と判断さ れる可能性も考えられた。既報の病的バリアントが検 出された6家系中2家系においては、未発症の成人2 名に同一の病的バリアントが保有されていることを確 認した。 【今後の方針】今回の解析で TP53 のバリアントを認 めなかった患者30名について、現在、MLPA 法による TP53 の大欠失の有無の確認を進めている。 【謝辞】本発表に際し、順天堂大学遺伝相談外来の恒 松由記子先生、田村智英子先生、同腫瘍内科の加藤俊 介先生にご指導いただきました。深謝いたします。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 60 一般演題口演1[基礎] O-1-1 患者由来 iPS 細胞を用いた家族性腫瘍疾患に対 する新規治療法の開発 ○中村 英二郎 京都大学大学院医学研究科メディカルイノベーションセンター 悪性制御研究ラボ O-1-2 ゲ ノ ム D N A サ ン プ ル を 用 い た リ ア ル タ イ ム PCR による遺伝子の量的解析 ○古賀 濱野 谷口 田村 康平、松本 将太、小野 嶺、岡村 弥妃、 裕太、丹羽 由衣、菅原 宏美、橋谷 智子、 皇絵、木戸 滋子、藤井 大貴、金 相赫、 和朗 近畿大学大学院 総合理工学研究科 理学専攻 【目的】ゲノム DNA を対象としたリアルタイム PCR (SYBR Green)による量的解析はプライマーの非特異 これまで、多くの遺伝性疾患患者から患者由来 iPS 細胞が作成され、病態解明や新規治療法の開発に繋 がってきた。同様の手法は家族性腫瘍疾患に対しても 有用であることが想定される。VHL 病はノックアウ トマウスでヒトの病型(腫瘍発症)が全く再現されな いことから、2011年より VHL 病患者会、厚労省難病 研究班、京都大学 iPS 細胞研究所の協力を得て、これ までに同患者より6症例からの iPS 細胞の樹立に成功 し病態の再現研究を進めている。また、VHL 病と同様 に遺伝性に褐色細胞腫を発症する家族性腫瘍疾患と して、多発性内分泌症2型、hereditary paraganglioma type 4 などが知られているが、これらの疾患からも樹 立を行い、前者に関しては RET 変異が確認されてい る。疾患特異的 iPS 細胞を用いた研究の有用性の一つ として、腫瘍の発生母地に分化誘導を行う事により新 規の細胞株を in vitro において樹立しうる可能性があ る事が挙げられる。褐色細胞腫は手術摘出標本からの 細胞株樹立が不可能であることが知られているが、交 感神経系への分化誘導により患者由来 iPS 細胞からの 新規腫瘍細胞株の樹立を目指して実験を進めている。 VHL 病の病態モデルを中心として、現在までに行っ た実験の進捗状況に関して発表を行う。 的アニールなどが原因で十分な検出感度を得ること が難しいためほとんど行われていない。そこで nested PCR の原理を取り入れて検出感度を向上させ、リア ルタイム PCR を用いた生殖細胞系列におけるゲノム の大領域欠失/重複の低コスト・簡便な解析法を確立す ることを目的とした。 【方法】 ⑴ X染色体上の配列を用いて女性(XX)の DNA を正 常サンプル(2アレル)、男性(XY)の DNA を大領域 の片アレル欠失が生じたサンプル(1アレル)のモ デルとしてそれぞれ5名の DNA(10 ng/μL)を順次 2倍希釈して5種類の濃度(10, 5, 2.5, 1.25, 0.625 ng/μL)を作製した。これらをリアルタイム PCR に よって量的解析し、1アレル (大領域欠失) の検出が 可能かどうか検討した。 ⑵ ⑴の手法を常染色体上の遺伝子である APC、 MUTYH、TP53 の領域で応用した。健常者(2アレ ル)5名の DNA を⑴と同様それぞれ5種類の濃度 に希釈して量的解析し、実際に大領域欠失/重複の 解析に用いることが可能か検討した。 【結果 ・ 考察】 ⑴ それぞれの濃度における5名の解析結果の平均値 を比較すると女性 (2アレル) は男性 (1アレル) の約 1.7~2.0倍大きくなり、標準偏差を考慮しても1ア レル (大領域欠失) の検出は十分可能であることが示 唆される結果となった。 ⑵ APC、MUTYH、TP53 全ての領域で5種類の各濃 度間で平均値±標準偏差の範囲が overlap せず、⑴ と同様安定した結果が得られた。このことから⑵で 対象とした領域の解析が今後可能となり、シーク エンス解析と併用することでより効率的・経済的な 大領域欠失/重複の同定が可能になると考えられる。 また、さらに多様な遺伝子で応用させ、家族性疾患 に関わる遺伝子解析に有用性のあるものにしていき たい。 61 一般演題口演1[基礎] O-1-3 O-1-4 腎癌抑制遺伝子 FLCN におけるミスセンス変異 の病原性についての検討 ○蓮見 壽史 、馬場 理也 、古屋 充子 、 矢尾 正祐4) 1) 2) 3) 1)横浜市立大学泌尿器病態学 2)熊本大学国際共同研究拠点 3)横浜市立大学分子病理学 4)横浜市立大学泌尿器病態学 散発性大腸がんにおける PALB2 遺伝子解析 Analyze PALB2 of sporadic colorectal cancers ○松本 将太1)、古賀 康平1)、小野 嶺1)、 岡村 弥妃1)、濱野 裕太1)、丹羽 由衣1)、 菅原 宏美1)、橋谷 智子1)、谷口 皇絵1)、 木戸 滋子1)、藤井 大貴1)、金 相赫1)、 山野 智基2)、松原 長秀2)、冨田 尚裕2)、 田村 和朗1) 1)近畿大学大学院 総合理工学研究科 理学専攻 2)兵庫医科大学 外科学 下部消化管外科 2002年、家族性腎癌症候群である Birt-Hogg-Dube (BHD)症候群の家系解析から、17p11.2 上に原因遺 伝子である folliculin(FLCN )が責任遺伝子として同定 され、新規の腎癌抑制遺伝子として注目を集めてい る。我々は腎臓特異的 FLCN ノックアウトマウスの 巨大嚢胞様腎形成および、ヘテロの全身 FLCN ノッ クアウトマウスでの腎腫瘍形成を示すことにより、 FLCNが腎臓細胞増殖の制御に必須で、その欠失が 腎腫瘍発生を引き起こすことを証明した。さらに、 我々は筋肉や心臓などの代謝臓器における FLCN の 機能を解析し、FLCNがPGC1a 依存的なミトコンド リア代謝やAMPK/mTOR 経路を制御し、細胞内エ ネルギー恒常性に重要な遺伝子であることを明らか にした。現在、100種類以上の FLCN 遺伝子変異が報 告され、挿入/欠失、ナンセンスまたはスプライスサ イト変異により、FLCN蛋白の機能喪失が起こると考 えられているが、一方で、Arg239Cys、His255Pro、 Val400Ile、Lys508Argのようなミスセンス変異も報告 されており、病原性の有無が研究課題となっている。 今回、我々は His255 や Lys508 が変異することにより FLCN の癌抑制機能がどのように変化するかを調べる ために、BAC トランスジェニックの手法を用いてモ デルマウスを作成した。その結果、His255Tyr または Lys508Arg 変異を伴う FLCN 遺伝子は、腎臓細胞の異 常増殖を抑えることができないことが明らかとなっ た。さらに我々はこれらのモデルマウスに発生した巨 大嚢胞様腎に対し、生化学的解析を行い、これらのミ スセンス変異が mTORC1 経路の活性化を引き起こす ことを見出した。これらの結果は、FLCN 蛋白の分子 構造や機能解明、さらには腎癌発生機序の理解や、新 規の治療薬、診断方法の開発に役立つと考えられる。 【目的】PALB2 分子は BRCA1 と BRCA2 の接着に介 在的に働き組み換え修復機構上極めて重要な機能を 有する分子である。家族性乳がん、卵巣がんで知ら れるように PALB2 が失活すると相同組み換え修復の プロセッシングに影響し、他の遺伝子に pathogenic variant が蓄積することで、がん化に関与すると考え られる。本研究は散発性大腸がんにおいて体細胞レベ ルで PALB2 遺伝子変異が関与しているか否かを明ら かにすることを目的に行った。 【方法】 ⑴ PALB2 exon 9の新規 variant 探索 : BRCA2、 RAD51、Polη interaction ドメインに合致し、 COSMIC DB 上で最も変異頻度が高い exon 9 に着 目した。散発性大腸がん 50 sample を exon 9 近傍領 域において direct sequence を行った。 ⑵ LOH (Loss of Heterozygosity) 解析 : PALB2 intron 6 領域の SNP 部位である rs249954 を用いて LOH 解 析を行った。 ⑶ 臨床病理学的関連研究 : PALB2 遺伝子異常と性 別、年齢、発現部位、壁深達度、リンパ節転移、ス テージ、静脈侵襲、リンパ管侵襲、組織型の相関に ついて統計学的解析を行った。 【結果 ・ 考察】 ⑴ 50 sample 解析したが exon 9 近傍領域における variant は検出されなかった。 ⑵ LOH 解析の結果 informative case 23 例に対 し LOH は3例検出し、アレル欠失頻度は13.0% で あ っ た 。 ア レ ル 欠 失 を 示 し た 3例 に 関しては haploinsufficiency が予測され、相同組換え修復の正 常なプロセッシングが行われていない可能性が示唆 された。これらの症例では今後発現量解析し、確認 を得る必要があると考えられた。 ⑶ アレル欠失の有無と臨床病理学的な因子との相関 は認められなかった。 【結論】散発性大腸がんの13.0%に PALB2 遺伝子のア レル欠失が認められ、体細胞変異として PALB2 遺伝 子異常ががん化に関与している可能性が示唆された。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 62 一般演題口演1[基礎] O-1-5 O-1-6 散発性大腸がんにおける POLD1 遺伝子異常 若年性大腸がんの Transcriptome 解析 ○谷口 皇絵、藤井 大貴、金 相赫、木戸 滋子、 岡村 弥妃、小野 嶺、古賀 康平、松本 将太、 菅原 宏美、丹羽 由衣、橋谷 智子、濱野 裕太、 冨田 尚裕、田村 和朗 ○山本 剛、藤吉 健司、角田 美穂、竹ノ谷 隆、 小林 志帆、新井 吉子、若月 智和、菊地 茉莉、 立川 哲彦、青木 美保、高橋 朱実、山田 身奈、 赤木 究 近畿大学大学院 総合理工学研究科 理学専攻 兵庫医科大学 外科学 下部消化管外科 埼玉県立がんセンター 腫瘍診断・予防科 【目的】家族性大腸がんの原因遺伝子として APC 遺 若年発症の悪性腫瘍はその背景に生殖細胞系列の遺 伝子やミスマッチ修復遺伝子などが知られている 伝的要因が存在する可能性が高いと考えられている。 が、近年、多発性大腸腺腫、家族性大腸腺腫の原因 近年、20歳以下で悪性腫瘍を発症した患者のうち、 遺伝子として DNA 複製過程で二本鎖合成と校正機 8.5%に何等かの病的変異が検出された事が報告され 能を発揮する DNA polymerase ε および δをコード た。大腸癌に限局しても35歳以下で発症した大腸癌患 する POLE 遺伝子と POLD1 遺伝子が同定された。 者のうち35%が遺伝性大腸癌症候群と考えられ、一般 DNA polymerase δは leading 鎖に比し複製過程の複 集団(2-5%)と比較して非常に頻度が高い事が報告 雑なlagging 鎖合成に関わり、3’→ 5 エキソヌクレアー されている。いずれの報告においても共通して家族歴 ゼ活性を持つ。本研究では散発性大腸がんを対象に や表現型に関連しない症例が多く存在する点が注目さ POLD1 遺伝子の構造解析を行い、散発性大腸がん発 れており、若年症例は全例に対して何等かの遺伝学的 生との関係を明らかにすることを目的とした。 アプローチが必要であると提案されている。本研究で 【方法】 はこれらの背景を踏まえて、当院における40歳以下 ⑴ 変異解析 : 182例の大腸がん患者のがん部組織お で発症した大腸癌症例のうち10症例を選択して Whole よび非がん部組織由来 DNA を対象に POLD1 遺伝 Transcriptome を行い、全遺伝子の発現量と発現遺伝 子変異解析を行った。 子に含まれる変異を解析した。その結果、各症例から ⑵ アレル欠失解析 : 非がん部 DNA で SNP 部位がヘ 約17000遺伝子の発現量データと、50000種類の遺伝子 テロ接合性を示した症例に対し、アレル欠失解析を 変異情報を得る事が出来た。発現量解析からは Zinc 行った。 Finger Protein Family が若年性大腸がんに高発現して 【結果 ・ 考察】 いる事が明らかとなり、さらにはいくつかの融合遺伝 ⑴ 変異解析 : 1例(0.55 %)に新規ミスセンス変異 子が検出された。変異解析では Filtering の結果、各症 (c.428G>A p.Gly143Asp)が検出された。非がん 例で約3000ヵ所程度のアミノ酸変化を伴う変異が見い 部 DNA に同一変異は無く、後生的な体細胞変異で だされた。癌関連遺伝子群における変化を解析した あった。本変異により、Gly( pI 5.97)が強酸性の 結果、若年症例では TP53 の変異頻度が非常に高い可 Asp(pI 2.77)に置換されるため構造が変化すること 能性が示唆された。また、遺伝性腫瘍に関連する変 が予測された。 異として Dyskeratosis congenitaの 原因遺伝子である ⑵ アレル欠失解析 : 68例中8例(11.8%)で片アレル DKC1、Juvenile Polyposis Syndrome の原因遺伝子で 欠失が認められた。これら8腫瘍では POLD1 遺伝 ある BMPR1A の変異が検出され、前述の報告を裏付 子の機能異常が生じ、発がんに関わったと考えられ ける結果となった。 る。 これらの解析結果は、若年発症の癌に対して網羅的 【結論 ・ 予定】散発性大腸がん発生においても POLD1 遺伝子の点変異やアレル欠失異常が存在することが明 らかとなった。検出された新規変異は in silico で DNA polymerase δの構造的変化を来す可能性が示唆され、 高次構造解析を進める予定である。 な遺伝子解析を行うことにより臨床的に有用な情報が 多く得られる可能性が高い事を示している。 63 一般演題口演1[基礎] O-1-7 O-1-8 ターゲットシーケンスを利用した家族性大腸腺 腫症(FAP)の遺伝子診断 TP53 遺伝子 “indel” 変異のヘテロ二重鎖解析法 による簡便・迅速・正確な同定 ○牛尼 美年子1)2)、菅野 康吉2)3)、中島 健2)4)、 小高 陽子1)、知久 季倫5)、坂本 裕美1)2)、 吉田 輝彦1)2) ○岡村 弥妃1)、木戸 滋子1)、谷口 皇絵1)、 丹羽 由衣1)、菅原 宏美1)、濱野 裕太1)、 橋谷 智子1)、古賀 康平1)、松本 将太1)、 小野 嶺1)、金 相赫1)、竹下 泰史2)、 西久保 敏也3)、田村 和朗1) 1)国立がん研究センター研究所 遺伝医学研究分野 2)国立がん研究センター 遺伝子診療部門 栃木県立がんセンター研究所 がん遺伝子研究室・がん予防研究室 3) 4)国立がん研究センター 中央病院内視鏡科 5)みずほ情報総研株式会社 1)近畿大学大学院 総合理工学研究科 理学専攻 2)奈良県立医科大学 小児科 3)奈良県立医科大学附属病院 総合周産期母子医療センター 新生児集中治療部門 当施設では従前より遺伝性疾患に対する遺伝学的 検査を実施してきており、最近一年間に遺伝相談外 来を受診し検査を希望した方は80人程であった。そ のうち FAP の検査は17人で、その他に多施設共同 研究による FAP の検査実施数とあわせると年54例 程遺伝学的検査を実施した。最近は社会的背景や解 析技術の進歩によりゲノム情報への関心が高まり、 FAP の遺伝学的検査の希望者も増加傾向にある。今 回、FAP あるいはそれが疑われる24人について現行 の PTT 法及び Sanger シークエンスによる遺伝学的 検査および次世代シークエンサー(NGS)によるター ゲットシーケンス(TS)を行った。TS では FAP の 原因遺伝子だけでなくその他の疾患関連遺伝子も 含め121個の遺伝子を列挙し、SureDesign(Agilent) によりカスタムプローブを作成し、ターゲット領 域 851kbp の SureSelect ターゲットエンリッチメント システム(Agilent)、MiSeq とHiSeq(Illumina)を用い てシーケンスした。発端者16例の解析結果、現行の解 析方法では APC に病的変異が認められたのが8例で、 そのうち4例は TS の Variant 検出と一致していた。 TS で SNV や indel が検出できなかった3例はAPCの 一部のエクソンが欠失している症例で、MLPA 法にて 検出された。 現在 FAP やその他の消化管ポリポーシスの原因 遺 伝 子 の 候 補 と し て 、A P C 、M U T Y H 、P T E N 、 STK11、SMAD4、BMPR1A、POLE、POLD1など、 CDS 領域の合計は 26.2kb 程である。いずれの遺伝子 も網羅的に遺伝子内を探索する必要があり、今回の TS の導入は、今までなかなか解析できなかった多遺 伝子、あるいは多疾患を一度に迅速に deep に解析で き、確定診断、鑑別診断、生殖細胞系列モザイク解析 等への有効性が示される。また、みずほ情報総研と 【目的】Li-Fraumeni 症候群(LFS)は、TP53 の生殖細 胞遺伝子異常により、小児期あるいは若年成人期にあ らゆる臓器に多彩な悪性腫瘍を発症する常染色体優性 遺伝性の家族性腫瘍である。医療介入において遺伝子 情報など早期予測を基にしたがん対策が重要とされ ている。2009 Chompret 基準によれば家族歴の有無に かかわらず、発端者が副腎皮質がんあるいは脈絡叢 腫瘍の場合、TP53 の遺伝学的検査の適応となる。今 回対象の男児は脈絡叢腫瘍で発症したが、TP53 遺伝 子変異はいわゆる “indel” であった。田村らが開発し た DNA sequencing with heteroduplex analysis (ヘテロ 二重鎖解析)を用いると簡便、迅速かつ正確に変異同 定が可能で、家系解析にも有用であった。 【症例】1歳3ヵ月、男児。頭部 MRI 検査で右大脳 半球と左側脳室に腫瘍を認め、1歳4ヵ月に右側 頭葉腫瘍摘出術を施行、脈絡叢腫瘍(choroid plexus carcinoma)と診断された。その後、加療が続けられた が3歳で亡くなった。家系員のサーベイランスもあり TP53 遺伝子の遺伝学的検査が行われた。 【結果】TP53 遺伝子の direct DNA sequencingで exon 9 の frameshift 変異を認めた。正確な変異同定のため アクリルアミドゲル電気泳動(native PAGE)で2本の ヘテロ二重鎖断片を確認し、それぞれの断片を回収 後、改めてサンガー法で解析した。結果は c.928_92 9delAinsGCTCCTCTCCCCAG p.Asn310Serfs*30 で、 新規の pathogenic variant であった。ヘテロ二重鎖断 片は一方の鎖が loop-out し構造変化が著しく、ゲル移 動度が極端に低下する。この性質を利用しヘテロ二重 鎖解析で患児の家系解析を迅速に行うことができた。 複雑な変異解析に対し、ヘテロ二重鎖を利用すること の共同研究により、TS データの解析・表示・変異アノ で subcloning 法を用いずに正確に遺伝子解析が可能な テーション ・ 報告書作成を行う GUI 環境、csDAI を構 ことを報告する。 築したので併せて紹介する。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 64 一般演題口演2[MEN・内分泌腫瘍] O-2-1 ガストリノーマと原発性副甲状腺機能亢進症を 合併し臨床的に MEN1 がうたがわれた phenocopy の一例 ○木原 実1)、内 百合香2)、安東 夕紀2)、 田中 美香2)、廣川 満良3)、吉岡 佳奈1)、 小田 瞳1)、笹井 久徳1)、薮田 智範1)、 舛岡 裕雄1)、東山 卓也1)、福島 光浩1)、 伊藤 康弘1)、小林 薫1)、宮 章博1)、宮内 昭1) 1) 隈病院 外科 2)隈病院 遺伝相談外来 3)隈病院 病理診断部 多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)は MEN2 と比較 して遺伝子変異の検出率はきわめて高いわけではない ため、臨床的に MEN1 と診断されるも遺伝子変異が 検出されなかった場合、判断に迷うことがある。今 回、MEN1 の診断基準(原発性副甲状腺機能亢進症 (PHPT)、膵消化管神経内分泌腫瘍、下垂体腺腫のう ち2つ以上を有する)を満たし、MEN1 と考えられた が、最終的に phenocopy と診断した症例を経験した ので報告する。 症例は52歳女性。以前より下痢と消化管潰瘍を繰り 返していた。50歳時近医で十二指腸神経内分泌腫瘍の 診断にて胃十二指腸切除術を施行されたが、潰瘍の再 発を繰り返した。51歳時某大学病院にて膵頭部ガスト リノーマの診断で膵頭十二指腸切除術を施行、ガスト リノーマのリンパ節転移と診断された。その後前医の 病理見直しで十二指腸粘膜下に0.8㎝大の単発のガス トリノーマが診断された。この頃、高 Ca 血症を指摘、 精査にて PHPT、MEN1 と診断され当院に紹介され た。高 Ca 血症と高 PTH 血症、画像検査で右下副甲状 腺腫大を認めるも他腺の腫大はあきらかでなかった。 下垂体腫瘍も否定的であった。MEN1 の家族歴はな く、MEN1 遺伝子検査(エクソン2-10の PCR 直接シー クエンスのみで、MLPA 解析は未施行)では変異はみ られなかった。しかし MEN1 遺伝子変異の検出限界 と十二指腸原発ガストリノーマの合併から MEN1 が 完全には否定できなかった。しかし、若年発症でな い、家族歴がない、ガストリノーマと副甲状腺腫はそ れぞれ単発であったことから、散発性と判断、副甲状 腺全摘ではなく右下副甲状腺のみ摘出術を施行した。 病理では normal rim を認め、過形成ではなく副甲状 腺腫と診断され、本症例は phenocopy であったこと が確かめられた。術直後より i-PTH 値と Ca 値は正常 化し、術後2年経過するも再発はみとめていない。 O-2-2 当院での遺伝相談外来開設までの取り組み ○内 百合香1)、安東 夕紀1)、田中 美香2)、 吉田 博3)、木原 実4)、宮内 昭4) 1)隈病院 外来看護科 2)隈病院 臨床心理士 3)隈病院 研究科 4)隈病院 外科 【背景】当院では1992年に研究室を立ち上げ、主に細 胞の培養、血清管理、医師の研究補助や検査方法確立 などの基礎研究を行っていた。1996年より RET 遺伝 子、MEN1遺伝子検査などを開始し、MEN2、MEN1 の診断を行っている。1996年から2015年までの RET 遺伝子、MEN1 遺伝子検査数は RET 409件、MEN1 2 3 6 件 で あ っ た 。 そ の う ち 陽 性 数 は R E T 1 5 1 件 、 MEN1 58件であった。 遺伝子検査の際には、医師が家系図聴取を行い遺伝 カウンセリングの役割も担いながら身体的、精神的側 面を支えてきた。しかし、診療時間内では十分に患者 の思いを聴き、今後の支援について話すことは難し かった。そこで、当院でもチーム医療として医師、看 護師、臨床心理士と共に遺伝相談外来を開設する運び となった。 【遺伝相談外来開設の目的】医師のみが担っていた遺 伝カウンセリングの役割を多職種でのチームで関わ ることで、MEN1、MEN2 の遺伝の心配をされている 方々の悩みや背景をより深く知り、病気の理解を助け るための家系図調査、情報提供や精神的支援ができる ことを目的とする。 【取り組み】医師1名、臨床心理士1名、看護師2名 が家族性腫瘍学会に所属し、全員が家族性腫瘍コー ディネータの資格を取得した。2014年9月から毎月遺 伝相談外来開設準備委員会を開催し、遺伝相談外来案 内用紙、問診票、記録テンプレートなどの作成や、外 来診療の流れについて話し合いを重ねた。また看護部 勉強会において遺伝相談外来の目的、遺伝カウンセリ ングでの看護師の役割などについて発表することで、 知識の向上と遺伝相談外来の周知に努めた。加えて医 局、診療サービス課、医事課、医療情報課など多職種 でシステムの構築に向けて話し合った。 さらに電子カルテでの台帳、予約管理ができるよう にし、守秘義務を徹底するためこれらへのアクセス権 は医師とチームメンバーのみとした。 【今後の課題】家系図調査を行い患者の思いを理解し、 信頼関係を築きながら情報提供や長期的な精神的支援 を行う。 65 一般演題口演2[MEN・内分泌腫瘍] O-2-3 副甲状腺機能亢進症顎腫瘍症候群の5例 ○松本 佳子、内野 眞也、菊地 勝一、渡邉 紳、 野口 志郎 医療法人野口記念会野口病院 外科 家族性副甲状腺機能亢進症を発生する遺伝性疾患に O-2-4 当院における NGS 解析体制の構築 ○伊藤 亜希子1)、内野 眞也2)、渡邊 陽子1)、 脇屋 滋子1)、首藤 茂3)、野口 志郎2) 1)野口病院 研究検査科 2)野口病院 外科 3)野口病院 診療記録管理室 は、多発性内分泌腫瘍症(MEN)1型 ・ 2A 型、家族性 孤発性副甲状腺機能亢進症(FIHP)、副甲状腺機能亢 進症顎腫瘍症候群(HPT-JT)がある。当院では MEN1、 【目的】甲状腺癌には、乳頭癌、濾胞癌、髄様癌、低 FIHP、HPT-JT の可能性が考えられる場合、主として 分化癌、未分化癌があり、これらの性質の違いについ MEN1 あるいは HRPT2/CDC73 遺伝学的検査を行っ て遺伝子レベルで解明していくことで、診断や予後の ている。 推定などへの応用が期待されている。そこで、当院で 副甲状腺機能亢進症顎腫瘍症候群(HPT-JT)は副甲 は次世代シーケンサー(NGS)を導入し、現在、解析 状腺癌あるいは腺腫、下顎の線維性腺腫、腎臓の多 方法について検討している。今回は、甲状腺癌組織を 発嚢胞、過誤腫、Wilms 腫瘍などの腎腫瘍を主徴とす 用いて検討を行ったので報告する。 る常染色体優性遺伝疾患である。原因遺伝子は染色 【方法】家族性を含む甲状腺癌83例(乳頭癌37例、濾 体 1q31.2 に位置する HRPT2/cdc73 遺伝子である。副 胞癌25例、低分化癌19例、未分化癌2例)を対象と 甲状腺機能亢進症はほぼ全例に認められ、15%に副甲 し、甲状腺癌の凍結組織より抽出した DNA を用い 状腺癌、約30%に顎腫瘍、20%に腎腫瘍を発生すると て解析を行った。BRAF、HRAS、KRAS、NRAS、 し、女性患者では子宮筋腫などの子宮病変も多い。 AKT1、PIK3CA、TP53、CTNNB1 について PCR を 今回我々は、当院で経験した5例をまとめ、報告す 行い、hotspot を中心に1~3Kb 程のサイズになる る。 ように当院でデザインした primer を用いた。PCR 産 原発性副甲状腺機能亢進症に対する初回手術時の年 物 を N e x t e r a X T 処 理 し て ラ イ ブ ラ リ を 作 成 し た 齢は17-25歳と若年であった。遺伝学的検査は術前に 後 MiSeq にてシーケンスし、得られたデータを CLC 施行したものが1例、術後が4例であった。病理結果 genomics workbench により解析した。 は副甲状腺癌が1例、腺腫が3例、腺腫と過形成が1 【結果 ・ 考察】56例(67%)に変異が検出され、これま 例であった。再発は2例に認め、再発までの期間は6 でのサンガーシーケンスで得られた結果とほぼ同じ検 年2ヶ月-7年であった。腺腫のみの3例については 出率であった。ライブラリ作成には、解析領域別に個 現在のところ再発を認めていない。原発性副甲状腺機 別に増幅した PCR 産物を用いた。multiplex PCR を行 能亢進症の家族歴は2例で認めた。HRPT2/cdc73 遺 うと操作が簡便で時間も短縮できるが、当院の目的領 伝子解析では、変異はいずれも exon5-8 に存在し、い 域よりも解析領域が広くなるため十分なカバレッジを ずれもナンセンス変異あるいはフレームシフト変異で 保つために解析サンプル数を減らす必要があり、また あった。当院では、原発性副甲状腺機能亢進症で副甲 遺伝子間で PCR 効率が異なるためリード数のバラツ 状腺癌や顎腫瘍が併存する場合、pHPT 以外の MEN1 キが予想される。今回用いた方法はライブラリ作成ま 関連腫瘍の合併 ・ 既往歴 ・ 家族歴を認めない場合、40 での操作工程は増えるが、新たな解析遺伝子を随時追 歳以下での pHPT 発症の場合は HRPT2/cdc73 遺伝子 加することが可能となり、当院の現在の状況に適した 解析を施行することにしている。 方法であると思われる。 副甲状腺機能亢進症顎腫瘍症候群の副甲状腺病変に 【結語】当院ではまだ NGS 解析を始めたばかりであ 対する手術法に関しては、まだしっかりとしたデータ り、今後 NGS に関する知識を深め、当院のスタイル は存在してない。どのような症例が HRPT2/CDC73 遺 にあった方法および体制を構築していきたい。 伝学的検査の対象となるか、今後検討をしていく必要 がある。 66 一般演題口演2[MEN・内分泌腫瘍] O-2-5 当院における RET 遺伝子検査の先進医療導入後 の総括 ○小安 未緒1)、佐藤 友理1)、瀧 景子2)、 喜多 瑞穂1)、竹内 抄與子3)、芦原 有美1)、 安達 容枝1)、内野 眞也4)、新井 正美1) 1)がん研究会有明病院 遺伝子診療部 2)東京工業大学 資源化学研究所 生物資源部門 3)がん研究会有明病院 看護部 4)医療法人野口記念会野口病院 外科 はじめに︰甲状腺髄様癌の一部は遺伝的素因を基に発 症しており、全体の30%を占めると言われている。遺 伝性甲状腺髄様癌の原因である RET 遺伝子の解析は その臨床的意義が確立している。当院では RET 遺伝 子検査を2010年10月から先進医療として行ってきた。 今回保険収載を機に、これまで当院で実施した RET 遺伝子検査を総括し報告する。 対象と方法︰2010年10月から2016年3月までの間に甲 状腺髄様癌で RET 遺伝子検査を受けた23家系31例を 対象とした。解析は RET 遺伝子のエクソン10、11、 13-16の PCR-direct sequence を行った。保因者では 当該エクソンのみの解析を行った。結果はおよそ2週 間以内に全ての症例を報告した。 結果︰全体として23家系31例中、7家系9例で陽性で あった。この内発端者診断を受けた20例では6例が陽 性であった。これらの症例に対して診療科のフォロー アップと併行して遺伝カウンセリングや血縁者の保因 者診断を実施した。一方、保因者診断では11例中3 例が陽性となり、当院および紹介施設で治療、経過 観察となっている。変異の内訳に関してはコドン804 が3家系と頻度が高く、変異のパターンも2通り認め られた [GTG(Val)→ATG(Met)]、 [GTG(Val)→CTG (Leu) ] 。 考察︰発端者20例の内、家族歴がなく臨床診断のみ では一見散発性と思われる髄様癌患者15例中2例 が RET 遺伝子検査によって遺伝性と判明した。こ の2例はエクソン14のコドン804の変異であった。 従来変異は典型的な MEN2A のエクソン10、11や、 MEN2B のエクソン16に集中していると言われてお り、その他のエクソン13-15では FMTC や Others が よく見られる。今回 FMTC や Others が7家系中5 家系を占め、この内4家系はエクソン14、15の変異 であった。以上のことから、先進医療の導入に伴い 甲状腺髄様癌全例が対象となったことで、典型的な MEN2A 以外や FMTC の基準を満たしていない甲状腺 髄様癌患者の遺伝子診断がより高まったと考えられ た。また、これらに関連するエクソン13-15の変異解 析の重要性が示唆された。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 67 一般演題口演3[遺伝性乳がん卵巣がん] O-3-1 O-3-2 乳癌と卵巣癌の既往がある患者の臨床病理学的 検討と将来への展望 トリプルネガティブ乳癌発端者における家族歴 と BRCA1/2 遺伝子変異頻度 ○ 北條 隆 ○松谷 奈央1)、井手尾 里美1)、竹山 由子1)、 織田 信弥1) 国立がん研究センター東病院 1) 独立行政法人国立病院機構九州がんセンター 遺伝相談外 来 【はじめに】乳癌の5-10%は遺伝子変異を有する乳癌 遺伝性乳癌・卵巣癌症候群(HBOC)に発症する乳 と考えられており、我が国においても BRCA1 あるい 癌では、その約7割がホルモン受容体発現陰性であ は BRCA2 に変異を有する遺伝性乳癌患者が少なくな り、いわゆる「トリプルネガティブ(triple negative, いことが明らかになってきている。しかし、実臨床で TN)」とされるものが6割弱にも及ぶとされる(Atchely は遺伝医療を実施している医療施設や専門家は少な DP et al., J Clin Oncol 2008) 。このため、TN 乳癌と く、遺伝医療を実施している施設においても遺伝カウ HBOC とを短絡する傾向が一部にみられるが、HBOC ンセリングを受ける患者は少ない。今回我々は、通常 の遺伝性を考慮すると、TN 乳癌患者への医学遺伝学 の臨床情報より遺伝性乳癌の可能性が高い症例を拾い 的アプローチに際しては、その家族歴を十分吟味する 上げ、臨床病理学的情報を収集し、遺伝性乳癌の可能 必要がある。今回、2013年から2016年3月までの期 性が高い患者に対する検討を行った。 間、当院において遺伝学的検査を受けた TN 乳癌12症 【対象・方法】当院において卵巣癌の既往を持つ乳癌 例について、その家族歴と遺伝子変異との関係につ 患者あるいは乳癌術後に卵巣癌を発症した症例とし、 いて考察した。1度血縁者内に卵巣癌患者が1名以 データベースより患者情報を収集し検討を行った。 上、あるいは2度血縁者内に乳癌患者が2名以上存在 【結果】乳癌治療時に卵巣癌の既往あるいは同時に卵 する場合を家族歴陽性と定義すると、家族歴を有する 巣癌を認めた症例は8症例、乳癌術後に卵巣癌が発症 ものは7名、家族歴のない発端者は5名であった。こ した症例は4症例の全12症例。乳癌発症時の年齢の中 のうち、BRCA1/2 遺伝子いずれかに変異が検出された 央値は57歳、卵巣癌発症時の年齢中央値は57歳。乳癌 発端者はそれぞれ、6名(86%)と2名(40%)であった 初診時のT因子はT4が4症例、T3が3症例、T2が3 (p=0.22)。予想に反し、家族歴のない発端者におい 症例、T1が2症例。 ても2名、変異が検出されたが、このうち1名は4名 免疫染色では ER 陽性9症例(75%)、HER2陽性4症 の他癌腫の家族歴を有していた。今後、より大きなコ 例(33%)、Triple Negative2症例(17%)。治療後の遠隔 ホートを用い、検討を続けたい。 転移は5症例(42%)に認められた。乳癌あるいは卵巣 癌の家族歴を有する患者は1名のみであった。 【考察】今回の対象は BRCA1/2 遺伝子変異集団での 米国のデータ (アシュケナジユダヤ人を含まない) と日 本人のデータから、最も変異の可能性の高いグループ を対象としており、約50%が BRCA1/2 の変異患者と 想定される。乳癌治療開始時には進行している症例が 多く、ホルモン感受性乳癌ではあるが極めて予後不良 であった。乳癌の家族歴は1症例のみであったが、家 族歴の聴取が不十分な可能性が考えられる。以上よ り、今回の対象は発見時には進行している事が多いこ とから、未発症患者への遺伝性乳癌卵巣癌の啓蒙、遺 伝医療実施体制の整備が重要と考えられた。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 68 一般演題口演3[遺伝性乳がん卵巣がん] O-3-3 O-3-4 家族性乳癌遺伝子検査の現状と問題点 本邦における BRCA1/2 遺伝学的検査と乳癌術 式選択との関連における後方視的解析 ~日本 HBOC コンソーシアムデータ報告~ ○村上 祐子1)、長塚 美樹1)、宮本 康太郎1)、 佐久間 威之1)、松嵜 正實1)、片方 直人1)、 野水 整1)、赤間 孝典2) ○犬塚 真由子1)、吉田 玲子1)、四元 淳子1)、 横山 士郎2)、渡邊 知映3)、新井 正美4)、 中村 清吾1)、日本 HBOC コンソーシアム登録委員会 1)星綜合病院 外科 2)星綜合病院 がんの遺伝外来 認定カウンセラー 乳癌家族歴濃厚な乳癌症例および血縁者に対し、 1995年から2014年まで79例(51家系)に遺伝性乳癌卵巣 癌症候群(HBOC)の原因遺伝子である BRCA1 および BRCA2 遺伝子検査を行った。2011年までは公的研究 費で行ったがそれ以降の13例は自費診療である。14 家系32例に BRCA 遺伝子の病的胚細胞変異を認めた。 現時点での当科における家族性乳癌診療システムは、 初診時乳癌患者に対して担当医が家族歴を聴取し、入 院後遺伝カウンセラーによる詳細な家族歴聴取を行い 家族性乳癌と BRCA 遺伝子検査のオリエンテーショ ンを日常診療として行い、家族歴濃厚患者、若年者ト リプルネガティブ乳癌患者には退院後外来診療時に乳 癌専門医と遺伝カウンセラーが詳しい説明をし遺伝子 検査希望者は 「がんの遺伝外来」でカウンセリングとと もに検査を実施している。2013年1月から2014年5月 までの期間で家族歴聴取をしたのは272例、そのうち 家族性を疑い遺伝の話や遺伝外来を案内したものは37 例 (13.6%) であった。 遺伝外来受診は12例で BRCA 遺伝子検査は9例 (3.3%)であった。カウンセリング中の会話では経済 的内容が最も多く検査費用が高いことが問題点として 浮かび上がった。また、予防的手術についても「がん の遺伝外来」で対応している。これまで BRCA 遺伝子 変異が確定した乳癌患者3例に予防的両側卵管卵巣切 除を行い1例に早期卵巣癌、1例に前癌病変と言われ るp53 signatureを認めている。今後、日常診療での家 族歴聴取や遺伝カウンセリングの導入、医療者および 患者サイドへの啓発、検査価格の抑制、予防手術のあ り方など、クリアすべき問題は山積している。 1)昭和大学病院ブレストセンター 2)日本 HBOC コンソーシアム事務局 3)上智大学総合人間科学部看護学科 4)がん研有明病院遺伝子診療部 背景︰BRCA1/2 の病的変異の有無は、乳癌と診断さ れた個人の術式を決めるための情報としても利用され る場合がある。しかしながら、本邦において乳癌術式 選択と BRCA1/2 遺伝学的検査の施行に関する実態は 明らかになっていない。 方法︰日本HBOCコンソーシアムが試験的に行った、 HBOC家系登録事業の登録データを使用し、後方視的 に解析した。このデータの対象者は、登録委員が所属 する4施設における過去3年間の BRCA1/2 遺伝学的 検査者およびその血縁者である。本研究においては、 登録データのうち、 BRCA1/2 遺伝学的検査を施行し た乳癌発症女性のみを対象とし、 BRCA1/2 遺伝学的 検査の目的、検査時年齢、検査結果、乳癌の術式につ いて解析した。解析は、 SPSS ver.19を用いた。 結果︰HBOC家系登録事業に登録されたデータのう ち、本研究の対象に該当したのは773名であった。う ち、乳癌手術前に乳癌術式選択目的に検査を施行し た対象者は271名(35.1%)であった(BRCA1/2 陽性 者︰51名)。検査時年齢では、20代の56.0%、30代の 39.9%、40代の35.6%、50代の33.9%、60代の31.3%、 70代以上の15.8%の対象者が、乳癌術式選択目的に て BRCA1/2 遺伝学的検査を施行しており、検査時平 均年齢は、乳癌術式選択目的で46.2歳、その他の目的 で48.9歳であった(P<0.01)。また、乳癌術式選択目 的にて検査を施行した対象者のうち、乳房温存手術を 選択した者は、陽性者の11.8%、陰性者の54.5%で あったP<0.01) 。 考察︰本研究の対象者のうち、約3割が乳癌術式選択 目的にて検査を施行しており、検査時年齢の若い対象 者ほどその割合は高いことが示唆された。また陽性者 は、陰性者に比して、乳房全摘術を選択する傾向には あったが、乳房温存手術を選択した者も約1割みられ た。本邦において、 BRCA1/2 遺伝学的検査は乳癌術式 選択時に重要な情報となっているが、その結果のみな らず、その他の要因についても十分に患者と検討され た上で、最終的な術式選択が行われていることが推測 された。 69 一般演題口演3[遺伝性乳がん卵巣がん] O-3-5 O-3-6 我が国における BRCA1/2 遺伝子変異検出率の 検討-日本 HBOC コンソーシアムデータ報告- 当院における BRCA1/2 遺伝子変異陽性症例に 対する予防的卵巣卵管摘出術の実際 ○喜多 瑞穂1)、横山 士郎2)、渡邊 知映3)、 中村 清吾4)、新井 正美1)、 日本 HBOC コンソーシアム登録委員会 ○木村 美葵1)、藤野 一成1)、氏平 崇文1)、 太田 剛志1)、寺尾 泰久1)、竹田 省1)、 田村 智英子2)3)、恒松 由記子2) 1)がん研究会有明病院 遺伝子診療部 2)日本HBOCコンソーシアム事務局 3)上智大学総合人間科学部看護学科 4)昭和大学病院ブレストセンター 【背景】遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)は BRCA1/2 遺伝子 変異に基づく乳癌・卵巣癌の易罹患性症候群である。 わが国の HBOC の実態を明らかにすることを目的に、 NPO 法人日本 HBOC コンソーシアムが発足し、その 事業の一つとして BRCA1/2 遺伝学的検査受検者の全 国登録事業が近日中に開始される。 【目的】本研究では試験登録を実施した4施設(聖路加 国際病院、昭和大学病院、星総合病院、がん研有明病 院)の過去3年間の症例から既往歴、家族歴に基づく 変異検出率を算出し、日本人の遺伝性乳癌卵巣癌の特 徴を明らかにすることを目的とした。 【方法】全国登録事業にて試験登録された846家系を対 象とした。既往歴および家族歴をもとに分類した変異 検出率の表を作成し、分析を行った。 【結果】BRCA 発端者遺伝学的検査の受検者である 827名のうち、遺伝子変異陽性者は165例(20.0%)であ り、内訳として BRCA1 変異陽性者が88名(10.6%)、 BRCA2 変異陽性者が76名(9.2%)、BRCA1/2 の変異 重複例が1名(0.1%)であった。また、受検者の既往 歴では、乳癌のみ、卵巣癌のみに罹患している患者は それぞれ727名 (87.9%)、11名(1.3%)、乳癌と卵巣癌 の両方に罹患している患者は14名(1.7%)であった。 更に受検者のうち、第2度近親者以内に乳癌または卵 巣癌の家族歴がある患者は590例(71.3%)であった。 既往歴・家族歴に基づく変異検出率は、乳癌および 卵巣癌の罹患者で最も高値(57.1%)となった。また乳 癌・卵巣癌の家族歴がない症例でも9.0%(19/210名)に 病的変異が認められた。 【結語】本試験登録の結果では、既往歴・家族歴に基づ く変異検出率は米国の既報と比べ高い傾向にあった。 今後全国登録を実施することで、より正確なわが国の 臨床情報に基づく変異検出率の算出が期待される。 1)順天堂大学医学部 産婦人科 2)順天堂大学医学部附属順天堂医院 遺伝相談外来 3)FMC東京クリニック 【背景・目的】2015年の卵巣癌治療ガイドライン改訂 で、BRCA1/2 変異を持つ女性に対する予防的卵巣 卵管摘出術(risk-reductive salpingo-oophorectomy; RRSO)がグレードBの推奨と明記され、本邦でも RRSO 実施可能な施設が増えた。当院は2015年に倫理 審査委員会の承認を得、臨床試験という形で私費診療 下の RRSO を行う体制を整え、一方で婦人科疾患が ある場合、健康保険適応のある併存疾患の手術と共に RRSO を施行することにも対応している。当院の現状 を報告する。 【症例】当院で2012-2015年の間に当院遺伝相談外来で BRCA1/2 遺伝子検査を行った30人のうち、病的変異 陽性が判明し RRSO を検討した6人について検討し た。 【結果】平均年齢は45歳 (37-55歳) 。内科的基礎疾患の 合併はなかったものの、5人に産婦人科手術の既往歴 があり、帝王切開術4例、子宮筋腫核出術2例、子宮 腺筋症核出術1例であった(重複あり)。RRSO を希望 した時点で有症状の子宮筋腫が併存していた症例は3 例あり、2例は健康保険下で子宮全摘術と両側付属器 摘出術を行った。婦人科疾患のない1例(帝切2回既 往)は、他施設での手術についても検討中で、現時点 で当院の臨床試験へは未エントリーである。 【結果】当院で開始した RRSO の臨床試験だが、子宮 疾患併存や手術既往歴症例が多く、RRSO を施行した 2例は子宮筋腫の手術とともに行ったため、現時点で エントリーした症例はない。 【結語】本邦では RRSO 自体は健康保険の適応ではな いが、姑息的ながら合併疾患で健康保険下の手術が可 能な症例が少なからず存在する。また開腹手術既往、 特に子宮筋腫・腺筋症核出術後は骨盤内の術後癒着で、 他臓器損傷や術後腸閉塞など手術自体のリスクが上が り、卵巣卵管の完全摘出が難しい場合がある。症例に よって、合併疾患とともに RRSO 施行、開腹術、子 宮を合併切除などの、柔軟な対応が必要と考えられ た。遺伝カウンセリングの場での RRSO の説明の際 は、以上の点に留意の上、問診の徹底、婦人科との情 報共有、意見交換することが肝要である。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 70 一般演題口演3[遺伝性乳がん卵巣がん] O-3-7 BRCA1/2 に病的変異を認めない遺伝リスクの 高い乳癌患者に必要な遺伝診療についての検討 ○杉本 健樹1)2)、田代 真理1)、小河 真帆2)、 沖 豊和2)、池上 信夫1)3)、泉谷 知明1)3)、 執印 太郎1) 1)高知大学医学部附属病院 臨床遺伝診療部 2)高知大学医学部附属病院 乳腺センター 3)高知大学医学部附属病院 産婦人科 O-3-8 当院におけるHBOC家系の膵がん家族歴の検討 ○安達 容枝1)、喜多 瑞穂1)、芦原 有美1)、 竹内 抄與子2)、新井 正美1) 1)がん研究会有明病院遺伝子診療部 2)がん研究会有明病院看護部 【背景】BRCA1/2 は乳癌の浸透率が最も高い遺伝子で 【背景】遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の関連 あるが、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)を疑う状況で がんとして膵がんが挙げられる。BRCA1 では1~3 原因遺伝子が同定されるのは半数で、BRCA1/2 の変 %、BRCA2 では2~7%のリスクがあるとされてい 異はその約半数との報告がある。HBOC には標準化 る。しかし日本人における BRCA1/2 変異による膵が が進むサーベイランスやリスク低減治療があるが、変 ん発症の臨床的な特徴は明らかとなっていない。そこ 異がなければ他の遺伝学的検査の機会は少なく、散発 で当院を受診している BRCA1/2 変異陽性者の家族歴 性癌と同じ医学的管理を受けることが多い。 において膵がんの罹患状況を検討した。 【対象と方】2011年から HBOC の遺伝カウンセリン 【対象】当科に受診し2000年から2016年1月までに遺 グを102人に行い32人に遺伝学的検査を行った。病的 伝学的検査を行い、BRCA1/2 遺伝子に病的変異が認 変異を認めた発端者6人(BRCA1︰2人, BRCA2︰4 められた家系109家系を対象とした。これらの家系に 人)を除く既発症者21人の来談動機と医学管理を検討 おいて、膵がん罹患者を当科受診時の家族歴聴取をも し必要な遺伝診療について考察する。 とに調査した。家系図内で、乳がん、卵巣がんなどを 【結果】若年11人(20代︰2, 30代︰5, 40代︰4)の4 人に乳癌・卵巣癌の家族歴を認め、2人がトリプルネ 発症している側のみの膵がんを対象とした。 【結果】膵がん家族歴を認めたのは109家系中17家 ガティブ乳癌(TNBC)であった。50歳以上10人では7 系(15.6%)であった。内訳は BRCA1 変異9家系、 人に HBOC 関連疾患の家族歴を認め内2人は多発乳 BRCA2 変異8家系であった。家系内に複数膵がん罹 癌で、卵巣癌・悪性葉状腫瘍の既往が各1人であった。 患者を認めたのは1家系で発端者の父と姪であった。 残る3人は両側乳癌2人卵巣癌既往1人であった。 膵がん罹患者は18人で、男性10人、女性8人であっ HBOC以外の遺伝診療を考慮すべきと思われた症例を た。発端者からみて第一度近親が6人、第二度10人、 提示する。1)49歳の TNBC で、父に前立腺癌、父方 第三度と第四度は各1人であった。対象者が膵がん以 伯母2人に乳癌の家族歴がある。術前化学療法が奏功 外の既往歴を認めたのは3人(男性1人、女性2人) し乳房温存+乳房照射を行ったが、40歳で悪性葉状腫 で、男性は声帯がんと胃がんに罹患しており、女性は 瘍の既往があり、52歳で大腸癌を発症した。2)25歳。 いずれも乳がんに罹患していた。膵がん発症者の平均 腫瘍径5㎝の TNBC。術前化学療法で完全寛解を得、 死亡年齢は BRCA1 変異は69歳(42-89歳)、BRCA2 変 温存+照射を行った。 異は59.2歳(42-74歳)であった。BRCA1 変異家系では 【考察】提示2例は少なくとも TP53 検査は必要で 3家系がL63Xであった。 あったと考える。HBOC の拾上げを徹底した診療体 【考察】当院における BRCA1/2 遺伝子変異と膵が 制を構築してきたが、他の遺伝性腫瘍の考慮は十分で ん発症の関連については BRCA2 家系の死亡年齢が はない。また、BRCA1/2 後の遺伝学的検査は追加費 BRCA1 家系よりも10歳早い特徴が見られた。今回の 用が大きくクライアントの負担が大きい。遺伝子パネ 調査では発端者の聞き取りのみによる情報のため限界 ルの導入等によりコスト低減が期待される。 がある。今後、全国登録事業などによりさらに症例数 【結語】HBOC 診療を行う上では、他の遺伝性腫瘍を 考慮した診療体制の構築が必須である。 を増やし、BRCA1/2 遺伝子変異と膵がんの関連につ いて検討する必要がある。 71 一般演題口演4[遺伝カウンセリング] O-4-1 O-4-2 当院 臨床遺伝診療部の現状と課題 ~遺伝性 腫瘍を中心に~ 一般病院における遺伝性腫瘍の遺伝カウンセリ ングに対する取り組みについて ○田代 松下 久保 執印 ○吉田 ひとみ1)、野中 健一2)、武鹿 良規3)、 坂井 啓造4)、近藤 三隆3)、大圓 修身1)、 田村 和朗5) 真理1)、田村 賢司1)2)、山﨑 一郎1)2)、 憲司1)3)、池上 信夫1)4)、泉谷 知明1)4)、 亨1)5)、小林 泰輔1)6)、杉本 健樹1)7)、 太郎1)2) 1)高知大学医学部附属病院 臨床遺伝診療部 2)高知大学医学部附属病院 泌尿器科 3)高知大学医学部附属病院 小児科 4)高知大学医学部附属病院 産婦人科 5)高知大学医学部附属病院 老年病科 6)高知大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科 7)高知大学医学部附属病院 乳腺センター 高知大学医学部附属病院で2002年より高知県 唯一の遺伝診療施設として 「遺伝相談室」 が開設 された。当初所属の臨床遺伝専門医は2名で あったが、2010年から臨床遺伝専門医は5名増 え、 「臨床遺伝診療部」 として中央診療部の1つ と位置づけられている。 現在では、臨床遺伝専門医の資格を持つ常勤 医師9名と非常勤医師5名が兼任で当部に所属 し、認定遺伝カウンセラーと共に小児科、産婦 人科、循環器内科、泌尿器科、外科、耳鼻科と それぞれの専門分野のカウンセリングに対応し ている。また、月に1度、遺伝カンファレンス を開催し、各科で行った症例について様々な側 面から討議を行っている。 2002年から累計の遺伝カウンセリングの症例 数は合計371件であり心筋症 73件、遺伝性乳が ん卵巣がん (HBOC) 102件、フォンヒッペルリン ドウ病 (VHL) 45件、の3疾患で約59%を占める ことが当院の特徴として挙げられる。 家族性腫瘍関連の遺伝カウンセリング件数は 162件 (44%) と他の領域に比べ多く、うち HBOC 102件 (68%) 、VHL 45件、Birt-Hogg-Dubé 症候 群3件 (2%) であった。これは当院乳腺センター 通院中の患者にスクリーニングを行い、拾い上 げを積極的に実施していることが理由としてあ げられる。NCCN ガイドライン拾い上げ基準に 当てはまるハイリスク群383名中、家系図作成 による二次評価を実施できた者は216名であっ た。このうち希望者102名に遺伝カウンセリン グを実施し、遺伝学的検査を受検した者は32名 (31.4%) であった。既発症者29名 (術前19名、術 後10名) 、血縁者3名であった。非受検の主な理 由は経済的問題であった。 一方、フォンヒッペルリンドウ病45例におけ る遺伝学的検査実施はほぼ全例であり、主に次 世代の検査のための家系内変異の同定を目的と していた。 当院では、リンチ症候群などの遺伝性大腸が んの症例数が少ないため、今後大腸外科や消化 器内科との協力のもと、より一層の遺伝性腫瘍 の診療の充実を図る。 1) 社会医療法人大雄会 遺伝相談室 2)社会医療法人大雄会 腫瘍外科 3)社会医療法人大雄会 外科 4)社会医療法人大雄会 産婦人科 5)近畿大学 理工学部 生命科学科 【はじめに】当院は愛知県一宮市に存在する民間 の中核総合病院である。2014年1月に遺伝性乳 がん・卵巣がん(以下HBOC)を対象とした遺伝相 談室を開設し、遺伝カウンセリングおよび遺伝 子検査を実施できる体制を整えた。同年8月に Lynch 症候群と家族性大腸腺腫症を対象疾患に 追加した。今回、当院での遺伝相談室の取り組 みと開設後2年間の活動状況を報告する。 【活動状況の概要】外来・入院支援センターを基 点として、主に乳がん・大腸がん患者に対して 「家族歴予診カード」を用いて家族歴を聴取し一 次拾い上げを行っている。2014年1月から2015 年12月までに一次拾い上げを行った症例は170 名。170名中HBOC関連群は158名、Lynch 症 候群関連群は11名、両方に関連する人は1名。 HBOC 関係で遺伝カウンセリングを受けたのは 1名、遺伝子検査の実施はなかった。Lynch 症 候群関係12名のうち MSI 検査の実施数は6名、 その結果MSI-Hが2名、MSS が4名であった。 MSI-H2名のうち2名に遺伝子検査を実施し新 規 MLH1 遺伝子変異を持つ Lynch 症候群と確定 診断された。また2015年当法人主催の市民公開 講座を行い、体験遺伝カウンセリング希望者を 募り31名に実施した。 【まとめ】乳がん患者で娘がいる場合、また家系 内にがん罹患者が多い場合は遺伝性についての 関心が高く、話を聞きたいと思っている人は多 かった。しかし、第一段階として遺伝カウンセ リング自体が自費であること、第二段階として 遺伝子検査も自費で高額であるという経済的要 因がやはり次の段階に進めない障害になってい た。一方で Lynch 症候群の確定診断にいたった 症例があり、一民間病院においても遺伝性腫瘍 への取り組みは必須の課題であると考える。今 後も病院全職員への教育とともに、地域に根差 した病院という特徴を活かした患者・地域住民に 対する啓蒙活動、家族歴聴取・更新方法の検討お よび地域医療連携の拡充を図っていきたい。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 72 一般演題口演4[遺伝カウンセリング] O-4-3 O-4-4 当院で家族歴聴取(家系図作成)され遺伝性乳癌卵巣癌症 候群(HBOC)の高リスク群と判定された家系に対する遺 伝カウンセリング、遺伝子検査の実施状況について 遺伝性乳がんの遺伝カウンセリングにおける受 診動機および受診の障壁 ○清藤 大住 白山 竹原 ○甲畑 宏子1)2)、四元 淳子3)4)、青木 美保5)6)、 赤木 究5)、吉田 雅幸1)2) 佐知子1)4)、杉本 奈央2)4)、金子 景香2)4)、 省三1)4)、髙橋 三奈1)4)、青儀 健二郎1)4)、 裕子3)4)、小松 正明3)4)、大亀 真一3)4)、 和宏3)4) 1)国立病院機構 四国がんセンター 乳腺科 2)国立病院機構 四国がんセンター 臨床研究センター 3)国立病院機構 四国がんセンター 婦人科 4)国立病院機構 四国がんセンター 家族性腫瘍相談室 【目的】当院で家族歴聴取(家系図作成)され、家 系図より遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)の高 リスク群と判定された家系に対する遺伝カウン セリング、遺伝子検査の実施状況や、実施また は非実施を選択する患者の具体的理由を明らか にする。 【方法】2013年4月から2015年12月の間に当院 で家族歴聴取が行われた患者のうち、HBOC の 高リスクと判定された患者を対象に、カルテ診 療録、家系図、家族性腫瘍相談室データベース の調査から対象患者について後ろ向きに調査を 行った。 【結果】HBOC の高リスクと判定された対象患者 は169名で、そのうち遺伝カウンセリングを希望 され実施されたのは68名であった。そのうち遺 伝子検査を希望され実施されたのは63名で、希 望されず実施されなかったのは5名だった。遺 伝子検査を希望する理由(複数回答可)として多 いものは、多い順に、1.治験や臨床研究・試験 への参加のため(45名)、2.血縁者のがんのリ スクや健康管理について知りたい、役立てたい (40名)、3.家族性腫瘍が疑われると聞いた・思 う(36名)、4.自分のがんのリスクや健康管理に ついて知りたい・役立てたい(19名)、5.遺伝情 報が自分のがん治療に役立つ(15名)、と続いた。 遺伝子検査を希望しない理由(複数回答可)とし て多いものは、多い順に、1.知りたくない。知る のが怖い、曖昧なままにしておきたい(2名)、 2.その他(主病巣の手術が落ち着いてから検討 したい、家族の治療を落ち着いてから検査を受 けたい) (2名)、3.不明 (1名) と続いた。 【まとめ】HBOC の高リスクと判定された患者 のうち、実際にカウンセリングを実施されたの は40.2%で、遺伝子検査まで実施されたのは 37.3%であり、理由としては治験や臨床研究・試 験への参加のためということが最も多く、費用 軽減や積極的な治療選択につながることが影響 していると思われた。さらなる検討を加えて報 告したい。 1) 東京医科歯科大学生命倫理研究センター 2)東京医科歯科大学医学部附属病院遺伝子診療科 3)お茶の水女子大学基幹研究院自然科学系 4)亀田京橋クリニック遺伝外来 5)埼玉県立がんセンター腫瘍診断・予防科 6) お 茶の水女子大学人間文化創成科学研究科遺伝カウンセ リングコース 【背景・目的】遺伝性乳がんが疑われる乳がん 患者やその家族に対する遺伝カウンセリング ( 以 下 、G C )は 、 が ん の 二 次 予 防 と い う 観 点 において重要である。しかし、国内の多く の BRCA1/2 遺伝子検査実施施設では GC 件数が 予測される潜在数に対し極めて少ないのが現状 である。本研究では、遺伝性乳がんの GC にお ける受診動機および受診の障壁に関連する要因 を明らかにすることを目的とした。 【方法】遺伝性乳がんの GC を行う首都圏3医療 機関において、GC 受診者を対象とした無記名 自記式の質問紙調査を実施した。 【結果】GC 受診者22名から回答を得た。回答者 の平均年齢は46.1歳(中央値45.0歳、26-63歳)で あり、乳がんを既に発症した者は18名(81.8%)、 乳がん診断時年齢は平均45.0歳(中央値39.0歳、 27-54歳)であった。GC 受診のきっかけは、医 療者に紹介されたという回答が最も多く(N= 13,51.9%)、次いで、マスメディア(テレビ、イ ンターネット、雑誌など)を通じて GC を知っ たため(N=4,18.2%)、となった。受診動機と しては、自身の健康管理のためが最も多く(16 名,72.7%)、家族の健康管理が目的という回答 も半数程度みられた(重複あり・N=10,45.5%)。 8名(36.4%)が GC を受診するかどうか迷った と回答しており、GC 受診の障壁に関連する要 因として、遺伝に関する不安だけでなく、費用 や検査精度に関する懸念も理由として挙げられ た。実際に、世帯年収が低いほどGCを受けるこ とに躊躇いが生じていた(R=-3.51,p=.033)ほ か、年齢が高い人ほど遺伝性乳がんか否かにつ いても積極的には知りたくないという傾向がみ られた(年齢vs遺伝性乳がんの診断に対する躊躇 い︰R=.378,p=.009) 。 【考察】遺伝性乳がんの GC 受診を促すために は、年齢や既往・家族歴、社会的背景に応じた個 別の情報提供が必要と考えられた。 GC 受診前に遺伝医療職種以外の医療者か ら GCに関する適切な情報提供を可能にする ツールの開発が課題と思われる。 73 一般演題口演4[遺伝カウンセリング] O-4-5 がん終末期患者への遺伝カウンセリング ○羽田 恵梨1)、瀬畑 善子2)、高橋 靖子2)、 西川 智子3)、小島 いずみ4)、清水 哲4) 1) 神奈川県立がんセンター 遺伝カウンセリング外来 2)神奈川県立がんセンター 看護局 3)神奈川県立こども医療センター 看護局 4)神奈川県立がんセンター 乳腺内分泌外科 【はじめに】当院では遺伝性乳がん卵巣がん症候群 (HBOC)の認知等が進んだことにより、乳癌の診断後 早期に遺伝カウンセリング外来を受診する患者が増加 している。その一方で、終末期に遺伝カウンセリング を希望する患者もいる。今回そのような症例を2例経 験した。今後も終末期に遺伝カウンセリングを希望す る患者は現れると考えられるため、必要な対応と今後 の課題について検討した。 【症例】症例1︰60歳代女性。40歳代で左乳癌、60歳 代で漿液性卵巣癌に罹患。卵巣癌が約1年後に右乳房 と脳へ転移し、緩和ケア病棟へ入院した。患者は転 移発見時に乳腺外科医より HBOC の情報提供を受け、 同時期に乳腺外科医と看護師から遺伝カウンセラーへ 患者についての情報提供があった。本人が子供への遺 O-4-6 当院での家族性腫瘍の遺伝カウンセリングの課 題 ○秋谷 文、山中 美智子、山内 英子、塩田 恭子、 竹井 淳子、酒見 智子、堀内 洋子、熊耳 敦子、 水野 吉章、青木 美紀子、大川 恵 聖路加国際病院 遺伝診療部 【目的】家族性腫瘍の遺伝カウンセリング(以下GC)に 際しての課題を検討する。 【方法】当院で2003年から2015年までに家族性腫瘍に 関連した GC を受けたクライアントの診療録をもちい て遺伝子検査受検の意思決定に影響した要因やその後 の診療の継続性を後方視的に検討した。 【結果】遺伝性乳癌・卵巣癌症候群(以下HBOC)の GC を受けたクライアントは1,124人おり、遺伝子検査を 受けたのは652人であった。うち BRCA1 遺伝子に変 異を認めたのは62人、BRCA2 遺伝子に変異を認めた のは54人であった。Lynch 症候群の GC は18人が受 け、うち17人がマイクロサテライト不安定性検査また は免疫組織学的検査を受けた。6人でミスマッチ修復 伝を心配していることから、緩和ケアチームのスタッ 遺伝子の変異を疑われたが、いずれも遺伝子検査は受 した。本人へは要約した説明を行い遺伝子検査を実施 多発性内分泌腫瘍症(以下MEN)はそれぞれ3人が GC 症例2︰50歳代女性。50歳代で右乳癌、多発骨・リン り、いずれも遺伝子変異陽性であった。診療録から抽 フとも相談の上、夫と娘へ遺伝カウンセリングを実施 した。 パ節転移と診断された。家族歴があるため主治医より HBOC の情報提供を行い、遺伝カウンセラーとの面 談も実施したが遺伝カウンセリング外来受診の希望は なかった。約1年後に状態が悪化し入院となった。主 治医から緩和医療及び再度遺伝カウンセリングの説明 を行ったところ、遺伝子検査を希望されたため本人と 夫へ遺伝カウンセリングを行い、遺伝子検査を実施し た。 【考察】終末期の患者とその家族は時間的制約と身体 けなかった。家族性大腸ポリーポーシス(以下FAP)と を受け、遺伝子検査を受けた患者はともに2人ずつお 出できた遺伝子検査を受けない理由として HBOC で は検査費用が高いこと、Lynch 症候群疑いでは未婚で あることを理由にする患者がいた。また HBOC では 変異陽性と診断されたのち乳腺外科/婦人科のいずれ かの科の診療を全く受けていない、または途絶えてい る患者が19人いた。Lynch 症候群疑いで遺伝子変異が 疑われる6人、FAP と MEN で確定診断をされたそれ ぞれ2人は診療が継続されていた。 症状を伴う中で意思決定を行うことになり、遺伝外来 【結論】家族性腫瘍が疑われる場合に遺伝子検査受検 断された場合には家族との継続的な関わりが必要であ があった。また、遺伝子検査を受けて変異を認めて が途切れてしまうためそれを防ぐための仕組みを考え の経過観察が途絶えてしまう例が存在するため、診療 に必ずしも詳しいとは言えないため関係する医療者と に、今後のサーベイランスを含めた診療体制を改善し 担当者はそれを支援しなくてはならない。遺伝性と診 の意思決定には検査費用や家族構成が関与していた例 るが、多くの場合患者が亡くなると病院とのつながり も、複数科の診療が必要にも関わらず、一部の診療科 る必要がある。また、遺伝カウンセラーは終末期医療 科間での連携が重要と考えられた。これらの結果を基 の連携も重要である ていきたい。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 74 一般演題口演4[遺伝カウンセリング] O-4-7 当院健診センター入院ドックにおけるがんの遺 伝カウンセリングオプションの試験的取り組み ○芦原 有美1)、喜多 瑞穂1)、渡邉 淳子2)、 田中 正典3)、土田 知宏4)、新井 正美1) 1) がん研究会有明病院 2)がん研究会有明病院 3)がん研究会有明病院 4)がん研究会有明病院 遺伝子診療部 看護部 健診センター 健診センター運営部 健診センター 当院はがん専門病院として健診センターが併設され ており、がん予防に関心を持っていると思われる受診 者を対象に、試験的にがんの遺伝カウンセリングオプ ションを実施したので、この結果を報告する。 【期間・方法】2013年10月から2014年6月まで、週1~ 2名の入院ドック受診者の2日目午前中に遺伝カウン セリングを実施した。遺伝カウンセリングは無料オプ ションであり、入院前の事前問診の電話にて担当看護 師が希望を聞き、枠を設定した。セッションでは主に 家族歴聴取および評価、家系員が罹患しているがんの 予防と健診について話した。 【結果】入院ドック受診者は総勢54名(月平均6名)の うち、遺伝カウンセリングオプションを希望した方は 45名 (月平均5名、約83%)、一人あたりの所要時間は 平均約45分間であった。希望者平均年齢は66歳、がん の既往歴がある人は10名(22%)であり、本人および家 族にもがん罹患者がいない方は2名であった。受診の 目的では、 「オプションがあったから」29名(64%) と一 番多く、「がん家系なので」7名(16%)、「特定のがん の遺伝の心配」 4名 (9%)、「遺伝性のがんの心配をし た方が良いのかを知りたい」3名(7%)、「その他」2 名 (4%) であった。 遺伝性腫瘍症候群が疑われる家系は2家系(4%) で あり、いずれも NCCN ガイドライン2016.1で遺伝性 乳がん卵巣がんの BRCA1/2 Testing Criteria を満たし ていた。しかし両者共に特定のがんの心配をしてはお らず、遺伝子診療部の案内をするも、受診には至らな かった。 【考察】本試みは、がん予防に関心を持つ方へ、遺伝 性腫瘍症候群の正しい知識、およびがん予防行動・健 診や生活習慣について情報提供する機会になった。た だし、遺伝性腫瘍症候群の潜在患者を拾い上げる点で は、診療科に来院している方を対象に遺伝カウンセリ ングを行う方が効率的であると考えられた。 75 一般演題口演5[スクリーニング・その他] O-5-1 Lynch症候群の診療におけるMSI(microsatellite instability)検査の意義と遺伝カウンセリングを 介する地域ネットワークの形成について ○松下 西村 内垣 宮内 O-5-2 地域医療支援病院での多職種介入による「リンチ症 候群拾い上げ」のためのマイクロサテライト不安定性 (Microsatellite Instability:MSI)検査導入のシステム化 一之1)2)3)、石毛 崇之2)、糸賀 栄2)、 基1)2)3)、姚 躍1)、別府 美奈子1)2)3)、 洋祐3)、宇津野 恵美3)、野村 文夫3)4)、 英聡5)、松原 久裕5) ○石堂 佳世1)、中山 朋秋2)、中島 浩美3)、 黒澤 まゆみ3)、三浦 直人4)、宮田 佳典5) 1)千葉大学大学院医学研究院分子病態解析学 2)千葉大学医学部附属病院検査部 3)千葉大学医学部附属病院遺伝子診療部 4) 千 葉大学医学部附属病院マススペクトロメトリ―検査診断 千学寄附研究部門 5)千葉大学大学院医学研究院先端応用外科 佐久総合病院 佐久総合病院 佐久総合病院 佐久総合病院 目的︰リンチ症候群への対応は患者自身の治療や家 系員へのアプローチ方法など様々な課題があり一診 療科あるいは一施設のみでは対応が困難な場合も多 い。その理由は、リンチ症候群への対応は複数の診療 科の情報共有が必要な患者・クライエント(発端者)の みならず、家系員 (リスクのある未発症者)への対応も 含むため臨床情報の集約が必要だからである(いわゆ る actionable mutation, immediate implication)。しか しそれらの連携は必ずしも十分とは言えない。本研究 では Lynch 症候群の診療における MSI(microsatellite instability)検査を有効に活用して、遺伝カウンセリン グを生かすことにより患者および家系員の QOL 改善 のための地域ネットワークの必要性について検討する ことを目的とした。 概要︰Lynch 症候群が疑われる患者に対し行われる遺 伝学的検査は以下の(1)から(4)の手順がある(千葉大 病院検査部)。(1)手術説明時に MSI 検査のICを得 る(外科)。(2)4つのDNA修復タンパク質の免疫組織 化学染色(病理部)、(3)組織DNAを抽出し5つのマイ クロサテライト領域のフラグメント解析 (検査部) ( 。4) MLH-1 遺伝子プロモーター上のメチル化メチル化(検 査部)。MSI 検査の結果は電子カルテ上で情報共有す る。遺伝カウンセリング(遺伝子診療部)後にゲノム解 析を行う (検査部) 。これらの検査系を千葉県内の基幹 病院と共同で未発症者の拾い上げなどにも役立てるた めの地域ネットワークを検討している。その成功のた めには遺伝カウンセラーによる種々の仲介が不可欠で ある。 結果・考察︰Lynch 症候群の大腸癌では90%以上に MSI-H を認めるとされているが、孤発性大腸癌が偽 陽性を示すことに留意する必要がある(CpG island methylator phenotype︰CIMP)。未発症者へのアプ ローチが今後の課題である。そのための千葉県内の基 幹病院との情報の共有法についてネットワークの立ち 上げを模索している。など MSI 検査は免疫チェック ポイント阻害剤(抗 PD-1 抗体)の適応症例のスクリー ニングにも応用されつつあり有用性が増している。 1) JA長野厚生連 部遺伝相談室 2)JA長野厚生連 3)JA長野厚生連 4)JA長野厚生連 5)JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター 診療協力 臨床検査科 看護部 医事課 がん診療センター 【背景】リンチ症候群は大腸がん以外に、子宮内膜、 卵巣、胃、膵臓、腎盂・尿管などのがん発症リスク が高まる疾患で、最大90%に MSI が認められる。 MSI 検査はリンチ症候群の有用な補助診断である。 MSI 検査には、対象者の抽出、標本作成、保険請求、 結果報告などの過程が必要である。認定遺伝カウンセ ラー(CGC)を中心に、多職種が介入し、リンチ症候 群を拾い上げるため MSI 検査をシステム化した経験 を報告する。 【方法】第一段階︰CGC がベセスダ基準を参考に対象 者を抽出し、MSI 検査の同意を取得する。50歳未満 の患者からは入退院支援室看護師が同意を取得する。 第二段階︰MSI 検査依頼書に医師が署名し、病理診 断後に医師事務作業補助者(DA)が病理へ提出する。 病理検査技師が薄切標本を作製し、検査会社へ送付す る。カルテのタブ機能で検体送付情報を共有し、検査 実施のカルテ記載により医事課職員が保険請求する。 第三段階︰結果説明は患者受診日のカルテコメント欄 へDA が「MSI 検査結果」と入力し、医師が患者へ結果 を説明し、陽性の場合は遺伝カウンセリングを提案す る。 【結果・考察】第一段階︰2015年4月から10ヶ月間に 127例の家族歴を CGC が聴取し、53例に MSI 検査を 実施(41.7%)した。各部署での認識が高まる一方で煩 雑化したため、DA が依頼書提出日、検体送付日、結 果説明日の確認を行うことで確認窓口を一本化し、フ ローを修正した。第二段階において紹介元の病院へ薄 切標本を依頼する場合、検査提出が遅れた。第三段階 において、MSI 検査陽性の4例(7.5%)中2例が遺伝 学的検査を実施、2例は今後実施予定である。検体送 付の時期により患者が地域の病院へ転院後に結果が判 明するケースもあり、結果説明が課題となった。 【結論】導入前より多職種が一連の流れのフロー図を 作成したことで MSI 検査への認識が広まり、連携を 図れるようになった。また、当院は急性期と専門医療 を軸とした地域医療支援病院であるため、他の病院で の結果開示、あるいは、陽性結果開示後に他院にて フォローとなる際の遺伝カウンセリングおよびサーベ イランスについて、地域との更なる連携が必要であ る。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 76 一般演題口演5[スクリーニング・その他] O-5-3 O-5-4 リンチ症候群診断のための universal screening の意義 当院における HBOC 診療の現状 ○濵中 美千子、松原 長秀、福本 未記、矢野 綾、 山野 智基、馬場谷 彰仁、吉村 美衣、塚本 潔、 野田 雅史、冨田 尚裕、田村 和朗 ○平 郁、田辺 真彦、木村 美葵、田村 智英子、 恒松 由記子、齊藤 光江 兵庫医科大学下部消化管外科 近畿大学大学院総合理学工学研究科 はじめに︰遺伝性大腸癌の中で最もの頻度の高いリ ンチ症候群診断は、ミスマッチ修復遺伝子 MLH1, MSH2, MSH6, PMS2 何れかの生殖細胞系列の異常に 起因するが、疾患理解に乏しいことと、診断までの 過程の煩雑さもあり、診断されることが少ない。全 ての症例を逃さず診断するには、大腸癌全てに原因 遺伝子検査を行えば良いが、経費の面から現実的で はない。2009年、米国の the Evaluation of Genomic Applications in Practice and Preventionは、家族歴に 頼らず、全て診断された大腸癌に対して、MSI 検査 あるいは免疫染色を用いたリンチ症候群のスクリーニ ングを提唱した。 方法︰我々は、6年前より、大腸癌手術症例に対し て、MSI(5つのmono-nuclear markers)検査を行って おり、最近免疫染色スクリーニングも開始した。さら に、BRAF, KRAS, MLH1 のメチル化検査を加えるこ とによる universal screening の意義を検討した。また 費用についても検討した。 結果︰FAP を除く大腸癌症例で、承諾が得られて、検 討可能な症例は559例であった。36例が MSI 陽性で あり、全症例の6.5%であった。これらのうちで、 BRAF, KRAS, MLH1 のメチル化検査により散在性大 腸癌と考えられた症例は19例で、残りの17例が原因遺 伝子検査に回るためのカウンセリングを紹介された。 免疫染色を導入中で、MSI 陽性例から染色を開始し たが、そのうちの4例に免染を行い、3例にMLH1/ PMS2 の不染を認め、1例MSH2/MSH6 の不染を認め た。 考察︰今後、universal screening を行う上での問題点、 将来展望等も合わせて検討する。 順天堂大学附属順天堂医院乳腺・内分泌外科 順天堂大学附属順天堂医院婦人科 順天堂大学医学部附属順天堂医院 遺伝相談外来 【背景】BRCA1/2 変異を伴う乳癌および卵巣癌は 遺 伝 性 乳 癌 卵 巣 癌 症 候 群( H B O C )と 称 さ れ る 。 BRCA1/2 を含む原因遺伝子検索のための遺伝学的検 査を実施する機会が急速に増す一方で、時間的拘束お よび専門的対応の経験不足ゆえに、日常の診療業務内 での対応は難しい場合が多く、HBOC 診療に対する体 制構築が急務である。 【当院におけるHBOC診療】2012年10月に遺伝相談外 来が開設された。乳腺科外来において家族歴から遺伝 性乳癌の可能性がある患者を拾い上げ、遺伝相談外来 受診を勧めている。2016年2月までの期間に遺伝相談 外来を受診した乳癌患者のうち32人に遺伝子検査が行 われ、BRCA1(5人), BRCA2(3人), TP53(2人)の 変異が検出された。変異陽性者に対しては、遺伝相談 外来・婦人科と連携して診療を行っている。遺伝相談 外来開設により、乳腺科外来での患者拾い上げ、遺伝 相談外来、遺伝子検査という段階を経た診療が可能と なった。遺伝学的検査実施までのカウンセリングは遺 伝相談外来で経験豊富なスタッフが対応している。ま た、婦人科の積極的な活動により HBOC 症例を対象 とした予防的卵巣切除術への対応が可能となった。一 方で、遺伝子検査結果説明を含む遺伝外来受診後の対 応を乳腺外来で日常診療として行っているため、継続 的な経過観察、遺伝子異常を伴う可能性のある血縁者 の拾い上げが十分に行えていないという課題がある。 改善策として、遺伝相談外来の常設、診療科医師のカ ウンセリングに対する理解と技術の向上を推進するこ と、が挙げられる。後者について、研修参加者による 遺伝カウンセリングロールプレイ実習を行うなど、遺 伝カウンセリングに対する知識・技術を高める活動を 行っている。 【まとめ】BRCA1/2 の遺伝学的検査、患者・未発症保 因者のスクリーニング、予防的卵巣切除を含む治療の 選択が可能となり、乳癌診療における HBOC 診療の 重要性が増している。一方で、各施設が抱える課題は 様々であると推測される。当院における HBOC 診療 の現状・今後の展望を報告する。 77 一般演題口演5[スクリーニング・その他] O-5-5 O-5-6 乳腺専門クリニックにおける家族性乳癌への取 り組み 九州圏内のがん臨床看護職の遺伝性腫瘍の認識 ○ 安藝 史典、伊藤 末喜 ○矢野 朋実、奥 祥子、野間口 千香穂 伊藤外科乳腺クリニック 宮崎大学医学部看護学科 【はじめに】全乳癌の5~10%が遺伝性といわれ、日 【はじめに】九州圏内のがん臨床看護職の遺伝性腫瘍 本では年間約7万人が乳癌に罹患しており、年間約 (特にHBOC)の認識と実践力および教育ニーズを明ら 3,500~7,000人が遺伝性乳癌に罹患していると推測さ れる。NCCN ガイドラインに基づいて拾い上げ遺伝 学的検査を行うと30%前後に BRCA1/2 遺伝子変異が 認められている現状より、年間約11,000~23,000人に 遺伝カウンセリングが必要と考えられる。当然、乳腺 専門クリニックの外来診療でも対応することが必要で ある。しかしながら、保険診療では、遺伝性乳癌の遺 伝学的検査や、サーベイランスやリスク低減治療を行 うことはできない。当院における野水分類を満たす家 族性乳癌を検討し、遺伝性乳癌の実地臨床に役立てる ことができないかどうかを検討した。 【対象・方法】当院で診断治療した乳癌症例のうち、 2013年1月から2016年2月までに家族歴を確認し、野 水分類を満たす家族性乳癌を拾い上げた。 【結果】野水分類を満たす乳癌症例は、第1度近親者 に3名以上乳癌︰10名、第1度近親者に2名以上乳癌 で40歳未満︰8名、両側︰5名、重複癌︰7名。合計 30名が家族性乳癌であった。乳癌診断時の年齢は、35 ~83歳 (平均51.5歳)。臨床病期は、0期︰4例(13%) 、 Ⅰ期︰15例(50%)。手術術式は、乳房温存術︰17例 (57%)。病理組織型は、浸潤性乳管癌︰23例(77%)。 リンパ節転移陽性︰7例(23%)。ホルモン受容体陽性 ︰15例 (50%) であった。遺伝性乳癌卵巣癌についてカ ウンセリング行い、遺伝学的検査について説明した。 しかしながら、金銭面や血縁者への影響を理由に、遺 伝学的検査を躊躇された。サーベイランスについて は、家系員についても乳がん検診や卵巣癌検診等を受 けるように指導した。 【まとめ】前向きおよび後ろ向きに家族性乳癌を検討 した。今後は乳癌患者だけでなく、その家系員に対し ても、遺伝性乳癌卵巣癌を念頭において、診療を行っ ていく必要がある。 かにすることを目的とした調査を実施した。 【方法】研究協力を得た九州圏内でがん診療を行う総 合病院15施設の臨床看護職359名を対象に郵送質問紙 調査を実施した。調査票は遺伝性腫瘍の知識と経験、 遺伝看護実践能力の自己評価、遺伝性腫瘍医療に関す る教育ニーズを問う内容とした。データは統計的手法 を用いて分析した。データ収集期間は2016年2月から 3月で、A大学医学部医の倫理委員会の承認を得て実 施した。 【結果・考察】調査票は306名分回収した(回収率85.2 %)。対象の平均年齢は37.1±10.2歳、平均臨床経験 年数は14.7±10.2年だった。105名(35.8%)ががんと 遺伝に関する相談を受けていた。対応にあたり他者に 相談した者が68.3%で、相談相手は医師が76.4%、専 門看護師や認定看護師に相談する者もいた。72.8% が対応に困っていた。64名(22.0%)が遺伝性腫瘍の ケースと関わった経験があり、そのうち66.8%の者が HBOC のケースと関わっていた。258名(84.9%)に遺 伝性腫瘍への関心があったが、遺伝性腫瘍について 知っている者は32名(12.7%)、HBOC について知っ ている者は38名(12.9%)であった。HBOC について 知っている者のうち 「父親の家系から遺伝し得る」 に正 答したのは15.4%だった。遺伝カウンセリングにつ いて知っている者は34名(11.6%)だった。遺伝カウ ンセラーについては27名(9.3%)、遺伝子検査につい ては44名(15.0%)が知っていた。患者や家族に遺伝 関連の助言提供時にためらいが生じると思うと249名 (85.3%) が回答した。今後もがん臨床看護師が遺伝性 腫瘍に関する相談や対応を求められる可能性が高くな ることが推察され、臨床看護師自身の知識の向上のみ ならず、遺伝カウンセリングの周知や専門/認定看護 師の遺伝性腫瘍に対する認識の向上を図り、臨床看護 師がこれらをリソースとして活用していけるよう整え ていくことが求められる。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 78 一般演題口演5[スクリーニング・その他] O-5-7 家族性腫瘍セミナーの教育効果に関する6か月 追跡調査 ○西垣 織田 櫻井 吉田 昌和1)、倉元 信弥2)、中島 晃洋5)、武田 輝彦8)、菅野 理津子1)、藤原 弥純1)、 健3)、数間 恵子4)、 祐子6)、田村 和朗7)、 康吉9) 1)京都大学医学部人間健康科学科 2)九州がんセンター腫瘍遺伝学研究室 3)国立がん研究センター中央病院内視鏡科 4)元東京大学 5)札幌医科大学遺伝医学 6)慶應義塾大学看護医療学部 7)近畿大学理工学部 8)国立がん研究センター研究所遺伝医学研究分野 9)栃木がんセンター研究所がん遺伝子研究室 【目的】本学会で開催している家族性腫瘍セミナーの 効果を検証し、今後の課題を明らかにする。 【方法】リンチ症候群を主テーマとして実施された第 18回前期または後期家族性腫瘍セミナー受講者(前期 N=179、後期 N=128)を対象に、自記式質問紙調査 を実施した。家族性腫瘍(主にリンチ症候群)診療に関 わる知識について、セミナー開始前、セミナー終了時、 およびセミナー6か月後に調査し、その変化を検討し た。6か月後には、家族性腫瘍診療における行動・態 度の変化についても尋ねた。6か月後のデータは、前 期セミナー受講者のデータのみ収集が完了している。 【結果】セミナー受講者の家族性腫瘍診療に関する知 識問題得点は、セミナー受講前後で有意に向上した (10.5±3.5 vs 15.1±2.3、p<0.0001、対応のあるt 検定、20点満点)。6か月後には、セミナー終了時よ り知識問題得点は低下したものの、依然としてセミ ナー開始前よりは有意に高かった(13.2±2.1)。対象 者属性別にみると、職種によって知識得点に差が見ら れ、特に看護職と医師の間では3時点すべてで差が見 られた。家族性腫瘍診療の経験と知識問題得点の間に は、セミナー開始前は正の相関が見られたが、セミ ナー終了後にはその差は消失した。家族性腫瘍診療に おける行動・態度について、およそ8割のセミナー修 了者は、患者の遺伝的ハイリスク状態について早く気 付くようになった、どのような疾患においても遺伝的 背景に目を向けるようになった、遺伝に関する自己学 習をするようになった、患者に遺伝の話をするように なった、家族歴を詳細に聴取するようになった、と回 答した。一方で、遺伝医療専門職への相談はセミナー 修了後も行動に変化はなかった。 【考察】家族性腫瘍セミナーは、家族性腫瘍診療に関 わる医療職の知識の向上・定着と均てん化、診療行動・ 態度の向上に有効といえる。一方、職種によるニーズ の違いや、医療者間連携への対応については改善の余 地があると考えられた。 79 一般演題口演6[Lynch 症候群1] O-6-1 O-6-2 マイクロサテライト不安定性を示す進行再発大 腸癌の臨床病理学的特徴 当院における若年性大腸癌患者における遺伝性 腫瘍の検討 ○藤吉 高橋 菊地 松井 ○高雄 若梅 中野 小泉 健司、山本 剛、角田 美穂、若月 智和、 朱実、立川 哲彦、新井 吉子、小林 志帆、 茉莉、青木 美保、山田 身奈、 あゆみ、赤木 由人、赤木 究 埼玉県立がんセンター腫瘍診断予防科 久留米大学外科学講座 美里1)、山口 理香2)、河村 大輔1)、松本 浩一3)、宮木 達郎1)、飯島 武2)、 英恭1)、中山 祐次郎1)、 寛1)、高橋 慶一1)、 美知子2) 1) がん・感染症センター 都立駒込病院 大腸外科 2) がん・感染症センター 都立駒込病院 遺伝性腫瘍プロジェ ジェクト 3)がん・感染症センター 都立駒込病院 消化器内科 背景︰マイクロサテライト不安定性(MSI)検査はリン チ症候群の二次スクリーニング検査として用いられて きた。最近の報告より免疫チェックポイント阻害剤は 高頻度 MSI(MSI-H)大腸癌に対して高い奏効率と有意 な生存期間の延長が認められ、免疫療法のバイオマー カーとして MSI が注目されている。ところが、進行 再発 MSI 大腸癌の頻度は少なく、臨床病理学的特徴 は十分に明らかとなっていない。今回われわれはス テージ IV における MSI-H 大腸癌の臨床病理学的およ び分子学的特徴を検討した。 方法︰当院にて1999年から2015年までの大腸癌連続 手術症例2439例に対して MSI 検査、KRAS・NRAS・ BRAF 検査を行った。 結果︰大腸癌手術症例2439例のうちステージ IV は 401例(16.4%)であった。ステージ IV において MSI-H 3.7%、KRAS 変異 46.8%、NRAS 変異 3.0%、BRAF 変異 6.4%であった。ステージ IV の MSI-H 大腸癌は、 肝転移・肺転移は少なく、腹膜播種が多かった。さ らに、ステージ IV において MSI-H と MSS には生存 期間に有意差は認めなかった。しかし、ステージ IV MSI-H は転移形式の違いにより予後に大きな差があ り、血行性・リンパ行性転移群は予後が悪く、腹膜播 種単独群は予後が良かった。予後の悪い血行性リンパ 行性転移群には BRAF 変異が多く、腹膜播種単独群に は BRAF 変異は認めなかった。 考察︰ステージ IV において MSI-H 大腸癌は転移形式 が予後に大きく関わっていると考えられ、血行性・リ ンパ行性転移を示す MSI-H 大腸癌は非常に予後が悪 かった。今回の結果は免疫チェックポイント阻害剤の 適応において有益な情報となり得えた。 【背景】若年発症が特徴である遺伝性腫瘍の頻度は、 大腸癌全体の2-5%と報告されている。しかし、若 年者における遺伝性腫瘍の頻度は不明である。 【目的】当院における若年性大腸癌患者の臨床病理学 的特徴を検討する。 【対象・方法】2008年1月から2015年11月までに当院に て大腸癌に対し切除術を施行し、解析することが可能 であった1359例のうち、50歳以下の症例145例につき 診療録から後方視的に臨床病理学的特徴につき検討を 行った。 【結果】50歳以下の大腸癌患者は145例(10.7%)であっ た。男性78例、女性67人であり診断時の年齢は中央値 で45歳(17-50歳)、診断時のStageはStage 0︰I︰II︰ III︰IV = 2︰13︰35︰54︰40、発生部位はC︰A︰T︰ D︰S︰R = 4︰10︰10︰6︰35︰79であった。組織学 的には粘液癌6例、低分化腺癌6例、中分化型腺癌88 例、高分化腺癌44例、その他1例であった。KRAS 遺 伝子変異は37例(25.5%)、BRAF 遺伝子変異は6例 (4.1%)に認めた。18qLOH は53例において検討可能 であり、うち39例に loss を認めた。MSI-High は14 例(9.7%)に認め、うち2例は遺伝学検査で Lynch 症 候群(MLH1 変異1例、MSH2 変異1例)と診断され た。その他 IHCは6例に行われ、MLH1欠損が3例、 MSH6欠損が1例、MSH2欠損が1例、MSH2・MSH6 ともに欠損している症例を1例認めた。MSI-High 症 例はいずれも BRAF 遺伝子変異を認めず、DNAメチ ル化を認めないことから Lynch 症候群の可能性が高い と考えられた。その他 FAP5例(3.4%)を認め、遺伝 性腫瘍と考えられた症例は計19例 (13.1%) であった。 【考察】50歳以下での遺伝性腫瘍は13.1%と高率で あった。さらに40歳以下では14.3%、35歳以下では 18.8%と若年ほど遺伝性腫瘍の割合が高くなってい た。遺伝性腫瘍と診断された19例中、Amsterdam Criteria II を満たす症例は認めず、全く癌家族歴のな い症例が7例であった。家族歴のない症例でも若年発 症例では遺伝学的検査を考慮する必要があると考えら れた。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 80 一般演題口演6[Lynch 症候群1] O-6-3 O-6-4 Lynch 症候群の大腸腺腫・早期癌におけるミス マッチ修復機構の異常 リンチ症候群の拾い上げための、大腸癌患者を対 象としたミスマッチ修復蛋白質免疫染色を用いた ユニバーサルスクリーニングの有用性について ○山下 健太郎、久保 俊之、小野寺 馨、山本 至、 仲瀬 裕志 ○ 中島 健1)2)、関根 茂樹3)、中島 好美1)、 手塚 礼子1)、金光 幸秀4)、牛尼 美年子2)5)、 坂本 裕美2)5)、吉田 輝彦2)5)、斎藤 豊1)、 菅野 康吉2)6) 札幌医科大学 消化器内科 【 目 的 】Ly n c h 症 候 群 に 発 生 す る 大 腸 の 前 癌 病 変 や早期癌に関する本邦での検討は少ない。本研究 1) 国立がん研究センター中央病院 内視鏡科 2)国立がん研究センター中央病院 遺伝子診療部門 3)国立がん研究センター中央病院 病理科 4)国立がん研究センター中央病院 大腸外科 5)国立がん研究センター研究所 遺伝医学研究分野 6) 栃木県立がんセンター研究所 がん遺伝子研究室・がん予 防研究室 は Lynch 症候群の大腸ポリープと早期癌におけるミス マッチ修復(MMR)システムの異常およびその内視鏡 像を解析する事を目的とした。 【方法】MMR 遺伝子の胚細胞変異を確認した大腸癌 症例に発生した大腸ポリープ及び早期癌を対象とし、 MMR タンパクの発現を免疫染色で、DNA を抽出で きた病変では microsatellite instability(MSI)を合わせ て解析した。また内視鏡画像から肉眼型を検討した。 【成績】Lynch 症候群6症例(変異遺伝子は MSH2が3 例、MSH6が3例)に併発した大腸ポリープ16病変、 早期大腸癌4病変を解析した。病理組織が確認でき た12病変は腺腫8、粘膜内癌2、SM 癌2病変で、残 りの8病変(全て径5㎜以下の0-IIa 型病変)で全て腺 腫と考えられた。肉眼型は0-Ip が2病変(腺腫と粘膜 内癌)、0-Is と0-IIa+IIc が1病変ずつ(ともに SM 癌) で、他は全て0-IIa(粘膜内癌1例)であった。Lynch 症 候群の診断が確定してからのサーベイランス内視鏡 で発見された病変は全例0-II 型であり、確診前の進 行大腸癌に併存していた病変に0-I 型が混在してい た。免疫染色による MMR タンパクの発現低下では早 期癌全例でみられたが腺腫では半数にとどまった。 MMR タンパクの発現が正常な腺腫は全て MSH6 変 異の同一症例に発症した病変であった。早期癌は全 背景︰米国NCCN ガイドラインではリンチ症候群 (LS)患者の拾い上げ方法として大腸癌腫瘍組織にお けるミスマッチ修復(MMR)蛋白質に対する免疫染色 (IHC)やマイクロサテライト不安定(MSI)検査の網羅 的実施(ユニバーサルスクリーニング︰US)を提唱し ている。本研究では日本人大腸癌患者における US 実 施の意義について検討した。 方法︰2013年9月から2015年8月までに当院において 外科手術または内視鏡治療を施行された(1)70歳未満 の、または(2)70歳以上で改訂ベセスダ基準該当の、 浸潤大腸癌患者を対象とした。同意取得後に4種の MMR蛋白質(MLH1, MSH2, PMS2, and MSH6)に対 する IHC 検査を、ホルマリン固定パラフィン包埋大 腸癌検体で施行した。MSH2, PMS2, MSH6のいずれ かの染色低下例または、MLH1染色低下かつ BRAF 変 異陰性例は遺伝学的検査の適応とした。当院遺伝相談 外来にて遺伝学的検査実施の同意取得後、生殖細胞系 列でのMMR遺伝子変異解析を行った。 結果︰大腸癌患者377例(男︰女 220/157,平均60 [28-85]歳)に対して研究説明し、332例(88%)から 同意を得た。302例(91%)では染色低下を認めず、 2 4 例( 7 . 2 % )が 遺 伝 学 的 検 査 の 対 象 と 判 定 さ れ た て MSI-H であったが、腺腫では解析できた3例中1 (BRAF変異(-)かつ MLH1染色低下︰12例、MSH2 例のみ MSI-H であった。腺腫と思われる5㎜大の ︰9例、MSH6︰0例、PMS2︰3例)。そのうち16例 0-IIa 型病変が、5年の経過で2㎝大の SM 深部浸潤 が MMR 遺伝子の遺伝学的検査に同意し、現時点で6 癌、0-Is 型に発育した。 例 (1.8%) が LS と診断されている (MLH1: 1, MSH2: 3, 【結論】Lynch 症候群における大腸ポリープ・早期癌は PMS2: 2)。5例は病的変異を認めず、5例は現時点 表面型が多いが、この傾向はサーベイランス内視鏡で で解析中である。また6例の LS 患者のうち3例は改 発見される病変において顕著であり、初回内視鏡で発 訂ベセスダ基準を満たしていなかった。 見される病変には隆起型が混在する。早期大腸癌では 結論︰IHC を用いた US は LS 患者の拾い上げに有用 MMR タンパクの発現が低下し MSI 陽性となるが、腺 で、特に改訂ベセスダ基準を満たさない患者での有用 腫には免疫染色やMSIで異常がない病変が混在する。 性も示された。 81 一般演題口演6[Lynch 症候群1] O-6-5 O-6-6 リンチ症候群の識別戦略においてPMS2蛋白の 単独欠損が意味するもの~散発例の弁別によっ て無用な遺伝性評価を回避する~ 一塩基反復配列マーカーを使用した大腸がんの マイクロサテライト不安定性の解析 ○加藤 彩、佐藤 直樹、高橋 和江、菅原 多恵* ○菅原 小野 丹羽 藤井 松原 秋田大学医学部附属病院 産婦人科 *能代厚生医療センター 産婦人科 宏美1)、谷口 皇絵1)、岡村 弥妃1)、 嶺1)、古賀 康平1)、松本 将太1)、 由衣1)、橋谷 智子1)、濱野 裕太1)、 大貴1)、金 相赫1)、山野 智基2)、 長秀2)、冨田 尚裕2)、田村 和朗1) 1)近畿大学大学院 総合理工学研究科 理学専攻 2)兵庫医科大学 外科学 下部消化管外科 【 目 的 】リ ン チ 症 候 群( L S )は 主 に ミ ス マ ッ チ 修 復 (MMR)遺伝子(MLH1, MSH2, MSH6, PMS2)の生殖 細胞変異により、大腸癌・子宮体癌をはじめとする関 連癌が高率発生する常染色体優性遺伝の症候群であ る。PMS2 変異による子宮体癌は稀で、関連癌発生率 も比較的低い。遺伝子解析は患者の経済・精神的負担 を伴うため、PMS2 変異の効率的識別は重要である。 MMR 蛋白の免疫組織化学(IHC)は高感度で変異遺伝 子を予測でき、スクリーニング法として重用されて いるが、精度限界がある。MLH1 プロモーター高メ チル化(MLH1-PHM)による MLH1 蛋白の不定発現が IHC 特異度を低下させる主因で、メチル化分析で鑑別 される。MLH1 蛋白は PMS2 蛋白と択一的に結合し、 PMS2 蛋白は MLH1 蛋白に特異的に結合して機能的 二量体を形成する。よって PMS2 変異例は PMS2 蛋白 の単独欠損(IL-PMS2)、MLH1 変異や MLH1-PHM 例 はMLH1・PMS2両蛋白の欠損、を呈すのが典型であ る。しかし、IL-PMS2の陽性的中率は低く、IL-PMS2 にはMLH1-PHM例が内在するとの仮説を立てた。ILPMS2とMLH1-PHMとの関連を明らかにし、無用な 遺伝子解析を回避する手順を整えること、を研究目的 とした。 【方法】当院で診療した子宮体癌患者360人の腫瘍組織 に MMR 蛋白に対する IHC を施行し、IL-PMS2の8例 にメチル化分析と遺伝子解析を追加した。 【成績】IL-PMS2の8例中4例に MLH1-PHM を認め た。MLH1-PHM 例に MMR 遺伝子変異は検出せず、 MLH1蛋白の不均一発現を認めた。MLH1-PHM 陰性 の4例中1例に PMS2 変異を検出し、MLH1蛋白は正 常発現であった。 【結論】IL-PMS2には MLH1-PHM 例が含まれており、 メチル化分析と MLH1蛋白の発現性で一部散発癌の分 別が可能である、と考えた。 【背景】大腸がん組織でのマイクロサテライト不安定 性(microsatellite instability: MSI)の検出は、DNA ミ スマッチ修復(MMR)遺伝子の生殖細胞系列変異に よっておこる Lynch 症候群のスクリーニング検査とし て、また治療法選択の情報としての意義を持つとさ れる。MSI の検出には、1997年に米国国立がん研究 所(NCI)の国際ワークショップで二塩基反復配列マー カー3種を含む5種のマーカーパネル(NCIパネル)が 推奨され、判定の統一基準が設けられた。その後2002 年には、より感度が高いことなどから、一塩基反復 配列マーカー(Mono)についての推奨事項が追加され た。 【目的】 (1)日本人大腸がん組織での MSI の検出に関 して NCI パネル法と Mono を使った方法の検出率を比 較する。(2)MSI を有する大腸がんの特徴を、臨床病 理組織学的および遺伝学的観点から検討した。 【方法】本研究では、研究への協力を同意した大腸 がん患者のがん部組織および非がん部組織由来 DNA を対象に MSI の検出を行い、次の項目について検討 を行った。(1)NCI パネル法と2種の Mono(BAT25、 BAT26)を用いる方法(2 Mono法)による MSI の検出 率を比較した。(2)MSI を有する大腸がんの特徴を、 患者属性、解剖学的特性、組織病理学的特性、遺伝学 的特性(発癌関連遺伝子の変異およびプロモーター領 域メチル化の有無) から検討した。 【結果】 (1)140検体の解析で、MSI-H(NCI法)、MSI (2Mono法)の検出率はともに7.9%(11/140)で、判定 は一致した。NCI法で MSI-L と判定された5検体は、5 Mono 法ではいずれも MSS と判定された。(2)MSI 腫 瘍では、MSS 腫瘍に比較して proximal(盲腸、上行 結腸、横行結腸)の割合、por( 低分化腺癌)の割合、 DKK1 メチル化の割合、BRAF 遺伝子変異の割合が有 意に高かった。 【考察】MSIの検出率、MSI 腫瘍の特性に関しては 過去の報告と一致した結果が得られた。今後、一塩 基反復配列マーカーの種類を増やして MSI 検出率が 高まるかどうか検討するとともに、検体数を増やし て MSI 腫瘍の特徴について検討する。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 82 一般演題口演7[Lynch症候群2] O-7-1 O-7-2 MSH6 遺伝子に生殖細胞系列変異を認めたリン チ症候群に発生したMSS大腸癌 後天的な MLH1 プロモーター領域のメチル化を 認めた Lynch 症候群の一例 ○岡本 河村 松本 江口 石田 ○杉本 奈央1)、金子 景香1)、大亀 真一1)2)、 小松 正明1)2)、白山 裕子1)2)、横山 隆2)、 竹原 和宏1)2)、寺本 典弘3)、大住 省三1)4) しおり1)、山口 達郎1)、天木 美里1)、 英恭1)、中山 裕次郎1)、中野 大輔1)、 寛1)、堀口 慎一郎2)、高橋 慶一1)、 英孝3)、田夛 祐喜3)、岡崎 康司3)、 秀行4) 1)がん・感染症センター都立駒込病院 外科 2)がん・感染症センター都立駒込病院 病理科 3) 埼 玉医科大学ゲノム医学研究センター トランスレーショ ナルリサーチ部門 4)埼玉医科大学総合医療センター 消化管・一般外科 1)四国がんセンター 2)四国がんセンター 3)四国がんセンター 4)四国がんセンター 家族性腫瘍相談室 婦人科 病理科 乳腺外科 【背景】近年 Lynch 症候群のスクリーニング検査とし て、免疫組織化学染色(以下IHC)を用いたスクリーニ 【はじめに】リンチ症候群はミスマッチ修復(MMR) ングが提唱されている。IHC ではミスマッチ修復(以 遺伝子の生殖細胞系列の病的変異を原因とする常染色 下MMR) 蛋白である MLH1、MSH2、MSH6、PMS2の 体優性遺伝の疾患で、大腸癌や子宮内膜癌などの発 生率が高い。リンチ症候群に発生した腫瘍のほとん どはマイクロサテライト不安定性(MSI)を示すが、一 部の腫瘍ではマイクロサテライト不安定性を示さな い(MSS)場合もある。今回、MSS 大腸癌であったが MSH6 に生殖細胞系列の病的変異を認めたリンチ症候 群を経験したので報告する。 【症例】発端者は53歳女性で、51歳時に子宮内膜癌と 左卵巣癌にて腹式単純子宮全摘術+両側付属器切除術 が行われた。術後 Follow 中の CT 検査で横行結腸の壁 肥厚を指摘され精査加療目的に当科紹介となった。癌 家族歴として父に横行結腸癌・食道癌、叔父に大腸癌・ 肺癌、他方の叔父に睾丸癌・大腸癌、父方祖父に直腸 癌、祖母に膵癌、母に胆管癌、母方祖父に胃癌があり アムステルダム基準IIを満たしていた。精査の結果、 横行結腸癌 Stage IIと診断し横行結腸切除術(D3)を施 行した。最終診断はT, type2, 5.0×5.5㎝, tub2>tub1, pSS, int, INFb, ly1, v1, pPM(5.0㎝), pDM(5.5㎝), pN0(0/11)M0であった。切除検体から腫瘍と正常 粘膜を採取し MSI 検査を行ったが MSS であった。し かし濃厚な家族歴があることから、MMR遺伝子の免 疫組織化学染色を行ったところMSH6の発現低下を認 め、遺伝学的検査では MSH6 に生殖細胞系列の変異 を認めリンチ症候群と診断した。術後 Follow 中の下 部消化管内視鏡検査にて上行結腸に早期(tub1)を認め EMR 施行した。 【結語】MSH6 遺伝子に変異があるリンチ症候群の一 部には MSI 検査にて MSI を示さないことがあるため、 リンチ症候群を強く疑う臨床的特徴がある場合には MMR 遺伝子の遺伝学的検査を考慮する必要があると 考えられた。 発現を調べることで、MMR 遺伝子に生殖細胞系列の 変異を有する可能性がある患者を拾い上げることが出 来る。IHC で MLH1および PMS2の発現低下が見られ た場合、MLH1 の生殖細胞変異による可能性と MLH1 プロモーター領域のメチル化による発現低下の両方が 考えられるため、腫瘍組織の MLH1 プロモーター領 域のメチル化検査を行うことで Lynch 症候群を除外す る参考となる。 今回、子宮体がんの腫瘍組織 IHC で MLH1および PMS2蛋白がともに発現低下し、メチル化が認められ たにも関わらず、生殖細胞系列に MLH1 の病的変異 をみとめた症例を経験したため、報告する。 【症例】症例は40代で子宮体がんを発症した女性で、 既往歴には変形性股関節症がみられた。子宮体がん腫 瘍組織を用いて IHC を行った結果、MLH1と PMS2蛋 白の発現低下がみられた。Lynch 症候群関連腫瘍の家 族歴は、第1度近親者に50代発症大腸がん1例、第 2度近親者に発症年齢不明の胃がんを1例認め、アム ステルダム基準Ⅱを満たさなかった。患者の希望があ り、他施設に遺伝学的検査を依頼し、その後院内で腫 瘍組織のメチル化検査を実施した。結果、遺伝学的検 査では MLH1 の Exon5の大欠失が認められ、末梢血 レベルのメチル化は認められなかった。一方、腫瘍組 織では MLH1 プロモーター領域のメチル化が認めら れた。 【結語】Lynch 症候群のリスク評価には、腫瘍組織の IHC とメチル化検査に加え、家族歴の確認を行う重 要性が示唆された。 83 一般演題口演7[Lynch症候群2] O-7-3 O-7-4 婦人科癌と大腸癌を重複して発症した Lynch 症 候群疑いの3例 MSH6 に生殖細胞系列変異を認めたリンチ症候 群の発端者3例 ○下平 秀樹、高橋 雅信、石岡 千加史 ○山口 中山 堀口 田夛 東北大学加齢医学研究所・臨床腫瘍学分野 東北大学病院・腫瘍内科 同時性あるいは異時性に婦人科癌と大腸癌を発症し 達郎1)、天木 美里1)、河村 英恭1)、 裕次郎1)、中野 大輔1)、松本 寛1)、 慎一郎2)、高橋 慶一1)、江口 英孝3)、 祐喜3)、岡崎 康司3)、石田 秀行4) 1)がん・感染症センター都立駒込病院 外科 2)がん・感染症センター都立駒込病院 外科 3) 埼 玉医科大学ゲノム医学研究センター トランスレー ショナルリサーチ部門 4)埼玉医科大学総合医療センター 消化管・一般外科 た Lynch 症候群疑いの3例を報告する。 【症例1】42歳女性。父;33歳以降3回大腸癌切除。下 【はじめに】ミスマッチ修復遺伝子の生殖細胞系列の 腹部痛で発症し、子宮体癌の診断で子宮全摘および両 変異を原因とするリンチ症候群は大腸癌や子宮内膜癌 側付属器切除術、リンパ節廓清術を施行。術中所見に などの悪性腫瘍の発生頻度が高い。MSH6 が原因遺伝 て横行結腸癌を確認し、横行結腸切除術を追加され 子の場合、MLH1 や MSH2 と比較して、大腸癌の累 た。子宮体癌は pT1aN1M0, Stage IIIc, 横行結腸癌は 積罹患率が低く、子宮内膜癌の累積罹患率が高いこと pT3N1M0, Stage IIIbであり、子宮体癌に対する術後 が知られている。しかし、MSH6 が原因遺伝子のリン 補助化学療法が施行され、その後は再発なく経過観察 チ症候群の頻度は低く、本邦からの報告は少ない。今 中。DNA ミスマッチ修復(MMR)タンパク質の免疫組 回、当科で経験した MSH6 が原因遺伝子のリンチ症 織染色では、MLH1のみ陰性であった。MMR 遺伝子 候群の発端者3例を報告する。 の遺伝子検査を行い、MLH1 遺伝子にタンパク質切断 型の病的変異を認めた。 【対象】当科で扱ったリンチ症候群の内、MSH6 に生 殖細胞系列の変異を認めた発端者3例。 【症例2】44歳女性。母;46歳胃癌、母方叔母;50歳代 【結果】3例とも女性であった。アムステルダム基準 で大腸癌、子宮体癌。32歳時下行結腸癌で左半結腸小 IIを満たしていたのは、2例で、1例は父に膀胱癌の 腸部分切除術施行。腹痛と腹部膨満感にて救急搬送さ 既往があるのみであった。全例大腸癌の他に子宮内膜 れ、腹腔内に径15㎝の腫瘍と腹水貯留を指摘。左卵巣 癌に罹患し、1例は (左) 卵巣癌を認めた。大腸癌の発 卵管摘出術、子宮内膜掻爬術施行。腹膜播種あり。左 生年齢は51~58歳で、発生部位は2例が横行結腸癌、 卵巣は粘液腺癌、子宮は腺癌、術後に化学療法開始と 1例が直腸癌で、全例 Stage IIであった。子宮内膜癌 なり、2期的に子宮および付属器切除術が追加され の発生年齢は47~52歳で、組織型は全例 endometrioid た。卵巣は MSI-H。卵巣の MMR 免疫組織染色を提出 adenocarcinoma であった。2例は大腸癌に先行して 中。 MMR遺伝子検査に関するカウンセリングを予定。 子宮内膜癌を認めた。現在まで、3例とも癌の再発は 【症例3】32歳女性。父方叔母;20歳代で胃癌、弟; 認めていない。なお、未発症者男性1例を follow して glioma。22歳で不正出血があり、子宮内膜掻爬再検 いるが、47歳までにリンチ症候群関連腫瘍の発生を認 にて類上皮内膜腺癌 G1と診断。子宮温存の機能が強 めていない。 く、MPA 療法3コース施行するも、組織学的グレード 【結語】MSH6 に生殖細胞系列変異を認めたリンチ症 の上昇と筋層への浸潤を疑う所見あり。子宮全摘術、 候群の発端者3例を報告した。海外からの報告同様、 両側付属器切除術、リンパ節廓清施行。pT3N1M0, 子宮内膜癌の発生頻度は高いと考えられた。 Stage IIIc. 術後補助化学療法施行後、経過観察となっ た。29歳時に十二指腸癌と早期大腸癌を認め、膵頭 十二指腸切除術および早期大腸癌に対する内視鏡的切 除術が施行された。 MMR 免疫組織染色提出中。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 84 一般演題口演7[Lynch症候群2] O-7-5 当院におけるLynch症候群41例の臨床病理学的 特徴 ○中山 岡本 中野 宮木 祐次郎1)、山口 達郎1)2)、飯島 武2)、 しおり1)、天木 美里1)、河村 英恭1)、 大輔1)、松本 寛1)、高橋 慶一1)、 美智子2) 1)がん・感染症センター都立駒込病院 2) がん・感染症センター都立駒込病院 遺伝性腫瘍プロジェ クト 【背景】本邦において、遺伝性腫瘍診療ガイドライン が2012年に公開されて以来 Lynch 症候群(以下LS)の 認知度は高まってきたが、詳細な臨床病理学的特徴は いまだ明らかになっていない。 【目的】当院で経験した、大腸癌切除を契機に診断さ れた LS 例について臨床病理学的に検討した。 【対象】1996年から2016年までの間に、LS と遺伝学的 に診断された症例で、詳細な情報が得られた症例を対 象とし後方視的に解析した。 【結果】全例は13例で観察期間中央値は1212日(296- 11737)だった。原因遺伝子は MLH1が8例、MSH2 が 2 例 、M S H 6 が 3 例 だ っ た 。 マ イ ク ロ サ テ ラ イ ト不安定性(MSI)は12例で MSI-High であり、1例 で MSS だった。男:女=10︰3、年齢の中央値は56歳 (range 32-69)だった。腫瘍の局在は、右側結腸:左側 結腸:直腸が8︰3︰2で、臨床病期は Stage 0︰I︰II︰ IIIa︰IIIb︰IV=2︰3︰5︰3︰0︰0であった。組織では tub/pap: muc/por は11︰2であった。2型糖尿病の有 無は無︰有=12︰1だった。大腸癌診断時の腫瘍マー カーは、CEA の中央値は1.8( 1.1-6.7)で CA19-9が 19.4(5.2-164.4)だった。家族歴について、LS関連腫 瘍は大腸癌8例、子宮内膜癌1例であり、LS関連腫 瘍以外の腫瘍では膀胱癌2例、胃癌2例、膵癌2例、 肝細胞癌1例、肺癌1例、甲状腺癌1例、膠芽腫1例 があった。異時性の LS 関連腫瘍の発生について、異 時性大腸癌6例、子宮内膜癌6例、小腸癌3例、卵巣 癌・肝内胆管癌・腎盂癌が1例ずつであり、このうち 子宮内膜癌4例と卵巣癌1例は大腸癌の診断より以 前の発生だった(重複あり)。LS 関連腫瘍以外の腫瘍 は、胃癌3例、乳癌・膀胱癌・甲状腺癌が1例ずつだっ た。全例の5年 OS は100%、10年 OS は75%(95%信頼 区間; 12.8-96.1)で、再発を LS 関連腫瘍とした5年 DFS は92.3%(56.6-98.9)、10年 DFS は69.2%(16.3- 92.8) だった。死亡例は2例あり、死因は十二指腸癌、 胆管癌だった。 【結語】当院における Lynch 症候群の臨床病理学的特 徴を検討した。 85 一般演題口演8[基礎・症例・その他] O-8-1 O-8-2 MUTYH 遺伝子のexon 1~4領域におけるスプ ライスバリアント 大腸がん組織における TP53 遺伝子のアレル解 析 ○濱野 裕太、菅原 宏美、丹羽 由衣、橋谷 智子、 谷口 皇絵、岡村 弥紀、古賀 康平、松本 将太、 小野 嶺、金 相赫、田村 和朗) ○丹羽 由衣1)、谷口 皇絵1)、岡村 弥妃1)、 小野 嶺1)、古賀 康平1)、松本 将太1)、 菅原 宏美1)、橋谷 智子1)、濱野 裕太1)、 藤井 大貴1)、金 相赫1)、山野 智基2)、 松原 長秀2)、冨田 尚裕2)、田村 和朗1) 近畿大学大学院 総合理工研究科 理学専攻 1)近畿大学大学院 総合理工学研究科 理学専攻 2)兵庫医科大学 外科学 下部消化管外科 【目的】MUTYH 遺伝子は、塩基除去修復酵素として 働くDNAグリコシラーゼをコードしており、酸化ダ メージによる8-hydroxyguanine の不完全な複製から生 じる不適正塩基対の校正を行う。この遺伝子変異は、 大腸腺腫数100以上の大腸ポリポーシスもしくは99以 下の多発性大腸腺腫症を症状とする MUTYH 関連ポ リポーシス(MAP)の発症に関与している。本研究で は、MUTYH 遺伝子において最多のスプライスバリア ントが報告されている exon 1から exon 4の領域につ いて、どのようなスプライスバリアントが存在するか を検証した。 【方法】健常成人20名の末梢血から抽出した mRNA か ら cDNA を作成し、PCR 法により増幅させ、アガロー ス電気泳動によってスプライスバリアントの有無を 確認した。今回の検証では、exon 2からexon 4まで の345 bp の領域を解析できるようにプライマーを設 計した。また、スプライスバリアントの配列を DNA Sequence 解析により明らかにした。 【結果と考察】予想される345bp 長の PCR 産物と比較 して、3種類の異なる増幅断片 AS-I(378 bp、2/20サ ンプル)および増幅断片 AS-II(281 bp、20/20サンプ ル)と増幅断片 AS-III(196 bp、4/20サンプル)が確認 できた。AS-Iはexon 2とexon 3の間にintron 2の一部 (33 bp)が挿入されており、AS-IIはexon 3の一部(64 bp)が欠失し、AS-IIIはexon 3全体がスプライスアウ トされ exon 2と exon 4が直接つながっていることが それぞれ確認できた。各々のスプライシングは全て GT-AG ルールに合致していた。AS-II および AS-III に よって、フレームシフトによる MUTYH 遺伝子産物 の合成中断が生じていると考えられた。 【背景】家族性腫瘍 Li-Fraumeni 症候群の責任遺伝子 として同定されている TP53 遺伝子(以下 TP53 )は、 ヒトがん組織の約50%でも遺伝子変異が検出されて いるがん抑制遺伝子である。TP53 の変異はミスセン ス変異や一方のアレル欠失(ヘテロ接合性消失 loss of heterozygosity:LOH)が高頻度に認められる。大腸が んの発生や進展には複数の遺伝子変異が多段階の過程 で蓄積することが必要であり、腺腫の段階で APC の 異常や KRAS 変異が起きており、腺腫から癌へ転換 する際 TP53 の異常が重要とされる。 【目的】臨床的背景が明確な大腸がん組織において、 TP53 の異常、特にアレル欠失に注目して大腸がんの 特徴を検討する。 【方法】研究に協力の同意した大腸がん患者の非が ん 部 組 織 由 来 D N A お よ び が ん 部 組 織 を 対 象 と し た。TP53 exon 4に頻度が高い一塩基多型(codon72, rs1042522, G/C)が報告されており、この SNP を用い てアレル欠失(LOH)の有無を調べる。非がん部組織 由来 DNA において、ヘテロ接合であった検体のがん 部組織の rs1042522の接合性を調べ、LOH を判定す る。 【 結 果・考 察 】5 7 検 体 の 非 が ん 部 組 織 由 来 D N A の rs1042522の接合性は、C/C ホモ接合8検体(14.8%)、 G/G ホモ接合25検体(46.3%)、C/G ヘテロ接合21検 体(38.9%)であった。この遺伝子型頻度は、HapMap の JSNP のデータと有意な差はみられなかった。この C/Gヘテロ接合検体のがん部組織の rs1042522の接合 性を同方法で解析したところ、3検体で LOH が認め られた。この3検体の内、1検体はCアレル保持、2 検体はGアレル保持していた。Gアレル保持の1検体 は、DKK3、APC のメチル化が、もう1検体は、DKK3 のメチル化が確認されているが、両検体には DKK3、 APC、BRAF、KRAS の変異、MSIはなかった。Cア レル保持検体はこれらの遺伝子のメチル化、変異、 MSIはなく、多段階発がんとは異なった経路が示唆さ れた。今後、exon 5~8の変異解析を加え、TP53 のア レルと大腸がんの特徴を精査する。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 86 一般演題口演8[基礎・症例・その他] O-8-3 O-8-4 希な Turcot 症候群の2例 MSH6 の生殖細胞系列変異により Lynch 症候群 と診断された体下部発生子宮体癌の1例 ○山本 真義、倉地 清隆、原田 岳、原 竜平、 石松 久人、美甘 麻裕、小坂 隼人、川村 崇文、 石川 慎太郎、今野 弘之 ○安達 将隆、阪埜 浩司、増田 健太、矢野 倉恵、 飯島 茂異人、竹田 貴、小林 佑介、山上 亘、 冨永 英一郎、平沢 晃、菅野 康吉、青木 大輔 浜松医科大学 下部消化管外科 家族性大腸腺腫症(FAP)合併する腫瘍性病変として 慶應義塾大学医学部産婦人科 栃木県がんセンター研究所がん遺伝子研究室・がん予防研 究室 子宮体下部(lower uterine segment; LUS)から発生 は脳腫瘍、デスモイド腫瘍、甲状腺癌、副腎腫瘍、肝 する子宮体癌の約29%が MSH2 の生殖細胞系列変異 芽腫などがあり、脳腫瘍を合併したものTurcot症候群 (germline mutation)による Lynch 症候群との報告が と定義される。今回我々は、Turcot 症候群の脳腫瘍病 あるが、これまで MSH6 の germline mutation により 変として非常に希な頭蓋咽頭腫の症例と、Turcot 症 LUS に発生した子宮体癌は国内外を問わず報告され 候群に甲状腺癌を合併した症例を経験したので、若干 ていない。今回我々は、MSH6 の germline mutationを の文献的考察を加えて報告する。 認め、Lynch 症候群と診断された LUS 発生子宮体癌 【症例1】34歳女性。24歳時に FAP と診断された。27 を経験したので報告する。症例は46歳、未経妊未経 歳時の大腸内視鏡検査にて、多発する大腸ポリープの 産。不正性器出血を主訴に受診された。既往歴に39 一部に癌化が疑われ、大腸全摘術を施行。病理学的に 歳時大腸癌があり、家族歴では、父親が75歳で大腸 は中分化型管状腺癌と診断された。翌年、左視力低下 癌、父方祖母が74歳で膵臓癌に罹患していた。画像 が出現し当院眼科受診。精査の結果、鞍上部の頭蓋咽 検査上、子宮体部や底部の内膜肥厚や筋層浸潤は明ら 頭腫の診断にて、腫瘍摘出術+術後サイバーナイフを かでなく、腫瘍は LUS に限局していた。子宮内膜組 施行した。その後、32歳時に残存直腸粘膜に再発が認 織診で類内膜腺癌 G1 が検出されたため、子宮体癌の められ、腹会陰式直腸切断術を施行。その後も局所再 診断で、腹腔鏡下子宮全摘術、両側付属器摘出術およ 発に対して化学放射線療法を行っていたが、34歳時に び、骨盤リンパ節郭清術を施行した。摘出検体におい 原病死された。 ても腫瘍は子宮峡部付近に限局していた。術後病理検 【 症 例 2 】2 9 歳 男 性 。 3 歳 時 に 当 科 で FA P の 家 系 査結果は類内膜腺癌 G1、FIGO stage(1)A であった。 と指摘され、外来で経過観察されていた。12歳時 本症例はアムステルダム基準 (2) を満たさないものの、 に嘔吐、頭痛、歩行障害が出現。精査の結果、小 家系内に Lynch 症候群関連腫瘍を認め、改訂ベセスダ 脳腫瘍の診断にて開頭腫瘍摘出術を施行した。病 基準を満たしていたため、マイクロサテライト不安定 理学的に小脳髄芽腫と診断された。術後化学療法 性 (MSI) 検査を施行した。検査結果は MSI 陰性であっ (VCR+CBDCA→VP6+CBDCA x3)+後頭蓋窩・全脳 たが、ミスマッチ修復遺伝子の遺伝子検査を施行し 全脊髄照射56Gy を施行した。その後26歳時に腹腔鏡 たところ、MSH6 遺伝子変異 (c.3013C > T, p.R1005X) 下大腸全摘術、および甲状腺乳頭癌に対して甲状腺亜 を認め、Lynch 症候群と診断された。当院では MLH1 全摘術、頸部リンパ節郭清を施行した。大腸ポリープ の germline mutation により Lynch 症候群と診断され はいずれも tubular adenoma で、明らかな腺癌の所見 た LUS 発生子宮体癌も経験している。従って、LUS は認めなかったが、甲状腺癌は FAP に特徴的と言わ 発生子宮体癌は MLH1、MSH2、MSH6 のいずれのミ れる篩状ーモルラ型乳頭癌(cribriform-morular variant スマッチ修復遺伝子の germline mutation でも生ずる of papillary carcinoma)と診断された。現在外来にて ことが明らかとなった。 経過観察中である。 87 一般演題口演8[基礎・症例・その他] O-8-5 O-8-6 当院で経験した Peutz-Jeghers 症候群の8例 子どもの発症をきっかけに始まったリ・フラウ メニ症候群の遺伝カウンセリング ○河村 中山 高橋 桑田 ○ 望木 郁代、宮﨑 綾子、中谷 中 英恭1)、山口 達郎1)、天木 美里1)、 祐次郎1)、中野 大輔1)、松本 寛1)、 慶一1)、田畑 拓久2)、大西 知子2)、 剛2)、小泉 浩一2) 三重大学医学部医学・看護学教育センター 三重大学医学部産婦人科 三重大学医学部附属病院オーダーメイド医療部 1)がん・感染症センター都立駒込病院 外科 2)がん・感染症センター都立駒込病院 消化器内科 【背景】Peutz-Jeghers 症候群(PJS)は皮膚、粘膜の色 【はじめに】リ・フラウメニ症候群では、家族性にがん 素沈着と消化管に多発する過誤腫性ポリープを特徴と が多発する。今回、小児期に発症した患者をきっかけ する、常染色体優性遺伝疾患であり、消化器、その他 に、その同胞、両親、両親の同胞へと遺伝カウンセリ の臓器を含めた種々の悪性腫瘍発生の高リスク群であ ングを提供した経験について報告する。 る。今回、当院で経験した PJS の8例を報告する。 【症例】発端者は8歳男児、副腎皮質がんで摘出手術 【対象】皮膚、粘膜の色素沈着、消化管の過誤腫性ポ を行う。続いて、2歳の弟が横紋筋肉腫を発症。両者 リープ、家族歴から PJS と診断され、当院で治療を の LFS を疑い TP53 遺伝子検査を実施したところ、病 行った症例を対象とした。 的変異 c.736A>G(p. Met 246 Val)が検出された。こ 【結果】サーベイランス開始時年齢は7-30歳(平均17.4 歳)であった。 男性は6例で、女性は2例であった。 のため、de novo の変異とは考えにくく、家系内調査 を開始した。 8例のうち4例、2例はそれぞれ同一家系であった。 【結果】遺伝カウンセリングにおいて、変異遺伝子を 1例のみ家族歴がない症例があった。消化管過誤腫性 有するリスクがある近親者が遺伝学的検査を行うこと ポリープは大腸に全例見られた。STK11 の遺伝子検 のメリット、デメリット等の情報提供を行った結果、 索に関しては1例のみ施行されており、その症例は いずれも未発症の患者の同胞、両親、両親の同胞で遺 STK11 変異を認めた。8例中5例に悪性腫瘍発症を 伝学的検査を実施した。 認め、発症年齢は32-52(平均43歳)であった。悪性腫 【まとめ】遺伝性腫瘍の場合、年長者、両親が発症し 瘍を発症した5例中4例は癌死であった。消化管由来 た後、次世代の発症リスクを考えながら遺伝カウンセ の悪性腫瘍発生は1例のみで、発症部位は胃であっ リングを実施することが多い。今回は、子どもでの発 た。その症例は粘膜内癌であり、ポリペクトミーで完 症が先行し、未発症の両親は子どもへの遺伝に対する 全切除できており、予後には影響を与えなかった。 罪悪感、また自身のリスクへの不安、近親者への配慮 【結語】PJS 患者は悪性腫瘍発症高リスク群であり、 といった複雑な心理状態を抱えながら遺伝カウンセリ 悪性腫瘍が予後に寄与するため、適切なサーベイラン ングを受けることとなり、一層の心理的サポートが必 スを必要となる。 要とされた家族例であった。 88 一般演題口演8[基礎・症例・その他] O-8-7 VHL 病における厚労省班会議の活動とゲノム医 療の展開 ○高柳 俊作、武笠 晃丈、中冨 浩文、菅野 洋、 矢尾 正祐、執印 太郎、齊藤 延人 東京大学医学部脳神経外科 国際医療福祉大学熱海病院脳神経外科 横浜市立大学泌尿器科 高知大学医学部泌尿器科 【はじめに】VHL(von Hippel-Lindau)病は、遺伝性腫 瘍疾患の1つであり、中枢神経系血管芽腫だけでな く、網膜血管腫、腎腫瘍、褐色細胞腫など、多臓器に 腫瘍が、若年性に発生する疾患である。原因遺伝子と して、癌抑制遺伝子の1種である VHL 遺伝子が同定 されている。発症頻度は、35,000人に1人程度と、稀 な疾患であり、日本における患者の疫学は、最近まで わかっていなかった。 【VHL病班会議】日本における疫学解明のために、厚 生労働省難治性疾患克服研究事業「フォン・ヒッペルリ ンドウ病の病態調査と診断治療系確立の研究」班(以 後、VHL病班会議)が中心となって、平成12年~14年 と平成21年~23年の2回、全国疫学調査が行われた。 全国で300人近くの患者が対象となり、中枢神経系血 管芽腫に関してみると、手術の回数が増えるたびに、 Performance status が悪化している事などが判明した。 これらの結果などに基づいて、VHL 病班会議では、 VHL 病診療ガイドライン、重症度分類を作成し、今 後は患者会と連携して患者登録も行っていく方針であ る。 【ゲノム医療の展開】VHL 病は、早期に診断し、腫瘍 の早期発見・早期治療に努めることで、正常人と大き く予後は変わらない。その為、当科では、VHL 病に 対して、遺伝子診断に基づいた医療(ゲノム医療) を展 開する院内体制を整備してきた。この際に、特に重要 としてきたのは、 (1)正確な遺伝子診断技術の確立 (2) 患者・家族に対する遺伝カウンセリング(3)脳外科だけ でなく、泌尿器科など、複数科との連携体制の確立で あった。 【今後の展望】現在、患者会からの強い要望もあり、 患者さんやご家族の負担を少しでも減らすために、患 者会と連携して、医療助成が受けられる難病認定を目 指している。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 89 一般演題ポスター1[遺伝性乳がん卵巣がん] P-1-1 P-1-2 遺伝性乳癌卵巣癌症候群における BRCA1/2 遺 伝子変異予測モデルの比較 偶発的に発見された BRCA1 遺伝子変異を有す る直腸癌の1例 ○横井 左奈、佐原 知子、梅田 果林 ○西村 誠一郎、浄住 佳美、堀内 泰江、 山川 雄士、絹笠 祐介、松林 宏行、楠原 正俊、 山口 建 千葉県がんセンター 遺伝子診断部 遺伝子診療科 千葉県がんセンター 研究所 がんゲノムセンター 【背景】遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast 静岡県立静岡がんセンター 乳腺外科、 静岡県立静岡がんセンター 大腸外科 静岡県立静岡がんセンター 内視鏡科 静岡県立静岡がんセンター 研究所 and ovarian cancer syndrome ; HBOC)は、BRCA1/2 遺伝子の生殖細胞系列変異を原因とする疾患であり、 常染色体優性遺伝形式をとり、乳癌や卵巣癌等の罹患 リスクが上昇する。日常診療の中で遺伝リスクを評価 することは、乳癌術式の選択や、未発症保因者に対す る検診やリスク軽減手術の選択等の個別化医療の実践 に重要であるが、遺伝情報を知ることの影響や遺伝学 的検査が自費診療である点から、実施には慎重を要す る。遺伝子変異予測モデルは遺伝学的検査を受ける際 のリスク評価として欧米では広く用いられているが、 日本人への妥当性は明らかになっておらず、適切な カットオフ値も不明である。 【目的】生殖細胞系列における BRCA1/2 遺伝子の病 的変異を保有する可能性の高い「高リスク症例」を同定 するための変異予測モデルのカットオフ値を設定す る。 2014年1月より、当院では、臨床研究として、手術 施行された各癌腫に対して、次世代シークエンサーを 用いて、全ゲノムシークエンス解析を行い、癌の特性 に関する遺伝子の解析を行なっている(プロジェクト HOPE)。当研究で体細胞系列の変異遺伝子、生殖細 胞系列の変異遺伝子が少なからず検出されている。生 殖細胞系列の遺伝子変異は1-3%検出されており、 循環器系疾患、遺伝性腫瘍に関わる変異遺伝子が見つ かっている。研究参加同意取得時に結果開示の希望の 有無を確認し、開示希望がある方に対しては、臨床遺 伝専門医、認定遺伝カウンセラーが結果開示を行なっ ている。今回、直腸癌症例で偶発的に BRCA1 遺伝子 変異が確認されたので報告する。 69歳男性、局所進行直腸癌にて他院で、化学放 【対象】2014年11月~2016年2月に当院にて BRCA1/2 射線療法を施行されたのち、当院で、ロボット支 遺伝学的検査を実施した29人を対象とした。このう 援 下 腹 腔 鏡 下 内 肛 門 括 約 筋 切 除 術( D 3 )施 行 。 術 ちBRCA1 変異陽性者1人、BRCA2 変異陽性者6人で 後、補助化学療法(XELOX)を6コース行なったの あった。 【方法】遺伝診療の際に実施した発端者の病歴と家 族歴に基づき、a. Myriad table、b. BRCAPRO、c. KOHBRA study の3種類の変異予測モデルから遺伝 子変異保有率を算出し比較した。また3種類のモデル の合計値を MBK score と定義した。 【結果】各モデルの ROC 曲線に基づくカットオフ値は a. 12.1、b. 44.25、c. 40.0であり、AUC 値はa. 0.867、 b. 0.987、c. 0.963であった。陽性的中率は a. 100%、 b. 85.7%、c. 80.0%であり、陰性的中率は a. 88%、 b. 100%、c. 95.2%であった。MBK score の ROC 曲線 に基づくカットオフ値は123.5であり、AUC 値は1で あった。 【考察】各変異予測モデルに算入する臨床因子は異な るためいずれのモデルも推定には限界があった。単独 では BRCAPRO の診断精度が高かったが、MBK score ち、現在、経過観察中である。手術時に研究同意が 得られていたため、遺伝子解析を行なったところ、 BRCA1 遺伝子変異(missense : cGg/cAg : R1699Q)が 確認された。ClinVar には過去8件の報告があり、3 件がPathogenic、4件が Likely Pathogenic、1件が Uncertain Significance で病的変異が強く示唆されてい る。当初開示希望はなかったが術後担当医より再確認 したところ、開示希望ありとのことで、結果開示を行 なった。再度、家族歴を聴取したが、父、兄に胃癌罹 患歴があるものの、乳癌、卵巣癌の罹患者は認めず、 HBOC 家系を疑う家族歴はなかった。今後、希望が あれば、再検査 (商業ベース) を行う予定で、遺伝子変 異が確定した場合は、子供 (男性2名) にも、希望があ れば遺伝子検査を検討している。 近い将来、遺伝子解析が普及していけば、偶発的に が最も精度が高く、日本の家族性腫瘍診療にも有用で 変異遺伝子が発見されるケースが少なからず認めら あると考えられた。 れ、その対応を検討しておく必要がある。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 90 一般演題ポスター1[遺伝性乳がん卵巣がん] P-1-3 対応に苦慮した2症例から学ぶ今後の HBOC 診 療の課題について ○後藤 理紗1)、有賀 智之1)、堀口 和美1)、 砂田 由梨香2)、柿本 應貴3)、桃原 祥人4)、 山下 年成1)、黒井 克昌1) 1)がん・感染症センター都立駒込病院 外科 (乳腺) 2)がん・感染症センター都立駒込病院 看護部 3)都立大塚病院 外科 4)都立大塚病院 産婦人科 駒込病院では2011年に HBOC カウンセリング外来 を開設し、乳腺外科医と乳がん看護認定看護師を中心 として、HBOC に関する診療を行ってきた。今回2015 年度に経験した2症例を振り返り今後の HBOC 診療 についての課題を検討する。 症例1. 28歳女性。母(60歳、中国地方在住)が両側乳がん に罹患したことを契機に遺伝学的検査を施行し、 BRCA1 に病的変異を認めた。シングルサイト検査を 行い、同変異を認めたが都内へ転居となり、今後のス クリーニング目的の紹介状と遺伝学的検査結果を持参 して、駒込病院の通常の乳腺外来を受診した。カウン セリングを再度行い、BRCA 遺伝子変異保因者におけ るリスクや診療における特殊性などをご理解いただ き、適切なフォローアップを提供することとなった が、来院に至るまでに最も困ったことは 『どこの病院 で見てもらえるかわからなかったこと』 であった。 症例2. 東南アジア出身の36歳女性。大塚病院で右乳がん, 卵巣腫瘍の診断で手術予定となった。ご本人は乳房温 存術をご希望されていたが、姉に乳がんの既往がある こともあり、遺伝学的検査結果を踏まえての術式決 定を希望し、駒込病院の HBOC 外来へ紹介となった。 しかし本人、付き添いの夫の日本語の理解力は日常会 話程度であり、英語でのカウンセリングが必要であっ たが術前であったため十分な準備期間も取れず対応に 難渋した。迅速の BRCA 遺伝子検査の結果 BRCA1 に 病的変異を認め、結果を術式決定に活用することが可 能であった。 課題と対策 未発症保因者に対するスクリーニングや遺伝学的検 査結果を基に治療法を考えることは HBOC 診療の重 要な役割であるが、未発症保因者は若年層も多く、昨 今の国内状況を鑑みるに在日外国人が本邦国内での治 療を希望されるケースも増加が見込まれ、日本語が十 分に理解できないクライアントに対する対応も喫緊の 課題であると考えられた。今後は HBOC 診療を行っ ている病院間の連携を強化するとともに、日本語によ る説明が難しい人に対する対応も考慮していく必要が あると考えられた。 P-1-4 他施設連携を含めた集学的治療を行った HBOC の一例 ○高畠 大典、大石 一行、池田 久乃 高知医療センター 乳腺甲状腺外科 近年 HBOC に対する社会的認知の向上により、乳 癌患者に対する家族歴の聴取、遺伝カウンセリングを 行う事は日常診療の一部となりつつあるが、市中病院 で HBOC 患者に対して集学的アプローチが可能な体 制を整備している施設は決して多くはない。今回、当 院で HBOC と診断し、他施設とも連携した治療を試 みた症例を提示する。 【症例】 31歳女性、授乳中に右乳房に急速に増大する腫瘤 を主訴に当院を受診。精査の結果 TN 乳癌 T2N0M0 stageⅡA と診断された。アンスラサイクリン、タ キサン逐次投与による術前化学療法を行ったが奏効 せず乳房切除術を行った。病理検査では metaplastic carcinoma、ER 陰性、PgR陰性、HER2 1+と診断 された。第2度近親者以内に乳癌、膵臓癌が複数存 在し、HBOC を疑い、遺伝子検査の結果、BRCA1 mutation が判明した。術後カルボプラチン+パクリタ キセルの化学療法を行ったが術後7ヶ月後に縦隔リ ンパ節再発を来たした。Bevacizumab, Eribulin 等の化 学療法を行ったが縦隔リンパ節の増大が続き同部へ のRT を行った。以降も鎖骨上リンパ節転移、肝転移 を来たし、他院との連携により PARP inhibitor の第3 相試験へ参加した。一時 PR が得られたが、4ヶ月後 に鎖骨上リンパ節が再増大し現在再び当院で同部へ の RT を行っている。 【考察】 医療者側や患者側の認知の向上により、市中病院で も乳癌診療を行う施設ではカウンセリングを含めた、 HBOC の集学的アプローチが必須となりつつある。 また潜在的な患者数も多いと思われ、診療体制の整っ た癌専門施設だけでの対応は今後困難になることが予 想される。今後少しでもより良い治療選択枝を提供す るためには複数施設間での連携も模索しつつ、データ の蓄積やエビデンスの創出に勤めることが必要と思わ れる。 91 一般演題ポスター1[遺伝性乳がん卵巣がん] P-1-5 P-1-6 17年間に亘って3回乳癌に罹患し、3回目にプロ ファイルの異なる乳癌を発症した BRCA1 遺伝 子変異陽性症例の報告 乳癌卵巣癌家族歴のない若年トリプルネガティ ブ乳癌に BRCA1 病的変異を認めた1例 ○堀口 和美、有賀 智之、後藤 理紗、井寺 奈美、 本田 弥生、宮本 博美、山下 年成、黒井 克昌 ○高橋 三奈、杉本 奈央、金子 景香、 清藤 佐知子、白山 裕子、大亀 真一、 竹原 和弘、青儀 健二郎、大住 省三 がん・感染症センター都立駒込病院 外科 独立行政法人国立病院機構四国がんセンター 乳腺科 独立行政法人国立病院機構四国がんセンター 婦人科 独立行政法人国立病院機構四国がんセンター 家族性腫瘍相談室 [症例] 現在50代の女性。X年に左乳癌に対し前医で 【症例】初診時32歳、女性。 左乳房部分切除+腋窩リンパ節郭清を施行。残存乳房 【既往歴】特記すべきことなし。 に照射後、経過観察中であった。X+2年、当科初 【家族歴】母が膀胱がんにて癌死、父方の祖母が大腸 診。右乳癌の診断で右乳房切除+腋窩リンパ節郭清、 癌。 組織拡張期挿入術を行った。病理結果は,浸潤径7?、 【現病歴】乳腺超音波検診にて要精査となり、近医 リンパ節転移なく ER(-)、PgR(-)、HER2( -)で より当科紹介受診。針生検にて浸潤性乳管癌、免疫 あった。5’DFUR 内服を開始したが、術後10ヶ月の 染色結果はER -、PgR -、HER2 1+のトリプル CT で肺転移が判明し、FEC 療法後 weekly docetaxel ネガティブであった。PET/CT検査にて病期はcT2、 投与を行った。ここで前医検体を再検し ER(-)、 N1, M0、cStage IIB と診断し、現在術前化学療法 HER2(-)を確認している。肺転移巣は一旦 CR とな (EC-DTX)施行中である。家族歴に乳癌卵巣癌を認 り、その後無治療経過観察中のX+16年、姉の卵巣癌 めなかったがご本人が若年のトリプルネガティブ乳 罹患をきっかけに当院にて遺伝子検査を行ったところ 癌であった為 HBOC(Hereditary Breast and Ovarian BRCA1、1434delG 遺伝子変異を認めた。その時点で Cancer)の情報提供を行い、遺伝カウンセリングを受 の乳房および婦人科スクリーニングで明らかな異常 けられた。遺伝子検査を希望され、結果は BRCA1 遺 所見を認めず、リスク低減手術施行可能な医療機関 伝子に病的変異を認めた。今後発端者には治療と並行 を受診したが,本人が手術を希望しなかった。X+17 してサーベイランスを、血縁者に対しては情報提供と 年、マンモグラフィで左乳房に区域性の微細線状分枝 サーベイランス等を行う予定である。 状の石灰化が出現し、精査の結果左乳癌と診断、左残 【まとめ】NCCN ガイドラインでは乳癌卵巣癌の遺伝 存乳房切除+組織拡張期挿入術を行った。病理結果は、 性アセスメントとして60歳以下のトリプルネガティブ 浸潤径24㎜、リンパ節転移なくER(-)、PgR(-)、 乳癌が家系の拾い上げ対象として記載されている。乳 HER2 3+であった。AC 療法後 weekly paclitaxel + 癌卵巣癌家族歴がなくとも特に若年のトリプルネガ トラスツズマブ投与を終えて、現在経過観察を継続中 ティブ乳癌を積極的に拾い上げることで発端者、血縁 である。 者のサーベイランスにつなぎ得ると思われた。 [考察] 本症例は BRCA1 に変異があり、17年間に亘っ て3回乳癌を発症している。1、2回目はいわゆる triple negative 乳癌であったが3回目は HER2 強陽性 であり、異なるプロファイルであった。BRCA1 変異 陽性例では triple negative 乳癌は27.7%、HER2 type は2.1%と報告されているが、家系内あるいは個々の 症例における乳癌のプロファイルに関する報告は殆ど ない。本症例を元に文献的考察を加え検討する。 92 一般演題ポスター1[遺伝性乳がん卵巣がん] P-1-7 家族歴の無い BRCA1 変異陽性乳癌治療例の経 験 ○北田 正博 旭川医科大学 外科学講座 呼吸器乳腺外科 【はじめに】 近年、BRCA1/2 検査が比較的一般化してきたが、 拾い上げ対象となるのは、若年者、両側乳癌、卵巣癌 との併発などに加えて、家族歴が重要である。今回、 BRCA1 陽性であった家族歴の無い若年姉妹の両側乳 癌症例を経験したので報告する。 【症例】 1) 初回経過︰35歳時に60㎜大の浸潤癌に対し術前化学 療法 (FEC followed by DTX)後、2009年2月乳房切除 術施行、病理は分泌癌、T3N1(6/12)、Triple negative type (以下TN type)、化学療法効果 Grade 0 であった。 術後、TS-1(100mg 2×/日)内服1年間、その後、再 発兆候なく経過観察中であった。2015年12月に定期検 査で右に25㎜大の腫瘤を認め、針組織診にて浸潤癌の 診断となった。腫瘍の性状からは乳房温存手術可能で あった。 2) 家族歴︰2歳年下の妹が2010年に両側乳癌発症、術 前化学療法後に乳房温存手術を施行した。病理診 断は、右側︰硬癌、T1cN0、TN type 化学療法効果 Grade 0、左側︰乳頭腺管癌 T1aN0、TN type、化学療 法効果判定 Grade 2a であった。術後 TS-1(100mg 2× /日)内服1年間、その後、現在まで再発転移の徴候は 認めていない。乳癌、卵巣癌、男性の前立腺癌等、第 3度近親者までの範囲で BRCA 関連腫瘍に罹患例は 無かった。 3)今回の経過︰術式の選択を含め、遺伝カウンセリ ング後に検査を施行、BRCA1 変異陽性の結果であり、 乳房切除術を施行した。化学療法後、乳房再建と卵巣 摘出の計画を立てている。また、妹も近く BRCA 検 査予定である。 【まとめ】 突然変異も考えられる本症例について、妹の検査結 果も踏まえ報告する。また、BRCA 変異陽性の結果が 術式に与える影響も考察する。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 93 一般演題ポスター2[家族性大腸腺腫症・Lynch症候群] P-2-1 P-2-2 術式選択に苦慮した家族性大腸腺腫症の1例 腸間膜デスモイドを経由し消化管穿孔した家族 性大腸腺腫症の1例 ○小野 千尋1)2)、安藤 正幸1)、西岡 良薫2)、 馬場 裕信2) ○問山 裕二、井上 靖浩、今岡 裕基、沖上 正人、 藤川 裕之、廣 純一郎、小林 美奈子、 大井 正貴、荒木 俊光、毛利 靖彦、楠 正人 1)東鷲宮病院 外科 2)草加市立病院 外科 三重大学大学院 医学系研究科院 消化管小児外科 症例は56歳男性で、家族歴は母姉弟が大腸腺腫症 症例は41歳、男性。5年前家族性大腸腺腫症に合併 (FAP)である。既往歴は出生時4000グラム程度の巨大 したS状結腸癌、十二指腸癌に対して、大腸全摘出 児で、1995年に糖尿病を指摘されインスリン療法を 術、J型回腸嚢肛門吻合、亜全胃温存膵頭十二指腸切 開始している。家族が FAP のため心配になり近医を 除術を施行されている。その後、近医にて経過観察 受診、FAP と診断され当院に紹介となった。初診時身 されていたが、下腹部膨満を主訴に当科紹介となっ 長174.7㎝、体重114㎏で空腹時血糖値440㎎/dLと糖 た。腹部 CT 検査で、上腹部ならびに骨盤内に腫瘍を 尿病(DM)のコントロール不良で腎症4期と診断され 認め、腹腔内デスモイドの診断にてスリンダックなら た。注腸造影検査・大腸内視鏡検査では大腸全体に3 びにタモキシフェンにて治療を開始した。しかし腫瘍 -10㎜程度の比較的小さなポリープが100個以上存在 の増大を認め、メトトレキセート+ビンブラスチンの し FAP と診断、上行結腸には20㎜程度の Isp ポリープ 抗癌剤治療を1年間施行した。上腹部ならびに骨盤内 を認め、生検の結果 adenocarcinoma の診断であった。 のデスモイドは縮小傾向を認め、スリンダックならび 担癌 FAP 症例であり手術適応と判断したが、内科で にタモキシフェンのみの治療に変更し、外来通院し DM のコントロール後手術を行うこととした。しかし ていた。平成28年1月、腹痛を主訴に受診し、WBC、 加療中も体重121㎏、HbA1c 8.1%と増悪を認めるな CRP の上昇と腹膜刺激症状を認め同日入院した。腹 どコンプライアンス不良で、早晩透析導入の可能性も 部 CT 検査で下腹部ならびに左上腹部に free air を伴 高いと判断されていた。重篤な合併症があること、肥 う腹水を認め、CT ガイド下ドレナージ術を施行し 満があること、直腸には比較的ポリープが少なく小型 た。炎症所見ならびに臨床症状の改善を認めたが、下 であることより、肛門機能温存大腸全摘は行わず、術 腹部の挿入したドレーンからは持続的に腸液の排出が 後の厳重な follow up を行うことを承諾の下、結腸全 認められた。外科的治療を念頭に、上腸間膜動脈造 摘回腸直腸吻合術(IRA)を行うこととした。2015年5 影、ドレナージチューブ造影、MR enterography を施 月腹腔鏡補助下に IRA を行った。術後経過は良好で 行した。下腹部デスモイドは上腸間膜動脈を巻き込む 9POD 退院となった。病理検査では上行結腸癌は深達 ように存在し、下部小腸がデスモイドに穿通し、デス 度 M の早期癌であった。大腸癌がある場合は手術の モイド内膿瘍を形成後、腹腔内に穿破した病態である 絶対適応であるとされ、腹腔鏡補助下肛門機能温存大 と診断した。開腹所見では、骨盤内に混濁した腹水を 腸全摘術が主流化しつつあるが、本症例のように合併 認めた。デスモイドと一塊となった回腸が存在し、デ 症が多くコントロール不良な症例では術後合併症回避 スモイド腫瘍表面にピイホール状の穴が存在し、小腸 のため過大手術は避けるべきではないかと考え術式選 液の流出を確認した。原因小腸をデスモイドより切 択に苦慮した。更に、retrospective ではあるが早期癌 除、デスモイド内膿瘍を開放し、口側小腸は単項式 であったことから、内視鏡治療による stage reduction 人工肛門とし、肛門側小腸は、粘液瘻とした。今回、 strategy が適応可能であったのではないかとも考えら Church の腹腔内デスモイド分類Ⅲの腸管膜デスモイ れる。諸先生方のご意見を伺いたく、若干の文献的考 ドに対して、保存的治療経過中に小腸が腸間膜デスモ 察とともに報告する。 イドに穿通、膿瘍形成後腹腔内に穿破した極めてまれ な病態を経験したので文献的考察を踏まえ報告する。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 94 一般演題ポスター2[家族性大腸腺腫症・Lynch症候群] P-2-3 小児肝芽腫治療後、 成人で家族性大腸腺腫症 (FAP)発端者と診断した一例 ○石川 慎太郎1)、倉地 清隆1)、山本 正義1)、 原 竜平1)、原田 岳1)、岩泉 守哉2) 1)浜松医科大学 第二外科学講座 下部消化管外科 2)浜松医科大学 第一内科 消化器内科 P-2-4 家族性大腸ポリポーシスの術後経過観察中に胆 嚢癌を生じた1例 ○田畑 拓久1)、小泉 浩一2)、桑田 剛2)、 山口 達郎3)、坂本 克考3)、本田 五郎3)、 堀口 慎一郎4) 1)がん・感染症センター都立駒込病院 内視鏡科 2)がん・感染症センター都立駒込病院 消化器内科 3)がん・感染症センター都立駒込病院 外科 4)がん・感染症センター都立駒込病院 病理科 症例は24歳男性。2歳時に肝芽腫と診断し、他施設 家族性大腸ポリポーシス(FAP)では、大腸癌以外の で肝左葉切除術を施行、術後化学療法(CDDP+THP- 諸臓器に様々な腫瘍性病変が発生することが知られ ADR)6コース施行し、現在まで無再発で経過観察で ているが、胆嚢癌の発生は極めてまれである。今回、 あった。2015年の健診 Hb:9.8g/dl と貧血を認め当院紹 FAP 大腸全摘後でサーベイランス中に発見された胆嚢 介受診。上部内視鏡検査で多発胃底腺ポリープを認 癌の一例を経験したので若干の文献的考察を加え報 めた。家族歴はないが、既往歴から FAP 合併を疑い 告する。症例は60歳代男性。25歳時、FAP に対して大 大腸内視鏡施行した結果、100個以上の多発腺腫とS 腸亜全摘術+回腸直腸吻合術を施行。2009年に施行し 状結腸 ・ 直腸早期癌を診断した。臨床学的に FAP と た上部内視鏡検査で十二指腸多発腺腫(Spiegelman病 判断し、腹腔鏡下大腸全摘術J型回腸嚢肛門吻合術 期分類stage IV)と乳頭部腺腫を認めたが手術の侵襲 を施行した。遺伝子検索では家系内に FAP 症例はな 性を考慮し経過観察の方針となった。また、小腸内視 く、本患者が発端者であった。FAP は大腸病変に加え 鏡検査では空腸,回腸にもポリポーシスを認め、十二 て随伴病変のスクリーニング・サーベイランスが生命 指腸腺腫,乳頭部腺腫とともに半年毎に内視鏡検査, 予後に重要である。FAP と肝芽腫の発生率は0.42%- CT、MRI による全身サーベインランスを継続してい 2.5%と比較的稀とされ、本邦の FAP 肝芽腫の合併例 た。2014年6月の CT、MRI では慢性胆嚢炎による軽 の報告は6例であった。FAP の家族歴がある場合は小 度胆嚢壁肥厚を認めるのみで明らかな悪性所見は認め 児期から経過観察の対象となるが、家族歴を有しない られなかったが、同年12月の CT、MRI にて胆嚢に著 場合には発見と診断が困難である。FAP 関連疾患を有 明な壁肥厚が出現した。急速な増大,臨床経過,画像 する小児患者では、早い段階での遺伝子検索や全身ス 所見より黄色肉芽腫性胆嚢炎が疑われたが悪性を否定 クリーニングが重要である。 できず胆嚢摘出術を施行した。病理組織学的には高度 の慢性胆嚢炎を背景にした中~高分化型腺癌の診断 で、漿膜下浸潤が疑われたため後日リンパ節郭清を含 めた追加手術が行われた。最終診断は pT3N0H0P0M (-)、Stage Ⅲの診断で現在術後補助化学療法中であ る。FAP に随伴した胆嚢腫瘍は本症例を含め14例と報 告が少なく、このうち胆嚢癌は3例と極めて稀であ り、ガイドラインでも胆嚢に関して推奨されるサーベ イランス方法は確立されていない。しかしながら、本 症例のような長期経過例においては小腸腫瘍や胆嚢腫 瘍などの稀な随伴腫瘍の発生にも注意が必要である。 FAP の術後サーベイランスにおいては定期的な腹部超 音波検査による胆嚢の評価を行い、胆嚢壁肥厚を認め た際には胆嚢癌を念頭に EUS、MRI 等での精査およ び悪性が否定できない場合には胆嚢摘出術を考慮すべ きと考えられた。 95 一般演題ポスター2[家族性大腸腺腫症・Lynch症候群] P-2-5 P-2-6 家族性大腸腺腫症の大腸切除術後20年以上を経 て残存腸管に腺癌を認めた2例 手術に難渋したリンチ症候群が疑われた多発大 腸癌の1例 ○下村 晋、溝部 智亮、村上 英嗣、弓削 浩太郎、 藤野 真也、長主 祥子、田尻 健亮、片桐 光浩、 衣笠 哲史、赤木 由人 ○小林 宏寿、安野 正道、植竹 宏之 久留米大学外科学講座 家族性大腸腺腫症(Familial Adenomatous Polyposis : FAP) は多くに大腸癌を併発し、大腸癌の発生率は10 歳代での報告もあるが40歳代でほぼ50%、放置すれば 60歳頃にはほぼ100%に達する。FAP の治療は手術で あり、一般に大腸癌を発生する前に20歳代で予防的大 腸切除術を受けることが多い。しかし近年、大腸切除 後でも残存腸管に癌が発生したとの報告散見されるよ うになった。今回、術後20年以上を経て、残存腸管に 再発癌をきたした2例を経験したので報告する。 【症例1】48歳、女性、1985年4月(23歳時)、FAP の 診断にて大腸全摘術(ileal pouch anal anastomosis: IPAA)施行。1999年腹腔鏡下イレウス解除術施行。 2002年単純子宮全摘術施行。2004年7月に小腸肛門吻 合部周囲に乳頭状の隆起性病変を認め経肛門切除生検 施行し no evidence of malignancy であった。2008年9 月再度肛門周囲に乳頭状の隆起性病変を認め再度経肛 門切除生検施行し tubular adenoma, low grade であっ た。2009年10月肛門縁より2㎝口側に villous type の polypoid lesion 認め、生検にて adenocarcinoma を検 出。家庭の事情で以後の治療は他院で行うこととし た。2010年1月他院にて腹会陰式直腸切断術、膣後壁 合併切除術を施行。術後病理にて腫瘍細胞は J-pouch 形成部より発生、回腸間膜内リンパ節は no metastasis であった。また膣後壁、左骨盤壁に浸潤を認め surgical margin 陽性であった。以後 UFT/UZEL 投与 にて経過観察中である。 【症例2】63歳、女性。1987年11月(43歳時) FAP の 診断にて大腸全摘術(IPAA)施行。2007年8月に肛 門痛を主訴に他院受診。直腸癌の診断で同院に緊 急入院した。肛門周囲皮膚浸潤を認めるも明らか な distant metaは 認めず、9月に回腸人工肛門造設 後、術前治療として化学放射線療法(FOLFOX 3コー ス+radiation 40Gy)施行された。その後12月に腹会 陰式直腸切断術を施行された。病理検査に residual adenocarcinomaの 診断となり、以後補助化学療法に て経過観察中である。 【考察】FAP の手術は大腸癌が発生する前に若年のう ちに施行され、その後のサーベイランスは長期にわた るものとなる。その間、医療側の都合や患者側の都合 などにより、施設が変わったり主治医が変わったりと 様々な状況の変化はやむを得ない部分がある。しかし 今回のように術後20年以上経過して残存腸管に癌が 再発する可能性もあるため、今後 FAP 症例を集積し、 適切な治療方針および長期におけるサーベイランスの 確立が望まれる。 東京都立広尾病院 外科 東京医科歯科大学大学院 消化管外科 東京医科歯科大学大学院 総合外科 【背景】リンチ症候群は大腸癌をはじめとする様々な 悪性腫瘍が発生する、ミスマッチ修復遺伝子の生殖細 胞系列変異を原因とする常染色体優性遺伝性疾患であ る。一般の大腸癌に比べ若年発症であり、同時性 ・ 異 時性に多発することで知られる。今回われわれは複数 回にわたる手術の影響で、手術操作に難渋したリンチ 症候群が疑われる多発大腸癌の1例を経験したので報 告する。 【症例】66歳、男性。 【家族歴】父方の兄弟8人中5人が癌死 (叔母40歳大腸 癌)。 【既往歴】43歳時、上行結腸癌にて結腸右半切除術施 行。その後、腸閉塞にて小腸部分切除術、小腸S状結 腸バイパス術施行。61歳時、胃癌にて幽門側胃切除術 施行。 【現病歴】下部消化管内視鏡検査にて多発癌を指摘さ れ当科紹介。脾弯曲部、S状結腸、直腸 Rb に病変を 認め、生検にていずれも中分化腺癌であった。多発大 腸癌の診断にて手術を施行した。高度の癒着のため剥 離に難渋したが、以前の小腸バイパス部から肛門側の 腸管を切除した。小腸直腸吻合を行ったが、低位での 吻合のため予定通り一時的回腸人工肛門を造設した。 術後イレウスとなり、保存的治療にて改善しないため 17病日イレウス解除術施行した。その後は経過良好に て37病日退院となった。 【考察】本症例ではアムステルダム基準Ⅱや改訂ベセ スダガイドラインからはリンチ症候群が疑われ、正常 粘膜、癌組織ともに免疫染色にて MLH1(-)であっ た。退院後に遺伝カウンセリングを施行したが、患者 の希望にて遺伝子検査は施行しなかった。しかしなが ら、今後もリンチ症候群関連腫瘍に対するサーベイラ ンスは必要と考える。 【結語】リンチ症候群では複数回の開腹手術の影響で、 高度な癒着を認める場合も多く、手術の長時間化等に ついて術前に患者に説明することが重要である。ま た、遺伝子検査を受けない患者においても、リンチ症 候群関連腫瘍に対するサーベイランスの必要性を十分 理解してもらう必要がある。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 96 一般演題ポスター2[家族性大腸腺腫症・Lynch症候群] P-2-7 子宮内膜癌を契機に確定診断に至ったリンチ症 候群の1例 ○鈴木 興秀 武蔵野赤十字病院 外科 P-2-8 異時性の進行空腸癌を合併したリンチ症候群の 1例 ○田顔 夫佑樹、千野 晶子、上野 雅資、 井上 陽介、新井 正美、石川 寛高、 森重 健二郎、岸原 輝仁、斎藤 彰一、 為我井 芳郎、五十嵐 正広 がん研有明病院 消化器内科 がん研有明病院 大腸外科 がん研有明病院 肝・胆・膵外科 がん研有明病院 遺伝子診療部 【はじめに】リンチ症候群(Lynch syndrome ; 以下、 LS と略記)は、ミスマッチ修復(mismatch repair ; 以 下、MMRと略記)遺伝子の生殖細胞系列変異を原因 【症例】55歳、男性。 【既往歴】43歳、盲腸癌 pStage (回盲部切除術、前 I 医)。 とする常染色体優性遺伝の疾患群で、原因遺伝子とし 【家族歴】父 大腸癌、叔母 小腸癌、叔父 胃癌。 て MLH1、MSH2、MSH6、PMS2 などが同定されて 【現病歴】回盲部切除後5年目頃より腹部不快感を自 いる。子宮内膜癌は大腸癌に次いで浸透率の高い LS 覚するも前医での画像検索上は特記すべき異常は指摘 関連腫瘍であり、近年,わが国においてもその重要性 されず。6年目に嘔吐も認めるようになり、6年4ヶ が報告されつつある。今回、子宮内膜癌を契機に LS 月目に腸閉塞症状および貧血の精査目的に前医で施行 の診断に至った1例を経験したので報告する。 した小腸内視鏡で遠位空腸に全周性の2型病変を指摘 【症例】症例は39歳、女性.不正出血を主訴として当院 され、当院消化器外科に紹介初診。アムステルダム基 紹介、子宮内膜癌と診断された。26歳時に直腸癌で手 準(2)では5項目中3項目しか該当しないものの、改 術加療を受けた既往歴に加え、母が子宮内膜癌、母方 訂ベゼスタガイドラインでは3項目を満たすことから の祖母に異時性大腸癌の家族歴を有しており、LS で リンチ症候群が疑われた。その後に空腸部分切除術を ある可能性が示唆された。外科、泌尿器科、乳腺科 施行、切除標本の免疫染色で MSH2 と MSH6 の欠失 等にコンサルトし、各科における LS 関連腫瘍のスク を認め、血液検査にて MSH2 遺伝子変異を確認して リーニングを行ない、関連癌の合併なきことを確認し リンチ症候群と診断。pStage Ⅱのため大腸癌に準じ た上で子宮腟上部切断術を施行した。病理組織学的 て術後補助化学療法は施行せず、上下部消化管内視鏡 診断は、分化度 G2 類内膜腺癌で,病期は FIGO stage 検査および腹部骨盤造影 CT で明らかな再発なく経過 IA であった。免疫組織化学染色検査でミスマッチ修 していたが、54歳時に臍周囲痛と背部の鈍痛を主訴に 復タンパクの発現評価を行ったところ、子宮内膜癌 前医でカプセル内視鏡を施行し近医空腸癌が疑われた に加えて26歳時に切除された直腸癌病変においても、 ため、当院で小腸内視鏡再検、トライツ靱帯近傍の近 腫瘍部における MSH2/MSH6 タンパクの発現欠失が 位空腸に全周性の2型病変を認め、再度空腸部分切除 認められた。また、マイクロサテライト不安定性検 術を施行した。病理診断は今回も pStage Ⅱで現時点 査(MSI検査)においても、高度マイクロサテライト まで無再発生存しており、カプセル内視鏡も含めて今 不安定性(MSI-H)であった。専門機関における遺伝 後も全消化管のサーベイランスを継続していく方針で カウンセリングを経て遺伝学的検査を施行したとこ ある。 ろ、MSH2 のExon7に既知のナンセンス変異が確認さ 【まとめ】本例は盲腸癌術後に異時性の進行空腸癌を れ LSの確定診断に至った。現在、LS のサーベイラン 合併したリンチ症候群の症例である。医学中央雑誌で スを継続中であるが,関連癌の発症はなく経過されて 検索した限りリンチ症候群を背景に発症した小腸癌の いる。 本邦報告例自体も少なく、本症例は異時性の小腸癌を 【考察】LS関連腫瘍は多臓器で認められるため、関連 する診療科の医療スタッフが LS に関する共通の認識 を持ち連携することでより LS を拾い上げの効率性を 高めることができる可能性が示唆された。 手術にて救命しえた極めて稀な症例であり、文献的考 察も踏まえて報告する。 97 一般演題ポスター3[スクリーニング] P-3-1 P-3-2 遺伝性腫瘍リスク拾い上げのための遺伝に関す る問診票活用 若年乳癌、両側乳癌症例からみた遺伝性乳癌の 可能性 ○日下 咲1)、松本 光史2)、足立 洋子1) ○井上 慎吾1)、中込 さと子2) 1)兵庫県立がんセンター 看護部 2)兵庫県立がんセンター 腫瘍内科 1)山梨大学 第1外科 2)山梨大学 成育看護学講座 目的︰乳腺外来では、若年乳癌や両側性乳癌患者の場 【背景 ・ 方法】当院で遺伝外来を開設したがいくつか 合には、通常より詳しく家族歴が聴取されている場合 の課題が生じ、解決のため遺伝性腫瘍委員会を発足さ が多いことから、この2つの症例群に対して HBOC せた。委員会活動の一環である遺伝に関する問診票の の可能性を検討することを目的とした。 活用について経緯を振り返り、現時点の成果と今後の 対象と方法︰2012年から2015年の4年間に当科外来で 課題について考察する。 診療を行った乳癌症例415例中、40歳未満の若年乳癌 【結果】2013年2月に遺伝外来を開設した。当初は遺 19例、両側乳癌16例を対象とし、既往 ・ 家族歴、サブ 伝診療に関する知識や関心を持つスタッフが少なく、 タイプ分類からコブラスタディによる HBOC の可能 一次拾い上げの対象も特定医師の担当患者に限られ 性を検討した。 た。2014年5月に診療部 ・ 看護部 ・ 放射線診断部 ・ 検 結果︰若年乳癌の平均年齢は34歳 (22-39歳) で、サブ 査部 ・ 医事の担当者からなる遺伝性腫瘍委員会を発足 タイプ分類では L.A7例、L.B6例、TN5例、HER2 させ、一次拾い上げ向上目的の問診票作成、サーベイ 1例であった。コブラスタディで HBOC の可能性な ランスプログラムの策定、リスク低減手術の議論、必 しと判定されたのは19例中14例(74%)で、可能性あり 要な院内教育を開始した。問診票の運用には患者の不 では54%が1例(本人 TN 、母乳癌)、33%が2例(1例 安を煽るのではないかといった意見も出たが、問診票 目は本人卵巣癌、2例目は本人卵巣癌、叔母乳癌)、 の文言を何度も見直し、これまでの研究報告や遺伝外 19%が2例(1例目は母乳癌、2例目は叔母乳癌)で 来での実践を通じた実情を勉強会で共有することで理 あった。両側乳癌の初発平均年齢は46歳(28-76歳) 解が得られた。また、問診をとる看護師から上手くで で、同時性は9例、異時性は7例であった。HBOCの きるか不安といった意見もあり、モデルケースとなる 可能性なしと判定されたのは16例中12例 (75%) で、可 病棟から運用を開始してみた状況を共有しながら徐々 能性ありでは、77%が1例(LA-LB、異時性、初発34 に抵抗が減り、9病棟のうち7病棟で実施されてい 歳、家系に3名乳癌)、55%が2例(1例目は LA 、同 る。2014年11月から2016年1月までの問診票の配布数 時性、家系に2名乳癌、2例目は LA 、同時性、家系 は約4,100枚であり、その内遺伝外来担当者へ連絡が に2名乳癌)、40%が1例(HER2 、異時性、初発45歳、 来て事前面談をしたものが24件(0.59%)、面談の結果 家系に1名乳癌) であった。 遺伝外来につながったものが5件(0.12%)であった。 考察︰HBOC の可能性を検討するツールとしてコブ 上記期間の遺伝外来の新規受診者29名中、問診票が ラスタディを使用したのは、アジア人のデータであ きっかけとなったものは約17%であった。また、問診 り、若年者、両側性、サブタイプを考慮した質問事項 票をきっかけに患者が遺伝に関する気がかりを抱いて から算出できるため今回の検討に適していると考えら いることが明らかになり面談の依頼がくる事例の中に れた。 は、リスクが高くなく遺伝外来にはつながらなくても 40歳未満の若年乳癌または両側性乳癌だけでは、 事前面談のみで気がかりが軽減している事例もある。 HBOC の可能性はなく、乳癌や卵巣癌の既往 ・ 家族 【結語】遺伝に関する問診票は効率的な一次拾い上げ 歴があって初めて HBOC の可能性がでてくると考え のツールとなる可能性があり、今後も活用を継続しな られた。 がら課題に応じた改善を図っていく必要がある。 結語︰若年乳癌、両側乳癌は家族歴があってはじめて HBOC の可能性がでてくる。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 98 一般演題ポスター3[スクリーニング] P-3-3 自己記入式がん家族歴聴取票を使用した遺伝的 高リスク家系の抽出 ○國富 晴子、増田 健太、平沢 晃、赤羽 智子、 小林 佑介、山上 亘、野村 弘行、片岡 史夫、 冨永 英一郎、阪埜 浩司、進 伸幸、青木 大輔 慶應義塾大学医学部 産婦人科 P-3-4 当院におけるリンチ症候群のスクリーニング体 制の現状 ○山田 敦、堀松 高博、河田 健二、坂井 義治、 南口 早智子、妹尾 浩、鳥嶋 雅子、村上 裕美、 三宅 秀彦、小杉 眞司 京都大学医学部附属病院 がん薬物治療科 京都大学医学部附属病院 消化管外科 京都大学医学部附属病院 病理診断科 京都大学医学部附属病院 遺伝子診療部 【背景と目的】遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast リンチ症候群の一次スクリーニングとして、これ and ovarian cancer; HBOC)や Lynch 症候群などの家 までアムステルダム基準(2)や改訂ベセスダガイド 族性腫瘍が疑われるクライエントに対し、適切な遺伝 ラインが一般的に用いられてきた。一方でこれらの カウンセリングを提供することは個別化治療および予 基準に基づいた拾い上げでは相当数のリンチ症候群 防医療を実践する上で重要である。しかし、日常臨床 患者を見逃す可能性があるとして、大腸癌全例に対 における問診票は主訴や既往歴に重点が置かれてお してMicrosatellite instability(MSI)やミスマッチ修復 り、家族歴聴取が不十分となることがある。今回我々 (MMR)蛋白の免疫染色を行う、いわゆるユニバーサ は自己記入式がん家族歴聴取票を開発し、その有用性 ルスクリーニングの考え方も広まってきている。 を評価した。 当院では2013年7月以降、消化管外科の手術予定リ 【方法】2015年4月から12月の期間に当科を受診した ストを遺伝子診療部と共有することにより、大腸癌術 卵巣がん患者105例、子宮体がん患者56例に自己記入 前患者の家族歴や既往歴を遺伝カウンセラーがカルテ 式がん家族歴聴取表の記入を依頼し、改定アムステ 上から確認し改訂ベセスダガイドラインに該当する患 ルダム基準及び2007年の SGO(Society of Gynecologic 者を拾い上げる一次スクリーニングを行ってきた。し Oncology)committee statement を用いて HBOC 及び かし2013年7月から2015年12月までの期間中に一次 Lynch症候群のリスク患者を抽出した。 スクリーニングの対象となった大腸癌患者381名のう 【結果】卵巣がん患者のうち、HBOC のリスクが20- ち59症例がベセスダガイドラインに該当したものの、 25%と推定され遺伝カウンセリングが推奨される症 MSI や MMR 蛋白の免疫染色検査を施行した症例は3 例は25例(23.8%)であった。一方で,Lynch 症候群の 例のみであった。さらに MMR 遺伝子の生殖細胞系列 リスクが5-10%と推定される卵巣がん患者は22例 での変異が同定されてリンチ症候群と診断されたもの (20.9%)であり、改定アムステルダム基準を満たす第 は1例のみであり、リンチ症候群の拾い上げとして十 1度近親者が存在する症例を2例(1.9%)認めた。子 分に機能していないと考えられた。 宮体がん患者においても同様に解析を行ったところ、 このような状況を改善するために遺伝子診療部・消 Lynch 症候群のリスクが5-10%と推定されるものは 化管外科 ・ 消化器内科 ・ がん薬物治療科 ・ 病理診断科 22例(39.3%)であり、1例(1.8%)は改定アムステル の5診療科で協議した結果、ユニバーサルスクリーニ ダム基準を満たしていた。 ング体制の確立をはかる方針となった。具体的には、 【結論】本自己記入式がん家族歴聴取表を用いた pilot 当院で切除され病理診断科で大腸癌と診断された全例 study では、卵巣がん患者、子宮体がん患者のがん家 を対象として、MMR 蛋白の免疫染色検査を行うこと 族歴を詳細に評価することができ、リスクのある家系 とした。これによりリンチ症候群の拾い上げを改善す の抽出に有用であると考えられた。改定アムステルダ るとともに、大腸癌における抗 PD-1 抗体の治療効果 ム基準が適さない卵巣がん患者においても Lynch 症候 予測にも有用な可能性が期待される。当院では2016年 群を疑う家系が含まれているため、卵巣がん患者では 1月からこの方法によるユニバーサルスクリーニング HBOC のみならず Lynch 症候群を念頭に置いた家族 体制を始動しており、現状および問題点について報告 歴評価が必要である。 する。 99 一般演題ポスター3[スクリーニング] P-3-5 若年性乳がん症例を契機に進めた総合病院での 家族性腫瘍診療体制づくり ○田中 久美子1)、佐藤 洋子1)、永田 好香1)、 福田 貴則2)、佐々木 亜希子3) 1)湘南鎌倉総合病院 乳腺外科 2)湘南鎌倉総合病院 産婦人科 3)湘南鎌倉総合病院 消化器内科 P-3-6 家族性腫瘍における病棟スタッフの認識の現状 と関わりの報告 ○越智 美恵1)、宮内 佳子1)、杉本 奈央3)、 金子 景香3)、大住 省三2)3) 1)四国がんセンター 看護部 2)四国がんセンター 乳腺外科 3)四国がんセンター 家族性腫瘍相談室 【はじめに】当院では、入院した乳がん患者全員に 【はじめに】当院は急性期主体の総合病院であり、が 遺伝カウンセラーが家族歴を聴取し、HBOC のスク ん診療体制も整備されつつあるが、家族性腫瘍の診療 リーニングを行っている。しかし、遺伝カウンセラー 体制づくりは後回しになりがちであった。 がどういった目的で家族歴をとっているのか、家族性 HBOC の疑いが強い若年乳がん患者の受診を契機 腫瘍の概要を乳腺外科病棟スタッフ全員が理解してい に、体制作りを進めた。 ない現状がある。そのため、家族性腫瘍の知識を深め 【症例】28才女性。左乳房腫瘤を主訴に受診した。母 患者 ・ 家族の支援につなげる必要性があると感じた。 が乳がんで、自身も卵巣がんの術後(当院)であった。 今回、日本家族性腫瘍学会主催の家族性腫瘍セミ 針生検にて粘液癌(Luminal B)であり、若年発症であ ナーに参加したA看護師の、病棟スタッフに対する関 ることと乳がんの家族歴から HBOC を疑い、本人と わりについて報告する。 母、姉に HBOC の情報提供を行い、カウンセリング を行った。数ヶ月前から婦人科と消化器内科の医師と ともに院内のカウンセリング体制を構築し、遺伝子検 【病棟スタッフに対しての関わり】 ・ 家族性腫瘍セミナーを受講し、病棟スタッフに勉強 会を実施し情報共有を行った。 査を行えるように準備していたが、実際に対象者がお ・ 当院での家族性腫瘍相談室ミーティングに参加し、 らず、詳細や具体的な事項が保留となっていた。この 家族性腫瘍の可能性がある患者の情報を自主的に 症例を契機に事務的な事項も決めることができた。 集めた。そして、入院中に患者から質問や思いの表 【結語】もはやがん診療に欠かせない診療となった家 出があったときに、担当看護師が対応できるよう 族性腫瘍の診療であるが、急性期主体の病院ではまだ に情報を共有した。 医療者の認識も低い。家族性腫瘍の家族歴のある患者 ・ 病棟スタッフが遺伝の事例に遭遇した時、その患者 を拾い上げ、積極的に遺伝カウンセリングにつなげる の状態をA看護師がアセスメントし、必要時、病 院内の啓蒙が必要と考えた。当院では対象患者の受診 棟スタッフと遺伝カウンセラーとの橋渡しを行っ が契機となったが、モデルケースを想定してシステム ている。 を構築するとよいかもしれない。 【今後の課題・展望】A看護師は、今後も家族性腫瘍セ ミナーに参加し、伝達講習を行なう。そして、病棟ス タッフが遺伝に関する認識を高めることで、患者の ニーズを把握し、その具現化に向けた相談や調整を チーム医療の中で実践するために、リーダーシップを 発揮したい。また、A看護師がコアとなり家族性腫瘍 に関して積極的に患者・家族に介入できる病棟の環境 作りに努めていきたい。 今後、病棟スタッフと遺伝カウンセラーはお互いに 患者が今困っていることや不安に思っていることを情 報共有し、患者のニーズに応じた院内の連携がスムー ズにとれるようなコミュニケーションをはかる必要が あると考える。 100 一般演題ポスター3[スクリーニング] P-3-7 がん看護外来における家族性腫瘍への看護師の 介入の現状 ○宮脇 聡子、平田 久美、廣澤 光代 独立行政法人国立病院機構四国がんセンター 当院では、がん告知や再発告知等を受けた患者が、 必要に応じてがん看護外来(以下看護外来)を受診して いる。看護外来では、家族性腫瘍の可能性を確認し、 可能性があると判断した際には遺伝カウンセラーと連 携している。この取り組みの報告を行う。 【当院の看護外来の現状】 当院の看護外来は、がん関連の認定・専門看護師11 名が担当している。がん告知や再発告知を受けた患者 の情報は外来看護師がリストアップし、緩和ケアセン ターに集約され、看護外来担当者が決まる。看護外来 には月に100名前後の患者が受診している。 【看護外来における家族性腫瘍患者への介入】 入院予定のある乳がん、大腸がんなど、通常家族歴 聴取の対象となる患者の場合には、がんの遺伝のこと を心配している患者と簡単な家族歴聴取から家族性腫 瘍の可能性がある患者に対して、遺伝カウンセラーに よる家族歴聴取が行われることを説明し、がんに罹患 した血縁者の情報 (がん種、罹患年齢)を入院までに確 認するように伝えている。 通常家族歴聴取を行わない患者のうち、若年者、血 縁者にがんの罹患者が多い、複数回異なるがんに罹患 している、がんの遺伝を心配しているなどの患者に対 して、がんの遺伝について情報提供や遺伝カウンセ ラーとの連携を行った。 【介入による結果と考察】 遺伝カウンセラーと連携したのは、遺伝性びまん性胃 がんやリンチ症候群、HBOC 、リンチ症候群疑いの 患者などである。家族性腫瘍の可能性が低い患者も多 く、看護外来からの連携が必ずしも家族性腫瘍患者の リストアップにつながっているとは言えない。しか し、遺伝カウンセラーとの面談後、患者・家族は家族 性腫瘍の可能性が低いこと、遺伝についての相談も可 能であることを知り、安心感を得ることができた患者 も多くいた。このことから看護外来においてがんの遺 伝に関する患者のニーズを知り、がんの遺伝に関する 相談窓口につないでいく役割は重要であると考える。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 101 一般演題ポスター4[遺伝カウンセリング・症例・その他] P-4-1 P-4-2 地方の中規模病院で家族性腫瘍はじめました 当施設における家族性腫瘍外来の実績と課題 ○平野 浩紀、河見 貴子、田中 優、甲斐 由佳 ○小島 真奈美1)、畑 清子1)、岡部 みどり1)、 玉木 秀子1)、杉谷 郁子2)、吉田 裕之3)、 大崎 昭彦2)、佐伯 俊昭2) 高知赤十字病院 産婦人科 1)埼玉医科大学国際医療センター 看護部 2)埼玉医科大学国際医療センター 乳腺腫瘍科 3)埼玉医科大学国際医療センター 婦人腫瘍科 【はじめに】2015年5月に当施設で遺伝性乳がん ・ 卵 巣がん症 候群(以下 HBOC )ワーキンググループを立 家族性腫瘍の中で婦人科癌に関連する代表格として 遺伝性乳癌卵巣癌症候群(以下 HBOC )とリンチ症候 群があげられる。前者で一番浸透率の高い癌種は乳 癌、後者は大腸癌であるが、二番目はそれぞれ卵巣 ち上げた。診療手順を検討し、12月から家族性腫瘍外 来を開設した。 【目的】家族性腫瘍外来開設のプロセスと診療実績か ら今後の課題を明らかにする。 癌、子宮体癌である。これらの婦人科癌が深く関係す 【方法】HBOC ワーキンググループの資料、 HBOC問診 る家族性腫瘍に対して、地方の中規模病院という不利 票、家族性腫瘍外来の診療録を後方的に分析した。 な環境の中で診療体制を整えたため報告する。 【結果】1.HBOC ワーキンググループでの検討内容︰ 診療の基本的な流れとしては対象者の抽出、プレカ 遺伝子検査 ・ 外来の価格、検査業者の選定、拾い上げ ウンセリング、検査前の遺伝カウンセリング、遺伝子 から診療までの流れを模式図にし、メンバー間の共有 検査、検査後の遺伝カウンセリング、対象癌のサーベ を行った。問診票と患者説明用資材を作成し内容を検 イランスとなる。対象者の抽出は、今のところ当院通 討した。2.問診から一時拾い上げ︰12月から乳腺腫瘍 院中の当科および他科の患者からであるが、地域の産 科初診患者に対して、問診票で一時拾い上げを行っ 婦人科および乳腺外科からも受け入れる体制を整えて た。問診票で該当する項目が1つ以上あれば、外来担 いき、将来的には専門外来を立ち上げて一般から受け 当医より HBOC のリスクがあることを説明し家族性 入れていきたい。遺伝カウンセリングはすべて臨床遺 腫瘍看護外来を紹介した。婦人腫瘍科は、卵巣がん 伝専門医の演者が担当し、プレカウンセリング時には 病理結果により医師が一次拾い上げを行い、患者へ その疾患についての概要を説明し、詳細な家族歴を充 HBOC のリスクがあることを説明し家族性腫瘍看護 分な時間をかけて調べてもらうようにしている。家族 外来を紹介した。当施設の診療の範囲は HBOC のみ 歴が濃厚で遺伝子異常が疑われた場合には検査に関す とし、他疾患に関しては関連施設を紹介した。3.家 る遺伝カウンセリングを実施し、検査を受けるとなれ 族性腫瘍看護外来︰患者の家族歴を詳しく聴取し、 ば倫理委員会を通した上で行い、結果に関する遺伝カ HBOC について、検査方法、検査のメリット ・ デメ ウンセリングを実施するとともに今後のサーベイラン リットを患者へ説明した。面談時、患者は HBOC 、 スの方法を検討する。HBOC のサーベイランスは卵 術式選択の問題以外に妊孕性やセクシュアリティ、経 巣癌では定期的な経膣超音波が推奨されているが、演 済面など多岐にわたる問題を抱えていた。4.実績︰診 者は乳癌検診精度管理中央機構の評価でマンモグラ 療開始2か月間で、乳腺腫瘍科初診患者156名、一次 フィは AS 、超音波はA評価を得ており、卵巣癌、乳 拾い上げ32名 (20.5%) であった。家族性腫瘍看護外来 癌併せてサーベイランスが可能であることを当科の特 は5名対応した。HBOC検査実施者は1名であった。 徴としている。 【 考 察 】乳 が ん 患 者 の 問 診 票 に よ る 一 時 拾 い 上 げ とりあえずは婦人科癌が関係している2大家族性腫 20.5%は HBOC の発生リスクを下回ることなく拾い 瘍のみであるが、今後さらに対象を広げていきたいと 上げとして機能したと評価できる。しかし、家族性腫 考えている。地方の中規模一般病院では病院側の理解 瘍看護外来まで至ったケースは、初診患者の3.2%で が得られることが難しく、また患者の意識もまだまだ あり外来担当医との連携の強化が課題である。今後、 低いため、まずこれらの点から変えていくことが必要 患者や医療スタッフへ診療のアピールを行い、診療の であると思われる。 実績を蓄積していきたいと考える。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 102 一般演題ポスター4[遺伝カウンセリング・症例・その他] P-4-3 P-4-4 若年で原発性十二指腸癌を合併した STK11 全 欠失型 Peutz-Jeghers 症候群の1例 膵神経内分泌腫瘍を契機に発端者として診断に 至った多発性内分泌腫瘍症1型の2例 ○寺前 智史1)、岡本 耕一1)、六車 直樹1)、 田中 久美子1)、藤野 泰輝1)、香川 美和子1)、 北村 晋志1)、木村 哲夫1)、宮本 弘志1)、 島田 光生2)、高山 哲治1) ○肱岡 水野 石原 丹羽 1)徳島大学大学院医歯薬学研究部 消化器内科学 2)徳島大学大学院医歯薬学研究部 消化器移植外科学 範1)、大瀬戸 久美子2)、鳥山 和浩1)、 伸匡1)、奥野 のぞみ1)、田中 努3)、 誠3)、清水 泰博4)、田近 正洋3)、 康正1)、原 和生1) 1)愛知県がんセンター中央病院 2)愛知県がんセンター中央病院 3)愛知県がんセンター中央病院 4)愛知県がんセンター中央病院 消化器内科部 認定遺伝カウンセラー 内視鏡部 消化器外科 Peutz-Jeghers 症候群は、STK11/LKB1 遺伝子の生 殖細胞変異を原因とする常染色体優性遺伝性疾患であ り、皮膚粘膜の色素班、消化管ポリポーシスを特徴と 【はじめに】多発性内分泌腫瘍症(multiple endocrine し、消化管や乳腺、婦人科領域を中心とする他臓器で neoplasia:MEN)は主に膵、副甲状腺、下垂体に腫瘍 の悪性腫瘍合併頻度が高い疾患として認識されている を発症する常染色体優性遺伝性疾患である。 が、十二指腸癌の合併は比較的稀である。今回、我々 【症例1】49歳男性。造影 CT にて膵頭部に20㎜大の は若年で原発性十二指腸癌を合併した STK11 全欠失 多血性腫瘤を認め当院紹介。血液生化学検査にて補 型 Peutz-Jeghers 症候群の1例を経験したので報告す る。 症例は、21歳、女性。既往歴︰ファロー四徴症、心 房頻拍、洞機能不全(ペースメーカー留置後)、精神発 達遅滞 右嚢胞腎(右腎摘出術後)家族歴︰母、弟︰ Peutz-Jeghers 症候群 現病歴︰ファロー四徴症術後 で、当院小児科にて外来経過観察されていたが、母 親、弟が Peutz-Jeghers 症候群と診断されていたため、 精査加療目的に2015年11月当科紹介となった。上部 消化管内視鏡検査にて SDA 付近から下降脚(乳頭部 含む)にかけて管腔の半周程を占める隆起性病変を認 め、生検にて腺癌と診断された。また内視鏡検査に より、胃ポリープは最大径10㎜弱のポリープを2個、 大腸ポリープは1個、小腸ポリープは認めなかった。 また CT 検査にて明らかなリンパ節転移、遠隔転移は 認めず、stageIB(T2N0M0)と診断し、当院外科にて 亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSPPD-II)D2 郭清術 が施行された。最終病理診断は、十二指腸腺癌で一部 筋層下まで浸潤を認めたが、明らかな他臓器浸潤、リ ンパ節転移は認めなかった。末梢血より DNA を抽出 し、direct sequence 法により STK11 のシークエンス を行ったが変異を認めなかった。しかし、MLPA 法に より STK11 のコピー数を検討したところ全エクソン において片アレルの欠失を認めた。本症候群でみられ る消化器癌の合併率は20-35%程度と報告されている が、その中でも十二指腸癌は頻度の低い消化器癌と考 えられている。本症例は21歳と若年発症の十二指腸癌 であり、STK11 全欠失を認め、極めて示唆に富む症例 と考え文献的考察を加えて報告する。 正 Ca 10.8㎎/dl、iPTH 74pg/ml と軽度高値を認めた。 超音波内視鏡検査(EUS)では膵内に多発する腫瘍性病 変を認め、EUS-FNA にて膵神経内分泌腫瘍(pNET) G2 と診断した。副甲状腺や下垂体に異常は認めな かったが、pNET が多発していること、家族歴に膵臓 癌、尿路結石を有することから MEN1 を疑った。遺 伝カウンセリング後に遺伝子検査を施行し、MEN1 遺 伝子変異を認め MEN1 との診断に至り膵頭部病変に 対して膵頭十二指腸切除を施行した。 【症例2】62歳女性。既往歴に副甲状腺切除術、下垂 体腺腫。造影 CT にて膵体部に9㎜大の多血性腫瘤を 認め当院紹介。血液生化学検査では補正 Ca や iPTH は 正常であった。EUS では CT 指摘病変の他、膵内に多 発する小腫瘤を認めた。EUS-FNA にて pNET G1 と 診断した。家族歴に pNET 、尿路結石、下垂体腫瘍を 有しており MEN1 を強く疑った。遺伝カウンセリン グ後に遺伝子検査を施行したところ MEN1 遺伝子変 異を認め MEN1 との診断に至った。いずれも2㎝以 下の pNET でありガイドラインに則り切除せず経過観 察中である。子供に対するカウンセリングも継続中で ある。 【考察】pNET の10%は MEN1 を背景に発症する。既 往歴/家族歴や pNET 多発などから MEN1 を疑い積極 的にカウンセリングを依頼することが肝要である。 103 一般演題ポスター4[遺伝カウンセリング・症例・その他] P-4-5 P-4-6 多発性内分泌腫瘍症2型に対する集学的治療の 実践 家族性疾患看護チームとして未成年患者の看護 を考える ○島 宏彰1)、九冨 五郎1)、里見 蕗乃1)、 前田 豪樹1)、石川 亜貴2)、櫻井 晃洋2)、 古畑 智久1)、舛森 直哉3)、長谷川 匡4)、 竹政 伊知朗1) ○本田 智美、木村 渚、河野 沙織、足利 雅子、 永田 加寿代、古長 嘉美、首藤 茂、内野 眞也 1)札幌医科大学 消化器・総合、乳腺・内分泌外科 2)札幌医科大学 遺伝医学 3)札幌医科大学 泌尿器科 4)札幌医科大学 病理診断部 医療法人野口記念会 野口病院 【はじめに】今回、MEN2A の診断を初めて受けた未 成年患者の遺伝看護を担当するにあたり、家族との関 わりを中心に、遺伝子検査結果開示前後の心理面、看 多発性内分泌腫瘍症2型(MEN-2)は、甲状腺髄様 護支援について検討し、考察を行ったので報告する。 癌、褐色細胞腫、原発性副甲状腺集機能亢進症を常染 【対象と方法】クライアントは、Aさん女子高校生、 色体優性遺伝形式で発症する症候群として知られる。 両親は40歳代。外来遺伝子検査結果開示直後と、副腎 甲状腺髄様癌、褐色細胞腫は合併頻度が高く予後にも 検査入院時に、半構造化面接によるインタビューを行 関わる病態であることから、診療計画をたて治療を実 い、遺伝子検査結果開示前後の心情がどのようであっ 践するにあたり、内分泌外科、泌尿器科、遺伝医学を たかの観点で検討した。クライアントと両親に対し、 中心に集学的な体制を構築することは非常に重要であ 本研究についての説明を行い、同意を得た上で実施し る。複数科により集学的に治療を実施した MEN-2A た。 の一症例を報告する。 【結果】Aさんは頚部腫脹を自覚し、両親と共に当院 症例は、40歳、女性。両側甲状腺のしこりを自覚し を受診した。頸部超音波、細胞診、カルシトニン測定 前医を受診した。穿刺吸引細胞診にて甲状腺髄様癌疑 の結果から片葉に局在する甲状腺髄様癌と診断を受け いの診断。父にも甲状腺髄様癌の既往があり当科受診 た。初診当日に遺伝カウンセリングを受け、RET 遺 となった。触診で両側頚部に2㎝大の弾性硬腫瘤を触 伝学的検査に同意した。遺伝の可能性があると聞き 知した。US では、甲状腺左葉に27㎜、右葉に18㎜の 両親の落胆は激しかった。2週間後の結果開示で、 境界明瞭平滑な低エコー腫瘤を認めた。CT では甲状 RET変異を認め MEN2A の診断を受けた。開示後、父 腺の他、右副腎に6㎝の腫瘍、左副腎にも2㎝の多結 親は 「ショックだった。散発性だったら片葉のみの切 節腫瘍を認めた。両側甲状腺腫瘍に対して細胞診を施 除でよかったのに、全摘という方針になってしまっ 行したところ、両側ともに甲状腺髄様癌の診断であっ て。」 と話され、母親の表情も暗かった。Aさんは落 た。MIBI-シンチグラフィでは異常集積は認めなかっ ち込んだり、驚く様子はなかった。さらに10日後の副 た。泌尿器科により血清 ・ 尿中カテコラミンの異常と 腎検査入院時は、両親から遺伝に関する質問はなく、 画像検査所見から両側褐色細胞腫と診断した。一方 表情は比較的穏やかになっていた。Aさんは 「入院し で、臨床遺伝外来にてカウンセリングを進め、遺伝学 たら知っている看護師さんがいるってわかっていたか 検査を実施した。RET 遺伝子 C634Y にミスセンス変 ら、不安はありませんでした。」 と話してくれた。病 異を認めた。これらの臨床情報から MEN-2A と診断 気や治療に関しては両親とほとんど話していなかっ され、複数科合同で協議した後、褐色細胞腫に対する た。 手術を優先し待機的に甲状腺全摘+頚部中央区域郭清 【まとめ】開示直後は、クライアントあるいは同席し を行うこととした。これらの手術後は順調に経過して た血縁者の精神的ショックをどのように受けとめるか いる。事前に複数科が連携して加療することができた が重要である。その際ゆっくり思いを表出できるよう 一症例であった。今後、このような疾患に対する治療 に、クライアントと看護師の信頼関係を築いていくか 体制のさらなる充実に勤めるべく、若干の文献的考察 が大切である。特に未成年者に対しては、遺伝や癌と を加えて報告する。 いった概念をいかに理解してもらうか、またそのサ ポートを成長過程で継続できるようにしていかなけれ ばならない。 104 一般演題ポスター4[遺伝カウンセリング・症例・その他] P-4-7 MUTYH 遺伝子の in Silico 解析 ○橋谷 智子 近畿大学大学院総合理工学研究科 理学専攻博士課程 前期遺伝カウンセラー 養成課程 【背景と目的】遺伝子解析技術の進歩に伴い、多くの genomic variants が検出されるようになったが、適切 な機能解析を欠く遺伝子では意義付けが不明で遺伝カ ウンセリングに供する際、難渋することがしばしばあ る。過去にはホモロジー検索による種を超えた保存領 域に注目して検索を行っていたが、現在は信頼のおけ るデータベースとの照合、各種 in Silico 解析などを総 合的に検討することが多い。 今回、比較的解析数の少ない MUTYH 遺伝子の variantを中心に検討した。MUTYH 遺伝子は MUTYH 関連ポリポーシス(MUTYH-associated polyposis: MAP)の原因遺伝子であり、常染色体劣性遺伝形式を とる。ポリープ数が少なく、発症年齢は比較的高い傾 向がある。対象遺伝子としは多くの解析の蓄積がある TP53 遺伝子を当てることとした。 【対象と方法】1.対象variants︰過去に MUTYH 遺伝 子異常と報告した両アレル変異由来の6種の variants と片アレル変異3種類とした。2.In Silico 解析︰ 各variantについて、1)PolyPhen-2、alignGVGD の 疾患予測モデル、2)COSMIC、ClinVar、HGMD、 UniProt の各変異データベースを用いた in Silico 解析 を行った。3.変異の保存性:抽出された変異が、他の 生物種において保存的なものか否かを評価するため、 P.troglidytes、X.tropicalis、D.ratio 等13種の生物種と MUTYH 遺伝子の alignments を作成し、比較した。 【 結 果 】6 種 の v a r i a n t に つ い て 、 疾 患 予 測 モ デ ル及び変異データベースを用い解析したとこ ろ、「Pathogenic」として報告のある variant でも 「Pathogenic」、「Benign」、「予測不能」など様々なもの が散見された。 【考察】家族性腫瘍において variant が判明した場合、 in Silico 解析等を介した結果の解釈が大変重要なもの となる。今回の検討で、ほぼ解釈が一致する場合があ る反面、逆に不一致となる場合があり、遺伝カウンセ リングに際して留意する点であると実感した。TP53 遺伝子の germline mutation の解析を合わせて報告す る予定である。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 105 遺伝子診療を考える会(FCC生涯研修セミナー) 日本家族性腫瘍学会主催 遺伝子診療を考える会 第4回家族性腫瘍コーディネーター・家族性腫瘍カウンセラー(FCC)制度 【生涯研修セミナー】 日 時︰2016年6月4日 (土) 14︰45~16︰30 場 所︰ひめぎんホール 3階 第6会議室 (第二会場) 司会・進行︰菅野 康吉 栃木県立がんセンター研究所 がん遺伝子研究室・がん予防研究室 武田 祐子 慶應義塾大学看護医療学部 【プログラム】 14︰45~15︰00 1.RETとRB1遺伝子診断の保険収載 菅野 康吉 栃木県立がんセンター研究所 がん遺伝子研究室・がん予防研究室 15︰00~15︰45 2.RET 遺伝学的検査の保険導入にあたって 内野 眞也 医療法人野口記念会野口病院 15︰45~16︰30 3.網膜芽細胞腫の遺伝子診断 吉田 輝彦 国立がん研究センター中央病院 遺伝子診療部門 本セミナー参加により、家族性腫瘍コーディネーター・家族性腫瘍カウンセラー(FCC)の更新に 必要な研修 単位(5単位)を取得できます。ただし、単位取得は1~3のすべてに参加した者に認 められます。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 106 1 RET と RB1 遺伝子診断の保険収載 ○菅野 康吉 栃木県立がんセンター研究所 がん遺伝子研究室・がん予防研究室 平成28年度の診療報酬改定で RET (多発性内分泌腺腫瘍症II型)および RB1 (網膜芽 細胞腫)の遺伝子診断が保険収載されました。いずれも代表的な家族性腫瘍ですが、 家族性腫瘍の遺伝学的検査が保険収載されるのは実は今回が初めてのことです。この 2疾患は厚労省がん研究助成金「がんの遺伝相談実施施設の連携による遺伝性腫瘍の 診断と、長期予後および QOL 改善に関する研究」班(平成19-23年︰主任研究者 菅 野康吉)の研究として計画され、平成20-21年にかけて野口病院(大分県別府市)およ び国立がんセンター中央病院 (現国立がん研究センター中央病院) (東京都中央区) から 先進医療として申請承認され実施されてきたものです。臨床研究の成果がようやく保 険診療に活用できるようになったことを記念して、今回の生涯研修セミナーでは臨床 研究の開始から先進医療承認まで中心となって牽引されてきた内野眞也先生(野口病 院)と吉田輝彦先生(国立がん研究センター中央病院)に両疾患の遺伝子診断について ご講演いただく予定です。 107 2 RET 遺伝学的検査の保険導入にあたって ○内野 眞也、首藤 茂、伊藤 亜希子、松本 佳子、 河野 沙織、本田 智美、木村 渚 医療法人野口記念会野口病院 多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)あるいは家族性甲状腺髄様癌(FMTC)の原因遺伝 子は染色体10q11。2に存在する RET がん遺伝子である。MEN2あるいは FMTC で は、99%以上に RET 遺伝子の生殖細胞系列変異が証明される。また一見散発性の甲状 腺髄様癌においても約10-15%に RET 変異が存在することから、すべての髄様癌症 例に対して、RET 遺伝学的検査が強く推奨されている。 本診断は当院を含む一部の施設でこれまで先進医療として認められてきたものの、 多くの施設では費用負担の問題が続いていた。2016年1月の先進医療専門家会議に於 いて、その有効性、効率性等に鑑み、RET 遺伝学的検査を保険導入することが適切 であるという評価が得られ(ただし、適応症や実施する施設などについて適切な条件 を付すこと等が必要) 、4月から保険導入される運びとなった。 保険導入された場合、一般臨床医が RET 遺伝学的検査の実施と結果解釈にあたっ て、その特殊性をいかに理解してもらうかが重要である。 もし髄様癌の診断が不必要になされた場合、不要な遺伝カウンセリングや遺伝学的 検査が実施されることになる。したがって、臨床的に甲状腺髄様癌がどの程度疑われ るか、RET 遺伝学的検査の対象としてよい状況かどうかを症例ごとに評価できなけ ればならない。遺伝子検査報告書の結果解釈にも、十分注意を払う必要がある。既知 のよく知られた変異であるかどうか、稀な変異ではないかどうかをよく確認する必要 がある。変異はミスセンス変異が多いため、遺伝子多型との区別が特に重要である。 一般臨床医が報告書の結果解釈を勘違いした結果、医療過誤(例えば不必要な予防的 甲状腺手術など)につながる危険性は否定できない。保険導入後に生じうる問題を予 測し、本学会としても、事前にその対策を施しておく必要があると考える。 第22回日本家族性腫瘍学会学術集会 108 3 網膜芽細胞腫の遺伝子診断 ○吉田 輝彦1)、牛尼 美年子1)、坂本 裕美1)、菅野 康吉1)3)、鈴木 茂伸1)2) 1)国立がん研究センター 中央病院 遺伝子診療部門 2)国立がん研究センター 中央病院 眼腫瘍科 3)栃木県立がんセンター研究所がん遺伝子研究室・がん予防研究室 網膜芽細胞腫は遺伝性腫瘍のプロトタイプと言える。1971年に Knudson が、網膜 芽細胞腫の臨床遺伝学的解析からがん抑制遺伝子の存在予測とも言える2ヒット理論 を提唱し、1986年には最初のがん抑制遺伝子として RB1 がクローニングされている。 網膜芽細胞腫は、網膜から発生する悪性腫瘍で、その発症頻度は出生約15,000人に1 人と言われ、わが国においては年間約70~80人が発症し、そのうちの半数以上が国立 がん研究センター中央病院眼科で治療を受けている。両眼性と片眼性の割合はおよそ 2︰3で、両眼性症例の100%、片眼性の約10%が遺伝性(生殖細胞系列変異による) とされている。95%の症例が5歳までに発症するが、両眼性症例の発症時期は片眼性 よりも早く、1歳以前に発症することが多い。遺伝性症例では10歳頃から骨軟部腫瘍 等の二次がん発生のリスクも抱える。 RB1 遺伝子の生殖細胞系列変異解析による「網膜芽細胞腫の遺伝子診断」は、平成 21年10月に先進医療技術として承認され、平成28年1月には中央社会保健医療協議 会により、保険導入すべき技術の一つと答申された。国立がん研究センターでは末 梢血を検体とする遺伝学的検査として、RB1 領域の FISH(保険適用、外注)、RNA に 対する RB1 cDNA 全長の RT-PCR direct sequencing、変異箇所に対する DNAのPCR direct sequencing、MLPA 法を組み合わせて行っている。RNA については、nonsense mutation decay を抑制して変異メッセージのシグナルを増強するため、puromycin 処 理の有無でシークエンス波形を比較している。さらに今後、次世代シークエンサーと 多遺伝子パネルを用いた遺伝子解析の導入が進むと考えられ、RB1 の遺伝学的検査 を保険診療の中でどのように構成していくかが課題となっている。