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1 村瀬誠氏 今日、アジアで、一番深刻な問題というのは水問題だと思い
村瀬誠氏 村瀬誠氏 今日、アジアで、一番深刻な問題というのは水問題だと思いますが、質と量の両方の問 題を抱えてます。質の問題で一番深刻なのは安全な飲み水にアクセスできないという問題 です。 世界で安全な水にアクセス出来ない人口が 11 億人ぐらいいるという話がありますが、 その大半がアジアに住んでいます。私は、東京でこの雨水の活用プロジェクトというのを 30 年ぐらいやってきて、この十数年はバングラデシュを中心に活動しています。なんでこ ういう活動をしているかというとまさに今日のアジア連携の話とも絡むんですが、日本の 雨の雲のもとがどこから来るかっていうと、基本的にはインドの方から、あるいは西太平 洋からやってきます。メイドインジャパンの雲というのは 10 パーセントぐらいで、ほとん どがインドの方面からやってきます。特に、5 月以降の我々が梅雨と呼んでいる雨は、イン ド地域のモンスーンとともにやってくる雲が源です。モンスーン地域の空の下には、世界 最大の人口が住んでいます。しかし、この地域にはたくさん雨が降るんだけれども、安全 な水がないというのは大きな矛盾です。私が何度も足を運んでいるバングラデシュでは、 この写真のように、乾季になると子供たちが水汲みをします。この子は比較的近くて、一 時間ぐらい歩いて水を汲んできています。じゃあこの水は果たして安全かというと、時と して、非常に激しい下痢をするような水です。そういうわけでバングラデシュでは、今か ら約 15,16 年前でしょうか、ユニセフとか赤十字の提言がありましてたくさんの井戸を掘 ったんですね。インドやバングラだけで百万本ぐらい井戸が掘られたといわれています。 大変なお金を使いました。ただ今それが裏目に出ていまして、飲料水が有害なヒ素で汚染 されるという深刻な問題になっています。このヒ素は人工の汚染じゃなくて、ネパールか らバングラデシュまでのガンジズ川流域にヒ素の鉱脈が走っているようです。昔は、井戸 を安価に掘る技術がなかったのですが、今は簡単に井戸を掘ることが出来るようになって 井戸を掘削した結果、ヒ素で汚染された地層から井戸水にヒ素が溶け出してしまったので すね。井戸水の中には、WHO の基準を数十倍超えるような高濃度のヒ素で汚染されたものも あります。64 県のうち 61 県の地区の井戸水から、ヒ素汚染が見つかっています。 ヒ素っていうのは厄介なもので、色が着いてないし味もにおいもない。飲んでもすぐに 被害が出るわけではない。しかし、飲んで十数年たつと症状が出てくる。最初、メラノー シスっていうメラニンが沈着し、皮膚に蓄積してきます。そのあと皮膚が角質化してきて、 いわゆるケラチノーシスっていうかたちになってこれがさらに癌に進行していくわけです。 現在、推定 2000 万人ぐらいが WHO のヒ素の水質基準を上回る水を飲んでいると考えられて います。将来、大変な数の犠牲者が出るんじゃないかと懸念されています。私自身、薬剤 師ということもありまして、十年前に現地に行った時に大変なショックを受けました。同 じモンスーンの空の下に住んでいる人間としてなんとか彼らの命を救いたいと思いました。 それで、現地にボランティアでずっとやってきました。 もう一つ、近年は、新たな問題が起きています。これは、地球の温暖化とも関係するよ うですが、海水面が上昇しております。これはバングラデシュに限らず、インドネシアで 1 も、インドでも起きています。ポリネシアの島々もそうですけども、海水面が上昇すると 地下水が塩水化していきます。当然、池の水も下から塩水が入ってきますから、特に乾季 の時は、飲んでしょっぱい。塩水化しても他に選択の余地がないので飲んでいますが、う まくありません。 もう一つ別の問題は、最近これも気候変動に関係していると思いますが、サイクロンの 力が非常に大きくなっています。私のプロジェクトの場所の村がサイクロンで住宅が流さ れてしました。村は、海水面からあまり高くない所にあるので、二年前、シドルという大 きなサイクロンが村を襲った時、高さが数メートルの波が来て、村が消えてしまいました。 当然、その後池の水も塩水になってしまった。また、この中にはトイレの水が混じってし まって、とても飲める水ではなくなってしまいました。 安全な水にアクセスできない人が 11 億人いるという話をしましたが、その中でアジアに いる 7、8 億人くらいの人たちが、空に無数の安全な飲み水の蛇口があるという事に気がつ いて皆が使いだせば、少なくとも 1 億人ぐらいの命は救えるとのではないかと、というこ とに私は気がきました。10 年前、まず最初にやったのが、現地の材料、竹を使って雨水を 集水するキットをつくるということでした。もともと京都の茶室では、竹を使って雨を集 めていました。竹の節をくり貫くと縦樋になります。それを半分に切ると横樋になります。 雨季の時はもうこれで十分水を貯めることができます。これは、2ドルで出来ます。彼ら は、下痢が止まったとか言って、本当に喜んでくれました。普段飲んでいる水がしょっぱ いので、彼らは、この雨水のことをスウィートウォーターというんです。私もうれしくな りました。しかし、乾季の時になると小さな水ガメだとすぐに空っぽになります。ですか らどうしてもタンクがいるわけですが、雨水を貯めるタンクがない。小さな甕に雨水を貯 めた歴史がありますが、それ以上大きいタンクを使ったことはなく、雨水利用というと、 池の水や川の水を使うということになっていた。彼らに雨水を飲めっていったら、昔から 雨水飲んでるっていうわけです。いろいろ聞くと池の水のことを雨水というわけです。池 の水には、トイレの水も混じっており、病原菌も微生物も入っているから飲んではだめな んだよって話しても、あなた方の言っていることはわからないって言われました。国連が やってきてこの池の水を飲むな、地下水飲めと言われた。今度は、地下水は飲まずに、元 の雨水飲めっていうのかと言うわけです。いやそうじゃないんだ、空の水だという話をし たんですね。彼らは空の水がきれいで飲めると納得してくれました。したがって、私たち は、バングラデシュでは雨水はレインウォーターと言いません。スカイウォーターって言 っています。天水といいます。日本には天水という、天からの恵みという言葉があります。 その言葉を使って教育をしています。 私たちは、天水を利用するということで、NGO といろんなパートナーと組んでやりました が、失敗もしました。最初、NGO っていうから志があってやるんだろうと思いましたが、 「ギ ブ・ミー・マネー」が少なくなく(これは、これまでのドナーにも責任があるように思い ます) 、自分たちの経験も知識も不十分と NGO が珍しくありませんでした。これでは、住民 2 が NGO はあてにならないというのも仕方がないなと思いました。例えば、彼らは 6 人家族 の場合、2 トンの水タンクで6カ月の乾季を乗り切れるっていうんですが、実際に調べてみ たら、まだ乾季の半分くらいの時にもうタンクは空っぽでした。そこで、乾季を乗り切れ るようなハイクオリティーなタンクをデザインすることにしました。これが、去年完成し たものですが、たぶん、アジアで一番ハイクオリティーだと思います。このタンクは、最 近、ユニセフのホームページにどういうわけか出てきます。昔のタンクは 2 トンで、これ は 4.4 トンあります。2 トンのタンクは水位計もないので、突然水がなくなってしまう。新 しくデザインして作った 4.4 トンのタンクは、ちゃんと水位計がついています。セルフコ ントロールも出来るようになっています。 雨水タンクのタイプはリングタイプがベースになっています。バングラデシュやインド、 ネパールで簡易トイレを作る時に使用するリングを改造して作った雨水タンクなので、リ ングタンクと呼んでいます。ただ、リングを運ぶのが大変です。バングラデシュの場合、 家に行くのに田んぼの細道を通るので、大きいリングを運べない場所が結構あります。ど うしたかというと、リングを割ってタイルにし、運んでいます。両方でだいたい二百四、 五十ドルするでしょうか。 安全な水がないというのは、地域全体の問題であるので、天水利用を普及させるために、 まず、多くの村人たちに集まってもらって話し合いをします。いろいろ試行錯誤やってき て学んだことの一つは、テレビは役に立たないということです。まさに、フェイス・トゥ ー・フェイスで、たくさんの村人たちに来てもらって雨水利用の重要性について理解して もらうことからやっています。あるいは、農村では、女性の力が大きいので、女性たちに たくさん集まってもらってお話をします。公共の場所ではなく、個人の家やメインストリ ートにタンクを置きまして、それをみんなに見てもらいます。そうすると、ある人が見て、 いい、 「グッド」って言って他の人は「ワォ」って言う。ある人は「すごい」と言ってくる。 みんながすごいって言って、みんながやりたいって話になってきます。実際に、ソーシャ ルラーニングでいくつかこうケースをやっています。やはりすごいのは口コミです。みん ながいいと言い出したら、じゃあ私もやってみようか、という話になります。ただ、問題 点の一つは、天水タンクが買える人とそうでない人が地域に一緒に住んでいるということ です。学校の先生とか弁護士さん、サービス産業、えびの養殖を経営している人なんかは、 お金があるので、こんなに高品質なら、すぐ設置したいと言います。一方で、貧しい人た ちにはなかなか厳しい面がある。子供を学校に行かせないといけないとか、あるいは下痢 をして病院に行って薬代かかっているので、雨水タンクを購入するお金がない。こういう 貧しい人たちが雨水タンクを購入できるよう、マイクロクレジットを使っています。私た ちは、現地の NGO と MOU(memorandum of understanding)を交わして、きちんとやっていま す。また、今別のシステムも考えています。少しハイプライスなタンクをある程度リッチ な人にマイクロクレジットで買ってもらいます。その際、価格に少しお金上乗せして、こ の上乗せした分を貧しい人たちにまわしていくというやり方です。 3 タンクの設置と管理マニュアルは、私が書いた英語表記のものをベンガル語に翻訳して もらって皆にみてもらっています。これは、非常に有効に使われています。タンクにナン バリングしまして、私たちのキーメッセージである“No more Tanks for War, Tanks for Peace”というのを書いてあります。将来、飲み水だけじゃなくて水争いが世界で起きるっ て話があります。私たちはこの雨水で世界の平和を勝ち取りたいという思いもあるわけで すね。 今までの海外のプロジェクトの多くがそうですが、三年でプロジェクトの資金が終わる と、プロジェクトでやった仕事自体が消えてしまうことが珍しくありません。持続してい かなければ時間と金が無駄になってしまいます。そのことを私たちはたくさんみてきまし た。ある村にタンクが一個しかなかったりするんです、これでは実効性がありません。プ ロジェクトをやったという実績は残りますが、村の人たちにとって何の役にもたっていな い。やはり、プロジェクトの結果を社会の中にビルトインするような仕組みをつくってい くことが、これから雨水だけじゃなくて全ての開発プロジェクトに必要ではないかと思い ます。 現在は、タイで雨水タンクを製造することを計画しています。タイは雨水ジャー(タンク) の宝庫です。雨水ジャーについては、彼らは非常に長い歴史をもっています。タイの王様 がセメントの会社の社長ですから、優秀なセメント技術を持っています。来春にはバング ラデシュの技術者をタイに派遣し、そこでトレーニングをします。で、このタイジャーで 作ったもっと安いタンクをマイクロクレジットで普及するプロジェクトを始めます。これ を、トライアングル(タイ・バングラデシュ・日本)プロジェクトといっています。日本の もっている雨水のスキルとタイの雨水ジャーの製造技術を組み合わせ、それをバングラデ シュに技術移転します。雨水ジャーを製造する際、バングラデシュの現地材料を使ってモ ディファイして作ります。この方法で、相当安くできると思います。現在は 1 万 6 千タカ ぐらいするものが、1 万タカをきるぐらいになると思います。そうなると、もっとたくさん の人がマイクロクレジットを利用して雨水タンクを購入できると思います。 こういうプロジェクトと平行して、私は、大学で雨水の水質の研究をやっています。こ ういう研究は、金儲けにつながらないので、民間での研究も少ないのです。雨水をタンク に貯めると、タンクの内壁面に、ぬるぬる、べたべたする微生物の膜ができます。これを、 バイオフィルムコンプレックスといいますが、これが浄化に関して非常におもしろい役割 を果たしています。私が教鞭とっている東邦大学の薬学部とソウル大学の工学部が共同で、 このバイオフィルミの研究をしておりますが、おもしろい知見が出てきています。この成 果を安全な水を確保する国連や政府の政策に反映していきたいと思っています。 2015 年は、国連がミレニアムゴールを検証する年です。今 2010 年ですから後 5 年後です。 ミレニアムゴールの一つは、安全な水にアクセスできない人を半分にするという目標にな っていますが、それを達成することは、たぶん無理でしょう。私が実施している雨水タン クによって飲料水を確保する方法は、ローテクで誰でも実施できますから、国連の戦略の 4 中にも入れるべきだと考えています。そのために基礎的なサイエンスのデータも必要では ないかと考えています。 最後になりましたけど、一応こういう風な基本的な戦略を考えて天水研究所を立ち上げ ました。現地では、バングラデシュの市民のグループ、それからローカルNGOと組み、 資金としては政府の開発援助資金だけではなく、グラミンバンクとか民間の資金も入って きています。今は、マイクロクレジットは、ある程度お金がある人に利用してもらってい ますが、ローコストタンクができた時には、お金があまりない人でも利用してもらおうと 考えています。また、こういうシステムにも入っていけないような人には、5 年後くらいに はジョブ・クリエーションをして、仕事を生み出すことによって現金収入を確保し、タン クを買えるようにしていきたいと思っております。 こういうシステムは雨水タンクだけではなく、風力発電とか太陽電池を途上国に導入し ようとする時にも使えると思います。こういうシステムをアジアの中で共有出来れば、ア ジアは持続可能で幸福な社会なるのではないかと思います。以上でございます。どうもあ りがとうございました。 5