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イギリスのコミュニティ - 首都大学東京 都市環境学部 都市環境学科 都市
4 3 総合都市研究 第7 9 号 2 0 0 2 イギリスのコミュニティ • トランスポート はじめに 1.イギリスの移動困難者に対する施策 2 . イギリスの移動保障に関する今日的課題 おわりに 橋山井田 高秋藤津 万由美* 哲男“ 直人日本 大輔**** 要 約 イギリスでは、障害者生活手当の移動部分など、移動困難に対する社会手当の支給など があり、また障害差別(禁止)法により、サービス利用に関して平等に利用できるような 方策をとることが求められるなど、様々な面で移動困難者の移動を保障しようとしている。 また、その具体的な方法として、コミュニティ・トランスポートが発達している。現在は、 保健・医療制度改革の中で、どのように地域に応じた通院保障のシステムを作っていくか、 また移動手段をもたないために、社会の主流から取り残されてしまう社会的排除の問題に どう対処するかが、課題となっている。 でも移動の保障について関心が高くなっている今、 はじめに 地域で移動を支える仕組みを持つイギリスの事例 は大きな示唆を与えてくれる。本稿では、このよ イギリスでは、公共交通手段では満たすことの うな観点から、イギリスにおける移動困難者に対 できないような移動に関するニーズに対応するた する諸施策を整理し、移動保障に関する今日的課 めに、様々な方法が開発されている。イギリスで 題を検討する。 はこれらは公共に対するところのスペシャルとい う意味でのスペシャル・トランスボートという言 イギリスの移動困難者に対する施策 い方よりは、移動に関するニーズにコミュニティ、 すなわち地域で対応する交通サービスであるとし てコミュニティ・トランポートと呼ばれる。日本 $宇都宮大学教育学部 様車東京都立大学大学院都市科学研究科 ・神奈川県総合リハビリテーションセンター研究部 ・・・・交通エコロジー・モビリティ財団 H ( 1)移動困難と障害差別(禁止)法 9 9 5年 に 障 害 差 別 ( 禁 止 ) 法 イギリスでは 1 総合都市研究第 7 9号 4 4 2 0 0 2 ( D i s a b i l i t yDiscriminationAct、以下 DDAと 0 0 2 年から新車両については えば、タクシーでは 2 する)が制定された。この法律は障害があるため 車いす対応車にし、 2 0 1 2 年にはすべての車両を車 に、日常生活で差別的な扱いを受けることがない いす対応にすることなどが検討されてきている。 ように制度的、設備的整備を行なうことを目的と する(注(1))。全体は「障害の定義j、「雇用」、 ( 2 ) 移動を支援するための諸施策 「その他の領域(サービス、商品、庖舗など ) J ~公 ここで障害差別(禁止)法ができる以前からも 共交通」、「全国障害者委員会」などからなり、そ 存在していた移動困難解消のための支援策につい 9 9 6 年1 2月 2日に施行された。 の内容の多くは 1 ても整理しておきたい。まず経済的な支援として この法律の中では、〔第 3部 交通サービス、 は、移動のための社会手当がある。これは障害者 交通施設の利用〕や〔第 5部 公 共 交 通 〕 に お い の生活手当の中の移動部分 ( D i s a b i l i t yAllowance て、障害を原因とする移動における差別を解消す のmobilitycomponent) と呼ばれる部分で、移 るための法文が含まれている。頃 3部 交 通 サ ー 動困難の度合によって支給額が決定される。また、 ビス、交通施設の利用〕では、鉄道サービスや駅 軍人恩給にも同じような移動手当がある。移動部 0 0 4 年からは、サー 舎などの施設の利用について、 2 0 0 2年度で週当たり重度移動困難者が 分の手当は 2 ビス提供者は障害者が実質的に使えるようにする 3 9 . 3 0ポンド、軽度移動困難者が1 4 . 9 0ポンドとなっ か、または使えないのであれば、それにかわるサー ている。 ビスを提供する責任が生じる。建物やホームだけ パスや鉄道の運賃割引制度もあり、パスは地方 でなく、時刻表や券売機などの改善も対象となる。 自治体が運行することが多いので、地方自治体主 他の交通機関の場合もチケットの販売などを含め 体の割引制度を持っているところが多い。鉄道に て平等な利用ができるよう求められている。 関しては、障害者レールカードやシニアレールカー 〔 第 5部公共交通〕では、旅客運送業者(製 ドがあり、それぞれ提示することで、運賃が割引 造業者と交通事業者の両方)と障害者交通資問委 となる。ただし、車いす利用者と登録済みの視覚 員会 CDisabled Persons Transport Advisory 障害者はレールカードがなくとも割引となり、介 Committee) との話し合いによって、交通シス 護者についても同様に割引となる。 テムや車両などについての改善策の大枠が決めら 乗用車に関する経済的支援としては‘ M o t a b i l i t y ' れ、その結果について、広く←般の意見を聞いて、 という組織が活動している。この組織は 1 9 7 7 年に 基準を決定することとなった。これによって、例 政府のイニシアチプで作られ、障害者の乗用車や 表 1 イギリスのコミュニティ・トランスポート 車両貸し出し (grouph i r ebuss e r v i c e s ) …リーセク夕刊送サービス加問、特定の目的を l もったグループのための車両貸し出し(運転手つきの場合も、運転は グループが担う場合もある。) 事前の予約を前提とし、固定ルートを基本としつつ柔軟に対応し、 ド ダイヤル・ア・ライド ( D i a l a R i d e ) ア ツ - .1 '7 0)移動を可能にするようなース。基本的明合い│ となる。 ソーシャルカー ( v o l u n t a r ys o c i a lc a r s c h e m e,communityc a rs c h e m e )・ 即ラ…が附一山提供する活動。日士の話し合│ いに基づき、自分の車両を使う場合が多い。 コミュニティ・ノてス ミニパス ( 9人から 1 6 人乗り)や大型パス(定員 1 7人以上)を使った (communitybuss e r v i c e ) 地域内のパスサービス。 D e p a r t m e n to fE n v i r o n m e n t,T r a n s p o r ta n dt h eR e g i o n s( 19 9 9 )R e v i e wo fV o l u n t a r yT r a n s p o r tを参考に作成o . S o c i a lC a rS c h e m e →後に C o m m u n i t yC a rS c h e m e lこ変わる。 4 5 高橋・秋山・藤井・津田:イギリスのコミュニティ・トランスポート 額五; y e s でピく士 ( B J ' 緬提乗所 めがい近 きスらが ⑥て ス一る向か パサき家る ニいでのあ ミか供客に / y e s 唖J~,. . コミュニティ ・パス(交通法 第2 2項許可) ダイヤル・ア・ライ F 、 1 . . . ' () 0 ド型サービス(たぶ ん交通法第 1 9項許 可) 占 HM 域ク ‘ , グ マ のル は動 で活 地の ' め くた なの 唱耳' dau 行川町? 収 " 毎 , , , ( R J ヴィレッジ・パ ス(グループ・ハ イヤー)(交通法第 1 9項許可) 図 1 コミュニティ・トランスポート立ち上げのためのフローチャート 4 6 総合都市研究第 7 9号 2 0 0 2 コラム① 次の三つのすべてにあてはまりますか 12 1歳以よである 2 ミニパスの乗車定員 1 本運転手以外 l こ9 人から 1 6 人である 3 第1 捕か第2掲の許可を受けてい て.支払いを受けて運転している.ま たは支払いは受けていない e @ a u z 量 H -れ い '3き の転一れが同札 弘 知 加 た 還k マ許B な'あル免一 あはてクるリ •• 7 0 1 歳未満だ が.医学的な 7 0i歳以上の場合 理由から制限 カテゴふら された免許を 持っている ¥ P Ciの医療チェックをパXしな 占 以下の条件を全て満たす場合のみ.ミニパスを 運転する資絡があります。 1 支払いを受けずに.社会的な目的のため に.商業目的でなく.運転する 221 愈以上で1. 0 巌未満である 3 カテゴリーBの免許を取得してから最低でも 2 年経っている 4 ポラン1/1 )ー活動として運転サーーピスを提 供している t 実費弁済以外は無償で) 5 ミニパスの総重量I まリフトつきで4 . 2 5ト ン . リフトなしで3 ,5トン以下である 6 トレイラーはっけない ければなりませムバスすれ ば,さらに3 年.運転資格が更 新されます。免許のカマテゴ リーはD lまたは第ω 瑛または z 頃許可があれば, O I + E t 支 第2 払いを受けな叫になります 図 2 ミニパス運転のための免許について 車いすの購入・レンタルに関わる費用を補助する。 改造、維持にかかる消費税や車両税が免除となる。 また、障害にあった乗用車や車いすの紹介も行っ また、通院については、通院保障制度があり、費 ている。その他の経済的支援としては、前述の障 用が補助される場合がある。通院保障については、 害者生活手当移動部分を受給していれば、障害者 保健・医療制度改革のもとで、新たな課題となっ またはその家族が所有する車両については、車両 てきているので、後に詳述する。 高橋・秋山・藤井・津田:イギリスのコミュニティ・トランスポート ( 3 ) イギリスのコミュニティ・トランスポート イギリスで今まででみたような制度的な支援に 4 7 ニパス運転者啓発プログラム ( M i n i b u sD r i v e r 、MiDAS)J を行っており、 AwarenessScheme 加え、実際の移動を支援しているのがこのコミュ ソーシャルカーも含むコミュニティ・トランスポ ニティ・トランスポートである。イギリスのコミュ ートの運転者の全体的な技術や質の向上をはかつ ニティ・トランスポートは、表 1にあるように大 研修修了者は、他 ている(内容は表 2)0 MiDAS きく四つのタイプにわけることができる。 D AS 参加組織のクルマを再評価されること のMi このようなサービスの多くは、チャリティとい なしに運転することができる。また、 CTAでは、 う法人格をもったボランタリ一組織が行っている。 政府の助成を受けて、利用者に対する介助や応対 どのような地域のニーズにたいして、どのような についての水準をあげるために、「乗客補助訓練 サービスが提供されるかの判断は図 1によってわ 事 業 PATS ( P a s s e n g e r A s s i s t a n t T r a i n i n g かる(注 ( 2 ) )。 S c h e m e ) J の開発や移送サービス入門といった内 イギリスでは、基本的には、運転手を除いた乗 員定員 8人までのクルマをボランタリーな活動と 容の「基本研修事業 PTI ( P r i o r i t yT r a i n i n g I n i t i a t i v e )J も実施中である。 して運転する場合には、実費弁済以上の支払いを うけない限り、旅客車両運転免許 ( P a s s e n g e r 2 . イギリスの移動保障に関する今目的 C a r r y i n gV e h i c l e ) の取得や、運行の許可を求め 課題 9人 -16 人定員)につ る必要はない。ミニパス ( いては、 1 9 9 7 年に免許に関する規制が、 EUの他 前章で、イギリスの移動困難者に対する移動保 国の免許制度と合わせる目的で改正されたことを 障やその保障を実際に担うコミュニティ・トラン 受けて、現在、一般的な免許で、ミニパスを運転 スポートに関する諸制度について整理した。本章 できるかどうかの判断は非常に複雑になっている では、現在のイギリスで移動困難を考える上で、 ( 図 2参照)。ミニパスを運転する場合には、通常 重要となってきている「通院保障」と「社会的排 はカテゴリ一D1またはD1+E (無償運行用)とい 除Jという二つの分野について考察を行なう。 う免許が必要となる。しかし、普通の免許(カテ ゴリ -B) でもミニパスを運転できる場合もある。 ( 1) 英国の保健・医療サービスと通院保障 1 9 9 7年の免許法改正後は、新規にD1免許を取得 適切で、質の高い医療サービスを必要に応じて したり、更新したりするためには、特別な申請が 受けられるかどうかということは生活の質を決定 必要となり、ボランティア運転者にはハードルが する重要な条件のひとつである。そのような医療 高くなっている。 サービスの受給を保障する供給サイドの要素とし ボランティアとしてコミュニティ・トランスポ ては、供給主体である医療施設の有無、そこで実 ートの運転者となる場合については、コミュニ 際にサービスを提供する医療専門職の知識や技術、 ティ・トランスポートの全国団体である CTA 医療を供給するシステム運営の効率などが関与し (Community T r a n s p o r tA s s o c i a t i o n ) が「ミ てくる。また、いかに供給主体の準備があったと 表 2 MiDASの内容 Module1 評価(約1 時間) ミニパス評価・トレーナー C M i n i b u sA s s e s s o r / T r a i n e r ) によるデモンストレー ションの後、実際の運転を行い評価を受ける Module2 ミニパス運転のための訓練(半日)ミニパス運転上の講義(守りの運転、ミニパス運転手の法的責任、 乗客の安全、子どもの乗客の安全、運転手の安全、事故など緊急時の対応) Module3 車いす周ミニパス運転のための訓練(半日)車いす用のミニパス運転のための講義と実践(利用者の 理解、介助方法、リフトとスロープの使い方、とめ具の使い方など) 4 8 総合都市研究第 7 9号 2 0 0 2 しでも、実際にそこに行くことができなければ、 NHSトラストの予算から支出される。 医療サービスを受けることはできないので、医療 実際の送迎は NHSの救急サービス部門が担う サービスのアクセシビリティーの確保も重要であ ことが多かったが、供給主体の決定に強制競争入 る。一般の公共交通の利用が難しい移動困難者の 札が導入されたため、入札の結果、ボランタリー 場合は、特に通院を保障する制度が必要である。 組織が病院と契約をして送迎サービスを担ってい ここではそのような観点からイギリスの通院保障 る例もでできている。 NHSによる送迎サービスの対象とはならない について検討する。 英国では、医療サービスは国民保健サービス が、自分で通院することが難しい人のための送迎 ( N a t i o n a lH e a l t hS e r v i c e、 以 下 NHSとする) サービスを提供する活動がソーシャル・カー・ス という包括的な保健・医療提供システムの中で提 s o c i a lc a rs c h e m e . community c a r キーム ( 供されている。 NHSは基本的には国税によって s c h e m eともいう)である。これは通常は運転ボ 運営される行政サービスで、処方筆など一部を除 ランティアが自分の車両を使って送迎を行なうも き原則として自己負担なしで医療サービスを受け ので、実費程度の料金を支払う(図 4参照)。高 ることができる。対象者は地域の一般開業医 齢者、障害者、児童が利用する際には割引となる ( g e n e r a lp r a c t i t i o n e r 、以下 GPとする)に登録 し、緊急の場合を除いては、まずその GPを受診 が多い。ボランタリー組織によって運営されるこ し 、 GPが必要と認めた場合に、大きな病院への とが多いが、病院や救急サービスが直に運転ボラ ( C o n c e s s i o n a r yF a r e s ) 制度を持つ地方自治体 が行なう。 受診依頼やそのための移送の手配を GP ンティアを募り、 NHSの受診と連動させてソー 実際の通院送迎には、 NHSによる送迎とソー シャル・カー・スキームで患者送迎を確保している シャル・カー・スキームによる送迎がある。 こともある。 NHSによる送迎は GPなどの医療専門職 (GP 、歯 9 9 8年 NHS また、通院費用の補助として、 1 医者、助産婦、看護婦)から病院や施設に紹介さ (通院費用と料金の減免)規則 ( N a t i o n a lH e a l t h れて通院または入・退院する場合で、医学的にみ S er v i c e( T r a v e l i n gE x p e n s e s& R e m i s s i o no f p a t i e n tt r a n s p o r ts e r v i c e 、 て患者送迎サービス ( n o n e m e r g e n c ys e r v i c eともいう)の利用が必要 だと判断された場合には、 NHSの中の患者送迎 還 ( h e l pw i t ht r a v e lc o s tt oa n dfromh o s p i t al ) サービスの対象となる(図 3参照)。 活手当受給など、一定の条件を満たしたものにつ この送迎のための費用は、独立行政法人である C h a r g e s )R e g u l a t i o n s1 9 8 8 ) による通院費用償 がある(注 ( 4 ) )。これは所得補助受給や障害者生 いて、必要な通院の費用を償還するという制度で 病 院 蛾 ぷ 五 シ 送 叩 送迎のアレンジ 送避の受託契約 図 3 NHS による送迎システム 高橋・秋山・藤井・津田:イギリスのコミュニティ・トランスポート 4 9 J i 鴻 君 主 ヂ ト 鎗 助 金 図 4 ソーシャル・力一・スキームのシステム ある。通院費用手当の額は、基本的には公共交通 争や自由診療の導入など、今までイギリスでは考 を利用した場合の最小限の金額だが、医師が認め えられなかったような事態がおこっている。また ればタクシーを利用しその費用を償還してもらう 5ペンス程度の費用 る場合には、 1マイルあたり 2 1 9 9 9 年の保健法 ( H e a l t hA c t ) により、 2 0 0 1年 P r i m a r y 度よりプライマリー・ケア・トラスト ( C a r eT r u s t ) という地域の保健・医療・福祉を が償還されることが多いが、病院によってその額 統合した予算を運営する組織を設立することとな こともできる。また、クルマを使って通院してい り、その中で NHSも運営されることになってい は異なる。 CTでは NHSと 地 域 の 社 会 サ ー ビ ス 局 る 。 P ( 2 ) 健康における不平等と通院保障 イギリスでは、 1 9 7 0 年代後半から、所得や人種、 く異なるということに注目し、これを健康におけ ( D e p a r t m e n to fS o c i a lS e r v i c e s、 D S S ) の予 算が一部統合されるので、 D SSの送迎サービスが 必要ない昼間に病院送迎を D SSが分担し、費用は PCTの共通予算でまかなうということも可能となっ 性別、年齢といった属性によって健康状態が大き る不平等の問題として、様々な角度から調査や研 てきている。今後は、地域に応じた通院保障のシ 5 ) )。病院送迎のシス 究を行なってきている(詮 ( ステムを作り、地域の中でどのように地域住民の テムを用意し、経済的な援助をすることは、通院 送迎を考えていくのかが重要な課題となってきて の機会を高める有効な手段のひとつであり、全般 いるといえる。 的な移動に関する経済的支援とともに、健康にお ける不平等を是正するためには不可欠と考えられ ( 3 ) 社会的排除と移動 る。しかし、このようなシステムを充実させるよ うな財政的裏付けは十分にはされていないのが現 1 9 9 6 年に政権についた労働党ブレア政権は、 「社会的排除 ( s o c i a le x c l u s i o n ) の克服」に取り 状である。 組むことを大きな政治的課題として掲げている。 1 9 9 0 年の国民保健サービスおよびコミュニティ これは、民族、ジェンダ一、年齢、貧困、低所得 ケア法によって、一定の条件のもとで G Pや病院 といった理由によって社会から排除されることが が独立した予算を持ち独立採算で運営することが ないように、社会への平等な参加のための条件を 可能となった ( G Pについては予算保持GP 制度、 整備していくことを意図する。コミュニティ・ト 病院については NHSトラスト)。さらに、 NHS で ランスポートの整備はこの「社会的排除の克服」 はなく自由診療でのサービス供給が可能になるな のための重要な方策のひとつとして期待されてい どNHSは全国一律的な制度ではなくなってきて る 。 2 0 0 0 年に出された環境・交通・自治省(当時) いる。そのような体制の変化の中で、病院聞の競 の『社会的排除と公共交通のあり方(“ S o c i a l 総合都市研究第 7 9号 5 0 2 0 0 2 E x c l u s i o na n dt h eP r o v i s i o na n dA v a i l a b i l i t y o fP u b l i cT r a n s p o r t " ) jでは、失業者、子育て ニティ ( a c t i v ec o m m u n i t y ) J政策は、コミュニ 中の家族、若者、低所得者にとって、社会的排除 ティ・ビジネスやコミュニティの再生事業を通し と交通とは密接に関連していると指摘している て、雇用の創出と市民の自発的な貢献を促進しよ また、ブレア政権が推進する「活力あるコミュ ( 注( 6 ) )。例えば、戦後すぐには個人が週に移動 うというものだカ昔、コミュニティ・トランスポー 5マイルだったのが、今では週に 1 3 0 する距離は 2 トはそういった事業のひとつとして、またコミュ マイルも移動しており、移動の保障は重要な課題 ニティの再生の要として大きな役割を果たすもの であることが強調されている。 9 9 9 年に環境・交通・自治省(当時)に である。 1 9 9 6 年から 1 9 9 8 年の英国移動調査のデー また、 1 より発表された『ボランタリー交通の見直し タによれば、年代別、移動困難の有無別に移動距 いReviewo fV o l u n t a r yT r a n s p o r tつ』ではコ 離をみた場合、自動車を持つ世帯と持たない世帯 ミュニティ・トランスポートの主要な担い手とし では、大きな違いが生じている。同じ移動困難で てのボランタリー・セクターの役割が強調され、 も、自動車を持っているかどうかで、移動の自由 そのための財政的、制度的支援のための提言が盛 度は大きく異なっていることがわかる。前出の り込まれている。 『社会的排除と公共交通のあり方』では、このよ その中でも、特にここ数年、集中的に助成や支 うな特に移動が困難な状態を「移動における貧困 援策が施されてきたのは、田園地域 ( r u r a l ( t r a n s p o r tp o v e r t y )Jと捉えている。 a r e a ) のコミュニティ・トランスポートである 表 3 英国におけるタイプ別移動距離(一人当たり一年間): 1 9 9 6 / 9 8 単位:マイル 自動車非保有世帯 0-S 歳 歳 16-29 移動困難でない 移動困難あり 全体 歳 30-49 移動困難でない 移動困難あり 全体 歳 50-64 移動困難でない 移動困難あり 全体 歳 65-79 移動困難でない 移動困難あり 全体 1 , 5 5 o 白動車保有世帯 世帯全体 4, 4 4 2 3 , 8 4 7 3, 6 6 5 2 , 0 0 8 3, 5 5 6 8, 9 9 7 5, 7 4 1 8, 9 2 2 7 , 8 7 0 4, O 6 8 7 , 7 4 7 3, 7 3 8 2 , 7 4 5 3, 5 7 3 1 0, 4 5 7 6, 6 1 5 1 0, 2 7 7 9, 6 1 7 5, 1 9 3 9, 3 3 5 3 , 0 6 6 1 , 5 3 3 2 , 5 3 5 9, 3 5 7 6 , 0 5 7 ~899 8 , 5 5 0 4, 5 8 1 7, 8 6 5 2 , 6 1 0 1 , 8 0 5 2 , 2 3 3 5, 8 9 o 4, 臼2 5, 5 7 6 4, 8 7 7 3 , 1 0 0 4, 2 8 4 2, 0 4 9 8 8 . 0 1 , 2 3 6 4, 0 7 9 2 , 1 0 3 3 , 0 6 5 2 , 槌5 1 , 1 7 9 1 , 7 9 4 回歳以上 移動困難でない 移動困難あり 全体 S o u r c e :N a t i o n a lT r a v e lS t a t i s t i c s、 DETR ( 注( 6 )) 高橋・秋山・藤井・津田:イギリスのコミュニティ・トランスポート 5 1 ( 注( 8 ) ) 01 9 9 7年の時点で田園地域のパーリッ 一方で、都市部で多いダイヤル・ア・ライドへの シュを調べたところ、 75%でパスサービスがなく、 44%では朝 9時までパスサービスがなく、 77%で 資金提供不足を心配する声もある。都市部では今 9 ) )。 は夜 7時以降にパスサービスがなかった(注 ( t r a n s p o r ts y s t e m ) にコミュニティ・トランポー また、所得階層で下から 10%以内の世帯で比較す トを組み込んでいくかが課題となっていくと思わ ると、田園地域に住む世帯は、都市部に住む世帯 れる。イギリスの交通政策および地域振興政策の の半分しか自動車を所有していない。 中で、このような交通における地域や地方の違い t e g r a t e d 後は、いかに統合的交通システムCin をどのように調和させていくかも考えていく必要 ( 4 ) 社会的排除解消のための移動保障 がでできている。 このような状況を解消するために、 1 9 8 6 年から R u r a lT r a n s p o r t は、田園地域交通整備基金 ( おわりに DevelopmentFund) による補助金が始まり、概 ね 3年を限度として、新規に立ち上げるコミュニ 日本で 2 0 0 0 年に導入された介護保険では、介護 ティ・トランスポート事業にも助成が行なわれて 保険指定事業者の認定を受けたタクシ一事業者、 きた。これに加えて、三つの新しい助成がプレア すなわち「介護タクシー」が、介護保険にはない 政権になってから始まった。まず、「田園地域交 送迎介助というサービスを提供することで定着し R u r a lT r a n s p o r t 通パートナーシップ基金 ( 0 0 2 年度の介護報酬見直し た。その結果として、 2 P a r t n e r 油i p ) J は、田園地域が社会的に孤立して の議論の中から、厚生労働省は訪問介護メニュー s o c i a le x c l u d e d ) 状態の改善を目的とす いる ( に「通院等のための乗車文は降車の介助(乗降介 る助成である。これは、新規事業だけでなく、既 J を新たに設定した。生活をしていれば当然 助) 存の事業に対しでも、最大 3年間の助成を行な 必要な「移動」という行為を保障する仕組みが介 う。管轄は地域ごとの地域開発局 ( R e g i o n a l 護保険の中になかったということは、今までの日 D e v e l o p m e n tA g e n c y ) である。次に、「田園地域 本では、交通・福祉政策の中で移動をどのように パス補助金 ( R u r a lBus S u b s i d yG r a n t s )J で 保障するかという観点が欠けていたということを ある。これは既存のパスサービスへの資金援助の 0 0 2 年 示唆している。一方で、国土交通省からは 2 ための補助金で、 3年間ζ l約 9, 5 0 0万ポンドの助 になって、なんらかの運営団体の資格基準を示し 成が行なわれる。管轄はカウンティ政府 ( C o u n t y て、ボランタリー組織にも移送サービスを認めよ C o u n c il)、統一地方局(Un i t a r yA u t h o r i t i e s )、 うという方針もでできている。このような方向性 PTE ( P u b l i cT r a n s p o r tE x e c u t i v e s ) である。 は、本稿で検討したようなイギリスの制度と重な 最後が、交通省 ( Departmentf o rT r a n s p o r t ) るところが多く、日本の今後の移送サービスを考 による補助制度で、開拓的なパスサービス事業に える上で非常に参考になると考えられる。しかし、 対する助成である「田園地域パスチャレンジ基金 現在、イギリスは、ブレア政権下での急激な変革 ( R u r a lBusC h a l l e n g eFund)Jである。ブレア が続いている。それは交通・福祉政策でも例外で 政権以降、特に、地方への権限委譲が進んでおり、 はない。そのような影響は、今回中心的に扱った 田園地域の交通に関することも中央政府ではなく、 移動困難者など社会的弱者に特に強く影響すると イングランドの中では 8つの地域開発局の管轄と 考えられるので、今後もさらに注意深く考察を深 なり、より地域のニーズにあったサービスの展開 めていきたい。 が考えられるようになってきている。また、スコッ トランド、ウエールズ、北アイルランドについて は、イングランドとは違った、独自の政策を展開 できるような機構改革が行なわれてきている。 5 2 総合都市研究第 7 9号 2 0 0 2 参考文献 注 本稿の内容には、 2 0 0 0 年、 2 0 0 2年のイギリス調査の r 秋山・中村編 ( 2 0 ∞) パスはよみがえる』日本評論社 r 1 9 9 6 ) 交通と福祉一欧米諸 松尾・中村・小・池・青木 ( 内容が反映されている。 1)この法律で障害は「日常生活を送る能力に相当に 不利で長期的な影響を与えるような身体的または ap h y s i c a lormentalimpairment 知的な障害 ( 国の経験から』文真堂 r 交通エコロジー・モビリティ財団 ( 2 0 ∞) 欧米主要国 における高齢者・障害者の移動に関する調査報告書』 r 欧米主要 whichhas a s u b s t a n t i a ll o n g t e r ma d v e r s e e f f e c t on a p e r s o n ' sa b i l i t yt oc a r r yo u t normald a y t o d a ya c t i v i t i e s )J と定義されて 2 0 01 ) 交通エコロジー・モビリティ財団 ( いる。 CommunityT r a n s p o r tA s s o c i a t i o n( 19 9 9 )“ M i n i b u s Management, u p e r a t i o n, maintenance and managemento f9 1 6s e a tv e h i c l e s " CommunityTransportA s s o c i a t i o n( 20 ) “L e t ' s GetGoing: An Action Guide f o r Rural and CommunityTransporti nEngland" h e Departmento fEnvironment,Transportandt 19 9 9 )“Reviewo fV o l u n t a r yTransporf R e g i o n s( h e Departmento fEnvironment,Transportandt Regions ( 20 )“ S o c i a lE x c l u s i o n and t h e t " P r o v i s i o nandA v a i l a b i l i t yo fP u b l i cTranspor Graham,H.e d . (2ω0) “ Understanding Health n i v e r s i t yP r e s s I n e q u a l i t i e sぺ upenU o s p i t a l Manchester Health A u t h o r i t y( 1 9 9 7 ) “H e s t T r a v e lC o s t sScheme-CurrentP r a c t i c e& B P r a c t i c eG u i d e " )“HCll: Help w i t hh e a l t h NHSE x e c u t i v e( 20 c o s t s " S o c i a l E x c l u s i o n Unit ( 2 0 0 2 ) “Making t h e C o n n e c t i o n s Transport and S o c i a lE x c l u s i o n I n t e r i mF i n d i n g s " ∞ 2 ) Community Transport A s s o c i a t i o n( 20 ) “ L e t ' s Get Going: An Action Guide f o r R u r a landCommunityT r a n s p o r ti nE n g l a n d ", p . 3 4より作成。 3 ) 同掲書 p . 8 0より作成 4 )“H o s p i t a l T r a v e l C o s t s Scheme-Current P r a c t i c e & B e s t P r a c t i c e Guide" ( 19 9 7 ) Manchester Health A u t h o r i t yお よ び NHS E x e c u t i v e( 2 0 0 0 ) “HCll: Help with h e a l t h c o s t s " を参照。 5 ) Graham ( 20 ) を参照。 6 )h t t p : / / w w w . m o b i l i t y u n i t . d e t r ・ . g o v .u k /s o c i a l e x 2 / ∞ に掲載。 7 )D epartmento fEnvironment ,Transportand t h eRegions( 20 )より。インターネットサイト のためページなし。 ∞ 8 ) 人口閑散地域への助成などに関する情報について ,, ∞ は、“ L e t ' sGetGoing" (CTA 2 0 pp. 4 8 6 0 ) を参考にした。 9 ) カントリーサイド・エージェンシー ( h t t p : グwww. 国における高齢者・障害者の移動に関する調査報 告書』 ∞ ∞ ∞ c o u n t r y s i d e . g o v .uk/a c t i v i t i e s/r u r a l/s o c i a l e xclusion_03.htm)のサイトより。 KeyWords (キー・ワード) U.K. (イギリス), Community Transport (コミュニティ・トランスポート), S o c i a l E x c l u s i o n (社会的排除) 高橋・秋山・藤井・津田:イギリスのコミュニティ・トランスポート 5 3 Overviewo fCommunityTransport i ntheU . K . MayumiTakahashi , *T e t s u oAkiyama* ヘ NaotoF u j i i* * *andD a i s u k eSawata* * * * UtsunomiyaU n i v e r s i t y GraduateS c h o o lo fUrbanS c i e n c e,TokyoM e t r o p o l i t a nU n i v e r s i t y 日 *T heKanagawaR e h a b i l i t a t i o nC e n t e r * * T r a n s p o r t a t i o nE c o l o g yandM o b i l i t yF o u n d a t i o n C o m p r e h e n s i v eUrb αnS t u d i e s,N o . 7 9, 2 0 0 2, pp. 4 3 5 3 本 日 傘傘 TheU .K . hashad v a r i o u s measures t oe n s u r et h et r a n s p o r to fp e o p l e who i s a b i l i t yL i v i n g c a n n o tu s eo r d i n a r yp u b l i ct r a n s p o r ts y s t e m . For example,D h i c ht a r g e t st o meet m o b i l i t yn e e d s . A l l o w a n c e has a m o b i l i t y component, w D i s a b i l i t yD i s c r i m i n a t i o nA c t1 9 9 5 has made many t r a n s p o r tp r o v i s i o nt o be l .C o m p a r a t i v e l yd e v e l o p e dcommunityt r a n s p o r ts y s t e m si nt h eU .K . u n i v e r s a lf o ra l u p h o l dt h e s em e a s u r e s . t 1 y,t h eu . K .f a c e s some problems r e l a t e dt o community t r a n s p o r t . Curren oe s t a b l i s ht h esystemo ft r a v e l i n gt o andfromh o s p i t a land Amongthem,howt t r a n s p o r tn e e d sf o rs o c i a li n c l u s i o na r emaimi s s u e s .