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企業立地とまちづくりの方向性 地域と産業再生の考察

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企業立地とまちづくりの方向性 地域と産業再生の考察
企業立地とまちづくりの方向性 ─ 地域と産業再生の考察 ─
久保 亨
一般財団法人 日本立地センター 立地総合研究所主任研究員
はじめに
東日本大震災が起こって2年半以上が経過し
ました。復興に向け、現場では、まちづくりや
対する解決策を見つける取り組みでもあること
を意味します。
このような大きな環境変化の中で、「産業と都
インフラの復興による「地域の再生」、農業、商業、
市」のこれからの展開方向について、数年間検
工業それぞれの現場で進められている「産業の
討したことを整理し報告いたします。この報告が、
再生」、そして、大きく変化した地域のこれから
今後の「地域産業の再生」、「産業と都市の新た
の社会・経済・行政等を再構築する「社会シス
な関係構築」、「地域が継続的に維持できる就労
テムの再生」といった様々な取り組みが続いて
の提供」などの問題解決の方向を提案し、創造
います。
的な産業づくり、空間づくり、人づくりの一助
復興の現場で直面している課題は数多くあり
になれば幸いです。
ますが、一番の課題は、復興後に、どのような
地域、どのような産業の組み合わせ、市民生活
Ⅰ これからの「企業立地とまちづくり」
はどのようになるのかといった、未来の絵姿が
を考える視点
未だに具体的に描かれていないことではないで
本稿の副題である、
「地域と産業再生の考察」
しょうか。
を始めるきっかけは、2007年に行った、山形県
本稿で、震災の話から始めたのは、震災によ
の地域調査でした。当時は、全国の産業集積地
り地域に起こった出来事は、国全体や他の地域
域の調査を行っていて、東北では歴史ある産業
が時代の変化の中で今後時間をかけて変わって
集積地域の一つである、山形市を訪問しました。
いくだろうことが一気に起きてしまったもので
あると考えるからです。
現地調査は、地域経済、産業立地、都市計画、
交通計画、産業史など幅広い分野の専門家が実
被災地域からの避難による人口流出の結果、ふ
施しました。山形は、古くは鋳物から始まり、
るさとに戻りたいと考える人が高齢者に多く、一
木工、機械、電気等の近代産業に発展し、現在
方、産業復興が遅れ、就労の場が奪われた若い
も多くの産業が立地しており、近年は有機EL
世代が将来を考えると戻りたくても戻れないと
などの先端分野もリードしています。
いった状況は、
「地域の少子高齢化」が震災を契
山形市内の現地調査を行っていたとき、ある
機に一気に進んだことになります。また、企業
中規模の鋳物工場に行き、おそらく自動車部品
の廃業、移転、事業の縮小は、
「地域産業の空洞
の一部であろう大きな鋳物製品が、ラインを流
化」の進展であるし、地域の生業である、農業
れていくのが目にとまりました。一行は全員が
や水産業の縮小は、全国の地方が抱えている「地
その鋳物製品が動いていくのをじっと黙ってし
場産業の縮小」問題が加速したことになります。
ばらくみていました。皆ものづくりの現場を見
このことが意味することは、今進めている復
て何かを感じているようでした。
興への取り組みが、単に被災地域の復興に向け
その日の夜、これからの地域産業集積の活性
た、特定地域での対応策ということだけではな
化、産業と地域の連携などを議論している内に、
く、将来わが国の多くの地域が直面する課題に
メンバー皆がものづくりを大切に考えているこ
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久保 亨(くぼ とおる)
・1956 年 東京生まれ
・1983 年 財団法人日本立地センター 入所
・テクノポリス、リサーチコア、頭脳立地、オフィ
スアルカディア、集積活性化、産業クラスター
など、国の産業立地政策の立案に協力。
・また、同時に地域の自治体が取り組む、産業
振興計画、企業立地計画など、地域の産業振
と、特に長い歴史を持った地域の産業集積を大
興プランの策定にも参加。
・その他、東日本大震災の復興ビジョン、復興
計画の策定にも参加。
・最近は、地域の産業再生、都市再生両面から
の総合的な検討を進め、産業とまちづくりの
両面からの地域再生、活性化に取り組んでい
る。
◆2009年2月 「産業と都市シンポジウム」
切にしなければならないこと、また、それを支
「産業と都市」─離反から融合へ─ のテーマ
えてきた都市がこれからも維持発展できるよう
でシンポジウムを実施しました。行政、研究者、
な方向について検討しなければならないことな
産業振興に関係する実務者が参加し意見交換を
どが確認されました。
実施しました。検討の主なテーマは以下の通りで、
その後、何回か検討を重ね、2009年2月に「産
活発な議論がありました。
業と都市―離反から融合へ―」と題するテーマ
◎新たな産業都市のイメージとは
を中心にシンポジウムを開催し、以後継続的に、
◎持続可能な都市と産業のあり方について
以下の検討を進めてきました。
◎「社会再生」を実現する産業都市形成は可
能か
■『産業と都市』の再生に関する検討の経緯
山形現地調査をはじめ、神戸、東大阪、京都、
シンポジウムでの議論を受けて、きっかけを
諏訪などの産業集積地域の調査、また、産業集積、
作った山形現地調査に参加した専門家の方々と
産業基盤強化に関する各種の研究会を進める中
議論を重ね、四年間にわたり当センターの機関
で、各地の産業集積の成り立ちから現在までの
誌「産業立地」に毎年特集を組み、主要な論点
経過を調べました。この調査の過程で、産業集
を提示しつつ検討を重ねました。
積の要件として、多くの企業が近くに立地し、
生産活動を続け、連携や生産の委託、取引関係
◆2009 ∼ 2012年 「産業立地新年号巻頭特集に
などの、主として経済的に企業活動を進めてい
よる報告」
くメリットが重要であるのは当然ですが、それ
シンポジウム開催をかわきりに、「産業立地」
と同等か、それ以上に長い時間かけて構築して
の紙面で、毎年特集を組み、関連する分野の研
きた、産業集積の一員、地域コミュニティの一
究者、地域の実務者、計画などの立案者からの
員としての信頼関係、日頃の責任ある対応など、
意見・報告などを掲載しました。
直接企業活動、経済活動に結びつかない集積の
重要性が浮かび上がってきました。
共同研究、共同開発、企業が連携して進める
ものづくりの現場などでは、特にこの信頼関係
が重要となります。
この、信頼関係という産業集積の新たな要素
と、それを生み出す産業と地域の関係の再確認
《詳しい内容は以下の(一財)日本立地センター機関
誌「産業立地」をご一読下さい》
【2009年1月号】「産業と都市の関係の再構築」
《主な内容》
◎産業集積から新たな産業都市形成へ
◎社会再生を実現する産業都市形成の可能性
【2010年1月号】「産業と都市」
をすすめ、「都市と産業の関係」について明らか
にし、歴史の流れで離反してきた都市と産業の
融合の重要性などを認識するに至り、次の検討
を進めてきました。
─地域からの融合戦略─
《主な内容》
◎「地域主権」の時代と地域主導のマスター
プランづくり
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◎「立地調整」の進行と地域イノベーション
の再構築
◎「社会再生」による地域産業の持続的成長
戦略
済)は成り立たない状況に直面し、地域産業の
縮小が始まっています。このような状況を乗り
越え、地域経済を再生するためには、新たな視
点を導入した地域での経済循環と就労構造の構
【2011年1月号】
「産業立地政策のこれからを考える」
築が必要で、そのためには「産業コミュニティ
《主な内容》
の形成」(内容は後述)が必要と考えます。
◎産業立地政策のこれからを考える
◎産業発展の歴史、経緯から今後の方向を考
える
このことは、人間重視の産業形成を地域で進
めることに繋がり、それを実現する地域産業の
複合化、すなわち多様な産業が連携する地域産
◎ポスト「高度成長」パラダイム
業の成立と、それを支える地域産業拠点が形成
【2012年1月号】
「地域と産業振興」
され、同時に地域就労拠点としても成立する必
─地域を支える産業の再生に向けて─
《主な内容》
要があります。
そして、地域でこれを実現するには地域独自
◎これからの産業振興戦略の構築
の「総合的産業政策」が必要であり、これから
◎「産業コミュニティ再生」からの地域産業
提案する方向は「多分野融合型産業集積」として、
新生ビジョン
この検討を続けている中、2011年3月11日に
地域を構成する産業群を総合的に捉える視点に
なると考えています。
「東日本大震災」が発生し、東北の広範囲の地域
次に、これらの視点を背景として、昨年度か
が被災し、現在も津波被害や原発事故被害に対
ら行っている「地域と産業活性化」に関する検
する復興の取り組みが続いていることはご承知
討を紹介いたします。
の通りです。
以上のような経過で、大きな環境変化の中で
変革を迫られている「産業と地域の関係」につ
Ⅱ 地域と産業活性化方策の検討
1 検討の背景
いて検討を続けています。特に、震災を契機と
大きく動いている地域と産業を取り巻く経済
して、地域の住民、すなわち生活者の視点に立っ
社会環境変化に対応し、地域と産業の活性化を
た産業活性化、地域活性化の方向についてさら
図り、循環型・自立型の地域社会を構築する方
なる検討が必要と感じており、地域に人材が定
策について明らかにする必要があります。検討
着し、就労環境が長期安定的に持続し、且つ地
に際しては、地域と産業活性化に関する次の背
域の特性を活かした多様な産業地域(産業コミュ
景に留意します。
ニティ)が実現できる方策について継続的に検
討を進めています。
グローバル企業を地域産業が支える従来の産
業構造では、国を超えた状況変化に対応して長
期継続的に事業を展開できる地域産業(地域経
ⅰ 構造変化に対応するために、くらしを維
持する雇用の創造、多様な主体間の連携の
構築、地域空間の再編に着目する。
ⅱ 産業と地域の関係性の変化、産業空間の
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縮減、新たな産業空間の設定を課題とする。
【用途地域の再編、インフラ再編、機能転換】
ⅲ 地域の産業発展、都市化の歴史を把握し、
②資金不足に対応できる新たな都市整備手法の
現在の状況と今後の方向を認識する。
検討
【都市基盤等リニューアル基金、未利用資産活
⑴ 構造変化への対応
構造変化への対応は、以下のように「多様な
雇用の創造」、「連携構造の構築」、「空間構造の
用手法】
③インフラ保全、改修プログラムの検討
【必要なインフラの確認、メンテナンス・廃棄・
再編」を検討の柱とします。
新設】
1)経済社会構造の変化へ対応する多様な雇用の
これらの検討に際しては、長期を見据えた、
創造
①少子高齢化に対応する多様な就業の実現
【若者、女性、高齢者の雇用を実現する地場産
業、地域産業の重要性を再認識】
②市場の変化の影響を受けにくい、地域型の新
たな所得機会の創出
【所得の確保、雇用の創出を実現する安定した
地域産業の維持・創出】
③資源、エネルギー制約に対応できる地域産業
【地域資源の活用、ローカルエネルギーへの転
換の促進】
地域の実態に合わせた議論が必要になるため、
従来の計画主体であった行政(国、県、市町村)
だけではなく、企業、市民、検討に必要な各分
野の有識者、学識者等の協力により進める必要
があります。同時に、これらの地域の多様な利
害関係者が参加し、地域が主体的に体制を組む
ことにより、都市規模、産業の状況、自然・社
会条件などの現状を十分認識する必要がありま
す。その上で、将来の地域の姿を描き、必要な
事業などの取捨選択、優先順位、計画内容、資
金調達の手法などを検討する必要があり、さら
2)産業構造の変化に対応する連携構造の構築
に、時間の経過と共にさらなる環境変化などが
①産業縮小に対応できる連携の強化
起こるため、中長期継続的に修正も含めた検討
【企業の廃業、縮小、移転を補完出来るコミュ
ニティレベルの連携強化】
ができる場(プラットフォーム)の形成と人材
の確保が必要になります。
②事業活動停滞を補完し連携の現場となる地場・
地域産業の再生
【連携再構築の基礎となる地域産業の再活性化】
③連携を再構築する主体となる若者の雇用の場
となる地場・地域産業の推進
【若者の所得確保、人口流入、生活維持の場と
なる産業の再認識】
3)地域の空間構造の再編
①都市縮小、産業縮小に対応した土地利用の見
直し
⑵ 地域と産業活性化を巡る課題の認識
新たな地域と産業活性化を考えていく上で重
要な点は、地域課題を明確にして検討を進める
ことです。今後の方向を検討する際の課題として、
以下を設定しました。
1)産業と地域の関係性の再認識、再構築
①所得や雇用の維持・確保に資する、経済効率
重視から生活者重視の産業構造への転換
②既存立地産業重視の「内発型」産業の創出
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③産業継続、地域資源活用、人材定着など、地
域循環型産業の創出
2)産業環境変化により規模の縮小が予想される
産業機能の確認と効率化、縮減の検討
①大規模工場用地(臨海部等大規模工業用地、
大型工業団地、大型工場跡地‥‥)
②エネルギー多消費型産業集積(コンビナート、
大規模発電所‥‥)
③遠隔地産業用地(未利用工場団地・用地‥‥)
3)今後、より一層必要となる機能、場所の再設
定と活用方策
①産業集積拠点(特徴ある産業集積、産業集積
拠点、連担する産業地域‥‥)
②研究開発拠点(大学、研究機関等との連携拠
点‥‥)
③地域産業拠点(地場産業集積、工房村、地域
資源活用産業地域‥‥)
これらの課題への対応には、産業・都市にお
いて基本的な構造改変が必要になっています。
従来の産業機能、都市機能を活かしながら、地
域に過剰なものは縮減・廃棄し効率化を進め、
地域が主体的に実行できる計画を策定し、新た
循環型経済を実現する産業活動の具体像を描く
必要があります。そして、それらの産業群を「社
会再生産業」と位置づけ、地域を支える基幹産
業としての可能性を探り、これらの産業群を基
盤とした新たな「産業構造」を構築します。
〈社会再生経済〉の主な需要領域
A 国土環境再生領域
自然環境・風土環境や農林漁業等の生態産業圏、都市的建造環
境やエネルギーシステムを含む各種社会インフラ等の共用資源・
ストックの整備・管理・利用にかかわる分野
■ 環境・エネルギー関連
■ 社会インフラ・社会システム関連
■ 農林漁業・食基盤再生関連
■ 風土環境・景観関連 ほか
B 福祉社会再生領域
基礎的な生活・就労支援、住宅・居住、医療・保健・介護、保育・
養育(子育て支援)
、その他社会福祉等の対人ケア・相互扶助に
かかわる分野
■ 医療・健康関連
■ 福祉・介護関連
■ 子育て支援関連
■ 居住・生活支援関連 ほか
C 地域文化再生領域
生活文化、芸術文化・コンテンツ、教育文化など多様な表現・
コミュニケーションを介した新たな文化創造活動や地域基層文化
の再生・再興等にかかわる分野
■ 生活文化関連
■ 芸術文化・コンテンツ関連
■ 歴史文化・風土文化関連
■ 観光文化・教育文化関連 ほか
な地域を支える連携構造を実現するプラット
フォームやプロジェクトの検討が急務です。
⑵ これからの「地域と産業活性化」に対応した
2 検討の二つの柱【産業構造と空間構造のあり方】
⑴ これからの「地域と産業活性化」を支える産
業活動のあり方《産業構造》
空間編成のあり方《空間構造》
地域と産業活性化の実現に向けて「産業と都市
の融合」による都市空間のビジョンについて検討
地域産業振興の視点からみた国レベルの成長
します。地域の需要に対応し、産業活動が循環
戦略の課題を整理し、国の成長を支えると同時
して地域再生を進めていくためには、生活圏レベ
に、地域生活圏レベルの産業の成立を考える必
ルの産業活動から始まり、その単位となる「産業
要があります。その際に、
「社会再生経済」の姿、
コミュニティ」を基礎とした新たな時代の産業都
すなわち、地域の多様な需要に対応した産業が
市づくりを実現する「空間構造」を基本とします。
地域で活動しながら新たな産業構造を創造し、
そして、次第に都市圏、広域圏に広がりを持つ
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地域が形成されることが望まれます。
からの地域産業の再生に向けた連携構造の考え
方を整理してみます。
①[生活圏(コミュニティ)レベル]
地域生活圏レベルからの多様な協同事業体の
活動を基礎として、社会再生産業を中心とした
地域産業の再構築を促す自律的な産業活動空間
としての「産業コミュニティ」を形成することが、
これからの産業都市を形づくる空間編成の基本
モデルとなります。
ⅰ 生活圏で展開する「コミュニティ連携」
タイプ。
ⅱ 隣接する市町村で構成する都市圏で展開
する「社会・地域連携」タイプ。
ⅲ 広域圏の広がりの中で展開する「産業・
技術連携」タイプ。
②[都市圏レベル]
こうしたなかで、より上位の都市圏レベルで
⑴ 生活圏タイプ【コミュニティ連携】
は、人口減少の加速化にともなう都市市街地の
生活圏を広がりとしたコミュニティ連携の構
縮退と集約化(都市縮小・コンパクト化)とも
造は、都市全体ではなくコミュニティ(生活圏)
相まって、既成工業団地を含む工業地の再編・再
を複数設定し、それらがエリアの特徴を活かし
配置や未利用産業地の複合利用等を通じた都市
て、地域が自立するためのサービスも含めた活
空間構造の再編・再整備をもとに、新たな産業都
動を連携させて循環型の都市を形成するイメー
市としての姿が整えられていきます。
ジです。医療・福祉介護など高齢化により需要
③[広域∼全国レベル]
が高まる産業群や、中心市街地の再生を進める
さらにこれらの都市圏内外や複数都市圏を結
ための「まちなか」の商店、事業所、工房など、
ぶ広域レベルでは、多様な活動主体による都市・
また、地域の歴史を基礎とする、地場産業、伝
地域間の連携活動を促すなかで、全国各地∼海
統産業などが成立するための、生活者、学校な
外におよぶ多層的な産業ネットワーク空間を再
どを巻き込んだ連携活動を促進します。
組織していき、当該産業都市を拠点の一つとし
これらを進める方向は、すでに各地で、地域
て、グローバル市場への進出を含めた基幹産業
の特性、産業集積の歴史、文化・自然を生かし
の育成・成長を実現していくための戦略的活動が
た観光、農業の再生など様々な事業が始まって
課題となります。
おり、それぞれの経済効果は小さいが、
「共同体
を形成するものづくり」、「自然・風土を活かし
Ⅲ タイプ別の連携構造と新たな動き
た芸術祭」、「地場産業を基礎に展開する新産業」、
地域を支えている多様な連携構造が、地域産業
「まちなかへの産業の導入」、「農業と他産業の連
の再活性化に向けて新たな産業構造へ進化する
携」など、住民、地域企業、それをサポートす
基礎となることに着目して、空間構造に応じて展
る中間組織体などによる活動が進んでいます。
開する連携タイプを次のように設定するととも
この様なコミュニティ連携による産業活動で
に、タイプ毎の連携構造構築に向けた展開方向
は、若者、女性、高齢者など、通常の企業組織
については、各地の新たな事例を参考に、これ
に雇用される就労形態では実現が難しい地域密
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着型の労働も成立し、若者の未熟練ではあるが
地域密着型のサービスや、パートタイムで子育
てと両立する女性の就労、高齢者の経験や技術、
⑶ 広域圏タイプ【産業・技術連携】
広域圏を広がりとした連携構造は、企業間の
「産業・技術連携」を主な機能として、コストの
生き甲斐を活かした伝統産業の職人技術の継承
低減やサプライチェーンの合理化など、経済的
など、地域に密着しマクロの経済動向に振り回
なメリットや合理的な生産活動を進めるための
されない所得機会の確保が実現され、持続型地
手段として成り立ってきました。しかし、生産
域を形成する重要な要素になると考えられます。
機能の空洞化(海外展開、集約化等)やわが国
産業の競争力の低下などによって、連携のノー
⑵ 都市圏タイプ【社会・地域連携】
ド(節点)となる産業集積の縮小や、生産拠点
都市圏を広がりとした連携構造は、地域産業
等の海外展開による国内の主要事業所のネット
の「社会・地域連携」から成り立ち、部品・資
ワークの崩壊などにより、連携構造が崩れてき
材の受発注や下請け構造などの企業間の取引関
ています。
係、地域需要や市場のニーズにより成立してき
対応方向は、広域連携の中でそれぞれの地域
ました。しかしながら、親企業の縮小・移転・
の産業の特性を活かした役割分担による無駄な
廃業による取引関係の変化や、地域経済の縮小
競争の排除、広域で連携する地域産業同士の相
による需要の減少や市場の縮小などにより、地
互の協力関係、リスク対応などによる補完関係
域経済全体の構造変化により連携構造も崩れて、
の構築による生き残り方策などについて検討し
連携を構成してきた企業数の減少などが起きて
ます。
います。
対応方向としては、連携構造が希薄になった
⑷ 連携構造のタイプ別の方向
従来型の経済ベースの取引関係を再編し、地域
上記の3タイプについて、各地の事例をもと
産業同士の生き残りに向けた信頼関係を再構築
に、これからの方向性、新たな連携を形成する
し、域外に流出していた事業を地域で再生し循
要素、事業例を整理したのが、次ページの表「連
環させて成立させる「地域事業体、共同事業体」
携構造のタイプ別方向」です。タイプ毎に、産
といった新たな連携活動を始めます。また、地
業活動および産業空間の方向性、新たな方向の
域需要に応えてきた生産者の事業を長期安定的
形成を実現する要素、事業化の例示をしました。
に地域が支える構造として、
「ロングテール事業」
連携構造は、生活圏を基本構造として、密な
の創出、
「ロングライフ製品」の発掘・PRなど、
連携の産業コミュニティを構築し、都市圏、広
生産者の事業継続、地域市場の多層需要の展開
域圏に波及する構造を考えています。方向性や
を促進し、域内循環を高めていく方向を検討し
事例については現在も検討中で、より明快な説
ます。これは、単に循環を高めることに留まらず、
明ができるよう、事例調査、内容の検討を進め
特徴ある事業や、商品には、広域でのニーズも
ています。
生まれる可能性があり、域外に市場を拡大する
地域産業発展モデルとしても成立します。
’
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10
連携構造のタイプ別方向
連携構造タイプ
【生活圏】
コミュニティ連携
【都市圏】
連携の視点
連携構築の方向性
連携形成事業例
○小規模地域型生産
○多産業分野連携
○手仕事づくり
○生活充実型産業
○企業グループ、域内企業による協同事業
の形成
○ものづくり「風土」を活かした、地域産
業再生、まちなか再生、工房形成の実現
○外部のアイディアを吸収し、地域企業が
地域で製品化を実践
○工房村、共同作業所
○まちなか工房
○福祉事業所
○市民事業、市民ファ
ンド
○匠の町しもすわ
○神戸ものづくり職人大学
○大地の芸術祭(十日町)
○土祭(益子)
○やちむんの里(読谷村)
○ものづくり拠点形成
○地域人材育成
○産業環境再編
○新地域産業形成
○企業連携、産業集積内の連携による密な
生産構造を構築
○集積地域の人材、技術、生産のネット
ワークによる多様なものづくりを実践
○異業種、異分野の連携、融合による新技
術、新産業分野展開
○地域を支える人材育成
○ファブラボ
○マイスターセンター
○トレーニング型
インキュベータ
○再編産業用地
○共同工場
○諏訪バーチャル工業団地
○諏訪産業集積研究センター
○DTF研究会
○三条鍛冶道場
○ストックバスターズ(燕三条)
○栃木デザインブランド”U”
(益子、 日光、 真岡、鹿沼他)
○企業内公共産業団地(北九州)
○ファブラボジャパン
○地域間連携事業
○共同開発事業
○ブランド化
○デザイン化
○地域産品再発見
○産業発展を支えるイノベーション拠点形成
○地域産業の特性を活かし、多機能が連携
した分野横断的な研究・開発や販売活動
の実施
○他地域との連携、周辺地域との連携を実
現する、地域産業拠点形成
○広域連携・交流
○開発・販売のPR
○地場産業ブランド化
○地域産品デザイン化
○地場産業産地間連携
○諏訪圏工業メッセ
○諏訪圏ものづくり推進機構
○にいがた県央マイスター
○桐生ファッションウィーク
○D&Dプロジェクト
(リサイクル、観光、販売)
社会・地域連携
【広域圏】
産業・技術連携
Ⅳ 工業地の再編
(工業地の流動化とエリアマネジメント)
各地の事例
企業ニーズに柔軟に対応できる用地の流動化策
を工夫していく必要があります。
拡大し過ぎた市街地は、経済成長が始まって
流動化策と合わせて、新たな時代に向け、な
から半世紀を経て各所で効率性を失い、都市イ
かでも少子高齢社会に対応できるモデル的な産
ンフラは機能麻痺を起こしています。これに対
業コミュニティを形成するため、地域住民を含
応し、都市づくりや地域振興のあり方を基本か
む多様な主体の事業参画、公民の協力関係の構
ら見直し、リセットすることが求められています。
築が重要となります。そのためのエリアマネジ
そのためには、工業用地や設備について実態
メント、アセットマネジメントなどの事業手法
的把握を行い、これからの産業社会にふさわし
を工夫し、運営組織体(まちづくり会社等)の
い土地利用方針を示し、工業地の再編、新たな
組成を急ぐ必要があります。
社会の仕組みの構築に着手することが求められ
ます。
コミュニティで生産空間と生活空間が密に重
なり合うところの実現や、これからの社会が求
ここで示している再編方針をモデルに、地域
める製品開発のアイディアの発見・創造とその
の実態に応じて、各用地、各地区の立地条件に
工夫(知恵の交換)の積み重ねが、ものづくり
見合った土地利用の入れ替え(流動化の促進)
で最も重視されるべき開発力を備えた人材を
も考えられます。具体的には、遊休土地・施設
養っていくと考えられます。都市の工業は、こ
情報のデータベース化、土地バンクの設置・運営、
の生活と産業が融合するという空間の潜在力を
流動化促進のための制度・支援策などが求められ、
ベースに、次々と時代を乗り越える力を養って
’
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11
きたと評価されるもので、この資質をさらに磨
になりますが、古河地域の特色を十分活かす方
きあげて、次世代を牽引していくことが期待さ
向を具体的に考えるための、きっかけとなる事
れます。
項を整理しました。本文中にも記述しましたが、
少子高齢化、グローバル化に伴う経済縮小、
「産業構造」と「空間構造」の視点から見たポイ
そして市街地の縮退が必至となる時代を迎え、
ントですので、皆様の地域に当てはめてお考え
このような工業地と市街地のリセットについて
ください。
は、全国の主要な内陸工業都市について具体的
に検討を進める必要があります。本稿で取り上
げた工業地再編のあり方について、代表的な内
陸工業都市として、岡谷、米沢、宇都宮を取り
上げ、整理してみたのが次ページの図:工業地
再編について(その類型)です。
都市の縮退の時代に突入して、上記のような
都市再編、工業地再編の手だてを全国各都市で
工夫していくことが求められます。
Ⅴ 古河地域への提案
本稿では、最近数年間検討している「地域と
産業再生」の考え方について報告させていただ
きました。本号調査で取り上げられている古河
地域は、関東圏のほぼ中心にあり、多くの産業
が集積している、北関東の産業都市の一つです。
工業出荷額も中心都市の古河市で5,000億円ほど
あり、太田や宇都宮をはじめとする、連担する
【産業群構造:産業構造】
★多産業化で、多様な雇用と生活を創造
→若者、女性、高齢者などの多様な雇用形態を
実現する多産業群形成
★地域企業を核とした新産業群形成
→既存の地域企業(群)と連携・共同する企業を
重点的に誘致対象にする
★企業誘致から地域産業群サポート
→「誘致企業」は、立地した瞬間から「サポー
ト対象企業」になる
【多層拠点構造:空間構造】
★コミュニティ産業拠点の形成
→農・商・工・文化が融合する、多様な産業が
連携する地域拠点形成
★産業を都市内に戻し、新産業を育てる
→多様な産業の受け皿づくりとなる「都市内産
業用地」の再活用による中心拠点形成
★交通結節点の利点を活かす
→「茨城」「栃木」「群馬」「埼玉」のすべての
立地条件を活用した広域拠点形成
工業都市の一つです。
これから立地する企業もあり、新たな交通網
これを参考に具体的な検討に入っていただき、
も整備されることから、さらなる工業集積が期
今後の産業都市の発展の一助となれば幸いです。
待できますが、我が国産業自体が従来のように、
また、紙面の関係、当方の検討が未だ道半ばで
圧倒的な競争力を有していた時代とは異なり、
あることなどから、疑問点、ご意見などがある
産業集積の維持、都市の活性化に工夫が必要な
と思います。ご質問、ご指摘などあれば、いつ
時代になっています。
でも何なりとぶつけていただければ、より深い
今回の報告では、現地に入り、詳しく古河地
域の状況を把握していないため、一般的な提案
お話しができると思います。どうぞよろしくお
願いいたします。
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工業地の再編について(その類型)
再編パターン
再編の方向
・長野県岡谷市では、製糸工業、精密工業が中心市街地で発展
した。高度成長期には、市街地外延部に展開したが、地形の
制約もあって現在も住宅と共存し続けている工場が多い。
A 岡谷モデル
・市街地内に、生活行動圏を単位とする住工共存コミュニティ
を再構築する。
・市街地内の跡地などに、複合的な活動拠点を埋め込み、そこ
に外延部に展開した工場も集約する。
・生産:工場ビル
・居住:コレクティブハウス
・サービス:ライフスタイルセンター
・文化:市民活動センター
・戦中に多くの疎開工場が進出した山形県米沢市では、高度成
長期に外延部に工業団地開発を進め、多くの工場を導入した
が、幾つかの工場が遊休施設化し、その活用が課題となって
いる。
B 米沢モデル
・一方、中心市街地部は、城下町として密に形成されたことも
あり、商業機能等の衰退は進むものの、米沢織物・米沢紬の
工房も多く、人口は安定的に定着している。
・市街地内で職と住が共存する産業コミュニティ再生と工業集
積地周辺での新たなものづくりを先導する産業コミュニティ
創成を促進する。
・ただし、遊休化が著しい工業集積地については、生態的な利
用に戻すことも考慮する。
・宇都宮都市圏では、市街地外延に平出工業団地、鹿沼工業団
地など多くの工業団地開発が進み、工業分散の受け皿となっ
てきた。その外延地帯は住宅地化も進行し、市街地に飲み込
まれている。
C 宇都宮モデル
・さらに70年代には、その外側にテクノポリス建設(清原工業
団地等)が進み、新市街地を形成している。
・余りにも拡張された市街地は、これからの都市経営を圧迫し、
持続的発展を阻害する恐れもある。
・持続的でコンパクトな魅力あるまちづくりに向け、先ずは拡
張の要因となった工業地の再編(たたみこみ)から着手する
ことが望まれる。
工業団地をたたむ
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