...

無線通信網を用いた屋内向け測位方式

by user

on
Category: Documents
6

views

Report

Comments

Transcript

無線通信網を用いた屋内向け測位方式
情報処理学会 コンピュータシステム・シンポジウム論文集 2002.
pp.83-90. 2002/11/19,20 パシフィコ横浜.
無線通信網を用いた屋内向け測位方式
北須賀
輝 明†
中
西 恒
夫†,††,†††
福田
晃†,†††
来るべきユビキタスコンピューティング社会の基盤として,測位技術は必要不可欠なものである.
GPS などの屋外向け測位技術は確立されているものの,屋内利用できる測位技術は建物に専用設備
を設置するなど導入,維持ともに高コストなものしか存在しない. 一方で,無線 LAN などの無線
通信網が急速に普及している.本稿では,あらゆる機器が無線通信網で相互接続されている環境にお
いて,低コストな測位を実現することを目的として,無線 LAN などの無線通信網を用いた測位方式
を提案する.
Indoor Location Sensing Techinique using Wireless Network
Teruaki Kitasuka,† Tsuneo Nakanishi†,††,†††
and Akira Fukuda†,†††
Location sensing technology is very important for the infrastracture of ubiquitous computing environment. Outdoor location sensing technology such as GPS is already developed and
widely used. For indoor location sensing, there are technologies. But these technologies cost
too much for installing and maintaining. On the other hand, personal wireless network is
widely used such as wireless LAN(IEEE802.11b/a). In this paper, we propose a location sensing technique using wireless network. Our technique will provide a low cost location sensing
infrastracture.
屋内での測位は,超音波や赤外線などを用いたシス
1. 背景と目的
テムが研究・開発され,ユビキタスコンピューティン
本稿では,無線通信網を用いた測位方式の提案を行
グに関する研究施設や,倉庫などの特定用途で導入さ
う.本方式は主に屋内での利用を対象とし,無線 LAN
れている. 代表例として超音波を使った ActiveBat
や Bluetooth,UWB(Ultra Wideband) などの無線デ
があげられる. しかしこれらは,天井に専用設備を
バイスを搭載した機器間で通信することで,機器の位
設置するなど導入・維持コストが高く,そのため広く
置を特定することを目的とする.
普及するのは困難である.
測位に対するニーズは大きく,屋外では GPS1) に
一方で,無線 LAN(IEEE802.11b/a),Bluetooth の
よる測位がカーナビゲーション,航空,船舶などで広
普及は目覚しいものがあり,これらを測位に利用でき
く用いられ,不可欠なインフラストラクチャとなって
れば広く普及するものと考えられる. また,測位に
いる. また,携帯電話では米国 FCC E911 要求など
適した UWB(Ultra Wideband) も商用化に向けた動
に基づき,GPS や E-OTD(enhanced observed time
きが始まっておりこの普及も待たれるところである.
difference)2) などを用いた測位が行われている. 国
屋内での位置情報の利用シーンとして,不特定多数
内の携帯電話でも GPS を搭載したものも普及してい
が出入りするスペースでの利用を考える. このよう
る.これらに対し,屋内での高精度な測位システムは
なスペースの例として,駅,空港,博物館,図書館な
普及していないのが現状である.
どの公共スペースや,デパート,イベント会場などの
商用スペースがあげられる.この空間での位置情報を
† 九州大学 大学院システム情報科学研究院
Graduate Scholl of Information Science and Electorical
Engineering, Kyushu University
†† 九州大学 システム LSI 研究センター
System LSI Research Center, Kyushu University
††† 九州大学 情報基盤センター
Computing and Communications Center, Kyushu University
提供することにより次のような応用が考えられる.
• 道案内.
道案内の例としては,売店,トイレなど従来は案
内板や掲示によって案内していたもをはじめとし
て,ホットスポットのアクセスポイントへの誘導
などといった利用人数が比較的少数のサービスに
1
ついても,サービス場所への誘導が可能となり,
決め細やかな道案内の可能性が生まれる.
• 動線 (人の流れ) の解析.
商用スペースの運営者が利用者の動きを捕捉・解
析することで,利用者の動線を捉え空間設計に
フィードバックをかけることが可能となる.
Gn Reference host
G1
Mobile host
A
また人の出入りの激しい都心部では,市街地での道案
B
内が屋内,屋外を問わず必要と考える.
C
Wireless connection
D
2. 関 連 研 究
現状,屋内での測位技術は広く普及しているものは
G2
ないのが現状である.ここでは,GPS を用いた屋外
E
での測位技術,携帯電話で用いられている測位技術,
屋内で研究用や特定用途で用いられている測位技術6)
図1
について述べる.
G3
システム構成. G1,G2,G3 は基準局,A,B,C,D,E は無線
端末をあらわす
屋外での測位技術は GPS が広く普及している.
GPS は地上約 2 万 km にある 24 基の衛星からの
電波を用いて,地上で三角測量を行うことで緯度,経
度,高度を得る衛星測位システムである.しかしな
がら,衛星からの電波が屋内では受信できないため,
GPS は一般に屋内では使用できない.
携帯電話では,GPS や E-OTD などの測位技術
が用いられている. GPS を用いる場合,携帯電話
の低消費電力化を目的として,測位計算を基地局で
行う A-GPS(Assisted GPS) 方式が用いられている.
E-OTD(Enhanced Observed Time Difference) では,
本方式の特徴は基準局が疎な状況でも精度よく測位
を行うことにある. 通常,三角測量は複数の基準点
からの距離を用いて計測点の測位を行う. すなわち
基準局を基準点,無線端末を計測点とすると,基準局
と無線端末間の距離をもちいて測位を行う. 本方式
では,基準局との距離のみでなく,無線端末間の距離
も利用してきめ細かく三角測量を行うことにより,基
準局が比較的疎な状況でも精度よく測位を行うことが
できる.
具体例として図 1 の無線端末 A を考えると,A が
携帯電話が複数の基地局からの時刻を受信して,時刻
直接通信可能な基準局は G1 のみであるが,直接通信
のずれによる三角測量で位置を計測する. この他に
可能な無線端末は B, C, D も含まれる.そこで A の
も携帯電話からの電波を複数の基地局側で受信し,そ
位置計測は G1 の位置と B, C, D の計測位置を用い
の時間差から測位を行う TDOA(Time Difference of
ることで,より高精度に測位を行うことが可能になる.
Arrival) や,複数の基地局で携帯電話の方角を測定し,
方角から携帯電話の位置を計測する AOA(Angle of
Arrival) などの方式がある2) .
屋内での測位は ActiveBat3) や RADAR4) が研究
されている. 超音波を用いた ActiveBat は数 cm 精
度での測位が可能であるものの,天井にセンサーを設
もし図 1 で,基準局 G1 のみを用いた A の測位を考
置し,センサーをサーバに接続するなど設備の導入コ
周囲にどのようなサービスがあり,そのサービスの場
ストの点で不利である. RADAR は本稿と同様に無
所はどこであるかといった相対的な位置であることが
線 LAN を用いた測位を実現している.本稿と違い距
多いと考えられる. そのため,必ずしも正確な絶対
離測定の精度の向上と無線伝播のモデル化に重点をお
位置が取得できる必要はなく,相対的な位置の精度が
いて研究が行われている.
確保されることが重要である.
えると,基準局 G1 以外に A の測位に利用できるホ
ストはないため,A の位置は G1 の周囲であること
しかわからず,非常に精度の低い測位結果となる.
また,現実にユーザが位置情報を必要とするのは,
自分の絶対的な位置であることよりもむしろ,自分の
3.1 システム構成と測位手順
次のシステム構成とする.
• 基準局は GPS 等の測位手段を備え,自身の位置
3. 測 位 方 式
本稿で提案する無線通信網を用いた測位方式の詳細
を述べる. 基本的には三角測量を行って,無線端末
の位置を特定する.
2
を hi (m ≤ i < n),各無線端末を hi (0 ≤ i < m) で
情報を所有している☆ .
• 無線端末は移動することが可能で,自身の位置情
報は所有していない.
• 各々ホスト (基準局と無線端末) は,周囲のホス
トとの距離を測定する機能を持つ.
• 基準局,端末のいずれか 1 台が測位サーバとなる.
表す. 基準局と無線端末をまとめてホストと呼ぶと
き,ホスト hi の位置を
をもとに求めた測定距離を di,j (< dmax ) とする. 後
述の測位アルゴリズムで通信不可能なホスト間につい
間,端末と端末間の距離を集計し,あわせて基準
ても測定距離 di,j を使用できるように,di,j を次の
局の位置情報を集計し,これらを用いて端末の測
ように拡張する.


測定距離



位を行う.
本稿では端末間 (基準局も含む) の距離を測定する方
di,j =
法は既存のものを使うこととし,研究対象とはしない.
後ほど距離測定の方法についても簡単に述べる.
測位の手順を述べる.
( 1 ) 基準局および無線端末の中から測位サーバを選
出する.サーバの選出は本稿の対象とはしない.
(3)
if hi と hj が直接通信可能,

dmax +



if hi と hj が直接通信不可能.
(1)
ただし dmax + = max(|i − j |, dmax ) と定義する.
dmax + をこのように定義することで,後述の測位アル
それぞれの基準局および無線端末は,無線到
ゴリズムにおいて,通信不可能なホスト同士が dmax
達範囲内にある直接通信可能な基準局および
より近づくことを防ぐ効果が得られる.
無線端末との距離を測定し,測定した距離を測
これらの記号を用いて測位問題を整理すると,基準
位サーバに通知する. 通知は既存のアドホッ
局の位置リスト {i | m ≤ i < n} とホスト間の測定
クネットワークルーティングプロトコルなどの
距離のリスト {di,j | 0 ≤ i, j < n; i = j} から,無線
マルチホップの通信プロトコルを用いるものと
端末の位置リスト {i | 0 ≤ i < m} を求める問題と
する.
いえる. これを式で表すと次のように表現できる.
それぞれの基準局は,自らの位置情報を測位
任意のホスト hi , hj (0 ≤ i, j < n) について,
(2)
|i − j | di,j を満たす
サーバに通知する.
(4)
と表す.
直接通信可能なホスト hi , hj 間で,無線の受信強度
測位サーバは,基準局と端末間,基準局と基準局
(2)
i
無線到達距離 (電波の届く最大距離) を dmax とし,
測位サーバは後述するアルゴリズムにしたがっ
測位アルゴリズムで用いる評価関数を述べる. 測位
{i | 0 ≤ i < m} を求める問題と定式化される. た
だし,|i − j | は i と j から求められるユーク
リッド距離とし, は両辺の差が十分に小さい値であ
ることを意味することとする.
ここで式 (2) で両辺を等号ではなく差が小さいとし
たのは,ホスト間の測定距離 di,j に誤差が含まれて
いるためである. この誤差の範囲は距離測定の方法
によって異なる. 本稿では,距離測定は無線の受信
強度を用いて行うことを想定しているので,距離が遠
くなるほど誤差は大きくなる傾向にある. 距離測定
サーバでは,次の情報を元に無線端末の位置を推定
における誤差は 3.3 節で述べる.
て,各無線端末の測位を行い,測位結果を各無
線端末に通知する.
無線端末が移動するといった位置の変化が発生すると,
基準局や無線端末がそれを距離の変化として感知し,
距離の変化を測位サーバに通知する.測位サーバは通
知を受けて,再度測位を行い結果を各無線端末に通知
する. 以降,測位サーバとの通信以外の通信は,シ
ングルホップでの直接通信を表す.
測位サーバでの測位アルゴリズムを説明する前に,
ホスト間の測定距離 di,j を実際の距離 Di,j と測距
する.
( 1 ) 基準局の位置
( 2 ) 通信可能なホスト (基準局と無線端末) 間の距離
ここで,基準局数を M ,無線端末数を m,基準局
数と無線端末数の合計を n = m + M とし,各基準局
☆
誤差 ei,j で表すと,di,j = Di,j + ei,j と表すことがで
きる. ここで式 (2) から誤差成分 ei,j を取り除くと,
|i − j | = di,j − ei,j = Di,j
(3)
と表すことができる.
3.2 測位アルゴリズム
測位アルゴリズムは測位サーバで実行するアルゴリ
ズムである. 基準局の位置,ホスト (基準局および無
線端末) 間の距離から,無線端末の位置を求めるアル
無線基準局は,一般には固定的に配置されていることを想定し
ている. ただし位置情報を所有していれば,必ずしも固定され
ている必要はない. 基準局の具体例として無線 LAN のアクセ
スポイントがあげられる
3
えるパラメータで実験的に 0.1 から 0.05
ゴリズムである.実用上,実時間で簡便に無線端末位
程度の適切な値とする.
置を求めることが求められるため,最小二乗法などに
よる最適解を求めることはしない.
(b)
無線端末位置
i (0 ≤ i < m) の初期値を決定
(c)
に修正量 ∆i を加
収束判定. 修正量の最大値が一定値 γ
する.
( a ) 各無線端末の初期化済フラグを fi =
false (0 ≤ i < m) を設定する. 基準
局は初期化済とする (fi = true (m ≤
i < n)).
( b ) fi = false であるホスト hi のうち次の
条件を満たすホストを探し、その初期値
i を決定する.
条件: 初期値が決定しているホストと直
接通信可能なホストであること.すなわ
を下回るまで (2)-(a),(b) を繰り返す.
3.3 距離測定誤差の影響
ホスト間の距離は無線の受信強度を用いて推定す
ることを想定している. 今後商用利用が可能になる
UWB(Ultra Wideband) は,マルチパス・フェージン
グの影響が少なく,より高精度な距離測定が可能であ
る. 高精度な距離測定が可能であれば,本方式によ
る高精度での測位が可能となる.
ただし,本稿では現在広く利用可能な無線 LAN
(802.11a/b) や Bluetooth を距離測定に用いること
ちホスト hi について,di,j < dmax か
を考えており,これらはマルチパス・フェージングの
つ fj = true を満たす hj が存在するこ
とする. ただし,Li = {j | di,j < dmax
影響を強く受ける. マルチパス・フェージング (multipath fading) とは電波の減衰や反射,回折によって,
受信強度にばらつきが出る現象で,特に屋内において
は壁や床,家具などの構造物が多いため顕著に発生す
る. マルチパス・フェージングは受信強度と距離と
の関係に大きな影響を持つ. すなわち屋内の環境に
おいては受信強度を電波の伝播モデルに基づいて数学
的に与えることが困難である.ここでは既存の電波伝
播モデルを概観し,距離測定の誤差の性質について述
かつ fj = true} となる最大の集合とし,
べ,本測位方式における扱いを考察する.
と.
この条件を満たすホスト hi に対して,
その位置の初期値を
i =
j∈L
i
j ·
1
li
fi = true
(2)
i (0 ≤ i < m)
i ← i + ∆i
いた次の収束判定アルゴリズムを採用した.
(1)
各
える.
以下に述べる測位アルゴリズムは,最急降下法を用
li は Li の要素数とする.
( c ) (1)-(b) の条件を満たす i (0 ≤ i < m)
が存在しなくなるまで (1)-(b) を繰り返
す. (1)-(b) の条件を満たす i が存在
しなくなった時点において初期値が決定
していないホストは,測位不可能なホス
トである.
無線端末位置を収束するまで修正する.
( a ) 各 i (0 ≤ i < m) について,修正量 ∆i
電波伝搬モデルとして,理想的な自由空間モデル
(free space propagation model),地面での反射のみ
を考慮した 2 波モデル (two-ray ground reflection
model) が基本的なモデルとして挙げられる5) . それ
ぞれ受信強度 Pr (d) は次の式で表される.
Pt Gt Gr λ2
Pt Gt Gr h2t h2r
, Pr (d) =
2
2
(4π) d L
d4 L
ただし,d は送信受信器間の距離,Pt は送信電力,
Gt , Gr はそれぞれ送信,受信のアンテナ利得,λ は
Pr (d) =
波長,L はシステム損失,ht , hr はそれぞれ送信アン
を求める.
j∈L
∆i =
i,j · (di,j − li,j ) · α
j∈K
+
テナ,受信アンテナの地上高である. また,2 波モデ
ルは距離が dc = (4πht hr )/λ 以上離れているときに
実用的な値を得られることがわかっており,それ以下
i,j · (dmax + − li,j ) · α
の距離では自由空間モデルを採用する☆ .これらのモ
ただし,li,j , i,j , L, K はそれぞれ ユー
デルでは距離の二乗あるいは四乗で受信電力が減少す
クリッド距離 li,j = |i − j | ,単位長
ベクトル
ることがわかる.
i,j = (i − j )/li,j ,L =
☆
{j | di,j < dmax },K = {j | di,j =
dmax + } である.α は収束スピードを与
4
2.4GHz 帯を使う 802.11b, Bluetooth を 1 メートルの地上
高で使用する場合では dc = (4πht hr )/λ はおよそ 100 メー
トルとなる.λ = 0.125 メートル.
さらに建物の壁のみを考慮した WAF(Wall atten-
B
uation factor) model4) は次式で表される.
d
Pr (d)[dBm] = P (d0 ) − 10n log
d
0
−
n×W
C×W
A
(1) proximity(non-directional proximity)
B
n<C
n≥C
C
A
(2) directional proximity
ただし,P (d0 ) はある距離 d0 における受信電力値で
B
あり,d は送受信アンテナの距離,n は送受信アンテ
C
ナ間の直線上にある壁 (遮蔽物) の個数で,C は遮蔽
物が受信電力に与える影響の最大個数,W は壁 (遮蔽
A
物) あたりの減衰係数である.
このように距離測定の誤差は距離が増大するととも
に増加する傾向にあるため,測位の際にも測定距離の
短いデータを優先的に取り扱うなどの対応をすること
D
(3) triangulation
が望ましい. 本稿では議論しないが,本方式でホス
ト間の距離を計測する際に用いるモデルは,その環境
B
に適応したものを採用する方針である.
3.4 測位精度の分類
無線端末の配置によっては,三角測量が不可能な場
合があり,その場合は測位精度が劣化し,測位データ
の誤差は非常に大くなる. 測位精度は位置情報の利
用者に提供すべき情報である. ここで,測位精度の
判定方法について,図 2 (1),(2),(3) の分類を提案
する. それぞれ,
( 1 ) 無指向性近接 (non-directional proximity): ホ
スト A はホスト B に近いのみで,それ以上の
(2)
A
C
(4) irregular case.
non-directional proximity
図2
無指向性近接ホストであると同時に,ホスト C の無
指向性近接ホストとみなすこととする.
この分類を行う方法として,次のような判定方法を
位置はわからない. ホスト A はホスト B を中
提案する. ホスト ha を分類する際に,ホスト ha と
心とする円内に存在する確率が高いといえる.
通信可能なホストの一部からなる集合 Na を次の手順
指向性近接 (directional proximity): ホスト A
で作成し,Na の要素数で上記分類を行う.
( 1 ) ホスト ha に最も近いホストは Na の要素と
する.
( 2 ) ホスト ha に近いホストから順に h1 , h2 , h3 , . . .
と仮定するとき,h1 から順に hi が次の条件
∀hj ∈ Na に対して, di,a < di,j
を満たすならば hi を Na の要素として新たに
加えるという手順を繰り返すことで Na を決定
はホスト B, C の間の領域に位置する. 三角測
量は不可能で,ホスト間の距離測定の誤差を考
慮しても,B, C 間に位置する比較的小さい円
または楕円内に A が存在する確率が高いとい
える.
(3)
測位精度の分類
三角測位可能 (triangulation): ホスト A はホ
スト B, C, D に囲まれており,三角測量によ
る測位が可能である.
する.
図 2 (4) は,隣接するホスト数が多くても必ずしも
集合 Na の要素数が 1 の場合を無指向性近接,2 の場
合を指向性近接,3 以上の場合を三角測位可能とする.
位置精度が向上しない無指向性近接の例である. 隣接
図 3 の例を用いて,集合 Na の作成手順を幾何学的
するホストが多くても一方に集中している場合には,
測位精度が向上しない. この例では,ホスト A の測
に述べる. ha に近いホストから順に h1 , . . . , h5 と
位をする場合,ホスト A-B 間と A-C 間の距離から
する.h1 は最も ha に近いので Na の要素とし,h1
だけでは B, C の左側にホスト A が存在する可能性
と ha の垂直二等分線を引く. 次に近い h2 は先の垂
もあり,また測定距離の誤差によってホスト A の存
直二等分線の h1 側に存在するので,d2,a < d2,1 を
在しうる領域も広くなる傾向にある. そのため,こ
満たさず,Na の要素とはしない. 次に近い h3 は
のホスト A は指向性近接とはみなさず,ホスト B の
垂直二等分線の ha 側に存在するので,d3,a < d3,1
5
表 1 シミュレーション環境での基準局のカーバー率
通信可能
基準局数
h4
0
1
2
3
4
5 以上
h5
h3
ha
4
1.81%
74.10%
24.08%
0.00%
0.00%
0.00%
基準局数
5
0.00%
23.07%
53.04%
23.88%
0.00%
0.00%
9
0.00%
0.03%
4.37%
20.79%
54.55%
20.23%
h2
によるシミュレーションを行った. 図 4 参照.
h1
図3
20m
• 200m 四方の平面上に,基準局と無線端末を配置
して,シミュレーションする.
• 無線の到達距離は 100m とする. 図 4 では,ホ
スト 1 の無線到達距離を点線の円で表している.
• ホスト間の通信は遅延なく行われるものとみなし,
測位サーバに基準局の位置と各ホスト間の距離が
測位精度の判定 (例)
100m
20m
200m
6
20m
1
2
受信されているものとする.
0m
10
100m
• 基準局の配置は規則的であると仮定し,基準局の
台数は 4 台, 5 台, または 9 台とする. 4 台の場
合は平面上の四隅の角から (20m, 20m) の位置に
配置した (図 4 の丸 1 から 4 の基準局).5 台の場
合は 4 台の基準局に加えて中央に 1 台追加する
(図中 丸 1 から 5).9 台の場合は基準局 5 台の配
置に加えて各辺の中心から 20m 内側に 1 台ずつ
配置し,3 × 3 の格子状に 9 台を配置する (図中
丸 1 から 9).
5
7
3
8
4
200m
9
20m
Na の要素とはしない. ホスト h5 は d5,a < d5,1 と
d5,a < d5,3 をともに満たすので Na の要素となる.最
終的に Na = {h1 , h3 , h5 } となり,要素数は 3,ホス
ト ha は三角測位可能に分類される.
上記集合 Na の要素数が多いほど高い精度で測位が
行われているものと判断し,要素数 (スカラー値) を
• 無線端末数を 5, 10, 15, 20, . . ., 50 と変化させ,
各無線端末の位置は一様分布の乱数で配置する.
• ホスト間の距離の測定誤差がない場合とある場
合を想定した. 誤差がある場合は,100m あた
りの誤差が ±10m 以内に収まる確立が 68.27%,
±20m 以内に収まる確立が 95.45% となる正規分
布の誤差を与える.
• 各条件で 100 回ずつシミュレーションを行う.
基準局の配置と数について,事前に考察をしておく.
表 1 に基準局がどの程度の範囲をカバーしているかを
測位精度とみなしユーザに提供することによって,測
表す. 表 1 は図 4 の環境において,1 台の無線端末
位状況を知らせることとする. この測位精度の有効
をランダムに配置した場合に,無線端末が何台の基準
性の検証は今後の課題である.
局と直接通信可能かという確率を示している. 例え
図4
シミュレーション環境
を満たす.よって h3 は Na の要素とする. 同様に
して,ホスト h4 は d4,a < d4,3 を満たさないので
4. 評
ば,基準局数 4 台のときに 1 台の基準局としか通信で
価
きない確立は 74.10% である. 基準局数 4 台ではシ
本方式による測位結果を,従来の基準点のみを用い
ミュレーション平面 200m × 200m のどこに無線端末
た測位と比較することで評価する. シミュレーション
を配置しても 3 台以上との距離測定が不可能で,三角
による評価結果を述べる.
測量が不可能となる. そのため,本方式による測位
4.1 評 価 方 法
次の環境を想定して,3.2 節で述べたアルゴリズム
は可能であるが,従来方式での三角測位は不可能であ
る. 基準局数 5 台では,23.88% の場所で三角測量が
6
100
I-R4-E1
I-R5-E1
I-R9-E1
A-R4-E1
A-R5-E1
A-R9-E1
10
average of error distance [m]
average of error distance [m]
100
I-R4-E0
I-R5-E0
A-R4-E0
A-R5-E0
1
10
0.1
1
5
図5
10
15
20
25
30
35
number of terminals
40
45
50
5
図6
評価結果 (距離測定誤差なし)
I-は従来方式,A-は本方式.-Rn- は基準局 n 台
10
15
20
25
30
35
number of terminals
40
45
50
評価結果 (距離測定誤差あり)
I-は従来方式,A-は本方式.-Rn- は基準局 n 台
可能である. 基準局数 9 台では,95.6% の場所で三
果を表している.例えば I-R4-E0 は基準局 4 台のと
角測量が可能である.
きの従来方式,A-R4-E0 は基準局 4 台の本方式を表
す. 基準局 9 台の場合は従来方式,本方式とも誤差
従来手法で三角測量が不可能な無線端末の扱いは次
のようにする. 基準局 2 台でカバーされる場所にあ
がほぼ 0 なので,グラフには記載していない.
る無線端末は,この基準局 2 台を結ぶ直線上に無線端
従来方式 (I-R4-E0,I-R5-E0) では,基準局数が同じ
末があるものとして扱い,基準局との距離の比で無線
であれば無線端末数の増減によって,測位誤差は変化
端末の計測位置を決定する.また,基準局数が 1 台の
はなく,平均誤差は基準局 4 台のとき 42.0m,5 台の
場合は,無線端末の計測位置を基準局と同位置とする.
とき 12.0m である. この 2 環境では三角測量できな
基準局が 0 台の場合は誤差の統計を取る目的から,シ
い無線端末数が支配的であり,誤差が非常に大きい.
ミュレーション平面の原点 (左上) 付近を無線端末の
基準局 5 台の結果が,4 台の結果よりよいのは,三角
計測位置と仮定することとする.
測量可能な無線端末が 1/4 程度あることと,2 基準局
4.2 評 価 結 果
まずホスト間の測定距離に誤差が含まれない理想的
な環境での結果について述べ,その後,誤差を加えた
より現実に近い環境での結果について述べる.
図 5 に,ホスト間の測定距離に誤差が含まれない理
での測位を行う無線端末が増加したことによる.
想的な環境での評価結果を示す. 基準局数が少なく,
線端末 15 台以上では,平均誤差は 0.10m 前後となっ
本方式 (A-R4-E0,A-R5-E0) では,基準局 4,5 台
のとき無線端末数の増加とともに,平均誤差は減少し
ている. 基準局 4 台で無線端末 20 台以上では,誤差
平均は 0.23m 前後を達成している. 基準局 5 台で無
エリア全体をきちんとカバーできない場合に,本方式
ている. 基準局 9 台のグラフは省略しているが,従
が有効であることを示す実験である.
来方式と同程度の結果を得られている.
グラフは無線端末の測位誤差の平均値であり,無線
図 6 に,ホスト間の距離測定に誤差が含まれている
端末数を増加させたときの誤差平均の変化を表してい
場合の実験結果を示す. 本方式によって距離測定誤
る. 測位誤差は,実際の位置と測位結果位置の直線
差が測位誤差に与える影響を縮小できることを示す実
距離とした. 横軸を無線端末数,縦軸は対数軸で,測
験である. 図 5 と同様にグラフの横軸は無線端末数
位誤差の平均値である. グラフ中 I- で始まるものが
で,縦軸は対数軸で測位誤差の平均を表す. I-Rn-E1,
従来方式,A- で始まるものが本方式の結果であり,-
A-Rn-E1 はそれぞれ基準局 n 台のときの従来方式と
本方式の結果である.
R4-, -R5- はそれぞれ基準局が 4 台,5 台のときの結
7
距離測定の誤差は距離に比例して増加し,ホスト間
よって,本方式の実用性の検討を進め,今回シミュレー
の距離が 100m のときの誤差が ±20m 以内に収まる
ションで行った距離測定誤差ありの環境における評価
確立が 95.45% となる正規分布とした. ホスト間の
の信憑性についても考察する予定である. 3 次元空
距離が 50m のときは誤差はこの半分となる.
間での測位への対応は,現状 2 次元平面状での測位
従来方式 (I-Rn-E1) では,基準局 5 台,9 台の場合
のみをシミュレーションしているが,建物内のフロア
に距離測定誤差による影響が顕著に現れている. 基準
をまたがった測位を実現するために必要である. 測
局 5 台のとき距離測定誤差の有無で平均誤差は 12.0m
位アルゴリズムの改良は,距離測定の誤差が距離に応
から 16.8m に増加している. 基準局 9 台のときでは
じて増加することをより積極的に利用することで,測
0.0m から 6.45m に増加している.
本方式 (A-Rn-E1) では,無線端末数の増加ととも
に測位誤差が減少し,最も測位誤差の大きい基準局 4
台の場合でも,無線端末 15 台では誤差平均が 6.62m
と基準局 9 台の従来方式と同程度の結果が得られた.
基準局 9 台の場合も,従来方式と比べて本方式の測位
誤差は常に少ない. 無線端末数が 50 台のときの測
位誤差は基準局数 4,5,9 台のそれぞれのとき 3.4m,
位精度を向上できることが期待される.
謝
辞
本研究の一部は,文部科学省 科研費 (基盤研究
(B)(2) 12480099) および笹川科学研究助成による助
成を受けている.
参
考
文 献
1) Garmin Ltd., About GPS. available at
http://www.garmin.com/aboutGPS/waas.html
2) RADDCOMM Wireless Consulting Services,
“Location Methods for E-911 Phase II”,
available at http://www.raddcomm.com/E911%20Location%20Methods.htm
3) Harter, A., Hopper, A., Steggles, P., Ward,
A., Webster, P., The Anatomy of a ContextAware Application. Proceedings of the Fifth
Annual ACM/IEEE International Conference
on Mobile Computing and Networking, MOBICOM’99, Seattle,Washington, USA, Aug. 1999,
pp. 59–68.
4) Bahl, P. and Padmanabhan, V. N. , “RADAR:
An In-Building RF-Based User Location and
Tracking System,” Proc. IEEE infocom 2000,
pp. 775–784, 2000.
5) Fall, K. and Varadhan, K., (Editors), “The
ns Manual,” The VINT Project, A Collaboration between researchers at UC Berkeley,
LBL, USC/ISI, and Xerox PARC, Oct. 2001,
http://www.isi.edu/nsnam/ns/
6) Hightower, J., and Borriello, G., Location Systems for Ubiquitous Computing. IEEE Computer, Aug. 2001, pp. 57–66.
7) 北須賀 輝明,中西 恒夫,福田 晃,無線アドホッ
クネットワークを用いた位置推定システム情報処
理学会 マルチメディア,分散,協調とモバイル
(DICOMO2002)シンポジウム論文集, 2002 年 7
月, pp.369-372.
8) Kitasuka, T., Nakanishi, T., Fukuda, A. Location Estimation System using Wireless Ad-Hoc
Network Proc. of the 5th International Symposium on Wireless Personal Multimedia Communications(WPMC’2002), Oct., 2002(to appear).
3.1m, 2.8m であった.
本方式で無線端末数の増加に伴って測位誤差が減少
するのは,距離測定の誤差が距離に比例して増加する
という性質に起因すると考えられる. ホスト数が増加
し,密集することでホスト間の距離が短くなる傾向に
ある.ホスト間の距離が短くなると,距離測定の誤差
も小さくなり,測位誤差も減少していくと考えられる.
5. ま と め
本稿では,無線通信網を用いた屋内向け測位方式を
提案し,シミュレーションによる評価を行った. 従来
の三角測量に基づく手法では,基準点がある程度高密
度に配置されている必要がある. また無線による距
離測定は誤差が多いため,高精度での測位には不向き
と考えられている. 本稿では,これら 2 点を解決す
る方式を提案し,シミュレーションによって有効性を
示した.
提案方式は,複数の無線端末が測位を行おうとする
際に,各々独立に測位を行うのではなく,無線端末間
の距離を考慮して測位を行う方式である. この方式
の利点は無線端末が密集している環境では,
• 基準点数が少ない場合でも比較的高精度に測位が
できること,
• 測位に用いる距離測定の誤差がある状況でも測位
誤差を縮小できること
の 2 点である. また,ユーザに測位精度を与える指
針として,測位精度の分類を行った.
今後の課題は,実環境での評価,3 次元空間での測
位への対応,測位アルゴリズムの改良,測位精度の分
類の有効性の検証があげられる. 実環境での評価に
8
Fly UP